説明

水素含有生体適用液の製造方法、及びそのための装置

【課題】注射、点滴、輸液、臓器保存などに用いられる水素含有生体適用液を容易に製造する方法、及びそのための装置を提供する。
【解決手段】水素透過性のある容器に入った生体適用液に、容器外側から水素分子を接触させることにより、該生体適用液に水素分子を含有させる。また、水素透過性のある容器が、プラスチック容器であり、水素分子の運搬体が、水素含有水又は水素含有ガスであり、水素含有水が、電解質であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素含有生体適用液の製造方法、及びそのための装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
医療用物質としての水素分子を運搬する手段して、水素ガスの吸入、水素含有水の飲用、水素含有生体適用液の注射などが知られている。なかでも、水素含有生体適用液の注射は、水素ガスを吸入する場合におけるような取扱い上の危険性もなければ、水素含有水を飲用する場合におけるような成分送達経路の不確実性も少ない、理想的な運搬手段として考えられる。
【0003】
しかしながら、点滴や輸液を介して生体に直接的に投与される水素含有生体適用液は、理化学的純度の保証や菌・微生物対策など、経口的に投与される水素含有水よりも、厳格な水質管理が要求されるため、既存の生体適用液の製造工程を変更することなく、製品パッケージの外側から水素を外挿するような手段が望ましかった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明が解決しようとする課題は、注射、点滴、輸液、臓器保存などに用いられる水素含有生体適用液を容易に製造する方法、及びそのための装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、注射、点滴、輸液、臓器保存などに用いられる生体適用液に、当該生体適用液を保持する容器の外側から、水素を含む気体または液体を接触させることを通じて水素を透過させることにより上記課題を解決する。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、既存の製造工程に手を加えることなく容易に、生体適用液に水素を含有させることができる。また、水素含有生体適用液を医療の現場で使用時に調製する場合は、流通過程や保存期間における水素の浪費の心配がない。
【0007】
薬事法に基づき厳格な管理下で製造される内容物(生体適用液)に一切手を加えることなく、容器外壁を通して、水素という生体に安全なガスを極微量(1リットルあたり、数十マイクログラム〜数ミリグラムオーダー)送り込むだけで、内容物に新たな機能を付加することができ、かつ、内容物の酸化劣化を防ぐことができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施形態を述べる:輸液(点滴)バッグなどの容器に保持された生体適用液を、当該生体適用液を容器ごと収容可能である適宜な大きさの別容器に収容するとともに、水素分子を含有する液体または気体を該別容器(以下、水素貯蔵器)に供給する。水素貯蔵器内では、生体適用液の容器壁面を介して生体適用液と水素貯蔵器中の水素分子は隔てられているが、時間の経過とともに、水素貯蔵器中の水素分子は徐々に生体適用液中へ透過する。
【0009】
生体適用液の容器として相応しいのは、上述の輸液バッグや点滴バッグに用いられるポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン等を素材としたプラスチック容器であるが、水素を透過する容器(膜)であればこれに限るものではない。酸素ガスバリア性や水蒸気バリア性を特徴とする容器であっても、多くの場合、分子サイズの小さい水素分子は問題なく透過できる。なお、水素貯蔵器に面する容器壁面では、水素を吸着/分離し透過させる(好ましくは選択的に透過させる)一方、一旦壁面を透過し生体適用液に含有されるようになった水素については液内に安定的に保持されるよう、水素の透過方向を非可逆的に制御するような処理が、容器壁面に施されているのであればさらに望ましい。
【0010】
生体適用液とは、注射、点滴、輸液などの用途に浸透圧調製された生理食塩水、栄養素や電解質補給のために調整された注射溶液、薬剤を溶解させられた注射用液、輸血に用いられる輸血製剤(輸血用血液)や自己血液、経腸液を含み、さらに臓器の保存のために調合された臓器保存液などを含む、生体機能の維持向上や疾病・疾患の予防または治療を意図して非経口的に生体に適用される液体全般を示す概念である。また、本明細書においては、生体適用液という語で生体の生体液または生体水そのものを指す場合もある。なお、生体適用液を注射する場合は、輸液バッグのような水素を透過する容器を用いて、該生体適用液に水素含有処理を行った後、バッグ口部に注射器を刺し、必要量をシリンジに吸い上げて用いればよい。
【0011】
水素貯蔵器とは、外部から器内に供給される水素、または貯蔵器自体が備える手段を通じて器内に供給される水素を一定時間保持することのできる容器全般を示すが、供給された水素をより長時間保持するためにはガス透過性の低い容器が望まれる。同様に、器内に供給された水素が大気中へ散逸することを防ぐため、開閉式の上蓋などにより必要に応じて器内を閉鎖できるよう設計されていることが望ましい。また、水素の生体適用液への透過または浸透効率を高めるために、加圧(圧力調整)装置や冷却(温度調整)装置が備えられていることが望ましい。なお、水素貯蔵器を加圧する場合は、1.0気圧以上、好ましくは1.2気圧以上、より好ましくは1.5気圧以上、特に好ましくは2.0気圧以上の圧を加えることが望ましい。
【0012】
水素貯蔵器に供給される水素の運搬体として、「水素含有水」など水素分子を含有する液体、または「水素含有ガス」など水素分子を含有する気体、水素吸蔵合金など水素分子を含有する固体などがあるが、これに限るものでもなければ、液晶などその他あり得る中間的な相を除外するものではない。また本明細書において、「水素分子を含有する液体」のことを指す出願人の意図にも係らず、単に「水素含有水」と記載されることがある。しかし、本発明において、水素を含有させる液状の運搬体を、水だけに限定する趣旨はないので、「水素含有水」は、文脈に応じて適宜、「水素分子を含有する液体」または「水素含有液」と読み換えられるものとする。この但し書きは、請求の範囲についても当てはまる。
【0013】
ここで、「水素含有水」は、水素ガスを水にバブリングする、加圧下で水素ガスを水に溶解させる、水を電気分解する、化学反応により水中に水素を発生させるなどの手段を通じて製造されるが、これに限るものではない。水素含有水における溶存水素濃度は、少なくとも、水素を含有させられる対象となる生体適用液以上であるべきだが、作業の効率性などを考慮し、気温20℃・1気圧下で、0.01mg/L以上、より好ましくは0.1mg/L以上、さらに好ましくは1.0mg/L以上であることが望まれる。なお、水素含有水など液体は、安全面で配慮が要求される、後述の水素含有ガスに比べて取扱い易いという利点がある。
【0014】
また、生体適用液の容器壁面に安定的に高濃度(0.1mg/L以上)の水素を接触させておくために、水素貯蔵器は、器内に供給される水など液体に水素ガスを連続的に供給する装置を備えているか、器内に供給される水など液体を連続的に電解処理できる電解水生成装置を備えている(または水素貯蔵器自体がそうした電解水生成装置の一部(陰極室)である)ことが望ましい。
【0015】
ここで、「水素含有ガス」における水素濃度は、水素ガス1ppm〜100容量%、取扱い上の安全性や作業の効率性などを考慮し、好ましくは、100ppm〜80容量%、より好ましくは0.1〜4容量%、特に好ましくは1〜4容量%の範囲である。
【0016】
また、生体に対する充分な効能効果を期すためにも、水素含有生体適用液の溶存水素(以下、DH)濃度は、気温20℃・1気圧下で、製造時、0.01mg/L以上、好ましくは0.1mg/以上、より好ましくは0.2mg/L以上、特に好ましくは0.4mg/L以上であることが望ましい。
【0017】
水素含有生体適用液の適応領域となり得る疾病・疾患には、薬物や有害物質による肝障害、虚血性再灌流障害、動脈硬化などの循環器系疾患、胃潰瘍、胃粘膜障害などの消化器官系疾患、呼吸器系疾患、糖尿病の合併症(例えば高血圧、脳梗塞、心筋梗塞など)、白内障、皮膚疾患、各種炎症性疾患、神経疾患、癌、老化などの、フリーラジカルや過酸化脂質に起因する酸化ストレス性疾患があるが、特に急性酸化ストレスが係る疾患である虚血性再灌流障害の抑制には適している。
【0018】
また、がん治療に伴う副作用の多くは活性酸素が関与しているが、水素含有生体適用液を、がん治療中、またはその前後に患者に投与することにより、副作用を抑えながら治療を遂行することができる。
【0019】
なお、水素分子の反応性を高めるために、必要に応じて、貴金属コロイド(白金やパラジウムなど)などの触媒を生体適用液に極微量添加してもよい。
【実施例】
【0020】
以下、本発明の実施例を説明する。
【0021】
[実施例1]
生体適用液として、500mL容量の輸液バッグに入った市販の生理食塩水(大塚製薬株式会社製、『日本薬局方生理食塩液 大塚生食注』)を使用した。水素貯蔵器として、2L容量のポリプロピレン製の容器を使用した。この容器に、DH濃度1.2mg/Lの水素含有水を満たした後、生理食塩水の入った輸液バッグを浸漬させ容器上蓋を閉め放置した。水素含有水は1時間毎に同DH濃度の新しい水に交換した。5時間経過後に、水素貯蔵器から輸液バッグを取りだし開封するとともに、生理食塩水のDH濃度及び電気伝導度(EC)を測定した。その際、水素含有水のDH濃度も測定した。
【0022】
生理食塩水のDH濃度は、0.6mg/L、ECは、1.2S/mであった。
【0023】
水素含有水のDH濃度は、1.2mg/Lであった。
【0024】
[実施例2]
生体適用液として、500mL容量の輸液バッグに入った市販の生理食塩水(大塚製薬株式会社製、『日本薬局方生理食塩液 大塚生食注』)を使用した。水素貯蔵器として、2L容量のポリプロピレン製の容器を使用した。容器に、生理食塩水の入った輸液バッグを設置するとともに、ガス供給用の容器開口部よりチューブを通して、水素ガスを100mL/分の流速で通気させた。5時間経過後に、水素貯蔵器から輸液バッグを取りだし開封するとともに、生理食塩水のDH濃度及び電気伝導度(EC)を測定した。
【0025】
生理食塩水のDH濃度は、0.46mg/Lであった。
【0026】
[実施例3]
生体適用液として、500mL容量の輸液バッグに入った市販の生理食塩水(大塚製薬株式会社製、『日本薬局方生理食塩液 大塚生食注』)を使用した。水素貯蔵器として、2L容量のポリプロピレン製の容器を使用した。この容器に、DH濃度0.9mg/Lの水素含有水を満たした後、生理食塩水の入った輸液バッグを浸漬させ容器上蓋を閉め放置した。1時間経過後に、水素貯蔵器から輸液バッグを取りだし開封するとともに、生理食塩水のDH濃度を測定した。
【0027】
生理食塩水のDH濃度は、0.18mg/Lであった。
【0028】
[実施例4]
生体適用液として、500mL容量の輸液バッグに入った市販の生理食塩水(大塚製薬株式会社製、『日本薬局方生理食塩液 大塚生食注』)を使用した。水素貯蔵器として、電解水生成装置に接続された10L容量のポリプロピレン製の容器を使用した。
【0029】
なお、この電解水生成装置は、先に出願しすでに公開され、この引用によって本願発明にその記載内容が取り込まれる再公表特許WO99/10286号に開示される電解槽および電解水生成装置である。すなわち、原水が導入される電解室と、前記電解室内と前記電解室外とのそれぞれに隔膜を挟んで設けられた少なくとも一対の電極板と、を有し、前記電解室外(開放系)の電極板が前記隔膜に接触または僅かな隙間を介して設けられており、前記電解室内に設けられた電極板を陰極とする一方で前記電解室外に設けられた電極板を陽極として両極間に電圧を印加する電源回路と、を備えた電解槽および電解槽および電解水生成装置である。以下では、特にことわらない限り、「電解処理」とは、上述の電解水生成装置を用いて毎分2リットルの流速で5A定電流の電解条件にて電解処理することをいう。
【0030】
電解水生成装置の入・出水口より伸びるホースを介して接続されたポリプロピレン容器と電解水生成装置内を水素含有水が流通することで、そのDH濃度は、1.5〜1.6ppmに保たれた。
【0031】
生理食塩水の入った輸液バッグを水素含有水に浸漬し、容器上蓋を閉め放置した。5時間経過後に、容器から輸液バッグを取りだし開封するとともに、生理食塩水のDH濃度、溶存酸素(DO)濃度、酸化還元電位(ORP)、及び電気伝導度(EC)を測定した。
【0032】
生理食塩水のDH濃度は、0.6mg/L、DO濃度は、5.8mg/L、ORPは、−270mV、ECは、1.6S/mであった。
【0033】
上述の実施例1〜4では、水素貯蔵器内に1つの生体適用液が設置または浸漬させられたが、医療現場での実際的な使用を想定すると、1つの水素貯蔵器に複数の生体適用液をまとめて設置または浸漬できることが望まれる。しかしながら、個々の生体適用液に対して充分な量の水素を供給するためにも、一つの水素貯蔵器内にあまり多くの生体適用液が詰め込まれている状態は望ましくない。水素貯蔵器の容量は、実用性や処理効率などを考慮し、そこに設置または浸漬される生体適用液容量合計の1倍以上、好ましくは2倍以上、さらに好ましくは4倍以上であることが望ましい。
【0034】
[実施例5]
生体適用液として、500mL容量の輸液バッグに入った市販の生理食塩水(大塚製薬株式会社製、『日本薬局方生理食塩液 大塚生食注』)を2つ、100mL容量の輸液バッグに入った市販の生理食塩水(マイラン製薬株式会社製、『日本薬局方生理食塩液 生食MP』)を2つ、の計4つを使用した。500mL生理食塩水のうち1つは、注射器を用いてバッグ口部よりヘッドスペースのエア抜き処理を行うとともに、亜硫酸ナトリウムを適量添加し、DO濃度を0mg/Lにした。DO濃度は、CHEMetrics社製『CHEMetKit Dissolved Oxygen K−7512』と株式会社共立理化学研究所製『デジタルパックテスト』を用いて確認した。100mL生理食塩水のうち1つは、注射器を用いてバッグ口部よりヘッドスペースのエア抜き処理を行った。
【0035】
水素貯蔵器として、実施例4と同じ電解水生成装置に接続された10L容量のポリプロピレン製の容器を使用した。上述したように、容器内の水素含有水は、1.5〜1.6ppmのDH濃度に保たれた。水素含有水に4つの生理食塩水を浸漬し、容器上蓋を閉め放置した。5.5時間経過後に、容器から各生理食塩水を取りだし開封するとともに、それぞれのDH濃度を測定した。
【0036】
生理食塩水(500mL)のDH濃度は、0.587mg/Lであった。
【0037】
生理食塩水(500mL、エア抜き、亜硫酸ナトリウム添加)のDH濃度は、0.883mg/Lであった。
【0038】
生理食塩水(100mL)のDH濃度は、0.24mg/Lであった。
【0039】
生理食塩水(100mL、エア抜き)のDH濃度は、0.580mg/Lであった。
【0040】
本実施例には、生体適用液への水素含有処理に先立って、輸液バッグのヘッドスペースからエア抜きを行った例と、エア抜きに加えて、さらに還元剤として亜硫酸ナトリウムを添加し、生体適用液中の溶存酸素も除去した例が含まれているが、両例ともに、こうした処理を行わない場合に比べて、多くの水素を含有させている。
【0041】
すなわち、生体適用液の容器ヘッドスペースにおける空気や、生体適用液中に含まれる溶存ガス(溶存酸素)は、当該生体適用液への一定量以上の水素分子の含有を阻む要因であると考えられる。生体適用液へより多くの水素分子を含有させたい場合は、生体適用液の容器から余剰空気を抜くか、さらに必要に応じて、亜硫酸ナトリウム、アスコルビン酸、またはアスコルビン酸塩などの還元剤などを添加することにより、生体適用液中の溶存ガス(溶存酸素)を除去するか、などの処理を行うことが望ましい。
【0042】
生体適用液への水素含有処理は、当該生体適用液の製造工程で実施されるほか、医療現場で患者ごとの投与スケジュールに合わせて実施されることが想定される。その場合は、一度含有させた水素が容器を透過して再び抜け出ていくことを防止するため、投与開始予定時刻の直前に生体適用液への水素含有処理が終了するよう、看護部などが先だって水素溶存処理を開始しておくことが望ましい。生体適用液への水素含有処理に要する時間を一概に決定することはできないが、出願人の経験上、気温20℃・1気圧下で、生体適用液容量の1倍容量以上の水素貯蔵器に水素含有水を満たし、そこに通常のプラスチック容器入り生体適用液を浸漬する場合、当該生体適用液のDH濃度を、当該水素含有水のDH濃度のおよそ20%以上に到達させるためには、1時間以上、好ましくは2時間以上、より好ましくは4時間以上浸漬させられることが望ましい。
【0043】
また、治療のあいだ各患者に宛がわれるところの点滴(輸液)装置に、水素含有生体適用液製造装置を周辺機器的に接続することもできる。この場合、患者は病院内を点滴(輸液)装置とともに移動することが想定されるため、装置に追加される機器類はできるだけ小さなものが好ましく、水素貯蔵器の容量も100または500mL容量の点滴(輸液)液1つを収容できる容量プラスアルファがあればよい。具体的には、前述の電解水生成装置や再公表特許WO99/10286号を参考に、そこに記述される電解槽を水素貯蔵器として利用することができる。上述の実施例4では、電解水生成装置の他にポリプロピレン製容器を使用し、生体適用液は、電解槽に隣接する容器に浸漬させられたが、本例では電解水生成装置の電解槽そのものが水素(水素含有水)供給機能を備えた水素貯蔵器として使用されるため、生体適用液は電解槽そのものに浸漬させられる。点滴ライン以降の装置構成については基本的に特に変更する必要はない。また本例の場合、電解槽を介して生体適用液に水素を供給しながら点滴することも可能であるため、生体適用液への水素含有処理から実際に投与を開始するまでのタイムラグにおける容器から大気中への水素の散逸を気にかける必要もない。
【0044】
また、本発明は、以下のような構成をとることができる:すなわち、プラスチックバッグなど水素透過性のある容器(以下、内容器)に入れられた生体適用液を、内容器ごとガスバリア性の高いポータブルな水素貯蔵器(以下、外容器)に収容するとともに、外容器を、水素含有水など水素分子を含有する液体または気体で満たす。水素は、水素透過性のある内容器の壁面を透過し生体適用液に含有される一方、ガスバリア性の高い外容器の壁面に阻まれ、流通過程や保存期間においても、外界に散逸することが少ない。使用時には、外容器から生体適用液の入った内容器を取り出して使用するか、外容器と内容器をともに開封し、内容器を取り出さずにそのまま使用してもよい。通常、輸液バッグなどのプラスチック容器は、軽量で破損の可能性が少なく運搬や保管に都合が良い反面、薬液の変質や酸化劣化を防止するガスバリア性(酸素バリア性)は備えておらず、酸素による変質を受け易い薬液を使用する場合は、ガスバリア性を高められた外装袋で二次包装されるが、こうした既存の「バッグ―包装体」の組み合わせを適宜利用してもよい。
【0045】
また、本発明は、以下のような構成をとることができる:すなわち、上述の実施例4や点滴(輸液)装置の例に記載された、電解水生成装置に接続された水素貯蔵器や、電解槽として電解水生成装置の一部に組み込まれている水素貯蔵器、または上述の水素ガスを連続的に供給することのできる水素貯蔵器のように、外部から器内に供給される水素含有液、または貯蔵器自体が備える手段を通じて器内に供給される水素含有液のDH濃度を安定的に保持することのできる水素貯蔵器を有する第一の系が、水素を透過させることを特徴とする水素透過膜、好ましくはイオンも通さずにガスだけを通すガス透過膜、より好ましくは水素ガスだけを通す水素透過膜を介して、点滴液、透析液、輸血用血液など生体適用液を貯蔵するタンク、または生体適用液を流通させるパイプラインを有する第二の系に接続されて成ることを特徴とする、水素透過膜一体型水素含有生体適用液製造装置である。本装置を用いれば、第一の系で製造された水素含有液に含有される水素が、水素透過膜を介して第二の系の生体適用液に移行するが、水素含有液を製造することを目的とする第一の系と、水素を生体適用液へ含有させることを目的とする第二の系が別個のシステムであるため、より厳格な衛生管理が要求される第二の系のみをクリーンルームに設置するなど柔軟な対応が取り易い。
【0046】
またここで、第二の系において、生体適用液を流通させるパイプラインが生体に接続されており、生体より導出する(または導入されようとする)生体適用液(自己血液や自己体液などの生体液や生体水を含む)が、ラインを流通する過程で、必要に応じて老廃物など溶質の除去処理などを施されつつ、水素透過膜を介して、第一の系の水素を含有させるとともに、水素含有生体適用液として生体へ還流する(または導入される)ことを特徴とする、透析装置様の水素含有生体適用液の投与装置を構成することもできる。
【0047】
また、特に透析に本発明を用いることを考慮するならば、以下のような構成をとることができる:多くの場合、透析施設では、患者のコンソール(透析装置)に供給される透析液は一元的に管理されている。すなわち、透析液は、水道水から精製水(RO水)を調製することを目的とする「水処理装置」、及び得られた精製水で透析液原液を薄めることを目的とする「透析液供給装置」を備えた施設内の専用設備において集約的に製造されている。したがって、水素含有透析液を製造することを検討する場合、こうした水処理装置または透析液供給装置において、一括して水素含有処理を行うことが最も効率的である。
【0048】
しかし一方で、この場合、水素の投与を必要としない患者の透析液に対しても、無差別に、水素含有透析液が供給されてしまうという問題や、透析液供給装置から個々の患者のコンソールへ水素含有透析液が供給される過程において、水素が抜けてしまうという問題がある。したがって、供給ラインを通じて透析液がコンソールに導入される手前、またはコンソールの透析器(ダイアライザー)を通過する手前に、透析液に水素を含有させる装置を設けることが望ましい。こうした装置として、例えば、上述の水素透過膜を用いた水素含有生体適用液製造装置を利用することができる。すなわち、第一の系を流れる安定的なDH濃度を有する水素含有液から、水素が、水素透過膜を介して第二の系を流れる透析液(供給ラインからコンソールへ供給されてくる透析液)に移行することを特徴とする装置を、水素含有透析液製造装置として利用することができる。その後、水素含有透析液は、ダイアライザー内の中空糸膜など半透膜の周囲を流れつつ、膜を介して、拡散の原理に基づき、膜内を流れる患者血液と含有成分の濃度を均しくする過程において、一定量の水素を、電解質などとともに血液中へ移行させる。
【0049】
また、本発明は、以下のような構成をとることができる:すなわち、上述の水素透過膜一体型水素含有生体適用液製造装置の応用例として、第一の系で製造された水素含有液に由来する水素を、水素透過能を有する水素透過膜を介して、第二の系の生体適用液へ移行させるに際し、当該水素透過膜をダイレクトに生体に接触させることを特徴とする水素含有生体適用液製造装置である。この場合、生体適用液とは、水素透過膜との接触を通じて、皮膚または粘膜を経て水素を含有させられるところの生体の生体液または生体水そのものを示す。具体的には、第一の系に接続されている水素透過膜を素材とするベルトなど皮膚(粘膜)接触体を、生体の適宜な部位に接触させることを通じて、皮膚接触体に移行した第一の系に由来する水素(必要に応じて、皮膚接触体内の液や水素吸蔵物質など適宜な運搬体に含有させられた水素)が、皮膚または粘膜を介して、生体液または生体水に含有させられることを特徴とする、水素含有生体液生成装置を構成することができる。
【0050】
以下、上述の輸血製剤(輸血用血液)を含む血液製剤等、ヒト等生物由来の原材料から製造される生体適用液に本発明を用いる場合のメリットについて記載する。血液製剤は、通常、血液全てを有する全血製剤、赤血球、血漿、血小板等血液中の成分を遠心分離等によって物理的に分離した血液成分製剤、及び血漿中の成分、特にタンパク質を物理化学的に分離し精製した血漿分画製剤に分けられる。こうした血液製剤には、多くの場合、血液保存液 (CPD液)や赤血球保存用添加液(MAP液)等の保存液が含まれているが、血液製剤に占める保存液の割合は限定的なものである。
【0051】
したがって、血液製剤に水素分子を含有させようとする場合、保存液に水素分子を含有させた後、全血、血液成分、又は血漿分画等と混合し製剤化するよりも、保存液を含む血液製剤に水素分子を含有させるほうが、より多くの水素分子を含有させることができる。言い換えれば、保存液とともに、全血、血液成分、又は血漿分画に対しても水素分子を含有させることが望まれる。しかしながら、全血、血液成分、又は血漿分画、又はそれらを含有する血液製剤等の、生物由来の原材料、又は生物由来の原材料から製造される生体適用液に対して水素分子を直接的に含有させる場合、生理食塩水に水素分子を含有させる場合以上のコンタミネーション防止への配慮が必要とされる。その意味で、血液製剤の製造工程を一切変更することなく、製品パッケージの外側から水素分子を外挿する本発明の水素含有生体適用液の製造方法は、血液製剤等、生物由来の原材料から製造される生体適用液に対して特に好適に用いられると言える。さらに言えば、本発明のメリットを甘受し易いという意味で、製剤中に占める生物由来の原材料の割合が、10vol%以上、好ましくは50vol%以上、特に好ましくは80vol%以上、または5wt%以上、好ましくは45wt%以上、特に好ましくは75wt%以上の生体適用液に対して本発明の水素含有生体適用液の製造方法は、特に好適に用いられると言える。
【0052】
また、こうした水素含有血液製剤は、生体へ輸血された際には酸化ストレス抑制等の水素分子による薬効を目的に製造される他、水素分子の物理的・化学的な効果により血液製剤自体の有効期限を延長させることを目的に製造されても良い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体適用液に水素分子を含有させる方法であって、生体適用液の入った水素透過性のある容器に、水素分子を接触させることを通じて、該生体適用液に該水素分子を含有させる方法。
【請求項2】
前記水素透過性のある容器が、プラスチック容器であることを特徴とする、請求項1記載の生体適用液に水素分子を含有させる方法。
【請求項3】
前記水素分子の運搬体が、水素含有水または水素含有ガスであることを特徴とする、請求項1〜2記載の生体適用液に水素分子を含有させる方法。
【請求項4】
前記水素含有水が、電解水であることを特徴とする、請求項1〜3記載の生体適用液に水素分子を含有させる方法。
【請求項5】
前記接触の結果として、前記生体適用液の溶存水素濃度が、0.01mg/L以上になることを特徴とする、請求項1〜4記載の生体適用液に水素分子を含有させる方法。
【請求項6】
生体適用液に水素分子を含有させるための装置であって、水素透過性のある容器に入った生体適用液を水素貯蔵器に収容するとともに、該水素貯蔵器に水素分子を供給し、該容器に該水素分子を接触させることを通じて、該生体適用液に該水素分子を含有させることを特徴とする装置。
【請求項7】
前記水素透過性のある容器が、プラスチック容器であることを特徴とする、請求項6記載の生体適用液に水素分子を含有させるための装置。
【請求項8】
前記水素分子の運搬体が、水素含有水または水素含有ガスであることを特徴とする、請求項6〜7記載の生体適用液に水素分子を含有させるための装置。
【請求項9】
前記水素貯蔵器が、電解水生成装置を備えることを特徴とする、請求項6〜8記載の生体適用液に水素分子を含有させるための装置。
【請求項10】
前記水素貯蔵器が、電解水生成装置の電解槽であることを特徴とする、請求項6〜9記載の生体適用液に水素分子を含有させるための装置。
【請求項11】
前記水素貯蔵器が、ガスバリア性を高められた輸液バックの外装袋であることを特徴とする、請求項6〜10記載の生体適用液に水素分子を含有させるための装置。
【請求項12】
前記接触の結果として、前記生体適用液の溶存水素濃度が、0.01mg/L以上になることを特徴とする、請求項6〜11記載の生体適用液に水素分子を含有させるための装置。
【請求項13】
前記装置が、点滴装置の一部であることを特徴とする、請求項6〜12記載の生体適用液に水素分子を含有させるための装置。
【請求項14】
水素透過性のある容器に入れられた後、該容器に水素分子を接触させられることにより、該水素分子を含有するようになった生体適用液。
【請求項15】
前記水素透過性のある容器が、プラスチック容器であることを特徴とする、請求項14記載の生体適用液。
【請求項16】
前記水素分子の運搬体が、水素含有水または水素含有ガスであることを特徴とする、請求項14〜15記載の生体適用液。
【請求項17】
前記接触の結果として、前記生体適用液の溶存水素濃度が、0.01mg/L以上になることを特徴とする、請求項14〜16記載の生体適用液。
【請求項18】
前記生体適用液が、酸化ストレス性疾患の予防または治療に用いられることを特徴とする、請求項14〜17記載の生体適用液。
【請求項19】
前記生体適用液が、虚血性再灌流障害の予防または治療に用いられることを特徴とする、請求項14〜17記載の生体適用液。
【請求項20】
前記生体適用液が、臓器保存に用いられることを特徴とする、請求項14〜17記載の生体適用液。
【請求項21】
生体適用液に水素を含有させるための装置であって、第一の系で水素溶存液を製造するとともに、当該水素溶存液に由来する水素が、水素透過性のある膜を介して、第二の系の生体適用液に含有されることを特徴とする、生体適用液に水素を含有させるための装置。
【請求項22】
請求項21記載の生体適用液に水素を含有させるための装置であって、前記生体適用液が、ラインを流れていることを特徴とする、生体適用液に水素を含有させるための装置。
【請求項23】
請求項21記載の生体適用液に水素を含有させるための装置であって、前記生体適用液が、透析液であることを特徴とする、生体適用液に水素を含有させるための装置。
【請求項24】
請求項21記載の生体適用液に水素を含有させるための装置であって、前記膜が、生体に接触させられることを特徴とする、生体適用液に水素を含有させるための装置。

【公開番号】特開2010−240376(P2010−240376A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−171274(P2009−171274)
【出願日】平成21年7月22日(2009.7.22)
【出願人】(394021270)ミズ株式会社 (13)
【Fターム(参考)】