説明

水素発生システム、それを用いた水素の製造方法、移動体および発電装置

【課題】繰り返し使用できるイオン液体の存在下に、ギ酸から水素を継続的にかつ低コストで製造することができる水素発生システムを提供すること。
【解決手段】ギ酸とイオン液体の混合液体を収容し、加熱下でギ酸とイオン液体の混合液体中のギ酸を水素と二酸化炭素に分解する水素生成反応部;および水素生成反応部から供給された水素と二酸化炭素の混合物を水素と二酸化炭素とに分離可能な分離部を備え、分離処理後における水素を分離部から外部の水素送出先へ送出し、かつ二酸化炭素を分離部から外部の二酸化炭素送出先へ送出するかあるいは大気中に排出するように構成したことを特徴とする水素発生システム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン液体の存在下に水素を発生させる水素発生システムおよびそれを用いた水素の製造方法、移動体および発電装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球の温暖化が問題となっており、その原因としてオゾン層の破壊および化石燃料の燃焼に伴う二酸化炭素の排出増加が挙げられている。
二酸化炭素排出を抑制できる代替エネルギー源としては、核燃料、太陽光、風力、水力、メタノール、メタンハイドレートおよび水素などが注目を浴びている。
核燃料を用いた原子力発電は高効率な発電を行うことができ、かつ二酸化炭素を排出しないという点でメリットがあるが、放射能漏れを起こす危険性を孕んでいる。
太陽光、風力または水力といった自然エネルギーは二酸化炭素を排出しないため、地球環境に優しいエネルギー源であるが、これらの自然エネルギーを利用した発電は効率が低い、高コスト、安定した出力を得難いという課題がある。
【0003】
期待されているメタノールおよびメタンハイドレートは、その燃焼により排出される二酸化炭素量が、従来の化石燃料の炭素鎖の数に反比例して低減されているものの、依然として二酸化炭素排出が継続される。
一方、水素は燃焼すると水のみを生じるため(H2 + 1/2O2 → H2O)、二酸化炭素の排出を伴わないという点でより地球環境に優しく、今後のエネルギー源としての期待は大きい。しかしながら、水素の貯蔵・運搬形態としては高圧ボンベが主流であり、安全性および貯蔵性(貯蔵量の低さ)が課題となっている。また、水素の製造を工業的規模で考えた場合、通常、水を電気分解して製造されるため、製造コストにも課題がある。
【0004】
このような点に鑑み、本発明者は、工業的規模で水素を製造する場合に解決しなければならない製造コスト、安全性、貯蔵性といった問題に対する解決策として、ギ酸に注目し、例えば、250〜600℃でギ酸の水熱分解反応(Hydrothermal reaction:密閉反応容器内での高温高圧の水が関与する反応)を行うことで、ギ酸の脱カルボキシル化(decarboxylation:HCOOH→H2+CO2)により水素を生成させる方法を提案した(特許文献1参照)。
【0005】
また、本発明者は、より低温でギ酸を水素と二酸化炭素に分解できる水素の製造方法を提案した(特許文献2)。この水素の製造方法は、イオン液体の存在下でギ酸を、例えば、100〜250℃で加熱するプロセスである。なお、この方法で用いられるイオン液体としては、例えば、イミダゾリウム塩系イオン液体、ホスホニウム塩系イオン液体、ピリジニウム塩系イオン液体、ピロリジニウム塩系イオン液体、テトラアルキルアンモニウム塩系イオン液体などが挙げられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−289742号公報
【特許文献2】国際特許出願WO2010/013712号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者が提案した特許文献2に記載の水素の製造方法にはイオン液体が用いられるが、一般にイオン液体は高価である。そのため、この方法による水素の製造コストを低く抑えるためには、イオン液体を繰り返し使用しながら継続的に水素を発生させる水素発生システムの開発が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そこで、本発明者は、前記の点に鑑みて鋭意研究を重ねた結果、繰り返し使用できるイオン液体の存在下に、ギ酸から水素を継続的にかつ低コストで製造することができるシステムの開発に成功し本発明を完結するに至った。
【0009】
かくして、本発明によれば、ギ酸とイオン液体の混合液体を収容し、加熱下でギ酸とイオン液体の混合液体中のギ酸を水素と二酸化炭素に分解する水素生成反応部;および
水素生成反応部から供給された水素と二酸化炭素の混合物を水素と二酸化炭素とに分離可能な分離部を備え、
分離処理後における水素を分離部から外部の水素送出先へ送出し、かつ二酸化炭素を分離部から外部の二酸化炭素送出先へ送出するかあるいは大気中に排出するように構成した水素発生システムが提供される。
ここで、本発明において「ギ酸とイオン液体の混合液体」とは、以下の(A)〜(D)のうちの少なくとも1つを含むと定義する。
(A)イオン液体にギ酸を溶解させた溶液(均一相の溶液)
(B)イオン液体とギ酸を共存させた溶液(二相分離状態の溶液)
(C)イオン液体にギ酸水溶液を溶解させた溶液(均一相の溶液)
(D)イオン液体とギ酸水溶液を共存させた溶液(二相分離状態の溶液)
換言すると、本発明において「ギ酸とイオン液体の混合液体」とは、イオン液体と無水および/または含水ギ酸との混合物であり、かつ均一溶液および/または混合物である。
また、本発明において使用される「イオン液体」は、プラスイオンとマイナスイオンからなる塩であって、一般に室温で20〜7000cPの粘度を有する粘稠な液体である。なお、イオン液体について更に詳しくは後述する。
【0010】
また、本発明の別の観点によれば、前記水素発生システムを用いて、ギ酸とイオン液体の混合溶液を加熱して水素を発生させる水素の製造方法が提供される。
また、本発明のさらに別の観点によれば、前記水素発生システムと、この水素発生システムから供給された水素を燃料として駆動する水素エンジンとを備えた移動体が提供される。
また、本発明のさらに別の観点によれば、前記水素発生システムと、燃料電池または水素タービンとを備えた発電装置が提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明の水素発生システムによれば、ギ酸を水素の貯蔵タンクとして安全に収容できると共に、必要時にギ酸から水素を取り出して所望の水素送出先へ供給することができる。この際、水素生成反応部にギ酸を補給しながら、かつイオン液体を繰り返し使用しながら、ギ酸から水素を継続的に低コストで製造することができる。
よって、この水素発生システムは、例えば、水素エンジン自動車の水素エンジンまたは燃料電池自動車の燃料電池に水素を供給する水素供給源として、これらの水素燃料自動車に搭載可能である。
この場合、前記のように水素発生システムにおけるギ酸(常温で液体)が水素の貯蔵タンクの役割を担っている。したがって、高圧ボンベ内に圧縮水素ガスを貯蔵した形態や、超低温のボンベ内に液化水素を貯蔵した形態と比べて、本発明の水素発生システムは安全、コンパクト、かつ低コストな水素貯蔵形態であるため、水素燃料自動車といった移動体の水素供給源として好適である。
【0012】
また、本水素発生システムは、商業用または家庭用燃料電池に水素供給源として接続して用いる、あるいは水素タービン(水素燃焼タービン)に水素供給源として接続して用いることにより、発電装置を構成することもできる。それに加え、燃料電池および水素タービンによる発電時の熱エネルギーを利用して給湯、暖房、発電等を行うコージェネレーションシステムを構成することもできる。
また、本発明の水素の製造方法によれば、水素の製造を工業的規模で考えた場合に解決しなければならない製造コスト、安全性、貯蔵性といった問題が解決される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は本発明の水素発生システムの実施形態1を示す概略構成図である。
【図2】図2は実施形態1の水素発生システムにおける分離部を示す透視斜視図である。
【図3】図3は実施形態1の水素発生システムにおける複数の分離部を示す概略構成図である。
【図4】図4は実施形態1の水素発生システムにおける複数の分離部および水温調整機構を示す概略構成図である。
【図5】図5は実施形態1の水素発生システムの制御系統を説明するブロック図である。
【図6】図6は本発明の水素発生システムの実施形態1を搭載した水素燃料自動車を示す概念図である。
【図7】図7は図6の水素燃料自動車における本発明の水素発生システムの運転フローの一例を説明する第1の図である。
【図8】図8は図7の運転フローの途中を説明する第2の図である。
【図9】図9は図7の運転フローの途中を説明する第3の図である。
【図10】図10は本発明の水素発生システムの実施形態2を示す概略構成図である。
【図11】図11は実施形態2の水素発生システムにおける展延部を示す構成図であって、図11(A)は側面図、図11(B)は正面図である。
【図12】図12は実施形態2の水素発生システムにおける別の展延部を示す構成図であって、図12(A)は側面図、図12(B)は正面断面図である。
【図13】図13は本発明の水素発生システムの実施形態3を示す概略構成図である。
【図14】図14は実施形態3の水素発生システムにおける水素生成反応部(天板図示省略)を示す概略斜視図である。
【図15】図15は本発明の水素発生システムの実施形態4を示す概略構成図である。
【図16】図16は実施例1のサンプルのNMRスペクトルを示す図である。
【図17】図17は実施例2のサンプルのNMRスペクトルを示す図である。
【図18】図18(a)〜(e)は実施例4〜8のサンプルのNMRスペクトルを示す図である。
【図19】図19はイオン液体(2)の劣化の有無を調べたスペクトル図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
〈水素発生システムについて〉
本発明の水素発生システムは、ギ酸とイオン液体の混合液体を収容し、加熱下でギ酸とイオン液体の混合液体中のギ酸を水素と二酸化炭素に分解する水素生成反応部;および水素生成反応部から供給された水素と二酸化炭素の混合物を水素と二酸化炭素とに分離可能な分離部を備え、分離処理後における水素を分離部から外部の水素送出先へ送出し、かつ二酸化炭素を分離部から外部の二酸化炭素送出先へ送出するかあるいは大気中に排出するように構成されている。
【0015】
なお、本発明の水素発生システムにおいて、ギ酸およびギ酸とイオン液体の混合液体と接触する部分は耐食性の材料にて形成されていることが望ましい。ギ酸に対する耐食性を有する材料としては、例えば、セラミック、ガラス、あるいはTi−Pd合金、純ジルコニウム、Ni−Mo−Cr系合金、ステンレス鋼等の金属、あるいはポリプロピレン(PP)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリエチレン(PE)、硬質塩化ビニル(PVC)、ポリサルホン(PSF)、塩化ビニリデン(PVDC)、ポリビニルアルコール(PVA)、フッ素樹脂(PTFE)、メチルペンテン樹脂(TPX)等の熱可塑性樹脂、フェノール樹脂(PF)、フラン樹脂(FF)等の熱硬化性樹脂、前記金属表面をセラミック、ガラス、あるいは前記樹脂にてコーティングした複合材料が挙げられる。ギ酸とイオン液体の混合液体は加熱されるため、ギ酸とイオン液体の混合液体と接触する部分には熱可塑性樹脂を用いない方がよい。
【0016】
本発明の水素発生システムは、次のように構成されてもよい。
すなわち、外部から供給されたギ酸を貯蔵するギ酸貯蔵部をさらに備え、前記ギ酸貯蔵部から前記水素生成反応部へギ酸を供給するように構成する。この構成によれば、水素生成反応部の反応容器内のギ酸の量を、効率よくギ酸から水素を発生できる量に制御する制御システムを構成することが可能となる。また、オペレーターが反応容器内のギ酸量を測定し監視する手間、およびオペレーターが反応容器内にギ酸を補充する手間が省けるため、人的負荷を軽減しながら安定した水素供給を行うことができる。
ギ酸貯蔵部から前記水素生成反応部へギ酸を供給するタイミングは、例えば、反応容器内のギ酸量が所定量以下となったときに設定することができる。反応容器内のギ酸量は、例えば、反応容器内にレベルセンサを設けてギ酸とイオン液体の混合液体の液面を検出する、あるいは反応容器から分離部へ水素と二酸化炭素の混合物を送出するラインに流量センサまたは水素濃度センサを設けて混合物流量または混合物中の水素濃度を検出する、あるいは反応容器内に圧力センサを設けて混合物の圧力を検出することにより間接的に測定できる。
【0017】
また、本発明の水素発生システムは、イオン液体を収容すると共に、外部から水素と二酸化炭素が導入され、イオン液体の存在下で水素と二酸化炭素からギ酸を合成するギ酸合成反応部をさらに備え、該ギ酸合成反応部にて合成したギ酸を前記水素生成反応部へ供給可能に構成してもよい。この構成によれば、例えば、工場にて発生する水素および/または二酸化炭素を回収し、回収した水素および/または二酸化炭素を利用してギ酸を合成し、必要時にギ酸から水素を取り出し、水素を利用して発電することが可能となる。換言すると、ギ酸合成反応部を備えた水素発生システムによれば、従来大気中に排出していた水素および/または二酸化炭素を工場での自家発電用に有効利用することが可能となり、省エネルギーおよび環境保全に大いに貢献できる。
【0018】
〔水素生成反応部〕
本発明において、水素生成反応部は特に限定されるものではないが、水素生成反応部を次の(1)〜(4)のように構成することにより、効率よく水素を生成することができ、構成(1)〜(4)を適宜組み合わせることで更なる効率アップを図ることができる。
【0019】
(1)前記水素生成反応部が、前記ギ酸とイオン液体の混合液体を収容する密閉型反応容器と、該反応容器内のギ酸とイオン液体の混合液体を加熱する加熱手段と、前記反応容器内のギ酸とイオン液体の混合液体の表面積を拡大する展延部とを備え、
前記反応容器が、内部で発生した前記混合物を前記分離部に向けて送出するための混合物送出口を有する。
この展延部は、反応容器内のギ酸とイオン液体の混合液体の表面積を拡大し、それによってギ酸および/またはギ酸水溶液とイオン液体との接触部位を広げ(増加させ)ることで、ギ酸を効率的に水素と二酸化炭素に分解させるための分解反応促進手段である。このようにギ酸および/またはギ酸水溶液とイオン液体との接触部位面積を広くすることで、ギ酸および/またはギ酸水溶液をイオン液体に溶解させる界面をより多く提供し、ギ酸および/またはギ酸水溶液を粘性の高いイオン液体に溶解させるステップを短時間で行えるようにしている。さらに、ギ酸および/またはギ酸水溶液とイオン液体のナノ界面に生ずる局所的な強い電場勾配の揺らぎによって電子移動を伴う化学反応は促進されるため、展延部の狙いとしては、より多くの界面を作り出すことによって無触媒であってもギ酸分解反応を促進させることもある。この構成によれば、高温でありエネルギー状態が高いギ酸でなくても、イオン液体と溶媒和し、かつナノ界面に生じる局所的電場勾配の揺らぎによって、低温であってもギ酸分解反応が進行する。
【0020】
(2)前記展延部が、ギ酸とイオン液体の混合液体と接触するように前記反応容器内に可動に設けられた展延壁と、該展延壁を動かす駆動手段とを有し、前記展延壁を動かすことによりギ酸とイオン液体の混合液体をその液面上に持ち上げて展延壁の表面に沿って流すように構成する。
構成(2)によれば、反応容器内の限られたスペースにおいて、ギ酸とイオン液体の混合液体の表面積を容易に拡大することができる。また、一般にイオン液体は粘稠な液体であり、反応容器内のギ酸とイオン液体の混合液体を激しく撹拌しても、イオン液体とギ酸の接触部位を増加させ難いため、効率よく水素を生成することが難しい。これに対し、展延壁は、粘性を有するイオン液体の表面積を拡大し、ギ酸分解反応を促進させる手段として最適である。特に、展延壁を反応容器内で回転させる手法は、簡素な機構で、かつ少ない駆動エネルギーで高粘性のイオン液体の表面積を拡大するのに有効である。
【0021】
この可動式の展延壁の形状および動き等は特に限定されないが、イオン液体の表面積を小さいスペース内で大きく拡大できるようにすることが好ましい。例えば、1つ以上(好ましくは複数)の円板状展延壁を回転軸にて串刺し状に平行に連結し、各展延壁の下部をギ酸とイオン液体の混合液体中に浸すように設置し、モータといった駆動手段にて回転軸を回転させるよう構成する。この構成によれば、高粘性のイオン液体に対して比較的低抵抗で展延壁を回転させ、展延壁に付着したギ酸とイオン液体の混合液体を液面上に持ち上げて展延壁の表面に沿って流すことが連続的に行える。
なお、可動式展延壁の動きは、回転以外に、振り子のような揺動、シーソーのような回動、上下往復運動等でもよく、展延壁をこのように動かしてもイオン液体の表面積を拡大させることができる。
【0022】
(3)前記展延部が、前記反応容器内に立設された1つ以上の展延壁と、前記反応容器内の底部に溜まるギ酸とイオン液体の混合液体を汲み上げて前記展延壁の上部に吐出する液体循環ラインとを有し、ギ酸とイオン液体の混合液体を前記展延壁の上部から側面に沿って流すように構成する。
この場合の展延壁は、可動式の前記展延壁とは異なって固定式であり、例えば、反応容器内に1つまたは複数の展延壁を設けて反応容器内を複数に区画し、各展延壁の両側面に沿ってギ酸とイオン液体の混合液体を垂れ流すように構成することができる。
構成(3)によっても、反応容器内の限られたスペースにおいて、ギ酸とイオン液体の混合液体の表面積を容易に拡大することができ、それに加え、反応容器の強度アップを図ることができて好都合である。また、反応容器の外郭を構成する周囲壁の内面も展延壁の側面として利用すれば、ギ酸とイオン液体の混合液体の表面積をさらに拡大できるため好ましい。なお、この構成は、比較的低粘度のイオン液体を用いる場合に適しているが、液体循環ラインに設けるポンプの種類(例えば、ロータリーポンプ)によっては高粘度のイオン液体を循環させることも可能である。
【0023】
(4)前記展延壁が凹凸表面を有する。
構成(4)によれば、展延壁の側面の表面積が増加するため、展延壁の側面(凹凸表面

)に沿って流れ落ちるギ酸とイオン液体の混合液体の表面積が増加する。この結果、ギ酸および/またはギ酸水溶液をイオン液体に溶解させる界面がさらに多く提供され、水素生成効率がさらに向上する。
この場合、凹凸表面は、展延壁の表面に、凸部、凹部あるいは貫通孔を設けることにより形成できる。セラミック製の展延壁であれば自然に凹凸表面が形成され好都合である。凸部、凹部、貫通孔の形状および大きさは特に限定されず、例えば、イオン液体の粘度、展延壁の表面積、可動式展延壁の動く速度等に応じて最も効率よく水素を生成できるように設計すればよい。
【0024】
〔分離部〕
本発明において、分離部は特に限定されるものではないが、分離部を次の(A)〜(C)のように構成することにより、効率よく水素と二酸化炭素を分離することができ、構成(A)〜(C)を適宜組み合わせることで更なる効率アップを図ることができる。
【0025】
(A)前記分離部が、水素と二酸化炭素との前記混合物を通過させて二酸化炭素を溶かすための水を収容する水収容容器と、該水収容容器内に設けられて水収容容器内の前記混合物と水との接触界面を増加させる気液界面増加部とを備え、前記水収容容器が、二酸化炭素を水中に溶かすことにより分離した水素を外部へ送出する送出口を有する。
この気液界面増加部によって、水収容容器内の混合物と水の接触界面(気液界面)を増加させることにより、混合物中の二酸化炭素を水中へ効率よく溶かして水素を分離することができる。
【0026】
(B)前記気液界面増加部が、前記水収容容器内に設けられて複数の区画室を形成する水素および二酸化炭素を透過可能なフィルターを有し、前記混合物を前記複数の区画室内の水中に順次通過させることにより、混合物中の二酸化炭素を水中に溶かして水素と分離させるように構成してもよい。
分離部に用いるフィルターとしては、二酸化炭素を水に溶かすときは二酸化炭素がフィルターを透過し難く、水に溶けた二酸化炭素を気化させて排出するときは二酸化炭素がフィルターを透過し易い素材からなるフィルターが好ましく、例えば、樹脂繊維織物、樹脂繊維不織布、樹脂フィルム等が挙げられる。
区画室の数、すなわち、フィルターの数が多いほど混合物中から分離した水素の純度が高くなるが、多すぎると水素の分離時間が長くなる。また、フィルターの材質、厚み、平面の面積等によっても分離した水素の純度および分離時間が変動するため、これらを考慮してフィルターの材質、厚み、平面の面積、数等を設定すればよい。
構成(B)によれば、水収容容器内の限られたスペース内に簡素でありながら効果的な気液界面増加部を形成することができる。
【0027】
(C)前記分離部が、前記水収容容器内の水の冷却および加熱を切り換えて行う水温調整機構と、前記送出口に設けられて送出方向を切り換える切換弁とをさらに備え、
前記水温調整機構にて冷却した前記水収容容器内の水に前記混合物を通し水中に二酸化炭素を溶かすことにより水素を分離し、その水素を前記送出口から外部の水素送出先に送出し、前記切換弁を切換え、前記水温調整機構にて二酸化炭素が溶けた水を加熱することにより二酸化炭素を発生させ、その二酸化炭素を前記送出口から外部に送出するように構成してもよい。
この場合、水温調整機構は、水収容容器内の水の冷却および加熱を切り換えて行うことができれば特に限定されるものではないが、冷却および加熱効果が高いことが好ましい。例えば、熱媒体(冷媒とも言う)を用いたヒートポンプを水温調整機構として採用すれば、高い冷却および加熱効果を得ることができる。しかも共通のヒートポンプサイクル経路を用いて水収容容器内の水の冷却と加熱を切り換えて行うことができるため、水温調整機構の簡素化も図ることができる。例えば、本発明の水素発生システムを水素燃料自動車に搭載する場合、水素燃料自動車のエアーコンディショナーの圧縮機を水温調整機構(ヒートポンプ)にも共用することができ、好都合である。
【0028】
〔ギ酸合成反応部〕
本発明の水素発生システムにおいて、本発明者によって見出された新しい知見に基づく、イオン液体の存在下での水素と二酸化炭素との反応によるギ酸生成を行うギ酸合成反応部を併設することができる。
ギ酸合成反応部の構成は特に限定されるものではないが、ギ酸合成反応部を次の(I)〜(V)のように構成することにより、効率よくギ酸を合成することができ、構成(I)〜(V)を適宜組み合わせることで更なる効率アップを図ることができる。
【0029】
(I)前記ギ酸合成反応部は、合成されたギ酸を外部へ送出するための送出部を有する密閉型反応容器と、該反応容器内のイオン液体を加熱する加熱手段と、該反応容器内に設けられて反応容器内のイオン液体の表面積を拡大する展延部とを備える。
(II)前記展延部が、イオン液体と接触するように前記反応容器内に可動に設けられた展延壁と、該展延壁を動かす駆動手段とを有し、前記展延壁を動かすことによりイオン液体をその液面上に持ち上げて展延壁の表面に沿って流すように構成する。
(III)前記展延部が、前記反応容器内に立設された1つ以上の展延壁と、前記反応容器内の底部に溜まるイオン液体を汲み上げて前記展延壁の上部に吐出する液体循環ラインとを有し、イオン液体を前記展延壁の上部から側表面に沿って流すように構成する。
(IV)前記展延壁が凹凸表面を有する。
つまり、ギ酸合成反応部も、前記水素生成反応部と同様に構成する。
(V)前記ギ酸合成反応部が複数設けられる。
【0030】
ギ酸合成反応部の場合、展延部は、反応容器内のイオン液体の表面積を拡大し、それによって水素および二酸化炭素の混合物とイオン液体との接触部位を広げ(増加させ)ることで、水素と二酸化炭素からギ酸を効率的に合成するための合成反応促進手段である。このように水素および二酸化炭素の混合物とイオン液体との接触部位面積を広くすることで、前記混合物をイオン液体に接触させる界面をより多く提供している。さらに、前記混合物とイオン液体のナノ界面に生ずる局所的な強い電場勾配の揺らぎによって電子移動を伴う化学反応は促進されるため、展延部の狙いとしては、より多くの界面を作り出すことによって無触媒であってもギ酸合成反応を促進することもある。この構成によれば、高温でありエネルギー状態が高い混合物でなくても、界面に生じる局所的電場勾配の揺らぎによって、低温低圧であってもギ酸合成反応が進行する。
【0031】
〈水素発生システムを用いた水素の製造方法〉
次に、前記構成を有する水素発生システムを用いた水素の製造方法について説明する。
本発明において用いられるイオン液体は、陽イオンおよび陰イオンからなる塩であって、その蒸気圧は極めて低く常温〜200℃の温度範囲で液体である。イオン液体に溶解したギ酸は100〜250℃という比較的低い温度で分解が進行し、水素を発生する。
また、イオン液体中におけるギ酸分解反応は、熱水中におけるギ酸分解反応よりも低温で分解反応が進行する。この効果は、ギ酸の周囲に存在する溶媒であるイオン液体による影響であり、「溶媒効果」と考えられる。この「溶媒効果」は、レアアースなどの貴金属を用いない「無触媒でのイオン液体中におけるギ酸反応」という本発明の特徴である。
【0032】
本発明に用いられる「イオン液体」とは、イミダゾリウム塩類およびピリジニウム塩類などのアンモニウム系、リン化合物であるホスホニウム系イオンなどの陽イオンと;臭化物イオンなどのハロゲン系、トリフラートおよびトリフルオロアセトキシイオンなどのハロゲン化アルキルオキシイオン系、テトラフェニルボレートなどのホウ素系、ヘキサフルオロホスフェートなどのリン酸系などの陰イオン;との組合せによる塩からなるイオン液体を意味するが、これに限定されるものではない。
【0033】
しかし、繰り返し使用の観点から、好適なイオン液体としては、下記の一般式(1)で示すように、陽イオンとしてホスホニウム系イオン、陰イオンとしてギ酸イオン、塩化物イオン、または硝酸イオンなどの親水性アニオンとからなるイオン液体が好ましく、ギ酸から水素と二酸化炭素に効率よく分解することができる。また、入手の容易さおよび分子設計の容易さの観点からも好ましい。この場合、イオン液体における陰イオンとしてギ酸イオン、塩化物イオン、または硝酸イオンと置き換わり得る陰イオンを有するイオン液体を原料として用い、Biomacromolecules, Vol. 7, 3295-9297に記載の方法に基づいて、この原料としてのイオン液体における陰イオンをギ酸イオン、塩化物イオン、または硝酸イオンに置き換えることで本発明に用いることができる。なお、ホスホニウム系イオンとギ酸イオン、塩化物イオン、または硝酸イオンとからなるイオン液体中に、原料中の陰イオンが含まれていてもよい。
【0034】
【化1】

[式中、
1、R2、R3およびR4は、互いに同一または異なって、ハロゲン原子によって置換されてもよいアルキル基あるいは1〜3個のハロゲン原子または低級アルキルもしくはアルコキシ基により、o位またはp位が置換されていてもよいアリール基もしくはヘテロアリール基を表し、
-はホスホニウムカチオンに対するカウンターアニオンを表す]
【0035】
前記一般式(1)で表されるホスホニウム塩系イオン液体において、R1、R2、R3、R4におけるハロゲン原子によって置換されてもよいアルキル基としては、1〜18個の炭素数を有する直鎖または分岐鎖状のアルキル基やパーフルオロアルキル基が例示され、具体的には、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、iso−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、iso−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−オクチル基、n−デシル基、n−ドデシル基、n−テトラデシル基、n−オクタデシル基、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基、ヘプタフルオロn−プロピル基、ヘプタフルオロiso−プロピル基、ノナフルオロn−ブチル基などが挙げられる。
1〜3個のハロゲン原子または低級アルキルもしくはアルコキシ基により、o位またはp位が置換されていてもよいアリール基としては、フェニル基、ベンジル基などが挙げられる。
1〜3個のハロゲン原子または低級アルキルもしくはアルコキシ基により、o位またはp位が置換されていてもよいヘテロアリール基としては、フラン、チオフェンなどが挙げられる。
【0036】
前記一般式(1)で表されるホスホニウム塩系イオン液体において、ホスホニウムカチオンは、R1、R2およびR3は炭素数1〜18のアルキル基、アリール基もしくはヒドロキシメチル基であり、R4は炭素数1〜18のアルキル基、アリール基、ヒドロキシメチル基もしくはシアノメチル基であるホスホニウムカチオンが好ましい。これらの中でも、ホスホニウムカチオンが、テトラフェニルホスホニウム塩、トリヘキシルテトラデシルホスホニウム塩、またはテトラブチルホスホニウム塩であることが特に好ましい。
【0037】
ホスホニウムカチオンに対するカウンターアニオンであるZ-としては、塩化物イオン(Cl-)や臭化物イオン(Br-)やヨウ化イオン(I-)などのハロゲン化物イオンの他、窒化物イオン(NO3-)、p−トルエンスルホン酸、メタンスルフォネートアニオン(CH3SO3-)、トリフルオロメタンスルフォネートアニオン(CF3SO3-)、ビス(トリフルオロメタンスルフォニル)イミドアニオン((CF3SO22-)、ギ酸アニオン(HCO2-)などが挙げられる。
【0038】
好適なイオン液体としては、ギ酸を原料として水素を製造するための媒体として反応の選択性(生成する水素の純度が高いこと)や速度に優れる、カウンターアニオンがギ酸アニオンであるイオン液体(すなわちギ酸塩)または最も強い電場を発生させる塩化物イオンが挙げられる。カウンターアニオンがギ酸アニオンであるイオン液体、例えば、強塩型イオン交換樹脂を用いたアニオン交換法によって、カウンターアニオンが臭化物イオンなどのギ酸アニオンとは異なるアニオンであるイオン液体から合成することができる(Biomacromolecules、7巻、3295-3297ページ、2006年)。カウンターアニオンがギ酸アニオンとは異なるアニオンであるイオン液体は、種々のイオン液体が市販されているが、市販されていないイオン液体は、例えば、Ionic liquids in Synthesis I、Wiley-VCH、2007年に記載の方法によって合成することができる。
【0039】
ギ酸とイオン液体との混合割合(モル比)は、1:15〜20:1が好ましく、1:15〜5:1が好ましい。
イオン液体に対してギ酸の割合が前記混合割合よりも少ないと水素生成収率が著しく減少するおそれがある。一方、イオン液体に対してギ酸の割合が前記混合割合よりも多くなるとギ酸の脱カルボニル化(decarbonylation:HCOOH→H2O+CO)が脱カルボキシル化も同時に起こることで水素の生成効率が著しく低下するおそれがある。ギ酸とイオン液体との混合割合について、水素生成収率が高くなる好適な例としては、イオン液体のカチオンが3つのn−ヘキシル基と1つのn−テトラデシル基からなり、アニオンが塩化物イオンであるホスホニウム系イオン液体の場合、ギ酸とイオン液体との混合割合が0.8:1よりギ酸のモル比が低い場合である。
【0040】
ギ酸とイオン液体の混合液体からのギ酸の脱カルボキシル化による水素の製造は、イオン液体を使用しないでギ酸から水素を製造する際の必要な加熱温度に比較して、有意に低い加熱温度で十分である。加熱温度は、特に限定されないが、常温より若干高められた温度(例えば、約40℃や約50℃)〜約250℃の間の温度である。約100℃〜約250℃が好ましい温度であり、使用するイオン液体の種類、使用量などによって異なる。なお、加熱温度は、40℃を下回るとギ酸の脱カルボキシル化の速度が著しく低下し、約250℃を超えるとイオン液体の分解が起こるおそれがある。なお、加熱時間は、例えば、10分〜100時間である。反応系内に生成した水素と二酸化炭素の分離は、後述の分離部によって行われる。
【0041】
本発明における水素の製造方法によれば、金属触媒を用いることなく水素を簡便に製造することができるが、金属触媒を用いてもよい。金属触媒を用いることにより、金属触媒を用いない場合の好適な加熱温度に比較して50℃以上低い加熱温度であっても(例えば加熱温度が50℃であっても)、水素を速い生成速度で生成することができる。
金属触媒としては、周期表第8,9,10族の遷移金属(Ru,Rh,Irなど)の単純塩(塩化物や酸化物)や錯体(配位子の具体例:アミン、ホスフィン、共役ジエンなど)などが挙げられる。より具体的には、金属触媒として、ジクロロテトラキス(トリフェニルホスフィン)ルテニウムを用いることができる。
【0042】
金属触媒の使用量は、例えば、ギ酸とイオン液体の混合重量の0.1〜3%程度でよい。具体的には、水素反応室内に送られるギ酸とイオン液体の混合液100重量部に対して0.1〜3重量部の金属触媒を、イオン液体に添加するか、または、例えば、多孔性セラミックのような担持体に担持させ、金属触媒担持体を水素生成反応部の反応容器内に固定する。
【0043】
〈水素発生システムを備えた移動体〉
水素エンジン自動車や燃料電池自動車といった水素燃料自動車は、水素燃料源として圧縮水素ガスまたは液化水素を貯蔵した水素ボンベを搭載していることが一般的である。本発明の水素発生システムは、水素燃料源としての従来の水素ボンベに代えて、水素燃料自動車に搭載可能である。
すなわち、本発明によれば、本発明の本水素発生システムと、この水素発生システムから供給された水素を燃料として駆動する水素エンジンとを備えた移動体、あるいは、本発明の水素発生システムと、この水素発生システムから供給された水素を燃料として発電する燃料電池とを備えた移動体が提供される。
ここで、移動体とは、水素エンジンまたは燃料電池を備えた、自動車、バス、トラック、ダンプカー、タンクローリーおよび列車などの車両、クレーン、ブルドーザーおよびパワーショベルなどの建築土木機械、ヨット、モーターボートおよびクルーザーなどの小型船舶、客船、貨物船およびタンカーなどの大型船舶が含まれる。
なお、これらの移動体において、水素エンジンにより生み出された駆動力、または燃料電池により生み出された電力は、移動体の推進力を得るために使用されること以外に、移動体に備えられた各種の機械設備、電子機器、計器類等を作動させるために使用されてもよく、移動体の外部に取り出されて家庭用、外部機器用等の電力として使用されてもよい。
【0044】
本発明において、移動体は、二次電池をさらに備えてもよい。
この二次電池(例えば、リチウムイオン二次電池)は、本発明の水素発生システムが運転開始から水素取り出しまでの間の予備的な電源となるため、水素発生システムの運転開始直後でも移動体を駆動させることができる。なお、水素エンジン自動車の場合、二次電池から電力が供給されることにより車輪を回転させるモータが必要となる。
【0045】
〈水素発生システムを備えた発電装置〉
また、本発明によれば、本発明の水素発生システムと、燃料電池または水素タービンとを備えた発電装置が提供され、一般住宅、集合住宅、商業ビル、店舗、工場、宿泊施設、学校、病院、役所、浄水場、キャンプ場、遊園地、劇場、映画館、美術館、博物館、競技場、球場、駅、空港、港、発電所等のあらゆる場所においてギ酸を燃料としたクリーンな発電を行うことが可能となる。また、前記移動体が、この発電装置を備えることにより、例えば、停電した被災地において緊急的に発電することが可能な電源車となる。
以下、図面を参照しながら本発明の水素発生システムの実施形態について詳説する。なお、以下の各実施形態では、水素および二酸化炭素が気体の状態である場合について説明するが、これは説明のための一例であって、水素および二酸化炭素は物質の三態に限定する必要はない。
【0046】
(実施形態1)
図1は本発明の水素発生システムの実施形態1を示す概略構成図である。図2は実施形態1の水素発生システムにおける分離部を示す透視斜視図である。図3は実施形態1の水素発生システムにおける複数の分離部を示す概略構成図である。図4は実施形態1の水素発生システムにおける複数の分離部および水温調整機構を示す概略構成図である。図5は実施形態1の水素発生システムの制御系統を説明するブロック図である。図6は本発明の水素発生システムの実施形態1を搭載した水素燃料自動車を示す概念図である。図7は図6の水素燃料自動車における本発明の水素発生システムの運転フローの一例を説明する第1の図である。図8は図7の運転フローの途中を説明する第2の図である。図9は図7の運転フローの途中を説明する第3の図である。
【0047】
〈水素発生システムの構成〉
先ず、実施形態1の水素発生システムの構成について説明し、その後、水素発生システムの運転時の動作について説明する。
図1に示すように、本発明の実施形態1の水素発生システムは、水素生成反応部1と、分離部20と、ギ酸貯蔵部30とを備える。
【0048】
〔水素生成反応部〕
水素生成反応部1は、ギ酸とイオン液体の混合液体FIを収容し、加熱下でギ酸とイオン液体の混合液体中のギ酸を水素と二酸化炭素に分解する。
分離部20は、水素生成反応部1から供給された水素と二酸化炭素の混合物を水素と二酸化炭素とに分離する。なお、図1では、4つの分離部20(図3参照)をユニット化した分離部ユニットU20が示されている。
ギ酸貯蔵部30は、ギ酸Fを貯蔵し、水素生成反応部1内のギ酸とイオン液体の混合液体FIのギ酸濃度に応じて水素生成反応部1にギ酸Fを補充する。
【0049】
具体的に説明すると、水素生成反応部1は、密閉可能な反応容器1aと、加熱手段としてのヒータ2と、展延部3とを備える。
反応容器1aは、直方体形に形成されたギ酸とイオン液体の混合液体FIを収容する容器であり、その内部で発生した前記混合物を分離部20に向けて送出するための混合物送出口1bを有している。混合物送出口1bは、例えば、反応容器1aの上壁に形成されており、バルブV2およびポンプP2を有するパイプラインL2の上流端と接続されている。反応容器1aは、例えばセラミックからなる。あるいは、セラミック製の内側容器と、ステンレス鋼製の外側容器とから反応容器1aを構成してもよい。
ヒータ2は、例えば、シーズヒータ、カートリッジヒータ等からなり、反応容器1aを介して内部の混合液体FIを加熱する。実施形態1の場合、ヒータ2は反応容器1aの底部の外面に設けられている。なお、反応容器1a内の熱が外部に放出するのを抑制するために、断熱材にて反応容器1aを覆ってもよい。
【0050】
展延部3は、反応容器1a内に設けられてその内部のギ酸とイオン液体の混合液体FIの表面積を拡大するものである。実施形態1の場合、展延部3は、複数の円板状展延壁3aおよびこれらを串刺し状に平行に連結する回転軸3bと、回転軸を回転させる駆動手段3cとを備え、各展延壁3aの下部がギ酸とイオン液体の混合液体FI中に浸すように設置されている。このとき、イオン液体の粘度が高い程、ギ酸はイオン液体に溶解および/または混合し難く、イオン液体上にギ酸が溜まり易いため、各展延壁3aは下層のイオン液体中に浸漬する位置に配置される。展延壁3aは、例えば、回転軸3bを挿通させる中心孔を有する円板状セラミックからなり、その外周面には複数の溝が形成されている。なお、展延壁3aはこの形状に限らず、例えばギヤ形でもよい。
【0051】
回転軸3bもセラミックからなる。各展延壁3aと回転軸3bの連結構造は、例えば、各展延壁3aの中心孔と回転軸3bの外周面に相互に係合する切欠き凹部と係合凸部を形成し、各展延壁3aと回転軸3bとが一体状に回転する構造である。なお、各展延壁3aの位置がずれないように、例えば、各展延壁3aの両側位置の回転軸3bにセラミック製のネジを螺着する。
回転軸3bの両端は、反応容器1aの対向壁に回転可能かつ気密に枢着され、回転軸3bの一端は反応容器1aから突出して駆動手段3cに連結されている。
駆動手段3cは、例えば、モータ3c1と、モータ3c1の駆動軸先端に固定された第1プーリ3c2と、回転軸3bの一端に固定された第2プーリ3c3と、第1および第2プーリ3c2、3c3に掛けられたベルト3c4とからなる。なお、第1、第2プーリ3c2、3c3およびベルト3c4の代わりに、スプロケットおよびチェーンを用いてもよい。
【0052】
また、水素生成反応部1は、反応容器1aの内部に設けられてギ酸貯蔵部30からのギ酸を各展延壁3aの上部に吐出する吐出部6と、反応容器1aの内部に設けられてギ酸とイオン液体の混合液体FIの温度を検出する温度センサ4および混合液体FIの液面を検出するレベルセンサ5とを備えている。
吐出部6は、後述するパイプラインL3を介してギ酸貯蔵部30と接続されるメインパイプ6aと、メインパイプ6aから分岐して各展延壁3aの上方に配置される複数の分岐パイプ6bとを備える。
イオン液体が高粘性である場合、イオン液体の上にギ酸が溜まり易いため、レベルセンサ5はギ酸の液面を検出することになる。
【0053】
〔ギ酸貯蔵部〕
ギ酸貯蔵部30は、外部から供給されたギ酸Fを貯蔵する密閉可能な貯蔵タンク31と、貯蔵タンク31内に設けられたレベルセンサ32とを有する。
貯蔵タンク31は、例えば、反応容器1aと同様に、セラミックまたはセラミックとステンレス鋼の二重構造からなり、上部に設けられて外部からギ酸を補給するための開閉可能な補給口と、底部に設けられた排出口31aとを有し、排出口31aはバルブV3とポンプP3を有する前記パイプラインL3の上流端と接続されている。また、パイプラインL3の下流端は、前記水素生成反応部1の吐出部6のメインパイプ6aに接続される。
なお、実施形態1において、貯蔵タンク31に収容される「ギ酸F」とは、必ずしも濃度100%のギ酸のみを意味しているのではなく、任意のギ酸濃度のギ酸水溶液も含まれる。
【0054】
〔分離部〕
分離部20は、図2〜図4に示すように、水素生成反応部1からの前記混合ガスGを通過させて二酸化炭素を溶かすための水Waを収容する水収容容器21と、水収容容器21内に設けられて水収容容器21内の混合ガスGと水Waとの接触界面を増加させる気液界面増加部22と、水収容容器21内の水の冷却および加熱を切り換えて行う水温調整機構23と、切換ラインL4とを備える。
【0055】
水収容容器21は、混合ガスGを内部に導入する導入口21aを下端に有すると共に、内部に導入した混合ガスG中の二酸化炭素を水Waに溶かすことにより分離した水素を外部へ送出する送出口21bを上端に有する。また、水収容容器21の上部には、開閉可能な給水口が設けられる。
導入口21aは前記パイプラインL2および後述の切換ラインL4に接続しており、切換ラインL4における導入口21aの近傍には水の逆流を防止する逆止弁CVが設けられている。また、送出口21bには、送出方向を切り換える切換弁(後述の切換ラインL4の三方弁3V12、3V13、3V22、3V23)が設けられている。
【0056】
気液界面増加部22は、水収容容器21内に設けられて複数の区画室を形成する水素および二酸化炭素を透過可能な複数枚のフィルター22aを有してなる。実施形態1の場合、フィルター22aは水収容容器21内に5枚設けられている。この気液界面増加部22によれば、混合ガスGを複数の区画室内の水中に順次通過させることにより、混合ガスG中の二酸化炭素を水中に溶かして水素と分離させることができる。
フィルター22aを水収容容器21内に取り付ける取付構造としては、例えば、水収容容器21を、筒形の胴部と、この胴部両端に接続させる導入部および送出部とで構成する。そして、複数枚のフィルター22aを所定間隔で内部に保持したフィルターカートリッジを、前記胴部内にシール材を介して気密に組み込んだ後、胴部に前記導入部と送出部とをシール材を介して液密に連結する。
【0057】
図3に示すように、実施形態1において、分離部20は4つ設けられており、2つの分離部20によって1グループが構成されている。そして、分離部20の各グループは、前記切換ラインL4を介して前記パイプラインL2の下流端と接続している。つまり、第1グループGr1と第2グループGr2が切換ラインL4によって接続することによって分離部ユニットU20(図1参照)が構成されている。
実施形態1における切換ラインL4は、分離部20の第1グループGr1と第2グループGr2に異なるタイミングで混合ガスGを供給し、かつ同じグループ内の2つの分離部20に異なるタイミングで混合ガスGを供給することができれば、図3に示したライン経路に限定されない。
【0058】
実施形態1の場合、切換ラインL4は、パイプラインL2の下流端と接続した三方弁3V1と、この三方弁3Vと第1グループGr1の各分離部20の導入口21aとを接続するラインL41aと、三方弁3Vと第2グループGr2の各分離部20の導入口21aとを接続するラインL42aとを備える。また、ラインL41a、L42aは、三方弁3V11、3V21を有しており、三方弁3V11、3V21を介して分岐して第1および第2グループGr1、Gr2における一方の分離部20と接続している。
さらに、切換ラインL4は、第1グループGr1の各分離部20の送出口21bを三方弁3V12、3V13を介して接続するラインL41b、L41cと、第2グループGr2の各分離部20の送出口21bを三方弁3V22、3V23を介して接続するラインL42b、L42cと、第1グループGr1のラインL41bおよび第2グループGr2のラインL42bに接続されて水素を水素送出先へ供給するラインL43と、第1グループGr1のラインL41cおよび第2グループGr2のラインL42cに接続されて二酸化炭素を大気中へ放出するラインL44とを備える。
【0059】
水温調整機構23は、図4の上半部に示すように、熱媒体(例えば、アンモニア、二酸化炭素等)を用いたヒートポンプである。なお、図4において、前記切換ラインL4は図示省略している。
実施形態1における水温調整機構23は、分離部20の第1および第2グループGr1、Gr2を異なるタイミングで冷却および加熱し、かつ同じグループ内の2つの分離部20を異なるタイミングで冷却および加熱することができれば、図4に示したライン経路に限定されない。
実施形態1における水温調整機構23は、圧縮機23Aと、第1グループGr1側の2つの熱交換部23B1、23B2および1つの膨張弁23C1と、第2グループGr2側の2つの熱交換部23B3、23B4および1つの膨張弁23C2と、これらを接続するパイプライン23Eと、パイプラインE内を流れる熱媒体とを備えている。
【0060】
第1グループGr1において、一方の熱交換部23B1は一方の分離部20を収容するケース23Baを備える。このケース23Baは、分離部20に接続された切換ラインL4を密封状に挿通させると共に、パイプライン23Eと接続する接続孔を上下端部に有している。
第1グループGr1において、他方の熱交換部23B2は他方の分離部20を収容するケース23Daを備える。このケース23Daも、ケース23Baと同様に、分離部20に接続された切換ラインL4を密封状に挿通させると共に、パイプライン23Eと接続する接続孔を上下端部に有している。
第2グループGr2における一方の熱交換部23B3および他方の熱交換部23B4は、第1グループGr1における一方の熱交換部23B1および他方の熱交換部23B2と同様である。
【0061】
パイプライン23Eは、第1グループGr1における熱交換部23B1、膨張弁23C1および熱交換部23B2を直列的に接続した第1接続ライン23E3と、第2グループGr2における熱交換部23B3、膨張弁23C2および熱交換部23B4を直列的に接続した第2接続ライン23E4と、第1および第2接続ライン23E3、E4を並列かつどちらか一方の接続ラインに熱媒体が流れるように切換える第1および第2メインライン23E1、23E2とを備える。
さらに、パイプライン23Eは、第1メインライン23E1と第2メインライン23E2とをクロス状に接続する第1バイパスライン23E5および第2バイパスライン23E6とを備える。
また、第1メインライン23E1、第1接続ライン23E3および第2接続ラインE4の接続箇所と、第2メインライン23E2、第1接続ライン23E3および第2接続ラインE4の接続箇所と、第1バイパスライン23E5および第2メインライン23E2の接続箇所と、第2バイパスライン23E6および第1メインライン23E1の接続箇所には、三方弁3V31、3V32、3V33、3V34が設けられている。
【0062】
圧縮機23Aは、水温調整機構23の専用の圧縮機であっても、他のヒートポンプと共用の圧縮機であっても、どちらでもよい。
実施形態1の場合、図6に示すように、例えば、本発明の水素発生システムを燃料電池自動車Cに搭載し、1つの圧縮機23Aを燃料電池自動車Cのエアーコンディショナーと水素発生システムの水温調整機構に共用している。図6に示す燃料電池自動車Cの場合、本発明の水素発生システムの水素生成反応部と分離部を一体化した水素発生ユニットU、および燃料電池FBを車体前方部に設置し、水素発生システムのギ酸貯蔵部30を車体後方部に設置している。さらに、車体中央部の床下に二次電池(例えば、リチウムイオン二次電池)Bを設置している。なお、この燃料電池自動車Cの運転について詳しくは後述する。
【0063】
図4の下半部に示すように、燃料電池自動車のエアーコンディショナー40は、圧縮機23Aと、室外熱交換部41と、膨張弁42と、室内熱交換部43と、これらを直列的に接続するメインライン44と、三方弁3V41を介してメインライン44の圧縮機吐出側と圧縮機吸入側を接続する第1バイパスライン45と、第1バイパスライン45とクロスするように三方弁3V42を介してメインライン44の圧縮機吐出側と圧縮機吸入側を接続する第2バイパスライン46と、熱媒体とを備える。
室外熱交換部41は、蛇管部41aと、蛇管部41aに室外の空気を送風することによって蛇管部41aを通る熱媒体と外気との間で熱交換を促す第1ファン41bとを有する。室内熱交換部43は、蛇管部43aと、蛇管部43aに室内の空気を送風することによって蛇管部43aを通る熱媒体と外気との間で熱交換を促す第2ファン43bとを有する。
【0064】
〔制御部〕
図5に示すように、本発明の水素発生システムは、その運転を制御する制御部50を備えていてもよい。この場合、制御部50は、例えば、水素発生システムをON・OFFする運転スイッチと共に制御盤に設けられる。あるいは、前記燃料電池自動車といった移動体の駆動を制御する制御部にて水素発生システムの運転を制御させるようにしてもよい。
この場合、制御部50は、水素発生システムにおけるヒータ2、温度センサ4、レベルセンサ5、各ラインL2、L3のポンプP2、P3およびバルブV2、V3、ギ酸貯蔵部30のレベルセンサ32、分離部20の三方弁3V、3V11、3V12、3V13、3V21、3V22、3V23、水温調整機構23の三方弁3V31、3V32、3V33、3V34、3V22等と電気的に接続されている。
この制御部50は、温度センサ4およびレベルセンサ5、32からの検出信号が入力されると共に、各センサからの検出信号および予め設定された運転プログラムに基づいてヒータ2、各ポンプP2、P3、各バルブV2、V3、各三方弁3V、3V11、・・・、3V31、3V32、・・・をON・OFF制御するように構成される。
【0065】
〈水素発生システムの運転時の動作について〉
本発明の水素発生システムは、例えば、次のように運転プログラムに基づいて運転する(図1〜図5参照)。
水素発生システムの前記運転スイッチをONすることにより、水素生成反応部1、分離部20、ギ酸貯蔵部30、およびこれらを接続する各ラインが作動する。
水素生成反応部1においては、ヒータ2が発熱することにより、反応容器1aを介してギ酸とイオン液体の混合液体FIが加熱される。また、モータ3c1が回転し、モータ3c1の回転力が第1プーリ3c2、ベルト3c3および第2プーリ3c4を介して回転軸3bに伝達され、回転軸3bと共に各展延壁3aが回転する。
各展延壁3aが回転することにより、各展延壁3aの周囲の加熱された混合液体FIが液面上に引き上げられる。特に、水飴のように高粘性のイオン液体は、展延壁3aへの粘着性が高いため、各展延壁3aの回転に伴って液面上に高く引き上げられ、イオン液体と共にギ酸も高く引き上げられる。それに加え、展延壁3aの外周面の複数の溝がイオン液体の引き上げに有効である。一方、展延壁3aは厚みが薄い円板形であるため、イオン液体に対する回転抵抗を小さくすることができ、モータ3c1に負荷がかかり過ぎないようにすることができる。
【0066】
各展延壁3aによって引き上げられるイオン液体は、各展延壁3aの表面(外周面および両側面)に沿って膜状になって広がり、それによって表面積が拡大する。そして、ギ酸は、膜状のイオン液体の表面に沿って膜状に広がり、ギ酸および/またはギ酸水溶液とイオン液体との接触部位が大幅に増加する。この結果、運転開始から短時間で、ギ酸とイオン液体の混合液体FI中のギ酸Fが水素と二酸化炭素に分解し、反応容器1a中に水素と二酸化炭素の混合ガスGが発生し、混合ガスGが分離部ユニットU20へ送られる。なお、ギ酸水溶液を用いた場合、反応容器1a内のイオン液体中に水が残留する場合や、発生した二酸化炭素の一部がイオン液体中に溶解する場合があるが、ギ酸の分解反応に大きく影響することはない。しかも、イオン液体中の水分および二酸化炭素が増加すると、加熱されたイオン液体から水分および二酸化炭素が気化し易くなるため、混合ガスGと混合して反応容器外へ排出される。
一方、展延部3の動作中、温度センサ4によってギ酸とイオン液体の混合液体FIの温度が検知され、その検知信号が制御部50に入力される。例えば、ギ酸とイオン液体の混合液体FIを150℃の温度範囲に加熱するよう設定した場合、制御部50は、ギ酸とイオン液体の混合液体FIの温度が、例えば、155℃を超えるとOFFし、145℃を下回るとONするよう各ヒータ12を制御する。
【0067】
反応容器1a内で混合ガスGが発生することにより、ギ酸とイオン液体の混合液体FIのギ酸濃度は減少する。レベルセンサ5はギ酸とイオン液体の混合液体FIの液面を検知して検知信号を制御部50に随時送信している。制御部50は、水素生成反応部1のギ酸とイオン液体の混合液体FIの液面が所定位置よりも低いと判定すると、バルブV3を開き、ポンプP3を駆動させ、ギ酸貯蔵部30の貯蔵タンク31内のギ酸Fを反応容器1a内の各展延壁3a上に滴下するよう制御する。これにより、例えば、ギ酸とイオン液体との混合割合(モル比)が20:1まで回復する。なお、ポンプP3の停止のタイミングは、例えば、混合液体FIの液面が所定位置まで回復したと制御部が判定した時点である。
ギ酸貯蔵部30においては、レベルセンサ32が貯蔵タンク31内のギ酸Fの液面を検知し、その検知信号を制御部50に随時送信している。制御部50は、貯蔵タンク31内のギ酸Fの液面が所定位置よりも低いと判定すると、補給信号を出力する。補給信号は、前記制御盤または運転席に設けられた表示部に入力され、それによってギ酸の補給時期をオペレーターに認識させる表示内容が表示部に表示される。
【0068】
バルブV2が開き、ポンプP2が駆動することにより、水素生成反応部1で発生した混合ガスGが分離部ユニットU20へ送られる。この分離部ユニットU20での水素と二酸化炭素の分離は、例えば、次のように行われる。
1番目に第1グループGr1の左の分離部20Aで水素分離が行われ、2番目に第2グループGr2の左の分離部20Cで水素分離が行われ、3番目に第1グループGr1の右の分離部20Bで水素分離が行われ、4番目に第2グループGr2の右の分離部20Dで水素分離が行われ、これを繰り返す。なお、2巡目以降においては、同じグループの一方の分離部20にて水素分離を行っている間に、他方の分離部20にて水中の二酸化炭素の脱気が行われる。以下、これについて詳しく説明する。
【0069】
〔第1グループの分離部20Aでの水素分離〕
分離部ユニットU20においては、例えば、先ず、第1グループGr1の一方の分離部20Aに混合ガスGを送るよう、三方弁3V、3V11を切り換える。このとき、第1グループGr1において、水温調整機構23によって、左の分離部20Aを冷却し、かつ右の分離部20Bを加熱しており、冷却された分離部20Aに下方から混合ガスGを送る。このとき、三方弁3V12は分離部20AとラインL43を連通させ、三方弁3V13は右の分離部20BとラインL43を遮断している。この間、第2グループGr2の各分離部20C、20Dは水温調整機構23により温度調整されない。なお、水温調整機構23の詳しい動作説明は後述する。
二酸化炭素の水への溶解度は水温が低いほど高いため、水温調整機構23による分離部20の水Waの冷却温度は、例えば、0〜5℃であり、脱気させる加熱は、例えば、50〜70℃である。
【0070】
水収容容器21の最も下の区画室内に送られた混合ガスGはフィルター22aの下面に沿って層状に溜まる。これにより、層状に広がった混合ガスGと水(冷水)Waとの接触面積が増加し、混合ガスG中の二酸化炭素が効率よく水中に溶けていく。なお、混合ガスG中に湿気が含まれている場合、湿気も水中に取り込まれる。一方、混合ガスG中の水素はフィルター22aを透過して次の上の区画室内に移動していく。また、混合ガスG中の一部の二酸化炭素はこの区画室内の水Waに溶けずにフィルター22aを透過して次の上の区画室内に移動する。
図2と図3に示すように、フィルター22aを透過した水素および二酸化炭素は、フィルター22aの上面に小さな気泡gとして現れ、その気泡gがフィルター22aから離れて水中を浮上し、次のフィルター22aの下面に付着する。このとき、二酸化炭素の気泡および二酸化炭素を含んだ混合ガスGの気泡gが水中を浮上するため、これらの気泡gに含まれた二酸化炭素と水Waの接触界面がさらに増加し、より効率よく二酸化炭素が水Waに溶けていく。このようにして、混合ガスGが水Waと接触しながら複数の区画室を下から上へ順次通過していくことによって混合ガスGの二酸化炭素濃度は低下していき、最も上の区画室には高い純度の水素が溜まり、水素は分離部20からラインL41b、L43を介して水素送出先へ送られる。
【0071】
〔第2グループの分離部20Cでの水素分離〕
各分離部20への混合ガスGの供給は、水収容容器21内の水Waが二酸化炭素で飽和する前に、例えば、時間によって制限される。
したがって、その制限時間となると、三方弁3V、3V21が切り換わり、第2グループGr2の左の分離部20Cに混合ガスGが供給される。これと同時に、第2グループGr2の左の分離部20Cが水温調整機構23によって冷却され、かつ右の分離部20Dが加熱される。そして、第2グループGr2の分離部20Cにおいても、第1グループGr1の分離部20Aと同様に、水素と二酸化炭素の分離が行われる。このとき、三方弁3V22は分離部20CとラインL43を連通させ、三方弁3V23は分離部20DとラインL43を遮断している。
この間、第1グループGr1の各分離部20A、20Bは水温調整機構23により温度調整されないため、冷却された分離部20Aおよび加熱された分離部20Bの内部の水Waの温度は常温に近づいていく。これにより、水温調整機構23によって次に分離部20Aを加熱し、かつ分離部20Bを冷却する際の省エネルギーが図られる。
【0072】
〔第1グループの分離部20Bでの水素分離〕
次に、三方弁3V、3V11が切り換わり、第1グループGr1の右の分離部20Bに混合ガスGが供給される。これと同時に、第1グループGr1の分離部20Bが水温調整機構23によって冷却され、かつ分離部20Aが加熱される。そして、分離部20Bにおいて水素分離が行われると共に、分離部20Aにおいて水中の二酸化炭素が気化し、各フィルター22aを透過して最も上の区画室に二酸化炭素が溜まる。このとき、三方弁3V13は分離部20BとラインL43を連通させ、三方弁3V12は分離部20AとラインL44を連通させているため、ライン43から水素送出先へ水素が供給され、ライン44から大気中へ二酸化炭素が放出される。
この間、第2グループGr2の各分離部20は水温調整機構23により温度調整されないため、冷却された左の分離部20Cおよび加熱された右の分離部20Dの内部の水Waの温度は常温に近づいていく。これにより、水温調整機構23によって次に分離部20Cを加熱し、かつ分離部20Dを冷却する際の省エネルギーが図られる。
【0073】
〔第2グループの分離部20Dでの水素分離〕
次に、三方弁3V、3V21が切り換わり、第2グループGr2の右の分離部20Dに混合ガスGが供給される。これと同時に、第2グループGr2の分離部20Dが水温調整機構23によって冷却され、かつ分離部20Cが加熱される。そして、分離部20Dにおいて水素分離が行われると共に、分離部20Cにおいて水中の二酸化炭素が気化し、各フィルター22aを透過して最も上の区画室に二酸化炭素が溜まる。このとき、三方弁3V23は分離部20DとラインL43を連通させ、三方弁3V22は分離部20CとラインL44を連通させているため、ライン43から水素送出先へ水素が供給され、ライン44から大気中へ二酸化炭素が放出される。
この間、第1グループGr1の各分離部20は水温調整機構23により温度調整されないため、冷却された左の分離部20および加熱された右の分離部20の内部の水Waの温度は常温に近づいていく。
このようにして、各分離部20から順番に高純度の水素が水素送出先へ供給され、かつ各分離部20から順番に二酸化炭素が大気中へ放出される。
【0074】
〔水温調整機構の動作〕
図3での説明のように、分離部ユニットU20においては、第1グループGr1の分離部20A、第2グループGr2の分離部20C、第1グループGr1の分離部20B、第2グループGr2の分離部20Dの順番で水素分離が行われ、これが繰り返される。
したがって、図4に示す水温調整機構23においては、第1グループGr1の熱交換部23B2、第2グループGr2の熱交換部23B4、第1グループGr1の熱交換部23B1、第2グループGr2の熱交換部23B3の順番で冷却が行われ、これが繰り返される。
以下、図4を参照しながら詳しく説明する。
【0075】
[第1グループの熱交換部23B2での冷却]
第1グループGr1の熱交換部23B2での冷却時、圧縮機23Aが駆動することにより、熱媒体は高温高圧ガスとなって矢印X方向に送り出され、第1メインライン23E1を通って第1グループGr1の熱交換部23B1のケース23Ba内に上方から放出される。これにより、高温高圧ガスは、分離部20Bと接触し、それによってこれらと熱交換する。すなわち、高温高圧ガスは、分離部20Bを加熱し、かつ放熱して凝縮し、高圧液に変化して第1ライン23E3の膨張弁23C1へ送られる。高圧液は、膨張弁23C1を通過することにより低圧液に変わり、低圧液は分離部20Aのケース23Da内に下方から導入される。これにより、低圧液は、分離部20Aと接触し、それによってこれらと熱交換する。すなわち、低圧液は、分離部20Aを冷却し、かつ吸熱して蒸発し、低圧ガスに変化して第2メインライン23E2を通って圧縮機23Aへ送られる。
【0076】
[第2グループの熱交換部23B4での冷却]
第2グループGr2の熱交換部23B4での冷却時、圧縮機23Aからの高温高圧ガスが第1メインライン23E1を通って第2グループGr2の熱交換部23B3のケース23Ba内に上方から放出される。これにより、高温高圧ガスは、分離部20Dと接触して熱交換して高圧液に変化すると共に、分離部20Dを加熱する。そして、高圧液は第2ライン23E4の膨張弁23C2を通過することにより低圧液に変わり、低圧液は分離部20Cのケース23Da内に下方から導入される。これにより、低圧液は、分離部20Cと熱交換して低圧ガスに変化すると共に、分離部20Cを冷却する。そして、低圧ガスは第2メインライン23E2を通って圧縮機23Aへ送られる。
【0077】
[第1グループの熱交換部23B1での冷却]
第1グループGr1の熱交換部23B1での冷却時、圧縮機23Aからの高温高圧ガスが第1メインライン23E1から第1バイパスライン23E5を通って第2メインライン23E2に入り、第1グループGr1の熱交換部23B2のケース23Da内に上方から放出される。これにより、高温高圧ガスは、分離部20Aと接触して熱交換して高圧液に変化すると共に、分離部20Aを加熱する。そして、高圧液は第1ライン23E3の膨張弁23C1を通過することにより低圧液に変わり、低圧液は分離部20Bのケース23Ba内に下方から導入される。これにより、低圧液は、分離部20Bと熱交換して低圧ガスに変化すると共に、分離部20Bを冷却する。そして、低圧ガスは第1メインライン23E1から第2バイパスライン23E6を通って第2メインライン23E2に入り、圧縮機23Aへ送られる。
【0078】
[第2グループの熱交換部23B3での冷却]
第2グループGr2の熱交換部23B3での冷却時、圧縮機23Aからの高温高圧ガスが第1メインライン23E1から第1バイパスライン23E5を通って第2メインライン23E2に入り、第1グループGr2の熱交換部23B4のケース23Da内に上方から放出される。これにより、高温高圧ガスは、分離部20Cと接触して熱交換して高圧液に変化すると共に、分離部20Cを加熱する。そして、高圧液は第2ライン23E4の膨張弁23C2を通過することにより低圧液に変わり、低圧液は分離部20Dのケース23Ba内に下方から導入される。これにより、低圧液は、分離部20Dと熱交換して低圧ガスに変化すると共に、分離部20Dを冷却する。そして、低圧ガスは第1メインライン23E1から第2バイパスライン23E6を通って第2メインライン23E2に入り、圧縮機23Aへ送られる。
【0079】
また、燃料電池自動車C(図6参照)の車内を冷房する際、エアーコンディショナーの熱媒体は、圧縮機23A、室外熱交換部41、膨張弁42、室内熱交換部43、および圧縮機23Aの順の経路を通る。この際、室内熱交換部43から車内に冷風が送風される。また、車内を暖房する際、エアーコンディショナーの熱媒体は、圧縮機23A、室内熱交換部43、膨張弁42、室該熱交換部41、および圧縮機23Aの順の経路を通る。この際、室内熱交換部43から車内に温風が送風される。
【0080】
本発明の水素発生システムを備えた図6に示す燃料電池自動車Cによれば、水素発生システムによって水素を発生させて燃料電池FBに供給するまでの間、燃料電池FBは発電しない。そのため、この間、二次電池Bからの電力を、水素発生システムに供給して作動させると共に、燃料電池自動車Cを走行させるモータ(図6ではホイールインモータ)に供給する。そして、燃料電池FBに水素が供給され、燃料電池FBによる発電が開始すると、二次電池Bからの水素発生システムおよびモータへの電力供給が停止し、燃料電池FBから水素発生システムおよびモータ等へ電力が供給される。また、車両走行時の制動エネルギーは電力に変換されて二次電池Bを充電すると共に、燃料電池FBからの余剰電力も二次電池Bに蓄電される。
【0081】
図7は図6の水素燃料自動車における本発明の水素発生システムの運転フローの一例を説明する第1の図である。図8は図7の運転フローの途中を説明する第2の図であり、図9は図7の運転フローの途中を説明する第3の図である。以下、図7〜図9を参照しながら、図6の水素燃料自動車における本発明の水素発生システムの運転フローの一例を説明する。なお、水素エンジンを備えた水素燃料自動車の運転フローも図7〜図9と同様である。
【0082】
まず、水素発生システムの運転スイッチをONすると、ヒータ、各センサ等に電力を供給して水素生成反応部、分離部およびギ酸貯蔵部を作動させる始動処理が行われると共に、各ラインが作動する。これにより、水素生成反応部においてギ酸とイオン液体の混合液体を加熱しながらギ酸を水素と二酸化炭素に分解していく。なお、例えば、水素燃料自動車の鍵を運転席の鍵穴に差し込んでONにしないと、水素発生システムの運転スイッチをONできないようにしてもよい。
次いで、運転スイッチがONであり、燃料電池が作動していないとき、水素発生システムから燃料電池へ未だ水素が供給されていないため、二次電池からの電力がモータに供給され、水素燃料自動車が走行可能となる。また、燃料電池が作動したときは、二次電池からのモータへの電力供給が休止する。なお、運転スイッチをOFFすると、ヒータ、各センサ等への電力供給を停止して水素生成反応部、分離部およびギ酸貯蔵部を停止させる停止処理が行われると共に、各ラインがストップする。
【0083】
この間、水素生成反応部において、反応温度およびギ酸濃度は次のようにして設定値内に維持されている。
水素生成反応部における反応温度が、例えば、設定値〜設定値+5℃の範囲よりも高いとヒータがストップし、設定値〜設定値−5℃の範囲よりも低いとヒータの電流値が増加する(図8参照)。
水素生成反応部におけるギ酸とイオン液体の混合液体の液面が、設定上限値よりも高いとギ酸貯蔵部から水素生成反応部へのギ酸の供給がストップし、設定下限値よりも低いとギ酸供給量が増加する(図9参照)。
なお、運転中の水素生成反応部において異常が発生した場合、例えば、ギ酸とイオン液体の混合溶液中のギ酸の割合、水素濃度、二酸化炭素濃度、水素と二酸化炭素の混合ガスGの圧力等が異常値を示した場合、任意の割り込み処理として、水素発生システムを停止するようにしてもよい。よって、このような異常事態を想定して、水素センサ、二酸化炭素センサ、圧力センサ等を水素生成反応部に設けてもよい。
【0084】
燃料電池自動車Cを停止する場合、水素発生システムの運転スイッチをOFFすることにより、水素生成反応部1の各ヒータ2への通電が停止するが、ギ酸とイオン液体の混合液体FIが所定温度(例えば、40℃)以下に自然冷却するまで反応容器1a内でのギ酸の分解による水素生成は停止しない。そのため、反応容器1a内での水素生成が停止するまでの間は、ギ酸の供給は停止し、各展延壁3aの回転、分離部ユニットU20への混合ガスGの供給、分離部ユニットU20の作動、分離部ユニットU20から燃料電池FBへの水素の供給、水素が供給された燃料電池FBによって発電した余剰電力を二次電池Bにて蓄電すること等を継続することが好ましい。
【0085】
この燃料電池自動車Cが走行する間に排出されるのは、二酸化炭素と水(水蒸気を含む)である。二酸化炭素はギ酸由来であり、例えば、化学工場から排出される二酸化炭素を使用してギ酸を製造すれば、燃料電池自動車Cから新たに二酸化炭素を排出したことにはならない。この燃料電池自動車Cの燃料は、ギ酸貯蔵部30に貯蔵されたギ酸であるため、残量に応じてギ酸を補給すればよい。なお、ギ酸を燃料とする燃料電池自動車Cを広く普及させるために、ガソリンスタンドと同様に、燃料補給施設としてのギ酸ステーションを一般道沿い、高速道路のサービスエリア等に設けることが望まれる。
【0086】
本発明の水素発生システムの水素生成反応部へ補給するためのギ酸は、どのような方法によって製造されたものであってもよく、例えば、イオン液体の存在下で水素と二酸化炭素を反応させて製造したギ酸であってもよい。この場合、例えば、水素と二酸化炭素が排出される工場にギ酸製造装置を設置し、このギ酸製造装置に水素と二酸化炭素を供給してギ酸を製造し、製造したギ酸を前記ギ酸ステーションへタンクローリーにて運搬することができる。このように、二酸化炭素固定に本発明を利用することもできる。また、本発明の水素発生システムと燃料電池または水素タービンをギ酸ステーションに設置することにより、ギ酸ステーションのギ酸を水素発生システムに供給し、水素発生システムにて生成した水素を燃料電池または水素タービンに供給して発電することが可能となる。なお、商業用または家庭用の燃料電池と水素発生システムを併設すれば、ビルや住宅等においても発電可能となる。
【0087】
(実施形態2)
図10は本発明の水素発生システムの実施形態2を示す概略構成図である。図11は実施形態2の水素発生システムにおける展延部を示す構成図であって、図11(A)は側面図、図11(B)は正面図である。図12は実施形態2の水素発生システムにおける水素生成反応部の別の展延部を示す構成図であって、図12(A)は側面図、図12(B)は正面断面図である。なお、図10において、図1中の要素と同様の要素には同一の符号を付している。
実施形態2の水素発生システムが実施形態1と異なる点は、水素生成反応部の構成のみであり、その他の構成は同じである。以下、実施形態2の実施形態1とは異なる点を主に説明する。
【0088】
具体的に説明すると、水素生成反応部10は、密閉可能な反応容器11と、ヒータ12と、展延部13と、液体循環ラインL1とを備える。
反応容器11は、実施形態1の反応容器1aと同様であり、その内部で発生した前記混合物を分離部20に向けて送出するための混合物送出口11aを有している。
展延部13は、実施形態2の場合、反応容器11内に平行に立設された複数枚の展延壁13aを有してなる。
図11および図12に示すように、この展延壁13aの左右の両側面は全面的に凹凸表面であり、それによって展延壁13aの表面積を増加させている。図11(A)および(B)の場合、展延壁13a1の両側面全面に、例えば、幅Wが1〜10mm程度の水平方向に延びる溝13tをストライプ状に複数設けて凹凸表面を形成している。なお、溝13tの代わりに突起でもよい。図12(A)および(B)の場合、浅くW字形に折れ曲がった展延壁13a2の両側面全面に、例えば、直径Dが1〜10mm程度の半球状の凹部13dを複数設けて凹凸表面を形成している。なお、凹部13dの代わりに凸部でもよい。
【0089】
ヒータ12は、反応容器11内のギ酸とイオン液体の混合液体FIを加熱する。実施形態2の場合、ヒータ12はM字形のシーズヒータであり、展延壁13aの内部に設けられている。
この場合、例えば、下方に開口する中空扁平形の展延壁13aをセラミックにて形成し、展延壁13aの下方開口部から内部へヒータ12を挿入する。さらに、ヒータ12がギ酸によって腐食しないよう展延壁13aの内部に充填剤、例えば、砂を熱硬化性樹脂と混ぜたペーストを充填して熱硬化させる。これによって、ギ酸に接触して腐食しないようヒータ12を展延壁13a内に固定できる。また、反応容器11の底壁における各展延壁13aを取り付ける位置に貫通孔を形成し、各貫通孔に各ヒータ12の両端を挿通させ、ヒータ12の両端と底壁とを溶接して液漏れがないよう固定する。
【0090】
液体循環ラインL1は、反応容器11内の底部に溜まるギ酸とイオン液体の混合液体FIを汲み上げて各展延壁13aの上部に吐出する。実施形態2の場合、液体循環ラインL1は、循環パイプL1Aと、反応容器11内の上部に設けられた吐出部L1Bとを備える。
循環パイプL1Aの途中には、バルブV1、ギ酸とイオン液体の混合液体FIの温度を検知する温度センサ14およびポンプP1が設けられている。この場合、ポンプP1としては特に限定されないが、イオン液体が高粘性である場合は、内部を耐食処理したロータリーポンプが好ましい。
また、反応容器11の底壁には貫通孔が形成されており、その貫通孔に循環パイプL1Aの上流端が液密に挿入されて反応容器11内に突出している。このとき、循環パイプL1Aの上流端は、ギ酸とイオン液体の混合液体FIの液面の上限値よりも上に配置される。また、下層のイオン液体と上層のギ酸に分離している混合液体FIであっても、イオン液体とギ酸の両方が導入されるよう、循環パイプL1Aの上流端には縦長スリット状の導入口が形成されている。なお、図示省略するが、循環パイプL1AのポンプP1よりも下流側に、古くなったイオン液体を反応容器11内から排出するためのバルブ付き排出パイプを設けてもよい。
吐出部L1Bは、循環パイプL1Aの下流端と接続された1本のセンターパイプ16と、センターパイプ16から分岐して各展延壁13aの上端の上方に平行に配置される複数の分岐パイプ17とを備え、各分岐パイプ17にはギ酸とイオン液体の混合液体FIを吐出する吐出孔が長手方向に沿って複数個形成されている。
【0091】
水素生成反応部10の運転時、各ヒータ12が発熱し、各展延壁13aが加熱される。また、バルブV1が開き、ポンプP1が駆動して、反応容器11内のギ酸とイオン液体の混合液体FIが液体循環ラインL1にて汲み上げられ、吐出部L1Bの各分岐パイプ17から各展延壁13aの上端にギ酸とイオン液体の混合液体FIが吐出する。これにより、ギ酸とイオン液体の混合液体FIは加熱された各展延壁13aの左右側面(凹凸表面)に沿って流れ落ち、反応容器11の底部に溜まったギ酸とイオン液体の混合液体FIは液体循環ラインL1にて前記のように再び反応容器11の上部へ汲み上げられて各展延壁13aの上端に吐出される。このように、ギ酸とイオン液体の混合液体FIは、水素生成反応部10を環流し続ける間に、各展延壁13aの左右凹凸表面に沿って流れ落ちながら各ヒータ12にて常温〜200℃の温度範囲に加熱される。
実施形態2によれば、水素生成反応部10において最も水素生成効率が高い展延壁13aの側面を直接的に加熱することができるため、水素生成効率がより向上すると共に、熱効率も高くなる。なお、ヒータ12は展延壁13aの内部だけに限らず、例えば、反応容器11内の底部、液体循環ラインL1等にも設けてもよい。
【0092】
(実施形態3)
図13は本発明の水素発生システムの実施形態3を示す概略構成図であり、図14は実施形態3の水素発生システムにおける水素生成反応部(天板図示省略)を示す概略斜視図である。なお、図13と図14において、図10中の要素と同様の要素には同一の符号を付し、その説明は省略する。
実施形態3が実施形態2と異なる点は、主として水素生成反応部110の構成および数であり、実施形態3においてその他の構成は実施形態2と同様である。以下、実施形態3の実施形態2と異なる点を主に説明する。
【0093】
実施形態3の水素発生システムは、3つの水素生成反応部110を備えており、1つのギ酸貯蔵部30から各パイプラインL3を介して各水素生成反応部110へギ酸を補給すると共に、各水素生成反応部110から水素と二酸化炭素を含む混合ガスGをパイプラインL12を介して分離部ユニットU20へ供給するように構成されている。各水素生成反応部110は同じ構成である。パイプラインL12においては、分離部ユニットU20と接続された下流端側にポンプP12が設けられると共に、ポンプ12よりも上流側が3本に分岐しかつバルブを介して各水素生成反応部110と接続されている。
【0094】
水素生成反応部110は、密閉可能な反応容器111と、ヒータ(図示省略)と、展延部113と、液体循環ラインL11とを備える。この場合、展延部113の展延壁113aが反応容器111の周囲壁および仕切り壁を構成しており、各展延壁113aの内部にヒータが設けられている。なお、反応容器11の周囲壁を構成する展延壁113aの内面、および仕切り壁を構成する展延壁113aの両面は、凹凸表面(図11、図12参照)となっていることが好ましい。
【0095】
また、実施形態3の場合、液体循環ラインL11の吐出部L11Bは、循環パイプL1Aの下流端と接続された1本のセンターパイプ16と、センターパイプ16から分岐して各展延壁113aの上端の側面付近に平行に配置される複数の分岐パイプ117とを備え、各分岐パイプ117にはギ酸とイオン液体の混合液体FIを散布若しくは噴霧する吐出孔が長手方向および短手方向に沿って複数個形成されている。すなわち、実施形態3における吐出部L11Bは、低粘度のイオン液体を循環させる場合に適している。
【0096】
実施形態3の水素生成反応部110によれば、各分岐パイプ117から液滴状または霧状のギ酸とイオン液体の混合液体FIが反応容器111内に放出されて各展延壁113aの側面上部に付着する。そして、各展延壁113aの側面上部に付着したギ酸とイオン液体の混合液体FIは側面に沿って流れ落ちながら加熱され、ギ酸とイオン液体の混合液体FI中のギ酸Fが分解して水素と二酸化炭素を含む混合ガスGが発生する。
実施形態3によれば、各展延壁113aの側面を流れるギ酸とイオン液体の混合液体FIの表面積が増加することに加え、各分岐パイプ117から液滴状または霧状にギ酸とイオン液体の混合液体FIが放出されることで、ギ酸とイオン液体の混合液体FIの表面積がより一層増加する。この結果、より高効率に水素を生成することが可能である。また、反応容器111を構成する外周壁を展延壁113aとして用いることによって、仕切り壁の数が少なくなって反応容器111をコンパクト化することができる。さらに、水素生成反応部110が複数設けられているため、水素生成量が大幅に増加する。
【0097】
(実施形態4)
図15は本発明の水素発生システムの実施形態4を示す概略構成図である。なお、図15において、図1中の要素と同様の要素には同一の符号を付し、その説明は省略する。
実施形態4の水素発生システムは、実施形態1の水素発生システムにギ酸合成部を設けた構造を有する。
具体的に説明すると、実施形態4の水素発生システムにおけるギ酸合成反応部60は、イオン液体Iを収容する密閉可能な反応容器61と、イオン液体Iを加熱するヒータ2と、イオン液体Iの表面積を拡大させる展延部3と、イオン液体Iの温度を検出する温度センサ4と、イオン液体Iの液面を検出するレベルセンサ5とを備える。実施形態4のギ酸合成反応部60は、水素生成反応部1と同様に、高粘度のイオン液体Iの使用に適している。イオン液体が高粘性である場合、合成されたギ酸はイオン液体I上に溜まり易いため、レベルセンサ5はイオン液体I上のギ酸液面を検出することになる。
【0098】
反応容器61は、直方体形に形成されたイオン液体Iを収容する耐圧性容器であり、例えば、セラミック製の内側容器と、ステンレス鋼製の外側容器とから構成されている。また、反応容器61は、その内部の気圧を測定する圧力計62を有すると共に、内部で合成した前記ギ酸を外部に送出するための送出部63を有している。なお、反応容器1a内の熱が外部に放出するのを抑制するために、断熱材にて反応容器1aを覆ってもよい。
反応容器61は、水素供給源である水素ボンベ71および二酸化炭素供給源である二酸化炭素ボンベ72とガス供給パイプ73を介して接続され、反応容器61の内部にギ酸の原料となる水素および二酸化炭素が所定の圧力比で供給される。なお、水素ボンベ71および二酸化炭素ボンベ72は圧力調整弁71a、72aを有している。
【0099】
前記送出部63は、例えば、反応容器61の上壁を貫通した長い送出パイプ63aおよび短い送出パイプ63bを有し、反応容器63内のギ酸液またはギ酸ガスを外部へ送出できるように構成されている。なお、短い送出パイプ63bには開閉バルブが設けられていてもよい。
具体的に説明すると、長い送出パイプ63aは、反応容器61内のイオン液体I上に溜まったギ酸液中に長い送出パイプ63aの下端が開口するよう配置される。一方、短い送出パイプ63bは、反応容器61内のイオン液体I上に溜まったギ酸液の液面よりも上方に配置される。長い送出パイプ63aと短い送出パイプ63bの反応容器61から外部へ突出した端部は、ポンプP6およびバルブV6を有するパイプラインL6の上流端と接続している。このパイプラインL6の下流端は、水素生成反応部1の吐出部6と接続している。さらに、ギ酸貯蔵部30から水素生成反応部1へギ酸Fを供給するためのパイプラインL3は途中で2方向に分岐し、一方の分岐パイプはバルブV6よりも上流側のパイプラインL6に接続し、他方の分岐パイプはバルブV7を介してギ酸貯蔵部30の貯蔵タンク31と接続している。
【0100】
ギ酸合成反応部60でのギ酸合成において、イオン液体Iの存在下での水素と二酸化炭素の反応は、反応容器61内に水素と二酸化炭素を導入し、水素と二酸化炭素の混合ガスGをイオン液体Iの表面に接触させることで行うことができる。この際、実施形態1での説明のように、展延部3の各展延壁3aが回転することによりイオン液体Iの表面積が拡大し、混合ガスGとイオン液体Iの接触面積が増加する。この際、反応容器61内の水素の圧力は、例えば、5〜50barに設定され、二酸化炭素の圧力は、例えば、1〜50barに設定される。反応温度は、イオン液体Iが液体状態であれば特段の制限はないが、ギ酸を効率よく製造するためには常温以上に加熱することが好ましい。この場合、加熱温度は、高すぎるとイオン液体の分解を引き起こすおそれがあることに加え、熱力学的理由によってギ酸の生成量が低下するおそれがあるため、その上限は200℃であり、150℃が好ましく、100℃がさらに好ましい。反応時間は、例えば1〜300時間である。
【0101】
このようにして合成された反応容器61内のギ酸(ギ酸液)がイオン液体I上に溜まった場合、バルブV6またはバルブV7を開き、ポンプP6を駆動することにより、ギ酸液を反応容器61から水素生成反応部1またはギ酸貯蔵部30へ送ることができる。あるいは、ギ酸を蒸溜することもできる。すなわち、ギ酸合成反応部60のヒータ2によってイオン液体Iと共にギ酸液を加熱することによりギ酸ガスを発生させ、ギ酸ガスをパイプラインL6に通す間に液化して水素生成反応部1またはギ酸貯蔵部30へ送ることもできる。
なお、ガスボンベを用いず、工場から排出される水素および二酸化炭素を直接ギ酸合成反応部60へ供給するようにしてもよい。この場合、ギ酸合成時およびギ酸送出時は、ギ酸合成反応部60に水素および二酸化炭素を供給することができないため、ギ酸合成反応部60を複数設け、複数のギ酸合成反応部60のうちのいずれかに水素および二酸化炭素を供給することができるようにすることが好ましい。
【0102】
(他の実施形態)
1.実施形態4における水素生成反応部の展延部および/またはギ酸合成反応部の展延部の代わりに、実施形態2の展延部および/または実施形態3で説明した展延部を用いてもよい。
2.水素発生システムにおける適当な箇所、例えば、水素生成反応部10の反応容器11、分離部20の各水収容容器21、各ライン等に圧力弁を介してガス抜きラインを設け、これらの箇所に混合ガスG、水素および/または二酸化炭素が不適切に充満して圧力が危険なレベルに達する前に、ガス抜きラインから水素をラインL43へ流し、かつ二酸化炭素をラインL44へ流すようにしてもよく、あるいはガス抜きラインからガスを安全に大気中に放出するようにしてもよい。さらに、ガス抜きラインにガスセンサを設けると共に、前記制御盤または運転席に警報手段(例えば、警報ランプ、警報部材、表示画面等)を設け、ガスがガス抜きラインを流れるとガスセンサからの検知信号が制御部に送信され、制御部が警報手段を作動させてオペレーターに異常を知らせるようにしてもよい。
【0103】
3.実施形態1では、効率よく混合ガスGを水素と二酸化炭素に分離できるよう分離部20を4つ設けた場合を例示したが、分離部20の数は特に限定されず、1つ、2つ、または3つでもよい。また、さらに効率よく水素と二酸化炭素を分離できるよう分離部2を5つ以上設けてもよい。
4.実施形態1で説明した分離部ユニットU20において、水素を送るラインL41b、L42bの両端(三方弁の近傍)に、セラミック膜や金属膜などからなる水素分離膜を設けてもよい。これにより、より高純度の水素を水素送出先へ供給することができる。
【0104】
5.実施形態1で説明した移動体において、燃料電池または水素エンジンは作動時に発熱するため、その熱エネルギーを水素生成反応部のギ酸とイオン液体の混合液体の加熱に利用してもよい。例えば、燃料電池または水素エンジンと水素生成反応部との間に熱交換システムを設け、発熱した燃料電池または水素エンジンを熱媒体(冷却水)にて冷却し、吸熱した熱媒体の熱を水素生成反応部のギ酸とイオン液体の混合液体に伝達するよう構成する。これにより、水素生成反応部のヒータの消費電力を軽減することができると共に、燃料電池または水素エンジンの作動効率を高めるための冷却も行うことができる。
【実施例】
【0105】
以下の実施例は、本発明をさらに説明するものであり、本発明を何ら限定するものではない。
なお、本発明において用いるイオン液体としては、広栄化学工業製の以下の各種イオイン液体(純度99%)を用いたが、これらのイオン液体は、入手後予め真空下で12時間加熱(120℃)乾燥して用いた。
【0106】
(最適なイオン液体、最適混合比、耐久性等を調査するための基礎実験方法)
具体的なイオン液体としては:
(1)テトラn−ブチルホスホニウム ナイトレート;
(2)トリn−ヘキシルn−テトラデシルホスホニウム クロライド;
(3)テトラフェニルホスホニウム ホルメート;
が挙げられる。
前記イオン液体(1)〜(3)について、次の方法により、ギ酸分解反応に適したイオン液体を調べた。
なお、室温で固体のイオン液体(1)および(3)については、NMRプローブ内でサンプルの温度を上げ、イオン液体を融解させて各種NMRスペクトルの測定を行った。
【0107】
〈実施例1〉
窒素ガスが充填されたドライボックス中で、市販されているナカライテスク社製のギ酸水溶液(純度95%)と予め乾燥した前記イオン液体(1)の混合物0.29mL(ギ酸とイオン液体(1)のモル比0.6:1)を、長さ10cm×内径2.5mmの石英管(容量0.49mL)内に充填し、ガスバーナーを用いて石英管を封止してサンプルを作製した。
サンプルを200℃(±1℃)に設定された電気炉に14時間入れてギ酸を分解反応させ、反応後すぐに水冷した。水冷後、サンプルを開封せず、そのまま気相と液相をNMR(1H−および13C−)により室温で観測した。
なお、図16は実施例1のサンプルのNMRスペクトルを示している。
観測後、NMRから取り出したサンプルを電気炉に戻し、この操作を反復してギ酸の分解率および水素生成収率(純度)を調べた。
その結果、ギ酸分解率は98%であり、水素生成収率は99%であった。なお、各実施例において、反応後のギ酸または各生成物の濃度については、反応前に重量測定した既知濃度のギ酸ピーク(1H−および13C− NMR)面積を基準に、反応前のギ酸ピークと反応後のギ酸または各生成物ピークの面積比から濃度の絶対値を決定した。水素、二酸化炭素、一酸化炭素については気相および液相に分配する。従って、気相・液相の両方を観測し、和をとって収率を決定した。また、ギ酸1分子から水素1分子と二酸化炭素1分子へ分解するため、水素生成収率と二酸化炭素生成収率は等しい。以下、実施例の一部において、水素生成収率を二酸化炭素生成収率から求め、スペクトルを用いて説明する。
【0108】
〈実施例2〉
実施例1において用いたイオン液体(1)の代わりにイオン液体(2)を用いたこと以外は、実施例1と全く同様にした。なお、図17は実施例2のサンプルのNMRスペクトルを示している。
その結果、ギ酸分解率は99%以上であり、水素生成収率は88%であった。
【0109】
〈実施例3〉
実施例1において用いたイオン液体(1)の代わりにイオン液体(3)を用いたこと以外は、実施例1と全く同様にした。
その結果、ギ酸分解率は98%であり、水素生成収率は99%であった。
【0110】
以上の結果から、イオン液体(1)、(2)および(3)は水素製造に好適であることが確認できた。これらのイオン液体(1)、(2)および(3)は本発明の水素発生システムに用いることができる。
また、嵩高い陽イオン(カチオン)は電場形成に補助的に必要であるが、ギ酸分解効率、水素生成収率(純度)を支配する必要条件は、最も強い電場を発生させる小さな陰イオン(アニオン)の選択であることが実験結果から判った。
【0111】
(ギ酸とイオン液体の最適混合割合)
前記イオン液体(2)を用い、ギ酸とイオン液体との最適混合割合を実施例4〜8のようにして調べた。なお、図18(a)〜(e)に示すNMRスペクトルは実施例4〜8に対応している。
【0112】
〈実施例4〉
ギ酸とイオン液体(2)の混合物0.29mL(モル比0.2:1)を石英管に充填し封入した後、130℃に保持した電気炉内で60分間反応させた。反応後、NMR観測を行い、水素生成収率(純度)を調べた。
その結果、水素生成収率は99%以上であり、一酸化炭素と水は殆ど生成しないことがわかった。
【0113】
〈実施例5〉
実施例4のギ酸とイオン液体(2)の混合割合をモル比0.4:1としたこと以外は、実施例4と全く同様にした。
その結果、水素生成収率は99%以上であり、一酸化炭素と水は殆ど生成しないことがわかった。
【0114】
〈実施例6〉
実施例4のギ酸とイオン液体(2)の混合割合をモル比0.6:1としたこと以外は、実施例4と全く同様にした。
その結果、水素生成収率は99%以上であり、一酸化炭素と水は殆ど生成しないことがわかった。
【0115】
〈実施例7〉
実施例4のギ酸とイオン液体(2)の混合割合をモル比0.8:1としたこと以外は、実施例4と全く同様にした。
その結果、水素生成収率は99%以上であり、一酸化炭素と水は殆ど生成しないことがわかった。
【0116】
〈実施例8〉
実施例4のギ酸とイオン液体(2)の混合割合をモル比1:1としたこと、反応温度を150℃とし、反応時間を14時間としたこと以外は、実施例4と全く同様にした。反応温度を150℃とし、反応時間を14時間とした理由は、ギ酸とイオン液体(2)の混合割合をモル比1:1として130℃で60分間反応させてもギ酸は分解しなかったためである。
その結果、水素生成収率は40%に減少し、その分一酸化炭素と水の生成率が増加した。
【0117】
〈実施例9〉
イオン液体(2)の耐久性を次ぎようにして調べた。
ギ酸とイオン液体(2)の混合物0.29mL(モル比0.6:1)を石英管に充填して封入した後、200℃で保持した電気炉内で80時間反応させた。その後、反応前後のイオン液体(2)のNMR観測し、NMRスペクトルを比較してギ酸分解反応で生じる生成物以外のピークの出現の有無を調べ、イオン液体(2)の耐久性を調べた。
図19に示すように、プロトンNMRスペクトルを200倍に拡大して微小なピークの有無を調べたが、ギ酸分解反応生成物以外にピークの変化は無いため、ギ酸分解反応を80時間行ったことによるイオン液体の劣化は無いことが確認できた。よって、このイオン液体は反復使用が可能であり、大幅なコスト低減につながると判断できた。
【符号の説明】
【0118】
1、10、110 水素生成反応部
1a、11、111、61 反応容器
1b、11a 混合物送出口
2、12 加熱手段(ヒータ)
3、13、113 展延部
3a、13a、113a 展延壁
3C 駆動手段(モータ)
3V12、3V13、3V22、3V23 切換弁(三方弁)
20 分離部
21 水収容容器
21b 送出口
22 気液界面増加部
22a フィルター
23 水温調整機構
30 ギ酸貯蔵部
60 ギ酸合成反応部
63 送出部
F ギ酸
FI ギ酸とイオン液体の混合液体
I イオン液体
L1 液体循環ライン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ギ酸とイオン液体の混合液体を収容し、加熱下でギ酸とイオン液体の混合液体中のギ酸を水素と二酸化炭素に分解する水素生成反応部;および
水素生成反応部から供給された水素と二酸化炭素の混合物を水素と二酸化炭素とに分離可能な分離部を備え、
分離処理後における水素を分離部から外部の水素送出先へ送出し、かつ二酸化炭素を分離部から外部の二酸化炭素送出先へ送出するかあるいは大気中に排出するように構成したことを特徴とする水素発生システム。
【請求項2】
前記水素生成反応部が、前記ギ酸とイオン液体の混合液体を収容する密閉型反応容器と、該反応容器内のギ酸とイオン液体の混合液体を加熱する加熱手段と、前記反応容器内のギ酸とイオン液体の混合液体の表面積を拡大する展延部とを備え、
前記反応容器が、内部で発生した前記混合物を前記分離部に向けて送出するための混合物送出口を有する請求項1に記載の水素発生システム。
【請求項3】
前記分離部が、水素と二酸化炭素との前記混合物を通過させて二酸化炭素を溶かすための水を収容する水収容容器と、該水収容容器内に設けられて水収容容器内の前記混合物と水との接触界面を増加させる気液界面増加部とを備え、
前記水収容容器が、二酸化炭素を水中に溶かすことにより分離した水素を外部へ送出する送出口を有する請求項1または2に記載の水素発生システム。
【請求項4】
前記展延部が、ギ酸とイオン液体の混合液体と接触するように前記反応容器内に可動に設けられた展延壁と、該展延壁を動かす駆動手段とを有し、
前記展延壁を動かすことによりギ酸とイオン液体の混合液体をその液面上に持ち上げて展延壁の表面に沿って流すように構成した請求項2に記載の水素発生システム。
【請求項5】
前記展延部が、前記反応容器内に立設された1つ以上の展延壁と、前記反応容器内の底部に溜まるギ酸とイオン液体の混合液体を汲み上げて前記展延壁の上部に吐出する液体循環ラインとを有し、
ギ酸とイオン液体の混合液体を前記展延壁の上部から側表面に沿って流すように構成した請求項2に記載の水素発生システム。
【請求項6】
前記気液界面増加部が、前記水収容容器内に設けられて複数の区画室を形成する水素および二酸化炭素を透過可能なフィルターを有し、前記混合物を前記複数の区画室内の水中に順次通過させることにより、前記混合物中の二酸化炭素を水中に溶かして水素と分離させるように構成した請求項3に記載の水素発生システム。
【請求項7】
前記分離部が、前記水収容容器内の水の冷却および加熱を切り換えて行う水温調整機構と、前記送出口に設けられて送出方向を切り換える切換弁とをさらに備え、
前記水温調整機構にて冷却した前記水収容容器内の水に前記混合物を通し水中に二酸化炭素を溶かすことにより水素を分離し、その水素を前記送出口から外部の水素送出先に送出し、前記切換弁を切換え、前記水温調整機構にて二酸化炭素が溶けた水を加熱することにより二酸化炭素を発生させ、その二酸化炭素を前記送出口から外部に送出するように構成した請求項3または5に記載の水素発生システム。
【請求項8】
外部から供給されたギ酸を貯蔵するギ酸貯蔵部をさらに備え、
前記ギ酸貯蔵部から前記水素生成反応部へギ酸を供給するように構成した請求項1〜7のいずれか1つに記載の水素発生システム。
【請求項9】
イオン液体を収容すると共に、外部から水素と二酸化炭素が導入され、イオン液体の存在下で水素と二酸化炭素からギ酸を合成するギ酸合成反応部をさらに備え、該ギ酸合成反応部にて合成したギ酸を前記水素生成反応部へ供給可能に構成した請求項1〜8のいずれか1つに記載の水素発生システム。
【請求項10】
前記ギ酸合成反応部が、合成されたギ酸を外部へ送出するための送出口を有する密閉型反応容器と、該反応容器内のイオン液体を加熱する加熱手段と、該反応容器内に設けられて反応容器内のイオン液体の表面積を拡大する展延部とを備える請求項9に記載の水素発生システム。
【請求項11】
前記展延部が、イオン液体と接触するように前記反応容器内に可動に設けられた展延壁と、該展延壁を動かす駆動手段とを有し、
前記展延壁を動かすことによりイオン液体をその液面上に持ち上げて展延壁の表面に沿って流すように構成した請求項10に記載の水素発生システム。
【請求項12】
前記展延部が、前記反応容器内に立設された1つ以上の展延壁と、前記反応容器内の底部に溜まるイオン液体を汲み上げて前記展延壁の上部に吐出する液体循環ラインとを有し、
イオン液体を前記展延壁の上部から側表面に沿って流すように構成した請求項10に記載の水素発生システム。
【請求項13】
前記ギ酸合成反応部が複数設けられた請求項9〜12のいずれか1つに記載の水素発生システム。
【請求項14】
前記展延壁が凹凸表面を有する請求項4、5、11または12に記載の水素発生システム。
【請求項15】
請求項1〜14のいずれか1つに記載の水素発生システムを用いて、ギ酸とイオン液体の混合液体を加熱して水素を発生させることを特徴とする水素の製造方法。
【請求項16】
前記イオン液体が、以下の、一般式(1):
【化1】

[式中、
1、R2、R3およびR4は、互いに同一または異なって、ハロゲン原子によって置換されてもよいアルキル基あるいは1〜3個のハロゲン原子または低級アルキルもしくはアルコキシ基により、o位またはp位が置換されていてもよいアリール基もしくはヘテロアリール基を表し、
-はホスホニウムカチオンに対するカウンターアニオンを表す]
である請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記一般式(1)において、R1、R2、R3およびR4は炭素数4〜20のアルキル基もしくはアリール基である請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記ホスホニウムカチオンが、テトラフェニルホスホニウム塩、トリヘキシルテトラデシルホスホニウム塩、またはテトラブチルホスホニウム塩である請求項16に記載の方法。
【請求項19】
前記イオン液体が、カウンターアニオンとしてHCOO-、CF3SO3-、Cl-、NO3-、およびp−トルエンスルホン酸のうちの1つ以上を含む請求項16〜18のいずれか1つに記載の方法。
【請求項20】
前記ギ酸とイオン液体の混合液体が、常温〜200℃に加熱される請求項15〜19のいずれか1つに記載の方法。
【請求項21】
前記ギ酸とイオン液体の混合液体において、ギ酸とイオン液体との混合割合をモル比で1:15〜20:1に設定する請求項15〜20のいずれか1つに記載の方法。
【請求項22】
前記イオン液体が、金属触媒を含む請求項15〜21のいずれか1つに記載の方法。
【請求項23】
前記金属触媒がRu、RhまたはIrの単純塩もしくは錯体である請求項22に記載の方法。
【請求項24】
請求項1〜14のいずれか1つに記載の水素発生システムと、この水素発生システムから供給された水素を燃料として駆動する水素エンジンとを備えた移動体。
【請求項25】
請求項1〜14のいずれか1つに記載の水素発生システムと、この水素発生システムから供給された水素を燃料として発電する燃料電池とを備えた移動体。
【請求項26】
二次電池をさらに備えた請求項24または25に記載の移動体。
【請求項27】
請求項1〜14のいずれか1つに記載の水素発生システムと、燃料電池または水素タービンとを備えた発電装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2013−32271(P2013−32271A)
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−145632(P2012−145632)
【出願日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【出願人】(509289777)蟻酸・水素エネルギー開発株式会社 (2)
【Fターム(参考)】