説明

水素発生装置及び燃料電池

【課題】 大掛かりな機構を要さずに水素の発生量を容易に制御することができる水素発生装置及び燃料電池を提供する。
【解決手段】 金属水素化物水溶液と反応促進水溶液の混合により、水素を生成する水素発生装置において、金属水素化物水溶液と反応促進水溶液が規定の量に達したときに接触し反応する合流反応流路と、合流反応流路での水素発生による体積膨張の力により押し出される金属水素化物水溶液と反応促進水溶液とを混合する混合流路を有する反応部を備え、水素を生成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は水素発生装置及び燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、固体高分子電解質膜を挟んでアノードとカソードを有する発電部を有し、アノード側に例えば水素やメタノール等の燃料流体を供給し、カソード側に例えば酸素や空気等の酸化用流体を供給し、電気化学反応により電力を発生する。
【0003】
燃料流体として水素を低エネルギーで得る方法として、ケミカルハイドライドと呼ばれる金属水素化物(例えば、水素化ホウ素リチウムや水素化ホウ素ナトリウム、水素化アルミニウムリチウム、水素化アルミニウムナトリウム)を加水分解する方法が知られている。
【0004】
金属水素化物を加水分解して水素を得る場合、常温に近い低温で加水分解反応が進むため、効率よく水素を得ることができる。反面、水素発生量を制御することが難しいという問題があった。
【0005】
この問題に対し、金属水素化物を含む金属水素化物水溶液のpHを調節することで、加水分解の反応速度を制御する、水素発生技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。この技術は、金属水素化物水溶液のpHが低い程反応速度が増加し、pHが高い程反応速度が低下することを利用している。反応槽内の金属水素化物と金属水素化物に付加する水の量を制御することにより、金属水素化物水溶液のpHを変化させる。これにより、加水分解の反応速度を変化させ、要求量に応じた水素を生成させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−128502号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、この特許文献1の技術によるとpHの制御を反応槽の金属水素化物への水の投入により行うので、例えば、水素を発生させている状態から水素の発生を停止させる場合など、pHを大幅に変化させるために大量の水の投入する必要がある。水を循環再利用する構成も提案されているが、循環のための流路やポンプなどの複雑な機構が必要となる。また、大量の水を導入するため、水素の発生を停止させるまでの時間がかかってしまい、余剰な水素が発生してしまうといった、水素の要求量への追従性が悪いという問題がある。このようなことから、特許文献1の技術によると、大型化が避けられず、小型化を必要とする機器に適用するには向かない技術である。水素の要求量の変化が大きく、頻繁に変化する機器に適用するには向かない技術である。
【0008】
本発明は上記状況に鑑みてなされたものであり、水素の発生量を容易に制御することができる小型化が可能な水素発生装置及び燃料電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するための本発明の水素発生装置の第1の特徴は、水素発生溶液と、水素発生溶液との混合により水素を発生する水素発生促進溶液とを混合する反応部を有し、水素発生溶液を反応部に導入する水素発生溶液導入路と、反応促進溶液を反応部に導入する反応促進溶液導入路と、水素発生溶液と水素発生溶液とが規定の量に達したときに接触し反応する合流反応流路と、合流反応流路での水素発生による体積膨張の力により合流反応流路から押し出される水素発生溶液と水素発生溶液とを混合する混合流路とを備えることを要旨とする。
【0010】
かかる特徴によれば、合流反応流路に導入された水素発生溶液と、反応促進溶液とが規定の量に達したときに接触し反応し、水素発生による体積膨張の力により合流反応流路から混合流路に水素発生溶液と、反応促進溶液が押し出され混合されるので、大掛かりな機構を要さずに、水素発生溶液と、反応促進溶液の反応比率を一定として、水素の発生量を容易に制御することが可能になる。
【0011】
本発明の水素発生装置の第2の特徴は、第1の特徴の水素発生装置において、合流反応流路は、対向する2つの壁面を備えることを要旨とする。
かかる特徴によれば、合流反応流路の対向する2つの壁面の空間に水素発生溶液と、水素発生溶液とが導入されるので、表面張力により水素発生溶液と、水素発生溶液とを保持することができ、水素発生溶液と水素発生溶液の導入量及び比率が安定し、水素の発生量を確実に制御することが可能となる。
【0012】
本発明の水素発生装置の第3の特徴は、第2の特徴の水素発生装置において、2つの壁面の距離は、水素発生溶液と反応促進溶液とがそれぞれ導入される導入部が備えられる部分を最小とし、導入部から離れるに従い増大することを要旨とする。
かかる特徴によれば、導入部の付近を狭く、導入部から離れるに従って空間が大きくなる様、テーパー形状としているので、導入部の向きの液体毛細管力を増大させることができ、合流反応流路に導入された水素発生溶液と反応促進溶液とが接触するまでの形状を安定させることができ、液体の接触までの導入量を確実に制御することが可能となる。
【0013】
本発明の水素発生装置の第4の特徴は、第1または2の特徴の水素発生装置において、合流反応流路は、撥水性を有することを要旨とする。
かかる特徴によれば、合流反応流路に導入された水素発生溶液と反応促進溶液とが接触するまでの形状を安定させることができる。また、接触後の水素発生溶液及び反応促進溶液の混合流路への移動が円滑に行われ、合流反応流路への滞留を抑制することができる。
【0014】
本発明の水素発生装置の第5の特徴は、第1から4のいずれかの特徴の水素発生装置において、合流反応流路は、中心部分に向かい広くなることを特徴とする。
かかる特徴によれば、液体の接触までの導入量を確実に制御することが可能となる。
【0015】
本発明の水素発生装置の第6の特徴は、第1から5のいずれかの特徴の水素発生装置において、合流反応流路は、混合流路に向かい狭くなることを要旨とする。
かかる特徴によれば、流路断面積が変化するので、水素発生溶液と反応促進溶液とが合流反応流路から押し出され混合流路へ移動する際に流速が変化し、混合が促進される。これにより、水素発生溶液と反応促進溶液とが確実に混合され水素発生反応を完了させることができる。
【0016】
本発明の水素発生装置の第7の特徴は、請求項1に記載の水素発生装置において、混合流路は、蛇行することを特徴とする。
かかる特徴によれば、混合流路を流動する過程での水素発生溶液と反応促進溶液の混合をさらに促進することができる。
【0017】
本発明の水素発生装置の第8の特徴は、第1から7のいずれかの特徴の水素発生装置において、反応部は、複数あることを要旨とする。
かかる特徴によれば、複数の反応部を有することで、繊細な制御が可能である。また、水素発生能力を増大させることが可能となる。
【0018】
本発明の燃料電池の第1の特徴は、燃料電池は、第1から8のいずれかの水素発生装置の排出路が燃料電池の燃料極室に接続され、発生した水素が燃料極に供給されることを要旨とする。
かかる特徴によれば、大掛かりな機構を要さずに必要最小限の水で水素を発生させることができる水素発生装置を備えた燃料電池とすることが可能になる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、大掛かりな機構を要さずに必要量の水素を的確に発生させることができる水素発生装置及び燃料電池を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の一実施例に係る水素発生装置の全体の概略構成図である。
【図2】水素発生装置の反応部を表す構成図である。
【図3】水素発生装置の反応部(合流反応流路)を表す構成図である。
【図4】水素発生装置の反応部(合流反応流路)を表す構成図である。
【図5】水素発生装置の反応部を表す構成図である。
【図6】水素発生装置の反応部(混合流路)を表す構成図である。
【図7A】水素発生装置の反応部(合流反応流路)を表す構成図である。
【図7B】水素発生装置の反応部(合流反応流路)を表す構成図である。
【図8】本発明の一実施例に係る水素発生装置の全体の概略構成図である。
【図9】本発明の一実施例に係る燃料電池の全体図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
(実施の形態1)
図1から図3に基づいて水素発生装置の一実施例を説明する。
図1に基づいて水素発生装置1の概略を説明する。水素発生装置1はケース11と、ケース11の内部に格納される反応容器3と、水素発生溶液を貯蔵する水素発生溶液室2と、水素発生溶液との混合により水素発生反応を促進する反応促進溶液を貯蔵する反応促進溶液室4とを有する。また、反応容器3は、反応部5と、反応部5で生成された水素を反応容器3から排出する排出路12とを備える。
【0022】
水素発生溶液室2及び反応促進溶液室4と、反応容器3に格納される反応部5とは、水素発生溶液導入路7及び反応促進溶液導入路8によって接続される。水素発生溶液導入路7には、水素発生溶液室2内の水素発生溶液を反応部5に送る第一の送液手段9を備え、反応促進溶液導入路8も同様に、反応促進溶液室4内の反応促進溶液を反応部5に送る第二の送液手段10を備える。また、反応容器3の内圧を検出する圧力センサー15と、圧力センサー15の値を基に、第一の送液手段9と第二の送液手段10との動作を制御するコントローラ16を備える。
【0023】
第一の送液手段9及び第二の送液手段10は、液送ポンプであり、液送ポンプとしては、定量性があるダイヤフラム式、プランジャ式など、容積式ポンプが好ましく、液体の漏洩や薬品への耐性の高いダイヤフラム式が好ましい。
【0024】
第一の送液手段9及び第二の送液手段10は、圧力センサー15の値を基に、コントローラ16により送液流量が制御され、水素発生溶液と反応促進溶液とを一定の比率で反応部5に送液する。反応容器3の内圧が低下した際に送液流量を増加させ、反応容器3の内圧が上昇した際に送液流量を減少させることにより、反応部5での水素発生量を増減させ、反応容器の内圧を安定して維持する。すなわち、水素発生装置1は安定した水素供給を行うことができる。
【0025】
また、第一の送液手段9及び第二の送液手段10として、送液ポンプを用いずに、プランジャを介して加圧バネで水素発生溶液及び反応促進溶液を加圧し液体を反応部5に送液する構成としても良い。その際、水素発生溶液導入路7及び反応促進溶液導入路8に逆止弁を配置し、反応容器3の内部の圧力が加圧バネの圧力よりも低い場合に反応部5に水素発生溶液と反応促進溶液とが送られ、また、反応容器3の内部の圧力が加圧バネの圧力よりも低い場合に停止する動作を行う。送液流量は、加圧バネの加圧力と水素発生溶液導入路7及び反応促進溶液導入路8の流路抵抗により決定されるので、水素発生溶液導入路7及び反応促進溶液導入路8内にオリフィスを設けるなど流路抵抗を調整することで水素発生溶液と反応促進溶液の流量の比率を設定することができる。これにより、送液ポンプなどの送液機器や圧力センサーやコントローラを使用する機構を用いない機構によって水素発生量を制御することができる。また、反応容器3の内圧は、加圧バネのバネ力を変更することにより、任意に調整することができる。
【0026】
本実施例では、ケース11の内部に反応容器3と水素発生溶液室2と反応促進溶液室4を配置する構成を示したが、水素発生溶液導入路7及び反応促進溶液導入路8を着脱可能な構造とし、反応容器3と水素発生溶液室2及び反応促進溶液室4とを別体の構造とする構成も可能である。また、反応容器3の内部に水素発生溶液室2及び反応促進溶液室4を配置することも可能であり、さらに、水素発生溶液室2及び反応促進溶液室4を水素発生溶液及び反応促進溶液の消費と共に縮小する可撓性の材質で形成することにより、反応容器3の容積を有効に活用することができ、水素発生装置1の体積を縮小することができる。
【0027】
反応部5には、水素発生溶液及び反応促進溶液をそれぞれ導入する水素発生溶液導入路7と反応促進溶液導入路8が接続されている。反応部5の機構の詳細は後述するが、水素発生溶液と反応促進溶液は、水素発生溶液導入路7と反応促進溶液導入路8から、反応部5に導入され、混合され反応することにより水素を発生する。発生した水素は、排出路12を通じて水素発生装置1から排出される。水素発生装置1の排出路12と水素を消費する燃料電池等の水素消費機器14は、接続部13を介して接続され、水素発生装置1で生成した水素が水素消費機器14に供給される。接続部13を着脱可能な構造とすることで、水素発生装置1を交換可能なカートリッジとして構成とすることができる。
【0028】
水素発生溶液には、加水分解型の金属水素化物水溶液を用いる。金属水素化物は、例えば、水素化ホウ素塩、水素化アルミニウム塩、水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素リチウム、水素化アルミニウムリチウム等が挙げられる。特に、水素化ホウ素ナトリウムが好ましい。金属水素化物水溶液の加水分解の反応速度は、pH依存性があり、pHが高い程、反応速度が低下する。金属水素化物水溶液として貯蔵するために、pHが高い強アルカリ水溶液とすることにより、加水分解反応による水素の発生を抑制し、安全に貯蔵保管することができる。
【0029】
本実施例では、12%水素化ホウ素ナトリウム、40%水酸化ナトリウムを用いた金属水素化物水溶液を用いた。この金属水素化物水溶液のpHは14であり、金属水素化物水溶液中での金属水素化物の加水分解が抑制されるpHが高い強アルカリ溶液である。また、この混合割合の溶液は、市販されており、長期保管可能な水素化ホウ素ナトリウム溶液として一般的な混合割合であると言える。
【0030】
反応促進溶液は、酸性水溶液を用いる。例えば、塩酸、硫酸、リン酸等の無機酸や、酢酸、琥珀酸、りんご酸等の有機酸の酸性水溶液を用いることにより、強アルカリの金属水素化物水溶液のpHを変化させ反応速度を制御することができる。また、酸性水溶液は、強酸とすることが望ましい。これにより、金属水素化物水溶液のpHを速やかに変化させることができ、水素発生の制御性を高めることができる。
本実施例では、貯蔵や送液など構成部材の選択及び取り扱いが比較的容易なリン酸を用いた。
【0031】
水素を消費する水素消費機器14の水素消費量に追従して、水素供給を行うためには、水素発生溶液と反応促進溶液の加水分解反応の反応性を高め、加水分解反応を短時間で完了させることが必要である。特に、水素消費機器14の水素消費量が急激に小さくなった際に、速やかに反応を停止することは、余剰な水素が発生を抑制し、反応容器3などを耐圧構造とすることなく水素発生装置1を軽量、小型にすることが出来ることから、重要である。
【0032】
水素発生溶液と反応促進溶液の加水分解反応の反応性を高めて短時間で反応を完了させるために、反応部5で混合反応する水素発生溶液と反応促進溶液の混合比は、混合後(反応後)の溶液のpHが7以下となる混合比とする。さらに、pH6以下とすることが望ましい。水素発生溶液に12%水素化ホウ素ナトリウム、40%水酸化ナトリウムの金属水素化物水溶液を用い、反応促進溶液に85%リン酸水溶液を用い水素発生溶液と反応促進溶液の混合割合を、水素化ホウ素ナトリウムと水酸化ナトリウムのモル数の和とリン酸のモル数を等モルとしたとき、混合後(反応後)のpHはpH4程度であり、速やかに反応を完了することができる。このとき、水素発生溶液と反応促進溶液との体積比は、1:1.26、重量比は、1:1.52である。従って、反応部5での混合割合を上述の混合比とすることにより、短時間で反応を完了させることができ、余剰な水素が発生を抑制し、水素を消費する水素消費機器14の水素消費流量に追従して、水素供給を行うことができる。
【0033】
また、上記の水素発生溶液に含まれる水は、水素化ホウ素ナトリウムに対して、モル比で、8.4倍であり、水素化ホウ素ナトリウムの加水分解に充分な量である。また、反応促進溶液にも水は含まれるため、水素化ホウ素ナトリウムに対する水の量は充分であり、さらに、水溶液中での金属水素化物の加水分解を抑制できるpHが高い強アルカリ溶液としながら、水素発生溶液の水素化ホウ素ナトリウムの濃度を増加させることが可能である。
【0034】
図2と図3に基づいて反応部5を詳細に説明する。
図2(a)は反応部5の斜視図、図2(b)は反応部5を上方から見た平面図を示す。反応部5は、合流反応流路21と混合流路22で構成され、混合流路22は排出口23で開放されている。合流反応流路21には、水素発生溶液及び反応促進溶液をそれぞれ導入する水素発生溶液導入路7と反応促進溶液導入路8が接続されている。
【0035】
水素発生溶液及び反応促進溶液は、水素発生溶液導入路7と反応促進溶液導入路8から、それぞれ合流反応流路21に一定の流量比で導入される。合流反応流路21に導入された水素発生溶液と反応促進溶液は、それぞれ合流反応流路21の体積から導かれる規定の体積に達した時点で接触する。このとき、水素発生溶液と反応促進溶液の体積比は、導入流量の比と等しい比率となる。加水分解反応による水素の発生は、水素発生溶液と反応促進溶液が接触した部分で開始される。
【0036】
ここで、水素の発生による水素発生溶液と反応促進溶液の合計された導入体積の体積膨張は、水素発生溶液中の金属水素化物の濃度と反応促進溶液中の酸の濃度によって差異はあるが、水素発生溶液を12%水素化ホウ素ナトリウム溶液とした場合、100倍〜200倍となる。この体積膨張により、水素発生溶液と反応促進溶液が接触した部分の微量な反応においても、合流反応流路21に導入された水素発生溶液と反応促進溶液は、合流反応流路21から混合流路22に押し出される。また、その水素発生反応は急峻であるため、混合流路22内での流速が高められ、水素発生溶液と反応促進溶液の混合が促進される。結果、水素発生溶液と反応促進溶液を一定の割合で確実に混合し水素を発生させることが可能となる。さらに、一連の動作を繰り返すことにより、連続して安定した水素発生が可能である。
【0037】
合流反応流路21は、図3に示すように、それぞれの溶液の導入部24と導入部24に対面する内壁の距離を小さくし、内壁同士の隙間に水素発生溶液及び反応促進溶液が充填される様にそれぞれの溶液を導入する構造である。これにより、導入部24を中心とした安定した液の広がり形状を得ることができる。図3(a)は、導入部24から溶液を導入する過程を示す。導入部24から導入された溶液は、それぞれ合流反応流路21の内壁同士の隙間に充填されるので、導入部24を中心とした円形に安定して広がり、図3(b)に示すように、水素発生溶液と反応促進溶液が接触する状態まで広がる。また、それぞれの溶液の合流反応流路21に投入される体積は、送液流量を一定の比率としたとき、合流反応流路21の内壁同士の隙間である断面積と、それぞれの導入部24から導入された水素発生溶液と反応促進溶液が接触する場所までの距離で規定される。また、単位時間当りの水素発生量は、それぞれ溶液の時間当たりの送液流量により制御することができる。
【0038】
これにより、合流反応流路21における水素発生溶液と反応促進溶液の接触点が安定した位置となり、反応開始までの合流反応流路21への水素発生溶液と反応促進溶液の導入量及び比率が安定し、反応量を確実に制御することが可能となる。
【0039】
さらに、合流反応流路21の内壁を撥水性の部材で作成するかまたは表面処理することにより、導入部24から導入された水素発生溶液と反応促進溶液とが接触するまでの形状を安定させることができる。また、接触後の水素発生反応による体積膨張による水素発生溶液及び反応促進溶液の混合流路22への移動が円滑に行われ、合流反応流路21への滞留を抑制することができる。
【0040】
混合流路22は、図2(b)に示すように、合流反応流路21から混合流路22の方向に断面積が縮小する流路形状としている。断面積を縮小することで、水素発生反応による体積膨張で水素発生溶液と反応促進溶液とが合流反応流路21から押し出され混合流路22へ移動する際に流速が変化し、水素発生溶液と反応促進溶液との混合が促進される。これにより、混合流路22で確実に混合され水素発生反応を完了させることができる。
このような構成において、上述した水素発生装置1では、大掛かりな機構を要さずに必要量の水素を確実に発生させることが可能になる。
【0041】
また、反応部5から排出される水素は反応容器3の排出路12を通じて水素発生装置1から排出されるが、反応部5からは、水素と同時に、金属水素化物の加水分解反応や水素発生溶液と反応促進溶液との中和反応で生じる副生成物や、その水溶液が残渣として排出される。これらの水素発生装置からの流出を防止する為に、反応容器の排出路に通じる反応室内に気液分離膜6を設けることが好ましい。また、反応室内に、ポリビニルアルコール(PVA)などの吸水性物質を配置し、残渣を吸着させることで残渣の水素発生装置からの流出を防止することができる。
【0042】
(実施の形態1の第1変更例)
図4は、実施の形態1の反応部の変更例を示す。
反応部50の構造は、実施の形態1の反応部5と同様に、合流流路21に設けられたそれぞれの溶液の導入部24と導入部24に対面する内壁の距離を小さくし、内壁同士の隙間に充填される様にそれぞれの溶液を導入する構造とし、さらに、導入部24の付近を狭く、導入部24から離れるに従って隙間が大きくなる様、テーパー形状とした。これにより、導入部24から離れる向きに液体毛細管力を増大させることができ、導入部24から導入された液体は、導入部24から離れる向きに力を受けながら、安定した形状を保って広がる。これにより、液体の接触までの導入量を確実に制御することが可能となる。
【0043】
また、反応部50のテーパー形状は同心円に限らず、中心から外周への隙間の広がり(傾斜)を変化させることにより、液体が広がる形状を図5に示すように楕円などにすることができる。これにより、導入部24から導入された水素発生溶液と反応促進溶液が接触する(水素発生反応を開始する)位置を制御することができ、例えば、図5に示す様に、楕円の形状とし、水素発生溶液と反応促進溶液の接触する点を混合流路22からの距離を大きくすることができる。これにより、水素発生が、合流反応流路21の混合流路22から遠い部分で開始されるので、水素発生による体積膨張を有効に利用し、合流反応流路21の水素発生溶液と反応促進溶液をより確実に混合流路22に押し出すことができ、溶液の合流反応流路21への残留を抑制し、反応を確実に行うことができる。
【0044】
(実施の形態1の第2変更例)
図6は、実施の形態1の反応部の変更例を示す。
反応部52は、混合流路22を蛇行させている。これにより、混合流路22を水素発生溶液と反応促進溶液とが混合流路22を流動する過程での混合をさらに促進することができる。また、内壁に凹凸を配置しても、水素発生溶液と反応促進溶液との混合をさらに促進する効果が得られる。
【0045】
(実施の形態1の第3変更例)
図7Aと図7Bは、実施の形態1の反応部の変更例を示す。
図7A(a)に示すように、反応部53は導入部24を合流反応流路21の側面に配置している。図7A(b)は反応部53を上方から見た平面図を示し、図7Bは、図7A(b)(i)のZ1−Z2で示した反応部53の断面図である。
【0046】
合流反応流路21は、上面壁,下面壁の隙間で構成される空間で構成され、図7Bに示すように、中央部から導入部24が配置された側面に向かって小さくなるテーパー形状となっている。図7A(b)は、導入部24から溶液を導入する過程を図(i)から(iii)に時系列で示す。合流反応流路21の側面に導入部24を設け、合流反応流路21の断面は導入部24に向かいの隙間が小さくなっているので、導入部24から導入されたそれぞれの溶液は、毛細管力により、それぞれの側面に沿って合流反応流路21の内部に広がる(i)。側面に沿った状態を維持しながら水素発生溶液と反応促進溶液が接触する状態まで広がる(ii)。これにより、水素発生溶液と反応促進溶液の接触点が安定した位置となり、反応開始までの合流反応流路21へのそれぞれの溶液の導入量が安定し、反応量を確実に制御することが可能となる。また、合流反応流路21の側面に沿って、安定した形状を持って広がるので、接触させる場所を制御することが容易で、それぞれの溶液の反応量を確実に制御することが可能となる。さらに、水素発生溶液と反応促進溶液の接触する点の混合流路22からの距離を大きくすることができる。これにより、合流反応流路21の混合流路22から遠い部分で水素発生が開始されるので、水素発生による体積膨張を有効に利用し、合流反応流路21の水素発生溶液と反応促進溶液を確実に混合流路22に押し出すことができ、溶液の合流反応流路21への残留を抑制し、反応を確実に行うことができる。
【0047】
(実施の形態1の第4変更例)(複数の反応部5)
図8は、反応部54を反応容器内に複数配置した例を示す。反応部54での水素発生流量は、それぞれ第一の送液手段9及び第二の送液手段10送液手段及びコントローラ16により制御される。複数の反応部54のそれぞれの発生量を制御できるので、水素消費流量の変動への追従が容易である。また、反応部54、1つあたりの反応量を少なくできるので、より繊細な制御が可能であり、水素を消費する水素消費機器14の水素消費流量に合わせて水素を発生することができる。
また、複数の反応部54を複数備えることにより、水素発生能力を増大させることができるので、水素消費流量の大きな機器への適用が可能となる。
【0048】
(実施の形態2)
図9に基づいて本発明の燃料電池を説明する。図9には本発明の一実施例に係る燃料電池の全体の状況を示す。
図示の燃料電池は、図1に示した水素発生装置1を燃料電池30に接続したシステムである。即ち、燃料電池30には燃料極室32が備えられ、燃料極室32は燃料電池セル31の燃料極35に接する空間を構成している。燃料極室32には水素発生装置1の排出路12が接続されている。水素発生装置1で発生した水素は排出路12から燃料極室32に送られ、燃料極35での燃料電池反応で消費される。
上述した燃料電池は、大掛かりな機構を要さずに水素発生装置1を備えた燃料電池となる。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明は、水素発生装置の産業分野で利用することができる。
また、本発明は、水素発生装置を備えた燃料電池の産業分野で利用することができる。
【符号の説明】
【0050】
1、100 水素発生装置
2 水素発生溶液室
3 反応容器
4 反応促進溶液室
5、50、51、52、53 反応部
6 気液分離膜
7 水素発生溶液導入路
8 反応促進溶液導入路
9 第一の送液手段
10 第二の送液手段
11 ケース
12 排出路
13 接続部
14 水素消費機器
15 圧力センサー
16 コントローラ
21 合流反応流路
22 混合流路
23 排出口
24 導入部
30 燃料電池
31 電池セル
32 燃料極室
33 酸化剤極
34 固体高分子電解質膜
35 燃料極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素発生溶液と、前記水素発生溶液との混合により水素を発生する水素発生促進溶液とを混合する反応部を有し、
前記水素発生溶液を前記反応部に導入する水素発生溶液導入路と、
前記反応促進溶液を前記反応部に導入する反応促進溶液導入路と、
前記水素発生溶液と前記水素発生溶液とが規定の量に達したときに接触し反応する合流反応流路と、
前記合流反応流路での水素発生による体積膨張の力により前記合流反応流路から押し出される前記水素発生溶液と前記水素発生溶液とを混合する混合流路とを備えることを特徴とする水素発生器。
【請求項2】
前記合流反応流路は、対向する2つの壁面を備えることを特徴とする請求項1に記載の水素発生装置。
【請求項3】
前記2つの壁面の距離は、前記水素発生溶液と前記反応促進溶液とがそれぞれ導入される前記導入部が備えられる部分を最小とし、前記導入部から離れるに従い増大することを特徴とする請求項2に記載の水素発生装置。
【請求項4】
前記合流反応流路は、撥水性を有することを特徴とする請求項1または2に記載の水素発生装置。
【請求項5】
前記合流反応流路は、中心部分に向かい広くなることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の水素発生装置。
【請求項6】
前記合流反応流路は、前記混合流路に向かい狭くなることを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載の水素発生装置。
【請求項7】
前記混合流路は、蛇行することを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載の水素発生装置。
【請求項8】
前記反応部は、複数あることを特徴とする請求項1から7のいずれか一項記載の水素発生装置。
【請求項9】
請求項1から請求項8のいずれか一項に記載の水素発生装置の前記水素が排出される排出路に燃料電池の燃料極を有する室が接続され、発生した前記水素が前記燃料極に供給されることを特徴とする燃料電池。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7A】
image rotate

【図7B】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2013−95630(P2013−95630A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−239416(P2011−239416)
【出願日】平成23年10月31日(2011.10.31)
【出願人】(000002325)セイコーインスツル株式会社 (3,629)
【Fターム(参考)】