説明

水素分離方法及び水素分離装置

【課題】炭素化合物及び水素を含むガスから、高純度の水素ガスを得ることができる水素分離方法を提供する。
【解決手段】細孔を形成する骨格が酸素6員環以下の環である結晶性ゼオライトからなる水素分離膜により仕切られた前記水素分離膜の一方の面側の空間と他方の面側の空間のうち、前記一方の面側の空間内に炭素化合物及び水素を含むガスを供給するとともに、前記水素分離膜の前記一方の面側の空間内の水素分圧に比べて前記他方の面側の空間内の水素分圧を低くすることによって、前記一方の面側の空間から前記他方の面側の空間に前記ガス中の水素を選択的に透過させて前記ガスから水素を分離する水素分離方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素分離方法及び水素分離装置に関し、更に詳しくは、炭素化合物及び水素を含むガスから、高純度の水素ガスを得ることができる水素分離方法及び水素分離装置に関する。
【背景技術】
【0002】
膜分離技術は、食品加工、電子工業、製薬工業、化学工業などの多くの分野において実用化されている。この膜分離技術においては、気体分離技術、液体分離技術などがあり、気体分離技術においては、例えば、水素分離、二酸化炭素分離、水蒸気分離、酸素分離(酸素富化)などがある。一方、液体分離技術は、液体に分散している微粒子などを分離したり、濃縮したりする技術であり、分離する微粒子などの物質の大きさによって、精密ろ過膜(MF膜)、限外ろ過膜(UF膜)、逆浸透膜(RO膜)などがある。
【0003】
上記気体分離技術のうち水素分離方法は、具体的には、メタン、エタン、プロパン、二酸化炭素、水素等を含むガス(例えば天然ガスなど)から、水素分離膜を用いて水素を選択的に分離する方法がある。そして、この水素分離膜としては、高分子膜、アモルファスシリカ膜、ゼオライト膜などが知られ、これらの膜を用いた水素分離方法が知られている(例えば、特許文献1〜8参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第2509962号公報
【特許文献2】特許第2844349号公報
【特許文献3】特許第3440632号公報
【特許文献4】特開2005−254161号公報
【特許文献5】特開2005−118767号公報
【特許文献6】特開2003−160308号公報
【特許文献7】特開2007−125543号公報
【特許文献8】特開2004−105942号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1〜3に記載の分離方法では、使用する高分子膜の耐熱性が十分ではないため、高温のガスから水素を分離する場合に、高分子膜に変形等の欠損が生じることがあった。そのため、この欠損部分から水素以外の成分が通ってしまい、高純度の水素ガスを得ることができなかった。また、供給するガス中の炭素化合物によって高分子膜が膨潤してしまうため、水素以外の成分が上記高分子膜を通ってしまい、高純度の水素ガスを得ることができないという問題があった。
【0006】
特許文献4〜7に記載の分離方法では、アモルファス材料からなる分離膜を使用しているが、アモルファス化させると、分離膜の細孔径に大きなばらつきが生じることに加え、上記分離膜には比較的大きな細孔が存在することになる。そのため、水素以外の成分も上記分離膜を透過し得ることになり高純度の水素ガスを得ることが困難であった。また、アモルファス材料からなる分離膜は、熱や水蒸気などに対する安定性が十分でなく(即ち、耐久性が十分でなく)、高純度の水素ガスが得られないという問題があった。特許文献8に記載の分離方法では、比較的高純度の水素ガスが得られるものの、未だ十分な純度ではなく更に高純度の水素ガスが得られる方法が切望されている。
【0007】
本発明は、このような従来技術の有する問題点に鑑みてなされたものであり、その課題とするところは、炭素化合物及び水素を含むガスから高純度の水素ガスを得ることができる水素分離方法及び水素分離装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、以下に示す、水素分離方法及び水素分離装置が提供される。
【0009】
[1] 細孔を形成する骨格が酸素6員環以下の環である結晶性ゼオライトからなる水素分離膜により仕切られた前記水素分離膜の一方の面側の空間と他方の面側の空間のうち、前記一方の面側の空間内に炭素化合物及び水素を含むガスを供給するとともに、前記水素分離膜の前記一方の面側の空間内の水素分圧に比べて前記他方の面側の空間内の水素分圧を低くすることによって、前記一方の面側の空間から前記他方の面側の空間に前記ガス中の水素を選択的に透過させて前記ガスから水素を分離する水素分離方法。
【0010】
[2] 前記水素分離膜として、Al原子の数に対するSi原子の数の比の値が5以上である結晶性ゼオライトを用いる前記[1]に記載の水素分離方法。
【0011】
[3] 前記水素分離膜として、前記骨格が、Si−O結合、Al−O結合、またはこれらの両方の結合により構成されており、前記細孔を形成する骨格のうち酸素6員環の割合が25%以上である結晶性ゼオライトを用いる前記[1]または[2]に記載の水素分離方法。
【0012】
[4] 前記ガスとして、水素及び50体積%以上の前記炭素化合物を含むものを用いる前記[1]〜[3]のいずれかに記載の水素分離方法。
【0013】
[5] 複数の細孔が形成された多孔質基体と、前記多孔質基体の表面に形成され、細孔を形成する骨格が酸素6員環以下の環である結晶性ゼオライトからなる水素分離膜と、を有する水素分離体と、炭素化合物及び水素を含むガスが供給される供給口及び前記ガスから分離された水素が排出される排出口を有し、前記水素分離体を収納し得る収納体と、を備え、前記水素分離体の前記水素分離膜により仕切られた前記水素分離膜の一方の面側の空間と他方の面側の空間のうち、前記一方の面側の空間内に前記ガスを供給するとともに、前記水素分離膜の前記一方の面側の空間内の水素分圧に比べて前記他方の面側の空間内の水素分圧を低くすることによって、前記一方の面側の空間から前記他方の面側の空間に前記ガス中の水素を選択的に透過させて前記ガスから水素を分離し得る水素分離装置。
【発明の効果】
【0014】
本発明の水素分離方法によれば、「細孔を形成する骨格が酸素6員環以下の環である結晶性ゼオライトからなる水素分離膜」を用いるため、従来の水素分離膜よりも高い選択性で炭素化合物及び水素を含むガスから水素を分離することができる。また、例えば高分子膜のようにガス中の炭素化合物により膨潤して水素以外の成分も上記膜を透過してしまう(水素ガスの純度が低下してしまう)という問題が生じ難く、高純度の水素ガスを得ることができる。更に「結晶性」のゼオライトであるためアモルファス化した膜に比べて熱や水蒸気などにより劣化し難い。従って、高純度の水素ガスを得ることができる。
【0015】
本発明の水素分離装置は、「細孔を形成する骨格が酸素6員環以下の環である結晶性ゼオライトからなる水素分離膜」を用いるため、前記水素分離体の前記水素分離膜により仕切られた前記水素分離膜の一方の面側の空間と他方の面側の空間のうち、前記一方の面側の空間内に炭素化合物及び水素を含むガスを供給するとともに、前記水素分離膜の前記一方の面側の空間内の水素分圧に比べて前記他方の面側の空間内の水素分圧を低くすることにより、高純度の水素ガスを安定して得ることができるものである。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の水素分離装置の一実施形態を模式的に示す断面図である。
【図2】ガス透過試験に使用するガス透過試験装置を模式的に示す一部断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、以下の実施の形態に対し適宜変更、改良等が加えられたものも本発明の範囲に入ることが理解されるべきである。
【0018】
[1]水素分離方法:
本発明の水素分離方法によれば、「細孔を形成する骨格が酸素6員環以下の環である結晶性ゼオライトからなる水素分離膜」を用いるため、従来の水素分離膜よりも高い選択性で炭素化合物及び水素を含むガスから水素を分離することができる。また、例えば高分子膜のようにガス中の炭素化合物により膨潤して水素以外の成分も上記膜を透過してしまうという問題が生じ難く、高純度の水素ガスを得ることができる。更に「結晶性」のゼオライトであるためアモルファス化した膜に比べて熱や水蒸気などにより劣化し難い。従って、高純度の水素ガスを得ることができる。
【0019】
本発明で使用する水素分離膜は、細孔が形成された結晶性ゼオライトからなり、この結晶性ゼオライトの細孔を形成する骨格が酸素6員環以下の環である。「酸素6員環以下の環」とは、酸素6員環、酸素5員環、酸素4員環、または酸素3員環のことである。なお、本発明における結晶性ゼオライトは、酸素6員環、酸素5員環、酸素4員環、酸素3員環を複数種含んでいてもよい。
【0020】
酸素n員環とは、単にn員環とも称す場合もあり、n個の酸素原子、Si原子、Al原子(但し、Si原子とAl原子との総数はn個)が単環状をなすように結合した構造であって、各酸素原子は互いに結合せずSi原子またはAl原子と結合しているものである。
【0021】
上記結晶性ゼオライトの細孔は、酸素6員環以下の環の内側の空間のことである。結晶性ゼオライトからなる水素分離膜は、結晶性ゼオライトの分子篩機能(即ち、結晶性ゼオライトの細孔を通り得るものと通り得ないものとに分離する機能)によって原料ガスから水素を選択的に分離することができる。
【0022】
本発明における上記結晶性ゼオライトとしては、例えば、AFG、DOH、FAR、FRA、GIU、LIO、LOS、MAR、MEP、MSO、MTN、NON、RUT、SGT、SOD、TOLなどの結晶性ゼオライトを挙げることができる。なお、上記例示は、International Zeolite Associationで定めるゼオライト名表記である。
【0023】
上記結晶性ゼオライトの合成方法としては、例えば、水熱合成法、ドライゲルコンバージョン法等を挙げることができる。また、必要に応じて、結晶性ゼオライト中の構造規定材を除去するために、熱処理や溶媒抽出処理等を行ってもよい。
【0024】
また、上記結晶性ゼオライトの原料としては、Si原子、Al原子、P原子、Ga原子等からなる化合物を用いることができる。具体的には、例えば、シリカライト、アルミノケイ酸塩、リン酸アルミ、シリコアルミノリン酸塩、リン酸ガリウム等を挙げることができる。これらの中で、シリカライト、アルミノケイ酸塩は、これらを用いた場合、膜合成が容易であるため工業的な観点から好ましい。
【0025】
本発明の水素分離方法においては、水素分離膜として、Al原子の数に対するSi原子の数の比の値(Si/Al比)が5以上である結晶性ゼオライトを用いることが好ましく、10以上である結晶性ゼオライトを用いることが更に好ましく、50以上である結晶性ゼオライトを用いることが特に好ましい。Si/Al比が上記範囲内であると、水素分離膜が疎水性を示すため水の吸着量が少なくなる。そのため、原料ガスに水が含まれていた場合であっても膜が水を吸着することにより閉塞し難く、高純度の水素ガスを安定して得ることができる。別言すれば、Si/Al比が上記範囲未満である場合、水素分離膜はより親水性を示すため水を吸着し易くなり、原料ガスに水が含まれていた場合に膜の細孔が閉塞してしまうおそれがある。そのため、水素ガスを安定して得ることが困難になるおそれがある。従って、原料ガスに含まれる水を事前に除去する必要が生じる。
【0026】
更に、前記水素分離膜として、前記骨格が、Si−O結合、Al−O結合、またはこれらの両方の結合により構成されており、上記細孔を形成する骨格のうち酸素6員環の割合が25%以上である結晶性ゼオライトを用いることが好ましい。酸素6員環の割合が上記範囲内であると、水素の選択透過に寄与する細孔が増加するため、水素の透過速度が向上するという利点がある。
【0027】
本明細書において、酸素6員環の割合とは、酸素6員環の数を酸素6員環の数と酸素5員環の数と酸素4員環の数と酸素3員環の数の総和で除した値であり、ゼオライトの種類に固有の値である。
【0028】
本発明の水素分離方法においては、ゼオライトからなる水素分離膜を用いているため、水素及び50体積%以上の炭素化合物を含むガスを用いることができ、炭素化合物の含有割合としては上記範囲の中でも50〜99体積%とすることができる。即ち、本発明の水素分離方法においては、50体積%以上の「炭素化合物」を含むガスであっても上記ガスから水素を安定して分離することができ、高純度(例えば、純度95体積%以上)の水素ガスを安定して得ることができる。一方、水素分離膜として高分子膜を用いると、原料ガス中の「炭素化合物」により高分子膜が膨潤して水素以外の成分も上記膜を透過してしまう(特に、「炭素化合物」が50体積%以上である場合、高分子膜が膨潤してしまう)ため、高純度の水素ガスを得ることが困難である。
【0029】
「炭素化合物」は、炭素を有する揮発性の低分子化合物であり、例えば、二酸化炭素、メタン、エタン、エチレン、プロパン、プロピレンなどを挙げることができ、原料ガスには、上記化合物が複数種含まれていてもよい。
【0030】
原料ガス中の水素の含有割合としては、1〜50体積%とすることができる。
【0031】
水素分離膜の厚さは、0.01〜50μmとすることが好ましく、1〜10μmとすることが更に好ましい。
【0032】
本発明の水素分離方法において、水素分離膜の一方の面側の空間内の水素分圧に比べて他方の面側の空間内の水素分圧を低くする方法としては、例えば、一方の面側の空間に供給する原料ガスをコンプレッサーなどで加圧したり、他方の面側の空間内を、真空ポンプなどを用いて減圧する方法を挙げることができる。
【0033】
本発明の水素分離方法における原料ガスの温度や圧力は、用いる原料ガスなどにより適宜変更可能である。原料ガスの温度としては、具体的には、−160〜900℃が好ましい。一方の面側の空間内の水素分圧と他方の面側の空間内の水素分圧の圧力差としては、具体的には、0.01〜10MPaが好ましい。
【0034】
本発明の水素分離方法の一実施形態としては、図1に示す水素分離装置1(本発明の水素分離装置)を用いて炭素化合物及び水素を含むガスから水素を分離する方法が挙げられる。
【0035】
図1に示す水素分離装置1は、複数の細孔が形成された多孔質基体12と、この多孔質基体12の表面に形成された水素分離膜14とを有する水素分離体16と、炭素化合物及び水素を含むガスG1が供給される供給口18及び上記ガスG1から分離された水素が排出される排出口20を有し、水素分離体16を収納し得る収納体22とを備えている。水素分離膜14は、細孔を形成する骨格が酸素6員環以下の環である結晶性ゼオライトからなるものである。
【0036】
水素分離装置1を用いた水素分離方法としては、具体的には、水素分離体16の水素分離膜14により仕切られた水素分離膜14の一方の面側の空間24と他方の面側の空間26のうち、一方の面側の空間24内に炭素化合物及び水素を含むガスG1を供給するとともに、水素分離膜14の一方の面側の空間24内の水素分圧に比べて他方の面側の空間26内の水素分圧を低くすることによって、一方の面側の空間24から他方の面側の空間26に上記ガスG1中の水素を選択的に透過させて上記ガスG1から水素を分離する。
【0037】
なお、図1に示すように、上記ガスG1は、水素分離膜14の、多孔質基体12が配設している側とは反対側の空間に供給されることが好ましい。即ち、一方の面側の空間は、水素分離膜の、多孔質基体が配設されている側とは反対側の空間であることが好ましい。このように上記ガスG1を供給すると、水素分離膜14近傍でのガスの置換が容易になるため、水素透過量や水素純度が増加する。
【0038】
[2]水素分離装置:
本発明の水素分離装置の一実施形態としては、上述した図1に示す水素分離装置1を例示することができる。図1は、本発明の水素分離装置の一実施形態を模式的に示す断面図である。
【0039】
水素分離体の多孔質基体としては、セラミック、金属、高分子などを用いることができ、水素分離膜と比較的熱膨張率の値が近く熱や水蒸気などに対して安定であるため、特にセラミックが好ましい。多孔質基体の形状としては、チューブ状の構造体、モノリス状の構造体を挙げることができる。チューブ状の多孔質基体は、例えば、図1に示すように、セラミックからなる筒状の壁28を有し、その壁28によって区分された、中心部を貫通する単一のセル30が形成された構造のものである。モノリス状の多孔質基体は、セラミックからなる格子状の隔壁を有し、その隔壁によって区分された多数のセルが形成されたハニカム構造のものである。これらのうち、モノリス状の多孔質基体は、単位体積当たりの分離面積が大きく処理能力が高い。
【0040】
多孔質基体を構成するセラミックとしては、例えば、アルミナ(Al)、チタニア(TiO)、ムライト(Al・SiO)、ジルコニア(ZrO)、シリカ(SiO)等を挙げることができる。これらの中でも、耐食性が高いという観点から、アルミナが好ましい。
【0041】
多孔質基体の平均細孔径は、機械的強度、基体の表面粗さ、水素の透過量等のバランスを考慮して決定され、通常、0.001〜10μm程度である。
【0042】
モノリス状の多孔質基体は、所定のセルの両端開口部が目封止部によって目封止されていてもよい。目封止部は、多孔質基体と同じ材料とすることができる。
【0043】
また、モノリス状の多孔質基体としては、多孔質基体の両端面(セル開口部以外の部分)が、ガラス等の不透水性材料からなる被膜により被覆されたものであってもよい。この被膜により、原料ガスと分離された水素ガスとが混合してしまうことを防止できる。
【0044】
セル形状(流体の流通方向と直交する断面における形状)としては、例えば、円形、楕円形、四角形、六角形、三角形等を挙げることができる。これらの中でも、セルを形成する壁の表面に水素分離膜を形成する場合に、均一な膜厚の水素分離膜を形成できるという観点から円形であることが好ましい。
【0045】
多孔質基体の形状については、水素分離体の分離性能を阻害しない限り特に制限はない。全体的な形状としては、例えば、円柱状、四角柱状、三角柱状等を挙げることができる。円柱状の水素分離体の場合、その寸法は、例えば、外径2〜200mm、長さ10〜2000mmとすることができる。
【0046】
水素分離膜は、多孔質基体の表面に形成されるものであり、上述した水素分離方法に使用される水素分離膜と同様のものを用いることができる。
【0047】
収納体は、従来公知の水素分離装置に使用される収納体と同じものを適宜採用することができる。例えば、不透水性で耐食性が高い材質(ステンレス鋼など)により構成することができる。
【実施例】
【0048】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0049】
(実施例1)
フッ素樹脂製の広口瓶に、Si源としてシリカゾル(商品名「スノーテックスS」日産化学社製)、アルミナ源としてアルミン酸ナトリウム(和光純薬社製)、pH調整剤として水酸化ナトリウム(シグマアルドリッチ社製)、及び純水を加えて攪拌して原料溶液とした。一方、多孔質基体としてアルミナチューブ(外径12mm×内径9mm×長さ40mm)を用意し、このアルミナチューブの外周面にソーダライト(SOD)型のゼオライト微粉末を塗布した後、内容積100mlのステンレス製の耐圧容器(フッ素樹脂製内筒付き)内に配置した。上記耐圧容器内に上記原料溶液を注ぎ入れた後、140℃で2時間、加熱処理(水熱合成)を行った。この加熱処理によって上記アルミナチューブの外周面にSOD型ゼオライト(細孔を形成する骨格が酸素6員環以下の環である結晶性ゼオライト)からなる水素分離膜(以下、「SOD型ゼオライト膜」と記す場合がある)を成膜させた。このようにして、多孔質基体の外周面にSOD型ゼオライトからなる水素分離膜が成膜された水素分離体を得た。なお、上記耐圧容器の底部には、SOD型ゼオライト粉末が堆積しており、このSOD型ゼオライト粉末を[水吸着量]の評価に使用した。
【0050】
水素分離体及び上記耐圧容器の底部に堆積していたSOD型ゼオライト粉末(以下、「残留SOD型ゼオライト粉末」と記す場合がある)を、水洗、乾燥した後、電気炉に入れ、大気中で0.1℃/分の昇温速度にて200℃まで昇温させて乾燥させた。その後、得られた水素分離体のSOD型ゼオライト膜中のAl原子の数に対するSi原子の数の比の値(Si/Al比)をICP発光分光分析によって評価したところ、Si/Al比は52であった。
【0051】
[水吸着量]
熱重量分析(TG)により、乾燥させた残留SOD型ゼオライト粉末の質量変化を測定した。具体的には、大気中に200時間暴露した前後における質量変化を測定し、乾燥させた残留SOD型ゼオライト粉末に対する水吸着量の質量割合(%)を算出した。結果を表1に示す。上記質量割合(%)は、式:{(暴露後における「乾燥させた残留SOD型ゼオライト粉末」−暴露前における「乾燥させた残留SOD型ゼオライト粉末」)/暴露前における「乾燥させた残留SOD型ゼオライト粉末」}×100により算出した。
【0052】
[分離係数]
水素とメタンを含むガス(H/CHガス)に対する水素分離膜の分離係数を算出するため、以下のガス透過試験を行った。
【0053】
ガス透過試験には、図2に示すガス透過試験装置32を用いた。図2に示すガス透過試験装置32は、原料ガスG1が供給される原料ガス供給口48と原料ガスG1から分離された水素が排出される水素ガス排出口44と原料ガスG1が排出される原料ガス排出口46を有する筒状の圧力容器34(収納体22)、及び、この圧力容器34内に配設された水素分離体16(本実施例で作製した水素分離体)を有する水素分離装置1と、この水素分離装置1の圧力容器34の原料ガス供給口48に連結されたマスフローコントローラ36と、圧力容器34の水素ガス排出口44に連結されたマスフローメーター38と、を備えている。
【0054】
そして、水素分離体16の一方の端面にガラス円盤40(直径15mm)をエポキシ樹脂にて接着し、上記ガラス円盤40により上記水素分離体16の上記一方の端面を封止している。そして、上記水素分離体16の他方の端面にガラス管42(外径15mm、内径10mm)の一方の端面をエポキシ樹脂にて接着し、上記ガラス管42の他方の端面を、圧力容器34の水素ガス排出口44に対応させて固定している。図2に示すガス透過試験装置32においては、圧力容器34の原料ガス供給口48からガスG1を供給すると、供給されたガスG1中の水素が、上記水素分離体16の水素分離膜14を透過し、ガラス管42内を通った後、圧力容器34の水素ガス排出口44から排出される(水素ガス排出口44から透過ガスG2が排出される)。圧力容器34の側面には、一部の水素が分離された原料ガスG3を排出する原料ガス排出口46が形成されている。図2は、ガス透過試験に使用するガス透過試験装置32を模式的に示す一部断面図である。
【0055】
本ガス透過試験では、具体的には、まず、圧力容器34の内部(水素分離体16の外側(水素分離体16の水素分離膜14における一方の面側の空間24))に、25℃、0.60MPa(絶対圧)、供給速度10L/分の条件で上記ガス(体積比でH:CH=10:90)を供給した。また、水素分離体16の他方の面側の空間26内を0.01MPa(絶対圧)となるように真空ポンプで減圧した。次に、透過ガスの流量が十分に安定した時点で、供給ガス中の水素濃度(体積%)及び供給ガス中のメタン濃度(体積%)、透過ガス中の水素濃度(体積%)(即ち、水素ガスの純度)及び透過ガス中のメタン濃度(体積%)をGC−MS(HP社製)にて計測した。そして、計測結果により上記ガスに対する分離係数を算出した。結果を表2に示す。分離係数は、具体的には、式:(透過ガス中の水素濃度(体積%)/透過ガス中のメタン濃度(体積%))/(供給ガス中の水素濃度(体積%)/供給ガス中のメタン濃度(体積%))から算出した。
【0056】
なお、上記原料ガスの供給速度の制御は、マスフローコントローラ(HEMMI社製)を使用した。そして、透過ガスの流量は、マスフローメーター(HORIBA社製)にて計測した。また、上記ガスの供給開始直後における水素分離体の水素分離膜の他方の面側の空間における圧力が大気圧と同じになるように調節した。
【0057】
【表1】

【0058】
【表2】

【0059】
(実施例2〜4)
表1に示すように原料溶液のSi源とAl源の比率を変更したこと(Si/Al比を変更したこと)以外は、実施例1と同様にして、水素分離体及び残留SOD型ゼオライト粉末を得た。その後、得られた水素分離体及び残留SOD型ゼオライト粉末を用いて、それぞれ、実施例1と同様にして[水吸着量]の評価を行った。その結果を表1に示す。
【0060】
(比較例1)
実施例1と同様の多孔質基体を用い、SOD型ゼオライト膜に代えてDDR型ゼオライトからなる膜(DDR型ゼオライト膜)を成膜したこと以外は、実施例1と同様にして、水素分離体及び残留DDR型ゼオライト粉末を得た。その後、得られた水素分離体及び残留DDR型ゼオライト粉末を用いて、それぞれ、実施例1と同様にして[分離係数]の評価を行った。その結果を表2に示す。
【0061】
なお、DDR型ゼオライトの成膜は、従来公知の方法(具体的には特開2010−158665号公報に記載の方法)により行った。また、多孔質基体の外周面にDDR型ゼオライトを成膜して乾燥した後、DDR型ゼオライトに含有されている1−アダマンタンアミンを除去するため、電気炉に入れ、大気中、500℃で50時間熱処理を行った。このようにして、DDR型ゼオライトを有する水素分離体を得た。
【0062】
(比較例2)
実施例1と同様の多孔質基体を用い、SOD型ゼオライト膜に代えてポリイミドからなる高分子膜を成膜し、水素分離体を得た。その後、得られた水素分離体を用いて、実施例1と同様にして、[分離係数]の評価を行った。その結果を表2に示す。
【0063】
SOD型ゼオライト膜のSi/Al比が大きいほど、大気中に長時間暴露しても水吸着量が少ないことが分かった(表1参照)。
【0064】
実施例1のSOD型ゼオライト膜を有する水素分離体は、比較例1のDDR型ゼオライト膜を有する水素分離体及び比較例2のポリイミド高分子膜を有する水素分離体と比べて、透過ガスの水素濃度が高く、分離係数が高いことが分かった(表2参照)。
【0065】
表2から明らかなように、実施例1の水素分離方法は、比較例1,2の水素分離方法に比べて、高純度の水素を得ることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明の水素分離方法は、炭素化合物及び水素を含むガスから、高純度の水素ガスを分離する方法として採用することができる。本発明の水素分離装置は、炭素化合物及び水素を含むガスから、高純度の水素ガスを分離する装置として用いることができる。
【符号の説明】
【0067】
1:水素分離装置、12:多孔質基体、14:水素分離膜、16:水素分離体、18:供給口、20:排出口、22:収納体、24:一方の面側の空間、26:他方の面側の空間、28:壁、30:セル、32:ガス透過試験装置、34:圧力容器、36:マスフローコントローラ、38:マスフローメーター、40:ガラス円盤、42:ガラス管、44:水素ガス排出口、46:原料ガス排出口、48:原料ガス供給口。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
細孔を形成する骨格が酸素6員環以下の環である結晶性ゼオライトからなる水素分離膜により仕切られた前記水素分離膜の一方の面側の空間と他方の面側の空間のうち、前記一方の面側の空間内に炭素化合物及び水素を含むガスを供給するとともに、前記水素分離膜の前記一方の面側の空間内の水素分圧に比べて前記他方の面側の空間内の水素分圧を低くすることによって、前記一方の面側の空間から前記他方の面側の空間に前記ガス中の水素を選択的に透過させて前記ガスから水素を分離する水素分離方法。
【請求項2】
前記水素分離膜として、Al原子の数に対するSi原子の数の比の値が5以上である結晶性ゼオライトを用いる請求項1に記載の水素分離方法。
【請求項3】
前記水素分離膜として、前記骨格が、Si−O結合、Al−O結合、またはこれらの両方の結合により構成されており、前記細孔を形成する骨格のうち酸素6員環の割合が25%以上である結晶性ゼオライトを用いる請求項1または2に記載の水素分離方法。
【請求項4】
前記ガスとして、水素及び50体積%以上の前記炭素化合物を含むものを用いる請求項1〜3のいずれか一項に記載の水素分離方法。
【請求項5】
複数の細孔が形成された多孔質基体と、前記多孔質基体の表面に形成され、細孔を形成する骨格が酸素6員環以下の環である結晶性ゼオライトからなる水素分離膜と、を有する水素分離体と、
炭素化合物及び水素を含むガスが供給される供給口及び前記ガスから分離された水素が排出される排出口を有し、前記水素分離体を収納し得る収納体と、を備え、
前記水素分離体の前記水素分離膜により仕切られた前記水素分離膜の一方の面側の空間と他方の面側の空間のうち、前記一方の面側の空間内に前記ガスを供給するとともに、前記水素分離膜の前記一方の面側の空間内の水素分圧に比べて前記他方の面側の空間内の水素分圧を低くすることによって、前記一方の面側の空間から前記他方の面側の空間に前記ガス中の水素を選択的に透過させて前記ガスから水素を分離し得る水素分離装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−246207(P2012−246207A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−121913(P2011−121913)
【出願日】平成23年5月31日(2011.5.31)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【Fターム(参考)】