説明

水素ガスセンサ及び水素ガスセンサの製造方法

【課題】室温で動作し水素ガスに対する応答速度が速い水素ガスセンサ及びその製造方法を提供する。
【解決手段】水素ガスの検知部となる酸化タングステン膜2と、前記酸化タングステン膜2の前記水素ガスと接触する側の面に設けられた一対の電極3と、前記酸化タングステン膜2の前記水素ガスと接触する側の面に間隔をあけて設けられ前記水素ガスを解離する触媒となる金属微粒子4とを有する水素ガスセンサとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素ガスを触媒により解離し解離された水素イオンによって検知膜の電気抵抗が低下する特性を利用した水素ガスセンサ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、燃料電池の発達と共に水素化社会が予想されている。水素ガスは、多量に存在し容易に手に入る反面、引火点が低く爆発の危険性がある。このような危険性を持つ水素ガスの漏洩を検出する水素ガスセンサは、接触燃焼式や酸化物半導体式などが現在主流である。しかしながら、いずれの水素ガスセンサもセンサ部を300〜500℃程度に加熱し、感度を高めることが必要なため、水素ガスセンサの爆発の危険性が高まってしまうという問題がある。また、上記水素ガスセンサは水素のみならず、メタンや一酸化炭素などの水素以外の還元性ガスにも反応しまうといった特徴を持っており、ガス選択性に乏しいという問題もある。
【0003】
このような問題を解決するために、酸化タングステンを検知材料として用い、ガス選択性を高めた水素ガスセンサや(特許文献1参照)、水素ガスにより電気抵抗を上昇又は下降させることで水素ガスの漏洩を検知する水素ガスセンサ(特許文献2参照)などが挙げられる。
【0004】
しかしながら、特許文献1や特許文献2の水素ガスセンサは室温での動作が可能なものの、水素ガスが接触してから電極に到達し電気抵抗の変化を検知するまでに数秒〜十数秒かかる、すなわち、応答速度が遅いため、より応答速度の速い水素ガスセンサが望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭60−211347号公報
【特許文献2】特開2006−112894号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このような事情に鑑み、室温で動作し水素ガスに対する応答速度が速い水素ガスセンサ及びその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決する本発明の態様は、水素ガスの検知部となる酸化タングステン膜と、前記酸化タングステン膜の前記水素ガスと接触する側の面に設けられた一対の電極と、前記酸化タングステン膜の前記水素ガスと接触する側の面に間隔をあけて設けられ前記水素ガスを解離する触媒となる金属微粒子とを有することを特徴とする水素ガスセンサにある。
【0008】
前記金属微粒子は、前記一対の電極の各電極の間に設けられていることが好ましい。
【0009】
前記金属微粒子が、白金、パラジウム、または、白金及びパラジウムの少なくとも一方を含む合金からなる微粒子であってもよい。
【0010】
また、前記金属微粒子が、同軸型真空アーク蒸着源を備えた蒸着装置を用いて形成されたものであることが好ましい。
【0011】
本発明の他の態様は、水素ガスの検知部となる酸化タングステン膜を形成する工程と、同軸型真空アーク蒸着源を備えた蒸着装置を用いて、前記酸化タングステン膜の前記水素ガスと接触する側の面に間隔をあけて前記水素ガスを解離する触媒となる金属微粒子を形成する工程と、前記酸化タングステン膜の前記水素ガスと接触する側の面に一対の電極を形成する工程とを有することを特徴とする水素ガスセンサの製造方法にある。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、酸化タングステン膜の水素ガスと接触する側の面に、一対の電極と間隔をあけた金属微粒子とを形成することにより、応答速度の速い水素センサとなる。また、同軸型真空アーク蒸着源を備えた蒸着装置を用いることにより、上記水素センサを容易に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の水素ガスセンサの構成を示す図である。
【図2】本発明で用いる同軸型真空アーク蒸着源を備えた蒸着装置の一構成例を模式的に示す図である。
【図3】同軸型真空アーク蒸着源を備えた蒸着装置を用いて金属微粒子を形成した状態を観察したTEM写真である。
【図4】比較例の水素ガスセンサの構成を示す図である。
【図5】使用例の電流値の測定系を示す図である。
【図6】使用例の結果を示す図である。
【図7】使用例の結果を示す拡大図である。
【図8】使用例の結果を示す図である。
【図9】従来技術にかかる水素ガスセンサの構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の水素ガスセンサは、水素ガスの検知部となる酸化タングステン膜と、酸化タングステン膜の水素ガスと接触する側の面に設けられた一対の電極と、酸化タングステン膜の水素ガスと接触する側の面に間隔をあけて設けられ水素ガスを解離する触媒となる金属微粒子とを有する。具体的には、例えば図1に示すように、絶縁体基板1上に設けられた酸化タングステン膜2上に、一対の電極3が間隔をあけて設けられている。そして、酸化タングステン膜2上には、触媒となる複数の金属微粒子4が間隔をあけて設けられている。
【0015】
このような水素ガスセンサでは、水素ガス(分子)が金属微粒子4に接触することにより解離し、該解離した水素イオンが酸化タングステン膜2中に拡散し酸化タングステンと反応することにより酸化タングステン膜2の電気抵抗が低下する。したがって、酸化タングステン膜2の電気抵抗の変化をみることで、水素ガスの存在を検知することができる。なお、これらの反応は室温でも生じるため、該水素センサは室温で動作することができる。
【0016】
絶縁体基板1に特に限定はないが、ガラス基板、シリコン基板等が挙げられる。
【0017】
水素ガスの検知部となる酸化タングステン膜2は、アモルファスの酸化タングステンでも、結晶化した酸化タングステンでもよい。また、感度を向上させること等を目的として、酸化タングステン以外の金属等が添加されていてもよい。ここで、本発明においては、酸化タングステンは、膜状であり、酸化タングステンの微粒子の集合体ではない。なお、水素ガスの検知部である酸化タングステンが微粒子の集合体であると応答速度が遅くなる。また、酸化タングステン膜2の厚さに特に限定はなく、例えば、10〜1000nm程度である。
【0018】
酸化タングステン膜2上には、酸化タングステン膜2の電気抵抗を測定するための一対の電極3が設けられている。電極3は、酸化タングステン膜2の電気抵抗を測定できるように間隔をあけて設けられていればよく、形状や設ける位置に制限はないが、例えば、一対の矩形の電極3を、酸化タングステン膜2表面の両端を覆うように平行に配置してもよい。
【0019】
電極3の材質は、通常の水素ガスセンサの電極と同様の金属材料でよく、例えば、アルミニウム、クロム等が挙げられる。なお、電極3として、白金等の水素ガスに対して触媒作用を有する金属材料を用いると、抵抗値に影響を与えるため、アルミニウム等の触媒作用のない金属材料を電極材料とすることが好ましい。
【0020】
また、酸化タングステン膜2上には、水素ガスを解離して水素イオンを生成する触媒として、電極3の間に複数の金属微粒子4が間隔をあけて設けられている。金属微粒子4は、間隔をあけて設けられていればよく、例えば、金属微粒子4が互いに接しないように設けられていてもよく、また、ほとんどの金属微粒子4が互いに接しないが一部の金属微粒子4が互いに接していてもよい。各金属微粒子4の間隔(最近接の金属微粒子4の中心間の距離)には特に限定はないが、酸化タングステン膜2の厚さの2倍よりも狭いことが好ましい。金属微粒子4の間隔が狭いほど応答速度を早くすることができ、例えば、2nm超10nm以下程度にすることができる。なお、図1においては、金属微粒子4が2つの電極3の間に設けられているものを示したが、これに限定されず、金属微粒子4は、酸化タングステン膜2上の、抵抗の低下が検出できる領域に設けられていればよい。ただし、電極3の間に金属微粒子4を設けたほうが、水素ガスセンサの応答速度や感度がよいので好ましい。
【0021】
金属微粒子4は、水素ガスが接触して水素イオンを解離する触媒作用を有する金属からなる微粒子であればよく、白金、パラジウム、または、白金及びパラジウムの少なくとも一方を含む合金からなる微粒子が挙げられる。合金を形成する金属としては、例えば、イリジウム、ニッケル等が挙げられる。なお、酸化した金属は室温での触媒効果が低くなる場合があるため、金属微粒子4は酸化していない単体や単体が合金化したものからなることが好ましい。また、金属微粒子4の粒径は特に限定されず、例えば、直径1〜10nm、好ましくは2〜5nmとすることができる。
【0022】
このような本発明の水素ガスセンサは、水素ガスに対する応答速度が従来のものと比較して顕著に速いものとなる。応答速度が速くなる要因は、以下のように推測される。
【0023】
まず、本発明においては、酸化タングステン膜2上に電極3が設けられている。ここで、水素ガスが金属微粒子4と接触することにより解離して生じた水素イオンは、酸化タングステン膜2中で、酸化タングステン膜2の厚さ方向にも拡散していくが、酸化タングステン膜2の面方向にも拡散する。したがって、水素イオンが酸化タングステン膜2の面方向に拡散することで、酸化タングステン膜2の表面は導通状態となるため、電極3が酸化タングステン膜2上に設けられていると、水素イオンが酸化タングステン膜2を通過しなくても抵抗は下がる。よって、本発明の水素ガスセンサのように酸化タングステン膜2上に電極3が設けられていると、酸化タングステン膜2が厚くても、水素ガスが接触すると早い段階で抵抗が低下するので、水素ガスの存在を検知する応答速度が速くなる。一方、図9に示す従来技術にかかる水素ガスセンサ、具体的には、酸化タングステン膜2の下(図1においては絶縁体基板1側の面)に電極3を設けた水素ガスセンサでは、水素イオンが酸化タングステン膜2を通過しないと電極3で測定される抵抗が下がらないので、酸化タングステン膜2が厚いと応答速度が遅くなる。なお、図9では、図1と同様の部材には同じ符号を付してあり、また、触媒は膜状に設けられた触媒層6である。
【0024】
さらに、本発明の水素ガスセンサは、金属微粒子4が間隔をあけて酸化タングステン膜2上に設けられている。したがって、水素ガスが金属微粒子4と接触することにより解離して生じた水素イオンが、金属微粒子4の間に形成された各隙間5から直接酸化タングステン膜2に入り込むことができる。ここで、酸化タングステン膜2に入り込んだ水素イオンは、酸化タングステン膜2の厚さ方向にも拡散していくが、図1の矢印に示すように、酸化タングステン膜2の面方向にも拡散する。そして、本発明においては、水素イオンは複数の金属微粒子4の間に形成された各隙間5から酸化タングステン膜2にそれぞれ入り込むため、各水素イオンの拡散距離が短い段階、具体的には、各金属微粒子4間の隙間5の1/2程度の距離まで拡散した段階で、酸化タングステン膜2の表面は導通状態となる。したがって、本発明の水素ガスセンサは、水素ガスが接触すると早い段階で酸化タングステン膜2表面の抵抗が低下するため、水素ガスの存在を検知する応答速度が速くなる。なお、本発明の水素ガスセンサは、水素イオンが金属微粒子4の間に形成された各隙間5から直接酸化タングステン膜2に入り込み金属微粒子4からなる触媒内にはほとんど入り込まないため、触媒内部からの水素イオンの脱離に時間がほとんどかからず、再度水素ガスセンサとして使用可能な状態に戻すのが容易であるという効果も奏する。
【0025】
一方、酸化タングステン等の検知部上に設けられた触媒が、本発明のように間隔をあけて設けられた金属微粒子ではなく、従来技術にかかる水素ガスセンサのように、膜状やアイランド状に設けられている場合は、酸化タングステンと反応するためには水素ガスは膜状やアイランド状の触媒を通過することが必要なため、白金等の水素イオンを透過し難い金属を触媒材料とすると、本発明の水素ガスセンサに比べて、水素ガスセンサの応答速度が遅くなる。なお、触媒がアイランド状に設けられている場合、アイランド状の触媒間に若干隙間が生じその隙間から直接酸化タングステン膜に水素イオンが入りこむ可能性があるが、アイランド状の場合も膜状の場合と同様に水素イオンは触媒部分を通過する必要があるため、金属微粒子を設けた本発明よりも反応速度は顕著に遅くなる。このように、酸化タングステン等の検知部上に設けられた触媒が、膜状やアイランド状に設けられている場合、触媒材料によっては応答速度が非常に遅くなるが、本発明のように触媒を間隔をあけた金属微粒子4とすることで、触媒材料の水素イオン透過性に影響されることなく、応答速度を早くすることができる。なお、水素イオンを透過し易いパラジウムを触媒材料とすると、触媒が膜状やアイランド状に設けられている場合は、膜状やアイランド状の触媒内に水素イオンが大量に入り込むため、膜状やアイランド状の触媒の内部まで入り込んだ水素イオンの脱離に時間がかかり、再度水素ガスセンサとして使用可能な状態に戻すのに時間がかかるという問題が生じる。
【0026】
このように、酸化タングステン膜2上に、一対の電極3と間隔をあけた金属微粒子4とを形成することにより、応答速度の速い水素センサとなる。なお、後述する比較例に示すように、触媒を間隔をあけた金属微粒子としても電極を酸化タングステン膜の下に設けた場合は、十分な応答速度を有する水素ガスセンサとはならない。また、酸化タングステン膜の上に一対の電極を設けたとしても触媒を間隔をあけた金属微粒子としない場合も、十分な応答速度を有する水素ガスセンサとはならない。
【0027】
上記本発明の水素ガスセンサの製造方法は特に限定されないが、例えば以下の方法で製造することができる。
【0028】
まず、絶縁体基板1上に酸化タングステン膜2を設ける。酸化タングステン膜2を成膜する方法は特に限定されないが、スパッタ法、蒸着法等が挙げられる。酸化タングステン膜2の原料を溶解又は分散した溶液を塗布する等の液相法では廃液が生じるという問題があるため、スパッタ法や蒸着法等の気相法で成膜することが好ましい。
【0029】
次に、酸化タングステン膜2上に、金属微粒子4を間隔をあけて設ける。金属微粒子4を設ける方法としては、同軸型真空アーク蒸着源を備えた蒸着装置を用いる方法が挙げられる。なお、従来、水素ガスセンサの触媒は、同軸型真空アーク蒸着源を備えた蒸着装置で製造されていない。また、一般的な製造条件では、スパッタ法、蒸着法、通常のイオンプレーティング法や、めっき法等では、金属微粒子を設けることはできず、膜状やアイランド状になる。
【0030】
同軸型真空アーク蒸着源(アークプラズマガン)は、特に限定されない。例えば(株)アルバック製:ARL−300やAPG−1000等を使用することができる。
【0031】
本発明で用いる同軸型真空アーク蒸着源を備えた蒸着装置の一構成例について、図2を参照して、以下に説明する。
【0032】
カソード22は、円柱状であり、全体が上記金属微粒子4を形成する金属材料で構成されていてもよいし、一端が金属微粒子4を形成する金属材料で構成され、他端が棒状電極で構成されていてもよい。カソード22は、金属微粒子4を形成する金属材料が真空チャンバ12内部へ放出され、被処理材である酸化タングステン膜2が形成された絶縁体基板1の酸化タングステン膜2表面に供給され得るように、酸化タングステン膜2が形成された絶縁体基板1に対向して設置されることが好ましい。このカソード22は、円筒状のトリガ電極23と円筒状の絶縁碍子(以下、ハット型碍子と称す)24とに密接して挿通されている。
【0033】
かくして、本発明で用いる同軸型真空アーク蒸着源は、円筒状のトリガ電極23と円柱状のカソード22とが円筒状のハット型碍子24を介して同軸状に隣接して固定されて配置され、円柱状のカソード22の周りに同軸状に円筒状のアノード21が離間して配置されるように構成されている。
【0034】
ハット型碍子24は、カソード22とトリガ電極23との間に配置されており、中心からカソード22、ハット型碍子24、トリガ電極23の順序で並んでいる。カソード22とハット型碍子24とトリガ電極23との3つの部品は、密着させ、図示していないが、ネジ等で密着、固定させて取り付けられている。アノード21及びトリガ電極23の材質は、例えばステンレスであり、また、ハット型碍子の材質は、例えばアルミナである。
【0035】
アノード21とトリガ電極23とカソード22とは、相互に絶縁されており、カソード22とアノード21との間には、直流電源25aとコンデンサユニット25bとを有するアーク電源が接続され、トリガ電極23にはトリガ電源26が接続され、各電極21、22には異なる電圧が印加できるように構成されている。このコンデンサユニット25bは、複数のコンデンサを複数並列に接続してなるユニットである。図2には1つのコンデンサを示してあるが、コンデンサの数は、適宜、用途に応じて増減可能である。例えば、1つの容量が360μF(耐圧:400V)のコンデンサを5つ並列に接続すれば容量1800μFとなり、3つ並列に接続すれば容量1080μFとして使用することもできる。また、2200μF(耐圧100V)のコンデンサを4つ並列に接続し、容量8800μFとして使用することもできる。
【0036】
コンデンサユニット25bの各端部は、それぞれがアノード21、カソード22に接続され、コンデンサユニット25bと直流電源25aとは、並列接続されている。直流電源25aは、例えば、100Vで数Aの電流を流す能力を有する電源であり、コンデンサユニット25bに対して、一定の充電時間で充電されるように構成されている。
【0037】
トリガ電源26は、パルストランスからなり、入力200Vのμsのパルス電圧を約17倍に変圧して3.4kV(数μA)、極性:プラスにして出力できるように構成されており、変圧された電圧を、カソード22に対して正の極性となるトリガ電極23に印加できるように接続されている。すなわち、トリガ電源26のプラス出力端子は、トリガ電極23に接続され、そのマイナス端子は、アーク電源(直流電源25a)のマイナス出力側端子と同じ電位に接続されて、カソード22に接続されている。直流電源25aのプラス端子は、グランド電位に接地され、アノード21に接続されている。また、コンデンサユニット25bの両端子は、直流電源25aのプラス及びマイナス端子間に接続されている。
【0038】
上記したように構成されている同軸型真空アーク蒸着源11は、所定の真空排気系(例えば、ターボ分子ポンプとロータリーポンプとで構成されている。)を有する真空チャンバ12の壁面に取り付けられ、本発明の水素ガスセンサを形成するために用いられる。この同軸型真空アーク蒸着源11は、1つでも複数でも、適宜、設置することが可能である。また、アノード21と真空チャンバ12とは接地電位に接続されている。
【0039】
真空チャンバ12内には、同軸型真空アーク蒸着源11に対向して、酸化タングステン膜2が形成された絶縁体基板1の酸化タングステン膜2を載置するためのステージ33が設置されている。そして、ステージ33の下面中心にステージ33を回転自在にするための回転機構35が接続されている。
【0040】
また、真空チャンバ12の壁面には、バルブ36a、ターボ分子ポンプ36b、バルブ36c及びロータリーポンプ36dからなる真空排気系がこの順序で金属製配管により接続されている。この真空排気系により、真空チャンバ12内を真空排気し、このチャンバ内を10−5Pa以下に保つことができるように構成されている。なお、図2において、マスフローメータ37a、バルブ37b、ガスボンベ37cは、真空チャンバ12内へガスを導入することが必要になる場合のために設けられている。
【0041】
上記した同軸型真空アーク蒸着源は、スパッタ法に比べて粒子の持つエネルギーが高いことが知られており、また、真空雰囲気中での蒸着処理であるため、不純物が少ないという特徴をもっている。
【0042】
このような同軸型真空アーク蒸着源を備えた蒸着装置を用い、真空排気し、所定の真空雰囲気が形成されている真空チャンバ12内へ、同軸型真空アーク蒸着源11の作動により生成した金属微粒子4を形成する金属材料の荷電粒子を放出して、真空チャンバ12内に載置されている酸化タングステン膜2が形成された絶縁体基板1の酸化タングステン膜2表面へ供給し、酸化タングステン膜表面上に金属微粒子4を間隔をあけて蒸着形成する。
【0043】
以下、本発明で用いる同軸型真空アーク蒸着源11の動作例について説明する。
【0044】
先ず、コンデンサユニット25bの容量を例えば360μF以上1080μF以下に設定し、直流電源25aから例えば60〜100Vの電圧を出力し、その電圧でコンデンサユニット25bを充電し、アノード21とカソード22との間にコンデンサユニット25bの充電電圧を印加する。金属微粒子4を形成する金属材料に、コンデンサユニット25bが出力する負電圧を印加する。
【0045】
上記したような電圧印加の状態で、トリガ電源26から3.4kVのパルス状のトリガ電圧を出力し、カソード22とトリガ電極23との間に印加すると、ハット型碍子24の表面でトリガ放電(沿面放電)が発生する。カソード22とハット型碍子24のつなぎ目からは電子が放出される。
【0046】
このトリガ放電によってアノード21とカソード22との間の耐電圧が低下し、アノード21の内周面とカソード22の外周面(側面)との間にアーク放電が誘起される。
【0047】
コンデンサユニット25bに充電された電荷の放電により、例えば尖頭電流が1800A以上であるアーク電流が200μ秒程度の時間流れ、カソード22(すなわち、蒸発材料部材である金属微粒子4を形成する金属材料)の中心軸線上に多量の電流(2000A〜5000A)が例えば200μs〜550μsの間流れるので、カソード近傍に磁場が形成されると共に、その側面から真空チャンバ12内に放出された金属蒸気により、金属のプラズマが形成される。この時発生したプラズマ中の電子(この電子は、カソードからアノードの円筒内面を飛行する)は、自己形成した磁場によって電流が流れる向きとは逆向きのローレンツ力を受け、前方に飛行し、真空チャンバ12内へ放出され、一方、プラズマ中のカソードを構成する金属微粒子4を形成する金属材料のイオンは、前記したように電子が飛行し分極することでクーロン力により前方の電子に引きつけられるようにして前方に飛行し、ステージ33に対向するアノード21の放出口21aから真空チャンバ12内に放出される。
【0048】
1回のトリガ放電でアーク放電が一回誘起され、アーク電流が300μs流れる。上記コンデンサユニット25bの充電時間が約1秒である場合、1Hzの周期でアーク放電を誘起させることができる。アーク放電を所定の回数誘起させて、所定のショット数(発数)で酸化タングステン膜2が形成された絶縁体基板1の酸化タングステン膜2表面に金属微粒子4を形成できる。なお、ショット数や印加電圧等を調整することにより、金属微粒子4の数や大きさ、金属微粒子4間の隙間5の大きさを調整することができる。また、同軸型真空アーク蒸着源を用いれば、酸化状態、すなわち金属酸化物ではなく、金属のみからなる金属微粒子4を設けることができる。
【0049】
なお、同軸型真空アーク蒸着源を用いれば、ヒーターなどの加熱手段である熱源で酸化タングステン膜2が形成された絶縁体基板1を加熱してもしなくても、酸化タングステン膜2上に、金属微粒子4を形成できる。
【0050】
次いで、酸化タングステン膜2上に、蒸着法等により一対の電極3を形成する。なお、酸化タングステン膜2上に電極3を設けた後に、金属微粒子4を設けるようにしてもよい。
【0051】
このように、アークプラズマガンを用いることにより、応答速度の速い本発明の水素ガスセンサを容易に製造することができる。
【0052】
上記では、絶縁体基板1上に酸化タングステン膜2を形成しその上に電極3及び金属微粒子4を設けたものを示したが、本発明の水素ガスセンサはこれに限定されず、酸化タングステン膜2の水素ガスと接触する側の面に、電極3と金属微粒子4とを形成すればよく、例えば、酸化タングステン膜2の水素ガスと接触する側の面が下側となる水素ガスセンサとする場合、酸化タングステン膜2の下側の面に電極3及び金属微粒子4を設ける構造、すなわち、図1の上下を逆にした構成等でもよい。
【実施例】
【0053】
以下、実施例を示しながら本発明をさらに具体的に説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0054】
(実施例1)
ガラス基板(絶縁体基板1)上に、スパッタ法により、アルゴンと酸素の混合ガス(Ar:O=0.2:0.2sccm)を導入しながら、室温下、出力:300W、基板回転:30rpm、ターゲット:φ3インチWO((株)高純度化学研究所製)で、厚さ100nmのアモルファスの酸化タングステン(WO)からなる酸化タングステン膜2を成膜した。
【0055】
次いで、成膜した酸化タングステン膜2上に、同軸型真空アーク蒸着源((株)アルバック製:ARL−300)を備えた蒸着装置として、図2に模式的に示す装置を用い、以下記載するようにして、パラジウムからなる金属微粒子4を間隔をあけて全面に形成した。すなわち、パラメータとして、コンデンサユニット25bの容量:1080μF、放電電圧:100V、周波数:1Hzの条件で、トリガ電源26から3.4kVのパルス状のトリガ電圧を出力して、トリガ放電を発生せしめ、このトリガ放電によって誘起されたアーク放電を所定の回数行い、所定のショット数(10発)で、ガラス基板上に形成された酸化タングステン膜2の表面に、パラジウムからなる金属微粒子4を形成した。なお、形成されたパラジウムからなる金属微粒子4は、粒径2〜4nmであった。形成されたパラジウムからなる金属微粒子4をTEMより観察した写真を図3に示す。
【0056】
次に、酸化タングステン膜2上に、アルミニウムからなる一対の電極3を蒸着法で形成し、図1に示す構造の水素ガスセンサを製造した。
【0057】
(実施例2)
金属微粒子4としてパラジウムのかわりに白金を用いた以外は、実施例1と同様にして、水素ガスセンサを製造した。
【0058】
(比較例1)
ガラス基板(絶縁体基板1)上に、蒸着法によりアルミニウム膜を形成し、中心部に5μmのギャップを形成することでアルミニウムからなる一対の電極3を形成した。
【0059】
次いで、実施例1と同じ条件で、スパッタ法により、電極3上を覆うようにガラス基板上にアモルファスの酸化タングステンからなる酸化タングステン膜2を成膜した。なお、成膜された酸化タングステン膜2の電極3が設けられている部分の厚さは100nmである。
【0060】
次に、成膜した酸化タングステン膜2上に、実施例1と同様の条件で同軸型真空アーク蒸着源を備えた蒸着装置を用いてパラジウムからなる金属微粒子4を間隔をあけて形成し、図4に示す構造の水素ガスセンサを製造した。
【0061】
(使用例)
実施例1及び比較例1の水素ガスセンサを、それぞれ室温(25℃)の真空チャンバ内に載置し、1Paまで真空排気した。この水素ガスセンサについて、図5に示す測定系を用い電圧10Vを印加した時の電流を測定することで、感度及び抵抗値を求めた。なお、感度は、(測定時の電流値)/(水素ガスに暴露しない状態の電流値)として求めた。そして、測定開始から3秒後に水素ガスを真空チャンバ内に30秒間導入した後、水素ガスの導入を停止して5秒間放置し、再度1Paまで真空排気を行った。その後、大気を30秒間かけて導入することにより、真空チャンバ内を大気圧まで戻した。この間、測定された電流から求めた感度及び抵抗値と時間との関係を、図6〜図8に示す。なお、図7は、図6の要部拡大図である。
【0062】
図6〜図8に示すように、酸化タングステン膜2上に、一対の電極3と間隔をあけた金属微粒子4を形成した実施例1の水素ガスセンサでは、水素ガスの導入から1秒以内に感度の増加及び電気抵抗の減少がみられ、応答速度が速いことが確認された。なお、実施例2の水素ガスセンサについても、同様の試験を行ったところ、実施例1と同様の挙動を示した。一方、酸化タングステン膜2の下に一対の電極3が設けられている比較例1の水素ガスセンサでは、感度の増加及び電気抵抗の減少は水素ガスの導入から7〜10秒経過後であり、実施例の水素ガスセンサよりも、顕著に応答速度が遅かった。
【0063】
また、実施例1の水素ガスセンサをエタノールに暴露した際に、図5に示す測定系を用い電圧10Vを印加した時の電流を測定し抵抗値を求めたところ、暴露前後で抵抗値に変化はみられず、水素ガスセンサのガス選択性が高いことが確認された。
【符号の説明】
【0064】
1 絶縁体基板、 2 酸化タングステン膜
3 電極、 4 金属微粒子
5 隙間、 6 触媒層
11 同軸型真空アーク蒸着源、 12 真空チャンバ
21 アノード、 21a 放出口
22 カソード、 23 トリガ電極
24 ハット型碍子、 25a 直流電源
25b コンデンサユニット、 26 トリガ電源
33 ステージ、 35 回転機構
36a、36c バルブ、 36b ターボ分子ポンプ
36d ロータリーポンプ、 37a マスフローメータ
37b バルブ、 37c ガスボンベ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素ガスの検知部となる酸化タングステン膜と、
前記酸化タングステン膜の前記水素ガスと接触する側の面に設けられた一対の電極と、
前記酸化タングステン膜の前記水素ガスと接触する側の面に間隔をあけて設けられ前記水素ガスを解離する触媒となる金属微粒子とを有することを特徴とする水素ガスセンサ。
【請求項2】
前記金属微粒子は、前記一対の電極の各電極の間に設けられていることを特徴とする請求項1に記載の水素ガスセンサ。
【請求項3】
前記金属微粒子が、白金、パラジウム、または、白金及びパラジウムの少なくとも一方を含む合金からなる微粒子であることを特徴とする請求項1又は2に記載の水素ガスセンサ。
【請求項4】
前記金属微粒子が、同軸型真空アーク蒸着源を備えた蒸着装置を用いて形成されたものであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の水素ガスセンサ。
【請求項5】
水素ガスの検知部となる酸化タングステン膜を形成する工程と、
同軸型真空アーク蒸着源を備えた蒸着装置を用いて、前記酸化タングステン膜の前記水素ガスと接触する側の面に間隔をあけて前記水素ガスを解離する触媒となる金属微粒子を形成する工程と、
前記酸化タングステン膜の前記水素ガスと接触する側の面に一対の電極を形成する工程とを有することを特徴とする水素ガスセンサの製造方法。

【図2】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−21911(P2011−21911A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−165027(P2009−165027)
【出願日】平成21年7月13日(2009.7.13)
【出願人】(000231464)株式会社アルバック (1,740)
【Fターム(参考)】