説明

水素投与装置

【課題】安全性を向上させた水素投与装置を提供することを目的とする。
【解決手段】患者Pに水素を投与することによって患者Pの臓器障害を改善するための水素投与装置1であって、水素の供給源である水素ボンベ2と、酸素の供給源である酸素ボンベ3と、水素ボンベ2から供給される水素と酸素ボンベ3から供給される酸素とを混合させた混合ガスを患者へ投与する混合ガス供給管6,7と、混合ガス供給管6,7内を流れる水素濃度を測定する水素検知器5と、を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脳虚血障害などの各種臓器障害を有する患者に対して水素を安全に投与することのできる水素投与装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
脳虚血障害等の各種臓器障害を有する患者に対して、水素を体内に投与することで前記障害の改善効果があることが報告されている。例えば、特許文献1には、水素分子を含む気体からなる生体内の有害活性酸素及び/又はフリーラジカル除去剤を含む容器から配管を通して吸引手段を介して患者に吸引させる方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開2007−021034号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、水素は引火を防止するために、一般的に水素濃度を4.0vol%以下とすることが好ましいとされている。これに対して、上述した方法では患者に投与する水素濃度を何ら管理していないため、水素に引火の可能性があるなど安全面で改善の余地があった。
そこで本発明は、安全性を向上させた水素投与装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る水素投与装置は、患者に水素を投与することによって患者の臓器障害を改善するための水素投与装置であって、水素の供給源である水素供給源と、酸素の供給源である酸素供給源と、前記水素供給源から供給される水素と前記酸素供給源から供給される酸素とを混合させた混合ガスを患者へ投与する混合ガス供給管と、前記混合ガス供給管内を流れる水素濃度を測定する水素検知器と、を備えている。
【0006】
この水素投与装置によれば、患者に投与する混合ガス中の水素濃度を水素検知器によって測定することができるため、この水素濃度が所定値よりも高ければ、水素供給源及び酸素供給源からの水素及び酸素の供給量を制御して水素濃度を調節することができる。したがって、例えば、一般的に引火の可能性がないと言われる4.0vol%以下となるように水素濃度を調節することができ、引火することを防止することができる。
【0007】
上記水素投与装置は種々の構成をとることができるが、例えば、混合ガス供給管内を流れる混合ガスを所定の流量及びタイミングで患者に供給するための人工呼吸器をさらに備えていることが好ましい。
【0008】
また、水素検知器によって測定した水素濃度に基づいて水素供給源及び酸素供給源からの水素及び酸素の供給量を制御し、混合ガス中の水素濃度を調節する制御装置をさらに備えていてもよい。
【0009】
また、水素検知器は、気体熱伝導式や接触燃焼式のものを用いることができる。
【0010】
また、混合ガス供給管の先端に取り付けられ、患者の口及び鼻を覆うように形成されたマスクをさらに備えていてもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、より安全に水素投与を行うことのできる水素投与装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は本発明に係る水素投与装置の実施形態を示す概略図である。
【図2】図2は本発明に係る水素投与装置の別の実施形態を示す概略図である。
【図3】図3は本発明に係る水素投与装置のさらに別の実施形態を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に係る水素投与装置の実施形態について図面を参照しつつ説明する。
【0014】
本実施形態に係る水素投与装置1は、脳虚血障害などの各種臓器障害を有する患者Pに対して水素を投与するための装置である。図1に示すように、水素投与装置1は、水素の供給源である水素ボンベ(水素供給源)2及び酸素の供給源である酸素ボンベ(酸素供給源)3と、患者Pに供給する水素及び酸素等の混合ガスの流量及び供給タイミングを調整する人工呼吸器4と、患者Pに供給する混合ガス中の水素濃度を測定する水素検知器5とを備えている。
【0015】
水素ボンベ2は高圧の水素及び不活性ガスが内部に充填されており、酸素ボンベ3は高圧の酸素及び不活性ガスが内部に充填されている。なお、各ボンベ2,3に充填されている不活性ガスは、例えば、窒素とすることが好ましい。これら各ボンベ2,3のガス排出口には開閉バルブ21,31が取り付けられており、開閉バルブ21,31を開状態にすることで内部のガスを排出し、開閉バルブ21,31を閉状態にすることでガスの排出を停止することができる。また、この開閉バルブ21,31の開度を調整することで、各ガスの排出量を調整することができる。水素ボンベ2は、開閉バルブ21を介してガス排出口から水素ガス供給管22が延びており、酸素ボンベ3は、開閉バルブ31を介してガス排出口から酸素ガス供給管32が延びている。この水素ガス供給管22と酸素ガス供給管32とが途中で合流し、第1混合ガス供給管6となって後述する人工呼吸器4に接続されている。
【0016】
人工呼吸器4は、第1混合ガス供給管6から供給された水素、酸素、及び窒素からなる混合ガスを複数の動作モードに基づいて第2混合ガス供給管7を介して患者Pに対して供給する。人工呼吸器4は種々の動作モードが選択でき、例えば、自発呼吸がない患者に対して一定間隔毎に人工換気を行うIPPV(間欠的陽圧換気)モードや、自発呼吸がある患者の吸気をトリガーして不定期に人工換気を行うSIMV(同期的間欠的強制呼吸)モード、患者の吸気努力を呼吸器が感知すると圧をかけて空気を注入するPSVモード等を有している。また、人工呼吸器4は、患者Pに供給する混合ガスの供給量も調整することができる。
【0017】
人工呼吸器4から延びる第2混合ガス供給管7は、例えば、気管挿管や気管切開、もしくはマスクを介することによって、第1混合ガス供給管6によって人工呼吸器4へ送られてきた水素、酸素、及び窒素からなる混合ガスを患者に供給する。この第2混合ガス供給管7は、例えば、ステンレスなどによって形成することができる。
【0018】
このように人工呼吸器4から患者Pへと延びる第2混合ガス供給管7の途中に、水素検知器5が接続されている。この水素検知器5は、第2混合ガス供給管7内を流れて患者Pへと送られる混合ガス中の水素濃度を測定する。水素検知器5としては、種々のものを用いることができ、例えば気体熱伝導式センサを利用したものや、接触燃焼式センサを利用したものを用いることができる。具体的には、気体熱伝導式のものとしては新コスモス電機株式会社製の可燃性ガス検知器XP-3140等を挙げることができ、また、接触燃焼式のものとしては、新コスモス電機株式会社製の可燃性ガス検知器XP-3110等を挙げることができる。
【0019】
次に上述した水素投与装置1による水素投与方法について説明する。
【0020】
まず、人工呼吸器4を操作して、患者Pに適切な動作モードを選択する。続いて、各ボンベ2,3の開閉バルブ21,31を開状態として水素ボンベ2及び酸素ボンベ3から水素、酸素、及び窒素を排出し、第1混合ガス供給管6を介して人工呼吸器4に水素、酸素、及び窒素からなる混合ガスを供給する。なお、このときの混合ガス中の水素の濃度は0.1〜4.0vol%、酸素の濃度は21〜99.9vol%であることが好ましい。
【0021】
そして、第1混合ガス供給管6を介して人工呼吸器4に送られてきた混合ガスを、各種動作モードに基づいて第2混合ガス供給管7を介して患者Pへと供給する。このとき、この第2混合ガス供給管7内を流れる混合ガス中の水素濃度を水素検知器5によって測定し、この水素濃度が0.1〜4.0vol%の範囲内であることを確認する。水素検知器5によって測定した水素濃度が4.0vol%より大きい値であれば、各ボンベ2,3の開閉バルブ21,31の開度を調整して、4.0vol%以下となるように設定する。なお、水素検知器5によって測定した水素濃度が0.1〜4.0vol%の範囲内にないときは、警報音を鳴らしたり、混合ガスの供給を停止したりするように構成することもできる。
【0022】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。例えば、図2に示すように、さらに制御装置8を備えてもよい。この制御装置8は、水素検知器5や、各ボンベ2,3の開閉バルブ21,31に電気的に接続されている。そして、制御装置8は、水素検知機5から水素濃度に関するデータを受信し、この水素濃度が設定した範囲内に収まっていないとき、水素濃度が設定した範囲内となるよう各開閉バルブ21及び31に信号を送る。信号を受信した各開閉バルブ21及び31は、水素濃度が設定した範囲内に収まるよう、その開度を自動的に調整する。
【0023】
また、その他にも、例えば、第2混合ガス供給管7の先端に患者を収容することのできる収容ケースを接続し、この収容ケース内に患者が入ることで患者に水素を投与することもできる。この場合は、収容ケースに排気手段を設けることが好ましい。
【0024】
また、その他にも、例えば図3に示すように、さらに流量制御装置23,33を設けた構成とすることもできる。この流量制御装置23,33は、水素ガス供給管22や酸素ガス供給管32に設置されており、水素ガスの供給量や酸素ガスの供給量を手動又は自動で制御することができる。なお、この流量制御装置23,33を設置した場合は、この流量制御装置23,33によってガス流量を制御するため、各ガスボンベ2,3の開閉バルブ21,31は、使用時は全開状態とし、不使用時は閉状態とする。また、各ガスの流量を自動で制御する場合は、水素検知器5によって測定した水素濃度の結果を流量制御装置23,33にフィードバックさせて各ガスの流量を制御するような構成にすることができる。
【0025】
また、上記実施形態では、水素ボンベ2には水素と不活性ガスとを充填しているが、特にこれに限定されるものではなく、例えば、水素ボンベ2内に水素のみを充填し、酸素ボンベ3内に酸素と不活性ガスとを充填させてもよい。しかしながら、このような水素ボンベ2や酸素ボンベ3を用いると、例えば水素濃度を4vol%とするときには、水素ボンベ2からのガス流量と酸素ボンベ3からのガス流量との流量比を4:96にする必要があり、各ボンベ2,3からの流量の差が大きくなってしまう。このように流量の差が大きくなると各ボンベ2,3からのガスが混合する部分において圧力の干渉等の影響が出るために流量比を正確に調整することが困難になってしまう。このため、なるべく各ボンベ2,3からの流量の差を小さくすることが好ましく、例えば4vol%の水素濃度としたい場合は、水素ボンベ2に水素(8vol%)と不活性ガス(92vol%)とを充填し、酸素ボンベ3に酸素と不活性ガスとを充填し、各ボンベ2,3からの流量比を1:1として混合させることが好ましい。
【符号の説明】
【0026】
1 水素投与装置
2 水素ボンベ
3 酸素ボンベ
4 人工呼吸器
5 水素検知器
6 第1混合ガス供給管
7 第2混合ガス供給管
8 制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者に水素を投与することによって患者の臓器障害を改善するための水素投与装置であって、
水素の供給源である水素供給源と、
酸素の供給源である酸素供給源と、
前記水素供給源から供給される水素と前記酸素供給源から供給される酸素とを混合させた混合ガスを患者へ投与する混合ガス供給管と、
前記混合ガス供給管内を流れる水素濃度を測定する水素検知器と、
を備えた、水素投与装置。
【請求項2】
前記混合ガス供給管内を流れる混合ガスを所定の流量及びタイミングで患者に供給するための人工呼吸器をさらに備えた、請求項1に記載の水素投与装置。
【請求項3】
前記水素検知器によって測定した水素濃度に基づいて前記水素供給源及び酸素供給源からの水素及び酸素の供給量を制御し、混合ガス中の水素濃度を調節する制御装置をさらに備えた、請求項1又は2に記載の水素投与装置。
【請求項4】
前記水素検知器は、気体熱伝導式である、請求項1から3のいずれかに記載の水素投与装置。
【請求項5】
前記混合ガス供給管の先端に取り付けられ、患者の口及び鼻を覆うように形成されたマスクをさらに備えた、請求項1から4のいずれかに記載の水素投与装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−284394(P2010−284394A)
【公開日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−141875(P2009−141875)
【出願日】平成21年6月15日(2009.6.15)
【出願人】(304028726)国立大学法人 大分大学 (181)