説明

水素化変換多金属触媒及びその作製方法

触媒、及び再処理物質を含有する前駆体組成物から触媒を作製するプロセスが開示される。この触媒は、5〜95重量%の再処理物質を含有する触媒前駆体を硫化することにより作製される。再処理物質を用いる触媒前駆体は、水酸化物又は酸化物の物質であってもよい。再処理物は、触媒前駆体の形成若しくは造形により生じる又は造形触媒前駆体の破壊若しくは取扱いにより形成される物質であってもよい。再処理物は、造形プロセス、例えば押出プロセスへの触媒前駆体供給物質の形態、又は造形プロセスにおいて不良品若しくは屑として生じた触媒前駆体物質であってもよい。幾つかの実施態様において、再処理物は、造形可能な軟塊の稠度であってもよい。別の実施態様において、再処理物は、小片又は粒子、例えば微細物、粉末の形態である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、米国特許出願第12/432,730号、同第12/432,728号、同第12/432,727号、同第12/432,723号、同第12/432,719号及び同第12/432,721号(全て2009年4月29日出願)に対して優先権を主張する。本出願は、前記に対する優先権及び利益を主張し、それらの開示は参照として本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、一般に、水素化プロセシング触媒前駆体、触媒前駆体の調製プロセス、触媒前駆体を使用して調製される多金属触媒及び多金属触媒を用いる水素化変換プロセスに関する。
【背景技術】
【0003】
石油産業は、原料の供給源として重質原油、残油、石炭及びタールサンド、すなわち低グレードの炭化水素にますます頼ってきている。これらの原料の改善又は精製は、原料を触媒の存在下、水素で処理することにより供給原料の少なくとも一部に変換を実施して低分子量の炭化水素にすること、或いは不要な成分若しくは化合物の除去、又は無害若しくはより望ましい化合物へのその変換を実施することによって達成される。
【0004】
水素化変換触媒は、支持されていても又は支持されていなくてもよい。支持触媒は、通常、少なくとも1つのVIB族金属を、助触媒としての1つ又は複数のVIII族金属と共にアルミナなどの耐熱性支持体上に含む。水素化変換プロセスに使用される非支持混合VIII族及びVIB族金属触媒及び触媒前駆体は、とりわけ米国特許第2,238,851号;同第5,841,013号;同第6,156,695号;同第6,566,296号及び同第6,860,987号に開示されているように、当該技術において知られている。
【0005】
水素化処理触媒を作製及び使用するプロセスにおいて、残留物及び廃棄物は、原料及び中間物質、並びに使用済み触媒の形態で生じる。産業廃棄物の環境に対する影響がますます綿密に調査されてきているので、可能な限り廃棄生成物を再利用又は再処理する必要性が存在する。基礎材料が極めて高価であるので、再処理廃棄物を再利用/再使用することは経済的でもある。触媒生成物の再処理/再利用を開示している多数の参考文献が従来技術において存在する。米国特許第6,030,915号は、粉砕(使用済み)再生水素化プロセシング触媒を用いる、水素化プロセシング触媒を調製するプロセスを開示する。米国特許公報第20080060977号は、成分の1つとして新たな触媒の破砕微細物を伴う酸化触媒の作製プロセスを開示する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
低品質の炭化水素原料から高価値の生成物への高収率変換に適切な形態、構造及び最適な触媒活性を有する改善された触媒の必要性が、依然として存在する。触媒を作製する改善されたプロセス、特に、触媒を作製するプロセスにおいて生じた廃棄生成物を再使用又は再利用する環境に優しいプロセスの必要性も存在する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
一態様において、本発明は、嵩高多金属触媒(bulk multi−metallic catalyst:バルク多金属触媒)を形成するプロセスにおいて生じた再処理物質(rework material)を使用する方法であって、
少なくとも1つの、VIII族、IIB族、IIA族、IVA族及びこれらの組み合わせから選択される助触媒(promoter)金属前駆体、少なくとも1つのVIB族金属前駆体、任意選択で少なくとも1つの配位剤、並びに任意選択で少なくとも1つの希釈剤を含む沈殿物を形成すること;デカント、濾過、沈降及び乾燥のいずれかにより沈殿物から液体の少なくとも50%を除去すること;再処理物質を沈殿物に加えて、バッチ混合物を形成すること;ペレット化、押し出し、錠剤化、成形、混転(tumbling:タンブリング)、圧縮、噴霧及び噴霧乾燥のいずれかによりバッチ混合物を造形して、造形触媒前駆体にすること;造形触媒前駆体を硫化して、嵩高多金属触媒を形成することを含む方法に関する。
【0008】
別の実施態様において、本発明は、式:(X)(Mo)(W)[式中、Xは、Ni又はCoであり、b:(c+d)のモル比は0.5/1〜3/1であり、c:dのモル比は>0.01/1であり、かつ、z=[2b+6(c+d)]/2である。]を有する触媒前駆体から形成される嵩高多金属触媒に関し、触媒前駆体は、5〜95重量%の再処理物を含有し、再処理物質は、触媒前駆体の乾燥及び造形から生じた物質を含む。
【0009】
第3の態様において、本発明は、5〜95重量%の再処理物を含有する触媒前駆体から形成される嵩高多金属触媒に関し、再処理物質は、触媒前駆体の乾燥及び造形から生じた物質を含み、触媒前駆体は、式:A[(M)(OH)(L)(MVIB)[Mは、VIII族、IIB族、IIA族、IVA族及びこれらの組み合わせから選択される助触媒化合物であり;MVIBは、少なくともVIB族金属化合物であり;Lは、少なくとも1つの有機酸素含有配位剤(ligating agent);少なくとも1つのケイ素成分;少なくとも1つのアルミニウム成分;及び少なくとも1つのマグネシウム成分、並びにこれらの組み合わせから選択され;Aは、アルカリ金属カチオン、アンモニウム、有機アンモニウム及びホスホニウムカチオンのうちの少なくとも1つであり;M:MVIBは、100:1〜1:100の原子比を有し;v−2+Pz−xz+nz=0;0≦y≦−P/n;0≦x≦P;0≦v≦2;0≦zである。]を有する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】再処理物質が組み込まれる多金属触媒を作製するプロセスの実施態様を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下の用語は、明細書全体にわたって使用され、特に示されない限り以下の意味を有する。
【0012】
SCF/BBL(又はscf/bbl若しくはscfb若しくはSCFB)は、炭化水素供給原料の1バレルあたりのガス(N、Hなど)の標準立方フィートの単位を意味する。
【0013】
LHSVは、液時空間速度を意味する。
【0014】
本明細書において参照される周期表は、IUPAC及び米国国立標準局により承認されており、例は、2001年10月のロスアラモス国立研究所の化学部門(Los Alamos National Laboratory’s Chemistry Division of October 2001)による元素周期表である。
【0015】
本明細書で使用されるとき、用語「嵩高触媒」(“bulk catalyst”:バルク触媒)は、「非支持触媒」(“unsupported catalyst”)と交換可能に使用することができ、触媒組成物が、予備成形造形触媒支持体を有し、次に含浸又は付着触媒を介して金属に装填されている従来の触媒形態ではないことを意味する。一実施態様において、嵩高触媒は、沈殿により形成される。別の実施態様において、嵩高触媒は、触媒組成物に組み込まれた結合剤を有する。なお別の実施態様において、嵩高触媒は、あらゆる結合剤を用いることなく、金属化合物から形成される。
【0016】
本明細書で使用されるとき、語句「のうちの1つ又は複数」又は「のうちの少なくとも1つ」は、X、Y及びZ又はX−X、Y−Y及びZ−Zなどの幾つかの元素又は元素の部類の後に置いて使用される場合、X又はY又はZから選択される単一の元素、同じ共通の部類から選択される元素の組み合わせ(X及びXなど)、並びに異なる部類から選択される元素の組み合わせ(X、Y及びZnなど)を意味することが意図される。
【0017】
本明細書で使用されるとき、「水素化変換」(“hydroconversion”:水素化転換)、又は「水素化プロセシング」(“hydroprocessing”)は、メタン化、水性ガスシフト反応、水素化、水素化処理、水素化脱硫、水素化脱窒素、水素化脱金属、水素化脱芳香族、水素異性化、水素化脱ロウ及び選択的水素化分解を含む水素化分解が包含されるが、これらに限定されない水素の存在下で実施される任意のプロセスを意味する。水素化プロセシングの種類及び反応条件に応じて、水素化プロセシングの生成物は、改善された粘度、粘度指数、飽和物含有量、低温特性、揮発度及び脱分極などを示すことができる。
【0018】
本明細書で使用されるとき、700°F+変換率は、水素化転換プロセスにおいて700°F+を超える沸点を有する原料油から700°F(371.℃)未満の沸点の物質への変換を意味し、(100%((供給原料中の700°Fを超えて沸騰する物質の重量%−生成物中の700°Fを超えて沸騰する物質の重量%)/供給原料中の700°Fを超えて沸騰する物質の重量%))として計算される。
【0019】
本明細書で使用されるとき、「LD50」は、一度に投与したとき、試験動物の群の50%(半分)の死亡をもたらす物質の量である。LD−50は、物質の短期中毒の可能性(急性毒性)を測定し、試験は、ラット及びマウスなどの小型動物で実施される(mg/Kg)。
【0020】
触媒生成物
本明細書に記載されているプロセスにより作製される、再処理物質を用いる触媒前駆体を、硫化すると、例えば水素化脱硫(HDS)、水素化脱芳香族(HDA)及び水素化脱窒素(HDN)プロセスの使用によって、水素化変換嵩高触媒に変換する(触媒活性になる)ことができる。出発物質、すなわち再処理物質を用いる触媒前駆体は、少なくとも1つの助触媒金属前駆体及び少なくとも1つのVIB族金属前駆体から調製される、水酸化物又は酸化物の物質であってもよい。金属前駆体は、元素又は化合物形態のいずれであってもよい。
【0021】
一実施態様において、再処理物質を用いる触媒前駆体は、少なくとも1つのVIII族非貴金属物質及び少なくとも2つのVIB族金属を含む嵩高多金属酸化物である。一実施態様において、VIB族金属のVIII族非貴金属に対する比は、約10:1から約1:10の範囲である。別の実施態様において、酸化物触媒前駆体は、一般式:(X)(Mo)(W)[式中、Xは、Ni又はCoであり、b:(c+d)のモル比は0.5/1〜3/1であり、c:dのモル比は>0.01/1であり、z=[2b+6(c+d)]/2である。]で表される。なお別の実施態様において、酸化物触媒前駆体は、1つ又は複数の配位剤Lを更に含む。用語「配位子」(“ligand”)は、「配位剤」(“ligating agent”)、「キレート剤」又は「錯化剤」(又はキレーター若しくはキーラント)と交換可能に使用することができ、金属イオン、例えばVIB族及び/又は助触媒金属を組み合わせて、大型錯体、例えば触媒前駆体を形成する添加剤を意味する。
【0022】
別の実施態様において、再処理物質を用いる触媒前駆体は、少なくとも1つのVIII族非貴金属物質及び少なくとも2つのVIB族金属を含む水酸化物化合物である。一実施態様において、水酸化物化合物は、一般式:A[(M)(OH)(L)(MVIB)[式中、Aは、1つ又は複数の一価カチオン種であり、Mは、元素又は化合物形態の少なくとも1つの金属を意味し、Lは、1つ又は複数の配位剤を意味する。]で表される。
【0023】
一実施態様において、Aは、アルカリ金属カチオン、アンモニウム、有機アンモニウム及びホスホニウムカチオンのうちの少なくとも1つである。一実施態様において、Aは、NH4+、他の第四級アンモニウムイオン、有機ホスホニウムカチオン、アルカリ金属カチオン及びこれらの組み合わせなどの一価カチオンから選択される。
【0024】
一実施態様において、Lは配位剤である。一実施態様において、Lは、中性又は陰性電荷n<=0を有する。一実施態様において、Lは、500mg/Kgを超えるLD50比(ラットへの単回経口用量として)の配位剤を含有する非毒性有機酸素である。用語「電荷中性」は、触媒前駆体が正味の陽又は陰電荷を担持しないという事実を意味する。配位剤には、多座と共に単座の両方が含まれ、例えばNHと共にアルキル及びアリールアミンが含まれうる。配位剤Lの他の例には、カルボキシレート、カルボン酸、アルデヒド、ケトン、エノレート形態のアルデヒド、エノレート形態のケトン及びヘミアセタール、並びにこれらの組み合わせが含まれるが、これらに限定されない。用語「カルボキシレート」は、脱プロトン化又はプロトン化された状態のカルボキシレート又はカルボン酸基を含有する任意の化合物を意味する。別の実施態様において、Lは、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、マレイン酸、リンゴ酸、クルコン酸(cluconic acid)、フマル酸、コハク酸、酒石酸、クエン酸、シュウ酸、グリオキシル酸、アスパラギン酸などの有機酸付加塩、メタンスルホン酸及びエタンスルホン酸などのアルカンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸及びp−トルエンスルホン酸などのアリールスルホン酸、並びにアリールカルボン酸;マレエート、ホルメート、アセテート、プロピオネート、ブチレート、ペンタノエート、ヘキサノエート、ジカルボキシレートなどの化合物を含有するカルボキシレート、並びにこれらの組み合わせの群から選択される。
【0025】
は、少なくとも1つの助触媒金属である。一実施態様において、Mは、+2又は+4のいずれかの酸化状態を有する。Mは、VIII族、IIB族、IIA族、IVA族及びこれらの組み合わせから選択される。一実施態様において、Mは、少なくとも1つのVIII族金属であり、Mは、+2の酸化状態Pを有する。別の実施態様において、Mは、IIB族、IVA族及びこれらの組み合わせから選択される。一実施態様において、助触媒金属Mは、少なくとも1つのVIII族金属であり、Mは+2の酸化状態を有し、触媒前駆体は、(v−2+2z−xz+nz)=0を有する、式:A[(M)(OH)(L)(MVIB)で表される。一実施態様において、助触媒金属Mは、Ni及びCoなどの2つのVIII族金属の混合物である。なお別の実施態様において、Mは、Ni、Co及びFeなどの3つの金属の組み合わせである。一実施態様において、Mが、Zn及びCdなどの2つのIIB族金属の混合物である場合、触媒前駆体は、式:A[(ZnCda’)(OH)(L)(MVIB)で表される。なお別の実施態様において、Mが、Zn、Cd及びHgなどの3つの金属の混合物である場合、触媒前駆体は、式:A[(ZnCda’Hga”)(OH)(L)ny(MVIB)で表される。
【0026】
一実施態様において、助触媒金属Mは、亜鉛、カドミウム、水銀、ゲルマニウム、スズ又は鉛及びこれらの組み合わせなどのIIB族及びVIA族の、元素、化合物又はイオンの形態の金属から選択される。なお別の実施態様において、助触媒金属Mは、Ni、Co、Fe及びこれらの組み合わせのうちの少なくとも1つを、元素、化合物又はイオンの形態で更に含む。別の実施態様において、助触媒金属は、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム及びバリウム化合物の群から選択されるIIA族金属化合物であり、これらは少なくとも部分的に固体状態であり、例えば炭酸塩、水酸化物、フマル酸塩、リン酸塩、亜リン酸塩、硫化物、モリブデン酸塩、タングステン酸塩、酸化物又はこれらの混合物などの水不溶性化合物である。
【0027】
一実施態様において、MVIBは、+6の酸化状態を有する少なくとも1つのVIB族金属である。一実施態様において、M:MVIBは、100:1〜1:100の原子比を有する。v−2+Pz−xz+nz=0であり;0≦y≦−P/n;0≦x≦P;0≦v≦2;0≦zである。一実施態様において、MVIBはモリブデンである。なお別の実施態様において、MVIBは、少なくとも2つのVIB族金属、例えばモリブデン及びタングステンの混合物である。
【0028】
再処理物を用いる水素化プロセシング触媒前駆体の作製方法
調製方法は、再処理物の使用、すなわち造形触媒前駆体が形成され、造形触媒前駆体が硫化されて触媒を形成する前のステップにおいて得られる廃棄物の使用を可能にする。
【0029】
用語「造形触媒前駆体」(“shaped catalyst precursor”)は、噴霧乾燥、ペレット化、ピリング、造粒、ビーディング、錠剤成形、ブリケッティング(bricketting)、押し出し若しくは当業界で既知の他の手段を介した圧縮の使用により又は湿潤混合物の凝集により形成(又は造形)される触媒前駆体を意味する。造形触媒前駆体は、ペレット、円柱、直線又はライフル様(ねじれ)三裂体、多孔円柱、錠剤、環、立方体、蜂巣状、星形、三葉、四葉、丸剤、顆粒などが含まれるが、これらに限定されない形態又は形状のいずれであってもよい。
【0030】
再処理物は、触媒前駆体の調製の任意のステップにおいて生じた屑/放棄/未使用物質であってもよい。一実施態様において、再処理物は、触媒前駆体の形成、乾燥若しくは造形のいずれかによって生じるか、又は造形触媒前駆体の破壊若しくは取扱いによって形成される。再処理物は、造形プロセス、例えば押出プロセスへの触媒前駆体供給物質の形態、又は造形若しくは乾燥プロセスにおいて不良品若しくは屑として生じた触媒前駆体物質であってもよい。幾つかの実施態様において、再処理物は、造形可能な軟塊(dough)の稠度であってもよい。別の実施態様において、再処理物は、小片又は粒子、例えば微細物、粉末の形態である。なお第3の実施態様において、再処理物は、液体除去ステップからの湿潤フィルターケーキの形態である。
【0031】
一実施態様において、再処理物質は、非か焼物質(非酸化物)から本質的になる。か焼ステップにおいて、触媒前駆体は酸化物になる。したがって、か焼前駆体からの再処理物質は、典型的には極限状態(例えば、非常に高い又は低いpH)下を除いて十分に解膠せず、再利用/再使用にあまり適していない。酸化物再処理物質を補うために、新たな押出ミックスを過剰解膠することができ、孔の崩壊、続いて起こる低触媒活性をもたらす。別の実施態様において、再処理物質は、アルミナ及び/又はシリカアルミナ希釈剤を使用することなく作製された触媒前駆体から本質的になる。アルミナ及び/又はシリカアルミナ希釈剤を含有する再処理物質の組み込みは、硫化触媒に予測よりも低い触媒活性をもたらす場合がある。
【0032】
一実施態様において、造形触媒前駆体を形成するのに使用される再処理物の量は、5〜95重量%の範囲であり、残りは新たな成分である。第2の実施態様において、再処理物の量は10〜70重量%の範囲である。第3の実施態様では、15〜45%である。
【0033】
一実施態様において、押出ミックスが、強熱減量(LOI)試験を使用して測定して50〜90%の固形分を有するために、十分な量の再処理物が用いられる。別の実施態様において、ミックスが55〜75%の固形分(100%−LOI)を有するために、新たな物質に十分な量の再処理物が添加される。第3の実施態様において、60〜70%の固形分(100%−LOI)の押出ミックスのために、十分な量の再処理物が用いられる。LOIは、試料物質を十分な高温(例えば、500〜1000℃)で強く加熱(発火又はか焼)して、質量が変化を止めるまで(15分間から8時間)揮発性物質を放出させることからなる分析試験である。LOIは、式:LOI%=(w−wcalc)/w100%に従って決定される。wcalcは、加熱後のか焼試料の重量であり、wは、加熱前の元の重量である。
【0034】
図1を参照して、本発明の実施態様を更に説明する。図1は、再処理物質を用いて多金属触媒を作製する一般的プロセスの実施態様を概略的に示すブロック図である。
【0035】
沈殿物又は共ゲル化物の形成
一実施態様において、プロセスのステップ10は、新たな成分の1つを形成する沈殿又は共ゲル化ステップであり、金属前駆体11、例えば助触媒金属成分(単数又は複数)及びVIB族金属成分の混合物において反応させて、沈殿物又は共ゲル化物を得ることに関わる。用語「共ゲル化物」は、少なくとも2つの金属の共沈殿物(又は沈殿物)を意味する。金属前駆体を、固体、溶液、懸濁液又はこれらの組み合わせとして反応混合物に加えることができる。可溶性塩がそのまま添加される場合、これらは反応混合物に溶解し、続いて沈殿する若しくは共ゲル化する、又は懸濁液を形成する。溶液を、任意選択で真空下で加熱して、沈殿及び液体の蒸発を実施することができる。
【0036】
沈殿(又は共ゲル化)は、助触媒金属化合物及びVIB族金属化合物が沈殿する又は共ゲル化物を形成する温度及びpHで実施される。一実施態様において、共ゲル化物が形成される温度は、25〜350℃である。一実施態様において、触媒前駆体は、0〜3000psigの圧力で形成される。第2の実施態様では、10〜1000psigである。第3の実施態様では、30〜100psigである。混合物のpHを変えて、生成物の所望の特性に応じて、沈殿又は共ゲル化の速度を増加又は減少することができる。一実施態様において、混合物は反応ステップ(単数又は複数)の間、中性pHで放置される。別の実施態様において、pHは、0〜12の範囲に維持される。別の実施態様において、pHは、7〜10の範囲に維持される。反応混合物に塩基若しくは酸12を添加することによって、又は温度が高くなると分解して、それぞれpHを増加若しくは減少する水酸化物イオン若しくはHイオンになる化合物を添加することによって、pHを変えることを実施することができる。別の実施態様において、加水分解反応において沈殿する化合物を添加することである。pH調整のために添加される化合物の例には、尿素、亜硝酸塩、水酸化アンモニウム、鉱酸、有機酸、鉱塩基及び有機塩基が含まれるが、これらに限定されない。
【0037】
一実施態様において、少なくとも1つの配位剤Lを、任意選択で、助触媒金属化合物及び/又はVIB族金属化合物の沈殿又は共ゲル化の前又は後に添加することができ、すなわち配位剤Lを、試薬のうちの1つが沈殿物を形成するように金属前駆体に添加することができるか、又は沈殿物が形成された後に添加することができる。
【0038】
一実施態様において、配位剤Lに代わって又は加えて、触媒前駆体の総組成の5〜95重量%の量の希釈剤を、考慮される触媒用途に応じて、このステップにおいて添加することもできる。これらの物質を、金属前駆体の沈殿又は共ゲル化の前又は後に適用することができる。希釈剤物質の例には、酸化亜鉛;硫化亜鉛;ニオビア;オルトケイ酸テトラエチル;ケイ酸;チタニア;ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム、シリカゲル、シリカゾル、ヒドロニウム−又はアンモニウム安定化シリカゾル及びこれらの組み合わせなどのケイ素成分;アルミン酸ナトリウム、アルミン酸カリウム、硫酸アルミニウム、硝酸アルミニウム及びこれらの組み合わせが含まれるが、これらに限定されない本発明のプロセスに有用なアルミニウム成分;アルミノケイ酸マグネシウム粘土、金属マグネシウム、水酸化マグネシウム、ハロゲン化マグネシウム、硫酸マグネシウム及び硝酸マグネシウムなどのマグネシウム成分;ジルコニア;サポナイト、ベントナイト、カオリン、海泡石又はハイドロタルサイトなどのカチオン性粘土又はアニオン性粘土、或いはこれらの混合物が含まれる。一実施態様において、チタニアが希釈剤として最終触媒前駆体に基づいて50重量%を超える量で(酸化物又は水酸化物として)使用される。
【0039】
液体除去
次のステップ20において、少なくとも50重量%の液体(上澄み/水)が、当業界で既知の分離プロセス、例えば、濾過、沈降、デカント、遠心分離などを介して沈殿物(又は懸濁液)から除去される。一実施態様において、沈殿物における液体は、真空技術又は当業界で既知の装置による濾過によって除去されて、湿潤フィルターケーキ31を得る。湿潤フィルターケーキは、一般に、およそ10〜50重量%の液体を有するフィルターケーキとして定義され、したがって一般に水又は他の溶媒、例えばメタノールなどを含まない。
【0040】
一実施態様において、湿潤フィルターケーキの任意選択の乾燥は、大気条件下又は窒素、アルゴン若しくは真空のなどの不活性条件下、水を除去するのに十分であるが有機化合物を除去するには十分でない温度で実施される。一実施態様において、任意選択の乾燥は、触媒前駆体の恒量が達成されるまで、約50〜120℃で実施される。別の実施態様において、乾燥は、50℃〜200℃の温度で、1/2時間から6時間の範囲の時間実施される。乾燥は、当業界で既知の熱乾燥技術、例えば、フラッシュ乾燥、ベルト乾燥、オーブン乾燥などを介して実施することができる。
【0041】
再処理物質の組み込み
このステップ30において、押出軟塊及び/又は乾燥粒子/断片の形態の再処理物質33は、水及び新たな物質、すなわち前のステップからのフィルターケーキ又は乾燥触媒前駆体、並びに任意選択の造形助剤、任意選択の解膠剤、任意選択の孔形成剤及び任意選択の希釈材が含まれるが、これらに限定されない他の物質と一緒に混合される。
【0042】
混合物を十分な時間混合して、実質的に均一又は均質の混合物を得る。混合時間は、混合技術、例えば摩砕、混練、スラリー混合、乾式若しくは湿式混合又はこれらの組み合わせ、並びに使用される混合装置、例えば混和機、ブレンダー、二本腕混練混合機、回転子固定子混合機又は混合粉砕機の種類及び効率によって決まる。一実施態様において、混合時間は、0.1〜10時間の範囲である。
【0043】
一実施態様において、乾燥物質の形態の再処理物質及び/又は再処理物質と乾燥触媒前駆体の混合物のいずれかは、他の物質と混合される前に、粒径が低減される。一実施態様において、粉砕をジェット又はハンマーミルで実施して、粒径を、一実施態様では150μm未満、別の実施態様では50μm未満に低減する。
【0044】
一実施態様において、再処理物質33は、両方とも混合物にとって結合剤として作用するフィルターケーキ物質31及び少なくとも1つの造形助剤32(時々、「結合剤」とも呼ぶことができる)、並びに造形プロセスのための可塑性及び潤滑性の供給源と一緒に混合される。一実施態様において、造形助剤物質は、100:1〜10:1(触媒前駆体の重量%対造形助剤の重量%)の比で添加される。一実施態様において、造形助剤物質は、セルロースエーテル型及び/又は誘導体の有機結合剤から選択される。例には、メチルセルロース、ヒドロキシブチルセルロース、ヒドロブチルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ナトリウムカルボキシメチルセルロース及びこれらの混合物が含まれる。別の実施態様において、造形助剤は、ポリエチレングリコール(PEG)などのポリアルキレングリコールである。なお別の実施態様において、造形助剤は、飽和若しくは不飽和脂肪酸(ポリト酸(politic acid)、サチル酸(satiric acid)若しくはオレイン酸など)又はその塩、多糖類由来酸又はその塩、グラファイト、デンプン、アルカリステアリン酸塩、ステアリン酸アンモニウム、ステアリン酸、鉱油及びこれらの組み合わせから選択される。
【0045】
一実施態様において、解膠剤を再処理物質と共に混合物に加えることができる。解膠剤は、アルカリ又は酸であってもよく、例えば、アンモニア、ギ酸、クエン酸、硝酸、マレイン酸、カルボン酸などである。一実施態様において、触媒前駆体物質が噴霧乾燥されるかにかかわらず、10〜28%強度のアンモニア溶液を、噴霧乾燥物質100gあたり50〜150mlの量で加えることができる。別の実施態様において、酸を、2〜4%の強度の水溶液の形態により、噴霧乾燥物質100gあたり10〜20mlの量で用いることができる。必要とされる解膠剤の量は、混合の強度、混合物に添加される再処理物質の量及び造粒時間に応じて決まる。
【0046】
別の実施態様において、孔形成剤も再処理物と共に混合物に添加される。孔形成剤の例には、加熱により分解する、鉱油、ステリン酸(steric acid)、ポリエチレングルコールポリマー、炭水化物ポリマー、メタクリレート、セルロースポリマー及びカルボキシレートが含まれるが、これらに限定されない。市販のセルロース系孔形成剤の例には、Methocel(商標)(Dow Chemical Companyより入手可能)、Avicel(商標)(FMC Biopolymerより入手可能)、Morwet(商標)(Witcoより入手可能)及びPorocel(商標)(Porocelより入手可能)が含まれるが、これらに限定されない。
【0047】
なお別の実施態様において、希釈材13を、任意選択で再処理物質と共に混合物に添加することができる。このステップにおいて添加される希釈材は、上に記載された金属前駆体から沈殿物を形成するステップにおいて添加されうる任意の希釈材と同一でも異なってもよい。
【0048】
造形プロセス
このステップにおいて、再処理物質が組み込まれる触媒前駆体は、ペレット化、押し出し、錠剤化、成形、混転、加圧、噴霧及び噴霧乾燥が含まれるが、これらに限定されない当業界で既知の方法のいずれかを使用して、形成粒子、例えば長球、丸剤、錠剤、円柱、ペレット、不規則押出物、ゆるく結合した凝集体又は集合体などに造形される。
【0049】
一実施態様において、造形触媒前駆体は、当業界で既知の押出装置、例えば一軸押出機、ラム押出機、二軸押出機などを使用する押し出しを介して形成される。別の実施態様において、造形は、100℃〜320℃の範囲の出口温度で噴霧乾燥を介して実施される。一実施態様において、造形触媒前駆体は、1インチの約1/16〜1/6の直径を有する押出物へと押し出し成形される。押し出しの後、押出物を、適切な長さ、例えば1/16インチから5/16インチに切断して円柱ペレットを製造することができる。
【0050】
造形/乾燥プロセスにおいて、再処理物は、噴霧乾燥により粉末物質(微細物)廃棄物51の形態で、又は押し出し、ペレット化などにより廃棄物ペースト押出軟塊物質41の形態で生じることができる。再処理物質を再利用して、続く造形用の新しい混合バッチを形成することができる。
【0051】
一実施態様において、触媒前駆体が噴霧乾燥される場合、再処理物質が組み込まれる混合物は、噴霧乾燥の前に最初に水で再スラリー化される。噴霧乾燥ステップにおいて、再処理物質を含有するバッチは、空気分散機からチャンバに入る熱風を使用する連続単一ステップ操作によって乾燥粉末に変換される。乾燥チャンバから排出された噴霧乾燥触媒前駆体は、硫化ステップに直接入ることができる。
【0052】
一実施態様において、触媒前駆体がペレット化、押し出し又は加圧により造形される場合、バッチ粘度を、可塑化及び造形に、すなわち軟塊混合物の稠度に好都合なレベルに調整するために、十分な量の水が混合バッチに添加される。一実施態様において、混合物が50〜90%の固形分(LOI)を有するために、十分な量の水が添加される。別の実施態様では、60〜70%の固形分(LOI)である。
【0053】
乾燥/か焼ステップ
一実施態様において、造形触媒前駆体は、直接又は間接加熱オーブン、トレー乾燥機又はベルト乾燥機において約50℃〜320℃で約15分間から24時間空気(又は窒素)乾燥される。一実施態様において、造形触媒前駆体は、90〜150℃の温度で乾燥される。乾燥プロセスにおいて、幾つかの再処理物が、造形触媒前駆体の破壊又は取扱いにおいて微細粉末又は小断片として生じる可能性があり、新しい/新たな成分との混合に再利用することができる。一実施態様において、乾燥は、100℃以下の温度である。一実施態様において、触媒前駆体は窒素安定性がある。本明細書で使用されるとき、窒素安定性(nitrogen stable)という用語は、特性(触媒前駆体が硫化されて触媒を形成した後)が、乾燥剤により、すなわち窒素又は酸素環境下での乾燥にかかわらず影響を受けないことを意味する。
【0054】
一実施態様において、乾燥後の触媒前駆体は、硫化ステップに直接入ることができる。別の実施態様において、造形触媒は、適切な雰囲気下、例えば窒素若しくはアルゴンなどの不活性ガス又は蒸気において、約350℃〜750℃の範囲の温度で任意選択でか焼される。なお別の実施態様において、か焼は350℃〜600℃の温度で実施される。か焼プロセスにおいて、触媒前駆体は酸化物に変換される。一実施態様において、酸化物触媒前駆体は、一般式:(X)(Mo)(W)[式中、Xは、Ni又はCoであり、b:(c+d)のモル比は0.5/1〜3/1であり、c:dのモル比は>0.01/1であり、z=[2b+6(c+d)]/2である。]で表される。
【0055】
硫化ステップ
再処理物質61を含有する造形触媒前駆体を、元素硫黄それ自体;優勢な条件下で分解して硫化水素になる硫黄含有化合物;HSそれ自体又は任意の不活性若しくは還元条件下のHS、例えばHの群から選択される、少なくとも1つの硫化剤62の使用により硫化して、活性触媒を形成することができる。硫化剤の例には、硫化アンモニウム、ポリ硫化アンモニウム((NH)、チオ硫酸アンモニウム((NH)、チオ硫酸ナトリウム(Na)、チオ尿素(CSN)、二硫化炭素、ジメチルジスルフィド(DMDS)、硫化ジメチル(DMS)、ジブチルポリスルフィド(DBPS)、メルカプタン、第三級ブチルポリスルフィド(PSTB)、第三級ノニルポリスルフィド(PSTN)などが含まれる。一実施態様において、炭化水素原料が、触媒前駆体の硫化を実施するための硫黄供給源として使用される。
【0056】
硫化ステップは、触媒を水素化処理反応器に導入する前に実施する(したがって、その場以外で(ex−situで)硫化する)ことができる。炭化水素原料による触媒前駆体の硫化は、水素化処理の際に1つ又は複数の水素化処理反応器において実施する(その場で(in−situで)硫化する)ことができる。
【0057】
硫化ステップにおいて、再処理物を含有する造形触媒前駆体は、25℃〜500℃の範囲の温度で10分間から15日間、H含有ガス圧下で硫化剤と接触させることにより、活性触媒に変換される。硫化ステップの際の総圧力は、大気圧から約10bar(1MPa)の範囲であってもよい。硫化温度が硫化剤の沸点未満の場合、プロセスは、一般に大気圧で実施される。硫化剤/任意選択の成分(ある場合)の沸騰温度を超えるとき、反応は、一般に、増加された圧力下で実施される。
【0058】
触媒の使用
再処理物質を用いる触媒前駆体組成物から調製される多金属触媒を、実質的に全ての水素化プロセシングプロセスに使用して、200〜450℃の温度、15〜300barの水素圧、0.05〜10h−1の液時空間速度及び35.6〜2670m/mの水素処理ガス速度(200〜15000SCF/B−すなわち反応器への炭化水素化合物供給原料の「1バレルあたりの標準立方フィート」)などの広範囲の反応条件下で、複数の供給原料を処理することができる。再処理物質を有する触媒は、また、VGOなどの重油原料の水素化処理においてほぼ完全なHDN変換率(>99.99%)を与えるので、優れた触媒活性により特徴付けられる。
【0059】
再処理物が組み込まれている前駆体物質から調製される触媒は、最大1.6g/ccの圧縮嵩密度(compact bulk density:CBD)、一実施態様では40〜300cm/gの範囲の、別の実施態様では250cm/gを超える、窒素を吸着質として使用するBET法により測定した表面積;少なくとも約2.5lbsの破砕強度;及び7重量%未満の摩耗損失を有する前駆体により実証されるように、他の望ましい特性も有する。摩耗損失は、回転ドラムで1時間半混転したときに測定される微細量の損失である。孔容積は、0.002〜2.0cm/gの、BET吸着曲線における95nmまでの窒素吸着を使用して測定されてよい。一実施態様において、孔容積は1.0cm/g未満である。一実施態様において、CBDは最大1.4g/ccである。なお別の実施態様において、CBDは最大1.2g/ccである。一実施態様において、破砕強度は少なくとも6lbsである。一実施態様において、触媒前駆体は、2.5g/cc以下の粒子密度を有する。別の実施態様において、粒子密度は2.2g/cc以下である。
【0060】
上で説明された触媒前駆体の作製に再処理物を使用する方法を、本発明の本質的な特徴から逸脱することなく変えうることが理解されるべきである。例えば、再処理物質を新たな成分、例えば乾燥触媒前駆体、希釈剤、結合剤などに組み込むステップを、複数供給入口を有する多段階押出機などの適切な装置を使用する造形ステップと組み合わせることができる。加えて、物質(固体及び/又は液体の形態)を一緒に混合する特定の順番はない。硫化は、造形ステップの後にいつでも、例えば、乾燥/か焼ステップの前に実施することができ、その場合、乾燥/か焼ステップを省くことができる。
【実施例】
【0061】
以下の例示的な実施例は、非限定的であることが意図される。
【0062】
例1 Ni−Mo−W−マレエート触媒前駆体
式:(NH){[Ni2.6(OH)2.08(C2−0.06](Mo0.350.65}の触媒前駆体を以下のように調製した:52.96gのヘプタモリブデン酸アンモニウム(NHMo24・4HOを、2.4Lの脱イオン水に室温で溶解した。得られた溶液のpHは5〜6の範囲内であった。次に73.98gのメタタングステン酸アンモニウム粉末を上記の溶液に加え、完全に溶解するまで室温で撹拌した。90mlの濃(NH)OHを、常に撹拌しながら溶液に加えた。得られたモリブデン酸塩/タングステン酸塩溶液を10分間撹拌し、pHをモニタリングした。溶液は、9〜10の範囲のpHを有した。150mlの脱イオン水に溶解した174.65gのNi(NO・6HOを含有する第2溶液を調製し、90℃に加熱した。次に高温ニッケル溶液を、モリブデン酸塩/タングステン酸塩溶液に1時間かけてゆっくりと加えた。得られた混合物を91℃に加熱し、撹拌を30分間続けた。溶液のpHは5〜6の範囲であった。青緑色の沈殿物が形成され、沈殿物を濾過により収集した。沈殿物を、1.8LのDI水に溶解した10.54gのマレイン酸の溶液に分散し、70℃に加熱した。得られたスラリーを70℃で30分間撹拌し、濾過し、収集した沈殿物を、室温で一晩真空乾燥した。得られた物質のBET表面積は101m/gであり、平均孔容積はおよそ0.12〜0.14cc/gであり、平均孔径はおよそ5nmであった。
【0063】
例2 Co−Mo−W−マレエート触媒前駆体
式:(NH){[Co3.0(OH)3.0−c(C2−c/2](Mo0.340.66}の触媒前駆体を以下のように調製した:2.0gのマレイン酸を800gの脱イオン水に室温で溶解した。得られた溶液のpHは2〜3の範囲内であった。17.65gのヘプタモリブデン酸アンモニウム(NHMo24・4HO粉末を、上記の溶液に溶解し、続いて24.67gのメタタングステン酸アンモニウム(NH1240・xHO(>66.5%W)を加えた。得られた溶液のpHは4〜5の範囲内であった。30mlの濃(NH)OHを、常に撹拌しながら溶液に加えた。得られたモリブデン酸塩/タングステン酸塩溶液を10分間撹拌し、pHをモニタリングした。溶液は、室温で9〜10の範囲のpHを有し、90℃に加熱した。50gの脱イオン水に溶解した58.28gの硝酸コバルトを含有する第2の溶液を調製した。次に高温コバルト溶液を、高温モリブデン酸塩/タングステン酸塩溶液に25分間かけてゆっくりと加えた。得られた混合物を90℃で1時間連続的に撹拌した。溶液のpHはおよそ6であった。この方法により形成された暗紫色を帯びた褐色の沈殿物を濾過により収集した。沈殿物を250gのDI水に70℃で分散した。得られたスラリーを30分間撹拌し、濾過し、収集した沈殿物を、室温で一晩真空乾燥した。次に、物質を120℃で12時間更に乾燥した。
【0064】
例3 Co−Mo−W−触媒前駆体
式:(NH{[Co3.31(OH)3.62](Mo0.30.7}の触媒前駆体を以下手順に従って調製した:17.65gのヘプタモリブデン酸アンモニウム(NHMo24・4HO粉末を、800.00gの脱イオン水に室温で溶解し、続いて24.66gのメタタングステン酸アンモニウム(NH1240・xHO(>66.5%W)を加えた。得られた溶液のpHは5.2〜5.4の範囲内であった。50.0gの脱イオン水に溶解した58.26gの硝酸コバルト六水和物を含有する第2の溶液を調製した。得られた溶液のpHは1〜2の範囲内であった。30mlの濃(NH)OHを、常に撹拌しながら溶液に加えた。最初に苔緑色の沈殿物が形成され、後に、緑色を帯びた懸濁液の下層及び褐色を帯びた上層の2層混合物になった。次にコバルト含有混合物を、モリブデン酸塩/タングステン酸塩溶液に室温で25分間かけてゆっくりと加えた。得られた溶液のpHは8〜8.5の範囲内であった。混合物を80℃に加熱し、1時間連続的に撹拌した。紫色を帯びた灰色の懸濁液を熱いうちに濾過した。沈殿物を2.5LのDI水に70℃で分散した。得られたスラリーを30分間撹拌し(pH約7.6)、濾過し、収集した沈殿物を、室温で一晩真空乾燥した。次に物質を120℃で12時間更に乾燥した。
【0065】
例4 押出方法
この例では、40gの、例1〜3と同様に調製した乾燥触媒前駆体を、0.8gのメトセル(Dow Chemical Companyから市販されているメチルセルロース及びヒドロキシプロピルメチルセルロースポリマー)と混合し、およそ7gのDI水を加えた。別の7gの水を、混合物が押し出し可能な稠度になるまで、ゆっくりと加えた。
【0066】
27 1/2インチの軸及び33 1/2インチの全長を有する二重バレルWolf押出機;Loomis 232DT押出機;及び1/16インチのダイ穴を有するBonnot社の梱包機を備えた2インチ押出機のいずれかを使用して、混合物を押し出した。幾つかの押出物を切断して、約1/8インチ〜1/2インチの長さのペレットにした。幾つかの押出物を、「再処理物」として後で再使用するために保存した。
【0067】
例5 乾燥方法
前駆体ペレットを、硫化の前に、N下、120℃で乾燥した。幾つかの乾燥ペレットを、「再処理物」として後で再使用するために保存した。
【0068】
例6 再処理押出物を有する触媒前駆体
それぞれのバッチにおいて、30gの、例1〜3と同様に調製した乾燥(新たな)触媒前駆体を、10gの例4の再処理物質(軟塊様物質)、約0.7gのメトセル及び7gのDI水と混合した。別の5〜10gの水を、押し出し可能な稠度になるまで、混合物にゆっくりと加えた。再処理物が組み込まれる混合物を、1/16インチのダイ穴を有するWolf押出機を使用して押し出した。続いて押出物を、硫化の前に、切断してペレットにし、乾燥した。
【0069】
例7 再処理乾燥粉末を有する触媒前駆体
それぞれのバッチにおいて、30gの、例1〜3と同様に調製した乾燥(新たな)触媒前駆体を、5gの例4の再処理押出物質、5gの例5の再処理乾燥粉末、約0.7gのメトセル及び約8〜10gのDI水と混合した。追加の水を加えて、用いられる特定の造形方法、例えば押出、ペレット化などに必要とされる稠度をバッチ混合物に与える。例5において乾燥した後の再処理ペレットを、新たな成分を含有するバッチ混合物と混合する前に、最初にボールミル又は撹拌媒体ミルの使用によりサイズを低減した。
【0070】
例8 DMDS液相による硫化
硫化触媒を、A)再処理物質なし(例5);B)約25%の量の再処理押出物に(例6);並びに、C)押出物及び乾燥粉末の両方の形態の再処理物質(例7)で調製された例1〜3の触媒前駆体ペレットの3つのバッチから調製した。
【0071】
前駆体を管型反応器に入れる。温度を、8ft/時間のN(g)下、100°F/時間の速度で室温から250°Fに上昇させる。反応を1時間続け、その時間の後、Nを、8ft/時間及び200psigで1時間Hに代える。軽VGO油(終点950°F未満)を、130cc/時間の速度(1LHSV)により250°Fで触媒前駆体にポンプでか送り、同時に毎時8立方フィートの水素ガス速度を維持する。次に触媒前駆体を25°F/時間の速度により430°Fに加熱し、ジメチルジスルフィド(DMDS)を、軽VGOに4cc/時間の速度でおよそ4時間加える。次に触媒前駆体を600°Fに加熱し、DMDS添加速度を8cc/時間に増加する。温度を600°Fで2時間維持し、その時間の後、硫化が完了した。
【0072】
例9 比較研究
この例では、700°Fを超える沸点、31135ppmの硫黄含有量、31230ppmの窒素含有量及び表1に提示されている他の特性を有する重油原料を使用して、水素化分解、HDS、HND活性に関して、再処理物を用いた前駆体から調製された触媒及び再処理物を用いない前駆体から調製された触媒を比較した。反応条件には、2300psiの圧力、5000SCFBのHガス速度及び0.75のLHSVが含まれる。
【0073】
再処理物質を含有する前駆体から調製された触媒は、再処理物質が何もない前駆体から調製された触媒と比較すると、700°F+生成物を1重量ppm未満のNに変換することを含む、同等の性能を示した。
【表1】

【0074】
本明細書及び添付の特許請求の範囲の目的において、特に示されない限り、量、率又は割合を表す全ての数字、並びに明細書及び特許請求の範囲に使用されている他の数値は、全ての場合において用語「約」により修正されることが理解されるべきである。したがって、特に指示のない限り、以下の明細書及び添付の特許請求の範囲に記載されている数値パラメーターは、本発明により得られることが求められる望ましい特性に応じて変わりうる近似値である。本明細書及び添付の特許請求の範囲で使用されるように、単数形「a」、「an」及び「the」は、1つの対象に明白及び明確に限定される場合を除いて、複数対象を含むことに留意すべきである。本明細書で使用されるとき、用語「含む」及びその文法的変形は、リストにおける物品の列挙が、提示された物品に代わりうる又は追加されうる他の同様の物品の除外ではないように、非限定的であることが意図される。
【0075】
この書面による記載は、最良の形態を含む本発明を開示するため、またあらゆる当業者が本発明を実施及び使用することができるため、例を使用する。特許可能な範囲は、特許請求の範囲によって定義され、当業者に生じる他の例を含むことができる。そのような他の例は、それらが特許請求の範囲の文字どおりの言語と異ならない構造要素を有する場合、又はそれらが特許請求の範囲の文字どおりの言語と実質的ではない差を有する同等の構造要素を含む場合、特許請求の範囲の範囲内であることが意図される。本明細書において参照される全ての引用は、参照として本明細書に明白に組み込まれる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
嵩高多金属触媒を形成するプロセスにおいて生じた再処理物質を使用する方法であって、
VIII族、IIB族、IIA族、IVA族及びこれらの組み合わせから選択される少なくとも1つの助触媒金属前駆体、少なくとも1つのVIB族金属前駆体、任意選択で少なくとも1つの配位剤、並びに任意選択で少なくとも1つの希釈剤を含む沈殿物を形成すること;
デカント、濾過、沈降及び乾燥のいずれかにより沈殿物から液体の少なくとも50%を除去すること;
再処理物質を沈殿物に加えて、バッチ混合物を形成すること;
バッチ混合物を、ペレット化、押し出し、錠剤化、成形、混転、加圧、噴霧及び噴霧乾燥のいずれかを介して造形し、造形触媒前駆体にすること;
造形触媒前駆体を硫化して、嵩高多金属触媒を形成すること
を含む上記方法。
【請求項2】
再処理物質がバッチ混合物の5〜95重量%を占める、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
再処理物質がバッチ混合物の15〜45重量%を占める、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
50〜90%の固形分を有するためにバッチ混合物に十分な量の水が添加される、請求項1から3までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
再処理物質を含有する造形触媒前駆体を、硫化ステップの前に、50℃〜325℃の範囲の温度で約15分間から24時間乾燥することを更に含む、請求項1から3までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
再処理物質が乾燥ステップで生じた粒子又は断片から本質的になる、請求項1から3までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
バッチ混合物が押出により造形されて造形触媒前駆体になり、再処理物質が押出ステップで生じた押出軟塊から本質的になる、請求項1から3までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
再処理物質が、乾燥ステップで生じた粒子又は断片と、造形ステップで生じた押出軟塊との混合物である、請求項1から3までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
少なくとも1つの造形助剤が再処理物質及び沈殿物に添加されて、バッチ混合物を形成し、造形助剤が、バッチ混合物と造形助剤との最終重量の比10:1〜100:1で添加される、請求項1から3までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
少なくとも1つの解膠剤が再処理物質及び沈殿物に添加されて、バッチ混合物を形成し、解膠剤が、アンモニア、ギ酸、クエン酸、硝酸、カルボン酸及びこれらの組み合わせの群から選択される、請求項1から3までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
少なくとも1つの孔形成剤が再処理物質及び沈殿物に添加されて、バッチ混合物を形成する、請求項1から3までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
少なくとも1つの希釈剤が金属前駆体のうちの少なくとも1つに添加されて、沈殿物を形成する、請求項1から3までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
少なくとも1つの希釈剤が沈殿物に添加されて、バッチ混合物を形成する、請求項1から3までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
少なくとも配位剤Lが金属前駆体のうちの少なくとも1つに添加されて、沈殿物を形成する、請求項1から3までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
形成された再処理物質を含有する造形触媒前駆体が、式:A[(M)(OH)(L)(MVIB)[式中、Aは、アルカリ金属カチオン、アンモニウム、有機アンモニウム及びホスホニウムカチオンのうちの少なくとも1つであり;Mは、VIII族、IIB族、IIA族、IVA族及びこれらの組み合わせから選択され;Lは、少なくとも1つの有機酸素含有配位剤であり;MVIBは、少なくとも1つの+6の酸素状態を有するVIB金属であり;M:MVIBは、100:1〜1:100の原子比を有し;v−2+Pz−xz+nz=0;かつ、0≦y≦−P/n;0≦x≦P;0≦v≦2;0≦zである。]で表される、請求項1から3までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
が、少なくとも1つのVIII族金属であり、MVIBが、モリブデン、タングステン及びこれらの組み合わせから選択され、Lが、カルボキシレート、エノレート及びこれらの組み合わせのうちの少なくとも1つである、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
再処理物質を含有する造形触媒前駆体を、硫化ステップの前に、350℃〜750℃の範囲の温度で焼成することを更に含み、造形触媒前駆体が変換されて酸化物になる、請求項1から3までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
再処理物質を含有する造形触媒前駆体が、式:(X)(Mo)(W)[式中、Xは、Ni又はCoであり、b:(c+d)のモル比は0.5/1〜3/1であり、c:dのモル比は>0.01/1であり、かつ、z=[2b+6(c+d)]/2である。]で表される、請求項1から3までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
請求項1の方法により調製される嵩高多金属触媒。
【請求項20】
重油の水素化変換に使用される嵩高多金属触媒を形成するための触媒前駆体であって、
VIII族、IIB族、IIA族、IVA族及びこれらの組み合わせから選択される少なくとも1つの助触媒金属前駆体、少なくとも1つのVIB族金属前駆体、任意選択で少なくとも1つの配位剤、並びに任意選択で少なくとも1つの希釈剤を含み;
前駆体の乾燥及び/又は押出により生じる粒子又は断片を含有する少なくとも1つの再処理物質を、前駆体の総重量に基づいて5〜95重量%含む
上記触媒前駆体。

【図1】
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【公表番号】特表2012−525251(P2012−525251A)
【公表日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−508509(P2012−508509)
【出願日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際出願番号】PCT/US2010/030329
【国際公開番号】WO2010/126690
【国際公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【出願人】(503148834)シェブロン ユー.エス.エー. インコーポレイテッド (258)
【Fターム(参考)】