説明

水素吸蔵合金電極及びその製造方法

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、水素吸蔵合金を負極活物質とする、ニッケル・水素電池の水素吸蔵合金電極及びその製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】ニッケル・水素電池の水素吸蔵合金電極は、粉末状の水素吸蔵合金を、結着材を溶かした溶液と混合してスラリ化し、このスラリを電極基体である金属多孔体あるいは金属網等に充填した後、得られた電極を乾燥し、加圧成型して作製している。
【0003】水素吸蔵合金粉末は、水素吸蔵合金の水素の吸蔵,放出に伴う膨脹,収縮を利用して粉末状にする「水素化粉砕」と、ボールミル等の粉砕機を用いる「機械粉砕」の方法により作られる。
【0004】「水素化粉砕」は、水素雰囲気中でなされるため、高活性な水素吸蔵合金粉末が得られる。この高活性な状態を維持しながら電極を作製するには、水素雰囲気中あるいは高純度の不活性ガス雰囲気中で作業する必要があり、作業装置あるいは作業工程が大掛りで複雑なものとなってしまう。
【0005】また、「機械粉砕」も水素吸蔵合金粉末の活性を維持するため高純度アルゴン等の不活性ガス雰囲気中でなされる関係上、その後の工程も水素雰囲気中あるいは高純度の不活性ガス雰囲気中で作業する必要がある。
【0006】この問題を解決するために、例えば特開平4−79159号では、水素吸蔵合金粉末を微量の酸素を含む不活性ガスで処理し、水素吸蔵合金粉末の表面を非常に薄い酸化被膜で覆うことにより空気中での作業を可能にしている。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】しかし、特開平4−79159号の提案している処理は、空気中での作業を可能にするが、酸化被膜の形成による性能低下を生じるので、電池を組み上げた後充放電等による活性化処理が必要になってくる問題点がある。また、この処理を施した合金粉末を空気中で長時間さらすと酸化がさらに進み、電極性能が極端に低下する問題点がある。
【0008】そこで、上記の処理を施した水素吸蔵合金粉末を、セルロース系,PVA(ポリビニルアルコール)等の高分子材を結着材とし、この結着材を溶かした水溶液と混合してスラリ化し、電極基体に塗布あるいは充填した後に乾燥し、圧延機を用いて加圧圧縮して水素吸蔵合金電極を作製している。
【0009】この加圧圧縮時の応力により水素吸蔵合金粉末は、粉末自身がさらに細かく砕け、あるいは、砕けないまでもその表面に亀裂が生じる。この亀裂部分あるいは砕けた部分は、活性な新面となる。
【0010】加圧圧縮による活性化処理による効果を確認するために、微量の酸素を含むアルゴンガス中で処理した200 メッシュ以下のLaNi5 粉末を20日間空気中で保存し、その後に上記手順で作製した水素吸蔵合金電極と、充填後の乾燥処理までとした加圧圧縮処理のない水素吸蔵合金電極との活性化特性を測定した。
【0011】その結果を図2に示す。この活性化特性は、試料を圧力容器に入れ、真空ポンプで数分間脱ガスした後に3MPaの圧力で水素を圧力容器内に導入したときの水素吸蔵合金の水素吸蔵速度のことで、吸蔵速度が速いものほど活性であるといえる。
【0012】該図2から明らかなように、圧延機で加圧圧縮した水素吸蔵合金電極は数分で水素吸蔵するのに対し、加圧圧縮しない水素吸蔵合金電極は160 分経過しても水素を吸蔵しない。
【0013】このように、加圧圧縮時に生じる新面は活性であり、電極としての性能にも優れている。
【0014】しかしながら、この新面も空気中に保存すれば酸化され、保存期間が長期にわたればその効果がなくなる。そのため、加圧圧縮後は速やかに電槽に組み込むか、あるいは一定の期間放置するのであれば、その間は不活性ガス雰囲気中に保存する必要がある。
【0015】本発明の目的は、加圧圧縮後の酸化を防止し、空気中での水素吸蔵合金電極の取扱いを可能にし、さらには、電池としての活性化処理を施さなくても高性能な水素吸蔵合金電極及びその製造方法を得ることにある。
【0016】
【課題を解決するための手段】上記の目的を達成する本発明の手段を説明すると、次の通りである。
【0017】請求項1に記載の発明は、水素吸蔵合金電極本体の表面が、被覆材で被覆された水素吸蔵合金電極であって、前記被覆材は、前記水素吸蔵合金電極本体の表面の加圧圧縮に対する延性を有し、且つアルカリ電解液に溶解するものであることを特徴とする。
【0018】請求項2に記載の水素吸蔵合金電極の製造方法は、水素吸蔵合金粉末を、結着材を溶解した水溶液と混合してスラリ化し、そのスラリを電極基体に塗布または充填して水素吸蔵合金電極本体を得た後、該水素吸蔵合金電極本体の表面を、加圧圧縮に対する延性を有し且つアルカリ電解液に溶解する被覆材で被覆し、得られた水素吸蔵合金電極を加圧圧縮することを特徴とする
【0019】
【作用】請求項1のように、水素吸蔵合金電極本体の表面を延性を有する被覆材で被覆すると、加圧圧縮時に生じる新面が直接空気と接触しないため、該新面の酸化を防止できる。このため、空気中で作業を続けても、その活性は維持される。また、電池としての活性化処理を施さなくても高性能な水素吸蔵合金電極となる。
【0020】さらに、水素吸蔵合金電極本体の被覆材がアルカリ電解液に溶解する被覆材であると、電解液であるアルカリにより該被覆材が溶解し、該水素吸蔵合金電極本体の水素吸蔵合金が活性な新面のまま電解液にさらされるため、水素吸蔵合金本来の性能を発現できる高性能な水素吸蔵合金電極を得ることができる。
【0021】請求項2ように、水素吸蔵合金粉末を、結着材を溶解した水溶液と混合してスラリ化し、そのスラリを電極基体に塗布または充填して水素吸蔵合金電極本体を得た後、該水素吸蔵合金電極本体の表面を、加圧圧縮に対する延性を有し且つアルカリ電解液に溶解する被覆材で被覆し、得られた水素吸蔵合金電極を加圧圧縮することにより水素吸蔵合金電極の製造を行うと、加圧圧縮時に生じる新面が直接空気と接触しないため、該新面の酸化を防止でき、このため後続の作業を空気中で行っても、該新面の活性を維持することができ、作業性を改善できる。
【0022】
【実施例】以下、本発明に係る水素吸蔵合金電極及びその製造方法の一実施例を詳細に説明する。
【0023】本実施例では水素吸蔵合金としては、高周波溶解炉にて作製したMmNiMnCo(1:4.5 :0.2 :0.3 )を使用した。このMmNiMnCo(1:4.5 :0.2 :0.3 )をスタンプミルにて粗粉砕した後、水素化粉砕により200 メッシュ以下の粒径まで細かくした。
【0024】水素化粉砕の条件を次に示す。水素の吸蔵時には、圧力容器の周囲温度を0℃、水素の導入圧力を3MPaとし、水素の放出時には、圧力容器の周囲温度を80℃とし、真空ポンプにて減圧する。
【0025】以上の条件で、水素の吸蔵,放出を1サイクル行った後、純度95%のアルゴンガスを圧力容器に導入し、アルゴンガス中に含まれる不純物としての酸素によって、水素吸蔵合金粉末に微量の酸化被膜を形成させて、空気中の作業を可能とした。
【0026】上記の処理を施した水素吸蔵合金粉末を1wt%のヒドロキシルメチルセルロース水溶液と混合してスラリ化させ、電極基体としての発泡ニッケルに充填した後に60℃で乾燥して水素吸蔵合金電極本体を得た。
【0027】次に、3wt%KOH溶液中に、アルカリ可溶PVA(クラレ製R−2130)を全体重量に対して10wt%になるよう溶解した。この溶解を上記水素吸蔵合金電極本体に塗布し、100 ℃で乾燥して水素吸蔵合金電極本体の表面をアルカリに可溶な被覆材で被覆した水素吸蔵合金電極を得た。
【0028】該水素吸蔵合金電極を、次にロール径300 mmの圧延機にて加圧圧縮した。かくすると、水素吸蔵合金粉末は被覆材で覆われた状態でさらに細かく砕かれ、あるいは、砕かれないまでもその表面に亀裂を発生し、水素吸蔵合金粉末に活性な新面ができる。この新面は、被覆材の存在により酸化されずに、その状態が維持される。
【0029】図1は、上記の方法で製造した水素吸蔵合金電極のプレス後の保存期間に対する利用率変化を示す。該図から明らかなように、本発明による水素吸蔵合金電極(本発明品)の利用率は、空気中に60日間(1440時間)保存しても利用率の低下はほとんど生じない。これに対し、被覆材で被覆されない水素吸蔵合金電極(従来品)の利用率は、保存期間の経過につれて低下した。
【0030】本発明は上記の水素吸蔵合金に拘らず、機械粉砕が可能なものであれば適用することができる。
【0031】被覆する材料は、加圧圧縮時の変形程度の変位に追随する延性を有しているものであれば構わない。
【0032】被覆材を取り除く手段は、電池内の電解液に溶解するだけでなく、電槽に組み込む前に処理し、速やかに電槽に組み込めば十分にその効果が現れる。
【0033】
【発明の効果】以上説明したように本発明に係る水素吸蔵合金電極及びその製造方法によれば、下記のような効果を得ることができる。
【0034】請求項1に記載の水素吸蔵合金電極は、水素吸蔵合金電極本体の表面を延性を有する被覆材で被覆しているので、加圧圧縮時に生じる新面が直接空気と接触しないため、該新面の酸化を防止することができる。このため、空気中で作業を続けても、その活性を維持することができる。また、電池としての活性化処理を施さなくても、高性能な水素吸蔵合金電極とすることができる。
【0035】さらに、水素吸蔵合金電極本体の被覆材をアルカリ電解液に溶解する被覆材としているので、電解液であるアルカリにより該被覆材が溶解し、該水素吸蔵合金電極本体の水素吸蔵合金が活性な新面のまま電解液にさらされることになり、このため水素吸蔵合金本来の性能を発現できる高性能な水素吸蔵合金電極を得ることができる。
【0036】請求項2に記載の水素吸蔵合金電極の製造方法では、水素吸蔵合金粉末を、結着材を溶解した水溶液と混合してスラリ化し、そのスラリを電極基体に塗布または充填して水素吸蔵合金電極本体を得た後、該水素吸蔵合金電極本体の表面を、加圧圧縮に対する延性を有し且つアルカリ電解液に溶解する被覆材で被覆し、得られた水素吸蔵合金電極を加圧圧縮することにより水素吸蔵合金電極の製造を行うので、加圧圧縮時に生じる新面が直接空気と接触しなくなり、このため該新面の酸化を防止でき、従って後続の作業を空気中で行っても、該新面の活性を維持することができ、作業性を改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る被覆付きの水素吸蔵合金電極(本発明品)と被覆なしの水素吸蔵合金電極(従来品)のプレス後の保存期間に対する利用率変化を示した比較図である。
【図2】加圧圧縮した水素吸蔵合金電極と加圧圧縮してない水素吸蔵合金電極との活性化特性の変化を示した比較図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 水素吸蔵合金電極本体の表面が、被覆材で被覆された水素吸蔵合金電極であって、前記被覆材は、前記水素吸蔵合金電極本体の表面の加圧圧縮に対する延性を有し、且つアルカリ電解液に溶解するものであることを特徴とする水素吸蔵合金電極。
【請求項2】 水素吸蔵合金粉末を、結着材を溶解した水溶液と混合してスラリ化し、そのスラリを電極基体に塗布または充填して水素吸蔵合金電極本体を得た後、該水素吸蔵合金電極本体の表面を、加圧圧縮に対する延性を有し且つアルカリ電解液に溶解する被覆材で被覆し、得られた水素吸蔵合金電極を加圧圧縮することを特徴とする水素吸蔵合金電極の製造方法

【図1】
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【図2】
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【特許番号】特許第3235228号(P3235228)
【登録日】平成13年9月28日(2001.9.28)
【発行日】平成13年12月4日(2001.12.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平4−316935
【出願日】平成4年11月26日(1992.11.26)
【公開番号】特開平6−163043
【公開日】平成6年6月10日(1994.6.10)
【審査請求日】平成10年5月25日(1998.5.25)
【出願人】(000001203)新神戸電機株式会社 (518)
【参考文献】
【文献】特開 昭62−264556(JP,A)