説明

水素エンジンの制御装置

【課題】排気系の触媒上流側に空燃比センサを備えた水素エンジンの制御装置において、複数の空燃比センサやカバー等を設けることなく、被水による素子割れを抑制する。
【解決手段】排気通路39の三元触媒51上流側にヒータ53bを有するリニア空燃比センサ53を備えた、水素を燃料とする水素エンジン5の制御装置である。PCM3は、水温センサ59により検出されたエンジン水温Twが第1基準温度Tw1未満のときは、目標空燃比をリーン空燃比に設定する一方、第1基準温度Tw1以上且つ第2基準温度Tw2未満のときは、目標空燃比を理論空燃比又はリッチ空燃比に設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排気系の触媒上流側に素子加熱用ヒータを有する空燃比センサを備えた、水素を燃料とする水素エンジンの制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、排気通路に排気ガス中の酸素濃度を検出する空燃比センサを配設し、この空燃比センサの出力に基づいて燃焼室に供給する混合気の空燃比をフィードバック制御することが行われている。この種の空燃比センサとしては、酸素濃度に応じた起電力を出力する素子と、当該素子を加熱する素子加熱用ヒータとを有していて、エンジン始動時に素子加熱用ヒータに通電することにより、素子を速やかに活性させ、十分な起電力を確保するものが多い。
【0003】
また、エンジン始動時などには、エンジンの駆動状態は不安定なため、それに対処すべくフィードバック制御の応答性は極力良好であることが要求されるが、触媒下流側で酸素濃度を検出したのではタイムラグが大きくなって応答性のよい空燃比制御が困難なことから、空燃比センサは触媒上流側に設けられることが多い。
【0004】
しかしながら、水素エンジンを搭載した車両では、空燃比センサを触媒上流側に設けた場合には、以下のような問題がある。すなわち、水素エンジンにおいては、水素の燃焼により多量の水分が発生し、この水分により触媒上流側で空燃比センサの素子が被水するおそれがある。このように素子が被水した状態でヒータが通電されると、被水部分が温度上昇し難いため、素子の熱応力が不均一となり、素子に歪が生じて素子割れが発生するという問題がある。
【0005】
このような素子割れの発生を抑えるために、例えば、特許文献1には、触媒上流に配設され、ヒータを有する第1空燃比センサと、触媒中又は触媒下流に配設された第2空燃比センサとを備え、第1空燃比センサが所定の活性温度に達するまでは、ヒータへの通電を制限するとともに、第2空燃比センサの出力に基づいて空燃比制御を行う水素エンジンの空燃比制御装置が開示されている。
【0006】
また、素子の被水を抑制するために、素子を覆うようにカバーを設けた構造も提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−198158号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記特許文献1のもののように空燃比センサを複数用いるものや、素子を覆うようにカバーを設けたものでは、部品点数が増加するのに伴い、組立工数が増加したり、コストが上昇したりするという問題がある。
【0009】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、排気系の触媒上流側に素子加熱用ヒータを有する空燃比センサを備えた水素エンジンの制御装置において、複数の空燃比センサやカバー等を設けることなく、素子の被水による素子割れを抑制する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために本発明では、目標空燃比を制御することにより、極冷間時には、水分の発生自体を抑えるように、また極冷間時よりも高温の冷間時には、暖機を促進して発生した水分を蒸発させるようにしている。
【0011】
第1の発明は、排気系の触媒上流側に素子加熱用ヒータを有する空燃比センサを備え、水素を燃料とする水素エンジンの制御装置であって、上記エンジンに関連する温度を検出する温度検出手段と、上記温度検出手段により検出された温度に応じて、目標空燃比を設定する目標空燃比設定手段と、をさらに備え、上記目標空燃比設定手段は、上記温度検出手段により検出された温度が、第1基準温度未満の極冷間時には、目標空燃比を理論空燃比よりも大きいリーン空燃比に設定する一方、第1基準温度以上且つ当該第1基準温度よりも高い第2基準温度未満の冷間時には、目標空燃比を理論空燃比又は理論空燃比よりも小さいリッチ空燃比に設定することを特徴とするものである。
【0012】
第1の発明によれば、水素を燃料とすることから、排気系の触媒等が活性化されていない場合でも、ガソリン等に比べてエミッション性能の低下が抑えられる。
【0013】
ここで、極めて温度が低い状態で燃料として水素を用いると、排気ガス中に含まれる水分が冷やされて、排気系に設けられた空燃比センサが被水するおそれがあるが、温度検出手段により検出されたエンジンに関連する温度が第1基準温度未満の極冷間時には、目標空燃比設定手段が目標空燃比を理論空燃比よりも大きいリーン空燃比に設定するので、排気系における水分の発生が抑えられる。これにより、素子の被水が抑えられるので、素子加熱用ヒータの加熱による素子割れの発生を抑制することができる。
【0014】
一方、温度検出手段により検出された温度が第1基準温度以上且つ第2基準温度未満の冷間時には、目標空燃比設定手段が目標空燃比を理論空燃比又は理論空燃比よりも小さいリッチ空燃比に設定するので、暖機が促進されて、暖機完了までの時間が短縮される。これにより、発生した水分が蒸発して、素子の被水が抑えられるので、素子加熱用ヒータの加熱による素子割れの発生を抑制することができる。
【0015】
以上のように、検出されたエンジンに関連する温度に応じて目標空燃比を切換えることで、複数の空燃比センサやカバー等を設けることなく、素子の被水による素子割れを抑制することができる。よって、部品点数の増加を抑えて、組立工数の増加やコストの上昇を抑えることができる。
【0016】
第2の発明は、上記第1の発明において、上記エンジンは、当該エンジンにより回転駆動されて発電する発電機を有しており、リーン空燃比によるリーン運転時に、エンジンに負荷をかけるように上記発電機を制御する発電機制御手段をさらに備えていることを特徴とするものである。
【0017】
第2の発明によれば、発電機制御手段は、リーン空燃比によるリーン運転時に、発電機を発電させることによってエンジンに負荷をかけるので、排気系における水分の発生を抑えつつ、暖機完了の早期化を図ることができる。また、エンジンに負荷をかけることによってエンジンの暖機を促進するので、単純にエンジン回転数を上昇させることでエンジンの暖機を促進する場合に比べて、乗員に違和感を与えるのを抑えることができる。
【0018】
第3の発明は、上記第2の発明において、上記発電機による発電電力を充放電可能なバッテリのSOCを検出するSOC検出手段をさらに備え、上記発電機制御手段は、上記SOC検出手段により検出された上記バッテリのSOCが第1基準値以下のときは、上記発電機による発電電力を当該バッテリに充電させることを特徴とするものである。
【0019】
ところで、エンジンに関連する温度が低いときは、バッテリの温度が低いことが多い。そうして、バッテリの温度が極端に低い場合には、バッテリから大きな電力を引き出せないおそれがある。
【0020】
ここで、第3の発明によれば、発電機制御手段は、SOC検出手段により検出されたバッテリのSOCが第1基準値以下のときは、発電機による発電電力を当該バッテリに充電させるので、バッテリのSOCを高めることができる。また、このようにバッテリに電流を流すことで、バッテリの内部抵抗により熱を発生させて、バッテリを内部から暖めるのでバッテリの暖機を促進できる。
【0021】
第4の発明は、上記第3の発明において、上記発電機制御手段は、上記バッテリのSOCが、第1基準値よりも低い第2基準値に達するまで、当該バッテリの電力を用いて車両に搭載された電気部品を作動させる制御と、当該バッテリのSOCが第1基準値に達するまで、上記発電機による発電電力を当該バッテリに充電させる制御を交互に実行することを特徴とするものである。
【0022】
第4の発明によれば、SOCの第1基準値と第2基準値との間で、電気部品の作動によるバッテリの放電と発電機によるバッテリの充電とを交互に行うので、極冷間時であってもバッテリの暖機をさらに促進することができる。
【0023】
第5の発明は、上記第1〜4のいずれか1つの発明において、上記目標空燃比設定手段は、上記温度検出手段により検出された温度が、エンジンの暖機完了温度として設定された第2基準温度以上の温間時には、目標空燃比を理論空燃比よりも大きいリーン空燃比に設定することを特徴とするものである。
【0024】
第5の発明によれば、エンジンの暖機が完了したときは、目標空燃比設定手段が目標空燃比をリーン空燃比に設定するので、エミッション性能及び暖機完了後の燃費を向上させることができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明に係る水素エンジンの制御装置によれば、極冷間時には、目標空燃比設定手段が目標空燃比をリーン空燃比に設定するので、排気系における水分の発生が抑えられて素子の被水が抑えられることから、素子加熱用ヒータの加熱による素子割れの発生を抑制することができる。
【0026】
一方、冷間時には、目標空燃比設定手段が目標空燃比を理論空燃比又はリッチ空燃比に設定するので、暖機完了までの時間が短縮され、発生した水分の蒸発により素子の被水が抑えられることから、素子加熱用ヒータの加熱による素子割れの発生を抑制することができる。
【0027】
以上のように、検出されたエンジンに関連する温度に応じて目標空燃比を切換えることで、複数の空燃比センサやカバー等を設けることなく、素子の被水による素子割れを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の実施形態に係る水素エンジンの制御装置を搭載したハイブリッド車両の概略構成図である。
【図2】エンジンの運転領域を設定したエンジン制御マップの一例を示す図である。
【図3】エンジンの制御装置の概略構成図である。
【図4】リニア空燃比センサの回路図である。
【図5】極冷間始動時におけるエンジン制御のタイムチャートであり、同図(a)はエンジン水温の時間変化を、同図(b)は目標空燃比の時間変化を、同図(c)はバッテリ温度の時間変化を、同図(d)はバッテリSOCの時間変化をそれぞれ示す図である。
【図6】極冷間始動時におけるエンジン制御のタイムチャートであり、同図(a)はエンジン水温の時間変化を、同図(b)は目標空燃比の時間変化を、同図(c)はバッテリ温度の時間変化を、同図(d)はバッテリSOCの時間変化をそれぞれ示す図である。
【図7】冷間始動時におけるエンジン制御のタイムチャートであり、同図(a)はエンジン水温の時間変化を、同図(b)は目標空燃比の時間変化を、同図(c)はバッテリ温度の時間変化を、同図(d)はバッテリSOCの時間変化をそれぞれ示す図である。
【図8】温間始動時におけるエンジン制御のタイムチャートであり、同図(a)はエンジン水温の時間変化を、同図(b)は目標空燃比の時間変化を、同図(c)はバッテリ温度の時間変化を、同図(d)はバッテリSOCの時間変化をそれぞれ示す図である。
【図9】PCMの制御フローチャートである。
【図10】発電電力消費制御サブルーチンの制御内容を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0030】
図1は、本発明の実施形態に係る水素エンジンの制御装置を搭載したハイブリッド車両の概略構成図である。この車両1は、エンジン5並びに第1及び第2モータ7,9を動力源として備え、このエンジン5は発電にのみ使用して、車両1が動くための動力は全てモータ7,9に頼る所謂シリーズハイブリッド車両である。車両1は、エンジン5並びに第1及び第2モータ7,9の他に、パワートレインコントロールモジュール(PCM)3と、電流及び電圧センサ61が設けられ、第1モータ(発電機)7及び第2モータ(走行用モータ)9による発電電力を充放電可能なバッテリ11と、当該バッテリ11と第1モータ7とに接続されている第1インバータ17と、当該第1インバータ17とバッテリ11と第2モータ9とに接続されている第2インバータ19とを備えている。
【0031】
このエンジン5は、ロータリーエンジンであるとともに、使用燃料をガソリンと、ガソリンに比べて触媒未活性時における排気エミッションが少ない水素との間で選択的に切り替えて駆動可能なデュアルフューエルエンジンとされている。そうして、燃料切換スイッチ63(図3参照)の操作によって水素が選択されると、水素タンク13内の水素が水素噴射用のインジェクタ33(図3参照)に供給される一方、ガソリンが選択されると、ガソリンタンク15内のガソリンがガソリン噴射用のインジェクタ35に供給される。なお、排気エミッションとは、触媒通過後の排ガス中に含まれる有害成分(HC、CO、NOx等)のことをいう。
【0032】
エンジン5の出力軸は第1モータ7の出力軸と連結されており、第1モータ7は、エンジン5により回転駆動されて発電する。第1モータ7にて発電された交流発電電力は、第1インバータ17で直流電力に変換されてバッテリ11に充電されたり、第2インバータ19に供給されたりする。
【0033】
一方、第2インバータ19は、バッテリ11の放電により供給された直流電力や第1インバータ17から供給された直流電力を交流電力に変換して、第2モータ9へ供給するとともに、第2モータ9からの回生電力をバッテリ11に充電する。
【0034】
第2モータ9は、前後左右の4つの車輪21a,21a,21b,21bのうち左右の前輪(駆動輪)21a,21aにディファレンシャルギア23を介して連結されていて、図2に示す制御マップに従ってPCM3により制御される。すなわち、第2モータ9は、車両1の定速運転時等のように当該第2モータ9に要求される出力トルクが低い低トルク運転時や車両始動時にはバッテリ11から供給される電力により駆動され(図2の領域A)、中トルク運転時にはエンジン5により駆動される第1モータ7から供給される電力によって駆動され(図2の領域B)、急加速時等の出力トルクが高い高トルク運転時には当該第1モータ7及びバッテリ11の双方から供給される電力により駆動される(図2の領域C)。ただし、冷間始動時等にはエンジン5の暖機のため、また、バッテリ11のSOC(State Of Charge)が低いときには、例外的に、全領域(領域A、領域B及び領域C)でエンジン5を駆動させる。
【0035】
なお、SOCとはバッテリ11の充電状態を表す量であり、満充電状態をSOCが100%と表す一方、充電量がゼロの状態をSOCが0%とを表す。また、バッテリ11の開放電圧(無負荷時の電圧)とバッテリ11のSOCとは一対一の対応関係にあることから、バッテリ11の電圧及び電流を計測することによりSOCを求めることができる。
【0036】
上記エンジン5は、図3に示すように、トロコイド内周面を有する繭状のロータハウジングとサイドハウジングとに囲まれたロータ収容室(気筒)25,25に概略三角形状のロータ27,27が収容されて構成されており、その外周側には3つの作動室が区画されている。このエンジン5は、図示は省略するが、2つのロータハウジングを3つのサイドハウジングの間に挟み込むようにして一体化し、その間に形成される2つの気筒25,25にそれぞれロータ27,27を収容した2ロータタイプのものであり、図3では、その2つの気筒25,25を展開した状態で図示している。
【0037】
ロータ27は、外周の3つの頂部にそれぞれ配設されたシール部が各々ロータハウジングのトロコイド内周面に当接した状態でエキセントリックシャフト29の周りを自転しながら、当該エキセントリックシャフト29の軸心の周りに公転する。そして、ロータ27が1回転する間に、当該ロータ27の各頂部間にそれぞれ形成された作動室が周方向に移動しながら、吸気、圧縮、膨張(燃焼)及び排気の各行程を行い、これにより発生する回転力がロータ27を介してエキセントリックシャフト29から出力される。
【0038】
エンジン5の各気筒25,25には、2つの点火プラグ31,31が設けられており、この2つの点火プラグ31,31はそれぞれ、ロータハウジングの短軸近傍に配設されている一方、各気筒25,25には、水素タンク13から供給された水素を筒内に直接噴射する、2つの水素噴射用のインジェクタ33が設けられており(図3では各気筒に1つのみ示す)、2つの水素噴射用インジェクタ33はそれぞれ、ロータハウジングの長軸近傍に、エキセントリックシャフト29の軸方向に並んで配置されている。
【0039】
また、各気筒25,25には、吸気行程にある作動室に連通するように吸気通路37が連通しているとともに、排気行程にある作動室に連通するように排気通路(排気系)39が連通している。これら吸気通路37と排気通路39とは、EGR通路41で接続されており、当該EGR通路41に設けられたEGR弁43の開度を制御するEGR弁アクチュエータ45の操作により、排気通路39の排気ガスの一部が吸気通路37に還流されるようになっている。
【0040】
吸気通路37の上流側には、吸気量を検出するエアフローセンサ67とステッピングモータ等のアクチュエータ49により駆動されて吸気通路37の断面積を調節するスロットル弁47とが配設されているとともに、吸気通路37の下流側には、ガソリンタンク15から供給されるガソリンを吸気通路37内に噴射するためのガソリン噴射用のインジェクタ35が配設されている。また、排気通路39には、排気を浄化するための排気浄化触媒としての三元触媒(触媒)51が配設されている。
【0041】
この三元触媒51の上流側には排気ガス中の酸素濃度を検出するリニア空燃比センサ(空燃比センサ)53が配設されている。このリニア空燃比センサ53にはヒータ(素子加熱用ヒータ)53bが備えられており、このヒータ53bにより素子部53aを加熱して所定温度に維持するように構成されている。より詳しくは、このリニア空燃比センサ53は、図4に示すように、酸素濃度検出用素子部(素子)53aと、この素子部53aを加熱するヒータ53bと、素子部53aに対する通電及び検出信号出力のためのセンサ回路53cと、ヒータ53bへの通電のためのヒータ通電回路53dとを備えている。
【0042】
素子部53aは、ジルコニア等の酸素イオン伝導性固体電解質部材からなる一対の素子53e,53fを有している。この両素子53e,53fは、それぞれ酸素濃度比測定用電池素子53e及び酸素ポンプ素子53fとして機能するものであり、それぞれの両側面には電極層53e’,53e’,53f’,53f’が形成されている。両素子間53e,53fには、排気通路39から排気ガスを拡散層53gを介して一定の拡散速度で導入する拡散室53hが形成され、また、酸素濃度比測定用電池素子53eの片側には、一定酸素濃度(例えば大気と同程度の酸素濃度)に保たれた比較酸素濃度室53iが形成されている。また、素子部53aに接続されるセンサ回路53cは、オペアンプ53j、抵抗53k等を含み、出力端子53mから信号を出力するようになっている。
【0043】
このリニア空燃比センサ53は、具体的には次のようにして排気ガス中の酸素濃度を検出する。すなわち、両素子53e,53fを構成する酸素イオン伝導性固体電解質部材は、酸素分圧が異なる2室間に配置されたとき、その両室の酸素分圧の比に応じた酸素イオンが素子内を移動することで起電力を生じて電池として機能し、また、両電極間に電圧が印加されたときは片側から酸素を取り込んで反対側に酸素を放出する酸素ポンプとして機能する。
【0044】
そして、拡散室53h内の排気ガス中の酸素が多くなると酸素ポンプ素子53fにより拡散室53hから外部に酸素が汲み出され、拡散室53h内の排気ガス中の酸素が不足すると酸素ポンプ素子53fにより拡散室53hに外部から酸素が取り込まれて、拡散室53h内が理論空燃比相当状態に保たれるように、酸素濃度比測定用電池素子53eに生じる電圧の変化に応じオペアンプ53jを介して酸素ポンプ素子53fに加わる電圧が調節され、これに伴って酸素ポンプ素子53fに流れる電流に応じた出力が抵抗から取り出され、出力端子53mから出力される。
【0045】
これら点火プラグ31,31、EGR弁アクチュエータ45、スロットル弁47のアクチュエータ49、水素及びガソリン噴射用の各インジェクタ33,35、第1及び第2モータ7,9、第1及び第2インバータ17,19、リニア空燃比センサ53等は、制御手段としてのPCM3によって作動制御される。
【0046】
このPCM3には、本実施形態に係る制御に必要な信号として、少なくとも、車両1の速度を検出する車速センサ55、アクセル開度を検出するアクセル開度センサ57、エンジン5に関連する温度、具体的にはエンジン水温Twを検出する水温センサ(温度検出手段)59、上記電流センサ61a及び電圧センサ61b、上記燃料切換スイッチ63、バッテリ11の温度Tbatを検出するバッテリ温度センサ65、上記エアフローセンサ67、並びに、上記リニア空燃比センサ53の各出力信号が入力される。
【0047】
本実施形態における水素エンジンの制御装置においては、PCM3の制御により、水素使用時は水素噴射用インジェクタ33から水素が、ガソリン使用時はガソリン噴射用インジェクタ35からガソリンが、エンジン5に対し供給されて当該エンジン5が駆動される。また、水素使用時及びガソリン使用時のそれぞれにおいて、PCM3により空燃比制御が実行される。つまり、リニア空燃比センサ53からの出力信号に基づいて、三元触媒51の上流側の空燃比が目標空燃比となるように、スロットル開度及びエンジン回転数を制御するフィードバック制御が実行される。
【0048】
ここで、水素を燃料として用いる場合には、水素の燃焼により多量の水分が発生し、この水分により三元触媒51の上流側でリニア空燃比センサ53の素子部53aが被水するおそれがある。そうして、素子部53aが被水した状態でヒータ53bが通電されると、被水部分が温度上昇し難いため、素子部53aの熱応力が不均一となり、素子部53aに歪が生じて素子割れが発生するおそれがある。このような素子部53aの被水は、排気ガス中に含まれる水分が冷やされる、極めてエンジン5の温度が低いときほど生じやすい。また、このように極めてエンジン5の温度が低いときは三元触媒51が未活性であることから、エンジン5の温度が高いときに比べて、排気エミッションが多くなる。
【0049】
このため、本実施形態の水素エンジンの制御装置においては、リニア空燃比センサ53の素子部53aの割れ防止及び水素使用時における排気エミッションの低減化を図るために、目標空燃比を極冷間始動時、冷間始動時及び温間始動時に分けて設定する。
【0050】
より詳しくは、PCM3は、水温センサ59により検出されたエンジン水温Twが、第1基準温度Tw1未満の極冷間時には、目標空燃比を理論空燃比よりも大きいリーン空燃比に設定する一方、水温センサ59により検出されたエンジン水温Twが第1基準温度Tw1以上且つ第1基準温度Tw1よりも高い第2基準温度Tw2未満の冷間時には、目標空燃比を理論空燃比又は理論空燃比よりも小さいリッチ空燃比に設定する。さらに、PCM3は、水温センサ59により検出されたエンジン水温Twが、エンジン5の暖機完了温度として設定された第2基準温度Tw2以上のときは、目標空燃比を理論空燃比よりも大きいリーン空燃比に設定する。このことで、PCM3は、検出されたエンジン水温Twに応じて、目標空燃比を設定する目標空燃比設定手段を構成することになる。
【0051】
以下、燃料として水素が用いられる場合における、極冷間始動時、冷間始動時及び温間始動時の制御をタイムチャートを用いて説明する。
【0052】
−極冷間始動時−
図5(a)に示すように、水温センサ59により検出されたエンジン水温Twが、第1基準温度Tw1未満の極冷間時には、水温センサ59からの信号を受けたPCM3が、水素の燃焼により多量の水分が発生するのを抑えるために、図5(b)に示すように、目標空燃比をリーン空燃比に設定する。
【0053】
また、PCM3は、リーン空燃比によるリーン運転時には、エンジン5に負荷をかけるために、第1モータ7がエンジン5の駆動力によって発電するように実行指令を出力する。このことで、PCM3は、リーン空燃比によるリーン運転時に、エンジン5に負荷をかけるように第1モータ7を制御する発電機制御手段を構成することになる。このように、エンジン5に負荷をかけることで、エンジン5の暖機が促進され、図5(a)に示すように、エンジン水温Twが第1基準温度Tw1以上となる。
【0054】
そうして、エンジン水温Twが第1基準温度Tw1以上且つ第2基準温度Tw2未満の冷間時には、エンジン5の暖機をさらに促進するために、図5(b)に示すように、目標空燃比をリッチ空燃比(理論空燃比でもよい)に設定する。これにより、エンジン5の暖機が促進され、図5(a)に示すように、エンジン水温Twが第2基準温度Tw2以上となる。
【0055】
エンジン水温Twが第2基準温度Tw2以上の温間時には、エミッション性能及び暖機完了後の燃費を向上させるために、図5(b)に示すように、目標空燃比を再びリーン空燃比に設定する。
【0056】
ここで、エンジン水温Twが低いときは、バッテリ11の温度Tbatが低いことが多い。そうして、バッテリ11の温度Tbatが極端に低い場合には、バッテリ11から大きな電力を引き出せず、大電流を第2モータ9に流せなくなるおそれがある。
【0057】
このため、PCM3は、バッテリ11の内部抵抗により熱を発生させて、バッテリ11を内部から暖めるために、検出したバッテリ11のSOCが第1基準値(たとえば、10℃)未満のときは、第1モータ7による発電電力を当該バッテリ11に充電させるように構成されている。
【0058】
すなわち、図5(c)に示すように、バッテリ温度Tbatが、バッテリ11の暖機完了温度として設定された基準バッテリ温度Tbat1未満の場合、バッテリ温度センサ65からの信号を受けたPCM3が、電流センサ61a及び電圧センサ61bにより検出されたバッテリ11の電流及び電圧値に基づいて、バッテリ11のSOCを算出する。このことで、PCM3は、電流センサ61a及び電圧センサ61bと共に、バッテリのSOCを検出するSOC検出手段を構成することになる。そうして、図5(d)に示すように、バッテリ11のSOCが第1基準値SOC1以下であれば、PCM3は、第1モータ7による発電電力を第1インバータ17を介して当該バッテリ11に充電させる。
【0059】
ここで、仮にバッテリ11のSOCが第1基準値SOC1に達するまでに、バッテリ温度Tbatが基準バッテリ温度Tbat1以上に、すなわち、バッテリ11の暖機が完了すればよいが、そうでない場合に、第1モータ7による発電電力を当該バッテリ11に充電させ続ければ、バッテリ温度Tbatが許容範囲(例えば、10℃〜30℃)を超えることになる。
【0060】
このため、PCM3は、バッテリ11のSOCが、第1基準値SOC1よりも低い第2基準値SOC2に達するまで、当該バッテリ11の充電電力を用いて車両1に搭載された電気部品を作動させる制御と、当該バッテリ11のSOCが第1基準値SOC1に達するまで、第1モータ7による発電電力を当該バッテリ11に充電させる制御を交互に実行するように構成されている。
【0061】
具体的には、第1基準値SOC1に達したバッテリ11のSOCが第2基準値SOC2に達するまで、当該バッテリ11の充電電力を用いて車両1に搭載された電気部品(不図示のヒータやフロントウインドウの熱線等)を作動させる。そうして、バッテリ11のSOCが第2基準値SOC2に達すると、今度は逆に、バッテリ11のSOCがSOC1に達するまで、第1モータ7による発電電力を第1インバータ17を介して当該バッテリ11に充電させる。PCM3は、図5(c)及び(d)に示すように、このよう電気部品の作動によるバッテリ11の放電と第1モータ7によるバッテリ11の充電とを、バッテリ温度Tbatが基準バッテリ温度Tbat1以上になるまで繰り返す。
【0062】
一方、図6(a)及び図6(c)に示すように、エンジン水温Twが第1基準温度Tw1未満で、且つ、バッテリ温度Tbatが基準バッテリ温度Tbat1よりも極めて小さい場合にも、PCM3は、図6(d)に示すように、第1モータ7によるバッテリ11の充電と電気部品の作動によるバッテリ11の放電とを繰り返すが、バッテリ温度Tbatが基準バッテリ温度Tbat1以上になる前に、エンジン水温Twが第1基準温度Tw1以上になることがある。この場合には、図6(b)に示すように、目標空燃比がリッチ空燃比に設定されるので、エンジン5に負荷をかける必要がないことから、PCM3は、第1モータ7の発電が制限し、図6(d)に示すように、バッテリ温度Tbatが第1基準バッテリ温度Tbat1以上になるまで、当該バッテリ11の充電電力を放電させる。
【0063】
なお、バッテリ11の暖機が完了した後は、第1モータ7による発電電力をバッテリ11に充電させることなく電気部品に用いるので、図5(d)及び図6(d)に示すように、バッテリ11のSOCは変動しない。
【0064】
−冷間始動時−
図7(a)に示すように、水温センサ59により検出されたエンジン水温Twが、第1基準温度Tw1以上且つ第2基準温度Tw2未満の冷間時には、水温センサ59からの信号を受けたPCM3が、エンジン5の暖機を促進するために、図7(b)に示すように、目標空燃比をリッチ空燃比(理論空燃比でもよい)に設定する。
【0065】
そうして、エンジン5の暖機が促進され、図7(a)に示すように、水温センサ59により検出されたエンジン水温Twが第2基準温度Tw2以上になると、エミッション性能及び暖機完了後の燃費を向上させるために、図5(b)に示すように、目標空燃比をリーン空燃比に設定する。
【0066】
また、図7(c)に示すように、バッテリ温度Tbatが基準バッテリ温度Tbat1未満の場合、PCM3は、図7(d)の実線に示すように、バッテリ温度Tbatが第1基準バッテリ温度Tbat1以上になるまで、当該バッテリ11の充電電力を放電させる。このように、バッテリ11の内部抵抗により熱を発生させる制御を、バッテリ温度Tbatが基準バッテリ温度Tbat1以上になるまで繰り返す。なお、図7(d)の破線に示すように、バッテリ11の充電電力を放電させた後、第1モータ7による発電電力を当該バッテリ11に充電させてもよい。
【0067】
−温間始動時−
図8(a)に示すように、水温センサ59により検出されたエンジン水温Twが、第2基準温度Tw2以上の温間時には、水温センサ59からの信号を受けたPCM3が、エミッション性能及び燃費を向上させるために、図8(b)に示すように、目標空燃比をリーン空燃比に設定する。
【0068】
また、図8(c)に示すように、バッテリ温度Tbatが基準バッテリ温度Tbat1よりも僅かに低い場合、PCM3は、図8(d)の実線に示すように、バッテリ温度Tbatが第1基準バッテリ温度Tbat1以上になるまで、当該バッテリ11の充電電力を放電させる。このように、バッテリ11の内部抵抗により熱を発生させる制御を、バッテリ温度Tbatが基準バッテリ温度Tbat1以上になるまで繰り返す。なお、図8(d)の破線に示すように、バッテリ11の充電電力を放電させた後、第1モータ7による発電電力を当該バッテリ11に充電させてもよい。
【0069】
−制御装置の処理動作−
ここで、制御装置の処理動作について、図9に示すフローチャートに基づいて説明する。
【0070】
先ず、最初のステップSA1では、水温センサ59により検出されたエンジン水温Twと、燃料切換スイッチ63の操作によって選択された燃料と、車速センサ55により検出された車速と、アクセル開度センサ57により検出されたアクセル開度と、バッテリ温度センサ65により検出されたバッテリ温度Tbatと、電流センサ61aにより検出されたバッテリ11の電流及び電圧センサ61bにより検出されたバッテリ11の電圧値と、をPCM3が読み込み、しかる後にステップSA2に進む。
【0071】
次のステップSA2では、PCM3が、バッテリ11の電流及び電圧値に基づいて、バッテリ11のSOCを算出し、しかる後にステップSA3に進む。次のステップSA3では、エンジン水温Twが第2基準温度Tw2未満か否かを判定する。このステップSA3の判定がNOであるとき、すなわち温間始動であると判定されたときは、ステップSA4に進む。
【0072】
次のステップSA4では、ステップSA2で算出されたバッテリ11のSOCに基づいて、バッテリ放電走行が可能か否かを判定する。このステップSA4の判定がYESであるとき、すなわちバッテリ11から供給される電力のみにより走行が可能であると判定されたときは、ステップSA5に進み、上記図2に示す制御マップに従って制御を行い、しかる後にリターンする。一方、ステップSA4の判定がNOであるときは、ステップSA6に進む。
【0073】
次のステップSA6では、燃料切換スイッチ63の操作によって水素が選択されたか否かを判定する。このステップSA6の判定がNOであるときは、ステップSA7に進み、燃料としてガソリンを選択し、次のステップSA8で目標空燃比を理論空燃比(λ=1)に設定する。
【0074】
次のステップSA9では、三元触媒51の上流側の空燃比が理論空燃比となるように、ステップSA1で読み込んだ車速及びアクセル開度に基づいてスロットル開度及びエンジン回転数Nを決定するフィードバック制御が実行され、しかる後にステップSA10に進む。
【0075】
次のステップSA10では、ステップSA1で読み込まれたバッテリ温度Tbatが基準バッテリ温度Tbat1未満か否かを判定する。このステップSA10の判定がNOであるとき、すなわち、バッテリ11の暖機が完了しているときは、そのままリターンする。一方、ステップSA10の判定がYESであるときは、ステップSA11に進み、バッテリ11の充電電力を放電させる放電制御、又は、バッテリ11の充電電力を放電させた後、第1モータ7による発電電力を当該バッテリ11に充電させる充放電制御を実行することで、バッテリ11の暖機を行い、しかる後にリターンする。
【0076】
これに対し、ステップSA6の判定がYESであるときは、ステップSA12に進み、燃料として水素を選択し、次のステップSA15で目標空燃比をリーン空燃比(λ>1)に設定する。一方、ステップSA3の判定がYESであるときは、ステップSA13に進んで、強制的に燃料として水素を選択し、しかる後にステップSA14に進む。次のステップSA14では、エンジン水温Twが第1基準温度Tw1未満か否か、すなわち極冷間時か否かを判定する。このステップSA14の判定がYESであるときは、ステップSA15に進んで、目標空燃比をリーン空燃比(λ>1)に設定する。このように、エンジン水温Twが第1基準温度Tw1未満の場合も、エンジン水温Twが第2基準温度Tw2以上の場合も共に、水素が燃料として用いられるときには、ステップSA15で、目標空燃比をリーン空燃比に設定し、しかる後にステップSA16に進む。
【0077】
次のステップSA16では、エンジン5の運転条件が、スロットル弁47がほぼ全閉状態となっているアイドル運転か否かを判定する。このステップSA16の判定がYESであるときは、ステップSA17に進む。
【0078】
次のステップSA17では、ステップSA3と同様に、エンジン水温Twが第2基準温度Tw2未満か否かを判定する。このステップSA17の判定がYESであるとき、すなわち極冷間であると判定されたときは、ステップSA18に進んで、スロットル弁47がほぼ全閉となっている状態から、第1モータ7を発電機として機能させるトルクが得られるようなスロットル開度でアイドル回転制御を実行し、しかる後にステップSA19に進む。
【0079】
次のステップSA19では、PCM3が、第1モータ7を発電させることによってエンジン5に負荷をかけるように当該第1モータ7を制御して、エンジン5の暖機を促進し、しかる後にステップSA20に進み、後述する発電電力消費制御を行った後、リターンする。
【0080】
一方、ステップSA17の判定がNOであるとき、すなわちエンジン5の暖機が完了していると判定されたときは、ステップSA21に進んで、スロットル弁47がほぼ全閉となっている状態からスロットル弁47を全開にしてアイドル回転制御を実行し、しかる後にステップSA24に進む。
【0081】
次のステップSA24では、ステップSA1で読み込まれたバッテリ温度Tbatが基準バッテリ温度Tbat1未満か否かを判定する。このステップSA24の判定がNOであるとき、すなわち、バッテリ11の暖機が完了しているときは、そのままリターンする。一方、ステップSA24の判定がYESであるときは、ステップSA25に進み、バッテリ11を放電、又は、バッテリ11を充放電させた後リターンする。
【0082】
これに対し、ステップSA16の判定がNOであるとき、すなわちエンジン5の運転条件がアイドル運転ではないと判定されたときは、ステップSA23に進む。次のステップSA23では、三元触媒51の上流側の空燃比がリーン空燃比となるように、車速及びアクセル開度に基づいてスロットル開度及びエンジン回転数Nを決定するフィードバック制御が実行され、しかる後にステップSA24に進む。
【0083】
次のステップSA24では、バッテリ温度Tbatが基準バッテリ温度Tbat1未満か否かを判定し、このステップSA24の判定がNOであるときは、そのままリターンする。一方、ステップSA24の判定がYESであるときは、ステップSA25に進み、バッテリ11を放電、又は、バッテリ11を充放電させた後リターンする。
【0084】
一方、ステップSA14の判定がNOであるときは、ステップSA22に進んで、目標空燃比を理論空燃比(λ=1)又はリッチ空燃比(λ<1)に設定し、しかる後にステップSA23に進む。
【0085】
次のステップSA23では、三元触媒51の上流側の空燃比が理論空燃比又はリッチ空燃比となるように、目標空燃比、車速及びアクセル開度に基づいてスロットル開度及びエンジン回転数Nを決定するフィードバック制御が実行され、しかる後にステップSA24に進む。
【0086】
次のステップSA24では、バッテリ温度Tbatが基準バッテリ温度Tbat1未満か否かを判定し、このステップSA24の判定がNOであるときは、そのままリターンする。一方、ステップSA24の判定がYESであるときは、ステップSA25に進み、バッテリ11を放電、又は、バッテリ11を充放電させた後リターンする。
【0087】
次に、発電電力消費制御(ステップSA20)サブルーチンについて、図10に示すフローチャートを用いて説明する。
【0088】
先ず、最初のステップSB1では、ステップSA1で読み込まれたバッテリ温度Tbatが基準バッテリ温度Tbat1未満か否かを判定する。このステップSB1の判定がNOであるとき、すなわち、バッテリ11の暖機が完了しているときは、ステップSB2に進む。次のステップSB2では、バッテリ11の暖機が完了していることから、第1モータ7による発電電力をバッテリ11に充電させることなく電気部品に用いて、発電電力を消費し、しかる後にエンドする。
【0089】
一方、ステップSB1の判定がYESであるときは、ステップSB3に進む。次のステップSB3では、ステップSA2で算出されたバッテリ11のSOCが第1基準値SOC1以下か否かを判定する。このステップSB3の判定がYESであるときは、ステップSB4に進み、バッテリ11の暖機を促進させつつバッテリ11のSOCを高めるために、第1モータ7による発電電力を第1インバータ17を介して当該バッテリ11に充電させ、しかる後にエンドする。
【0090】
これに対し、ステップSB3の判定がNOであるとき、すなわち、バッテリ11のSOCが第1基準値SOC1よりも高いときは、ステップSB5に進み、バッテリ11の充電電力を用いて車両1に搭載された電気部品を作動させ、しかる後にステップSB6に進む。
【0091】
次のステップSB6では、電流及び電圧センサ61により検出された、充電電力を電気部品の作動に用いた後のバッテリ11の電流及び電圧値をPCM3が読み込み、次のステップSB7では、PCM3が、ステップSB6で読み込まれたバッテリ11の電流及び電圧値に基づいて、バッテリ11のSOCを算出し、しかる後にステップSB8に進む。
【0092】
次のステップSB8では、ステップSB7で算出されたバッテリ11のSOCが第2基準値SOC2以下か否かを判定する。このステップSB8の判定がYESであるときはエンドする一方、NOであるときは再びSB5に戻り、バッテリ11の充電電力を用いて車両1に搭載された電気部品を作動させる。つまり、ステップSB8の判定がYESになるまで、すなわち、バッテリ11のSOCが第2基準値SOC2以下になるまで、バッテリ11の充電電力を用いて車両1に搭載された電気部品を作動させる。
【0093】
−効果−
本実施形態によれば、水素を燃料とすることから、排気通路39の三元触媒51が活性化されていない場合でも、ガソリン等に比べてエミッション性能の低下が抑えられる。
【0094】
また、水温センサ59により検出されたエンジン水温Twが第1基準温度Tw1未満の極冷間時には、PCM3が目標空燃比をリーン空燃比に設定するので、排気通路39における水分の発生が抑えられる。これにより、素子部53aの被水が抑えられるので、ヒータ53bの加熱による素子割れの発生を抑制することができる。
【0095】
一方、水温センサ59により検出された温度が第1基準温度Tw1以上且つ第2基準温度Tw2未満の冷間時には、PCM3が目標空燃比をリッチ空燃比に設定するので、暖機が促進されて、暖機完了までの時間が短縮される。これにより、発生した水分が蒸発して、素子部53aの被水が抑えられるので、ヒータ53bの加熱による素子割れの発生を抑制することができる。
【0096】
以上のように、検出されたエンジン水温Twに応じて目標空燃比を切換えることで、複数のリニア空燃比センサやカバー等を設けることなく、素子部53aの被水による素子割れを抑制することができる。よって、部品点数の増加を抑えて、組立工数の増加やコストの上昇を抑えることができる。
【0097】
さらに、PCM3は、リーン空燃比によるリーン運転時には、第1モータ7を発電させることによってエンジン5に負荷をかけるので、排気通路39における水分の発生を抑えつつ、暖機完了の早期化を図ることができる。また、エンジン5に負荷をかけることによってエンジン5の暖機を促進するので、単純にエンジン回転数を上昇させることでエンジン5の暖機を促進する場合に比べて、乗員に違和感を与えるのを抑えることができる。
【0098】
さらに、PCM3は、バッテリ11のSOCが第1基準値SOC1以下のときは、第1モータ7による発電電力を当該バッテリ11に充電させるので、バッテリ11のSOCを高めることができる。また、このようにバッテリ11に電流を流すことで、バッテリ11の内部抵抗により熱を発生させて、バッテリ11を内部から暖めるのでバッテリ11の暖機を促進できる。
【0099】
また、PCM3は、SOCの第1基準値SOC1と第2基準値SOC2との間で、電気部品の作動によるバッテリ11の放電と第1モータ7によるバッテリ11の充電とを交互に行うので、極冷間時であってもバッテリ11の暖機をさらに促進することができる。
【0100】
さらに、エンジン5の暖機が完了したときは、PCM3が目標空燃比をリーン空燃比に設定するので、エミッション性能及び暖機完了後の燃費を向上させることができる。
【0101】
(その他の実施形態)
本発明は、実施形態に限定されず、その精神又は主要な特徴から逸脱することなく他の色々な形で実施することができる。
【0102】
上記実施形態では、車両1を、使用燃料をガソリンと水素との間で選択的に切り替えて駆動可能なデュアルフューエルエンジンを搭載したハイブリッド車両としたが、これに限らず、水素を燃料とするエンジンである限り、単にロータリーエンジンを搭載した車両としてもよい。
【0103】
また、上記実施形態では、バッテリ温度Tbat1の許容範囲として、10℃〜30℃を例示したが、これに限らず、バッテリの容量等に合わせて適宜決定してもよい。
【0104】
このように、上述の実施形態はあらゆる点で単なる例示に過ぎず、限定的に解釈してはならない。さらに、特許請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本発明の範囲内のものである。
【産業上の利用可能性】
【0105】
以上説明したように、本発明は、排気系の触媒上流側に素子加熱用ヒータを有する空燃比センサを備えた、水素を燃料とする水素エンジンの制御装置等について有用である。
【符号の説明】
【0106】
1 車両
3 PCM(目標空燃比設定手段)(発電機制御手段)(SOC検出手段)
5 エンジン(水素エンジン)
7 第1モータ(発電機)
11 バッテリ
39 排気通路(排気系)
51 三元触媒(触媒)
53 リニア空燃比センサ(空燃比センサ)
53b ヒータ(素子加熱用ヒータ)
59 水温センサ(温度検出手段)
61a 電流センサ(SOC検出手段)
61b 電圧センサ(SOC検出手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
排気系の触媒上流側に素子加熱用ヒータを有する空燃比センサを備え、水素を燃料とする水素エンジンの制御装置であって、
上記エンジンに関連する温度を検出する温度検出手段と、
上記温度検出手段により検出された温度に応じて、目標空燃比を設定する目標空燃比設定手段と、をさらに備え、
上記目標空燃比設定手段は、上記温度検出手段により検出された温度が、第1基準温度未満の極冷間時には、目標空燃比を理論空燃比よりも大きいリーン空燃比に設定する一方、第1基準温度以上且つ当該第1基準温度よりも高い第2基準温度未満の冷間時には、目標空燃比を理論空燃比又は理論空燃比よりも小さいリッチ空燃比に設定することを特徴とする水素エンジンの制御装置。
【請求項2】
請求項1記載の水素エンジンの制御装置において、
上記エンジンは、当該エンジンにより回転駆動されて発電する発電機を有しており、
リーン空燃比によるリーン運転時に、エンジンに負荷をかけるように上記発電機を制御する発電機制御手段をさらに備えていることを特徴とする水素エンジンの制御装置。
【請求項3】
請求項2記載の水素エンジンの制御装置において、
上記発電機による発電電力を充放電可能なバッテリのSOCを検出するSOC検出手段をさらに備え、
上記発電機制御手段は、上記SOC検出手段により検出された上記バッテリのSOCが第1基準値以下のときは、上記発電機による発電電力を当該バッテリに充電させることを特徴とする水素エンジンの制御装置。
【請求項4】
請求項3記載の水素エンジンの制御装置において、
上記発電機制御手段は、上記バッテリのSOCが、第1基準値よりも低い第2基準値に達するまで、当該バッテリの電力を用いて車両に搭載された電気部品を作動させる制御と、当該バッテリのSOCが第1基準値に達するまで、上記発電機による発電電力を当該バッテリに充電させる制御を交互に実行することを特徴とする水素エンジンの制御装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1つに記載の水素エンジンの制御装置において、
上記目標空燃比設定手段は、上記温度検出手段により検出された温度が、エンジンの暖機完了温度として設定された第2基準温度以上の温間時には、目標空燃比を理論空燃比よりも大きいリーン空燃比に設定することを特徴とする水素エンジンの制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−47282(P2011−47282A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−193990(P2009−193990)
【出願日】平成21年8月25日(2009.8.25)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】