説明

水素・酸素混合ガス発生用電解装置および水素・酸素混合ガスの発生方法

【課題】低電力で水素・酸素混合ガスを発生させる。
【解決手段】水素・酸素混合ガス発生用電解装置30は、電解槽100と、電解槽100中に配置された第1の電極板102と、電解槽100中で第1の電極板102に対向して配置された第2の電極板104と、第1の電極板102と第2の電極板104との間に高周波の交流電圧を印加する第1の電圧制御部130と、電解槽100中に配置された電気分解用陽極板106と、電解槽100中で電気分解用陽極板106に対向して配置された電気分解用陰極板108と、電気分解用陽極板106と電気分解用陰極板108との間に電流を印加する第2の電圧制御部140と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素・酸素混合ガスを発生させるための電解装置およびその発生方法に関する。
【背景技術】
【0002】
石炭、石油、天然ガスなどの化石燃料は、精製により二次的に加工され、得られたLPG、ナフサ、ケロシンなどを燃焼させることによって動力としている。これらの燃焼時には、CO、NOなどの有毒ガス、およびCOなどの温室効果ガスが発生してしまう。これらの有毒ガスの発生を回避できないことが、地球の大気汚染の一因となっているという問題があった。
【0003】
また、自動車、航空機、船舶などの輸送機器、および火力発電などにおいて消費される化石燃料由来の燃料の消費量は、今後ますます増加していくものと予想される。さらに、化石燃料の埋蔵量は有限である。そのため、化石燃料の消費量を減らし有毒ガスの発生を抑制することによって、地球の大気汚染の進行を食い止めることが切望されている。
【0004】
このような問題を解決するために、水分子の電気分解により得られた、水素ガス(H)と酸素ガス(O)が混合した状態のガス(水素・酸素混合ガス)を化石燃料の代替燃料として使用する技術が知られている。水分子は、以下の反応式(1)および(2)により電気分解される。
陰極:2H+2e→H ・・・(1)
陽極:HO→1/2O+2H+2e・・・(2)
つまり、水分子の電気分解によって、2分子の水(HO)から2分子の水素(H)と1分子の酸素(O)が生じる。
【0005】
水素・酸素混合ガスを発生させるための装置として、たとえば特許文献1には絶縁式振動撹拌手段を備えた水素・酸素ガス発生装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−63669号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、水素・酸素混合ガスを発生させるための従来の装置には、以下に挙げるような問題があった。
【0008】
たとえば引用文献1の装置では、自動車や船舶等に供給するのに十分な量の水素・酸素混合ガスを容易に発生させることができないという問題があった。また、機械振動による撹拌を行っていたため、水素・酸素混合ガス発生時に大きな騒音が発生するという問題もあった。
【0009】
本発明はこうした課題に鑑みてなされたものであり、低電力性および静音性に優れ、十分な量の水素・酸素混合ガスを容易に発生させることができる水素・酸素混合ガス発生用電解装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明のある態様の水素・酸素混合ガス発生用電解装置は、電解槽と、電解槽中に配置された第1の極板と、電解槽中で第1の極板に対向して配置された第2の極板と、第1の極板と第2の極板との間に高周波の交流電圧を印加する第1の電圧制御部と、電解槽中に配置された電気分解用陽極板と、電解槽中で電気分解用陽極板に対向して配置された電気分解用陰極板と、電気分解用陽極板と電気分解用陰極板との間に電流を印加する第2の電圧制御部と、を備える。この態様によると、省電力かつ静音で、輸送機器に供給するのに十分な量の水素・酸素混合ガスを発生させることができる。
【0011】
上記態様の水素・酸素混合ガス発生用電解装置において、交流電圧の周波数が10kHz以上であってもよい。この態様によると、低電力性を大幅に向上させつつ効率的に十分な量の水素・酸素混合ガスを発生させることができる。
【0012】
上記態様の水素・酸素混合ガス発生用電解装置において、交流電圧の周波数が30〜50kHzの範囲であってもよい。この態様によると、低電力性を最適にしつつ、最小限の電力量で効率的に十分な量の水素・酸素混合ガスを発生させることができる。
【0013】
上記態様の水素・酸素混合ガス発生用電解装置において、電気分解用陽極板および電気分解用陰極板が、第1の極板および第2の極板と、互いに略直交するように電解槽中に配置されていてもよい。この態様によると、交流電圧の印加と電気分解とが互いに干渉することなく、効率的に水素・酸素混合ガスを発生させることができる。
【0014】
上記態様の水素・酸素混合ガス発生用電解装置において、電気分解用陽極板および電気分解用陰極板が、第1の極板と第2の極板との間に配置されていてもよい。この態様によると、交流電圧の印加と電気分解とを小さなスペースにおいて実現することができる。
【0015】
上記態様の水素・酸素混合ガス発生用電解装置において、複数の電気分解用陽極板と、複数の電気分解用陰極板と、を備え、電気分解用陽極板と電気分解用陰極板とが交互に対向するように配置されていてもよい。この態様によると、より効率的に水分子の電気分解を起こすことができる。それによって、水素・酸素混合ガスの発生量を増大させることができる。
【0016】
上記態様の水素・酸素混合ガス発生用電解装置において、第1の電圧制御部によって与えられる電圧が第2の電圧制御部によって与えられる電圧よりも大きくてもよい。この態様によると、交流電圧の印加を十分に行うことにより、効率的に水素・酸素混合ガスを発生させることができる。
【0017】
上記態様の水素・酸素混合ガス発生用電解装置において、第1の電極板および第2の電極板の少なくとも一方の面に、不導体から作られた遮蔽板が設けられていてもよい。これにより、各電極板と各電気分解用極板との間でショートが起きることなく、効率的に交流電圧の印加および水分子の電気分解を行うことができる。
【0018】
本発明の他の態様は、水素・酸素混合ガスの発生方法である。当該水素・酸素混合ガスの発生方法は、高周波の交流電圧を与えた状態で、水を電気分解して水素と酸素の混合ガスを発生させることを特徴とする。この態様によると、低電力かつ静音で水素・酸素混合ガスを発生させることができる。
【0019】
上記態様の水素・酸素混合ガスの発生方法において、交流電圧の周波数が10kHz以上であってもよい。この態様によると、低電力性を大幅に向上させつつ効率的に水素・酸素混合ガスを発生させることができる。
【0020】
上記態様の水素・酸素混合ガスの発生方法において、交流電圧の周波数が30〜50kHzの範囲であってもよい。この態様によると、低電力性を最適にしつつ効率的に水素・酸素混合ガスを発生させることができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明の水素・酸素混合ガス発生用電解装置によれば、低電力で水素・酸素混合ガスを発生させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】水素・酸素混合ガス発生部の側面方向の断面図である。
【図2】図1のP−P線上の断面図である。
【図3】水素・酸素混合ガス発生用電解装置を示す断面図である。
【図4】交流電圧の周波数を変化させたときに得られる水素・酸素混合ガスが、800ml生成されるまでに要する到達時間を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。なお、すべての図面において、同様な構成要素には同様の符号を付し、適宜説明を省略する。
【0024】
(実施の形態)
図1は、水素・酸素混合ガス発生部10の側面方向の断面図である。水素・酸素混合ガス発生部10は、図3に示す水素・酸素混合ガス発生用電解装置30の一部を構成する。水素・酸素混合ガス発生部10は、電解槽100を有する。電解槽100の上部には、上蓋110が設けられている。電解槽100と上蓋110は、接合部分から内部の電解水が漏れないように、フランジパッキング112により接合されている。ここで、電解水とは、電解質が添加された水のことをいう。電解質とは、溶媒中に溶解した際に、陽イオンと陰イオンに電離する物質をいう。
【0025】
また、上蓋110には、電解槽100の内部に電解水を供給する(矢印A)ための給水口114、電解槽100内で発生した水素・酸素混合ガスを取り出す(矢印B)ための水素・酸素混合ガス取出し口116が、それぞれ設けられている。また、電解槽100の側面には、電解槽100に入れられた電解水の現在の水位(矢印C)を測定するための水位計118が設けられている。
【0026】
電解槽100の内部には、第1の電極板102、第2の電極板104、4枚の電気分解用陽極板106(106a、106b、106c、106d:以下これらをまとめて106と呼ぶ)および4枚の電気分解用陰極板108(108a、108b、108c、108d:以下これらをまとめて108と呼ぶ)が配置されている。水素・酸素混合ガス発生用電解装置30の稼働時には、第1の電極板102、第2の電極板104、電気分解用陽極板106、電気分解用陰極板108の少なくとも一部が浸かる深さまで、電解水が入れられる。なお、電解槽100の容量は任意であるが、電解水の水温を電気分解によって上昇させすぎない観点から、電解槽100は大容量であることが好ましい。第1の遮蔽板120および第2の遮蔽板122については図2で説明する。
【0027】
図2は、図1のP−P線上の断面図である。電解槽100には、第1の電極板102と第2の電極板104とが互いに略平行に対向するように配置されている。後述する第1の電圧制御部130を用いて第1の電極板102と第2の電極板104とに高周波の交流電圧(高周波振動)を印加する。交流電圧が印加された電解水では、水分子同士のクラスターが分解される結果、水分子の電気分解が起こりやすく(したがって電気分解に要する電力が小さく)なるものと考えられる。なお、水分子を効率的に電気分解するために、第1の電極板102および第2の電極板104は、電解槽100の側面と平行に配置されることが望ましい。
【0028】
また、電解槽100には、4枚の電気分解用陽極板106(106a、106b、106c、106d)と4枚の電気分解用陰極板108(108a、108b、108c、108d)とが、互いに略平行に対向するように、交互に配置されている。後述する第2の電圧制御部140を用いて電気分解用陽極板106と電気分解用陰極板108との間に直流電圧を印加することによって、電解槽100中に入れられ上述の交流電圧を加えられた電解水中の水分子を電気分解する。
【0029】
電気分解用陽極板106および電気分解用陰極板108は、片面しか他の電極板に対向していない電気分解用陽極板106aと電気分解用陰極板108dを除き、いずれも両面が電気分解用極板として機能する。これによって、電気分解用陽極板106aと電気分解用陰極板108a、電気分解用陰極板108aと電気分解用陽極板106b、電気分解用陽極板106bと電気分解用陰極板108b、電気分解用陰極板108bと電気分解用陽極板106c、電気分解用陽極板106cと電気分解用陰極板108c、電気分解用陰極板108cと電気分解用陽極板106d、電気分解用陽極板106dと電気分解用陰極板108d、ののべ7組の電極間で水分子の電気分解が起きる。水分子を効率的に電気分解するために、電気分解用陽極板106および電気分解用陰極板108は、電解槽100の側面と平行に配置されることが望ましい。
【0030】
また、4枚の電気分解用陽極板106および4枚の電気分解用陰極板108は、第1の電極板102と第2の電極板104との間に、互いに略直交するように配置されている。これにより、電場が互いの極板の存在による影響を受けることなく、高周波の交流電圧の印加と電気分解とを小さなスペースにおいて実現することができる。また、第1の電極板102と第2の電極板104とにより高周波の交流電圧が印加された電解水を、電気分解用陽極板106と電気分解用陰極板108との間に供給しやすい配置であるため、水分子の電気分解をより効率的に行うことができる。
【0031】
このような電極板と電気分解用極板の配置により、後述する第1の電圧制御部130を用いて第1の電極板102と第2の電極板104とに交流電圧を印加した場合、第1の電極板102または第2の電極板104と、電気分解用陽極板106または電気分解用陰極板108との間で、ショートが起きてしまう可能性がある。そのため、第1の電極板102と第2の電極板104の少なくとも一方の面には、それぞれ不導体(絶縁体)から作られた第1の遮蔽板120および第2の遮蔽板122が設けられている。これにより、ショートすることなく効率的に、電解水に対して高周波の交流電圧を印加することができる。
【0032】
図2では、4枚の電気分解用陽極板106と、4枚の電気分解用陰極板108と、を備えた水素・酸素混合ガス発生部10を示した。しかし、電気分解用陽極板106と電気分解用陰極板108との枚数はそれぞれ1枚以上であればよく、それぞれ4枚未満であっても、それらより多い枚数であってもよい。また、電気分解用陽極板106と電気分解用陰極板108との枚数は互いに同じであってもよいし、異なっていてもよい。電気分解用陽極板106と電気分解用陰極板108の枚数を多くすることにより、より効率的に水分子の電気分解を起こすことができる。
【0033】
また、第1の電極板102と第2の電極板104との枚数もそれぞれ2枚以上であってもよい。これにより、より効率的に水分子のクラスターを分解し、水分子の電気分解を起こしやすくすることができる。
【0034】
図3は、水素・酸素混合ガス発生用電解装置30を示す断面図である。水素・酸素混合ガス発生用電解装置30は、図1および図2で示した水素・酸素混合ガス発生部10に加え、電圧制御部20を有する。電圧制御部20は、第1の電極板102および第2の電極板104に高周波の交流電圧を印加するための第1の電圧制御部130と、電気分解用陽極板106および電気分解用陰極板108に直流電圧を印加するための第2の電圧制御部140とを含む。
【0035】
水素・酸素混合ガス発生部10内に配置された第1の電極板102および第2の電極板104は、それぞれ配線132および配線134によって、第1の電圧制御部130と接続されている。第1の電圧制御部130は、配線132および配線134を経由して、第1の電極板102および第2の電極板104に高周波の交流電圧を印加する。
【0036】
水素・酸素混合ガス発生部10内に配置された4枚の電気分解用陽極板106と4枚の電気分解用陰極板108は、それぞれ配線142および配線144によって互いに接続されている。また、電気分解用陽極板106と電気分解用陰極板108は、それぞれ配線142および配線144によって、第2の電圧制御部140と接続されている。第2の電圧制御部140は、配線142および配線144を経由して、それぞれ電気分解用陽極板106および電気分解用陰極板108に直流電圧を印加する。
【0037】
上述の第1の遮蔽板120および第2の遮蔽板122を用いれば、ショートを防止することができるため、第1の電圧制御部130によって与えられる電圧を第2の電圧制御部140によって与えられる電圧よりも大きくすることが可能である。これにより、十分に交流電圧を印加した上で水分子の電気分解を行うことができる。しかし、第2の電圧制御部140によって与えられる電圧は、第1の電圧制御部130によって与えられる電圧よりも大きくてもよい。これによると、交流電圧の印加と直流電圧の印加による電気分解とが互いに干渉することなく、効率的に水素・酸素混合ガスを発生させることができる。
【0038】
また、水素・酸素混合ガス発生用電解装置30は、第1の電圧制御部130および第2の電圧制御部140を含む電圧制御部20を経由して、電源150と接続されている。電源150により、第1の電圧制御部130および第2の電圧制御部140に電力が供給される。また、第1の電圧制御部130と第2の電圧制御部140とを含む電圧制御部20は、水素・酸素混合ガス発生部10の下側に重ねて配置されるよう構成されることが好ましい。これにより、水素・酸素混合ガス発生用電解装置30をより小型化することができる。なお、図3では第1の電圧制御部130と第2の電圧制御部140とが電圧制御部20に含まれる構成を示したが、第1の電圧制御部130と第2の電圧制御部140とはそれぞれ独立して設けられていてもよい。
【0039】
電解槽100、第1の電極板102、第2の電極板104、電気分解用陽極板106、電気分解用陰極板108、第1の遮蔽板120、および第2の遮蔽板122は、それぞれ市販のものを使用することができる。電解槽100としては、たとえば樹脂製の電解槽を使用することができる。第1の電極板102および第2の電極板104としては、導電性を有する金属を使用することができる。耐久性およびコストの観点から、ステンレスを好適に使用することができる。しかし、電解水中で交流電圧を印加することによって溶けてしまう金属でなければ、これに限られない。第1の電極板102および第2の電極板104の大きさおよび厚さは、任意に決定することができる。また、第1の遮蔽板120および第2の遮蔽板122は、不導性を有する板であればよく、たとえば樹脂製またはゴム製の板を使用することができる。
【0040】
電気分解用陽極板106としては、市販の電気分解用極板を使用することができる。二酸化イリジウム被覆チタン板などのチタン板、または白金板を好適に使用することができる。また、電気分解用陰極板108としても、市販の電気分解用極板を使用することができる。二酸化イリジウム被覆チタン板または白金板を好適に使用することができる。耐久性の観点から、電気分解用陰極板108として白金板を使用することが特に好ましい。電気分解用陽極板106および電気分解用陰極板108の大きさおよび厚さは、任意に決定することができる。電気分解用陽極板106と電気分解用陰極板108との間の距離は、過剰な発熱を防止する観点から2cm以上が好ましく、電気分解の効率性の観点から5cm以下であることが好ましい。しかし、電解槽100の大きさや印加する電圧の大きさによっては、2cm未満、または5cmより大きい設計とすることもできる。
【0041】
電解水は、上述のとおり電解質を含む水のことをいう。電解水に含まれる水とは、純水、水道水、雨水、河川の水など、実質的にHO分子から構成される液体のことをいう。水としては、電解槽100内に汚れを付着させず水素・酸素混合ガス発生用電解装置を長時間安定して稼働させることができる点で、純水が好ましい。水の導電性を高めるために、電気分解をする水の中に電解質を加えることが好ましい。
【0042】
電解質としては、水溶性のアルカリ金属水酸化物(例えばNaCl、NaOH、KOH、クエン酸ナトリウムなど)、アルカリ土類金属水酸化物(例えばBa(OH)、Mg(OH)、Ca(OH)など)、第4級アルキルアンモニウム、リン酸、および硫酸などを使用することができる。電解質としては、コスト、電気分解に対する無害性、および化合物自体の安全性の面から、クエン酸ナトリウムが好ましい。電解液中の電解質の含有量は、導電性およびコストの観点から約0.3〜約0.5%が好ましい。電解液中の電解質の含有量が低すぎると、十分に通電ができず、電気分解の効率が低下する場合がある。一方、電解液中の電解質の含有量が高すぎると、電気分解用陽極板106と電気分解用陰極板108との間でショートが起きる場合がある。
【0043】
また、電気分解に伴って電解水の水温が上昇する。電気分解の効率化の観点からは電解水の温度がある程度高い方が望ましいが、電解水の温度が高すぎると水分子が気化してしまうため、水素・酸素混合ガス中に水蒸気が混じってしまう。その結果、水素・酸素混合ガスの燃料としての性能が低下してしまう。したがって、電解水中の水分子の気化を防止するために、給水口114から冷却した電解水を供給するか、電解槽100中の電解水を循環させることが好ましい。電解槽100中の電解水を循環させる場合には、電解槽100中に循環器を設けてもよい。また、水素・酸素混合ガスと水蒸気の混合物から、水蒸気のみを除去するようなフィルタを使用してもよい。
【0044】
電解槽100の内部に配置された第1の電極板102および第2の電極板104は、同じく電解槽100の内部に入れられた電解水に対し、高周波の交流電圧(高周波振動)を印加する。本明細書中で「高周波」の交流電圧とは、約1kHz以上の周波数の交流電圧をいう。第1の電極板102と第2の電極板104を用いて、電解水に対し高周波の交流電圧を与えることにより、水分子の電気分解に要する電力を大幅に低下させ、結果的に水素・酸素混合ガスの発生量を大幅に増加させることができる。さらに、高周波の交流電圧をかけても人間に聞こえる音は発生しないため、低周波の機械振動を加える場合と異なり、静音性を維持しつつ水分子の電気分解を行うことができる。電気分解の効率を高め、低電力で電気分解を行うためには、10kHz以上の交流電圧を印加することがより好ましく、30〜50kHzの交流電圧を印加することが最も好ましい。
【0045】
第1の電極板102と第2の電極板104によって高周波の交流電圧を与えた後の電解水中の水分子を、そのままの位置で電気分解することができれば、電気分解の効率および省スペース化の観点から有利である。そのため、図2および図3に示すように、電気分解用陽極板106および電気分解用陰極板108が、第1の電極板102および第2の電極板104と互いに直交するように、これらに挟まれる形で配置されていることが好ましい。
【0046】
しかし、第1の電極板102と第2の電極板104を用いて十分にクラスターが分解される前の水が、電気分解される可能性も考えられる。そのため、第1の電圧制御部130と第2の電圧制御部140とを排他的に制御することによって、電解水に含まれる水分子のクラスターを分解した後、電気分解をしてもよい。また、第1の電圧制御部130を稼働させてから所定時間が経過した後に第2の電圧制御部140の稼働を開始して電気分解をしてもよい。
【0047】
または、省スペース化の必要がない場合などには、たとえば第1の電極板102と第2の電極板104とを第1の電解槽に入れて電解水に含まれる水分子のクラスターを分解した後、ポンプなどを用いてこの電解水を電気分解用陽極板106および電気分解用陰極板108を含む第2の電解槽に移動させ、電解水中の水分子を電気分解してもよい。
【0048】
(用途)
本発明の水素・酸素混合ガス発生用電解装置30を用いると、大量の水素・酸素混合を簡便かつ低コストで、しかも静音で発生させることができる。水素・酸素混合ガス発生用電解装置30を用いて発生させた水素・酸素混合ガスは、たとえば自動車、航空機、船舶などの輸送機器の燃料として直接使用することができる。特に、従来の化石燃料を補助する形で、化石燃料に加えて所定量の水素・酸素混合ガスを使用することにより、化石燃料の使用量を大幅に減らすことができる。その結果、化石燃料の燃焼時に発生し、地球の大気汚染の一因となっているCO、NOなどの有毒ガス、およびCOなどの温室効果ガスの発生量を減らすことができる。
【0049】
また、水素・酸素混合ガス発生用電解装置30の大きさをより大きくしたり、複数の水素・酸素混合ガス発生用電解装置30を並列的に使用することによって、輸送機器以外の電力供給を補助する装置として、水素・酸素混合ガス発生用電解装置30を使用することも可能である。
【0050】
(実施例)
本発明の水素・酸素混合ガス発生用電解装置を用いて、高周波の交流電圧(高周波振動)の周波数の値を変化させて、水素・酸素混合ガスを発生させた。
【0051】
容量が約13.6Lの電解槽、第1の電極板および第2の電極板としてステンレス板(片面の表面積:縦10cm×横25cm)、電気分解用陽極板および電気分解用陰極板として二酸化イリジウム被覆チタン板(片面の表面積:縦20cm×横10cm)をそれぞれ4枚ずつ交互に並べ、水素・酸素混合ガス発生用電解装置を作製した。
【0052】
(交流電圧の周波数と水素・酸素混合ガスの発生量との関係)
水素・酸素混合ガス発生用電解装置を用いて、交流電圧の周波数を変化させ、それぞれの周波数で水素・酸素混合ガスの発生量を測定した。電解水として、市販の純水に0.5%のクエン酸ナトリウムを混ぜた水溶液(pH6.8〜7.0)を使用した。
【0053】
水分子の電気分解では、反応時に熱が発生するため、電解水の温度が上昇する。水温が上昇すると一般に水分子の電気分解の効率は上昇する。しかし、ここでは水分子の電気分解の効率に対する交流電圧の周波数の影響のみを見るために、測定開始時の電解水の温度を27℃で統一した。電気分解を行う10分前から、第1の電極板および第2の電極板を用いてそれぞれの周波数で交流電圧(20V)を印加し、電気分解中も印加を継続した。電気分解用陽極板および電気分解用陰極板に印加する直流電圧は約15Vで一定とした。
【0054】
【表1】

【0055】
表1に、交流電圧の周波数と水素・酸素混合ガスの発生量との関係を示す。交流電圧の周波数を変化させ、水素・酸素混合ガスの発生量の変化を調べた。水素・酸素混合ガスの発生量として、800mlの水素・酸素混合ガスが発生するまでに要する到達時間を測定した。また、交流電圧を印加しない場合の到達時間も測定した。
【0056】
図4は、交流電圧の周波数を変化させたときに得られる水素・酸素混合ガスが、800ml生成されるまでに要する到達時間を表すグラフである。図4は、表1のデータに基づき作成した。図4から、10kHz以上の高周波の交流電圧を印加して電気分解を行った場合、高周波の交流電圧を印加しない場合(0kHz)に比べて水素・酸素混合ガスの発生速度が大幅に上昇することが明らかとなった。特に、30〜50kHzの高周波の交流電圧を印加した場合に、水素・酸素混合ガスの発生速度が著しく上昇した。
【0057】
本発明は、上述の各実施の形態に限定されるものではなく、当業者の知識に基づいて各種の設計変更等の変形を加えることも可能であり、そのような変形が加えられた実施の形態も本発明の範囲に含まれうるものである。
【符号の説明】
【0058】
30 水素・酸素混合ガス発生用電解装置、100 電解槽、102 第1の電極板、104 第2の電極板、106 電気分解用陽極板、108 電気分解用陰極板、130 第1の電圧制御部、140 第2の電圧制御部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解槽と、
前記電解槽中に配置された第1の電極板と、
前記電解槽中で前記第1の電極板に対向して配置された第2の電極板と、
前記第1の電極板と前記第2の電極板との間に高周波の交流電圧を印加する第1の電圧制御部と、
前記電解槽中に配置された電気分解用陽極板と、
前記電解槽中で前記電気分解用陽極板に対向して配置された電気分解用陰極板と、
前記電気分解用陽極板と前記電気分解用陰極板との間に電流を印加する第2の電圧制御部と、を備えることを特徴とする水素・酸素混合ガス発生用電解装置。
【請求項2】
前記交流電圧の周波数が10kHz以上であることを特徴とする請求項1に記載の水素・酸素混合ガス発生用電解装置。
【請求項3】
前記交流電圧の周波数が30〜50kHzの範囲であることを特徴とする請求項1または2に記載の水素・酸素混合ガス発生用電解装置。
【請求項4】
前記電気分解用陽極板および前記電気分解用陰極板が、前記第1の電極板および前記第2の電極板と、互いに略直交するように前記電解槽中に配置されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の水素・酸素混合ガス発生用電解装置。
【請求項5】
前記電気分解用陽極板および前記電気分解用陰極板が、前記第1の電極板と前記第2の電極板との間に配置されていることを特徴とする請求項4に記載の水素・酸素混合ガス発生用電解装置。
【請求項6】
複数の前記電気分解用陽極板と、複数の前記電気分解用陰極板と、を備え、
前記電気分解用陽極板と前記電気分解用陰極板とが交互に対向するように配置されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の水素・酸素混合ガス発生用電解装置。
【請求項7】
前記第1の電圧制御部によって与えられる電圧が前記第2の電圧制御部によって与えられる電圧よりも大きいことを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の水素・酸素混合ガス発生用電解装置。
【請求項8】
前記第1の電極板および前記第2の電極板の少なくとも一方の面に、不導体から作られた遮蔽板が設けられたことを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の水素・酸素混合ガス発生用電解装置。
【請求項9】
高周波の交流電圧を与えた状態で、水を電気分解して水素と酸素の混合ガスを発生させることを特徴とする水素・酸素混合ガスの発生方法。
【請求項10】
前記交流電圧の周波数が10kHz以上であることを特徴とする請求項9に記載の水素・酸素混合ガスの発生方法。
【請求項11】
前記交流電圧の周波数が30〜50kHzの範囲であることを特徴とする請求項9または10に記載の水素・酸素混合ガスの発生方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2012−52196(P2012−52196A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−196481(P2010−196481)
【出願日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【出願人】(510237653)
【Fターム(参考)】