説明

水素生成用炭素触媒及びその製造方法並びにこれを用いて水素を生成する方法

【課題】優れた触媒活性を示す水素生成用炭素触媒及びその製造方法並びにこれを用いて水素を生成する方法を提供する
【解決手段】本発明に係る水素生成用炭素触媒は、有機物と遷移金属とを含む原料の炭素化により得られる炭素触媒であって、炭化水素化合物及び/又は含酸素有機化合物の熱分解による水素生成に使用される。また、前記水素生成用炭素触媒は、前記炭素化により生成された炭素化材料にアルカリ土類金属を担持して得られることとしてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素生成用炭素触媒及びその製造方法並びにこれを用いて水素を生成する方法に関し、特に、優れた触媒活性を示す水素生成用炭素触媒の提供に関する。
【背景技術】
【0002】
水素は、その燃焼によってエネルギーを取り出す際に水しか排出しないため、環境負荷の少ないエネルギー源として注目されている。そこで、近年、メタンを原料として水素を製造する方法が注目されている。メタンは、化石燃料に頼らない次世代エネルギーであるバイオマスガスから得ることができる。
【0003】
メタンの分解には非常に多くのエネルギーが必要であることから、メタンの熱分解反応にはニッケルや鉄等の金属触媒が主に用いられている。しかしながら、金属触媒を使用したメタンの熱分解反応においては、水素の発生とともに、当該金属触媒上への炭素の析出が起こり、その結果、当該金属触媒の失活が引き起こされる。
【0004】
そこで、従来、炭素触媒を使用して水素を製造することが提案されている(例えば、特許文献1、特許文献2及び非特許文献1)。炭素触媒は、それ自身が炭素材料であるため、メタンの分解に伴う炭素析出が起こっても失活しにくい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8−165101号公報
【特許文献2】特開2003−146606号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】N. Muradov et al. Catalysis Today, 102-103, (2005), 225-233
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来の炭素触媒の活性は十分なものではなかった。また、従来の炭素触媒の活性を安定して維持することは困難であった。
【0008】
本発明は、上記課題に鑑みて為されたものであり、優れた触媒活性を示す水素生成用炭素触媒及びその製造方法並びにこれを用いて水素を生成する方法を提供することをその目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するための本発明の一実施形態に係る水素生成用炭素触媒は、有機物と遷移金属とを含む原料の炭素化により得られる炭素触媒であって、炭化水素化合物及び/又は含酸素有機化合物の熱分解による水素生成に使用されることを特徴とする。本発明によれば、優れた触媒活性を示す水素生成用炭素触媒を提供することができる。
【0010】
また、前記水素生成用炭素触媒は、前記炭素化により生成された炭素化材料にアルカリ土類金属を担持して得られることとしてもよい。また、前記水素生成用炭素触媒は、所定重量の前記水素生成用炭素触媒を充填した反応管を用いた水素−重水素交換反応において、水素ガスと重水素ガスとアルゴンガスとの混合ガス(水素流量=10mL/分、重水素流量=10mL/分、アルゴン流量=30mL/分)下で前記反応管を10℃/分の昇温速度で40℃から600℃まで加熱した際の前記水素ガスの総減少量を前記所定重量で除して算出される水素解離活性が10mmol/g以上であることとしてもよい。
【0011】
上記課題を解決するための本発明の一実施形態に係る水素生成用触媒の製造方法は、有機物と遷移金属とを含む原料を炭素化し、前記炭素化により生成された炭素化材料にアルカリ土類金属を担持することを特徴とする。本発明によれば、優れた触媒活性を示す水素生成用炭素触媒の製造方法を提供することができる。
【0012】
上記課題を解決するための本発明の一実施形態に係る方法は、前記いずれかの水素生成用炭素触媒を使用して、炭化水素化合物及び/又は含酸素有機化合物を熱分解して水素を生成することを特徴とする。本発明によれば、優れた触媒活性を示す水素生成用炭素触媒を用いて効率的に水素を生成する方法を提供することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、優れた触媒活性を示す水素生成用炭素触媒及びその製造方法並びにこれを用いて水素を生成する方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施形態に係る実施例において炭素触媒の水素生成速度を評価した結果の一例を示す説明図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る実施例において炭素触媒の水素生成量及び触媒活性低下率を評価した結果の一例を示す説明図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る実施例において炭素触媒の水素解離活性を評価した結果の一例を示す説明図である。
【図4】本発明の一実施形態に係る実施例において炭素触媒の水素生成速度を評価した結果の他の例を示す説明図である。
【図5】本発明の一実施形態に係る実施例において炭素触媒の水素生成速度をアルカリ土類金属の担持前後で比較した結果の一例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明の一実施形態について説明する。なお、本発明は本実施形態で示す例に限られない。
【0016】
本実施形態に係る水素生成用炭素触媒(以下、「本触媒」という。)は、有機物と遷移金属とを含む原料の炭素化により得られる炭素触媒であって、炭化水素化合物及び/又は含酸素有機化合物の熱分解による水素生成に使用される炭素触媒である。
【0017】
本触媒の原料に使用される有機物は、炭素化できるものであれば特に限られず、任意の1種以上を使用することができる。有機物としては、例えば、窒素原子を含む有機物を好ましく使用することができる。含窒素有機物としては、例えば、窒素原子を含む有機化合物を使用することができる。含窒素有機化合物は、その分子内に窒素原子を含むものであれば特に限られず、例えば、高分子量の有機化合物(例えば、熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂等の樹脂)及び低分子量の有機化合物の一方又は両方を使用することができる。また、バイオマスを使用することもできる。
【0018】
有機化合物としては、例えば、金属に配位可能な配位子を好ましく使用することができる。すなわち、この場合、その分子内に1又は複数個の配位原子を含む有機化合物を使用する。より具体的に、例えば、配位原子として、その分子内に窒素原子、リン原子、酸素原子、硫黄原子からなる群より選択される1種以上を含む有機化合物を使用することができる。また、例えば、配位基として、その分子内にアミノ基、フォスフィノ基、カルボキシル基、チオール基からなる群より選択される1種以上を含む有機化合物を使用することもできる。有機物は、例えば、本触媒の活性を向上させる成分として、ホウ素原子、リン原子、酸素原子及び硫黄原子からなる群より選択される1種以上を含むこともできる。
【0019】
有機物としては、具体的に、例えば、フェノール樹脂、ポリフルフリルアルコール、フラン、フラン樹脂、フェノールホルムアルデヒド樹脂、メラミン、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、キレート樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ピロール、ポリピロール、ポリビニルピロール、3−メチルポリピロール、アクリロニトリル、ポリアクリロニトリル、ポリアクリロニトリル−ポリメタクリル酸共重合体、ポリ塩化ビニリデン、チオフェン、オキサゾール、チアゾール、ピラゾール、ビニルピリジン、ポリビニルピリジン、ピリダジン、ピリミジン、ピペラジン、ピラン、モルホリン、イミダゾール、1−メチルイミダゾール、2−メチルイミダゾ−ル、キノキサリン、アニリン、ポリアニリン、コハク酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、ポリスルフォン、ポリアミノビスマレイミド、ポリイミド、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、ベンゾイミダゾ−ル、ポリベンゾイミダゾ−ル、ポリアミド、ポリエステル、ポリ乳酸、ポリエ−テル、ポリエ−テルエ−テルケトン、セルロ−ス、カルボキシメチルセルロース、リグニン、キチン、キトサン、ピッチ、褐炭、絹、毛、ポリアミノ酸、核酸、DNA、RNA、ヒドラジン、ヒドラジド、尿素、サレン、ポリカルバゾール、ポリビスマレイミド、トリアジン、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸エステル、ポリメタクリル酸エステル、ポリメタクリル酸、ポリウレタン、ポリアミドアミン及びポリカルボジイミドからなる群より選択される1種以上を使用することができる。
【0020】
遷移金属としては、本触媒の活性を阻害しないものであれば特に限られず、遷移金属(周期表の3族から12族)のうち任意の1種以上を使用することができ、周期表の3族から12族の第4周期に属する遷移金属を好ましくは使用することができる。
【0021】
具体的に、例えば、スカンジウム(Sc)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、イットリウム(Y)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、ランタノイド系列の元素(セリウム(Ce)等)、及びアクチノイド系列の元素からなる群より選択される1種以上を好ましく使用することができる。
【0022】
遷移金属は、当該遷移金属の単体又は当該金属の化合物として使用することができる。金属化合物としては、例えば、金属塩、金属酸化物、金属水酸化物、金属窒化物、金属硫化物、金属炭化物、金属錯体を使用することができ、金属塩、金属酸化物、金属硫化物、金属錯体を好ましく使用することができる。なお、上述の有機化合物として配位子を使用する場合には、原料中において金属錯体が形成されることとなる。
【0023】
原料に対する遷移金属の合計量は、本触媒が所望の特性を備える範囲であれば特に限られず、例えば、0.1〜50質量%とすることができ、0.5〜30質量%とすることができ、1〜20質量%とすることもできる。
【0024】
原料は、さらに他の成分を含むこととしてもよい。すなわち、原料は、例えば、炭素材料を含むこととしてもよい。炭素材料としては、特に限られず、任意の1種以上を使用することができる。すなわち、炭素材料としては、例えば、それ自身では触媒活性を有しない炭素材料を使用することができる。
【0025】
具体的に、例えば、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、カーボンファイバー、カーボンフィブリル、黒鉛粉末、活性炭、ガラス状カーボン、メソポーラスカーボン、炭素繊維、フラーレン、オニオンライクカーボン、グラフェン、木炭、石炭チャー、バイオマスチャー、有機物、炭素化物からなる群より選択される1種以上を使用することができる。
【0026】
本触媒の製造においては、まず上述した有機物と遷移金属とを含む原料を混合する。原料を混合する方法は特に限られず、例えば、乳鉢や攪拌装置を使用することができる。また、有機物及び遷移金属を粉末状で混合する粉体混合や、溶媒を添加して混合する溶媒混合等、1種以上の混合方法を使用することもできる。
【0027】
そして、本触媒は、上述のように調製した原料を炭素化することにより得られる。炭素化においては、原料を加熱して、当該原料を炭素化できる所定温度(炭素化温度)で保持する。
【0028】
炭素化温度は、原料を炭素化できる温度であれば特に限られず、例えば、300℃以上とすることができる。より具体的に、炭素化温度は、例えば、300℃以上、1500℃以下とすることができ、好ましくは400℃以上、1200℃以下とすることができ、より好ましくは500℃以上、1100℃以下とすることができる。
【0029】
原料を炭素化温度まで加熱する際の昇温速度は、特に限られず、例えば、0.5℃/分以上、300℃/分以下とすることができる。原料を炭素化温度で保持する時間(炭素化時間)は、原料を炭素化できる時間であれば特に限られず、例えば、5分以上とすることができる。より具体的に、炭素化時間は、例えば、5分以上、240分以下とすることができ、好ましくは20分以上、180分以下とすることができる。また、炭素化は、窒素等の不活性ガス下(例えば、不活性ガスの流通下)で行うことが好ましい。
【0030】
このような製造方法においては、原料の炭素化により生成された炭素化材料をそのまま本触媒として得ることとしてもよい。また、本触媒は、炭素化材料を粉砕して得られた微粒子状の炭素触媒であることとしてもよい。炭素化材料を粉砕する方法は、特に限られず、例えば、ボールミルやビーズミル等の粉砕装置を使用することができる。粉砕後の炭素化材料の平均粒径は、例えば、150μm以下とすることができ、好ましくは100μm以下とすることができる。
【0031】
また、本触媒は、炭素化により生成された炭素化材料にアルカリ土類金属を担持して得られる炭素触媒であることとしてもよい。すなわち、本触媒は、有機物と遷移金属とを含む原料を炭素化し、当該炭素化により生成された炭素化材料にアルカリ土類金属を担持することにより製造される。
【0032】
この場合、本触媒は、炭素化後に担持されたアルカリ土類金属を含む。このアルカリ土類金属は、主に本触媒の表面に担持される。アルカリ土類金属を担持することにより、当該アルカリ土類金属を担持しない場合に比べて、本触媒の活性を効果的に向上させることができる。なお、このアルカリ土類金属の担持による触媒活性の向上は、本発明の発明者らが鋭意検討を重ねた結果、後述の実施例で示すような炭素触媒の水素解離活性に着目して独自に見出したものである。
【0033】
炭素化材料にアルカリ土類金属を担持する方法は特に限られず、例えば、粉末状の炭素化材料と粉末状のアルカリ土類金属とを混合することにより、当該アルカリ土類金属を担持した当該炭素化材料からなる本触媒を得ることができる。この混合には、例えば、乳鉢や攪拌装置を使用することができる。また、例えば、含浸担持法、イオン交換担持法、ゾルゲル法、共沈法によっても、炭素化材料にアルカリ土類金属を担持して本触媒を得ることができる。
【0034】
アルカリ土類金属は、特に限られず、ベリリウム(Be)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)及びバリウム(Ba)からなる群より選択される1種以上を使用することができ、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)及びバリウム(Ba)からなる群より選択される1種以上を好ましく使用することができる。
【0035】
本触媒が担持するアルカリ土類金属の量は、本触媒の活性を向上させる範囲であれば特に限られない。すなわち、本触媒に含まれるアルカリ土類金属の量は、例えば、当該アルカリ土類金属を担持する炭素化材料に対して0.1〜50重量%(炭素化材料100重量部に対してアルカリ土類金属0.1〜50重量部)とすることができ、0.5〜30重量%とすることが好ましく、1〜20重量%とすることがより好ましい。
【0036】
また、本触媒は、炭素化により生成された炭素化材料に、さらなる処理を施して得られる炭素触媒であることとしてもよい。すなわち、本触媒は、例えば、炭素化材料に金属除去処理を施して得られた炭素触媒であることとしてもよい。さらに、この場合、本触媒は、例えば、金属除去処理が施された炭素化材料にアルカリ土類金属を担持して得られた炭素触媒であることとしてもよい。炭素化材料に金属除去処理を施すことにより、当該炭素化材料から遷移金属を除去し、その炭素構造の活性点を露出させることができる。
【0037】
金属除去処理は、炭素化材料に含まれる遷移金属を除去する処理である。金属除去処理は、炭素化材料に含まれる遷移金属を除去し、又は当該遷移金属の量を低減できる処理であれば特に限られず、例えば、酸による洗浄処理や電解処理を実施することができる。
【0038】
酸による洗浄処理に使用する酸は、金属除去処理の効果が得られるものであれば特に限られず、任意の1種以上を使用することができる。すなわち、例えば、塩酸(例えば、濃塩酸)、硝酸(例えば、濃硝酸)及び硫酸(例えば、濃硫酸)からなる群より選択される1種以上を使用することができる。2種以上の酸を使用する場合には、例えば、濃塩酸と濃硝酸とを所定の体積比で混合して調製された混酸(例えば、王水)や、濃硝酸と濃硫酸とを所定の体積比で混合して調製された混酸を使用することができる。酸による洗浄処理の方法は、特に限られず、例えば、酸を含有する溶液中に炭素化材料を浸漬して保持する方法を使用することができる。
【0039】
なお、本触媒が金属除去処理を経て得られる場合、本触媒は、実質的に遷移金属を含有しないこととしてもよいし、残存した遷移金属を含むこととしてもよい。本触媒に残存する遷移金属は、元素分析等の方法により確認することができる。
【0040】
また、本触媒は、原料の炭素化により生成された炭素化材料に窒素原子又はホウ素原子を導入(ドープ)して得られた炭素触媒であることとしてもよい。この場合、本触媒の製造においては、任意の工程で炭素化材料に窒素原子又はホウ素原子をドープすることができる。窒素原子又はホウ素原子を導入する方法としては、例えば、アンモオキシデーション法やCVD法等の気相ドープ法、液相ドープ法又は気相−液相ドープ法を使用することができる。具体的に、例えば、アンモニア、メラミン、アセトニトリル等の窒素源又はホウ酸、水素化ホウ素ナトリウム等のホウ素源を炭素化材料と混合し、得られた混合物を窒素、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガス雰囲気下で550℃以上、1200℃以下の温度で、5分以上、180分以下の時間保持することにより、当該炭素化材料の表面に窒素原子を導入することができる。
【0041】
また、本触媒は、原料の炭素化により生成された炭素化材料に、二酸化炭素賦活、リン酸賦活、アルカリ賦活、水素賦活、アンモニア賦活、酸化窒素による賦活、電解賦活等の賦活処理及び/又は硝酸酸化、混酸酸化、過酸化水素酸化等の液相酸化を施して得られた炭素触媒であることとしてもよい。
【0042】
本触媒の窒素吸着BET法により求めた比表面積は、例えば、10m/g以上とすることができ、好ましくは100m/g以上とすることができる。より具体的に、本触媒の比表面積は、例えば、200m/g以上、3000m/g以下とすることができ、好ましくは300m/g以上、3000m/g以下とすることができる。
【0043】
そして、本触媒は、炭化水素化合物及び/又は含酸素有機化合物の熱分解による水素生成に使用される。すなわち、本触媒は、炭化水素化合物及び/又は含酸素有機化合物を熱分解して水素を生成する反応を触媒する活性を有する。
【0044】
この触媒活性に関連して、本触媒は、所定の水素解離活性を有する。すなわち、本触媒は、例えば、所定重量(例えば、20mg)の本触媒を充填した反応管を用いた水素−重水素交換反応において、水素ガスと重水素ガスとアルゴンガスとの混合ガス(水素流量=10mL/分、重水素流量=10mL/分、アルゴン流量=30mL/分)下で、当該反応管を10℃/分の昇温速度で40℃から600℃まで加熱した際の当該水素ガスの総減少量を当該所定重量で除して算出される水素解離活性が10mmol/g以上であることとしてもよい。
【0045】
そして、本実施形態に係る方法(以下、「本方法」という。)は、本触媒を使用して、炭化水素化合物及び/又は含酸素有機化合物を熱分解して水素を生成する方法である。
【0046】
炭化水素化合物及び含酸素有機化合物は、その熱分解によって水素を生成するものであれば特に限られない。すなわち、炭化水素化合物としては、例えば、脂肪族炭化水素、脂環式炭化水素及び芳香族炭化水素からなる群より選択される1種以上を使用することができる。
【0047】
脂肪族炭化水素としては、例えば、炭素数が1〜20のものを好ましく使用することができ、炭素数が1〜12のものを特に好ましく使用することができる。具体的には、例えば、メタン、エタン、エチレン、プロパン、プロピレン及びブタンからなる群より選択される1種以上を使用することができる。脂環式炭化水素としては、例えば、炭素数が3〜12のものを好ましく使用することができる。具体的に、例えば、シクロプロパン、シクロブタン、シクロペンタン及びシクロヘキサンからなる群より選択される1種以上を使用することができる。芳香族炭化水素としては、例えば、炭素数が5〜16のものを好ましく使用することができる。具体的に、例えば、ベンゼン、トルエン,キシレン、エチルベンゼン及びテトラリンからなる群より選択される1種以上を使用することができる。
【0048】
含酸素有機化合物としては、例えば、アルコール類、エーテル類、エステル類及びケトン類からなる群より選択される1種以上を使用することができる。アルコール類としては、例えば、炭素数が1〜12のものを好ましく使用することができる。具体的には、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール及びブタノールからなる群より選択される1種類以上を使用することができる。エーテル類としては、例えば、炭素数が2〜12のものを好ましく使用することができる。具体的には、例えば、ジメチルエーテル、エチルメチルエーテル、ジエチルエーテル、オキサシクロペンタン及びクラウンエーテルからなる群より選択される1種類以上を使用することができる。エステル類としては、例えば、炭素数が2〜12のものを好ましく使用することができる。具体的には、例えば、ギ酸メチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、プロピオン酸メチル、酪酸メチル、酪酸エチル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸ブチルからなる群より選択される1種類以上を使用することができる。ケトン類としては、例えば、炭素数が3〜6のものを好ましく使用することができる。具体的には、例えば、プロパノン、ペンタノン、ブタノン及びシクロヘキサノンからなる群より選択される1種類以上を使用することができる。
【0049】
本方法においては、本触媒の存在下で炭化水素化合物及び/又は含酸素有機化合物を熱分解して水素を生成する。すなわち、本方法においては、炭化水素化合物及び/又は含酸素有機化合物と本触媒とを加熱下で接触させる。炭化水素化合物及び/又は含酸素有機化合物としては、気体状又は液体状であるものを好ましく使用することができ、気体状の炭素水素化合物及び/又は含酸素有機化合物を特に好ましく使用することができる。
【0050】
炭化水素化合物及び/又は含酸素有機化合物と他の成分との混合物を本触媒と接触させることとしてもよい。すなわち、気体状の炭化水素化合物及び/又は含酸素有機化合物を使用する場合、例えば、当該炭化水素化合物及び/又は含酸素有機化合物と、アルゴン、窒素、ヘリウム等の不活性ガスと、を含む混合ガスを本触媒と接触させることとしてもよい。また、炭化水素化合物及び/又は含酸素有機化合物を含むバイオマスガスと本触媒とを接触させることとしてもよい。バイオマスガスは、例えば、水分、二酸化炭素等の他の成分を含んでいてもよい。また、合成樹脂(ポリエチレン、ポリスチレン、ポリエステル、熱硬化性樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ベークライト樹脂、ポリカーボネート等)、石油、灯油、重質油等の有機物を熱分解することで得られる有機熱分解ガスと本触媒とを接触させることとしてもよい。
【0051】
本触媒と炭化水素化合物及び/又は含酸素有機化合物とを接触させる温度は、当該炭化水素化合物及び/又は含酸素有機化合物が熱分解して水素が生成される範囲であれば特に限られず、例えば、300℃以上とすることができ、500℃以上とすることが好ましい。より具体的に、この温度は、例えば、300〜1100℃とすることができ、500〜1000℃とすることが好ましく、600〜1000℃とすることがより好ましい。
【0052】
次に、本実施形態に係る具体的な実施例について説明する。
【実施例1】
【0053】
[炭素触媒CA(Fe)]
0.4gのポリビニルピリジンと、0.45gの塩化鉄(III)六水和物と、0.5gのケッチェンブラック(ECP600JD、ライオン株式会社製)と、を乳鉢に入れ、均一に混合し、原料を調製した。得られた原料を横型イメージ炉に入れ、窒素ガス雰囲気下、50℃/分の昇温速度で加熱し、炭素化温度900℃にて1時間保持し、炭素化した。そして、炭素化により生成された炭素化材料を炭素触媒CA(Fe)として得た。この炭素触媒CA(Fe)のBET比表面積は630m/gであった。
【0054】
[炭素触媒CA(Fe)AW]
炭素触媒CA(Fe)に、酸洗浄による金属除去処理を施した。すなわち、炭素触媒CA(Fe)1gに100mLの濃塩酸を加え、1時間攪拌した。炭素触媒を沈殿させ、溶液を除去した後、濃塩酸と蒸留水とを1:1(体積比)で混合した溶液を100mL加え、1時間攪拌した。炭素触媒を沈殿させ、溶液を除去した後、蒸留水を100mL加え、1時間攪拌した。この炭素触媒を含有する溶液を、ろ過膜(孔径1.0μm、Millipore製)を使用してろ過し、ろ液が中性になるまで蒸留水で洗浄した。回収された炭素触媒を60℃で12時間、真空乾燥させた。こうして、金属除去処理が施された炭素触媒CA(Fe)AWを得た。この炭素触媒CA(Fe)AWのBET比表面積は690m/gであった。
【0055】
[炭素触媒CA(Co)]
塩化鉄(III)六水和物に代えて、塩化コバルト六水和物を使用したこと以外は、上述の炭素触媒CA(Fe)と同様にして、炭素触媒CA(Co)を得た。この炭素触媒CA(Co)のBET比表面積は670m/gであった。
【0056】
[炭素触媒CA(Ni)]
塩化鉄(III)六水和物に代えて、塩化ニッケル六水和物を使用したこと以外は、上述の炭素触媒CA(Fe)と同様にして、炭素触媒CA(Ni)を得た。この炭素触媒CA(Ni)のBET比表面積は650m/gであった。
【0057】
[炭素触媒CA(Mn)]
1.5gのポリアクリロニトリル−ポリメタクリル酸共重合体を30gのジメチルホルムアミドに溶解させた。その後、1.25gの塩化マンガン四水和物と1.5gの2−メチルイミダゾールとを加え、2時間攪拌して溶液を得た。得られた溶液に、ケッチェンブラック(EC600JD、ライオン株式会社製)を、後述の前駆体組成物における含有量が67重量%となるように加え、乳鉢を用いて混合した。さらに、この混合物を、60℃、6.4×10−2Paで12時間減圧乾燥し、ジメチルホルムアミドを除去した。こうして前駆体組成物を得た。
【0058】
次に、前駆体組成物の不融化処理を行った。すなわち、前駆体組成物を強制循環式乾燥機内にセットした。そして、大気中にて、乾燥機内の温度を、30分間かけて室温から150℃まで昇温し、続いて2時間かけて150℃から220℃まで昇温した。その後、前駆体組成物を220℃で3時間保持した。こうして前駆体組成物を不融化し、炭素化の原料を得た。
【0059】
そして、原料の炭素化を行った。すなわち、上述のようにして得られた原料を石英管に入れ、楕円面反射型赤外線ゴールドイメージ炉にて、当該石英管に20分間窒素パージした。次いで、加熱を開始し、ゴールドイメージ炉の温度を、50℃/分の昇温速度で室温から900℃まで昇温した。その後、この石英管を900℃で1時間保持した。こうして原料が炭素化されることにより生成された炭素化材料を得た。
【0060】
さらに、炭素化材料の粉砕処理を行った。すなわち、遊星ボールミル(P−7、フリッチュジャパン株式会社製)内に10mm径の窒化ケイ素ボールをセットし、炭素化材料を回転速度650rpmで50分間粉砕した。粉砕した炭素化材料を取り出し、目開き106μmの篩で分級した。篩を通過した炭素化材料を炭素触媒CA(Mn)として得た。この炭素触媒CA(Mn)のBET比表面積は900m/gであった。
【0061】
[比較試料KB]
炭素触媒の原料にも使用した市販のケッチェンブラック(ECP600JD、ライオン株式会社製)を比較試料KBとして使用した。この比較試料KBのBET比表面積は1200m/gであった。
【0062】
[比較試料BP]
市販のカーボンブラック(Black Pearls 2000、CABOT社製)を比較試料BPとして使用した。この比較試料BPのBET比表面積は1500m/gであった。
【0063】
[比較試料Fe/BP]
比較試料BPに鉄を担持させることにより比較試料Fe/BPを調製した。すなわち、まず、約0.1gの硝酸鉄(III)九水和物をナスフラスコへ入れて100mLの蒸留水に溶解した。次いで、この硝酸鉄水溶液に比較試料BPを加えた。さらに、約5mLのメタノールを加え、超音波で10分間攪拌した。攪拌後、ナスフラスコをエバポレーターに設置して減圧下で20分間回転させ、次いで60℃の湯浴につけて減圧乾燥させた。
【0064】
こうして、比較試料BPに対して10重量%の鉄を担持した比較試料Fe/BPを得た。この比較試料Fe/BPのBET比表面積は1365m/gであった。
【0065】
[メタンの熱分解による水素生成]
炭化水素化合物としてメタンを使用し、上述した炭素触媒及び比較試料のいずれかの存在下で、メタンの熱分解による水素の生成を実施した。すなわち、30mgの炭素触媒又は比較試料を内径1cmの石英製反応管に充填した。次いで、この反応管を縦型イメージ炉へ設置し、アルゴン雰囲気下で10℃/分の昇温速度で加熱し、700℃で1時間保持する前処理を行った。なお、比較試料Fe/BPを使用した場合には、上述の前処理に代えて、水素雰囲気下で50℃/分の昇温速度で加熱し、350℃で1時間保持する前処理(還元処理)を行った。
【0066】
そして、十分に反応管が冷めた後、メタンとアルゴンとの混合ガス(メタン流量=23mL/分、アルゴン流量=27mL/分)を30分間流通させて装置内のガス濃度を安定化させた。続いて、反応管を10℃/分の昇温速度で室温から900℃まで加熱し、メタンの熱分解反応を行った。温度が900℃に到達した後は、引き続き混合ガスを流通させながら、反応管を900℃で20分間保持した。
【0067】
昇温の過程における各温度及び900℃に到達した後のガス成分の分析は、高速・小型ガス分析計(マイクロGC 490−GC、VARIAN社製)により行った。そして、昇温の過程における分析結果に基づき、各温度における、比表面積あたりの水素生成速度(μmol/(min・m))を算出した。
【0068】
[水素−重水素交換反応]
炭素触媒及び比較試料の特性の一つとして、水素分子を水素原子に解離させる触媒活性を、水素(H)−重水素(D)交換反応に基づき評価した。すなわち、水素ガス(H)及び重水素ガス(D)を含む混合ガスを炭素触媒又は比較試料と接触させた場合における解離した水素ガスの量を、TPR(Temperature Programmed Reaction)法にて評価した。
【0069】
具体的に、まず、ブランクの測定を行った。すなわち、炭素触媒及び比較試料を充填していない石英反応管を触媒分析装置(日本ベル株式会社製)に設置し、アルゴンガスを50mL/分の流量で30分間流通させて、系内の気相をアルゴンに置換した。さらに、アルゴン雰囲気下で、反応管を50℃/分の昇温速度で加熱し、700℃で1時間保持する前処理を行った。
【0070】
そして、反応管を40℃まで自然放冷した後、水素ガスと重水素ガスとアルゴンガスとの混合ガス(水素流量=10mL/分、重水素流量=10mL/分、アルゴン流量=30mL/分)を10分間流通させた。その後、この混合ガスを流通させながら、反応管を10℃/分の昇温速度で900℃まで加熱した。
【0071】
昇温の過程における水素ガス濃度を四重極型質量分析計(Quadrupole Mass Spectrometer:Q−mass)により分析し、各温度における水素ガスの減少量を求めた。
【0072】
次に、炭素触媒及び比較試料を使用して同様の分析を行った。すなわち、まず、炭素触媒CA(Fe)、炭素触媒CA(Fe)AW、炭素触媒CA(Mn)及び比較試料Fe/BPのいずれかの試料を20mg量りとり、石英反応管へ充填した。このとき、石英ウールを試料の上下に詰めることにより、反応中における当該試料の飛散を防止した。
【0073】
その後、反応管を市販の触媒分析装置(日本ベル株式会社製)に設置し、アルゴンガスを50mL/分の流量で30分間流通させて、系内の気相をアルゴンに置換した。さらに、アルゴン雰囲気下で、反応管を50℃/分の昇温速度で加熱し、700℃で1時間保持する前処理を行った。
【0074】
そして、反応管を40℃まで自然放冷した後、水素ガスと重水素ガスとアルゴンガスとの混合ガス(水素流量=10mL/分、重水素流量=10mL/分、アルゴン流量=30mL/分)を10分間流通させた。その後、この混合ガスを流通させながら、反応管を10℃/分の昇温速度で900℃まで加熱した。
【0075】
昇温の過程における水素ガス濃度を四重極型質量分析計(Quadrupole Mass Spectrometer:Q−mass)により分析し、各温度における水素ガスの減少量を求めた。そして、各温度において、試料を使用して得られた水素ガスの減少量から、ブランク測定で得られた水素ガスの減少量を減じた値を、実際に当該試料を使用することにより得られた水素ガスの減少量として算出した。
【0076】
さらに、この算出された水素ガス減少量を温度に対してプロットして、水素ガスの減少量と温度との相関関係を示す曲線を作成した。作成された曲線から、40℃から600℃までにおける水素ガスの総減少量を算出した。そして、こうして算出された水素ガスの総減少量を、使用された炭素触媒又は比較試料の重量(20mg)で除した値を、当該炭素触媒又は比較試料の重量あたりの水素解離活性(mmol/g)として評価した。
【0077】
[評価結果]
図1には、上述した炭素触媒及び比較試料のいずれかを使用したメタンの熱分解による水素生成において、水素生成速度を評価した結果を示す。図1において、横軸はメタンの熱分解を行った温度(℃)を示し、縦軸は各温度における炭素触媒又は比較試料の比表面積あたりの水素生成速度(μmol/(min・m))を示す。
【0078】
図1において、黒塗り丸印は炭素触媒CA(Fe)、黒塗り三角印は炭素触媒CA(Co)、黒塗り菱形印は炭素触媒CA(Ni)、黒塗り四角印は炭素触媒CA(Mn)、半黒塗り菱形印は炭素触媒CA(Fe)AW、白抜き丸印は比較試料Fe/BP、白抜き四角印は比較試料BP、及び白抜き菱形印は比較試料KBを使用した結果をそれぞれ示す。
【0079】
図1に示すように、炭素触媒の存在下における少なくとも600〜900℃での水素生成速度は、比較試料の存在下におけるそれと同等以上であり、特に、炭素触媒CA(Fe)、炭素触媒CA(Co)及び炭素触媒CA(Ni)を使用した場合の水素生成速度は顕著に大きかった。
【0080】
図2には、炭素触媒CA(Fe)及び比較試料Fe/BPのいずれかを使用した場合において、反応温度を900℃に保持した20分間での水素生成量(μmol)、触媒活性低下率(%)、及び触媒活性低下率あたりの水素生成量(μmol/%)を評価した結果を示す。
【0081】
水素生成量は、温度が900℃に到達した時点から、温度を900℃に保持して20分が経過した時点までの間に生成された水素ガスの量として算出された。触媒活性低下率は、温度が900℃に到達した時点における水素生成速度と、温度を900℃に保持して20分が経過した時点における水素生成速度との差分を、前者の水素生成速度を100%として算出した。
【0082】
さらに、触媒活性低下率あたりの水素生成量は、上述のように算出された水素生成量を触媒活性低下率で除することにより算出した。この触媒活性低下率あたりの水素生成量は、触媒活性が1%低下する間に生成される水素の量を表わす。したがって、触媒活性低下率あたりの水素生成量が大きいほど、炭素触媒又は比較試料の触媒活性が所定%低下するまでに生成される水素の量が多い、すなわち、当該炭素触媒又は比較試料が失活するまでの水素生成量が大きいこととなる。
【0083】
図2に示すように、炭素触媒CA(Fe)を使用した場合の水素生成量は、比較試料Fe/BPを使用した場合のそれに比べて顕著に大きかった。一方、炭素触媒CA(Fe)の触媒活性低下率は、比較試料Fe/BPのそれに比べて小さかった。すなわち、炭素触媒CA(Fe)の触媒活性は、比較試料Fe/BPのそれに比べて低下し難かった。そして、炭素触媒CA(Fe)の触媒活性低下率あたりの水素生成量は、比較試料Fe/BPのそれに比べて顕著に大きくなった。
【0084】
このように、炭素触媒CA(Fe)の触媒活性は、比較試料Fe/BPのそれに比べて高いのみならず、比較的高い温度での水素生成反応においても効果的に維持されることが確認された。
【0085】
図3には、炭素触媒CA(Fe)、炭素触媒CA(Fe)AW、炭素触媒CA(Mn)及び比較試料Fe/BPのいずれかを使用した水素−重水素交換反応における水素解離活性(mmol/g)を評価した結果を示す。
【0086】
図3に示すように、3種類の炭素触媒の水素解離活性はいずれも、比較試料に比べて高かった。また、図示はしていないが、炭素触媒を使用した場合には、比較試料を使用した場合に比べて、より低い温度で水素の解離が発生し始めることも確認された。
【0087】
すなわち、炭素触媒は、比較試料に比べて、水素を解離させる触媒活性が高いと考えられた。この結果に基づき、本発明の発明者らは、後述のとおり、水素貯蔵に適したマグネシウムやカルシウム等のアルカリ土類金属を炭素触媒に担持するという発想を得た。
【実施例2】
【0088】
[炭素触媒Mg/CA(Fe)]
炭素触媒CA(Fe)と、水酸化マグネシウムと、をメノウ乳鉢へ入れて混合した。こうして、炭素触媒CA(Fe)に対して3重量%のマグネシウム(炭素触媒CA(Fe)100重量部に対して3重量部のマグネシウム)を担持した炭素触媒Mg/CA(Fe)を得た。
【0089】
[炭素触媒Mg/CA(Fe)AW]
炭素触媒CA(Fe)に代えて、炭素触媒CA(Fe)AWを使用したこと以外は、上述の炭素触媒Mg/CA(Fe)と同様にして、炭素触媒CA(Fe)AWに対して3重量%のマグネシウムを担持した炭素触媒Mg/CA(Fe)AWを得た。
【0090】
[炭素触媒Mg/CA(Mn)]
炭素触媒CA(Fe)に代えて、炭素触媒CA(Mn)を使用したこと以外は、上述の炭素触媒Mg/CA(Fe)と同様にして、炭素触媒CA(Mn)に対して3重量%のマグネシウムを担持した炭素触媒Mg/CA(Mn)を得た。
【0091】
[炭素触媒Ca/CA(Mn)]
水酸化マグネシウムに代えて、水酸化カルシウムを使用したこと以外は、上述の炭素触媒Ca/CA(Mn)と同様にして、炭素触媒CA(Mn)に対して3重量%のカルシウムを担持した炭素触媒Ca/CA(Mn)を得た。
【0092】
[比較試料Mg/BP]
炭素触媒CA(Fe)に代えて、比較試料BPを使用したこと以外は、上述の炭素触媒Mg/CA(Fe)と同様にして、比較試料BPに対して3重量%のマグネシウムを担持した比較試料Mg/BPを得た。
【0093】
[比較試料Mg/Fe/BP]
比較試料BPに代えて、比較試料Fe/BPを使用したこと以外は、上述の比較試料Mg/BPと同様にして、比較試料Fe/BPに対して3重量%のマグネシウムを担持した比較試料Mg/Fe/BPを得た。
【0094】
[メタンの熱分解による水素生成]
上述の実施例1と同様にして、アルカリ土類金属を担持した炭素触媒及び比較試料のいずれかの存在下で、メタンの熱分解による水素生成を実施した。なお、前処理としては、上述の実施例1における前処理に代えて、炭素触媒又は比較試料を水素雰囲気下で50℃/分の昇温速度で加熱し、650℃で1時間保持する前処理(還元処理)を行った。
【0095】
[評価結果]
図4には、アルカリ土類金属を担持した炭素触媒及び比較試料のいずれかを使用したメタンの熱分解による水素生成において、水素生成速度を評価した結果を示す。図4において、横軸はメタンの熱分解を行った温度(℃)を示し、縦軸は各温度における炭素触媒又は比較試料の比表面積あたりの水素生成速度(μmol/(min・m))を示す。
【0096】
黒塗り三角印は炭素触媒Mg/CA(Mn)、黒塗り四角印は炭素触媒Ca/CA(Mn)、黒塗り逆三角印は炭素触媒Mg/CA(Fe)、黒塗り菱形印は炭素触媒Mg/CA(Fe)AW、白抜き三角印は比較試料Mg/Fe/BP、及び白抜き四角印は比較試料Mg/BPを使用した結果をそれぞれ示す。なお、参考として、図1にも示したアルカリ土類金属を担持していない比較試料Fe/BPを使用した結果を白抜き丸印にて示す。
【0097】
図5には、炭素触媒CA(Fe)、炭素触媒CA(Fe)AW、炭素触媒CA(Mn)及び比較試料Fe/BPのそれぞれについて、900℃での水素生成速度(μmol/(min・m))を、マグネシウムを担持する前と後とで比較した結果を示す。
【0098】
図4に示すように、マグネシウム又はカルシウムを担持した炭素触媒の存在下における水素生成速度は、比較試料の存在下におけるそれより顕著に高かった。また、図5、及び図4と図1との比較により明らかなとおり、炭素触媒を使用した場合における水素生成速度は、当該炭素触媒にマグネシウムを担持することによって顕著に増加した。この点、図5に示すように、図3において水素解離活性が高かった炭素触媒ほど、マグネシウムを担持することによって触媒活性が向上する程度(図5の「Mg担持後/Mg担持前」欄に示す水素生成速度の増加率(%))も大きかった。
【0099】
一方、比較試料Mg/Fe/BPの存在下における水素生成速度は、比較試料Fe/BPの存在下におけるそれよりも小さかった。すなわち、図5に示すように、比較試料Fe/BPを使用した場合における水素生成速度は、当該比較試料Fe/BPにマグネシウムを担持することによって却って減少した。また、鉄を担持していない炭素触媒BPにマグネシウムを担持しても、マグネシウムを担持する前に比べて、水素生成速度はほとんど変化しなかった(図1及び図4参照)。
【0100】
このように、アルカリ土類金属を担持した炭素触媒が示す高い触媒活性は、有機物と遷移金属とを含む原料の炭素化により得られる炭素触媒が有する特有の炭素構造と、当該アルカリ土類金属が有する特性と、の特異的な相乗効果によるものと考えられた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機物と遷移金属とを含む原料の炭素化により得られる炭素触媒であって、
炭化水素化合物及び/又は含酸素有機化合物の熱分解による水素生成に使用される
ことを特徴とする水素生成用炭素触媒。
【請求項2】
前記炭素化により生成された炭素化材料にアルカリ土類金属を担持して得られる
ことを特徴とする請求項1に記載された水素生成用炭素触媒。
【請求項3】
所定重量の前記水素生成用炭素触媒を充填した反応管を用いた水素−重水素交換反応において、水素ガスと重水素ガスとアルゴンガスとの混合ガス(水素流量=10mL/分、重水素流量=10mL/分、アルゴン流量=30mL/分)下で前記反応管を10℃/分の昇温速度で40℃から600℃まで加熱した際の前記水素ガスの総減少量を前記所定重量で除して算出される水素解離活性が10mmol/g以上である
ことを特徴とする請求項1又は2に記載された水素生成用炭素触媒。
【請求項4】
有機物と遷移金属とを含む原料を炭素化し、
前記炭素化により生成された炭素化材料にアルカリ土類金属を担持する
ことを特徴とする水素生成用炭素触媒の製造方法。
【請求項5】
請求項1又は2に記載された水素生成用炭素触媒を使用して、炭化水素化合物及び/又は含酸素有機化合物を熱分解して水素を生成する
ことを特徴とする方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−115725(P2012−115725A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−265334(P2010−265334)
【出願日】平成22年11月29日(2010.11.29)
【出願人】(504145364)国立大学法人群馬大学 (352)
【出願人】(000004374)日清紡ホールディングス株式会社 (370)
【Fターム(参考)】