説明

水素吸蔵合金とその製造方法、水素吸蔵合金電極および二次電池

【課題】水素吸蔵合金の水素放出作用を改善した水素吸蔵合金の製造法及び該水素吸蔵合金を用いた二次電池を提供する。
【解決手段】化学組成が、一般式R1vTixR2yR3z(但し、0<v、1≦x≦5、2≦y≦4.5、75≦z≦83、v+x+y+z=100であり、R1はYを含む希土類元素、R2はアルカリ土類金属、R3はNi、Co、Mn、Al、Cu、Fe、CrおよびSiからなる群から選択される1種又は2種以上の元素である)で表され、TiNi3相又はTi(NiCo)3相を有し、且つ、CaCu5型結晶構造からなるR1R35相、およびPuNi3型結晶構造からなる(R1aTibR2c)R33相(但し、a>0、b>0、c>0、a+b+c=1)を有する水素吸蔵合金による。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素吸蔵合金とその製造方法、並びに、水素吸蔵合金電極および該水素吸蔵合金電極を備えた二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
水素吸蔵合金は、安全に、かつ容易にエネルギー源としての水素を貯蔵できる合金であり、新しいエネルギー変換及び貯蔵用材料として非常に注目されている。
機能性材料としての水素吸蔵合金の応用分野は、水素の貯蔵・輸送、熱の貯蔵・輸送、熱−機械エネルギーの変換、水素の分離・精製、水素同位体の分離、水素を活物質とした電池、合成化学における触媒、温度センサーなどの広範囲にわたって提案されている。
【0003】
例えば、水素吸蔵合金を負極材料に使用したニッケル水素蓄電池は、(a)高容量であること、(b)過充電・過放電に強いこと、(c)高率充放電が可能であること、(d)クリーンであること、などの特長を持つため、民生用電池として注目され、また、その応用・実用化が活発に行われている。
このように、水素吸蔵合金は、機械的、物理的、化学的に様々な応用の可能性を秘めており、将来の産業におけるキー材料の一つとして挙げられるものである。
【0004】
そして、このような水素吸蔵合金の一応用例であるニッケル水素蓄電池の電極材として、例えば、CaCu5型結晶構造のLaNi5もしくはMmNi5(Mm:ミッシュメタル:希土類元素の混合物)などで示されるAB5型希土類系合金が数多く提案されている(例えば、特許文献1など)。
しかし、前記CaCu5型結晶構造のLaNi5もしくはMmNi5などで示されるAB5型希土類系合金をニッケル水素蓄電池の電極として用いた場合には、放電電流を大きくした際の放電容量が低下し易いという問題を有しており、水素吸蔵合金の水素吸蔵放出機能をさらに改善することが要望されている。
【0005】
【特許文献1】特公昭59−28926号公報
【0006】
また、高容量の水素吸蔵合金を得るために、LaやLaリッチのミッシュメタル(Lm)、ミッシュメタル(Mm)およびMg、Niを主構成元素とし、PuNi3型の結晶構造を有する相を主相とする水素吸蔵合金が提案され、公知文献の実施例に記載されている(例えば特許文献2および3)
【0007】
【特許文献2】特開平11−323469号公報
【特許文献3】特許第3015885号公報
【0008】
しかしながら、該提案に係る水素吸蔵合金を適用した水素吸蔵電極は、水素吸蔵合金が高容量ではあるものの、水素を放出し難い(放出速度が遅い)ためか高率放電特性に劣るという問題があり、加えて、アルカリ電解液に対する耐食性に劣るためかサイクル特性が十分でないという問題があった。
【0009】
また、前記Laリッチのミッシュメタル(Lm)、ミッシュメタル(Mm)、Mg、Niを主構成元素とし、Tiおよび他の元素を含有する水素吸蔵合金が提案され、公知文献の実施例に記載されている(例えば特許文献2、特許文献4〜6)。
【0010】
【特許文献4】特開2000−265229号公報
【特許文献5】特開2000−804299号公報
【特許文献6】特開2000−073132号公報
【0011】
しかしながら、これらの特許文献に提案されている水素吸蔵合金を適用した水素吸蔵電極は、共通して高率放電特性が劣るという欠点がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記問題点に鑑み、水素吸蔵合金の水素放出作用を改善することを一の課題とし、該水素吸蔵合金を用いた二次電池の特性を改善することを他の課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、上記特許文献には一切開示されていない相であって、水素吸蔵作用を有しないTiNi3相又はTi(NiCo)3相が存在することにより、水素吸蔵合金の水素の放出を促進させ得ること、及びPuNi3型結晶構造を有することにより水素吸蔵合金の水素吸蔵容量の低下を防止し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
即ち、本発明は、化学組成が、一般式R1vTixR2yR3z(但し、0<v、1≦x≦5、2≦y≦4.5、75≦z≦83、v+x+y+z=100であり、R1はYを含む希土類元素から選択される1種又は2種以上の元素であり、R2はアルカリ土類金属から選択される1種又は2種以上の元素であり、R3はNi、Co、Mn、Al、Cu、Fe、CrおよびSiからなる群から選択される1種又は2種以上の元素である)で表される水素吸蔵合金であって、TiNi3相又はTi(NiCo)3相を有し、且つ、CaCu5型結晶構造からなるR1R35相(但し、R1はYを含む希土類元素から選択される1種又は2種以上の元素であり、R3はNi、Co、Mn、Fe、Cu、Cr、SiおよびAlからなる群から選択される1種又は2種以上の元素である)、およびPuNi3型結晶構造からなる(R1aTibR2c)R33相(但し、a>0、b>0、c>0、a+b+c=1であり、R1はYを含む希土類元素から選択される1種又は2種以上の元素であり、R2はアルカリ土類金属から選択される1種又は2種以上の元素であり、R3はNi、Co、Mn、Fe、Cu、Cr、SiおよびAlからなる群から選択される1種又は2種以上の元素である)を有することを特徴とする水素吸蔵合金を提供する。
【0015】
本発明に係る水素吸蔵合金は、前記TiNi3相又はTi(NiCo)3相からなる複数の単結晶、R1R35相からなる複数の単結晶および(R1aTibR2c)R33相からなる複数の単結晶(本明細書において、このような単結晶を一次粒子ともいい、単結晶と単結晶との境界を粒界ともいう)が混ざり合った集合体である。
前記TiNi3相又はTi(NiCo)3相は、それ自身は水素を吸蔵するものではないが、上記のようなR1R35相および(R1aTibR2c)R33相の水素吸蔵反応および水素放出反応において触媒作用を発揮するものと推測され、この相が、R1R35相や(R1aTibR2c)R33相と混ざり合って存在することが水素の吸蔵および放出を促進するものと考えられる。また、TiNi3相やTi(NiCo)3相は導電性を有しており、R1R35相や(R1aTibR2c)R33相からなる一次粒子の粒界に介在して集電機能を発揮しているものと考えられる。
したがって、本発明によれば、特に水素の放出速度が速い場合(即ち、二次電池に使用された際においては放電電流が大きい場合)にも水素吸蔵合金からの水素の放出を促進させることができる。よって、該水素吸蔵合金を用いた二次電池は、レート特性に優れたものとなる。
【0016】
さらに、前記(R1aTibR2c)R33相は電解液に対する耐食性が劣り、R1R35相は電解液に対する耐食性は優れるが、水素吸蔵量の点では前記(R1aTibR2c)R33相に劣るという特性があるところ、本発明に係る水素吸蔵合金は、これらR1R35相と(R1aTibR2c)R33相とが混ざり合った状態で存在するので、(R1aTibR2c)R33相と電解液との接触が制約され、(R1aTibR2c)R33相の腐食が抑制されることによって合金の腐食も抑制され、二次電池の水素吸蔵合金電極に適用した場合にも耐久性に優れたものとなると考えられる。
【0017】
また、本発明に係る水素吸蔵合金は、好ましくは、前記TiNi3相又はTi(NiCo)3相を、4〜14重量%含んでなる。
また、本発明に係る水素吸蔵合金は、好ましくは、前記(R1aTibR2c)R33相のa軸長が、5.016〜5.025Åである。
【0018】
(R1aTibR2c)R33相は、PuNi3型結晶構造を有し、水素吸蔵量が大(即ち、高容量)であり、該相を含有させることによって高容量を確保することができ、特に該相のa軸長を5.016〜5.025Åとすると高容量を維持しつつ水素の放出が容易になるため、優れた高率放電特性を得ることができる。
【0019】
また、本発明は、溶融状態にある合金を1000K/秒以上の冷却速度で急冷凝固して鋳造し、かつ、この鋳造物が加圧状態の不活性ガス雰囲気下において焼鈍することにより、請求項1〜3の何れか一項に記載の水素吸蔵合金を製造することを特徴とする水素吸蔵合金の製造方法を提供する。また、好ましくは、焼鈍する際の圧力を0.1MPa(ゲージ圧)の加圧状態とする。
【0020】
さらに、本発明は、上記のような水素吸蔵合金を含むことを特徴とする水素吸蔵合金電極を提供する。さらに、本発明は、該水素吸蔵合金電極を備えたことを特徴とする二次電池を提供する。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係る水素吸蔵合金は、Tiを添加してTiNi3相又はTi(NiCo)3相を生成させたことにより、水素吸蔵容量及び水素放出作用が改善されたものとなり、また、該水素吸蔵合金を用いた本発明の二次電池は、放電容量及びレート特性に優れたものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明に係る水素吸蔵合金は、化学組成が、一般式R1vTixR2yR3z(但し、0<v、1≦x≦5、2≦y≦4.5、75≦z≦83、v+x+y+z=100であり、R1はYを含む希土類元素から選択される1種又は2種以上の元素であり、R2はアルカリ土類金属から選択される1種又は2種以上の元素であり、R3はNi、Co、Mn、Al、Cu、Fe、CrおよびSiからなる群から選択される1種又は2種以上の元素である)で表される水素吸蔵合金であって、
TiNi3相又はTi(NiCo)3相を有し、且つ、
CaCu5型結晶構造からなるR1R35相(但し、R1はYを含む希土類元素から選択される1種又は2種以上の元素であり、R3はNi、Co、Mn、Fe、Cu、Cr、SiおよびAlからなる群から選択される1種又は2種以上の元素である)、
およびPuNi3型結晶構造からなる(R1aTibR2c)R33相(但し、a>0、b>0、c>0、a+b+c=1であり、R1はYを含む希土類元素から選択される1種又は2種以上の元素であり、R2はアルカリ土類金属から選択される1種又は2種以上の元素であり、R3はNi、Co、Mn、Fe、Cu、Cr、SiおよびAlからなる群から選択される1種又は2種以上の元素である)
を有する。
【0023】
TiNi3相或いはTi(NiCo)3相は、生成相の粒界に析出し、水素吸蔵合金において水素化触媒機能や内部集電機能を発揮するものと考えられる。
ここで、Ti(NiCo)3相は、TiNi3相と同じ結晶構造を有し、Niの一部がCoに置換されてなる相である。尚、本発明において、Niに対するCoの比率は特に限定されるものではないが、一般的にはNiに対するCoの比が、1:0.06〜1:0.15である。
【0024】
本発明の水素吸蔵合金においては、前記TiNi3相又はTi(NiCo)3相が、4〜14重量%の範囲で含まれていることが好ましい。TiNi3相又はTi(NiCo)3相の含有量が、4重量%未満であれば、水素放出反応における触媒作用が十分に発揮されず放電特性の改善が不十分となるおそれがあり、また、含有量が14重量%を超えると他の水素吸蔵作用を有する相の割合が低下し、水素吸蔵量そのものが低下して放電容量が小さくなるおそれがある。
さらに、本発明の水素吸蔵合金においては、該TiNi3相又はTi(NiCo)3相が、4〜7重量%含まれていることがより好ましく、これによって高い放電容量を維持しつつ、レート特性も特に優れたものとなる。
【0025】
尚、前記TiNi3相又はTi(NiCo)3相の含有量は、電子線プローブマイクロアナリシス(EPMA)や、X線回折により分析した後、リートベルト法を用いた解析によって算出することができる。
【0026】
また、本発明に係る水素吸蔵合金は、その化学組成が、下記一般式(1)で表されるものである。
R1vTixR2yR3z (1)
ここで、v、x、yおよびzは、0<v、1≦x≦5、2≦y≦4.5、75≦z≦83であって、且つv+x+y+z=100を満たす数である。
xが1に満たなければTiNi3相やTi(NiCo)3相の生成量が減少し、触媒機能が十分に発揮されない虞があり、逆にxが5を超えると水素吸蔵合金の容量が減少する虞がある。
【0027】
また、本発明に係る水素吸蔵合金は、前記式(1)におけるvが、13≦v≦16である化学組成が好ましい。vの値をこのような範囲とすれば、水素吸蔵合金の水素吸蔵容量を増大させることができる。
また、前記式(1)におけるxが3≦x≦4である化学組成が好ましい。xがこのような範囲であれば、該水素吸蔵合金からの水素の放出がより一層促進され、二次電池においては特に優れたレート特性を示すものとなる。
さらに、zが75未満や、83を超える場合には、PuNi3型の結晶構造を有する(R1aTibR2c)R33相の生成比率が低下し、水素吸蔵合金の容量が減少する虞がある。
【0028】
また、前記式(1)において、R1は、Yを含む希土類元素から選ばれる1種又は2種以上の元素であり、例えば、Y、La、Ce、Pr、Ndなどが例示される。さらに、該R1としては、希土類元素の混合物であるミッシュメタル(Mm)が用いられてもよい。尚、ミッシュメタルとしては、La、Ce、Pr及びNdの含有量が99重量%以上の合金が望ましい。具体的には、Ce含有量が50重量%以上で、La含有量が30重量%以下であるCeリッチなミッシュメタル(Mm)、La含有量が前記Mmに比べて多いLaリッチなミッシュメタル(Lm)が挙げられる。
本発明においては、高容量化という観点から、R1として原子半径の大きなLa、若しくはLaの含有割合の多いMmが好ましい。
【0029】
また、前記式(1)において、R2は、アルカリ土類金属から選ばれる1種又は2種以上の元素であり、例えば、Be、Mg、Ca、Sr、Ba、Raなどが例示される。尚、本発明においては、BeおよびMgもアルカリ土類金属に属するものとする。
本発明においては、PuNi3型の結晶構造を形成するという観点から、R2としてMgが好ましい。
【0030】
また、前記式(1)において、R3は、Ni、Co、Mn、Fe、Cu、Cr、SiおよびAlからなる群から選ばれる1種又は2種以上の元素である。
本発明においては、PuNi3型の結晶構造を有する(R1aTibR2c)R33相の生成を促進し、且つ水素吸蔵合金の容量を増大させるという観点から、R3としてNiを用いることが好ましい。
さらに、R3としてAlを含有することが好ましく、Alを含有することにより、上記のCaCu5型結晶構造からなるR1R35相、PuNi3型結晶構造からなる(R1aTibR2c)R33相およびTiNi3型結晶相の全ての結晶相を比較的容易に生成させることができる。Alの含有量は、該水素吸蔵合金の化学組成中、1〜3モル%が好ましく、2モル%が特に好ましい。
【0031】
本発明に係る水素吸蔵合金の具体的な化学組成(モル比)としては、例えば、
La13Ti4Mg4Ni69Co6Al2Mn2、La15Ti2Mg4Ni69Co6Al2Mn2、La16Ti1Mg4Ni69Co6Al2Mn2などが挙げられる。
【0032】
本発明に係る水素吸蔵合金は、PuNi3型結晶構造からなる(R1aTibR2c)R33相が、合金全体に対して25〜70重量%有するものが好ましく、40〜70%含有するものがより好ましい。
【0033】
斯かるR1R35相としては、例えば、La(NiCoMn)5相が挙げられ、また、(R1aTibR2c)R33相としては、(LaTiMg)Ni3相が挙げられる。
【0034】
また、本発明に係る水素吸蔵合金は、前記PuNi3型結晶からなる(R1aTibR2c)R33相のa軸長が、5.016〜5.025Åであることが好ましい。該a軸長が5.016〜5.025Åの範囲内であれば、高容量を維持しつつ高率放電特性(レート特性)の向上を図ることができる。
尚、a軸長は、X線回折パターンから算定することができる。
【0035】
また、本発明においては、前記TiNi3相又はTi(NiCo)3相からなる単結晶、前記R1R35相からなる単結晶、前記(R1aTibR2c)R33相からなる単結晶(一次粒子)の径を10〜100nmとすることが好ましい。このように、一次粒子の径を上記のような範囲とすることにより、前記TiNi3相又はTi(NiCo)3相と、前記R1R35相や前記(R1aTibR2c)R33相との間の接触面積が大きくなり、前記TiNi3相又はTi(NiCo)3相の触媒としての機能が十分に発揮され、さらに放電の高効率化を図ることができる。
尚、一次粒子の径が10〜100nmであるとは、一次粒子の略全てが最小10nm、最大100nmの範囲内に含まれることを意味するものである。また、該一次粒子とは、1個の結晶子で構成された単結晶構造を有する粒子(結晶粒ともいう)のことをいう。
結晶粒径は、透過型電子顕微鏡(Hitachi H9000)を用い、任意の100個を対象としてそれぞれの結晶粒の最も長い長辺と最も短い短辺の長さを測定し、下記の式により求めた。
結晶粒径=(長辺+短辺)/2
【0036】
さらに、前記R1R35相や前記(R1aTibR2c)R33相は、水素を吸蔵および放出する際に一次粒子の大きさが変化するが、変化の度合いが両相で異なる。これに対して、前記TiNi3相又はTi(NiCo)3相は、水素を吸蔵および放出することがなく、一次粒子の大きさが変わらないものと考えられる。本発明は、上記の如く、一次粒子の大きさを10〜100nmとすることにより、一次粒子の体積変化が生じた際に、該一次粒子の粒界に生じる歪みの大きさを低減することができ、粒界における亀裂を抑制して耐久性に優れた水素吸蔵合金を構成することができる。
なお、このような微小な一次粒子の集合体からなる水素吸蔵合金は、溶融させた材料を急冷固化し、その後、後述する条件下において焼鈍することによって得ることができる。
【0037】
次に、本発明の水素吸蔵合金の製造方法について説明する。
まず、目的とする水素吸蔵合金の化学組成に基づいて原料粉末を所定量秤量し、反応容器に入れ、不活性ガス雰囲気中で高周波溶融炉を用いて該原料粉末を溶融させる。そして、溶融状態から毎秒1000K/秒以上の冷却速度で急冷凝固させることにより溶製する。これによって、目的とする合金相を効率的に生成させることができる。
さらに、目的の合金相の生成割合を増やすために、加圧状態のArやHeなどの不活性ガス雰囲気中で焼鈍を行なうことが好ましい。焼鈍条件は、550〜1100℃の温度範囲にて2〜50時間、より好ましくは800〜1000℃の温度範囲にて2〜10時間、さらに好ましくは900〜1000℃の温度範囲にて3〜8時間とすることが好ましい。また、焼鈍の際の不活性ガスとしてはヘリウムガスを用いることが好ましく、加圧条件としては、0.1MPa(ゲージ圧)以上とすることが好ましく、0.2〜0.5MPa(ゲージ圧)とすることがより好ましい。
【0038】
本発明の水素吸蔵合金を電極として使用する際には、水素吸蔵合金を粉砕して使用することが好ましい。粉砕は、焼鈍の前後どちらで行ってもよいが、粉砕により表面積が大きくなるため、合金表面の酸化を防止する観点から、焼鈍後に粉砕するのが望ましい。粉砕は、合金表面の酸化防止のために不活性雰囲気中で行うことが好ましい。前記粉砕は、例えば、ボールミルなどが用いられる。
【0039】
必要により粉末化した後、得られた粉末を適当なバインダー(例えば、ポリビニルアルコール等の樹脂)および水(または他の液体)と混合してペースト状とし、ニッケル多孔体に充填して乾燥した後、所望の電極形状に加圧成型することにより、ニッケル−水素電池等の二次電池に使用しうる負極を製造することができる。
【0040】
前記のようにして作製された負極は、正極(例えばニッケル電極 )、およびアルカリ電解液等と組合わされ二次電池(例えば、ニッケル−水素電池)が製造される。
【実施例】
【0041】
以下、実施例および比較例を用いて本発明を更に具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。なお、各種特性については以下の方法によって測定を行った。
【0042】
(実施例1)
水素吸蔵合金の元素のモル比がLa13、Ti4、Mg4、Ni69、Co6、Al2およびMn2となるように原料インゴットをそれぞれ所定量秤量し、るつぼに入れ、アルゴンガス雰囲気下において、高周波溶融炉を用いて1500℃に加熱し、材料を溶融させた。さらに、溶融された材料を前記高周波溶融炉中で水冷鋳型に移すことによって冷却(徐冷)し、固化させることにより化学組成がLa13Ti4Mg4Ni69Co6Al2Mn2で表されるTiNi3相含有水素吸蔵合金を得た。尚、合金の化学組成はICP分析により測定した。
得られた水素吸蔵合金を、アルゴン雰囲気下で粉砕機により機械的に粉砕し、平均粒径(D50)が60μmとなるように調整した。
尚、水素吸蔵合金の平均粒径及び粒度分布は、粒度分析計(マイクロトラック社製、品番「MT3000」)を用い、レーザ回折・散乱法で測定し、粉体の全体積を100%とした際の累積カーブが50%となる点の粒径、即ち、累積平均径D50を平均粒径とした。
【0043】
(実施例2)
実施例1と同様にしてTiNi3相含有水素吸蔵合金を作成し、さらに、0.2MPaに加圧されたアルゴンガス雰囲気下、電気炉を用いて910℃の温度で7時間の熱処理を行い、焼鈍を行なった。そして、得られた水素吸蔵合金をアルゴン雰囲気下で粉砕機により機械的に粉砕し、平均粒径(D50)が60μmとなるように調整した。
【0044】
(実施例3)
電気炉を用いて940℃の温度で7時間の熱処理を行う以外は、実施例2と同様にして水素吸蔵合金の粉末を得た。
【0045】
(実施例4)
電気炉を用いて970℃の温度で7時間の熱処理を行う以外は、実施例2と同様にして水素吸蔵合金の粉末を得た。
【0046】
(実施例5)
電気炉を用いて1000℃の温度で7時間の熱処理を行う以外は、実施例2と同様にして水素吸蔵合金の粉末を得た。
【0047】
(比較例1)
水素吸蔵合金の元素のモル比がLa13、Ce2、Nd1、Ni61、Co13、Mn5及びAl5となるように原料インゴットをそれぞれ所定量秤量し、るつぼに入れ、アルゴンガス雰囲気下において、高周波溶融炉を用いて1500℃に加熱し、材料を溶融させた。さらに、溶融された材料を前記高周波溶融炉中で水冷鋳型に移すことによって徐冷し、固化させることにより化学組成がLa13Ce2Nd1Ni61Co13Mn5Al5である水素吸蔵合金を得た。
【0048】
次に、0.2MPaに加圧されたアルゴンガス雰囲気下、電気炉を用いて1000℃の温度で7時間の熱処理を行い、再結晶化および焼鈍を行なった。そして、得られた水素吸蔵合金を、アルゴン雰囲気下で粉砕機により機械的に粉砕し、平均粒径(D50)が60μmとなるように調整した。
【0049】
(比較例2)
水素吸蔵合金の元素のモル比をLa17、Mg8、Ni62及びCo13とすること以外は比較例1と同様にし、化学組成がLa17Mg8Ni62Co13である水素吸蔵合金を得た。さらに、熱処理温度を900℃とする以外は比較例1と同様にして平均粒径(D50)が60μmの水素吸蔵合金を得た。
【0050】
(比較例3)
水素吸蔵合金の元素のモル比をLa15、Mg6、Ni65、Co6、Al4及びMn4とすること以外は比較例1と同様にし、化学組成がLa15Mg6Ni65Co6Al4Mn4である水素吸蔵合金を得た。さらに、熱処理温度を980℃とする以外は比較例1と同様にして平均粒径(D50)が60μmの水素吸蔵合金を得た。
【0051】
(比較例4)
水素吸蔵合金の元素のモル比をLa15、Ti2、Mg4、Ni72、Co4及びMn3とすること以外は比較例1と同様にし、化学組成がLa15Ti2Mg4Ni72Co4Mn3である水素吸蔵合金を得た。さらに、熱処理温度を940℃とする以外は比較例1と同様にして平均粒径(D50)が60μmの水素吸蔵合金を得た。
【0052】
(実施例6)
実施例1と同じモル比となるように原料インゴットをそれぞれ所定量秤量し、るつぼに入れ、アルゴンガス雰囲気下において、高周波溶融炉を用いて1500℃に加熱し、材料を溶融させた。さらに、溶融状態にある材料を回転冷却ロールに噴射することによって100,000K/秒以上の冷却速度で冷却(急冷)して固化させ、実施例1と同じ化学組成で表されるTiNi3相含有水素吸蔵合金を得た。
得られた水素吸蔵合金を、0.3MPaに加圧されたアルゴンガス雰囲気下、電気炉を用いて940℃の温度で7時間の熱処理を行い、再結晶化および焼鈍を行なった。
さらに、得られた水素吸蔵合金をアルゴン雰囲気下で粉砕機により機械的に粉砕し、平均粒径(D50)が60μmとなるように調整した。
【0053】
(実施例7)
水素吸蔵合金の元素のモル比をLa15、Ti2、Mg4、Ni69、Co6、Al2及びMn2とすること以外は実施例6と同様にし、化学組成がLa15Ti2Mg4Ni69Co6Al2Mn2である水素吸蔵合金を得た。さらに、実施例6と同様に粉砕して平均粒径(D50)が60μmの水素吸蔵合金を得た。
【0054】
(実施例8)
水素吸蔵合金の元素のモル比をLa16、Ti1、Mg4、Ni69、Co6、Al2及びMn2とすること以外は実施例6と同様にし、化学組成がLa15Ti2Mg4Ni69Co6Al2Mn2である水素吸蔵合金を得た。さらに、実施例6と同様に粉砕して平均粒径(D50)が60μmの水素吸蔵合金を得た。
【0055】
(実施例9)
実施例6と同様にして化学組成がLa15Ti2Mg4Ni69Co6Al2Mn2である水素吸蔵合金を得た。さらに、0.5MPaに加圧されたアルゴンガス雰囲気下とする以外は、実施例6と同様にして熱処理を行い、その後、実施例6と同様に粉砕して平均粒径(D50)が60μmの水素吸蔵合金を得た。
【0056】
(実施例10)
溶融された材料を高周波溶融炉中で水冷鋳型に移して徐冷すること以外は実施例6と同様にして化学組成がLa15Ti2Mg4Ni69Co6Al2Mn2である水素吸蔵合金を得た。さらに、実施例6と同条件にて熱処理を行い、その後、実施例6と同様に粉砕して平均粒径(D50)が60μmの水素吸蔵合金を得た。
【0057】
(実施例11)
水素吸蔵合金の元素のモル比をLa13、Ti4、Mg4、Ni69、Fe3、Cu3、Al2及びMn2とすること以外は実施例6と同様にし、化学組成がLa13Ti4Mg4Ni69Fe3Cu3Al2Mn2である水素吸蔵合金を得た。さらに、実施例6と同様に粉砕して平均粒径(D50)が60μmの水素吸蔵合金を得た。
【0058】
(実施例12)
水素吸蔵合金の元素のモル比をMm13、Ti4、Mg4、Ni70、Co4、Si1、Al2及びMn2とすること以外は実施例6と同様にし、化学組成がMm13Ti4Mg4Ni70Co4Si1Al2Mn2である水素吸蔵合金を得た。さらに、実施例6と同様に粉砕して平均粒径(D50)が60μmの水素吸蔵合金を得た。尚、Mm(ミッシュメタル)としては、La80%、Ce1%、Pr8%、Nd11%を使用した。
【0059】
(実施例13)
水素吸蔵合金の元素のモル比をLa14、Ti4、Mg4、Ni68、Co6、Al2及びMn2とすること以外は実施例6と同様にし、化学組成がLa14Ti4Mg4Ni68Co6Al2Mn2である水素吸蔵合金を得た。さらに、実施例6と同様に粉砕して平均粒径(D50)が60μmの水素吸蔵合金を得た。
【0060】
(実施例14)
水素吸蔵合金の元素のモル比をLa12、Ti4、Mg4、Ni70、Co6、Al2及びMn2とすること以外は実施例6と同様にし、化学組成がLa12Ti4Mg4Ni70Co6Al2Mn2である水素吸蔵合金を得た。さらに、実施例6と同様に粉砕して平均粒径(D50)が60μmの水素吸蔵合金を得た。
(比較例5)
水素吸蔵合金の元素のモル比をLa11、Ti6、Mg4、Ni69、Co6、Al2及びMn2とすること以外は実施例6と同様にし、化学組成がLa11Ti6Mg4Ni69Co6Al2Mn2である水素吸蔵合金を得た。さらに、実施例6と同様に粉砕して平均粒径(D50)が60μmの水素吸蔵合金を得た。
【0061】
(結晶構造の測定)
得られた粉末を、X線回折装置(BrukerAXS社製、品番M06XCE)を用い、40kV,100mA(Cu管球)の条件でX線回折測定した後、得られたX線回折結果に基づいてリートベルト法(解析ソフト、RIETAN2000使用)により構造解析を行なった。各合金における生成相の含有量を表1に示す。
【0062】
【表1】

【0063】
【表2】

【0064】
(充放電特性の測定)
(a)電極の作製
得られた実施例又は比較例の水素吸蔵合金粉末100重量部に、ニッケル粉末(INCO社製、#210)3重量部を加えて混合した後、増粘剤(メチルセルロース)を溶解した水溶液を加え、さらに、結着剤(スチレンブタジエンゴム)を1.5重量部加え、ペースト状にしたものを厚み45μmの穿孔鋼板(開口率60%)の両面に塗布して乾燥した後、厚さ0.36mmにプレスし、負極とした。一方、正極としては、容量過剰のシンター式水酸化ニッケル電極を用いた。
【0065】
(b)開放形電池の作製
上述のようにして作製した負極をセパレータを介して正極で挟み込み、これらの電極に10kgf/cm2の圧力がかかるようにボルトで固定し、開放形セルに組み立てた。電解液としては、6.8mol/LのKOH溶液および0.8mol/LのLiOH溶液からなる混合液を使用した。
【0066】
(c)0.2ItAにおける放電容量の測定
作製した電池を20℃の水槽中に入れ、充電は0.1Cで150%、放電は0.2ItAで終止電圧−0.6V(vs.Hg/HgO)となる条件で充放電を10サイクル繰り返し、10サイクル目の放電容量を測定して0.2ItAの放電容量[mAh/g]とした。
【0067】
(d)レート特性の測定
前記0.2ItAの放電容量の測定に引き続き、同じ水槽中において、充電は0.1Cで150%、放電は3.0ItAで終止電圧−0.6V(vs.Hg/HgO)となる条件で充放電を行い(即ち、11サイクル目)、その際の放電容量を測定して3.0ItAの放電容量とし、放電レート(即ち、前記0.2ItA放電容量に対する3.0ItA放電容量の比)を求めた。結果をそれぞれ表3に示す。
【0068】
【表3】

【0069】
表3に示したように、本発明に係る水素吸蔵合金(実施例1〜5)を用いた場合には、従来の比較例1や比較例2などの水素吸蔵合金を用いた場合に比べ、放電電流を大きくした場合でも放電電流が低下しにくく、二次電池のレート特性が顕著に改善されていることが認められる。
しかも、最大放電容量についても従来の比較例1や比較例2などの水素吸蔵合金と同程度の値が得られており、従って、本発明によれば最大放電容量を低下させることなくレート特性が顕著に改善された水素吸蔵合金が得られていることがわかる。
【0070】
また、実施例6〜14の水素吸蔵合金では、実施例1〜5の水素吸蔵合金よりもさらに放電容量が高くなっていることが認められる。また、該実施例6〜9のうちでも、特にTiNi3相を6%含む実施例6、実施例9、実施例11〜14の水素吸蔵合金は、高い放電容量に加えて86〜90%という極めて優れたレート特性を備えていることが認められる。さらに、該実施例6と9とを対比すると、0.5MPaの圧力下において熱処理された実施例9の方が、より一層高い放電容量を達成していることが認められる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学組成が、一般式R1vTixR2yR3z(但し、0<v、1≦x≦5、2≦y≦4.5、75≦z≦83、v+x+y+z=100であり、R1はYを含む希土類元素から選択される1種又は2種以上の元素であり、R2はアルカリ土類金属から選択される1種又は2種以上の元素であり、R3はNi、Co、Mn、Al、Cu、Fe、CrおよびSiからなる群から選択される1種又は2種以上の元素である)で表される水素吸蔵合金であって、
TiNi3相又はTi(NiCo)3相を有し、且つ、
CaCu5型結晶構造からなるR1R35相(但し、R1はYを含む希土類元素から選択される1種又は2種以上の元素であり、R3はNi、Co、Mn、Fe、Cu、Cr、SiおよびAlからなる群から選択される1種又は2種以上の元素である)、
およびPuNi3型結晶構造からなる(R1aTibR2c)R33相(但し、a>0、b>0、c>0、a+b+c=1であり、R1はYを含む希土類元素から選択される1種又は2種以上の元素であり、R2はアルカリ土類金属から選択される1種又は2種以上の元素であり、R3はNi、Co、Mn、Fe、Cu、Cr、SiおよびAlからなる群から選択される1種又は2種以上の元素である)
を有することを特徴とする水素吸蔵合金。
【請求項2】
前記TiNi3相又はTi(NiCo)3相が、4〜14重量%含まれていることを特徴とする請求項1記載の水素吸蔵合金。
【請求項3】
前記(R1aTibR2c)R33相のa軸長が、5.016〜5.025Åであることを特徴とする請求項1又は2記載の水素吸蔵合金。
【請求項4】
溶融状態にある合金を1000K/秒以上の冷却速度で急冷凝固して鋳造し、かつ、この鋳造物が加圧状態の不活性ガス雰囲気下において焼鈍することにより、請求項1〜3の何れか一項に記載の水素吸蔵合金を製造することを特徴とする水素吸蔵合金の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜3の何れかに記載された水素吸蔵合金を含むことを特徴とする水素吸蔵合金電極。
【請求項6】
請求項5記載の水素吸蔵合金電極を備えたことを特徴とする二次電池。

【公開番号】特開2007−46133(P2007−46133A)
【公開日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−233767(P2005−233767)
【出願日】平成17年8月11日(2005.8.11)
【出願人】(304021440)株式会社ジーエス・ユアサコーポレーション (461)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】