説明

水素吸蔵方法

【課題】一般的に知られている理論値を超えて、水素吸蔵合金が有する水素の最大吸蔵量まで吸蔵させることができる水素吸蔵方法を提供する。
【解決手段】雰囲気中の圧力を上昇させながら水素吸蔵合金を水素化する水素化工程と、雰囲気中の圧力を下降させながら水素化された水素吸蔵合金を脱水素化する脱水素化工程とを備え、前記水素化工程にて、前記水素吸蔵合金と水素との原子量比で算出される水素吸蔵率を理論値として予め求め、前記水素吸蔵合金が前記水素を前記理論値まで吸蔵したときの圧力を第1の圧力値として設定し、該第1の圧力値の10倍以上の圧力値を第2の圧力値として設定し、該第2の圧力値まで圧力を上昇させ、前記脱水素化工程にて、前記第2の圧力値から前記第1の圧力値以下まで前記圧力を下降させ、前記水素化工程及び前記脱水素化工程を繰り返す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素吸蔵合金、特に薄膜化された水素吸蔵合金を用いた水素吸蔵方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水素センサが特許文献1に開示されている。この水素センサは、水素を吸蔵する合金を薄膜化している。そして、水素が吸蔵されると合金の光学的反射率が変化することを利用して、水素の吸蔵を検知できるものとしている。
【0003】
このような水素を吸蔵する合金は、センサのみならず、水素蓄電池の電極としても利用できる。電極として用いた場合は、なるべく多くの水素を吸蔵できることが好ましい。しかしながら、水素吸蔵合金には水素を吸蔵できる理論値というものがあり、一般的にこの理論値を超えて水素が吸蔵されることは知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−210242号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記従来技術を考慮したものであり、一般的に知られている理論値を超えて、水素吸蔵合金が有する水素の最大吸蔵量まで吸蔵させることができる水素吸蔵方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するため、本発明では、雰囲気中の圧力を上昇させながら水素吸蔵合金を水素化する水素化工程と、雰囲気中の圧力を下降させながら水素化された水素吸蔵合金を脱水素化する脱水素化工程とを備え、前記水素化工程にて、前記水素吸蔵合金と水素との原子量比で算出される水素吸蔵率を理論値として予め求め、前記水素吸蔵合金が前記水素を前記理論値まで吸蔵したときの圧力を第1の圧力値として設定し、該第1の圧力値の10倍以上の圧力値を第2の圧力値として設定し、該第2の圧力値まで圧力を上昇させ、前記脱水素化工程にて、前記第2の圧力値から前記第1の圧力値以下まで前記圧力を下降させ、前記水素化工程及び前記脱水素化工程を繰り返すことを特徴とする水素吸蔵方法を提供する。
【0007】
また、前記水素吸蔵合金はnm単位の粒径であることを特徴としている。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、水素化工程と脱水素化工程とを繰り返すことにより、理論値を超えて水素吸蔵合金に水素が吸蔵されることができる。
【0009】
また、nm単位、具体的には5nm以下の粒径である水素吸蔵合金を用いることにより、第1の圧力値を低くすることができるので、これに伴い第2の圧力値も低くなり、したがって水素吸蔵のために過大な圧力を加えることが不要となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明に係る水素吸蔵方法を行ったときの水素吸蔵量と圧力との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1は水素吸蔵合金としてMg6Niを用いた例を示している。具体的には、アラミドフィルム基板150mm×150mmに対し、Mg6Niを両面にスパッタしたものを4枚用意した。この水素吸蔵合金を30℃の環境下で水素雰囲気中にさらし、水素化工程と脱水素化工程とを繰り返し行った。水素化工程は、雰囲気中の圧力を上昇させて行われる(図1の実線)。そして、脱水素化工程は、雰囲気中の圧力を下降させて行われる(図1の点線)。
【0012】
本発明では、水素化工程にて、第1圧力値と第2圧力値とを設定する。第1圧力値を設定するに際し、予め水素吸蔵合金が水素を吸蔵できる理論値を予め求めておく。この理論値は、水素吸蔵合金と水素との原子量比で算出することができる。例えば、水素吸蔵合金がMg2Niの場合、理論的にはHを4個吸蔵するので反応式は以下のようになる。
【0013】
Mg2Ni+2H2→Mg2NiH4
【0014】
Mgの原子量は24.3050であり、Niの原子量は58.6934であり、Hの原子量は1.00794である。したがって、Mg2NiH4中におけるMg2Niと水素との原子量比たる割合は、
((1.00794×4)/(24.3050×2)+58.6934)×100
で表すことができ、その値は約3.76(wt%)となる。このように、水素吸蔵合金に応じた水素吸蔵率を理論値として予め求めておく。
【0015】
また、水素吸蔵合金がMg6Niの場合は、反応式が以下のようになる。
【0016】
Mg6Ni+6H2→Mg2NiH12
【0017】
したがって、Mg6NiH12中におけるMg6Niと水素との原子量比たる割合は、((1.00794×12)/(24.3050×6)+58.6934)×100
で表すことができ、5.91(wt%)となる。
【0018】
この理論値まで水素が吸蔵されたときの圧力を第1の圧力値として設定する。図1では、理論値が4.5wt%のとき圧力は0.1MPaである。これが第1の圧力値となる。第2の圧力値は、この第1の圧力値の10倍以上の値として設定される。図1の例では第1の圧力値の20倍である2MPaを第2の圧力値として設定している。
【0019】
この第2の圧力値まで圧力を上昇させる。具体的には、第1の圧力値を超えてさらに昇圧すると、理論値を超えてさらに水素が吸蔵され、所定圧力値(図1の例では0.3MPa程度)で水素吸蔵率がほぼ一定となる(図1の例では約6.2wt%)。この状態でさらに第2の圧力値まで昇圧する。
【0020】
第2の圧力値まで昇圧した後、脱水素化工程を行う。具体的には、雰囲気中の圧力を第2の圧力値から第1の圧力値以下まで圧力を降下させる。図1の例では、第1の圧力値の1/10である0.01MPaまで降圧させている。ここで注目すべきは、第1の圧力値を下回った当たりから、水素が再吸蔵されている点である。したがって、最終的に降圧させた0.01MPaでは、約4.5wt%の水素が吸蔵されている。
【0021】
そして再び水素化工程を繰り返すと、さらに水素が吸蔵される。2回目の水素化工程においても、第2の圧力値まで昇圧する。そして2回目の脱水素化工程においても、1回目の脱水素化工程と同様の圧力まで降圧させる。これを繰り返すことにより、徐々に水素が水素吸蔵合金に吸蔵され、最終的にグラフとして安定した軌跡を描くようになる。すなわち、水素化工程での水素吸蔵率と圧力との関係を示すグラフが、脱水素化工程でのグラフと略一致する。このときに第1の圧力値に合せると、略20wt%の水素を吸蔵することができている。
【0022】
つまり、本発明によれば、水素化工程と脱水素化工程とを繰り返すことにより、理論値を超えて水素吸蔵合金に水素が吸蔵されることができ、これを実験にて確認した。
【0023】
なお、本実験では、水素吸蔵合金としてnm単位の粒径からなるものを用いた。具体的には5nm以下の粒径である水素吸蔵合金を用いた。このように粒径を小さくすることで、第1の圧力値を低くすることができるので、これに伴い第2の圧力値も低くなり、したがって水素吸蔵のために過大な圧力を加えることが不要となる(低圧環境下での水素吸蔵の実現が達成できる)。さらに、雰囲気中の温度も低く設定することができる。さらに、吸蔵のための時間も短縮することができる。具体的には、従来120分〜160分かかっていた水素化工程及び脱水素化工程を90分程度でともに終えることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
雰囲気中の圧力を上昇させながら水素吸蔵合金を水素化する水素化工程と、
雰囲気中の圧力を下降させながら水素化された水素吸蔵合金を脱水素化する脱水素化工程と
を備え、
前記水素化工程にて、前記水素吸蔵合金と水素との原子量比で算出される水素吸蔵率を理論値として予め求め、前記水素吸蔵合金が前記水素を前記理論値まで吸蔵したときの圧力を第1の圧力値として設定し、該第1の圧力値の10倍以上の圧力値を第2の圧力値として設定し、該第2の圧力値まで圧力を上昇させ、
前記脱水素化工程にて、前記第2の圧力値から前記第1の圧力値以下まで前記圧力を下降させ、
前記水素化工程及び前記脱水素化工程を繰り返すことを特徴とする水素吸蔵方法。
【請求項2】
前記水素吸蔵合金はnm単位の粒径であることを特徴とする請求項1に記載の水素吸蔵方法。

【図1】
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【公開番号】特開2013−100193(P2013−100193A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−244373(P2011−244373)
【出願日】平成23年11月8日(2011.11.8)
【出願人】(391064005)株式会社アツミテック (39)
【Fターム(参考)】