説明

水素吸蔵炭素材料

【課題】水素吸蔵能が向上した水素吸蔵炭素材料を提供する。
【解決手段】本発明に係る水素吸蔵炭素材料は、全細孔容積が0.5cm/g以上であり、単位重量当たりの全ミクロ孔容積に対する全メソ孔容積の比が5以上である。また、前記水素吸蔵炭素材料は、窒素含有量が0.5重量%以上、20重量%未満であることとしてもよい。また、前記水素吸蔵炭素材料を三極式における作用極に用いたクロノポテンショメトリーによる電気化学測定において、前記水素吸蔵炭素材料に対するカソード電流を1000mA/gで保持した際の安定電位が−1.28V以上であることとしてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素吸蔵炭素材料に関し、特に、水素吸蔵能が向上した炭素材料に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池自動車等における水素貯蔵システムへの応用が期待される水素吸蔵材料としては、例えば、合金の使用が検討されている。しかしながら、水素吸蔵合金を使用する場合、水素吸蔵能力が不十分であり、また、使用する金属の種類によっては、耐久性が低いだけでなく、価格や埋蔵量の点で問題がある。
【0003】
これに対し、資源の枯渇がなく、比較的安価である炭素材料の使用が検討されている。例えば、特許文献1には、炭素層間の平均距離を0.5nm以上に拡大することにより、当該炭素層間に水素を保持させて水素吸蔵量を増加させた炭素材料が記載されている。また、特許文献2には、0.3nm以上、1.5nm以下の細孔直径を有することにより水素吸蔵量が増加した活性炭素材料が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−41742号公報
【特許文献2】特開2003−171111号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、これまで検討されてきた炭素材料の水素吸蔵能は、水素吸蔵材料として実用化する上では十分なものとはいえなかった。
【0006】
これに対し、本発明の発明者らは、炭素材料の構造に関し、特に、(1)水素分子を吸着するのに適した細孔構造、及び(2)水素分子の解離反応に適した炭素表面、の2点に着目した。そして、本発明者らは、独自に鋭意検討を重ねた結果、特定の構造を有する炭素材料が高い水素吸蔵能を示すことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、上記課題に鑑みて為されたものであり、水素吸蔵能が向上した水素吸蔵炭素材料を提供することをその目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための本発明の一実施形態に係る水素吸蔵炭素材料は、全細孔容積が0.5cm/g以上であり、単位重量当たりの全ミクロ孔容積に対する全メソ孔容積の比が5以上であることを特徴とする。本発明によれば、水素吸蔵能が向上した水素吸蔵炭素材料を提供することができる。
【0009】
また、前記水素吸蔵炭素材料は、窒素含有量が0.5重量%以上、20重量%未満であることとしてもよい。こうすれば、水素吸蔵能がより向上した水素吸蔵炭素材料を提供することができる。また、前記水素吸蔵炭素材料は、当該水素吸蔵炭素材料を三極式における作用極に用いたクロノポテンショメトリーによる電気化学測定において、作用極である当該水素吸蔵炭素材料に対するカソード電流を1000mA/gで保持した時の安定電位が−1.28V以上であることとしてもよい。こうすれば、水素吸蔵能がさらに効果的に向上した水素吸蔵炭素材料を提供することができる。なお、本発明における安定電位とは、電流を1000mA/gで保持した際、ある時点での電位と、その10000秒後の電位との差が、電流を流し始めてから初めて±0.002V未満となったときの、その最低電位のことをいう。また、前記水素吸蔵炭素材料は、有機物、金属及び炭素化材料を含む原料の炭素化により得られることとしてもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、水素吸蔵能が向上した水素吸蔵炭素材料を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施形態に係る実施例において炭素材料の特性を評価した結果の一例を示す説明図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る実施例においてクロノポテンショメトリーによる電気化学測定を行った結果の一例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明の一実施形態について説明する。なお、本発明は本実施形態に限られるものではない。
【0013】
まず、本発明の発明者らの着眼点について説明する。炭素材料による水素吸蔵機構は、材料表面への水素分子の吸着である。したがって、炭素表面に水素を吸着し易く、且つ吸着した水素を保持するのに適した細孔構造を有する炭素材料が水素吸蔵材料として適していると考えられる。
【0014】
そこで、本発明者らは、特に、(1)炭素材料が水素分子を吸着するのに適した細孔構造をもつこと、及び(2)当該炭素材料の炭素表面において水素分子の解離反応が効率よく起こること、の2点に着目し、独自に鋭意検討を重ねた結果、上記の水素吸蔵機構に基づく水素吸蔵能を最大限発揮する炭素材料を見出した。
【0015】
ここで、上記(1)の点について説明する。炭素材料においては、当該炭素材料に存在する細孔(直径100nm未満)が、水素分子の吸着部位として機能する。したがって、炭素材料の全細孔容積が大きくなるにつれて、当該炭素材料の水素吸蔵能は高くなる傾向がある。しかしながら、全細孔容積だけではなく、細孔のサイズ分布によっても炭素材料の水素吸蔵能は大きく変わり得る。
【0016】
そこで、本発明者らは、これらの点に着目して独自に鋭意検討を重ねた結果、全細孔容積が0.5cm/g以上であり、単位重量当たりの全ミクロ孔容積に対する全メソ孔容積の比(以下、「メソ/ミクロ比」という。)が5以上である炭素材料が、優れた水素吸蔵能を有することを見出した。
【0017】
なお、本発明において、ミクロ孔は直径が2nm未満の細孔であり、メソ孔は直径が2nm以上、50nm以下の細孔である。また、全細孔容積は、例えば、窒素ガスを用いたBET法における最大吸着量に基づいて算出することができる。全メソ孔容積は、例えば、BJH法により算出することができる。全ミクロ孔容積は、例えば、MP法により算出することができる。
【0018】
従来、炭素材料は、ミクロ孔を多く含むほど(例えば、メソ/ミクロ比が小さいほど)水素吸蔵に有利と認識されていたが、本発明者らが独自に検討したところ、意外にも、メソ/ミクロ比の大きな炭素材料が高い水素吸蔵能を示した。
【0019】
この理由は明らかではないが、例えば、炭素材料の細孔に水素が入り込み、当該水素が当該細孔の表面に吸着されるという作用機序を考えると、ミクロ孔よりもメソ孔の方が水素の吸着平衡に達するのが早いために、メソ/ミクロ比の大きな炭素材料が高い水素吸蔵能を示すと推測される。
【0020】
水素吸蔵炭素材料の全細孔容積は、1.0cm/g以上であることが好ましく、1.5cm/g以上であることがより好ましい。炭素材料の全細孔容積が0.5cm/g未満である場合には、当該炭素材料は、十分な水素吸蔵能を有することができない。
【0021】
メソ/ミクロ比は、10以上であることが好ましく、15以上であることがより好ましい。炭素材料のメソ/ミクロ比が5未満である場合には、当該炭素材料は、十分な水素吸蔵能を有することができない。
【0022】
次に、上記(2)の点について説明する。気相における水素の炭素への吸着に関しては、温度が非常に高い(例えば、1000℃以上)場合には、下記式(I)で示されるような水素の解離平衡が成り立つ。
【化1】

【0023】
この場合、例えば、グラファイトのように化学的に安定で常温よりも低い温度帯では水素との化学的な反応が見られない炭素材料においても、下記式(IIa)及び式(IIb)に示すような水素の吸着が起こることが報告されている(Yu S Nechaev, O K Alexeeva On the nature, capacity and reversibility of hydrogen storage in novel carbon nanomaterials for mobile power units. International Journal of Hydrogen Energy 28 2003; 1433-1443、Atsumi H, Tokura S, Miyake M Adsorption and desorption of deuterium on graphite at elevated temperatures. J Nucl Mater 1988;155-157:241-5)。
【化2】

【化3】

【0024】
高温においては、上記式(I)に示す平衡状態は容易に達成され、上記式(IIa)及び式(IIb)に示す解離した水素の炭素への吸着が反応律速段階となる。しかし、実用的に水素吸蔵を行う温度領域(例えば、室温付近)においては、自発的な水素の解離反応はほとんど起こらず、解離反応に対して反応活性があるサイトの存在によって解離吸着平衡が達成される。
【0025】
本発明に係る炭素材料において、水素に対する反応活性サイトは炭素由来であると考えられるので、上記式(I)、式(IIa)及び式(IIb)の反応は下記式(III)のように示される。この式(III)に示す平衡は炭素材料の反応性によって支配されている。
【化4】

【0026】
一方、水素の吸着を含む上記式(III)と類似の電気化学反応は下記式(IV)で与えられる。この反応は、クロノポテンショメトリーによる電気化学測定において過渡領域後に見られる安定した電位を示す領域において平衡になっていると考えられる。
【化5】

【0027】
このとき、上記式(IV)の平衡定数Kは活量を用いて,下記式(V)のように表わされる。
【数1】

【0028】
さらに、平衡定数Kは標準反応ギブスエネルギーΔを用いて下記式(VI)のように表わされる。ここで、下記式(VI)において、Rは気体定数であり、Tは温度(K)である。
【数2】

【0029】
さらに、標準反応ギブスエネルギーは電極電位Eを用いて下記式(VII)のように表すことができる。ここで、下記式(VII)において、νは上記式(IV)に示す反応における反応関与電子数(ν=1)であり、Fはファラデー定数である。
【数3】

【0030】
以上のように、電気化学的測定において上記式(IV)に示す反応の電極電位は、平衡定数Kを表す指標となる。式(V)に示される活量のうち、ae−、aH2O、aOH−は反応条件において大過剰に存在するので「1」とおける。よって、平衡定数Kを支配する因子は、下記式(VIII)に示すように、炭素に関する活量の比βで表わされる。
【数4】

【0031】
気相における上記式(III)に示す反応においても、平衡定数Kを支配する因子は、炭素に関する活量の比βであり、電気化学的な上記式(IV)に示す反応と共通である。以上より、電気化学的測定によって気相における炭素と水素との反応性を評価することができる。
【0032】
そこで、本発明者らは、独自に鋭意検討を重ねた結果、全細孔容積が0.5cm/g以上であり、メソ/ミクロ比が5以上である水素吸蔵炭素材料であって、当該水素吸蔵炭素材料を三極式における作用極に用いたクロノポテンショメトリーによる電気化学測定において、作用極である当該水素吸蔵炭素材料に対するカソード電流を1000mA/gで保持した時の安定電位が−1.28V以上であるものが、さらに優れた水素吸蔵能を有することを見出した。
【0033】
この安定電位は、クロノポテンショメトリーによる電気化学測定において、作用極に一定のカソード電流を流しながら経時的に電位を測定した場合に、電位が急激に変化する過渡領域後に見られる安定した電位であり、電流を1000mA/gで保持した際、ある時点での電位と、その10000秒後の電位との差が、電流を流し始めてから初めて±0.002V未満となったときの、その最低電位のことをいう
【0034】
このように、特定の細孔構造を有する炭素材料がさらに特定の電気化学的特性を有することにより水素吸蔵能が顕著に向上する理由は明らかではないが、例えば、メソ/ミクロ比が大きな細孔構造により水素の吸着速度が大きくなることに加えて、炭素表面において水素の解離反応が起こり易くなっていることが考えられる。
【0035】
すなわち、解離反応の活性点を付与する場として、メソ孔が有利であると考えられる。すなわち、ミクロ孔は、主に炭素材料のアモルファス成分中に存在し、その熱的安定性は低く、触媒活性点を付与する過程で構造変化してしまう可能性が高い。これに対し、熱的に安定性の高い構造を与えやすいメソ孔は、触媒活性点を形成することが容易である。
【0036】
したがって、本発明に係る水素吸蔵炭素材料は、上記(1)に係る機能と上記(2)に係る機能とを兼ね備えることによって、細孔構造内において水素分子が効率よく吸着し、且つ水素分子が炭素表面上で解離するため、その水素吸蔵能が飛躍的に向上するものと考えられる。
【0037】
また、本発明に係る水素吸蔵炭素材料は、その窒素含有量が0.5重量%以上、20重量%未満であることが好ましく、0.7重量%以上、10重量%以下であることがより好ましい。
【0038】
窒素含有量が上記の範囲より小さい場合には、炭素表面に存在する窒素量が十分でないため、当該炭素表面での水素の解離が効率よく進まないことがある。また、窒素含有量が多すぎると、炭素材料の製造時における細孔構造の制御が難しくなり、上記のような水素吸着に適した細孔構造を形成できないことがある。
【0039】
また、本発明に係る水素吸蔵炭素材料の比表面積は、例えば、400m/g以上であることが好ましく、600m/g以上であることがより好ましい。また、水素吸蔵炭素材料のメソ孔容積は、例えば、0.5cm/g以上であることが好ましく、1.0cm/g以上であることがより好ましい。また、水素吸蔵炭素材料の炭素構造における平均層間距離は、例えば、0.4nm以下であることが好ましく、より具体的には、0.335nm以上、0.4nm以下であることが好ましい。
【0040】
このような本発明に係る水素吸蔵炭素材料は、例えば、ゾルゲル法、鋳型法、ファーネス法、チャンネル法、アセチレン法、油煙法、松煙法、CVD法(化学気相成長法)、賦活等により製造された炭素材料とすることができる。
【0041】
具体的に、例えば、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、カーボンブラック(例えば、ケッチェンブラック、アセチレンブラック等のカーボンブラック)、黒鉛、活性炭、ガラス状カーボン、メソポーラスカーボン、炭素繊維、フラーレン、オニオンライクカーボンからなる群より選択される1種又は2種以上を用いることができる。中でも特に、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、カーボンブラック(例えば、ケッチェンブラック、アセチレンブラック等のカーボンブラック)等のメソ孔容積の大きな炭素材料を好ましく用いることができる。
【0042】
また、本発明に係る水素吸蔵炭素材料は、例えば、水素分子から水素原子を発生させる触媒活性を有する炭素材料からなるものとすることができる。この場合、水素吸蔵炭素材料は、例えば、有機物、金属及び炭素化材料を含む原料の炭素化により得られる炭素材料とすることができる。なお、水素分子から水素原子を発生させる触媒活性は、上述のようにクロノポテンショメトリーによる電気化学的測定によって評価できる。すなわち、本発明に係る水素吸蔵炭素材料が、クロノポテンショメトリーにおいてカーボンブラック等の炭素材料よりも高い電位を維持するということは、水の電気分解において過電圧が下がるということを意味し、当該水素吸蔵炭素材料は、触媒作用を有すると言える。ここで、本発明に係る水素吸蔵炭素材料のクロノポテンショメトリーにおける電位は、例えば−1.28V以上であることが好ましく、−1.24V以上であることがより好ましい。このような電位を示す炭素材料は、上述のような触媒作用を示し、高い水素吸蔵能を有することができる。
【0043】
原料に含まれる有機物は、炭素化できるもの(炭素源として使用できるもの)であれば特に限られず、任意の1種又は2種以上を使用することができる。すなわち、有機物としては、例えば、高分子量の有機化合物(例えば、熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂等の樹脂)及び低分子量の有機化合物の一方又は両方を使用することができる。また、例えば、植物廃材等のバイオマスを使用することもできる。
【0044】
有機物としては、窒素を含有する有機物を好ましく使用することができる。この窒素含有有機物は、その分子内に窒素原子を含む有機化合物を含有し、炭素化できるものであれば特に限られず、任意の1種又は2種以上を使用することができる。
【0045】
具体的に、窒素含有有機化合物としては、例えば、ピロール、ポリピロール、ポリビニルピロール、3−メチルポリピロール、ビニルピリジン、ポリビニルピリジン、イミダゾール、2−メチルイミダゾ−ル、アニリン、ポリアニリン、ポリアミノビスマレイミド、ポリイミド、ベンゾイミダゾ−ル、ポリベンゾイミダゾ−ル、ポリアミド、アクリロニトリル、ポリアクリロニトリル、キチン、キトサン、絹、毛、ポリアミノ酸、核酸、DNA、RNA、ヒドラジン、ヒドラジド、尿素、サレン、ポリカルバゾール、ポリビスマレイミド、トリアジン、メラミン、メラミン樹脂、ポリアミドイミド樹脂からなる群より選択される1種又は2種以上を使用することができる。
【0046】
また、廃材等のバイオマスとしては、例えば、酒粕、麹、コーヒー出し殻、お茶出し殻、ビール絞り粕、米ぬか等の食品産業廃棄物、林地残材、建築廃材等の木質系廃材、下水汚泥等の生活系廃材からなる群より選択される1種又は2種以上を使用することができる。窒素含有有機物は、例えば、ホウ素、リン、酸素、硫黄からなる群より選択される1種又は2種以上をさらに含有することもできる。
【0047】
また、有機物は、さらに樹脂成分を含有することができる。この樹脂成分は、炭素化できる高分子材料であれば特に限られず、任意の1種又は2種以上を使用することができる。すなわち、例えば、炭素化が可能な熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂を使用することができる。
【0048】
具体的に、例えば、キレート樹脂、セルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸メチル、ポリメタクリル酸メチル、ポリフルフリルアルコール、フラン樹脂、フェノール樹脂、フェノールホルムアルデヒド樹脂、エポキシ樹脂、ピッチ、褐炭、ポリ塩化ビニリデン、リグニン、無煙炭、バイオマス、タンパク質、フミン酸、ポリスルフォン、アイオノマーからなる群より選択される1種又は2種以上を使用することができる。
【0049】
原料における有機物の含有量は、上述した特定の炭素構造を有する炭素材料が得られる範囲であれば特に限られないが、例えば、1〜70重量%の範囲とすることができ、3〜50重量%の範囲とすることが好ましい。有機物の含有量が上記の範囲より小さい場合には、炭素表面の水素を解離する活性点の数が少ないため、十分な水素吸蔵量を得ることができないことがある。また、有機物の含有量が上記の範囲より大きい場合には、炭素材料製造時の細孔構造の制御が難しくなり、上記のような水素吸着に適した細孔構造を形成できないことがある。
【0050】
原料に含まれる金属は、製造される炭素材料の水素吸蔵能を阻害しないものであれば特に限られない。すなわち、金属としては、例えば、遷移金属を好ましく使用することができ、周期表の3族から12族の第4周期に属する金属を特に好ましく使用することができる。金属は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0051】
具体的に、例えば、コバルト、鉄、ニッケル、マンガン、亜鉛、銅、クロムからなる群より選択される1種又は2種以上を好ましく用いることができ、コバルト、鉄、マンガン、ニッケルを特に好ましく使用することができる。
【0052】
金属としては、当該金属の単体又は当該金属の化合物を用いることができる。金属化合物としては、例えば、金属塩、金属水酸化物、金属酸化物、金属窒化物、金属硫化物、金属炭素化物、金属錯体を好ましく用いることができ、金属塩、金属酸化物、金属錯体を特に好ましく用いることができる。
【0053】
原料における金属の含有量は、製造される炭素材料の水素吸蔵能を阻害しない範囲であれば特に限られないが、例えば、0.5〜75重量%の範囲とすることが好ましく、2〜40重量%の範囲とすることがより好ましい。
【0054】
金属含有量が上記の範囲よりも小さい場合には、炭素材料の製造時において系内が不均一となり、金属が存在している近傍のみ炭素化が進行し、均一な炭素材料を得ることができないことがある。また、金属含有量が上記の範囲よりも大きい場合には、黒鉛化の進行が強まるため、得られる炭素材料の細孔構造が水素吸着に適さないものとなってしまうことがある。
【0055】
原料に含まれる炭素化材料は、炭素化された材料であって、当該原料の炭素化において上記特定の細孔構造の形成に寄与するものであれば特に限られず、任意の1種又は2種以上を使用することができる。
【0056】
具体的には、例えば、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、カーボンブラック(例えば、ケッチェンブラック、アセチレンブラック等のカーボンブラック)、黒鉛、活性炭、ガラス状カーボン、メソポーラスカーボン、炭素繊維、フラーレン、オニオンライクカーボンからなる群より選択される1種又は2種以上を用いることができる。中でも特に、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、カーボンブラック(例えば、ケッチェンブラック、アセチレンブラック等のカーボンブラック)等のメソ孔容積の大きな炭素化された材料を好ましく用いることができる。
【0057】
炭素化材料の比表面積は、例えば、400m/g以上であることが好ましく、600m/g以上であることがより好ましい。原料における炭素化材料の含有量は、当該原料の炭素化において上記特定の細孔構造の形成に寄与する範囲であれば特に限られず、例えば、1〜95重量%の範囲とすることができ、30〜90重量%の範囲とすることが好ましい。
【0058】
炭素化材料の含有量が上記の範囲より小さい場合には、水素吸蔵に適した細孔構造を有する炭素材料が得られないことがある。また、炭素化材料の含有量が上記の範囲より大きい場合には、例えば、炭素表面の窒素量が少なくなるため、当該炭素表面における水素の吸着が効率よく進まないことがある。
【0059】
したがって、原料は、例えば、1〜70重量%の有機物と、30〜90重量%の炭素化材料と、を含むことが好ましい。また、より具体的には、原料は、例えば、3〜50重量%の有機物と、2〜40重量%の金属と、30〜90重量%の炭素化材料と、を含むことが好ましい。
【0060】
また、原料は他の成分を含有することもできる。すなわち、例えば、本発明に係る水素吸蔵炭素材料の表面積を増加させる等の目的で、セラミックス材料、金属材料等の他の材料を原料に添加することができる。具体的に、例えば、メソポーラスシリカ、メソポーラスカーボン、金属粉末、金属微粒子、金属ファイバーからなる群より選択される1種又は2種以上を使用することができる。原料におけるこれら他の材料の含有量は、例えば、1〜90重量%の範囲とすることができ、20〜70重量%の範囲とすることが好ましい。
【0061】
炭素化は、原料を加熱して、当該原料を炭素化できる所定の温度(以下、「炭素化温度」という。)で所定時間だけ保持することにより行う。炭素化温度は、原料を炭素化できる温度であれば特に限られない。
【0062】
すなわち、炭素化温度は、例えば、300℃以上とすることができ、好ましくは700℃以上とすることができる。より具体的に、炭素化温度は、例えば、300〜3000℃の範囲とすることができ、好ましくは700〜2000℃の範囲とすることができ、より好ましくは700〜1500℃の範囲とすることができる。
【0063】
炭素化温度が上記の範囲よりも低い場合には、炭素化が不十分となるため、細孔構造が形成されず、水素吸蔵に適した細孔構造を有する炭素材料を製造できないことがある。また、炭素化温度が上記の範囲よりも高い場合には、黒鉛化が進行しすぎるため、炭素表面に十分な量の窒素が残らず、また十分な容積の細孔構造を形成できないことがある。
【0064】
炭素化温度までの昇温速度は、例えば、0.5〜300℃/分の範囲とすることができる。上述の炭素化温度で原料を保持する時間は、例えば、5分〜24時間の範囲とすることができ、好ましくは20分〜2時間の範囲とすることができる。炭素化は、窒素等の不活性ガスの流通下で行うことが好ましい。
【0065】
また、炭素化により得られた水素吸蔵炭素材料を粉砕して微細化することもできる。粉砕方法は、炭素材料の表面積を増大することができれば特に限られず、公知の任意の方法を用いることができる。すなわち、例えば、ボールミル、ビーズミル、ジェットミル等の粉砕手段を用いて炭素材料の微粒子を調製することができる。
【0066】
炭素化により得られた水素吸蔵炭素材料に対して、金属の含有量を減少させ又は金属を除去する洗浄処理を施すこともできる。この洗浄処理には、例えば、塩酸や硫酸等の酸を好ましく使用することができる。
【0067】
炭素化により得られた水素吸蔵炭素材料を賦活することもできる。炭素材料を賦活する方法は特に限られず、例えば、アンモオキシデーション、二酸化炭素賦活、リン酸賦活、アルカリ賦活、水蒸気賦活を使用することができる。
【0068】
炭素化により得られた水素吸蔵炭素材料に熱処理を施すこともできる。この熱処理は、炭素化により得られた水素吸蔵炭素材料を、さらに所定の温度で保持することにより行う。熱処理の温度は、例えば、300〜1500℃の範囲とすることができる。
【0069】
炭素化により得られた水素吸蔵炭素材料に対して、金属含浸法、メカニカルアロイング法等の方法により金属を添加することもできる。添加する金属は、炭素材料の水素吸蔵能を阻害しないものであれば特に限られず、例えば、チタン、マンガン、ニッケル、ジルコニウム、コバルト、アルミニウム、鉄、ニオブ、バナジウム、マグネシウム、パラジウム、カルシウム、亜鉛、白金類金属を好ましく使用することができる。
【0070】
本発明に係る水素吸蔵炭素材料は、高い水素吸蔵能を示す。すなわち、この水素吸蔵炭素材料の水素吸蔵量は、例えば、2.0重量%以上であり、2.5重量%以上であることが好ましく、3.0重量%以上であることがより好ましい。また、水素吸蔵炭素材料の単位面積当たりの水素吸蔵量は、例えば、1.5mg/m以上であり、2.5mg/m以上であることが好ましく、3.0mg/m以上であることがより好ましい。
【0071】
本発明に係る水素吸蔵炭素材料は、高い水素吸蔵能を示すため、単に水素の吸蔵と放出を行う水素吸蔵材料としてだけでなく、例えば、ニッケル水素電池、空気電池用等の電極材料としても使用することができる。
【0072】
次に、本実施形態に係る具体的な実施例について説明する。
【実施例】
【0073】
[実施例1]
高比表面積カーボンブラックであるケッチェンブラック(EC600JD、ライオン株式会社)を水素吸蔵炭素材料として準備した。
【0074】
[実施例2]
1.5gのポリアクリロニトリル−ポリメタクリル酸共重合体を30gのジメチルホルムアミドに溶解させた。その後、1.5gの塩化コバルト六水和物と1.5gの2−メチルイミダゾールとを加え、2時間攪拌して青色溶液を得た。得られた溶液に、ケッチェンブラック(EC600JD、ライオン株式会社製)を、後述の前駆体組成物における含有量が67重量%となるように加え、乳鉢を用いて混合した後、60℃、6.4×10−2Paで12時間減圧乾燥を行い、ジメチルホルムアミドを除去した。こうして前駆体組成物を得た。
【0075】
次に、前駆体組成物の不融化処理を行った。すなわち、前駆体組成物を強制循環式乾燥機内にセットした。そして、大気中にて、乾燥機内の温度を、30分間かけて室温から150℃まで昇温し、続いて2時間かけて150℃から220℃まで昇温した。その後、前駆体組成物を220℃で3時間保持した。こうして前駆体組成物を不融化した。
【0076】
そして、前駆体組成物の炭素化を行った。すなわち、上述のようにして得られた前駆体組成物を石英管に入れ、楕円面反射型赤外線ゴールドイメージ炉にて、当該石英管に20分間窒素パージした。次いで、加熱を開始し、ゴールドイメージ炉の温度を、50℃/分の昇温速度で室温から900℃まで昇温した。その後、この石英管を900℃で1時間保持した。こうして前駆体組成物が炭素化されることにより生成された水素吸蔵炭素材料を得た。
【0077】
さらに、水素吸蔵炭素材料の粉砕処理を行った。すなわち、遊星ボールミル(P−7、フリッチュジャパン株式会社製)内に10mm径の窒化ケイ素ボールをセットし、炭素化により得られた水素吸蔵炭素材料を回転速度650rpmで50分間粉砕した。粉砕した水素吸蔵炭素材料を取り出し、目開き106μmの篩で分級した。篩を通過した水素吸蔵炭素材料を、粉砕された微粒子状の水素吸蔵炭素材料として得た。
【0078】
[実施例3]
塩化コバルト六水和物に代えて、塩化マンガン(II)四水和物を使用した以外は上述の実施例2と同様の方法により、微粒子状の水素吸蔵炭素材料を得た。
【0079】
[比較例1]
前駆体組成物にケッチェンブラック(EC600JD、ライオン株式会社製)を加えなかった以外は上述の実施例2と同様の方法により、微粒子状の水素吸蔵炭素材料を得た。
【0080】
[比較例2]
前駆体組成物におけるケッチェンブラック(EC600JD、ライオン株式会社製)の含有量を23重量%となるようにした以外は上述の実施例2と同様の方法により、微粒子状の水素吸蔵炭素材料を得た。
【0081】
[比較例3]
アルカリ賦活された活性炭である多孔質カーボン(マックスソーブ(登録商標)、関西熱化学株式会社製)を水素吸蔵炭素材料として準備した。
【0082】
[比表面積、全細孔容積、メソ孔容積、ミクロ孔容積の測定]
上述の実施例1〜3及び比較例1〜3で準備した炭素材料の比表面積、全細孔容積、メソ孔容積及びミクロ孔容積を、比表面積・細孔分布測定装置(Tristar 3000、株式会社島津製作所製)を用いて測定した。
【0083】
まず、0.1gの炭素材料を、100℃、6.7×10−2Paで、3時間保持することにより、当該炭素材料に吸着している水分を取り除いた。次いで、窒素ガスを用いたBET法により、炭素材料の比表面積を測定した。また、窒素ガスの最大吸着量から、全細孔容積を算出した。さらに、MP法によりミクロ孔容積を算出するとともに、BJH法によりメソ孔容積を算出した。また、メソ孔容積をミクロ孔容積で除することにより、メソ/ミクロ比を算出した。
【0084】
なお、MP法は、「t−プロット法」(B C Lippene, J H de Boer, J Catalysis, 4, 319(1965))を用いて、ミクロ孔の容積、面積、分布を求める方法であり、Mikhail, Brunuer, Bodorにより考案された(R S Mikhail, S Brunauer, E E Bodor, J Colloid Interface Sci, 26, 45,(1968))。また、BJH法は、Barrett, Joyner, Halendaによって提唱されたメソ孔の分布を求める代表的な方法である(E P Barrett, L G Joyner and P P Halenda, J Am Chem Soc, 73, 373, (1951))。
【0085】
[水素吸蔵量の測定]
各炭素材料の水素吸蔵量を、JIS H 7201に従い測定した。まず、約1gの炭素材料を試料管に挿入し、18時間以上真空排気した。その後、試料管にHeガスを導入し、炭素材料の体積を測定した。さらに、3時間以上真空排気することで試験管からHeガスを取り除いた。
【0086】
そして、この試験管に水素ガスを40MPaとなるまで導入し、水素吸蔵量(wt%)を測定した。なお、測定は、−30℃(243K)の温度で行った。また、こうして得られた水素吸蔵量を、上述のようにして得られた比表面積で除することにより、単位表面積当たりの水素吸蔵量(mg/m)を算出した。
【0087】
[含有窒素量の測定]
各炭素材料の含有窒素量を、有機微量元素分析装置(2400II、パーキンエルマー株式会社製)を用いて、燃焼法により測定した。ヘリウムをキャリアガスとして用い、2mgの炭素材料を、燃焼管温度980℃、還元管温度640℃の条件で分析した。なお、燃焼条件の最適化のため、装置標準条件に対し、燃焼管への酸素供給時間及び燃焼時間をそれぞれ1秒及び20秒追加した。
【0088】
[平均層間距離の測定]
まず、炭素材料のX線回折測定を行った。すなわち、炭素材料の試料を、ガラス試料板の凹部に入れるとともにスライドガラスで押さえ、当該試料をその表面と基準面とが一致するように当該凹部に均一に充填した。次いで、この充填された試料の形態が崩れないように、ガラス試料板を広角X線回折試料台に固定した。
【0089】
そして、X線回折装置(Rigaku RINT2100/PC、株式会社リガク製)を用いて、各試料の粉末X線回折測定を実施し、回折ピークを測定し、積算を4回行うことで解析対象となるX線回折データを得た。なお、X線管球への印加電圧及び電流はそれぞれ50kV及び300mAとした。また、サンプリング間隔は0.1°又は0.01°とし、走査速度は1°/分とし、測定角度範囲(2θ)は5〜90°とした。入射X線としてはCuKα線を用いた。
【0090】
次いで、得られたX線回折データに基づいて、炭素構造における炭素網面の積層構造に関する評価を行った。すなわち、平均Lc、炭素網面の積層数とその分布、及び平均面間隔d002を、コンピュータにインストールされた解析用ソフトウェア(Carbon Analyzer D series、藤本宏之、http:/www.asahi−net.or.jp/〜qn6h−fjmt/)を用いて解析した。
【0091】
このソフトフェアを用いた計算工程においては、(1)回折線の強度補正、(2)バックグラウンドの補正、(3)Patterson関数の計算、(4)逆Fourier計算による妥当性の評価、(5)Patterson関数を用いた平均Lc、平均積層数、積層数分布、及び平均面間隔d002の計算、の5つのステップを実施した。
【0092】
すなわち、まず、X線回折測定で得た5°から40°の回折データについて、回折線強度補正及びバックグラウンド補正を行った。回折線強度補正においては、炭素の線吸収係数μを4.219とし、試料厚みtを0.2mmとし、発散スリット幅βを2/3°とし、ゴニオメーター半径Rを285mmとした。バックグラウンド補正は15°付近及び35°付近を基点とし、スプライン補間法で行った。
【0093】
次いで、この補正後データを用いてPatterson関数を計算した。積分開始角及び終了角はそれぞれ5°および40°とし、計算距離uを変えながらHirschの方法で逆Fourier計算し、妥当性を評価した。なお、このHirschの方法は、石炭やピッチのような比較的網面サイズの小さな試料中の炭素網面の平均積層数及び積層数分布を評価するためにHirschによって1954年に提案された公知の方法である。
【0094】
こうして計算したPatterson関数を用い、残りの計算過程はソフトフェアの標手順に従って実行し、炭素材料の平均層間距離を算出した。
【0095】
[クロノポテンショメトリーによる電気化学測定]
まず、いずれかの炭素材料を担持した作用電極を作製した。すなわち、30mgの炭素材料に、導電補助材としてアセチレンブラック、結着剤としてPTFEを、8:1:1の重量比で計り取り、メノウ乳鉢を用いて混合した。その後、この混合物を、22MPaで20分プレスすることにより、直径13mmのペレットを作製した。得られたペレットをニッケルメッシュで挟み、7MPaで10分間圧着させることにより、作用電極を得た。
【0096】
また、参照電極としてHg/HgSOを用い、対電極としてグラッシーカーボンを用いた。これら作用電極、参照電極及び対電極を、50mLの6M KOH水溶液が入ったビーカー中に浸し、3極式電気化学セルを作製した。
【0097】
次に、電気化学アナライザー760(ビー・エー・エス株式会社製)を用いて、電位幅−0.885〜0.215V(vs NHE)、掃引速度50mV/s、10サイクルの条件でサイクリックボルタンメトリー試験を行うことにより、KOH水溶液中への溶出成分を材料表面から洗い流す表面洗浄処理を行った。
【0098】
その後、本炭素材料に対して1000mA/gという一定の電流密度でカソード電流を流しながら電位を経時的に測定するクロノポテンショメトリーを実施した。そして、電流を1000mA/gで保持した際、ある時点での電位と、その10000秒後の電位との差が、電流を流し始めてから初めて±0.002V未満となったときの、その最低電位を安定電位として読み取った。なお、電気化学測定は、室温(25℃)にて行った。
【0099】
[結果]
図1には、上述のようにして炭素材料の特性を評価した結果を示す。すなわち、図1には、実施例1〜3及び比較例1〜3に係る炭素材料の各々について、重量パーセントで示す水素吸蔵量(wt%)、単位面積当たりの水素吸蔵量(mg/m)、比表面積(m/g)、全細孔容積(cm/g)、全メソ孔容積(cm/g)、全ミクロ孔容積(cm/g)、メソ/ミクロ比(−)、含有窒素量(wt%)、平均層間距離(nm)及び安定電位(V vs NHE)を示している。
【0100】
図2には、クロノポテンショメトリーにおける電位測定により得られたクロノポテンショグラムを示す。図2において、横軸はカソード電流を流し始めてから経過した時間(s)を示し、縦軸は測定された電位(V vs NHE)を示す。なお、図2に示す「40%Pt/C」は、比較のため、ケッチェンブラック(EC600JD、ライオン株式会社製)に40重量%の白金を担持して作製された、水の電気分解における触媒活性が非常に高い材料を作用電極に用いた場合の測定結果である。
【0101】
図1に示すように、実施例1〜3に係る炭素材料は、比較例1〜3に係る炭素材料に比べて、顕著に高い水素吸蔵量を示した。このように高い水素吸蔵能を示す実施例1〜3に係る炭素材料のメソ/ミクロ比は、比較例1〜3に係る炭素材料のそれに比べて顕著に高かった。したがって、実施例1〜3に係る炭素材料は、全細孔容積が比較的大きく、且つメソ/ミクロ比が大きい細孔構造を有することにより、高い水素吸蔵能を発揮すると考えられた。
【0102】
また、実施例2及び実施例3に係る炭素材料の水素吸蔵量は、実施例1に係る炭素材料に比べても顕著に高かった。この点、図1及び図2に示すように、実施例2及び実施例3に係る炭素材料を用いたクロノポテンショメトリーにおける安定電位は、いずれも−1.28V以上であった(すなわち、実施例2の安定電位は、−1.084V(1000〜11000s)、実施例3の安定電位は、−1.236V(6000〜16000s))が、実施例1に係る炭素材料を用いた場合の安定電位は−1.304V(25000〜35000s)であった。なお、比較例1の安定電位は、−1.105V(700〜10700s)、比較例2の安定電位は、−1.084V(1300〜11300s)、比較例3の安定電位は、−1.335V(30000〜40000s)、40%Pt/Cの安定電位は、−0.915V(200〜10200s)であった。
【0103】
したがって、実施例2及び実施例3に係る炭素材料は、メソ/ミクロ比が大きい細孔構造を有するのみならず、さらに、クロノポテンショメトリーにおける安定電位が−1.28V以上であるという、水素の効率的な解離反応を実現する特性を有することにより、特に高い水素吸蔵能を発揮すると考えられた。
【0104】
また、実施例1に係る炭素材料は窒素を含有していないのに対して、実施例2及び実施例3に係る炭素材料は、含有窒素量が所定値以上であることも、高い水素吸蔵能に寄与していると考えられた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
全細孔容積が0.5cm/g以上であり、単位重量当たりの全ミクロ孔容積に対する全メソ孔容積の比が5以上である
ことを特徴とする水素吸蔵炭素材料。
【請求項2】
窒素含有量が0.5重量%以上、20重量%未満である
ことを特徴とする請求項1に記載の水素吸蔵炭素材料。
【請求項3】
前記水素吸蔵炭素材料を三極式における作用極に用いたクロノポテンショメトリーによる電気化学測定において、前記水素吸蔵炭素材料に対するカソード電流を1000mA/gで保持した際の安定電位が−1.28V以上である
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の水素吸蔵炭素材料。
【請求項4】
有機物、金属及び炭素化材料を含む原料の炭素化により得られる
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の水素吸蔵炭素材料。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2011−178588(P2011−178588A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−43196(P2010−43196)
【出願日】平成22年2月26日(2010.2.26)
【出願人】(504145364)国立大学法人群馬大学 (352)
【出願人】(504173471)国立大学法人北海道大学 (971)
【出願人】(000004374)日清紡ホールディングス株式会社 (370)
【Fターム(参考)】