説明

水素吸蔵性合金と樹脂の組成物

【課題】水素吸蔵合金の粉末の組成割合が高い領域においても高い水素貯蔵量を損なうことなく、水素貯蔵容器の壁にかかる応力ひずみを十分に抑制させる特性を持つ樹脂と水素吸蔵合金の粉末を含む樹脂組成物を提供する。
【解決手段】樹脂(A)と水素吸蔵合金の粉末(B)を含む樹脂組成物(C)において、(B)の体積(V2)と容器(D)の内容積(V1)の比率(V2)/(V1)が40〜80Vol%となるように(C)を(D)に充填させて得られる水素貯蔵容器(E)に水素ガスを吸収−放出させた時、(E)の壁面にかかる応力αが1000×10−6以下であることを特徴とする樹脂組成物(C)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は主に水素燃料電池に用いられる、水素吸蔵合金粉末と樹脂を含む樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
水素は化石燃料に代わる新たなエネルギー源として注目されつつあり、そのための水素ガス貯蔵方法に関する研究開発も盛んに進められている。大量の水素ガスを効率よく貯蔵する手法として、水素ガスを繰り返し吸収−放出できる合金(水素吸蔵合金)を利用する方法が挙げられる。この合金を用いると比較的低い圧力下でも大量の水素ガスを吸収−放出することができるため、水素ガスを直接容器に貯蔵する方法に比べて利便性が大きい。しかし水素吸蔵合金は水素ガスの吸収−放出に伴って最大30%膨張、収縮するため、その際に水素貯蔵容器(E)の壁に応力ひずみがかかり、容器の耐久性に悪影響を及ぼす。その対策として水素吸蔵合金を弾力性のあるゴム性の樹脂と複合化させて水素ガスの吸収−放出時に生じる応力ひずみを緩和させる手法が提案されてきた。例えば特許文献1、特許文献2では水素吸蔵合金をシリコーンゴムと混合することで応力緩和する方法を開示しているが、該合金の組成割合の高い領域での応力緩和効果は実用レベルに達していない。
【0003】
【特許文献1】特開2005−262065号公報
【特許文献2】特開2001−200159号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
水素吸蔵合金の粉末の組成割合が高い領域においても高い水素貯蔵量を損なうことなく、水素貯蔵容器の壁にかかる応力ひずみを十分に抑制させる特性を持つ、樹脂と水素吸蔵合金の粉末を含む樹脂組成物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は前記課題を解決するために水素吸蔵合金の粉末と樹脂の樹脂組成物について鋭意検討した結果、25℃における1/4ちょう度が10〜200のゲル状樹脂と水素吸蔵性合金の粉末を含有する樹脂組成物が合金組成割合の高い領域においても水素貯蔵性を損なうことなく、十分に応力緩和効果を発揮することを見出し本発明に至った。
即ち、本発明は、
1.樹脂(A)と水素吸蔵合金の粉末(B)を含む樹脂組成物(C)において、(B)の体積(V2)と容器(D)の内容積(V1)の比率(V2)/(V1)が40〜80Vol%となるように樹脂組成物(C)を容器(D)に充填させて得られる水素貯蔵容器(E)に水素ガスを吸収−放出させた時、水素貯蔵容器(E)の壁面にかかる応力αが1000×10−6以下であることを特徴とする樹脂組成物(C)。
2.上記比率(V2)/(V1)が50〜70Vol%であることを特徴とする上記1に記載の樹脂組成物(C)。
【0006】
3.水素ガスの吸収−放出を50回繰り返したとき(50サイクル目)に水素貯蔵容器(E)の壁にかかる応力ひずみ(α[50])と200サイクル目の応力ひずみ(α[200])の比(α[200])/(α[50])が1.4以下であることを特徴とする、上記1または2に記載の樹脂組成物(C)。
4.上記樹脂(A)が25℃における1/4ちょう度が10〜200のゲル状樹脂であることを特徴とする上記1〜3のいずれかに記載の樹脂組成物(C)。
5.上記ゲル状樹脂がシリコーンゲルであることを特徴とする上記1〜4のいずれかに記載の樹脂組成物(C)。
6.上記1〜5のいずれかに記載の樹脂組成物(C)の成形体。
7.上記1〜5に記載の樹脂組成物と容器(D)から構成される水素貯蔵容器(E)。
8.上記6に記載の成形体と容器(D)から構成される水素貯蔵容器(E)。
【発明の効果】
【0007】
本発明は、合金本来の水素貯蔵性を損なうことなく、水素ガスの吸収−放出時に生じる合金の応力を十分に緩和する能力を有する水素吸蔵合金の粉末と樹脂の樹脂組成物を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明について、以下、具体的に説明する。
本発明は、樹脂(A)(以下、単に(A)ということがある。)と水素吸蔵合金の粉末(B)(以下、単に(B)ということがある。)を含有する樹脂組成物(C)である。
樹脂(A)としては、熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂のいずれを用いることも可能であるが、低粘度の液状態で(B)と容易に混合でき、加熱することで機械特性に優れた硬化物を形成できるといった加工性の良さを有する熱硬化性樹脂をより好ましく用いることができる。
熱可塑性樹脂では二重結合または三重結合等の不飽和基を有するモノマーの重合体、および共重合体を用いることができる。
【0009】
モノマーとしてはエチレン、プロピレン、ブタジエン、イソプレン、スチレン、α−メチルスチレン、メタクリル酸、アクリル酸、メタクリル酸エステル、アクリル酸エステル、塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ素化エチレン、アクリロニトリル、無水マレイン酸、酢酸ビニルを挙げることができる。これら以外の熱可塑性樹脂としては、ポリフェニレンエーテル、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリアセタール、ポリフェニレンスルフィド、ポリエチレングリコール、ポリエーテルイミド、ポリケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルサルフォン、ポリアリレート等を例として挙げることができる。
【0010】
熱硬化性樹脂としては、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、シアネートエステル樹脂、ポリイミド、ポリウレタン、ビスマレイミド樹脂、アルキド樹脂、不飽和ポリエステル、シリコーン樹脂、ベンゾシクロブテン樹脂等を例として挙げることができ、中でもシリコーン樹脂は炭化水素の不純物組成が低く、吸蔵した水素ガスを汚染しないことから好ましく用いられる。
シリコーン樹脂は液状のオルガノポリシロキサンであり、一般には式(RR’SiO)n(R、R’は有機置換基、nは自然数)で表されるものが使用される。R,R’の具体例としてはメチル基、エチル基等のアルキル基、フェニル基、フルオロアルキル基のいずれかを用いることができ、分子鎖末端には水酸基、アルコキシ基、ビニル基等の官能基を有してもよい。
【0011】
熱硬化性樹脂としては、室温以下にガラス転移点を有するゴム状樹脂とゲル状樹脂が水素吸蔵合金の粉末(B)の膨張時の応力緩和効果が大きいことから好ましく、そのうちゲル状樹脂の方が水素貯蔵容器の壁にかかる応力ひずみの緩和性能に特に優れることからより好ましく用いることができる。ゴム状樹脂の硬度は比較的高い硬度の測定に用いられるデューロメーターAで測定される。一方、ゲル状樹脂はゴム状樹脂に比べてはるかに柔らかいため、その硬度をデューロメーターAによって測定し定量化することは不可能であり、グリース等の柔らかい物質の硬度測定に使われるちょう度計を用いて測定、定量化することができる。ちょう度の測定はJIS K2220に定められた方法に従い、本発明に用いられるゲル状樹脂は25℃における1/4ちょう度が10〜200であることが好ましく、より好ましくは30〜150、特に好ましくは40〜80である。25℃における1/4ちょう度が10以上では(B)の膨張、収縮時に生じる応力は十分に緩和されるために好ましく、200以下では組成物の密度均一性が長期間保てるため好ましい。
ゲル状樹脂は、シリコーン、アクリルモノマーやポリマー、ウレタン、エポキシ樹脂をはじめとする架橋性のモノマーやポリマーをゲル化させて得ることができる。
【0012】
本発明の樹脂組成物(C)における樹脂(A)の組成割合は、0.1〜50重量%であることが好ましく、より好ましくは0.1〜10重量%で、特に好ましくは1〜5重量%である。0.1重量%以上では(B)の膨張、収縮に伴う応力を十分に緩和することができ、50重量%以下では(B)を50重量%以上配合することができるため、水素貯蔵容器(E)への水素ガス貯蔵量を多くすることができる。
水素吸蔵合金の粉末(B)は、可逆的に大量の水素ガスを吸収−放出することができる水素吸蔵合金の塊を粉砕したものである。(B)の化学構造は特に限定されるものではないが、AB、AB、AB、AB構造やBCC構造の合金を用いることができる。AB合金のA成分は、La単独、または一種以上の希土類元素とLaとの混合物である。具体的には、LaまたはLaの一部をCe、Pr、Nd又はその他の希土類元素で置換したミッシュメタル(Mm)が挙げられる。一方B成分の元素としては、Ni、Mn、Co、Alなどが挙げられる。AB合金のA成分は、Ti、Zrが挙げられ、B成分はMn、Cr、V、Feなどから選ばれる。なお、AB合金のA:B比は、1:2に限らず、1:1〜1:2の広い範囲から選択される。AB合金はTiFeあるいはTiCoを代表組成とし、B成分は多種の元素で部分置換可能である。AB合金はMgNiを代表組成とした合金である。BCC合金はTi、Cr、V、Moなどからなる体心立方型結晶構造を有する合金である。水素吸蔵合金の粉末(B)の平均粒径は1μm〜1mmのものを使用することができ、その好ましい範囲は10μm〜500μmである。1μm以上では取り扱い性が良く、樹脂組成物(C)における分散性の観点から1mm以下が好ましい。
【0013】
樹脂組成物(C)を製造する方法としては、樹脂(A)と水素吸蔵合金の粉末(B)を直接混合する方法や、(2)樹脂(A)の原料と水素吸蔵合金の粉末(B)を混合させた後、(A)の原料をゲル化させる方法等が挙げることができるが、組成物の均一性や高密度化の観点から(2)の方法が好ましい。
樹脂組成物(C)を上記(2)で製造する場合、(A)の原料は1液混合硬化性、2液混合硬化性のいずれでも良いが、取り扱い容易性の観点から2液混合硬化性が好ましい。(A)の原料は付加反応型、縮合反応型のいずれを用いても良いが、長期信頼性の観点から付加反応型が好ましい。
樹脂組成物(C)には、水素ガスの吸収−放出速度を上げることを目的として、熱伝導性の高いフィラーを0〜20重量%添加する事ができ、具体的には炭素繊維が好ましい。
樹脂組成物(C)は、ゲル状樹脂(A)と水素吸蔵合金(B)が均一に混合されていれば形状は限定されないが、シート、フィルムを始めとする任意の形態の成形体に加工することができる。加工法としては、射出成形、Tダイ成形、押出し成形、カレンダー成形、トランスファー成形、圧縮成形、ゴムラバー成形が挙げられる。
【0014】
容器(D)の材質は金属、無機材料、有機材料、有機−無機樹脂組成物のいずれでもよいが、中でも機械的強度、水素バリアー性、重量軽減の観点からアルミニウムが好ましい。有機材料では加工性や経済性の観点から樹脂材料が好ましく用いられ、具体的にはポリアミド、ポリフェニレンスルフィド、ポリオキシメチレン等の熱可組成樹脂やエポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂が用いられる。さらに、上記樹脂に水素バリアー性や機械強度を付与することを目的として、無機化合物や炭素繊維を複合化させることもできる。
(D)の形状は、立法体、円柱、球、楕円球、ボトル形状など、その用途に応じて任意に選択することができる。
本発明の容器(D)には樹脂組成物(C)を充填することにより水素貯蔵容器(E)を構成し、水素ガスを簡便に貯蔵、運搬し、必要に応じて水素ガスを取り出すことができる。
本発明の樹脂組成物(C)を容器(D)に充填したときの(D)の内容積(V1)に対する水素貯蔵合金の粉末(B)の占める容積(V2)の比率(V2)/(V1)が40〜80Vol%であり、より好ましくは50〜70Vol%、特に好ましくは50〜60Vol%である。40Vol%以上では水素ガスの貯蔵量が多く、80Vol%以下では(E)の壁面にかかる応力ひずみが低くなる。
【0015】
本発明の水素貯蔵容器(E)は上記、樹脂組成物(C)の容器に対する充填量において水素ガスの吸収−放出時に(E)の壁面にかかる応力αは耐久性の観点から1000×10−6以下であることが必要であり、好ましくは800×10−6以下、より好ましくは500×10−6以下である。
容器(D)に充填する樹脂組成物(C)は予め成形された状態でも良い。樹脂組成物(C)の樹脂成分が熱硬化性樹脂の場合は硬化させる前の流動性を有する状態で容器(D)に直接充填する方法や、硬化させて一定の形状を保持した状態で充填する方法のいずれかを選択することができる。
【0016】
本発明の水素貯蔵容器(E)は水素ガスの吸収−放出を繰り返して行うことができるが、吸収−放出の繰り返し回数(以後、サイクル数と呼ぶ)の増加に伴い、水素貯蔵容器(E)の壁にかかる応力ひずみは増加しないか、増加分が少ないことが望ましい。具体的には水素ガスの吸収−放出を50回繰り返したとき(50サイクル目)の水素貯蔵容器(E)の壁にかかる応力ひずみ(α[50])と200サイクル目の応力ひずみ(α[200])の比(α[200])/(α[50])が1.4以下であることが好ましく、より好ましくは1.3以下、特に好ましくは1.2以下、最も好ましい範囲は1.1以下である。1.4以下では水素貯蔵容器(E)の耐久性の観点から好ましい。
樹脂組成物(C)は水素ガス貯蔵用容器の他にも、例えばNi−水素電池の電極に用いることができる。
水素貯蔵容器(E)は燃料電池の水素源として好ましく用いられ、燃料電池で駆動する自動車、自動二輪車、パソコン、デジタルカメラ、携帯電話に好ましく用いられる。
【実施例】
【0017】
〔1/4ちょう度〕
JIS K2220の1/4ちょう度試験方法に準拠して、25℃で、1/4ちょう度計に取り付けた円すいを、つぼに満たした試料に落下させ、5秒間進入した深さを読み取り、求める。(図1参照)
〔使用した原料〕
・ゲル状物質の原料
(A−1):WACKER SilGel612 のA液及びB液(旭化成ワッカーシリコーン株式会社製)。2液付加硬化型シリコーン。A液とB液の液粘度をB型回転粘度計で測定した結果、両方ともに25℃で1,000mPasで、A液とB液を重量比1:1で混合した液体の粘度は25℃で1,000mPasであった。
この混合した液体を25℃で12時間放置して、得られたゲル状樹脂の25℃における1/4ちょう度は85であった。
・ゴム状樹脂の原料
(A−2):ELASTOSIL M4648 のA液及びB液(旭化成ワッカーシリコーン株式会社製)。2液付加硬化型シリコーン。A液とB液の液粘度をB型回転粘度計で測定した結果、25℃でA液は20,000mPas、B液は700mPasで、A液とB液を重量比10:1で混合した液体の粘度は25℃で15,000mPasであった。
この混合した液体を25℃で12時間放置して、得られた樹脂の25℃における1/4ちょう度は0で、硬度(shoreA)は36であった。
【0018】
・水素吸蔵合金
(B−1):AB合金粉末で化学構造はMmNi4.4Mn0.1Co0.5(MmはミッシュメタルでLa、又はLaの一部をCe、Pr、Ndで置換したものから構成される)、粒径は30〜400mesh。
〔試験容器〕
・試験容器1(図2参照)
アルミニウム合金製角型容器(内寸8.8mm×8.4mm×49mm、肉厚1.8mm、設計圧力6MPaG)
容器表面にはひずみゲージ(共和電業KFGシリーズ)を図2のように貼り付けている。
・試験容器2(図3参照)
SPCE製円筒型容器(外径18.6mm×長さ64.5mm、肉厚0.9mm、設計圧力12MPaG)
容器表面にはひずみゲージ(共和電業KFGシリーズ)を図3のように貼り付けている。
【0019】
〔樹脂組成物の活性化処理方法〕
(i)樹脂組成物(c)を秤量して試験容器1(図2)あるいは試験2容器(図3)に充填し、水素導入管付きの蓋で容器を密閉する。
(ii)密閉容器を恒温槽で80℃に加温し、真空ポンプで容器内を真空とした状態を5時間以上維持する。
(iii)容器に水素ガスを1MPaGで導入し、次いで水槽で20℃まで冷却する。
(iv)容器の水素ガス圧を常圧に戻す。
【0020】
〔水素吸収−放出時に水素貯蔵容器の壁にかかる応力ひずみ測定〕
(1)上記(ii)〜(iv)の方法で脱Oして活性化処理を施した後、20℃で容器内の水素ガス圧を1MPaGに加圧して常圧に戻す操作を5回繰り返した後、下記(2)〜(5)の振動試験を実施する。
(2)容器を立てた状態で振動試験機に設置し、振動数をピーク加速度1Gで7Hzから18Hzまで対数増加させる。
(3)振幅0.8mm(全偏移1.6mm)、ピーク加速度8Gとして振動数を50Hz、さらに200Hzまで対数増加させる。
(4)振動数を減少させる。操作は、始めピーク加速度8Gで200Hzから50Hzに対数減少させ、次いで、ピーク加速度1Gで対数減少させる。
(5)上記(1)〜(4)の過程は15分かかるが、これを12回繰り返す。
(6)振動試験後、200サイクルに達するまで上記(ii)〜(iv)の方法で20℃水槽内で1MPaG水素吸収、常圧放出を繰り返し、容器側面のひずみ変化((L−L0)/L0 但し、L0:膨張前寸法、L:膨張後寸法)を記録した。
【0021】
[実施例1、2]
(A−1)のA液を2.50g、B液を2.50g秤量し、両者を良く混合した後、ここに(B−1)95.0gを徐々に添加しながら、良く攪拌混合し、(A−1)と(B−1)を含む樹脂組成物を得た。この樹脂組成物における(B−1)の組成は樹脂組成物全量100重量部に対して95.0重量部である。この樹脂組成物を、重さ5kgの鉄棒で平面状に押しならし、厚み2mmのシート形状に整えたものを、25℃、12時間放置させることで、ゲル状樹脂と(B−1)を含む厚み2mmのシート状樹脂組成物を作成した。このシート状樹脂組成物の一部を切り取り、図2に示す試験容器1に充填し、詰め込むシート量を変えることで、(V2/V1)を調整し、(V2/V1)を変えたときの水素貯蔵容器の壁にかかる応力ひずみの測定結果を表1に示す。
【0022】
[実施例3]
(A−1)のA液を1.75g、B液を1.75g、(B−1)を96.5gとした他は実施例1と同様に行った。(B−1)の組成は樹脂組成物全量100重量部に対して96.5重量部である。水素貯蔵容器の壁にかかる応力ひずみの測定結果を表1に示す。
[実施例4]
(A−1)のA液を1.75g、B液を1.75g秤量し、両者を良く混合した後、ここに(B−1)96.5gを徐々に添加しながら、良く攪拌混合し、(A−1)と(B−1)を含む樹脂組成物を得た。この樹脂組成物における(B−1)の組成は樹脂組成物全量100重量部に対して96.5重量部である。樹脂が完全にゲル化する前に得られた樹脂組成物を試験容器2に充填する。(V2)/(V1)は55.0%であった。水素貯蔵容器の壁にかかる応力ひずみの測定結果を表1に示す。
【0023】
[比較例1、2]
(A−1)のA液とB液の代わりに、(A−2)のA液を4.55g、B液を0.45g用いた他は実施例1と同様に行った。水素貯蔵容器の壁にかかる応力ひずみの測定結果を表1に示す。
[比較例3]
(A−2)のA液を6.57g、B液を0.73g、(B−1)を92.7gとした他は比較例1と同様に行った。(B−1)は樹脂組成物全量100重量部に対して92.7重量部である。水素貯蔵容器の壁にかかる応力ひずみの測定結果を表1に示す。
【0024】
[比較例4]
樹脂成分は一切使用せず、合金粒子(B−1)だけを容器1に充填した。(V2)/(V1)は37.0%であった。水素貯蔵容器の壁にかかる応力ひずみの測定結果を表1に示す。
[比較例5]
樹脂成分は一切使用せず、合金粒子(B−1)だけを試験容器2に充填した。(V2)/(V1)は50.0%であった。水素貯蔵容器の壁にかかる応力ひずみの測定結果を表1に示す。
【0025】
【表1】

【0026】
実施例1〜5の結果から、組成物に占める合金組成が高い領域においてもゲル状樹脂を用いると水素貯蔵容器の壁にかかる応力ひずみは1000×10−6以下の低い領域で安定して推移している。一方、比較例1〜3のゴム状樹脂を使用した場合は、水素吸収−放出の繰り返し回数に伴う水素貯蔵容器の壁にかかる応力ひずみが著しく増大しており、樹脂分の応力緩和効果が低下していくことがわかった。比較例4、5は樹脂成分を全く使用しない場合であるが、容器への合金充填量が実施例に比べて低いにも関らず、水素ガスの吸収−放出に伴う水素貯蔵容器の壁にかかる応力ひずみが極めて高いことが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】25℃における1/4ちょう度の測定を示す概略図である。
【図2】試験容器1を用いてひずみ測定を示す概略図である。
【図3】試験容器2を用いてひずみ測定を示す概略図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂(A)と水素吸蔵合金の粉末(B)を含む樹脂組成物(C)において、(B)の体積(V2)と容器(D)の内容積(V1)の比率(V2)/(V1)が40〜80Vol%となるように樹脂組成物(C)を容器(D)に充填させて得られる水素貯蔵容器(E)に水素ガスを吸収−放出させた時、水素貯蔵容器(E)の壁面にかかる応力αが1000×10−6以下であることを特徴とする樹脂組成物(C)。
【請求項2】
上記比率(V2)/(V1)が50〜70Vol%であることを特徴とする請求項1に記載の樹脂組成物(C)。
【請求項3】
水素ガスの吸収−放出を50回繰り返したとき(50サイクル目)に水素貯蔵容器(E)の壁にかかる応力ひずみ(α[50])と200サイクル目の応力ひずみ(α[200])の比(α[200])/(α[50])が1.4以下であることを特徴とする、請求項1または2に記載の樹脂組成物(C)。
【請求項4】
上記樹脂(A)が25℃における1/4ちょう度が10〜200のゲル状樹脂であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の樹脂組成物(C)。
【請求項5】
上記ゲル状樹脂がシリコーンゲルであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の樹脂組成物(C)。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の樹脂組成物(C)の成形体。
【請求項7】
請求項1〜5に記載の樹脂組成物と容器(D)から構成される水素貯蔵容器(E)。
【請求項8】
請求項6に記載の成形体と容器(D)から構成される水素貯蔵容器(E)。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−214610(P2008−214610A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−13292(P2008−13292)
【出願日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【出願人】(000004215)株式会社日本製鋼所 (840)
【Fターム(参考)】