説明

水素および酸素の製造・使用方法

【課題】製鉄所(製鉄プロセス)で副次的に発生する低品位の水蒸気を用いて、クリーンな水素および酸素を安価に製造して使用することができる水素および酸素の製造・使用方法を提供する。
【解決手段】製鉄プロセスで発生する低品位の水蒸気を加熱して高温の水蒸気とする水蒸気加熱工程Aと、前記水蒸気加熱工程で得られた高温の水蒸気を電気分解により水素と酸素に分解する水蒸気電気分解工程Bと、前記水蒸気電気分解工程で得られた水素および酸素から顕熱を回収する顕熱回収工程C1と、前記水蒸気電気分解工程で得られた水素および酸素と前記顕熱回収工程で回収した顕熱を製鉄プロセスで利用する利用工程E1とを備えていることを特徴とする水素および酸素の製造・利用方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製鉄所(製鉄プロセス)で副次的に発生する水蒸気を用いて水素および酸素を製造し使用する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
昨今の地球温暖化の問題から、石炭、石油等の化石燃料(エネルギー)に替えて、COの排出量が少ない燃料(エネルギー)の使用が急務である。CO排出量が少ないエネルギーとしては、太陽光(熱)、風力、水力、原子力等によって発電されるエネルギーがある。また、カーボンニュートラルであるバイオマス等の資源の活用もCO排出量削減には効果的である。さらに、天然ガス等のように石炭に比較して水素含有率が高いエネルギーも挙げられる。さらには、炭素を含まない水素をエネルギーとした場合、CO排出量はゼロと言える。
【0003】
製鉄所(製鉄プロセス)においては、従来石炭を鉄鉱石の還元材として使用しているが、CO削減のために、操業改善による還元材比の低減が指向されている。そして、さらなるCO排出量の低減のために、LNGなどの水素系還元材を積極的に利用する方法もとられている。
【0004】
しかし、LNGは石炭に比較して高価な還元材であり、鉄鋼製品の生産コストを押し上げてしまうという問題がある。また、高炉操業で還元材としてLNGを使用する場合、石炭に比べて、より多くの酸素を使用する必要がある。そのため、クリーンな水素および酸素を安価に製造する方法が今後重要となってきている。
【0005】
一般的に、水素の製造方法としては、次のような方法がある。
(a)電気分解、熱化学分解等により水素を直接製造する方法。
(b)石炭等を水蒸気等でガス化し、水素を製造する方法。
(c)石油精製過程発生ガスあるいは製鉄所コークス炉ガスから水素を吸着分離等により回収する方法。
【0006】
しかし、上記(b)の方法においては、石炭ガス化のために膨大なエネルギーが必要となること、石炭中の灰分が残渣として排出されるおよび石炭中には硫黄分が含まれることから脱硫などの処理が必要となり、安価にクリーンな水素を製造することができない。
【0007】
また、上記(c)の方法においては、水素は化石燃料の使用過程で発生したものであり、クリーンな水素と言えない。また、回収された水素は石油精製プロセスや製鉄プロセスで既に使用されており、その水素を石油精製プロセスや製鉄プロセス以外で使用すると、各プロセスのエネルギー収支が合わなくなり、別途代替エネルギーを導入する必要がある。
【0008】
一方、上記(a)の方法については、高温の水蒸気を利用して電気分解で水素を製造する方法として、特許文献1に記載の方法が知られている。特許文献1に記載の方法は、酸素イオン又は水素イオンが伝導する固体電解質を動作させて水蒸気を電気分解する水蒸気電解装置により水素を製造するに際して、原子炉や火力発電等の排熱やタービンの廃熱を用いて高温の水蒸気を発生させるものであり、水蒸気を固体電解質が動作する900K以上(627℃以上)の温度に昇温するようにしている。
【0009】
ここで、水(水蒸気)の電気分解反応は、次の反応式(1)で示される。
O→H+0.5O・・・・・(1)
【0010】
この反応に必要な全エネルギーはエンタルピー△Hであり、水素1モルあたり286kJである。エンタルピーは自由エネルギー△Gと、熱エネルギー△Qにより供給される必要があり、電気分解では電気エネルギーとして△Gが供給され、△Qは通常は電気分解の効率が100%以下であることに起因するジュール熱で供給される。
【0011】
この△Gと△Qの値は温度により異なり、室温付近では△Gは237kJ/mol、△Qは49kJ/molである。一方、800℃では△Gは189kJ/mol、△Qは約60kJ/molである。したがって、高温ほど、必要となる電気エネルギーは少なくてすむ。
【0012】
すなわち、特許文献1に記載の水素製造方法では、水(水蒸気)の電気分解において高温で反応をすすめるほど、自由エネルギー△Gが減少し、熱エネルギー△Qが増加するため、熱源の直接利用に有利となり、水素への転換効率が向上する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2006−307290号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
ただし、前記特許文献1に記載の水素製造方法においては、高温の水蒸気を得るために、原子炉の排熱を利用したり、化石燃料を別途燃焼させ、その高温燃焼ガスを水と熱交換させたりすることによって、高温の水蒸気を得る必要がある。
【0015】
しかし、日本において発電用の原子炉は軽水炉であり、その熱源温度は300℃程度の低温である。そこで、発電した電気により800℃まで水蒸気を再加熱する必要があり、これでは必要な△Qをほとんど電気的に与えることになる。
【0016】
一方、鉄鋼業は鉄鉱石を石炭等により還元し、鉄鋼製品を製造する産業であり、鉄鉱石還元・溶解、精練、鋼材の加熱などの高温プロセスを有する。この高温プロセスから高温の排ガスが発生し、その顕熱は電気あるいは水蒸気として回収され、製鉄プロセス内で再利用されている。例えば、転炉から発生する転炉ガスは1000℃以上であり、その顕熱はボイラー等により高温の水蒸気として回収されている。また、コークス炉で製造されたコークスの温度は1000℃であり、コークス乾式消化機(CDQ)により、高温の水蒸気として回収されている。以上のように、高温の顕熱については充分に回収され、高品位の水蒸気として利用されている。
【0017】
しかし、焼結機や鋼材の加熱炉等で発生する排ガスについては、低温の排ガスであり、それから回収される水蒸気は中低温でかつ低圧(例えば、温度が200℃以下でかつ圧力が1.55MPa以下)の低品位の水蒸気であるので、製鉄プロセス内では用途が少なかった。
【0018】
本発明は、上記のような事情に鑑みてなされたものであり、製鉄所(製鉄プロセス)で副次的に発生する低品位の水蒸気を用いて、クリーンな水素および酸素を安価に製造して使用することができる水素および酸素の製造・使用方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
前記課題を解決するために、本発明は以下の特徴を有する。
【0020】
[1]製鉄プロセスで発生する低品位の水蒸気を加熱して高温の水蒸気とする水蒸気加熱工程と、前記水蒸気加熱工程で得られた高温の水蒸気を電気分解により水素と酸素に分解する水蒸気電気分解工程と、前記水蒸気電気分解工程で得られた水素および酸素から顕熱を回収する顕熱回収工程と、前記水蒸気電気分解工程で得られた水素および酸素と前記顕熱回収工程で回収した顕熱を製鉄プロセスで利用する利用工程とを備えていることを特徴とする水素および酸素の製造・利用方法。
【0021】
[2]前記低品位の水蒸気は、温度が200℃以下でかつ圧力が1.55MPa以下の水蒸気であることを特徴とする前記[1]に記載の水素および酸素の製造・利用方法。
【0022】
[3]前記利用工程では、前記水蒸気電気分解工程で得られた水素および酸素と前記顕熱回収工程で回収した顕熱を高炉プロセスで利用することを特徴とする前記[1]または[2]に記載の水素および酸素の製造・利用方法。
【発明の効果】
【0023】
本発明においては、製鉄所(製鉄プロセス)で発生する低品位の水蒸気を用いて、安価にクリーンな水素および酸素を製造することができ、製造した水素と酸素を製鉄所(製鉄プロセス)で使用することによって、製鉄プロセスにおけるCO削減ならびにコスト低減に寄与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の一実施形態を示す図である。
【図2】本発明の実施例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。
【0026】
図1は、本発明の一実施形態における処理フローを示す図である。図1に示すように、この実施形態においては、以下のような処理工程を備えている。
【0027】
(A)製鉄所で副次的に発生し回収された200℃以下でかつ1.55MPa以下の低品位の水蒸気(製鉄所副生低品位水蒸気)を加熱して600〜1000℃程度の高温の水蒸気とする水蒸気加熱工程。
【0028】
(B)水蒸気加熱工程で得られた高温の水蒸気を電気分解して水素と酸素を製造する水蒸気電気分解工程。
【0029】
(C1)水蒸気電気分解工程で得られた水素について、その顕熱を熱交換によって回収する水素顕熱回収工程。
【0030】
(D1)水素顕熱回収工程で回収した顕熱(熱エネルギー)の内の所定量を電気エネルギーに変換する水素顕熱エネルギー変換工程。
【0031】
(E1)水素顕熱エネルギー変換工程で得られた電気エネルギーと熱エネルギーを製鉄プロセスで利用する水素顕熱エネルギー利用工程。例えば、製銑工程や製鋼工程で利用する。
【0032】
(G1)水素顕熱回収工程後の水素を製鉄プロセスで利用する水素利用工程。例えば、高炉での鉄鉱石の還元材として利用する。
【0033】
(C2)水蒸気電気分解工程で得られた酸素と電気分解されないで残った水蒸気(酸素+水蒸気)について、その顕熱を熱交換によって回収する酸素顕熱回収工程。
【0034】
(D2)酸素顕熱回収工程で回収した顕熱(熱エネルギー)の内の所定量を電気エネルギーに変換する酸素顕熱エネルギー変換工程。
【0035】
(E2)酸素顕熱エネルギー変換工程で得られた電気エネルギーと熱エネルギーを製鉄プロセスで利用する酸素顕熱エネルギー利用工程。例えば、製銑工程や製鋼工程で利用する。
【0036】
(F)酸素顕熱回収工程後に、水蒸気を含んだ酸素(酸素+水蒸気)から水蒸気を分離する水分除去工程。
【0037】
(G2)水分除去工程後の酸素を製鉄プロセスで利用する酸素利用工程。例えば、石炭を燃焼し、還元ガスを製造するのに利用する。
【0038】
ここで、水蒸気加熱工程(A)で用いられる製鉄所副生低品位水蒸気としては、焼結機で生産される焼結鉱の顕熱回収で得られる水蒸気や、鋼材の加熱に利用された加熱ガス排ガスから回収可能な水蒸気などがある。特に、焼結機において、鉄鉱石と石炭の燃焼熱で焼結させる工程で、焼結機から排出される焼結鉱は約550℃であり、その顕熱は溶銑1トンあたり約480MJである。この顕熱は充分に利用されていないので、この顕熱を有効に利用できれば好ましい。
【0039】
そして、水蒸気加熱工程(A)において、低品位の水蒸気を水蒸気電気分解工程(B)で必要となる温度(例えば、600〜1000℃)まで昇温する。昇温に必要なエネルギーは別途燃料を燃焼して与えてもよく、電気エネルギーにより加熱してもよい。また、水素顕熱エネルギー変換工程(D1)や酸素顕熱エネルギー変換工程(D2)で得られた熱エネルギーや電気エネルギーを用いて昇温してもよい。
【0040】
次に、水蒸気電気分解工程(B)において、水蒸気加熱工程(A)で得られた高温の水蒸気を電気分解(水蒸気電解)し、水素および酸素を発生させる。水蒸気が電気分解されると、水素1モルと酸素0.5モルが発生する((1)式)が、発生した水素および酸素とも電気分解での温度を保持している。水蒸気電解温度は高温ほど、自由エネルギー△Gが減少し、熱エネルギー△Qが増加するため、熱源の直接利用に有利となる。600℃で作動する中温水蒸気電解装置を用いても良く、1000℃で作動する電気分解装置を用いればさらによい。なお、中温水蒸気電解装置は、電解質としてプロトン伝導体:SrZr0.5Ce0.40.13−aを用い、電極として、水を分解するアノードには、高活性であるSm0.5Sr0.5CoOという組成の酸化物電極、また、水素発生極であるカソードにはニッケル電極と電解質の間にセレート系のプロトン伝導体の薄い層を挿入する構造を採用することにより、600℃、0.2A/cmの条件で0.3Vという低過電圧で作動する。
【0041】
ここで、具体例を以下に述べる。
【0042】
廃棄されている300℃、2967MJ/hの燃焼排ガスから図示しない熱回収装置により、200℃(1.55MPa)の481MJ/hの水蒸気182kg/hを回収し(熱回収率16.2%)、この水蒸気に151MJ/hの熱を供給し、600℃、632MJ/hの水蒸気とした。この蒸気を水蒸気電解装置に供給すると同時に1500MJ/hの電気エネルギーを加え、電解効率80%で水蒸気電解を行い、水素と酸素を得た。得られた水素および酸素(+水蒸気)は600℃で、それぞれ、182Nm/h(142MJ/h)、91+45Nm/h(122MJ/h)の顕熱を有する。このガスをそれぞれ熱交換器に導入し、熱交換後(熱回収率:約26%)、350℃(16.5MPa)で26.4kg/h(68MJ/h)の水蒸気を得る。また、得られた水素は2320MJ/hの熱量を有する。従って、投入エネルギーは481+151+1500=2132MJ/h、回収エネルギ−は68+2320=2368MJ/hとなる。
【0043】
また、上記において、水蒸気電解も含め加圧下で行うことも可能である。加圧下で行うことにより、水蒸気電解の効率も増加し、発生した水素および酸素の昇圧エネルギーも低減可能である。
【0044】
このようにして、この実施形態においては、製鉄所(製鉄プロセス)で発生する低品位の水蒸気を用いて、安価にクリーンな水素および酸素を製造することができる。そして、例えば、製造した水素を鉄鉱石の還元材として利用するとともに、製造した酸素で従来使用していた酸素を代替することによって、製鉄プロセスにおけるCO削減ならびにコスト低減に寄与することができる。
【実施例1】
【0045】
本発明の実施例を以下に示す。
【0046】
この実施例では、本発明例として、図2に示すように、焼結機で生産される焼結鉱について、コークス炉で生産されるコークスから熱回収を行うコークス乾式消火装置と同様の方式で熱回収して、中低温水蒸気を回収した。そして、得られた中低温水蒸気を加熱して高温水蒸気とし、その高温水蒸気を用いて水蒸気電解を行い、水素および酸素を製造し、得られた水素および酸素を高炉プロセスで使用した。
【0047】
なお、比較のために、焼結機で生産される焼結鉱から中低温水蒸気を回収しなかった場合を比較例とした。
【0048】
本発明例と比較例におけるそれぞれの操業条件・操業結果を表1に示す。
【0049】
【表1】

【0050】
表1に示すように、本発明例においては、比較例に比べ、172.5MJ/t−pのエネルギー削減・増回収が図れるとともに、33kg/tのCO削減が可能となった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
製鉄プロセスで発生する低品位の水蒸気を加熱して高温の水蒸気とする水蒸気加熱工程と、前記水蒸気加熱工程で得られた高温の水蒸気を電気分解により水素と酸素に分解する水蒸気電気分解工程と、前記水蒸気電気分解工程で得られた水素および酸素から顕熱を回収する顕熱回収工程と、前記水蒸気電気分解工程で得られた水素および酸素と前記顕熱回収工程で回収した顕熱を製鉄プロセスで利用する利用工程とを備えていることを特徴とする水素および酸素の製造・利用方法。
【請求項2】
前記低品位の水蒸気は、温度が200℃以下でかつ圧力が1.55MPa以下の水蒸気であることを特徴とする請求項1に記載の水素および酸素の製造・利用方法。
【請求項3】
前記利用工程では、前記水蒸気電気分解工程で得られた水素および酸素と前記顕熱回収工程で回収した顕熱を高炉プロセスで利用することを特徴とする請求項1または2に記載の水素および酸素の製造・利用方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2012−52162(P2012−52162A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−193833(P2010−193833)
【出願日】平成22年8月31日(2010.8.31)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】