説明

水素化触媒、その製造方法およびそれを使用したメタンガスの製造方法

【課題】二酸化炭素、一酸化炭素またはそれらの混合ガスと水素との反応によりメタンを生成させる反応に使用する触媒であって、高い活性を有するとともに、改善された耐久性を有し、流動床反応器に使用した場合でも摩耗による性能の劣化という欠点のない触媒と、その製造方法を提供する。
【解決手段】鉄族遷移元素(Ni、Fe、Co)の少なくとも1種の金属の粉末の表面に酸化ジルコニウムの被覆、好ましくは、酸化ジルコニウムと、セリウム、ランタンおよびバリウムの少なくとも1種の金属の酸化物との混合酸化物の被覆を設けてなる触媒。鉄族元素に対する酸化ジルコニウムまたは混合酸化物の割合を、両者の合計量の1〜44モル%の範囲とする。混合酸化物を使用した場合は、その中のジルコニウム以外の金属の酸化物の割合を、酸化ジルコニウムとの合計量の15.5〜50モル%の範囲とする。バインダーを用いて粒状触媒とすることもできる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一酸化炭素ガス、二酸化炭素ガスまたはそれらの混合ガスと水素ガスからメタンガスを製造するための触媒と、その製造方法に関する。本発明はまた、その触媒を使用してメタンガスを製造する方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
化石燃料の燃焼に伴って排出される二酸化炭素は、地球温暖化の原因として、その処理が緊急の課題となっている。一方、木質系バイオマスや石炭のガス化によって得られる、二酸化炭素、一酸化炭素および水素を主成分とする低カロリーガスをメタンガスに転換することにより高カロリー化することが試みられており、この技術は二酸化炭素の処理にも利用できると期待されている。
【0003】
二酸化炭素と一酸化炭素とが混合したガスを水素化してメタンガスに転換する反応の触媒として、これまで、ラネーニッケル触媒とか、ニッケルをアルミナやシリカのような担体に担持させた水素化触媒を使用することが知られている。これらの触媒は安価であるが、反応速度が低いために、1MPa以上の高圧に加圧した状態で反応させる必要があった。
【0004】
二酸化炭素を水素で効率よくメタンに変換する触媒として、Niに希土類元素とくにCeを添加した合金を活性成分とするものが提案された(特許文献1)が、この触媒も、高圧を必要とする。NiやCoのような鉄族金属と「バルブメタル」と呼ばれるZr,Ti,Nb,Taの合金を、アモルファスの状態で、代表的な手段としては液体急冷法により得て、二酸化炭素のメタン化触媒とすることにより、大気圧でも実用的な反応速度を実現できることが開示された(特許文献2)。このアモルファス合金を前駆体として、酸化還元処理を施してなる触媒も提案された(特許文献3、特許文献4)。この種の触媒は、メタンへの選択率が100%に近く、反応により生成する水を除くだけの単純な工程によって、メタンを得ることを可能にする。
【0005】
ニッケルと、正方晶系ジルコニアとを組み合わせた触媒も提案された(特許文献5)。中でも、正方晶系ジルコニアに安定化元素としてイットリウム(Y)、ランタニド元素(La,Ce,Pr,Nd,Sm,Gd,Td,Dy,Eu)、またはMgもしくCaを15モル%以下添加した担体に、Niおよび(または)Coを担持させたものが、1気圧の反応圧力でも高い反応速度を与えるという。
【0006】
前記のアモルファス合金を前駆体とし、酸化還元処理を施した触媒にしても、また、上記のニッケルと正方晶系ジルコニアとからなる触媒にしても、ジルコニア担体の表面に活性金属が析出し、付着した形態をとっていると考えられる。こうした形態の触媒の問題は、つぎのような理由による、低い耐久性が問題である。
【0007】
二酸化炭素および一酸化炭素と水素との反応によるメタンの生成は発熱反応であるため、反応速度が高くなればなるほど、単位時間内の発熱量が大きくなり、反応空間は高温になる。高温になれば、担体媒表面に存在する金属は、拡散して凝集を引き起こす。それにより、活性金属の表面積は減少し、活性サイトが減少する。一方、触媒を流動床で使用した場合、反応器内部で触媒粒子どうしが激しく接触し、表面が摩耗して、活性金属が脱落する。このような機構で、既知のメタン化触媒は、寿命が短い。
【0008】
活性金属の拡散、凝集が生じないようにし、かつ、摩耗による活性金属の脱落を防ぐことができる触媒の形態として、金属を酸化物の状態とし、担体中に分散させることが提案された(特許文献6)。すなわち、ニッケル酸化物とジルコニウム酸化物が、シリカのような無機担体中に「微粒子形状で均一に分散して埋浸している」形態の触媒である。
【特許文献1】特開平8−127544
【特許文献2】特開平10−43594
【特許文献3】特開平10−263400
【特許文献4】特開平10−244158
【特許文献5】特開2000−126596
【特許文献6】特開2000−126596
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、二酸化炭素、一酸化炭素またはそれらの混合ガスと水素との反応によりメタンを生成させる反応に使用する触媒において、活性成分を金属すなわち還元状態で使用し、かつ、触媒の耐久性が低いという既知の触媒の問題を解消し、とくに流動床反応器に使用した場合でも摩耗による性能の劣化という欠点のない触媒と、その製造方法を提供することにある。この触媒を使用して、バイオマスそのほかの、二酸化炭素、一酸化炭素またはそれらの混合ガスと水素とからメタンを製造する方法を提供することも、本発明の範囲に含まれる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の、一酸化炭素ガス、二酸化炭素ガスまたはそれらの混合ガスと水素ガスとを接触的に反応させてメタンガスとするための触媒は、基本的な形態としては、鉄族遷移元素(Ni、Fe、Co)の少なくとも1種の金属の粉末の表面に酸化ジルコニウムの被覆を設けてなり、鉄族元素に対する酸化ジルコニウムの割合を、両者の合計量の1〜35モル%の範囲とした水素化触媒である。
【0011】
本発明の水素化触媒の好ましい態様は、鉄族遷移元素(Ni、Fe、Co)の少なくとも1種の金属の粉末の表面に、酸化ジルコニウムと、セリウム、ランタンおよびバリウムの少なくとも1種の金属の酸化物との混合酸化物の被覆を設けてなり、鉄族遷移元素に対する混合酸化物の割合を両者の合計量の1〜35モル%の範囲とし、混合酸化物中のジルコニウム以外の金属の酸化物の割合を、酸化ジルコニウムとの合計量の15.5〜50モル%の範囲とした水素化触媒である。
【発明の効果】
【0012】
本発明の水素化触媒は、活性成分である鉄族遷移金属が還元状態で存在し、その周囲を酸化ジルコニウムまたは酸化ジルコニウムを含む混合酸化物が被覆してなる構造を有するから、低い反応圧力においても高い活性を示すだけでなく、従来の酸化ジルコニウムまたは酸化ジルコニウムを含む混合酸化物の担体の周囲に鉄族遷移金属が析出して付着している構造の触媒に比べて、使用状態における高温によって活性金属が拡散・凝集することが少なく、触媒が劣化しにくい。とくに、流動床反応器に使用した場合、触媒粉末どうしの摩耗による活性金属が脱落すると問題がなく、それに起因する活性の低下にわずらわされることがない。酸化ジルコニウムと、セリウム、ランタンおよびバリウムの少なくとも1種の金属の酸化物との混合酸化物の被覆を設けた好ましい態様にあっては、より高い活性と触媒性能の安定性とが得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の水素化触媒の基本的な形態のものを製造する方法は、鉄族遷移元素の金属または化合物の粒子を、ジルコニウムの塩の水溶液に浸漬し、水溶液を加熱して、鉄族遷移元素の金属または化合物の粒子の表面にジルコニウムの酸化物の層の化合物を金属に還元することからなる。
【0014】
本発明の水素化触媒の好ましい態様のものを製造する方法は、鉄族遷移元素の金属または化合物の粒子を、ジルコニウムの塩と、セリウム、ランタンおよびバリウムの少なくとも1種の金属の塩との混合水溶液に浸漬し、水溶液を加熱して、の金属または化合物の粒子の表面にジルコニウムの酸化物の層を形成したのち、水溶液から分離し、還元性雰囲気において加熱して鉄族遷移元素の化合物を金属に還元することからなる。前述のように、セリウム、ランタンおよびバリウムは、酸化ジルコニウムのもつ酸素貯蔵能を向上させるのに役立ち、触媒の活性を高くする。
【0015】
触媒の製造に当たっては、さまざまな変更態様が採用できる。たとえば、鉄族遷移元素は、金属の粒子をそのまま用いてもよいし、酸化物のような化合物の粒子を用いてもよいし、さらには錯体を用いてもよい。ジルコニウムの塩も、通常の可溶性塩のほかに、アルコキシドのような有機金属の形をしたものや、ジルコニウム化合物のコロイドなどを用いることもできる。
【0016】
上記の基本的な態様にせよ、好ましい態様にせよ、本発明の触媒は、粉末の形態に限らず、粒状に形成することができる。粒状の水素化触媒は、上記いずれかの方法により製造した水素化触媒の粉末を、バインダーと混合し、適宜の寸法・形状の粒子に造粒し、焼成することにより製造することができる。バインダーとしては、ケイ酸塩、チタン酸塩、アルミン酸塩、ジルコン酸塩など常用のものが好適であり、それらから選んだものを使用することが推奨されるが、糖類その他の有機物や、アルミナゾルなども使用可能である。いうまでもないが、粒状の触媒は、固定床反応器に充填して使用するのに適する。造粒は、バインダーの水溶液ないし水懸濁液をスプレーして、グラニュレータによりグラニュールにするなど、任意の手段によることができる。
【0017】
本発明の触媒を使用してメタンガスを製造する方法であって、流動床反応器を使用する場合は、上述した粉末状の水素化触媒を、加熱した原料ガス、すなわち一酸化炭素ガス、二酸化炭素ガスまたはそれらの混合ガスと水素ガスとの混合ガスにより流動床の状態としたものに原料ガスを接触させ、反応ガスからメタンガスを回収し、未反応ガスを原料ガスに循環使用することからなる。
【0018】
本発明の触媒を使用してメタンガスを製造する方法であって、固定床反応器を使用する場合は、上述した粒子状の水素化触媒を充填した固定床反応器において、加熱した原料ガス、すなわち一酸化炭素ガス、二酸化炭素ガスまたはそれらの混合ガスと水素ガスとを触媒に接触させてメタン化を行ない、反応ガスからメタンガスを回収し、未反応ガスを原料ガスに循環使用する。
【触媒製造例1】
【0019】
オキシジルコニウム塩の酸性(pH3)水溶液(第一希元素工業製「ジルコゾールZA」、ZrOとして15重量%を含有する。)に、酸化ニッケルNiO粉末10gを投入し、撹拌しながらアンモニア水を滴下して、NiO粉末の表面にZrO(OH)を析出させて、表面を被覆させた。この被覆層を有するNiO粉末を濾過して取り、乾燥し、空気中で加熱したのち、1気圧の水素気流中で500℃に5時間加熱して、Niを還元した。得られた粉末触媒の組成は、モル%で、Ni:74%、ZrO:26%であった。
【触媒製造例2】
【0020】
ジルコニウムの酸性(pH3)コロイド水溶液(第一希元素工業製「ジルコニアゾルZSL−10A」、ZrOとして10重量%を含有する。)に、酸化ニッケルNiO粉末10gを投入し、製造例1と同様に撹拌しながらアンモニア水を滴下して、NiO粉末の表面にZrO(OH)+Ce(OH)を析出させて、表面を被覆させた。この被覆層を有するNiO粉末を濾過して取り、乾燥し、空気中で加熱したのち、1気圧の水素気流中で500℃に5時間加熱して、Niを還元した。この粉末触媒の組成は、モル%で、Ni:58%、ZrO:42%であった。
【触媒製造例3】
【0021】
触媒製造例1で使用したものと同じオキシジルコニウム塩の酸性(pH3)水溶液に硝酸セリウム20gを加えた溶液を用意し、酸化ニッケルNiO粉末10gを投入し、製造例1と同様に撹拌しながらアンモニア水を滴下して、NiO粉末の表面にZrO(OH)+Ce(OH)を析出させて、表面を被覆させた。この被覆層を有するNiO粉末を濾過して取り、乾燥し、空気中で加熱したのち、1気圧の水素気流中で500℃に5時間加熱して、Niを還元した。この粉末触媒の組成は、モル%で、Ni:69%、Zr−Ce混合酸化物:31%であり、混合酸化物中のCeO:40%であった。
【触媒製造例4】
【0022】
触媒製造例1で製造した粉末触媒に、バインダーとしてケイ酸ナトリウムの水溶液をスプレーし、転動造粒法により造粒し、乾燥したのち、大気中で500℃に4時間焼成して、粒状の水素化触媒を得た。この粒状触媒は、平均粒径5mmの球状であった。
【反応例】
【0023】
下部にガス加熱層を設けた内径100mmの反応管に、触媒製造例4で製造した粒状の水素化触媒50gを充填した。原料ガスとして、バイオガスを模擬した組成、すなわち、容積%で、一酸化炭素20%、二酸化炭素50%、水素60%からなる混合ガスを、上記の反応管に、その下部から流速1L/minで供給した。原料ガスは、275℃に加熱されて触媒床を通過した。反応管出口を出た反応ガスをガスクロマトグラフィーにより分析して、つぎの結果を得た(容積%)。
CO:1%、CO:65%、H:2%、CH:32%。
【0024】
上記のメタン化の操作を連続的に実施し、所定時間ごとに反応ガスの組成をしらべた。反応開始の初期において、転化率は99%であり、この触媒活性は168時間後も変化がなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一酸化炭素ガス、二酸化炭素ガスまたはそれらの混合ガスと水素ガスとを接触的に反応させてメタンガスとするための触媒であって、鉄族遷移元素(Ni、Fe、Co)の少なくとも1種の金属の粉末の表面に酸化ジルコニウムの被覆を設けてなり、鉄族元素に対する酸化ジルコニウムの割合を、両者の合計量の1〜35モル%の範囲とした水素化触媒。
【請求項2】
一酸化炭素ガス、二酸化炭素ガスまたはそれらの混合ガスと水素ガスとを接触的に反応させてメタンガスとするための触媒であって、鉄族遷移元素(Ni、Fe、Co)の少なくとも1種の金属の粒子の表面に、酸化ジルコニウムと、セリウム、ランタンおよびバリウムの少なくとも1種の金属の酸化物との混合酸化物の被覆を設けてなり、鉄族遷移元素に対する混合酸化物の割合を両者の合計量の1〜44モル%の範囲とし、混合酸化物中のジルコニウム以外の金属の酸化物の割合を、酸化ジルコニウムとの合計量の15.5〜50モル%の範囲とした水素化触媒。
【請求項3】
請求項1に記載の水素化触媒を製造する方法であって、鉄族遷移元素の金属または化合物の粒子を、ジルコニウムの塩の水溶液に浸漬し、水溶液を加熱して、鉄族遷移元素の金属または化合物の粒子の表面にジルコニウムの酸化物の層を形成したのち、水溶液から分離し、還元性雰囲気において加熱して鉄族遷移元素の化合物を金属に還元することからなる製造方法。
【請求項4】
請求項2に記載の水素化触媒を製造する方法であって、鉄族遷移元素の金属または化合物の粒子を、ジルコニウムの塩と、セリウム、ランタンおよびバリウムの少なくとも1種の金属の塩との混合水溶液に浸漬し、水溶液を加熱して、鉄族遷移元素の金属または化合物の粒子の表面にジルコニウムの酸化物の層を形成したのち、水溶液から分離し、還元性雰囲気において加熱して鉄族遷移元素の化合物を金属に還元することからなる製造方法。
【請求項5】
粒状の水素化触媒を製造する方法であって、請求項3または4の方法により製造した水素化触媒の粉末にバインダーを添加し、造粒したものを焼成することからなる製造方法。
【請求項6】
一酸化炭素ガス、二酸化炭素ガスまたはそれらの混合ガスと水素ガスとからメタンガスを製造する方法であって、請求項1または2の粉末状の水素化触媒を、加熱した原料ガスにより流動床の状態としたものに原料ガスを接触させ、反応ガスからメタンガスを回収し、未反応ガスを原料ガスに循環使用することからなる製造方法。
【請求項7】
一酸化炭素ガス、二酸化炭素ガスまたはそれらの混合ガスと水素ガスとからメタンガスを製造する方法であって、原料ガスを、請求項5の方法により製造した粒状の水素化触媒を充填した固定床反応器において触媒と接触させ、反応ガスからメタンガスを回収し、未反応ガスを原料ガスに循環使用することからなる製造方法。

【公開番号】特開2009−34654(P2009−34654A)
【公開日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−203653(P2007−203653)
【出願日】平成19年8月3日(2007.8.3)
【出願人】(000101374)アタカ大機株式会社 (55)
【Fターム(参考)】