説明

水素ラジカル発生装置およびそれを備えた分子線エピタキシャル成長装置

【課題】 基板のクリーニング効果、および、結晶成長の高品質化を実現する。
【解決手段】 本発明の分子線エピタキシャル成長装置は、水素ラジカル発生装置10および分子線セル23が、それぞれ独立して設けられている。そして、水素ラジカル発生装置10から水素ラジカルが、分子線セル23から成膜材料の分子線または原子線が、それぞれ別々に、基板処理室20に供給されるようになっている。さらに、水素ラジカルは光励起により発生させる。これにより、水素ラジカルを放出ガスの発生なしに効率的に発生させることができ、基板21のクリーニング効果、および、成膜材料中の不純物を除去する効果を顕著に高めることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、効率的に水素ラジカルを発生させる水素ラジカル発生装置、および、その水素ラジカル発生装置を備え、基板のクリーニングおよび結晶成長の高品質化が可能な分子線エピタキシャル成長装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
水素ラジカル発生装置(原子状水素発生源)は、水素分子を解離することによって、水素ラジカル(原子状水素)を発生させる装置である。この水素ラジカル発生装置は、例えば、分子線エピタキシャル成長装置(Molecular Beam Epitaxy;以下「MBE装置」)等に搭載されている。水素ラジカル発生装置を備えたMBE装置は、水素のもつ還元作用により、成膜前には基板クリーニングの効果を示し、成膜中には、成膜成分中の不純物除去による膜質(結晶品質)の向上、あるいは、量子ドット形成など選択成長させる効果を示す。
【0003】
また、水素ラジカル発生装置は、MBE装置以外に、真空中で行う分析装置にも用いられる。この分析装置は、分析前の分析試料に、水素ラジカルを照射することにより、分析試料の洗浄等を行うことができる。
【0004】
一般に水素ラジカル発生装置は、装置内部に導入された水素ガス中の水素分子を解離することによって、水素ラジカルを発生させる。水素分子の解離方法には、プラズマエネルギーを利用する方法(以下「プラズマ方式」)、熱エネルギーを利用する方法(以下「熱方式」)、および、光エネルギーを利用する方法(以下「光方式」)がある。
【0005】
非特許文献1には、プラズマ方式の構成が開示されている。この構成では、まず、装置内に設置された放電室に水素ガスを導入する。そして、水素ガス雰囲気となった放電室内でプラズマを発生させることによって、そのプラズマエネルギーにより、水素分子を水素ラジカルに解離する。放電室の材質は、通常、PBN(熱分解性窒化ホウ素)、石英、またはアルミナなどの絶縁材料が用いられる。この装置をMBE装置に適用した場合、放電室には、水素ガスの導入口以外に、一部開口部が設けられる。この開口部は、放電室内にて生成した水素ラジカルを、基板に向けて照射するための、射出口となる。また、プラズマエネルギーは大きいため、プラズマ方式の場合、放電室内には、水素ラジカルと同時に、水素イオンおよび電子も生成する。なお、水素分子の解離に利用するプラズマには、ECR(電子サイクロトロン共鳴)プラズマ、または、RF(高周波電力)プラズマ等が用いられる。
【0006】
一方、非特許文献2および特許文献1には、熱方式の構成が開示されている。これらの構成は、主に、以下に示す2つの方法である。
【0007】
第1の方法は、水素ガスを流すガス配管内に設置されたタングステン製フィラメントを1500℃以上に加熱することにより、加熱されたタングステン製フィラメントに接触した水素分子を、水素ラジカルに解離する方法である。この構成では、ガス配管は基板に向けて開放されており、生成された水素ラジカルが基板に照射されるようになっている。
【0008】
より詳細には、図10は、非特許文献2における、水素ラジカルの射出部分の模式図である。ガス配管91は、通常、フィラメントとの接触による電気的ショートを避けるため、PBNなどの絶縁材料が用いられる。ガス配管91の先端部には、開口部が形成されており、この開口部が、水素ラジカルの射出部となる。この射出部付近のガス配管91内には、タングステンフィラメント92が設置されている。タングステンフィラメント92の両端には、電流導入端子93および94が設けられている。これにより、タングステンフィラメント92は、ガス配管91内から外に引き出されている。図10の構成では、ガス配管91を通過する水素分子のうち、タングステンフィラメント92に接触した水素分子が、水素ラジカルに解離される。
【0009】
熱方式による第2の方法は、1500℃以上に加熱したタングステン製の配管内に水素ガスを流し、高温になる配管内壁面に衝突した水素分子を、水素ラジカルに解離する方法である。この方法における配管の加熱は、例えば、配管周辺に設置されたフィラメントに通電することによって発生させた熱電子を、該配管との間に加速電圧を印加し、該配管に向けて照射することにより行われる。
【0010】
なお、熱方式による第1の方法および第2の方法では、タングステン材料が用いられている。その理由は、タングステン表面に水素分子が接触すると、タングステン原子と水素原子との電子同士の相互作用によって、水素分子の解離エネルギーを、実効的に低減させられるためである。すなわち、タングステンが、触媒作用を有するためである。これにより、水素分子は水素ラジカルに解離しやすくなる。
【0011】
一方、特許文献3には、光方式の構成が開示されている。この構成では、紫外線照射室に導入された水素に紫外線を照射することにより、水素ラジカルを発生させている。なお、この構成では、紫外線照射室を出たガスを加熱することにより、光方式と熱方式とを組み合せて、水素ラジカルの発生量を増大させている。
【0012】
また、特許文献4には、熱方式またはプラズマ方式により水素ラジカルを発生させる水素ラジカル発生装置を備えたMBE装置が開示されている。
【0013】
ところで、MBE装置では、このような各方式により発生させた水素ラジカルが、様々な方法で、基板に照射される。
【0014】
例えば、プラズマ方式(非特許文献1)、または、熱方式(非特許文献2,特許文献1)の構成を、MBE装置に適用した場合、水素ラジカル発生装置内で発生させた水素ラジカルを、基板等の目的物に、直接照射する形態となる。
【0015】
一方、光方式(特許文献2)の構成を、MBE装置に適用した場合、基板の成膜処理を行う処理室内に水素ガス(水素分子)を導入し、処理室内で光照射により水素ラジカルを発生させる形態となる。そして、基板表面近傍で生成した水素ラジカルが基板に作用することによって、基板クリーニングが行われる。
【0016】
より詳細には、この構成では、基板が設置された処理室内は、真空排気されることによって真空状態となっており、この処理室内に水素ガスを導入し、処理室内を水素雰囲気とする。そして、基板表面に紫外光を照射することによって、光エネルギーにより、基板表面近傍に存在する水素分子を水素ラジカルに解離する。このようにして生成した水素ラジカルによって、基板表面をクリーニングする。
【0017】
また、特許文献3のMBE装置は、分子線セル(坩堝)内に水素ラジカルを導入し、分子線セルから蒸発した成膜材料に、水素ラジカルを作用させている。この構成では、成膜材料に水素ラジカルを作用させることによって、水素還元により成膜材料中の不純物(主として酸素)が除去される。これにより、成膜材料の高純度化を実現している。
【0018】
具体的には、特許文献3の構成では、成膜材料と水素ラジカルとを混合し、その混合物が基板に照射されるようになっている。具体的には、特許文献3には、熱方式により発生させた水素ラジカルを分子線セル内に供給し、分子線セル内で成膜材料の分子線と水素ラジカルとが混合され、この混合物を結晶成長室に供給する構成が開示されている。また、特許文献3には、紫外線照射室内で紫外線照射により水素分子のラジカル化を促進し、さらに、紫外線照射室を出たガス(水素分子および水素ラジカル)を、ラジカル発生室に供給して、熱方式により水素ラジカルを発生させることによって、水素ラジカルの量を増大させる構成も開示されている。このような構成によって、水素ラジカルにより成膜材料中の不純物(主として酸素)を除去することにより、成膜材料の高純度化を図っている。
【0019】
また、特許文献4には、分子線源セルと、熱方式で水素ラジカルを発生させる水素投射用のセルとが、並列して設けられているMBE装置が開示されている。この構成では、強い発光を示す高品質なSi−SiGeヘテロ結晶構造の半導体結晶薄膜を成長させることが可能である。
【特許文献1】特開平7−297156号公報(1996年6月25日公開)
【特許文献2】特開昭59−11629号公報(1984年1月21日公開)
【特許文献3】特開平8−167575号公報(1995年11月10日公開)
【特許文献4】特開平5−335238号公報(1993年12月17日公開)
【非特許文献1】ジャパニーズ・ジャーナル・オブ・アプライド・フィジックス、26巻、L142−144ページ、1987年(Japanese Journal of Applied Physics, Vol.26, 1987, L142-L144.)
【非特許文献2】ジャパニーズ・ジャーナル・オブ・アプライド・フィジックス、30巻、L402ページ、1991年(Japanese Journal of Applied Physics, Vol.30, 1987, L402-L404.)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
しかしながら、プラズマ方式による解離方法では、水素ラジカルとともに発生する高エネルギー粒子により、基板またはその成膜表面が損傷しやすく、また、熱方式による解離方法では、1500℃以上の高温が必要となるため、放出ガスによる不純物が混入しやすいという問題がある。
【0021】
さらに、水素ラジカルの基板への照射方法によって、水素ラジカルの発生効率が異なるという問題がある。すなわち、水素ラジカルの照射方法によって、基板のクリーニング効果、および、成膜成分中の不純物を除去することによる効果(結晶成長の高品質化)が異なるという問題がある。
【0022】
まず、プラズマ方式および熱方式による解離方法の問題について説明する。
【0023】
プラズマ方式による解離方法では、放電室内に水素ラジカルと同時に、水素イオン(H)および電子などの高エネルギー粒子も生成される。このため、これらの高エネルギー粒子も基板に照射される。その結果、これらの高エネルギー粒子が、基板あるいは基板に形成された膜表面に、エネルギー損傷を与える。このため、基板表面粗度の劣化、あるいは、膜質および結晶性の劣化を招く。
【0024】
また、高エネルギー粒子が、プラズマを発生させる放電室内壁面にも作用するため、その内壁面に付着する吸着物を放出させたり、放電室を構成する絶縁材料を分解し放出ガスを発生させたりする。例えば、放電室が、PBNであれば窒素を放出させ、石英やアルミナであれば酸素を放出させることになる。これらの放出ガスは、不純物として基板表面に到達する。その結果、これらの放出ガスが膜中に取り込まれ、結晶品質が劣化してしまう。
【0025】
一方、熱方式による解離方法では、水素分子を解離するために、水素分子を衝突させるタングステン材料の温度を、1500℃以上に昇温する必要がある。このように非常に高温になっている部材が存在すると、その周辺部材も、熱輻射および熱伝導により高温になる。このため、その高温になった部位から、ガスが放出される。その結果、その放出ガスが、基板に到達し、前述のように、放出ガスが膜中に取り込まれ、結晶品質が劣化してしまう。
【0026】
ここで、高温になった部材を冷却する機構(冷却部)を設ければ、放出ガスを低減することは、ある程度可能である。しかしながら、このような構成とするには、冷却部としての水冷配管を、新たに水素ラジカル発生装置内に設置する必要があり、装置の構造が複雑になる。それに加えて、冷却部による冷却効果は、限定的であるため、高温になった部材の周辺部材の全てを冷却するのは不可能である。それゆえ、冷却部を設けたとしても、放出ガスを完全に抑制することはできない。
【0027】
さらに、熱方式による解離方法では、フィラメントが構成部品として用いられる場合がある。しかしながら、この構成では、長時間使用すると、材質の劣化から生じるフィラメント寿命により、断線(フィラメント断線)する危険性がある。フィラメント断線が生じたフィラメントは、水素ラジカル発生装置を搭載しているMBE装置を、一旦大気開放しなければ、交換することができない。このため、フィラメント交換後に、MBE装置を立上げる作業時間などを含めると、膨大な時間が必要となる。その結果、MBE装置の装置稼働率を低下させるという致命的な問題が生じる。
【0028】
次に、水素ラジカルの照射方法による問題について説明する。
【0029】
特許文献2の構成では、水素雰囲気下の処理室内に設置された基板表面に、紫外線を照射することにより、処理室内(基板表面付近)で水素ラジカルを発生させる形態となる。この構成では、光源に水銀ランプを用いている。しかし、水銀ランプは光源からの紫外線に照射分布がある。このため、水素ラジカルの発生効率(水素分子の解離効率)に分布が生じ、結果として基板表面上での還元反応に、バラツキが生じる。その結果、水素ラジカルを基板に均一に照射することができないため、水素ラジカルによる基板のクリーニング効果を、均一に実現することができない。
【0030】
また、紫外線の減衰を考慮すると、光源をできるだけ基板に近づける必要がある。その結果、この構成をMBE装置に適用した場合、基板に近づけた光源が分子線を遮蔽してしまう。このため、基板表面に予め設定した分子線を照射することができないという問題も生じる。
【0031】
さらに、この構成では、水素ラジカルの発生効率(水素分子の解離効率)を向上させるために、かなり高圧(水素ガス圧として100Torr)を必要としている。このため、超高真空を維持するMBE装置に、この構成を適用することは、現実的に困難である。
【0032】
また、特許文献3の構成では、分子線セル内に導入された水素ラジカルが分子線セル内の空間にて蒸発する成膜材料と混ざり合う際、水素ラジカルは、分子線セルの内壁面,成膜材料分子,および成膜材料に含まれる不純物と衝突する。水素ラジカルは自然界では不安定な存在であるため、そのような衝突により、水素ラジカルは不活性化し、その一部は水素分子に戻る。その結果、基板に到達する水素ラジカルの量は、減少する。仮に、分子線セルの基板への射出口を加熱する構成であっても、一般にその加熱温度は、1000℃程度である。しかし、1000℃程度では、水素分子が再び解離し水素ラジカルになることはほとんどない。従って、このような分子線セルの場合、水素ラジカルによって基板表面のクリーニング効果(例えば、基板表面に存在する酸化物を除去する効果)は、著しく低下するという問題がある。
【0033】
さらに、通常、MBE装置には複数本の分子線セルが搭載されている。しかし、成膜材料と水素ラジカルとを混合する場合、複数の分子線セルそれぞれについて、水素ラジカル発生装置を備える必要があり、MBE装置のコストアップにつながる。
【0034】
また、特許文献3の光方式により水素ラジカルを発生させる構成では、分子線セルの前段に設けられた紫外線照射室に導入された水素ガスに紫外線を照射して、水素分子を解離することによって、水素ラジカルを発生させている。そして、紫外線照射室の水素ラジカルを、配管を介して、分子線セルに供給している。この構成では、紫外線照射室内で生成された水素ラジカルは、コンダクタンスの小さい配管を通過して、分子線セル内に供給されることになる。しかし、この配管内では、水素ラジカル同士の衝突による不活性化、あるいは、水素ラジカルの配管内壁面への衝突による不活性化などにより、水素ラジカルの発生効率(解離効率)が低くなる。このため、基板のクリーニング効果、および、成膜成分中の不純物を除去することによる効果(結晶成長の高品質化)が低いという問題がある。
【0035】
なお、特許文献3の構成では、分子線セルの側面に、水素ガス導入用のパイプが設けられている。このパイプは、分子線セルとの接続部付近にヒータを備えており、ヒータによりこのパイプを1500℃以上に加熱している。そして、熱方式により水素分子を解離して水素ラジカルを発生させ、分子線セル内に水素ラジカルを導入している。このため、前述のように、周辺部品からの放出ガスが不純物として膜中に取り込まれ、結晶品質が劣化してしまうという問題もある。
【0036】
特許文献4の構成において、水素ラジカルの使用目的は、成膜面の表面エネルギーを低減させ、ヘテロ接合界面(Si薄膜とSiGe薄膜との界面)の急峻性を向上させるためである。このため、水素ラジカルの発生効率、基板のクリーニング効果、および、成膜成分中の不純物を除去することによる効果(結晶成長の高品質化)のそれぞれを高めることについては、何ら開示されていない。なお、「急峻性」とは、Si薄膜とSiGe薄膜との接合界面において、成分が厳密に異なることを意味する。
【0037】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、効率的に水素ラジカルを発生させることによって、基板のクリーニング効果、および、成膜成分中の不純物を除去することによる効果(結晶成長の高品質化)の優れた水素ラジカル発生装置およびそれを備えた分子線エピタキシャル成長装置およびその利用方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0038】
本願発明者等は、MBE装置において、水素ラジカルの発生効率を高めるべく鋭意に検討した結果、水素ラジカルの基板への照射方法によって、水素ラジカルの発生効率が異なり、基板のクリーニング効果、および、成膜成分中の不純物を除去することによる効果(結晶成長の高品質化)が異なることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0039】
すなわち、上記の目的を達成するために、本発明にかかる分子線エピタキシャル成長装置は、真空条件下、基板に成膜処理を施す基板処理室と、光照射により水素ラジカルを発生させる水素ラジカル発生装置と、成膜材料の分子線または原子線を発生させる分子線セルとを備え、水素ラジカル発生装置および分子線セルは、それぞれ、基板処理室とは独立して設けられ、かつ、水素ラジカルと成膜材料の分子線または原子線とが、別々に、上記基板処理室に供給されるようになっていることを特徴としている。
【0040】
本発明にかかる分子線エピタキシャル成長装置(MBE装置)は、水素ラジカル発生装置を備え、基板の成膜処理(基板にエピタキシャル成長層を形成する処理)を行う成膜装置である。
【0041】
上記の構成によれば、水素ラジカル発生装置は、光照射により、水素ラジカルを発生させる。これにより、プラズマ方式により水素ラジカルを発生させる場合のように、高エネルギー粒子(水素イオンおよび電子など)が発生しない。また、高エネルギー粒子による不純物も発生しない。さらに、熱方式により水素ラジカルを発生させる場合のように、加熱による不純物も発生しない。従って、水素ラジカルを効率的に発生させることができる。さらに、高エネルギー粒子による基板および成膜表面の損傷を、防ぐことができる。このため、基板に形成されたエピタキシャル成長層の膜質および結晶性の劣化を、防ぐこともできる。
【0042】
また、上記の構成によれば、水素ラジカル発生装置にて予め発生させた水素ラジカルを、基板処理室に供給している。これにより、基板処理室内に水素を供給して基板処理室内で水素ラジカルを発生させる場合に比べて、基板処理室内の水素ラジカル量を、顕著に高め、かつ均一に供給することができる。
【0043】
さらに、上記の構成によれば、水素ラジカル発生装置と分子線セルとが、それぞれ独立して設けられている。そして、水素ラジカルと成膜材料の分子線または原子線とが、別々に、基板処理室に供給され、基板に照射される。前述のように、基板処理室には、予め発生させた水素ラジカルが供給されるため、基板処理室内の水素ラジカル量は、顕著に高くなっている。従って、水素ラジカルによる、基板のクリーニング効果、および、成膜材料中の不純物を除去する効果(成膜材料の高品質化)も顕著に高めることができる。
【0044】
このように、本発明にかかる分子線エピタキシャル成長装置は、光照射により水素ラジカルを発生させる構成,水素ラジカル発生装置で予め発生させた水素ラジカルを基板処理室に供給する構成,水素ラジカル発生装置および分子線セルをそれぞれ基板処理室と独立して設ける構成,および、水素ラジカルと分子線または原子線とを別々に基板処理室に供給する構成を組み合せた構成である。そして、このような構成を組み合せることによって、水素ラジカルを効率的に発生させることができ、基板のクリーニング効果、および、成膜材料中の不純物を除去する効果を顕著に高めることができるという効果を奏する。つまり、本発明の技術的意義は、このような顕著な効果が、これらの構成を組み合せることによって、初めてもたらされることを見出した点にある。
【0045】
上記分子線エピタキシャル成長装置において、上記水素ラジカル発生装置は、真空室内で水素ラジカルを発生させるようになっており、上記基板処理室と水素ラジカル発生装置とが、連結されている構成であってもよい。
【0046】
上記の構成によれば、水素ラジカル発生装置と基板処理室とが、互いに真空条件を維持して連結される。これにより、水素ラジカル発生装置にて発生させた水素ラジカルが不活性化されることなく、確実に基板処理室に供給することができる。
【0047】
上記分子線エピタキシャル成長装置において、上記水素ラジカル発生装置は、上記真空室内に水素分子を供給する配管と、上記水素分子に光を照射するための光源とを備えており、上記配管の先端の水素供給口が、上記光源と略同じ高さに設けられている構成であってもよい。
【0048】
上記の構成によれば、例えば、水素ラジカル発生装置は、配管の先端の水素供給口が、真空室内まで延びている構造となっている。これにより、水素供給口から射出された直後の水素分子に、光源からの光を照射することができる。このため、水素分子を、確実に水素ラジカルに解離することができる。従って、水素ラジカルの発生効率をより高めることができる。
【0049】
上記分子線エピタキシャル成長装置において、上記光源は、真空条件下または窒素雰囲気下で、光を照射するようになっている構成であってもよい。
【0050】
上記の構成によれば、真空条件下または窒素雰囲気下で、光源からの光が照射されるようになっている。言い換えれば、酸素非存在下で、光源からの光が照射されるようになっている。これにより、光源から照射された光が、大気中の酸素との反応により減衰することを防ぐことができる。従って、水素ラジカルの発生効率を、より高めることができる。
【0051】
上記分子線エピタキシャル成長装置において、上記光源は、上記真空室内に設けられている構成であってもよい。
【0052】
上記の構成によれば、光源が真空室内に設けられているため、光源と水素供給口とを近くに設定できる。これにより、水素供給口から照射される水素分子を、確実に水素ラジカルに解離することができる。また、光源を真空内に設けているため、光源から照射された光が、大気中の酸素との反応により減衰することを防ぐことができる。従って、水素ラジカルの発生効率を、より高めることができる。
【0053】
上記分子線エピタキシャル成長装置は、上記光源は、上記真空室とは独立して設けられている構成であってもよい。
【0054】
上記の構成によれば、光源が真空室とは独立して設けられているため、光源を真空室内に設ける必要がない。これにより、光源を真空室内に設ける場合よりも、光源配置の自由度が増す、あるいは真空内設置ポートの制限がなくなるなど、効率よく光を照射するための設計の自由度を増すことができる。
【0055】
上記分子線エピタキシャル成長装置において、上記水素ラジカル発生装置は、上記光源から照射された光を反射させる反射部を備えている構成であってもよい。
【0056】
上記の構成によれば、光源から照射された光が、反射部によって反射する。このため、水素分子を水素ラジカルに解離することによって、減衰した光が、反射部によって反射する。これにより、反射部によって反射された光も、水素ラジカルを発生させるために利用することができる。従って、光源からの光を有効に利用することができ、水素ラジカルの発生効率も高めることもできる。
【0057】
上記分子線エピタキシャル成長装置において、上記光源および/または反射部は、真空または窒素雰囲気に維持された容器に収容されている構成であってもよい。
【0058】
上記の構成によれば、真空室とは独立して設けられた光源、および/または、光源から照射された光を反射させる反射部が、真空または窒素雰囲気に維持された容器に収容されている。これにより、光源から照射された光が、大気中の酸素との反応により減衰することを防ぐことができる。従って、水素ラジカルの発生効率を、より高めることができる。
【0059】
上記分子線エピタキシャル成長装置において、上記水素ラジカル発生装置は、上記光源から照射された光の波長および光量の少なくとも一方を検出する光検出部を備えている構成であってもよい。
【0060】
上記の構成によれば、光検出部が、光源から照射された光の波長および光量の少なくとも一方を検出する。これにより、光検出部により、光源から照射される光を検出しながら、水素ラジカルを発生させることができる。このため、例えば、光源に生じたトラブルにより、水素ラジカルを発生させるために必要な波長の光および光量が不足したとしても、光検出部の検出結果に基づき、光源から照射される光の波長および光量を調節することができる。従って、安定して水素ラジカルを発生させることができ、常に一定の水素ラジカルを、基板処理室に供給することができる。
【0061】
上記分子線エピタキシャル成長装置において、上記水素ラジカル発生装置は、水素ラジカル発生量を検出する水素ラジカル検出部を備えている構成であってもよい。
【0062】
上記の構成によれば、水素ラジカル検出部が、水素ラジカル発生装置にて発生した水素ラジカルの発生量を検出する。これにより、水素ラジカル検出部により、水素ラジカルの発生量を検出しながら、水素ラジカルを発生させることができる。このため、例えば、光源に生じたトラブルにより、水素ラジカルの発生量が変化したとしても、水素ラジカル検出部の検出結果に基づき、光源から照射される光の波長および光量を調節することができる。従って、安定して水素ラジカルを発生させることができ、常に一定の水素ラジカルを、基板処理室に供給することができる。
【0063】
本発明にかかる成膜基板の製造方法は、上記の課題を解決するために、前記いずれかの分子線エピタキシャル成長装置を用いて基板の成膜処理を行うことを特徴としている。すなわち、上記成膜基板の製造方法は、成膜工程において、基板処理室とは独立して設けられた、水素ラジカル発生装置および分子線セルから、水素ラジカルと成膜材料の分子線または原子線とを、それぞれ独立して基板処理室に供給する工程を、少なくとも含んでいる。
【0064】
上記の構成によれば、上記分子線エピタキシャル成長装置を用いて基板の成膜処理を行っている。これにより、基板上に、膜特性が向上した高品質のエピタキシャル成長層を形成した成膜基板(半導体装置)を製造することができる。
【0065】
本発明のかかる水素ラジカル発生装置は、上記の課題を解決するために、光照射により水素ラジカルを発生させる水素ラジカル発生装置であって、真空条件下基板に成膜処理を施す基板処理室と、成膜材料の分子線または原子線を発生させる分子線セルとを備えた分子線エピタキシャル成長装置に用いられる水素ラジカル発生装置において、上記水素ラジカル発生装置は、上記分子線セルとは独立して設けられ、かつ、発生させた水素ラジカルを、成膜材料の分子線または原子線とは独立して上記基板処理室に供給するようになっていることを特徴としている。
【0066】
上記の構成によれば、前述の分子線エピタキシャル成長装置と同様に、水素ラジカルを効率的に発生させることができ、基板のクリーニング効果、および、成膜材料中の不純物を除去する効果を顕著に高めることができる。
【発明の効果】
【0067】
本発明にかかる分子線エピタキシャル成長装置は、以上のように、光照射により水素ラジカルを発生させる構成,水素ラジカル発生装置で予め発生させた水素ラジカルを基板処理室に供給する構成,水素ラジカル発生装置および分子線セルをそれぞれ基板処理室と独立して設ける構成,および、水素ラジカルと分子線または原子線とを別々に基板処理室に供給する構成を組み合せた構成である。そして、このような構成を組み合せることによって、水素ラジカルを効率的に発生させることができ、基板のクリーニング効果、および、成膜材料中の不純物を除去する効果を顕著に高めることができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0068】
以下、本発明の実施形態について説明するが、本発明は、これに限定されるものではない。
【0069】
(1)分子線エピタキシャル成長装置
本発明にかかる分子線エピタキシャル(Molecular Beam Epitaxy)成長装置(MBE装置)は、別々に発生させた水素ラジカルと成膜材料の分子線(または原子線)とを、基板に照射することによって、基板のクリーニング効果および成膜材料中の不純物を除去する効果(結晶成長の高品質化)を高めるものである。
【0070】
図1は、本実施形態にかかるMBE装置の概略構成を示す断面図である。図1のMBE装置は、基板処理室20、水素ラジカル発生装置10、および、分子線セル23を備えている。このMBE装置は、超高真空条件に保持された基板処理室(成膜室)20内に設けられた基板21の成膜処理(基板21上にエピタキシャル成長層を形成する処理)を行うものである。
【0071】
基板処理室20は、成膜しない場合、すなわち分子線または原子線が照射されない場合には高真空状態(10−11Torr台)に維持されており、基板処理室20内に設けられた基板21の成膜処理を行う。基板処理室20は、基板21を保持,加熱,および回転するための、マニピュレータ22を備えている。基板処理室20内は、液体窒素シュラウド24により包囲されており、基板21の成長に寄与しない余剰の成膜材料をトラップできるようになっている。基板処理室20には、後述のように、水素ラジカル発生装置10から水素ラジカルが、また、分子線セル23から成膜材料の分子線または原子線が、それぞれ導入される。
【0072】
水素ラジカル発生装置10は、光照射により水素分子を解離し、水素ラジカルを発生させる。図1の構成では、水素ラジカル発生装置10は、基板処理室20の底部の中央部に、基板21に対向するように設けられているが、基板に照射できる位置であればこれに限定されるものではない。
【0073】
ここで、水素分子の解離エネルギーは4.5eVであるため、これ以上のエネルギーを与れば、水素分子を水素ラジカルに解離することができる。光の波長(λ)とエネルギー(E)との関係は、下記式(1)で表される。また、単位系でジュール(J)とエレクトロンボルト(eV)との関係は、下記式(2)で表される
E=h・c/λ・・・・・・(1)
E:エネルギー
h:プランク定数(6.6261×10−34J・s)
c:光速(2.9979×10m/s)
λ:波長
1(J)=1.602×10−19(eV)・・・・・・(2)
式(1)および(2)より、4.5eVのエネルギーを持つ光の波長を求めると、275nmとなる。従って、水素分子を水素ラジカルに解離するには、水素分子に275nm以下の光を照射すればよい。つまり、水素ラジカル発生装置10は、275nm以下の波長を含む光を、照射するものであればよい。
【0074】
なお、水素ラジカル発生装置10にて発生させた水素ラジカルは、基板処理室20に供給され、基板21に照射されるようになっている。水素ラジカル発生装置10の詳細は、後述する。
【0075】
分子線セル23は、成膜材料の分子線または原子線(結晶の原材料)を発生させるものである。図1の構成では、2つの分子線セル23が、基板処理室20の底部の両端部に、水素ラジカル発生装置10を間に挟むように設けられているが、基板21に照射できる位置であれば本数を含めこれに限定されるものでない。
【0076】
MBE装置では、通常、複数の成膜材料の結晶成長が行われる。このため、MBE装置は、通常、結晶成長に必要な材料の種類の数の、分子線セル23を備えている。これにより、各分子線セル23にて、異なる成膜材料の分子線または原子線を発生させ、結晶成長させることが可能となる。例えば、図1では、2個の分子線セル23を備えているため、2種類の成膜材料の結晶成長が可能である。また同種の材料であっても、目的が異なる場合に複数本の分子線セルを備える場合もある。分子線セル23にて発生させた成膜材料の分子線または原子線は、基板処理室20に供給され、基板21に照射されるようになっている。
【0077】
なお、水素ラジカル発生装置10および分子線セル23の射出口は、いずれも基板21に向いており、水素ラジカル、および、分子線または原子線を、それぞれ基板21表面(成膜面)に向けて照射できるような構成となっている。また、図1のMBE装置には、図示しない、分子線の照射を遮断するセルシャッター、真空計およびガス分析計などの計測器、および、ゲートバルブを介して真空ポンプを接続する排気系などが実際には搭載されている。
【0078】
ここで、本実施形態のMBE装置は、効率的に水素ラジカルを発生させ、基板21のクリーニング効果、および、成膜材料中の不純物を除去する効果を高めるために、以下の特徴的構成を有している。
(a)光照射により水素ラジカルを発生させる水素ラジカル発生装置10を備える構成;(b)水素ラジカル発生装置10にて予め発生させた水素ラジカルを基板処理室20に供給する構成;
(c)水素ラジカル発生装置10および分子線セル23が、それぞれ、基板処理室20とは独立して設けられる構成;
(d)水素ラジカル発生装置10から水素ラジカルを、分子線セル23からの成膜材料の分子線または原子線を、それぞれ別々に、基板処理室20に供給する構成。
【0079】
このように、本実施形態のMBE装置では、水素ラジカル発生装置10が、プラズマ方式でも熱方式でもなく、光方式(光照射)により水素ラジカルを発生させる。これにより、プラズマ方式により水素ラジカルを発生させる場合のように、高エネルギー粒子(水素イオンおよび電子など)が発生しない。また、高エネルギー粒子による不純物も発生しない。さらに、熱方式により水素ラジカルを発生させる場合のように、加熱による不純物も発生しない。従って、水素ラジカルを効率的に発生させることができる。さらに、高エネルギー粒子による基板21および成膜表面が、損傷されることを防ぐことができる。このため、基板21に形成されたエピタキシャル成長層の膜質および結晶性の劣化を、防ぐこともできる。
【0080】
また、本実施形態のMBE装置は、水素ラジカル発生装置10にて予め発生させた水素ラジカルを、基板処理室20に供給している。これにより、基板処理室20内に水素を供給して基板処理室20内で水素ラジカルを発生させる場合に比べて、基板処理室20内の水素ラジカル量を、顕著に高めることができる。
【0081】
さらに、本実施形態のMBE装置は、水素ラジカル発生装置10と分子線セル23とが、それぞれ独立して設けられている。そして、水素ラジカルと成膜材料の分子線または原子線とが、別々に、基板処理室20に供給される。すなわち、水素ラジカルと、成膜材料の分子線または原子線とが、独立して基板処理室20内の基板21に照射される。前述のように、基板処理室20には、予め発生させた水素ラジカルが供給されるため、基板処理室20内の水素ラジカル量は、顕著に高くなっている。従って、水素ラジカルによる、基板21のクリーニング効果、および、成膜材料中の不純物を除去する効果(成膜材料の高品質化)も顕著に高めることができる。
【0082】
なお、後述する実施例では、基板21にアルミニウム−ガリウム−砒素結晶の成長を行っている。しかし、本実施形態のMBE装置は、MBE装置によって結晶成長させることができる全ての成膜材料を、適用できる。
【0083】
(2)水素ラジカル発生装置
次に、水素ラジカル発生装置10の構成について、詳細に説明する。図2、図4〜図8は、水素ラジカル10a〜10fの構成の断面図である。なお、図4〜図8の構成(水素ラジカル発生装置10b〜10f)では、主に図2の構成(水素ラジカル発生装置10a)との相違点について説明するものとする。また、説明の便宜上、図2にて説明した図面と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を省略する。
【0084】
〔構成例1〕
図2に示すように、水素ラジカル発生装置10aは、短管5、短管5内に水素ガスを導入する配管2、および、水素ラジカルを発生させるための光源9を備えている。そして、水素ラジカル発生装置10aは、短管5内に供給された水素分子(水素ガス)に対し、光照射することにより、水素ラジカルを発生させる。
【0085】
短管5の一端(底部)は、短管5内を真空状態とするために、真空フランジ1に接続されている。また、短管5の他端は、MBE装置の基板処理室20の底部(図1参照)に設けられた接続フランジ6に接続されている。これにより短管5内は真空状態にすることが可能となり、真空室を形成する。すなわち、水素ラジカル発生装置10とMBE装置(基板処理室20)とは、真空状態を維持して連結されている。なお、短管5と真空フランジ1とは、真空フランジ1のシール部を介して連結されている。また、短管5とMBE装置の接続フランジ6とは、接続フランジ6のシール部を介して連結されている。なお、短管5と真空フランジ1とを一体加工した形態(すなわちシール部がない形態)をとることも可能である。
【0086】
配管2は、図2の直線矢印にて示すように、短管5内に水素ガスHを導入する。配管2は、短管5の底部に設けられた真空フランジ1を貫通して設けられている。従って、配管2の開放端4は、短管5内に設けられることになる。水素ガスHは、配管2を通って、この開放端4から短管5内に供給される。つまり、開放端4は、水素ガスHを射出する射出口(水素ガス供給口)となる。そして、配管2の開放端4から射出される水素ガスの方向は、図示しない、MBE装置内の基板21表面(成膜面)を向くようになっている。
【0087】
なお、配管2は、水素ボンベから水素ガスHを供給する。水素ガスHは、配管2に到達するまでに、図示しないバルブ,レギュレータ,マスフロー,フィルター,および精製器などのガス供給系を介して、短管5内に供給される。
【0088】
また、配管2は真空フランジ1を貫通しているため、貫通部3では、配管2の外周部と真空フランジ1の貫通穴との間に隙間ができないように、配管2と真空フランジ1とが溶接されている。これにより、配管2は固定されるとともに、真空排気時には大気リークしない構造となっている。配管2と真空フランジ1との溶接は、短管5内(真空側)で行っても、短管5外部(大気側)で行ってもよい。
【0089】
短管5の側面には、短管5内に光源9からの光を導入するためのポートが設けられている。このポートには、接続フランジ7が設けられている。接続フランジ7は、短管5内を覗くための覗き窓11を備えたビューフランジ8に接続されている。この覗き窓11により、外部から、短管5内を覗くことができる。例えば、配管2の開放端4から射出された水素ガスの流れを確認することができる。
【0090】
ここでは、覗き窓11は、合成石英製のものを使用している。この他にも、覗き窓11は、光源9から照射される紫外領域の波長を有する光を通すことができる材質であれば、特に限定されるものではない。このような材質としては、例えば、サファイヤ、フッ化マグネシウム、またはフッ化カルシウム製のものなどが挙げられる。
【0091】
光源9は、ビューフランジ8の外側(短管5の外部)に設けられている。すなわち、光源9は、ビューフランジ8の大気側に設けられている。前述のように、水素ラジカルを発生させるために、光源9から照射される光には、275nm以下の波長が含まれる。ここでは、光源9として低圧水銀ランプを用いているが、エキシマランプやエキシマレーザや重水素ランプなどを用いることもできる。なお、図示しないが、光源9には、光源9の出力を調整する電源が接続されている。
【0092】
光源9から照射された光Lは、ビューフランジ8を介して、短管5内に導入される。図2の構成では、開放端4と光源9とは、略同じ高さに設けられている。このため、光源9から照射された光Lは、配管2の開放端4近傍に到達することになる。すなわち、配管2を通って開放端4から射出された水素ガスHに、略垂直に光源9からの光Lが照射される。これにより、水素ガスH中の水素分子が、水素ラジカルに解離される。そして、生成した水素ラジカルが、基板21に向け照射される。
【0093】
MBE装置は、高真空中で結晶成長が行われるため、分子の平均自由行程は、基板処理室(成長室)20の大きさに比較して著しく長い。このため、水素ラジカル発生装置10aで生成され、基板処理室20に供給された水素ラジカルは、互いに、あるいは他の分子や原子と衝突することなく、確実に基板21に照射することができる。
【0094】
このように、図2の構成では、光源9が、配管2の開放端4と略同じ高さに設けられており、開放端4から射出された水素に光を照射するようになっている。そして、光源9は、水素ガスの供給方向に対して、略垂直方向に光を照射するようになっている。これにより、光源9は、開放端4から射出された直後の水素ガスに対し、確実に光照射することが可能となる。このため、水素分子を、確実に水素ラジカルに解離することができる。従って、水素ラジカルの発生効率をより高めることができる。
【0095】
なお、光源9は、開放端4から射出された水素に光を照射できる位置であれば、特に限定されるものではない。言い換えれば、光源9は、照射する光(紫外光)が遮蔽されることなく、照射された光が水素に到達する範囲(位置)であれば、特に限定されるものではない。ただし、光源9を開放端4と略同じ高さに設ければ、確実に水素に光を照射することができ、水素ラジカルを特に効率的に発生させることができるため好ましい。
【0096】
〔構成例2〕
次に、図4の水素ラジカル発生装置10bについて説明する。図4の水素ラジカル発生装置10bと、図2の水素ラジカル発生装置10aとでは、光を照射する方式が、異なる。それ以外の構成は、図2の構成と同様である。
【0097】
すなわち、前述の水素ラジカル発生装置10aでは大気側(短管5の外側)に光源9が設けられていたのに対し、図4の水素ラジカル発生装置10bでは、短管5内にフランジ付光源(光源)48が設けられている。つまり、図4の構成では、光源9が、真空内で光を照射する方式となっている。
【0098】
水素ラジカル発生装置10bでは、フランジ付光源48の光源部(低圧水銀ランプ)が短管5内に配されるように、接続フランジ7とフランジ付光源48のフランジ部とが、接続されている。すなわち、フランジ付光源48の光源部は、短管5内(真空内)に設けられている。このため、フランジ付光源48は、真空内で光照射できるように、フランジ付光源48のフランジ部を貫通する電流導入端子49を備えている。そして、この電流導入端子49により、フランジ付光源48の光源部に電力を供給している。
【0099】
このように、図4の水素ラジカル発生装置10bは、短管5内にフランジ付光源48を備えているため、フランジ付光源48と開放端4とを、近づけて設けることができる。これにより、開放端4から照射される水素ガスH中の水素分子を、確実に水素ラジカルに解離することができる。また、フランジ付光源48を真空内に設けているため、フランジ付光源48から照射された光Lが、大気を通過することはない。このため、照射された光Lが、大気中の酸素との反応により、減衰することを防ぐことができる。従って、水素ラジカルの発生効率を、より高めることができる。
【0100】
〔構成例3〕
次に、図5の水素ラジカル発生装置10cについて説明する。図5の水素ラジカル発生装置10cと、図2の水素ラジカル発生装置10aとでは、光を照射する方式が異なる。それ以外の構成は、図2の構成と同様である。また、図5の水素ラジカル発生装置10cも、図4の水素ラジカル発生装置10bと同様に、真空内で、光照射するようになっている。
【0101】
すなわち、図5の水素ラジカル発生装置10cは、図2の水素ラジカル発生装置10aにおいて、光源9を、真空に保持した密封容器510内に設置した構成である。
【0102】
密封容器510は、短管5とは独立して設けられている。このため、密封容器510は、短管5のポート7との接続を、Oリングなどの真空シールを介して行うことにより、密封容器510内の密封状態を保持している。密封容器510には開口部511が設けられており、この開口部511には真空ポンプ512が接続されている。これにより、密封容器510内を真空排気できる構成としている。そして、真空ポンプ512によって密封容器510内を真空排気することにより、光源9から照射された光(紫外光を含む)は、短管5内に照射される。
【0103】
このように、図5の水素ラジカル発生装置10cは、短管5とは独立して設けられ、真空に維持された密封容器510内に、光源9を備えている。すなわち、光源9は、真空内に設けられている。このため、光源9から照射された光Lが、大気を通過することはない。これにより、光源9から照射された光Lが、大気中の酸素との反応により、減衰することを防ぐことができる。このため、効率よく短管5内に、光を照射することができる。従って、水素ラジカルの発生効率を、より高めることができる。
【0104】
なお、密封容器510は、密封容器510内を真空排気する他にも、窒素置換することにより、紫外光と酸素の反応を抑制してもよい。
【0105】
〔構成例4〕
次に、図6の水素ラジカル発生装置10dについて説明する。図6の水素ラジカル発生装置10dと、図2の水素ラジカル発生装置10aとでは、光を照射する方式が異なる。それ以外の構成は、図2の構成と同様である。
【0106】
すなわち、図6の水素ラジカル発生装置10dは、光源9から照射される光を反射させるための反射鏡(反射部)612および613を備えた構成である。
【0107】
水素ラジカル発生装置10dは、光源9からビューフランジ8を介して導入される光路の延長線上に、別のポートが設けられている。すなわち、水素ラジカル発生装置10dでは、短管5の側部の両側に、対向してポートが設けられている。このポートには、光源9が設けられたポートと同様に、接続フランジ7が設けられている。また、接続フランジ7は、短管5内を覗くための覗き窓11を備えたビューフランジ8に接続されている。
【0108】
そして、光源9が設けられた側のポートには、ビューフランジ8との間に光源9が配置されるように、反射鏡612が設けられている。すなわち、反射鏡612は、光源9の背後に設けられている。これにより、光源9からは、反射鏡612により反射された光も照射される。
【0109】
一方、反対側のポートのビューフランジ8の外側(大気側)であって、光源9の光路の延長線上にも、反射鏡613が設けられている。これにより、開放端4近傍を通過した光は、ビューフランジ8を介してミラー613で反射される。そして、その反射光は再び配管2の開放端4に到達し、水素分子の解離に寄与することになる。さらに、この反射光は、再び光源9側へ到達し、光源9の背後に設置された反射鏡612により一部反射され、再び開放端4近傍に導入され、水素分子を解離する。
【0110】
このように、反射鏡612および613の間に、光源9が配置されるようにすることによって、光源9の光を有効に利用することができる。これにより、水素ラジカルの発生効率を高めることができる。
【0111】
なお、反射鏡612および613の配置状態は、光源9からの光の反射光も利用できる状態であれば特に限定されるものではなく、図6のように、2枚の反射鏡612および613を対向するように配置してもよいし、短管5の周囲に反射鏡を設ける構成とすることもできる。
また、光源9を真空内に設置してもよいし、反射鏡612および613を真空内に設置して、光の往復路を形成する構成とすることもできる。
【0112】
このように、図6の水素ラジカル発生装置10dは、光源9から照射された光が、反射鏡612および613によって反射する。これにより、反射鏡612および613によって反射された光も、水素ラジカルを発生させるために利用することができる。従って、光源9からの光を有効に利用することができ、水素ラジカルの発生効率も高めることもできる。
【0113】
なお、図6の水素ラジカル発生装置10dは、図5の構成のように、光源9を、真空に保持した密封容器内に設置することもできる。これにより、光源9から照射される紫外光が、大気中で酸素と反応して減衰することを回避できる。また、光源9に加えて、反射鏡612および613も真空に保持した密封容器内に設置することによって、より一層紫外光の減衰を防止できる。
【0114】
〔構成例5〕
次に、図7の水素ラジカル発生装置10eについて説明する。図7の水素ラジカル発生装置10eは、光源から照射される光を計測する機構(光検出部)を設置した点が、図2の水素ラジカル発生装置10aと異なる。それ以外の構成は、図2の構成と同様である。また、図7の構成は、図6の構成において反射鏡612および613がない構成であって、反射鏡613の部分に、光源から照射される光を計測する機構を設置した構成である。
【0115】
すなわち、図7の水素ラジカル発生装置10eは、光源9から照射された光の波長および光量の少なくとも一方を検出する分光測定装置(光検出部)712を備えた構成である。
【0116】
水素ラジカル発生装置10eは、光源9からビューフランジ8を介して導入される光路の延長線上に、別のポートが設けられている。このポートには、光源9が設けられたポートと同様に、接続フランジ7が設けられている。また、接続フランジ7は、短管5内を覗くための覗き窓11を備えたビューフランジ8に接続されている。
【0117】
そして、光源9が設けられた側のポートの反対側のポートには、ビューフランジ8の外側(大気側)であって、光源9の光路の延長線上に、光計測のための分光測定装置712が設置されている。このため、開放端4近傍を通過した光は、ビューフランジ8を介して分光測定装置712に照射されることになる。そして、分光測定装置712により、光源9から照射された光の波長及び照射強度(光量)が計測される。
【0118】
そして、分光測定装置712により、実際に、水素ガスHに照射される光量を見積もることが可能となる。このため、この光量を、光源9の電源の出力値にフィードバックすることにより、例えば何らかの原因でビューフランジ8が成膜され透過率が低下した場合、または、光源9のランプの出力揺らぎで照射量が不安定になった場合にも、光源9を制御する電源の出力を調整することができる。これにより、光源9の光量を調整し、最終的には、基板21に到達する水素ラジカル量を制御することができる。
【0119】
なお、ここでは、分光測定装置712は、分光器としてグレーティングを備え、検出にはフォトディテクターを備えている構成としている。ただし、この構成に限定されるものではなく、波長および強度が測定できる他の測定装置でもよい。
【0120】
このように、図7の水素ラジカル発生装置10eは、分光測定装置712が、光源9から照射された光の波長および光量の少なくとも一方を検出する。これにより、分光測定装置712により、光源9から照射される光を検出しながら、水素ラジカルを発生させることができる。このため、例えば、光源9に生じたトラブルにより、水素ラジカルを発生させるために必要な波長の光および光量が不足したとしても、分光測定装置712の検出結果に基づき、光源9から照射される光の波長および光量を調節することができる。従って、安定して水素ラジカルを発生させることができ、常に一定の水素ラジカルを、基板処理室20に供給することができる。
【0121】
〔構成例6〕
次に、図8の水素ラジカル発生装置10fについて説明する。図8の水素ラジカル発生装置10fは、光源9から照射される光によって解離した水素ラジカル量を測定する機構(水素ラジカル検出部)を設置した点が、図2の水素ラジカル発生装置10aと異なる。それ以外の構成は、図2の構成と同様である。
【0122】
すなわち、図8の水素ラジカル発生装置10fは、水素ラジカル発生装置10f内で発生した水素ラジカル発生量を検出する検出器(水素ラジカル検出部)815を備えた構成である。
【0123】
水素ラジカル発生装置10fは、光源9が設けられたポートよりも、基板処理室20側(接続フランジ6側)の短管5の両側部に、互いに対向するポート809および810が設けられている。すなわち、短管5には、光源9を設けるためのポートとは別に、一対の貫通位置関係になるポート809およびポート810が設けられている。それぞれのポートの接続フランジには、ビューフランジ811およびビューフランジ812が接続されている。なお、ポート809とポート810との位置関係は、図のような位置関係に限定されるものではなく、短管5内にて配管82から射出される水素ガス(水素ラジカル)流を貫通する位置関係にあれば良い。
【0124】
水素ラジカル発生装置10fでは、ビューフランジ811および812を用い、レーザー誘起蛍光測定(以下、LIF測定と称す)により水素の解離効率(水素ラジカルの発生効率)を測定した。
【0125】
LIF測定は、レーザー光により原子および分子を電子励起させ,それらが基底準位に落ちる際に発する蛍光を観測する手法である。この手法では、エネルギー準位間の共鳴遷移を利用するため、その励起の確率は大きく、高い感度での検出が可能である。
【0126】
LIF測定を実施する測定システムは、ビューフランジ811の外側(大気側)に計測用のレーザー光源814を、短管85内に照射できるように配置する。また、ビューフランジ812の外側(大気側)には検出器815を配置し、レーザー光源814からのレーザー光を検出する。このような測定システムにより測定した計測値は、水素ラジカル発生量に対応する量であるため、導入した水素ガス総量に対する割合から解離効率(水素ラジカル発生効率)を算出することが可能となる。従って、この解離効率から光源9の照射条件を最適化することができる。
【0127】
なお、ここでは、LIF測定について説明したが、この手法に限定されるものではない。例えば、ポート809を利用して、ビューフランジ811の代わりに、四重極質量分析計(QMS)を設置する。そして、そのQMSのイオン化部が、開放端4から出て、かつ、光Lにより解離された後の水素ラジカルを含む水素ガスの流れを測定できるように設置する構成とすることもできる。このような構成によって、ガス分析を行うことにより、水解離効率を測定することもできる。また、これら以外の解離効率を測定するためのその他の構成を備えるものでもよい。
【0128】
このように、図8の水素ラジカル発生装置10fは、検出器815が、水素ラジカル発生装置にて発生した水素ラジカルの発生量を検出する。これにより、検出器815により、水素ラジカルの発生量を検出しながら、水素ラジカルを発生させることができる。このため、例えば、光源9に生じたトラブルにより、水素ラジカルの発生量が変化したとしても、検出器815の検出結果に基づき、光源から照射される光の波長および光量を調節することができる。従って、安定して水素ラジカルを発生させることができ、常に一定の水素ラジカルを、基板処理室20に供給することができる。
【0129】
なお、本発明のMBE装置と、特許文献3および特許文献4のMBE装置とでは、以下の点が異なる。
【0130】
すなわち、特許文献3の熱方式により水素ラジカルを発生させる構成は、1500℃以上の加熱により水素ラジカルを発生させ、しかもその水素ラジカルを分子線セル内に導入している。このため、加熱による周辺部品からの放出ガスが不純物として膜中に取り込まれ、結晶品質が劣化してしまうという問題がある。
【0131】
また、特許文献3の光方式により水素ラジカルを発生させる構成では、紫外線照射室内で生成された水素ラジカルは、コンダクタンスの小さい配管を通過して、分子線セル内に供給される。言い換えれば、UV照射室で生成された水素ラジカルは、UV照射室よりも細い(幅が狭い)、配管から照射されることとなる。すなわち、生成された水素ラジカルは、先細の配管(隘路)を経由して、分子線セル内に供給される。このため、この配管内では、水素ラジカル同士の衝突による不活性化、あるいは、水素ラジカルの配管内壁面への衝突による不活性化などにより、水素ラジカルの発生効率(解離効率)が低くなる。このように、特許文献3では、UV照射により水素ラジカルを発生させているものの、UV照射励起後に、水素ラジカルが配管や坩堝に衝突するため、水素ラジカルの発生効率が著しく低下するという問題がある。
【0132】
さらに、特許文献4の構成において、水素ラジカルの使用目的は、成膜面の表面エネルギーを低減させ、ヘテロ接合界面(Si薄膜とSiGe薄膜との界面)の急峻性を向上させるためである。しかし、水素ラジカルの発生効率、基板のクリーニング効果、および、成膜成分中の不純物を除去することによる効果(結晶成長の高品質化)のそれぞれを高めるという、本発明の課題および効果については、何ら開示されていない。すなわち、特許文献4には、光励起方式(光方式)については一切記載されておらず、熱方式およびプラズマ方式のみが開示されているにすぎない。しかも、特許文献4は、Si−Geという特有の材料における特有の課題を解決のための構成が開示されているのであって、本発明のような水素ラジカルの発生効率を高めるという課題は想定されていない。
【0133】
従って、熱方式および光方式が開示された特許文献3と、特有のヘテロ接合界面の急峻性を向上させ、成膜面の表面エネルギーを低減させるために水素ラジカルを用いることが開示された特許文献4とを組み合せる必然性はない。
【0134】
仮に、特許文献3のUV励起(光方式)を、他の分子線セルと同様、単独で使用した場合、UV照射室を別途設ける必要があり、そこから射出口となる配管を有し、水素ラジカルを基板に向けて照射する形態となる。しかしながら、UV照射室で励起されて発生した水素ラジカルの一部は、UV照射室壁面または上記配管の内壁面で衝突するため、水素ラジカルが、消失すると考えられる。なお、水素分子の再解離を促すために、射出口となる配管材料を触媒効果のあるタングステン製にして、かつ1500℃以上に加熱する構成も考え得るが、この場合には、〔発明が解決しようとする課題〕で述べたような、放出ガスによる不純物の混入が問題となる。なお、水素ラジカルの消失度合いは、UV照射室形状や射出口形状に依存するため、各形状により異なる。
【0135】
これに対し、本発明のMBE装置では、短管5が先細とはなっていない(隘路がない)ため、短管5の壁面への衝突により、水素ラジカルが消失することを防ぐことができる。すなわち、水素ラジカルが基板に到達するまでの間に消失することを防ぐことができる。従って、仮に照射するUV光量が同じであれば、確実に本願の構成の方が、特許文献3の構成よりも、水素ラジカルの発生効率が高くなる。
【0136】
さらに、本発明のMBE装置と、特許文献3および4のMBE装置とでは、発生した水素ラジカルの分布状態が異なる。図9(a)〜図9(c)は、各構成における、発生した水素ラジカルの分布状態を示すグラフであり、図9(a)は特許文献4の構成で熱方式の場合,図9(b)は特許文献3の構成中でUV照射部を仮に基板に向けた場合,図9(c)は本発明の構成の場合における水素ラジカルの分布状態をそれぞれ示している。各図の縦軸は基板への水素ラジカルの照射強度の最大値で規格化した値、横軸は水素ラジカルの照射範囲の中心軸断面を示している。なお、縦軸の値の算出方法は、以下のとおりである。基板への水素ラジカルの照射強度は、基板に到達するラジカル濃度に比例する。従って、ラジカルの飛来量が最大となった基板の位置のラジカル照射強度が、最大となる。基板へのラジカルの飛来量は、ラジカル発生源の形状等の構造,ラジカル発生原理等の発生条件などに依存する。このため、ラジカル発生源の構造や発生条件は、ラジカルの飛来量に変化をもたらす。しかし、ラジカルの照射分布の傾向は、その構造や発生条件によって変わらない。このため、照射強度の最大値を基準値とすることにより、基板のラジカル照射分布の状況を表すことができる。
【0137】
図9(a)のように、熱方式により水素ラジカルを発生させる場合、加熱された配管40aの壁面に衝突した水素分子が水素ラジカルに解離され、その壁面に衝突しなかった水素分子に解離されずに、基板に照射される。また、解離された水素ラジカルが、配管40aの壁面にさらに衝突すると、その水素ラジカルは消失し、基板に照射されない。このため、配管40aの先端と基板とを結ぶ軸を0度とすると、発生した水素ラジカルは、その軸のオフセット角へ照射されることになる。従って、熱方式では、水素ラジカルは、基板の中心部よりも、周辺部に多く照射される傾向となる。つまり、分子流領域で考えると、配管40a先端で衝突した水素ラジカルが基板に照射されることになり、基板への水素ラジカルの照射量は、基板の中心部よりも周辺部の照射量が多くなる。
【0138】
このように、熱方式により水素ラジカルを発生させる場合、加熱された配管40aの先端部の壁面に衝突し解離された水素ラジカルの飛来方向が、基板に照射される水素ラジカルの照射分布に寄与する。
【0139】
図9(b)のような光照射方式により水素ラジカルを発生させる場合、UV照射室41にて解離された水素ラジカルが配管40bの先端から基板に照射され、配管40bの先端部の壁面に衝突した水素ラジカルは、その活性を消失するため、基板に照射されない。つまり、この構成では、UV照射室41よりも幅の狭い配管40bに衝突して消失しなかった水素ラジカルの飛来方向が、基板に照射される水素ラジカルの照射分布に寄与する。このため、図9(b)の光照射方式では、基板の中心部の照射量が多くなる。
【0140】
図9(c)のような本発明の構成の場合には、配管4から射出された水素分子に対して光を照射して、水素ラジカルを発生させる。このため、この構成では、配管4への衝突の制限がなく射出口から出た水素分子を一様に、水素ラジカルに解離することができるため、基板に照射される水素ラジカルの照射分布は、略平坦となることがわかる。また、本発明の構成では、プラズマ方式による高エネルギー粒子の発生および熱方式による放出ガスの発生がないため、水素ラジカルの発生効率が高い。しかも、本発明の構成では、水素ラジカルを広範囲に渡って、均一に照射できることが確認された。
【0141】
なお、上記で説明した水素ラジカル発生装置は、MBE装置の他にも、蒸着装置、気相成長装置、またはエッチング装置などの各種プロセス装置、あるいは電子顕微鏡などの超高真空を要する分析装置における、分析試料の前洗浄用の装置にも適用することもできる。
【0142】
なお、本発明を以下のように表現することもできる。
【0143】
〔1〕本発明の水素ラジカル発生装置は、真空室(真空チャンバ;真空槽)(短管5)に接続する機構(例えば真空フランジ1)と、当該真空室内に気体を導入する配管2とを備え、当該配管2は真空室内にて開放端4を有し、配管内を通じて水素ガスを真空室内に導入し、当該水素ガスが配管2の開放端4から射出された後、当該水素ガス中の水素分子に光を照射し、当該水素分子を前記光により原子状水素に解離する水素ラジカル発生装置。
【0144】
〔2〕〔1〕に記載の光源を設置する環境において、〔1〕記載の配管2の開放端4を設置する環境と同一環境下に設置することを特徴とする水素ラジカル発生装置。
【0145】
この構成は、例えば真空フランジに設置した電流導入端子を介して真空内にて使用できる光源を用いた構成である。これにより、水素を射出する開放端と光源が同じ減圧下に存在するため、効率よく水素分子を原子状水素に解離することが可能となる。
【0146】
〔3〕〔1〕に記載の光源を設置する環境において、〔1〕記載の配管2の開放端4を設置する環境と同一環境下に設置しない場合において、当該光源の周囲を真空状態に、または窒素雰囲気状態に保持することができる密封容器で囲うことと、かつ当該容器は覗き窓を介して〔1〕記載の配管の開放端を設置する環境を保持する容器に接続されていることと、かつ当該覗き窓を通して前記光源からの光を照射する水素ラジカル発生装置。
【0147】
〔4〕1枚以上の鏡(反射鏡)を設置し、〔1〕記載の前記光源からの光を当該鏡にて反射させることにより、〔1〕記載の開放端4から射出された水素ガス流の中を、1回以上光が往復する水素ラジカル発生装置。
【0148】
即ち、例えば2枚の鏡の間に前記開放端からの水素ガス流が存在し、かつ光が当該鏡との反射により往復を繰り返すことにより、水素ガス流中の水素分子の解離はより促進され、水素ラジカルへの解離効率が上昇する。
【0149】
〔5〕〔1〕記載の光の波長、及び強度を測定する測定器(光検出部)を搭載する水素ラジカル発生装置。
【0150】
〔6〕光を照射することにより水素分子を原子状水素に解離する〔1〕記載の原子状水素の生成量を測定する測定器を搭載する水素ラジカル発生装置。
【0151】
〔7〕光を照射することにより水素分子を水素ラジカル(原子状水素)に解離する〔1〕記載の水素ラジカル発生装置(原子状水素源)を搭載する水素ラジカル発生装置。
【0152】
〔8〕光を照射することにより水素分子を原子状水素に解離する〔1〕記載の原子状水素源を搭載した分子線エピタキシャル成長装置を用いて結晶成長させることを特徴とする基板(半導体装置)の製造方法。
【0153】
〔9〕光を照射することにより水素分子を原子状水素に解離する〔1〕記載の原子状水素源を搭載した分子線エピタキシャル成長装置を用いて結晶成長することにより製造されることを特徴とする基板(半導体装置)。
【0154】
これらの構成によれば、水素イオンや電子といった高エネルギー粒子を発生させないため、基板や膜にイオン損傷を与えることなく、また高エネルギー粒子による不純物のたたき出しもなく、さらには高温に加熱される部分がないため、部材からの放出ガスによる不純物混入もなく、基板のクリーニング、及び結晶成長の高品質化を実現する効果を奏する。
【0155】
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。すなわち、請求項に示した範囲で適宜変更した技術的手段を組み合せて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0156】
本実施例では、図2の水素ラジカル発生装置10a(構成例1)を備えたMBE装置を用いて、ガリウム砒素基板(GaAs)に対し、アルミニウム−ガリウム−砒素(Al−Ga−As)の単結晶膜を成長させた。結晶成長は、基板温度を580℃、成長速度を1ミクロン/時間として行った。水素ラジカルを照射した効果を明確にするために、成長中、一定時間のみ水素ラジカルを照射した。水素ラジカル発生装置20に供給した水素ガス流量は10sccmであり、このときの水素ガス分圧は5×10−4Paであった。図3は、成長させた膜中の残留酸素の測定結果を示すグラフである。図3のグラフは、結晶成長したアルミニウム−ガリウム−砒素単結晶膜中に残留する酸素濃度を、2次イオン質量分析法(SIMS)を用いて、膜表面から膜厚方向(膜に対して鉛直方向)に測定した結果を示している。また、このグラフの縦軸は、膜中の残留酸素濃度であり、横軸は膜表面からエッチング深さ(即ち表面からの距離)を示している。そして、図3のグラフ中の矢印A部が、水素ラジカルを照射しながら成長させた結晶部分に相当する。
【0157】
図3のグラフに示すように、水素ラジカルを照射しながら成長させた結晶中の残留酸素濃度は、約3.5×1016atom/cmである。この濃度は、水素ラジカルを照射せずに成長させた結晶中の残留酸素濃度(約7×1016atom/cm)よりも、約1/2に低減されている。これは、結晶成長させる際、活性な水素ラジカルが、成長面に飛来する酸素を還元することにより、酸素が結晶内に混入することを抑制しているためであると考えられる。
【0158】
このように、本発明のMBE装置は、水素ラジカルの発生効率を高め、成長させた結晶を高品質化させることができることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0159】
本発明は、水素ラジカルを効率的に発生させることができ、基板のクリーニング効果、および、成膜材料中の不純物を除去する効果を顕著に高めることができるので、MBE装置を用いる電子部品産業にて利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0160】
【図1】本発明にかかるMBE装置の構成を示す模式図である。
【図2】本発明にかかる構成例1の水素ラジカル発生装置の構造を模式的に示す断面図である。
【図3】図2の水素ラジカル発生装置をMBE装置に搭載し、結晶成長させた単結晶膜の膜厚方向の残留酸素濃度を示すグラフである。
【図4】本発明にかかる構成例2の水素ラジカル発生装置の構造を模式的に示す断面図である。
【図5】本発明にかかる構成例3の水素ラジカル発生装置の構造を模式的に示す断面図である。
【図6】本発明にかかる構成例4の水素ラジカル発生装置の構造を模式的に示す断面図である。
【図7】本発明にかかる構成例5の水素ラジカル発生装置の構造を模式的に示す断面図である。
【図8】本発明にかかる構成例6の水素ラジカル発生装置の構造を模式的に示す断面図である。
【図9】本発明にかかる水素ラジカル発生装置,特許文献3および4の水素ラジカル発生装置における、水素ラジカルの分布状態を示すグラフである。
【図10】熱励起方式による従来の水素ラジカル発生装置の水素ラジカルの射出部近傍の構造を模式的に示す断面図である。
【符号の説明】
【0161】
1 真空フランジ
2 配管
3 貫通部
4 開放端(水素供給口)
5 短管(真空室)
6 接続フランジ
7 接続フランジ
57、87、89、810 ポート
8、58、68,78,88、610、710、811、812 ビューフランジ
9、48、59,611,711,813 光源
10,10a,10b,10c,10d,10e,10f 水素ラジカル発生装置
49 電流導入端子
510 密封容器(容器)
511 真空排気用ポート
512 真空ポンプ
612,613 反射鏡(反射部)
712 分光測定装置(光検出部)
814 レーザー光源
815 検出器(水素ラジカル検出部)
20 基板処理室
21 基板
22 マニピュレータ
23 分子線セル
24 シュラウド
91 PBN管
92 タングステン製フィラメント
93,94 タングステンフィラメント用電流導入端子
H 水素ガス
L 照射光

【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空条件下、基板に成膜処理を施す基板処理室と、
光照射により水素ラジカルを発生させる水素ラジカル発生装置と、
成膜材料の分子線または原子線を発生させる分子線セルとを備え、
水素ラジカル発生装置および分子線セルは、それぞれ、基板処理室とは独立して設けられ、かつ、水素ラジカルと成膜材料の分子線または原子線とが、別々に、上記基板処理室に供給されるようになっていることを特徴とする分子線エピタキシャル成長装置。
【請求項2】
上記水素ラジカル発生装置は、真空室内で水素ラジカルを発生させるようになっており、
上記基板処理室と水素ラジカル発生装置とが、連結されていることを特徴とする請求項1に記載の分子線エピタキシャル成長装置。
【請求項3】
上記水素ラジカル発生装置は、
上記真空室内に水素分子を供給する配管と、上記水素分子に光を照射するための光源とを備えており、
上記配管の先端の水素供給口が、上記光源と略同じ高さに設けられていることを特徴とする請求項1に記載の分子線エピタキシャル成長装置。
【請求項4】
上記光源は、真空条件下または窒素雰囲気下で、光を照射するようになっていることを特徴とする請求項3に記載の分子線エピタキシャル成長装置。
【請求項5】
上記光源は、上記真空室内に設けられていることを特徴とする請求項3に記載の分子線エピタキシャル成長装置。
【請求項6】
上記光源は、上記真空室とは独立して設けられていることを特徴とする請求項3または4に記載の分子線エピタキシャル成長装置。
【請求項7】
上記水素ラジカル発生装置は、上記光源から照射された光を反射させる反射部を備えていることを特徴とする請求項3に記載の分子線エピタキシャル成長装置。
【請求項8】
上記光源および/または反射部は、真空または窒素雰囲気に維持された容器に収容されていることを特徴とする請求項6または7に記載の分子線エピタキシャル成長装置。
【請求項9】
上記水素ラジカル発生装置は、上記光源から照射された光量を検出する光量検出部を備えていることを特徴とする請求項3に記載の分子線エピタキシャル成長装置。
【請求項10】
上記水素ラジカル発生装置は、水素ラジカル発生量を検出する水素ラジカル検出部を備えていることを特徴とする請求項3に記載の分子線エピタキシャル成長装置。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか1項に記載の分子線エピタキシャル成長装置を用いて基板の成膜処理を行うことを特徴とする成膜基板の製造方法。
【請求項12】
光照射により水素ラジカルを発生させる水素ラジカル発生装置であって、
真空条件下基板に成膜処理を施す基板処理室と、成膜材料の分子線または原子線を発生させる分子線セルとを備えた分子線エピタキシャル成長装置に用いられる水素ラジカル発生装置において、
上記水素ラジカル発生装置は、上記分子線セルとは独立して設けられ、かつ、発生させた水素ラジカルを、成膜材料の分子線または原子線とは独立して上記基板処理室に供給するようになっていることを特徴とする水素ラジカル発生装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−351643(P2006−351643A)
【公開日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−172983(P2005−172983)
【出願日】平成17年6月13日(2005.6.13)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】