説明

水素化触媒の評価方法

【課題】アントラキノン法の過酸化水素製造に用いられる水素化触媒の活性と水素化の選択性を同時に簡便かつ迅速に評価する方法を提供する。
【解決手段】アントラキノン法の過酸化水素製造に使用される水素化触媒と、作動溶液に用いる溶媒との混合溶液に対して、作動溶液を一定流量で添加し、且つ水素を添加しながら、単位時間当たりの水素吸収量が一定となるように水素化反応をさせて、触媒量と水素吸収量より水素化の活性を評価し、反応液組成の変化より選択性を評価することを特徴とするアントラキノン法の過酸化水素製造に用いられる水素化触媒の評価方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アントラキノン法の過酸化水素製造に用いられる水素化触媒の活性と水素化の選択性を同時に簡便かつ迅速に評価する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、工業的な過酸化水素の主な製造方法は、アントラキノン類を反応媒体に用いる方法でアントラキノン法と呼ばれる。一般にアントラキノン類は、適当な有機溶媒に溶解して使用される。有機溶媒は単独または混合物として用いられるが、通常は2種類の有機溶媒の混合物が使用される。アントラキノン類を有機溶媒に溶かして調製した溶液は作動溶液と呼ばれる。
【0003】
作動溶液は、循環再利用されるため、アントラキノン類の水素化で生成したアルキルオキシアンスロン、アルキルテトラヒドロアントラキノンエポキシド等の過酸化水素を生成しない副生成物が作動溶液中に徐々に蓄積される。これらの副生成物の生成は、供給した水素を損失するだけでなく、高価なアントラキノン類を損失するため、過酸化水素の製造コストを上昇させる好ましくない反応である。従って、アントラキノン類の水素化に使用される触媒には、触媒活性や水素化の選択性が重要であるが、その中でも水素化の選択性は特に重要な要素となる。
【0004】
水素化触媒の触媒性能を評価する方法として、ジイソブチルカルビノールと混合アルキル芳香族類とからなる溶媒に、2-アルキルアントラキノン類と2-アルキルテトラヒドロアントラキノン類を溶解した溶液を少量の触媒と接触させた時の溶液の水素吸収量を測定する方法(特許文献1参照)、アルキルアントラキノンの混合物を含む有機溶媒混合物と水素化触媒を含む作動溶液を攪拌反応器の中で反応させる方法(特許文献2参照)、2-エチルアントラキノンを含む有機溶媒混合物及び水素化触媒を含有する作動溶液を用いて反応させ、作動溶液より回収した過酸化水素量により評価する方法(特許文献3参照)、反応器内に作動溶液と水素化触媒を投入して、アントラキノンのハイドロアントラキノンへの還元水準を追跡することにより触媒活性を評価する方法(特許文献4参照)が開示されている。これらの方法では水素化触媒の触媒活性だけしか評価することができない。
【0005】
特許文献5及び6では、工業化されたアントラキノン法と同様の作動溶液を循環する装置を用いた方法が開示されている。これらの方法では、水素分圧より触媒活性が、副生成物の濃度より水素化の選択性が、フィルター差圧より触媒強度がプラントに近い条件で同時に評価することができる。しかし、本装置を用いた評価をするためにはある程度の纏まった量の作動溶液と水素化触媒を準備する必要がある上、評価結果を得るためには数日から数週間を運転する必要がある。また、装置が複雑なため運転管理に多大な労力を必要とする。
【特許文献1】特公昭63-29588号公報
【特許文献2】特開平5-238703号公報
【特許文献3】特開平6-292830号公報
【特許文献4】特開平10-510796号公報
【特許文献5】特開平9-271671号公報
【特許文献6】特開2001-170485号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、従来技術における上記に記したような課題を解決し、新たなに開発した水素化触媒及びプラントで連続繰り返し使用中又は使用後の水素化触媒の活性と水素化の選択性を同時に簡便かつ迅速に評価する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意検討した結果、予め溶媒に分散させた水素化触媒に添加するアントラキノン類を含む溶媒の添加速度を単位時間当たりの水素吸収量が一定となるように調整し、添加したアントラキノン類のうち水素化される比率(以下、水添率と称す)を溶媒に分散させる水素化触媒量で調整することを特徴とする水素化触媒の活性と水素化の選択性を同時に簡便かつ迅速に評価する方法を見出し本発明に到達した。
【0008】
すなわち、本発明は、アントラキノン法の過酸化水素製造に使用される水素化触媒と、作動溶液に用いる溶媒との混合溶液に対して、作動溶液を一定流量で添加し、且つ水素を添加しながら、単位時間当たりの水素吸収量が一定となるように水素化反応をさせて、触媒量と水素吸収量より水素化の活性を評価し、反応液組成の変化より選択性を評価することを特徴とする アントラキノン法の過酸化水素製造に用いられる水素化触媒の評価方法に関するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の評価方法により、工業化された複雑な循環装置を用いて測定を行う前に、水素化触媒の活性と水素化の選択性を同時に簡便かつ迅速に評価でき、触媒開発にかかるコストダウンと開発の迅速化を図ることができる。また、本発明により、循環プロセスで連続繰り返し使用中、又は使用後の水素化触媒の活性と水素化の選択性を評価することにより、プラントの維持管理にも役立てることができる。また、本発明により、作動溶液を構成する有機溶媒の組み合わせを変えて水素化触媒の活性と水素化の選択性を評価することにより、溶媒種の検討にも役立てることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明において水素化触媒の形態には特に制限はない。均一触媒としてはラネーニッケル 触媒やPd黒など水素化活性を有するものが例示される。金属化合物が担体に担持された不均一触媒において、触媒担体としてシリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア、シリカ・アルミナ複合酸化物、シリカ・チタニア複合酸化物、シリカ・アルミナ・チタニア複合酸化物及びこれらの物理的混合物からなる群より選ばれた少なくとも一つの酸化物などが例示される。また、担持された金属化合物は、通常水素化活性を有するものであればよく特に規定はされないが、パラジウム、ロジウム、ルテニウムあるいは白金を含む1種類以上を含む金属化合物などが例示される。
【0011】
本発明において、水素化触媒は予め測定装置に溶媒中に分散され、これにアントラキノン類を含む溶媒(以下、作動溶液と称す)が添加される。この添加速度は、単位時間当たりの水素吸収量が一定となるように調整される。添加したアントラキノン類のうち水素化される比率(以下水添率と称す)は予め溶媒に分散させる水素化触媒量により調整される。また、溶媒は、好ましい有機溶媒としては、芳香族炭化水素と高級アルコールとの組み合わせ、芳香族炭化水素とシクロヘキサノールもしくはアルキルシクロヘキサノールのカルボン酸エステルとの 組み合わせ、芳香族炭化水素と四置換尿素またはリン酸トリス(2-エチルヘキシル)との組み合わせなどが例示される。
【0012】
本発明において、作動溶液中のアントラキノン類の濃度及び水素化触媒を分散するのに用いられる溶媒と作動溶液の液量比には特に制限はないが、アントラキノン類や反応物の溶媒に対する溶解度を基準に規定することが望ましい。また、水素化触媒を分散するのに用いられる溶媒とアントラキノン類を含む溶媒は同じであっても異なっていても良い。
【0013】
本発明において水素化の反応時間には特に規定はないが、好適は0.1〜10時間、より好適は0.3〜3時間である。24時間以上では本評価法の利点はあまり得られない。また、水素化の反応温度及び圧力には特に規定はないが、好適は商業プロセスで用いられている温度及び圧力が好適である。なお、本発明においては水素化の反応圧力は常圧でも十分に評価が可能である。
【0014】
本発明において評価装置は、系内をガス置換ができ、水素化反応を迅速に行うため攪拌羽が設置されているバッチ反応形式であることが望ましい。作動溶液の添加速度は、水素化反応量を制御するうえで重要である。従って、作動溶液の添加速度を精密に制御できる高性能精密ポンプやマイクロシリンジポンプなどが望ましい。
【0015】
水添率は、水素吸収量と反応器に添加した作動溶液量より求められるアントラキノン類の理論添加量より求められる理論水素吸収量との比である。本発明において、1試料について水素化触媒量変えて、即ち水添率を変えて複数点測定を行い、水添率と触媒量当たりの水素 吸収量および水素化の選択性の近似式を作成して水素化の触媒の性能を評価するのが好ましい。そのため1試料につき3点以上測定するのがより好ましい。
【0016】
触媒活性は、反応後の水素吸収量と触媒量より得られる単位触媒量当たりの水素吸収量で評価される。触媒間における触媒活性の比較は、反応終了後の水添率と触媒量当たりの水素吸収量との近似式を作成し、同じ水添率でこの近似式より得られた単位触媒量当たりの水素吸収量を比較することにより行われる。
【0017】
水素化の選択性は、反応後の作動溶液中の副生成物濃度を測定し、反応後の副生成物の生成量と水添されたアントラキノン類と比で評価される。これらアントラキノン類は高速液体クロマトグラフィーなどの分析装置で測定される。触媒間における水素化の選択性の比較は、反応終了後の水添率と副生成物の生成量/アントラキノン類の比との近似式を作成し、同じ水添率でこの近似式より得られた副生成物の生成量/アントラキノン類の比を比較することにより行われる。
【実施例】
【0018】
本発明は以下の実施例により詳細に説明する。実施例中、「%」は特に指定のない限り「重量%」を意味する。
過酸化水素の製造に使用される水素化触媒を用いて行った。以下にその評価方法を説明する。バッチ式の測定装置(SUS製300cc)に溶媒60重量部と所定の水添率を得るのに必要な量の水素化触媒を投入した。水素化触媒を分散させる溶媒及びアントラキノン類を含む作動溶液(以下作動溶液と称す)を構成する溶媒は1,2,4-トリメチルベンゼン60容量%とジイソブチルカルビノール40容量%からなる混合溶媒とした。反応槽にSUS製の攪拌羽、作動溶液を投入用のテフロン(登録商標)チューブ(φ3mm)、水素導入用のSUS管を取り付け、気密した後、反応系内を水素置換した。水素は1000CCの容積を持つ2cc毎の目盛付きのガラス製容器に予め入れておき水素導入用のSUS管を通して反応槽へ供給した。
【0019】
次に、1,2,4-トリメチルベンゼン60容量%とジイソブチルカルビノール40容量%からなる混合溶媒にアミルアントラキノンの濃度が1.5mol/Lとなるように溶解した作動溶液を精密定量ポンプ〔日本精密科学(株)ケミカルポンプSP-Y-3201〕を用いて5重量部/分で添加し、1100rpmで攪拌しながら60分間反応した。反応温度は30℃、反応圧力は常圧に制御した。
【0020】
実施例1
上記のバッチ式の測定装置に循環プロセスで連続繰り返し使用されたシリカ担持パラジウム触媒(特許文献1参照)1.0重量部と作動溶液を構成する溶媒60重量部を投入した。反応槽にSUS製の攪拌羽と作動溶液を投入用のテフロン(登録商標)チューブを取り付け、気密した後、反応系内を水素置換した。アミルアントラキノンの濃度が1.5mol/Lである作動溶液を5重量部/分で添加し、1100rpmで攪拌しながら60分間反応した。反応温度は30℃、反応圧力は常圧に制御した。水添率は87.4%、触媒活性は44.0Nml/mg-Pd*hr、アミルテトラヒドロアントラキノン/アミルアントラヒドロキノンの比は1/130であった。評価に掛かった全反応時間は3時間であった。
【0021】
実施例2
実施例1と同じ方法で水素化触媒を評価した。但し、循環プロセスで連続繰り返し使用された同じシリカ担持パラジウム触媒(特許文献1参照)0.35重量部を用いた。水添率は66.3%、触媒活性は110.1Nml/mg-Pd*hr、アミルテトラヒドロアントラキノン/アミルアントラヒドロキノンの比は1/530であった。評価に掛かった全反応時間は3時間であった。
【0022】
実施例3
実施例1と同じ方法で水素化触媒を評価した。但し、循環プロセスで連続繰り返し使用された同じシリカ担持パラジウム触媒(特許文献1参照)0.15重量部を用いた。水添率は44.7%、触媒活性は149.8Nml/mg-Pd*hr、アミルテトラヒドロアントラキノン/アミルアントラヒドロキノンの比は1/1340であった。評価に掛かった全反応時間は3時間であった。
【0023】
実施例4
実施例1と同じ方法で水素化触媒を評価した。但し、循環プロセスで連続繰り返し使用され、実施例1とは別の時期に採取されたシリカ担持パラジウム触媒(特許文献1参照)1.0重量部を用いた。水添率は81.9%、触媒活性は41.3Nml/mg-Pd*hr、アミルテトラヒドロアントラキノン/アミルアントラヒドロキノンの比は1/200であった。評価に掛かった全反応時間は3時間であった。
【0024】
実施例5
実施例4と同じ方法で水素化触媒を評価した。但し、循環プロセスで連続繰り返し使用されたシリカ担持パラジウム触媒(特許文献1参照)0.35重量部を用いた。水添率は57.9%、触媒活性は83.3Nml/mg-Pd*hr、アミルテトラヒドロアントラキノン/アミルアントラヒドロキノンの比は1/550であった。評価に掛かった全反応時間は3時間であった。
【0025】
実施例6
実施例4と同じ方法で水素化触媒を評価した。但し、循環プロセスで連続繰り返し使用されたシリカ担持パラジウム触媒(特許文献1参照)0.22重量部を用いた。水添率は39.2%、触媒活性は89.6Nml/mg-Pd*hr、アミルテトラヒドロアントラキノン/アミルアントラヒドロキノンの比は1/1350であった。評価に掛かった全反応時間は3時間であった。
【0026】
実施例7
実施例1と同じ方法で水素化触媒を評価した。但し、循環プロセスで連続繰り返し使用され、実施例1および4とは異なる時期に採取されたシリカ担持パラジウム触媒(特許文献1参照)1.2重量部を用いた。水添率は87.5%、触媒活性は36.7Nml/mg-Pd*hr、アミルテトラヒドロアントラキノン/アミルアントラヒドロキノンの比は1/130であった。評価に掛かった全反応時間は3時間であった。
【0027】
実施例8
実施例7と同じ方法で水素化触媒を評価した。但し、循環プロセスで連続繰り返し使用されたシリカ担持パラジウム触媒(特許文献1参照)0.35重量部を用いた。水添率は62.6%、触媒活性は90.1Nml/mg-Pd*hr、アミルテトラヒドロアントラキノン/アミルアントラヒドロキノンの比は1/420であった。評価に掛かった全反応時間は3時間であった。
【0028】
実施例9
実施例7と同じ方法で水素化触媒を評価した。但し、循環プロセスで連続繰り返し使用され、実施例1および4とは異なる時期に採取されたシリカ担持パラジウム触媒(特許文献1参照)0.18重量部を用いた。水添率は41.8%、触媒活性は116.4Nml/mg-Pd*hr、アミルテトラヒドロアントラキノン/アミルアントラヒドロキノンの比は1/970であった。評価に掛かった全反応時間は3時間であった。
【0029】
実施例10
実施例1と同じ方法で水素化触媒を評価した。但し、水素化触媒にはシリカ担持パラジウム触媒(特許文献1参照)の新触媒0.80重量部を用いた。水添率は94.8%、触媒活性は59.7Nml/mg-Pd*hr、アミルテトラヒドロアントラキノン/アミルアントラヒドロキノンの比は1/260であった。評価に掛かった全反応時間は3時間であった。
【0030】
実施例11
実施例10と同じ方法で水素化触媒を評価した。但し、水素化触媒にはシリカ担持パラジウム触媒(特許文献1参照)の新触媒0.50重量部を用いた。水添率は88.6%、触媒活性は89.2Nml/mg-Pd*hr、アミルテトラヒドロアントラキノン/アミルアントラヒドロキノンの比は1/690であった。評価に掛かった全反応時間は3時間であった。
【0031】
実施例12
実施例10と同じ方法で水素化触媒を評価した。但し、水素化触媒にはシリカ担持パラジウム触媒(特許文献1参照)の新触媒0.18重量部を用いた。水添率は71.8%、触媒活性は200.6Nml/mg-Pd*hr、アミルテトラヒドロアントラキノン/アミルアントラヒドロキノンの比は1/1680であった。評価に掛かった全反応時間は3時間であった。
【0032】
実施例13
実施例1と同じ方法で水素化触媒を評価した。但し、循環プロセスで連続繰り返し使用されたシリカ担持パラジウム触媒(特許文献1参照)の代わりに同様に循環プロセスで連続繰り返し使用されたシリカ・アルミナ担持パラジウム触媒〔Heraeus(株)製K-0290〕1.0重量部を用いた。水添率は81.5%、触媒活性は82.0Nml/mg-Pd*hr、アミルテトラヒドロアントラキノン/アミルアントラヒドロキノンの比は1/470であった。評価に掛かった全反応時間は3時間であった。
【0033】
実施例14
実施例13と同じ方法で水素化触媒を評価した。但し、循環プロセスで連続繰り返し使用されたシリカ担持パラジウム触媒(特許文献1参照)の代わりに同様に循環プロセスで連続繰り返し使用されたシリカ・アルミナ担持パラジウム触媒〔Heraeus(株)製K-0290〕0.50重量部を用いた。水添率は64.0%、触媒活性は128.8Nml/mg-Pd*hr、アミルテトラヒドロアントラキノン/アミルアントラヒドロキノンの比は1/1160であった。評価に掛かった全反応時間は3時間であった。
【0034】
実施例15
実施例13と同じ方法で水素化触媒を評価した。但し、循環プロセスで連続繰り返し使用されたシリカ担持パラジウム触媒(特許文献1参照)の代わりに同様に循環プロセスで連続繰り返し使用されたシリカ・アルミナ担持パラジウム触媒〔Heraeus(株)製K-0290〕0.30重量部を用いた。水添率は42.8%、触媒活性は143.3Nml/mg-Pd*hr、アミルテトラヒドロアントラキノン/アミルアントラヒドロキノンの比は1/3050であった。評価に掛かった全反応時間は3時間であった。
【0035】
比較例1
バッチ式の反応槽(SUS製100cc)を用いて行った。反応槽に、実施例1で使用した触媒0.1重量部と作動溶液20重量部を投入した。反応槽にSUS製の攪拌羽を取り付け、気密した後、反応系内を水素置換した。1000rpmで攪拌して30分間、単位触媒量当たりの水素吸収量を測定した。反応温度は30℃、反応圧力は常圧に制御した。水素は500CCの容積を持つ2cc毎の目盛付きのガラス製容器に予め入れておき水素導入用のSUS管を通して反応槽へ供給した。
水素化触媒の水素化選択性の評価は、反応溶媒が還元工程、酸化工程及び抽出工程を循環して過酸化水素を生成する循環装置で行った。循環装置の還元工程の水素化反応器に実施例1で 使用した水素化触媒200重量部を投入し、連続的にアントラキノン類の水素化を行い、過酸化水素を製造した。水素化反応器内の作動溶液は約4リットルに保たれ、0.25リットル/分の作動溶液と1.8リットル/分の水素が供給された。アントラキノン類が水素化された作動溶液は、キャンドルフィルターを通して触媒から分離されて水素化反応器から抜き出された。攪拌は、傾斜したタービン翼にて行われ、反応器内壁に取り付けたバッフルによって十分な混合が得られるようにした。水素化反応の反応温度は40℃とした。作動溶液は、1,2,4-トリメチルベンゼン60容量%とジイソブチルカルビノール40容量%からなる混合溶媒に、アミルアントラキノンの濃度が0.6mol/Lとなるように溶解したものを用いた。循環装置内の作動溶液の全量は約40リットルとした。水素化の選択性は循環反応器で200時間過酸化水素の製造を行った後に、液体クロマトグラフィーを用いて作動溶液中のアミルアントラキノン、アミルテトラヒドロアントラキノンの濃度を測定し、得られた濃度から還元工程におけるアミルアントラキノン、アミルテトラヒドロアントラキノン及びその他の副生成物の生成量を算出し、主生成物の生成量に対する比として求めた。
水添率は48%、触媒活性は82.8Nml/mg-Pd*30min、アミルテトラヒドロアントラキノン/アミルアントラヒドロキノンの比は1/1150であった。評価に掛かった全反応時間は200時間であった。
【0036】
比較例2
比較例1と同じ方法で水素化触媒を評価した。但し、水素化触媒には実施例4で用いたシリカ担持パラジウム触媒(特許文献1参照)200重量部を用いた。水添率は41%、触媒活性は57.4Nml/mg-Pd*30min、アミルテトラヒドロアントラキノン/アミルアントラヒドロキノンの比は1/1420であった。評価に掛かった全反応時間は200時間であった。
【0037】
比較例3
比較例1と同じ方法で水素化触媒を評価した。但し、水素化触媒には実施例7で使用したシリカ担持パラジウム触媒(特許文献1参照)200重量部を用いた。水添率は46%、触媒活性は69.3Nml/mg-Pd*30min、アミルテトラヒドロアントラキノン/アミルアントラヒドロキノンの比は1/890であった。評価に掛かった全反応時間は200時間であった。
【0038】
比較例4
比較例1と同じ方法で水素化触媒を評価した。但し、水素化触媒は実施例10で使用したシリカ担持パラジウム触媒(特許文献1参照)の新触媒100重量部を用いた。水添率は50%、触媒活性は162.0Nml/mg-Pd*30min、アミルテトラヒドロアントラキノン/アミルアントラヒドロキノンの比は<1/5000であった。評価に掛かった全反応時間は200時間であった。
【0039】
比較例5
比較例1と同じ方法で水素化触媒を評価した。但し、水素化触媒は実施例13で使用したシリカ・アルミナ担持パラジウム触媒〔Heraeus(株)製K-0290〕200重量部を用いた。水添率は38%、触媒活性38.2Nml/mg-Pd*30min、アミルテトラヒドロアントラキノン/アミルアントラヒドロキノンの比は1/4100であった。評価に掛かった全反応時間は200時間であった。
本発明の評価方法では、従来の水素化触媒の活性と水素化の選択性の測定方法と比べて短時間でほぼ同じ結果を同時に得ることができた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アントラキノン法の過酸化水素製造に使用される水素化触媒と、作動溶液に用いる溶媒との混合溶液に対して、作動溶液を一定流量で添加し、且つ水素を添加しながら、単位時間当たりの水素吸収量が一定となるように水素化反応をさせて分析を行うことを特徴とするアントラキノン法の過酸化水素製造に用いられる水素化触媒の評価方法。
【請求項2】
触媒量と水素吸収量より水素化の活性を評価する請求項1記載のアントラキノン法の過酸化水素製造に用いられる水素化触媒の評価方法。
【請求項3】
反応液組成の変化より選択性を評価する請求項1記載のアントラキノン法の過酸化水素製造に用いられる水素化触媒の評価方法。

【公開番号】特開2008−23452(P2008−23452A)
【公開日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−198525(P2006−198525)
【出願日】平成18年7月20日(2006.7.20)
【出願人】(000004466)三菱瓦斯化学株式会社 (1,281)
【Fターム(参考)】