説明

水素放出反応を触媒する触媒及びその製造方法

【課題】水素放出反応を触媒する触媒を製造する方法を提供する。
【解決手段】水素放出反応を触媒する触媒を製造する方法は、次の工程を含む。初めに、金属触媒イオンを含む溶液を準備する。次に、幾らかの触媒担体を準備する。各触媒担体は、幾らかのキレート単位を含む。その後、触媒担体を溶液と混合することにより、溶液中の金属触媒イオンを、各触媒担体の表面上のキレート単位とキレートさせる。続いて、触媒担体の表面とキレートしている金属触媒イオンを還元することにより、金属触媒ナノ構造及び/又は金属触媒原子を触媒担体の表面上に被覆させて、触媒を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、触媒及びその製造方法、より詳細には、水素放出反応を触媒する触媒及びその製造方法に関する。
【0002】
[関連出願の相互参照]
本願は、2009年3月13日付で出願された台湾特許出願第98108329号明細書(この主題は参照により本明細書中に援用される)の利益を主張している。
【背景技術】
【0003】
近年、資源がますます限られてくるにつれ、燃料電池がグリーンエネルギーの発展における主流となってきている。水素燃料電池は、燃料として水素を使用し、酸化剤として酸素を使用している。水素は厳密な貯蔵条件を伴う危険な可燃性ガスである。このため、水素を含有する水素化物溶液又は水素吸蔵材が、代わりに水素源として通常使用されている。水素は、燃料電池用に水素源から取り出される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、今日でも依然、燃料電池を日常生活に広く適用することができないでいる。この理由の1つは、水素源から水素が取り出される水素放出量が低すぎて、不十分な水素しか得られないためである。このような条件では、必要量の水素を生成するために装置が大きくならざるを得ない。別の理由は、水素源の水素放出量を増大させるのに、触媒が使用される場合、ナノスケールの触媒のみが水素放出量の要件を満たすのに十分な表面積を有するためである。しかしながら、従来のナノスケールの水素放出触媒は、大量生産技術を用いて迅速に製造することができない。材料及び設備のコストも高い。この結果、ナノスケールの水素放出触媒を商品化することは困難である。従来の水素放出触媒としては、例えば、貴金属であるルテニウム及びロジウム、並びに非貴金属であるコバルト、ニッケル、鉄、マンガン及び銅が挙げられる。貴金属であるルテニウム及びロジウムは、非貴金属よりもかなり高い水素放出速度を提供することができる。
【0005】
図1を参照されたい。図1は水素放出反応の従来の触媒を例示している。水素放出反応の従来の触媒100は、触媒担体110と、金属触媒層120とを含む。従来の触媒担体110は例えば酸化アルミニウムである。金属触媒層120は例えば、ルテニウム、コバルト、ニッケル、鉄、マンガン又は銅である。水素放出反応の触媒100を製造する従来の方法は次の工程を含む。通常、金属触媒を含む混合物を触媒担体110の表面上に被覆させる。次に、金属触媒層120が、550℃付近の高温で触媒担体110の表面上に形成される。550℃の高温プロセス後に、金属酸化物が、触媒担体110の表面上に形成される。金属酸化物は金属へと還元する必要がある。還元は、水素を用いて約700℃のようなより高い温度で実施されなければならない。従来の製造方法は、高温システムだけでなく、真空システム又は保護雰囲気も使用するため、かなり費用がかかる。その上、金属を還元するのに高温で水素を使用することは極めて危険である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、水素放出反応を触媒する触媒、及びその方法に関する。金属触媒イオン、金属触媒原子、金属触媒ナノ構造、又は金属触媒原子とナノ構造との組合せは、キレート化及び還元を介して触媒担体の表面上に形成される。本発明の実施の形態の触媒は水素放出速度を上げ、また、その製造方法は簡単な工程しか含まない。大量生産が迅速且つ安価に達成されるため、製品は商品化されうる。
【0007】
本発明の第1の態様によれば、触媒を製造する方法が提供される。触媒は、水素放出反応を触媒するのに使用される。製造方法は次の工程を含む。初めに、金属触媒イオンを含む溶液を準備する。次に、複数のキレート単位を含む触媒担体を準備する。その後、触媒担体を溶液と混合することにより、金属触媒イオンが、触媒担体の表面上のキレート単位とキレートする。続いて、触媒担体の表面とキレートしている金属触媒イオンを還元することにより、金属触媒ナノ構造及び/又は金属触媒原子を触媒担体の表面上に被覆させて、触媒を形成する。
【0008】
本発明の第2の態様によれば、水素放出反応を触媒する触媒が提供される。当該触媒は、イオン交換樹脂の触媒担体と、触媒担体の表面上に形成される金属触媒原子とを含む。
【0009】
本発明の第2の態様によれば、水素放出反応を触媒する別の触媒が提供される。当該触媒は、イオン交換樹脂の触媒担体と、金属触媒イオンとを含む。また、触媒担体の表面は幾らかのキレート基を有する。金属触媒イオンはそれぞれ、触媒担体の表面上のキレート基とキレートする。
【0010】
本発明は、好ましいが非限定的な実施形態の以下の詳細な説明から明らかとなる。以下の説明は添付の図面を参照して為される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】水素放出反応の従来の触媒を例示する図である。
【図2】本発明の第1の実施形態による、水素放出反応を触媒する触媒を例示する図である。
【図3】本発明の第1の実施形態による触媒の製造方法のフローチャートである。
【図4】本発明の第1の実施形態による触媒の製造を例示する図である。
【図5】本発明の第2の実施形態による、水素放出反応を触媒する触媒を例示する図である。
【図6】本発明の第2の実施形態による触媒の製造方法のフローチャートである。
【図7】本発明の第2の実施形態による触媒の製造を例示する図である。
【図8】金属触媒イオンを還元する方法のフローチャートである。金属触媒イオン320を還元する方法は次の工程を含む。
【図9】触媒Al及び触媒Ru/IR−120を用いた水素放出曲線である。
【図10】対照群の触媒担体であるγ−Al、生成された触媒Ru/Al、並びに実施形態の触媒担体IR−120、及び生成された触媒Ru/IR−120の外観の写真及び走査型電子顕微鏡(SEM)によって撮影された拡大写真及び、特性分析を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
水素放出反応を触媒する迅速製造された触媒及びその製造方法は、本発明により提供される。製造プロセスは単純であり、迅速且つ安価に大量生産を可能にする。触媒は高い水素放出速度を有する。本発明の第1の実施形態及び第2の実施形態は、以下のように説明される。しかしながら、触媒の構造及び反応工程は例として用いられるものであり、本発明の範囲を限定するものではない。さらに、説明を明確にするため、不必要な要素は図面中に示していない。
【0013】
[第1の実施形態]
図2を参照されたい。図2は、本発明の第1の実施形態による、水素放出反応を触媒する触媒を例示している。第1の実施形態において、水素放出反応を触媒する触媒200は、イオン交換樹脂型の触媒担体210と、幾らかの金属触媒イオン220とを含む。幾らかのキレート基211が触媒担体210の表面上に存在する。金属触媒イオン220はそれぞれ、触媒担体210の表面上のキレート基211とキレートする。
【0014】
触媒担体210の粒子径は1μm〜10000μmである。触媒担体210は好ましくは、MSC−1B、DowEX−HCR−W2、MSC−1A、Amberlyst−15、DowEX−22、DowEX−88及びIR−120等のカチオン交換樹脂である。或いは、触媒担体210は、A−26、IRA−400、IRA−900、DowEX−550A、DowEX−MSA−1、DowEX−MSA−2及びA−36等のアニオン交換樹脂であってもよい。さらに、金属触媒イオン220は、ルテニウム、コバルト、ニッケル、鉄、マンガン又は銅から成る群より選択される少なくとも1つを含む。
【0015】
本実施形態の、水素放出反応を触媒する触媒200は、水素化物と水との加水分解反応を触媒して水素を生成するためのものである。水素化物は、水素化アルミニウムリチウム、水素化アルミニウムナトリウム、水素化アルミニウムマグネシウム、水素化アルミニウムカルシウム、水素化ホウ素リチウム、水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素カリウム、水素化ホウ素ベリリウム、水素化ホウ素マグネシウム、水素化ホウ素カルシウム、水素化リチウム、水素化ナトリウム、水素化マグネシウム及び水素化カルシウムから成る群より選択される。触媒200粉末を水素化物の加水分解反応に使用する前に、触媒200粉末を、約1μm〜10mmの粒子径を有する粒子に粉砕し、総表面積を増やすことができる。触媒200粉末が水素化物と水との加水分解反応に触媒作用を及ぼすと、水素はより急速に生成される。
【0016】
触媒200の製造方法は、添付の図面を参照して以下のように説明される。図3及び図4を参照されたい。図3は、本発明の第1の実施形態による触媒の製造方法のフローチャートである。図4は、本発明の第1の実施形態による触媒の製造を例示している。第1の実施形態において、触媒200の製造方法は次の工程を含む。
【0017】
初めに、工程S31に示されるように、金属触媒イオン220を含む溶液を準備する。この溶液は金属塩溶液である。溶液中の金属触媒イオン220のモル濃度は、実用条件に応じておよそ0.001M〜10Mである。
【0018】
次に、工程S32に示されるように、幾らかの触媒担体210を準備する。各触媒担体210は、幾らかのキレート単位211を含む。さらに、工程S32において、触媒担体210は、粉砕又は任意の他の方法によって1μm〜10000μmの粒子径を有する等サイズの粒子に破砕することができる。
【0019】
その後、工程S33に示されるように、触媒担体210が幾らかの触媒200を形成するために溶液中に添加される。工程S33では、溶液中の金属触媒イオン220が、触媒200を形成するために各触媒担体210の表面上のキレート単位211とキレートする。
【0020】
その後、工程S34に示されるように、触媒200を回収する。工程S34は、触媒200を取り出す工程と、洗浄する工程と、乾燥させる工程とを含む。触媒200を乾燥させる工程では、真空環境又は不活性ガス中で触媒200を乾燥させる。
【0021】
さらに、本実施形態では、触媒200を製造するための操作温度が−20℃〜80℃である。ゆえに、触媒200は、本発明において高温システムを用いることなく室温で製造することができる。その上、本実施形態は、キレート反応における触媒担体としてイオン交換樹脂を使用して、表面上に金属触媒イオンを捕捉する。キレートされた金属触媒イオンの量は、濃度及び時間を変えることによって制御することができる。したがって、本発明の第1の実施形態により提供される製造プロセスは非常に単純であるため、迅速な大量生産及び低い設備費用を可能にする。
【0022】
[第2の実施形態]
図5を参照されたい。図5は、本発明の第2の実施形態による、水素放出反応を触媒する触媒を例示している。第2の実施形態において、水素放出反応を触媒する触媒300は、イオン交換樹脂型の触媒担体310と、幾らかの金属触媒原子とを含む。金属触媒原子は、触媒担体310の表面上に形成される。また、金属触媒原子は、触媒担体310の表面上に幾らかの金属触媒ナノ構造320を形成する。或いは、金属触媒原子の幾らかのみが、触媒担体の表面上に幾らかの金属触媒ナノ構造320を形成する。本実施形態において、金属触媒ナノ構造の大きさは100nm未満である。
【0023】
触媒担体310の粒子径は1μm〜10000μmである。同様に、触媒担体310は、MSC−1B、DowEX−HCR−W2、MSC−1A、Amberlyst−15、DowEX−22、DowEX−88及びIR−120等のカチオン交換樹脂であってもよい。或いは、触媒担体310は、A−26、IRA−400、IRA−900、DowEX−550A、DowEX−MSA−1、DowEX−MSA−2及びA−36等のアニオン交換樹脂であってもよい。金属触媒原子は、ルテニウム、コバルト、ニッケル、鉄、マンガン又は銅から成る群より選択される少なくとも1つを含む。
【0024】
同様に、本実施形態の、水素放出反応を触媒する触媒300は、水素化物と水との加水分解反応に触媒作用を及ぼして水素を生成する。水素化物は、水素化アルミニウムリチウム、水素化アルミニウムナトリウム、水素化アルミニウムマグネシウム、水素化アルミニウムカルシウム、水素化ホウ素リチウム、水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素カリウム、水素化ホウ素ベリリウム、水素化ホウ素マグネシウム、水素化ホウ素カルシウム、水素化リチウム、水素化ナトリウム、水素化マグネシウム及び水素化カルシウムから成る群より選択される。第1の実施形態と同様に、水素化物の加水分解反応に使用する前に、触媒300粉末を、約1μm〜10000μmの粒子径を有する粒子に破砕し、総表面積を増やすことができる。このため、触媒300は水素化物と水との加水分解反応に触媒作用を及ぼすと、水素がより急速に生成される。
【0025】
本実施形態の触媒300の製造方法は、フローチャートを参照して以下のように説明される。図6及び図7を参照されたい。図6は、本発明の第2の実施形態による触媒の製造方法のフローチャートである。図7は、本発明の第2の実施形態による触媒の製造を例示している。第2の実施形態において、触媒300の製造方法は次の工程を含む。
【0026】
初めに、工程S61に示されるように、金属触媒イオン320’を含む溶液を準備する。この溶液は金属塩溶液である。金属触媒イオン320’のモル濃度は、実用条件に応じておよそ0.001M〜10Mである。
【0027】
次に、工程S62に示されるように、幾らかの触媒担体310を準備する。各触媒担体310は、幾らかのキレート単位311を含む。同様に、工程S62において、触媒担体310は、1μm〜10mmの粒子径を有する等サイズの粒子に破砕することができる。
【0028】
その後、工程S63に示されるように、触媒担体310が溶液中に添加される。工程S63では、溶液中の金属触媒イオン320’が、各触媒担体310の表面上のキレート単位311とキレートする。
【0029】
その後、工程S64に示されるように、触媒担体310上の金属触媒イオン320’は還元される。その結果、触媒300を形成するように、触媒担体310の表面は、幾つかの金属触媒ナノ構造320及び/又は金属触媒原子によって被覆される。
【0030】
また、工程S64における金属触媒イオン320’の還元方法は、本実施形態により一例として本発明の当業者に提供される。例えば、工程S64では、金属触媒イオン320’を金属触媒原子へと還元するのに還元剤を使用することができる。全ての金属触媒原子は金属触媒ナノ構造320を形成し得る。或いは、金属触媒原子の幾らかのみが、実用条件に応じて金属触媒ナノ構造320を形成する。図8を参照されたい。図8は、金属触媒イオンの還元方法のフローチャートを示している。金属触媒イオン320’を還元する方法は次の工程を含む。初めに、工程S81に示されるように、表面が金属触媒イオン320’とキレートしている触媒担体310が取り出される。次に、工程S82に示されるように、触媒担体310はキレートされていない金属触媒イオン320’を除去するように洗浄される。洗浄されたその上に、工程S83に示されるように、還元剤を供給する。還元剤は例えば、水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素カリウム、ジメチルアミノボラン、ヒドラジン、ホルムアルデヒド、ギ酸又は亜硫酸の溶液である。還元剤のモル濃度は、実用条件に応じておよそ0.0001M〜10Mである。その後、工程S84に示されるように、触媒担体310は還元時間の間、還元剤中に置かれる。工程S84では、触媒担体310の表面上の金属触媒イオン320’は、金属触媒ナノ構造320及び/又は金属触媒原子を形成するように還元される。還元時間は、還元剤のモル濃度及び量に応じて約5秒〜48時間である。
【0031】
続いて、工程S65に示されるように、触媒300は回収される。本実施形態の触媒300を回収する方法は第1の実施形態の方法と同様である。工程S65は、触媒300を取り出す工程と、洗浄する工程と、乾燥させる工程とを含む。触媒300を乾燥させる工程において、触媒300は、真空環境又は不活性ガス中で乾燥される。
【0032】
さらに、本実施形態では、触媒300を製造するための操作温度が−20℃〜80℃である。ゆえに、キレート化及び還元を通じて、本実施形態は、高温システムを用いることなく、イオン交換樹脂を使用して、金属触媒イオンを捕捉した後に、この金属触媒イオンを金属触媒ナノ構造及び/又は金属触媒原子へと還元する。金属触媒イオンが還元される際、実用条件に応じて、金属触媒イオンの幾らかが金属触媒原子へと還元され、他のものは金属触媒ナノ構造へと還元される。本発明はそれに限定されない。触媒を製造する従来の方法と比べて、本実施形態のナノスケールの金属触媒を製造する方法は容易であるとともに、迅速且つ安価に大量生産を可能にする。また、キレート化及び還元は、生産を改良するために、濃度及び時間を変え制御されることができる。
【0033】
関連実験の1つは、参照として以下のように当業者に提供される。しかしながら、実験で使用される構成要素及び工程が例示のためだけのものであり、本発明の範囲を限定するものではないことは、本発明の当業者により理解され得る。実際に適用される場合、実験パラメータは、実用条件に応じて調節することができる。
【0034】
[関連実験−触媒Ru/IR−120及び触媒Ru/Al]
関連実験では、触媒Ru/IR−120が、第2の実施形態の方法によって製造された。触媒Ru/Alは対照群として従来方法によって製造された。
【0035】
本実施形態の触媒Ru/IR−120が製造される場合、強酸型(カチオン型)のイオン交換樹脂IR−120は触媒担体として使用される。貴金属ルテニウムは金属触媒として使用される。初めに、ルテニウムイオンがイオン交換樹脂IR−120の表面とキレートする。その後、樹脂IR−120の表面上のルテニウムイオンは、強力な還元剤である水素化ホウ素ナトリウムにより、化学的還元を介してルテニウム原子へと還元される。結果として、ナノスケール構造を有するルテニウム触媒が、樹脂IR−120の表面上に形成される。
【0036】
触媒Ru/IR−120を生成する詳細な工程を以下に記載する:
【0037】
(a)5gの塩化ルテニウムは100mlの脱イオン水中に完全に溶解され、塩化ルテニウム溶液を生成する。ルテニウムイオンのモル濃度はおよそ0.24Mである。
【0038】
(b)20gのIR−120が塩化ルテニウム溶液に添加される。溶液は150rpmで撹拌される。
【0039】
(c)約4時間後、IR−120は徐々に暗黒色となり、これは、或る特定量のルテニウムイオンが、IR−120の表面上のキレート基とキレートしていることを意味する。暗黒色のIR−120は取り出され、キレートされていないルテニウムイオンを除去するために、大量の脱イオン水により洗浄される。
【0040】
(d)IR−120の表面とキレートしているルテニウムイオンの重量は秤により計算される。水素化ホウ素ナトリウム溶液は、ルテニウムと水素化ホウ素ナトリウムとのモル比が1:2であり、還元剤として用いられるように生成されたものである。特定時間内では、工程(c)の待ち時間が延びるにつれ、IR−120の表面とキレートするルテニウムイオンの重量が増大する。したがって、IR−120の表面とキレートするルテニウムイオンの重量は、工程(c)の待ち時間を変えることによって制御することができる。
【0041】
(e)ルテニウムイオンをキレートしているIR−120は、水素化ホウ素ナトリウム溶液に添加され、150rpmで攪拌される。
【0042】
(f)約3時間後、IR−120は、暗黒色から徐々に光沢のある銀色へと変わり、これは、或る特定量のルテニウムイオンがIR−120の表面上でルテニウム原子へと還元されていることを意味する。光沢のある銀色のIR−120は取り出され大量の脱イオン水によって洗浄される。
【0043】
(g)IR−120は25℃〜80℃の温度で真空乾燥を行うため真空炉内に置かれる。
【0044】
(h)IR−120が乾燥され、触媒Ru/IR−120の生成は完了させる。
【0045】
さらに、触媒Ru/Alが、対照群として従来の製造方法によって生成される。従来の製造方法は次の工程を含む。初めに、従来の触媒担体であるγ−Alを使用し、塩化ルテニウム溶液を含浸により生成する。製造プロセスは、担体の焼成、含浸、濾過及び乾燥、高温焼結、及び水素による還元を含む。
【0046】
触媒が生成した後、触媒の特性分析、及び水素放出反応を触媒する際の触媒試験が実施された。図10は、対照群の触媒担体であるγ−Al、生成された触媒Ru/Al、並びに実施形態の触媒担体IR−120、及び生成された触媒Ru/IR−120の外観の写真及び走査型電子顕微鏡(SEM)によって撮影された拡大写真を示している。特性分析を図10に示す。実施形態の触媒担体IR−120の本来の色はクリームイエローである。還元剤による還元後、ルテニウムイオンをキレートしている樹脂の表面は銀白色へと変化する。SEMによって撮影された写真は、還元後に、ナノ構造を有する顆粒ルテニウムがIR−120の表面上に形成されることを示している。還元されたルテニウムナノ粒子の平均粒子径は約60nm〜80nmである。
【0047】
さらに、水素放出反応を触媒する触媒の試験では、対照群の触媒Ru/Al及び実施形態の触媒Ru/IR−120は、水素化ホウ素ナトリウムと水との加水分解反応に触媒として作用して、水素を生成する。図9は、触媒Al及び触媒Ru/IR−120を用いた水素放出曲線を示している。結果は、同一条件(1wt.% NaOH+5wt.% NaBH)下において、実施形態の触媒Ru/IR−120の水素放出速度が従来の触媒Alの水素放出速度よりも有意に高いことを示している。最大過渡流量は約150sccm/gに達することができ、水素は120分内で完全に放出される。従来の触媒であるRu/Alの過渡流量は約40sccm/gで比較的低い。従来の触媒において、水素は120分後であっても低量放出され、これは水素が効率的に放出され得ないことを意味する。
【0048】
上記結果より、触媒Ru/Alの製造方法において、塩化ルテニウム溶液は、γ−Alを担体として用いることによる含浸を介して生成される。当該製造方法は、担体の焼成、含浸、濾過及び乾燥、高温焼結及び水素による還元を含む。本実施形態の触媒Ru/IR−120は、2つの工程であるキレート化及び還元のみによって製造される。初めに、金属イオンがカチオン交換樹脂の表面とキレートする。その後、金属イオンは、還元剤によって表面上にナノ構造を有する被覆型触媒へと還元される。当該方法は、複数の工程を伴う高温における還元を実施する従来の方法を回避する。さらに、触媒Ru/IR−120の水素放出量は、従来の触媒Ru/Alの水素放出速度よりも有意に高い。
【0049】
本発明により提供される、水素放出反応を触媒する触媒及びその製造方法において、複数の金属触媒イオン又はナノスケールの金属触媒は、キレート化及び還元を介して触媒担体の表面上に形成される。この利点は、高い水素放出量及び単純化された工程を含む。例えば、この触媒は、カチオン交換樹脂を用いて金属イオンを樹脂の表面とキレートさせる工程と、金属イオンを、還元剤によって室温で表面上にナノ構造を有する被覆型の触媒へと還元する工程との2つの工程のみによって生成される。したがって、大量生産が、従来の高温システムを用いることなく迅速且つ安価に達成される。結果として、この製品は商品化されることができる。金属触媒イオンは、イオン交換樹脂のキレートを介して表面上に捕捉される。また、この生産は、濃度及び時間を変えることによって制御することができる。ナノスケールの金属触媒に関して、キレート化及び還元もまた、生産を改良するために濃度及び時間を変えることによって制御することができる。
【0050】
本発明は、一例として及び好ましい実施形態に関して説明されているが、本発明がこれに限定されないことを理解されたい。反対に、本発明は、多様な変更並びに類似の配置及び手法を網羅することを意図され、また、添付の特許請求の範囲に、全てのかかる変更並びに類似の配置及び手法を包含するように最も広範な解釈を与えるものとする。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素放出反応を触媒するために用いられる触媒を製造する方法であって、
複数の金属触媒イオンを含む溶液を準備すること、
各々が複数のキレート単位を含む、複数の触媒担体を準備すること、
前記溶液中の前記金属触媒イオンが前記触媒担体の表面上の前記キレート単位とキレートするように、前記触媒担体と、前記溶液とを混合すること、
複数の金属触媒ナノ構造および/又は金属触媒原子を前記触媒担体の前記表面上に被覆させて、複数の触媒を形成するように、前記触媒担体の前記表面上の前記金属触媒イオンを還元することと、
を含む、水素放出反応を触媒するために用いられる触媒を製造する方法。
【請求項2】
前記触媒担体と前記溶液とを、キレート化を実施するために−20℃〜80℃の操作温度で混合する、
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記触媒担体の前記表面上でキレートされた前記金属触媒イオンを室温で還元する、
請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記還元を実施する工程の前に、次の工程:
表面が前記金属触媒イオンにてキレートされている前記触媒担体を取りだすこと、及び、
キレートしていない前記金属触媒イオンを取り除くために、表面が前記金属触媒イオンにてキレートされている前記触媒担体を洗浄すること、
を更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
キレートしていない前記金属触媒イオンを取り除くために、表面が前記金属触媒イオンにてキレートされている前記触媒担体を洗浄する工程の実施後に次の工程:
還元剤を準備すること、及び、
表面が前記金属触媒イオンとキレートしている前記触媒担体を、前記還元剤に添加し、前記触媒担体の前記表面とキレートしている前記金属触媒イオンを還元し、前記金属触媒ナノ構造および/又は前記金属触媒原子を形成すること、
を更に含む請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記還元剤が、水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素カリウム、ジメチルアミノボラン、ヒドラジン、ホルムアルデヒド、ギ酸又は亜硫酸の溶液を含む、
請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記還元剤のモル濃度が、0.001M〜10Mである、
請求項5に記載の方法。
【請求項8】
前記還元の工程において、前記触媒担体の前記金属触媒イオンを、5秒〜48時間で前記金属触媒ナノ構造および/又は前記金属触媒原子へと還元する、
請求項5に記載の方法。
【請求項9】
前記還元の工程の実施後において、前記触媒を回収することをさらに含む、
請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記触媒を回収する工程において、
前記触媒を取りだすことと、
前記触媒を洗浄することと、
前記触媒を乾燥することを、
さらに含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記触媒を乾燥する工程において、
真空環境又は不活性ガス中で前記触媒を乾燥する、
請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記金属イオンが、ルテニウム、コバルト、ニッケル、鉄、マンガン又は銅から成る群より選択される少なくとも1つを含む、
請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記溶液が金属塩溶液であり、且つ前記金属触媒イオンのモル濃度が、0.001M〜10Mである、
請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記触媒担体の平均粒子径が、1μm〜10000μmである、
請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記触媒担体が、カチオン交換樹脂である、
請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記触媒担体が、アニオン交換樹脂である、
請求項1に記載の方法。
【請求項17】
水素放出反応を触媒する触媒であって、
イオン交換樹脂型の触媒担体と、
前記触媒担体の表面上に形成された複数の金属触媒原子と、
を含む、水素放出反応を触媒する触媒。
【請求項18】
前記金属触媒原子の少なくとも幾らかは、前記触媒担体の前記表面上に複数の金属触媒ナノ構造を形成する、
請求項17に記載の触媒。
【請求項19】
前記金属触媒ナノ構造の大きさが100nm未満である、請求項18に記載の触媒。
【請求項20】
前記金属触媒原子が、ルテニウム、コバルト、ニッケル、鉄、マンガン又は銅から成る群より選択される少なくとも1つを含む、請求項17に記載の触媒。
【請求項21】
前記触媒担体の粒子径が1μm〜10mmである、請求項17に記載の触媒。
【請求項22】
前記触媒担体がカチオン交換樹脂である、請求項17に記載の触媒。
【請求項23】
前記触媒担体がアニオン交換樹脂である、請求項17に記載の触媒。
【請求項24】
水素化物と水との水素放出反応を触媒するのに使用される、請求項17に記載の触媒。
【請求項25】
前記水素化物が、水素化アルミニウムリチウム、水素化アルミニウムナトリウム、水素化アルミニウムマグネシウム、水素化アルミニウムカルシウム、水素化ホウ素リチウム、水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素カリウム、水素化ホウ素ベリリウム、水素化ホウ素マグネシウム、水素化ホウ素カルシウム、水素化リチウム、水素化ナトリウム、水素化マグネシウム及び水素化カルシウムから成る群より選択される、請求項24に記載の触媒。
【請求項26】
水素放出反応を触媒する触媒であって、
表面上に複数のキレート基を有するイオン交換型の触媒担体と、
前記触媒担体の前記表面上の、前記キレート基とそれぞれキレートしている複数の金属触媒イオンと、
を含む、水素放出反応を触媒する触媒。
【請求項27】
前記金属触媒イオンが、ルテニウム、コバルト、ニッケル、鉄、マンガン又は銅から成る群より選択される少なくとも1つを含む、請求項26に記載の触媒。
【請求項28】
前記触媒担体の粒子径が1μm〜10mmである、請求項26に記載の触媒。
【請求項29】
前記触媒担体がカチオン交換樹脂である、請求項26に記載の触媒。
【請求項30】
前記触媒担体がアニオン交換樹脂である、請求項26に記載の触媒。
【請求項31】
水素化物と水との水素放出反応を触媒するのに使用される、請求項26に記載の触媒。
【請求項32】
前記水素化物が、水素化アルミニウムリチウム、水素化アルミニウムナトリウム、水素化アルミニウムマグネシウム、水素化アルミニウムカルシウム、水素化ホウ素リチウム、水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素カリウム、水素化ホウ素ベリリウム、水素化ホウ素マグネシウム、水素化ホウ素カルシウム、水素化リチウム、水素化ナトリウム、水素化マグネシウム及び水素化カルシウムから成る群より選択される、請求項31に記載の触媒。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−214358(P2010−214358A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2009−128227(P2009−128227)
【出願日】平成21年5月27日(2009.5.27)
【出願人】(390023582)財団法人工業技術研究院 (524)
【氏名又は名称原語表記】INDUSTRIAL TECHNOLOGY RESEARCH INSTITUTE
【住所又は居所原語表記】195 Chung Hsing Rd.,Sec.4,Chutung,Hsin−Chu,Taiwan R.O.C
【Fターム(参考)】