説明

水素化芳香族カルボン酸の製造方法

【課題】高純度の水素化芳香族カルボン酸を高収率で工業的に有利に製造する方法、及び原料の芳香族カルボン酸を実質的には含有していない水素化芳香族カルボン酸を提供する。
【解決手段】芳香族カルボン酸を触媒存在下、水素化し水素化芳香族カルボン酸を製造する方法であって、特定の条件を満たす水素化芳香族カルボン酸の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芳香族カルボン酸の芳香環を核水素化反応して水素化芳香族カルボン酸を製造する方法、及びその製造方法により得られる水素化芳香族カルボン酸に関する。更に詳しくは、高純度の水素化芳香族カルボン酸を高収率で工業的に得ることができる製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水素化芳香族カルボン酸は機能性ポリイミドや機能性エポキシ樹脂の原料として多用されている。近年、それらの樹脂の高機能化に伴い、高純度の水素化芳香族ポリカルボン酸が要望されるようになった。特に、高度に透明性を必要とする用途には水素化芳香族カルボン酸中の芳香環の残存量をできる限り低減させる要望が強くなった。
【0003】
高純度の水素化芳香族カルボン酸を得る方法として、(i)芳香族カルボン酸を核水素化する方法(非特許文献1、特許文献1、特許文献2及び特許文献3参照)、(ii)芳香族カルボン酸のエステル誘導体を経由して芳香環を核水素化する方法(特許文献4及び特許文献5参照)が提案されている。
【0004】
非特許文献1には、(i)カーボン担体にロジウム金属を5%担持した触媒(ロジウム金属の使用量;2重量%対原料)の存在下、水素圧2.7atm、60℃でピロメリット酸を核水素化する方法、(ii)アルミナ担体にロジウム金属を5%担持した触媒(ロジウム金属の使用量;2.4重量%又は0.6重量%対原料)の存在下、60-70℃でフタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸を核水素化する方法、が記載されている。
【0005】
しかしながら、上記方法は何れも触媒の使用量が多く、また芳香族カルボン酸の転化率及び選択率が必ずしも十分でなかった為に原料の芳香族カルボン酸が残存する傾向があった。
【0006】
特許文献1には、ロジウム金属及び/又はパラジウム金属を含む触媒の存在下で芳香族カルボン酸を核水素化する方法で、回分式において該触媒の貴金属含有量が原料に対して0.5-10重量部である水素化芳香族カルボン酸の製造方法が提案されている。具体的には、5重量%カーボン担持ロジウム触媒を用いた製造方法が記載されている。
【0007】
しかしながらこの製造方法は、多量の触媒量が必要であり、反応温度の制御を行なわないため反応温度が上昇し、反応転化率を減少させることがあった。
【0008】
特許文献2には、γ−アルミナ担体にロジウム金属を5%担持し、比表面積が50-450m2/gである触媒の存在下で芳香族ポリカルボン酸を核水素化する方法で、該触媒の貴金属含有量が、原料に対して0.25-0.50重量部である水素化芳香族ポリカルボン酸の製造方法が提案されている。
【0009】
しかしながらこの製造方法は、賦活処理を施さずに活性が続くとしているが、反応回数を重ねるごとに触媒活性が低下し、回分式で4回目以降の反応では、多量の芳香族カルボン酸が残存してしまい、長期の反応には耐えられないこと、触媒金属自体が高価で取り替えつつ反応をするには経済的にかなり不利であることがあった。
【0010】
特許文献3には、アルミナ、シリカ又はシリカ−アルミナを担体とする貴金属触媒を用い芳香族ポリカルボン酸を核水素化する方法で、該触媒の貴金属使用量が、原料の芳香族ポリカルボン酸に対して0.05-0.45重量%である水素化芳香族ポリカルボン酸の製造方法が提案されている。
【0011】
しかしながらこの製造方法は、基本的には特許文献2と同様の製造方法であり触媒の再使用の点で特許文献2と同様の問題があり、経済的に不利であることがあった。
【0012】
特許文献4及び5には、芳香族ポリカルボン酸のエステル誘導体とした後に芳香環を核水素化する方法が記載されている。
【0013】
しかしながら、当該製造方法は芳香族カルボン酸を一旦エステル誘導体を経由して芳香環を核水素化する方法である為、全製造工程は長くなり反応装置も複雑となる傾向があった。その為に、製造コストが上昇する傾向があった。
【非特許文献1】“ジャーナル オブ オーガニック ケミストリー”(The Journal of Organic Chemistry),1966年,第31巻,p.3438-3439
【特許文献1】特開2003−286222号公報
【特許文献2】特開2006−83080号公報
【特許文献3】特開2006−1243413号公報
【特許文献4】特開平8−325196号公報
【特許文献5】特開平8−325201号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の目的は、高純度の水素化芳香族カルボン酸を高収率で工業的に有利に製造する方法、及び原料の芳香族カルボン酸を実質的には含有していない水素化芳香族カルボン酸を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、以下の知見を得た。
【0016】
芳香族ポリカルボン酸を核水素化するに際し、
(1)特定の温度範囲で反応を行うことにより、転化率の低下と触媒の劣化を抑えること
(2)その触媒量が少量で所望の効果が得られること
(3)当該触媒に対して、空気による賦活処理とアルカリによる洗浄を繰り返すことで、長期にわたり触媒を使用可能にしたこと
を見出し、係る知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0017】
即ち、本発明は、以下の[1]〜[9]の水素化芳香族カルボン酸の製造方法に関するものである。
【0018】
[1]芳香族カルボン酸を触媒存在下、水素化し水素化芳香族カルボン酸を製造する方法であって、条件(1)〜(6)を満たす水素化芳香族カルボン酸の製造方法。
(1)触媒がカーボン担体にロジウム及び/又はパラジウムを担持したものである
(2)芳香族カルボン酸100重量部に対し、触媒を0.15重量部以上0.50重量部未満用いる
(3)反応水素分圧が1.0〜15MPaである
(4)反応温度範囲が30〜60℃である
(5)芳香族カルボン酸を反応溶媒に溶解又は懸濁させる
(6)反応混合物の反応温度範囲を最初に設定した温度の±5℃以内で、0.5〜3.0時間保持して反応させる
[2]触媒が、水素化反応後、賦活処理を行なって得られ再使用された触媒である[1]記載の水素化芳香族カルボン酸の製造方法。
[3]反応温度範囲が40〜50℃である[1]または[2]に記載の水素化芳香族カルボン酸の製造方法。
[4]賦活処理が、空気にさらす方法とアルカリで洗浄する方法のいずれか、あるいはその両方を組み合わせることである[2]に記載の水素化芳香族カルボン酸の製造方法。
[5]芳香族カルボン酸の濃度が、芳香族カルボン酸と反応溶媒との合計重量に対して、5〜40重量%である[1]〜[4]の何れかに記載の水素化芳香族カルボン酸の製造方法。
[6]水素化反応の反応溶媒が水である[5]に記載の水素化芳香族カルボン酸の製造方法。
[7]芳香族カルボン酸がトリメリット酸、ヘミメリット酸、トリメシン酸およびピロメリット酸から選ばれる1種である[1]〜[6]の何れかに記載の水素化芳香族カルボン酸の製造方法。
[8][1]〜[7]の何れかに記載の製造方法で得られる、原料の芳香族カルボン酸の含有量が0.10重量%以下である水素化芳香族カルボン酸の製造方法。
[9]芳香族カルボン酸100重量部に対し、ロジウム及び/又はパラジウムを0.3重量部以上0.5重量部未満用いる[2]記載の水素化芳香族カルボン酸の製造方法。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、高純度の水素化芳香族カルボン酸を高収率で工業的に有利に製造できる。
又、本発明の製造方法により得られた水素化芳香族カルボン酸は、原料の芳香族カルボン酸が極微量であるか或いは実質的に含有していないので、透明性や溶剤可溶性等を有する機能性ポリイミドやポリエステルのモノマー原料、透明性を有する機能性エポキシ樹脂の硬化剤原料などに有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明に用いる芳香族カルボン酸は、芳香環上に2個以上のカルボキシル基を有する化合物であれば特に限定されず、公知の芳香族カルボン酸が使用できる。
【0021】
具体的には、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、1,2−ナフタレンジカルボン酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、1,8−ナフタレンジカルボン酸、2,3−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、9,10−アントラセンジカルボン酸、4,4’−ベンゾフェノンジカルボン酸、2,2’−ビフェニルジカルボン酸、3,3’−ビフェニルジカルボン酸、4,4’−ビフェニルジカルボン酸、3,3’−ビフェニルエーテルジカルボン酸、4,4’−ビフェニルエーテルジカルボン酸、4,4’−ビナフチルジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸;ヘミメリット酸、トリメリット酸、トリメシン酸、1,2,4−ナフタレントリカルボン酸、2,5,7−ナフタレントリカルボン酸等の芳香族トリカルボン酸;メロファン酸、プレーニト酸、ピロメリット酸、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸、2,2’、3,3’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸、2,3,3’,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸、3,3’4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸、4,4’−オキシジフタル酸、3,3’,4,4’−ジフェニルメタンテトラカルボン酸、1,4,5,8−ナフタレンジカルボン酸、2,3,6,7−ナフタレンジカルボン酸、アントラセンテトラカルボン酸等の芳香族テトラカルボン酸;ベンゼンペンタカルボン酸等の芳香族ペンタカルボン酸;ベンゼンヘキサカルボン酸等の芳香族ヘキサカルボン酸などが例示される。これらは、単独で又は2種以上を適宜組み合わせて使用することができる。
【0022】
中でも、3〜4個のカルボキシル基を有する芳香族トリカルボン酸、芳香族テトラカルボン酸が好ましい。
具体的には、トリメリット酸、ヘミメリット酸、トリメシン酸、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸、ピロメリット酸、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸が好ましく、トリメリット酸、ヘミメリット酸、トリメシン酸およびピロメリット酸がより好ましい。これらは単独で又は2種以上を適宜組み合わせて使用することができる。
【0023】
本発明において、芳香族カルボン酸を触媒存在下、水素化し水素化芳香族カルボン酸を製造する。得られた水素化芳香族カルボン酸は、原料の芳香族カルボン酸の完全水素化物であっても良いし、部分水素化物であっても良い。部分水素化物としては、例えば原料がナフタレン骨格を有するポリカルボン酸の場合、テトラリン骨格を有する化合物などを挙げることができる。また原料がビフェニル骨格や、各種連結基を介して2個のベンゼン環が結合した構造の骨格を有するポリカルボン酸の場合、一方がベンゼン環で、他方がシクロヘキサン環構造の骨格を有する化合物などを挙げることができる。
水素化芳香族カルボン酸としては、1,2,4-シクロヘキサントリカルボン酸、1,2,3,-シクロヘキサントリカルボン酸、1,3,5-シクロヘキサントリカルボン酸、2,3,6,7-デカヒドロナフタレンテトラカルボン酸、1,2,4,5-シクロヘキサンテトラカルボン酸、1,4,5,8-デカヒドロナフタレンテトラカルボン酸、3,3’,4,4’−ビシクロヘキシルテトラカルボン酸が挙げられる。
【0024】
本発明における水素化反応には反応溶媒が好適に用いられる。反応溶媒としては、水、酢酸、プロピオン酸、ジメチルエーテル、メチルエチルエーテル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、テトラヒドロフラン、アセトン、メチルエチルケトン、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル等が挙げられ、水が好ましい。前記の水は、イオン交換水又は蒸留水が好ましい。
また、本発明に係る水素化芳香族カルボン酸を電気・電子分野に利用する場合には、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、鉄等の金属成分の含有量が極力少ない水を用いることが望ましい。
【0025】
反応溶媒として水を選択することにより、
(i)芳香族カルボン酸が水に溶解し易いので水素化反応が進行し易い。
(ii)得られた水素化芳香族カルボン酸が水へ溶解し易いので、当該触媒との分離が容易である。
(iii)当該触媒を分離した後、その濾液を濃縮若しくは冷却することにより、水素化芳香族カルボン酸を晶析させ、これを濾過や遠心分離などで固液分離することにより、より高純度の水素化芳香族カルボン酸が得られ易い、などの利点がある。
【0026】
原料の芳香族カルボン酸は反応溶媒中に溶解させても縣濁させても良い。この時の芳香族カルボン酸濃度としては5〜40重量%が好ましく、更に好適には10〜40重量%である。
【0027】
水素化反応後に冷却もしくは濃縮などにより水素化芳香族カルボン酸を結晶化させ、その結晶を分離して得られた母液を循環使用しても構わない。母液を反応器に戻す割合は、不純物の系内蓄積度合いに応じて適宜決めることができる。
【0028】
本発明においては、触媒として、カーボンにロジウム又はパラジウムあるいはその両方からなる貴金属に担持されてなる触媒が用いられる。担体としてはカーボンが好ましい。触媒の形状は特に限定はなく、水素化反応に応じて粉末や固定床用の破砕状、ペレット状などが選択される。上記貴金属の担体への担持量は、触媒全量に基づき0.5〜10重量%、より好ましくは2〜5重量%である。
【0029】
本発明の反応様式としては、芳香族カルボン酸100重量部に対し、ロジウム又はパラジウムあるいはその両方からなる貴金属を0.15重量部以上0.50重量部未満の割合で含む触媒の存在下、水素分圧1.0MPa以上で芳香族カルボン酸を水素化する。
水素分圧が1.0MPa未満では所望の反応転化率が得られず、本発明の目的が達せられない。好ましい水素分圧は1.0〜15MPaの範囲である。反応温度は30〜60℃の範囲が好ましく、さらに好ましくは40〜50℃の範囲である。
【0030】
本発明において用いる水素は、一般、工業的に製造されるグレードのものであればよい。例えばPSA法や膜式水素製造法などで製造され、純度が99.9%以上のものが挙げられる。
【0031】
また、水素化反応は発熱反応であるので、反応温度範囲を制御するには発熱と製造装置の放熱の度合いに応じて加熱冷却装置を用い、反応混合物に対して冷却または加熱操作を行い反応温度の範囲を最初に設定した温度の±5℃以内に抑え反応させる。±5℃以内に抑えることにより過剰な量の触媒を用いる必要がなくなり、反応回数を重ねても原料の転化率をほぼ100%に保ち続けることができる。
【0032】
加熱反応装置としては、通常使用されるものであれば構わないが例を挙げれば、反応器内部に熱媒を通すためのコイルを組み込んだ内部コイル方式、反応器外側に熱媒を通すジャケット方式、反応液の一部をポンプにより外部に送り、熱交換器により加熱する外部循環加熱方式が好適に用いられる。熱媒としてはスチーム、ホットオイル等が用いられる。冷却装置としては、反応器内部に冷媒を通すためのコイルを組み込んだ内部コイル方式、反応器外側に冷媒を通すジャケット方式、反応液の一部をポンプにより外部に送り、熱交換器により冷却する外部循環冷却方式が好適に用いられる。冷媒としては、冷却水、エタノールなどが用いられる。
【0033】
触媒の貴金属量が芳香族カルボン酸100重量部に対して0.15重量部未満では核水素化反応が十分に進行しないことがあり、又0.5重量部以上ではその量に見合うだけの効果が得られにくく、製造コストの上昇を招くことがある。
【0034】
反応時間は、反応温度やその他条件により左右され、一概に決めることはできないが、通常0.5-3.0時間程度で十分である。
【0035】
水素化に使用した触媒は、賦活処理をすることにより繰り返し使用することができる。触媒の賦活処理の方法としては空気と接触させる、酸化剤で処理する、窒素ガスと接触させる、スチームで処理する、アルカリ水溶液で処理する等を挙げることができる。空気と接触させる方法は、分離した触媒をガラス等の容器に入れて数時間以上、空気の存在下に放置するだけでも良いし、水に入れスラリー状にしてから空気ガスをバブリングする方法でも良い。酸化剤としては過酸化水素が例示される。アルカリとしては水酸化ナトリウム水溶液、アンモニア水を例示することができる。触媒のアルカリ洗浄をした場合には残存アルカリをできるだけ低減するために、アルカリ洗浄の後に触媒を酢酸等の低級脂肪族カルボン酸で洗浄し、最後に水で洗浄することが望ましい。
【0036】
それらの賦活処理方法の中で、空気と接触させる方法、アルカリ水溶液で処理する方法及びそれらを併用する方法が賦活効果の点などから好適である
【0037】
賦活した触媒を繰り返し使用する場合には、芳香族カルボン酸100重量部に対し、ロジウム及び/又はパラジウムが0.3重量部以上0.5重量部未満含まれるものを使用するのが好ましい。
【0038】
本発明に係る水素化反応に用いる反応装置は、(i)反応器が耐酸性の材質であり、(ii)耐圧構造であり、(iii)触媒と芳香族カルボン酸と水素とを十分に混合できる撹拌機を具備している反応装置であれば特に限定されず、公知の反応器も使用できる。例えば、SUS316L製縦型若しくは横型オートクレーブ等が挙げられる。
【0039】
本発明に係る水素化反応の手順としては、本発明の効果を損ねない限り、特に限定されない。
例えば、反応装置に所定の原料、反応溶媒及び触媒を所定量仕込み、系内を不活性ガスで置換する。次に水素で置換し、所定の反応条件下(水素分圧、反応温度、反応時間、撹拌速度等)で水素化反応を行う手順などが例示される。
【0040】
反応終了後の処理方法としては、例えば、(1)反応終了後、当該反応温度と同程度の温度で触媒を濾別する。濾液を室温まで冷却して晶析させる。晶析後、濾過し、その濾過物を乾燥して、目的の水素化芳香族カルボン酸を得る方法がある。
【0041】
当該濾液から反応溶媒を留去して濃縮する。濃縮後、析出した固体を濾別する。次にその濾過物を乾燥して、目的の水素化芳香族カルボン酸を得る方法などが例示される。
【0042】
また、水素化反応終了後に水素化芳香族カルボン酸が比較的多く析出している場合、触媒分離中に析出する可能性がある場合等には濾過温度を上げる、若しくは反応溶媒を加えるなどの手順を加えても良く、晶析時に系が増粘する場合には、反応終了後に予め反応溶媒を加えておくなどの手順を加えても良い。
【0043】
また濾別した触媒は繰り返し当該水素化反応に供することができる。
【0044】
かくして本発明の水素化芳香族カルボン酸の製造方法により、簡単なプロセスで、且つ工業的に有利な方法で原料の芳香族カルボン酸の含有量が0.10重量%以下になるような高純度の水素化芳香族カルボン酸を製造することができる。
尚、上述の原料の芳香族カルボン酸の含有量が極微量であるかあるいは実質的に含有していないとは、ガスクロマトグラフィー法において原料の芳香族カルボン酸の検出限界以下であることを意味する。
【0045】
以下、実施例及び比較例を挙げ、本発明を詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
<ガスクロマトグラフィー分析条件>
<前処理>
サンプルをジエチレングリコールジメチルエーテルに固形物濃度として6重量%となるように溶解させた。次に、その溶液をジアゾメタンでメチルエステル化してガスクロマトグラフィー用サンプルを調製した。尚、注入量は0.8μLである。
<ガスクロマトグラフィー分析条件>
ガスクロマトグラフィー分析装置;GC-17A(島津製作所(株)製)
キャピラリーカラム;DB-1(島津製作所(株)製)
インジェクション温度;300℃
検出器温度;280℃
初期カラム温度、保持時間;200℃、10分
昇温速度;7℃/分
最終カラム温度、保持時間;280℃、40分
キャリアーガス;ヘリウム
キャリアガス圧力;130KPa
検出器;FID
【実施例】
【0046】
[実施例1]
撹拌機、温度計、圧力計、導入管、冷却水とスチームを通せる加熱冷却装置を具備した500mlのSUS316L製振とう式オートクレーブに、ピロメリット酸20g、イオン交換水80g及び5重量%ロジウムカーボン担持触媒(エヌ・イーケムキャット社製、含水品、水分含有率50.5重量%)3.2g(ロジウム金属として0.4重量部)を仕込み、撹拌しながら系内を窒素ガスで2回置換した。置換後、窒素ガスで5MPaに保持しながら昇温し、50℃になった時点で窒素ガスを抜き、水素ガスで5回置換した。置換後、水素分圧5MPaを保持しながら反応を行った。反応初期には反応熱により系中の温度が55℃を越えないように冷却を行ない、ほとんど反応熱が生じなくなる1時間経過後には系中の温度が45℃未満に下がり過ぎないように系中の温度をスチームで制御した。
水素ガスで置換してから計2時間経過後、反応液をオートクレーブから抜き出し、ロジウムカーボン担持触媒を吸引濾過(濾紙;No.5C)により濾別して、無色透明の濾液を得た。この濾液(反応粗物)をガスクロマトグラフィーにより分析した。その分析結果(ピロメリット酸の転化率、1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸の選択率)を表2に示した。
次に、上記の濾液をロータリーエバポレーターで減圧下に濃縮し、1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸の結晶を析出させた。この結晶を分離、乾燥したところ、16.37g(収量80モル%)の1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸が得られた。この乾燥した1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸のガスクロマトグラフィー分析結果を表2に示した。
尚、表1には、実施例1並びに後述の実施例2−8及び比較例1−4の水素化反応の反応条件を示した。
【0047】
[実施例2]
ロジウムカーボン担持触媒3.2gを2.4gに変えた他は、実施例1と同様に、水素化反応、濾液(反応粗物)の分析、1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸の結晶析出、分離および乾燥を行なった。1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸16.16g(79モル%)を得た。表1に反応条件を示し、表2に乾燥した1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸の分析結果を示した。
【0048】
[実施例3](空気による賦活処理5回)
実施例1で吸引濾過により濾別したロジウムカーボン担持触媒を直ちに200mlのビーカーに入れ、イオン交換水50gを加えた。マグネティックスターラーで撹拌しながら空気を18ml/minで1.5時間吹き込んだ(空気による賦活処理)。その後再び吸引濾過(濾紙;No.5C)によりロジウムカーボン担持触媒を濾別して、直ちに当該オートクレーブにピロメリット酸20g、イオン交換水80g及びロジウムカーボン担持触媒を仕込み、実施例1と同様に水素化反応を行った。その後、ロジウムカーボン担持触媒吸引濾過による濾別、空気による賦活処理および水素化反応を4回繰り返して触媒のリサイクル実験を行った。5回目の触媒リサイクルで得た濾液(反応粗物)の分析結果を表2に示した。その分析結果から、触媒の活性低下はほとんど認められなかった。実施例1と同様に、1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸の結晶析出、分離および乾燥を行なった。1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸15.96g(収量78モル%)を得た。表2に乾燥した1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸の分析結果を示した。
【0049】
[実施例4](空気による賦活処理5回+アルカリによる賦活処理1回)
実施例3の5回目の触媒リサイクルで吸引濾過により濾別したロジウムカーボン担持触媒を直ちに200mlのビーカーに入れ、1%アンモニア水50gを加えた。マグネティックスターラーで1.5時間撹拌した(アルカリによる賦活処理)。吸引濾過(濾紙;No.5C)によりロジウムカーボン担持触媒を濾別し、そのまま純水50mlで洗浄し、触媒を吸引ろ過により濾別した。その後直ちにその触媒を200mlのビーカーに入れ、10%酢酸水溶液100mlを加えた。マグネティックスターラーで3時間撹拌した。吸引濾過(濾紙;No.5C)によりロジウムカーボン担持触媒を濾別し、そのまま純水100mlで5回洗浄した。その後、吸引濾過(濾紙;No.5C)によりロジウムカーボン担持触媒を濾別して、直ちに当該オートクレーブにピロメリット酸20g、イオン交換水80gおよびロジウムカーボン担持触媒(空気による賦活処理5回+アルカリによる賦活処理1回)を仕込み、実施例1と同様に、水素化反応、濾液(反応粗物)の分析、1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸の結晶析出、分離および乾燥を行なった。1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸15.96g(収量78モル%)を得た。表1に反応条件を示し、表2に乾燥した1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸の分析結果を示した。
【0050】
[実施例5](空気による賦活処理5回+アルカリによる賦活処理1回+空気による賦活処理4回)
実施例4で濾別したロジウムカーボン担持触媒(空気による賦活処理5回+アルカリによる賦活処理1回)を直ちに200mlのビーカーに入れ、イオン交換水50gを加えた。マグネティックスターラーで撹拌しながら空気を18ml/minで1.5時間吹き込んだ(空気による賦活処理)。その後再び吸引濾過(濾紙;No.5C)によりロジウムカーボン担持触媒を濾別して、直ちに当該オートクレーブにピロメリット酸20g、イオン交換水80g及びロジウムカーボン担持触媒を仕込み、実施例1と同様に水素化反応を行った。その後、ロジウムカーボン担持触媒吸引濾過による濾別、空気による賦活処理および水素化反応を3回繰り返して触媒のリサイクル実験を行った。4回目の触媒リサイクルで得た濾液(反応粗物)の分析結果を表2に示した。その分析結果から、触媒の活性低下はほとんど認められなかった。実施例1と同様に、1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸の結晶析出、分離および乾燥を行なった。1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸16.16g(収量79モル%)を得た。表2に乾燥した1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸の分析結果を示した。
【0051】
[実施例6]
反応温度50℃を40℃にし、35〜45℃に制御した以外は実施例1と同様に、水素化反応、濾液(反応粗物)の分析、1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸の結晶析出、分離および乾燥を行なった。1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸15.96g(収量78モル%)を得た。表1に反応条件を示し、表2に乾燥した1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸の分析結果を示した。
【0052】
[実施例7](空気による賦活処理5回)
実施例6で吸引濾過により濾別したロジウムカーボン担持触媒を直ちに200mlのビーカーに入れ、イオン交換水50gを加えた。マグネティックスターラーで撹拌しながら空気を18ml/minで1.5時間吹き込んだ(空気による賦活処理)。その後再び吸引濾過(濾紙;No.5C)によりロジウムカーボン担持触媒を濾別して、直ちに当該オートクレーブにピロメリット酸20g、イオン交換水80g及びロジウムカーボン担持触媒を仕込み、実施例1と同様に水素化反応を行った。その後、ロジウムカーボン担持触媒の吸引濾過による濾別、空気による賦活処理および水素化反応を4回繰り返して触媒のリサイクル実験を行った。5回目の触媒リサイクルで得た濾液(反応粗物)の分析結果を表2に示した。その分析結果から、触媒の活性低下はほとんど認められなかった。実施例1と同様に、1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸の結晶析出、分離および乾燥を行なった。1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸16.37g(収量80モル%)を得た。表2に乾燥した1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸の分析結果を示した。
【0053】
[実施例8](空気による賦活処理5回+アルカリによる賦活処理1回+空気による賦活処理4回)
実施例7の5回目の触媒リサイクルで吸引濾過により濾別したロジウムカーボン担持触媒を直ちに200mlのビーカーに入れ、1%アンモニア水50gを加えた。マグネティックスターラーで1.5時間撹拌した(アルカリによる賦活処理)。吸引濾過(濾紙;No.5C)によりロジウムカーボン担持触媒を濾別し、そのまま純水50mlで洗浄し、触媒を吸引ろ過により濾別した。その後直ちにその触媒を200mlのビーカーに入れ、10%酢酸水溶液100mlを加えた。マグネティックスターラーで3時間撹拌した。吸引濾過(濾紙;No.5C)によりロジウムカーボン担持触媒を濾別し、そのまま純水100mlで5回洗浄した。その後吸引濾過(濾紙;No.5C)によりロジウムカーボン担持触媒を濾別して、直ちに当該オートクレーブにピロメリット酸20g、イオン交換水80gおよびロジウムカーボン担持触媒(空気による賦活処理5回+アルカリによる賦活処理1回)を仕込み、実施例1と同様に、水素化反応を行った。その後、ロジウムカーボン担持触媒の吸引濾過による濾別、空気による賦活処理および水素化反応を4回繰り返して触媒のリサイクル実験を行った。空気による賦活処理5回、アルカリによる賦活処理1回および空気による賦活処理4回の触媒リサイクルで得た濾液(反応粗物)の分析結果を表2に示した。その分析結果から、触媒の活性低下はほとんど認められなかった。実施例1と同様に、1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸の結晶析出、分離および乾燥を行なった。1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸15.96g(収量78モル%)を得た。表2に乾燥した1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸の分析結果を示した。
【0054】
[比較例1]
冷却水を用いず、反応温度を初期に10分間80℃にし、その後温度制御を行わなかった以外は実施例1と同様に水素化反応を行った。温度は2時間経過後50℃に低下した。その後、実施例1と同様に、濾液(反応粗物)の分析、1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸の結晶析出、分離および乾燥を行なった。1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸16.16g(79モル%)を得た。表1に反応条件を示し、表2に乾燥した1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸の分析結果を示した。触媒の活性低下が認められた。
【0055】
[比較例2]
ロジウムカーボン担持触媒を比表面積150m2/gのロジウム−γ−アルミナ担持触媒にした以外は実施例1と同様に、水素化反応、濾液(反応粗物)の分析、1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸の結晶析出、分離および乾燥を行なった。1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸14.53g(収量71モル%)を得た。表1に反応条件を示し、表2に乾燥した1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸の分析結果を示した。
【0056】
[比較例3]
比較例2で吸引濾過により濾別したロジウム−γ−アルミナ担持触媒を当該オートクレーブに入れピロメリット酸20g及びイオン交換水80gを仕込み、比較例2と同様に水素化反応を行った。その後、ロジウム−γ−アルミナ担持触媒の吸引濾過による濾別および水素化反応を3回繰り返して触媒のリサイクル実験を行った。4回目の触媒リサイクルで得た濾液(反応粗物)の分析結果を表2に示した。その分析結果から、触媒の活性低下が認められた。実施例1と同様に、1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸の結晶析出、分離および乾燥を行なった。1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸14.53g(収量71モル%)を得た。表2に乾燥した1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸の分析結果を示した。
【0057】
【表1】

【0058】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族カルボン酸を触媒存在下、水素化し水素化芳香族カルボン酸を製造する方法であって、条件(1)〜(6)を満たす水素化芳香族カルボン酸の製造方法。
(1)触媒がカーボン担体にロジウム及び/又はパラジウムを担持したものである
(2)芳香族カルボン酸100重量部に対し、ロジウム及び/又はパラジウムを0.15重量部以上0.50重量部未満用いる
(3)反応水素分圧が1.0〜15MPaである
(4)反応温度範囲が30〜60℃である
(5)芳香族カルボン酸を反応溶媒に溶解又は懸濁させる
(6)加熱冷却装置を用い、反応混合物の反応温度範囲を最初に設定した温度の±5℃以内で、0.5〜3.0時間保持して反応させる
【請求項2】
触媒が、水素化反応後、賦活処理を行なって得られ再使用された触媒である請求項1記載の水素化芳香族カルボン酸の製造方法。
【請求項3】
反応温度範囲が40〜50℃である請求項1または2に記載の水素化芳香族カルボン酸の製造方法。
【請求項4】
賦活処理が、空気にさらす方法とアルカリで洗浄する方法のいずれか、あるいはその両方を組み合わせることである請求項2に記載の水素化芳香族カルボン酸の製造方法。
【請求項5】
芳香族カルボン酸の濃度が、芳香族カルボン酸と反応溶媒との合計重量に対して、5〜40重量%である請求項1〜4の何れかに記載の水素化芳香族カルボン酸の製造方法。
【請求項6】
水素化反応の反応溶媒が水である請求項5に記載の水素化芳香族カルボン酸の製造方法。
【請求項7】
芳香族カルボン酸がトリメリット酸、ヘミメリット酸、トリメシン酸およびピロメリット酸から選ばれる1種である請求項1〜6の何れかに記載の水素化芳香族カルボン酸の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜7の何れかに記載の製造方法で得られる、原料の芳香族カルボン酸の含有量が0.10重量%以下である水素化芳香族カルボン酸の製造方法。
【請求項9】
芳香族カルボン酸100重量部に対し、ロジウム及び/又はパラジウムを0.3重量部以上0.5重量部未満用いる請求項2記載の水素化芳香族カルボン酸の製造方法。

【公開番号】特開2008−63263(P2008−63263A)
【公開日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−241360(P2006−241360)
【出願日】平成18年9月6日(2006.9.6)
【出願人】(000004466)三菱瓦斯化学株式会社 (1,281)
【Fターム(参考)】