説明

水素吸蔵合金組成物の製造方法

【課題】電池から離脱させた負極から水素吸蔵合金構成元素を効率的に回収し、水素吸蔵合金組成物を製造する方法を提供する。
【解決手段】ニッケル水素電池から離脱され、ミッシュメタルを含有する負極活物質と電極基板とが結合した状態の負極(以下「回収負極」という)を、極性溶液で洗浄する洗浄工程、回収負極を350〜600℃の非酸化性雰囲気下で加熱する水酸基除去工程、回収負極を750〜1050℃の非酸化性雰囲気下で加熱する炭素除去工程、及び、回収負極を加熱溶融する負極溶融工程を備えた水素吸蔵合金組成物の製造方法を提案する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば使用済のニッケル−水素二次電池(「廃ニッケル−水素二次電池」という)から負極を取り出して回収し、この回収した負極を出発原料として水素吸蔵合金組成物を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
廃ニッケル−水素二次電池から有価金属であるニッケル、コバルト及び希土類金属等を回収する方法として、例えば、電池を破砕、解砕、篩分した後、粗粒部(プラスチック、鉄、ニッケル基板等)と細粒部(水酸化ニッケル、水素吸蔵合金)とに分離し、細粒部をアルカリ金属を含んだ硫酸で溶解し、コバルト含有ニッケル溶解液から不純物を除去した後、電解処理して金属ニッケル及びニッケル−コバルト合金を回収する方法が提案されている(特許文献1)。
【0003】
このようにして廃ニッケル−水素二次電池から有価金属を回収する際、回収した有価金属中の炭素含有量を少なくすることで回収有価金属の用途が広くなるため、有価金属、特に水素吸蔵合金構成元素の回収に当たっては回収される有価金属中の炭素含有量を少なくすることが好ましいという知見が報告されている。例えば特許文献2には、不活性ガス雰囲気或いは水素ガス雰囲気で回収した有価物を脱炭素すると、酸化され易い希土類元素(La、Ce、Pr、Nd、Sm等の希土類元素)などを比較的酸化することなく、該有価物中に含まれる炭素を除去することができるという知見が開示されている。
【0004】
しかし、廃ニッケル水素電池から水素吸蔵合金構成元素を回収する場合に、負極活物質を多く含む回収負極を水素ガス雰囲気で加熱処理すると、その中に僅かに含まれる正極活物質、特に水酸化ニッケルなどの水酸化物が希土類(La、Ce、Pr、Nd、Sm等)を酸化するため、他の水素吸蔵合金構成元素に比べ希土類の回収率が低くなることが次第に分かってきた。
そこで特許文献3に係る発明は、希土類の回収率を高く維持することができる水素吸蔵合金構成元素の回収方法として、水素吸蔵合金構成元素を含有した回収負極を還元雰囲気中で加熱処理することにより当該回収負極中の水酸化物を還元させた後、当該回収負極を非酸化性雰囲気で加熱して炭素を除去する工程を包含する水素吸蔵合金構成元素の回収方法を提案している。
【0005】
また、特許文献4は、水素吸蔵合金を負極活物質とするアルカリ二次電池から有用金属を回収方法として、水素吸蔵合金を負極活物質とするアルカリ二次電池を、粉砕及び/又は解体し、得られた粉砕物及び/又は解体物を、還元剤の存在下、200℃以上の条件で、露点を0℃以下に制御しながら加熱分解及び還元し、得られた物質から亜鉛、リチウム、カリウム等の高揮発性金属及びその化合物を揮発除去する有用金属回収方法を提案している。
【0006】
【特許文献1】特開平9−82371号公報
【特許文献2】特開2002−327215号公報
【特許文献3】特開2005−113226号公報
【特許文献4】特開2001−131647号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前記の特許文献1〜4を含めて従来は、廃ニッケル水素電池から水素吸蔵合金構成元素を回収する場合、廃ニッケル水素電池を解体及び粉砕し、その中から負極活物質を選別回収していたが、最近、電池から負極を取り出すことができる電池が開発されつつある。
そこで本発明の目的は、廃ニッケル−水素二次電池から取り出された負極を出発原料として、水素吸蔵合金組成物を効率的に製造することができる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、ニッケル水素電池から離脱され、ミッシュメタルを含有する負極活物質と電極基板とが結合した状態の負極(以下「回収負極」という)を、極性溶液で洗浄する洗浄工程、回収負極を350〜600℃の非酸化性雰囲気下で加熱する水酸基除去工程、回収負極を750〜1050℃の非酸化性雰囲気下で加熱する炭素除去工程、及び、回収負極を加熱溶融する負極溶融工程を備えた水素吸蔵合金組成物の製造方法を提案するものである。
【0009】
本発明によれば、電池から離脱された負極を、粉砕することなく、電極基板と負極活物質とが結合した状態のまま洗浄工程、水酸基除去工程及び炭素除去工程に供し、その後に加熱溶融することができるから、廃ニッケル−水素二次電池から取り出された負極を出発原料として新たな水素吸蔵合金組成物を効率良く製造することができる。
また、本発明の出発原料は、単独の負極であり、正極活物質は含まれないから、出発原料に含まれる水酸化物(水酸基(OH))の多くは負極活物質中のミッシュメタルに起因する水酸化物(水酸基(OH))である。このため、350〜600℃の非酸化性雰囲気下で回収負極を加熱することにより、ミッシュメタルに起因する水酸化物(水酸基(OH))を効果的に低減することができ、水素吸蔵合金組成物の回収率を高めることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
次に、本発明の好適な実施形態の一例として、廃ニッケル水素電池から水素吸蔵合金構成元素を回収して新たな水素吸蔵合金組成物を製造する方法について説明する。ただし、本発明の範囲が下記説明する実施形態に限定されるものではない。
【0011】
本発明の好適な実施形態の一例(以下「本実施形態」という)としての水素吸蔵合金組成物の製造方法は、廃ニッケル水素電池から回収した負極(「回収負極」という。)を、水等の極性溶液で洗浄してアルカリ金属塩濃度を低減させ(洗浄工程)、必要に応じて乾燥させた後(乾燥工程)、該回収負極を非酸化性雰囲気下で加熱してミッシュメタル中の水酸化物(水酸基(OH))を低減させ(水酸基除去工程)、続いて該回収負極を非酸化性雰囲気下で加熱して炭素を低減させた後(炭素除去工程)、回収負極を加熱溶融し(負極溶融工程)、必要に応じて溶融した回収負極を鋳造することにより(鋳造工程)、新たな水素吸蔵合金組成物を製造するという方法である。
【0012】
(廃ニッケル水素電池)
本実施形態で用いる出発原料は、廃ニッケル水素電池から離脱された負極であり、負極活物質と電極基板とが結合した状態の負極である必要があるため、このような負極を回収する電池としては、負極活物質と電極基板とが結合した状態の負極を離脱させることができる構成を備えているものが好ましい。このような廃ニッケル水素電池の構成を特に限定するものではないが、例えば負極活物質と電極基板とが結合した状態のまま、負極を電池から引き抜いて離脱させることができる構成を備えたニッケル水素電池を例示することができる。
【0013】
(回収負極)
本実施形態において出発原料として用いる回収負極は、負極活物質と電極基板とが結合した状態であることが重要である。この際、結合状態を特に限定するものではないが、例えば電極基板の表面に負極活物質からなる活物質層が塗着してなる構成のものを例示することができる。
【0014】
電極基板は、処理工程を減らすことができ、且つ得られる水素吸蔵合金組成物の純度を高めることができるという観点から、水素吸蔵合金組成物を構成する元素のうちの一種又は二種以上の元素からなる基板であるのが好ましい。例えばニッケルからなる基板を挙げることができるが、これに限定されるものではなく、例えばニッケルメッキ鋼板からなる基板などを挙げることができる。但し、ニッケルメッキ鋼板は鉄(Fe)を含んでいるため、新たに製造する水素吸蔵合金は、構成元素として鉄(Fe)を含むことになる。
【0015】
負極活物質は、ミッシュメタル(「Mm」ともいう)を含有する水素吸蔵合金であることが重要であり、ミッシュメタル及びニッケルを含有する水素吸蔵合金であるのが好ましい。より具体的には、Mmを含有するAB型水素吸蔵合金、中でも、Bサイトの金属として、例えばNiを含有し、その他にAl、Mn、Co、Fe、Ti、V、Zn及びZrなどのいずれか、或いはこれらの二種類以上の組合せを含有する合金を例示することができる。
【0016】
なお、ミッシュメタル(Mm)は、希土類元素(レア・アース)が含まれた合金であり、AB型水素吸蔵合金においてはAサイトを構成する金属であり、本発明においては、La、Ce、Nd及びPrからなる群のうちの一種又は二種以上を含む合金を意図している。
【0017】
回収負極の鉄含有量は、新たな水素吸蔵合金組成物の水素吸蔵を満足する観点から、10質量%以下であるのが好ましい。この観点からも、ニッケル基板負極を出発原料として用いることは好適である。かかる観点から、回収負極の鉄含有量は、5質量%以下であるのがさらに好ましく、中でも特に2質量%以下であるのがさらに好ましい。
また、回収負極の酸素含有量は、回収負極の酸素低減のための水素還元を必要としないという観点から、5質量%以下であるのが好ましく、特に2質量%以下、中でも特に1質量%以下、さらには0.5質量%以下であるのがより好ましい。
【0018】
(洗浄工程)
殆どのニッケル水素電池では、電解液としてKOHを主成分とするアルカリ性水溶液が用いられているため、回収負極にはアルカリ性水溶液が付着している。このようなアルカリ性水溶液が付着していると、回収負極を加熱処理した際にミッシュメタル(Mm)が酸化してミッシュメタル(Mm)の回収率が低下するばかりか、負極溶融工程で溶解性が低下したり、ドロスが生じたりするため、水酸基除去工程の前に予め回収負極からアルカリ金属塩を除去しておく必要がある。
【0019】
アルカリ金属塩を除去する方法としては、0℃〜100℃の水や弱酸性の水溶液等の極性溶液を用いて、電極基板と負極活物質とが結合した状態のままの回収負極を洗浄することにより、水酸化カリウム(KOH)などのアルカリ金属塩を除去するのが好ましい。この際、洗浄処理は必要に応じて繰り返し行うのが好ましい。
但し、水酸化カリウム(KOH)などのアルカリ金属塩を除去することができれば、他の方法を採用してもよい。
【0020】
本工程後、Kの含有量を0.02%未満、特に0.015%未満、中でも特に0.01%未満とするのが好ましい。K量が0.02%未満であれば、歩留りをさらに良くすることができるほか、潮解性により合金表面が酸化され難いため、後の水酸基除去工程において雰囲気の露点を0℃以下に制御する必要がない。
【0021】
水或いは他の極性溶液を用いて回収負極を洗浄する方法は、特に限定するものではないが、電極基板から負極活物質が剥離しないように洗浄するか、或いは剥離した負極活物質を回収できるように洗浄するのが好ましい。例えば、回収負極を入れた容器内に、水或いは他の極性溶液を、回収負極に直接当たらないように注いでオーバーフローさせながら流水洗浄するのが好ましい。洗浄の際に攪拌を行うと、負極活物質が電極基板から剥離する可能性があるため、攪拌は行わない方が好ましい。
但し、この方法に限定する趣旨ではない。
【0022】
(乾燥工程)
上記のように水或いは他の極性溶液を用いて回収負極を洗浄する場合には、必要に応じて乾燥を行うのが好ましい。
なお、前記工程で付着した水或いは他の極性溶液は、次の水酸基除去工程でも除去することが可能であるから、本乾燥工程を省略することは可能であるが、次工程で低減する目的物質が異なるため、効率を考えると本乾燥工程を介在させるのが好ましい。
【0023】
乾燥方法は任意であり、自然乾燥させてもよいし、乾燥装置内に保管乃至通過させて乾燥させるようにしてもよい。
【0024】
(水酸基除去工程)
本実施形態における出発原料は、廃ニッケル水素電池から離脱された回収負極であり、不可避的に含まれる分を除けば正極活物質は基本的に含まれないから、回収負極中に含まれる水酸化物(水酸基(OH))の多くは負極活物質中のミッシュメタルに起因する水酸化物(水酸基(OH))である。脱炭素工程において、負極活物質中に水酸化物(水酸基(OH))が残っていると、金属元素が酸化されて水素吸蔵合金の回収率が低下する原因となるため、ミッシュメタルに起因する水酸化物(水酸基(OH))を有効に低減する必要がある。
【0025】
本工程では、電極基板と負極活物質とが結合した状態のままの回収負極を、350〜600℃の非酸化性雰囲気下で加熱することにより、負極活物質中のミッシュメタルに起因する水酸化物(水酸基(OH))を低減することができる。
この際、非酸化性雰囲気とは、加熱により、実質的に金属や合金を酸化することのない雰囲気、或いは炭素を還元等により除去できる雰囲気を意味し、例えば水素ガス、不活性ガス、水蒸気などの非酸化性ガスを50%以上、好ましくは75%以上、より好ましくは90%以上含む雰囲気が好ましく、例えば不活性ガス−水蒸気、不活性ガス−水蒸気−水素ガスなどの混合ガス雰囲気であってもよい。
不活性ガスには、アルゴン、窒素及びヘリウム等が含まれ、非酸化性雰囲気としては還元雰囲気である水素ガス雰囲気が特に好ましい。
また、ガスの活性を維持して反応性を高く維持するため、上記非酸化性ガスを送気しながら加熱するのが好ましい。
【0026】
なお、本工程では、ガスによって雰囲気を希釈したり、雰囲気の減圧をしたりする必要はない。ガスによって雰囲気を希釈したり、減圧をしたりすると、上記非酸化性ガスの分圧が低下してガス活性が低下し反応性が低下するため、ミッシュメタルに起因する水酸化物を有効に低減できなくなってしまう。従って、本工程では、前記特許文献4に開示されているように、露点を0℃以下に制御することは逆に好ましくなく、また、露点0℃以上であっても本水酸基除去工程を有効に実施することができる(実施例1参照)。
【0027】
ミッシュメタルに起因する水酸化物(水酸基(OH))は、その多くが水酸化ランタン(La(OH)3)などの水酸化物として含まれている。水酸化ランタン(La(OH)3)は、390℃付近でLa(OH)3→LaOOHに変化し、500℃付近でLa23に変化し、500℃を超えて600℃付近なると他の金属が酸化してしまうため、350〜600℃の温度で加熱することが重要である。
より好ましくは、La(OH)3→LaOOHに変化する温度(390℃付近)を一定時間維持するように加熱した後、LaOOH→La23に変化する温度(500℃付近)を一定時間維持するように加熱するのが好ましい。
かかる観点から、加熱温度(品温)は、少なくとも350〜600℃の温度範囲で加熱することが重要であり、特に390〜500℃、中でも特に390〜450℃の温度範囲で加熱するのが好ましい。
なお、品温と雰囲気温度との温度差は僅かであり、ほぼ同じ温度であると考えることができる。
【0028】
(脱炭素工程)
次に、電極基板と負極活物質とが結合した状態のままの回収負極を、750〜1050℃の非酸化性雰囲気下で加熱することにより、回収負極中に含まれる炭素を酸化させて少なくともその一部を炭化水素ガス化させて低減するのが好ましい。
なお、上記の水酸基除去工程を省略して、いっきに600℃以上に加熱すると、水酸化ランタン(La(OH)3)から放出された水酸化物(水酸基(OH))によって他の金属が酸化するため、水酸基除去工程を省略して脱炭素工程を実施することは避けるべきであるが、同一加熱装置を用いて水酸基除去工程及び脱炭素工程を連続して行うことは効率的である。
【0029】
ここで、非酸化性雰囲気とは、加熱により、実質的に金属や合金を酸化することなく炭素を還元等により除去できる雰囲気を意味し、例えば水素ガス、水蒸気などの非酸化性ガスを50%以上、好ましくは75%以上、より好ましくは90%以上含む雰囲気が好ましい。
非酸化性ガスを50%以上含む雰囲気下で加熱処理を行うと、回収負極中に含まれる酸素、水素及び水蒸気が還元的又は酸化的に少なくとも一部の炭素は炭化水素化してガスとして除去することができる。なお、水素ガス雰囲気では有価物中の少なくとも一部の炭素が水素により還元されて低級炭化水素等に転化され回収負極から除去される。
【0030】
脱炭素工程における加熱温度は、750〜1050℃、好ましくは750〜950℃、特に800〜950℃で行うのが好ましく、加熱時間は特に限定するものではなく、例えば5分〜24時間の間で適宜設定すればよい。
【0031】
このように脱炭素工程を行うことにより、回収負極中の炭素濃度を2000ppm(0.2重量%)以下、条件によっては1000ppm以下、特に200ppm以下、中でも100ppm以下に低減することができる。
なお、脱炭素工程後は、上記加熱温度から400℃下がった温度までの温度域、特に上記加熱温度から300℃下がった温度までの温度域、中でも特に上記加熱温度から200℃下がった温度までの温度域で、非酸化性ガスを50%以上含む雰囲気からアルゴンなどの不活性ガス雰囲気に切り替えるようにするのが好ましい。これは、低温となるまで非酸化性ガスを含んだガスを流すと、負極が非酸化性ガスを吸蔵して後に非酸化性ガスを取り出すことが困難になるからである。
【0032】
(負極溶融工程)
次に、回収負極を溶融し、必要に応じて当該工程にて所望の組成となるように調合(「組成調合」という)するのが好ましい。
【0033】
負極溶融工程は、脱炭素工程における加熱に引き続いて又は一旦加熱を停止した後に加熱を行うようにすればよい。
【0034】
加熱溶融を行う装置(炉を含む)は任意である。例えば、高周波溶解炉、低周波溶解炉を用いて加熱溶融することができる。
【0035】
回収負極を溶融するには、回収負極を、例えば坩堝等の加熱装置内に入れて直接加熱溶融することも可能であるが、予め水素吸蔵合金を構成する元素(「水素吸蔵合金構成元素」ともいう)を加熱溶融して溶湯を調製しておき、この溶湯内に回収負極を投入して加熱溶融することもできる。
【0036】
回収負極を加熱溶融する前に予め、回収負極とミッシュメタルとを混合して加熱溶融することで、所望の組成に調製できるばかりか、溶け残りを少なくすることができ、さらには、より短時間で溶融させることができる。この際、ミッシュメタルの混合量は、ミッシュメタルが全体量の50質量%以上100質量%未満を占めるように混合するのが好ましく、特に60質量%以上100質量%未満、中でも75質量%以上100質量%未満、その中でも85質量%以上100質量%未満を占めるように混合するのが好ましい。より具体的には、ランタン(La)が全体量の10〜35質量%を占めるように混合するのが好ましく、中でも15〜30質量%、特に20〜26質量%を占めるように混合するのが好ましい。
【0037】
回収負極とミッシュメタルとを混合して加熱溶融する方法としては、少なくともミッシュメタルを50%以上含むミッシュメタル溶湯内に回収負極を投入して加熱溶融するのが好ましい。このようなミッシュメタル溶湯内に回収負極を投入して回収負極を溶解させると、ミッシュメタルと回収負極中のNiが金属間化合物を作って溶け易くなるため、通常は溶解しない低温、例えば900〜1100℃程度で溶解させることができ、しかも回収負極表面の酸化物層を一部還元することもできる。
なお、当該ミッシュメタル溶湯は、回収負極とは別に用意したものであり、ミッシュメタルを50%以上含んでいればよく、好ましくは60〜100%、特に好ましくは80〜100%含むものである。
【0038】
回収負極を溶融する温度、例えば溶湯内に回収負極を投入する場合の溶湯温度は1200〜1600℃であるのが好ましく、特に1300〜1550℃、中でも特に1400〜1500℃であるのが好ましい。
また、溶融工程は、有価金属、すなわち水素吸蔵合金構成元素の酸化を抑制するために、アルゴン中等の不活性ガス雰囲気で行うのが好ましい。
【0039】
回収負極が薄板或いはフィルム状の場合には、そのまま溶湯に投入すると溶湯上に浮いてしまって溶融が進まないため、アルミニウムやニッケルなどの水素吸蔵合金元素の一種又は二種以上からなる部材で、複数の回収負極を束ねて溶湯に投入するのが好ましい。中でもアルミニウムの場合は、アルミニウムを溶湯に投入した際の反応熱によって回収負極の溶融速度をさらに速めることができる。
回収負極を束ねる部材の形状を特に限定するものではなく、例えば袋状、紐状、バンド状、リボン状、その他の形状であればよく、網や箔で包むようにしてもよい。
【0040】
負極溶融工程において組成調合する方法としては、水素吸蔵合金構成元素を加熱溶融して得られた溶湯内に回収負極を投入する場合には、予め回収負極中の元素量を分析しておき、回収負極中の元素量と溶湯内の元素量との合計値が目的とする製造物の組成となるように、溶湯の組成及び量と、回収負極の量とを調整するようにすればよい。
また、回収負極とミッシュメタルとを混合して加熱溶融する場合には、予め回収負極中の元素量を分析しておき、回収負極中の元素量とミッシュメタル中の元素量との合計値が目的とする組成となるように、回収負極の混合量とミッシュメタルの組成及び量とを調整するようにすればよい。
この際、回収負極とミッシュメタルとを混合して短時間で加熱溶融させた後、さらにNiやCo等の水素吸蔵合金構成元素を添加して、目的とする組成となるように調整してもよい。
また、前記の如くアルミニウムやニッケルなどの水素吸蔵合金元素の一種又は二種以上からなる部材で、複数の回収負極を束ねて溶湯に投入する場合には、束ねる部材の元素量を考慮する必要があるため、溶湯の組成及び量と、回収負極の量と、束ねる部材の組成及び量とを調整することにより、目的とする水素吸蔵合金組成物の組成を調整することができる。
【0041】
(鋳造工程)
前記溶融工程で、回収負極を加熱溶融して得られる溶湯は、必要に応じて鋳型に注入し、所望の形状に鋳造することができる。
但し、鋳造工程を省略することもできる。例えば、本実施形態の製造目的が母合金、すなわち、そのまま負極活物質として使用可能な水素吸蔵合金ではなく、適宜成分を加えて組成調整して水素吸蔵合金とするための中間物質としての合金を製造することにある場合は、鋳造工程を省略することができる。
【0042】
鋳造工程においても、有価金属、すなわち水素吸蔵合金構成元素の酸化を抑制するために、アルゴン中等の不活性ガス雰囲気で行うのが好ましい。
【0043】
(水素吸蔵合金組成物)
本実施形態では、前述の組成調合によって、ニッケル水素電池の負極活物質として利用することができる水素吸蔵合金組成物を製造することもできるし、また、前述の母合金、すなわち負極活物質用母合金として利用することができる水素吸蔵合金組成物を製造することもできる。
ニッケル水素電池の負極活物質として利用することができる水素吸蔵合金組成物を製造する場合には、適宜成分、すなわち例えばLa、Ce、Nd、Pr、Ni、Al、Mn、Co、Fe、Ti、V、Zn、Mg、Cu、Y、Rb、Gd、Tm、Lu及びZrなどのいずれか、或いはこれらの二種類以上の組合せを加えて溶解して合金を製造し、ニッケル水素電池の負極活物質として利用することができる水素吸蔵合金組成物を製造すればよい。
【0044】
(その他)
本実施形態では、廃ニッケル水素電池から取り出した回収負極を出発原料としているが、水素吸蔵合金元素の一種又は二種以上からなる基板と水素吸蔵合金層とからなる部材を選択的に取り出すことができれば廃ニッケル水素電池から取り出した回収負極を出発原料とすることに限定するものではない。例えば、ヒートポンプ、太陽・風力などの自然エネルギーの貯蔵装置、水素貯蔵装置、アクチュエータ、燃料電池などにおいて、水素吸蔵合金元素の一種又は二種以上からなる基板と水素吸蔵合金層とからなる部材を選択的に取り出すことができれば、これを出発原料とすることも可能である。
【0045】
(用語の説明)
本発明において、「水素吸蔵合金」とは、LaNiに代表されるAB型合金、ZrV0.4Ni1.5に代表されるAB型合金、そのほかAB型合金やAB型(A含む)合金など様々な合金を包含する。
「水素吸蔵合金構成元素」とは、水素吸蔵合金を構成する元素のうちの一種又は二種以上の組み合わせからなる元素を意味する。中でも、CaCu型の結晶構造を有するAB型水素吸蔵合金、詳しくはAサイトに希土類系の混合物であるMm(ミッシュメタル)を用い、BサイトにNi、Al、Mn、Co等の金属元素を用いた水素吸蔵合金及びその構成元素が本発明の対象として好ましい。
「水素吸蔵合金組成物」とは、水素吸蔵合金構成元素からなる組成物であり、その形状は塊状、成形体状、粉体状の何れであってもよい。
【0046】
また、本発明において、「X〜Y」(X,Yは任意の数字)と記載した場合、特にことわらない限り「X以上Y以下」の意であり、「好ましくはXより大きく、Yより小さい」の意を包含するものである。
さらにまた、「X以上」(Xは任意の数字)或いは「Y以下」(Yは任意の数字)と記載した場合、「Xより大きいことが好ましい」或いは「Y未満であるのが好ましい」旨の意図も包含する。
【実施例】
【0047】
以下、実施例に基づいて本発明について説明するが、本発明が実施例に限定されるものではない。
ここでは先ず、実施例で得られたサンプルの定量元素分析、酸素含有率測定、炭素含有率測定の方法について説明した後、実施例について説明する。
【0048】
<定量元素分析>
250mlビーカーにサンプル0.2gを入れ、これに硝酸10mlを加えて加熱溶解させた後、さらに塩酸を10ml加えて完全溶解させ、その後100mlのメスフラスコに移し、水を加えて100mlの水溶液を得た。その水溶液を50倍に希釈して、ICP発光分析装置(SIIナノテク社製型式SPS-3100)を用いて、各元素の定量を行った。
【0049】
<酸素含有率測定>
サンプルの酸素含有率測定は、0.05gに秤量したサンプルについて下記分析装置を使用し、下記条件下で行った。
【0050】
分析装置:固体中酸素窒素分析装置(堀場製作所製、EMGA-620W)
キャリアーガス:He(純度99.995%以上)、ガス圧0.35±0.02MPa
るつぼ:黒鉛るつぼ
測定条件:EMGA-620W取扱説明書に記載の標準設定条件(1モード分析条件(1) 5.00、5.00kW ; 75secの条件に変更)
測定モード:BLOCKモードのSTANDARD BLOCK動作モード
【0051】
<炭素含有率測定>
サンプルの炭素含有率測定は、0.5gに秤量したサンプルについて下記分析装置を使用し、下記条件下で行った。
【0052】
分析装置:固体中炭素分析装置(堀場製作所製、EMIA-110)
キャリアーガス:酸素(純度99.95%以上)、ガス圧0.75±0.05kgf/cm2
測定条件:EMIA-110取扱説明書に記載の標準的な設定条件(燃焼設定時間は60秒に変更)
【0053】
(実施例1)
本実施例では、廃ニッケル水素電池から離脱された回収負極を、水で洗浄してアルカリ金属塩濃度を低減させた後、該回収負極を乾燥させた。次に、該回収負極を非酸化性雰囲気下で加熱してミッシュメタル中の水酸化物(水酸基(OH))を低減させた後、該回収負極を非酸化性雰囲気下で加熱して炭素を低減させ、次いで該回収負極を、予め水素吸蔵合金構成元素を溶解して得た溶湯内に投入して該回収負極を加熱溶融し、これを鋳造することにより水素吸蔵合金組成物を製造した。
【0054】
回収負極は、ニッケルからなる基板(115mm×15mm×0.45mm)に、水素吸蔵合金からなる負極活物質層が積層してなるニッケル基板負極(1枚4g)であり、回収負極全体における各元素量の質量%は、Ni:60.7、Co:7.6、Mn:3.7、Al:1.4、La:18.1、Ce:3.8、Nd:1.1、Pr:0.4、Fe:0.1、K:0.7、Na:0.1、C:0.5、O:1.5であった。
【0055】
8L容量の容器内に前記回収負極140枚を入れ、回収負極に直接当たらないように市水(pH7、室温)を注いでオーバーフローさせながらpH8になるまで流水洗浄した後(K量:0.01質量%未満)、大気中に静置して自然乾燥させた。
【0056】
次に、自然乾燥させた前記回収負極180gを、回転炉(10rpm)を用いて、水素(純度99.98%)を0.5L/分で送気しながら加熱して390℃を3時間保持した後、さらに加熱して500℃を3時間保持し、続いてさらに加熱して900℃を1時間保持した後、水素の送気を止め、代わりにアルゴンを送気しながら自然冷却した。この操作を3回行い、約530gの回収負極を得た。
なお、水酸基除去工程及び脱炭素工程を通じて、ガスによって雰囲気を希釈したり、或雰囲気を減圧したりすることは行わなかった。
【0057】
次いで、室温まで冷やした回収負極501gを、アルミニウムからなるリボン(13g)で束ねて、これを、予め水素吸蔵合金構成元素を低周波誘導炉にて溶融させて調製した溶湯(1450℃、溶湯全体における各元素量の質量%;Ni:48.9、Co:11.3、Mn:4.9、Al:1.8、La:25.9、Ce:5.1、Nd:1.6、Pr:0.5)4513gに投入して溶融させた。
このように溶融させた溶湯を鋳型に注入し、冷却して製品(水素吸蔵合金組成物)を製造した。
溶融及び鋳造工程は、アルゴン雰囲気で行った。
【0058】
回収負極及びこれを投入した溶湯の質量に対する、本実施例で得られた製品(水素吸蔵合金組成物)の質量割合(=製品×100/(回収負極+リボン+溶湯))を歩留(%)として算出した。
なお、水酸基除去工程後の測定サンプルは、上記実施例1とは別に同様に製造を行い、390℃を3時間保持した後、500℃を3時間保持したところで水素の送気を止めて代わりにアルゴンを送気しながら室温まで自然冷却して得られたものであり、また、炭素除去工程後の測定サンプルは、前記水酸基除去工程後の測定サンプルの残りを、水素を流しながら再び加熱して900℃を1時間保持したところで水素の送気を止めて代わりにアルゴンを送気しながら室温まで自然冷却して得られたものである。
実施例1で得られたサンプルの元素分析結果、重量減少及び歩留りを表1に示した。
【0059】
【表1】

【0060】
(実施例2)
実施例1と同様に回収負極を流水洗浄して乾燥させた後、回転炉(10rpm)を用い、水素(純度99.98%)を0.5L/分で送気しながら回収負極を加熱して390℃を3時間保持した後、さらに加熱して500℃を3時間保持し、続いてさらに加熱して900℃を1時間保持した後、水素の送気を止め、代わりにアルゴンを送気しながら自然冷却した。この操作を2回行い、約350gの回収負極を得た。
なお、水酸基除去工程及び脱炭素工程を通じて、ガスによって雰囲気を希釈したり、或雰囲気を減圧したりすることは行わなかった。
【0061】
次いで、室温まで冷やした回収負極250gを、アルミニウムからなるリボン(8g)で束ねて、これを、予め水素吸蔵合金構成元素を低周波誘導炉にて溶融させて調製したミッシュメタル溶湯(1450℃、溶湯全体における各元素量の質量%;La:24.5、Ce:49.2、Nd:15.2、Pr:5.2、Al:5.9)4750gに投入して溶融させた。
このように溶融させた溶湯を鋳型に注入し、冷却して製品(水素吸蔵合金組成物)を製造した。
溶融及び鋳造工程は、アルゴン雰囲気で行った。
【0062】
回収負極及びこれを投入した溶湯の質量に対する、本実施例で得られた製品(水素吸蔵合金組成物)の質量割合(=製品×100/(回収負極+リボン+溶湯))を歩留(%)として算出した。
なお、炭素除去工程後の測定サンプルは、上記実施例2とは別に同様に製造を行い、900℃を1時間保持した後、水素の送気を止めて代わりにアルゴンを送気しながら室温まで自然冷却して得られたものである。
実施例2で得られたサンプルの元素分析結果、重量減少及び歩留りを表2に示した。
【0063】
【表2】

【0064】
(考察)
実施例1及び2ともに、歩留りが90%を超える高い値を示した。特に実施例2は高い歩留りを示した。これは、実施例2では、少なくともミッシュメタルを50%以上含むミッシュメタル溶湯内に回収負極を投入して回収負極を溶解させたため、ミッシュメタルと回収負極中のNiが金属間化合物を作って溶け易くなり、回収負極表面の酸化物層を一部還元することができるため溶け残り(ドロス)が少なくなる結果、歩留りが高くなったものと考えることができる。
また、実施例1で得られた製品(水素吸蔵合金組成物)は、ニッケル水素電池用の負極活物質として利用できるものであり、実施例2で得られた水素吸蔵合金組成物は、ニッケル水素電池用の負極活物質の母合金として利用できるものであった。
【0065】
なお、実施例1の重量減少は、ほとんどが水分であると思われる。水酸基除去工程で送入した水素流量をもとに算出すると、水酸基除去工程の雰囲気の水分体積割合は0.6%以上、露点に換算すれば0℃以上であることが推察される。これを減圧雰囲気で行うと反応が遅くなり、処理時間が長くなるため効率的ではない、さらに露点≦0℃の制御は困難である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニッケル水素電池から離脱され、ミッシュメタルを含有する負極活物質と電極基板とが結合した状態の負極(以下「回収負極」という)を、極性溶液で洗浄する洗浄工程、回収負極を350〜600℃の非酸化性雰囲気下で加熱する水酸基除去工程、回収負極を750〜1050℃の非酸化性雰囲気下で加熱する炭素除去工程、及び、回収負極を加熱溶融する負極溶融工程を備えた水素吸蔵合金組成物の製造方法。
【請求項2】
負極溶融工程では、回収負極と、該回収負極とは別に用意したミッシュメタルとを混合した後、回収負極を加熱溶融することを特徴とする請求項1に記載の水素吸蔵合金組成物の製造方法。
【請求項3】
全体量の50質量%以上100質量%未満をミッシュメタルが占めるように、回収負極とミッシュメタルとを混合することを特徴とする請求項2に記載の水素吸蔵合金組成物の製造方法。
【請求項4】
負極溶融工程では、少なくともミッシュメタルを50%以上含むミッシュメタル溶湯内に、炭素除去工程で得られた回収負極を投入して加熱溶融することを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の水素吸蔵合金組成物の製造方法。
【請求項5】
少なくともミッシュメタルを50%以上含むミッシュメタル溶湯内に、炭素除去工程で得られた回収負極を投入する際、水素吸蔵合金の構成元素のうちの一種又は二種以上の組み合わせからなる部材を用いて複数の回収負極を束ねてミッシュメタル溶湯内に投入することを特徴とする請求項4に記載の水素吸蔵合金組成物の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5の何れかの製造方法で得られるニッケル水素電池負極活物質用母合金。
【請求項7】
請求項1〜5の何れかの製造方法で得られる、ニッケル水素電池の負極活物質としてそのまま使用することができる水素吸蔵合金組成物。

【公開番号】特開2010−108864(P2010−108864A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−281986(P2008−281986)
【出願日】平成20年10月31日(2008.10.31)
【出願人】(000006183)三井金属鉱業株式会社 (1,121)
【Fターム(参考)】