説明

水系顔料湿潤剤およびこれを用いた水性顔料分散液

【課題】顔料に対して優れた湿潤性を発揮する水系顔料湿潤剤の提供。
【解決課題】式(1)で示される化合物からなる水系顔料湿潤剤。
R−O−(AO)−(EO)−H ・・・(1)
(Rは炭素数1〜4のアルキル基である。EOはオキシエチレン基であり、AOは炭素数3〜4のオキシアルキレン基である。mは炭素数3〜4のオキシアルキレン基の平均付加モル数であり、nはオキシエチレン基の平均付加モル数であり、mは3〜30であり、nは3〜60であり、m+nは6〜80であり、m/(m+n)は0.3〜0.6である。(AO)部分に占めるオキシブチレン基の割合は70〜100重量%であり、分子量中に占めるオキシブチレン基部分の割合は50〜70重量%である。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水系顔料湿潤剤およびこれを用いた水性顔料分散液に関する。より詳細には、顔料に対して優れた湿潤性を発揮する水系顔料湿潤剤、およびこの水系顔料湿潤剤を用いた初期分散性、長期保存安定性に優れた水性顔料分散液に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、印刷業界や塗料業界では、環境に対する安全性の観点からインクや塗料の水性化が進められている。しかしながら、無機系顔料および有機系顔料はいずれも水に対する親和性が低く、分散剤を使用した場合にも水へ分散させることは容易ではない。特に有機系顔料分子の多くは高度に共役したπ電子系により安定な結晶構造を有するため、水分子が十分に顔料表面に吸着せず、水への分散はより一層困難となっている。このような背景から、水性インクや塗料などの顔料分散液においては、顔料の水に対する湿潤性を向上させることのできる湿潤剤の開発が要求されている。具体的に、湿潤剤は流動や撹拌といった系が動的な状態にあるときには動的表面張力が小さいことが要求され、系が静的な状態にあるときは静的表面張力が小さいことが要求される。
【0003】
これまでに、動的表面張力の低下により顔料の湿潤性を向上させる方法として、エチレンオキシド−プロピレンオキシド−エチレンオキシドトリブロック共重合体等のブロック型ポリアルキレンオキシド誘導体を使用する方法(例えば特許文献1)、糖類のアルキレンオキシド付加物を使用する方法(例えば特許文献2)等が報告されているが、湿潤性の向上に十分な効果が見られなかった。また、アセチレングリコールのアルキレンオキシド付加物を用いる方法(例えば特許文献3)が報告されており、該方法によれば、優れた動的表面張力の低下能により顔料の湿潤性を十分に向上させることができる。しかしながら、このような化合物はたとえ顔料に対する湿潤性の付与により均一な顔料分散液を得ることができても、顔料粒子どうしが経時的に凝集・沈降するといった問題が発生することがある。
【0004】
このように、顔料の水に対する湿潤性を向上させるとともに、長期保存下においても顔料分散液の凝集や沈降を抑制することのできる顔料湿潤剤は未だ得られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−352861号公報
【特許文献2】特開2005−54128号公報
【特許文献3】特開2000−290549号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、顔料に対して優れた湿潤性を発揮する水系顔料湿潤剤、およびこの水系顔料湿潤剤を用いた初期分散性、長期保存安定性に優れた水性顔料分散液を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、炭素数1〜4の脂肪族アルコールのアルキレンキシド付加物により上記課題が解決し、特に水性インクジェット用インクの初期分散性、長期保存安定性に優れた効果を有することを見出した。
本発明は、式(1)で示される化合物からなる水系顔料湿潤剤およびこれを用いた水性顔料分散液に関する。
【0008】
R−O−(AO)−(EO)−H ・・・(1)
(Rは炭素数1〜4のアルキル基である。EOはオキシエチレン基であり、AOは炭素数3〜4のオキシアルキレン基である。mは炭素数3〜4のオキシアルキレン基の平均付加モル数であり、nはオキシエチレン基の平均付加モル数であり、mは3〜30であり、nは3〜60であり、m+nは6〜80であり、m/(m+n)は0.3〜0.6である。(AO)部分に占めるオキシブチレン基の割合は70〜100重量%であり、分子量中に占めるオキシブチレン基部分の割合は50〜70重量%である。)
【発明の効果】
【0009】
本発明の水系顔料湿潤剤は動的表面張力が低く顔料への湿潤性が高いため初期分散性に優れ、長期安定性に優れた水性顔料分散液が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の水系顔料湿潤剤は、式(1)で示される化合物からなる。
式(1)におけるRは炭素数1〜4のアルキル基であり、直鎖であっても分岐であってもよく、具体的にはメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基が挙げられ、好ましくはメチル基である。炭素数が4より大きい場合は親水性が低下する。
式(1)におけるAOは炭素数3〜4のオキシアルキレン基であり、具体的にはオキシプロピレン基、オキシブチレン基が挙げられる。
式(1)におけるmは3〜30であり、好ましくは8〜20である。mが3より小さい場合は顔料への定着性が低下するため湿潤性が低下し、mが30より大きい場合は親水性が低下する。
式(1)におけるnは3〜60であり、好ましくは8〜30である。nが3より小さい場合は親水性が低下し、nが60より大きい場合は分子量が増加して動的表面張力および静的表面張力が大きくなる。
式(1)におけるm+nは6〜80であり、好ましくは15〜50であり、より好ましくは20〜35である。m+nが6より小さい場合は顔料分散体の長期保存安定性が低下し、m+nが80より大きい場合は動的表面張力および静的表面張力が大きくなり、顔料分散液の初期分散性が低下する。
式(1)におけるm/(m+n)は0.3〜0.6であり、好ましくは0.4〜0.6である。m/(m+n)が0.3より小さい場合は動的表面張力および静的表面張力が大きくなり、顔料分散液の初期分散性、長期保存安定性が不十分となり、m/(m+n)が0.6より大きい場合は親水性が低下する。
式(1)における(AO)部分に占めるオキシブチレン基の割合は70〜100重量%であり、好ましくは80〜100重量%であり、より好ましくは85〜100重量%である。(AO)部分に占めるオキシブチレン基部分の割合が70重量%より小さい場合は、動的表面張力および静的表面張力が大きくなり、顔料分散液の初期分散性および長期保存安定性が不十分である。
【0011】
式(1)における、分子量中に占めるオキシブチレン基部分の割合は50〜70重量%である。分子量中に占めるオキシブチレン基部分の割合が50重量%より小さい場合は融点が高くなり、70重量%を超えた場合は水への溶解性が低下する。
【0012】
式(1)で示される化合物は、従来公知のアルキレンオキシド付加反応により得ることができる。例えば、アルカリ触媒の存在下において炭素数1〜4のアルコールに炭素数3〜4のアルキレンオキシドを付加重合させ、次いでエチレンオキシドを付加重合させることにより得られる。
【0013】
本発明の水系顔料湿潤剤を用いた水性顔料分散液は、該顔料湿潤剤を液媒体に事前に添加した後、顔料を添加する、あるいは該顔料湿潤剤と顔料を混合した後、液媒体を添加してボールミル、サンドミルのような分散機により顔料を分散させることにより得られる。
【0014】
本発明の顔料湿潤剤の添加量は、顔料に対して、0.01〜80重量%であり、10〜60重量%が好ましい。添加量が0.01%より小さい場合は初期分散性および長期保存安定性の効果が小さく、80質量%より大きい場合は使用量に見合った効果が得られない。
【0015】
本発明で使用する顔料の種類は特に限定されず、有機系顔料であっても無機系顔料であってもよい。有機系顔料としては、例えば、フタロシアニン系顔料、キナクリドン系顔料、キナクリドンキノン系顔料、アントラピリミジン系顔料、アンサンスロン系顔料、インダンスロン系顔料、フラバンスロン系顔料、ペリレン系顔料、ジケトピロロピロール系顔料、ペリノン系顔料、キノフタロン系顔料、アントラキノン系顔料、チオインジゴ系顔料、ベンツイミダゾロン系顔料、イソインドリノン系顔料、アゾメチン系顔料、アゾ系顔料等が挙げられる。また、無機系顔料としては、例えば、カーボンブラック、二酸化チタン、炭酸カルシウム等が挙げられる。
【0016】
本発明の顔料湿潤剤を用いた顔料分散液は、必要に応じて水溶性高分子化合物、界面活性剤、水溶性有機溶剤、有機アミン、粘度調整剤、pH調整剤、消泡剤、防腐剤等を配合することができる。
【0017】
本発明の顔料分散液に必要に応じて添加する水溶性高分子化合物としては、顔料に対する吸着部位と溶媒和部である親水部を有するものが効果的であり、吸着部としてはアルキル基やベンゼン環等を有する化合物が挙げられ、親水部としてはポリエチレンオキシドやカルボン酸等が挙げられ、例えば、ポリアクリル酸系共重合体、ポリメタクリル酸系共重合体、スチレン−アクリル酸共重合体、スチレン−メタクリル酸共重合体、スチレン−マレイン酸共重合体、ナフタレンスルホン酸系重縮合物、ビニルナフタレン−アクリル酸共重合体、ビニルナフタレン−マレイン酸共重合体、酢酸ビニル−エチレン共重合体、酢酸ビニル−アクリル酸共重合体、酢酸ビニル−マレイン酸エステル共重合体およびこれらの塩等が挙げられる。
【0018】
本発明の顔料分散液に必要に応じて添加する水溶性有機溶剤としては、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、イソブチルアルコール、tert−ブチルアルコール等のアルコール類、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、グリセリン、ジグリセリン、ポリグリセリン等の多価アルコール類、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、テトラヒドロフラン、ジオキサン、エチレングリコールメチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエーテル、ジエチレングリコールエチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル等のエーテル類、N−メチルピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン等が挙げられる。
【0019】
本発明の顔料分散液に必要に応じて添加する有機アミンとしては、例えば、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N−メチルエタノールアミン、N−メチルジエタノールアミン、2−アミノ−メチルプロパノール、2−アミノ−2−メチルプロパノール、2−エチル−2−アミノ−1,3−プロパンジオール、2−アミノエチルエタノールアミン等が挙げられる。
【0020】
本発明の顔料分散液の使用形態は特に限定されず、例えばインクジェット記録用インクの場合には、インクジェット記録方式を用いたプリンターであれば、いかなるプリンターにおいても用いることができる。
【0021】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【実施例】
【0022】
[実施例1]
<合成例1>
メタノール128.0g(4.0モル)と触媒として水酸化カリウム13.4gを5L容量オートクレーブ中に仕込み、オートクレーブ内の空気を窒素で置換した後、撹拌しながら120℃にて触媒を完全に溶解させた。次に滴下装置にてブチレンオキシド4326.0g(60.0モル)を滴下し、4時間撹拌した。その後、オートクレーブより生成物を取り出し、塩酸で中和してpH6〜7とし、含有する水分を除去するために、減圧−0.095Mpa(ゲージ圧、50mmHg)、100℃で1時間処理した。さらに処理後生成した塩を除去するためにろ過を行い、メタノールブチレンオキシド15モル付加物を得た。このメタノールブチレンオキシド15モル付加物の水酸基価は52.5であった。このメタノールブチレンオキシド15モル付加物1113.5g(1.0モル)と触媒として水酸化カリウム4.2gを5L容量オートクレーブ中に仕込み、オートクレーブ内の空気を窒素で置換した後、撹拌しながら120℃にて触媒を完全に溶解させた。次に滴下装置にてエチレンオキシド661.5g(15.0モル)を滴下させ、1時間撹拌した。その後、オートクレーブより生成物を取り出し、塩酸で中和してpH6〜7とし、含有する水分を除去するために、減圧−0.095Mpa(ゲージ圧、50mmHg)、100℃で1時間処理した。さらに処理後生成した塩を除去するためにろ過を行い、メタノールブチレンオキシド15モル−エチレンオキシド15モル付加物を得た。このメタノールブチレンオキシド15モル−エチレンオキシド15モル付加物の水酸基価は32.9であった。
【0023】
<動的表面張力の評価>
メタノールブチレンオキシド15モル−エチレンオキシド15モル付加物の1.0重量%水溶液の25℃、1Hzおよび10Hz時の動的表面張力をバブルプレッシャー型動的表面張力計(Kruss社製 BP−2)により測定し、以下の基準で評価した。
○:動的表面張力が50mN/m未満
×:動的表面張力が50mN/m以上
【0024】
<静的表面張力の評価>
メタノールブチレンオキシド15モル−エチレンオキシド15モル付加物の1.0重量%水溶液の25℃での静的表面張力を全自動表面張力計(協和界面化学(株)製 CBVP−Z)により測定し、以下の基準で評価した。
○:静的表面張力が50mN/m未満
×:静的表面張力が50mN/m以上
【0025】
<顔料分散液の沈降度の評価>
100mL容量ビーカーに、フタロシアニンブルー(東京化成工業(株)製ピグメントブルー15)2.0g、メタノールブチレンオキシド15モル−エチレンオキシド15モル付加物の10重量%水溶液5.0g、β−ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物ナトリウム塩(花王(株)製デモールNL)の10重量%水溶液5.0g、イオン交換水28.0gを順に仕込み、ディスパー型撹拌機で1時間撹拌し、5重量%顔料分散液を得た。100mL容量ビーカーに、イオン交換水49.0gと5重量%顔料分散液1.0gを入れ、マグネティックスターラーで完全に均一になるまで撹拌して0.1重量%顔料分散液を得た。さらに、100mLビーカーにイオン交換水90.0gと0.1重量%顔料分散液10.0gを入れ、マグネティックスターラーで完全に均一になるまで撹拌して0.01重量%顔料分散液を得た。この0.01重量%顔料分散液を50℃にて3時間および10日間静置後、沈降物の有無を目視により以下の基準で評価した。
○:沈降物が認められない
×:沈降物が認められる
【0026】
<顔料分散液の吸光度の評価>
0.01重量%顔料分散液を50℃にて3時間および10日間静置後、上澄み液を採取し、波長585nmにおける吸光度を測定し、以下の基準で評価した。
○:吸光度0.8以上
×:吸光度0.8未満
【0027】
[実施例2〜6]
実施例1と同様の方法で、表1に示す顔料湿潤剤a−2〜a−6を合成し、1%水溶液の動的表面張力および静的表面張力の測定と顔料分散液の調製、評価を行った。
【0028】
[実施例7]
<合成例7>
メタノール96.0g(3.0モル)と触媒として水酸化カリウム9.2gを5L容量オートクレーブ中に仕込み、オートクレーブ内の空気を窒素で置換した後、撹拌しながら120℃にて触媒を完全に溶解させた。次に滴下装置にてプロピレンオキシドとブチレンオキシドの重量比10/90の混合物2969.4g(42.0モル)を滴下し、4時間撹拌した。その後、オートクレーブより生成物を取り出し、塩酸で中和してpH6〜7とし、含有する水分を除去するために、減圧−0.095Mpa(ゲージ圧、50mmHg)、100℃で1時間処理した。さらに処理後生成した塩を除去するためにろ過を行い、メタノールのプロピレンオキシド/ブチレンオキシド=10/90(重量比)の混合物14モル付加物を得た。このメタノールのプロピレンオキシド/ブチレンオキシド=10/90(重量比)の混合物14モル付加物の水酸基価は57.1であった。このメタノールのプロピレンオキシド/ブチレンオキシド=10/90(重量比)の混合物14モル付加物1021.8g(1.0モル)と触媒として水酸化カリウム3.4gを5L容量オートクレーブ中に仕込み、オートクレーブ内の空気を窒素で置換した後、撹拌しながら120℃にて触媒を完全に溶解させた。次に滴下装置にてエチレンオキシド441.0g(10.0モル)を滴下させ、1時間撹拌した。その後、オートクレーブより生成物を取り出し、塩酸で中和してpH6〜7とし、含有する水分を除去するために、減圧−0.095Mpa(ゲージ圧、50mmHg)、100℃で1時間処理した。さらに処理後生成した塩を除去するためにろ過を行い、メタノールのプロピレンオキシド/ブチレンオキシド=1/9(重量比)の混合物14モル付加物−エチレンオキシド10モル付加物を得た。このメタノールのプロピレンオキシド/ブチレンオキシド=10/90(重量比)の混合物14モル付加物−エチレンオキシド10モル付加物の水酸基価は40.3であった。
【0029】
このメタノールのプロピレンオキシド/ブチレンオキシド=10/90(重量比)の混合物14モル付加物−エチレンオキシド10モル付加物を用い、実施例1と同様の方法で、1%水溶液の動的表面張力および静的表面張力の測定と顔料分散液の調製、評価を行った。
【比較例】
【0030】
[比較例1]
顔料湿潤剤を添加しない以外は実施例1と同様の方法で、顔料分散液の調製、評価を行った。
【0031】
[比較例2〜6]
実施例1と同様の方法で、表1に示す比較合成例1および3〜5の顔料湿潤剤b−1およびb−3〜b−5を合成し、1%水溶液の動的表面張力および静的表面張力の測定と顔料分散液の調製、評価を行った。また、実施例7と同様の方法で、表1に示す比較合成例2の顔料湿潤剤b−2を合成し、1%水溶液の動的表面張力および静的表面張力の測定と顔料分散液の調製、評価を行った。
【0032】
[比較例7]
顔料湿潤剤としてアセチレングリコールエチレンオキシド10モル付加物(日信化学工業(株)製オルフィンE1010)を用いた以外は実施例1と同様の方法で、1%水溶液の動的表面張力および静的表面張力の測定と顔料分散液の調製、評価を行った。
【0033】
[比較例8]
顔料湿潤剤としてエチレンオキシド−プロピレンオキシド−エチレンオキシドトリブロック共重合体(平均分子量1670、EO含有率40重量%、日油(株)製 プロノン104)を用いた以外は実施例1と同様の方法で、1%水溶液の動的表面張力および静的表面張力の測定と顔料分散液の調製、評価を行った。
【0034】
表1に式(1)で示される化合物の特数を示す。
【表1】

【0035】
表2に測定結果および評価結果を示す。
【表2】

【0036】
表2の結果から、実施例1〜7の顔料湿潤剤は顔料に対して優れた湿潤性を発揮し、この顔料湿潤剤を用いると初期分散性、長期保存安定性に優れた顔料分散液が得られることがわかる。
【0037】
これに対して、比較例1は、本発明の顔料湿潤剤を用いていないために顔料分散液の初期分散性および長期保存安定性が不十分である。
比較例2は、式(1)で示される化合物のアルキル鎖の炭素数が本発明の範囲より大きく、分子量中に占めるオキシブチレン基部分の割合が本発明の範囲より小さいために、動的表面張力および静的表面張力が大きく、顔料分散液の長期保存安定性が不十分である。
比較例3は、式(1)で示される化合物の炭素数3〜4のオキシアルキレン基部分に占めるオキシブチレン基の含有率が本発明の範囲より小さく、分子量中に占めるオキシブチレン基部分の割合が本発明の範囲より小さいために、動的表面張力および静的表面張力が大きく、顔料分散液の初期分散性および長期保存安定性が不十分である。
比較例4は、式(1)で示される化合物の炭素数3〜4のオキシアルキレン基の付加モル数が本発明の範囲より大きく、また炭素数3〜4のオキシアルキレン基とオキシエチレン基の付加モル数の合計に占める炭素数3〜4のオキシアルキレン基の付加モル数の割合が本発明の範囲より大きく、分子量中に占めるオキシブチレン基部分の割合が本発明の範囲より大きいために、水溶性を示さず、顔料分散液の初期分散性および長期保存安定性が不十分である。
比較例5は、式(1)で示される化合物のオキシブチレン基の付加モル数が本発明の範囲より小さく、またオキシブチレン基とオキシエチレン基の付加モル数の合計に占めるオキシブチレン基の付加モル数の割合が本発明の範囲より小さく、分子量中に占めるオキシブチレン基部分の割合が本発明の範囲より小さいために、動的表面張力および静的表面張力が大きく、顔料分散液の初期分散性および長期保存安定性が不十分である。
比較例6は、式(1)で示される化合物のオキシエチレン基の付加モル数が本発明の範囲より小さく、またオキシブチレン基とオキシエチレン基の付加モル数の合計に占めるオキシブチレン基の付加モル数の割合が本発明の範囲より大きく、分子量中に占めるオキシブチレン基部分の割合が本発明の範囲より大きいために、水溶性を示さず、顔料分散液の初期分散性および長期保存安定性が不十分である。
比較例7は、本発明の式(1)で示される化合物を用いていないために、顔料分散液の初期分散性および長期保存安定性が不十分である。
比較例8は、本発明の式(1)で示される化合物を用いていないために、動的表面張力および静的表面張力が大きく、顔料分散液の初期分散性および長期保存安定性が不十分である。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明によれば、顔料に対して優れた湿潤性を発揮する顔料湿潤剤、およびこの顔料湿潤剤を用いた初期分散性、長期保存安定性に優れた水性顔料分散液が提供される。このような水性顔料分散液は、水性フェルトペン、水性ボールペン、水性塗料、特に水性インクジェット用インクとして好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)で示される化合物からなる水系顔料湿潤剤。
R−O−(AO)−(EO)−H ・・・(1)
(Rは炭素数1〜4のアルキル基である。EOはオキシエチレン基であり、AOは炭素数3〜4のオキシアルキレン基である。mは炭素数3〜4のオキシアルキレン基の平均付加モル数であり、nはオキシエチレン基の平均付加モル数であり、mは3〜30であり、nは3〜60であり、m+nは6〜80であり、m/(m+n)は0.3〜0.6である。(AO)部分に占めるオキシブチレン基の割合は70〜100重量%であり、分子量中に占めるオキシブチレン基部分の割合は50〜70重量%である。)
【請求項2】
請求項1記載の水系顔料湿潤剤を用いた水性顔料分散液。

【公開番号】特開2010−248497(P2010−248497A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−67731(P2010−67731)
【出願日】平成22年3月24日(2010.3.24)
【出願人】(000004341)日油株式会社 (896)
【Fターム(参考)】