説明

水素化ケイ素から水素分子を生成させるための方法

水素化ケイ素から水素分子を生成させるための方法。本発明は、水素化ケイ素とアルカリ性溶液とを接触させることによって、水素化ケイ素から水素分子を生成させることに関する。
本発明はまた、この水素生成方法を使用した燃料電池タイプの機器に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素分子を生成するための方法、特に、水素分子によって作動する燃料電池における使用に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、水素分子の生成は、その前に貯蔵ステップを含む。しかし、エネルギー担体としての水素分子の貯蔵は、燃料電池の開発または小型化への限界の一つである。
【0003】
従って、低温タンク内に、直接または圧力下で水素分子を貯蔵することが知られている。そうした貯蔵システムは、携帯電話等の携帯用機器の使用が必要である分野へ、置き換えることができない貯蔵装置の使用を前提とする。さらに、低温タンクは、水素分子の液化プロセスの収率が低いという不利益を有する。加圧タンクは、同様に安全性の問題を提示する。
【0004】
他の代替手段は、異なる形態で水素分子を貯蔵し、そして次に水素分子に戻すことを提案する。第1の代替手段は、水素分子を生成させるためにメタノール等の中間燃料を使用することにある。しかし、そうした電池は比較的使用が容易であるが収率が低く、そして二酸化炭素の放出によってある程度の毒性を有する。第2の代替は、固体金属水素化物またはカーボンナノチューブを使用して大気圧下で水素分子を貯蔵することにあるが、それらの水素分子の生成能力は低く、そして水素分子を脱着させるためにエネルギーを供給することが必要であり、おもしろくないものとなっている。
【0005】
アルカリ性媒体においてナトリウムホウ化水素の分解から化学的に水素分子を生成させることが知られている。この方法の不利益は、周囲温度で作動させるために触媒を使用することが必要なことである。
【0006】
さらに、仏国特許発明第2858313号明細書は、大気圧下でフッ化水素酸により陽極酸化された多孔質ケイ素を使用して水素分子を生成させる可能性を挙げる。水素分子は、次に、エタノールと接触させることによって、化学エネルギーを含むエネルギーの供給により開放される。この変化形の不利益は、多孔質ケイ素を再生させるために、系をフッ化水素酸で充填しなければならないことである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、上記のタイプの貯蔵または修復工程を用いることなく、要求に応じて効果的に水素分子を生成できる方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そのためには、第1の形態により、本発明は、水素化ケイ素とアルカリ性溶液(この溶液によって水素分子が生成される)とを接触させる工程、およびそのように生成された水素分子が回収され、そして/または利用される工程を含む水素分子の生成方法に関する。使用される水素化ケイ素は、酸を用いたケイ素基材の電気化学的処理によって得られる。さらに一般的に、本発明は、回収されそして/または利用される水素分子を生成させるための水素化ケイ素(水素化ケイ素はアルカリ性溶液と接触する)の使用に関する。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明により、アルカリ性溶液と水素化ケイ素との反応が行われる。
【0010】
アルカリ性溶液は、ケイ素−水素層と反応し、このようにケイ素基材、特に多孔質ケイ素基材の表面上に、ケイ素−水素の新しい層を形成させながら、水素分子を放出する。
【0011】
本発明による水素分子は、以下の反応(I):
−Si−Si−H+4HO→−Si−H+Si(OH)+2H (I)
によって図式的に要約できる。
【0012】
上記反応の使用の利点は、水素分子が、一工程で生成できることである。
【0013】
さらに、上記で具体的に説明したように、反応(I)は、同時に表面のケイ素−水素結合を再生成することによってケイ素の再活性化を引き起こす。そのような方式で、反応(I)を再び行わせることによって、要求に応じて水素分子を生成できる。
【0014】
さらに、本発明による反応の使用により、修復の前に貯蔵工程を用いる必要なく水素分子が生成される。
【0015】
「水素化ケイ素」は、水素化ケイ素基材であると理解され、この水素化は、酸を用いたケイ素基材の電気化学的処理によって得られる。ケイ素基材は、一般的に、ケイ素板である。この基材は、好ましくは、例えば、ホウ素またはリン等の不純物を、1019原子/cm以下含む。
【0016】
本発明により使用される水素化ケイ素は、好ましくは、典型的には少なくとも0.5mmより大きい、特に、1mmより大きい、好ましくは、1cmより大きい、少なくとも1つの寸法を有する固体材料の形態である。本願明細書における記載の脈絡の中では「固体材料」の概念は、(有利には、少なくとも0.5mmの、特に少なくとも1mmの厚さ、ならびに少なくとも1cm程度の長さおよび幅を有する)板または(有利には、少なくとも5mmの長さ、および少なくとも0.5mm、特に1mmの直径を有する)円筒等の、取り扱うことができる固体材料をいう。従って、本願明細書における記載の脈絡の中における固体材料中では、ケイ素は一般的にその表面上でのみ水素化されており、材料のコアは大部分の場合において、ケイ素から実質的になる。本願明細書における記載の脈絡の中では、固体材料の定義は、1mm未満、特に、0.5mm未満の厚さを有する層の形態で支持された水素化ケイ素材料、および1mm未満、特に0.5mm未満のサイズを有する、分散形態の水素化ケイ素の粒子を除外している。
【0017】
本発明の範囲内で使用される水素化ケイ素は、好ましくは多孔質である。好ましい態様によれば、使用される水素化多孔質ケイ素は、メソ多孔質ケイ素、つまり2〜50nmのサイズの孔(メソ細孔)を有するケイ素、および/または微小孔性ケイ素、つまり2nm未満のサイズの孔(微小孔)を有するケイ素によって構成されている。
【0018】
孔(メソ細孔および/または特にマイクロ孔)の存在は、とりわけ、ケイ素基材の比表面積を増加させ、所与の体積で、水素化多孔質ケイ素の表面に存在するより大量の水素分子を与えることを可能にする。水素化ケイ素の多孔度は、約10体積%〜約70体積%である。体積での上記の多孔度は、サンプル中に存在する孔の体積とサンプルの体積との間の比率に相当する。この多孔度は、例えば、光学反射率測定法から多孔質ケイ素の屈折率を計算することによって、または酸化の前後でサンプルの質量を比較することによる秤量によって、決定される。
【0019】
水素化ケイ素の比表面積は、約200m/cm〜約900m/cmである。比表面積は、水素化ケイ素が充分量である場合、例えば、BET法によって決定できる。上記のBET法は、特にThe Journal of the American Chemical Society、Volume 60、page 309、Feb.1938記載されたBRUNAUER−TELLER法であり、そして国際基準ISO5794/1に対応する。水素化ケイ素の比表面積は特徴付けられる多孔質ケイ素の表面上に自動的に集合した(autoassembled)シラン単層の質量の定量化によって、さらに一般的に決定できる。
【0020】
本発明の方法において、単位時間当りに利用できる水素分子の量は、比表面積に依存し、そして存在するケイ素の量に依存する。典型的には、水素の生成は、1グラムのSiおよび一分間当り、約0.16リットルである。
【0021】
本発明により用いられる水素化ケイ素は、酸を用いたケイ素基材の電気化学的処理によって得られ、この酸は、有利にはフッ化水素酸である。
【0022】
本発明において使用されるケイ素基材は、例えば、典型的には約0.016Ω.cm、の抵抗率を有するリンドープされたケイ素、または例えば、約0.005Ω.cmの抵抗率を有するホウ素ドープされたケイ素等の標準のマイクロエレクトロニクス基材である。使用されるケイ素基材は、約1019cm−3以下の不純物の原子濃度を有する。そうした処理は、ケイ素基材を多孔質化でき、そして、同時に、多孔質化されたケイ素基材の表面上でのSi−H(式中、x=1、2または3)の第1層の生成を可能にする。
【0023】
一態様では、電気化学的処理は、電気化学的陽極酸化であり、好ましくは単結晶、多結晶またはアモルファスケイ素基材上で行われる。電気化学的処理の後で、ケイ素基材は、メソ多孔質および/または微小孔性となり、そして水素化されている。
【0024】
水素化ケイ素は、一般的にお互いに相互接続できるかまたはできず、少なくとも1つの寸法が約100nm以下であり、そしてそれぞれの結晶および/またはナノ粒子の表面積の合計が水素化ケイ素によって占められた平面の表面積より大きい、ケイ素のナノ結晶および/または種々の幾何学的形態のナノ粒子を含む。
【0025】
変化形により、水素化ケイ素は、粉砕され、そして任意選択的に小型化され、このように燃料電池等の水素分子を用いる機器中で容易に使用できる。
【0026】
電気化学的処理の後で、ケイ素基材、特に多孔質ケイ素基材の表面の全てまたは一部は、上記の反応(I)を行うことのできる水素と結合したケイ素基、表面−Si−Hを含む。
【0027】
本発明の方法では、水素化ケイ素とのアルカリ性溶液の反応温度は、一般的に、約10℃〜約40℃であり、好ましくは、その温度は周囲温度で行われる。この反応は、好ましくは大気圧またはわずかな高圧下、一般的に、約2バール(bar)以下、約1バール〜1.5バールで行われる。
【0028】
本発明の方法において使用されるアルカリ性溶液は、好ましくは、アルカリ性水溶液である。アルカリ性溶液のpHは、特に約9〜約14、好ましくは約9〜13、例えば、約10である。
塩基は、特に、NaOH、KOHおよびNHOHから選択できる。好ましくは、アルカリ性水溶液は、NaOHおよび/またはKOH水溶液である。
【0029】
本発明の方法の一つの利点は、アルカリ性溶液と反応するのに有用であり、そしてこのように水素分子を生成するケイ素基材の全体性であり、水素分子を貯蔵するために材料の表面のみが使用される仏国特許発明出願第2858313号明細書において提案された代替物と異なる。水素分子の生成能力は、このように本発明による方法における方が高いことが見いだされた。特に、本発明による方法は、1モルの水素化ケイ素当り2モルの水素分子、つまり大気圧下かつ周囲温度下で、1グラムの水素化ケイ素当り約1.6リットルの水素分子の生成を可能にする。
【0030】
本発明の方法の別の利点は、本発明の方法が水素分子を生成させるために一ステップのみを含むことであり、従って多くの場合高価である中間化合物を一般的に使用する2つ以上の工程を必要とする機器におけるより、低い生産コストを生じる。
【0031】
好ましくは、本発明による方法は、水素分子が回収され、そして利用される、例えば、水素分子が燃料として使用される工程をさらに含む。
【0032】
第2の形態により、本発明は、水素分子によって作動するアノードを含む燃料電池に関し、そして水素化ケイ素から水素分子を生成させる機器と関連し、この機器は、本発明の方法を実施することによって水素化ケイ素から水素分子を生成させるために、アルカリ性溶液と接触させる。
【0033】
式(I)中に具体的に説明したように、アルカリ性溶液と接触させた水素化ケイ素は、ケイ素基材の表面でケイ素−水素結合を再生させることによって、2当量の水素分子の生成を可能にする。
【0034】
本発明による方法の一つの利点は、電池の作動の間に、水素化ケイ素がin situで再生されることである。従って、同一量のケイ素で利用できる水素分子の量は、ケイ素基材、特に多孔質ケイ素基材の表面でのみ化学的に吸着された水素分子のみを含む機器より多い。したがって、電池の作動時間は、最初に導入されたケイ素基材の量に依存する。
【0035】
好ましくは、アノードに供給するための水素を生成するための機器として、電池は、
水素化ケイ素によって部分的にまたは完全に充填された第1の区画(この第1区画は、一般的に2つの区間、すなわち、水素化ケイ素を含む第1の区間、およびアノードと接触しており、そして生成される水素分子を受ける第2の区間に分離されている。)、およびアルカリ性溶液で完全または部分的に充填された第2区画(第1の区画および第2区画は、アルカリ性溶液が水素化ケイ素と接触できるような様式で連通している。好ましい形態によれば、貯蔵容器は相互に交換できるタイプであり、したがって水素化ケイ素供給システム、およびアルカリ性溶液供給システムの両方として機能する。)
を含む、貯蔵容器を含む。
【0036】
1つの態様によれば、燃料電池の水素分子を生成させる機器は、水素化ケイ素供給システムを含む。このシステムは、水素化ケイ素を最初に導入することを可能にする。さらに、追加の水素化ケイ素は、最初に存在したケイ素基材が完全に消費された場合、または最初に存在したケイ素基材が、ある閾値、例えば、最初に存在した水素化多孔質ケイ素基材の75%または85%まで、さらに95%を超えて消費された場合に、その供給システムを介して電池の水素生成機器中に導入できる。水素化ケイ素供給システムは、外部供給システムまたは水素化ケイ素を含むカートリッジの交換が可能なシステムであることができる。
【0037】
先行する態様と一般的に関連する態様によれば、燃料電池は、水素分子生成システムの領域中に、アルカリ性溶液供給システムをさらに含む。この供給システムは、特にさらに基本的な構成部分を供給するために、アルカリ性溶液を最初に導入し、そして電池の寿命の間に再生することを可能にする。電池の作動を可能にするアルカリ性溶液供給システムは、特に外部システムであることができる。
【0038】
多孔質ケイ素、および多孔質ケイ素を加水分解するのに充分な量のアルカリ性溶液は、典型的には着脱容器、例えば、燃料電池に、密閉された様式で、スナップ式で装着できるカートリッジ内に含まれる。
【0039】
別の態様によれば、アルカリ性溶液は、水素化ケイ素供給システムから分離している着脱容器中に含まれ、そしてその着脱容器の置換は、電池が連続して作動することを可能にする。
【0040】
また別の態様によれば、着脱容器、例えばカートリッジは、水素化ケイ素を含む第1区画、およびアルカリ性溶液を含有する第2区画を含む。2つの区画は、水素化ケイ素が第1区画から第2区画へ通ることを妨げるが、とは言っても水素化ケイ素の全てまたはいくらかと接触するために、少なくともいくらかのアルカリ性溶液が第2区画から第1の区画に流れることを可能にする、分離システムによって、一般的に分離されている。分離システムは、典型的にはグリッド状である。
【0041】
ほとんどの場合、電池のカソードは、酸素分子によって作動する。この態様によれば、アノードおよびカソードは、好ましくは、水素分子および酸素分子、ならびに触媒およびプロトン伝導体を拡散する媒体を含む。
【0042】
拡散媒体はまた、電子伝導体であり、そして例えば、多孔質グラファイト粒子が含まれている炭素繊維織物からなる。ガス分子は、この場合、繊維織物のメッシュを通り、そして電子は、炭素繊維によって運ばれる。別の態様によれば、拡散媒体はまた、多孔質グラファイト粒子を配合したPDMS(ポリジメチルシロキサン)等のガス透過性架橋ポリマーからなる。
【0043】
触媒は、多孔質グラファイト粒子中に取り込まれた微細に分割された白金からなる。
【0044】
1つの態様によれば、触媒は、(典型的には、2〜50nmの寸法を有する)白金ナノ粒子からなる化学的グラフト化によってプロトン伝導性分子で被覆され、そして電子およびプロトン伝導性を可能にするために、浸透閾値より高い濃度で水およびガスに透過性であるPDMS等のマトリックス中に分散されている。
【0045】
プロトン伝導体は、例えば、Nafion(商標)等のイオノマーであるか、または、膜を生成するため、および触媒粒子の表面にグラフト化するために使用されるものと同じ基を有する分子からなる。本明細書中では、プロトン伝導体は、発電機内でプロトンを循環させるために、プロトンを捕捉し、そして放出できる少なくとも1つの基を有する分子または高分子である。プロトンを捕捉し、そして次に放出できる基は、スルホネート(−SO3−)またはカルボキシレート(−COO)基から選択される。特に、特にプロトンの移動性を高められるフッ素化骨格を含む、分子または高分子を使用することが好都合である。
【0046】
酸素分子は、例えば、空気、好ましくは、富化した空気からなる供給源、純粋な酸素分子または周囲空気からなる供給源から生じる。酸素分子は、供給源からカソードに、例えば、パイプまたはその同類のものによって輸送される。その終端では、カソードは、パイプまたはその同類のものが接続されたオリフィスを備えている。
【0047】
電池の全体的な作動は以下の反応によって要約される:
2H+O→2HO (II)
【0048】
水素分子生成反応(I)が4当量の水分子を消費し、そして電池作動反応(II)が2当量の水分子を生成する限りにおいて、生成される水のすべてまたはいくらかは、電池の作動の間にリサイクルできる。好ましくは、水は、ケイ素−水素層と反応するために再利用され、従って水の生成と関連した問題を解決する。好ましい態様によれば、失われる他の2当量の水分子は、アルカリ性水溶液中に存在する水によって供給される。その終端では、電池は、典型的にはアルカリ性水溶液、典型的にはパイプの領域中で反応(II)によって生成された水を持ってくるための手段を含む。アルカリ性水溶液中に含まれるアルカリ性化合物を供給するための外部システムは、電池が一定濃度のアルカリ性化合物を有することを可能にし、したがって、リサイクルされた水の供給に関わらずpHを一定にたもつことを可能にする。
【0049】
電池は、従って自己調節的利点を有する。アルカリ性溶液/水素化ケイ素界面での局所的な水素分子の圧力は、実際、電池のアノード区画中に存在する水素分子の量に依存する。電流が中断された場合、水素分子の消費が止まり、圧力を上昇させる。生じた圧力の上昇は、ケイ素基材、特に多孔質ケイ素基材が配置されているレベルより下にアルカリ性溶液のレベルを押す。水素分子生成反応は、従って停止する。同様に、電流の存在下では、アノード区画中の圧力が低下し、アルカリ性溶液を引き上げてケイ素基材、特に多孔質ケイ素基材と接触させる。水素分子の生成は、従って再活性化される。
【0050】
最大の水素分子貯蔵圧力は、約0.1〜約1バールまたは約0.5バール〜約0.9バールでさえある。1つの態様により、圧力は約800ミリバールである。
【0051】
電池は、酸素分子および水素分子を拡散させ、電子エネルギーを回復させ、そして水をリサイクルさせることができる拡散媒体をさらに含む。1つの態様により、拡散媒体は、例えばE−tekによって販売されているグラファイト織物からなる。
【0052】
電池は、その内側表面がプロトン伝導体、特に少なくとも1つのスルホネート(−SO3−)またはカルボキシレート(−COO)基を有する分子に化学的にグラフト化されている膜、例えば、多孔質ケイ素膜を含むことができる。
【0053】
別の態様によれば、膜は、その孔がNafion(商標)等のイオノマーで充填されている多孔質ケイ素からなる。膜は、電池の作動から生じたプロトンが通ることを可能にするが、ガス状の水素分子および酸素分子に不透過性である。
【0054】
本発明は、添付の単一の図を参照して、下記に記載した非限定の例をよりさらに具体的に説明されるであろう。
【実施例】
【0055】
図は、本発明による水素分子発生器の態様を示す。
【0056】
図は、アノード部5に隣接した交換可能である貯蔵容器3にある水素分子生成機器を含む、電池1を記載する。電池1は、水回収容器9に隣接したカソード部7をさらに含む。
【0057】
交換可能な貯蔵容器3は、U−形断面またはその同類のものを有する着脱容器、例えば、カートリッジである。交換可能な貯蔵容器3は、(図式的には、U−形断面の第1の分岐中の)第1区画13およびグリッド11によって分離された(図式的には、U−形断面のもう一方の分岐中の)第2区画15を含む。交換可能な貯蔵容器3の第1区画13は、グリッド11より上にある水素化多孔質ケイ素17で充填されている。水素化多孔質ケイ素17は、典型的には約48%のフッ化水素酸と純粋なエタノールとの1:1混合物を含む浴中において、約0.0012Ω.cmの抵抗率および約500μmの厚さを有するホウ素ドープケイ素板の陽極酸化によって得られる。約100mA.cm−2の電流密度で行われる陽極酸化は、約200nm.s−1の速度で約20nmの直径を有する孔を生成する。ケイ素全体は、約2500秒で陽極酸化される。
【0058】
交換可能な容器3の第2区画15は、0.0001mol/lのNaOH溶液19で、部分的にまたは幾つかの場合、完全に充填されている。
【0059】
水素化多孔質ケイ素17を含む第1区画13の壁21は、アノード部5、外側の媒体に関して気密を確かにするシール25と流体連通している。
【0060】
第2区画15の壁23は、第2区画15を大気圧にすることを可能にする弁(図示されていない)を含む。
【0061】
アノード部5は、負極28を含む。負極28は、シール25によって、および電子を伝導する伝導性シール31によって囲まれている。アノード部5はまた、電気伝導性シール31に接続され、そして、例えば、その内側表面上に白金触媒を含有するグラファイト粉末を被覆した炭素織物からなるアノード27を含む。
【0062】
アノード27で生じる反応は、反応(II):
II H→2H+2e
である。
【0063】
カソード部7は、正極30を含む。正極30は、シール26および電子を伝導する第2の電気伝導性シール32によって囲まれている。カソード部7はまた、第2の電気伝導性シール32に接続され、そして、例えば、その内側表面上に白金触媒を含有するグラファイト粉末を被覆した炭素織物からなるカソード33を含む。
【0064】
カソード33で生じる化学反応は、従来の反応(III):
III 2H+1/2O+2e→H
である。
【0065】
カソード部7は、シール26によって、電池の作動の間に生成された水34を回収する水回収容器9にさらに接続されている。
【0066】
負極28および正極30は、電流が流れることを可能にし、そして共同して電源出力部を構成する。
【0067】
回収容器9はまた、酸素分子に透過性であるテフロン(商標)でできたポリマー窓35を含む。ポリマー窓35は、変化形としてPDMSであることができる。
【0068】
交換可能な貯蔵容器3の第2区画15を接続する回収容器9から出口に位置する再生利用回路39は、交換可能な貯蔵容器3中で水素分子を生成させるNaOH溶液19に供給するために、水34の使用を可能にする。
【0069】
電池1は、PEM(プロトン交換膜)タイプであり、したがって多孔質ケイ素からなることができる膜41を含む。その場合、膜は、イオノマー(Nafion(商標))の溶液による含浸によって、または分子のグラフト化のいずれかによって、プロトン伝導性を与えられた多孔質ケイ素である。膜41の多孔質ケイ素は、水素分子を生成するために使用されないことに留意する。実際、これは水素化ケイ素ではない。
【0070】
膜41は、膜43を電気的に絶縁するために、Nafion(商標)溶液によって、接着接合されているアノード27とカソード33との分離を可能にする。さらに、酸化ケイ素の絶縁枠(図示されていない)は、電流を失わないために、膜43、アノード27およびカソード33を囲む。
【0071】
作動の間に、第2区画15中に含まれるNaOH溶液19は、グリッド11を通して第1区画13中に含まれる水素化多孔質ケイ素17と接触する。水素分子は、従って反応(I):
−Si−Si−H+4HO→−Si−H+Si(OH)+2H (I)
により生成される。
【0072】
いったん生成されると、水素分子は、第1区画13中に存在する水素化多孔質ケイ素17より上に位置する区間50を満たす。次に、水素分子は、従来の反応(II)により電子を生成するアノード27によって使用される。
【0073】
平行して、酸素はカソード部7を透過し、そして反応(II)からの陽子および電子と反応し、反応(III)によって図式的に示されるように、水を生成する。
【0074】
従って、電池1が作動するにつれて、NaOH溶液19は、水素分子を生成するために、水素化多孔質ケイ素17を消費する。
【0075】
電池1が何らかの手段によって作動を停止すると、水素分子は区間50中に蓄積され、そしてNaOH溶液19をグリッド11より下に押す。NaOH溶液19は、従って水素化多孔質ケイ素17と接触せず、そして水素分子の生成が停止する。
【図1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
回収され、そして/または利用される水素分子を生成させるために、ケイ素基材と酸との電気化学的処理によって得られた水素化ケイ素の使用であって、水素化ケイ素をアルカリ性溶液と接触させる、使用。
【請求項2】
該水素化ケイ素が、多孔質である、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
該多孔質水素化ケイ素が、メソ多孔質および/または微小孔性ケイ素からなる、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
ケイ素基材と酸との電気化学的処理によって得られた水素化ケイ素をアルカリ性溶液と接触させ、それによって水素分子が生成される工程、およびそのように生成された該水素分子が、回収され、そして/または利用される工程を含む、水素分子を生成するための方法。
【請求項5】
該水素化ケイ素が、多孔質である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
該多孔質水素化ケイ素が、メソ多孔質および/または微小孔性ケイ素からなる、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
該水素化ケイ素の多孔度が、10体積%〜70体積%である、請求項5または請求項6に記載の方法。
【請求項8】
該水素化ケイ素の比表面積が、200m/cm〜900m/cmである、請求項5〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
該酸が、フッ化水素酸である、請求項4に記載の方法。
【請求項10】
該アルカリ性溶液が、pHが9〜14であるアルカリ性水溶液である、請求項4〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
該アルカリ性水溶液が、NaOHおよび/またはKOH水溶液である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
アルカリ性溶液(19)と接触させて、請求項4〜11のいずれか一項に記載の方法を行うことにより、水素化ケイ素(17)から水素分子を生成させる水素化ケイ素(17)を含む、水素分子生成機器と関連した水素分子により作動するアノード(27)を含む、燃料電池(1)。
【請求項13】
該水素分子生成機器が、
水素化ケイ素(17)で部分的にまたは完全に満たされた第1区画(13)と、
該アルカリ性溶液(19)が該水素化ケイ素(17)と接触できるような様式で、該第1区画(13)と第2区画(15)とが連通している、該アルカリ性溶液(19)で完全にまたは部分的に満たされた第2区画(15)と、
を含む該アノード(27)を供給するための貯蔵容器(3)を含む、請求項12に記載の燃料電池(1)。
【請求項14】
該水素分子生成機器が、アルカリ性溶液供給システムと関連した水素化ケイ素供給システムを含む、請求項12または13に記載の燃料電池(1)。
【請求項15】
該水素化ケイ素供給システムおよび該関連したアルカリ性溶液供給システムが、請求項14に規定されたような貯蔵容器(3)の形態、特に交換可能な貯蔵容器の形態である、請求項14に記載の燃料電池(1)。

【公表番号】特表2010−526011(P2010−526011A)
【公表日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−504815(P2010−504815)
【出願日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【国際出願番号】PCT/FR2008/050784
【国際公開番号】WO2008/148988
【国際公開日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【出願人】(501089863)サントル ナシオナル ドゥ ラ ルシェルシェサイアンティフィク(セエヌエールエス) (173)
【出願人】(509303947)ユニベルシテ ドゥ フランシュ−コンテ (2)
【Fターム(参考)】