説明

水素化芳香族化合物の製造方法及び有機化合物の製造方法

【課題】 触媒を用いた芳香族化合物の水素化反応により水素化芳香族化合物を製造する方法において、高転化率で芳香族化合物を反応させ、効率よく水素化芳香族化合物を得ることを目的とする。
【解決手段】 芳香族化合物と水素の混合ガスを、反応性の無い多孔質の支持体に触媒を固定化して形成される触媒膜を有するマイクロリアクターを通過させ、前記芳香族化合物を水素化して水素化芳香族化合物を得ることを特徴とする水素化芳香族化合物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素化芳香族化合物の製造方法及び有機化合物の製造方法に関して、より詳細には芳香族化合物を触媒により水素化して得られる水素化芳香族化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
芳香族化合物を水素化して水素化芳香族化合物を製造する方法は古くから知られており、代表的なものとして、ベンゼンの水素化によるシクロヘキサンの製造がある。シクロヘキサンは、酸化することによりシクロヘキサノンやシクロヘキサノールとなり、これを樹脂原料として用いる等、芳香族化合物は溶剤や化成品原料として多くの用途を有する。ベンゼンの水素化反応によるシクロヘキサンの製造法としては、例えば、ある特定の細孔径と比表面積を有するメソポーラスシリカにアルミナを含有させた担体に、パラジウムや白金などの貴金属を担持させた触媒を用い、その触媒粒子を反応器に充填してベンゼンを水素化させる方法が知られている(特許文献1)。
【0003】
また、一方では、この芳香族化合物/水素化芳香族化合物の反応対を燃料電池用水素の貯蔵・輸送媒体に利用する研究が、近年国内外で盛んに行われている。例えば、芳香族化合物の水素化反応、及びこの芳香族化合物の水素化誘導体の脱水素反応の双方に優れた触媒活性を有する金属担持触媒、及び水素貯蔵・供給システムが知られている(特許文献2)。
【0004】
しかしながら、これらの方法では、芳香族化合物の転化率が低く、目的とする水素化芳香族化合物を高い収率で得ることができなかった。
一方、有機化合物を製造する上で、高収率、高選択率で目的生成物を得るため、様々な触媒系や反応形式が検討されており、中でも、反応器内の微小反応空間を有する反応器(代表的には、マイクロリアクター)を利用することが近年注目されている。例えば、微小溝からなる流路を有する流路プレートの流路形成面と、粉末状のゼオライト触媒を圧縮固定化した薄膜状触媒を密着させて、微小反応空間を形成する反応器とその反応器を使った酸化反応方法(特許文献3)や酸化触媒が充填されたマイクロリアクターによるオレフィンと過酸化水素の酸化反応によりエポキシ化合物を製造する方法(特許文献4)などが知られている。しかしながら、これらの反応形式を使用する際、使用する触媒系が異なると、反応器に触媒を固定化する方法が煩雑であり、反応器そのものの加工や作成が困難であるなどの理由から、芳香族化合物の水素化反応に容易に適用することはできなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−218958号公報
【特許文献2】特開2001−198469号公報
【特許文献3】特開2007−160227号公報
【特許文献4】特開2007−230908号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、触媒を用いた芳香族化合物の水素化反応により水素化芳香族化合物を製造する方法において、高転化率で芳香族化合物を反応させ、効率よく水素化芳香族化合物を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、ある特定の反応性の無い多孔質の支持体に触媒を固定化して形成される触媒膜を有するマイクロリアクターを利用することで、芳香族化合物を水素化して水素化芳香族化合物を得るにあたり、高転化率でかつ少ない触媒量で芳香族化合物を水素化できることを見出し、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明の要旨は下記[1]〜[8]に存する。
[1] 芳香族化合物と水素の混合ガスを、反応性の無い多孔質の支持体に触媒を固定化して形成される触媒膜を有するマイクロリアクターを通過させ、前記芳香族化合物を水素化して水素化芳香族化合物を得ることを特徴とする水素化芳香族化合物の製造方法。
[2] 前記触媒膜に固定化された触媒量に対する、前記混合ガスの流量との比が、100〜430000h−1であることを特徴とする[1]に記載の水素化芳香族化合物の製造方法。
[3] 前記触媒膜の単位体積あたりの空隙率が1〜60体積%であることを特徴とする[1]又は[2]に記載の水素化芳香族化合物の製造方法。
[4] 前記触媒膜の単位体積あたりの触媒と反応性の無い多孔質の支持体との体積比が0.001〜1.000であることを特徴とする[1]〜[3]のいずれかに記載の水素化芳香族化合物の製造方法。
[5] 前記触媒が周期表第5族〜第12族の遷移金属を含有することを特徴とする[1]〜[4]のいずれかに記載の水素化芳香族化合物の製造方法。
[6] 前記反応性の無い多孔質の支持体が焼結金属であることを特徴とする[1]〜[5]のいずれかに記載の水素化芳香族化合物の製造方法。
[7] 前記触媒を前記反応性の無い多孔質の支持体に水熱合成により固定化することを特徴とする[1]〜[6]のいずれかに記載の水素化芳香族化合物の製造方法。
[8] 前記触媒を前記反応性の無い多孔質の支持体にウォッシュコート法により固定化することを特徴とする請求[1]〜[6]のいずれかに記載の水素化芳香族化合物の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明では、多孔質の支持体に触媒を固定化して形成される触媒膜を利用することで、従来の固定床触媒で得られた転化率、反応効率に比べ、高転化率、高反応効率で水素化芳香族化合物が得られる。また、触媒膜を利用することで、少ない触媒量で目的とする転化率と反応効率を達成することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】実施例1、実施例2に用いた反応装置の概略図である。
【図2】比較例1、比較例2に用いた反応装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、本発明はこれらの内容に限定されない。以下、その詳細について説明する。
本発明における水素化芳香族化合物の製造方法は、芳香族化合物と水素の混合ガスを、反応性の無い多孔質の支持体に触媒を固定化して形成される触媒膜を有するマイクロリアクターを通過させて、水素化芳香族化合物を製造する。
【0011】
本発明における芳香族化合物としては、芳香族性を持つ化合物であれば、特に限定されないが、例えば、芳香族炭化水素化合物、複素芳香族化合物が挙げられる。芳香族炭化水素化合物としては、たとえばベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、ナフタレン、メチルナフタレン、アントラセン、ビフェニル、フェナンスレンなどベンゼン環を持つ炭素環式化合物、又はそれらのアルキル誘導体、あるいはこれらを少なくとも一種含むタール又は重油からの多成分蒸留油等があげられ、これらの中でも好ましくはベンゼン、トル
エン、ナフタレンであり、より好ましくは、ベンゼンである。また、複素芳香族化合物としては、例えば、ピリジン、フラン、ピロール、イミダゾールなど縮合環中にヘテロ原子の共役系を含むものが挙げられる。
【0012】
本発明における水素は、市販の水素を用いることができるが、石炭又はその乾留生成物を加熱処理して得られるコークス炉ガス(以下、「COG」と称する)、石炭ガス化ガス、天然ガス、石油、ナフサ等の炭化水素を主成分とするガスに含まれる水素を分離して、原料として使用することもできる。特に、COGは、上記の天然ガス、石油、ナフサ等に比べ、非常に多くの水素を含む。例えば、石炭の加熱乾留温度を1000℃としたときのCOG組成は、水素45〜70%、メタン25〜35%、エチレン等の炭化水素1〜5%などであり、水素を効率的に得ることができるという点から、より好ましい。なお、上記の炭化水素を主成分とするガスから水素を分離する方法は、公知の方法であれば、特に限定されないが、例えば、深冷分離法、吸着分離法(PSA、TSA)、化学/物理吸収法、分離膜法を用いて水素を分離することができる。
【0013】
本発明における芳香族化合物と水素化芳香族化合物の組み合わせとしては、特に限定されないが、芳香族化合物がベンゼンであり、水素化芳香族化合物がシクロヘキサンである組み合わせが好ましい。ただし、本発明における水素化芳香族化合物は、芳香族化合物を水素化したものであればよく、水素化芳香族化合物が必ずしも芳香族性を有している必要はない。
【0014】
(触媒)
本発明における触媒としては、前記芳香族化合物を水素化できる触媒であれば、特に限定されず、公知の触媒を用いることができる。
本発明における触媒の金属としては、周期表第5〜12族の遷移金属から選ばれる少なくとも1種を含む金属が好ましい。より好ましくは、バナジウム、クロム、モリブデン、タングステン、レニウム、鉄、ルテニウム、オスミウム、コバルト、ロジウム、ニッケル、パラジウム、白金、銅、銀であり、さらに好ましくは、ルテニウム、ニッケル、パラジウム、白金であり、最も好ましくはニッケル、白金である。
【0015】
また、担体に金属を担持された触媒を使用する際、その触媒における金属担持率は特に限定されないが、金属と担体の全重量に対して、金属担持率は1〜70重量%が好ましく、より好ましくは10〜60重量%である。金属担持率が低すぎると活性を持つ金属が少ないために活性が低下し、高すぎると担体量が少なくなるために担持金属が十分な活性を示さず、性能が低下する傾向がある。
【0016】
上記の担体としては、特に限定されないが、活性炭、カーボンナノチューブ、モレキュラーシーブ、ゼオライトなどの多孔質担体、あるいはシリカ、アルミナ、またはシリカとアルミナの混合物等を用いるのが好ましく、より好ましくはゼオライトとアルミナである。
本発明におけるゼオライトとしては、特に限定されず、公知のものを使用することができる。具体的には、アルミノシリケート、Fe−シリケート、Mn−シリケート、B-シ
リケート、Sn-シリケート、結晶性チタノシリケートなどが挙げられる。これらの中で
も、好ましくは、アルミノシリケートである。
【0017】
また、担体に金属を担持された触媒の場合、触媒調製のし易さや入手が容易である観点から、金属がニッケルで、担体がゼオライトの組み合わせによって形成されるニッケル−ゼオライト触媒、又は金属がプラチナで、担体がアルミナの組み合わせで形成されるプラチナ−アルミナ触媒が好ましい。
アルミノシリケートの結晶型は特に限定されないが、具体的には、MFI型、A型、Y
型、MOR型、BEA型が好ましい。より好ましくは、MFI型、MOR型、BEA型である。
【0018】
ゼオライトとは、アルミノシリケートの総称である。基本単位SiO4四面体およびAlO4四面体が4つの頂点酸素をそれぞれ隣の四面体と共有することにより、三次元的に
規則正しく連結した多孔質な結晶であり、連結の仕方によって様々な結晶型が存在し、それらは直径0.3〜1.0nm程度の入口径の細孔を有する。たとえば、MFI型ゼオライトでは、結晶内に0.51nm×0.55nmの大きさのストレート孔と0.53 n
m×0.56 nmの大きさの細孔を有し、MOR型ゼオライトでは、結晶内に0.65
nm×0.70nmと0.26nm×0.57nmの大きさの細孔を有し、BEA型ゼオライトでは、結晶内に0.66nm×0.67nmと0.56nm×0.56nmの大きさの細孔を有している。
【0019】
これらゼオライト結晶に含まれる4配位Al原子数は、結晶構造が維持される範囲において変化させることができる。結晶に含まれるAl原子数としては、その結晶を構成するシリカとアルミナのモル比、即ちSiO/Al比として表され、同値はゼオライト調製段階の合成溶液組成、もしくは合成後のゼオライトの脱アルミニウム処理によって制御される。ゼオライト結晶に含まれる4配位Al原子に隣接するSi−O基は、固体酸点として機能する。さらに、Si−O基のHはイオン交換可能であり、ニッケルやプラチナなどの金属とイオン交換が可能である。ゼオライトのSiO/Al比が大きい、即ちゼオライト結晶に含まれる4配位Al原子数が少なすぎると、イオン交換によって固定化される金属数が減少するため活性が低下する。一方、ゼオライトのSiO/Al比が小さい、即ちゼオライト結晶に含まれる4配位Al原子数が多すぎると、ニッケルやプラチナが過剰に担持されるため、炭化水素の脱水素反応が過剰に進行し、炭素析出などの触媒劣化の原因となる。
【0020】
本発明において使用されるゼオライトにおいて、ゼオライトのSiO/Al比は特に指定されないが、各ゼオライトの結晶構造の維持と、上述した担持される金属種の担持量によりSiO/Al比の範囲は指定され、MFI型ゼオライトの場合は50
〜200、好ましくは60〜120、より好ましくは70〜100である。MOR型ゼオライトの場合は20〜100、好ましくは25〜60、より好ましくは27〜40である。BEA型ゼオライトの場合は、20〜150、好ましくは25〜100、より好ましくは27〜60である。
【0021】
ゼオライトのなかでも、Al原子がなく、SiO四面体のみで形成されたものをシリカライトと呼ばれ、特に、MFI型ゼオライトでSiO四面体のみで形成されたものはシリカライト−1、BEA型ゼオライトでSiO四面体のみで形成されたものはシリカベータと呼ばれる。
なお、使用する触媒は、それぞれ単独、或いは2種類以上を併用してもよい。
【0022】
本発明における反応性の無い多孔質の支持体とは、上述の触媒を固定化できる多孔体であれば特に限定されないが、例えば発泡金属、ハニカム状金属、焼結金属などが挙げられ、より緻密に触媒を固定化できるという理由から、好ましくは、焼結金属である。
焼結金属とは、金属製の粉体を溶融点前後の温度で焼き固めたものであり、粉体同士が接点結合し、数μm〜数十μmの隙間が無数に空いている金属体のことである。材質は銅、ステンレス製のものが用いられる。一般的に空隙率は30〜50体積%ものが使用される。
【0023】
焼結金属の濾過精度については特に限定されないが、細かすぎると圧力損失が大きく、
大きすぎると接触効率の増加が見込めないため、0.2〜100μmが好ましい。特に好ましくは10〜60μmである。なお、濾過精度とは一般的にフィルターを通したときに除去できる粒子の大きさを示している。なお、焼結金属を使用する場合の、ゼオライト粉末の粒子サイズとしては、焼結金属の細孔径(濾過精度に対応)より小さい粉末であれば使用することができ、濾過精度10μmの燒結金属の場合、粉末の粒子サイズは50nm
〜1μmのものを、好ましくは50nm〜200nm、より好ましくは50nm〜100nmものを使用できる。
【0024】
本発明では、上述の反応性の無い多孔質の支持体に触媒を固定化して形成される触媒膜を使用することを必要とするが、触媒膜を製造する方法としては、特に限定されないが、真空蒸着法、レーザーアブレーション、スパッタリング、イオンプレーティングなどの物理的気相成長法や、熱CVD、光CVD、プラズマCVDなどの化学的気相成長法(CVD)、さらにゾルゲル法や、水熱合成法や、ウォッシュコート法などがあり、好ましくは、水熱合成法やウォッシュコート法である。
【0025】
水熱合成法とは、高温高圧の熱水の存在下で行われる化合物の合成あるいは結晶成長させる方法で、常温常圧では水に溶けない物質も容易に溶解するため、通常は得られないような物質の合成、結晶成長が可能である。密閉容器中に出発物質と水を入れ、容器を密閉したまま加熱することで、化合物の合成をし、結晶成長をさせて触媒膜を得る方法である。ウォッシュコート法とは、ウォッシュコートと呼ばれる100m/gを超える高表面積の厚さ0.1mm以下のセラミック層を反応性の無い支持体上に施し、ウォッシュコート表面に5〜10nm程度の触媒成分を微粒子として分散させて触媒機能を持つ触媒膜を得る方法である。
【0026】
触媒膜の厚さ、大きさともに特に限定されないが、実施例に使用した触媒膜は厚さ3mm、直径25mmの円盤状である。
触媒膜の空隙率は特に限定されないが、高すぎると接触が悪く反応性が低くなり、低すぎると圧力損失が大きいため、1〜60体積%が好ましく、より好ましくは10〜50体積%である。
【0027】
触媒膜の触媒と支持体の比は特に限定されないが、触媒が多いと反応性が向上するものの圧力損失が増加するため、支持体が体積で1に対して、触媒0.001から1が好ましい。より好ましくは、支持体が体積で1に対して、触媒0.1から0.33である。
本発明のマイクロリアクターとは、上記触媒膜を有するマイクロリアクターであれば、特に限定されない。一般的にはマイクロリアクターとは微小空間内で化学反応を行う際に使用される装置である。物理過程を行うためのマイクロ熱交換器などの装置とともに、マイクロプロセスの分野で研究される。通常は実験室でのフラスコのようなバッチ反応器でなく、連続式のフロー型装置である。より大きなスケールで反応を行う他の装置と比べ、エネルギー効率、反応速度、収率、安全性、スケールアップ、装置の設置箇所や対応できる反応、条件の制御能に優れるとされる。
【0028】
本発明における、触媒膜に固定化された触媒量に対する、混合ガスの流量との比(以下、SVと略記することがある)は特に限定されないが、100〜4300000h−1が好ましい。
前記芳香族化合物と水素とを含む混合ガスは、水素が少なすぎても多すぎても反応性が悪くなるため、モル比でベンゼン1に対して水素3以上が好ましく、より好ましくはモル比でベンゼン1に対して水素が5以上40以下である。
【0029】
触媒膜および反応帯の温度は低すぎると反応性が悪く、高すぎると副反応が起こるため、150〜300℃が好ましく、より好ましくは200〜250℃である。
反応圧力は低すぎると反応性が悪く、高いほど反応性が向上するが高すぎると経済性が悪いため、0.5〜3.0MPaGが好ましく、より好ましくは0.8〜1.0MPaGである。
【0030】
本発明の触媒膜における差圧は特に限定されないが、好ましくは0〜0.1MPaG、よ
り好ましくは0〜0.01MPaGである。
【実施例1】
【0031】
以下の実施例では、図1と図2に示す反応装置を用いた。
図1に示す反応装置は、実施例1、実施例2に用いた反応装置の概略図である。水素ガスが供給される水素供給管1と、原料の芳香族化合物を供給するベンゼン供給管2から、それぞれ水素とベンゼンが供給され、プレヒーター3の中で水素とベンゼンとがある一定の割合となるように混合して余熱される。余熱された水素とベンゼンの混合ガスは、リボンヒーターで所定の温度に加熱された反応管6に供給される。反応管6の中には、触媒膜5が配置されており、所定の触媒温度となった触媒膜5に、混合ガスを通過させることで、水素とベンゼンが反応し、生成物であるシクロヘキサンを含むオフガスが出口配管4から得られる。
【0032】
なお、プレヒーター3は、水素とベンゼンを混合して、その混合ガスを余熱する予熱器であり、スエジロック製の外径が1/2インチのSUS管を用いた。また、反応管6には、内径が1インチのスエジロック製VCRメタル・ガスケット式面シール継ぎ手を用いた。なお、触媒膜5はシール継ぎ手の面シール部分に取り付けた。出口配管4から得られるガスをFID−ガスクロマトグラフィー(島津製 型番GC14A)で分析し、ベンゼンの転化率を測定した。
【0033】
図2に示す反応装置は、比較例1、比較例2に用いた反応装置の概略図である。水素ガスが供給される水素供給管7と、原料の芳香族化合物を供給するベンゼン供給管8から、それぞれ水素とベンゼンが供給され、プレヒーター9の中で水素とベンゼンとがある一定の割合となるように混合して余熱される。水素とベンゼンの混合ガスは、リボンヒーターで200℃に加熱された反応管12に供給される。反応管12の中には、触媒ペレットが触媒層11に充填されており、所定の触媒温度となった触媒ペレットに、混合ガスを通過させることで、水素とベンゼンが反応し、生成物であるシクロヘキサンを含むオフガスが出口配管10から得られる。
【0034】
なお、プレヒーター9は、水素とベンゼンを混合して、その混合ガスを余熱する予熱器であり、スエジロック製の外径が1/2インチのSUS管を用いた。また、反応管12は、スエジロック製の外径が1/2インチのSUS管を用いた。出口配管10から得られるガスをFID−ガスクロマトグラフィー(島津製 型番GC14A)で分析し、ベンゼンの転化率を測定した。
【0035】
<製造例1>
Ni−ゼオライト触媒膜の製造
容量が300mlのビーカーで、0.5mol/Lの濃度のポリオキシエチレンオレイルエーテル(界面活性剤)−シクロヘキサン(溶媒)の溶液70mlを調整した。
別途100mlのビ−カ−を3つ用意し、それぞれMFIゼオライト調製用ビ−カ−、MORゼオライト調製用ビ−カ−、及びBEAゼオライト調製用ビ−カ−とした。これら3つのビーカー各々に、テトラエトキシシラン(シリカ源)と水酸化ナトリウム(PH調整剤)、イオン交換水、構造規定剤(4級アンモニウム)を加え、更にMFIゼオライト調製用ビ−カ−合成時にはテトラプロピルアンモニウムヒドロキシド水溶液、MORゼオライト調製用ビ−カ−とBEAゼオライト調製用ビ−カ−にはテトラエチルアンモニウム
ヒドロキシド水溶液をそれぞれ添加して、室温で1 時間攪拌した。そして、さらに、M
FIゼオライト調製用ビ−カ−中には、SiO/Al=50となるように、トリイソプロピルアルコキシアルミニウム(アルミナ源)を添加した。同様に、MORゼオライト調製用ビ−カ−には、SiO/Al=12.5となるように、また、BEAゼオライト調製用ビ−カ−には、SiO/Al=20となるように、トリイソプロピルアルコキシアルミニウム(アルミナ源)を添加した。その後、室温で24時間攪拌し、それぞれのビーカーで母液を調製した。このとき、シリカ源の濃度は0.75mol/Lであった。シリカ源/構造規定剤モル比は、調製するゼオライトの構造によって変化させるが、MFIゼオライトやMORゼオライト合成時の場合は3、BEAゼオライト合成の時は1.5であった。
【0036】
このように調製した3種類の母液を、それぞれ上記の界面活性剤−シクロヘキサン容器の入ったビーカーに滴下し、マグネチックスターラーで攪拌した。母液−界面活性剤−シクロヘキサン溶液が均一になるまで攪拌した後、同溶液をテフロン(登録商標)容器に移し、蓋をして、恒温槽で、表1の水熱合成温度と水熱合成時間をかけて攪拌しながら水熱合成を行い、前記各種ナノ結晶ゼオライトを合成した。水熱合成後のゼオライトはテフロン(登録商標)容器より取り出し蒸留水で洗浄し、500℃で24時間焼成した。焼成後に乳鉢にて粉末状に粉砕し、ゼオライト粉末を得た。
【0037】
なお、MFIゼオライト調製用ビ−カ−、MORゼオライト調製用ビ−カ−、及びBEAゼオライト調製用ビ−カ−のそれぞれで調製された母液を使って上記のように得られたゼオライト粉末を、それぞれMFIゼオライト粉末(シリカライト−1)、MORゼオラ
イト粉末、及びBEAゼオライト粉末とした。
焼結金属には直径25mm×厚さ3mm、全容積1.2ml、材質がSUS、空隙率が40%、濾過精度10μmのスエジロック製の1インチのスナッバーガスケットを用い、100mlのビーカーにpHが10のNaOH溶液を50ml入れ、さらに上記で得られたゼオライト粉末を10mg入れ、超音波によりゼオライト粉末を十分にNaOH溶液中に分散させた。これを焼結金属へ濾過し、濾液にゼオライト粉末がなくなるまで繰り返した。MFI触媒膜を作製する場合にはMFIゼオライト粉末(シリカライト−1)を使用
し、MOR触媒膜にはMORゼオライト粉末を、BEA触媒膜にはBEAゼオライト粉末を使用した。
【0038】
500mlのビ−カ−に、テトラエトキシシラン(シリカ源)を表1の濃度で加え、イオン交換水、水酸化ナトリウム(PH調整剤)、構造規定剤(4級アンモニウム、MFI合成時にはテトラプロピルアンモニウムヒドロキシド水溶液、MORとBEA合成時にはテトラエチルアンモニウムヒドロキシド水溶液)を加えて室温で1 時間攪拌する。さら
にトリイソプロピルアルコキシアルミニウム(アルミナ源)を表1のSiO2/Al2O3モル比になるような濃度で加え、室温で24時間攪拌し、母液を調製した。
【0039】
この母液をオートクレーブへ移し,上記各ゼオライト粉末をろ過した焼結金属を同オートクレーブに投入し、表1の水熱合成温度と水熱合成時間をかけて攪拌しながら水熱合成を行い、前記焼成金属にゼオライトを成長させた。水熱合成後の焼結金属はオートクレーブより取り出し蒸留水で洗浄し、500℃で24時間焼成した。焼成後、0.14、0.21、0.26mol/L、それぞれの濃度の硝酸ニッケル水溶液100mlを用いて、100℃で3時間還流しながらのイオン交換を3回繰り返した。蒸留水で洗浄後、再度、400℃で12時間焼成し、Ni−ゼオライト触媒30mgが焼成金属に固定化された触媒膜(以下、それぞれのゼオライト膜で得られた触媒膜を、「Ni−MFI触媒膜」、「Ni−MOR触媒膜」、「Ni−BEA触媒膜」と記載する )を得た。
【0040】
【表1】

【0041】
<製造例2>
Ni−ゼオライト触媒ペレットの製造
Ni−MFI触媒ペレットは以下の方法で作製した。
ズードケミー触媒製のH−MFIゼオライト粉末を150g採取し、空気雰囲気下400℃で10時間焼成した。
【0042】
焼成後、1.0、1.4、1.7mol/L、それぞれの濃度の硝酸ニッケル水溶液100mlを用いて、100℃で3時間還流しながらのイオン交換を3回繰り返した。その後、濾過によりニッケル水溶液とNi−MFIゼオライトとを濾別する。濾紙上に残ったゼオライトに蒸留水をかけて洗浄する。空気雰囲気下400℃で10時間焼成する。
以上の工程で作製したNi−MFI触媒粉末約140gを小分けして錠剤成型器により成型し、約1mm径のNi−MFI触媒ペレットを作製した。
【0043】
Ni−MOR触媒ペレットおよびNi−BEA触媒ペレットは以下の方法で作製した。
0.5mol/Lの濃度のポリオキシエチレンオレイルエーテル(界面活性剤)−シクロヘキサン(溶媒)の溶液70mlを調整し、容量が200〜300mlのビーカー移した。
別途100mlのビ−カ−を用意し、テトラエトキシシラン(シリカ源)と水酸化ナトリウム(PH調整剤)、イオン交換水、構造規定剤(4級アンモニウム、MORとBEA合成時にはテトラエチルアンモニウムヒドロキシド水溶液)を加えて室温で1 時間攪拌
する。さらにトリイソプロピルアルコキシアルミニウム(アルミナ源)をSiO2/Al2O3=50(MFIの場合)、12.5(MORの場合)、20(BEAの場合)となるような濃度で加え、室温で24時間攪拌し、母液を調製した。このとき,シリカ源濃度は0.75mol/Lである。シリカ源/構造規定剤モル比は、調製するゼオライトの構造によって変化させる。例えば、MFIゼオライトやMORゼオライト合成時の場合は3、BEAゼオライト合成の時は1.5とする。この母液を上記の界面活性剤−シクロヘキサン容器の入ったビーカーに滴下し、マグネチックスタ−ラ−で攪拌した。
【0044】
母液−界面活性剤−シクロヘキサン溶液が均一になるまで攪拌した後、同溶液をテフロン(登録商標)容器に移し、蓋をして、恒温槽で、表1の水熱合成温度と水熱合成時間をかけて攪拌しながら水熱合成を行い、MORゼオライト粉末およびBEAゼオライト粉末を得た。MORゼオライト粉末およびBEAゼオライト粉末はテフロン(登録商標)容器より取り出し蒸留水で洗浄し、500℃で24時間焼成した。焼成後、0.14、0.21、0.26mol/L、それぞれの濃度の硝酸ニッケル水溶液100mlを用いて、100℃で3時間還流しながらのイオン交換を3回繰り返した。蒸留水で洗浄後、再度、400℃で12時間焼成し、Ni−MOR触媒粉末およびNi−BEA触媒粉末を得た。
【0045】
以上の工程で作製したNi−MOR触媒粉末およびNi−BEA触媒粉末を錠剤成型器により成型し、約1mm径のペレットを作製した。(以下、それぞれのゼオライトで得られたNi−ゼオライト触媒ペレットを、「Ni−MFI触媒ペレット」、「Ni−MOR触媒ペレット」、「Ni−BEA触媒ペレット」と記載する )
<製造例3>
Pt−アルミナ触媒膜の製造
焼結金属には直径25mm×厚さ3mm、全容積1.2ml、材質がSUS、空隙率が40%、スエジロック製の濾過精度60μmのスナッバーガスケットを用いた。焼結金属に
ウォッシュコート法によりPt金属をPt濃度1.40g/Lで固定化し、Pt−アルミナ触媒膜を得た。
【0046】
<実施例1>
図1の反応装置を用いて、ベンゼンの水素化反応を行い、シクロヘキサンの合成を行った。水素供給管1から水素を、ベンゼン供給管2からベンゼンを、水素/ベンゼンのモル比が20となるように混合した。得られた混合ガスをNi−ゼオライト触媒膜である触媒膜5の体積1.2mlに対してSV=120000h−1となるように反応管6に導入した。触媒膜5の温度は250℃に調整した。反応が安定するまで3時間反応を継続し、出口配管4から得られるガスをFID−ガスクロマトグラフィーで分析し、ベンゼンの転化率を測定した。
【0047】
なお、触媒膜5には、製造例1で得られた「Ni−MFI触媒膜」、「Ni−MOR触媒膜」、「Ni−BEA触媒膜」の3種類をそれぞれ使用した。焼結金属内部に固定化したNi−ゼオライト触媒の重量は30mgである。結果を表2に示した。
<比較例1>
図2の反応装置を用いて、ベンゼンの水素化反応を行い、シクロヘキサンの合成を行った。水素供給管7と水素を、ベンゼン供給管8からベンゼンを、水素/ベンゼンのモル比が20となるように混合し、得られた混合ガスをSV=120000h−1となるように反応管12に導入した。触媒層11の温度は250℃に調整した。反応が安定するまで3時間反応を継続し、出口配管10から得られるガスをFID−ガスクロマトグラフィーで分析し、ベンゼンの転化率を測定した。なお、触媒層11には、製造例2で得られたNi−MFI触媒ペレット、Ni−MOR触媒ペレット、Ni−BEA触媒ペレットの3種類をそれぞれ300mg使用した。結果を表2に示した。
【0048】
【表2】

【0049】
表2から、焼結金属に触媒を固定化した触媒膜、例えばNi−MFI触媒膜では触媒重量30mgでベンゼン転化率が95%であるのに対し、Ni−MFI触媒ペレットでは触媒重量が触媒膜の10倍の300mgでもベンゼン転化率が1.0%と低く、触媒膜では少ない触媒量で非常に高いベンゼン転化率を示した。このように触媒膜でベンゼン転化率が高くなるのは、本発明の触媒膜にすることにより、触媒と水素およびベンゼンの接触効率が高くなり、触媒有効係数が増大するためである。
【0050】
<実施例2>
実施例1において、触媒膜5に前記製造例3で製造したPtアルミナ触媒膜を使用し、水素供給管1から水素を、ベンゼン供給管2からベンゼンを、水素/ベンゼンのモル比が38となるように混合し、得られた混合ガスをSV=430000h−1となるように反
応管6に導入し、触媒膜5の温度を200℃、225℃、250℃とした以外は、同様に実施した。結果を表3に示した。
【0051】
<比較例2>
比較例1において、触媒層11に市販のPtアルミナ触媒ペレット(田中貴金属製)をPt濃度1.40g/Lの濃度および粒径0.5mmに調整して1.2ml充填し、水素供給管7から水素を、ベンゼン供給管8からベンゼンを、水素/ベンゼンのモル比が38となるように混合し、得られた混合ガスをSV=430000h−1となるように反応管12に導入し、触媒層11の温度を200℃、225℃、250℃とした以外は、同様に実施した。結果を表3に示した。
【0052】
【表3】

【0053】
焼結金属にPtアルミナ触媒を固定化したPtアルミナ触媒膜では、Ptアルミナ触媒ペレットに比べ、いずれの温度でも高いベンゼン転化率を示した。このように触媒膜でベンゼン転化率が高くなるのは、触媒膜にすることにより触媒と水素およびベンゼンの接触効率が高くなり、触媒有効係数が増大するためである。ゼオライト触媒と同様に、アルミナ触媒でも触媒膜の効果が得られた。
【符号の説明】
【0054】
1,7 水素供給管
2,8 ベンゼン供給管
3,9 プレヒーター
4,10 出口配管
5 触媒膜(Ni−ゼオライト触媒膜またはPt−アルミナ触媒膜)
6 反応管(メタル・ガスケット式面シール継ぎ手)
11 触媒層(Ni触媒ペレットまたはPt触媒ペレット)
12 反応管(1/2インチSUS管)


【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族化合物と水素の混合ガスを、反応性の無い多孔質の支持体に触媒を固定化して形成される触媒膜を有するマイクロリアクターを通過させ、前記芳香族化合物を水素化して水素化芳香族化合物を得ることを特徴とする水素化芳香族化合物の製造方法。
【請求項2】
前記触媒膜に固定化された触媒量に対する、前記混合ガスの流量との比が、100〜430000h−1であることを特徴とする請求項1に記載の水素化芳香族化合物の製造方法。
【請求項3】
前記触媒膜の単位体積あたりの空隙率が1〜60体積%であることを特徴とする請求項1又は2に記載の水素化芳香族化合物の製造方法。
【請求項4】
前記触媒膜の単位体積あたりの触媒と反応性の無い多孔質の支持体との体積比が0.001〜1.000であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の水素化芳香族化合物の製造方法。
【請求項5】
前記触媒が周期表第5族〜第12族の遷移金属を含有することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の水素化芳香族化合物の製造方法。
【請求項6】
前記反応性の無い多孔質の支持体が焼結金属であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の水素化芳香族化合物の製造方法。
【請求項7】
前記触媒を前記反応性の無い多孔質の支持体に水熱合成により固定化することを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の水素化芳香族化合物の製造方法。
【請求項8】
前記触媒を前記反応性の無い多孔質の支持体にウォッシュコート法により固定化することを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の水素化芳香族化合物の製造方法。





【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−251951(P2011−251951A)
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−128053(P2010−128053)
【出願日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】