説明

水素−重水素交換が組み込まれた質量分析計

【解決手段】水素−重水素交換セルを備える質量分析計を開示する。イオンが水素−重水素交換を受けることにより、立体配座が異なる一方でイオン移動度がほぼ等しい異性体イオンを識別することが可能になる。水素−重水素交換の相対的な度合いを求めることにより、イオン移動度がほぼ等しい2つのイオンが異なる表面立体配座を持つ場合には、これら2つのイオンをより効果的に識別することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2010年2月25日に出願された米国仮特許出願No.61/307,882及び2010年2月12日に出願された英国特許出願No.1002445.3に基づく優先権を主張するものであり、前記出願の内容は、参照することにより、その全体が本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、質量分析の方法と質量分析計とに関する。
【背景技術】
【0003】
イオン移動度分光計に置いてイオン移動度に従ってイオンを分離する技術が知られている。
【0004】
イオン移動度分光計の上流側にマスフィルタを備え、所定の質量対電荷比を有するイオンのみを透過するように設定することが可能である。ある状況において、わずかに異なるイオン移動度を有する2つのイオンをイオン移動度分光計により部分的に分離することができ、これは、イオンが、異なる立体配座を有する2つの異性体からなり、異なる立体配座によりイオン移動度の相違が生じることを示唆する。しかし、従来のイオン移動度分離技術は、異なる立体配座に関して限られた情報しか与えず、2つの異なる立体配座の性質に関する理解を深めること、及び、イオンクロマトグラムにおいて観察されるイオンピークが異なる立体配座を有するイオンを実際に表わす信頼性を高めることが望まれている。
【0005】
別の状況において、イオン移動度分光計を用いて、異なる立体配座を有するイオンを分解し、結果として得られるイオンクロマトグラムで単一のイオンピークが観察されるようにすることも可能である。ただし、イオンクロマトグラムにおける単一のイオンピークが、異なる立体配座を有する2つの(又はそれ以上の)異性体を実際に含むか否かを確認することが必要となる。
【0006】
従来のイオン移動度分光分析の技術では、異性体イオンを分析する際に、限られた量の情報や限られた信頼性しか与えることができない。
【0007】
質量分析の方法及び質量分析計の向上が望まれている。
【発明の概要】
【0008】
本発明の一つの態様は、質量分析の方法であって、
第1の装置内で第1の被分析物イオン及び第2の被分析物イオンが水素−重水素交換を受ける工程であって、前記第1の被分析物イオン及び前記第2の被分析物イオンの1つ以上の水素原子を1つ以上の重水素原子と交換することにより、第1の重水素化イオン及び第2の重水素化イオンを形成する工程と、
前記第1の装置からイオン移動度分光計に、前記第1の重水素化イオン及び前記第2の重水素化イオンを送る工程と、
第1の時間に前記イオン移動度分光計から出力される重水素化イオンの質量分析を行なって、第1の質量スペクトルデータを生成する工程と、
後の第2の時間に前記イオン移動度分光計から出力される重水素化イオンの質量分析を行なって、第2の質量スペクトルデータを生成する工程と、
前記第1の質量スペクトルデータと前記第2の質量スペクトルデータとを比較して、(i)前記第1の被分析物イオンと前記第2の被分析物イオンとの間、及び/又は、(ii)前記第1の重水素化イオンと前記第2の重水素化イオンとの間、の識別を可能にする工程と、を備える。
【0009】
好適な実施形態は、たとえば、重水素化アンモニアガスを含有するガスセル中にイオンを通すことにより、イオンが水素−重水素交換(HDX:hydrogen-deuterium exchange)を受ける方法に関する。被分析物イオン内の1つ以上の水素原子を重水素に交換することにより、イオンの質量対電荷比が増加する結果となる。重水素化されたイオンをイオン移動度分離装置又はイオン移動度分光計に送るようにしてもよい。イオン移動度分離装置又はイオン移動度分光計において、異なる立体配座(すなわち、構造配置)のためにイオン移動度分離装置又はイオン移動度分光計を通るドリフト時間がわずかに異なるという性質によって、イオンを部分的に時間分離する、又はイオンを部分的に分解するようにしてもよい。たとえば、コンパクトな構造を有するイオンをより伸長した構造のイオンよりも先にイオン移動度分光計から出力させるようにしてもよい。イオンは、最終的な質量スペクトルにおいて同位体パターンを生じさせるものでもよい。同位体パターンを分析又はデコンボリューションして、重水素に交換された水素原子の相対数を求めるようにしてもよい。この結果、ほぼ同じ又は同一の質量を有する2つのイオンの立体配座特性に関する詳細な情報を求めることができ、異なる立体配座を有する異性体イオンであると考えられる2つのイオンが実際に異なる立体配座を有する信頼性を高めることができる。別の実施形態において、最初にイオン移動度分光計にイオンを通し、次に、イオンが水素−重水素交換を受けるガスセルにイオンを通すようにしてもよい。
【0010】
水素−重水素交換によりイオン表面の探査を行ない、イオン移動度分光分析により断面積に基づいてイオンの識別を行なう。これら2つのパラメータを関連付けることにより、断面積が異なっていれば、表面立体配座も異なる可能性が高く、逆に、表面立体配座が異なっていれば断面積が異なる可能性が高いと考えられる。
【0011】
前記第1の装置から前記イオン移動度分光計に前記第1の重水素化イオン及び前記第2の重水素化イオンを送る工程が、さらに、前記イオン移動度分光計内で前記第1の重水素化イオンと前記第2の重水素化イオンとを時間的に分離する工程を備えることが望ましい。
【0012】
本発明の一つの態様は、質量分析の方法であって、
第1の被分析物イオン及び第2の被分析物イオンをイオン移動度分光計に送る工程と、
前記イオン移動度分光計から出力される前記第1の被分析物イオン及び前記第2の被分析物イオンが第1の装置内で水素−重水素交換を受ける工程であって、前記第1の被分析物イオン及び前記第2の被分析物イオンの1つ以上の水素原子を1つ以上の重水素原子と交換することにより、第1の重水素化イオン及び第2の重水素化イオンを形成する工程と、
第1の時間に前記第1の装置から出力される重水素化イオンの質量分析を行なって、第1の質量スペクトルデータを生成する工程と、
後の第2の時間に前記第1の装置から出力される重水素化イオンの質量分析を行なって、第2の質量スペクトルデータを生成する工程と、
前記第1の質量スペクトルデータと前記第2の質量スペクトルデータとを比較して、(i)前記第1の被分析物イオンと前記第2の被分析物イオンとの間、及び/又は、(ii)前記第1の重水素化イオンと前記第2の重水素化イオンとの間、の識別を可能にする工程と、を備える。
【0013】
前記第1の被分析物イオン及び前記第2の被分析物イオンを前記イオン移動度分光計に送る工程が、さらに、前記イオン移動度分光計内で記第1の被分析物イオンと前記第2の被分析物イオンとを時間的に分離する工程を備えることが望ましい。
【0014】
好適な実施形態は、水素−重水素交換反応とイオン移動度分離技術とを組み合わせることによりイオン立体配座の識別及び決定を向上させる方法に関する。
【0015】
前記第1の質量スペクトルデータと前記第2の質量スペクトルデータとを比較して識別を可能にする工程が、(i)前記第1の被分析物イオンと前記第2の被分析物イオンとの間、及び/又は、(ii)前記第1の重水素化イオンと前記第2の重水素化イオンとの間、における構造特性若しくは立体配座特性の相違又は前記第1の装置内でのガスとの反応性の相違を求める工程を備えることが望ましい。
【0016】
前記第1の質量スペクトルデータと前記第2の質量スペクトルデータとを比較する工程が、
(i)前記第1の被分析物イオン及び/又は前記第2の被分析物イオン内の水素原子が重水素原子に交換される度合いを求める又は概算する工程、及び/又は、
(ii)前記第1の被分析物イオン及び/又は前記第2の被分析物イオンの構造特性又は立体配座特性を求める又は概算する工程、及び/又は、
(iii)前記第1の重水素化イオン及び/又は前記第2の重水素化イオンの構造特性又は立体配座特性を求める又は概算する工程、及び/又は、
(iv)前記第1の被分析物イオン及び/又は前記第2の被分析物イオンの相対的なコンパクト性又は伸長性を求める又は概算する工程、及び/又は、
(v)前記第1の重水素化イオン及び/又は前記第2の重水素化イオンの相対的なコンパクト性又は伸長性を求める又は概算する工程、及び/又は、
(vi)前記第1の装置内で前記第1の被分析物イオン及び/又は前記第2の被分析物イオンがガスと反応して、付加物イオンを形成する度合いを求める又は概算する工程、及び/又は、
(vii)水素原子を重水素原子に交換可能な前記第1の被分析物イオン及び/又は前記第2の被分析物イオン上の表面部位の数を求める又は概算する工程、及び/又は、
(viii)前記第1の重水素化イオンに関する1つ以上の同位体パターン及び/又は1つ以上の同位体分布及び/又は1つ以上の同位体比と、前記第2の重水素化イオンに関する1つ以上の同位体パターン及び/又は1つ以上の同位体分布及び/又は1つ以上の同位体比とを比較する工程、を備えることが望ましい。
【0017】
質量分析の方法が、さらに、前記イオン移動度分光計及び/又は前記第1の装置の上流側にマスフィルタを備える工程と、実質的に同じ質量対電荷比を有する前記第1の被分析物イオンと前記第2の被分析物イオンとを選択的に透過させる一方で、異なる質量対電荷比を有する他のイオンをフィルタリング除去する又は減衰させるように前記マスフィルタを動作させる工程と、を備えることが望ましい。
【0018】
本発明の一つの態様は、質量分析計であって、
第1の被分析物イオン及び第2の被分析物イオンが水素−重水素交換を受けるように配置及び構成される第1の装置であって、前記第1の被分析物イオン及び前記第2の被分析物イオンの1つ以上の水素原子を1つ以上の重水素原子と交換することにより、第1の重水素化イオン及び第2の重水素化イオンを形成する第1の装置と、
イオン移動度分光計であって、使用時に、前記第1の重水素化イオン及び前記第2の水素化イオンを前記第1の装置から前記イオン移動度分光計に送るように構成されるイオン移動度分光計と、
第1の時間に前記イオン移動度分光計から出力される重水素化イオンの質量分析を行なって、第1の質量スペクトルデータを生成すると共に、後の第2の時間に前記イオン移動度分光計から出力される重水素化イオンの質量分析を行なって、第2の質量スペクトルデータを生成するように配置及び構成される質量分析器と、
前記第1の質量スペクトルデータと前記第2の質量スペクトルデータとを比較して、(i)前記第1の被分析物イオンと前記第2の被分析物イオンとの間、及び/又は、(ii)前記第1の重水素化イオンと前記第2の重水素化イオンとの間、の識別を可能にするように配置及び構成される制御システムと、を備える。
【0019】
本発明の一つの態様は、質量分析計であって、
イオン移動度分光計であって、第1の被分析物イオン及び第2の被分析物イオンを前記イオン移動度分光計に送るように構成されるイオン移動度分光計と、
前記イオン移動度分光計から出力される前記第1の被分析物イオン及び前記第2の被分析物イオンがその内部で水素−重水素交換を受けるように配置及び構成される第1の装置であって、前記第1の被分析物イオン及び前記第2の被分析物イオンの1つ以上の水素原子を1つ以上の重水素原子と交換することにより、第1の重水素化イオン及び第2の重水素化イオンを形成する第1の装置と、
第1の時間に前記第1の装置から出力される重水素化イオンの質量分析を行なって、第1の質量スペクトルデータを生成すると共に、後の第2の時間に前記第1の装置から出力される重水素化イオンの質量分析を行なって、第2の質量スペクトルデータを生成するように配置及び構成される質量分析器と、
前記第1の質量スペクトルデータと前記第2の質量スペクトルデータとを比較して、(i)前記第1の被分析物イオンと前記第2の被分析物イオンとの間、及び/又は、(ii)前記第1の重水素化イオンと前記第2の重水素化イオンとの間、の識別を可能にするように配置及び構成される制御システムと、を備える。
【0020】
前記制御システムは、(i)前記第1の被分析物イオンと前記第2の被分析物イオンとの間、及び/又は、(ii)前記第1の重水素化イオンと前記第2の重水素化イオンとの間、における構造特性若しくは立体配座特性の相違又は前記第1の装置内でのガスとの反応性の相違を求めるように配置及び構成されることが望ましい。
【0021】
前記制御システムは、
(i)前記第1の被分析物イオン及び/又は前記第2の被分析物イオン内の水素原子が重水素原子に交換される度合いを求める又は概算する、及び/又は、
(ii)前記第1の被分析物イオン及び/又は前記第2の被分析物イオンの構造特性又は立体配座特性を求める又は概算する、及び/又は、
(iii)前記第1の重水素化イオン及び/又は前記第2の重水素化イオンの構造特性又は立体配座特性を求める又は概算する、及び/又は、
(iv)前記第1の被分析物イオン及び/又は前記第2の被分析物イオンの相対的なコンパクト性又は伸長性を求める又は概算する、及び/又は、
(v)前記第1の重水素化イオン及び/又は前記第2の重水素化イオンの相対的なコンパクト性又は伸長性を求める又は概算する、及び/又は、
(vi)前記第1の装置内で前記第1の被分析物イオン及び/又は前記第2の被分析物イオンがガスと反応して、付加物イオンを形成する度合いを求める又は概算する、及び/又は、
(vii)水素原子を重水素原子に交換可能な前記第1の被分析物イオン及び/又は前記第2の被分析物イオン上の表面部位の数を求める又は概算する、及び/又は、
(viii)前記第1の重水素化イオンに関する1つ以上の同位体パターン及び/又は1つ以上の同位体分布及び/又は1つ以上の同位体比と、前記第2の重水素化イオンに関する1つ以上の同位体パターン及び/又は1つ以上の同位体分布及び/又は1つ以上の同位体比とを比較する、ように配置及び構成されることが望ましい。
【0022】
前記質量分析器が、飛行時間型質量分析器を備えることが望ましい。
【0023】
質量分析計が、さらに、前記イオン移動度分光計及び/又は前記第1の装置の上流側に配置されるマスフィルタであって、動作モードにおいて、実質的に同じ質量対電荷比を有する前記第1の被分析物イオンと前記第2の被分析物イオンとを選択的に透過させる一方で、異なる質量対電荷比を有する他のイオンをフィルタリング除去する又は減衰させるように配置及び構成されるマスフィルタを備えることが望ましい。
【0024】
本発明の一つの態様は、質量分析の方法であって、
第1の装置内で被分析物イオンが水素−重水素交換を受ける工程であって、前記被分析物イオンの1つ以上の水素原子を1つ以上の重水素原子と交換することにより、重水素化イオンを形成する工程と、
前記第1の装置からイオン移動度分光計に、前記重水素化イオンを送る工程と、
第1の時間に前記イオン移動度分光計から出力される第1の重水素化イオンの質量分析を行なって、第1の質量スペクトルデータを生成する工程と、
前記第1の質量スペクトルデータ内の1つ以上の同位体比パターンのデコンボリューションを行なって、前記第1の重水素化イオンにおいて重水素原子に交換された水素原子の数を求める又は概算する工程と、
後の第2の時間に前記イオン移動度分光計から出力される第2の重水素化イオンの質量分析を行なって、第2の質量スペクトルデータを生成する工程と、
前記第2の質量スペクトルデータ内の1つ以上の同位体比パターンのデコンボリューションを行なって、前記第2の重水素化イオンにおいて重水素原子に交換された水素原子の数を求める又は概算する工程と、を備える。
【0025】
質量分析の方法が、さらに、第1の重水素化イオンに関して重水素原子に交換されたとして求められた水素原子の数と、第2の重水素化イオンに関して重水素原子に交換されたとして求められた水素原子の数とを比較する工程を備えるものでもよい。
【0026】
本発明の一つの態様は、質量分析計であって、
被分析物イオンが水素−重水素交換を受けるように配置及び構成される第1の装置であって、前記被分析物イオンの1つ以上の水素原子を1つ以上の重水素原子と交換することにより、重水素化イオンを形成する第1の装置と、
イオン移動度分光計であって、使用時に、前記重水素化イオンを前記第1の装置から前記イオン移動度分光計に送るように構成されるイオン移動度分光計と、
制御システム及び質量分析器であって、
(i)第1の時間に前記イオン移動度分光計から出力される第1の重水素化イオンの質量分析を行なって、第1の質量スペクトルデータを生成し、
(ii)前記第1の質量スペクトルデータ内の1つ以上の同位体比パターンのデコンボリューションを行なって、前記第1の重水素化イオンにおいて重水素原子に交換された水素原子の数を求め、又は、概算し、
(iii)後の第2の時間に前記イオン移動度分光計から出力される第2の重水素化イオンの質量分析を行なって、第2の質量スペクトルデータを生成し、
(iv)前記第2の質量スペクトルデータ内の1つ以上の同位体比パターンのデコンボリューションを行なって、前記第2の重水素化イオンにおいて重水素原子に交換された水素原子の数を求める又は概算する、ように配置及び構成される制御システム及び質量分析器と、を備える。
【0027】
制御システムは、第1の重水素化イオンに関して重水素原子に交換されたとして求められた水素原子の数と、第2の重水素化イオンに関して重水素原子に交換されたとして求められた水素原子の数とを比較するように配置及び構成されるものでもよい。
【0028】
本発明の一つの態様は、質量分析の方法であって、
第1の装置内で被分析物イオンが水素−重水素交換を受ける工程であって、前記被分析物イオンの1つ以上の水素原子を1つ以上の重水素原子と交換することにより、重水素化イオンを形成する工程と、
前記重水素化イオンの質量分析を行なって、質量スペクトルデータを生成する工程と、
前記質量スペクトルデータ内の1つ以上の同位体比パターンのデコンボリューションを行なって、重水素原子に交換された前記被分析物イオン中の水素原子の数を求める又は概算する工程と、を備える。
【0029】
本発明の一つの態様は、質量分析計であって、
被分析物イオンが水素−重水素交換を受けるように配置及び構成される第1の装置であって、前記被分析物イオンの1つ以上の水素原子を1つ以上の重水素原子と交換することにより、重水素化イオンを形成する第1の装置と、
前記重水素化イオンの質量分析を行なって、質量スペクトルデータを生成するように配置及び構成される質量分析器と、
前記質量スペクトルデータ内の1つ以上の同位体比パターンのデコンボリューションを行なって、重水素原子に交換された前記被分析物イオン中の水素原子の数を求める又は概算するように配置及び構成される制御システムと、を備える。
【0030】
好適な実施形態において、イオン移動度ドリフトセル装置を備える質量分析計においてイオン立体配座の識別を大幅に向上させる方法を提供する。好適な実施形態は、水素−重水素交換反応を起こすことによるイオン移動度由来断面積の決定の向上に関する。イオン移動度装置の前段又は後段のいずれかでラベリングした(標識化した)水素−重水素交換に関係する質量スペクトル変形の相違を測定することにより、ほぼ同じ断面積と同一の質量対電荷比を有するイオンを識別して、より正確に測定することが可能になる。重水素化同位体クラスターのパターンマッチングを含む補足的な方法を開示する。
【0031】
好適な実施形態は、従来技術を大幅に向上させる。
【0032】
一つの実施形態において、質量分析計が、さらに、
(a)(i)エレクトロスプレーイオン化(Electrospray ionization: ESI)イオン源、(ii)大気圧光イオン化(Atmospheric Pressure Photo Ionization: APPI)イオン源、(iii)大気圧化学イオン化(Atmospheric Pressure Chemical Ionization: APCI)イオン源、(iv)マトリックス支援レーザー脱離イオン化(Matrix Assisted Laser Desorption Ionization: MALDI)イオン源、(v)レーザー脱離イオン化(Laser Desorption Ionization: LDI)イオン源、(vi)大気圧イオン化(Atmospheric Pressure Ionization: API)イオン源、(vii)シリコンを用いた脱離イオン化(Desorption Ionization on Silicon: DIOS)イオン源、(viii)電子衝撃(Electron Impact: EI)イオン源、(ix)化学イオン化(Chemical Ionization: CI)イオン源、(x)電界イオン化(Field Ionization: FI)イオン源、(xi)電界脱離(Field Desorption: FD)イオン源、(xii)誘導結合プラズマ(Inductively Coupled Plasma: ICP)イオン源、(xiii)高速原子衝撃(Fast Atom Bombardment: FAB)イオン源、(xiv)液体二次イオン質量分析(Liquid Secondary Ion Mass Spectrometry: LSIMS)イオン源、(xv)脱離エレクトロスプレーイオン化(Desorption Electrospray Ionization: DESI)イオン源、(xvi)ニッケル−63放射性イオン源、(xvii)大気圧マトリックス支援レーザー脱離イオン化(Atmospheric Pressure Matrix Assisted Laser Desorption Ionization)イオン源、(xviii)サーモスプレーイオン源、(xix)大気サンプリンググロー放電イオン化(Atmospheric Sampling Glow Discharge Ionization: ASGDI)イオン源及び(xx)グロー放電(Glow Discharge: GD)イオン源からなる群から選択される1つ以上のイオン源、及び/又は、
(b)1つ以上の連続又はパルスイオン源、及び/又は、
(c)1つ以上のイオンガイド、及び/又は、
(d)1つ以上のイオン移動度分離装置及び/又は1つ以上の電界非対称イオン移動度分光計(Field Asymmetric Ion Mobility Spectrometer)、及び/又は、
(e)1つ以上のイオントラップ又は1つ以上のイオン捕捉領域、及び/又は、
(f)(i)衝突誘起解離(Collisional Induced Dissociation: CID)フラグメンテーション装置、(ii)表面誘起解離(Surface Induced Dissociation: SID)フラグメンテーション装置、(iii)電子移動解離(Electron Transfer Dissociation: ETD)フラグメンテーション装置、(iv)電子捕獲解離(Electron Capture Dissociation: ECD)フラグメンテーション装置、(v)電子衝突(Electron Collision)又は電子衝撃解離(Electron Impact Dissociation)フラグメンテーション装置、(vi)光誘起解離(Photo Induced Dissociation: PID)フラグメンテーション装置、(vii)レーザー誘起解離(Laser Induced Dissociation)フラグメンテーション装置、(viii)赤外線誘起解離装置、(ix)紫外線誘起解離装置、(x)ノズル・スキマー・インターフェース・フラグメンテーション装置、(xi)インソースフラグメンテーション装置、(xii)インソース衝突誘起解離(Collision Induced Dissociation)フラグメンテーション装置、(xiii)熱源又は温度源フラグメンテーション装置、(xiv)電場誘起フラグメンテーション装置、(xv)磁場誘起フラグメンテーション装置、(xvi)酵素消化又は酵素分解フラグメンテーション装置、(xvii)イオン−イオン反応フラグメンテーション装置、(xviii)イオン−分子反応フラグメンテーション装置、(xix)イオン−原子反応フラグメンテーション装置、(xx)イオン−準安定イオン反応フラグメンテーション装置、(xxi)イオン−準安定分子反応フラグメンテーション装置、(xxii)イオン−準安定原子反応フラグメンテーション装置、(xxiii)イオンの反応により付加イオン又はプロダクトイオン(生成イオン)を形成するイオン−イオン反応装置、(xxiv)イオンの反応により付加イオン又はプロダクトイオンを形成するイオン−分子反応装置、(xxv)イオンの反応により付加イオン又はプロダクトイオンを形成するイオン−原子反応装置、(xxvi)イオンの反応により付加イオン又はプロダクトイオンを形成するイオン−準安定イオン反応装置、(xxvii)イオンの反応により付加イオン又はプロダクトイオンを形成するイオン−準安定分子反応装置、(xxviii)イオンの反応により付加イオン又はプロダクトイオンを形成するイオン−準安定原子反応装置、及び(xxix)電子イオン化解離(Electron Ionization Dissociation: EID)フラグメンテーション装置、からなる群から選択される衝突、フラグメンテーション又は反応セル、及び/又は、
(g)(i)四重極質量分析器、(ii)2次元又はリニア四重極質量分析器、(iii)ポール(Paul)トラップ型又は3次元四重極質量分析器、(iv)ペニング(Penning)トラップ型質量分析器、(v)イオントラップ型質量分析器、(vi)磁場型質量分析器、(vii)イオンサイクロトロン共鳴(Ion Cyclotron Resonance: ICR)質量分析器(viii)フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴(Fourier Transform Ion Cyclotron Resonance: FTICR)質量分析器、(ix)静電またはオービトラップ型質量分析器、(x)フーリエ変換(Fourier Transform)静電又はオービトラップ型質量分析器、(xi)フーリエ変換(Fourier Transform)質量分析器、(xii)飛行時間型(Time of Flight)質量分析器、(xiii)直交加速飛行時間型(Time of Flight)質量分析器、及び(xiv)線形加速飛行時間型(Time of Flight)質量分析器、からなる群から選択される質量分析器、及び/又は、
(h)1つ以上のエネルギー分析器又は静電エネルギー分析器、及び/又は、
(i)1つ以上のイオン検出器、及び/又は、
(j)(i)四重極マスフィルタ、(ii)2次元又はリニア四重極イオントラップ、(iii)ポール(Paul)又は3次元四重極イオントラップ、(iv)ペニング(Penning)イオントラップ、(v)イオントラップ、(vi)磁気セクタ型マスフィルタ、(vii)飛行時間型(Time of Flight: TOF)マスフィルタ、及び(viii)ウィーン(Wien)フィルタ、からなる群から選択される1つ以上のマスフィルタ、及び/又は、
(k)イオンをパルス状にする装置又はイオンゲート、及び/又は、
(l)、実質的に連続的なイオンビームをパルスイオンビームに変換する装置、を備えることが望ましい。
【0033】
質量分析計が、さらに、
(i)C型トラップと、外側たる形電極及び同軸の内側紡錘形電極を備えるオービトラップ型(RTM)質量分析器と、を備え、第1の動作モードにおいて、イオンは、前記C型トラップに送られ、次に、前記オービトラップ型(RTM)質量分析器に注入され、第2の動作モードにおいて、イオンは、前記C型トラップに、次に、衝突セル又は電子移動解離(Electron Transfer Dissociation)装置に送られて、少なくとも一部のイオンがフラグメント(断片)イオンにフラグメント化(断片化)され、前記フラグメントイオンは、前記C型トラップに送られた後、オービトラップ型(RTM)質量分析器に注入される、及び/又は、
(ii)使用時にイオンを透過させる開口部を各々有する複数の電極を備える積層リング型イオンガイドを備え、前記電極間の間隔がイオン通路の長さ方向に沿って増大し、前記イオンガイドの上流部分に配置される電極の開口部が第1の直径を有する一方で、前記イオンガイドの下流部分に配置される電極の開口部が前記第1の直径よりも小径の第2の直径を有し、使用時に、連続する電極に、逆相のAC又はRF電圧を印加する、のいずれかを備えることが望ましい。
【0034】
好適な実施形態におけるイオン移動度分光計は、使用時にイオンを透過させる開口部を各々有する複数の電極を備えるものでもよい。イオン移動度分光計の長さ方向に沿ってイオンを駆動させるように、1つ以上の過渡直流電圧又は電位又は1つ以上の直流電圧波形又は電位波形をイオン移動度分光計の電極に印加する構成も望ましい。
【0035】
好適な実施形態において、1つ以上の過渡直流電圧又は電位又は1つ以上の直流電圧波形又は電位波形は、(i)1つのポテンシャル(電位)の山又は障壁、(ii)1つのポテンシャル井戸、(iii)複数のポテンシャルの山又は障壁、(iv)複数のポテンシャル井戸、(v)1つのポテンシャルの山又は障壁と1つのポテンシャル井戸との組み合わせ、又は(vi)複数のポテンシャルの山又は障壁と複数のポテンシャル井戸との組み合わせを形成する。
【0036】
1つ以上の過渡直流電圧波形又は電位波形は、反復波形又は方形波を備えることが望ましい。
【0037】
RF電圧をイオン移動度分光計の電極に印加することが望ましく、このRF電圧は(i)<50Vのピークピーク値、(ii)50〜100Vのピークピーク値、(iii)100〜150Vのピークピーク値、(iv)150〜200Vのピークピーク値、(v)200〜250Vのピークピーク値、(vi)250〜300Vのピークピーク値、(vii)300〜350Vのピークピーク値、(viii)350〜400Vのピークピーク値、(ix)400〜450Vのピークピーク値、(x)450〜500Vのピークピーク値、(xi)500〜550Vのピークピーク値、(xxii)550〜600Vのピークピーク値、(xxiii)600〜650Vのピークピーク値、(xxiv)650〜700Vのピークピーク値、(xxv)700〜750Vのピークピーク値、(xxvi)750〜800Vのピークピーク値、(xxvii)800〜850Vのピークピーク値、(xxviii)850〜900Vのピークピーク値、(xxix)900〜950Vのピークピーク値、(xxx)950〜1000Vのピークピーク値及び(xxxi)>1000Vのピークピーク値からなる群から選択される振幅を有することが望ましい。
【0038】
RF電圧は、(i)<100kHz、(ii)100〜200kHz、(iii)200〜300kHz、(iv)300〜400kHz、(v)400〜500kHz、(vi)0.5〜1.0MHz、(vii)1.0〜1.5MHz、(viii)1.5〜2.0MHz、(ix)2.0〜2.5MHz、(x)2.5〜3.0MHz、(xi)3.0〜3.5MHz、(xii)3.5〜4.0MHz、(xiii)4.0〜4.5MHz、(xiv)4.5〜5.0MHz、(xv)5.0〜5.5MHz、(xvi)5.5〜6.0MHz、(xvii)6.0〜6.5MHz、(xviii)6.5〜7.0 MHz、(xix)7.0〜7.5MHz、(xx)7.5〜8.0MHz、(xxi)8.0〜8.5MHz、(xxii)8.5〜9.0MHz、(xxiii)9.0〜9.5MHz、(xxiv)9.5〜10.0MHz及び(xxv)>10.0MHzからなる群から選択される周波数を有することが望ましい。
【0039】
イオン移動度分光計は、(i)>0.001mbar、(ii)>0.01mbar、(iii)>0.1mbar、(iv)>1mbar、(v)>10mbar、(vi)>100mbar、(vii)0.001〜0.01mbar、(viii)0.01〜0.1mbar、(ix)0.1〜1mbar、(x)1〜10mbar及び(xi)10〜100mbarからなる群から選択される圧力に維持されることが望ましい。
【0040】
以下、例示を目的として、本発明のさまざまな実施形態を添付の図面を参照して詳述する。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】図1Aは、2つの異なる立体配座を有し、これによりイオン移動度分光計を通る2つの異なるドリフト時間を有する物質Pの重水素化されていない3+イオンのドリフト時間を示すイオン移動度クロマトグラム;図1Bは、同位体比パターンに基づいて7個の水素−重水素交換を受けたと考えられる物質Pの3+イオンが2つの異なる時間に溶出された様子を示すイオン移動度クロマトグラム;図1Cは、同位体比パターンに基づいて5個の水素−重水素交換を受けたと考えられる物質Pの3+イオンがほぼ同時に溶出された様子を示すイオン移動度クロマトグラムである。
【図2】図2Aは、34ドリフト時間単位後にイオン移動度分光計から出力された物質Pの重水素化されていない3+イオンの質量スペクトル;図2Bは、24ドリフト時間単位後にイオン移動度分光計から出力された物質Pの重水素化されていない3+イオンの対応する質量スペクトル;図2Cは、水素−重水素交換を受け、24ドリフト時間単位後にイオン移動度分光計から出力された物質Pの3+イオンの質量スペクトル;図2Dは、水素−重水素交換を受け、34ドリフト時間単位後にイオン移動度分光計から出力された物質Pの3+イオンの質量スペクトル;図2Eは、5個の水素−重水素交換を受けた場合をシミュレーションした物質Pの3+イオンの質量スペクトル・シミュレーション;図2Fは、7個の水素−重水素交換を受けた場合をシミュレーションした物質Pの3+イオンの質量スペクトル・シミュレーションである。
【図3】図3Aは、図1AのピークAによって表わされる、イオン移動度分光計から溶出されたイオンであって、重水素化アンモニア(ND3)と付加物イオンを形成しないイオンの質量スペクトル;図3Bは、図1AのピークBによって表わされる、イオン移動度分光計から溶出されたイオンであって、物質Pのイオンと重水素化アンモニア(ND3)との結合により質量対電荷比=459を有する付加物イオンを形成するイオンの質量スペクトルである。
【図4】図4は、図3A及び図3Bに示す質量スペクトルにおける最も高い強度のピークであって、質量対電荷比=452を有するイオンに相当するピークに対応するイオン移動度クロマトグラムと、質量対電荷比=459を有する図3Bに示す付加物イオンに相当する最も高い強度のピークに対応するイオン移動度クロマトグラムとを重ねて示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0042】
本発明の好適な実施形態を以下説明する。好適な実施形態において、質量分析計は、改良型Waters Synapt(RTM)ハイブリッド四重極飛行時間型質量分析計を備える。
【0043】
質量分析計は、第1の(入口)真空チャンバと、進行波イオンガイドを収容する後段の第2の真空チャンバと、を備える。イオンは、第1の真空チャンバから第2の真空チャンバに送られる。第2の真空チャンバの軸は、第1の真空チャンバの軸に対して90度傾いていることが望ましい。
【0044】
第2の真空チャンバに配置される進行波イオンガイドは、イオンを透過させる開口部を各々有する複数のリング電極を備えることが望ましい。逆位相のRF電極を隣接する電極に印加することにより、イオンガイド内で径方向にイオンを閉じ込めるように働く径方向の疑似電位(ポテンシャル)障壁が形成され、これによって、進行波イオンガイド内でイオンが径方向に閉じ込められる。第2の真空チャンバ内でイオンガイドを透過したイオンは、次に、第2の真空チャンバの下流側に位置する第3の真空チャンバに送られる。
【0045】
第3の真空チャンバに、四重極ロッドセット型マスフィルタ(MS1)を収容することが望ましい。動作モードにおいて、四重極ロッドセット型マスフィルタMS1により対象となる親イオンを選択した後、第3の真空チャンバの下流側に位置する第4の真空チャンバに選択された親イオンを送る。対象外の質量対電荷比を有するイオンは、マスフィルタMS1によりフィルタリング除去される又はそうでなければ減衰されることが望ましい。
【0046】
第3の真空チャンバの下流側の第4の真空チャンバは、イオントラップ型ガスセルと、イオン移動度分光計(IMS:ion mobility spectrometer)と、移動部と、を備えることが望ましい。
【0047】
好適な実施形態において、対象となる被分析物イオンが四重極ロッドセット型マスフィルタMS1により選択的に透過されることが好ましく、その後、第4の真空チャンバのイオントラップ型ガスセル内で、被分析物イオンが水素−重水素交換(HDX:hydrogen-deuterium exchange)を受けることが望ましい。
【0048】
第4の真空チャンバ内に配置されるイオントラップ型ガスセルに重水素化アンモニアを導入することが望ましい。この結果、イオントラップ型ガスセルに送られた被分析物イオンが水素−重水素交換反応を受けることが望ましい。この場合、被分析物イオンがイオントラップ型ガスセルを通過する際に、被分析物イオンの表面上で又は表面において水素−重水素交換反応が生じることが望ましい。
【0049】
水素−重水素交換反応により変化した被分析物イオンは、被分析物イオンの表面立体配座と水素−重水素交換が可能な被分析物の表面上の部位の数とに応じて、質量又は質量対電荷比が高い側にシフトする。
【0050】
イオントラップ型ガスセルから出力された重水素化被分析物イオンは、次に、イオン移動度に基づいて重水素化イオンを分離するように構成されるイオン移動度分光計(IMS:ion mobility spectrometer)に送られることが望ましい。イオン移動度分光計から出力された重水素化イオンは、さらに、移動部を通過して、第4の真空チャンバの下流側に配置される第5の真空チャンバ内に位置する飛行時間型質量分析器(MS2)に送られることが望ましい。
【0051】
イオン移動度分光計をイオントラップ型ガスセルの上流側に配置し、イオン移動度に応じて被分析物イオンを時間的に分離した後に、イオントラップ型ガスセル内で被分析物イオンが水素−重水素交換を受けるようにしてもよい。
【0052】
好適な実施形態において、水素−重水素交換反応の受けやすさに関する各イオンの相対的な度合いを求めることにより、2つのイオンの表面立体配座が異なっていれば、ほぼ同じイオン移動度を有する2つのイオンを、より効果的に識別することが可能になる。
【0053】
好適な実施形態の態様を説明するために、上述したように改良型Waters Synapt(RTM)ハイブリッド四重極飛行時間型質量分析計を用いて実験データを得た。以下に実験データを詳細に説明する。
【0054】
ナノスプレーイオン源により物質Pをイオン化して、第3の真空チャンバ内に配置される四重極ロッドセット型マスフィルタMS1により質量対電荷比=450を有する3価前駆イオン又は親イオンを選択した。
【0055】
四重極ロッドセット型マスフィルタMS1により選択された質量対電荷比=450を有する物質Pの3+親イオンを、次に、第4の真空チャンバ内に位置するイオントラップ型ガスセルに送った。イオントラップ型ガスセル内で、3+親イオンは、重水素化アンモニア試薬ガスを用いた水素−重水素交換反応を受けた。重水素化アンモニアガスをイオントラップ型ガスセルに供給した。イオントラップ型ガスセルをヘリウムで約3×10-2mbarまで加圧した。付加ガス導入ニードル弁をイオントラップ型ガスセルに接続して、イオントラップ型ガスセル内に重水素化アンモニアを導入したことにより、イオントラップ型ガスセル内の圧力が3×10-2mbarから3.5×10-2mbarまで上昇した。
【0056】
イオントラップ型ガスセル内で水素−重水素交換を受けた親イオンは、次に、イオン移動度分光計に送られて、イオン移動度に従って時間的に分離された。飛行時間型質量分析器MS2により、イオン移動度分光計から出力されたイオンの質量分析を行なった。
【0057】
水素−重水素交換を受け、イオン移動度分光計によってイオン移動度に従って分離された親イオンのイオン移動度又はドリフト時間を測定することにより、物質Pの3+親イオンが2つの異なる断面積又は立体配座を有するイオンの混合物であることが明らかになった。イオン移動度分光計からの出力には、2つの異なる到達時間分布が観察される。
【0058】
図1Aに、イオン移動度分光計から出力された物質Pの重水素化されていない3+親イオンのイオン移動度クロマトグラムを示す。このイオン移動度クロマトグラムでは2つの異なるピーク(ピークA及びピークB)が観察され、これは、物質Pの親イオンが2つの異なる立体配座を持つことを意味する。好適な実施形態において、この前提に対してさらに試験を行なうことにより、確実性を高めることができる。さらに、後述するように、2つの異なる立体配座間の相違に関するより詳細な情報を取得することができる。
【0059】
図1Bに、同位体比パターンに基づいて質量スペクトルデータから7個の水素−重水素交換を受けたと考えられる物質Pの3+イオンのイオン移動度クロマトグラムを示す。このイオン移動度クロマトグラムから、2つの異なる時間に(すなわち、24ドリフト時間単位後及び34ドリフト時間単位後に)イオン移動度分光計からイオンが出力されたことがわかる。
【0060】
図1Cに、同位体比パターンに基づいて質量スペクトルデータから5個の水素−重水素交換を受けたと考えられる物質Pの3+イオンのイオン移動度クロマトグラムを示し、このクロマトグラムから、同時に(すなわち、34ドリフト時間単位後に)イオン移動度分光計からイオンが出力されたことがわかる。
【0061】
質量分析計のイオントラップ型ガスセルに重水素化アンモニア(ND3)を導入することにより、物質Pの3+親イオンの露出表面内又は露出表面上の水素原子を重水素に交換することができる。
【0062】
図2Aに、34ドリフト時間単位後にイオン移動度分光計から出力された物質Pの重水素化されていない3+イオンの質量スペクトルを示し、図2Bに、24ドリフト時間単位後にイオン移動度分光計から出力された物質Pの重水素化されていない3+イオンの対応する質量スペクトルを示す。
【0063】
図2A及び図2Bから、物質Pの重水素化されていない3+親イオンがイオン移動度分光計を通るドリフト時間が異なる2つの異なる立体配座を持つことがわかる。
【0064】
図2C及び図2Dに、イオントラップ型ガスセル内で物質Pの3+親イオンが重水素化アンモニアを用いた水素−重水交換を受けた後に得られた対応する質量スペクトルを示す。図2Cに、24ドリフト時間単位後にイオン移動度分光計から出力されたイオンに関して得られた質量スペクトルを示し、図2Dに、34ドリフト時間単位後にイオン移動度分光計から出力されたイオンに関して得られた質量スペクトルを示す。
【0065】
図2C及び図2Dと図2A及び図2Bとを比較することにより、水素−重水素交換により質量スペクトルが質量対電荷比が高い側にシフトすることがわかる。また、図2Cに示す質量スペクトルの同位体比パターンが図2Dに示す質量スペクトルの同位体比パターンと異なることも明らかである。
【0066】
以下に詳述するように、図2Dでは、さらに、質量対電荷比=459を有する付加物イオンの存在が示される。図2Cでは、付加物イオンは観察されない。
【0067】
図2Eに、物質Pの3+親イオンが5個の水素−重水素交換反応を受けた場合に観察されると予測される質量スペクトル・シミュレーションを示す。図2Fに、物質Pの3+親イオンが7個の水素−重水素交換反応を受けた場合に観察されると予測される質量スペクトル・シミュレーションを示す。
【0068】
重水素化アンモニアをイオントラップ型ガスセルに加えると、水素−重水素交換を受けた被分析物イオンの質量対電荷比が上昇した。イオン移動度分光計で重水素化イオンをイオン移動度に従って分離した後、イオン移動度分光計から溶出された重水素化イオンの質量スペクトルを得て、分析を行なった。具体的には、得られた質量スペクトルの重水素化イオンの同位体パターンのデコンボルーションを行なって、被分析物イオンの表面上に露出している異なる重水素化部位に関して相対的な交換度を求めた。好適な実施形態において、同位体パターンのデコンボルーションを用いて、イオンが有する水素−重水素交換の表面部位の数を求めることができる。
【0069】
図2Cと図2Fとを比較することにより、また、同位体比パターンの分析及び比較を行なうことにより、24ドリフト時間単位後にイオン移動度分光計から出力される物質Pのよりコンパクトな異性体3+イオンが約7個の水素−重水素交換部位を有することがわかる。同様に、図2Dと図2E及び図2Fとを比較することにより、34ドリフト時間単位後にイオン移動度分光計から出力される物質Pのよりほどけた異性体3+イオンが、7個の水素−重水素交換の活性部位を有するイオンと5個の水素−重水素交換の活性部位を有するイオンとの混合物であることがわかる。
【0070】
図3Aに、図1Aに示すピークAを構成するイオンの質量スペクトルを示し、これらのイオンがイオントラップ型ガスセル内で重水素化アンモニア(ND3)と付加物イオンを形成しないことを示す。図3Bに、図1Aに示すピークBを構成するイオンの質量スペクトルを示し、これらのイオンが付加物イオンを形成することを示す。すなわち、物質Pのイオンと重水素化アンモニア(ND3)との結合によりイオンが形成される。図1Aに示すピークBを構成するイオンは、比較的ほどけており、34ドリフト時間単位という、より長いドリフト時間を有し、5個の水素−重水素交換部位を有するイオンと7個の水素−重水素交換部位を有するイオンとの混合物である。イオンが重水素化アンモニア(ND3)と付加物イオン付加物イオンを形成するか否かを用いて、ほぼ同じイオン移動度ドリフト時間を有する2つのイオン間の識別を行なうことができる。
【0071】
図4に、質量対電荷比=452を有するイオンに相当する図3A及び図3Bに示す最も高い強度のピークに関するイオン移動度クロマトグラムと、図3Bに示す付加物イオンに相当し質量対電荷比=459を有する最も高い強度のピークに関するイオン移動度クロマトグラムと、を重ねて示す。
【0072】
図4に示すデータは、34ドリフト時間単位という、より長いイオン移動度ドリフト時間を有する物質Pのコンパクト性がより低い立体配座のイオンが重水素化アンモニア(ND3)と直接反応して、安定な重水素化アンモニウム付加物イオンを形成することを表わす。一方、24ドリフト時間単位という、より短いイオン移動度ドリフト時間を有する物質Pのコンパクト性がより高い立体配座のイオンはほとんど重水素化アンモニアと反応せず、したがって、24ドリフト時間単位後に出力される負荷物イオンの強度は非常に低い。
【0073】
所定の水素−重水素交換に関して同位体のイオン移動度ドリフト時間クロマトグラムをプロットすることにより、異なる信号プロファイルのシフトが生じ、非常に似通った断面積を有する異性体種の識別が可能になる。
【0074】
さらに、質量対電荷比=452を有する重水素化物質Pに関するイオン移動度クロマトグラムと重水素化付加物イオンに関するイオン移動度クロマトグラムとを重ねてプロットする(図4)ことにより、24ドリフト時間単位後に溶出される質量対電荷比=452を有するイオンは重水素化アンモニアと実質的に付加物イオンを形成しない一方で、34ドリフト時間単位後に溶出される質量対電荷比=452を有するイオンは重水素化アンモニアと付加物イオンを形成するというように、2つの異性体立体配座間を明確に識別することが可能になる。
【0075】
上述した実験データは、水素−重水素交換を必要とすることなく異なるイオン移動度分離ピークを観察可能な物質Pに関するものであるが、本発明の好適な実施形態において、立体配座が異なる一方でイオン移動度ドリフト時間がほぼ同一の異性体イオンを、デコンボルーションを行なって、より精度よく求めるようにしてもよい。
【0076】
以上、本発明をその好適な実施形態を参照して詳述したが、当業者には自明のことであるが、特許請求の範囲に記載される本発明の要旨を逸脱しない範囲において、形態や詳細において、種々の変形や変更が可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量分析の方法であって、
第1の装置内で第1の被分析物イオン及び第2の被分析物イオンが水素−重水素交換を受ける工程であって、前記第1の被分析物イオン及び前記第2の被分析物イオンの1つ以上の水素原子を1つ以上の重水素原子と交換することにより、第1の重水素化イオン及び第2の重水素化イオンを形成する工程と、
前記第1の装置からイオン移動度分光計に、前記第1の重水素化イオン及び前記第2の重水素化イオンを送る工程と、
第1の時間に前記イオン移動度分光計から出力される重水素化イオンの質量分析を行なって、第1の質量スペクトルデータを生成する工程と、
後の第2の時間に前記イオン移動度分光計から出力される重水素化イオンの質量分析を行なって、第2の質量スペクトルデータを生成する工程と、
前記第1の質量スペクトルデータと前記第2の質量スペクトルデータとを比較して、(i)前記第1の被分析物イオンと前記第2の被分析物イオンとの間、及び/又は、(ii)前記第1の重水素化イオンと前記第2の重水素化イオンとの間、の識別を可能にする工程と、を備える、方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法であって、
前記第1の装置から前記イオン移動度分光計に前記第1の重水素化イオン及び前記第2の重水素化イオンを送る工程が、さらに、前記イオン移動度分光計内で前記第1の重水素化イオンと前記第2の重水素化イオンとを時間的に分離する工程を備える、方法。
【請求項3】
質量分析の方法であって、
第1の被分析物イオン及び第2の被分析物イオンをイオン移動度分光計に送る工程と、
前記イオン移動度分光計から出力される前記第1の被分析物イオン及び前記第2の被分析物イオンが第1の装置内で水素−重水素交換を受ける工程であって、前記第1の被分析物イオン及び前記第2の被分析物イオンの1つ以上の水素原子を1つ以上の重水素原子と交換することにより、第1の重水素化イオン及び第2の重水素化イオンを形成する工程と、
第1の時間に前記第1の装置から出力される重水素化イオンの質量分析を行なって、第1の質量スペクトルデータを生成する工程と、
後の第2の時間に前記第1の装置から出力される重水素化イオンの質量分析を行なって、第2の質量スペクトルデータを生成する工程と、
前記第1の質量スペクトルデータと前記第2の質量スペクトルデータとを比較して、(i)前記第1の被分析物イオンと前記第2の被分析物イオンとの間、及び/又は、(ii)前記第1の重水素化イオンと前記第2の重水素化イオンとの間、の識別を可能にする工程と、を備える、方法。
【請求項4】
請求項3に記載の方法であって、
前記第1の被分析物イオン及び前記第2の被分析物イオンを前記イオン移動度分光計に送る工程が、さらに、前記イオン移動度分光計内で記第1の被分析物イオンと前記第2の被分析物イオンとを時間的に分離する工程を備える、方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法であって、
前記第1の質量スペクトルデータと前記第2の質量スペクトルデータとを比較して識別を可能にする工程が、(i)前記第1の被分析物イオンと前記第2の被分析物イオンとの間、及び/又は、(ii)前記第1の重水素化イオンと前記第2の重水素化イオンとの間、における構造特性若しくは立体配座特性の相違又は前記第1の装置内でのガスとの反応性の相違を求める工程を備える、方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法であって、
前記第1の質量スペクトルデータと前記第2の質量スペクトルデータとを比較する工程が、
(i)前記第1の被分析物イオン及び/又は前記第2の被分析物イオン内の水素原子が重水素原子に交換される度合いを求める又は概算する工程、及び/又は、
(ii)前記第1の被分析物イオン及び/又は前記第2の被分析物イオンの構造特性又は立体配座特性を求める又は概算する工程、及び/又は、
(iii)前記第1の重水素化イオン及び/又は前記第2の重水素化イオンの構造特性又は立体配座特性を求める又は概算する工程、及び/又は、
(iv)前記第1の被分析物イオン及び/又は前記第2の被分析物イオンの相対的なコンパクト性又は伸長性を求める又は概算する工程、及び/又は、
(v)前記第1の重水素化イオン及び/又は前記第2の重水素化イオンの相対的なコンパクト性又は伸長性を求める又は概算する工程、及び/又は、
(vi)前記第1の装置内で前記第1の被分析物イオン及び/又は前記第2の被分析物イオンがガスと反応して、付加物イオンを形成する度合いを求める又は概算する工程、及び/又は、
(vii)水素原子を重水素原子に交換可能な前記第1の被分析物イオン及び/又は前記第2の被分析物イオン上の表面部位の数を求める又は概算する工程、及び/又は、
(viii)前記第1の重水素化イオンに関する1つ以上の同位体パターン及び/又は1つ以上の同位体分布及び/又は1つ以上の同位体比と、前記第2の重水素化イオンに関する1つ以上の同位体パターン及び/又は1つ以上の同位体分布及び/又は1つ以上の同位体比とを比較する工程、を備える方法。
【請求項7】
前記いずれかの請求項に記載の質量分析の方法であって、
さらに、前記イオン移動度分光計及び/又は前記第1の装置の上流側にマスフィルタを設ける工程と、
実質的に同じ質量対電荷比を有する前記第1の被分析物イオンと前記第2の被分析物イオンとを選択的に透過させる一方で、異なる質量対電荷比を有する他のイオンをフィルタリング除去する又は減衰させるように前記マスフィルタを動作させる工程と、を備える方法。
【請求項8】
質量分析計であって、
第1の被分析物イオン及び第2の被分析物イオンが水素−重水素交換を受けるように配置及び構成される第1の装置であって、前記第1の被分析物イオン及び前記第2の被分析物イオンの1つ以上の水素原子を1つ以上の重水素原子と交換することにより、第1の重水素化イオン及び第2の重水素化イオンを形成する第1の装置と、
イオン移動度分光計であって、使用時に、前記第1の重水素化イオン及び前記第2の水素化イオンを前記第1の装置から前記イオン移動度分光計に送るように構成されるイオン移動度分光計と、
第1の時間に前記イオン移動度分光計から出力される重水素化イオンの質量分析を行なって、第1の質量スペクトルデータを生成すると共に、後の第2の時間に前記イオン移動度分光計から出力される重水素化イオンの質量分析を行なって、第2の質量スペクトルデータを生成するように配置及び構成される質量分析器と、
前記第1の質量スペクトルデータと前記第2の質量スペクトルデータとを比較して、(i)前記第1の被分析物イオンと前記第2の被分析物イオンとの間、及び/又は、(ii)前記第1の重水素化イオンと前記第2の重水素化イオンとの間、の識別を可能にするように配置及び構成される制御システムと、を備える質量分析計。
【請求項9】
質量分析計であって、
イオン移動度分光計であって、第1の被分析物イオン及び第2の被分析物イオンを前記イオン移動度分光計に送るように構成されるイオン移動度分光計と、
前記イオン移動度分光計から出力される前記第1の被分析物イオン及び前記第2の被分析物イオンがその内部で水素−重水素交換を受けるように配置及び構成される第1の装置であって、前記第1の被分析物イオン及び前記第2の被分析物イオンの1つ以上の水素原子を1つ以上の重水素原子と交換することにより、第1の重水素化イオン及び第2の重水素化イオンを形成する第1の装置と、
第1の時間に前記第1の装置から出力される重水素化イオンの質量分析を行なって、第1の質量スペクトルデータを生成すると共に、後の第2の時間に前記第1の装置から出力される重水素化イオンの質量分析を行なって、第2の質量スペクトルデータを生成するように配置及び構成される質量分析器と、
前記第1の質量スペクトルデータと前記第2の質量スペクトルデータとを比較して、(i)前記第1の被分析物イオンと前記第2の被分析物イオンとの間、及び/又は、(ii)前記第1の重水素化イオンと前記第2の重水素化イオンとの間、の識別を可能にするように配置及び構成される制御システムと、を備える質量分析計。
【請求項10】
請求項8又は9のいずれかに記載の質量分析計であって、
前記制御システムは、(i)前記第1の被分析物イオンと前記第2の被分析物イオンとの間、及び/又は、(ii)前記第1の重水素化イオンと前記第2の重水素化イオンとの間、における構造特性若しくは立体配座特性の相違又は前記第1の装置内でのガスとの反応性の相違を求めるように配置及び構成される、質量分析計。
【請求項11】
請求項8、9又は10のいずれかに記載の質量分析計であって、
前記制御システムは、
(i)前記第1の被分析物イオン及び/又は前記第2の被分析物イオン内の水素原子が重水素原子に交換される度合いを求める又は概算する、及び/又は、
(ii)前記第1の被分析物イオン及び/又は前記第2の被分析物イオンの構造特性又は立体配座特性を求める又は概算する、及び/又は、
(iii)前記第1の重水素化イオン及び/又は前記第2の重水素化イオンの構造特性又は立体配座特性を求める又は概算する、及び/又は、
(iv)前記第1の被分析物イオン及び/又は前記第2の被分析物イオンの相対的なコンパクト性又は伸長性を求める又は概算する、及び/又は、
(v)前記第1の重水素化イオン及び/又は前記第2の重水素化イオンの相対的なコンパクト性又は伸長性を求める又は概算する、及び/又は、
(vi)前記第1の装置内で前記第1の被分析物イオン及び/又は前記第2の被分析物イオンがガスと反応して、付加物イオンを形成する度合いを求める又は概算する、及び/又は、
(vii)水素原子を重水素原子に交換可能な前記第1の被分析物イオン及び/又は前記第2の被分析物イオン上の表面部位の数を求める又は概算する、及び/又は、
(viii)前記第1の重水素化イオンに関する1つ以上の同位体パターン及び/又は1つ以上の同位体分布及び/又は1つ以上の同位体比と、前記第2の重水素化イオンに関する1つ以上の同位体パターン及び/又は1つ以上の同位体分布及び/又は1つ以上の同位体比とを比較する、ように配置及び構成される、質量分析計。
【請求項12】
請求項8〜11のいずれか一項に記載の質量分析計であって、
前記質量分析器が、飛行時間型質量分析器を備える、質量分析計。
【請求項13】
請求項8〜12のいずれか一項に記載の質量分析計であって、
さらに、前記イオン移動度分光計及び/又は前記第1の装置の上流側に配置されるマスフィルタであって、動作モードにおいて、実質的に同じ質量対電荷比を有する前記第1の被分析物イオンと前記第2の被分析物イオンとを選択的に透過させる一方で、異なる質量対電荷比を有する他のイオンをフィルタリング除去する又は減衰させるように配置及び構成されるマスフィルタを備える、質量分析計。
【請求項14】
質量分析の方法であって、
第1の装置内で被分析物イオンが水素−重水素交換を受ける工程であって、前記被分析物イオンの1つ以上の水素原子を1つ以上の重水素原子と交換することにより、重水素化イオンを形成する工程と、
前記第1の装置からイオン移動度分光計に、前記重水素化イオンを送る工程と、
第1の時間に前記イオン移動度分光計から出力される第1の重水素化イオンの質量分析を行なって、第1の質量スペクトルデータを生成する工程と、
前記第1の質量スペクトルデータ内の1つ以上の同位体比パターンのデコンボリューションを行なって、前記第1の重水素化イオンにおいて重水素原子に交換された水素原子の数を求める又は概算する工程と、
後の第2の時間に前記イオン移動度分光計から出力される第2の重水素化イオンの質量分析を行なって、第2の質量スペクトルデータを生成する工程と、
前記第2の質量スペクトルデータ内の1つ以上の同位体比パターンのデコンボリューションを行なって、前記第2の重水素化イオンにおいて重水素原子に交換された水素原子の数を求める又は概算する工程と、を備える方法。
【請求項15】
質量分析計であって、
被分析物イオンが水素−重水素交換を受けるように配置及び構成される第1の装置であって、前記被分析物イオンの1つ以上の水素原子を1つ以上の重水素原子と交換することにより、重水素化イオンを形成する第1の装置と、
イオン移動度分光計であって、使用時に、前記重水素化イオンを前記第1の装置から前記イオン移動度分光計に送るように構成されるイオン移動度分光計と、
制御システム及び質量分析器であって、
(i)第1の時間に前記イオン移動度分光計から出力される第1の重水素化イオンの質量分析を行なって、第1の質量スペクトルデータを生成し、
(ii)前記第1の質量スペクトルデータ内の1つ以上の同位体比パターンのデコンボリューションを行なって、前記第1の重水素化イオンにおいて重水素原子に交換された水素原子の数を求め、又は、概算し、
(iii)後の第2の時間に前記イオン移動度分光計から出力される第2の重水素化イオンの質量分析を行なって、第2の質量スペクトルデータを生成し、
(iv)前記第2の質量スペクトルデータ内の1つ以上の同位体比パターンのデコンボリューションを行なって、前記第2の重水素化イオンにおいて重水素原子に交換された水素原子の数を求める又は概算する、ように配置及び構成される制御システム及び質量分析器と、を備える質量分析計。
【請求項16】
質量分析の方法であって、
第1の装置内で被分析物イオンが水素−重水素交換を受ける工程であって、前記被分析物イオンの1つ以上の水素原子を1つ以上の重水素原子と交換することにより、重水素化イオンを形成する工程と、
前記重水素化イオンの質量分析を行なって、質量スペクトルデータを生成する工程と、
前記質量スペクトルデータ内の1つ以上の同位体比パターンのデコンボリューションを行なって、重水素原子に交換された前記被分析物イオン中の水素原子の数を求める又は概算する工程と、を備える方法。
【請求項17】
質量分析計であって、
被分析物イオンが水素−重水素交換を受けるように配置及び構成される第1の装置であって、前記被分析物イオンの1つ以上の水素原子を1つ以上の重水素原子と交換することにより、重水素化イオンを形成する第1の装置と、
前記重水素化イオンの質量分析を行なって、質量スペクトルデータを生成するように配置及び構成される質量分析器と、
前記質量スペクトルデータ内の1つ以上の同位体比パターンのデコンボリューションを行なって、重水素原子に交換された前記被分析物イオン中の水素原子の数を求める又は概算するように配置及び構成される制御システムと、を備える質量分析計。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公表番号】特表2013−519974(P2013−519974A)
【公表日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−552478(P2012−552478)
【出願日】平成23年2月14日(2011.2.14)
【国際出願番号】PCT/GB2011/050273
【国際公開番号】WO2011/098833
【国際公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【出願人】(509314666)マイクロマス・ユーケイ・リミテッド (19)
【氏名又は名称原語表記】MICROMASS UK LIMITED
【Fターム(参考)】