説明

水素炎イオン化検出器及びその検出器を用いたガスクロマトグラフ

【課題】水素炎による試料のイオン化効率を上げて検出感度を向上させる。
【解決手段】水素炎イオン化検出器FIDは、先端部において水素を燃焼させるためのノズル2を備えている。ノズル2の先端部で水素が点火されて水素炎が形成され、流路4から送られてきた試料が水素炎によって燃焼されてイオン化される。ノズル2の上方に水素炎を囲むようにしてイオンコレクタ10が配置されている。イオンコレクタ10の外側でイオンコレクタ10を囲むように、水素炎に向かって磁場強度が強くなる不均一磁場を発生させるコイル14が配置されている。コイル14により発生した磁場の影響によって酸素は水素炎に集まり、水素炎のエネルギー密度が上昇する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料を水素炎によりイオン化し、そのイオン生成量に応じた電流を検出する水素炎イオン化検出器、及びその水素炎イオン化検出器を用いたガスクロマトグラフに関するものである。
【背景技術】
【0002】
図4に従来の水素炎イオン化検出器(以下、FID:Flame Ionization Detectorという。)を示す。
このFIDの測定対象となる試料は有機物である。FIDは、先端部において水素を燃焼させるためのノズル2を備えている。ノズル2は試料がノズル2の先端まで移送されるための試料移送用流路4と、試料移送用流路4に燃料ガスである水素を供給するための水素供給用流路6が設けられている。また、空気を助燃ガスとして供給するための助燃ガス供給口8が設けられており、ノズル2の先端部に水素を燃焼させるための助燃ガスが供給される。ノズル2の先端部で水素が点火されて水素炎が形成され、流路4から送られてきた試料が水素炎によって燃焼されてイオン化され、CHO+やC33+などのイオンが生成される。
【0003】
ノズル2の上方に水素炎を囲むようにしてイオンコレクタ10が配置されている。イオンコレクタ10は円筒形の電極であり、ノズル2との間に高圧の電圧が印加されている。
【0004】
水素炎により試料が燃焼してイオンが生成されると、ノズル2とイオンコレクタ10の間にイオンの生成量に比例した電流が流れる。その電流を増幅器12で増幅して検出することにより、試料に含まれる炭素数に比例した応答を得ることができる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】N.I.Wakayama, J.Appl.Phys,Vol.69(1991),P.2734
【非特許文献2】N.I.Wakayama, Chemical Physics Letters,Vol.185,No5,6(1991),P.44.9
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のFIDでは、検出感度は水素炎による試料のイオン化効率によって決定され、イオン化効率が低いとイオンコレクタ10を流れる電流が小さくなり、検出感度が低くなる。そこで本発明は、水素炎による試料のイオン化効率を上げて検出感度を向上させることを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の水素炎イオン化検出器(FID)は、測定対象試料を導入する試料導入部を備え、試料導入部より導入された測定対象試料を水素炎を用いてイオン化する試料イオン化部と、試料イオン化部の上方に配置され、試料イオン化部で生成されたイオンにより発生する電流を検出する検出部と、水素炎に対して強度が強くなるように不均一磁場を発生させる磁場発生機構と、を備えていることを特徴とするものである。
気体分子に対して不均一磁場を作用させると、酸素分子は磁場が強くなる方向に移動し、窒素分子は逆に磁場が弱くなる方向に移動することが知られている(非特許文献1,2参照。)。本発明はこの現象を利用したものである。炎に向かって磁場強度が強くなる不均一磁場を作用させると、酸素は炎に向かって移動し窒素は炎から遠ざかる方向に移動するため、炎内に酸素がより多く供給されるとともに、水素炎の体積が小さくなってエネルギー密度が上がり、水素炎の温度が上昇する。その結果、試料のイオン化効率が向上する。
【0008】
本発明のFIDで用いる磁場発生機構として、電磁石や永久磁石を用いることができる。
【0009】
本発明のガスクロマトグラフは、分析流路中にキャリアガスを供給するためのキャリアガス供給部と、分析流路中に測定対象試料を導入するための試料導入部と、試料導入部で導入された試料を成分ごとに分離するための分離カラムと、分離カラムで分離された試料をイオン化し、生成されたイオンによって発生する電流を検出するFIDと、を備えたものであって、そのFIDとして本発明のFIDが用いられているものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明のFIDは、水素炎に向かって磁場強度が強くなる不均一磁場を発生させる磁場発生機構を備えているので、水素炎のエネルギー密度が上がって水素炎温度が上昇し、水素炎による試料のイオン化効率が向上する。これにより、FIDの検出感度を向上させることができる。
【0011】
本発明のガスクロマトグラフはFIDとして本発明のFIDを備えているので、カラムにより分離した試料成分の検出感度が向上し、従来のものよりも分析精度が高くなる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】一実施例の水素炎イオン化検出器を示す断面図である。
【図2】他の実施例の水素炎イオン化検出器を示す断面図である。
【図3】一実施例のガスクロマトグラフを示す図である。
【図4】従来の水素炎イオン化検出器を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1は一実施例のFIDの構造を示す断面図である。
このFIDの測定対象となる試料は有機物である。FIDは、先端部において水素を燃焼させるためのノズル2を備えている。ノズル2には、試料がノズル2の先端まで移送される試料移送用流路4と、試料移送用流路4に燃料ガスである水素を供給する水素供給用流路6が設けられている。また、助燃ガスとして空気を供給するための助燃ガス供給口8が設けられており、ノズル2の先端部に水素を燃焼させるための助燃ガスが供給される。ノズル2の先端部で水素が点火されて水素炎が形成され、流路4から送られてきた試料が水素炎によって燃焼されてイオン化され、CHO+やC33+などのイオンが生成される。
【0014】
ノズル2の上方に水素炎を囲むようにしてイオンコレクタ10が配置されている。イオンコレクタ10は円筒状の電極であり、ノズル2との間に高圧の電圧が印加されている。イオンコレクタ10は、例えばステンレスにより構成されている。
【0015】
イオンコレクタ10の外側にはイオンコレクタ10を囲むように、水素炎に対して磁場を発生させる磁場発生機構として電磁石を構成するコイル14が配置されている。コイル14により発生する磁束はイオンコレクタ10をヨークとして水素炎の部分が最も磁場が大きくなる不均一磁場を発生させる。
コイル14により発生した磁場の影響によって酸素は水素炎に集まるため、水素炎が小さくなって水素炎の温度が上昇する。
【0016】
水素炎により試料が燃焼してイオンが生成されると、イオンコレクタ10にイオンの生成量に比例した電流が流れる。その電流値を増幅回路12により増幅して検出することにより、試料に含まれる炭素数に比例した応答を得ることができる。
この実施例のFIDでは、水素炎に対して磁場を発生させるようにコイル14が配置されているので、水素炎温度が上昇し、水素炎による試料のイオン化効率が高くなっている。これにより、イオンコレクタ10で捕獲されるイオン量が増加し、イオンコレクタ10を流れる電流量も増加するので、検出器としての感度が向上する。
【0017】
次に、図2を参照して他の実施例のFIDを説明する。
この実施例のFIDでは、イオンコレクタ10を挟むようにして、鉄心(ポールピース)にコイルが巻きつけられて構成された一対の電磁石15a,15bが磁場発生機構として配置されている。この電磁石15a,15bは、水素炎部分が最も磁場強度が強くなる磁場を発生するように配置されている。これにより、酸素が水素炎に効率よく取り込まれて水素炎温度が上昇し、水素炎による試料のイオン化効率が向上する。
【0018】
なお、これらの実施例では磁場発生機構として電磁石を用いているが、本発明はこれに限定されるものではなく、電磁石に代えて永久磁石を用いてもよい。
また、この実施例では、水素炎に対して垂直に磁場を発生するように磁場発生機構を配置しているが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば水素炎に対して水平に磁場を発生するように磁場発生機構を配置してもよい。
【0019】
次に、図3を用いて一実施例のガスクロマトグラフを説明する。
ガスクロマトグラフは、試料注入部16から注入された試料がキャリアガスによってカラム18に移送される。試料はカラム18で成分ごとに分離され、検出器20で検出される。検出器20としては、図1に示されているような、水素炎に対して磁場を発生させる磁場発生機構を備えた水素炎イオン化検出器が用いられている。
検出器20に導入された試料は水素炎によってイオン化され、コレクタ10に捕獲されることで、コレクタ10を構成する電極間に電流が流れる。その電流値は増幅器12によって増幅されて出力される。検出器20では、試料の炭素数に比例した電流値が検出される。
【0020】
検出器20として、水素炎に対して磁場を発生させる磁場発生機構を備えているものが用いられているので、検出器20は、水素炎の形状が従来のものよりも小さく、エネルギー密度及び水素炎温度が高く、試料のイオン化効率が高くなっている。これにより、検出器20の検出感度が従来のFIDよりも向上しているので、ガスクロマトグラフの測定精度も向上している。
【符号の説明】
【0021】
2 ノズル
4 試料移送用流路
6 燃料ガス供給用流路
8 助燃ガス供給口
10 イオンコレクタ
12 増幅器
14 コイル
15a,15b 電磁石
16 試料注入部
18 カラム
20 検出器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象試料を導入する試料導入部を備え、試料導入部より導入された測定対象試料を水素炎を用いてイオン化する試料イオン化部と、
試料イオン化部の上方に配置され、試料イオン化部で生成されたイオンにより発生する電流を検出する検出部と、
前記水素炎に対して磁場強度が水素炎に向かって強くなる不均一磁場を発生させる磁場発生機構と、を備えていることを特徴とする水素炎イオン化検出器。
【請求項2】
前記磁場発生機構は電磁石である請求項1に記載の水素炎イオン化検出器。
【請求項3】
前記磁場発生機構は永久磁石である請求項1に記載の水素炎イオン化検出器。
【請求項4】
分析流路中にキャリアガスを供給するためのキャリアガス供給部と、前記分析流路中に測定対象試料を導入するための試料導入部と、前記試料導入部で導入された試料を成分ごとに分離するための分離カラムと、前記分離カラムで分離された試料成分をイオン化し、生成したイオンによって発生する電流を検出する水素炎イオン化検出器と、を備えたガスクロマトグラフにおいて、
前記検出器として請求項1に記載の水素炎イオン化検出器が用いられていることを特徴とするガスクロマトグラフ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−2420(P2010−2420A)
【公開日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−166367(P2009−166367)
【出願日】平成21年7月15日(2009.7.15)
【基礎とした実用新案登録】実用新案登録第3127584号
【原出願日】平成18年9月26日(2006.9.26)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】