説明

水素吸蔵合金電極およびこの水素吸蔵合金電極を用いたアルカリ蓄電池

【課題】水素吸蔵合金粒子の表面層のニッケルの含有比率と、バルクのニッケルの含有比率との勾配を緩和して、高出力特性を有する水素吸蔵合金電極を提供する。
【解決手段】本発明の水素吸蔵合金電極11に用いられる水素吸蔵合金は、その結晶構造は少なくともA27構造とA519型構造とからなる混合相を有し、水素吸蔵合金粒子の表面層はバルクよりもニッケルの含有比率が多くなるように形成されているとともに、表面層のニッケルの含有比率X(質量%)とバルクのニッケルの含有比率Y(質量%)との比(X/Y)が1.0より大きく、かつ1.2以下(1.0<X/Y≦1.2)であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイブリッド車(HEV:Hybrid Electric Vehicle)や電気自動車(PEV:Pure Electric Vehicle)等の大電流放電を要する用途に適したアルカリ蓄電池に係り、特に、このような用途のアルカリ蓄電池に用いられる水素吸蔵合金電極、およびこのような水素吸蔵合金電極を用いたアルカリ蓄電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ハイブリッド車(HEV)や電気自動車(PEV)などの高出力が求められる機器の電源用としてアルカリ蓄電池、特に、ニッケル−水素蓄電池が用いられるようになった。一般的に、ニッケル−水素蓄電池の負極活物質に用いられる水素吸蔵合金は、LaNi5等のAB5型希土類水素吸蔵合金の一部をアルミニウム(Al)やマンガン(Mn)等の元素で置換したものが用いられている。これらのAB5型希土類水素吸蔵合金は、融点の低いアルミニウム(Al)やマンガン(Mn)等を含有しているため、結晶粒界や表面にアルミニウムリッチ相やマンガンリッチ相などの偏析相が生成し易いということが知られている。
【0003】
また、AB2型構造とAB5型構造の組合せで種々の結晶構造をとることが知られている。例えば、希土類−ニッケル系のAB5型構造にMgを含有させてAB2型構造とAB5型構造とが2層を周期として積み重なりあったA27型構造を有する水素吸蔵合金が特許文献1(特開2002−164045号公報)にて提案されるようになった。この特許文献1にて提案された水素吸蔵合金においては、水素の吸蔵−放出のサイクル寿命を向上させることが可能となる。しかしながら、特許文献1にて提案された構造の水素吸蔵合金では、高出力性能(アシスト出力)が不十分で高出力用途としては満足いく性能を有していないことが明らかになった。
【0004】
そこで、高出力化の手法として、AB5型構造の合金表面にニッケルに富む領域を設けて、表面活性度を向上させるようにした水素吸蔵合金が特許文献2(特許第3241047号公報)にて提案されるようになった。
【特許文献1】特開2002−164045号公報
【特許文献2】特許第3241047号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、上述した特許文献2で提案された水素吸蔵合金を用いて水素吸蔵合金電極を構成し、さらに、この水素吸蔵合金電極を用いてアルカリ蓄電池を構成した場合、十分な高出力性能を有していないことが明らかになった。これは、LaNi5等のAB5型構造の一部をアルミニウム(Al)やマンガン(Mn)等の元素で置換するようにした水素吸蔵合金を用いてアルカリ蓄電池を構成すると、電池組立後、充放電することにより、水素吸蔵合金粒子の表面層に存在する希土類元素やアルミニウムやマンガンなどが電解液中に溶解することとなる。
【0006】
これにより、水素吸蔵合金粒子の表面層の結晶構造に変化が生じ、表面層に存在するニッケル量の含有比率と、バルクに存在するニッケル量の含有比率に変化が生じて、ニッケル量の含有比率に勾配を生じるようになる。つまり、希土類元素やアルミニウムやマンガンなどの溶解成分の溶出により、表面層に存在するニッケル量の含有比率が相対的に大きくなり、バルクに存在するニッケル量の含有比率が相対的に小さくなる。これにより、水素吸蔵合金の表面層の結晶構造が変化して水素の拡散が阻害されるようになり、十分な高出力性能を発揮することができなくなる。
【0007】
そこで、本発明は上記した問題を解決するためになされたものであって、水素吸蔵合金粒子の表面層のニッケルの含有比率と、バルクに存在するニッケルの含有比率との勾配を緩和して、高出力特性を有する水素吸蔵合金電極を提供するとともに、このような高出力特性を有する水素吸蔵合金電極を用いたアルカリ蓄電池を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明の水素吸蔵合金電極に用いられる水素吸蔵合金は、その結晶構造は少なくともA27構造とA519型構造とからなる混合相を有し、水素吸蔵合金粒子の表面層はバルクよりもニッケルの含有比率が多くなるように形成されているとともに、表面層のニッケルの含有比率X(質量%)とバルクのニッケルの含有比率Y(質量%)との比(X/Y)が1.0より大きく、かつ1.2以下(1.0<X/Y≦1.2)であることを特徴とする。
【0009】
一般的に、アルカリ蓄電池を組立後、充放電することにより、水素吸蔵合金粒子の表面層の希土類元素、アルミニウム、マンガンなどの溶解成分がアルカリ電解液中に溶解し、表面層におけるニッケルの含有比率(質量比率)がバルクよりも相対的に増加する。この場合、A519型構造の水素吸蔵合金はAB2型構造とAB5型構造とが3層を周期として積み重なりあった結晶構造であり、AB5型構造より結晶格子のa軸、c軸が短くなっている。このため、格子体積が小さく、単位結晶格子あたりのニッケルの含有比率を増加させることが可能である。
【0010】
このようなニッケルの含有比率を増加させることが可能なA519型構造を水素吸蔵合金粒子のバルクに存在させることにより、従来のAB5型構造の水素吸蔵合金粒子とは異なり、水素吸蔵合金粒子の表面層でのニッケルの含有比率と、バルクでのニッケルの含有比率の勾配が緩和されるようになる。これにより、水素吸蔵合金粒子の表面層での結晶構造の変化(例えば、非晶質化)が抑制されるようになって、水素の拡散抵抗が低減されるようになる。この結果、高出力特性を有する水素吸蔵合金電極を得ることが可能となる。
【0011】
この場合、少なくともA27構造とA519型構造とからなる混合相を有する水素吸蔵合金は、一般式がLnl-xMgxNiy-a-bAlabで表され、LnはYを含む希土類元素から選択される少なくとも1種の元素、MはCo,Mn,Znから選択される少なくとも1種の元素であり、0.1≦x≦0.2、3.5≦y≦3.9、0.1≦a≦0.3、0≦b≦0.2であることが望ましい。これは、x>0.20の場合には、マグネシウムが偏析するようになり、a>0.30の場合には、アルミニウムが偏析するようになって、それぞれ耐食性の低下をもたらすからである。また、y<3.5の場合やy>3.9の場合は、A519型構造を構成することが困難なためである。
【0012】
ここで、A519型構造は少なくともCe5Co19型構造を有する結晶相から選択して用いるのが望ましい。なお、水素吸蔵合金粒子の表面層の範囲は、この粒子が電解液に接触する領域まであって、具体的には水素吸蔵合金の粒子表面から100nmの範囲である。そして、このような構成となる水素吸蔵合金電極を用いてアルカリ蓄電池を構成する場合、当該水素吸蔵合金電極と、水酸化ニッケルを主正極活物質とするニッケル正極と、これらの両極を隔離するセパレータと、アルカリ電解液とを外装缶内に備えるようにすればよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明においては、水素吸蔵合金粒子の表面層のニッケルの含有比率と、バルクに存在するニッケルの含有比率との勾配を緩和しているので、水素の拡散抵抗が低減されて、従来の範囲を遥かに超えた高出力特性(高アシスト出力)を有する水素吸蔵合金電極を得ることが可能になるとともに、高出力特性(高アシスト出力)のアルカリ蓄電池を構成することができるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
ついで、本発明の実施の形態を図1に基づいて詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものでなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することができる。なお、図1は本発明のアルカリ蓄電池を模式的に示す断面図である。
【0015】
1.水素吸蔵合金
La,Ce,Pr,Nd,Mg,Ni,Al,Co,Mn,Znなどの金属元素を所定のモル比となるように混合した後、これらの混合物をアルゴンガス雰囲気の高周波誘導炉に投入して溶解させた後、合金鋳塊になるように溶湯急冷して、水素吸蔵合金a〜eを作製した。この場合、組成式がLa0.8Ce0.1Pr0.05Nd0.05Ni4.2Al0.3(Co,Mn)0.5で表されるものを水素吸蔵合金aとした。
【0016】
同様に、組成式がLa0.2Pr0.3Nd0.3Mg0.2Ni3.1Al0.2で表されるものを水素吸蔵合金bとし、Nd0.9Mg0.1Ni3.2Al0.2Co0.1で表されるものを水素吸蔵合金cとし、La0.2Pr0.1Nd0.5Mg0.2Ni3.6Al0.3で表されるものを水素吸蔵合金dとし、La0.2Nd0.7Mg0.1Ni3.5Al0.1Zn0.2で表されるものを水素吸蔵合金eとした。
【0017】
ついで、得られた各水素吸蔵合金a〜eについて、DSC(示差走査熱量計)を用いて融点(Tm)を測定した。その後、これらの水素吸蔵合金a〜eの融点(Tm)よりも30℃だけ低い温度(Ta=Tm−30℃)で所定時間(この場合は10時間)の熱処理を行った。そして、熱処理後の各水素吸蔵合金a〜eの組成を高周波プラズマ分光法(ICP)によって分析し、その結果を示すと、下記の表1に示すような結果が得られた。
【0018】
この後、これらの各水素吸蔵合金a〜eの塊を粗粉砕した後、不活性ガス雰囲気中で平均粒径が25μmになるまで機械的に粉砕して、水素吸蔵合金粉末a〜eを作製した。ついで、Cu−Kα管をX線源とするX線回折測定装置を用いる粉末X線回折法で水素吸蔵合金粉末a〜eの結晶構造の同定を行った。この場合、スキャンスピード1°/min、管電圧40kV、管電流300mA、スキャンステップ1°、測定角度(2θ)20〜50°でX線回折測定を行った。得られたXRDプロファイルよりJCPDSカードチャートを用いて、各水素吸蔵合金a〜eの結晶構造を同定した。
【0019】
ここで、各結晶構造の構成比において、A519型構造はCe5Co19型構造とPr5Co19型構造とし、A27型構造はNd2Ni7型構造とCe2Ni7型構造とし、AB5型構造はLaNi5型構造として、JCPDSによる各構造の回折角の強度値と42〜44°の最強強度値との比各強度比を、得られたXRDプロファイルにあてはめて、各構造の構成比率を算出すると、下記の表1に示すような結果が得られた。
【表1】

【0020】
上記表1の結果から明らかなように、一般式がLnl-xMgxNiy-a-bAlabと表される水素吸蔵合金a〜eにおいて、0.1≦x≦0.2、3.5≦y≦3.9、0.1≦a≦0.3、0≦b≦0.2の条件を満たさないものの内、水素吸蔵合金aはAB5型構造からなり、水素吸蔵合金bはA27構造とAB5型構造とからなることが分かる。一方、0.1≦x≦0.2、3.5≦y≦3.9、0.1≦a≦0.3、0≦b≦0.2の条件を満たす水素吸蔵合金c,d,eは、少なくともA27構造とA519型構造とからなる混合相を有していることが分かる。
【0021】
2.水素吸蔵合金電極
まず、上述した水素吸蔵合金a〜eの塊を用い、これらを粗粉砕した後、不活性ガス雰囲気中で平均粒径が25μmになるまで機械的に粉砕した。この後、これらの各水素吸蔵合金粉末を当該合金質量に対して1.0×10-1質量%のリン酸水素2ナトリウムを添加した水溶液中に4日間浸漬させた。ついで、含水率が8%となるようにリン酸水素2ナトリウム水溶液を排水した後、これらの水素吸蔵合金粉末100質量部に対し、非水溶性結着剤としてのSBR(スチレンブタジエンラテックス)を0.5質量部と、適量の水(あるいは純水)を加え、混練して、各水素吸蔵合金スラリーを作製した。
【0022】
この後、ニッケルメッキを施したパンチングメタルからなる負極芯体を用意し、この負極芯体に、充填密度が5.0g/cm3となるように水素吸蔵合金スラリーをそれぞれ塗着し、乾燥させた後、所定の厚みになるように圧延した。この後、所定の寸法(この場合は、負極表面積(短軸長×長軸長×2)が800cm2)になるように切断して、水素吸蔵合金電極11(a1〜e1)とした。ここで、水素吸蔵合金aを用いたものを水素吸蔵合金電極a1とし、水素吸蔵合金bを用いたものを水素吸蔵合金電極b1とし、水素吸蔵合金cを用いたものを水素吸蔵合金電極c1とし、水素吸蔵合金dを用いたものを水素吸蔵合金電極d1とし、水素吸蔵合金eを用いたものを水素吸蔵合金電極e1とした。
【0023】
3.ニッケル電極
一方、多孔度が約85%の多孔性ニッケル焼結基板を比重が1.75の硝酸ニッケルと硝酸コバルトの混合水溶液に浸漬して、多孔性ニッケル焼結基板の細孔内にニッケル塩およびコバルト塩を保持させた。この後、この多孔性ニッケル焼結基板を25質量%の水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液中に浸漬して、ニッケル塩およびコバルト塩をそれぞれ水酸化ニッケルおよび水酸化コバルトに転換させた。
【0024】
ついで、充分に水洗してアルカリ溶液を除去した後、乾燥を行って、多孔性ニッケル焼結基板の細孔内に水酸化ニッケルを主成分とする活物質を充填した。このような活物質充填操作を所定回数(例えば6回)繰り返して、多孔性焼結基板の細孔内に水酸化ニッケルを主体とする活物質の充填密度が2.5g/cm3になるように充填した。この後、室温で乾燥させた後、所定の寸法に切断してニッケル電極12とた。
【0025】
4.ニッケル−水素蓄電池
この後、上述のようにして作製した水素吸蔵合金電極11とニッケル電極12とを用い、これらの間に、ポリプロピレン製不織布からなるセパレータ13を介在させて渦巻状に巻回して渦巻状電極群を作製した。なお、このようにして作製された渦巻状電極群の下部には水素吸蔵合金電極11の芯体露出部11cが露出しており、その上部にはニッケル電極12の芯体露出部12cが露出している。ついで、得られた渦巻状電極群の下端面に露出する芯体露出部11cに負極集電体14を溶接するとともに、渦巻状電極群の上端面に露出するニッケル電極12の芯体露出部12cの上に正極集電体15を溶接して、電極体とした。
【0026】
ついで、得られた電極体を鉄にニッケルメッキを施した有底筒状の外装缶(底面の外面は負極外部端子となる)17内に収納した後、負極集電体14を外装缶17の内底面に溶接した。一方、正極集電体15より延出する集電リード部15aを正極端子を兼ねるとともに外周部に絶縁ガスケット19が装着された封口体18の底部に溶接する。なお、封口体18には正極キャップ18aが設けられていて、この正極キャップ18a内に所定の圧力になると変形する弁体18bとスプリング18cよりなる圧力弁(図示せず)が配置されている。
【0027】
ついで、外装缶17の上部外周部に環状溝部17aを形成した後、電解液を注液し、外装缶17の上部に形成された環状溝部17aの上に封口体18の外周部に装着された絶縁ガスケット19を載置する。この後、外装缶17の開口端縁17bをかしめることにより、ニッケル−水素蓄電池10(A〜E)が作製される。この場合、外装缶17内に30質量%の水酸化カリウム(KOH)水溶液からなるアルカリ電解液を電池容量(Ah)当り2.5g(2.5g/Ah)となるように注入した。
ここで、水素吸蔵合金電極a1を用いたものを電池Aとし、水素吸蔵合金電極b1を用いたものを電池Bとし、水素吸蔵合金電極c1を用いたものを電池Cとし、水素吸蔵合金電極d1を用いたものを電池Dとし、水素吸蔵合金電極e1を用いたものを電池Eとした。
【0028】
5.電池試験
(1)水素吸蔵合金の断面解析
ついで、上述のようにして作製した電池A〜Eを用いて、25℃の温度雰囲で、1Itの充電々流でSOC(State Of Charge:充電深度)の120%まで充電し、1時間休止した。ついで、70℃の温度雰囲で24時間放置した後、45℃の温度雰囲で、1Itの放電々流で電池電圧が0.3Vになるまで放電させるサイクルを2サイクル繰り返して、これらの各電池A〜Eを活性化した。
【0029】
上記のようにして活性化した電池A〜Eを不活性ガス内で解体し、水素吸蔵合金電極a1〜e1から負極活物質を剥離させ、水洗後、減圧乾燥させて、水素吸蔵合金粉末を得た。ついで、水素吸蔵合金粉末をダミー基板間に分散させ、樹脂にて接着し、切断・研磨した。この後、水素吸蔵合金粉末の断面を透過型電子顕微鏡(日本電子社製JEM−2010F型電界放射型透過電子顕微鏡、加速電圧200kv)にて観察した。観察した結果、各水素吸蔵合金粉末の表面層の領域と、バルクの領域とは異なる形態(濃淡を示していた)を示していることが分かった。なお、表面層の領域は電解液に接触する領域であって、その幅を測定すると粒子表面から100nmの範囲であることが分かった。
【0030】
そこで、各水素吸蔵合金粉末の表面層の領域(X領域)とバルクの領域(Y領域)における組成をエネルギー分散型X線分光装置(ノーラン社製UTW型Si(Li)半導体検出器)により分析し、領域Xおよび領域Yにおけるニッケルの含有比率(質量%)を測定すると、下記の表2に示すような結果となった。なお、表2には電池D(水素吸蔵合金電極d1)の結果は示していない。
【表2】

【0031】
上記表2の結果から明らかなように、いずれの水素吸蔵合金粉末であっても、表面層の領域(X領域)はバルクの領域(Y領域)よりもニッケルの含有比率が大きいことが分かる。ただし、水素吸蔵合金粉末a、bはバルクの領域のニッケルの含有比率Y(質量%)に対する表面層の領域のニッケルの含有比率X(質量%)の比(X/Y)が1.4であるのに対して、A27構造およびA519型構造を含む水素吸蔵合金粉末c,eは、X/Yは1.2以下(1.0<X/Y≦1.2)で、水素吸蔵合金粉末a、bよりも小さいことが分かる。なお、1.0<X/Yであるのは、B成分に溶出成分を有する水素吸蔵合金は必ずY<Xの関係を有するためである。
【0032】
これは、一般的に、アルカリ蓄電池を活性化などにより充放電すると、水素吸蔵合金粉末の表面層に存在する溶出成分(希土類元素、Al、Mnなど)がアルカリ電解液中に溶出する。このため、溶出しないニッケルの含有比率が増大し、バルクと表面層とでのニッケルの含有比率の勾配が大きくなる。ところが、A519型構造は結晶格子当たりのニッケルの含有比率がAB5型構造より大きくすることが可能なため、A519型構造の構成比率を大きくし、バルクと表面層とのニッケルの含有比率の勾配を緩和させることが可能と考えられる。
【0033】
(2)出力特性試験
ついで、上述のようにして作製した後、活性化した各電池A〜Eを用いて低温(−10℃)での出力特性の評価(これは水素吸蔵合金の放電性への寄与は低温ほど大きいためである)を行った。この場合、以下のようにして充放電試験を行った。即ち、活性化終了後、25℃の温度雰囲で、1Itの充電電流でSOC(State Of Charge :充電深度)の50%まで充電した後、1時間休止した。ついで、−10℃の温度雰囲で、任意の充電レートで20秒間充電させた後、30分間休止させた。この後、−10℃の温度雰囲で、任意の放電レートで10秒間放電させた後、25℃の温度雰囲で30分間休止させた。
【0034】
このような−10℃の温度雰囲で、任意の充電レートでの20秒間充電、30分の休止、任意の放電レートで10秒間放電、25℃の温度雰囲での30分の休止を繰り返した。ここで、任意の充電レートは、0.8It→1.7It→2.5It→3.3It→4.2Itの順で充電電流を増加させるようにし、任意の放電レートは、1.7It→3.3It→5.0It→6.7It→8.3Itの順で放電電流を増加させるようにして行った。そして、各放電レートで10秒間経過時点での各電池A〜Eの電池電圧(V)を各電流毎にそれぞれ測定して、放電V−Iプロット近似曲線を求めた。
【0035】
ここで、放電性能の指標として、放電V−Iプロット近似直線の傾きであるアシスト出力抵抗の逆数とし、電池Cにおけるアシスト出力抵抗の逆数を100とし、アルカリ蓄電池A、B、D、Eをそれとの相対値で示すと、下記の表3に示すような結果が得られた。
【表3】

【0036】
上記表3の結果から明らかなように、少なくともA27構造およびA519型構造とからなる混合相を有する水素吸蔵合金c,d,eからなる水素吸蔵合金電極c1,d1,e1を備えた電池C,D,Eはアシスト出力抵抗の逆数が大きく、放電特性が優れていることが分かる。これは、ニッケルの含有比率を増加させることが可能なA519型構造を水素吸蔵合金粒子のバルクに存在させることにより、水素吸蔵合金粒子の表面層でのニッケルの含有比率と、バルクでのニッケルの含有比率の勾配が緩和されるようになる。これにより、水素吸蔵合金粒子の表面層での結晶構造の変化(例えば、非晶質化)が抑制されるようになって、水素の拡散抵抗が低減され、高出力特性が得られたものと考えられる。
【0037】
以上のことを総合的に勘案すると、一般式Lnl-xMgxNiy-a-bAlabで表される組成(ただし、LnはYを含む希土類元素から選択される少なくとも1種の元素で、MはCo,Mn,Znから選択される少なくとも1種の元素である)で、0.1≦x≦0.2、3.5≦y≦3.9、0.1≦a≦0.3、0≦b≦0.2の各条件を満たすとともに、バルクの領域のニッケルの含有比率Y(質量%)に対する表面層の領域のニッケルの含有比率X(質量%)の比(X/Y)が1.0<X/Y≦1.2の各条件を満たす水素吸蔵合金を負極活物質とする水素吸蔵合金電極を備えることが望ましいということができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明のアルカリ蓄電池を模式的に示す断面図である。
【符号の説明】
【0039】
11…水素吸蔵合金電極、11c…芯体露出部、12…ニッケル電極、12c…芯体露出部、13…セパレータ、14…負極集電体、15…正極集電体、16…正極用リード、17…外装缶、17a…環状溝部、17b…開口端縁、18…封口体、18a…封口板、18b…正極キャップ、18c…弁板、18d…スプリング、19a…絶縁ガスケット、19b…防振リング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも希土類元素とマグネシウムとアルミニウムとを含有する水素吸蔵合金を負極活物質として用いた水素吸蔵合金電極であって、
前記水素吸蔵合金の結晶構造は少なくともA27構造とA519型構造とからなる混合相を有し、
前記水素吸蔵合金粒子の表面層はバルクよりもニッケルの含有比率が多くなるように形成されているとともに、前記表面層のニッケルの含有比率X(質量%)とバルクのニッケルの含有比率Y(質量%)との比(X/Y)が1.0より大きく、かつ1.2以下(1.0<X/Y≦1.2)であることを特徴とする水素吸蔵合金電極。
【請求項2】
前記水素吸蔵合金は一般式がLnl-xMgxNiy-a-bAlab(式中、LnはYを含む希土類元素から選択される少なくとも1種の元素であり、MはCo,Mn,Znから選択される少なくとも1種の元素であり、0.1≦x≦0.2、3.5≦y≦3.9、0.1≦a≦0.3、0≦b≦0.2である)と表されることを特徴とする請求項1に記載の水素吸蔵合金電極。
【請求項3】
前記A519型構造は少なくともCe5Co19型構造を有する結晶相からなることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の水素吸蔵合金電極。
【請求項4】
前記表面層は電解液に接触する領域であって、当該水素吸蔵合金の粒子表面から100nmの範囲であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の水素吸蔵合金電極。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれかに記載の水素吸蔵合金電極と、水酸化ニッケルを主正極活物質とするニッケル正極と、これらの両極を隔離するセパレータと、アルカリ電解液とを外装缶内に備えたことを特徴とするアルカリ蓄電池。

【図1】
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【公開番号】特開2009−54514(P2009−54514A)
【公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−222307(P2007−222307)
【出願日】平成19年8月29日(2007.8.29)
【出願人】(000001889)三洋電機株式会社 (18,308)
【Fターム(参考)】