説明

水素の生産方法

【課題】水素を安定して得ることができ、水素の生産効率に優れた水素の生産方法を提供する。
【解決手段】水素の生産方法は、Klebsiella oxytoca(微生物の受託番号NITE P−638)に属する新規な微生物を含む水素発生用微生物群を定着させた竹炭を原料有機物に混合し、原料有機物を分解させて水素を発生させるものである。Klebsiella oxytocaは、通性嫌気性菌である。また、水素発生用微生物群には硝化菌が含まれ、アンモニアが栄養源となる硝酸塩に変換される。さらに、原料有機物には、糖類が含まれていることが好ましい。そして、水素発生用微生物群を定着させた竹炭を原料有機物に混合し、原料有機物を分解させて水素を発生させる場合の条件としてpH3.5〜6及び温度30〜50℃であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な水素発生用微生物群により、例えば牛乳、野菜類、魚類、肉類、糞尿などの原料有機物を分解して水素を発生させる水素の生産方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
水素は燃焼によって水を生成し、地球温暖化の原因物質である二酸化炭素や一酸化炭素を生成しないため、次世代のエネルギーとして注目されている。係る水素を発生させる方法として、水の電気分解による方法が知られている。この方法では水の電気分解装置を使用し、水に導電性の塩類を添加し、陽極及び陰極間に所定の電圧を印加することにより行われる。しかしながら、水の電気分解装置は大掛かりで、費用が嵩むと共に、家庭から排出される廃棄物などの有効利用を図ることはできない。そのため、食品残渣や家畜の排泄物を利用し、微生物の作用で水素を生産する方法が提案されている(例えば、特許文献1を参照)。この水素生産方法は、有機物を原料とし、複合嫌気性微生物群の存在下に、原料を嫌気条件下において71〜79℃に加熱し、水素発酵によって水素を発生させるものである。
【特許文献1】特開2007−159534号公報(第2頁及び第3頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、特許文献1に記載されている水素の生産方法では、水素発生のピークを示す75℃付近まで加熱することにより、メタン生産菌などの水素を消費する水素資化細菌の活性を抑制しつつ水素の発生を促している。このため、加熱装置によって高温に加熱しなければならず、水素の生産効率が悪くなると共に、操作も面倒であるという問題があった。従って、加熱しなくても発生した水素が消費されず、水素が安定して得られ、水素の生産効率の良い生産方法が求められている。
【0004】
本発明は、このような従来技術に存在する問題点に着目してなされたものであり、その目的とするところは、水素を安定して得ることができ、水素の生産効率に優れた水素の生産方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の目的を達成するために、請求項1に記載の発明の水素の生産方法は、Klebsiella oxytoca(微生物の受託番号NITE P−638)に属する新規な微生物を含む水素発生用微生物群を定着させた竹炭を原料有機物に混合し、原料有機物を分解させて水素を発生させることを特徴とする。
【0006】
請求項2に記載の水素の生産方法は、請求項1に係る発明において、前記Klebsiella oxytocaは、通性嫌気性菌であることを特徴とする。
請求項3に記載の水素の生産方法は、請求項1又は請求項2に係る発明において、
前記水素発生用微生物群には、硝化菌が含まれていることを特徴とする。
【0007】
請求項4に記載の水素の生産方法は、請求項1から請求項3のいずれかに係る発明において、前記水素発生用微生物群を定着させた竹炭を原料有機物に混合し、pH3.5〜6の条件下に原料有機物を分解させて水素を発生させることを特徴とする。
【0008】
請求項5に記載の水素の生産方法は、請求項1から請求項4のいずれか1項に係る発明において、前記水素発生用微生物群を定着させた竹炭を原料有機物に混合し、30〜50℃に加熱し、原料有機物を分解させて水素を発生させることを特徴とする。
【0009】
請求項6に記載の水素の生産方法は、請求項1から請求項5のいずれか1項に係る発明において、前記原料有機物には、糖類が含まれていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、次のような効果を発揮することができる。
請求項1に係る発明の水素の生産方法では、Klebsiella oxytocaに属する新規な微生物を含む水素発生用微生物群を定着させた竹炭を原料有機物に混合し、原料有機物を分解させて水素を発生させるものである。このため、原料有機物が水素発生用微生物群の特にKlebsiella oxytocaにより発酵処理されて分解され、その際に竹炭が触媒作用及びスクリーニング(選別)作用を発現し、水素が継続して発生するものと考えられる。従って、水素を安定して得ることができ、水素の生産効率に優れている。
【0011】
請求項2に係る水素の生産方法では、Klebsiella oxytocaは通性嫌気性菌である。このため、請求項1に係る発明の効果に加えて、Klebsiella oxytocaが竹炭の嫌気性領域でその機能を十分に発揮することができると共に、竹炭の好気性領域でも生育することができる。
【0012】
請求項3に係る水素の生産方法では、水素発生用微生物群には硝化菌が含まれている。このため、請求項1又は請求項2に係る発明の効果に加えて、特にアンモニアを硝酸塩に変換させることができ、水素発生用微生物群の栄養源を得ることができる。
【0013】
請求項4に係る水素の生産方法では、水素発生用微生物群を定着させた竹炭を原料有機物に混合し、pH3.5〜6の条件下に原料有機物を分解させて水素を発生させるものである。従って、請求項1から請求項3のいずれかに係る発明の効果に加えて、水素発生用微生物群を優先的に増殖させることができ、水素の発生を促進させることができる。
【0014】
請求項5に係る水素の生産方法では、水素発生用微生物群を定着させた竹炭を原料有機物に混合し、30〜50℃に加熱し、原料有機物を分解させて水素を発生させるものである。このため、請求項1から請求項4のいずれかに係る発明の効果に加えて、水素の生産に関与する代謝物である酢酸及び酪酸の生成量を増大させることができ、ひいては水素の発生量を増大させることができる。
【0015】
請求項6に係る水素の生産方法では、原料有機物には糖類が含まれている。このため、請求項1から請求項5のいずれかに係る発明の効果に加えて、水素発生に繋がる酢酸、酪酸等を生成させることができ、水素発生量を増大させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の最良と思われる実施形態について詳細に説明する。
本実施形態における水素の生産方法は、Klebsiella oxytocaに属する新規な微生物を含む水素発生用微生物群を定着(固定化)させた竹炭を原料有機物に混合し、原料有機物を分解させて水素を発生させるものである。水素発生用微生物群は、Klebsiella oxytocaを主たる微生物とし、さらに硝化菌(独立栄養菌)等の微生物を含む微生物群を意味する。この新規なKlebsiella oxytocaは、平成20年8月25日付けで独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センターに寄託されている(微生物の受託番号NITE P−638)。
【0017】
ここで、Klebsiella oxytocaの性質(特性)について説明する。
(1)グラム陰性桿菌(大きさ:0.47μm×2.62μm)、(2)通性嫌気性菌、(3)窒素固定菌、(4)胞子形成:なし、(5)運動性:なし、(6)β−ガラクトシターゼ:+、(7)アルギニンジヒドロラーゼ:−、(8)リジデンカルボキシラーゼ:−、(9)クエン酸利用:+、(10)HS産生:−、(11)ウレアーゼ:−、(12)トリプトファンデアミナーゼ:−、(13)インドール産出:−、(14)アセトイン産出:−、(15)ゼラチナーゼ:+、(16)オキシダーゼテスト:−、(17)NO産生:+
Klebsiella oxytocaは上記のようにグラム陰性桿菌であり、係る桿菌は個々の細胞の形状が細長い棒状又は円筒状を示す細菌であり、一般に短径が0.2〜1μm、長径が1〜5μm程度で、短径と長径の比率は1.5〜5倍程度のものである。
【0018】
Klebsiella oxytocaはまた通性嫌気性菌であり、係る通性嫌気性菌は嫌気性条件下すなわち竹炭の細孔内部で下式(i)及び(ii)に示すように水素を発生する機能を発現すると共に、好気性条件下においても生育できるものである。
【0019】
2H+2e+4ATP → H+4ADP+4Pi・・・(i)
但し、ATPは原料有機物に基づくアデノシン三リン酸、ADPはアデノシン二リン酸及びPiはリン酸を表す。
【0020】
12+2HO → 2CHCOOH+4H+4CO・・・(ii)
但し、C12は糖類としてのグルコース、CHCOOHは酢酸を表す。
Klebsiella oxytocaはさらに窒素固定菌であり、該窒素固定菌は空気中の窒素(N)を下式(iii)に示すようにアンモニア(NH)に変換する機能を発現する。
【0021】
+6H+6e+12ATP→2NH+12ADP+12Pi・・・(iii)
また、硝化菌は好気性雰囲気下でアンモニアを、亜硝酸塩を経て硝酸塩に変換する機能を発現する。
【0022】
一方、竹炭は多数の貫通孔よりなる細孔を有しているものと考えられ、細孔の内部は嫌気性領域であり、細孔の表面側は好気性領域である。そのため、前記Klebsiella oxytocaは竹炭の細孔の内部でその機能を発揮することができ、硝化菌は竹炭の細孔の表面側でその機能を発揮することができる。硝化菌によって生成するリン酸塩は水素発生用微生物群の栄養源となっている。また、竹炭は微細な細孔を多く有することがメタン発酵菌の固定化を防ぎ、水素発生用微生物のみを優先的に増殖させることができる。さらに、竹炭は多数の細孔により吸着性能を有しており、アンモニア等の成分を吸着して臭気の発生を抑制する。なお、水素発生用微生物群には、発生した水素を消費するメタン発酵菌等は存在しないものと考えられる。
【0023】
水素を生産する場合、具体的には腐敗(加水分解)菌を含む竹炭に、腐敗生成物を発酵する微生物(発酵用微生物)を含有させる操作を複数回行った後、屋外に放置し、その後還元(嫌気)作用を有する微生物を加えて竹炭に定着させることにより水素発生用微生物群を調製する。得られた水素発生用微生物群を原料有機物に混合し、原料有機物を分解させて水素を発生させることにより行われる。この生産方法によれば、腐敗菌、発酵用微生物及び還元作用を有する微生物によって得られる水素発生用微生物群の機能に基づいて、原料有機物が腐敗及び発酵され、さらに分解され、十分な水素(H)ガスが発生すると同時に、発生した水素ガスが消費されることなく保持される。水素発生用微生物群は、前述のように複数の微生物により構成され、これら複数の微生物の機能が相俟って作用し、水素の発生が進行する。
【0024】
原料有機物としては、ほうれん草、キャベツ、レタス等の野菜類、さば(鯖)、さんま(秋刀魚)等の魚類、豚肉、牛肉、鶏肉等の肉類、味噌、醤油等の調味料などの食品の調理屑や食べ残し屑、牛乳、ジュース等の食品などが挙げられる。そのような原料有機物は、一般家庭や飲食店において大量に作られ、飲食されず排出された食品廃棄物である。さらに、原料有機物として、生物の糞尿、河川や海のヘドロ、家庭からの雑排水等も挙げられる。
【0025】
係る原料有機物には、炭水化物、タンパク質、脂質(油脂類)などの有機物が含まれている。炭水化物は、糖類をはじめとし、その類似構造を有する有機化合物である。基本的にはC(HO)で表される一般式を有している。タンパク質は、複数個のアミノ酸がカルボキシル基とアミノ基との間でペプチド結合を形成し、直鎖状に連なった構造を有している。脂質は脂肪酸とグリセリンのエステルなどで構成されている。
【0026】
前記竹炭は多孔質物質で、主に腐敗菌、発酵用微生物及び還元作用を有する微生物を担持する機能(微生物固定化担体としての機能)を有すると共に、原料有機物を分解、還元する際の触媒作用及びスクリーニング作用を示し、かつ原料有機物やアンモニア、アミン類、メタン類等を吸着する性質を有している。この竹炭は、破竹、真竹、モウソウ竹などの竹類を例えば600〜800℃に加熱して完全燃焼させ、炭化させることにより得られる。多孔質物質としての竹炭に、同じく多孔質物質としての木炭を混合して用いることができる。係る木炭は、ブナ、カシ、クヌギなどの木材、スギ、ヒノキなどの間伐材を竹炭と同様の条件で炭化させることにより得られる。これらの竹炭又は木炭は、平均粒子径が通常10μm〜10mm程度の粉末又は粒状として使用される。竹炭又は木炭の平均粒子径が10μm未満の場合には竹炭又は木炭の製造が難しくなり、10mmを超える場合には原料有機物に対する竹炭又は木炭の分散性が低下するため好ましくない。
【0027】
竹炭は木炭などよりも多孔性である傾向が強いが、それらの微細孔の直径は概ね1μm〜100μm程度であり、係る微細孔は通常貫通孔である。竹炭の微細孔が貫通孔であることにより、該微細孔へ腐敗菌、発酵用微生物及び還元作用を有する微生物が容易に出入りすることができると共に、原料有機物の分解物等も容易に出入りすることができる。しかも、その微細孔は大きさの異なるものが分布しており、腐敗菌、発酵用微生物、還元作用を有する微生物及び原料有機物の分解物等の大きさに対応しており、それらが微細孔へ出入り可能であり、水素発生用微生物群の機能がより一層効果的に発揮される。微細孔の直径が1μm未満の場合には微細孔に腐敗菌、発酵用微生物、還元作用を有する微生物や原料有機物の分解物等が出入りしにくくなり、一方100μmを超える場合には微細孔が大きくなって水素発生用微生物群の能力が発現しにくくなると共に、微細孔の数が少なくなって水素発生の効率が低下する。
【0028】
このように水素発生用微生物群はその多くが竹炭の微細な細孔内に固定化されると共に、他の微生物の固定化が抑制され、優先的に増殖することができるものと推測され、水素発生の増大を図ることができる。なお、活性炭等の多孔質物質は細孔が内部まで分布し、貫通していないことから、水素発生用微生物群の機能が十分に発現されず、さらに他の微生物が固定化されるため不適当である。
【0029】
続いて、腐敗菌は原料有機物を腐敗させるもので、主に竹炭の微細孔の嫌気性雰囲気下で原料有機物を腐敗(加水分解)させる機能を発揮するものである。腐敗菌は多孔質の竹炭の微細孔内に増殖しているものであることが好ましく、表面積の大きい竹炭の微細孔内で腐敗菌の働きを向上させることができる。係る腐敗菌は、竹炭を微粉末にして大気中に放置することにより多孔質の竹炭の微細孔内に増殖(発生)させることができ、増殖する腐敗菌は通常日和見菌(日和菌)である。なお、腐敗菌は、菌に応じた条件下に培養して竹炭の微細孔内に増殖させることもできる。
【0030】
腐敗菌はいわゆる悪玉菌であり、主にタンパク質を分解してアミン化合物、アンモニア、インドール、フェノールなどの腐敗生成物を生成する。この腐敗生成物は悪臭(腐敗臭)の原因物質となる。腐敗菌としては、日和見菌のほか大腸菌、ブドウ球菌、ウェルシュ菌等が挙げられる。
【0031】
次に、発酵用微生物は、原料有機物又は前記腐敗菌によって生成した腐敗生成物をさらに発酵させて分解する機能を発揮するものである。発酵用微生物は、約10族80種の有効微生物群を含み、それらを複合培養したもの(有用微生物群)である。この発酵用微生物は、光合成微生物、乳酸菌、窒素固定菌(アゾトバクタ)、菌根菌、放射菌及び酵母菌に分けられる。これらのうち、光合成微生物は嫌気性及び好気性のいずれも存在するほか、乳酸菌は嫌気性で機能する。そのほかの窒素固定菌(アゾトバクタ)、菌根菌、放射菌及び酵母菌は、いずれも好気性である。乳酸菌には、ビフィズス菌等が含まれる。有用微生物群としては、乳酸菌、光合成細菌、酵母菌、放射菌及び糸状菌を含有するものが、それらの微生物による相乗的効果を発揮することができる点から好ましい。
【0032】
発酵用微生物としては、嫌気性の発酵用微生物及び好気性の発酵用微生物のいずれでも良い。竹炭の内部はそれらの置かれる雰囲気などの条件によって嫌気性又は好気性のいずれにもなり得ることから、嫌気性の発酵用微生物及び好気性の発酵用微生物のいずれもその機能を発揮することができる。但し、竹炭の微細孔内では嫌気性雰囲気になる傾向が強いため、発酵用微生物が原料有機物の発酵を促進させるべく、嫌気性の発酵用微生物であることが好ましい。前記光合成微生物として、代表的には光合成細菌類とラン藻類とが挙げられる。この光合成微生物の作用により、嫌気性雰囲気下で有機物が分解され、発生したメタンなどがさらに分解される。また、乳酸菌は嫌気性雰囲気下で原料有機物を分解して乳酸関連物質を生成し、その乳酸関連物質をさらに分解する。発酵用微生物による原料有機物の発酵及び分解は、直接的には発酵用微生物が分泌する炭水化物分解酵素、タンパク質分解酵素、脂質分解酵素等の酵素群の機能に基づいている。
【0033】
前述のように腐敗菌は竹炭に簡単に増殖させることができ、それに発酵用微生物を加えることにより、竹炭に発酵用微生物を含有(増殖)させることができる。この操作は、発酵用微生物を竹炭の微細孔に十分に増殖させるために複数回行うことが必要であり、2〜6回行うことが好ましい。この操作を行う期間は特に制限されないが、例えば1〜2ヶ月である。
【0034】
腐敗菌が増殖した竹炭と発酵用微生物との混合割合は、質量比で1:1〜1:2程度が好ましい。この質量比が1:1未満の場合には、腐敗菌の働きに比べて発酵用微生物の働きが不足し、腐敗菌によって生成した腐敗生成物が十分に分解されない傾向を示す。一方、質量比が1:2を超える場合には、発酵用微生物に比べて腐敗菌の割合が少なくなり、腐敗菌の機能が不足して原料有機物の分解速度が遅くなる傾向を示す。
【0035】
次いで、還元作用を有する微生物は、代表的には前記発酵用微生物に対し自然界に存在する腐葉土を加えて得られるものである。自然界に存在する腐葉土には多種多様な微生物が含まれ、それらの微生物が竹炭の微細孔に保持されることにより、原料有機物の分解及び還元を促進させることができる。還元作用を有する微生物には多種多様な微生物が含まれているため、微生物の働きは複雑な発酵、改質、分解、還元などの過程を経て進行するものと考えられる。このように、雑多な微生物が混在する微生物群を利用することにより、単一な微生物を用いるよりも微生物の複合的な働きを得ることができると共に、雑菌混入があってもその影響を抑えることができる。
【0036】
水素発生用微生物群は、前述のように腐敗菌を含む竹炭に発酵用微生物を含有させる操作を複数回行った後、屋外に放置し、その後還元作用を有する微生物を竹炭に定着させることにより得られるものである。屋外に放置する期間は6ヶ月から1年間であることが好ましい。この場合、竹炭に対して腐敗菌及び発酵用微生物を十分に定着させることができる。前記還元作用を有する微生物を、腐敗菌及び発酵用微生物が増殖した竹炭に対し、例えば5〜8回程度繰返し混合することにより、還元作用を有する微生物を竹炭に定着させることができる。このようにして、竹炭に腐敗菌、発酵用微生物及び還元作用を有する微生物を定着させた水素発生用微生物群を得ることができる。すなわち、水素発生用微生物群は、Klebsiella oxytocaを主たる微生物とし、さらに硝化菌等の微生物を含む微生物群である。
【0037】
この水素発生用微生物群が原料有機物に加えられると、竹炭の細孔の内部ではKlebsiella oxytocaがその機能を発現し、原料有機物が分解されて水素が発生する。同時に、Klebsiella oxytocaによって空気中の窒素がアンモニアに変換されて固定化される。一方、竹炭の細孔の表面側では硝化菌がその機能を発現し、アンモニアがリン酸塩に変換され、生成したリン酸塩が水素発生用微生物群の栄養源となる。発生した水素は、メタン生産菌等の水素資化細菌などの微生物によって消費されることなく存在することができる。
【0038】
水素を発生させる場合、好ましくは30〜50℃、より好ましくは30〜45℃、特に好ましくは35〜40℃の温度に加熱する。加熱することにより、水素発生用微生物群の機能を高めることができ、原料有機物の分解を促進させることができ、短時間のうちに水素を発生させることができる。加熱温度が30℃未満ではこのような促進効果が得られない場合があり、50℃を超えると水素発生用微生物群による水素発生作用が向上せず、かえって熱エネルギーの無駄になって好ましくない。
【0039】
また、水素を発生させる際のpHは、好ましくは3.5〜6、より好ましくは4〜6である。pHが3.5を下回る場合又は6を上回る場合には、水素発生用微生物群の働きが低下し、水素ガスの発生量が減少する傾向を示して好ましくない。
【0040】
水素の生産方法において、前記水素発生用微生物群と、原料有機物とに加え、さらに還元作用を有する微生物を混合することにより、原料有機物の種類や状態にもよるが、その分解を促すことができる。その場合、速やかに水素を発生させることができると共に、水素の発生量を増大させ、安定した状態で水素を得ることができる。ここで、水素発生用微生物群を用いて水素を生産するに当たり、微生物の餌となる糖蜜、甘蔗糖、精製糖等の糖類(原料有機物)などを混合し、水素発生用微生物群の働きを促して水素の生産量を増加させるように構成することもできる。また、水素発生用微生物群は、一旦生成させるとそれを種菌として継続培養することができる。例えば、水素発生用微生物群を竹炭に加え、常温で放置することにより培養を行うことができる。
【0041】
具体的には、グルコース(ブドウ糖)又はラクトース(乳糖)の培地(嫌気性培地)に、前記水素発生用微生物群が固定化された竹炭を投入し、30〜50℃に加熱して発酵させることにより、培養液中に水素発生に関与する酢酸(CHCOOH)及び酪酸(CCOOH)が代謝生成物として生成する。代謝生成物としては、その他乳酸(C(OH)COOH)、エタノール(COH)、コハク酸(C(COOH))、プロピオン酸(CCOOH)等が生成する。ここで、基質としてラクトースを使用した場合の発酵時における反応(代謝反応)を以下に示す。
【0042】
122211+5HO → 4CHCOOH+4CO+8H・・・(1)
122211+HO → 2CCOOH+4CO+4H・・・(2)
122211+HO → 4C(OH)COOH・・・(3)
122211+HO → 4COH+4CO・・・(4)
122211+4CO+4H → 4C(COOH)+3HO・・・(5)
122211+4H → 4CCOOH+3HO・・・(6)
上記のように、代謝生成物が酢酸である場合には反応式(1)に示すように酢酸の2倍モルの水素が発生し、代謝生成物が酪酸である場合にも反応式(2)に示すように酪酸の2倍モルの水素が発生する。また、代謝生成物が乳酸及びエタノールである場合には、反応式(3)及び(4)に示すように水素は発生しない。さらに、代謝生成物がコハク酸及びプロピオン酸の場合には、反応式(5)及び(6)に示すように水素を消費(資化)する。
【0043】
さて、水素を生産する場合には、日和見菌等の腐敗菌を含む竹炭を調製し、そこに前記有用微生物群等の発酵用微生物を含有させる操作を複数回繰り返す。それを例えば6ヶ月間屋外に放置し、その間例えば前記有用微生物群に自然界に存在する腐葉土を加えて得られる還元作用をもつ微生物を加え、竹炭に定着させる。このような手順により、水素発生用微生物群が調製される。
【0044】
そして、得られた水素発生用微生物群を、食品残渣や糞尿等の原料有機物に混合することにより、水素発生用微生物群のもつ腐敗作用、発酵作用、続いて分解作用、竹炭のもつ触媒作用、スクリーニング作用などに基づいて、原料有機物が腐敗及び発酵され、その後分解され、水素(H)、窒素(N)、二酸化炭素(CO)などのガスが発生する。発生ガス中の水素の含有量は生成条件によって異なるが、例えば25〜40体積%に達する。
【0045】
この場合、水素発生用微生物群の作用が有効に働くと同時に、多孔質の竹炭中の微細孔はその表面積が大きく、かつ貫通孔であることから水素発生用微生物群が竹炭の微細孔に容易に出入りすることができてその機能を十分に発現することができ、原料有機物の分解が円滑に進行する。従って、未分解のアンモニア(NH)、メタン(CH)などのガスは発生しない。
【0046】
以上の実施形態によって発揮される効果について、以下にまとめて記載する。
・ 本実施形態の水素の生産方法では、Klebsiella oxytocaに属する新規な微生物を含む水素発生用微生物群を定着させた竹炭を原料有機物に混合し、原料有機物を分解させて水素を発生させるものである。このため、原料有機物が水素発生用微生物群の特にKlebsiella oxytocaにより発酵処理されて分解され、その際に竹炭が触媒作用及びスクリーニング作用を発現し、水素が継続して発生するものと考えられる。従って、多量の水素を安定して得ることができ、水素の生産効率に優れている。さらに、水素発生速度が高く、水素収率も高い。
【0047】
・ 前記Klebsiella oxytocaは通性嫌気性菌であることから、Klebsiella oxytocaが竹炭の嫌気性領域でその機能を十分に発揮することができると共に、竹炭の好気性領域でも生育することができる。
【0048】
・ 水素発生用微生物群に硝化菌が含まれていることにより、特にアンモニアを硝酸塩に変換させることができ、水素発生用微生物群の栄養源を得ることができる。この場合、アンモニア臭の発生を抑制することができる。
【0049】
・ 水素発生用微生物群を定着させた竹炭を原料有機物に混合し、pH3.5〜6の条件下に原料有機物を分解させて水素を発生させることにより、水素発生用微生物群を優先的に増殖させることができ、水素の発生を促進させることができる。
【0050】
・ 水素発生用微生物群を定着させた竹炭を原料有機物に混合し、30〜50℃に加熱し、原料有機物を分解させて水素を発生させることにより、水素の生産に関与する代謝物である酢酸及び酪酸の生成量を増大させることができ、ひいては水素の発生量を増大させることができ、短時間で多量の水素を得ることができる。
【0051】
・ 原料有機物にはグルコース、ラクトース等の糖類が含まれていることにより、水素発生に繋がる酢酸、酪酸等を生成させることができ、水素発生量を増大させることができる。
【実施例】
【0052】
以下に、実施例を挙げて前記実施形態をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
水素発生用微生物群を次のような手順で操作して調製した。まず、竹炭として、破竹、真竹などの雑竹を600〜800℃に加熱して完全燃焼させ、炭化して得られた10μm〜5mmの微粉炭を用意した。この竹炭を大気中に1日放置し、腐敗菌としての日和見菌を多孔質の竹炭の微細孔内に増殖させた。一方、嫌気性の発酵用微生物として、下記に示す有用微生物群(Effective Microorganisms)を用意した。そして、前記竹炭50gに発酵用微生物を70ml(約70g)混合した。
【0053】
有用微生物群
微生物類型 主要種
1.乳酸菌 Lactobacillus plantarum(ATCC8014)
Lactobacillus casei(ATCC7469)
Streptococcus Lactis(IFO12007)
2.光合成細菌 Rhotdopseudomonas plaustris(ATTC17001)
Rhodobacter sphaeroides(ATTC17023)
3.酵母菌 Saccharomyces cerevisiae(IFO0203)
Candida utilis(IFO0619)
4.放射菌 Steptomyces albus(ATCC3004)
Steptomyces griseus(IFO3358)
5.糸状菌 Aspergillus oryzae(IFO5770)
Mucor hiemalis(IFO8567)
6.その他 自然界に存在する有用菌群で、混合培養の過程で参画するも
ので、pH3.5以下で生存しうる有用微生物である。
【0054】
続いて、10日に1回(すなわち1ヶ月に3回)、発酵用微生物を70mlずつ追加した。その後、これを6ヶ月間屋外に放置した。これにより、竹炭が風雨に晒され、空気中に浮遊する微生物が竹炭の微細孔内に侵入し、定着した。さらに、次の6ヶ月の間に、前記発酵用微生物に自然に存在する腐葉土を加えて得られた土着有用微生物を繰返し添加した。このような手順を経て水素発生用微生物群を調製した。
【0055】
次に、上記の水素発生用微生物群500g、原料有機物としての牛乳300ml及び前記土着有用微生物200mlを2Lのペットボトルに入れて撹拌した。その後、ペットボトルのキャップを閉め、2ヶ月間放置した。そして、ペットボトル内に発生したガスについて、ガスクロマトグラフ法により成分分析を行った。その結果、水素が25.4体積%発生し、メタンは0.1体積%であった。前記水素発生用微生物群により、原料有機物である牛乳に含まれる特にタンパク質(アミノ酸がペプチド結合した高分子)が分解され、得られた分解生成物(窒素と水素の化合物)がさらに水素分と窒素分に分解されたものと推測される。
(実施例2)
前記実施例1と同様にして、前記水素発生用微生物群500g、原料有機物としての牛乳300ml及び土着有用微生物200mlを2Lのペットボトルに入れて撹拌した。その後、ペットボトルのキャップを閉め、1ヶ月間放置した。そして、ペットボトル内に発生したガスについて、ガスクロマトグラフ法により成分分析を行った。その結果、水素が31.3体積%発生した。
(実施例3)
前記実施例1同様にして、前記水素発生用微生物群500g、原料有機物としての牛乳300ml及び土着有用微生物200mlを2Lのペットボトルに入れて撹拌した。その後、ペットボトルのキャップを閉め、放置したところ、翌日にはガスが発生した。発生したガスを水の中を通してペットボトルに回収した。発生したガスは3日間で約2Lであった。得られたガスについて、ガスクロマトグラフ法により成分分析を行った。その結果、水素が38.7体積%、二酸化炭素14.2体積%、窒素40.8体積%及び酸素(アルゴンを含む)5.0体積%であった。
(実施例4)
前記実施例1の水素発生用微生物群500g及び原料有機物としての牛乳300mlを2Lのペットボトルに入れ、温度を40℃に設定し、撹拌した。その後、ペットボトルのキャップを閉め、放置したところ、数時間後にはガスが発生した。発生したガスを1L容器に回収した。発生したガスは3日間で約3Lであった。得られたガスについて、ガスクロマトグラフ法により成分分析を行った。その結果、水素が39.6体積%であった。この実施例4では、土着有用微生物を追加しなかったが、温度を40℃に上昇させたため、水素発生用微生物群と原料有機物の混合後、数時間で水素が発生した。
(実施例5)
前記実施例1の水素発生用微生物群500g、原料有機物としての尿300ml及び土着有用微生物300mlを2Lのペットボトルに入れ、温度を40℃に設定し、撹拌した。その後、ペットボトルのキャップを閉め、放置したところ、数時間後にはガスが発生した。発生したガスを1L容器に回収した。発生したガスは3日間で約4Lであった。得られたガスについて、ガスクロマトグラフ法により成分分析を行った。その結果、水素が33.5体積%、二酸化炭素27.2体積%、窒素30.3体積%及び酸素(アルゴンを含む)6.8体積%であった。なお、4日目に新しい尿を注入したところ、再び水素を発生した。この実施例5においても、温度を40℃に上昇させたため、水素発生用微生物群と原料有機物の混合後、数時間で水素が発生した。原料有機物としての尿は、予め体内で腐敗、発酵処理され、窒素化合物、水素化合物等が生成されているため、水素発生の効率が良いものと考えられる。
(実施例6)
実施例1の水素発生用微生物群が固定化された竹炭1.0gを、試験管内の下記に示す嫌気性培地(YNU嫌気性培地)15mLに投入し、発酵温度を30℃、35℃、40℃、45℃、50℃、60℃及び70℃に変化させて発酵させ、水素ガスを発生させた。そして、培養後における培地の基質残渣濃度から分解率を算出すると共に、生成した酢酸及び酪酸の濃度から水素生産量を求め、基質量で除することにより水素収率を算出した。酢酸、酪酸等の成分分析は、高速液体クロマトグラフィ(HPLC)により行った。
【0056】
YNU嫌気性培地の組成:
基質としてグルコース(glucose)又はラクトース(lactose)10g/L、カザミノ酸10g/L、酵母エキス10g/L、チオグリコール酸0.3g/L及びL−システイン0.3g/L。
【0057】
そして、発酵開始から19時間後及び48時間後における温度(℃)と基質及び代謝物の濃度(mmol/L)との関係、温度(℃)と基質の分解率(%−mol)及びガス発生量(ml)との関係、温度(℃)と基質の分解率(%−mol)及び水素の収率(mol-H2/mol-glucose)との関係を、図1〜図8に示した。図1〜図4は嫌気性培地の基質がグルコースである場合、図5〜図8は嫌気性培地の基質がラクトースである場合を示す。また、図1及び図2は19時間後の状態、図3及び図4は48時間後の状態を示す。さらに、図5及び図6は19時間後の状態、図7及び図8は48時間後の状態を示す。
【0058】
図1に示すように、基質としてグルコースを用いた場合には19時間後に30〜35℃で水素が発生しないエタノール代謝が見られた。図2に示すように、40℃では基質の分解率が100%に達すると共に、発生した水素ガス発生量は8mL近くに達した。図3に示すように、48時間後においても30℃ではエタノール代謝が見られた。図4に示すように、40℃では基質の分解率が100%に達すると共に、発生した水素ガスの収率は2.5mol-H2/mol-glucose近くに達した。
【0059】
また、図5に示すように、基質としてラクトースを用いた場合には、19時間後にエタノール代謝は見られず、40℃で水素発生に大きく寄与する酢酸が最も多量に生成し、次いで水素発生に寄与する酪酸が多量に生成した。図6に示すように、40℃では基質の分解率が80%に達すると共に、発生した水素ガス発生量は9mL近くに達した。図7に示すように、基質がラクトースの場合には48時間後にもエタノール代謝は見られず、40℃で水素発生に大きく寄与する酢酸が最も多量に生成し、30℃では水素発生に寄与する酪酸が最も多量に生成した。図8に示すように、30℃では基質の分解率が100%に達すると共に、40℃では発生した水素ガスの収率が4.5mol-H2/mol-lactose近くに達した。
【0060】
これらの結果より、発酵時の温度は30〜45℃が好ましく、35〜40℃がさらに好ましいことが明らかになった。また、嫌気性培地の基質としては、グルコースよりもラクトースが好ましい結果であった。
(実施例7)
内容量1.0Lの培養容器を使用し、ラクトース及び牛乳を基質として半回分試験を行った。すなわち、24時間毎に培養液の1/3程度を新しい培地に更新して発酵を半連続的に行った。実施例6で使用したYNU嫌気性培地に、ラクトース10g/L又は牛乳250mLの3倍希釈液を基質とし(培養液体積750mL)、該培養液に前記水素発生用微生物群を固定化した竹炭50gを添加し、2日間の発酵試験を行った。発酵条件を温度40℃、pH6.0及び撹拌速度75rpmで一定とした。そして、基質としてラクトースを用いた場合及び牛乳を用いた場合について、発酵時間(h)と代謝物濃度(mmol/L)及び水素収率(mol-H2/mol-substrate)との関係を求めた。基質としてラクトースを用いた場合の結果を図9に示し、基質として牛乳を用いた場合の結果を図10に示した。
【0061】
図9及び図10に示したように、基質がラクトース及び牛乳のいずれの場合にも酢酸及び酪酸の生成量が多いことから、水素発酵が良好に進行していることが明らかになった。また、基質として特に牛乳を用いた場合には、培地を更新した後に乳酸の生成量が増大したが、エタノールの生成量は少ない結果であった。最大水素収率は、基質がラクトースである場合には4.17mol-H2/mol-substrateであり、基質が牛乳である場合には3.99mol-H2/mol-milkであって、十分な水素収率が得られた。また、最大水素発生速度は、基質がラクトースである場合には0.93L-H2/h/Lであり、基質が牛乳である場合には0.89L-H2/h/Lであった。
(実施例8〜15)
1Lの三角フラスコに基質としてスキムミルク〔森永乳業(株)製、ドライミルクはぐくみ、VS(volatile solid)/TS(total solid)=0.97〕及び前記水素発生用微生物群を含む竹炭を投入し、全量が1Lとなるように水を加えて調整した。そして、三角フラスコを密閉した後、水温を調整した36℃のウォーターバス内に設置し、スターラーで撹拌を行った。ここで、実施例8〜11ではスキムミルクの投入量を80gとし、水素発生用微生物群を含む竹炭の投入量を変化させた。すなわち、竹炭の投入量を、実施例8では350g、実施例9では250g、実施例10では150g及び実施例11では50gとした。そして、経過日数(日)と水素発生量(mL)との関係及び経過日数(日)とpHとの関係を求めた。水素ガスの濃度は、ガスクロマトグラフ〔(株)島津製作所製、GC14B、検出器TCD、キャリアガスはアルゴン、カラムは信和化工(株)製、SHINCARBON ST、直径3mm、長さ2m〕にて測定した。経過日数(日)とガス発生量(mL)との関係を図11に示し、経過日数(日)とpHとの関係を図12に示した。
【0062】
図11に示すように、2日目までは水素ガスの発生は急激に増大したが、3日目以降は水素ガスの発生は緩やかになった。また、竹炭が多くなるほど水素ガスの発生が継続し、総水素ガス発生量も多い結果となった。図12に示すように、pHは経過日数と共に低下する傾向を示した。さらに、竹炭が最も少ない実施例11の場合にpHが最も低下したので、4日後にpHを6近く上昇させるように調整したが、pHは急に低下し、水素ガス発生量の増加にはつながらなかった。竹炭量が最も多い実施例8では、pH低下が比較的緩やかであり、そのことが水素ガス発生量の増大につながったものと考えられる。
【0063】
また、実施例12〜15では、竹炭の投入量を250gとし、スキムミルクの投入量を実施例12では20g、実施例13では40g、実施例14では80g及び実施例15では120gとした。そして、経過日数(日)とガス発生量(mL)との関係(図13)、経過日数(日)とpHとの関係(図14)及び11日後における基質投入量(g/L)とガス発生量(mL)との関係(図15)を求めた。
【0064】
図13及び図15に示すように、スキムミルクの投入量が多いほど水素ガスの発生量が多くなる結果が得られた。図14に示すように、スキムミルクの投入量が多いほどpHの低下が進む傾向が見られた。
【0065】
次に、実施例8、実施例13及び実施例14において、発生したガス(H、N、CH及びCO)の成分分析を行った。その結果を表1に示した。
【0066】
【表1】

表1に示した結果より、水素ガスの濃度は発生ガス中に20〜29%であった。なお、メタン(CH)及びアンモニア(NH)の発生は認められなかった。
【0067】
また、実施例8及び14について、基質の投入量に対する水素ガスの発生量を求めた。すなわち、実施例8では基質であるスキムミルクの投入量が80g、ガス発生量が4.37Lで水素ガス含有量が20%であるため水素ガス発生量は0.87Lであることから、基質の投入量に対する水素ガスの発生量は10.9mL/gであった。実施例14では基質であるスキムミルクの投入量が80g、ガス発生量が3.55Lで水素ガス含有量が29%であるため水素ガス発生量は1.03Lであることから、基質の投入量に対する水素ガスの発生量は12.9mL/gであった。
(実施例16、17及び比較例1、2)
前記実施例8〜15において、基質としてのスキムミルク、竹炭及び微生物培養液を次のように配合し、全量を水で0.9Lとした。実施例16ではスキムミルク72g及び竹炭225g、実施例17ではスキムミルク72g、竹炭225g及び微生物培養液270gとし、比較例1では竹炭225gのみ及び比較例2ではスキムミルク72g及び微生物培養液270gとした。そして、経過日数(日)とガス発生量(mL)との関係及び経過日数(日)とpHとの関係を求め、それぞれ図16及び17に示した。さらに、発生したガス(H、O、N、CH及びCO)の成分分析を行った。その結果を表2に示した。
【0068】
【表2】

表2に示した結果より、実施例16及び17では水素発生用微生物群を含む竹炭を用いたことから、発生した水素ガス濃度は39〜46%に達した。その一方、比較例1では基質としてのスキムミルクが含まれていなかったため、ガスの発生は見られなかった。また、比較例2では竹炭が含まれていなかったことから、発生した水素ガスの濃度が低い結果であった。
(実施例18〜21)
前記実施例16、17において、基質としてのスキムミルクを72gとし、竹炭の投入量を変化させ、全量を水で0.9Lとした。竹炭の投入量は、実施例18では315g、実施例19では225g、実施例20では135g及び実施例21では45gとした。また、培養温度を40℃に設定した。そして、経過日数(日)とガス発生量(mL)との関係及び経過日数(日)とpHとの関係を求め、それぞれ図18及び19に示した。さらに、発生したガス(H、O、N、CH、CO及びNH)の成分分析を行った。その結果を表3に示した。
【0069】
【表3】

表3に示した結果より、実施例18〜21では基質としてスキムミルク及び水素発生用微生物群を含む竹炭を所定量使用し、温度を40℃に上昇させたことから、発生したガス中の水素ガス濃度を38.3〜56.2%に高めることができた。この場合、竹炭の投入量が最も多い315gの場合(実施例18)よりも竹炭の投入量が少ない場合(実施例19〜21)の方が発生したガス中の水素ガス濃度が高くなる結果が得られた。
(実施例22)
実施例6及び7で用いた水素発生用微生物群が定着された竹炭を種々の培地に植菌した。そして、40℃、24時間培養後に形成されたコロニーから白金耳にて菌を採取し、様々な寒天培地に植菌した。これを常温にて好気性雰囲気及び嫌気性雰囲気にて培養したところ、いずれの場合にもコロニーの形成が見られた。従って、このコロニーは通性嫌気性菌であることが判明した。さらに、単離菌を電子顕微鏡で観察すると、小さな桿菌(グラム陰性桿菌)であった。そして、API20Eにより、単離菌の簡易同定を行った。その結果、尿素を分解する菌ではないこと、グルコースやラクトースだけではなく、マンニトールやセロビオース(セルロース由来の二糖)を分解するなど多種のバイオマスを分解する菌であることが推察できた。
【0070】
続いて、形成された単一コロニーを培地に植え継ぎ、単離菌を増殖させた。増殖時にガスを生成し、酢酸及び酪酸が代謝産物として確認されたことから、この単離菌は水素発生用微生物であることがわかった。
【0071】
次に、16SrNA遺伝子解析により、単離菌の系統解析を行った結果、単離菌はKlebsiella oxytocaに属する新規な微生物であることが明らかになった。
なお、前記実施形態を次のように変更して実施することも可能である。
【0072】
・ 腐敗菌を含む竹炭に発酵用微生物を含有させる操作を複数回行う際に、腐敗菌を含む竹炭を追加することもできる。
・ 還元作用を有する微生物を竹炭に定着させる際に、湿度や温度を調整して定着速度を速くするように構成することもできる。
【0073】
・ 多孔質物質として竹炭に加えて、珪藻土等を配合することもできる。
・ 腐敗菌を含む竹炭に発酵用微生物を含有させる操作を、酸素を除去した嫌気性雰囲気下、或いは不活性ガス雰囲気下に行い、腐敗処理及び発酵処理の処理効率を向上させることも可能である。
【0074】
・ 腐敗菌、発酵用微生物及び還元作用を有する微生物としては、嫌気性の微生物であることが好ましいが、好気性の微生物が含まれていても差し支えない。
・ 水素の発生を促進させるために、嫌気性微生物等の種菌を併用することも可能である。
【0075】
・ 水素発生用微生物群として、前記方法とは異なる方法で得られた桿菌、連鎖桿菌等を加えたものを使用することも可能である。
さらに、前記実施形態より把握される技術的思想について以下に記載する。
【0076】
(1) 前記Klebsiella oxytocaは、窒素固定菌であることを特徴とする請求項1に記載の水素の生産方法。このように構成した場合、請求項1に係る発明の効果に加えて、空気中の窒素をアンモニアとして容易に固定化することができる。
【0077】
(2) 前記糖類はグルコース又はラクトースであり、代謝生成物として酢酸又は酪酸が生成されるように構成されていることを特徴とする請求項6に記載の水素の生産方法。このように構成した場合、請求項6に係る発明の効果に加えて、酢酸又は酪酸の生成によって水素の発生量を増大させることができる。
【0078】
(3) 腐敗菌を含む竹炭に、腐敗生成物を発酵する微生物を含有させる操作を複数回行った後、屋外に放置し、その後還元作用を有する微生物を竹炭に定着させることにより得られる水素発生用微生物群と、原料有機物とを混合し、原料有機物を分解及び還元させて水素を発生させることを特徴とする水素の生産方法。このように構成した場合、原料有機物が腐敗菌及び発酵用微生物により腐敗、発酵処理され、腐敗、発酵処理生成物が還元作用を有する微生物によって分解及び還元され、その際に竹炭が触媒作用を発現し、水素が継続して発生するものと考えられる。従って、水素を安定して得ることができ、水素の生産効率に優れている。
【0079】
(4) 前記腐敗菌は、竹炭を微粉末にして放置することにより多孔質の竹炭の微細孔内に増殖する日和見菌であることを特徴とする上記技術的思想(3)に記載の水素の生産方法。このように構成した場合、技術的思想(3)に係る発明の効果に加えて、簡単な操作で腐敗菌を竹炭内に保持させることができる。
【0080】
(5) 前記腐敗生成物を発酵する微生物は、乳酸菌、光合成細菌、酵母菌、放射菌及び糸状菌を含有する微生物群であることを特徴とする技術的思想(3)に記載の水素の生産方法。この場合には、技術的思想(3)に係る発明の効果に加えて、多孔質の竹炭の微細孔内で嫌気性雰囲気下において、発酵用微生物が原料有機物の発酵を促進させることができる。
【0081】
(6) 前記還元作用を有する微生物は、自然の状態で存在する腐葉土中に含まれる微生物であることを特徴とする技術的思想(3)に記載の水素の生産方法。この場合には、技術的思想(3)に係る発明の効果に加えて、有効な還元作用を発現できる有用微生物により、水素の発生効率を向上させることができる。
【0082】
(7) 前記水素発生用微生物群と、原料有機物と、さらに還元作用を有する微生物とを混合し、原料有機物を分解及び還元させて水素を発生させることを特徴とする技術的思想(3)に記載の水素の生産方法。この場合、技術的思想(3)に係る発明の効果に加えて、追加される還元作用を有する微生物により還元作用がさらに高められ、一層安定した状態で水素を得ることができる。
【0083】
(8) 前記屋外に放置する期間は6ヶ月から1年間であることを特徴とする技術的思想(3)に記載の水素の生産方法。このように構成した場合、技術的思想(3)に係る発明の効果に加えて、竹炭に対して腐敗菌及び発酵用微生物を十分に定着させることができる。
【0084】
(9) 前記腐敗菌を含む竹炭に発酵用微生物を含有させる操作を2〜6回行うことを特徴とする技術的思想(3)に記載の水素の生産方法。この場合、技術的思想(3)に係る発明の効果に加えて、竹炭に発酵用微生物を十分に定着させることができる。
【0085】
(10) 前記腐敗菌、発酵用微生物及び還元作用を有する微生物は、多孔質の竹炭の微細孔内で増殖していることを特徴とする技術的思想(3)に記載の水素の生産方法。この場合、技術的思想(3)に係る発明の効果に加えて、表面積の大きい竹炭の微細孔内で腐敗菌、発酵用微生物及び還元作用を有する微生物の効果を著しく向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】実施例6で基質としてグルコースを用いた場合において、19時間後の温度と培養後の基質及び代謝物濃度との関係を示すグラフ。
【図2】実施例6で基質としてグルコースを用いた場合において、19時間後の温度とガス発生量及び分解率との関係を示すグラフ。
【図3】実施例6で基質としてグルコースを用いた場合において、48時間後の温度と培養後の基質及び代謝物濃度との関係を示すグラフ。
【図4】実施例6で基質としてグルコースを用いた場合において、48時間後の温度と水素の収率及び分解率との関係を示すグラフ。
【図5】実施例6で基質としてラクトースを用いた場合において、19時間後の温度と培養後の基質及び代謝物濃度との関係を示すグラフ。
【図6】実施例6で基質としてラクトースを用いた場合において、19時間後の温度とガス発生量及び分解率との関係を示すグラフ。
【図7】実施例6で基質としてラクトースを用いた場合において、19時間後の温度と培養後の基質及び代謝物濃度との関係を示すグラフ。
【図8】実施例6で基質としてラクトースを用いた場合において、19時間後の温度とガス発生量及び分解率との関係を示すグラフ。
【図9】実施例7で基質としてラクトースを用いた場合において、発酵時間と水素収率及び代謝物濃度との関係を示すグラフ。
【図10】実施例7で基質として牛乳を用いた場合において、発酵時間と水素収率及び代謝物濃度との関係を示すグラフ。
【図11】実施例8〜11において、経過日数とガス発生量との関係を示すグラフ。
【図12】実施例8〜11において、経過日数とpHとの関係を示すグラフ。
【図13】実施例12〜15において、経過日数とガス発生量との関係を示すグラフ。
【図14】実施例12〜15において、経過日数とpHとの関係を示すグラフ。
【図15】実施例12〜15において、基質投入量とガス発生量との関係を示すグラフ。
【図16】実施例16、17及び比較例1、2において、経過日数とガス発生量との関係を示すグラフ。
【図17】実施例16、17及び比較例1、2において、経過日数とpHとの関係を示すグラフ。
【図18】実施例18〜21において、経過日数とガス発生量との関係を示すグラフ。
【図19】実施例18〜21において、経過日数とpHとの関係を示すグラフ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Klebsiella oxytoca(微生物の受託番号NITE P−638)に属する新規な微生物を含む水素発生用微生物群を定着させた竹炭を原料有機物に混合し、原料有機物を分解させて水素を発生させることを特徴とする水素の生産方法。
【請求項2】
前記Klebsiella oxytocaは、通性嫌気性菌であることを特徴とする請求項1に記載の水素の生産方法。
【請求項3】
前記水素発生用微生物群には、硝化菌が含まれていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の水素の生産方法。
【請求項4】
前記水素発生用微生物群を定着させた竹炭を原料有機物に混合し、pH3.5〜6の条件下に原料有機物を分解させて水素を発生させることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の水素の生産方法。
【請求項5】
前記水素発生用微生物群を定着させた竹炭を原料有機物に混合し、30〜50℃に加熱し、原料有機物を分解させて水素を発生させることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の水素の生産方法。
【請求項6】
前記原料有機物には、糖類が含まれていることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の水素の生産方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2010−51306(P2010−51306A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−254908(P2008−254908)
【出願日】平成20年9月30日(2008.9.30)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2008年8月2日 NPO法人 矢作川と三河武士フォーラム発行の「第4回 みんなで地球・愛&あいち環境NPO活動ワッショイ!」に発表
【出願人】(508007042)キトー商事 株式会社 (1)
【Fターム(参考)】