説明

水系顔料分散体の製造方法

【課題】膜処理法により、生産性よく保存安定性の優れた水系顔料分散体を製造する方法、その方法により得られるインクジェット記録用水系顔料分散体、及びそれを含有するインクジェット記録用水系インクを提供する。
【解決手段】〔1〕少なくとも顔料、水不溶性ポリマー、水を含有する混合物を分散処理して得られた、固形分濃度15重量%以上の水分散体に、電解質を添加し、該水分散体の導電率を〔膜処理前の水分散体の導電率±25%〕の範囲内に保持しつつ膜処理し、膜処理前における顔料に吸着していない水不溶性ポリマー量の5重量%以上を除去する、水系顔料分散体の製造方法、〔2〕その方法により得られるインクジェット記録用水系顔料分散体、及び〔3〕水系顔料分散体を含有するインクジェット記録用水系インクである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水系顔料分散体の製造方法、その方法により得られるインクジェット記録用水系顔料分散体、及びそれを含有するインクジェット記録用水系インクに関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方式は、非常に微細なノズルからインク液滴を記録部材に直接吐出し、付着させて文字や画像を得る記録方式である。この方式は、フルカラー化が容易でかつ安価であり、記録部材として普通紙が使用可能で、被印刷物に対して非接触、という多くの利点があるため普及が著しい。中でも印字物の耐光性や耐水性の観点から顔料系インクが主流となってきている。
近年、インクジェット記録ヘッドの高精細化により、ノズル径が小さくなり、更には印刷の高速化に伴い、吐出性や保存安定性の更なる向上が求められている。
【0003】
特許文献1には、顔料を皮膜形成性樹脂で被覆した着色マイクロカプセルを水性媒体中に含むインクであって、皮膜形成性樹脂のうちインク中に溶解する樹脂成分が0.01〜2質量%である着色マイクロカプセル分散型水性ジェットインクが開示されている。
しかしながら、特許文献1のインクにおいては、皮膜形成樹脂成分が、水溶性ポリマーや自己分散ポリマーとしてインク中に溶解するため、保存安定性や吐出性が満足できるものではない。
特許文献2には、親水性の分散性付与基を顔料粒子表面に導入する工程Aと、工程Aで得られた顔料を水系媒体中に分散する工程Bと、工程Bで得られた分散液に限外ろ過処理及び/又は沈降ろ過処理を施す工程Cとからなる顔料分散液の製造方法が開示されている。
この特許文献2の実施例によれば、顔料分散液について限外濾過を行い、限外濾過の繰り返しによる環流液の顔料濃度の上昇は、イオン交換水を添加することで調節している。そして濾過液の電気伝導率が1S/mの時点で顔料濃度が10〜20%の最終環流液を取り出している。
しかしながら、特許文献2の方法は精製効率や生産性において満足できるものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−292143号公報
【特許文献2】特開2002−327144号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
水系顔料分散体や水系インクの吐出性や保存安定性を改善するために、それらを膜処理することは公知である。水系顔料分散体等の膜処理において、生産性を高めるためには、それらを高濃度な状態で処理することが有効であるが、水系顔料分散体等の粘度が高くなると繰り返し膜処理を行うことが実質的に困難となり、結果的にインクの保存安定性、ひいては吐出性が十分に改善されなかった。
本発明は、膜処理法により、生産性よく保存安定性の優れた水系顔料分散体を製造する方法、その方法により得られるインクジェット記録用水系顔料分散体、及びそれを含有するインクジェット記録用水系インクを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、顔料分散体を特定条件下で膜処理することにより、上記課題を解決しうることを見出した。
すなわち、本発明は、次の〔1〕〜〔3〕を提供する。
〔1〕少なくとも顔料、水不溶性ポリマー、水を含有する混合物を分散処理して得られた、固形分濃度15重量%以上の水分散体に、電解質を添加し、該水分散体の導電率を〔膜処理前の水分散体の導電率±25%〕の範囲内に保持しつつ膜処理し、膜処理前における顔料に吸着していない水不溶性ポリマー量の5重量%以上を除去する、水系顔料分散体の製造方法。
〔2〕前記〔1〕の方法により得られるインクジェット記録用水系顔料分散体。
〔3〕前記〔2〕の水系顔料分散体を含有するインクジェット記録用水系インク。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、膜処理法により、生産性よく保存安定性の優れた水系顔料分散体を製造する方法、その方法により得られるインクジェット記録用水系顔料分散体、及びそれを含有するインクジェット記録用水系インクを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
〔インクジェット記録用水系インク〕
本発明の水系顔料分散体の製造方法は、少なくとも顔料、水不溶性ポリマー、水を含有する混合物を分散処理して得られた、固形分濃度15重量%以上の水分散体に、電解質を添加し、該水分散体の導電率を〔膜処理前の水分散体の導電率±25%〕の範囲内に保持しつつ膜処理し、膜処理前における顔料に吸着していない水不溶性ポリマー量の5重量%以上を除去することを特徴とする。
以下、本発明に用いられる各成分、製造工程等について説明する。
【0009】
〔顔料〕
本発明に用いられる顔料は、無機顔料及び顔料のいずれであってもよい。また、必要に応じて、それらと体質顔料を併用することもできる。
無機顔料としては、例えば、カーボンブラック、金属酸化物、金属硫化物、金属塩化物等が挙げられる。黒色水系インクにおいては、カーボンブラックが好ましい。カーボンブラックとしては、ファーネスブラック、サーマルランプブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック等が挙げられる。
顔料としては、色相は特に限定されず、赤色、黄色、青色、オレンジ、グリーン等の各種の有彩色顔料を用いることができる。例えば、フタロシアニン顔料、キナクリドン顔料、イソインドリノン顔料、ジオキサジン顔料、ペリレン顔料、ペリノン顔料、チオインジゴ顔料、アントラキノン顔料、キノフタロン顔料、ジアゾ顔料、アゾ顔料等が挙げられる。
例えば、フタロシアニン顔料としては、C.I.ピグメント・グリーン7、36、37、ピグメント・ブルー16、75、15等、キナクリドン顔料としては、C.I.ピグメント・バイオレット19、42、C.I.ピグメント・レッド122、192、202、207、209等、ジオキサジン顔料としては、C.I.ピグメント・バイオレット23、37等、ペリレン顔料としては、C.I.ピグメント・レッド190、224、C.I.ピグメント・バイオレット29等、ペリノン顔料としては、C.I.ピグメント・オレンジ43、C.I.ピグメント・レッド194等、チオインジゴ顔料としては、C.I.ピグメント・レッド88等、アントラキノン顔料としては、C.I.ピグメント・イエロー147等、ジアゾ顔料としては、C.I.ピグメント・イエロー13、83、188等、アゾ顔料としては、C.I.ピグメント・レッド187、170、48、53、247、C.I.ピグメント・イエロー74、150、C.I.ピグメント・オレンジ64等が挙げられる。
【0010】
また、キナクリドン固溶体顔料等の固溶体顔料も好適に用いることができる。キナクリドン固溶体顔料は、β型、γ型等の無置換キナクリドンと、2,9−ジクロルキナクリドン、3,10−ジクロルキナクリドン、4,11−ジクロルキナクリドン等のジクロロキナクリドンからなる。キナクリドン系固溶体顔料としては、無置換キナクリドン(C.I.ピグメント・バイオレット19)と2,9−ジクロルキナクリドン(C.I.ピグメント・レッド202)との組合せからなる固溶体顔料が好ましい。
体質顔料としては、シリカ、炭酸カルシウム、タルク等が挙げられる。
顔料は、分散安定性の観点から、顔料誘導体を含んでいてもよい。顔料誘導体は、スルホン酸基、カルボキシ基、リン酸基、スルフィン酸基、アミノ基、アミド基、イミド基等の極性基を有し、顔料の表面処理剤としての機能を有し、顔料の分散を促進するために用いられる。
【0011】
〔水不溶性ポリマー〕
本発明に用いられる水不溶性ポリマーとは、ポリマー固形分換算100gを105℃で2時間乾燥させ、恒量に達した後、25℃の水100gに溶解させたときに、その溶解量が10g以下、好ましくは5g以下、更に好ましくは1g以下であるポリマーをいう。該溶解量は、ポリマーが塩生成基を有する場合は、その種類に応じて、ポリマーの塩生成基を酢酸又は水酸化ナトリウムで100%中和した時の最大溶解量である。
水不溶性ポリマーは、塩生成基含有モノマー(a)(以下「(a)成分」ということがある)由来の構成単位、疎水性モノマー(b)(以下「(b)成分」ということがある)由来の構成単位及び/又はマクロマー(c)(以下「(c)成分」ということがある)由来の構成単位を含むことが好ましい。
このような水不溶性ポリマーとしては、塩生成基含有モノマー(a)、疎水性モノマー(b)、及び/又はマクロマー(c)を含むモノマー混合物(以下「モノマー混合物」ということがある)を共重合してなる水不溶性ビニル系ポリマーが好ましい。
この水不溶性ビニル系ポリマーは、十分な印字濃度を発現させる観点から、(a)成分由来の構成単位、又は(a)及び(b)成分由来の構成単位を主鎖として有し、(c)成分由来の構成単位を側鎖として有する水不溶性ビニル系グラフトポリマーであることが好ましい。
本発明に用いられるポリマーが、水不溶性グラフトポリマーである場合、[主鎖/側鎖]の重量比は、耐擦過性及び保存安定性を向上させる観点から、1/1〜20/1であることが好ましく、3/2〜15/1が更に好ましく、2/1〜10/1が特に好ましい。なお、重合性官能基は側鎖に含有されるものとして計算する。
【0012】
塩生成基含有モノマー(a)は、得られる分散体の保存安定性を高める等の観点から用いられるものであり、カチオン性モノマー、アニオン性モノマー等が挙げられる。カチオン性モノマーとしては、N,N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N-(N',N'-ジメチルアミノプロピル)(メタ)アクリルアミドが好ましい。
アニオン性モノマーとしては、分散安定性、吐出性等の観点から、不飽和カルボン酸モノマーが好ましく、アクリル酸又はメタクリル酸がより好ましい。上記(a)成分は、それぞれ単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
疎水性モノマー(b)は、耐水性、耐擦過性、印字濃度の向上等の観点から用いられ、アルキル(メタ)アクリレート、アルキル(メタ)アクリルアミド、芳香環含有モノマー等が挙げられる。
【0013】
マクロマー(c)は、顔料やシリカ粒子を水不溶性ポリマーで安定分散させる等の観点から用いられ、数平均分子量が500〜100,000、好ましくは1,000〜10,000で、片末端に不飽和基等の重合性官能基を有するモノマーであるマクロマーが挙げられる。
なお、マクロマー(c)の数平均分子量は、標準物質としてポリスチレンを用い、溶媒として50ミリモル/Lの酢酸を含有するテトラヒドロフランを用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィーによって測定することができる。
マクロマー(c)としては、片末端に重合性官能基を有するスチレン系マクロマーが顔料との親和性が高く、保存安定性を向上させる観点から好ましい。
【0014】
本発明においては、上記(a)、(b)、(c)各成分を含むモノマー混合物は、水分散体の分散安定性を高める観点から、更に水酸基含有モノマー(d)(以下「(d)成分」ということがある)を含有することが好ましい。
(d)成分としては、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノメタクリレート、ポリプロピレングリコールメタクリレートが好ましい。
上記モノマー混合物は、水性インクの吐出安定性を高める観点から、更に下記式(1)で表されるモノマー(e)(以下「(e)成分」ということがある)を含有することができる。
CH2=C(R1)COO(R2O)p3 (1)
(式中、R1は水素原子又は炭素数1〜5のアルキル基を示し、R2はヘテロ原子を有していてもよい炭素数1〜30の2価の炭化水素基を示し、R3はヘテロ原子を有していてもよい炭素数1〜30の1価の炭化水素基を示すが、pは平均付加モル数を示し、1〜60、好ましくは1〜30の数である。)
(e)成分としては、メトキシポリエチレングリコール(p=1〜30)(メタ)アクリレートが好ましい。
商業的に入手しうる(d)、(e)成分の具体例としては、新中村化学工業株式会社の多官能性アクリレートモノマー(NKエステル)M−40G,90G,230G,日本油脂株式会社のブレンマーシリーズ、PE−90,200,350,PME−100,200,400,1000、PP−1000,PP−500,PP−800,AP−150,AP−400,AP−550,AP−800,50PEP−300,50POEP−800B等が挙げられる。
上記(a)〜(e)成分は、それぞれ単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0015】
水不溶性ポリマー製造時における、上記(a)〜(e)成分のモノマー混合物中における含有量(未中和量としての含有量。以下同じ)又は水不溶性ポリマー中における(a)〜(e)成分に由来する構成単位の含有量は、得られる分散体の保存安定性、印字濃度等の観点から、次のとおりであることが好ましい。
(a)成分の含有量は、好ましくは3〜30重量%、より好ましくは4〜20重量%であり、(b)成分の含有量は、好ましくは10〜70重量%、より好ましくは15〜60重量%であり、(c)成分の含有量は、好ましくは1〜25重量%、より好ましくは5〜20重量%である。
(a)成分の含有量と、(b)成分と(c)成分の合計含有量との重量比((a)/[(b)+(c)])は、好ましくは0.01〜1、より好ましくは0.02〜0.67、更に好ましくは0.03〜0.50である。
(d)成分の含有量は、好ましくは5〜40重量%、より好ましくは7〜30重量%であり、(e)成分の含有量は、好ましくは5〜50重量%、より好ましくは10〜40重量%である。
(a)成分と(d)成分との合計含有量は、好ましくは6〜60重量%、より好ましくは10〜50重量%であり、(a)成分と(e)成分の合計含有量は、好ましくは6〜75重量%、より好ましくは13〜50重量%であり、(a)成分と(d)成分と(e)成分との合計含有量は、好ましくは6〜60重量%、より好ましくは7〜50重量%である。
【0016】
〔水不溶性ポリマーの製造〕
前記水不溶性ポリマーは、塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法等の公知の重合法により、モノマー混合物を共重合させることによって製造される。これらの重合法の中では、溶液重合法が好ましい。
溶液重合法で用いる溶媒としては、特に限定されないが、極性有機溶媒が好ましい。極性有機溶媒が水混和性を有する場合には、水と混合して用いることもできる。極性有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール等の炭素数1〜3の脂肪族アルコール;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;酢酸エチル等のエステル類等が挙げられる。これらの中では、メタノール、エタノール、アセトン、メチルエチルケトン又はこれらの1種以上と水との混合溶媒が好ましい。
重合の際には、2,2'−アゾビスイソブチロニトリル、2,2'−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)等のアゾ化合物や、t−ブチルペルオキシオクトエート、ジベンゾイルオキシド等の有機過酸化物等の公知のラジカル重合開始剤を用いることができる。ラジカル重合開始剤の量は、モノマー混合物1モルあたり、好ましくは0.001〜5モル、より好ましくは0.01〜2モルである。
重合の際には、さらに、オクチルメルカプタン、2−メルカプトエタノール等のメルカプタン類、チウラムジスルフィド類等の公知の重合連鎖移動剤を添加してもよい。
【0017】
モノマー混合物の重合条件は、使用するラジカル重合開始剤、モノマー、溶媒の種類等によって異なるので一概には決定することができない。通常、重合温度は、好ましくは30〜100℃、より好ましくは50〜80℃であり、重合時間は、好ましくは1〜20時間である。また、重合雰囲気は、窒素ガス雰囲気、アルゴン等の不活性ガス雰囲気であることが好ましい。
重合反応の終了後、反応溶液から再沈澱、溶媒留去等の公知の方法により、生成したポリマーを単離することができる。また、得られたポリマーは、再沈澱を繰り返したり、膜分離、クロマトグラフ法、抽出法等により、未反応のモノマー等を除去して精製することができる。
【0018】
本発明で用いられるポリマーの重量平均分子量は、インクの印字濃度及び分散安定性の観点から、5,000〜50万が好ましく、1万〜40万がより好ましく、1万〜30万が更に好ましく、2万〜25万が更に好ましい。なお、ポリマーの重量平均分子量は、実施例で示す方法により測定される。
本発明で用いられるポリマーは、(a)塩生成基含有モノマー由来の塩生成基を有している場合は中和剤により中和して用いる。中和剤としては、ポリマー中の塩生成基の種類に応じて、酸又は塩基を使用することができる。例えば、塩酸、酢酸、プロピオン酸、リン酸、硫酸、乳酸、コハク酸、グリコール酸、グルコン酸、グリセリン酸等の酸、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、トリエタノールアミン、トリブチルアミン等の塩基が挙げられる。
【0019】
ポリマーの塩生成基の中和度は、保存安定性の観点から、10〜200%であることが好ましく、20〜150%であることがより好ましく、50〜150%であることがより好ましく、60〜100%であることが更に好ましい。
ポリマーを架橋させる場合は、架橋前のポリマーの塩生成基の中和度は、保存安定性と架橋効率の観点から、10〜90%であることが好ましく、20〜80%であることがより好ましく、30〜80%であることが更に好ましい。
ここで中和度は、塩生成基がアニオン性基である場合、下記式によって求めることができる。
{[中和剤の重量(g)/中和剤の当量]/[ポリマーの酸価(KOHmg/g)×ポリマーの重量(g)/(56×1000)]}×100
塩生成基がカチオン性基である場合は、下記式によって求めることができる。
{[中和剤の重量(g)/中和剤の当量]/[ポリマーのアミン価(HCLmg/g)×ポリマーの重量(g)/(36.5×1000)]}×100
酸価やアミン価は、ポリマーの構成単位から、計算で算出することができる。又は、適当な溶剤(例えばメチルエチルケトン)にポリマーを溶解して、滴定する方法でも求めることができる。
【0020】
[水系顔料分散体の製造]
本発明の水系顔料分散体の製造方法に特に制限はないが、下記の工程(1)〜(2)を有する方法により、顔料を含有する水不溶性ポリマー粒子の水分散体を得た後、好ましくは、更に下記工程(3)を有する方法により、顔料を含有する架橋ポリマー粒子の水分散体を得た後、下記工程(4)を有する方法によれば、本発明の水系顔料分散体を効率的に製造することができる。
工程(1):水不溶性ポリマー、有機溶媒、顔料、水、及び必要に応じて中和剤を含有する混合物を分散処理して、顔料を含有する水不溶性ポリマー粒子の分散体を得る工程
工程(2):工程(1)で得られた分散体から前記有機溶媒を除去して、顔料を含有する水不溶性ポリマー粒子の水分散体を得る工程
工程(3):工程(2)で得られた顔料を含有する水不溶性ポリマー粒子のポリマーを架橋剤で架橋させて、顔料を含有する架橋ポリマー粒子の水分散体を得る工程
工程(4):工程(2)又は(3)で得られた固形分濃度15重量%以上の水分散体に、電解質を添加し、該水分散体の導電率を〔膜処理前の水分散体の導電率±25%〕の範囲内に保持しつつ膜処理し、膜処理前における顔料に吸着していない水不溶性ポリマー量の5重量%以上を除去する工程
【0021】
工程(1)
工程(1)では、まず、水不溶性ポリマーを有機溶媒に溶解させ、次に顔料、水、及び必要に応じて中和剤、界面活性剤等を、得られた有機溶媒溶液に加えて混合し、水中油型の分散体を得る方法が好ましい。水不溶性ポリマーの有機溶媒溶液に加える順序に制限はないが、中和剤、水、顔料の順に加えることが好ましい。
混合物中、顔料は、5〜50重量%が好ましく、10〜40重量%が更に好ましく、有機溶媒は、10〜70重量%が好ましく、10〜50重量%が更に好ましく、水不溶性ポリマーは、2〜40重量%が好ましく、3〜20重量%が更に好ましく、水は、10〜70重量%が好ましく、20〜70重量%が更に好ましい。
水不溶性ポリマーの量に対する顔料の量の重量比〔顔料/水不溶性ポリマー〕は、分散安定性の観点から、50/50〜90/10であることが好ましく、70/30〜85/15であることがより好ましい。
【0022】
ポリマーが塩生成基を有する場合、中和剤を用いることが好ましい。中和剤を用いて中和する場合の中和度には、特に限定がない。通常、最終的に得られる水分散体の液性が中性、例えば、pHが4.5〜10であることが好ましい。前記ポリマーの望まれる中和度により、pHを決めることもできる。中和剤としては、前記のものが挙げられる。また、ポリマーを予め中和しておいてもよい。
有機溶媒としては、エタノール、イソプロパノール、イソブタノール等のアルコール系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジエチルケトン等のケトン系溶媒及びジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル系溶媒が挙げられる。好ましくは、水100gに対する溶解量が20℃において、好ましくは5g以上、更に好ましくは10g以上であり、より具体的には、好ましくは5〜80g、更に好ましくは10〜50gのものであり、特に、メチルエチルケトン及びメチルイソブチルケトンが好ましい。
【0023】
工程(1)における混合物の分散方法に特に制限はない。本分散だけで顔料を含有する水不溶性ポリマー粒子の平均粒径を所望の粒径となるまで微粒化することもできるが、好ましくは予備分散させた後、さらに剪断応力を加えて本分散を行い、顔料を含有する水不溶性ポリマー粒子の平均粒径を所望の粒径とするよう制御することが好ましい。工程(1)の分散における温度は、0〜40℃が好ましく、5〜30℃がより好ましく、分散時間は1〜30時間が好ましく、2〜25時間がより好ましい。
混合物を予備分散させる際には、アンカー翼等の一般に用いられている混合撹拌装置を用いることができる。混合撹拌装置の中では、ウルトラディスパー〔浅田鉄工株式会社、商品名〕、エバラマイルダー〔株式会社荏原製作所、商品名〕、TKホモミクサー〔プライミクス株式会社、商品名〕等の高速攪拌混合装置が好ましい。
本分散の剪断応力を与える手段としては、例えば、ロールミル、ビーズミル、ニーダー、エクストルーダ等の混練機、高圧ホモゲナイザー〔株式会社イズミフードマシナリ、商品名〕、ミニラボ8.3H型〔Rannie社、商品名〕に代表されるホモバルブ式の高圧ホモジナイザー、マイクロフルイダイザー〔Microfluidics社、商品名〕、ナノマイザー〔ナノマイザー株式会社、商品名〕等のチャンバー式の高圧ホモジナイザー等が挙げられる。これらの装置は複数を組み合わせることもできる。これらの中では、顔料の小粒子径化の観点から、高圧ホモジナイザーが好ましい。
【0024】
工程(2)
工程(2)では、得られた分散体から、公知の方法で有機溶媒を留去することで、顔料を含有する水不溶性ポリマー粒子の水分散体を得ることができる。得られた顔料を含有する水不溶性ポリマー粒子を含む水分散体中の有機溶媒は実質的に除去されていることが好ましいが、本発明の目的を損なわない限り、残存していてもよく、架橋工程を後に行う場合は、必要により架橋後に再除去すればよい。残留有機溶媒の量は0.1重量%以下が好ましく、0.01重量%以下であることがより好ましい。
また必要に応じて、有機溶媒を留去する前に分散体を加熱撹拌処理することもできる。
得られた顔料を含有する水不溶性ポリマー粒子の水分散体は、顔料を含有する該ポリマーの固体分が水を主媒体とする中に分散しているものである。ここで、ポリマー粒子の形態は特に制限はなく、少なくとも顔料と水不溶性ポリマーにより粒子が形成されていればよい。例えば、該ポリマーに顔料が内包された粒子形態、該ポリマー中に顔料が均一に分散された粒子形態、該ポリマー粒子表面に顔料が露出された粒子形態等が含まれ、これらの混合物も含まれる。
【0025】
工程(3)
工程(3)は、工程(2)で得られた顔料を含有する水不溶性ポリマー粒子のポリマーを架橋剤で架橋させて、顔料を含有する架橋ポリマー粒子の水分散体を得る工程である。工程(3)は、水系インクの粘度を低減し、印字濃度を向上させる観点から、行うことが好ましい。
ここで、架橋剤としては、ポリマーの塩生成基と反応する官能基を有する化合物が好ましく、該官能基を分子中に2以上、好ましくは2〜6有する化合物がより好ましい。
この架橋剤は、ポリマーの表面を効率よく架橋する観点から、25℃の水100gに溶解させたときの溶解量が、好ましくは50g以下、より好ましくは40g以下、更に好ましくは30g以下である。また、架橋剤の分子量は、インクの粘度及び印字濃度の観点から、好ましくは120〜2000、より好ましくは150〜1500、更に好ましい150〜1000である。
【0026】
(架橋剤)
架橋剤の好適例としては、次の(a)〜(c)が挙げられる。
(a)分子中に2以上のエポキシ基を有する化合物:例えば、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、グリセリントリグリシジルエーテル、グリセロールポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル、レゾルシノールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、水添ビスフェノールA型ジグリシジルエーテル等のポリグリシジルエーテル。
(b)分子中に2以上のオキサゾリン基を有する化合物:例えば、2,2’−ビス(2−オキサゾリン)、1,3−フェニレンビスオキサゾリン、1,3−ベンゾビスオキサゾリン等のビスオキサゾリン化合物、該化合物と多塩基性カルボン酸とを反応させて得られる末端オキサゾリン基を有する化合物。
(c)分子中に2以上のイソシアネート基を有する化合物:例えば、有機ポリイソシアネート又はイソシアネート基末端プレポリマー。
これらの中では、(a)分子中に2以上のエポキシ基を有する化合物が好ましく、特にエチレングリコールジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテルが好ましい。
【0027】
架橋剤の使用量は、インク中でのポリマー粒子(A)のインクの粘度の観点から、〔架橋剤/ポリマー〕の重量比で0.1/100〜50/100が好ましく、0.5/100〜40/100がより好ましく、1/100〜30/100が更に好ましく、2/100〜25/100が特に好ましい。
また、架橋剤の使用量は、該ポリマー1g当たりに対して、架橋剤の反応性基のモル数として、0.01〜10mmolと反応する量であることが好ましく、0.05〜5mmolであることがより好ましく、0.1〜2mmolと反応する量であることが更に好ましい。
工程(3)で得られた、架橋ポリマー粒子の水分散体における架橋ポリマーは、架橋ポリマー1g当たり、中和された塩生成基(好ましくはカルボキシ基)を0.5mmol以上含有することが好ましい。かかる架橋ポリマーは、水分散体中で解離して、塩生成基同士の電荷反発により、顔料を含有する架橋ポリマー粒子の安定性に寄与すると考えられる。
ここで、下記式(3)から求められる架橋ポリマーの架橋率(モル%)は、好ましくは10〜90モル%、より好ましくは20〜80モル%、更に好ましくは30〜70モル%である。架橋率は、架橋剤の使用量と反応性基のモル数、ポリマーの使用量と架橋剤の反応性基と反応できるポリマーの反応性基のモル数から計算で求めることができる。
架橋率(モル%)=[架橋剤の反応性基のモル数/ポリマーが有する架橋剤と反応し得る反応性基のモル数]×100 (3)
式(3)において、「架橋剤の反応性基のモル数」とは、使用する架橋剤のモル数に架橋剤1分子中の反応性基の数を乗じたものである。
なお、ポリマーの架橋は、工程(1)で得られた顔料を含有するポリマー粒子の分散体と架橋剤とを混合して行うこともできる。この場合は、該架橋工程で得られた架橋ポリマー粒子の水分散体から、有機溶媒を除去する工程を前記工程(2)と同様に行うことにより、顔料を含有する架橋ポリマー粒子の水分散体を得ることができる。
【0028】
工程(4)
工程(4)は、工程(2)又は(3)で得られた固形分濃度15重量%以上の水分散体に、電解質を添加し、該水分散体の導電率を〔膜処理前の水分散体の導電率±25%〕の範囲内に保持しつつ膜処理し、膜処理前における顔料に吸着していない水不溶性ポリマー量の5重量%以上を除去する工程である。
膜処理とは、膜により膜の分画分子量以下の成分と、分画分子量以上の成分に分画する処理をいい、具体的には、分離膜により水分散体をろ過して精製する処理である。この膜処理によって、水分散体中の顔料に吸着していない不安定な水不溶性ポリマーを低減ないし除去した水系顔料分散体を効率的に得ることができる。
膜処理により、導電率が低くなり、導電率が低くなると粘度が上昇する。また、導電率が高くなってもやはり粘度が上昇し、導電率を極端に高くすると凝集が生じる。
そこで、水分散体の導電率を〔膜処理前の水分散体の導電率±25%〕の範囲内、好ましくは膜処理前の水分散体の導電率±15%〕の範囲内、より好ましくは膜処理前の水分散体の導電率±10%〕の範囲内に保持しつつ膜処理する。
【0029】
本発明においては、水分散体の導電率を前記範囲内に保持するために、電解質を溶液として添加する。添加する電解質液は、膜を透過した膜透過液の導電率に近い導電率を有する電解質液が好ましい。より具体的には、〔膜透過液の導電率±25%〕の範囲、より好ましくは〔膜透過液の導電率±15%〕の範囲、より好ましくは〔膜透過液の導電率±10%〕の範囲の導電率を有する電解質液が好ましい。
電解質液の添加量は、膜処理する前の原料と同量となるまで添加することが好ましく、顔料、水不溶性ポリマー等の種類、量等により異なるが、通常、膜を透過しなかった残液に対して1〜50重量%、好ましくは5〜40重量%、より好ましくは10〜30重量%である。
電解質は、膜処理を行う前に添加してもよいし、膜処理を行った後に添加してもよい。繰り返し膜処理を行う場合には、膜処理を行った後に電解質を添加し、それを繰り返しながら膜処理を行うことができる。
上記の膜処理により、生産性よく保存安定性の優れた水系顔料分散体を製造する観点から、膜処理前における顔料に吸着していない水不溶性ポリマー量の5重量%以上、好ましくは10重量%以上、より好ましくは20重量%以上、最も好ましくは100重量%除去する。
【0030】
膜処理される水分散体の固形分濃度が高いほうが、膜処理効率が高くなる。その観点から、水分散体の固形分濃度は15重量%以上であり、分散体粘度の観点から40重量%以下が好ましく、20〜35重量%がより好ましい。
膜処理は、溶剤除去を行う前の水分散体を対象にして行ってもよい。その際には、膜処理後に溶剤除去を行えばよく、更に架橋処理を行ってもよい。また、溶剤除去を行った水分散体を更に膜処理してもよい。
また、架橋処理を行う前の水分散体を膜処理してもよい。その際には、膜処理後に架橋処理を行ってもよく、また架橋処理を行った後に再び膜処理を行ってもよい。架橋処理を行うと、顔料に吸着した水不溶性ポリマーの脱離が生じる割合が低下するので、架橋処理を行った後に膜処理を行うことが好ましい。
膜処理の回数に特に制限はなく、異なる種類の膜を組み合わせて行うこともできる。
【0031】
膜処理の方式は特に制限はなく、全量ろ過方式でもクロスフローろ過方式でもよいが、供給する分散体中の懸濁物質等が膜面に堆積するのを防止等の観点から、クルスフローろ過方式が好ましい。ろ過膜としては、精密ろ過膜(MF膜、ろ過精度:約0.1μm)、限外ろ過膜(UF膜、ろ過精度:約10nm)、ナノフィルター(NF膜、ろ過精度:約1nm)、逆浸透膜(RO膜、ろ過精度:約0.1nm)等を使用することができる。ろ過膜の孔径は、好ましくは1〜50nm、より好ましくは2〜30nm、更に好ましくは3〜20nmである。
用いられるろ過膜としては、有機溶媒により劣化しないものであれば特に限定されない。例えば、セルロース膜、304及び316ステンレススチール膜、漂白コットン膜、ポリスルホン(PS)膜、ポリプロピレン(PP)膜、ポリエーテルサルフォン(PES)膜、ポリエチレンテレフタレート(PET)膜、ポリフッ化ビニルデン(PVDF)膜、ポリカーボネイト(PCTE)膜、ポリ4フッ化エチレン(PTFE)等の各種の材料を主原料とするろ過膜が挙げられる。これらの中でも、ポリスルホン(PS)膜、ポリ4フッ化エチレン(PTFE)膜、ポリエーテルサルフォン(PES)膜、ポリエチレンテレフタレート(PET)膜、ポリフッ化ビニルデン膜及びポリカーボネイト(PCTE)膜が好ましく、ポリエーテルサルフォン(PES)膜が更に好ましい。
【0032】
精密ろ過膜としては、ろ材の内部で異物を捕捉するデプスタイプ(厚みろ過型)や、ろ材の表面で異物を捕捉するサーフェスタイプ(面ろ過型)が挙げられる。精密ろ過膜の市販品としては、サーフェスタイプについては、エポセル(株式会社日本触媒製)、ポールセル(日本ポール株式会社製)等のセルロース膜、リジメッシュ(日本ポール株式会社製)等の304ステンレススチール膜、ミクロピュア(ロキテクノ株式会社製)等のポリプロピレン膜、サスピュア(ロキテクノ株式会社製)等の316ステンレススチール膜、TCP、TCPE、TC(東洋濾紙株式会社製)等のポリプロピレン膜が挙げられる。また、デプスタイプについては、プロファイル(日本ポール株式会社製)等のポリプロピレン膜、マイクロシリア(株式会社ロキテクノ製)等の漂白コットン、ダイア、ダイアII(P)、ダイアII(C)、ピュアロン、シリアクリーン、SL、SLN、グラスロン等のポリプロピレン膜、TCPD、TCW−PP、TCW−CS、TCW−EP(東洋濾紙株式会社製)等のポリプロピレン膜が挙げられる。
【0033】
限外ろ過膜、ナノフィルター、逆浸透膜の市販品としては、例えば、NTUシリーズの商品名:2020、2120、3520、3150、3006、3050、3250、3550、4208、4220、NFSシリーズの商品名:100、101、103、NTM−9002、RS−30(日東電工株式会社製)等のポリスルホン膜、AIP−0013、ACP−0013、ACP−0053、AHP−0013、AIVシリーズの商品名:3010、5010、ACVシリーズの商品名:3010、3050、5010、5050、SIW−3054、SEP−0013、SAP−0013、SIP−0013、SLP−0053、マイクローザ(旭化成工業株式会社製)等のポリフッ化ビニルデン膜、ミニクロス、クロスフロモジュール(東洋紡績株式会社製)等のポリプロピレン膜が挙げられる。
膜の形状としては、中空糸状型、管型、平板型、モノリス型等が挙げられ、分散体を流す方式としては、内圧ろ過方式でも外圧ろ過方式でもよい。
上記の中では、限外ろ過膜を用いたクルスフローろ過方式がより好ましい。また、有機溶媒を加えながらろ過する透析ろ過(ダイアフィルトレーション)方式も好ましい。
【0034】
クルスフローろ過方式で、膜処理を施すと、低分子物質である電解質は、分画分子量より小さい成分に分配され、膜を透過した透過液中に取り込まれる。一方、顔料を含む分画分子量以上の成分は残液(濃縮液)中に取り込まれるため、残液(濃縮液)の濃度は高くなり、導電率は減少する。導電率の減少した成分を更に膜処理すると、徐々に粘度が上昇し、最終的には膜処理を実質的に行えなくなるまで粘度が上昇する。
そこで、クロスフローろ過膜処理において、膜透過液と残液に分離し、系外に取り出された膜透過液に相当する量の電解質液を残液に添加して、水分散体の導電率を前記範囲内に保持しつつ膜処理すると膜処理を継続して行うことができる。その結果、水分散体中の顔料に吸着していない不安定な水不溶性ポリマーを低減ないし除去した水系顔料分散体を生産性よく、効率的に得ることができる。
ここで、前記のとおり、添加する電解質液は、膜を透過した膜透過液の導電率に近い導電率を有する電解質液が好ましく、電解質液の添加量は、膜処理する前の原料量と同量とするまで追加ことが好ましい。
【0035】
(電解質)
本発明に用いられる電解質は、水分散体の導電率を一定に保つ目的で添加される。電解質としては、水分散体中で陽イオン及び陰イオンに電離し、導電性を示す化合物であれば特に制限はなく、固体であっても、水溶液であってもよい。
電解質の電離性の強さは、導電率を測定することにより知ることができる。導電率は試料中の電気の流れやすさを示す指標であり、定法により測定することができる。
電解質から電離された陽イオンとしては、H+、Na+、Li+、K+、Ca2+、Mg2+、NH4+、CH3NH3+、(CH32NH2+、(CH33NH+、(CH34+等が挙げられ、また、陰イオンとしては、OH-、Cl-、Br-、F-、I-、MnO4-、ClO4-、PO43-、SO42-、NO3-等が挙げられる。
【0036】
電解質としては、酸、塩基、無機塩、有機電解質化合物が用いられる。
酸としては、塩酸、硝酸、硫酸等の無機酸が挙げられ、塩基としては、水酸化リチウム、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、アンモニア等の無機塩基、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン等のアミンが挙げられる。
無機塩としては、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩等が挙げられる。
アルカリ金属塩としては、塩化リチウム、硝酸リチウム、硫酸リチウム、炭酸リチウム、過塩素酸リチウム、塩化ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、硝酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、硫酸ナトリウム、硫酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、過塩素酸ナトリウム、硝酸カリウム、硫酸カリウム、炭酸カリウム、塩化カリウム、臭化カリウム等が挙げられる。アルカリ土類金属塩としては、硫酸カルシウム、硝酸カルシウム、塩化カルシウム、クロム酸カルシウム、硫酸マグネシウム等が挙げられる。
アンモニウム塩としては、塩化アンモニウム、硝酸アンモニウム、硫酸アンモニウム、酢酸アンモニウム等が挙げられる。その他の無機塩としては、硝酸銀、硫酸銀、硝酸銅、硫酸銅、塩化銅、硝酸亜鉛、硫酸亜鉛、硝酸アルミニウム、硫酸アルミニウム等が挙げられる。
【0037】
有機電解質化合物としては、安息香酸ナトリウム、フタル酸ナトリウム、フマル酸ナトリウム、マレイン酸ナトリウム、酪酸ナトリウム、酢酸カリウム、クエン酸カリウム等の有機酸塩、蟻酸アンモニウム、シュウ酸アンモニウム等の有機アンモニウム塩が挙げられる。
これらの中では、強電解質が好ましく、無機塩及び/又は無機塩基がより好ましく、アルカリ金属塩及び/又はアルカリ土類金属塩が更に好ましく、アルカリ金属塩が更に好ましく、炭酸水素ナトリウム、水酸化ナトリウムが特に好ましい。
上記の電解質は、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0038】
[インクジェット記録用水分散体]
前記の製造方法等によって得られた本発明の水系顔料分散体は、保存時には、乾燥防止のために、水溶性有機溶媒や保湿剤を含有させることが好ましく、そのまま水系インクとして用いることもできる。また、インクジェット記録用水系インクに通常用いられる湿潤剤、浸透剤、分散剤、粘度調整剤、消泡剤、防黴剤、防錆剤等を添加してもよい。
本発明の水系顔料分散体中の各成分の含有量は、下記のとおりである。
水不溶性ポリマー粒子に含まれる顔料の含有量は、水系顔料分散体の印字濃度を高める観点から、水系顔料分散体中で、好ましくは2〜35重量%、より好ましくは3〜30重量%、更に好ましくは5〜25重量%である。
水の含有量は、好ましくは20〜90重量%,より好ましくは30〜80重量%、更に好ましくは40〜70重量%である。
水系顔料分散体の好ましい表面張力(20℃)は、30〜70mN/m、より好ましくは35〜65mN/mである。
水系顔料分散体の20重量%(固形分濃度)の粘度(20℃)は、好ましくは1〜12mPa・s、より好ましくは1〜9mPa・s、より好ましくは2〜6mPa・s、更に好ましくは2〜5mPa・sである。この水系顔料分散体の不揮発成分は、通常、印字濃度、吐出安定性等の観点から、1〜30重量%、更に3〜25重量%となるように調整することが好ましい。
本発明の製造方法によって得られた水系顔料分散体は、インクジェット記録用の水系顔料分散体及び水系インクに好適に使用しうるものとなる。
本発明の水系インクを適用しうるインクジェット記録装置は特に制限されないが、特にサーマル及びピエゾ方式のオンデマンドインクジェットプリンターに好適である。また、高速印字が可能なプリンターに適しており、例えば3〜150枚/分、好ましくは5〜100枚/分、より好ましくは10〜100枚/分の印字速度で印刷しうるプリンターに好適に使用することができる。
【実施例】
【0039】
以下の製造例、実施例及び比較例において、「部」及び「%」は特記しない限り「重量部」及び「重量%」である。
なお、ポリマーの重量平均分子量、導電率、水不溶性ポリマーの除去率、インクの保存安定性の測定、評価は以下の方法により行った。
(1)ポリマーの重量平均分子量
溶媒として、60mmol/Lのリン酸と50mmol/Lのリチウムブロマイドを含有するN,N−ジメチルホルムアミドを用いたゲルクロマトグラフィー法〔東ソー株式会社製GPC装置(HLC−8120GPC)、東ソー株式会社製カラム(TSK-GEL、α-M×2本)、流速:1mL/min〕により、標準物質としてポリスチレンを用いて測定した。
(2)導電率
導電率計(株式会社堀場製作所製、ES−51)を用いて、20℃で水系顔料分散体の導電率(mS/cm)を測定した。
(3)水不溶性ポリマーの除去率
顔料に吸着していない水不溶性ポリマーの除去率は、膜処理前後における顔料に吸着していない水不溶性ポリマーの量から下記式を用いて測定した。
水不溶性ポリマーの除去率(%)=((〔膜処理前の顔料に吸着していない水不溶性ポリマーの量〕−〔膜処理後の顔料に吸着していない水不溶性ポリマーの量〕)/〔膜処理前の顔料に吸着していない水不溶性ポリマーの量〕)×100
ここで、顔料に吸着していない水不溶性ポリマーの量は以下のようにして求めた。水系の顔料分散体を超遠心分離装置(日立工機株式会社製、CP56G)を用い、30,000rpm×3時間(20℃)の条件で超遠心分離し、得られた上澄み液の固形分量を下記固形分の測定方法によって求め、顔料に吸着していない水不溶性ポリマー量とした。
上澄み液の固形分量の測定方法は、上澄み液1gと硫酸ナトリウム(芒硝)10gとを均一に混合し、蒸発皿10.5cm2に均一に広げて、乾燥機で105℃、2時間、−0.07MPaで減圧乾燥させる。固形分量(重量%)は、(乾燥後の上澄み液の重量/乾燥前の上澄み液の重量)×100として求めることができる。
(4)インクの保存安定性
得られたインクをガラス製密閉容器に充填し、70℃で1週間保存後の粘度をE型粘度計(東機産業株式会社製、RE80L)を用いて20℃で測定し、下記式より粘度変化率を求め、保存安定性を評価した。
保存安定性(粘度変化率)(%)=((〔保存後の粘度〕−〔保存前の粘度〕)/〔保存前の粘度〕)×100
保存安定性(粘度変化率)が100%に近い方が良好なインクである。
【0040】
製造例1
反応容器内に、メチルエチルケトン8.2部、重合連鎖移動剤(2-メルカプトエタノール)0.03部、及び表1に示すモノマー混合物200部のうちの10%を入れて混合し、窒素ガス置換を十分に行い、混合溶液を得た。
一方、滴下ロートに、表1のモノマー混合物の残りの90%を仕込み、重合連鎖移動剤(2−メルカプトエタノール)0.28部、メチルエチルケトン73.6部及び2,2'-アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)1.8部を入れて混合し、十分に窒素ガス置換を行い、混合液を得た。
窒素雰囲気下、反応容器内の混合液を攪拌しながら75℃まで昇温し、滴下ロート中の混合溶液を5時間かけて滴下した。滴下終了から75℃で2時間経過後、2,2'−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)1.6部をメチルエチルケトン21.8部に溶解した溶液を加え、更に75℃で2時間、80℃で2時間熟成させ、ポリマー溶液を得た。
得られたポリマーの重量平均分子量を測定した結果を表1に示す。
【0041】
【表1】

【0042】
実施例1
(1)顔料を含有する架橋ポリマー粒子の水分散体の製造
製造例1で得られた水不溶性ポリマーのメチルエチルケトン溶液(固形分濃度を50%に調整したもの)35.3部、メチルエチルケトン60部、水酸化ナトリウム水溶液(和光純薬工業株式会社製、滴定用標準液:5N)7部、イオン交換水250部を、ガラス製容器に計量し、高速攪拌分散機(プライミクス株式会社製、商品名:T.K.ロボミックス+T.K.ホモディスパー2.5型)を用い、1500rpmで15分間混合した。
得られた混合物に、マゼンタ顔料(Pigment Red 122、大日精化工業株式会社製、商品名:クロモファインレッド)100部を添加し、8000rpmで60分間攪拌した。得られた混合物を更に、マイクロフルイダイザー(マイクロフルイディクス社製、商品名:MF−140K)を用いて、200MPaで19パスで高圧分散処理し、顔料を含有する水不溶性ポリマー粒子の分散体を得た。
得られた分散体を減圧下、60℃でメチルエチルケトンを実質的に除去し、更に一部の水を除去することにより濃縮し、固形分濃度が35%の顔料を含有する水不溶性ポリマー粒子を含む水分散体を得た。
得られた水分散体400gに、架橋率が54モル%となるように架橋剤(ナガセケムテックス株式会社製、商品名:デナコールEX321L、エポキシ当量129)を4.45g及び水を加え、90℃下で1時間攪拌した。攪拌後、冷却し、5.0μmのフィルター(アセチルセルロース膜、外径:2.5cm、富士フィルム株式会社製)を用いて濾過し、顔料を含有する架橋ポリマー粒子の水分散体を得た。得られた水分散体の固形分濃度は30%、導電率は2.16mS/cm、粘度は7.13mPa・sであった。
(2)水系顔料分散体の製造(膜処理)
上記(1)で得られた顔料を含有する架橋ポリマー粒子の水分散体400gを限外ろ過膜装置(ミリポア社製、ペリコンII、バイオマックス、Vスクリーン、材質:PES、分画分子量500kD、膜面積0.1m2)を用いて、全量ろ過した。ろ膜を透過しなかった液(濃縮液)量は363gであり、その導電率は2.00mS/cm、固形分濃度は33%であった。
別途、導電率が2.20mS/cmとなるように炭酸水素ナトリウム水溶液を調整し、膜透過液に相当する量として37gをろ膜を透過しなかった液(濃縮液)に添加して混合したが、増粘は認められなかった。
上記ろ過処理を繰り返して、合計25パス処理を行った。各パス回数における水不溶性ポリマーの除去率は、1パス後:除去率0%、3パス後:除去率4%、6パス後:除去率7%、9パス後:除去率10%、15パス後:除去率15%、25パス後:除去率24%であった。
膜処理25パス後に得られた固形分濃度33%の水系顔料分散体を、イオン交換水を用いて30%に調整した水系顔料分散体の粘度は7.28mPa・s、その導電率は2.11mS/cmであり、導電率は膜処理前の97.7%であった。
【0043】
(3)水系インクの調製
上記(2)で得られた水系顔料分散体に、以下の混合溶液を添加し顔料分換算重量が10.0部となるように調製した。
水溶性有機溶媒である1,2−ヘキサンジオール(東京化成工業株式会社製、溶解度パラメーター13.15)2.0部、2−ピロリドン(和光純薬株式会社製、溶解度パラメーター13.66)2.0部、グリセリン(花王株式会社製、溶解度パラメーター19.44)2.0部、トリエチレングリコールモノブチルエーテル(商品名:ブチルトリグリコール、日本乳化剤株式会社製、溶解度パラメーター10.21)10.0部、ノニオン界面活性剤であるサーフィノール465(日信化学工業株式会社製)0.5部、オルフィンE1010(日信化学工業株式会社製)0.5部、防腐剤であるプロキセルXL2(アビシア株式会社製、)0.3部、及びイオン交換水をマグネチックスターラーで撹拌しながら混合し、更に室温で15分間攪拌して、混合溶液を得た。ここで混合溶液と前記水系顔料分散体を加えた全量が100部となるように、イオン交換水を加えて調整した。
次に、前記水系顔料分散体をマグネチックスターラーで撹拌しながら、前記混合溶液を添加し、5μmのフィルター(酢酸セルロース膜、ザルトリウス社製)で濾過し、水系インクを得た。得られたインクの保存安定性は108%であった。
【0044】
比較例1
実施例1(1)で得られた顔料を含有する架橋ポリマー粒子の水分散体(固形分濃度30%、導電率2.16mS/cm)を用いて、実施例1(3)と同様にしてインクを調製した。その結果、70℃、1週間の保存試験結果でインク粘度は上昇し、インクの保存安定性は150%であった。
比較例2
実施例1(1)で得られた顔料を含有する架橋ポリマー粒子の水分散体(固形分濃度30%、導電率2.16mS/cm)を用いて、実施例1(2)の炭酸水素ナトリウム水溶液に変えて、イオン交換水を用いて膜処理を行った。9パスまで行った時点で分散体が増粘し、それ以降の処理の継続が不可能であった。各パス回数における水不溶性ポリマーの除去率は、3パス後:除去率4%、6パス後:除去率7%、9パス後:除去率10%であった。
9パス処理時にろ過膜を透過しなかった固形分濃度33%の分散体を固形分濃度30%に調整した分散体の粘度は24mPa・s、導電率は1.28mS/cmであった。
比較例3
実施例1(1)で得られた顔料を含有する架橋ポリマー粒子の水分散体(固形分濃度30%、導電率2.16mS/cm)を用いて、実施例1(2)の炭酸水素ナトリウム水溶液に変えて、導電率2.50mS/cmの炭酸水素ナトリウムを調製し、1パス後に、膜透過液と同量添加した。その際の水分散体の固形分濃度は30%、導電率は2.35mS/cm、粘度は6.98mPa・sで減粘する傾向が認められたので、さらに同様のろ過操作を繰り返した。5パス時には、分散体の粘度が上昇し、膜処理の操作が実質的にできないところまでろ過速度が低下した。
5パス後のろ膜を透過しなかった固形分濃度33%の分散体を固形分濃度30%に調整した分散体の粘度は、20mPa・s、導電率は2.98mS/cmであった。
【0045】
【表2】

【0046】
表2に示したとおり、水分散体の導電率を〔膜処理前の水分散体の導電率±25%〕の範囲内に保持しつつ膜処理し、膜処理前における顔料に吸着していない水不溶性ポリマー量の5重量%以上を除去すると、生産性よく、保存安定性の優れた水系顔料分散体を製造することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも顔料、水不溶性ポリマー、水を含有する混合物を分散処理して得られた、固形分濃度15重量%以上の水分散体に、電解質を添加し、該水分散体の導電率を〔膜処理前の水分散体の導電率±25%〕の範囲内に保持しつつ膜処理し、膜処理前における顔料に吸着していない水不溶性ポリマー量の5重量%以上を除去する、水系顔料分散体の製造方法。
【請求項2】
電解質が無機塩及び/又は無機塩基である、請求項1に記載の水系顔料分散体の製造方法。
【請求項3】
電解質がアルカリ金属塩及び/又はアルカリ土類金属塩である、請求項1又は2に記載の水系顔料分散体の製造方法。
【請求項4】
膜処理がクロスフローろ過膜処理である、請求項1〜3のいずれかに記載の水系顔料分散体の製造方法。
【請求項5】
クロスフローろ過膜処理において、膜透過液と残液に分離し、膜透過液に相当する量の電解質液を残液に添加して、水分散体の導電率を前記範囲内に保持しつつ膜処理する、請求項4に記載の水系顔料分散体の製造方法。
【請求項6】
水不溶性ポリマーが架橋剤によって架橋処理されたものである、請求項1〜5のいずれかに記載の水系顔料分散体の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の方法により得られるインクジェット記録用水系顔料分散体。
【請求項8】
請求項7に記載の水系顔料分散体を含有するインクジェット記録用水系インク。

【公開番号】特開2011−52070(P2011−52070A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−200712(P2009−200712)
【出願日】平成21年8月31日(2009.8.31)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】