水素添加スチレン系重合体
【課題】耐熱性が高く、光学特性に優れ、力学的な脆さがなく、さらに成型加工性に優れる水素添加スチレン系重合体の提供。
【解決手段】 スチレン系単量体と共役ジエン単量体の共重合体の、上記スチレン系単量体由来の芳香族環と上記共役ジエン単量体由来の二重結合の少なくとも一部を水素添加させて得られる、水素添加スチレン系重合体であって、上記共重合体は、上記スチレン系単量体と上記共役ジエン単量体の双方を、一方の単量体比が徐々に大きくなるように変化させながら重合させた、傾斜構造を有するポリマー鎖を備える共重合体である、水素添加スチレン系重合体。
【解決手段】 スチレン系単量体と共役ジエン単量体の共重合体の、上記スチレン系単量体由来の芳香族環と上記共役ジエン単量体由来の二重結合の少なくとも一部を水素添加させて得られる、水素添加スチレン系重合体であって、上記共重合体は、上記スチレン系単量体と上記共役ジエン単量体の双方を、一方の単量体比が徐々に大きくなるように変化させながら重合させた、傾斜構造を有するポリマー鎖を備える共重合体である、水素添加スチレン系重合体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スチレン系単量体と共役ジエン系単量体との共重合体を水素添加することによって得られる、水素添加スチレン系重合体に関する。
【背景技術】
【0002】
透明材料としては、無機物のガラスと有機物の透明樹脂とが挙げられる。ガラスは、透明性や耐熱性、水や光などに対する耐久性に優れているが、生産性が悪く、比重が重く、割れやすいという欠点を有する。一方、代表的な透明樹脂としては、ポリメチルメタクリレート(PMMA)やポリカーボネート(PC)が、ガラス代替として透明板、透明容器、光学レンズなどに使用されてきた。しかしながら、PMMAは、透明性に優れるもののガラス転移点が100℃強と耐熱性が低く、また吸湿性が大きいため耐久性に問題がある。PCは、耐熱性には優れるが、透明性の低さ、複屈折率の大きさが問題として挙げられている。
【0003】
かかる状況から、近年、ガラス代替として、脂環式ポリオレフィン樹脂(COP)の研究が盛んに行われている。COPは、環構造を有する炭化水素を主とする非晶性樹脂で、透明性、耐熱性が高く、吸水性が低いことが特長として挙げられる。COPは、密度も低く、複屈折が比較的小さいなど優れた特性を有することから、液晶ディスプレイ関連部材や光学レンズ用途への提案が多数なされている。また、原料の入手が容易で、安価な製造が可能であることから、ポリスチレン又はその共重合体を水素添加した水素添加スチレン系樹脂がいくつか開示されている。例えば、ポリビニルシクロヘキサン構造の含有率が80重量%以上の水素添加ポリスチレンからなる光ディスク基板が提案されている(例えば、特許文献1)。また、ポリスチレンを水素添加することにより、分子構造の繰返し単位の主分極率差が減少し、複屈折率が比較的小さくなることが開示されている(例えば、特許文献2及び3)。
【0004】
これらの水素添加スチレン系樹脂は、光学特性に優れ、ガラス転移温度の比較的高い光学材料を形成することが可能となるが、柔軟性に乏しく極めて脆性であることが問題となっている。この問題を解決するため、ゴム成分を導入した水素添加ポリスチレン系重合体が開示されている。例えば、スチレンにブタジエンやイソプレンなどの共役ジエンをブロック共重合させたスチレン−共役ジエンブロック共重合体の水素添加物を、光学用途に用いることが記されている(例えば、特許文献4)。また、近年、スチレン系単量体のブロックと、スチレンと共役ジエンの混在するブロックからなる共重合体が開示されている(特許文献5及び6)。
【0005】
【特許文献1】特公平7−114030号公報
【特許文献2】特開平1−1706号公報
【特許文献3】特開平1−132603号公報
【特許文献4】特許2668945号公報
【特許文献5】特表2002−531598号公報
【特許文献6】特開2002−148401号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、ゴム成分を導入した水素添加スチレン系重合体は、スチレン系単量体と共役ジエン単量体をブロック共重合してなる重合体の水素添加物である場合、力学的な脆性は改善されるものの、共役ジエン由来のブロックが不均一な構造を有することにより、不透明になりやすいという欠点がある。また、共役ジエン由来成分が局所的な軟質成分となるため、成形加工時に固化しにくいという欠点がある。また、スチレン系単量体と共役ジエン単量体をランダム共重合してなる重合体の水素添加物である場合、力学的な脆性はそれほど改善されず、ガラス転位温度が共役ジエンの存在量に依存して低下するため耐熱性が悪化する。
【0007】
更に、スチレン系単量体のブロックと、スチレンと共役ジエンの混在するブロックからなる共重合体の水素添加物は、力学的な脆性は改善されるものの、金型からの離型が困難となる傾向があり、また成形歪が生じやすいという欠点がある。
【0008】
したがって、光学特性に優れ、力学的な脆さがなく、さらに成型加工性に優れる、耐熱透明樹脂の開発が望まれている。
【0009】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、光学特性に優れ、力学的な脆さがなく、成型加工性に優れ、耐熱透明樹脂である、水素添加スチレン系重合体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意研究を重ね、高分子鎖中に傾斜構造を有する、スチレン系単量体と共役ジエン単量体との共重合体の水素添加物が、優れた光学材料となることを発見し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち本発明は、スチレン系単量体と共役ジエン単量体の共重合体の、上記スチレン系単量体由来の芳香族環と上記共役ジエン単量体由来の二重結合の少なくとも一部を水素添加させて得られる、水素添加スチレン系重合体であって、上記共重合体は、スチレン系単量体と共役ジエン単量体の双方を、一方の単量体比が徐々に大きくなるように変化させながら重合させた、傾斜構造を有するポリマー鎖を備える共重合体である、水素添加スチレン系重合体を提供する。
【0012】
本発明の水素添加スチレン系重合体は、上記特徴を備えることで、力学的特性が良好で、透明性が高く、複屈折率が極めて小さいという特徴を有する。更に、耐熱性が良好でありながら、成型加工性にも優れるという特徴を有する。なお、一方の末端から他方の末端に向けて構成モノマー単位の比率が徐々に変化するように重合されてなる共重合体を、傾斜構造(グラジエント型構造)を有する共重合体と表す場合がある。
【0013】
共重合体は、スチレン系単量体の重量(Ws)と共役ジエン単量体の重量(Wd)の比が、Ws/Wd=70/30〜98/2の共重合体であることが好ましい。
【0014】
上記水素添加スチレン系重合体は、水素添加率が95%以上であることが好ましい。
【0015】
上記水素添加スチレン系重合体は、スチレン系単量体と共役ジエン単量体の双方を、一方の単量体比が徐々に大きくなるように変化させながら重合させて、傾斜構造を有するポリマー鎖を備える共重合体を得るステップと、上記共重合体を水素添加するステップとを含む、製造方法により製造可能である。
【0016】
また本発明は、上記水素添加スチレン系重合体からなる光学製品を提供する。
【発明の効果】
【0017】
本発明の水素添加スチレン系重合体、耐衝撃性をはじめとする機械強度を向上し、ガラス転移温度が高いという耐熱性を向上するなど、優れた物性を有する。また、複屈折率が低いなど光学特性も優れ、成形加工性も良好であることから、光学用レンズや光ディスク基板等の射出成形体、導光板、拡散板等のシート、偏光板保護フィルムや基盤フィルム類に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明するが、本発明は下記実施形態に限定されるものではない。
【0019】
上記水素添加スチレン系重合体は、スチレン系単量体と共役ジエン単量体との共重合体を水素添加することによって得られる水素添加スチレン系重合体であって、上記スチレン系単量体由来の芳香族環と上記共役ジエン単量体由来の二重結合の、少なくとも一部が水素添加されており、上記共重合体が、一方の末端から他方の末端に向けて構成モノマー単位の比率が徐々に変化するように重合されてなる水素添加スチレン系重合体である。
【0020】
上記スチレン系単量体とは、スチレン及び置換基を有するスチレン化合物を示す。具体的には、例えば、スチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、2,5−ジメチルスチレン、3,4−ジメチルスチレン、3,5−ジメチルスチレン、p−エチルスチレン、m−エチルスチレン及びo−エチルスチレン等のアルキル置換スチレン類、4−フェニルスチレン、1,1−ジフェニルエチレン、ビニルナフタレン、α―メチルスチレン、α−エチルスチレン、α−イソプロピルスチレン、α−t−ブチルスチレン、α−メチル−o−メチルスチレン、α−メチル−m−メチルスチレン、α−メチル−p−メチルスチレン、等が挙げられる。これらのスチレン系単量体は、1種類で用いてもよいし2種以上を混合して用いてもよい。好ましいスチレン系単量体は、スチレンである。これらは、単独で用いてもよいし2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0021】
上記共役ジエン単量体としては、1,3−ブタジエン、イソプレン、1,3−ペンタジエン、1,3−ヘキサジエンなどの炭素数3以上の鎖状化合物が挙げられる。好ましい共役ジエン単量体としては、1,3−ブタジエン及びイソプレンが挙げられる。これらは単独で用いてもよいし2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0022】
上記水素添加スチレン系重合体において、スチレン系単量体の重量をWsとし、共役ジエン単量体の重量をWdとしたときに、Ws/Wd=70/30〜98/2が好ましく、80/20〜96/4がより好ましく、85/15〜95/5がさらに好ましい。Ws/Wdが98/2よりも大きい場合は、水素添加スチレン系重合体の力学的な脆さが顕著となり、成形体として十分な性能を示すことが難しくなる。一方、Ws/Wd=70/30未満の場合は、水素添加スチレン系重合体の剛性が低下するとともに、重合体の複屈折率が大きくなるため光学材料として適さなくなる。
【0023】
上記水素添加スチレン系共重合体の原料として、上記スチレン系単量体及び上記共役ジエン単量体以外に、本発明の目的を損なわない範囲において、後述するリビング重合可能な他の単量体を一緒に用いることができる。リビング重合可能な単量体としては、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート及びブチルメタクリレート等のメタクリル酸アルキルエステル類;メチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート及びブチルアクリレート等のアクリル酸エステル類、などが挙げられる。これらの単量体は、樹脂の衝撃強度、伸び、耐薬品性、接着性などの改良あるいは複屈折値を調整する場合に有用である。
【0024】
上記共重合体は、主としてスチレン系単量体と共役ジエン単量体の共重合によって得られ、スチレン系単量体由来の構造と共役ジエン単量体由来の構造の高分子鎖中の存在分布に特徴がある。すなわち、ランダム構造でもなく、ブロック構造でもなく、高分子鎖中でそれぞれの構成単位の組成比が連続的に変化する構造である。この構造をグラジエント型構造または傾斜構造と称する。
【0025】
ブロック構造とは、共重合体の構造的又は組成的に異なったセグメントからのミクロ相分離を表す共重合体の重合セグメントとして定義される。ミクロ相分離は、ブロック共重合体中で、あるいはその他の樹脂との混合物中で、重合セグメントが交じり合わないことにより生じる。ミクロ相分離構造は、TEM解析、あるいはDSC測定、粘弾性測定によるガラス転移温度の存在によって確認することができる。ミクロ相分離とブロック共重合体については、例えば、「熱可塑性エラストマーのすべて」(工業調査会、2003年10月)に記載されている。
スチレン系単量体由来の構造をA、共役ジエン単量体由来の構造をBとして高分子鎖の構造を代表例を用いて表すと、例えば
ランダム構造は
AABAAAABABAAAAABAABAAAAAABAAAA
ブロック構造は
(AAAAAAAAAAAA)(BBBBBB)(AAAAAAAAAAAA)
ランダムブロック型構造は
(AAAAAAAA)(BAABAABABAAABAB)(AAAAAAA)
と表すことができる。
【0026】
ランダム構造は、単量体比を変化させずに重合させることにより得られ、ブロック構造及びランダムブロック構造は、一方の単量体のみを供給するステップを必ず含む。これに対して、本発明の水素添加スチレン系重合体では、スチレン系単量体と共役ジエン単量体の双方を、一方の単量体比が徐々に大きくなるように変化させながら重合させる共重合体を水素添加して得られるため、以下に詳述するように、ランダム構造、ブロック構造及びランダムブロック構造のいずれとも化学構造が異なるようになる。
【0027】
同様に傾斜構造を表記すると、例えば
ABABAABAAABAAAABAAAAAABAAAAAAA
と表すことができる。高分子鎖中で、スチレン系単量体由来の構造と共役ジエン単量体由来の構造の存在比が変化していく構造である。
【0028】
上記傾斜(グラジエント型)構造を有する共重合体は、動的粘弾性測定の損失係数tanδで特徴的なスペクトルを示す。
【0029】
例えば、スチレン系単量体と共役ジエン単量体を完全に混合して重合させた重合体(重合体A)の動的粘弾性測定の損失係数tanδは、鋭い一本のピークを示す。また、スチレン系単量体と共役ジエン単量体とのブロック重合体(重合体B)においては、動的粘弾性測定の損失係数tanδは、軟質部分である共役ジエン単量体の重合ブロックに由来して低温領域に一本のピーク、硬質部分であるスチレン系単量体の重合ブロックに由来して高温領域に一本のピークを示す。
【0030】
これに対して、傾斜構造を有する共重合体では、上述したいずれのピークとも異なるピークが現れる。具体的には、ピークの形は、上記重合体Aで見られたピークよりなだらかに広がりをもっており、ピークの頂点温度は、上記重合体Bで見られた二本のピークの頂点温度の間に存在する。
【0031】
なお、ここでピークの頂点とは、隣接する左右の測定点よりも値の大きい測定点を示し、ピークの頂点温度とは、ピークの頂点が観測された測定点における温度を示す。
【0032】
上述した熱特性により、ブロック共重合体やランダムブロック共重合体は、その共役ジエン単量体の重合ブロックに由来して低温の領域で軟化するため成型加工時に高温の金型を使用すると固化しにくいという欠点を持つ。それに対して、傾斜構造を持つ重合体は、低温領域での軟化が生じ難く、成型加工時に高温の金型を使用しても固化しやすい。
【0033】
傾斜構造は、スチレン系単量体と共役ジエン単量体の双方を、一方の単量体比が徐々に大きくなるように変化させながら重合させて得ることができる。
【0034】
上記水素添加スチレン系重合体の数平均分子量Mnは、10000〜300000であると好ましく、30000〜250000であるとより好ましく、40000〜230000であると更に好ましい。数平均分子量Mnが10000より小さいと樹脂成形体として充分な性能を出すことが難しくなる。また、300000より大きいと流動性が悪くなり大型成形品、薄肉成形品などを成形することが困難となる。
【0035】
上記水素添加スチレン系重合体の重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比(Mw/Mn)は、1.6〜4.0であると好ましく、1.7〜3.7であるとより好ましく、1.8〜3.5であるとさらに好ましい。Mw/Mn値が1.6より小さいと樹脂の流動性と機械物性のバランスが悪くなり、樹脂成形体として充分な性能を出すことが難しくなる。4.0より大きくなると流動性が悪くなり大型成形品、薄肉成形品などを成形することが困難となる。
【0036】
なお、上記重量平均分子量(Mw)と上記数平均分子量(Mn)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて、ポリスチレン換算によって求めた値のことである。
【0037】
上記水素添加スチレン系重合体は、機械的物性、力学的特性等の観点から、ガラス転移温度(Tg)が80℃以上であると好ましく、90℃以上であるとより好ましく、100℃以上であると更に好ましい。なお、ガラス転移温度はDSC法や粘弾性法により求めることができるが、上記好ましい範囲のガラス転移温度は、DSC法によって求めた値を示す。
【0038】
上記水素添加スチレン系重合体は、透明性の観点から、全光線透過率が85%以上であると好ましく、90%以上であるとより好ましく、95%以上であるとさらに好ましい。上記水素添加スチレン系重合体の全光線透過率は、積分球式光線透過率測定装置により測定することができる。
【0039】
上記スチレン系単量体と共役ジエン単量体との共重合体は、一方の末端から他方の末端に向けて構成モノマー単位の比率が徐々に変化するように重合されて得られる。このような重合方法としては、特に制限はないが、例えば、上記スチレン系単量体と共役ジエン単量体とを、供給割合を変化させながら連続的に反応系中に供給して重合させる重合方法が挙げられる。
【0040】
上記スチレン系単量体と共役ジエン単量体との共重合反応としては、リビングアニオン重合法が好ましい。リビングアニオン重合法としては、公知の方法を用いることができる。例えば、開始剤として有機リチウム化合物を用いることができる。より具体的には、n−ブチルリチウム、sec−ブチルリチウム、t−ブチルリチウム、エチルリチウム、ベンジルリチウム、1,6−ジリチオヘキサン、スチリルリチウム、ブタジエニリルリチウム等を用いることができる。この中で好ましい開始剤としては、n−ブチルリチウム及びsec−ブチルリチウムが挙げられる。
【0041】
上記リビングアニオン重合法においては、開始剤とともに開始剤助剤を用いることが有効である。ここで開始剤助剤とは、重合開始時や反応中にカウンターカチオン(例えばリチウムイオン)に配位することで、開始反応の速度や、共重合反応時の反応速度の異なる単量体のランダム性を向上させる添加剤である。開始剤助剤としては、例えば、N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン、テトラヒドロフラン、チタニウムテトライソプロポキシド、シクロヘキサンジメチルアセタール等が用いられる。この中で好ましくはN,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン(以下、TMEDAと称す)である。
【0042】
上記スチレン系単量体と共役ジエン単量体との共重合体は、例えば、バッチ重合法、セミバッチ重合法など、アニオン重合の開始剤に対して単量体あるいは単量体の混合物を逐次添加することによっても製造することができる。
【0043】
上記重合法における溶媒としては、ヘテロ原子を含有しない炭化水素系化合物が好ましい。具体的には、n−ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素化合物、ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、キシレン等の芳香族炭化水素化合物が挙げられる。これらの中で、シクロヘキサンが特に好ましい。これらの炭化水素化合物のうち、一種類を単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0044】
上記重合法における重合温度は、40℃〜110℃であると好ましく、50℃〜100℃であるとより好ましく、55℃〜95℃であると更に好ましい。重合温度が40℃より低いと反応速度が低下し工業的生産の実用性がない。また、重合温度が110℃より高いと、重合体の黄色化が激しくなり、耐候性の低下、更には溶融時の重合体の熱安定性も低下する。
【0045】
上記重合法における重合反応の停止は、停止剤として水、アルコール、フェノール、カルボン酸等の酸素−水素結合を有する化合物を添加することで行うことができる。停止剤としては、エポキシ化合物、エステル化合物、ケトン化合物、カルボン酸無水物及び炭素−ハロゲン結合を有する化合物等も同様な効果を期待できる。これらの添加物の使用量は成長種の当量から10倍当量程度が好ましい。ここで成長種とは、末端に開始剤に対応する活性種(アニオン重合においては、反応性の炭素アニオン)を有する重合体を示し、通常その当量は上記開始剤の当量とほぼ同量であると考えられる。
【0046】
上記成長種を利用して多官能化合物でカップリング反応させ、ポリマー分子量を増大、さらにはポリマー鎖を分岐構造化させることもできる。このようなカップリング反応に用いる多官能化合物は公知のものから選ぶことができる。多官能化合物としては、例えば、ポリハロゲン化合物、ポリエポキシ化合物、モノ又はポリカルボン酸エステル、ポリケトン化合物、モノ又はポリカルボン酸無水物等を挙げることができる。具体的には、例えば、シリコンテトラクロライド、ジ(トリクロルシリル)エタン、1,3,5−トリブロモベンゼン、エポキシ化大豆油、テトラグリシジル1,3−ビスアミノメチルシクロヘキサン、シュウ酸ジメチル、トリメリット酸トリ−2−エチルヘキシル、ピロメリット酸二無水物、ジエチルカーボネート等が挙げられる。
【0047】
上記水素添加スチレン系重合体は、例えば、上記共重合体を公知の水素添加反応法によって水素添加して製造することができる。水素添加反応は、上記重合反応終了後の共重合体を単離してから行ってもよいが、重合反応終了後の溶液状態のまま行うことが可能であり、経済的な面からも好ましい。
【0048】
上記水素添加反応において用いられる水素添加反応触媒としては、特に限定されず、共重合体中に存在する不飽和部分を水素添加することが可能な触媒を使用することができる。例えば、上記水素添加反応触媒としては、ニッケル、パラジウム、白金、コバルト、ルテニウム、ロジウム等の貴金属、その酸化物、その塩、又は、その錯体等の化合物を、カーボン、アルミナ、シリカ、シリカ・アルミナ又は珪藻土等の多孔性担体に担持した固体触媒が挙げられる。これらのなかでもニッケル、パラジウム又は白金を、アルミナ、シリカ、シリカ・アルミナ又は珪藻土に担持したものが、反応性が高く好ましく用いられる。
【0049】
上記水素添加反応において、反応温度は、30〜250℃であると好ましく、50〜200℃であるとより好ましく、100〜180℃のであると特に好ましい。上記水素添加反応において、水素圧力は限定しないが、圧力が増加すると水素添加反応速度が増加する傾向にあり、一般的には3〜20MPaが推奨される。
【0050】
上記水素添加反応に用いられる溶媒としては、上記水素添加反応触媒の触媒毒とならない溶媒を選ぶことが好ましい。具体的には、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素化合物が挙げられる。また、ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、キシレン等の芳香族炭化水素化合物を使用することも可能である。芳香族炭化水素化合物溶媒を使用することによって、共重合体の溶解性が向上し、定量水素添加反応がより促進される傾向がある。これらの化合物は、1種類又は2種類以上用いてもよい。特に好ましい化合物はシクロヘキサン、メチルシクロヘキサンである。
【0051】
上記水素添加スチレン系重合体は、上記水素添加反応による水素添加率が90%以上であると好ましく、95%以上であるとより好ましく、98%以上であると更に好ましい。水素添加率が90%より小さいと、透明性及び耐熱性の低下等の問題が生じる。また、90%以上であれば光学特性を制御するために芳香環の不飽和部分が水素添加されずに残っていてもよい。
【0052】
上記水素添加反応終了後、遠心分離、濾過等の公知の方法により触媒の除去を行うことができる。光学用途等に使用される場合は、水素添加スチレン系重合体中の残量触媒金属成分は出来る限り少なくすることが好ましく、10ppm以下であることが望ましい。溶媒はポリマーから揮発等の方法で除去し、除去した溶媒は回収して再生使用することができる。上記溶媒の除去には公知の方法が利用できる。揮発除去装置としては、例えば真空タンクにフラッシュさせる方法及び/又は押出機やニーダ−を用いて真空下加熱蒸発させる方法等が好ましく利用できる。溶媒の揮発性にもよるが、一般には温度を180〜300℃、真空度10〜200Torrにて溶媒や残存モノマー等の揮発性成分を揮発除去させる。
【0053】
上記水素添加スチレン系重合体においては、本発明の目的を損なわない範囲で、種々の樹脂添加物を添加することができる。例えば、無機あるいは有機フィラー、顔料、染料、安定剤、紫外線吸収剤、可塑剤、難燃剤、滑剤等を添加して、これら樹脂添加剤が奏する作用効果を達成することができる。これらの樹脂添加剤は、重合が完結した後のポリマー溶液の中に添加して混合してもよいし、ポリマー回収後、押出機を使って溶融混合することもできる。
【0054】
上記安定剤としては、ヒンダードフェノール系安定剤、イオウ系安定剤、リン系安定剤等が挙げられる。耐熱劣化性の向上の観点からは、ヒンダードフェノール系安定剤とリン系安定剤の併用が特に好ましい。
【0055】
上記ヒンダードフェノール系安定剤としては、例えば、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、トリエチレングリコール−ビス−[3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、ペンタエリスト−ルテトラキス[−(3,5−ジt−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、n−オクタデシル3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドキシフェニル)プロピオネート、2−t−ブチル−6−(3−t−ブチル−2−ヒドロキシ−5−メチルベンジル)−4−メチルフェニルアクリレート、2[1−(2−ヒドロキシ3,5−ジ−t−ペンチルフェニル)]−4,6−ジ−t−ペンチルフェニルアクリレート、テトラキス[メチレン3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、3,9ビス[2−{3−(t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピニルオキシ}−1,1−ジメチルエチル]−2,4,8,10−テトラオキザ[5,5]ウンデカン、1,3,5−トリス(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシベンジル)−s−トリアジン−2,4,6(1H,2H,3H)−トリオン、1,1,4−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−t−ブチルフェニル)ブタン、4,4’−ブチリデンビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)等が挙げられる。
【0056】
上記リン系安定剤としては、例えば、テトラキス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)−4、4’―ビスフェニレンホスフォナイト、ビス(2,6−ジ−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトール−ジ−ホスファイト等が挙げられる。
【0057】
上記水素添加スチレン系重合体は、シリコーン系又はフッ素系の離型剤、帯電防止剤なども公知の技術をそのまま応用することができる。
【0058】
上記水素添加スチレン系重合体は、光学フィルム等の光学製品に成形することができる。光学製品に成形する方法は特に制限されず、例えば、射出成形、シート成形、ブロー成形、インジェクションブロー成形、インフレーション成形、押し出し成形、溶融流延法、発泡成形、キャスト成形等の公知の方法により成形することができ、圧縮成形、真空成形等の二次加工成形法も用いることができる。
【0059】
上記成形時の溶融温度としては、組成物のガラス転移温度をT℃としたとき、(T+80)℃〜(T+250)℃であるのが好ましい。溶融温度が低いと、組成物の溶融粘度が高くなるため良好な転写性を実現できない。溶融温度が高いと溶融時に熱劣化し、分子量の低下、着色などの問題が生じる。溶融温度としてより好ましくは(T+100)℃〜(T+200)℃である。
【0060】
上記水素添加スチレン系重合体は、特に透明性を必要とする光学製品として用いることができる。具体的には、上記水素添加スチレン系重合体から成形される光学製品は、全光線透過率及びリタデーションの観点から、光学特性が優れる。
【0061】
上記光学製品の光学特性の指標としては、上記水素添加スチレン系重合体からなる3mm厚さ成形片のリタデーションの値が、200nm以下であることが好ましく、180nm以下であることがより好ましく、170nm以下であることが更に好ましい。上記水素添加スチレン系重合体のリタデーションの測定は、偏光顕微鏡を用いたセナルモンコンペンセーター法、アッベ屈折計法により測定することができる。なお、上記成形片は、ASTM4号の3mmtのダンベル片である。
【0062】
上記水素添加スチレン系重合体から成形される光学製品としては、例えば、光ディスク、光ピックアップレンズ、携帯電話用レンズ、デジタルスチルカメラ用レンズ、プロジェクタ用レンズ、fθレンズ、内視鏡用球面レンズ、LEDレンズ等の光学レンズ、プリズム、光拡散板、光カード、光ファイバー、光学ミラー、液晶表示素子基板、導光板、拡散板、偏光フィルム、位相差フィルム、輝度向上フィルム、プリズムシートなどが挙げられる。特に光学レンズや光学フィルムとして用いることに適している。
【実施例】
【0063】
以下、実施例、比較例を挙げて本発明の態様を具体的に説明する。しかし、これらは例示であって、本発明の技術的範囲を何ら限定するものではない。
【0064】
実施例、比較例で用いる分析、評価方法、条件、また原料や開始剤、重合停止剤は以下のとおりである。
【0065】
[分析方法]
(1)分子量(Mn、Mw、Mw/Mn)
東ソー社製のHLC−8020にカラム(TSKgel GMHXL、40℃)を2本接続し、RI検出器が取り付けてあるGPC装置で測定した。テトラヒドロフランを移動相に用いた。分子量の計算は、ポリスチレンスタンダード(東ソー社製)を使って検量線を作成し、ポリスチレン換算にて、数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)、分子量の分散度(Mw/Mn)を決定した。
【0066】
(2)ガラス転移温度(Tg)
パーキンエルマー社製のDSC−7を使って、JIS−K−7121に準拠して求めた。具体的には、窒素下、10℃/minで室温から250℃まで昇温し、その後10℃/minで室温まで戻し、再び10℃/minで250℃まで昇温した。2度目の昇温過程で測定されるガラス転移温度をTgとした。
【0067】
(3)共重合体中のスチレン系単量体由来の部分構造と共役ジエン単量体由来の部分構造との組成比
BRUKER社製のNMR(DPX−400)を使って求めた。水素添加反応前の共重合体の1H−NMRを測定し、スチレン系単量体由来の芳香環、共役ジエン単量体由来の二重結合、メチレン、メチンのピーク面積比から計算で求めた。
【0068】
(4)水素添加率
BRUKER社製のNMR(DPX−400)を使って求めた。水素添加スチレン系重合体を重クロロホルムに溶解して、1H−NMRを測定し、スチレン系単量体由来の芳香環、共役ジエン単量体由来の二重結合、メチル、メチレン、メチンのピーク面積比から計算することで求めた。
【0069】
(5)全光線透過率
スガ試験機社製の積分球式測定装置を使って、JIS−K−7361−1に準拠して求めた。
【0070】
(6)リタデーション
LEITZ社製偏光顕微鏡DMRP、及び傾斜コンペンセイターKを用いて測定した波長546nmにおける位相差から求めた。
ASTM4号の3mmtのダンベル片を測定サンプルとし、ゲート、中央、エンド部を測定し、最も高い値をリタデーションの値とした。
【0071】
(7)引張り破断伸び率
島津社製のAUTOGRAPH(AG−5000D)を使って、ASTM−D638に準拠して求めた。
【0072】
(8)アイゾット(Izod)衝撃強度
東洋精機社製のアイゾット衝撃試験機を使って、ASTM−D256に準拠してノッチ付き試験片を用いて求めた。
【0073】
(9)動的粘弾力性スペクトルの測定
レオメトリック社製RSAIIを用いて、1分間に5℃の割合で−120℃から160℃まで温度を上昇させ、サンプルの貯蔵弾性率E’、損失弾性率E’’、tanδを測定した。厚さ約200ミクロンのシートを用いて、チャック間距離20〜30nm、サンプル幅2〜4nm、測定周波数1Hz、歪量は0.05%の条件で、引張りモードで測定した。
【0074】
[押出方法]
15mm径の2軸押出機(テクノベル社製)を使って、重合体ペレットを作製した。シリンダー温度は250℃(ホッパー下180℃)、スクリュー回転数200rpm、吐出量1.9kg/Hrで行った。
【0075】
[射出成形方法]
FUNAC社製の射出成形機(AUTO SHOT 15A)を使って次なる条件で成形した。シリンダー温度は、ホッパー側から230℃、240℃、250℃、250℃に設定した。金型温度は、80℃、射出時間を10秒、冷却時間を20秒に設定した。溶融樹脂は、樹脂が金型に丁度充填する射出圧力に更に5MPa高い圧力を加えて充填した。
ASTM4号の3mm厚さのダンベル片と短冊片をそれぞれ成形し、測定サンプルとして用いた。
【0076】
(原料)
スチレン系単量体としては、スチレン(St)を貯蔵タンクに溜め窒素バブリングした後に、活性アルミナを充填した1L容積の精製塔内を通過させて重合禁止剤であるt−ブチルカテコールを除去し、使用した。また、共役ジエン単量体としては、1,3−ブタジエン又はイソプレンを使用した。具体的には、1,3−ブタジエン、イソプレンはシクロヘキサンで希釈し、20重量%溶液を調製して使用した。
【0077】
(開始剤)
開始剤としては、n−ブチルリチウム(1.6モル%のn−ヘキサン溶液)を10倍にシクロヘキサンで希釈し0.16モル%溶液を調製し、使用した。
【0078】
(開始剤助剤)
開始剤助剤としては、N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミンをシクロヘキサンで希釈し、1重量%溶液を調製し、使用した。
【0079】
(停止剤)
停止剤としては、2−プロパノールをシクロヘキサンで希釈し10重量%溶液を調製し、使用した。
【0080】
[実施例1]
〈スチレン系単量体と共役ジエン単量体からなる共重合体の溶液の製造〉
重合反応器は、攪拌翼が取り付けられ、更に原料導入ノズル、開始剤導入ノズルが付いたジャケット付20Lの反応器を用いた。上記重合反応器にシクロヘキサン、開始剤および開始剤助剤を導入した後、反応器の内温が70℃になるまで昇温した。そこに、スチレン系単量体と共役ジエン単量体を逐次的に導入した。溶媒、開始剤及び開始剤助剤の種類と量を表1に示す。また、単量体の種類、導入の方法及び反応時間を表2に示した。所定の反応時間終了後、失活剤のイソプロパノールのシクロヘキサン溶液を開始剤に対して過剰量を加えて反応を停止した。反応溶液の一部を採取し、大量のメタノール中に加えることにより共重合体を析出させた。溶液部分をGC測定することにより転化率を求め、また、真空乾燥することにより得られた共重合体のNMR測定、DSC測定とGPC測定を行い、共重合体の組成比、分子量とガラス転移温度を決定した。転化率は表2に示し、共重合体の組成比、分子量、及びガラス転移温度は表3に示した。
【0081】
〈水素添加スチレン系重合体の製造〉
水素添加反応は30L容積の攪拌機付きの高温高圧仕様であるオートクレーブを用いて実施した。共重合を実施して得られた共重合体の20%シクロヘキサン溶液8kgとラネーNi触媒1.5kgとを、十分に窒素置換したオートクレーブに加え、反応温度150〜160℃、水素圧力10MPaで10時間水素添加反応を行った。反応後のポリマー溶液は、孔径1μmのメンブレンフィルターを用いて加圧濾過した後、大量のメタノールによりポリマー溶液処理、ペレタイズ化を行うことで、無色透明の水素添加ポリスチレン系重合体を得た。水素添加率は、99.9%であった。
【0082】
得られた水素添加スチレン系重合体を射出成形してダンベル片、短冊片を採取した。ガラス転移温度(Tg)、全光線透過率、リタデーション、引張り破断伸び率、Izod衝撃強度を調べた。また、金型温度80℃で射出成形を実施したところ、成形歪なく固化し成形性は良好であった。結果を表4に示す。高いガラス転移温度、高い全光線透過率を示し、特にリタデーションが低い値となることが分かった。動的粘弾性スペクトルの測定を行ったところ、低温側にtanδのピークは明確には観察されなかった。動的粘弾性スペクトルの測定結果を図1に示す。
【0083】
[実施例2]
〈スチレン系単量体と共役ジエン単量体からなる共重合体の溶液の製造〉
単量体の導入の方法を変えた以外は、実施例1と同様に重合反応を実施した。単量体の種類と導入の方法、反応時間、転化率を表5に示す。共重合体の組成比、分子量(分布)およびガラス転移温度は表3に示す。
【0084】
〈水素添加スチレン系重合体の製造〉
実施例1と同様に水素添加反応を実施した。水素添加率は、99.8%であった。また、実施例1と同様に重合体の評価を行い、結果を表4に示す。
【0085】
[実施例3]
〈スチレン系単量体と共役ジエン単量体からなる共重合体の溶液の製造〉
単量体の導入の方法を変えた以外は、実施例1と同様に重合反応を実施した。単量体の種類と導入の方法、反応時間、転化率を表6に示す。共重合体の組成比、分子量(分布)及びガラス転移温度は表3に示す。
【0086】
〈水素添加スチレン系重合体の製造〉
実施例1と同様に水素添加反応を実施した。水素添加率は、99.9%であった。また、実施例1と同様に重合体の評価を行い、結果を表4に示す。
【0087】
[比較例1]
〈スチレン系単量体と共役ジエン単量体からなる共重合体の溶液の製造〉
単量体の導入の方法を変えた以外は、実施例1と同様に重合反応を実施した。単量体の種類と導入の方法、反応時間、転化率を表7に示す。共重合体の組成比、分子量(分布)およびガラス転移温度は表3に示す。この共重合体はランダム共重合体である。
【0088】
〈水素添加スチレン系重合体の製造〉
実施例1と同様に水素添加反応を実施した。水素添加率は、99.9%であった。また、実施例1と同様に重合体の評価を行い、結果を表4に示す。
【0089】
[比較例2]
〈スチレン系単量体と共役ジエン単量体からなる共重合体の溶液の製造〉
単量体の導入の方法を変えた以外は、実施例1と同様に重合反応を実施した。単量体の種類と導入の方法、反応時間、転化率を表8に示す。共重合体の組成比、分子量(分布)およびガラス転移温度は表3に示す。この共重合体はブロック共重合体である。
【0090】
〈水素添加スチレン系重合体の製造〉
実施例1と同様に水素添加反応を実施した。水素添加率は、99.7%であった。また、実施例1と同様に重合体の評価を行い、結果を表4に示す。
【0091】
[比較例3]
〈スチレン系単量体と共役ジエン単量体からなる共重合体の溶液の製造〉
単量体の導入の方法を変えた以外は、実施例1と同様に重合反応を実施した。単量体の種類と導入の方法、反応時間、転化率を表9に示す。共重合体の組成比、分子量(分布)およびガラス転移温度は表3に示した。この共重合体はランダムブロック共重合体である。
【0092】
〈水素添加スチレン系重合体の製造〉
実施例1と同様に水素添加反応を実施した。水素添加率は、99.9%であった。また、実施例1と同様に重合体の評価を行い、結果を表4に示す。動的粘弾性スペクトルの測定を行ったところ、低温側にtanδのピークが観察された。動的粘弾性スペクトルの測定結果を図2に示す。
【0093】
【表1】
【0094】
【表2】
【0095】
【表3】
【0096】
【表4】
【0097】
【表5】
【0098】
【表6】
【0099】
【表7】
【0100】
【表8】
【0101】
【表9】
【産業上の利用可能性】
【0102】
本発明の傾斜構造を有する水素添加スチレン系重合体は、従来のスチレン系重合体と比較して、機械的物性、耐熱性を保持しつつ、優れた光学特性を有し、また高温の金型温度でも容易に固化することから、特に、光学用レンズや光ディスク基盤等の射出成形体、導光板、拡散板等の光学シート、偏光板保護フィルム等の光学フィルム類に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0103】
【図1】実施例1で製造した重合体の動的粘弾性スペクトルを示す図である。
【図2】比較例3で製造した重合体の動的粘弾性スペクトルを示す図である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、スチレン系単量体と共役ジエン系単量体との共重合体を水素添加することによって得られる、水素添加スチレン系重合体に関する。
【背景技術】
【0002】
透明材料としては、無機物のガラスと有機物の透明樹脂とが挙げられる。ガラスは、透明性や耐熱性、水や光などに対する耐久性に優れているが、生産性が悪く、比重が重く、割れやすいという欠点を有する。一方、代表的な透明樹脂としては、ポリメチルメタクリレート(PMMA)やポリカーボネート(PC)が、ガラス代替として透明板、透明容器、光学レンズなどに使用されてきた。しかしながら、PMMAは、透明性に優れるもののガラス転移点が100℃強と耐熱性が低く、また吸湿性が大きいため耐久性に問題がある。PCは、耐熱性には優れるが、透明性の低さ、複屈折率の大きさが問題として挙げられている。
【0003】
かかる状況から、近年、ガラス代替として、脂環式ポリオレフィン樹脂(COP)の研究が盛んに行われている。COPは、環構造を有する炭化水素を主とする非晶性樹脂で、透明性、耐熱性が高く、吸水性が低いことが特長として挙げられる。COPは、密度も低く、複屈折が比較的小さいなど優れた特性を有することから、液晶ディスプレイ関連部材や光学レンズ用途への提案が多数なされている。また、原料の入手が容易で、安価な製造が可能であることから、ポリスチレン又はその共重合体を水素添加した水素添加スチレン系樹脂がいくつか開示されている。例えば、ポリビニルシクロヘキサン構造の含有率が80重量%以上の水素添加ポリスチレンからなる光ディスク基板が提案されている(例えば、特許文献1)。また、ポリスチレンを水素添加することにより、分子構造の繰返し単位の主分極率差が減少し、複屈折率が比較的小さくなることが開示されている(例えば、特許文献2及び3)。
【0004】
これらの水素添加スチレン系樹脂は、光学特性に優れ、ガラス転移温度の比較的高い光学材料を形成することが可能となるが、柔軟性に乏しく極めて脆性であることが問題となっている。この問題を解決するため、ゴム成分を導入した水素添加ポリスチレン系重合体が開示されている。例えば、スチレンにブタジエンやイソプレンなどの共役ジエンをブロック共重合させたスチレン−共役ジエンブロック共重合体の水素添加物を、光学用途に用いることが記されている(例えば、特許文献4)。また、近年、スチレン系単量体のブロックと、スチレンと共役ジエンの混在するブロックからなる共重合体が開示されている(特許文献5及び6)。
【0005】
【特許文献1】特公平7−114030号公報
【特許文献2】特開平1−1706号公報
【特許文献3】特開平1−132603号公報
【特許文献4】特許2668945号公報
【特許文献5】特表2002−531598号公報
【特許文献6】特開2002−148401号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、ゴム成分を導入した水素添加スチレン系重合体は、スチレン系単量体と共役ジエン単量体をブロック共重合してなる重合体の水素添加物である場合、力学的な脆性は改善されるものの、共役ジエン由来のブロックが不均一な構造を有することにより、不透明になりやすいという欠点がある。また、共役ジエン由来成分が局所的な軟質成分となるため、成形加工時に固化しにくいという欠点がある。また、スチレン系単量体と共役ジエン単量体をランダム共重合してなる重合体の水素添加物である場合、力学的な脆性はそれほど改善されず、ガラス転位温度が共役ジエンの存在量に依存して低下するため耐熱性が悪化する。
【0007】
更に、スチレン系単量体のブロックと、スチレンと共役ジエンの混在するブロックからなる共重合体の水素添加物は、力学的な脆性は改善されるものの、金型からの離型が困難となる傾向があり、また成形歪が生じやすいという欠点がある。
【0008】
したがって、光学特性に優れ、力学的な脆さがなく、さらに成型加工性に優れる、耐熱透明樹脂の開発が望まれている。
【0009】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、光学特性に優れ、力学的な脆さがなく、成型加工性に優れ、耐熱透明樹脂である、水素添加スチレン系重合体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意研究を重ね、高分子鎖中に傾斜構造を有する、スチレン系単量体と共役ジエン単量体との共重合体の水素添加物が、優れた光学材料となることを発見し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち本発明は、スチレン系単量体と共役ジエン単量体の共重合体の、上記スチレン系単量体由来の芳香族環と上記共役ジエン単量体由来の二重結合の少なくとも一部を水素添加させて得られる、水素添加スチレン系重合体であって、上記共重合体は、スチレン系単量体と共役ジエン単量体の双方を、一方の単量体比が徐々に大きくなるように変化させながら重合させた、傾斜構造を有するポリマー鎖を備える共重合体である、水素添加スチレン系重合体を提供する。
【0012】
本発明の水素添加スチレン系重合体は、上記特徴を備えることで、力学的特性が良好で、透明性が高く、複屈折率が極めて小さいという特徴を有する。更に、耐熱性が良好でありながら、成型加工性にも優れるという特徴を有する。なお、一方の末端から他方の末端に向けて構成モノマー単位の比率が徐々に変化するように重合されてなる共重合体を、傾斜構造(グラジエント型構造)を有する共重合体と表す場合がある。
【0013】
共重合体は、スチレン系単量体の重量(Ws)と共役ジエン単量体の重量(Wd)の比が、Ws/Wd=70/30〜98/2の共重合体であることが好ましい。
【0014】
上記水素添加スチレン系重合体は、水素添加率が95%以上であることが好ましい。
【0015】
上記水素添加スチレン系重合体は、スチレン系単量体と共役ジエン単量体の双方を、一方の単量体比が徐々に大きくなるように変化させながら重合させて、傾斜構造を有するポリマー鎖を備える共重合体を得るステップと、上記共重合体を水素添加するステップとを含む、製造方法により製造可能である。
【0016】
また本発明は、上記水素添加スチレン系重合体からなる光学製品を提供する。
【発明の効果】
【0017】
本発明の水素添加スチレン系重合体、耐衝撃性をはじめとする機械強度を向上し、ガラス転移温度が高いという耐熱性を向上するなど、優れた物性を有する。また、複屈折率が低いなど光学特性も優れ、成形加工性も良好であることから、光学用レンズや光ディスク基板等の射出成形体、導光板、拡散板等のシート、偏光板保護フィルムや基盤フィルム類に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明するが、本発明は下記実施形態に限定されるものではない。
【0019】
上記水素添加スチレン系重合体は、スチレン系単量体と共役ジエン単量体との共重合体を水素添加することによって得られる水素添加スチレン系重合体であって、上記スチレン系単量体由来の芳香族環と上記共役ジエン単量体由来の二重結合の、少なくとも一部が水素添加されており、上記共重合体が、一方の末端から他方の末端に向けて構成モノマー単位の比率が徐々に変化するように重合されてなる水素添加スチレン系重合体である。
【0020】
上記スチレン系単量体とは、スチレン及び置換基を有するスチレン化合物を示す。具体的には、例えば、スチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、2,5−ジメチルスチレン、3,4−ジメチルスチレン、3,5−ジメチルスチレン、p−エチルスチレン、m−エチルスチレン及びo−エチルスチレン等のアルキル置換スチレン類、4−フェニルスチレン、1,1−ジフェニルエチレン、ビニルナフタレン、α―メチルスチレン、α−エチルスチレン、α−イソプロピルスチレン、α−t−ブチルスチレン、α−メチル−o−メチルスチレン、α−メチル−m−メチルスチレン、α−メチル−p−メチルスチレン、等が挙げられる。これらのスチレン系単量体は、1種類で用いてもよいし2種以上を混合して用いてもよい。好ましいスチレン系単量体は、スチレンである。これらは、単独で用いてもよいし2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0021】
上記共役ジエン単量体としては、1,3−ブタジエン、イソプレン、1,3−ペンタジエン、1,3−ヘキサジエンなどの炭素数3以上の鎖状化合物が挙げられる。好ましい共役ジエン単量体としては、1,3−ブタジエン及びイソプレンが挙げられる。これらは単独で用いてもよいし2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0022】
上記水素添加スチレン系重合体において、スチレン系単量体の重量をWsとし、共役ジエン単量体の重量をWdとしたときに、Ws/Wd=70/30〜98/2が好ましく、80/20〜96/4がより好ましく、85/15〜95/5がさらに好ましい。Ws/Wdが98/2よりも大きい場合は、水素添加スチレン系重合体の力学的な脆さが顕著となり、成形体として十分な性能を示すことが難しくなる。一方、Ws/Wd=70/30未満の場合は、水素添加スチレン系重合体の剛性が低下するとともに、重合体の複屈折率が大きくなるため光学材料として適さなくなる。
【0023】
上記水素添加スチレン系共重合体の原料として、上記スチレン系単量体及び上記共役ジエン単量体以外に、本発明の目的を損なわない範囲において、後述するリビング重合可能な他の単量体を一緒に用いることができる。リビング重合可能な単量体としては、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート及びブチルメタクリレート等のメタクリル酸アルキルエステル類;メチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート及びブチルアクリレート等のアクリル酸エステル類、などが挙げられる。これらの単量体は、樹脂の衝撃強度、伸び、耐薬品性、接着性などの改良あるいは複屈折値を調整する場合に有用である。
【0024】
上記共重合体は、主としてスチレン系単量体と共役ジエン単量体の共重合によって得られ、スチレン系単量体由来の構造と共役ジエン単量体由来の構造の高分子鎖中の存在分布に特徴がある。すなわち、ランダム構造でもなく、ブロック構造でもなく、高分子鎖中でそれぞれの構成単位の組成比が連続的に変化する構造である。この構造をグラジエント型構造または傾斜構造と称する。
【0025】
ブロック構造とは、共重合体の構造的又は組成的に異なったセグメントからのミクロ相分離を表す共重合体の重合セグメントとして定義される。ミクロ相分離は、ブロック共重合体中で、あるいはその他の樹脂との混合物中で、重合セグメントが交じり合わないことにより生じる。ミクロ相分離構造は、TEM解析、あるいはDSC測定、粘弾性測定によるガラス転移温度の存在によって確認することができる。ミクロ相分離とブロック共重合体については、例えば、「熱可塑性エラストマーのすべて」(工業調査会、2003年10月)に記載されている。
スチレン系単量体由来の構造をA、共役ジエン単量体由来の構造をBとして高分子鎖の構造を代表例を用いて表すと、例えば
ランダム構造は
AABAAAABABAAAAABAABAAAAAABAAAA
ブロック構造は
(AAAAAAAAAAAA)(BBBBBB)(AAAAAAAAAAAA)
ランダムブロック型構造は
(AAAAAAAA)(BAABAABABAAABAB)(AAAAAAA)
と表すことができる。
【0026】
ランダム構造は、単量体比を変化させずに重合させることにより得られ、ブロック構造及びランダムブロック構造は、一方の単量体のみを供給するステップを必ず含む。これに対して、本発明の水素添加スチレン系重合体では、スチレン系単量体と共役ジエン単量体の双方を、一方の単量体比が徐々に大きくなるように変化させながら重合させる共重合体を水素添加して得られるため、以下に詳述するように、ランダム構造、ブロック構造及びランダムブロック構造のいずれとも化学構造が異なるようになる。
【0027】
同様に傾斜構造を表記すると、例えば
ABABAABAAABAAAABAAAAAABAAAAAAA
と表すことができる。高分子鎖中で、スチレン系単量体由来の構造と共役ジエン単量体由来の構造の存在比が変化していく構造である。
【0028】
上記傾斜(グラジエント型)構造を有する共重合体は、動的粘弾性測定の損失係数tanδで特徴的なスペクトルを示す。
【0029】
例えば、スチレン系単量体と共役ジエン単量体を完全に混合して重合させた重合体(重合体A)の動的粘弾性測定の損失係数tanδは、鋭い一本のピークを示す。また、スチレン系単量体と共役ジエン単量体とのブロック重合体(重合体B)においては、動的粘弾性測定の損失係数tanδは、軟質部分である共役ジエン単量体の重合ブロックに由来して低温領域に一本のピーク、硬質部分であるスチレン系単量体の重合ブロックに由来して高温領域に一本のピークを示す。
【0030】
これに対して、傾斜構造を有する共重合体では、上述したいずれのピークとも異なるピークが現れる。具体的には、ピークの形は、上記重合体Aで見られたピークよりなだらかに広がりをもっており、ピークの頂点温度は、上記重合体Bで見られた二本のピークの頂点温度の間に存在する。
【0031】
なお、ここでピークの頂点とは、隣接する左右の測定点よりも値の大きい測定点を示し、ピークの頂点温度とは、ピークの頂点が観測された測定点における温度を示す。
【0032】
上述した熱特性により、ブロック共重合体やランダムブロック共重合体は、その共役ジエン単量体の重合ブロックに由来して低温の領域で軟化するため成型加工時に高温の金型を使用すると固化しにくいという欠点を持つ。それに対して、傾斜構造を持つ重合体は、低温領域での軟化が生じ難く、成型加工時に高温の金型を使用しても固化しやすい。
【0033】
傾斜構造は、スチレン系単量体と共役ジエン単量体の双方を、一方の単量体比が徐々に大きくなるように変化させながら重合させて得ることができる。
【0034】
上記水素添加スチレン系重合体の数平均分子量Mnは、10000〜300000であると好ましく、30000〜250000であるとより好ましく、40000〜230000であると更に好ましい。数平均分子量Mnが10000より小さいと樹脂成形体として充分な性能を出すことが難しくなる。また、300000より大きいと流動性が悪くなり大型成形品、薄肉成形品などを成形することが困難となる。
【0035】
上記水素添加スチレン系重合体の重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比(Mw/Mn)は、1.6〜4.0であると好ましく、1.7〜3.7であるとより好ましく、1.8〜3.5であるとさらに好ましい。Mw/Mn値が1.6より小さいと樹脂の流動性と機械物性のバランスが悪くなり、樹脂成形体として充分な性能を出すことが難しくなる。4.0より大きくなると流動性が悪くなり大型成形品、薄肉成形品などを成形することが困難となる。
【0036】
なお、上記重量平均分子量(Mw)と上記数平均分子量(Mn)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて、ポリスチレン換算によって求めた値のことである。
【0037】
上記水素添加スチレン系重合体は、機械的物性、力学的特性等の観点から、ガラス転移温度(Tg)が80℃以上であると好ましく、90℃以上であるとより好ましく、100℃以上であると更に好ましい。なお、ガラス転移温度はDSC法や粘弾性法により求めることができるが、上記好ましい範囲のガラス転移温度は、DSC法によって求めた値を示す。
【0038】
上記水素添加スチレン系重合体は、透明性の観点から、全光線透過率が85%以上であると好ましく、90%以上であるとより好ましく、95%以上であるとさらに好ましい。上記水素添加スチレン系重合体の全光線透過率は、積分球式光線透過率測定装置により測定することができる。
【0039】
上記スチレン系単量体と共役ジエン単量体との共重合体は、一方の末端から他方の末端に向けて構成モノマー単位の比率が徐々に変化するように重合されて得られる。このような重合方法としては、特に制限はないが、例えば、上記スチレン系単量体と共役ジエン単量体とを、供給割合を変化させながら連続的に反応系中に供給して重合させる重合方法が挙げられる。
【0040】
上記スチレン系単量体と共役ジエン単量体との共重合反応としては、リビングアニオン重合法が好ましい。リビングアニオン重合法としては、公知の方法を用いることができる。例えば、開始剤として有機リチウム化合物を用いることができる。より具体的には、n−ブチルリチウム、sec−ブチルリチウム、t−ブチルリチウム、エチルリチウム、ベンジルリチウム、1,6−ジリチオヘキサン、スチリルリチウム、ブタジエニリルリチウム等を用いることができる。この中で好ましい開始剤としては、n−ブチルリチウム及びsec−ブチルリチウムが挙げられる。
【0041】
上記リビングアニオン重合法においては、開始剤とともに開始剤助剤を用いることが有効である。ここで開始剤助剤とは、重合開始時や反応中にカウンターカチオン(例えばリチウムイオン)に配位することで、開始反応の速度や、共重合反応時の反応速度の異なる単量体のランダム性を向上させる添加剤である。開始剤助剤としては、例えば、N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン、テトラヒドロフラン、チタニウムテトライソプロポキシド、シクロヘキサンジメチルアセタール等が用いられる。この中で好ましくはN,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン(以下、TMEDAと称す)である。
【0042】
上記スチレン系単量体と共役ジエン単量体との共重合体は、例えば、バッチ重合法、セミバッチ重合法など、アニオン重合の開始剤に対して単量体あるいは単量体の混合物を逐次添加することによっても製造することができる。
【0043】
上記重合法における溶媒としては、ヘテロ原子を含有しない炭化水素系化合物が好ましい。具体的には、n−ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素化合物、ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、キシレン等の芳香族炭化水素化合物が挙げられる。これらの中で、シクロヘキサンが特に好ましい。これらの炭化水素化合物のうち、一種類を単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0044】
上記重合法における重合温度は、40℃〜110℃であると好ましく、50℃〜100℃であるとより好ましく、55℃〜95℃であると更に好ましい。重合温度が40℃より低いと反応速度が低下し工業的生産の実用性がない。また、重合温度が110℃より高いと、重合体の黄色化が激しくなり、耐候性の低下、更には溶融時の重合体の熱安定性も低下する。
【0045】
上記重合法における重合反応の停止は、停止剤として水、アルコール、フェノール、カルボン酸等の酸素−水素結合を有する化合物を添加することで行うことができる。停止剤としては、エポキシ化合物、エステル化合物、ケトン化合物、カルボン酸無水物及び炭素−ハロゲン結合を有する化合物等も同様な効果を期待できる。これらの添加物の使用量は成長種の当量から10倍当量程度が好ましい。ここで成長種とは、末端に開始剤に対応する活性種(アニオン重合においては、反応性の炭素アニオン)を有する重合体を示し、通常その当量は上記開始剤の当量とほぼ同量であると考えられる。
【0046】
上記成長種を利用して多官能化合物でカップリング反応させ、ポリマー分子量を増大、さらにはポリマー鎖を分岐構造化させることもできる。このようなカップリング反応に用いる多官能化合物は公知のものから選ぶことができる。多官能化合物としては、例えば、ポリハロゲン化合物、ポリエポキシ化合物、モノ又はポリカルボン酸エステル、ポリケトン化合物、モノ又はポリカルボン酸無水物等を挙げることができる。具体的には、例えば、シリコンテトラクロライド、ジ(トリクロルシリル)エタン、1,3,5−トリブロモベンゼン、エポキシ化大豆油、テトラグリシジル1,3−ビスアミノメチルシクロヘキサン、シュウ酸ジメチル、トリメリット酸トリ−2−エチルヘキシル、ピロメリット酸二無水物、ジエチルカーボネート等が挙げられる。
【0047】
上記水素添加スチレン系重合体は、例えば、上記共重合体を公知の水素添加反応法によって水素添加して製造することができる。水素添加反応は、上記重合反応終了後の共重合体を単離してから行ってもよいが、重合反応終了後の溶液状態のまま行うことが可能であり、経済的な面からも好ましい。
【0048】
上記水素添加反応において用いられる水素添加反応触媒としては、特に限定されず、共重合体中に存在する不飽和部分を水素添加することが可能な触媒を使用することができる。例えば、上記水素添加反応触媒としては、ニッケル、パラジウム、白金、コバルト、ルテニウム、ロジウム等の貴金属、その酸化物、その塩、又は、その錯体等の化合物を、カーボン、アルミナ、シリカ、シリカ・アルミナ又は珪藻土等の多孔性担体に担持した固体触媒が挙げられる。これらのなかでもニッケル、パラジウム又は白金を、アルミナ、シリカ、シリカ・アルミナ又は珪藻土に担持したものが、反応性が高く好ましく用いられる。
【0049】
上記水素添加反応において、反応温度は、30〜250℃であると好ましく、50〜200℃であるとより好ましく、100〜180℃のであると特に好ましい。上記水素添加反応において、水素圧力は限定しないが、圧力が増加すると水素添加反応速度が増加する傾向にあり、一般的には3〜20MPaが推奨される。
【0050】
上記水素添加反応に用いられる溶媒としては、上記水素添加反応触媒の触媒毒とならない溶媒を選ぶことが好ましい。具体的には、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素化合物が挙げられる。また、ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、キシレン等の芳香族炭化水素化合物を使用することも可能である。芳香族炭化水素化合物溶媒を使用することによって、共重合体の溶解性が向上し、定量水素添加反応がより促進される傾向がある。これらの化合物は、1種類又は2種類以上用いてもよい。特に好ましい化合物はシクロヘキサン、メチルシクロヘキサンである。
【0051】
上記水素添加スチレン系重合体は、上記水素添加反応による水素添加率が90%以上であると好ましく、95%以上であるとより好ましく、98%以上であると更に好ましい。水素添加率が90%より小さいと、透明性及び耐熱性の低下等の問題が生じる。また、90%以上であれば光学特性を制御するために芳香環の不飽和部分が水素添加されずに残っていてもよい。
【0052】
上記水素添加反応終了後、遠心分離、濾過等の公知の方法により触媒の除去を行うことができる。光学用途等に使用される場合は、水素添加スチレン系重合体中の残量触媒金属成分は出来る限り少なくすることが好ましく、10ppm以下であることが望ましい。溶媒はポリマーから揮発等の方法で除去し、除去した溶媒は回収して再生使用することができる。上記溶媒の除去には公知の方法が利用できる。揮発除去装置としては、例えば真空タンクにフラッシュさせる方法及び/又は押出機やニーダ−を用いて真空下加熱蒸発させる方法等が好ましく利用できる。溶媒の揮発性にもよるが、一般には温度を180〜300℃、真空度10〜200Torrにて溶媒や残存モノマー等の揮発性成分を揮発除去させる。
【0053】
上記水素添加スチレン系重合体においては、本発明の目的を損なわない範囲で、種々の樹脂添加物を添加することができる。例えば、無機あるいは有機フィラー、顔料、染料、安定剤、紫外線吸収剤、可塑剤、難燃剤、滑剤等を添加して、これら樹脂添加剤が奏する作用効果を達成することができる。これらの樹脂添加剤は、重合が完結した後のポリマー溶液の中に添加して混合してもよいし、ポリマー回収後、押出機を使って溶融混合することもできる。
【0054】
上記安定剤としては、ヒンダードフェノール系安定剤、イオウ系安定剤、リン系安定剤等が挙げられる。耐熱劣化性の向上の観点からは、ヒンダードフェノール系安定剤とリン系安定剤の併用が特に好ましい。
【0055】
上記ヒンダードフェノール系安定剤としては、例えば、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、トリエチレングリコール−ビス−[3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、ペンタエリスト−ルテトラキス[−(3,5−ジt−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、n−オクタデシル3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドキシフェニル)プロピオネート、2−t−ブチル−6−(3−t−ブチル−2−ヒドロキシ−5−メチルベンジル)−4−メチルフェニルアクリレート、2[1−(2−ヒドロキシ3,5−ジ−t−ペンチルフェニル)]−4,6−ジ−t−ペンチルフェニルアクリレート、テトラキス[メチレン3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、3,9ビス[2−{3−(t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピニルオキシ}−1,1−ジメチルエチル]−2,4,8,10−テトラオキザ[5,5]ウンデカン、1,3,5−トリス(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシベンジル)−s−トリアジン−2,4,6(1H,2H,3H)−トリオン、1,1,4−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−t−ブチルフェニル)ブタン、4,4’−ブチリデンビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)等が挙げられる。
【0056】
上記リン系安定剤としては、例えば、テトラキス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)−4、4’―ビスフェニレンホスフォナイト、ビス(2,6−ジ−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトール−ジ−ホスファイト等が挙げられる。
【0057】
上記水素添加スチレン系重合体は、シリコーン系又はフッ素系の離型剤、帯電防止剤なども公知の技術をそのまま応用することができる。
【0058】
上記水素添加スチレン系重合体は、光学フィルム等の光学製品に成形することができる。光学製品に成形する方法は特に制限されず、例えば、射出成形、シート成形、ブロー成形、インジェクションブロー成形、インフレーション成形、押し出し成形、溶融流延法、発泡成形、キャスト成形等の公知の方法により成形することができ、圧縮成形、真空成形等の二次加工成形法も用いることができる。
【0059】
上記成形時の溶融温度としては、組成物のガラス転移温度をT℃としたとき、(T+80)℃〜(T+250)℃であるのが好ましい。溶融温度が低いと、組成物の溶融粘度が高くなるため良好な転写性を実現できない。溶融温度が高いと溶融時に熱劣化し、分子量の低下、着色などの問題が生じる。溶融温度としてより好ましくは(T+100)℃〜(T+200)℃である。
【0060】
上記水素添加スチレン系重合体は、特に透明性を必要とする光学製品として用いることができる。具体的には、上記水素添加スチレン系重合体から成形される光学製品は、全光線透過率及びリタデーションの観点から、光学特性が優れる。
【0061】
上記光学製品の光学特性の指標としては、上記水素添加スチレン系重合体からなる3mm厚さ成形片のリタデーションの値が、200nm以下であることが好ましく、180nm以下であることがより好ましく、170nm以下であることが更に好ましい。上記水素添加スチレン系重合体のリタデーションの測定は、偏光顕微鏡を用いたセナルモンコンペンセーター法、アッベ屈折計法により測定することができる。なお、上記成形片は、ASTM4号の3mmtのダンベル片である。
【0062】
上記水素添加スチレン系重合体から成形される光学製品としては、例えば、光ディスク、光ピックアップレンズ、携帯電話用レンズ、デジタルスチルカメラ用レンズ、プロジェクタ用レンズ、fθレンズ、内視鏡用球面レンズ、LEDレンズ等の光学レンズ、プリズム、光拡散板、光カード、光ファイバー、光学ミラー、液晶表示素子基板、導光板、拡散板、偏光フィルム、位相差フィルム、輝度向上フィルム、プリズムシートなどが挙げられる。特に光学レンズや光学フィルムとして用いることに適している。
【実施例】
【0063】
以下、実施例、比較例を挙げて本発明の態様を具体的に説明する。しかし、これらは例示であって、本発明の技術的範囲を何ら限定するものではない。
【0064】
実施例、比較例で用いる分析、評価方法、条件、また原料や開始剤、重合停止剤は以下のとおりである。
【0065】
[分析方法]
(1)分子量(Mn、Mw、Mw/Mn)
東ソー社製のHLC−8020にカラム(TSKgel GMHXL、40℃)を2本接続し、RI検出器が取り付けてあるGPC装置で測定した。テトラヒドロフランを移動相に用いた。分子量の計算は、ポリスチレンスタンダード(東ソー社製)を使って検量線を作成し、ポリスチレン換算にて、数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)、分子量の分散度(Mw/Mn)を決定した。
【0066】
(2)ガラス転移温度(Tg)
パーキンエルマー社製のDSC−7を使って、JIS−K−7121に準拠して求めた。具体的には、窒素下、10℃/minで室温から250℃まで昇温し、その後10℃/minで室温まで戻し、再び10℃/minで250℃まで昇温した。2度目の昇温過程で測定されるガラス転移温度をTgとした。
【0067】
(3)共重合体中のスチレン系単量体由来の部分構造と共役ジエン単量体由来の部分構造との組成比
BRUKER社製のNMR(DPX−400)を使って求めた。水素添加反応前の共重合体の1H−NMRを測定し、スチレン系単量体由来の芳香環、共役ジエン単量体由来の二重結合、メチレン、メチンのピーク面積比から計算で求めた。
【0068】
(4)水素添加率
BRUKER社製のNMR(DPX−400)を使って求めた。水素添加スチレン系重合体を重クロロホルムに溶解して、1H−NMRを測定し、スチレン系単量体由来の芳香環、共役ジエン単量体由来の二重結合、メチル、メチレン、メチンのピーク面積比から計算することで求めた。
【0069】
(5)全光線透過率
スガ試験機社製の積分球式測定装置を使って、JIS−K−7361−1に準拠して求めた。
【0070】
(6)リタデーション
LEITZ社製偏光顕微鏡DMRP、及び傾斜コンペンセイターKを用いて測定した波長546nmにおける位相差から求めた。
ASTM4号の3mmtのダンベル片を測定サンプルとし、ゲート、中央、エンド部を測定し、最も高い値をリタデーションの値とした。
【0071】
(7)引張り破断伸び率
島津社製のAUTOGRAPH(AG−5000D)を使って、ASTM−D638に準拠して求めた。
【0072】
(8)アイゾット(Izod)衝撃強度
東洋精機社製のアイゾット衝撃試験機を使って、ASTM−D256に準拠してノッチ付き試験片を用いて求めた。
【0073】
(9)動的粘弾力性スペクトルの測定
レオメトリック社製RSAIIを用いて、1分間に5℃の割合で−120℃から160℃まで温度を上昇させ、サンプルの貯蔵弾性率E’、損失弾性率E’’、tanδを測定した。厚さ約200ミクロンのシートを用いて、チャック間距離20〜30nm、サンプル幅2〜4nm、測定周波数1Hz、歪量は0.05%の条件で、引張りモードで測定した。
【0074】
[押出方法]
15mm径の2軸押出機(テクノベル社製)を使って、重合体ペレットを作製した。シリンダー温度は250℃(ホッパー下180℃)、スクリュー回転数200rpm、吐出量1.9kg/Hrで行った。
【0075】
[射出成形方法]
FUNAC社製の射出成形機(AUTO SHOT 15A)を使って次なる条件で成形した。シリンダー温度は、ホッパー側から230℃、240℃、250℃、250℃に設定した。金型温度は、80℃、射出時間を10秒、冷却時間を20秒に設定した。溶融樹脂は、樹脂が金型に丁度充填する射出圧力に更に5MPa高い圧力を加えて充填した。
ASTM4号の3mm厚さのダンベル片と短冊片をそれぞれ成形し、測定サンプルとして用いた。
【0076】
(原料)
スチレン系単量体としては、スチレン(St)を貯蔵タンクに溜め窒素バブリングした後に、活性アルミナを充填した1L容積の精製塔内を通過させて重合禁止剤であるt−ブチルカテコールを除去し、使用した。また、共役ジエン単量体としては、1,3−ブタジエン又はイソプレンを使用した。具体的には、1,3−ブタジエン、イソプレンはシクロヘキサンで希釈し、20重量%溶液を調製して使用した。
【0077】
(開始剤)
開始剤としては、n−ブチルリチウム(1.6モル%のn−ヘキサン溶液)を10倍にシクロヘキサンで希釈し0.16モル%溶液を調製し、使用した。
【0078】
(開始剤助剤)
開始剤助剤としては、N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミンをシクロヘキサンで希釈し、1重量%溶液を調製し、使用した。
【0079】
(停止剤)
停止剤としては、2−プロパノールをシクロヘキサンで希釈し10重量%溶液を調製し、使用した。
【0080】
[実施例1]
〈スチレン系単量体と共役ジエン単量体からなる共重合体の溶液の製造〉
重合反応器は、攪拌翼が取り付けられ、更に原料導入ノズル、開始剤導入ノズルが付いたジャケット付20Lの反応器を用いた。上記重合反応器にシクロヘキサン、開始剤および開始剤助剤を導入した後、反応器の内温が70℃になるまで昇温した。そこに、スチレン系単量体と共役ジエン単量体を逐次的に導入した。溶媒、開始剤及び開始剤助剤の種類と量を表1に示す。また、単量体の種類、導入の方法及び反応時間を表2に示した。所定の反応時間終了後、失活剤のイソプロパノールのシクロヘキサン溶液を開始剤に対して過剰量を加えて反応を停止した。反応溶液の一部を採取し、大量のメタノール中に加えることにより共重合体を析出させた。溶液部分をGC測定することにより転化率を求め、また、真空乾燥することにより得られた共重合体のNMR測定、DSC測定とGPC測定を行い、共重合体の組成比、分子量とガラス転移温度を決定した。転化率は表2に示し、共重合体の組成比、分子量、及びガラス転移温度は表3に示した。
【0081】
〈水素添加スチレン系重合体の製造〉
水素添加反応は30L容積の攪拌機付きの高温高圧仕様であるオートクレーブを用いて実施した。共重合を実施して得られた共重合体の20%シクロヘキサン溶液8kgとラネーNi触媒1.5kgとを、十分に窒素置換したオートクレーブに加え、反応温度150〜160℃、水素圧力10MPaで10時間水素添加反応を行った。反応後のポリマー溶液は、孔径1μmのメンブレンフィルターを用いて加圧濾過した後、大量のメタノールによりポリマー溶液処理、ペレタイズ化を行うことで、無色透明の水素添加ポリスチレン系重合体を得た。水素添加率は、99.9%であった。
【0082】
得られた水素添加スチレン系重合体を射出成形してダンベル片、短冊片を採取した。ガラス転移温度(Tg)、全光線透過率、リタデーション、引張り破断伸び率、Izod衝撃強度を調べた。また、金型温度80℃で射出成形を実施したところ、成形歪なく固化し成形性は良好であった。結果を表4に示す。高いガラス転移温度、高い全光線透過率を示し、特にリタデーションが低い値となることが分かった。動的粘弾性スペクトルの測定を行ったところ、低温側にtanδのピークは明確には観察されなかった。動的粘弾性スペクトルの測定結果を図1に示す。
【0083】
[実施例2]
〈スチレン系単量体と共役ジエン単量体からなる共重合体の溶液の製造〉
単量体の導入の方法を変えた以外は、実施例1と同様に重合反応を実施した。単量体の種類と導入の方法、反応時間、転化率を表5に示す。共重合体の組成比、分子量(分布)およびガラス転移温度は表3に示す。
【0084】
〈水素添加スチレン系重合体の製造〉
実施例1と同様に水素添加反応を実施した。水素添加率は、99.8%であった。また、実施例1と同様に重合体の評価を行い、結果を表4に示す。
【0085】
[実施例3]
〈スチレン系単量体と共役ジエン単量体からなる共重合体の溶液の製造〉
単量体の導入の方法を変えた以外は、実施例1と同様に重合反応を実施した。単量体の種類と導入の方法、反応時間、転化率を表6に示す。共重合体の組成比、分子量(分布)及びガラス転移温度は表3に示す。
【0086】
〈水素添加スチレン系重合体の製造〉
実施例1と同様に水素添加反応を実施した。水素添加率は、99.9%であった。また、実施例1と同様に重合体の評価を行い、結果を表4に示す。
【0087】
[比較例1]
〈スチレン系単量体と共役ジエン単量体からなる共重合体の溶液の製造〉
単量体の導入の方法を変えた以外は、実施例1と同様に重合反応を実施した。単量体の種類と導入の方法、反応時間、転化率を表7に示す。共重合体の組成比、分子量(分布)およびガラス転移温度は表3に示す。この共重合体はランダム共重合体である。
【0088】
〈水素添加スチレン系重合体の製造〉
実施例1と同様に水素添加反応を実施した。水素添加率は、99.9%であった。また、実施例1と同様に重合体の評価を行い、結果を表4に示す。
【0089】
[比較例2]
〈スチレン系単量体と共役ジエン単量体からなる共重合体の溶液の製造〉
単量体の導入の方法を変えた以外は、実施例1と同様に重合反応を実施した。単量体の種類と導入の方法、反応時間、転化率を表8に示す。共重合体の組成比、分子量(分布)およびガラス転移温度は表3に示す。この共重合体はブロック共重合体である。
【0090】
〈水素添加スチレン系重合体の製造〉
実施例1と同様に水素添加反応を実施した。水素添加率は、99.7%であった。また、実施例1と同様に重合体の評価を行い、結果を表4に示す。
【0091】
[比較例3]
〈スチレン系単量体と共役ジエン単量体からなる共重合体の溶液の製造〉
単量体の導入の方法を変えた以外は、実施例1と同様に重合反応を実施した。単量体の種類と導入の方法、反応時間、転化率を表9に示す。共重合体の組成比、分子量(分布)およびガラス転移温度は表3に示した。この共重合体はランダムブロック共重合体である。
【0092】
〈水素添加スチレン系重合体の製造〉
実施例1と同様に水素添加反応を実施した。水素添加率は、99.9%であった。また、実施例1と同様に重合体の評価を行い、結果を表4に示す。動的粘弾性スペクトルの測定を行ったところ、低温側にtanδのピークが観察された。動的粘弾性スペクトルの測定結果を図2に示す。
【0093】
【表1】
【0094】
【表2】
【0095】
【表3】
【0096】
【表4】
【0097】
【表5】
【0098】
【表6】
【0099】
【表7】
【0100】
【表8】
【0101】
【表9】
【産業上の利用可能性】
【0102】
本発明の傾斜構造を有する水素添加スチレン系重合体は、従来のスチレン系重合体と比較して、機械的物性、耐熱性を保持しつつ、優れた光学特性を有し、また高温の金型温度でも容易に固化することから、特に、光学用レンズや光ディスク基盤等の射出成形体、導光板、拡散板等の光学シート、偏光板保護フィルム等の光学フィルム類に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0103】
【図1】実施例1で製造した重合体の動的粘弾性スペクトルを示す図である。
【図2】比較例3で製造した重合体の動的粘弾性スペクトルを示す図である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スチレン系単量体と共役ジエン単量体の共重合体の、前記スチレン系単量体由来の芳香族環と前記共役ジエン単量体由来の二重結合の少なくとも一部を水素添加させて得られる、水素添加スチレン系重合体であって、
前記共重合体は、前記スチレン系単量体と前記共役ジエン単量体の双方を、一方の単量体比が徐々に大きくなるように変化させながら重合させた、傾斜構造を有するポリマー鎖を備える共重合体である、水素添加スチレン系重合体。
【請求項2】
前記共重合体は、スチレン系単量体の重量(Ws)と共役ジエン単量体の重量(Wd)の比が、Ws/Wd=70/30〜98/2の共重合体である、請求項1記載の水素添加スチレン系重合体。
【請求項3】
水素添加率が95%以上である、請求項1又は2に記載の水素添加スチレン系重合体。
【請求項4】
スチレン系単量体と共役ジエン単量体の双方を、一方の単量体比が徐々に大きくなるように変化させながら重合させて、傾斜構造を有するポリマー鎖を備える共重合体を得るステップと、
前記共重合体を水素添加するステップと、を含む、請求項1〜3のいずれか一項に記載された水素添加スチレン系重合体を製造する製造方法。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか一項に記載された水素添加スチレン系重合体からなる光学製品。
【請求項1】
スチレン系単量体と共役ジエン単量体の共重合体の、前記スチレン系単量体由来の芳香族環と前記共役ジエン単量体由来の二重結合の少なくとも一部を水素添加させて得られる、水素添加スチレン系重合体であって、
前記共重合体は、前記スチレン系単量体と前記共役ジエン単量体の双方を、一方の単量体比が徐々に大きくなるように変化させながら重合させた、傾斜構造を有するポリマー鎖を備える共重合体である、水素添加スチレン系重合体。
【請求項2】
前記共重合体は、スチレン系単量体の重量(Ws)と共役ジエン単量体の重量(Wd)の比が、Ws/Wd=70/30〜98/2の共重合体である、請求項1記載の水素添加スチレン系重合体。
【請求項3】
水素添加率が95%以上である、請求項1又は2に記載の水素添加スチレン系重合体。
【請求項4】
スチレン系単量体と共役ジエン単量体の双方を、一方の単量体比が徐々に大きくなるように変化させながら重合させて、傾斜構造を有するポリマー鎖を備える共重合体を得るステップと、
前記共重合体を水素添加するステップと、を含む、請求項1〜3のいずれか一項に記載された水素添加スチレン系重合体を製造する製造方法。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか一項に記載された水素添加スチレン系重合体からなる光学製品。
【図1】
【図2】
【図2】
【公開番号】特開2010−47738(P2010−47738A)
【公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−215866(P2008−215866)
【出願日】平成20年8月25日(2008.8.25)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年8月25日(2008.8.25)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】
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