水素水生成装置及び水素水生成方法
【課題】電解によって生じるトリハロメタン類の発生を抑制することができる水素水生成装置及び水素水生成方法を提供する。
【解決手段】本発明の水素水生成装置は、被処理水を収容可能に構成された電気分解処理槽と、前記電気分解処理槽に収容された被処理水を電気分解可能に構成された電極と、電気分解を行うための電流を電極に流すと共に電流の電流密度を0.75A/dm2以下に制御する電流制御装置とを備えることを特徴とする。
【解決手段】本発明の水素水生成装置は、被処理水を収容可能に構成された電気分解処理槽と、前記電気分解処理槽に収容された被処理水を電気分解可能に構成された電極と、電気分解を行うための電流を電極に流すと共に電流の電流密度を0.75A/dm2以下に制御する電流制御装置とを備えることを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水の電気分解(以下、電解と称する)により、水素を含有する水を製造する水素水生成装置及び水素水生成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、水素分子が気体状態で溶存している水素水は、酸化還元電位が低く、飲料として水素水を摂取することにより老化や病気を予防する抗酸化作用が認められることから、特に飲用水として注目されている。
この水素水は水の電解、例えば、陰極及び陽極を備える処理槽内で水を電気分解することによって得られる。
【0003】
一般的な化学反応を説明すると、まず、陰極に水素イオンとナトリウムイオン等の金属イオンが引かれ、金属イオンは原子になるよりイオン状態の方が安定で、水素イオンが電子を受けとり、その水素が陰極からは気体として発生する。
2H2O + 2e− → H2 + 2OH−
そして、陰極に生成した水酸化物イオンは陽極に引かれ、陽極に電子を渡し、水と酸素になり、その酸素が陽極から気体として発生する。
4OH− → O2 + 2H2O + 4e−
上記の陰極から発生する水素分子が、気体状態で溶存した水が水素水である。
【0004】
この水素水を含んだ上位概念である還元水の製造装置として、水を収容する容器中に、一対の電極と直流電源を備え、一対の電極が容器内の底部から上側に突設されずに、該底部側において側壁側に延伸した状態にある板状体表面に形成されている還元水生成装置が知られている(特許文献1)。
この特許文献1の還元水生成装置は、本件出願の発明者の一人が発明したものであり、容器の清掃及び容器内の水の平均還元電位の測定を目的とする攪拌を行う場合に何らの支障とならず、これらの作業を円滑に実現し得る形状の電極を具備し、直流電源にて定電流回路を採用した電極の構造に関して最適な装置を提供しようとするものである。
【0005】
なお、水素水の生成装置として、装置本体の内部で水道水を電解して還元水素水を生成する還元水素水生成装置が開示されている(特許文献2)。この装置は、水質、流水量等の条件に応じて還元時間を制御しつつ還元水素水を生成しようとするものである。また、還元水の製造装置として、水を収容する容器中に、一対の電極を備え、当該電極に対する直流電源を備える還元水生成装置が開示されている(特許文献3)。これらの特許文献は、特に本発明の特徴とは関連しない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−233516号公報
【特許文献2】特許第4086311号公報
【特許文献3】特開2009−90220号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところが、電気分解を行うための被処理水として水道水を用いた場合、水道水には塩化物イオンを少なからず含有しているため、この塩化物イオンが陽極で酸化されて次亜塩素酸イオンを生成することになる。
2Cl−+4OH−→ 2ClO− +2H2O+4e−
この次亜塩素酸イオンは水の殺菌において有効な物質であるが、電解に伴って、当該次亜塩素酸イオンから、或いは、塩化物イオンから直接に、消毒副生成物であり人体に影響を及ぼす可能性があるトリハロメタン類が生成することがある。
【0008】
上記の水道水の電解では、得られた水素水の総トリハロメタン濃度0.1mg/Lを超過する場合がある。この値は、例えば、日本であれば飲料水基準を超えるものであるため飲用として不適となる。
【0009】
特許文献1の還元水生成装置を用いて本発明者らが研究したところによると、上記の特許文献1の還元水生成装置であっても、水道水を被処理水とする場合にはトリハロメタン類生成の問題が生じることがある。
【0010】
これに対して、陽極と陰極の間に隔膜を設け、前記トリハロメタン生成の要因となる塩化物イオンが引き寄せられ、かつ、次亜塩素酸イオンが発生する陽極側から得られる酸性の水素水でなく、陰極側から得られるアルカリ性の水素水のみを飲用に適用する解決手段が提案されている。例えば、日本では、JIS T 2004「家庭用電解水生成器」において、電解水生成器には上記解決手段を採用することが規格として定められている。
しかし、上記解決手段を採用した電解水生成器では、アルカリ性の水素水しか得られないことになるが、アルカリ性の水素水は中性の水素水に比べて、人体への影響において未知数の部分があるという問題がある。
【0011】
その一方で、この問題を根本から解消するために、被処理水から塩化物イオンを除去することも考えられる。
しかしながら、そのためには別途、純水製造装置などを設ける必要がある。また、次亜塩素酸イオンを完全に除去した被処理水や生成された水素水は、次亜塩素酸イオンが除去されることになるため、殺菌効果を持たなくなるという問題が生じる。これを解決するためには、さらに、殺菌のための別の手段、例えば殺菌のための薬剤添加装置、紫外線照射装置又はフィルタ装置等を設ける必要が生じ、機器の大型化、複雑化やコストの増加などをもたらす。
【0012】
本発明は、水道水から、トリハロメタン類の発生量を抑制することができると共に、電解において生じる次亜塩素酸イオンを水の殺菌処理に有効利用することができる水素水を生成する水素水生成装置及び水素水生成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の水素水生成装置は、被処理水を収容可能に構成された電気分解処理槽と、前記電気分解処理槽に収容された被処理水を電気分解可能に構成された電極と、電気分解を行うための電流を電極に流すと共に電流の電流密度を0.75A/dm2以下に制御する電流制御装置とを備えることを特徴とする。
【0014】
上記の課題に対して、研究を進めていくなかで、本発明者らは、電気分解(以下、単に電解という。)の際の電力が、次亜塩素酸イオン及びトリハロメタン類の生成反応のポテンシャルエネルギーとなっていることに着目した。そのなかで電解の条件を検討することによって、これらの反応を制御し、望ましい範囲の含有物質を得うるのではないかと思案した。もっとも、電解には、電力等の電気的条件、電極の構成素材や機械的構成、被処理水の含有物質や量などの様々な条件が関連するため、これらの条件を絞り込み目的とする効果を得ることは容易ではない。
しかしながら、本発明者らは、幾重にも試行錯誤し、ついに、電解の操作において電極の面積あたりに流れる電流、すなわち電流密度の高さと次亜塩素酸イオン及び総トリハロメタン類が生成量との間に相関関係があることを見出した。
そこで本発明者らは、水素水を生成するための電流密度の最適な条件、すなわち生成する総トリハロメタン濃度を規定内に抑え、かつ、殺菌効果を持つ次亜塩素酸イオンを生成する電流密度の条件を得ることを両立できるよう、さらに研究を続けた。
その結果到達したのが本発明の水素水生成装置である。本発明の水素水生成装置によれば、0.75A/dm2以下の電流密度で電解を行うことで、電解において次亜塩素酸イオンを生じつつ、トリハロメタン類の発生量を総トリハロメタン濃度0.1mg/L以下に抑えることができる。なお、上述の通り、総トリハロメタン濃度0.1mg/L以下は、日本の飲料水基準である。
以上説明したとおり、本発明の水素水生成装置によれば、トリハロメタン類の発生量を抑制することができると共に、電解において生じる次亜塩素酸イオンを水の殺菌処理に有効利用することができる水素水を生成することができる。
【0015】
本発明の水素水生成装置において、前記電流制御装置は、電流密度を0.62A/dm2以下に制御することが好ましい。
前記電流制御装置を備える水素水生成装置によれば、電解によって生じるトリハロメタン類の発生量を、0.05mg/L以下とすることができる。この結果、仮に一般の水道水等に約0.05mg/Lのトリハロメタン類が含有されていても、電解の結果生じるトリハロメタン類発生量を合計0.1mg/L以下とすることができ、人体への影響を最小限の範囲とすることができる。
【0016】
本発明の水素水生成装置において、電流制御装置は、電流密度を0.40〜0.75A/dm2に制御することが好ましい。電流密度を0.40A/dm2以上とすることで、トリハロメタン類発生量を抑えつつ次亜塩素酸イオンは生成することで殺菌効果を得ることができ、溶存水素量を確保できる飲用の水素水生成装置となる。
【0017】
本発明の水素水生成装置において、前記電極は、白金電極、イリジウム電極又は白金めっきを行ったチタン電極であることが好ましい。
前記電極を備える水素水生成装置によれば、伝導率が高く電解を効率的に行うことができ、磨耗が少ないため交換不要であると共に、水中に溶け込んで不純物となることがないため、より水素水の人体への影響を最小限の範囲とすることができる。
【0018】
本発明の水素水生成装置において、前記被処理水は水道水であることが好ましい。水道水には、次亜塩素酸イオン又はトリハロメタン類が含まれている場合があるが、本発明によれば、トリハロメタン類の濃度を飲料水基準に適合できる水質に維持して供給できると共に、水道水に含まれる次亜塩素酸イオンによって殺菌状態も維持することができる。
【0019】
本発明の水素水生成装置において、前記電極は、板状部材からなり、板状部材の片面のみが導電可能に構成されていることが好ましい。
前記電極を備える水素水生成装置によれば、陽極の板状部材の一方面から陰極の板状部材の一方面に向かって電流が流れることになるため、陽極の全方向から陰極の全方向に向かって不規則に電流が流れることにより迷走電流が発生することを防止できるため、トリハロメタン類の生成が抑制される。
【0020】
本発明の水素水の生成方法は、電気分解処理槽に被処理水を収容し、電気分解処理槽に備えられた電極で被処理水の電気分解を0.40〜0.75A/dm2の電流密度で行うことを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の一実施形態に用いる電気分解処理装置の概略図である。
【図2】本発明の実施例1の電流密度と遊離残留塩素の関係を示すグラフである。
【図3】本発明の実施例1の電流密度と遊離残留塩素の関係のうち0.4〜0.8A/dm2の間での直線性を示すグラフである。
【図4】本発明の実施例1の電流密度と溶存水素の関係を示すグラフである。
【図5】本発明の実施例1の0.6A/dm2電流密度における溶存水素、溶存酸素、溶存窒素の濃度変化を電解時間との関係でグラフ化したものである。
【図6】本発明の実施例1の電流密度と総トリハロメタンの関係を示すグラフである。
【図7】本発明の実施例1の電流密度と総トリハロメタンの関係のうち0.4〜0.8A/dm2の間での直線性を示すグラフである。
【図8】(a)は本発明の実施例3に用いた水素水生成装置の平面図、(b)は(a)の水素水生成装置のA−A断面図である。
【図9】本発明の実施例3の0.6A/dm2電流密度における、塩化物イオンを変化させた場合の遊離残留塩素濃度と総トリハロメタン濃度の増加率を示したグラフである。
【図10】本発明の実施例1の電流密度を変化させた場合の遊離残留塩素濃度と総トリハロメタン濃度の増加率を示したグラフである。
【図11】本発明の実施例5の各装置での溶存水素濃度を示したグラフである。
【図12】本発明の実施例5の各装置での残留塩素濃度を示したグラフである。
【図13】本発明の実施例5の各装置での総トリハロメタン濃度を示したグラフである。
【図14】本発明の実施例5の水平型の装置での総トリハロメタン濃度と電流密度との関係を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の一実施形態について説明する。本実施形態の水素水生成装置は、被処理水を収容する電気分解処理槽と電極とを備える水の電気分解処理装置を用いて実施することができる。こうした電気分解処理装置は、通電が可能であれば水素水を生成する装置、電解質を得るための装置のほか、例えば特許文献2又に記載されているような還元水を生成する装置などの構成を適宜使用できる。例えば本実施形態では、図1に示すような水素水生成装置1を使用する。この水素水生成装置1は、被処理水2を収容する容器を電気分解処理槽3とし、その中に陰極4と陽極5との一対の電極を備えているものである。水素水生成装置1は、また、この陰極4及び陽極5に電気的に接続されており、供給する電流値を制御可能な電流制御装置6と、この電流制御装置6に電気的に接続されており直流電力を供給する直流電源7とを備えている。なお、この種の電流制御装置6及び直流電源7の構成及び制御動作は、周知であるため、説明を省略する。
【0023】
電極材料としては、水の電解に使用可能なものを適宜用いることができ、例えば白金(Pt)電極、チタン(Ti)電極、イリジウム(Ir)電極又は炭素電極等を用いることができる。炭素電極は電解の過程で炭素が被処理水に溶出することがあり、また不純物が表面に吸着し電極を交換する必要が生じることがあるため、本実施形態では、陰極4及び陽極5ともに白金めっきしたチタン電極を用いている。これにより、電極材料の溶出が少なく、交換などのメンテナンスの手間とコストを要さない。
【0024】
電極の形状及び配置は、本実施形態では底部側において側壁側に延伸した状態にある板状体表面に形成された一対の電極を用いているが、こうした構成に限定されるものではない。形状は平板電極、針状電極、櫛型やリング型の電極などを適宜使用できる。電極の配置は平板電極ならば陰極と陽極の平板の面同士が対向し対極面となっていると電流が電極間を直線状に流れやすいため特に望ましいが、この配置に限られない。なお、本実施形態では、陰極側と陽極側の電解水を分離して取り出す必要がないため、電極間に隔膜を設ける必要がなく、その配置を自由に選択することができる。
【0025】
電極の形状が平板電極である場合、少なくとも一つの電極の片面が絶縁されていることが望ましい。例えば対向する一対の電極の場合、対向する対極面以外の面を絶縁していることが望ましい。例えば、ビニル等の素材により電極の裏面を被覆することにより絶縁することができる。このほか、絶縁は各種の塗料や被膜によるコーティングなどが適用できる。これは、電極間を直線に流れず裏面などに回る迷走電流は次亜塩素酸イオンの生成を起こしやすいので、電極の導通面を対極面のみとすることで、次亜塩素酸イオンの生成が大きく抑制される結果となり、さらにトリハロメタン類の抑制が可能となるためである。
【0026】
電極の面積は、電流密度(=電流(A)/電極面積(dm2))が一定となるよう、処理槽の容積及び予定する電流の量から適宜設計できる。本実施形態では2Lの電気分解処理槽に対して45cm2の電極面積を使用している。他に、1〜10L前後の規模の電気分解処理槽に用いるものであれば10〜1000cm2前後の面積のものを使用できる。電極の面積が小さすぎると、電極の間を直線に流れることができる電流の量が少なくなり、上述する迷走電流が生じやすい。電極の面積が大きすぎると、一定の電流密度を得るために大きな電力を要し電解の効率が悪くなる。
【0027】
陰極と陽極の電極間の相互距離は電流密度にかかわらないため適宜選択してよいが、数リットルの規模の電気分解処理槽に用いるものであれば5cm未満の距離が望ましく、特に、特許文献2のような一対の電極が容器内の底部側において側壁側に延伸した状態にある板状体表面に形成されている還元水生成装置の場合、電極間の距離は0.5〜5.0mm前後に限定することが望ましい。本実施形態では1.0mmの距離としている。これは、上述した迷走電流を防ぐためには電流が電極間を直線に流れやすいよう、できるだけ電極間の距離を小さくすることが望ましいためである。
【0028】
被処理水2として用いる水は、本実施形態では水道水を用いる。その他に、被処理水2には水道水又は井戸水をはじめ純度を問わず各種の水が使用できるが、電解のためには、電気伝導度を上昇させるためにある程度のイオンが含まれていることが望ましい。水道水やさらに純度が高い水には、各種の塩を添加することで電気伝導度を上昇させることができる。添加する塩としては、水素水を飲料水に用いるため人体に影響のないものであれば適宜選択できる。本実施形態では、水道水に食塩(NaCl)を添加する。電気伝導度は10mS/m以上であれば充分な電解による溶存水素が得られ、食塩であれば50mg/L程度を添加することでこの電気伝導度が得られる。
【0029】
被処理水2には、還元剤を添加すると次亜塩素酸イオンや有機塩素化合物の発生を抑制することができる。還元剤としては亜硫酸ナトリウムやビタミンC(アスコルビン酸)等があり、ビタミンCを含有するレモン汁やこれを原料とする食品添加物等を用いてもよいが、有機物が人体に影響を及ぼす有機塩素化合物に化学変化することも考えられるため、有機物を加えずにあくまで電解条件により次亜塩素酸イオンやトリハロメタン類の量を制御することがより望ましい。
【0030】
被処理水2の電解は、直流電源7に電気的に接続された電流制御装置6によって電流制御を行うことにより、0.75A/dm2以下の電流密度で行う。ここで電流密度は電極の面積あたりの電流値である。0.75A/dm2以下の電流密度で直流電流を流すことにより、トリハロメタン類の生成量はおよそ総トリハロメタン濃度0.1mg/L以下に抑えることができ、水質基準に関する省令(平成十五年五月三十日厚生労働省令第百一号)による飲料水の総トリハロメタンの含有量基準値以下となる。また、0.62A/dm2の電流密度の直流電流で電解を行うことがより望ましい。この場合、トリハロメタン類の生成量はおよそ総トリハロメタン濃度で0.05mg/L以下に抑えることができる。水道水等には総トリハロメタン濃度で0.05mg/L前後までトリハロメタン類が含まれていることがあるが、この電流密度であれば電解によって総トリハロメタン濃度が増加しても計0.1mg/Lの基準値以下となる。
【0031】
電解は次亜塩素酸イオンが発生する電力であれば特に下限はなく、例えば0.01A/dm2以上などの値で行っても良い。さらに、電解は0.40A/dm2以上の電流密度の直流電流で行うことが好ましい。0.40A/dm2以上において、次亜塩素酸イオンの発生が確保される。この電流密度においては、水素水として安定した溶存水素が得られる。本発明者らの研究によると、遊離残留塩素(電離していない次亜塩素酸及び次亜塩素酸イオンを指す)を含有する水道水に0.40〜0.62A/dm2の電流密度の直流電流を流した際には、次亜塩素酸イオンは増加するが、ほとんどトリハロメタン類は増加しない。そのため、次亜塩素酸イオンを含有することで殺菌状態を維持しつつ、人体に影響を及ぼすトリハロメタン類をほとんど含有しない水素水を生成することができる。
【0032】
トリハロメタン類とは、メタンの水素のうち3つがハロゲン化した化合物で、最も主なものが水素の3つが塩素化したクロロホルム(トリクロロメタン)である。他に、水素の3つが塩素化又は臭素化しているブロモジクロロメタン、ジブロモクロロメタン、及びブロモホルム(トリブロモメタン)等がある。これらのトリハロメタン類の濃度の総和を総トリハロメタン濃度として表示されている。
【0033】
反応時間は、電極面積、被処理水2の容積、及び目的とする溶存水素量によって適宜選択できる。目安として、電極面積45cm2で、2.0Lの水に対して0.3〜0.4A/dm2の電流密度の電流を流して電解を行った場合、20〜30分で0.4〜0.5mg/Lの溶存水素量が得られる。
【0034】
本実施形態の水素水生成装置1によれば、電解によるトリハロメタン類の増加が抑制されているため、比較的小規模の電解装置によって中性の水素水を生成することができる。従来は電解以外の手段、例えば水素を水に溶かし込むといった方法で中性の水素水を製造していたため、装置が大規模化し、設置箇所が限られる他、メンテナンスの手間やコストも増大していたが、本実施形態の装置は小規模にすることができ、これらの問題が解決される。従来は飲料に用いることができる水素水を生成する際は、陽極に発生する次亜塩素酸イオンとそこから生成するトリハロメタン類を避けるために、陰極側のアルカリ性の水素水を飲料用とせざるを得なかったが、本実施形態の装置では次亜塩素酸ナトリウムを添加する時に生ずるトリハロメタン類以上にトリハロメタン類が生成しないため、飲料に適した中性の水素水を飲料用とすることができる。
【実施例】
【0035】
(実施例1)
Pt−Ir電極(ペルメレック電極株式会社、45cm2/対極片面/枚)を陰極4及
び陽極5となる電極として電極間隔1mmの電極ホルダにセットし、電流制御装置6及び直流電源7に接続した。被処理水2として草津市水(琵琶湖の水を塩素処理した水道水)を2L入れたビーカに、電極と計測用循環ポンプを沈めたものを試験用の水素水生成装置1とした。
【0036】
この電極に各表に示す電流密度において各電流を流し、開始後0、5、10、15、25、及び35分後の溶存水素濃度(DH)並びに遊離残留塩素(塩素イオン)濃度(F−Cl)を測定した。さらに、35分後の総トリハロメタン濃度も同時に測定した。溶存水素濃度は溶存水素調節計:BIH−50D(バイオニクス機器株式会社)、遊離残留塩素濃度は遊離残留塩素測定器オンサイトラボCL−101:(東西化学産業株式会社)で測定を行った。
【0037】
電流密度:0.4A/dm2、0.18A / 4.0Vの結果を表1に示す。
【表1】
【0038】
電流密度:0.6A/dm2、0.27A / 5.1Vの結果を表2に示す。なお、このとき溶存酸素濃度(DO)は、開始時:8.83mg/L、35分後:10.03mg/Lであった。
【表2】
【0039】
電流密度:0.8A/dm2、0.36A / 5.3Vの結果を表3に示す。
【表3】
【0040】
電流密度:1.2A/dm2、0.54A / 7.0Vの結果を表4に示す。
【表4】
【0041】
電流密度:2.0A/dm2、0.9A / 11.0Vの結果を表5に示す。
【表5】
【0042】
この試験における各試料についての35分処理後の水質分析結果を表6に示す。
【表6】
【0043】
電流密度と遊離残留塩素濃度の関係を考察するところ、35分間実施の電流密度と遊離残留塩素濃度の関係を求めたものを図2に示す。次亜塩素酸イオンの生成は電流密度により変化することが解る。
【0044】
電流密度で0.4〜0.8A/dm2の間で直線性が認められるので、その間をグラフ化したものを図3に示す。近似式は、y=3.85x−1.45となり、これに基づいて表7に示す関係が導かれた。
【表7】
【0045】
すなわち、次亜塩素酸イオンは0.377A/dm2以上の電流密度で発生すると云う解が得られる。0.4A/dm2電流密度は飲用として殺菌効果が出る次亜塩素酸イオンの発生開始の電流密度であると言える。
【0046】
電流密度と溶存水素濃度の関係を考察するところ、次亜塩素酸イオンと同様に35分後の溶存水素濃度について求めたものを図4に示す。この装置では、大気開放状態では0.8mg/L程度が最大の濃度と考えられる結果となった。これは、「ある温度において水に溶解する気体(酸素、水素、窒素)の溶解度は存在する気体の分圧に比例する」というヘンリーの法則と合致する結果である。つまり、1気圧、25℃における純粋気体の溶解度は、水素:1.57mg/L、酸素:40.44mg/L、窒素:18.35mg/Lであり、酸素:窒素=1:4の大気下では酸素:8.09mg/L、窒素:14.68mg/Lである。水の電解における水素:酸素=2:1の発生下では酸素:13.48mg/L、水素:1.04mg/Lが最大となる。つまり、電解することにより、水の溶存酸素濃度は8.09mg/Lから13.48mg/Lに向け増加し、溶存水素濃度は0.0mg/Lから1.04mg/Lに向け増加することになる。(溶存窒素が減少していくことになる。)大気中には窒素が存在しており、大気開放下では試験結果の如く溶存水素が0.8mg/L程度で最大の濃度となることは理にかなっている。
【0047】
よって図4では0.6〜0.7A/dm2電流密度程度が屈曲点であり、大気開放下においては一番溶存水素濃度を効率よく得る為の電流密度であると言える。図4より、溶存水素の溶解最適濃度は0.6mg/Lになる。この溶存水素濃度の下限2割の0.48mg/Lのさらに安全率20%を考慮した溶存水素濃度は0.38mg/Lということになり、0.4A/dm2がその値に最適近似することと、0.4A/dm2以上においては変動しているが、以下においては安定して要望濃度を満たしていない結果となっている。したがって、溶存水素の溶解濃度において0.4A/dm2以上が望ましいことを示す。
【0048】
図5は、0.6A/dm2電流密度における実施例での溶存気体の溶解度を表したものである。加電時間とともに、水素が増加し、窒素が減少していく様子が理解出来る。
【0049】
電流密度と総トリハロメタン濃度の関係を考察するところ、35分間実施の電流密度と総トリハロメタン濃度の関係を求めたものを図6に示す。トリハロメタン類の生成も電流密度により変化することが解る。次亜塩素酸イオンと同様に電流密度で0.4〜0.8A/dm2の間で直線性が認められるので、その間を時間との関係で示したものを表8、グラフ化したものを図7に示す。(草津市水に総トリハロメタン濃度が0.023mg/L含まれるので、その分は引いてグラフ化してある。)
【0050】
近似式は、y=0.1975x−0.0718となり、これに基づいて表8に示す関係が導かれた。
【表8】
【0051】
表8より、トリハロメタン類は0.389A/dm2以上の電流密度で発生すると云う解が得られる。表7の次亜塩素酸イオンの発生値0.377A/dm2以上の電流密度とほぼ同じ値であり、トリハロメタン類は次亜塩素酸イオンの発生とともに生成すると決定づけることが出来る。飲料水の総トリハロメタン濃度の制限値は0.1mg/L以下であることより、電流密度は0.870A/dm2以下とすればいいと考えられるが、これは増加する総トリハロメタン濃度であり、草津市水での増加制限値は0.1mg/Lから0.023mg/Lを差し引いた0.077mg/L時の電流密度0.753A/dm2から0.75A/dm2を最大の電流密度と定めた。さらには、一般の水道水中にも0.05mg/L以下程度の総トリハロメタン濃度を含む飲料水が多くの地域で見られることより、増加限界は0.05mg/Lの総トリハロメタン濃度を許容出来る電流密度は0.617A/dm2となり、0.62A/dm2を上限における最適電流密度と定めた。
【0052】
試験に供した草津市水に次亜塩素酸ナトリウムを遊離残留塩素0.5mg/Lの濃度で添加すると、その草津市水の総トリハロメタン濃度は0.055mg/Lに上昇した。この0.055mg/L濃度は草津市水の次亜塩素酸ナトリウムによる酸化能力によって生じる最大の濃度である。この濃度を近似式y=0.1975x−0.0718に当てはめると、0.642A/dm2が水の電解における次亜塩素酸ナトリウムの酸化能力と同程度の次亜塩素酸イオンによる酸化能力と云うことになる。つまり、0.62A/dm2は次亜塩素酸ナトリウムの酸化能力以下の電流密度となり、前述のトリハロメタン類増加許容分もカバー出来る電流密度と合致する。
【0053】
0.8A/dm2程度以上になると、次亜塩素酸ナトリウムの酸化能力以上の酸化効力が発揮されており、総トリハロメタン濃度を次亜塩素酸ナトリウム添加による酸化効力以上に増加させている結果が見られる。飲料水基準における総トリハロメタンの濃度規定は、ユースポイントにおける遊離残留塩素の添加をも考慮されて決められており、次亜塩素酸ナトリウム添加の酸化効力程度でもって水を電解することが飲料水用途としては安全性の面からも重要なことであると判断出来ることより、この電流密度のポイントが0.62A/dm2以下にあると定めたことは理にかなっていると言える。
【0054】
(実施例2)
実施例1で使用した装置の電極板の陰極・陽極の対極面との反対側の面をビニールで絶縁し、実施例1と同様の試験を行った。
【0055】
結果は、表9に示す如く、片面を被覆した状態で電解すると水素の発生量は変化しないが、遊離残留塩素の発生量が2分の1以上に抑えられる結果となり、その効果は電流密度が上昇するにつれ、抑制効果も大きくなった。これは、次亜塩素酸イオンの発生は電極間対面の裏面でも起きていると云うことであり、裏面に回る迷走電流の抑制が次亜塩素酸イオンの生成抑制に貢献しているものと推察される。
【0056】
【表9】
【0057】
つまり、次亜塩素酸イオンの生成は、電極の導通面を対極面のみとすることで大きく抑制される結果となり、さらにトリハロメタン類の抑制が可能となる。そのため、特許文献2に記載されている装置のように、電極の片面のみが被処理水に面している構造体が飲料水用としてはさらに安全な水を供給することが可能な装置構造である。
【0058】
この理由として、陽極は水中にある水酸化イオンが接触するところで反応が起きるため、対局反対面でも電解反応が起きる。そのため陽極の面積が大きいと電極面積の塩化物イオンとの接触確率も大きくなり次亜塩素酸イオンの生成度は高くなり、消毒副生成物の生成度も高くなる。一方、陽極の面積が小さくなるほど次亜塩素酸イオンの生成は少なくなる。被対局型、つまり電極を水平にした場合には、陰極から生成した水酸化イオンが陽極に移動して陽極盤に接触する確率は、対面型(対局型)電極に比べてさらに少なくなることより、次亜塩素酸イオンの発生量は少なくなり、消毒副生成物の生成も少なくなると考えられる。
【0059】
(実施例3)
図8に示した、電気分解処理槽容器10内の底部側において側壁側に延伸した状態にある板状体表面に形成された一対の電極面積(22cm2)の白金メッキした陰極4、陽極5を備え、当該電極に対する直流電源整流器40を備えている水素水生成装置100を製作した。陽極5及び陰極4の双方を同心円をなすような略円輪形状とし、陽極5は直径幅4.8cm〜4.0cmの白金メッキによるチタン電極(電極面積0.22dm2に調整)を採用し、陰極4は直径幅5.65cm〜5.0cmの白金メッキによるチタン電極(電極面積0.22dm2に調整)を採用し、陽極5と陰極4の最短距離は1mmとした。
【0060】
この装置を用いて、草津市水1Lに食塩(塩化ナトリウム)を適宜加えて、水中の塩化物イオン濃度が目標濃度となるように調整した被試験水を電流密度0.6A/dm2で21分間の電解を行い、21分後の溶存水素濃度、遊離残留塩素濃度、総トリハロメタン濃度を計測した。尚、測定器は実施例1と同様のものを使用した。
【0061】
【表10】
【0062】
結果は、表10に示した如く塩化物イオン濃度の飲料水基準200mg/L以下では、総トリハロメタン濃度は飲料水基準の0.1mg/L以上となることはない結果となった。さらに、表10の試験No.1の遊離残留塩素濃度並びに総トリハロメタン濃度を基準として、各試験の遊離残留塩素濃度並びに総トリハロメタン濃度の増加率をY軸に、塩化物イオン濃度をX軸として比較したグラフが図9である。結果、図9に示す如く、塩化物イオン濃度が増すと遊離残留塩素濃度は増大するが、総トリハロメタン濃度は塩化物イオン濃度80mg/Lの増加までは遊離残留塩素濃度の増加と同比率で増加するが、塩化物イオン濃度が100mg/Lを超えてからの増加傾向は抑制される結果となった。つまり、トリハロメタン類は次亜塩素酸イオンによっても生成されるが、電解による電流密度の増加による酸化効力の増大要因の方がより生成される要素が強いことが確認された。
【0063】
比較として、実施例1における0.40A/dm2電流密度での変化した場合の遊離残留塩素濃度並びに総トリハロメタン濃度を基準として、各電流密度の遊離残留塩素並びに総トリハロメタン濃度の増加率をY軸に、電流密度をX軸として比較したグラフを図10に示した。図9と図10から見えることは、図9では塩化物イオンが10倍に増加しても総トリハロメタン濃度は1.8倍にしかならないのに対して、図10では電流密度が3倍(1.2A/dm2)になると総トリハロメタン濃度は10倍近い濃度になっている。
【0064】
つまり、水の電解において、トリハロメタン類が次亜塩素酸ナトリウムで酸化生成される程度の酸化能力を発揮する程度に電流密度を調整することで、水中のトリハロメタン類の電解生成は、次亜塩素酸ナトリウムで遊離残留塩素0.5mg/L添加したときと同等程度の濃度に管理することが出来ることは明らかである。
【0065】
(実施例4)
実施例3と同様の水素水生成装置100を用いて、草津市水1Lにそれぞれ表11の試験No.1〜5の値となるよう食塩(塩化ナトリウム)を加え、0.60A/dm2で処理後、成分を測定した。結果を表11に示す。
【0066】
【表11】
【0067】
塩化物イオン濃度(mg/L)が増加した場合も、総トリハロメタン濃度は0.1mg/Lを示した。0.60A/dm2の条件下では基準値内の総トリハロメタン濃度を維持できることが示された。
【0068】
(実施例5)
電極の位置関係による総トリハロメタン濃度の発生について試験するため、以下の装置を作成した。
(1)縦型電極・全面
Pt−Ir電極(ペルメレック電極株式会社、45cm2/対極片面/枚)を1mm離間して電極ホルダにセットし、被試験水を2L入れたビーカに電極、計測用循環ポンプを投入した。
(2)縦型電極・半面
(1)と同様の装置で、各電極の対向している面の反対側にビニルを張り絶縁した。
(3)水平型電極
実施例3と同様の装置を用いた。
【0069】
これらの装置について、被試験水として草津市水に塩化物イオンが18mg/L(Cl=18と表記)、196mg/L(Cl=196と表記)となるよう塩化ナトリウムを加えたものを用い、0.30〜0.8A/dm2で21分間の通電試験を行った。溶存水素は溶存水素調節計BIH−50(バイオニクス機器株式会社)、残留塩素は残留塩素測定器オンサイトラボCL−101で測定した。
【0070】
各装置の溶存水素濃度を表12及び図11に示す。溶存水素は電極構造と塩化物イオンの影響は少ないことが明らかになった。
【0071】
【表12】
【0072】
残留塩素濃度を表13及び図12に示す。遊離残留塩素は、水平型が一番発生量が少なく、0.6A/dm2で塩化物イオン196mg/Lであっても1mg/Lを超えなかった。
【0073】
【表13】
【0074】
総トリハロメタン濃度を表14及び図13に示す。総トリハロメタン類は、水平型が一番発生量が少なく、0.6A/dm2で塩化物イオン196mg/Lであっても0.1mg/Lを超えなかった。
【0075】
【表14】
【0076】
ここで、水平型の装置で、総トリハロメタン類と電流密度の関係を図14に示す。塩化物イオン196mg/Lにおける近似曲線はY=0.1004X+0.0244となり、飲料水基準の0.1mg/Lは0.752A/dm2となった。
【0077】
以上述べた実施形態は全て本発明を例示的に示すものであって限定的に示すものではなく、本発明は他の種々の変形態様及び変更態様で実施することができる。従って本発明の範囲は特許請求の範囲及びその均等範囲によってのみ規定されるものである。
【産業上の利用可能性】
【0078】
人体への影響がなく低コストの水素水が得られるので、飲料水を扱う飲食産業に寄与しつつ、環境保全にも役立つものである。
【符号の説明】
【0079】
1、100 水素水生成装置
2 被処理水
3 電気分解処理槽
4 陰極
5 陽極
6 電流制御装置
7 直流電源
10 容器
11 容器の底部
12 多孔質素材
13 脚台
40 整流器
【技術分野】
【0001】
本発明は、水の電気分解(以下、電解と称する)により、水素を含有する水を製造する水素水生成装置及び水素水生成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、水素分子が気体状態で溶存している水素水は、酸化還元電位が低く、飲料として水素水を摂取することにより老化や病気を予防する抗酸化作用が認められることから、特に飲用水として注目されている。
この水素水は水の電解、例えば、陰極及び陽極を備える処理槽内で水を電気分解することによって得られる。
【0003】
一般的な化学反応を説明すると、まず、陰極に水素イオンとナトリウムイオン等の金属イオンが引かれ、金属イオンは原子になるよりイオン状態の方が安定で、水素イオンが電子を受けとり、その水素が陰極からは気体として発生する。
2H2O + 2e− → H2 + 2OH−
そして、陰極に生成した水酸化物イオンは陽極に引かれ、陽極に電子を渡し、水と酸素になり、その酸素が陽極から気体として発生する。
4OH− → O2 + 2H2O + 4e−
上記の陰極から発生する水素分子が、気体状態で溶存した水が水素水である。
【0004】
この水素水を含んだ上位概念である還元水の製造装置として、水を収容する容器中に、一対の電極と直流電源を備え、一対の電極が容器内の底部から上側に突設されずに、該底部側において側壁側に延伸した状態にある板状体表面に形成されている還元水生成装置が知られている(特許文献1)。
この特許文献1の還元水生成装置は、本件出願の発明者の一人が発明したものであり、容器の清掃及び容器内の水の平均還元電位の測定を目的とする攪拌を行う場合に何らの支障とならず、これらの作業を円滑に実現し得る形状の電極を具備し、直流電源にて定電流回路を採用した電極の構造に関して最適な装置を提供しようとするものである。
【0005】
なお、水素水の生成装置として、装置本体の内部で水道水を電解して還元水素水を生成する還元水素水生成装置が開示されている(特許文献2)。この装置は、水質、流水量等の条件に応じて還元時間を制御しつつ還元水素水を生成しようとするものである。また、還元水の製造装置として、水を収容する容器中に、一対の電極を備え、当該電極に対する直流電源を備える還元水生成装置が開示されている(特許文献3)。これらの特許文献は、特に本発明の特徴とは関連しない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−233516号公報
【特許文献2】特許第4086311号公報
【特許文献3】特開2009−90220号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところが、電気分解を行うための被処理水として水道水を用いた場合、水道水には塩化物イオンを少なからず含有しているため、この塩化物イオンが陽極で酸化されて次亜塩素酸イオンを生成することになる。
2Cl−+4OH−→ 2ClO− +2H2O+4e−
この次亜塩素酸イオンは水の殺菌において有効な物質であるが、電解に伴って、当該次亜塩素酸イオンから、或いは、塩化物イオンから直接に、消毒副生成物であり人体に影響を及ぼす可能性があるトリハロメタン類が生成することがある。
【0008】
上記の水道水の電解では、得られた水素水の総トリハロメタン濃度0.1mg/Lを超過する場合がある。この値は、例えば、日本であれば飲料水基準を超えるものであるため飲用として不適となる。
【0009】
特許文献1の還元水生成装置を用いて本発明者らが研究したところによると、上記の特許文献1の還元水生成装置であっても、水道水を被処理水とする場合にはトリハロメタン類生成の問題が生じることがある。
【0010】
これに対して、陽極と陰極の間に隔膜を設け、前記トリハロメタン生成の要因となる塩化物イオンが引き寄せられ、かつ、次亜塩素酸イオンが発生する陽極側から得られる酸性の水素水でなく、陰極側から得られるアルカリ性の水素水のみを飲用に適用する解決手段が提案されている。例えば、日本では、JIS T 2004「家庭用電解水生成器」において、電解水生成器には上記解決手段を採用することが規格として定められている。
しかし、上記解決手段を採用した電解水生成器では、アルカリ性の水素水しか得られないことになるが、アルカリ性の水素水は中性の水素水に比べて、人体への影響において未知数の部分があるという問題がある。
【0011】
その一方で、この問題を根本から解消するために、被処理水から塩化物イオンを除去することも考えられる。
しかしながら、そのためには別途、純水製造装置などを設ける必要がある。また、次亜塩素酸イオンを完全に除去した被処理水や生成された水素水は、次亜塩素酸イオンが除去されることになるため、殺菌効果を持たなくなるという問題が生じる。これを解決するためには、さらに、殺菌のための別の手段、例えば殺菌のための薬剤添加装置、紫外線照射装置又はフィルタ装置等を設ける必要が生じ、機器の大型化、複雑化やコストの増加などをもたらす。
【0012】
本発明は、水道水から、トリハロメタン類の発生量を抑制することができると共に、電解において生じる次亜塩素酸イオンを水の殺菌処理に有効利用することができる水素水を生成する水素水生成装置及び水素水生成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の水素水生成装置は、被処理水を収容可能に構成された電気分解処理槽と、前記電気分解処理槽に収容された被処理水を電気分解可能に構成された電極と、電気分解を行うための電流を電極に流すと共に電流の電流密度を0.75A/dm2以下に制御する電流制御装置とを備えることを特徴とする。
【0014】
上記の課題に対して、研究を進めていくなかで、本発明者らは、電気分解(以下、単に電解という。)の際の電力が、次亜塩素酸イオン及びトリハロメタン類の生成反応のポテンシャルエネルギーとなっていることに着目した。そのなかで電解の条件を検討することによって、これらの反応を制御し、望ましい範囲の含有物質を得うるのではないかと思案した。もっとも、電解には、電力等の電気的条件、電極の構成素材や機械的構成、被処理水の含有物質や量などの様々な条件が関連するため、これらの条件を絞り込み目的とする効果を得ることは容易ではない。
しかしながら、本発明者らは、幾重にも試行錯誤し、ついに、電解の操作において電極の面積あたりに流れる電流、すなわち電流密度の高さと次亜塩素酸イオン及び総トリハロメタン類が生成量との間に相関関係があることを見出した。
そこで本発明者らは、水素水を生成するための電流密度の最適な条件、すなわち生成する総トリハロメタン濃度を規定内に抑え、かつ、殺菌効果を持つ次亜塩素酸イオンを生成する電流密度の条件を得ることを両立できるよう、さらに研究を続けた。
その結果到達したのが本発明の水素水生成装置である。本発明の水素水生成装置によれば、0.75A/dm2以下の電流密度で電解を行うことで、電解において次亜塩素酸イオンを生じつつ、トリハロメタン類の発生量を総トリハロメタン濃度0.1mg/L以下に抑えることができる。なお、上述の通り、総トリハロメタン濃度0.1mg/L以下は、日本の飲料水基準である。
以上説明したとおり、本発明の水素水生成装置によれば、トリハロメタン類の発生量を抑制することができると共に、電解において生じる次亜塩素酸イオンを水の殺菌処理に有効利用することができる水素水を生成することができる。
【0015】
本発明の水素水生成装置において、前記電流制御装置は、電流密度を0.62A/dm2以下に制御することが好ましい。
前記電流制御装置を備える水素水生成装置によれば、電解によって生じるトリハロメタン類の発生量を、0.05mg/L以下とすることができる。この結果、仮に一般の水道水等に約0.05mg/Lのトリハロメタン類が含有されていても、電解の結果生じるトリハロメタン類発生量を合計0.1mg/L以下とすることができ、人体への影響を最小限の範囲とすることができる。
【0016】
本発明の水素水生成装置において、電流制御装置は、電流密度を0.40〜0.75A/dm2に制御することが好ましい。電流密度を0.40A/dm2以上とすることで、トリハロメタン類発生量を抑えつつ次亜塩素酸イオンは生成することで殺菌効果を得ることができ、溶存水素量を確保できる飲用の水素水生成装置となる。
【0017】
本発明の水素水生成装置において、前記電極は、白金電極、イリジウム電極又は白金めっきを行ったチタン電極であることが好ましい。
前記電極を備える水素水生成装置によれば、伝導率が高く電解を効率的に行うことができ、磨耗が少ないため交換不要であると共に、水中に溶け込んで不純物となることがないため、より水素水の人体への影響を最小限の範囲とすることができる。
【0018】
本発明の水素水生成装置において、前記被処理水は水道水であることが好ましい。水道水には、次亜塩素酸イオン又はトリハロメタン類が含まれている場合があるが、本発明によれば、トリハロメタン類の濃度を飲料水基準に適合できる水質に維持して供給できると共に、水道水に含まれる次亜塩素酸イオンによって殺菌状態も維持することができる。
【0019】
本発明の水素水生成装置において、前記電極は、板状部材からなり、板状部材の片面のみが導電可能に構成されていることが好ましい。
前記電極を備える水素水生成装置によれば、陽極の板状部材の一方面から陰極の板状部材の一方面に向かって電流が流れることになるため、陽極の全方向から陰極の全方向に向かって不規則に電流が流れることにより迷走電流が発生することを防止できるため、トリハロメタン類の生成が抑制される。
【0020】
本発明の水素水の生成方法は、電気分解処理槽に被処理水を収容し、電気分解処理槽に備えられた電極で被処理水の電気分解を0.40〜0.75A/dm2の電流密度で行うことを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の一実施形態に用いる電気分解処理装置の概略図である。
【図2】本発明の実施例1の電流密度と遊離残留塩素の関係を示すグラフである。
【図3】本発明の実施例1の電流密度と遊離残留塩素の関係のうち0.4〜0.8A/dm2の間での直線性を示すグラフである。
【図4】本発明の実施例1の電流密度と溶存水素の関係を示すグラフである。
【図5】本発明の実施例1の0.6A/dm2電流密度における溶存水素、溶存酸素、溶存窒素の濃度変化を電解時間との関係でグラフ化したものである。
【図6】本発明の実施例1の電流密度と総トリハロメタンの関係を示すグラフである。
【図7】本発明の実施例1の電流密度と総トリハロメタンの関係のうち0.4〜0.8A/dm2の間での直線性を示すグラフである。
【図8】(a)は本発明の実施例3に用いた水素水生成装置の平面図、(b)は(a)の水素水生成装置のA−A断面図である。
【図9】本発明の実施例3の0.6A/dm2電流密度における、塩化物イオンを変化させた場合の遊離残留塩素濃度と総トリハロメタン濃度の増加率を示したグラフである。
【図10】本発明の実施例1の電流密度を変化させた場合の遊離残留塩素濃度と総トリハロメタン濃度の増加率を示したグラフである。
【図11】本発明の実施例5の各装置での溶存水素濃度を示したグラフである。
【図12】本発明の実施例5の各装置での残留塩素濃度を示したグラフである。
【図13】本発明の実施例5の各装置での総トリハロメタン濃度を示したグラフである。
【図14】本発明の実施例5の水平型の装置での総トリハロメタン濃度と電流密度との関係を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の一実施形態について説明する。本実施形態の水素水生成装置は、被処理水を収容する電気分解処理槽と電極とを備える水の電気分解処理装置を用いて実施することができる。こうした電気分解処理装置は、通電が可能であれば水素水を生成する装置、電解質を得るための装置のほか、例えば特許文献2又に記載されているような還元水を生成する装置などの構成を適宜使用できる。例えば本実施形態では、図1に示すような水素水生成装置1を使用する。この水素水生成装置1は、被処理水2を収容する容器を電気分解処理槽3とし、その中に陰極4と陽極5との一対の電極を備えているものである。水素水生成装置1は、また、この陰極4及び陽極5に電気的に接続されており、供給する電流値を制御可能な電流制御装置6と、この電流制御装置6に電気的に接続されており直流電力を供給する直流電源7とを備えている。なお、この種の電流制御装置6及び直流電源7の構成及び制御動作は、周知であるため、説明を省略する。
【0023】
電極材料としては、水の電解に使用可能なものを適宜用いることができ、例えば白金(Pt)電極、チタン(Ti)電極、イリジウム(Ir)電極又は炭素電極等を用いることができる。炭素電極は電解の過程で炭素が被処理水に溶出することがあり、また不純物が表面に吸着し電極を交換する必要が生じることがあるため、本実施形態では、陰極4及び陽極5ともに白金めっきしたチタン電極を用いている。これにより、電極材料の溶出が少なく、交換などのメンテナンスの手間とコストを要さない。
【0024】
電極の形状及び配置は、本実施形態では底部側において側壁側に延伸した状態にある板状体表面に形成された一対の電極を用いているが、こうした構成に限定されるものではない。形状は平板電極、針状電極、櫛型やリング型の電極などを適宜使用できる。電極の配置は平板電極ならば陰極と陽極の平板の面同士が対向し対極面となっていると電流が電極間を直線状に流れやすいため特に望ましいが、この配置に限られない。なお、本実施形態では、陰極側と陽極側の電解水を分離して取り出す必要がないため、電極間に隔膜を設ける必要がなく、その配置を自由に選択することができる。
【0025】
電極の形状が平板電極である場合、少なくとも一つの電極の片面が絶縁されていることが望ましい。例えば対向する一対の電極の場合、対向する対極面以外の面を絶縁していることが望ましい。例えば、ビニル等の素材により電極の裏面を被覆することにより絶縁することができる。このほか、絶縁は各種の塗料や被膜によるコーティングなどが適用できる。これは、電極間を直線に流れず裏面などに回る迷走電流は次亜塩素酸イオンの生成を起こしやすいので、電極の導通面を対極面のみとすることで、次亜塩素酸イオンの生成が大きく抑制される結果となり、さらにトリハロメタン類の抑制が可能となるためである。
【0026】
電極の面積は、電流密度(=電流(A)/電極面積(dm2))が一定となるよう、処理槽の容積及び予定する電流の量から適宜設計できる。本実施形態では2Lの電気分解処理槽に対して45cm2の電極面積を使用している。他に、1〜10L前後の規模の電気分解処理槽に用いるものであれば10〜1000cm2前後の面積のものを使用できる。電極の面積が小さすぎると、電極の間を直線に流れることができる電流の量が少なくなり、上述する迷走電流が生じやすい。電極の面積が大きすぎると、一定の電流密度を得るために大きな電力を要し電解の効率が悪くなる。
【0027】
陰極と陽極の電極間の相互距離は電流密度にかかわらないため適宜選択してよいが、数リットルの規模の電気分解処理槽に用いるものであれば5cm未満の距離が望ましく、特に、特許文献2のような一対の電極が容器内の底部側において側壁側に延伸した状態にある板状体表面に形成されている還元水生成装置の場合、電極間の距離は0.5〜5.0mm前後に限定することが望ましい。本実施形態では1.0mmの距離としている。これは、上述した迷走電流を防ぐためには電流が電極間を直線に流れやすいよう、できるだけ電極間の距離を小さくすることが望ましいためである。
【0028】
被処理水2として用いる水は、本実施形態では水道水を用いる。その他に、被処理水2には水道水又は井戸水をはじめ純度を問わず各種の水が使用できるが、電解のためには、電気伝導度を上昇させるためにある程度のイオンが含まれていることが望ましい。水道水やさらに純度が高い水には、各種の塩を添加することで電気伝導度を上昇させることができる。添加する塩としては、水素水を飲料水に用いるため人体に影響のないものであれば適宜選択できる。本実施形態では、水道水に食塩(NaCl)を添加する。電気伝導度は10mS/m以上であれば充分な電解による溶存水素が得られ、食塩であれば50mg/L程度を添加することでこの電気伝導度が得られる。
【0029】
被処理水2には、還元剤を添加すると次亜塩素酸イオンや有機塩素化合物の発生を抑制することができる。還元剤としては亜硫酸ナトリウムやビタミンC(アスコルビン酸)等があり、ビタミンCを含有するレモン汁やこれを原料とする食品添加物等を用いてもよいが、有機物が人体に影響を及ぼす有機塩素化合物に化学変化することも考えられるため、有機物を加えずにあくまで電解条件により次亜塩素酸イオンやトリハロメタン類の量を制御することがより望ましい。
【0030】
被処理水2の電解は、直流電源7に電気的に接続された電流制御装置6によって電流制御を行うことにより、0.75A/dm2以下の電流密度で行う。ここで電流密度は電極の面積あたりの電流値である。0.75A/dm2以下の電流密度で直流電流を流すことにより、トリハロメタン類の生成量はおよそ総トリハロメタン濃度0.1mg/L以下に抑えることができ、水質基準に関する省令(平成十五年五月三十日厚生労働省令第百一号)による飲料水の総トリハロメタンの含有量基準値以下となる。また、0.62A/dm2の電流密度の直流電流で電解を行うことがより望ましい。この場合、トリハロメタン類の生成量はおよそ総トリハロメタン濃度で0.05mg/L以下に抑えることができる。水道水等には総トリハロメタン濃度で0.05mg/L前後までトリハロメタン類が含まれていることがあるが、この電流密度であれば電解によって総トリハロメタン濃度が増加しても計0.1mg/Lの基準値以下となる。
【0031】
電解は次亜塩素酸イオンが発生する電力であれば特に下限はなく、例えば0.01A/dm2以上などの値で行っても良い。さらに、電解は0.40A/dm2以上の電流密度の直流電流で行うことが好ましい。0.40A/dm2以上において、次亜塩素酸イオンの発生が確保される。この電流密度においては、水素水として安定した溶存水素が得られる。本発明者らの研究によると、遊離残留塩素(電離していない次亜塩素酸及び次亜塩素酸イオンを指す)を含有する水道水に0.40〜0.62A/dm2の電流密度の直流電流を流した際には、次亜塩素酸イオンは増加するが、ほとんどトリハロメタン類は増加しない。そのため、次亜塩素酸イオンを含有することで殺菌状態を維持しつつ、人体に影響を及ぼすトリハロメタン類をほとんど含有しない水素水を生成することができる。
【0032】
トリハロメタン類とは、メタンの水素のうち3つがハロゲン化した化合物で、最も主なものが水素の3つが塩素化したクロロホルム(トリクロロメタン)である。他に、水素の3つが塩素化又は臭素化しているブロモジクロロメタン、ジブロモクロロメタン、及びブロモホルム(トリブロモメタン)等がある。これらのトリハロメタン類の濃度の総和を総トリハロメタン濃度として表示されている。
【0033】
反応時間は、電極面積、被処理水2の容積、及び目的とする溶存水素量によって適宜選択できる。目安として、電極面積45cm2で、2.0Lの水に対して0.3〜0.4A/dm2の電流密度の電流を流して電解を行った場合、20〜30分で0.4〜0.5mg/Lの溶存水素量が得られる。
【0034】
本実施形態の水素水生成装置1によれば、電解によるトリハロメタン類の増加が抑制されているため、比較的小規模の電解装置によって中性の水素水を生成することができる。従来は電解以外の手段、例えば水素を水に溶かし込むといった方法で中性の水素水を製造していたため、装置が大規模化し、設置箇所が限られる他、メンテナンスの手間やコストも増大していたが、本実施形態の装置は小規模にすることができ、これらの問題が解決される。従来は飲料に用いることができる水素水を生成する際は、陽極に発生する次亜塩素酸イオンとそこから生成するトリハロメタン類を避けるために、陰極側のアルカリ性の水素水を飲料用とせざるを得なかったが、本実施形態の装置では次亜塩素酸ナトリウムを添加する時に生ずるトリハロメタン類以上にトリハロメタン類が生成しないため、飲料に適した中性の水素水を飲料用とすることができる。
【実施例】
【0035】
(実施例1)
Pt−Ir電極(ペルメレック電極株式会社、45cm2/対極片面/枚)を陰極4及
び陽極5となる電極として電極間隔1mmの電極ホルダにセットし、電流制御装置6及び直流電源7に接続した。被処理水2として草津市水(琵琶湖の水を塩素処理した水道水)を2L入れたビーカに、電極と計測用循環ポンプを沈めたものを試験用の水素水生成装置1とした。
【0036】
この電極に各表に示す電流密度において各電流を流し、開始後0、5、10、15、25、及び35分後の溶存水素濃度(DH)並びに遊離残留塩素(塩素イオン)濃度(F−Cl)を測定した。さらに、35分後の総トリハロメタン濃度も同時に測定した。溶存水素濃度は溶存水素調節計:BIH−50D(バイオニクス機器株式会社)、遊離残留塩素濃度は遊離残留塩素測定器オンサイトラボCL−101:(東西化学産業株式会社)で測定を行った。
【0037】
電流密度:0.4A/dm2、0.18A / 4.0Vの結果を表1に示す。
【表1】
【0038】
電流密度:0.6A/dm2、0.27A / 5.1Vの結果を表2に示す。なお、このとき溶存酸素濃度(DO)は、開始時:8.83mg/L、35分後:10.03mg/Lであった。
【表2】
【0039】
電流密度:0.8A/dm2、0.36A / 5.3Vの結果を表3に示す。
【表3】
【0040】
電流密度:1.2A/dm2、0.54A / 7.0Vの結果を表4に示す。
【表4】
【0041】
電流密度:2.0A/dm2、0.9A / 11.0Vの結果を表5に示す。
【表5】
【0042】
この試験における各試料についての35分処理後の水質分析結果を表6に示す。
【表6】
【0043】
電流密度と遊離残留塩素濃度の関係を考察するところ、35分間実施の電流密度と遊離残留塩素濃度の関係を求めたものを図2に示す。次亜塩素酸イオンの生成は電流密度により変化することが解る。
【0044】
電流密度で0.4〜0.8A/dm2の間で直線性が認められるので、その間をグラフ化したものを図3に示す。近似式は、y=3.85x−1.45となり、これに基づいて表7に示す関係が導かれた。
【表7】
【0045】
すなわち、次亜塩素酸イオンは0.377A/dm2以上の電流密度で発生すると云う解が得られる。0.4A/dm2電流密度は飲用として殺菌効果が出る次亜塩素酸イオンの発生開始の電流密度であると言える。
【0046】
電流密度と溶存水素濃度の関係を考察するところ、次亜塩素酸イオンと同様に35分後の溶存水素濃度について求めたものを図4に示す。この装置では、大気開放状態では0.8mg/L程度が最大の濃度と考えられる結果となった。これは、「ある温度において水に溶解する気体(酸素、水素、窒素)の溶解度は存在する気体の分圧に比例する」というヘンリーの法則と合致する結果である。つまり、1気圧、25℃における純粋気体の溶解度は、水素:1.57mg/L、酸素:40.44mg/L、窒素:18.35mg/Lであり、酸素:窒素=1:4の大気下では酸素:8.09mg/L、窒素:14.68mg/Lである。水の電解における水素:酸素=2:1の発生下では酸素:13.48mg/L、水素:1.04mg/Lが最大となる。つまり、電解することにより、水の溶存酸素濃度は8.09mg/Lから13.48mg/Lに向け増加し、溶存水素濃度は0.0mg/Lから1.04mg/Lに向け増加することになる。(溶存窒素が減少していくことになる。)大気中には窒素が存在しており、大気開放下では試験結果の如く溶存水素が0.8mg/L程度で最大の濃度となることは理にかなっている。
【0047】
よって図4では0.6〜0.7A/dm2電流密度程度が屈曲点であり、大気開放下においては一番溶存水素濃度を効率よく得る為の電流密度であると言える。図4より、溶存水素の溶解最適濃度は0.6mg/Lになる。この溶存水素濃度の下限2割の0.48mg/Lのさらに安全率20%を考慮した溶存水素濃度は0.38mg/Lということになり、0.4A/dm2がその値に最適近似することと、0.4A/dm2以上においては変動しているが、以下においては安定して要望濃度を満たしていない結果となっている。したがって、溶存水素の溶解濃度において0.4A/dm2以上が望ましいことを示す。
【0048】
図5は、0.6A/dm2電流密度における実施例での溶存気体の溶解度を表したものである。加電時間とともに、水素が増加し、窒素が減少していく様子が理解出来る。
【0049】
電流密度と総トリハロメタン濃度の関係を考察するところ、35分間実施の電流密度と総トリハロメタン濃度の関係を求めたものを図6に示す。トリハロメタン類の生成も電流密度により変化することが解る。次亜塩素酸イオンと同様に電流密度で0.4〜0.8A/dm2の間で直線性が認められるので、その間を時間との関係で示したものを表8、グラフ化したものを図7に示す。(草津市水に総トリハロメタン濃度が0.023mg/L含まれるので、その分は引いてグラフ化してある。)
【0050】
近似式は、y=0.1975x−0.0718となり、これに基づいて表8に示す関係が導かれた。
【表8】
【0051】
表8より、トリハロメタン類は0.389A/dm2以上の電流密度で発生すると云う解が得られる。表7の次亜塩素酸イオンの発生値0.377A/dm2以上の電流密度とほぼ同じ値であり、トリハロメタン類は次亜塩素酸イオンの発生とともに生成すると決定づけることが出来る。飲料水の総トリハロメタン濃度の制限値は0.1mg/L以下であることより、電流密度は0.870A/dm2以下とすればいいと考えられるが、これは増加する総トリハロメタン濃度であり、草津市水での増加制限値は0.1mg/Lから0.023mg/Lを差し引いた0.077mg/L時の電流密度0.753A/dm2から0.75A/dm2を最大の電流密度と定めた。さらには、一般の水道水中にも0.05mg/L以下程度の総トリハロメタン濃度を含む飲料水が多くの地域で見られることより、増加限界は0.05mg/Lの総トリハロメタン濃度を許容出来る電流密度は0.617A/dm2となり、0.62A/dm2を上限における最適電流密度と定めた。
【0052】
試験に供した草津市水に次亜塩素酸ナトリウムを遊離残留塩素0.5mg/Lの濃度で添加すると、その草津市水の総トリハロメタン濃度は0.055mg/Lに上昇した。この0.055mg/L濃度は草津市水の次亜塩素酸ナトリウムによる酸化能力によって生じる最大の濃度である。この濃度を近似式y=0.1975x−0.0718に当てはめると、0.642A/dm2が水の電解における次亜塩素酸ナトリウムの酸化能力と同程度の次亜塩素酸イオンによる酸化能力と云うことになる。つまり、0.62A/dm2は次亜塩素酸ナトリウムの酸化能力以下の電流密度となり、前述のトリハロメタン類増加許容分もカバー出来る電流密度と合致する。
【0053】
0.8A/dm2程度以上になると、次亜塩素酸ナトリウムの酸化能力以上の酸化効力が発揮されており、総トリハロメタン濃度を次亜塩素酸ナトリウム添加による酸化効力以上に増加させている結果が見られる。飲料水基準における総トリハロメタンの濃度規定は、ユースポイントにおける遊離残留塩素の添加をも考慮されて決められており、次亜塩素酸ナトリウム添加の酸化効力程度でもって水を電解することが飲料水用途としては安全性の面からも重要なことであると判断出来ることより、この電流密度のポイントが0.62A/dm2以下にあると定めたことは理にかなっていると言える。
【0054】
(実施例2)
実施例1で使用した装置の電極板の陰極・陽極の対極面との反対側の面をビニールで絶縁し、実施例1と同様の試験を行った。
【0055】
結果は、表9に示す如く、片面を被覆した状態で電解すると水素の発生量は変化しないが、遊離残留塩素の発生量が2分の1以上に抑えられる結果となり、その効果は電流密度が上昇するにつれ、抑制効果も大きくなった。これは、次亜塩素酸イオンの発生は電極間対面の裏面でも起きていると云うことであり、裏面に回る迷走電流の抑制が次亜塩素酸イオンの生成抑制に貢献しているものと推察される。
【0056】
【表9】
【0057】
つまり、次亜塩素酸イオンの生成は、電極の導通面を対極面のみとすることで大きく抑制される結果となり、さらにトリハロメタン類の抑制が可能となる。そのため、特許文献2に記載されている装置のように、電極の片面のみが被処理水に面している構造体が飲料水用としてはさらに安全な水を供給することが可能な装置構造である。
【0058】
この理由として、陽極は水中にある水酸化イオンが接触するところで反応が起きるため、対局反対面でも電解反応が起きる。そのため陽極の面積が大きいと電極面積の塩化物イオンとの接触確率も大きくなり次亜塩素酸イオンの生成度は高くなり、消毒副生成物の生成度も高くなる。一方、陽極の面積が小さくなるほど次亜塩素酸イオンの生成は少なくなる。被対局型、つまり電極を水平にした場合には、陰極から生成した水酸化イオンが陽極に移動して陽極盤に接触する確率は、対面型(対局型)電極に比べてさらに少なくなることより、次亜塩素酸イオンの発生量は少なくなり、消毒副生成物の生成も少なくなると考えられる。
【0059】
(実施例3)
図8に示した、電気分解処理槽容器10内の底部側において側壁側に延伸した状態にある板状体表面に形成された一対の電極面積(22cm2)の白金メッキした陰極4、陽極5を備え、当該電極に対する直流電源整流器40を備えている水素水生成装置100を製作した。陽極5及び陰極4の双方を同心円をなすような略円輪形状とし、陽極5は直径幅4.8cm〜4.0cmの白金メッキによるチタン電極(電極面積0.22dm2に調整)を採用し、陰極4は直径幅5.65cm〜5.0cmの白金メッキによるチタン電極(電極面積0.22dm2に調整)を採用し、陽極5と陰極4の最短距離は1mmとした。
【0060】
この装置を用いて、草津市水1Lに食塩(塩化ナトリウム)を適宜加えて、水中の塩化物イオン濃度が目標濃度となるように調整した被試験水を電流密度0.6A/dm2で21分間の電解を行い、21分後の溶存水素濃度、遊離残留塩素濃度、総トリハロメタン濃度を計測した。尚、測定器は実施例1と同様のものを使用した。
【0061】
【表10】
【0062】
結果は、表10に示した如く塩化物イオン濃度の飲料水基準200mg/L以下では、総トリハロメタン濃度は飲料水基準の0.1mg/L以上となることはない結果となった。さらに、表10の試験No.1の遊離残留塩素濃度並びに総トリハロメタン濃度を基準として、各試験の遊離残留塩素濃度並びに総トリハロメタン濃度の増加率をY軸に、塩化物イオン濃度をX軸として比較したグラフが図9である。結果、図9に示す如く、塩化物イオン濃度が増すと遊離残留塩素濃度は増大するが、総トリハロメタン濃度は塩化物イオン濃度80mg/Lの増加までは遊離残留塩素濃度の増加と同比率で増加するが、塩化物イオン濃度が100mg/Lを超えてからの増加傾向は抑制される結果となった。つまり、トリハロメタン類は次亜塩素酸イオンによっても生成されるが、電解による電流密度の増加による酸化効力の増大要因の方がより生成される要素が強いことが確認された。
【0063】
比較として、実施例1における0.40A/dm2電流密度での変化した場合の遊離残留塩素濃度並びに総トリハロメタン濃度を基準として、各電流密度の遊離残留塩素並びに総トリハロメタン濃度の増加率をY軸に、電流密度をX軸として比較したグラフを図10に示した。図9と図10から見えることは、図9では塩化物イオンが10倍に増加しても総トリハロメタン濃度は1.8倍にしかならないのに対して、図10では電流密度が3倍(1.2A/dm2)になると総トリハロメタン濃度は10倍近い濃度になっている。
【0064】
つまり、水の電解において、トリハロメタン類が次亜塩素酸ナトリウムで酸化生成される程度の酸化能力を発揮する程度に電流密度を調整することで、水中のトリハロメタン類の電解生成は、次亜塩素酸ナトリウムで遊離残留塩素0.5mg/L添加したときと同等程度の濃度に管理することが出来ることは明らかである。
【0065】
(実施例4)
実施例3と同様の水素水生成装置100を用いて、草津市水1Lにそれぞれ表11の試験No.1〜5の値となるよう食塩(塩化ナトリウム)を加え、0.60A/dm2で処理後、成分を測定した。結果を表11に示す。
【0066】
【表11】
【0067】
塩化物イオン濃度(mg/L)が増加した場合も、総トリハロメタン濃度は0.1mg/Lを示した。0.60A/dm2の条件下では基準値内の総トリハロメタン濃度を維持できることが示された。
【0068】
(実施例5)
電極の位置関係による総トリハロメタン濃度の発生について試験するため、以下の装置を作成した。
(1)縦型電極・全面
Pt−Ir電極(ペルメレック電極株式会社、45cm2/対極片面/枚)を1mm離間して電極ホルダにセットし、被試験水を2L入れたビーカに電極、計測用循環ポンプを投入した。
(2)縦型電極・半面
(1)と同様の装置で、各電極の対向している面の反対側にビニルを張り絶縁した。
(3)水平型電極
実施例3と同様の装置を用いた。
【0069】
これらの装置について、被試験水として草津市水に塩化物イオンが18mg/L(Cl=18と表記)、196mg/L(Cl=196と表記)となるよう塩化ナトリウムを加えたものを用い、0.30〜0.8A/dm2で21分間の通電試験を行った。溶存水素は溶存水素調節計BIH−50(バイオニクス機器株式会社)、残留塩素は残留塩素測定器オンサイトラボCL−101で測定した。
【0070】
各装置の溶存水素濃度を表12及び図11に示す。溶存水素は電極構造と塩化物イオンの影響は少ないことが明らかになった。
【0071】
【表12】
【0072】
残留塩素濃度を表13及び図12に示す。遊離残留塩素は、水平型が一番発生量が少なく、0.6A/dm2で塩化物イオン196mg/Lであっても1mg/Lを超えなかった。
【0073】
【表13】
【0074】
総トリハロメタン濃度を表14及び図13に示す。総トリハロメタン類は、水平型が一番発生量が少なく、0.6A/dm2で塩化物イオン196mg/Lであっても0.1mg/Lを超えなかった。
【0075】
【表14】
【0076】
ここで、水平型の装置で、総トリハロメタン類と電流密度の関係を図14に示す。塩化物イオン196mg/Lにおける近似曲線はY=0.1004X+0.0244となり、飲料水基準の0.1mg/Lは0.752A/dm2となった。
【0077】
以上述べた実施形態は全て本発明を例示的に示すものであって限定的に示すものではなく、本発明は他の種々の変形態様及び変更態様で実施することができる。従って本発明の範囲は特許請求の範囲及びその均等範囲によってのみ規定されるものである。
【産業上の利用可能性】
【0078】
人体への影響がなく低コストの水素水が得られるので、飲料水を扱う飲食産業に寄与しつつ、環境保全にも役立つものである。
【符号の説明】
【0079】
1、100 水素水生成装置
2 被処理水
3 電気分解処理槽
4 陰極
5 陽極
6 電流制御装置
7 直流電源
10 容器
11 容器の底部
12 多孔質素材
13 脚台
40 整流器
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理水を収容可能に構成された電気分解処理槽と、前記電気分解処理槽に収容された前記被処理水を電気分解可能に構成された電極と、前記電気分解を行うための電流を前記電極に流すと共に該電流の電流密度を0.75A/dm2以下に制御する電流制御装置とを備えていることを特徴とする水素水生成装置。
【請求項2】
前記電流制御装置は、前記電流密度を0.62A/dm2以下に制御することを特徴とする請求項1に記載の水素水生成装置。
【請求項3】
前記電流制御装置は、前記電流密度を0.40〜0.75A/dm2に制御することを特徴とする請求項1又は2に記載の水素水生成装置。
【請求項4】
前記電極は、白金電極、イリジウム電極又は白金めっきを行ったチタン電極であることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の水素水生成装置。
【請求項5】
前記被処理水は、水道水であることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の水素水生成装置。
【請求項6】
前記電極は板状部材からなり、前記板状部材の片面のみが導電可能に構成されていることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の水素水生成装置。
【請求項7】
電気分解処理槽に被処理水を収容し、前記電気分解処理槽に備えられた電極で前記被処理水の電気分解を0.40〜0.75A/dm2の電流密度で行うことを特徴とする水素水生成方法。
【請求項1】
被処理水を収容可能に構成された電気分解処理槽と、前記電気分解処理槽に収容された前記被処理水を電気分解可能に構成された電極と、前記電気分解を行うための電流を前記電極に流すと共に該電流の電流密度を0.75A/dm2以下に制御する電流制御装置とを備えていることを特徴とする水素水生成装置。
【請求項2】
前記電流制御装置は、前記電流密度を0.62A/dm2以下に制御することを特徴とする請求項1に記載の水素水生成装置。
【請求項3】
前記電流制御装置は、前記電流密度を0.40〜0.75A/dm2に制御することを特徴とする請求項1又は2に記載の水素水生成装置。
【請求項4】
前記電極は、白金電極、イリジウム電極又は白金めっきを行ったチタン電極であることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の水素水生成装置。
【請求項5】
前記被処理水は、水道水であることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の水素水生成装置。
【請求項6】
前記電極は板状部材からなり、前記板状部材の片面のみが導電可能に構成されていることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の水素水生成装置。
【請求項7】
電気分解処理槽に被処理水を収容し、前記電気分解処理槽に備えられた電極で前記被処理水の電気分解を0.40〜0.75A/dm2の電流密度で行うことを特徴とする水素水生成方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2013−99735(P2013−99735A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−14041(P2012−14041)
【出願日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【出願人】(593204650)東西化学産業株式会社 (16)
【出願人】(593225596)株式会社フラックス (6)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【出願人】(593204650)東西化学産業株式会社 (16)
【出願人】(593225596)株式会社フラックス (6)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]