水素吸蔵方法及び水素吸蔵材料
【課題】体積又は質量当たりに吸蔵できる水素密度が高く、貯蔵・輸送上の取扱が容易な水素吸蔵技術を提供する。
【解決手段】水素吸蔵方法は、炭素材料に炭化を施す工程(S1)と、この炭素材料にアルカリ賦活を施す工程(S2)と、アルカリ賦活工程により作製された多孔質炭素を容器内に収容する工程(S3)と、容器内部を77K〜150Kの範囲内の温度に保持しながら、平衡状態圧力が0.5MPa〜20MPaになるように水素を該容器内部に導入する工程(S4)と、を含む。炭化及び賦活調整された多孔質炭素として、複数のミクロ孔と複数のメゾ孔とを含み、多孔質炭素の全体の比表面積が700m2/g〜3800m2/gであり、かつ、該メゾ孔は、2nm〜10nmの範囲の孔径を有する多孔質炭素を使用することを特徴とする。
【解決手段】水素吸蔵方法は、炭素材料に炭化を施す工程(S1)と、この炭素材料にアルカリ賦活を施す工程(S2)と、アルカリ賦活工程により作製された多孔質炭素を容器内に収容する工程(S3)と、容器内部を77K〜150Kの範囲内の温度に保持しながら、平衡状態圧力が0.5MPa〜20MPaになるように水素を該容器内部に導入する工程(S4)と、を含む。炭化及び賦活調整された多孔質炭素として、複数のミクロ孔と複数のメゾ孔とを含み、多孔質炭素の全体の比表面積が700m2/g〜3800m2/gであり、かつ、該メゾ孔は、2nm〜10nmの範囲の孔径を有する多孔質炭素を使用することを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素材料を用いた水素吸蔵方法及び水素吸蔵材料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
昨今、石油資源の枯渇化と化石燃料による環境問題が懸念され、石油に代替する新たなエネルギー源の開発が喫緊の課題となっている。このエネルギー源の代替候補として、水素が注目されている。水素は燃焼生成物が水であるため、環境破壊の心配が無いクリーンなエネルギーである。
【0003】
この水素エネルギーを実際に利用していくには、水素を有効に吸蔵、貯蔵、運搬する技術の確立が必要不可欠となる。現在、水素を輸送、貯蔵する技術としては、高圧ガス、液化水素、水素貯蔵合金、水素吸蔵材料などが提案されている(非特許文献1)。
【0004】
このうち特に、水素吸蔵材料を用いた技術は、水素の放出が常温で可能であるのでシステムが簡素である上、一般に水素放出時に熱を必要とせずエネルギー効率が高いなどの特徴があるため、有望視され、その材料の開発が盛んになされている。現在までに、カーボンナノチューブやカーボンナノファイバーなどの細孔炭素系材料が高い吸蔵量を示すとの報告(非特許文献2)があるが、再現性が疑問視されており、十分な再現性を持ちながら高い吸蔵性能を持つ水素吸蔵材料あるいは水素凝集材料の開発は未だ実現したとは言えない状況である。
【0005】
また、有機物を焼成して得られる炭素質を、水蒸気や二酸化炭素と反応させ、その細孔構造を発達させた多孔質炭素も水素吸蔵媒体として報告されている(非特許文献3〜5)。これらの従来の報告によれば、高い水素吸蔵能にはミクロポーラスな多孔質炭素の持つ高い比表面積が必要であり、水素吸蔵量を増大させるにはミクロ孔が必要であることを示している。特に、非特許文献4では、約0.6nmの細孔が常温において水素吸蔵に適していると報告されている。
【0006】
また、本発明者らは、この水素吸蔵材料を用いた技術について研究を重ね、例えば、特許文献1において、多孔質炭素内に配置された水素の周囲温度が水素液化温度(20.3K)より高くかつ気化状態と通常みなされる温度範囲であっても、水素液化温度に近い所定の温度域(77〜150K)では、水素は液化水素が行う凝縮と同様な吸蔵挙動を示すことを利用した水素吸蔵方法や水素吸蔵装置を提案し、1.6〜4.0wt.%程度の水素吸蔵量を達成可能であることを報告している。なお、この特許文献1に開示の水素吸蔵用炭素材料には、多数のミクロ孔によって形成された多孔質体(全比表面積に占めるミクロ孔による比表面積の割合が非常に高い多孔質体)を採用している。
【0007】
しかしながら、水素吸蔵技術の高性能化への市場の要求は益々高まっており、特許文献1に開示の水素吸蔵技術でさえも、水素吸蔵特性の観点において更に改善の余地がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2011−057457号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】大角泰章 編、「水素吸蔵合金‐その物性と応用‐」、アグネ技術センター、1993年
【非特許文献2】エー・チャンバース(A. Chambers)他,ジャーナル・オブ・フィジカル・ケミストリー(J. Phys. Chem.),(米国),B102巻,1998年,p.4253−4256
【非特許文献3】ヨシツグ・コジマ(Yoshitsugu. Kojima)他, ジャーナル・オブ・アロイ・アンド・コンパウンズ(J. Alloys Comp.), 421巻, 1−2号,p.204−208 (2006)
【非特許文献4】エー・トォウジィク(A. Touzik),エイチ・ハーマン(H. Hermann),ケミカル・フィジックス・レターズ(Chem. Phys. Lett.), 416, 137 (2005)
【非特許文献5】イー・ディビッド(E. David), ジャーナル・オブ・マテリアルズ・プロセシング・テクノロジー(J. Mater. Proc. Tech.), 169, 162 (2005).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、以上の状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、体積又は質量当たりに吸蔵できる水素密度が高く、貯蔵・輸送上の取扱が容易な水素吸蔵技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本願の発明者らは、鋭意検討の末、多孔質炭素材料の水素凝集サイトはミクロ孔のみであるとの従来の知見を覆し、ミクロ孔より大きな寸法のメゾ孔にも水素が凝集可能であることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0012】
すなわち、本発明は、次の構成又は特徴を有するものである。
(態様1)
炭素材料に炭化を施す工程と、
前記炭化工程により処理された前記炭素材料にアルカリ賦活を施す工程と、
前記アルカリ賦活工程により作製された多孔質炭素を容器内に収容する工程と、
前記容器内部を77K〜150Kの範囲内の温度に保持しながら、平衡状態圧力が0.5MPa〜20MPaになるように水素を該容器内部に導入する工程と、を含み、かつ、
前記多孔質炭素として、複数のミクロ孔と複数のメゾ孔とを含み、前記多孔質炭素の全体の比表面積が700m2/g〜3800m2/gであり、かつ、該メゾ孔は、2nm〜10nmの範囲の孔径を有する多孔質炭素を使用することを特徴とする水素吸蔵方法。
(態様2)
前記炭化工程では、前記炭素材料に籾殻を使用し、かつ、前記炭素材料を燃焼窯内で回転させながら加熱する工程を含むことを特徴とする態様1に記載の水素吸蔵方法。
(態様3)
前記アルカリ賦活工程では、前記炭素材料との重量比で3倍〜8倍のアルカリ賦活剤を添加することを特徴とする態様1又は2に記載の水素吸蔵方法。
(態様4)
前記アルカリ賦活剤として、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、炭酸カリウム、炭酸ナトリウムの少なくとも1つを使用することを特徴とする態様3に記載の水素吸蔵方法。
(態様5)
前記アルカリ賦活工程では、前記アルカリ賦活剤を使用して賦活工程を行った後に、先の前記賦活工程の該アルカリ賦活剤と異なる種類の前記アルカリ賦活剤を使用して賦活工程を複数回行うことを特徴とする態様3又は4に記載の水素吸蔵方法。
(態様6)
前記多孔質炭素として、前記ミクロ孔が占めるミクロ孔容積に対して前記メゾ孔が占めるメゾ孔容積の比率が0.5以上になる多孔質炭素を使用することを特徴とする態様1〜5のいずれかに記載の水素吸蔵方法。
(態様7)
複数のミクロ孔と複数のメゾ孔とを含んだ多孔質炭素からなり、
前記多孔質炭素の全体の比表面積が700m2/g〜3800m2/gであり、かつ、
該メゾ孔は、2nm〜10nmの範囲の孔径を有することを特徴とする水素吸蔵材料。
(態様8)
前記多孔質炭素は籾殻を炭化処理した後にアルカリ賦活処理を施したものであり、かつ、
前記ミクロ孔が占めるミクロ孔容積に対して前記メゾ孔が占めるメゾ孔容積の比率が0.5以上に設定されたものであることを特徴とする態様7に記載の水素吸蔵材料。
【発明の効果】
【0013】
以上のような構成をなす本発明は、次のような顕著な効果を奏する。
【0014】
本発明の水素吸蔵方法によれば、その方法での炭化処理工程とアルカリ賦活処理工程を実施することで、例えば、2060m2/gを超える非常に高い比表面積を有した水素吸蔵材料を作製及び使用することが可能である。
【0015】
また、本発明の水素吸蔵方法によれば、従来重要視されていた2nm未満のミクロ孔が占める容積に対して、本発明者らが注目した2nm以上のメゾ孔が占める容積の割合を増加させた水素吸蔵材料を作製することができる。
【0016】
この水素吸蔵材料は、ミクロ孔のみならずメゾ孔も水素吸蔵サイトになり得ることから、水素を液化温度まで冷却しない環境温度(例えば、77K)でも、現時点において水素の平衡圧力が10MPa(つまり、約100気圧)の下で9wt.%の最大水素吸蔵量を発揮することが可能である。
例えば、9wt.%の水素吸蔵特性を示す活性炭を燃料タンク(例えば、50Lタンク)に詰めた仮定すると、このタンクには25kgの活性炭を収容できる。そうすると、このタンク内の25kg分の活性炭に吸蔵可能な水素は、100気圧の圧力下で2.25kg(=25×0.09)であると試算される。一方、従来の水素の充填方法、例えば、常温(298K)下で同量(2.25kg)の水素を50L用高圧ボンベへそのまま充填することを仮定すると、理想気体の状態方程式に依れば、約550気圧という非常に高い圧力が必要となる。
要するに、本発明の水素吸蔵方法によれば、本発明の水素吸蔵材料に液体に近い状態で水素が貯蔵され、かつ、圧力に寄与する気体状態の水素が減少するため、水素タンクの圧力を低くし、かつ、多くの水素を貯蔵することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明に係る水素吸蔵方法の各工程を示したフローチャートである。
【図2】特に好ましい態様の炭化処理工程を説明した図である。
【図3】特に好ましい態様のアルカリ賦活処理工程を説明した図である。
【図4】本発明によって作製された多孔質炭素のミクロ孔の分布を示した図である。
【図5】本発明によって作製された多孔質炭素のメゾ孔の分布を示した図である。
【図6】水素吸蔵特性評価装置の概略を示した図である。
【図7】本発明によって作製された多孔質炭素の水素吸蔵特性(水素平衡圧力と水素吸蔵量との関係)を示した図である。
【図8】BET比表面積と最大水素吸蔵量との関係を示した図である。
【図9】ミクロ孔容積と最大水素吸蔵量との関係を示した図である。
【図10】ミクロ孔容積と水素吸蔵密度との関係、又はメゾ孔容積と水素吸蔵密度との関係を示した図である。
【図11】容積比と水素吸蔵密度との関係を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を図面に示す実施の形態に基づき説明するが、本発明は、下記の具体的な実施形態に何等限定されるものではない。
【0019】
(水素吸蔵方法)
先ず、炭素材料を多孔質化して水素を吸蔵させる水素吸蔵方法について詳しく説明する。図1は、本発明に係る水素吸蔵方法の各工程S1〜S4を示したフローチャートである。
【0020】
(炭化処理)
先ず、図1に示すように、炭素材料に炭化処理を施す(工程S1)。ここで、「炭化処理」とは、加熱によって炭素材料中の有機物質を分解して、炭素に富んだ状態にさせることを意味する。炭素材料を加熱させる手段として、燃焼装置、過熱水蒸気焼成装置、電気炉などが挙げられるが、必ずしもこれらに限定されない。
【0021】
(炭化材料の出発原料)
なお、炭素材料の出発原料として、廃コーヒー豆や籾殻、椰子殻等の植物由来の材料が挙げられるが、必ずしもこれらに限定されない。特に、籾殻や廃コーヒー豆は大量に排出される割にリサイクルが進んでいない産業廃棄物であるため、これらを有効利用することが望ましい。なお、籾殻は米の収穫によって排出される産業廃棄物である。日本における籾殻の年間排出量は約1300万トンと言われているが、この内の約30パーセントが土壌改質剤、肥料、暖房燃料として利用されているが、大半は廃棄されているのが現状である。
【0022】
なお、図2は、上述した炭化処理工程S1のうち特に好ましい態様を説明した図である。具体的には、図2(a)に特に好ましい態様の炭化処理工程S1のフローチャートを示し、図2(b)に工程S1で使用する燃焼装置1の一例を示し、図2(c)にこの燃焼装置1の回転式燃焼窯3を正面から観た図を示す。この特に好ましい炭化処理工程S1では、図2(a)〜(c)に示すように、出発原料としては籾殻を使用し、これを燃焼装置1のフィーダー2に投入する(工程S11)。その後、図2(c)に示すように、燃焼装置1の回転式燃焼窯3内で籾殻4aを回転させながら500℃〜600℃の温度で加熱(炭化)させる(工程S12)。ここで、回転式燃焼窯3内を籾殻4aが回転しながら通過する時間を30秒〜120秒(さらに好ましくは、60秒〜80秒)程度に設定することが好ましい。回転式燃焼窯3から燃焼装置1の外部へ排出された籾殻4bは、自然冷却させられながら回収容器5に回収される(工程S13、S14)。
【0023】
(アルカリ賦活処理)
次に、炭化処理工程S1により処理された炭素材料にアルカリ賦活を施す(工程S2)。なお、「賦活」とは一般に、炭素材料に細孔構造を発達させ多孔質化する処理のことを意味する。特に、「アルカリ賦活」とは、薬品賦活の一種であり、炭素材料にアルカリ金属化合物を添加し、これを不活性雰囲気中で500〜800℃で焼成し、微細孔を持つ多孔質炭素を作製する方法である。
【0024】
このアルカリ賦活処理工程S2では、触媒のアルカリ金属元素(例えば、カリウム(K))がC−C結合の壊裂・分解を引き起こすことによって炭素材料は多孔質化する。添加するアルカリ金属化合物には、水酸化カリウム(KOH)、水酸化ナトリウム(NaOH)、水酸化リチウム(LiOH)、炭酸カリウム(K2CO3)、炭酸ナトリウム(Na2CO3)が挙げられる。
【0025】
なお、KOHは、NaOHやLiOHに比べて触媒活性が高い点で好ましい。つまり、KOHは賦活プロセス中にカリウム(K)と水酸化物イオン(OH)とに分離し、直ちにカリウムKが炭素質のガス化反応の触媒として作用する。カリウムKは他のアルカリ金属と比較して、原子半径が大きく最外殻電子の束縛エネルギーが小さく、電気陰性度が低いため、ガス化反応の触媒としての能力が高い。また、植物由来の炭(炭素材料)にはカリウムKが本来数%以下程度含まれているので炭素材料との親和性の面からもKOHは好ましい。
【0026】
なお、図3は、上述したアルカリ賦活処理工程S2のうち特に好ましい態様を説明した図である。具体的には、図3(a)に特に好ましい態様の賦活工程S2のフローチャートを示し、図3(b)に工程S2で使用する賦活処理装置の一例を示し、図3(c)に賦活処理の際の昇温パターンを示す。図3(b)に示すように、炭化処理工程S1により炭化された炭素材料4bに、該炭素材料の重量比で1〜5倍量のアルカリ賦活剤11を添加し、ムライト製坩堝12に導入し、坩堝12の上部をセラミックスウール等の通気性蓋材13で覆うことで原料仕込みを行う(工程S21)。更に、炭素材料4bやアルカリ賦活剤11を含んだムライト製坩堝12を、このムライト製坩堝12の寸法より大きな内部空間を有するSiC製坩堝14に挿入した後、周囲を粒子炭15で覆った状態で図示しない電気炉にセットし、賦活工程を行う(工程S22)。ここで、工程S22は、図3(c)に示すように大気密閉状態で昇温速度8℃/min、850℃、2hの昇温条件で賦活を行うことが好ましい。その後、賦活された炭素材料4bを自然冷却させる(工程S23)。その後、炭素材料4bを洗浄した後、乾燥処理を行った後、回収する(工程S24及び工程S25)。
【0027】
(多段階賦活処理)
さらに、アルカリ賦活処理工程S2においては、炭化処理S1された一つの炭素材料4bに対して、異なる種類のアルカリ賦活剤(例えば、KOHとNaOH)を用いて多段階的にアルカリ賦活を施してもよい。これにより、各賦活剤の触媒活性等の違いから、孔径が異なる二種類以上の細孔を炭素材料4b内に形成することが可能になる。
【0028】
アルカリ金属化合物の添加量としては、炭素材料4bとの重量比で、好ましくは3〜8倍(さらに好ましくは約5倍)のアルカリ金属化合物を添加する。
【0029】
具体的に説明すると、炭素材料4bは多数のグラフェンからなるグラファイト層が多数積層されているが、アルカリ賦活処理工程S2はグラファイト層間に細孔(特に、ミクロ孔)の形成を促進することになる。
【0030】
(多孔質炭素材料の収容及び水素の導入)
以上のように作製された多孔質炭素を耐圧容器内に収容する(工程S3)。次に、この容器内部を水素の液化温度(20.3K)よりも高い77〜150Kの範囲内の温度に保持しながら、高圧の水素を該容器内部に導入する(工程S4)。ここで、水素導入後の平衡状態圧力が0.5〜20MPa(好ましく2〜12MPa)になるように水素を導入する。平衡状態圧力が0.5MPaより低いと多孔質炭素のミクロ孔に水素分子が十分に凝集・吸蔵されず、一方20MPaより高いと、過圧状態となり、多孔質炭素内での凝集・吸蔵性能が生かされない。
【0031】
なお、容器内部(すなわち、多孔質炭素と水素)の温度は、室温に近づいて高ければ高い程、多くの利点がある。すなわち、温度を維持するための電力が少なくて済むとともに、温度維持のための装置を小型化することが可能となり、貯蔵・輸送上の水素の取扱が容易となる。しかしながら、容器内の水素が、液化水素のように高い水素密度で多孔質炭素の細孔空間全体内に凝集されていなければならない。本発明者らの知見によれば、容器内の水素は液化温度に近い77〜150Kの温度に設定されていることが望ましく、これにより液化状態の水素密度に近い密度で吸蔵挙動を示すことが分かっている。
【0032】
以上説明した工程S1〜S4を実行することで、炭素材料4bから多孔質炭素を形成し、この多孔質層中の各細孔に水素を吸蔵することが可能になる。
【0033】
(多孔質炭素の細孔構造)
多孔質炭素の細孔直径dp(以下、単に「細孔径」、「孔径」、又は「径」とも呼ぶ。)は、一般に、広い分布を持っており、IUPAC(International Union of Pure and Applied Chemistry、国際純正・応用化学連合)では表1に示すような分類がなされている(詳しくは、IUPAC, Manual Symbols and Termilogy, (1972)を参照。)。表1に示すように、「ミクロ孔」とは2nm以下の径dpを有した孔のことであり、これより大きな孔は、メゾ孔(2〜50nmの径dpを有した孔)やマクロ孔(50nm以上の径dpを有した孔)と定義されている。
【0034】
【表1】
【0035】
従来技術によれば、上述したように、水素吸蔵に適している多孔質炭素の細孔はdpが2nm未満のミクロ孔であることが指摘されている。これは、ミクロ孔が、ガスや分子サイズの物質に対応した寸法であるため強い吸蔵力を発揮する水素吸蔵サイトになり、一方、ミクロ孔より大きなメゾ孔やマクロ孔は、多孔質炭素の外部からその最奥部のミクロ孔まで水素を案内するための導入通路と考えられているからである(非特許文献5)。
【0036】
本発明者らは、確かに、ミクロ孔は従来の上記知見のように水素吸蔵サイトとして有効であるが、従来、水素導入通路と考えられてきたメゾ孔が水素吸蔵サイトとして十分に機能することを発見した。そこで、本発明者らは、外部からの水素を、炭素中のミクロ孔のみならずメゾ孔にも吸蔵させることに適した多孔質炭素やこの多孔質炭素を用いて水素吸蔵させる方法を提供することを狙ったのである。
【0037】
本発明の多孔質炭素の細孔構造や多孔質炭素への水素吸蔵量を特定するに当たっては、例えば、以下に説明するような測定法を実施することで評価することが可能である。
【0038】
(比表面積の測定法)
本発明の多孔質炭素の比表面積の測定は、窒素ガスなどの吸着によって得られた吸着等温線から解析を行うBET吸着法(Brunauer、Emmet、及びTellerによって理論的に導出された測定法)を利用している。このBET吸着法によって測定された比表面積を以下、「BET比表面積」と呼ぶ。
【0039】
(ミクロ孔の細孔径の測定法)
また、多孔質炭素内のミクロ孔の細孔径(ポアサイズ)測定には、Mikhailらによって提案されたMicro−pore法(MP法)を利用している。MP法では、まずBET吸着法により得られた単分子吸着量を用いて吸着層の厚みt(及び標準t−plot)が算出され、その後、細孔の表面積及び容積が算出されて、細孔径dp(ポアサイズ)が導かれる。
【0040】
(メゾ孔の細孔径の測定法)
また、多孔質炭素内のメゾ孔の細孔径測定には、BJH(Berret−Joyner−Halenda)法を利用している。BJH法では、孔形状が円筒状であると仮定し、窒素ガスの吸着等温線からKelvin式に基づいて細孔径dpの分布を算出する方法である。
【0041】
(水素吸蔵量の測定法)
本発明の多孔質炭素の水素吸蔵量の測定には、容量法を利用している。容量法とは、一定体積の系内の水素量の変化を測定前後の圧力差、温度から求めるものである。具体的には、水素吸蔵合金の圧力−組成等温線(PCT線)を測定する方法(JIS H 7201)に準じて行われる方法であり、「ジーベルツ法」と呼ばれる。
【実施例】
【0042】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。なお、以下の実施例においては、賦活処理工程前及び賦活工程中の炭素原料を「炭素材料」、賦活工程後の炭素原料を「多孔質炭素」、「活性炭」或いは「水素吸蔵材料」と称する。
【0043】
表2に、本発明の実施例に係る多孔質炭素の作製条件の詳細を示す。実施例においては、炭素材料の出発原料として籾殻又は廃コーヒー豆を用い、表2に示すようにAC1乃至AC5と命名された5つの試料を用意した。
【0044】
【表2】
【0045】
(実施例:炭化処理工程S1)
AC1乃至AC3の試料については、籾殻を出発原料として、図2で説明した工程S11〜S14を含む炭化処理S1を行った。なお、この処理を行う燃焼装置として、籾殻燻炭製造機(株式会社武井建設製)を用い、加熱温度を500℃〜600℃、試料AC1〜AC3が回転式燃焼窯内を通過する時間を70秒間に設定して試料を炭化した(上述の工程S11〜S14を参照)。
【0046】
なお、AC4の試料の炭化処理S1については、出発原料である廃コーヒー豆を乾燥処理した後にガス賦活の一種である水蒸気賦活を施すことにした。具体的には、廃コーヒー豆を恒温乾燥機中で120℃、24h(hは時間)乾燥処理した。通気性のあるステンレス製容器に試料AC4を挿入した後、直径1.0mm程度の竹炭粒子で周囲を覆った状態で過熱水蒸気発生装置(第一高周波工業製)内に設置した。まず、水蒸気流量45g/minの雰囲気下で500℃、1〜3hで炭化を行った後、水蒸気流量45g/min、CO2ガス流量10l/minの雰囲気下で800℃、2hの水蒸気賦活を5回繰り返し行うことで炭素材料を調製した。
【0047】
また、AC5の試料については、既に炭化処理されている市販の籾殻を購入した。
【0048】
(実施例:アルカリ賦活工程S2)
炭化処理工程S1により炭化及び調製された炭素材料(試料AC1〜AC5)にアルカリ賦活剤として水酸化カリウム(ナカライテスク製:KOH)を添加し、熱処理によって多孔質炭素を調製した(上述の工程S21〜S24を参照)。まず、炭素材料5.0gに該炭素材料の重量比で1〜5倍量のKOHを添加した後(表2を参照)、ムライト製ルツボに導入し、上部をセラミックスウールで覆った。更に、SiC製坩堝に挿入した後、周囲を粒子炭で覆った状態で電気炉にセットし、大気密閉状態で昇温速度8℃/min、850℃、2hの条件でアルカリ賦活処理S2を行った。アルカリ賦活工程S2後、蒸留水による洗浄を行った後、恒温乾燥機中で100℃、24hの条件で乾燥処理して多孔質炭素を得た。
【0049】
なお、表3にアルカリ賦活工程S2を施した後の多孔質炭素の細孔構造を上述の測定手法によって評価した結果を示す。この表3から明らかなように、上述の炭化処理工程S1及びアルカリ賦活処理工程S2の条件を変化させることにより、比表面積、ミクロ孔容積、メゾ孔容積、平均細孔直径などが異なる活性炭(多孔質炭素)を合成(作製)できることが分かる。
【0050】
【表3】
【0051】
(多孔質炭素のミクロ孔の細孔径分布)
図4(a)に、上記試料AC1〜AC3において、MP法から算出したミクロ孔の細孔径分布と細孔容積を示す。図4(a)の横軸には細孔径dp(単位:nm)を示し、縦軸には細孔径dpの微小変化d(dp)に対応した細孔容積Vの変化量dVpを示している。この結果から、KOHの添加量が1倍と少ない試料AC1においても、0.6nm付近の細孔径dpを有したミクロ孔が形成されていることが分かる。さらに、試料AC2、AC3の結果より、KOHの添加量を3倍、5倍と増加させるに従って、0.6nmの径のミクロ孔以外にも、0.6nmより大きな径(例えば、1.0nm、1.2nm、1.5nm)の細孔が形成されていることが分かる。KOHの添加量の増加により、賦活量が増加し、その結果として、ミクロ孔自体の孔径dpの拡大やミクロ孔同士の連結が起こっていると考えられる。
【0052】
図4(b)に、上記試料AC3〜AC5において、MP法から算出したミクロ孔の細孔径分布と細孔容積を示す。これらの試料AC3〜AC5は、出発原料の種類と炭化処理S1での処理方法が上述のように異なっているが、アルカリ賦活処理工程S2でのKOHの添加量についてはどの試料も5倍である。
【0053】
図4(b)に示すように、試料AC4,試料AC5も試料AC3と同様に、0.6nmの孔径dpの他、これより大きなサイズの1.0nm〜1.2nmの程度の孔径dpで顕著な細孔容積が確認される。特に試料AC3の場合は、メゾ孔との境界値である2nmまでミクロ孔の発達が確認される。従って、5倍量のKOHの添加によって、多孔質炭素内により広い孔径分布を有したミクロ孔が発達することが分かった。
【0054】
(多孔質炭素のメゾ孔の細孔径分布)
図5(a)に、上記試料AC1〜AC3において、BJH法から算出したメゾ孔の細孔径分布と細孔容積を示す。図5(a)の横軸及び縦軸の表示方法は上述の図1、2の表示方法と同様である。この図5(a)の結果から、孔径dpが2nm〜10nmの範囲のメゾ孔が試料AC1〜AC3中の多孔質層に形成・発達していること及びKOHの添加量の増加に従い、より大きな孔径dpのメゾ孔の発達(これに対応した容積の増加)が確認される。
【0055】
図5(b)に、上記試料AC3〜AC5において、BJH法から算出したメゾ孔の細孔径分布と細孔容積を示す。図5(b)に示すように、試料AC4,試料AC5でも試料AC3と同様に、孔径dpが2nm〜10nmの範囲のメゾ孔の発達が確認されるが、試料AC3の場合と比較して顕著ではない。
【0056】
(ミクロ孔とメゾ孔との容積比)
上述したように、試料AC1〜AC5においては、メゾ孔発達の程度が異なっていた為、ミクロ孔の容積に対するメゾ孔の容積の割合を算出してみた(以下の数式を参照)。これらの結果は表3に示されている。表3の結果によれば、試料AC1〜AC3の場合は比較的高い容積比を有し、特にAC3の場合は0.866とミクロ孔とほぼ同等の容積量を有する。一方、試料AC4やAC5の場合は、試料AC3と同じKOH添加量を与えて作製されているが、試料AC3の場合のような高い容積比は得られていない。これは、出発原料の種類や炭化処理工程S1の処理方法の違いが細孔構造の形成に影響を与えていると考えられる。
【0057】
【数1】
【0058】
(水素吸蔵特性評価)
以上のようにして作製された多孔質炭素の水素吸蔵特性を上記ジーベルツ法により評価した。図6に水素吸蔵特性評価装置の概略を示す。多孔質炭素(試料AC1〜AC5)を約0.1〜0.5g充填した容器をマントルヒーターにより150℃に加熱し、ターボ分子ポンプとロータリーポンプにより1.0×10−3Paの減圧下にて1hの脱ガス処理を行った。脱ガス処理後、容器を恒温槽(液体窒素を満たしたデュワー瓶)に浸漬させ多孔質炭素を77Kに7分間保持した。
【0059】
水素吸蔵量の測定は、図6の導入バルブV1を開放して導入バルブV2を閉鎖し、水素導入室に水素を導入する。水素導入室の圧力が一定になったら導入バルブV2を解放して容器に水素を導入し、水素導入室と容器の圧力変化を測定した。水素導入室および容器の平衡圧力を0.5MPaから10.0MPaへと導入圧力を段階的に加圧することで吸蔵特性を測定し、さらに10.0MPaから0.5MPaへと導入圧力を段階的に減圧し、放出特性を測定することで水素吸蔵量を評価した。得られた水素吸蔵量から、Zuttelらの水素吸着理論式を用いて水素密度を算出した。
【0060】
(水素吸蔵特性結果)
図7(a)は試料AC1〜AC3に係る水素吸蔵特性を示し、一方、図7(b)は試料AC3〜AC5に係る水素吸蔵特性を示した図である。なお、各図の横軸は水素導入時の平衡圧力(単位はMPa)であり、縦軸は水素吸蔵量(単位はwt.%(重量パーセント))である。
【0061】
図7(a)の結果によれば、試料AC1や試料AC2の場合は、平衡圧力の増加とともに水素吸蔵量も急激に増加するが、ある圧力で最大となり、その後ほぼ一定あるいは若干低下することが確認される。具体的には、試料AC1の場合は約2MPaで最大水素吸蔵量が0.89wt.%を観測し、試料AC2の場合は約3MPaで最大水素吸蔵量が3.98wt.%を観測した。これに対して、試料AC3の場合は、この平衡圧力の範囲(0.5MPa〜10.0MPa)内では、平衡圧力の増加とともに水素吸蔵量も増加し続け、約10MPaの圧力下にて、最大水素吸蔵量が9.0wt.%を観測した。
【0062】
また、図7(b)の結果によれば、試料AC4や試料AC5の場合は、平衡圧力の増加とともに水素吸蔵量も急激に増加するが、ある圧力で最大となり、その後ほぼ一定あるいは若干低下することが確認される。具体的には、試料AC4の場合は約2MPaで最大水素吸蔵量が3.35重量パーセント(wt.%)を観測し、試料AC5の場合は約3.47MPaで最大水素吸蔵量が4.80wt.%を観測した。以上の結果をまとめたものが、以下の表4である。
【0063】
【表4】
【0064】
なお、いずれの試料AC1〜AC5の結果においても、平衡圧力を低圧から高圧に増加させた場合と高圧から低圧に減少させた場合との間に若干のヒステリシスを確認されたが、どちらの方向から変化させても同様のプロファイルを確認した。
【0065】
(比表面積と水素吸蔵量との関係)
上述の表3の測定結果と表4の測定結果とから、BET比表面積と最大水素吸蔵量との対応関係が明らかになり、この関係を図8に示す。なお、BET比表面積の測定には、高精度ガス/蒸気吸着測定装置(日本ベル株式会社製(装置名:BELSORP‐max1‐SPNG)を使用した。図8の結果から、多孔質炭素の最大水素吸蔵量は、BET比表面積の増加とともに指数関数的に増大することが確認される。比表面積と水素吸蔵量との対応関係が更に高いBET比表面積でも維持されると仮定した場合、BET比表面積3000m2/g以上の多孔質炭素を形成できれば、15wt.%の水素吸蔵量が達成できることが見込まれる。
【0066】
(水素吸蔵密度)
従来の考え方を基に、水素が多孔質炭素中のミクロ孔のみに全て吸蔵されたと仮定して、Zuttelらによって提案された理論式により水素吸蔵密度を算出した。なお、理論式の詳細は、Zuttel et al., Appl. Phys. A 78 (2004) p.941を参照されたい。上述の表4に水素吸蔵密度の結果も示す。ところで、液体水素の理想的な密度は70.8mg/cm3である。試料AC3の場合に算出された水素吸蔵密度は、上記理想値の約2倍に相当する145mg/cm3を示した。
【0067】
(ミクロ孔容積と水素吸蔵量との関係)
図9は、図8に使用したBET比表面積に代えてミクロ孔容積を横軸に取り、縦軸にその最大水素吸蔵量を示す。この図9に示すように、多孔質炭素の最大水素吸蔵量は、ミクロ孔容積の増加とともに増大することが分かる。加えて、ミクロ孔容積が約1.2(cm3/g)程度までは直線的に増加しているが、ミクロ孔容積がこれより大きくなると急激に水素吸蔵量が増大していることが分かる(例えば、ミクロ孔容積が約1.81(cm3/g)では最大水素吸蔵量が9.0wt.%である。)。この結果は、ミクロ孔容積以外の構造パラメータが影響を及ぼしていることを示唆している。
【0068】
(ミクロ孔容積と水素吸蔵密度との関係)
図10(a)は、ミクロ孔容積(表3を参照)と水素吸蔵密度(表4を参照)との関係を示す。ここで、図中に示した横軸に対して平行な破線は、液体水素の理想的な密度の値(70.8mg/cm3)を示す(後述の図10(b)及び図11の破線表示も同様である。)。図9の結果と同様に、ミクロ孔容積の増加に伴って、水素吸蔵密度も増加する傾向を示した。ミクロ孔容積約1.2(cm3/g)から急激に水素吸蔵密度が増大した。ミクロ孔よりも大きな細孔(メゾ孔、マクロ孔)にも水素が吸蔵されている可能性が示唆される。
【0069】
(メゾ孔容積と水素吸蔵密度との関係)
次に、メゾ孔容積と水素吸蔵密度との比較を行った。図10(b)は、メゾ孔容積(表3を参照)と水素吸蔵密度(表4を参照)との関係を示す。多孔質炭素のメゾ孔容積の増加に伴って、水素吸蔵密度も増加する傾向が確認された。
【0070】
(容積比と水素吸蔵密度との関係)
図11は、ミクロ孔容積に対するメゾ孔容積の容積比(表3及び数1を参照)と水素吸蔵密度(表4を参照)との関係を示す。この容積比の増加に伴って、水素吸蔵密度も増加する傾向が確認された。つまり、ミクロ孔容積に対してメゾ孔容積の比率が大きくなると、水素吸蔵量も増大することが示された。特に、容積比が0.5以上(特に、0.86以上)になると著しく高い水素吸蔵量が得られることが分かる。この結果から、ミクロ孔にのみならずメゾ孔にも気化状態の水素が吸蔵しており、メゾ孔も水素吸蔵サイトとして有望であることが示唆される。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明は、燃料電池自動車の高性能化、これに関連する水素の製造、貯蔵、輸送技術に貢献できるものと考えられる。なお、本発明の水素吸蔵方法は、現時点において本発明者らが先に特許文献1にて提案した水素吸蔵方法よりも更に高い水素吸蔵特性を提供できることを実証している。
【0072】
また、近年、水素を液化状態で貯蔵する水素ステーション構想が提唱されているが、絶対温度20.3Kの下で水素を冷却・管理する必要があること、液化水素から発生する水素ガスを一時的に貯蔵しておくバッファーのような装置が必要とされることが課題として挙げられている。本発明を上記技術構想に適用すれば、必ずしも水素温度を液化温度に設定しなくてもよく(より室温に近付けた温度に設定すればよく)、水素貯蔵用のバッファー装置もより実現し易くなるものと考えられる。
【0073】
以上のように、本発明は産業上の利用可能性が非常に高い。
【符号の説明】
【0074】
S1 炭素材料に炭化を施す工程
S2 炭素材料にアルカリ賦活を施す工程
S3 多孔質炭素を容器内に収容する工程
S4 水素を容器内部に導入する工程
dp 細孔の直径
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素材料を用いた水素吸蔵方法及び水素吸蔵材料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
昨今、石油資源の枯渇化と化石燃料による環境問題が懸念され、石油に代替する新たなエネルギー源の開発が喫緊の課題となっている。このエネルギー源の代替候補として、水素が注目されている。水素は燃焼生成物が水であるため、環境破壊の心配が無いクリーンなエネルギーである。
【0003】
この水素エネルギーを実際に利用していくには、水素を有効に吸蔵、貯蔵、運搬する技術の確立が必要不可欠となる。現在、水素を輸送、貯蔵する技術としては、高圧ガス、液化水素、水素貯蔵合金、水素吸蔵材料などが提案されている(非特許文献1)。
【0004】
このうち特に、水素吸蔵材料を用いた技術は、水素の放出が常温で可能であるのでシステムが簡素である上、一般に水素放出時に熱を必要とせずエネルギー効率が高いなどの特徴があるため、有望視され、その材料の開発が盛んになされている。現在までに、カーボンナノチューブやカーボンナノファイバーなどの細孔炭素系材料が高い吸蔵量を示すとの報告(非特許文献2)があるが、再現性が疑問視されており、十分な再現性を持ちながら高い吸蔵性能を持つ水素吸蔵材料あるいは水素凝集材料の開発は未だ実現したとは言えない状況である。
【0005】
また、有機物を焼成して得られる炭素質を、水蒸気や二酸化炭素と反応させ、その細孔構造を発達させた多孔質炭素も水素吸蔵媒体として報告されている(非特許文献3〜5)。これらの従来の報告によれば、高い水素吸蔵能にはミクロポーラスな多孔質炭素の持つ高い比表面積が必要であり、水素吸蔵量を増大させるにはミクロ孔が必要であることを示している。特に、非特許文献4では、約0.6nmの細孔が常温において水素吸蔵に適していると報告されている。
【0006】
また、本発明者らは、この水素吸蔵材料を用いた技術について研究を重ね、例えば、特許文献1において、多孔質炭素内に配置された水素の周囲温度が水素液化温度(20.3K)より高くかつ気化状態と通常みなされる温度範囲であっても、水素液化温度に近い所定の温度域(77〜150K)では、水素は液化水素が行う凝縮と同様な吸蔵挙動を示すことを利用した水素吸蔵方法や水素吸蔵装置を提案し、1.6〜4.0wt.%程度の水素吸蔵量を達成可能であることを報告している。なお、この特許文献1に開示の水素吸蔵用炭素材料には、多数のミクロ孔によって形成された多孔質体(全比表面積に占めるミクロ孔による比表面積の割合が非常に高い多孔質体)を採用している。
【0007】
しかしながら、水素吸蔵技術の高性能化への市場の要求は益々高まっており、特許文献1に開示の水素吸蔵技術でさえも、水素吸蔵特性の観点において更に改善の余地がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2011−057457号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】大角泰章 編、「水素吸蔵合金‐その物性と応用‐」、アグネ技術センター、1993年
【非特許文献2】エー・チャンバース(A. Chambers)他,ジャーナル・オブ・フィジカル・ケミストリー(J. Phys. Chem.),(米国),B102巻,1998年,p.4253−4256
【非特許文献3】ヨシツグ・コジマ(Yoshitsugu. Kojima)他, ジャーナル・オブ・アロイ・アンド・コンパウンズ(J. Alloys Comp.), 421巻, 1−2号,p.204−208 (2006)
【非特許文献4】エー・トォウジィク(A. Touzik),エイチ・ハーマン(H. Hermann),ケミカル・フィジックス・レターズ(Chem. Phys. Lett.), 416, 137 (2005)
【非特許文献5】イー・ディビッド(E. David), ジャーナル・オブ・マテリアルズ・プロセシング・テクノロジー(J. Mater. Proc. Tech.), 169, 162 (2005).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、以上の状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、体積又は質量当たりに吸蔵できる水素密度が高く、貯蔵・輸送上の取扱が容易な水素吸蔵技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本願の発明者らは、鋭意検討の末、多孔質炭素材料の水素凝集サイトはミクロ孔のみであるとの従来の知見を覆し、ミクロ孔より大きな寸法のメゾ孔にも水素が凝集可能であることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0012】
すなわち、本発明は、次の構成又は特徴を有するものである。
(態様1)
炭素材料に炭化を施す工程と、
前記炭化工程により処理された前記炭素材料にアルカリ賦活を施す工程と、
前記アルカリ賦活工程により作製された多孔質炭素を容器内に収容する工程と、
前記容器内部を77K〜150Kの範囲内の温度に保持しながら、平衡状態圧力が0.5MPa〜20MPaになるように水素を該容器内部に導入する工程と、を含み、かつ、
前記多孔質炭素として、複数のミクロ孔と複数のメゾ孔とを含み、前記多孔質炭素の全体の比表面積が700m2/g〜3800m2/gであり、かつ、該メゾ孔は、2nm〜10nmの範囲の孔径を有する多孔質炭素を使用することを特徴とする水素吸蔵方法。
(態様2)
前記炭化工程では、前記炭素材料に籾殻を使用し、かつ、前記炭素材料を燃焼窯内で回転させながら加熱する工程を含むことを特徴とする態様1に記載の水素吸蔵方法。
(態様3)
前記アルカリ賦活工程では、前記炭素材料との重量比で3倍〜8倍のアルカリ賦活剤を添加することを特徴とする態様1又は2に記載の水素吸蔵方法。
(態様4)
前記アルカリ賦活剤として、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、炭酸カリウム、炭酸ナトリウムの少なくとも1つを使用することを特徴とする態様3に記載の水素吸蔵方法。
(態様5)
前記アルカリ賦活工程では、前記アルカリ賦活剤を使用して賦活工程を行った後に、先の前記賦活工程の該アルカリ賦活剤と異なる種類の前記アルカリ賦活剤を使用して賦活工程を複数回行うことを特徴とする態様3又は4に記載の水素吸蔵方法。
(態様6)
前記多孔質炭素として、前記ミクロ孔が占めるミクロ孔容積に対して前記メゾ孔が占めるメゾ孔容積の比率が0.5以上になる多孔質炭素を使用することを特徴とする態様1〜5のいずれかに記載の水素吸蔵方法。
(態様7)
複数のミクロ孔と複数のメゾ孔とを含んだ多孔質炭素からなり、
前記多孔質炭素の全体の比表面積が700m2/g〜3800m2/gであり、かつ、
該メゾ孔は、2nm〜10nmの範囲の孔径を有することを特徴とする水素吸蔵材料。
(態様8)
前記多孔質炭素は籾殻を炭化処理した後にアルカリ賦活処理を施したものであり、かつ、
前記ミクロ孔が占めるミクロ孔容積に対して前記メゾ孔が占めるメゾ孔容積の比率が0.5以上に設定されたものであることを特徴とする態様7に記載の水素吸蔵材料。
【発明の効果】
【0013】
以上のような構成をなす本発明は、次のような顕著な効果を奏する。
【0014】
本発明の水素吸蔵方法によれば、その方法での炭化処理工程とアルカリ賦活処理工程を実施することで、例えば、2060m2/gを超える非常に高い比表面積を有した水素吸蔵材料を作製及び使用することが可能である。
【0015】
また、本発明の水素吸蔵方法によれば、従来重要視されていた2nm未満のミクロ孔が占める容積に対して、本発明者らが注目した2nm以上のメゾ孔が占める容積の割合を増加させた水素吸蔵材料を作製することができる。
【0016】
この水素吸蔵材料は、ミクロ孔のみならずメゾ孔も水素吸蔵サイトになり得ることから、水素を液化温度まで冷却しない環境温度(例えば、77K)でも、現時点において水素の平衡圧力が10MPa(つまり、約100気圧)の下で9wt.%の最大水素吸蔵量を発揮することが可能である。
例えば、9wt.%の水素吸蔵特性を示す活性炭を燃料タンク(例えば、50Lタンク)に詰めた仮定すると、このタンクには25kgの活性炭を収容できる。そうすると、このタンク内の25kg分の活性炭に吸蔵可能な水素は、100気圧の圧力下で2.25kg(=25×0.09)であると試算される。一方、従来の水素の充填方法、例えば、常温(298K)下で同量(2.25kg)の水素を50L用高圧ボンベへそのまま充填することを仮定すると、理想気体の状態方程式に依れば、約550気圧という非常に高い圧力が必要となる。
要するに、本発明の水素吸蔵方法によれば、本発明の水素吸蔵材料に液体に近い状態で水素が貯蔵され、かつ、圧力に寄与する気体状態の水素が減少するため、水素タンクの圧力を低くし、かつ、多くの水素を貯蔵することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明に係る水素吸蔵方法の各工程を示したフローチャートである。
【図2】特に好ましい態様の炭化処理工程を説明した図である。
【図3】特に好ましい態様のアルカリ賦活処理工程を説明した図である。
【図4】本発明によって作製された多孔質炭素のミクロ孔の分布を示した図である。
【図5】本発明によって作製された多孔質炭素のメゾ孔の分布を示した図である。
【図6】水素吸蔵特性評価装置の概略を示した図である。
【図7】本発明によって作製された多孔質炭素の水素吸蔵特性(水素平衡圧力と水素吸蔵量との関係)を示した図である。
【図8】BET比表面積と最大水素吸蔵量との関係を示した図である。
【図9】ミクロ孔容積と最大水素吸蔵量との関係を示した図である。
【図10】ミクロ孔容積と水素吸蔵密度との関係、又はメゾ孔容積と水素吸蔵密度との関係を示した図である。
【図11】容積比と水素吸蔵密度との関係を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を図面に示す実施の形態に基づき説明するが、本発明は、下記の具体的な実施形態に何等限定されるものではない。
【0019】
(水素吸蔵方法)
先ず、炭素材料を多孔質化して水素を吸蔵させる水素吸蔵方法について詳しく説明する。図1は、本発明に係る水素吸蔵方法の各工程S1〜S4を示したフローチャートである。
【0020】
(炭化処理)
先ず、図1に示すように、炭素材料に炭化処理を施す(工程S1)。ここで、「炭化処理」とは、加熱によって炭素材料中の有機物質を分解して、炭素に富んだ状態にさせることを意味する。炭素材料を加熱させる手段として、燃焼装置、過熱水蒸気焼成装置、電気炉などが挙げられるが、必ずしもこれらに限定されない。
【0021】
(炭化材料の出発原料)
なお、炭素材料の出発原料として、廃コーヒー豆や籾殻、椰子殻等の植物由来の材料が挙げられるが、必ずしもこれらに限定されない。特に、籾殻や廃コーヒー豆は大量に排出される割にリサイクルが進んでいない産業廃棄物であるため、これらを有効利用することが望ましい。なお、籾殻は米の収穫によって排出される産業廃棄物である。日本における籾殻の年間排出量は約1300万トンと言われているが、この内の約30パーセントが土壌改質剤、肥料、暖房燃料として利用されているが、大半は廃棄されているのが現状である。
【0022】
なお、図2は、上述した炭化処理工程S1のうち特に好ましい態様を説明した図である。具体的には、図2(a)に特に好ましい態様の炭化処理工程S1のフローチャートを示し、図2(b)に工程S1で使用する燃焼装置1の一例を示し、図2(c)にこの燃焼装置1の回転式燃焼窯3を正面から観た図を示す。この特に好ましい炭化処理工程S1では、図2(a)〜(c)に示すように、出発原料としては籾殻を使用し、これを燃焼装置1のフィーダー2に投入する(工程S11)。その後、図2(c)に示すように、燃焼装置1の回転式燃焼窯3内で籾殻4aを回転させながら500℃〜600℃の温度で加熱(炭化)させる(工程S12)。ここで、回転式燃焼窯3内を籾殻4aが回転しながら通過する時間を30秒〜120秒(さらに好ましくは、60秒〜80秒)程度に設定することが好ましい。回転式燃焼窯3から燃焼装置1の外部へ排出された籾殻4bは、自然冷却させられながら回収容器5に回収される(工程S13、S14)。
【0023】
(アルカリ賦活処理)
次に、炭化処理工程S1により処理された炭素材料にアルカリ賦活を施す(工程S2)。なお、「賦活」とは一般に、炭素材料に細孔構造を発達させ多孔質化する処理のことを意味する。特に、「アルカリ賦活」とは、薬品賦活の一種であり、炭素材料にアルカリ金属化合物を添加し、これを不活性雰囲気中で500〜800℃で焼成し、微細孔を持つ多孔質炭素を作製する方法である。
【0024】
このアルカリ賦活処理工程S2では、触媒のアルカリ金属元素(例えば、カリウム(K))がC−C結合の壊裂・分解を引き起こすことによって炭素材料は多孔質化する。添加するアルカリ金属化合物には、水酸化カリウム(KOH)、水酸化ナトリウム(NaOH)、水酸化リチウム(LiOH)、炭酸カリウム(K2CO3)、炭酸ナトリウム(Na2CO3)が挙げられる。
【0025】
なお、KOHは、NaOHやLiOHに比べて触媒活性が高い点で好ましい。つまり、KOHは賦活プロセス中にカリウム(K)と水酸化物イオン(OH)とに分離し、直ちにカリウムKが炭素質のガス化反応の触媒として作用する。カリウムKは他のアルカリ金属と比較して、原子半径が大きく最外殻電子の束縛エネルギーが小さく、電気陰性度が低いため、ガス化反応の触媒としての能力が高い。また、植物由来の炭(炭素材料)にはカリウムKが本来数%以下程度含まれているので炭素材料との親和性の面からもKOHは好ましい。
【0026】
なお、図3は、上述したアルカリ賦活処理工程S2のうち特に好ましい態様を説明した図である。具体的には、図3(a)に特に好ましい態様の賦活工程S2のフローチャートを示し、図3(b)に工程S2で使用する賦活処理装置の一例を示し、図3(c)に賦活処理の際の昇温パターンを示す。図3(b)に示すように、炭化処理工程S1により炭化された炭素材料4bに、該炭素材料の重量比で1〜5倍量のアルカリ賦活剤11を添加し、ムライト製坩堝12に導入し、坩堝12の上部をセラミックスウール等の通気性蓋材13で覆うことで原料仕込みを行う(工程S21)。更に、炭素材料4bやアルカリ賦活剤11を含んだムライト製坩堝12を、このムライト製坩堝12の寸法より大きな内部空間を有するSiC製坩堝14に挿入した後、周囲を粒子炭15で覆った状態で図示しない電気炉にセットし、賦活工程を行う(工程S22)。ここで、工程S22は、図3(c)に示すように大気密閉状態で昇温速度8℃/min、850℃、2hの昇温条件で賦活を行うことが好ましい。その後、賦活された炭素材料4bを自然冷却させる(工程S23)。その後、炭素材料4bを洗浄した後、乾燥処理を行った後、回収する(工程S24及び工程S25)。
【0027】
(多段階賦活処理)
さらに、アルカリ賦活処理工程S2においては、炭化処理S1された一つの炭素材料4bに対して、異なる種類のアルカリ賦活剤(例えば、KOHとNaOH)を用いて多段階的にアルカリ賦活を施してもよい。これにより、各賦活剤の触媒活性等の違いから、孔径が異なる二種類以上の細孔を炭素材料4b内に形成することが可能になる。
【0028】
アルカリ金属化合物の添加量としては、炭素材料4bとの重量比で、好ましくは3〜8倍(さらに好ましくは約5倍)のアルカリ金属化合物を添加する。
【0029】
具体的に説明すると、炭素材料4bは多数のグラフェンからなるグラファイト層が多数積層されているが、アルカリ賦活処理工程S2はグラファイト層間に細孔(特に、ミクロ孔)の形成を促進することになる。
【0030】
(多孔質炭素材料の収容及び水素の導入)
以上のように作製された多孔質炭素を耐圧容器内に収容する(工程S3)。次に、この容器内部を水素の液化温度(20.3K)よりも高い77〜150Kの範囲内の温度に保持しながら、高圧の水素を該容器内部に導入する(工程S4)。ここで、水素導入後の平衡状態圧力が0.5〜20MPa(好ましく2〜12MPa)になるように水素を導入する。平衡状態圧力が0.5MPaより低いと多孔質炭素のミクロ孔に水素分子が十分に凝集・吸蔵されず、一方20MPaより高いと、過圧状態となり、多孔質炭素内での凝集・吸蔵性能が生かされない。
【0031】
なお、容器内部(すなわち、多孔質炭素と水素)の温度は、室温に近づいて高ければ高い程、多くの利点がある。すなわち、温度を維持するための電力が少なくて済むとともに、温度維持のための装置を小型化することが可能となり、貯蔵・輸送上の水素の取扱が容易となる。しかしながら、容器内の水素が、液化水素のように高い水素密度で多孔質炭素の細孔空間全体内に凝集されていなければならない。本発明者らの知見によれば、容器内の水素は液化温度に近い77〜150Kの温度に設定されていることが望ましく、これにより液化状態の水素密度に近い密度で吸蔵挙動を示すことが分かっている。
【0032】
以上説明した工程S1〜S4を実行することで、炭素材料4bから多孔質炭素を形成し、この多孔質層中の各細孔に水素を吸蔵することが可能になる。
【0033】
(多孔質炭素の細孔構造)
多孔質炭素の細孔直径dp(以下、単に「細孔径」、「孔径」、又は「径」とも呼ぶ。)は、一般に、広い分布を持っており、IUPAC(International Union of Pure and Applied Chemistry、国際純正・応用化学連合)では表1に示すような分類がなされている(詳しくは、IUPAC, Manual Symbols and Termilogy, (1972)を参照。)。表1に示すように、「ミクロ孔」とは2nm以下の径dpを有した孔のことであり、これより大きな孔は、メゾ孔(2〜50nmの径dpを有した孔)やマクロ孔(50nm以上の径dpを有した孔)と定義されている。
【0034】
【表1】
【0035】
従来技術によれば、上述したように、水素吸蔵に適している多孔質炭素の細孔はdpが2nm未満のミクロ孔であることが指摘されている。これは、ミクロ孔が、ガスや分子サイズの物質に対応した寸法であるため強い吸蔵力を発揮する水素吸蔵サイトになり、一方、ミクロ孔より大きなメゾ孔やマクロ孔は、多孔質炭素の外部からその最奥部のミクロ孔まで水素を案内するための導入通路と考えられているからである(非特許文献5)。
【0036】
本発明者らは、確かに、ミクロ孔は従来の上記知見のように水素吸蔵サイトとして有効であるが、従来、水素導入通路と考えられてきたメゾ孔が水素吸蔵サイトとして十分に機能することを発見した。そこで、本発明者らは、外部からの水素を、炭素中のミクロ孔のみならずメゾ孔にも吸蔵させることに適した多孔質炭素やこの多孔質炭素を用いて水素吸蔵させる方法を提供することを狙ったのである。
【0037】
本発明の多孔質炭素の細孔構造や多孔質炭素への水素吸蔵量を特定するに当たっては、例えば、以下に説明するような測定法を実施することで評価することが可能である。
【0038】
(比表面積の測定法)
本発明の多孔質炭素の比表面積の測定は、窒素ガスなどの吸着によって得られた吸着等温線から解析を行うBET吸着法(Brunauer、Emmet、及びTellerによって理論的に導出された測定法)を利用している。このBET吸着法によって測定された比表面積を以下、「BET比表面積」と呼ぶ。
【0039】
(ミクロ孔の細孔径の測定法)
また、多孔質炭素内のミクロ孔の細孔径(ポアサイズ)測定には、Mikhailらによって提案されたMicro−pore法(MP法)を利用している。MP法では、まずBET吸着法により得られた単分子吸着量を用いて吸着層の厚みt(及び標準t−plot)が算出され、その後、細孔の表面積及び容積が算出されて、細孔径dp(ポアサイズ)が導かれる。
【0040】
(メゾ孔の細孔径の測定法)
また、多孔質炭素内のメゾ孔の細孔径測定には、BJH(Berret−Joyner−Halenda)法を利用している。BJH法では、孔形状が円筒状であると仮定し、窒素ガスの吸着等温線からKelvin式に基づいて細孔径dpの分布を算出する方法である。
【0041】
(水素吸蔵量の測定法)
本発明の多孔質炭素の水素吸蔵量の測定には、容量法を利用している。容量法とは、一定体積の系内の水素量の変化を測定前後の圧力差、温度から求めるものである。具体的には、水素吸蔵合金の圧力−組成等温線(PCT線)を測定する方法(JIS H 7201)に準じて行われる方法であり、「ジーベルツ法」と呼ばれる。
【実施例】
【0042】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。なお、以下の実施例においては、賦活処理工程前及び賦活工程中の炭素原料を「炭素材料」、賦活工程後の炭素原料を「多孔質炭素」、「活性炭」或いは「水素吸蔵材料」と称する。
【0043】
表2に、本発明の実施例に係る多孔質炭素の作製条件の詳細を示す。実施例においては、炭素材料の出発原料として籾殻又は廃コーヒー豆を用い、表2に示すようにAC1乃至AC5と命名された5つの試料を用意した。
【0044】
【表2】
【0045】
(実施例:炭化処理工程S1)
AC1乃至AC3の試料については、籾殻を出発原料として、図2で説明した工程S11〜S14を含む炭化処理S1を行った。なお、この処理を行う燃焼装置として、籾殻燻炭製造機(株式会社武井建設製)を用い、加熱温度を500℃〜600℃、試料AC1〜AC3が回転式燃焼窯内を通過する時間を70秒間に設定して試料を炭化した(上述の工程S11〜S14を参照)。
【0046】
なお、AC4の試料の炭化処理S1については、出発原料である廃コーヒー豆を乾燥処理した後にガス賦活の一種である水蒸気賦活を施すことにした。具体的には、廃コーヒー豆を恒温乾燥機中で120℃、24h(hは時間)乾燥処理した。通気性のあるステンレス製容器に試料AC4を挿入した後、直径1.0mm程度の竹炭粒子で周囲を覆った状態で過熱水蒸気発生装置(第一高周波工業製)内に設置した。まず、水蒸気流量45g/minの雰囲気下で500℃、1〜3hで炭化を行った後、水蒸気流量45g/min、CO2ガス流量10l/minの雰囲気下で800℃、2hの水蒸気賦活を5回繰り返し行うことで炭素材料を調製した。
【0047】
また、AC5の試料については、既に炭化処理されている市販の籾殻を購入した。
【0048】
(実施例:アルカリ賦活工程S2)
炭化処理工程S1により炭化及び調製された炭素材料(試料AC1〜AC5)にアルカリ賦活剤として水酸化カリウム(ナカライテスク製:KOH)を添加し、熱処理によって多孔質炭素を調製した(上述の工程S21〜S24を参照)。まず、炭素材料5.0gに該炭素材料の重量比で1〜5倍量のKOHを添加した後(表2を参照)、ムライト製ルツボに導入し、上部をセラミックスウールで覆った。更に、SiC製坩堝に挿入した後、周囲を粒子炭で覆った状態で電気炉にセットし、大気密閉状態で昇温速度8℃/min、850℃、2hの条件でアルカリ賦活処理S2を行った。アルカリ賦活工程S2後、蒸留水による洗浄を行った後、恒温乾燥機中で100℃、24hの条件で乾燥処理して多孔質炭素を得た。
【0049】
なお、表3にアルカリ賦活工程S2を施した後の多孔質炭素の細孔構造を上述の測定手法によって評価した結果を示す。この表3から明らかなように、上述の炭化処理工程S1及びアルカリ賦活処理工程S2の条件を変化させることにより、比表面積、ミクロ孔容積、メゾ孔容積、平均細孔直径などが異なる活性炭(多孔質炭素)を合成(作製)できることが分かる。
【0050】
【表3】
【0051】
(多孔質炭素のミクロ孔の細孔径分布)
図4(a)に、上記試料AC1〜AC3において、MP法から算出したミクロ孔の細孔径分布と細孔容積を示す。図4(a)の横軸には細孔径dp(単位:nm)を示し、縦軸には細孔径dpの微小変化d(dp)に対応した細孔容積Vの変化量dVpを示している。この結果から、KOHの添加量が1倍と少ない試料AC1においても、0.6nm付近の細孔径dpを有したミクロ孔が形成されていることが分かる。さらに、試料AC2、AC3の結果より、KOHの添加量を3倍、5倍と増加させるに従って、0.6nmの径のミクロ孔以外にも、0.6nmより大きな径(例えば、1.0nm、1.2nm、1.5nm)の細孔が形成されていることが分かる。KOHの添加量の増加により、賦活量が増加し、その結果として、ミクロ孔自体の孔径dpの拡大やミクロ孔同士の連結が起こっていると考えられる。
【0052】
図4(b)に、上記試料AC3〜AC5において、MP法から算出したミクロ孔の細孔径分布と細孔容積を示す。これらの試料AC3〜AC5は、出発原料の種類と炭化処理S1での処理方法が上述のように異なっているが、アルカリ賦活処理工程S2でのKOHの添加量についてはどの試料も5倍である。
【0053】
図4(b)に示すように、試料AC4,試料AC5も試料AC3と同様に、0.6nmの孔径dpの他、これより大きなサイズの1.0nm〜1.2nmの程度の孔径dpで顕著な細孔容積が確認される。特に試料AC3の場合は、メゾ孔との境界値である2nmまでミクロ孔の発達が確認される。従って、5倍量のKOHの添加によって、多孔質炭素内により広い孔径分布を有したミクロ孔が発達することが分かった。
【0054】
(多孔質炭素のメゾ孔の細孔径分布)
図5(a)に、上記試料AC1〜AC3において、BJH法から算出したメゾ孔の細孔径分布と細孔容積を示す。図5(a)の横軸及び縦軸の表示方法は上述の図1、2の表示方法と同様である。この図5(a)の結果から、孔径dpが2nm〜10nmの範囲のメゾ孔が試料AC1〜AC3中の多孔質層に形成・発達していること及びKOHの添加量の増加に従い、より大きな孔径dpのメゾ孔の発達(これに対応した容積の増加)が確認される。
【0055】
図5(b)に、上記試料AC3〜AC5において、BJH法から算出したメゾ孔の細孔径分布と細孔容積を示す。図5(b)に示すように、試料AC4,試料AC5でも試料AC3と同様に、孔径dpが2nm〜10nmの範囲のメゾ孔の発達が確認されるが、試料AC3の場合と比較して顕著ではない。
【0056】
(ミクロ孔とメゾ孔との容積比)
上述したように、試料AC1〜AC5においては、メゾ孔発達の程度が異なっていた為、ミクロ孔の容積に対するメゾ孔の容積の割合を算出してみた(以下の数式を参照)。これらの結果は表3に示されている。表3の結果によれば、試料AC1〜AC3の場合は比較的高い容積比を有し、特にAC3の場合は0.866とミクロ孔とほぼ同等の容積量を有する。一方、試料AC4やAC5の場合は、試料AC3と同じKOH添加量を与えて作製されているが、試料AC3の場合のような高い容積比は得られていない。これは、出発原料の種類や炭化処理工程S1の処理方法の違いが細孔構造の形成に影響を与えていると考えられる。
【0057】
【数1】
【0058】
(水素吸蔵特性評価)
以上のようにして作製された多孔質炭素の水素吸蔵特性を上記ジーベルツ法により評価した。図6に水素吸蔵特性評価装置の概略を示す。多孔質炭素(試料AC1〜AC5)を約0.1〜0.5g充填した容器をマントルヒーターにより150℃に加熱し、ターボ分子ポンプとロータリーポンプにより1.0×10−3Paの減圧下にて1hの脱ガス処理を行った。脱ガス処理後、容器を恒温槽(液体窒素を満たしたデュワー瓶)に浸漬させ多孔質炭素を77Kに7分間保持した。
【0059】
水素吸蔵量の測定は、図6の導入バルブV1を開放して導入バルブV2を閉鎖し、水素導入室に水素を導入する。水素導入室の圧力が一定になったら導入バルブV2を解放して容器に水素を導入し、水素導入室と容器の圧力変化を測定した。水素導入室および容器の平衡圧力を0.5MPaから10.0MPaへと導入圧力を段階的に加圧することで吸蔵特性を測定し、さらに10.0MPaから0.5MPaへと導入圧力を段階的に減圧し、放出特性を測定することで水素吸蔵量を評価した。得られた水素吸蔵量から、Zuttelらの水素吸着理論式を用いて水素密度を算出した。
【0060】
(水素吸蔵特性結果)
図7(a)は試料AC1〜AC3に係る水素吸蔵特性を示し、一方、図7(b)は試料AC3〜AC5に係る水素吸蔵特性を示した図である。なお、各図の横軸は水素導入時の平衡圧力(単位はMPa)であり、縦軸は水素吸蔵量(単位はwt.%(重量パーセント))である。
【0061】
図7(a)の結果によれば、試料AC1や試料AC2の場合は、平衡圧力の増加とともに水素吸蔵量も急激に増加するが、ある圧力で最大となり、その後ほぼ一定あるいは若干低下することが確認される。具体的には、試料AC1の場合は約2MPaで最大水素吸蔵量が0.89wt.%を観測し、試料AC2の場合は約3MPaで最大水素吸蔵量が3.98wt.%を観測した。これに対して、試料AC3の場合は、この平衡圧力の範囲(0.5MPa〜10.0MPa)内では、平衡圧力の増加とともに水素吸蔵量も増加し続け、約10MPaの圧力下にて、最大水素吸蔵量が9.0wt.%を観測した。
【0062】
また、図7(b)の結果によれば、試料AC4や試料AC5の場合は、平衡圧力の増加とともに水素吸蔵量も急激に増加するが、ある圧力で最大となり、その後ほぼ一定あるいは若干低下することが確認される。具体的には、試料AC4の場合は約2MPaで最大水素吸蔵量が3.35重量パーセント(wt.%)を観測し、試料AC5の場合は約3.47MPaで最大水素吸蔵量が4.80wt.%を観測した。以上の結果をまとめたものが、以下の表4である。
【0063】
【表4】
【0064】
なお、いずれの試料AC1〜AC5の結果においても、平衡圧力を低圧から高圧に増加させた場合と高圧から低圧に減少させた場合との間に若干のヒステリシスを確認されたが、どちらの方向から変化させても同様のプロファイルを確認した。
【0065】
(比表面積と水素吸蔵量との関係)
上述の表3の測定結果と表4の測定結果とから、BET比表面積と最大水素吸蔵量との対応関係が明らかになり、この関係を図8に示す。なお、BET比表面積の測定には、高精度ガス/蒸気吸着測定装置(日本ベル株式会社製(装置名:BELSORP‐max1‐SPNG)を使用した。図8の結果から、多孔質炭素の最大水素吸蔵量は、BET比表面積の増加とともに指数関数的に増大することが確認される。比表面積と水素吸蔵量との対応関係が更に高いBET比表面積でも維持されると仮定した場合、BET比表面積3000m2/g以上の多孔質炭素を形成できれば、15wt.%の水素吸蔵量が達成できることが見込まれる。
【0066】
(水素吸蔵密度)
従来の考え方を基に、水素が多孔質炭素中のミクロ孔のみに全て吸蔵されたと仮定して、Zuttelらによって提案された理論式により水素吸蔵密度を算出した。なお、理論式の詳細は、Zuttel et al., Appl. Phys. A 78 (2004) p.941を参照されたい。上述の表4に水素吸蔵密度の結果も示す。ところで、液体水素の理想的な密度は70.8mg/cm3である。試料AC3の場合に算出された水素吸蔵密度は、上記理想値の約2倍に相当する145mg/cm3を示した。
【0067】
(ミクロ孔容積と水素吸蔵量との関係)
図9は、図8に使用したBET比表面積に代えてミクロ孔容積を横軸に取り、縦軸にその最大水素吸蔵量を示す。この図9に示すように、多孔質炭素の最大水素吸蔵量は、ミクロ孔容積の増加とともに増大することが分かる。加えて、ミクロ孔容積が約1.2(cm3/g)程度までは直線的に増加しているが、ミクロ孔容積がこれより大きくなると急激に水素吸蔵量が増大していることが分かる(例えば、ミクロ孔容積が約1.81(cm3/g)では最大水素吸蔵量が9.0wt.%である。)。この結果は、ミクロ孔容積以外の構造パラメータが影響を及ぼしていることを示唆している。
【0068】
(ミクロ孔容積と水素吸蔵密度との関係)
図10(a)は、ミクロ孔容積(表3を参照)と水素吸蔵密度(表4を参照)との関係を示す。ここで、図中に示した横軸に対して平行な破線は、液体水素の理想的な密度の値(70.8mg/cm3)を示す(後述の図10(b)及び図11の破線表示も同様である。)。図9の結果と同様に、ミクロ孔容積の増加に伴って、水素吸蔵密度も増加する傾向を示した。ミクロ孔容積約1.2(cm3/g)から急激に水素吸蔵密度が増大した。ミクロ孔よりも大きな細孔(メゾ孔、マクロ孔)にも水素が吸蔵されている可能性が示唆される。
【0069】
(メゾ孔容積と水素吸蔵密度との関係)
次に、メゾ孔容積と水素吸蔵密度との比較を行った。図10(b)は、メゾ孔容積(表3を参照)と水素吸蔵密度(表4を参照)との関係を示す。多孔質炭素のメゾ孔容積の増加に伴って、水素吸蔵密度も増加する傾向が確認された。
【0070】
(容積比と水素吸蔵密度との関係)
図11は、ミクロ孔容積に対するメゾ孔容積の容積比(表3及び数1を参照)と水素吸蔵密度(表4を参照)との関係を示す。この容積比の増加に伴って、水素吸蔵密度も増加する傾向が確認された。つまり、ミクロ孔容積に対してメゾ孔容積の比率が大きくなると、水素吸蔵量も増大することが示された。特に、容積比が0.5以上(特に、0.86以上)になると著しく高い水素吸蔵量が得られることが分かる。この結果から、ミクロ孔にのみならずメゾ孔にも気化状態の水素が吸蔵しており、メゾ孔も水素吸蔵サイトとして有望であることが示唆される。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明は、燃料電池自動車の高性能化、これに関連する水素の製造、貯蔵、輸送技術に貢献できるものと考えられる。なお、本発明の水素吸蔵方法は、現時点において本発明者らが先に特許文献1にて提案した水素吸蔵方法よりも更に高い水素吸蔵特性を提供できることを実証している。
【0072】
また、近年、水素を液化状態で貯蔵する水素ステーション構想が提唱されているが、絶対温度20.3Kの下で水素を冷却・管理する必要があること、液化水素から発生する水素ガスを一時的に貯蔵しておくバッファーのような装置が必要とされることが課題として挙げられている。本発明を上記技術構想に適用すれば、必ずしも水素温度を液化温度に設定しなくてもよく(より室温に近付けた温度に設定すればよく)、水素貯蔵用のバッファー装置もより実現し易くなるものと考えられる。
【0073】
以上のように、本発明は産業上の利用可能性が非常に高い。
【符号の説明】
【0074】
S1 炭素材料に炭化を施す工程
S2 炭素材料にアルカリ賦活を施す工程
S3 多孔質炭素を容器内に収容する工程
S4 水素を容器内部に導入する工程
dp 細孔の直径
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素材料に炭化を施す工程と、
前記炭化工程により処理された前記炭素材料にアルカリ賦活を施す工程と、
前記アルカリ賦活工程により作製された多孔質炭素を容器内に収容する工程と、
前記容器内部を77K〜150Kの範囲内の温度に保持しながら、平衡状態圧力が0.5MPa〜20MPaになるように水素を該容器内部に導入する工程と、を含み、かつ、
前記多孔質炭素として、複数のミクロ孔と複数のメゾ孔とを含み、前記多孔質炭素の全体の比表面積が700m2/g〜3800m2/gであり、かつ、該メゾ孔は、2nm〜10nmの範囲の孔径を有する多孔質炭素を使用することを特徴とする水素吸蔵方法。
【請求項2】
前記炭化工程では、前記炭素材料に籾殻を使用し、かつ、前記炭素材料を燃焼窯内で回転させながら加熱する工程を含むことを特徴とする請求項1に記載の水素吸蔵方法。
【請求項3】
前記アルカリ賦活工程では、前記炭素材料との重量比で3倍〜8倍のアルカリ賦活剤を添加することを特徴とする請求項1又は2に記載の水素吸蔵方法。
【請求項4】
前記アルカリ賦活剤として、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、炭酸カリウム、炭酸ナトリウムの少なくとも1つを使用することを特徴とする請求項3に記載の水素吸蔵方法。
【請求項5】
前記アルカリ賦活工程では、前記アルカリ賦活剤を使用して賦活工程を行った後に、先の前記賦活工程の該アルカリ賦活剤と異なる種類の前記アルカリ賦活剤を使用して賦活工程を複数回行うことを特徴とする請求項3又は4に記載の水素吸蔵方法。
【請求項6】
前記多孔質炭素として、前記ミクロ孔が占めるミクロ孔容積に対して前記メゾ孔が占めるメゾ孔容積の比率が0.5以上になる多孔質炭素を使用することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の水素吸蔵方法。
【請求項7】
複数のミクロ孔と複数のメゾ孔とを含んだ多孔質炭素からなり、
前記多孔質炭素の全体の比表面積が700m2/g〜3800m2/gであり、かつ、
該メゾ孔は、2nm〜10nmの範囲の孔径を有することを特徴とする水素吸蔵材料。
【請求項8】
前記多孔質炭素は籾殻を炭化処理した後にアルカリ賦活処理を施したものであり、かつ、
前記ミクロ孔が占めるミクロ孔容積に対して前記メゾ孔が占めるメゾ孔容積の比率が0.5以上に設定されたものであることを特徴とする請求項7に記載の水素吸蔵材料。
【請求項1】
炭素材料に炭化を施す工程と、
前記炭化工程により処理された前記炭素材料にアルカリ賦活を施す工程と、
前記アルカリ賦活工程により作製された多孔質炭素を容器内に収容する工程と、
前記容器内部を77K〜150Kの範囲内の温度に保持しながら、平衡状態圧力が0.5MPa〜20MPaになるように水素を該容器内部に導入する工程と、を含み、かつ、
前記多孔質炭素として、複数のミクロ孔と複数のメゾ孔とを含み、前記多孔質炭素の全体の比表面積が700m2/g〜3800m2/gであり、かつ、該メゾ孔は、2nm〜10nmの範囲の孔径を有する多孔質炭素を使用することを特徴とする水素吸蔵方法。
【請求項2】
前記炭化工程では、前記炭素材料に籾殻を使用し、かつ、前記炭素材料を燃焼窯内で回転させながら加熱する工程を含むことを特徴とする請求項1に記載の水素吸蔵方法。
【請求項3】
前記アルカリ賦活工程では、前記炭素材料との重量比で3倍〜8倍のアルカリ賦活剤を添加することを特徴とする請求項1又は2に記載の水素吸蔵方法。
【請求項4】
前記アルカリ賦活剤として、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、炭酸カリウム、炭酸ナトリウムの少なくとも1つを使用することを特徴とする請求項3に記載の水素吸蔵方法。
【請求項5】
前記アルカリ賦活工程では、前記アルカリ賦活剤を使用して賦活工程を行った後に、先の前記賦活工程の該アルカリ賦活剤と異なる種類の前記アルカリ賦活剤を使用して賦活工程を複数回行うことを特徴とする請求項3又は4に記載の水素吸蔵方法。
【請求項6】
前記多孔質炭素として、前記ミクロ孔が占めるミクロ孔容積に対して前記メゾ孔が占めるメゾ孔容積の比率が0.5以上になる多孔質炭素を使用することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の水素吸蔵方法。
【請求項7】
複数のミクロ孔と複数のメゾ孔とを含んだ多孔質炭素からなり、
前記多孔質炭素の全体の比表面積が700m2/g〜3800m2/gであり、かつ、
該メゾ孔は、2nm〜10nmの範囲の孔径を有することを特徴とする水素吸蔵材料。
【請求項8】
前記多孔質炭素は籾殻を炭化処理した後にアルカリ賦活処理を施したものであり、かつ、
前記ミクロ孔が占めるミクロ孔容積に対して前記メゾ孔が占めるメゾ孔容積の比率が0.5以上に設定されたものであることを特徴とする請求項7に記載の水素吸蔵材料。
【図1】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【公開番号】特開2013−112572(P2013−112572A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−261064(P2011−261064)
【出願日】平成23年11月29日(2011.11.29)
【出願人】(304021288)国立大学法人長岡技術科学大学 (458)
【出願人】(501022918)株式会社ヒューズ・テクノネット (2)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年11月29日(2011.11.29)
【出願人】(304021288)国立大学法人長岡技術科学大学 (458)
【出願人】(501022918)株式会社ヒューズ・テクノネット (2)
【Fターム(参考)】
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