説明

水素吸蔵合金及びこれを用いた水素センサ

【課題】水素吸蔵あるいは水素化されてから迅速に水素放出あるいは脱水素化を行うことができる水素吸蔵合金及びこれを用いた水素センサを提供する。
【解決手段】Mg−Ni系合金とZr−Ti系合金とを含む水素吸蔵合金を用い、基板2と、該基板2上に設けられ、前記Mg−Ni系合金と前記Zr−Ti系合金とを含む水素反応層3と、該水素反応層3上に設けられ、前記Mg−Ni系合金の水素化を促進するための第1の触媒層4とを備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素を吸蔵するための水素吸蔵合金及びこれを用いて雰囲気中の水素ガスを検出するための水素センサに関するものである。
【背景技術】
【0002】
水素吸蔵合金が特許文献1に開示されている。特許文献1に記載されているように、燃料電池を駆動電源として利用する際、その燃料となるための水素の取り扱いが重要である。特に、水素を安全に取り扱う方法として、水素を合金内に吸蔵しておくことが好ましく、このような水素吸蔵合金の研究が進められている。この合金としては、特許文献1に記載されているように、MgやNiが利用されている。
【0003】
一方で、このような水素吸蔵合金の特性を利用し、ガラスやアクリル樹脂等の基板の表面にマグネシウム・ニッケル合金等の調光薄膜層(薄膜)を形成し、この調光薄膜層をパラジウム等の触媒層(触媒膜)の作用で速やかに水素化する(調光薄膜層の物性を変化させる)水素センサが開発されている。この水素センサは、調光薄膜層の水素化にともなう光学的反射率(以下、「反射率」あるいは「光透過率」と表示することがある)の変化を検知することで、雰囲気中の漏洩水素ガスを検出することができ、また調光薄膜層が常温で可逆的に水素化するため、漏洩水素ガスを安全かつ迅速に検出することができるという特徴を有している。
【0004】
上記水素吸蔵合金を種々の電源で使用する目的で取り扱うにせよ、水素センサとして取り扱うにせよ、その性能向上のため、水素吸蔵あるいは水素化してから水素放出あるいは脱水素化までにかかる時間を短くしたいとの要望がある。特に水素センサとして用いる場合には、繰り返して迅速に使用するために、水素の有無を検知できればすぐに他の場所で利用できるようにしたいという要望がある。しかしながら、上記特許文献1や他の研究にあるような水素吸蔵合金は、水素の吸蔵量や取扱い性を向上させるためのものが多く、水素放出あるいは脱水素化までを短時間で実現できるものには至っていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−346418号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記従来技術を考慮したものであって、水素吸蔵あるいは水素化されてから迅速に水素放出あるいは脱水素化を行うことができる水素吸蔵合金及びこれを用いた水素センサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するため、請求項1の発明では、Mg−Ni系合金とZr−Ti系合金とを含むことを特徴とする水素吸蔵合金を提供する。
請求項2の発明では、請求項1の発明において、Mg−Ni合金とZr−Ti−Mn合金のみからなることを特徴としている。
【0008】
また、請求項3の発明では、基板と、該基板上に設けられ、前記Mg−Ni系合金と前記Zr−Ti系合金とを含む水素反応層と、該水素反応層上に設けられ、前記Mg−Ni系合金の水素化を促進するための第1の触媒層とを備えたことを特徴とする請求項1に記載の水素吸蔵合金を用いた水素センサを提供する。
【0009】
請求項4の発明では、請求項3の発明において、前記水素反応層は、前記Mg−Ni系合金と前記Zr−Ti系合金とが分散混合されていることを特徴としている。
請求項5の発明では、請求項3の発明において、前記水素反応層は、前記Mg−Ni系合金で形成された調光層と、前記Zr−Ti系合金で形成され、前記Mg−Ni系合金の脱水素化を促進するための第2の触媒層とを有することを特徴としている。
【0010】
請求項6の発明では、請求項5の発明において、前記第2の触媒層は、前記調光層と前記基板との間に配置されていることを特徴としている。
請求項7の発明では、請求項5の発明において、前記第2の触媒層は、前記調光層と前記第1の触媒層との間に配置されていることを特徴としている。
請求項8の発明では、請求項5の発明において、前記第2の触媒層は、前記調光層と前記第1の触媒層との間及び前記調光層と前記基板との間に配置されていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0011】
請求項1の発明によれば、Zr−Ti系合金を含んでいるため、Mg−Ni系合金に吸蔵された水素を迅速に放出させることができる。すなわち、脱水素化を速めることができる。
請求項2の発明によれば、Mg−Ni合金とZr−Ti−Mn合金を組み合わせたものが、脱水素化を迅速に行えることが実験により確認されている。
【0012】
請求項3の発明によれば、水素と反応させる水素反応層として、Mg−Ni系合金とZr−Ti系合金を用いるので、Mg−Ni系合金に吸蔵された水素を迅速に放出させることができる。すなわち、脱水素化を速めることができる。したがって、水素センサで水素を検知する作業を迅速に行うことができる。
【0013】
請求項4の発明によれば、水素反応層がMg−Ni系合金とZr−Ti系合金が分散混合されたものであっても、Mg−Ni系合金に吸蔵された水素を迅速に放出させることができる。すなわち、脱水素化を速めることができる。したがって、水素センサで水素を検知する作業を迅速に行うことができる。
【0014】
請求項5の発明によれば、Mg−Ni系合金で形成された調光層と、Zr−Ti系合金で形成され、Mg−Ni系合金の脱水素化を促進するための第2の触媒層とで水素反応層を形成しても、調光層に吸蔵された水素を第2の触媒層にて迅速に放出させることができる。すなわち、脱水素化を速めることができる。したがって、水素センサで水素を検知する作業を迅速に行うことができる。
【0015】
請求項6の発明によれば、第2の触媒層が調光層と基板との間に配置されている場合に、脱水素化が迅速に行えることが実験により確認されている。
請求項7の発明によれば、第2の触媒層が調光層と第1の触媒層との間に配置されている場合に、脱水素化が迅速に行えることが実験により確認されている。また、調光層が水素化及び脱水素化により膨脹及び収縮を繰り返して表面に析出することを防止するバッファ層とすることもできる。特に、Mgはすぐに酸化されるため、この酸化防止の観点からも好適である。
【0016】
請求項8の発明によれば、第2の触媒層の働きで迅速に調光層の脱水素化を行うことができるとともに、調光層が水素化及び脱水素化を繰り返して第1の触媒層に食い込み、そのまま表面析出することを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明に係る水素センサの概略図である。
【図2】本発明に係る別の水素センサの概略図である。
【図3】本発明に係るさらに別の水素センサの概略図である。
【図4】本発明に係るさらに別の水素センサの概略図である。
【図5】実施例1の水素放出特性を示すグラフである。
【図6】実施例1の水素放出特性を示すグラフである。
【図7】実施例1の水素放出特性を示すグラフである。
【図8】実施例2及び3の水素放出特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1に示すように、本発明に係る水素センサ1は、基板2と、水素反応層3と、第1の触媒層4とを有している。
基板2は、透明の板材からなる。例えば、アクリル、プラスチック、透明シート、ガラス等である。
【0019】
水素反応層3は、水素を吸蔵及び放出でき、透明な状態と鏡の状態(金属状態)、若しくはその中間状態にスイッチングすることのできる材料であるMg−Ni系合金を含み、さらにZr−Ti系合金を含んでいる。Mg−Ni系合金の他、イットリウムやランタン等の希土類薄膜や、希土類金属とマグネシウム合金薄膜、マグネシウムの遷移金属の合金薄膜、あるいはマグネシウム薄膜等を用いてもよい。Mg−Ni系合金は、材料コストの安さや、優れた光学特性等を備えているため特に好適である。一方で、水素反応層3は基板2の上に蒸着されている。この蒸着は、スパッタリング法、真空蒸着法、電子ビーム蒸着法、化学気相蒸着法(CVD)、めっき法等により行うことができる。
【0020】
第1の触媒層4は、パラジウム等が用いられる。この第1の触媒層4は、水素反応層3の表面に蒸着されている。この蒸着は、スパッタリング法、真空蒸着法、電子ビーム蒸着法、化学気相蒸着法(CVD)、めっき法等により行うことができる。
以上の構成で、水素を測定することができる。すなわち、水素を含んだ雰囲気にさらすことで水素反応層3の水素化(水素吸蔵)が起こり、金属状態から透明状態に変化する。一方で、水素を含まず酸素を含んだ雰囲気にさらすことで脱水素化(水素放出)が起こり、透明状態から金属状態に変化する。
【0021】
上述したように、水素反応層3は、Mg−Ni系合金とZr−Ti系合金とが含まれている。これが、本発明に係る水素吸蔵合金である。水素の吸蔵及び放出は主にMg−Ni系合金が行うが、ここにZr−Ti系合金を含ませることにより、Mg−Ni系合金に吸蔵された水素を迅速に放出させることができる。すなわち、脱水素化を速めることができる。特に、後述するように、水素反応層3をMg−Ni合金とZr−Ti−Mn合金のみで形成すれば、脱水素化が迅速に行われることを実験により確認している。
【0022】
図1〜図4に示した水素センサ1は、このような水素吸蔵合金を水素反応層3として応用したものである。図1では、Mg−Ni合金とZr−Ti−Mn合金とが分散混合されて水素反応層3を形成している(実施例1)。この混合は、まず、基板2を洗浄後、これを真空装置の中にセットして真空排気を行った。そして、Mg−NiとZr−Ti−Mnのターゲットを1分間同時スパッタした。直流スパッタ法によりMg−Niに100W、Zr−Ti−Mnに30Wのパワーを加えてスパッタを行った。
【0023】
図2では、Mg−Ni合金とZr−Ti−Mn合金とで別々の層を形成し、Mg−Ni合金で調光層5を、Zr−Ti−Mn合金で第2の触媒層6を形成したものである。この調光層5と第2の触媒層6で水素反応層3を形成している。図2では、第2の触媒層6が調光層5と基板2との間に配置されている(実施例2)。図3では、第2の触媒層6が調光層5と第1の触媒層4との間に配置されている(実施例3)。図4では、第2の触媒層6が調光層5と第1の触媒層4との間及び調光層5と基板2との間に配置されている(実施例4)。すなわち、図4では第2の触媒層6が2層形成され、この第2の触媒層6で調光層5を挟み込んでいる。このように、基板2と第1の触媒層4との間に、Mg−Ni合金とZr−Ti−Mn合金を配すれば、どのような構造であってもよい。
【0024】
以下、本発明に係る水素センサ1を用いた実験結果について説明する。基板2と第1の触媒層4との間にMg−Ni合金のみを配置した水素センサを比較例として、本発明に係る水素センサ1と脱水素化に係る時間を比較した実験を行った。
【0025】
図5は実施例1と比較例とを比較したグラフである。縦軸は光の透過率(%)を示し、横軸は水素を供給してからの時間を示している。水素の供給は、100%の水素を50ml/minの流量で流して行った。また、実線が実施例1であり、一点鎖線が比較例である。グラフが示すように、水素を供給するとすぐに光の透過率が上昇し、透明度が上がる。そして、所定時間経過すると、脱水素化が始まり、光の透過率は元に戻る。この元に戻った時間が早いほど、脱水素化に係る時間が短いといえる。比較例の脱水素化が約300秒かかっているのに対し、実施例1では約250秒で完了している。すなわち、Mg−Ni合金とZr−Ti−Mn合金とを分散混合させて基板2と第1の触媒層4との間に配置させたものの方が、Mg−Ni合金のみを配置したものよりも脱水素化が迅速に行われていることを示している。なお、実験では、第1の触媒層4の厚みを4nmとし、水素反応層3の厚みを22.3nmとした。水素反応層3でのMg−Ni合金とZr−Ti−Mn合金との体積比は、約10:1である。Mg−Ni合金とZr−Ti−Mn合金は、1分間の同時スパッタで混合し、分散させた。このように、水素反応層がMg−Ni系合金とZr−Ti系合金が分散混合されたものであっても、Mg−Ni系合金に吸蔵された水素を迅速に放出させることができる。すなわち、脱水素化を速めることができる。したがって、水素センサで水素を検知する作業を迅速に行うことができる。なお、実施例1の方が光の透過率が下がっているが、水素センサはセンサの透明度が肉眼で認識できれば透過率が多少下がっても問題はない。実施例1の透過率は約35%であるが、使用に際して全く問題はない。
【0026】
なお、図6に示すように、Zr−Ti−Mn合金の含有量を増加させればさせるほど(同時スパッタでZr−Ti−Mnに与えるパワー(W)を上げればあげるほど)、脱水素化が早まることも実験にて確認している。グラフが示すように、全て脱水素化は250秒付近で完了している。体積比でいえば、Mg−Ni合金が10に対してZr−Ti−Mn合金が0.5〜2.0までは少なくとも確認している。さらに、図7に示すように、周囲の温度を高めれば高めるほど、脱水素化に係る時間が早まることも実験にて確認している。グラフが示すように、全て約250秒以内に脱水素化が完了している。具体的には、25℃〜50℃までは少なくとも確認している。
【0027】
図8では、実施例2及び実施例3と比較例とを比較したグラフである。実線が実施例2、破線が実施例3、一点鎖線が比較例である。グラフが示すように、いずれにおいても光の透過率は同程度である。そして、実施例2が約270秒、実施例3が約280秒、比較例が約300秒で脱水素化を完了している。すなわち、Mg−Ni系合金からなる調光層と、Zr−Ti系合金からなる2の触媒層とを別々に設け、これを基盤と第1の触媒層との間に配置したものの方が、調光層に吸蔵された水素を迅速に放出できている。換言すると、脱水素化を速めることができている。したがって、水素センサで水素を検知する作業を迅速に行うことができる。なお、実験では、第1の触媒層4の厚みを4nmとし、調光層5を20nmとし、第2の触媒層6を1nmとした。図示はしないが、第2の触媒層6を2nmとしても、ほぼ同様の実験結果が得られている。このように、第2の触媒層が調光層と基板との間に配置されている場合に、脱水素化が迅速に行えることが実験により確認された。また、第2の触媒層が調光層と第1の触媒層との間に配置されている場合に、脱水素化が迅速に行えることが実験により確認された。第2の触媒層を調光層と第1の触媒層との間に配置すれば、調光層が水素化及び脱水素化により膨脹及び収縮を繰り返して表面に析出することを防止するためのバッファ層として用いることができる。特に、Mgはすぐに酸化されるため、第2の触媒層を調光層と第1の触媒層に配置ことは、Mgの酸化防止の観点からも好適である。その他は、図5と同様である。
【0028】
実施例4については、実施例2と実施例3の両方の効果を得ることができる。すなわち、脱水素化に要する時間が比較例より早くなり、さらにバッファ層も備えることができる。
以上の実験結果より、Zr−Ti−Mn合金を含めたほうが、脱水素化を速めることが明らかになったが、特に実施例1が脱水素化の観点から最も優れている。
【0029】
なお、本発明に係る水素センサ1は、調光層5のスイッチング機能を利用して、例えばプライバシー保護を目的とした遮蔽物や、鏡状態と透明状態に変わることを利用した装飾物及び玩具等、水素検知の目的以外にも種々の用途として適用可能である。
【符号の説明】
【0030】
1 水素センサ
2 基板
3 水素反応層
4 第1の触媒層
5 調光層
6 第2の触媒層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Mg−Ni系合金とZr−Ti系合金とを含むことを特徴とする水素吸蔵合金。
【請求項2】
Mg−Ni合金とZr−Ti−Mn合金のみからなることを特徴とする請求項1に記載の水素吸蔵合金。
【請求項3】
基板と、
該基板上に設けられ、前記Mg−Ni系合金と前記Zr−Ti系合金とを含む水素反応層と、
該水素反応層上に設けられ、前記Mg−Ni系合金の水素化を促進するための第1の触媒層とを備えたことを特徴とする請求項1に記載の水素吸蔵合金を用いた水素センサ。
【請求項4】
前記水素反応層は、前記Mg−Ni系合金と前記Zr−Ti系合金とが分散混合されていることを特徴とする請求項3に記載の水素センサ。
【請求項5】
前記水素反応層は、前記Mg−Ni系合金で形成された調光層と、前記Zr−Ti系合金で形成され、前記Mg−Ni系合金の脱水素化を促進するための第2の触媒層とを有することを特徴とする請求項3に記載の水素センサ。
【請求項6】
前記第2の触媒層は、前記調光層と前記基板との間に配置されていることを特徴とする請求項5に記載の水素センサ。
【請求項7】
前記第2の触媒層は、前記調光層と前記第1の触媒層との間に配置されていることを特徴とする請求項5に記載の水素センサ。
【請求項8】
前記第2の触媒層は、前記調光層と前記第1の触媒層との間及び前記調光層と前記基板との間に配置されていることを特徴とする請求項5に記載の水素センサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−219841(P2011−219841A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−93135(P2010−93135)
【出願日】平成22年4月14日(2010.4.14)
【出願人】(391064005)株式会社アツミテック (39)
【Fターム(参考)】