説明

水素製造装置および水素製造方法

【課題】光利用効率が高く、高効率で水素を製造することができる水素製造装置を提供する。
【解決手段】本発明の水素製造装置は、受光面および裏面を有する光電変換部と、前記裏面の上に設けられた第1の気体発生部と、前記裏面の上に設けられた第2の気体発生部とを備え、第1の気体発生部および第2の気体発生部のうち、一方は電解液からH2を発生させる水素発生部であり、他方は電解液からO2を発生させる酸素発生部であり、第1の気体発生部は前記裏面と電気的に接続され、第2の気体発生部は第1の導電部を介して前記受光面と電気的に接続することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素製造装置および水素製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、化石燃料資源の枯渇および地球温暖化ガス排出抑制などの観点から、再生可能エネルギーの利用が望まれている。再生可能エネルギー源としては太陽光、水力、風力、地熱、潮力、バイオマスなど多岐にわたるが、その中でも、太陽光は利用可能なエネルギー量が大きいこと、他の再生可能エネルギーに対し地理的制約が比較的少ないことから、太陽光から効率よく利用可能なエネルギーを生み出す技術の早期な開発と普及が望まれている。
【0003】
太陽光から生み出される利用可能なエネルギーの形態としては、太陽電池や太陽光熱タービンを用いて製造される電気エネルギー、太陽光エネルギーを熱媒体に集めることによる熱エネルギー、その他にも太陽光を用いた物質還元による液体燃料や水素などの貯蔵可能な燃料エネルギー等が挙げられる。太陽電池技術および太陽熱利用技術については、すでに実用化されている技術が多いものの、エネルギー利用効率が未だ低いことと、電気および熱を作り出す際のコストが依然高いことから、これらの改善に向けた技術開発が行われている。さらに、これら電気や熱というエネルギー形態は、短期のエネルギー変動を補完するような使用法は実現できるものの、例えば季節変動などの長期での変動を補完することは極めて困難であることや、エネルギー量の増加により発電設備の稼働率低下を招く可能性があることが課題である。これに対し、液体燃料や水素など、エネルギーを物質として蓄えておくことは、長期変動を効率よく補完するとともに発電設備の稼働率を高める技術として極めて有力であり、今後エネルギー利用効率を最大限に高め、二酸化炭素の排出量を徹底的に削減するためには必要不可欠な技術である。
【0004】
貯蔵可能な燃料の形態としては、炭化水素などの液体燃料や、バイオガス、水素などの気体燃料、バイオマス由来の木材ペレットや太陽光で還元された金属などの固体燃料などに大別することができる。インフラ整備の容易性、エネルギー密度の観点では液体燃料、燃料電池などとのトータルの利用効率向上の観点では水素をはじめとする気体燃料、貯蔵可能性とエネルギー密度の観点では固体燃料というように、各形態において長所短所を有するが、原料として容易に入手可能な水を利用できる観点から、太陽光により水を分解することによる水素製造技術が特に注目されている。
【0005】
水を原料として太陽光エネルギーを利用し水素を製造する方法としては、酸化チタン等の光触媒に白金を担持させ、この物質を水中に入れ光照射することにより半導体中で電荷分離を行い、電解液中のプロトンを還元、水を酸化することによる光分解法や、高温ガス炉などの熱エネルギーを利用して水を高温で直接分解する、あるいは金属等の酸化還元と共役させて間接的に分解する熱分解法、藻類など光を利用する微生物の代謝を利用した生物法、太陽電池で発電した電気と水の電気分解水素製造装置を組み合わせた水電気分解法、太陽電池に使用される光電変換材料に水素発生触媒、酸素発生触媒を担持することにより、光電変換で得られる電子と正孔を水素生成触媒、酸素発生触媒で反応に利用する光起電力法等が挙げられる。この中で、光電変換部と水素生成部を一体化することにより、小型の水素製造装置を作製することの可能性を有するものは光分解法、生物法、光起電力法と考えられるが、太陽光エネルギーの変換効率の観点から、光起電力法は実用化に最も近い技術の一つと考えられる。
【0006】
これまでに、光分解法や光起電力法による光電変換と水素発生を一体化した水素製造装置の例が開示されている。光分解法では例えば、特許文献1によると、ルテニウム錯体を吸着させた酸化チタンの光触媒電極と、白金電極、ヨウ素もしくは鉄の酸化還元を利用した装置が開示されている。また、特許文献2によると、2層の光触媒をタンデム接続し、白金カウンター電極を接続、間にイオン交換膜を挟むことにより一体化構造を採用している。一方、光起電力法では、光電変換部と水素生成部、酸素生成部を一体化した水素製造装置のコンセプトが発表されている(非特許文献1)。これによると、電荷分離は光電変換部、水素生成と酸素生成はそれぞれに対応する触媒を用いることにより行われる。光電変換部は太陽電池に利用される材料が用いられている。例えば、非特許文献2の場合、3層のシリコンp−i−n層で電荷分離を行った上で、水素発生は白金触媒が担い、酸素発生は酸化ルテニウムが担っている。また特許文献3や非特許文献3では、基盤上に、水素発生触媒(NiFeO)と、3層のシリコンp−i−nを並列に積層、シリコン層の上にさらに酸素発生触媒(Co−Mo)を担持することにより、一体化水素製造装置を作製している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−89336号公報
【特許文献2】特表2004−504934号公報
【特許文献3】特開2003−288955号公報
【特許文献4】特開2004−197167号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America、2006年、43巻、15729−15735頁
【非特許文献2】Applied Physics Letters、1989年、55巻、386−387頁
【非特許文献3】International Journal of Hydrogen Energy、2003年、28巻、1167−1169頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記のとおり、光電変換と水素発生を一体化した水素製造装置の構造に関するいくつかの検討は既に開示されているが、より高効率で水素を製造するためには光の利用率を最大限に高めることが必要である。例えば、装置内の受光表面で気体が発生する場合、発生した気体によって入射光が散乱するため、入射光を十分利用できず、光利用効率の低下を招いてしまうことは大きな課題である。さらに、光電変換部の受光面に触媒を担持した場合、触媒により入射光が反射もしくは吸収されてしまうため、これによっても光利用率が低下することが課題となっている。また、光の散乱が起きないように光電変換部の受光面と酸素触媒を電極膜で電気的に接続させる方法も検討もされているが、構造上、光電変換部の面積が、他の部材(酸素生成触媒など)の面積によって制限されるため、光利用率が低下することが回避し難い課題である。
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、光利用効率が高く、高効率で水素を製造することができる水素製造装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、受光面および裏面を有する光電変換部と、前記裏面の上に設けられた第1の気体発生部と、前記裏面の上に設けられた第2の気体発生部とを備え、第1の気体発生部および第2の気体発生部のうち、一方は電解液からH2を発生させる水素発生部であり、他方は電解液からO2を発生させる酸素発生部であり、第1の気体発生部は前記裏面と電気的に接続し、第2の気体発生部は第1の導電部を介して前記受光面と電気的に接続することを特徴とする水素製造装置を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、光電変換部の受光面に光を入射させることにより光電変換部に起電力を生じさせることができ、受光面と裏面との間に電位差が生じさせることができる。このことにより、光電変換部の裏面と電気的に接続した第1の気体発生部と、光電変換部の受光面と第1の導電部を介して電気的に接続した第2の気体発生部との間も電位差を生じさせることができる。この電位差が生じた第1の気体発生部と第2の気体発生部とに電解液を接触させることにより、第1の気体発生部と第2の気体発生部のうち、どちらか一方で電解液からH2を発生させることができ、他方で電解液からO2を発生させることができる。この発生したH2を回収することにより水素を製造することができる。
【0012】
本発明によれば、光電変換部の裏面上に水素発生部および酸素発生部を設けるため、受光面に電解液を介さず光を入射させることができ、電解液による入射光の吸収や入射光の散乱を防止することができる。このことにより、光電変換部へ入射光の量を多くすることができ、光利用効率を高くすることができる。
また、本発明によれば、光電変換部の裏面上に水素発生部および酸素発生部を設けるため、受光面に入射する光が、水素発生部および酸素発生部、ならびにそこからそれぞれ発生する水素及び酸素により吸収や散乱されることはない。このことにより、光電変換部へ入射光の量を多くすることができ、光利用効率を高くすることができる。
【0013】
本発明によれば、光電変換部の裏面上に水素発生部および酸素発生部を設けるため、光電変換部の受光面を水素製造装置が受光する面の大部分に設けることができる。このことにより、光利用効率をより高くすることができる。
また、本発明によれば、光電変換部と、水素発生部および酸素発生部とが同一の装置に設けられているため、従来の太陽電池と水の電気分解装置を組み合わせるよりも、水素製造コストを低下させることができる。
また、本発明によれば、第1の導電部を介して第2の気体発生部と光電変換部の受光面とが電気的に接続するため、光電変換部を全面にわたり均一な材料による構造とすることができる。このため、光電変換部の受光面を広くすることができ、また、水素製造装置の製造コストを低下させることができる。
さらに、本発明によれば、光電変換部を全面にわたり均一な材料による構造とすることができるため、光電変換部を絶縁部などで平面方向に隔離する必要がない。このため、光電変換部の受光面積をより大きくすることができ、光利用率をより高くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施形態の水素製造装置の構成を示す概略平面図である。
【図2】図1の点線A―Aの概略断面図である。
【図3】本発明の一実施形態の水素製造装置の構成を示す概略裏面図である。
【図4】本発明の一実施形態の水素製造装置の構成を示す概略平面図である。
【図5】本発明の一実施形態の水素製造装置の構成を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の水素製造装置は、受光面および裏面を有する光電変換部と、前記裏面の上に設けられた第1の気体発生部と、前記裏面の上に設けられた第2の気体発生部とを備え、第1の気体発生部および第2の気体発生部のうち、一方は電解液からH2を発生させる水素発生部であり、他方は電解液からO2を発生させる酸素発生部であり、第1の気体発生部は前記裏面と電気的に接続し、第2の気体発生部は第1の導電部を介して前記受光面と電気的に接続することを特徴とする。
【0016】
水素製造装置とは、水を含む電解液から水素を製造することができる装置である。
光電変換部とは、光を受光し起電力が生じる部分である。
受光面とは、光が入射する光電変換部の面である。
裏面とは、受光面の裏の面である。
【0017】
本発明の水素製造装置において、第2の気体発生部は、絶縁部を介して前記裏面上に設けられることが好ましい。
このような構成によれば、第2の気体発生部と光電変換部の裏面との間にリーク電流が流れることを防止することができる。
本発明の水素製造装置において、第1の導電部は、前記受光面に接触する第1電極と、第1電極および第2の気体発生部にそれぞれ接触する第2の導電部とを含むことが好ましい。
このような構成によれば、光電変換部の受光面と第2の気体発生部を電気的に接続させることができ、より効率的に水素または酸素を発生させることができる。
【0018】
本発明の水素製造装置において、第2の導電部は、前記光電変換部を貫通するコンタクトホールに設けられることが好ましい。
このような構成によれば、第1電極と第2の気体発生部を電気的に接続させることができ、第2の導電部を設けたことによる光電変換部の受光面の面積の減少を少なくすることができる。
本発明の水素製造装置において、前記コンタクトホールは、1つ以上であり、各コンタクトホールの断面積の総計は、前記受光面の面積の0.1%以上10%以下であることが好ましい。
このような構成によれば、第2の導電部を設けたことによる光電変換部の受光面の面積の減少を少なくすることができる。
【0019】
本発明の水素製造装置において、前記裏面と第1の気体発生部との間に設けられた第2電極をさらに備えることが好ましい。
このような構成によれば、光電変換部の起電力により光電変換部の裏面と第1の気体発生部と間に流れる電流を大きくすることができ、より効率的に水素または酸素を発生させることができる。
本発明の水素製造装置において、前記光電変換部は、透光性を有する基板の上に設けられることが好ましい。
このような構成によれば、基板上に形成する必要がある光電変換部を本発明の水素製造装置に適用することができる。また、本発明の水素製造装置を取り扱いやすくすることができる。
【0020】
本発明の水素製造装置において、前記光電変換部は、p型半導体層、i型半導体層およびn型半導体層からなる光電変換層を複数有することが好ましい。
このような構成によれば、光電変換部が複数のpin構造を有することができ、効率よく光電変換をすることができる。また、光電変換部で生じる起電力をより大きくすることができ、電解液をより効率的に電気分解することができる。
本発明の水素製造装置において、複数の前記光電変換層は、それぞれ異なるバンドギャップを有することが好ましい。
このような構成によれば、光電変換部で生じる起電力をより大きくすることができ、電解液をより効率的に電気分解することができる。
【0021】
本発明の水素製造装置において、前記水素発生部および前記酸素発生部は、それぞれ電解液からH2が発生する反応の触媒および電解液からO2が発生する反応の触媒を含むことが好ましい。
このような構成によれば、水素発生部における電解液からH2が発生する反応の反応速度を増大させることができ、酸素発生部における電解液からO2が発生する反応の反応速度を増大させることができる。このことにより、光電変換部で生じた起電力により、より効率的にH2を製造することができ、光の利用効率を向上させることができる。
【0022】
本発明の水素製造装置において、第1の気体発生部および第2の気体発生部のうち少なくとも一方は、前記受光面の面積より大きい触媒表面積を有することが好ましい。
このような構成によれば、光電変換部で生じる起電力により、より効率的に水素または酸素を発生させることができる。
本発明の水素製造装置において、第1の気体発生部および第2の気体発生部のうち少なくとも一方は、触媒が担持された多孔質の導電体であることが好ましい。
このような構成によれば、第1の気体発生部および第2の気体発生部のうち少なくとも一方の触媒表面積を大きくすることができ、より効率的に酸素または水素を発生させることができる。また、多孔質の導電体を用いることにより、光電変換部と触媒との間の電流が流れることによる電位の変化を抑制することができ、より効率的に水素または酸素を発生させることができる。
【0023】
本発明の水素製造装置において、前記水素発生部は、水素発生触媒としてPt、Ir、Ru、Pd、Rh、Au、Fe、NiおよびSeのうち少なくとも1つを含むことが好ましい。
このような構成によれば、光電変換部で生じる起電力により、より速い反応速度で水素を発生させることができる。
本発明の水素製造装置において、前記酸素発生部は、酸素発生触媒としてMn、Ca、Zn、CoおよびIrのうち少なくとも1つを含むことが好ましい。
このような構成によれば、光電変換部で生じる起電力により、より速い反応速度で酸素を発生させることができる。
【0024】
本発明の水素製造装置において、前記光電変換部は、透光性を有する基板の上に設けられ、第1の気体発生部および第2の気体発生部の上に前記基板に対向する天板をさらに備え、第1の気体発生部および第2の気体発生部と前記天板との間に空間が設けられることが好ましい。
このような構成によれば、第1の気体発生部および第2の気体発生部と前記天板との間に電解液を導入することができ、第1の気体発生部および第2の気体発生部において電解液からより効率的にH2およびO2が発生させることができる。
本発明の水素製造装置において、第1の気体発生部と前記天板との間の空間および第2の気体発生部と天板との間の空間とを仕切る隔壁をさらに備えることが好ましい。
このような構成によれば、第1の気体発生部および第2の気体発生部でそれぞれ発生した水素および酸素を分離することができ、水素をより効率的に回収することができる。
【0025】
本発明の水素製造装置において、前記隔壁はイオン交換体を含むことが好ましい。
このような構成によれば、第1の気体発生部の上部の空間に導入された電解液と第2の気体発生部の上部の空間に導入された電解液との間のプロトン濃度の不均衡を解消を一定にすることができ、安定して水素および酸素を発生させることができる。
また、本発明は、本発明の水素製造装置を前記受光面が水平面に対し傾斜するように設置し、前記水素製造装置の下部から前記水素製造装置に電解液を導入し、太陽光を前記受光面に入射させることにより前記水素発生部および前記酸素発生部からそれぞれ水素および酸素を発生させ、前記水素製造装置の上部から水素および酸素を排出する水素製造方法も提供する。
本発明の水素製造方法によれば、太陽光を利用して、低コストで水素を製造することができる。
【0026】
以下、本発明の一実施形態を図面を用いて説明する。図面や以下の記述中で示す構成は、例示であって、本発明の範囲は、図面や以下の記述中で示すものに限定されない。
【0027】
水素製造装置の構成
図1は本発明の一実施形態の水素製造装置の構成を示し、光電変換部の受光面側から見た概略平面図である。図2は、図1の点線A−Aの概略断面図である。図3は、本発明の一実施形態の水素製造装置の構成を示し、光電変換部の裏面側から見た概略裏面図である。
【0028】
本実施形態の水素製造装置23は、受光面および裏面を有する光電変換部2と、前記裏面の上に設けられた第1の気体発生部8と、前記裏面の上に設けられた第2の気体発生部7とを備え、第1の気体発生部8および第2の気体発生部7のうち、一方は電解液からH2を発生させる水素発生部であり、他方は電解液からO2を発生させる酸素発生部であり、第1の気体発生部8は前記裏面と電気的に接続し、第2の気体発生部7は第1の導電部9を介して前記受光面と電気的に接続することを特徴とする。
【0029】
また、本実施形態の水素製造装置23に含まれる第1の導電部9は、第1電極4と第2の導電部10からなってもよい。また、本実施形態の水素製造装置23は、基板1、第2電極5、絶縁部11、隔壁13、天板14、電解液流路15、シール材16、給水口18、第1ガス排出口20および第2ガス排出口19を備えてもよい。
以下、本実施形態の水素製造装置について説明する。
【0030】
1.基板
基板1は、本実施形態の水素製造装置23が備えてもよい。また、光電変換部2は、受光面が基板1側となるように透光性の基板1の上に設けられてもよい。なお、光電変換部2が、半導体基板などからなり一定の強度を有する場合、基板1は省略することが可能である。また、光電変換部2が樹脂フィルムなど柔軟性を有する材料の上に形成可能な場合、基板1は省略することができる。
【0031】
また、基板1は、本水素製造装置を構成するための土台となる部材である。また、太陽光を光電変換部2の受光面で受光するためには、透明であり光透過率が高いことが好ましいが、光電変換部2へ効率的な光の入射が可能な構造であれば、光透過率に制限はない。
光透過率が高い基板材料として、例えば、ソーダガラス、石英ガラス、パイレックス(登録商標)、合成石英板等の透明なリジッド材、あるいは透明樹脂板やフィルム材等が好適に用いられる。化学的および物理的安定性を備える点より、ガラス基板を用いることが好ましい。
基板1の光電変換部2側の表面には、入射した光が光電変換部2の表面で有効に乱反射されるように、微細な凹凸構造に形成することができる。この微細な凹凸構造は、例えば反応性イオンエッチング(RIE)処理もしくはブラスト処理等の公知の方法により形成することが可能である。
【0032】
2.第1の導電部
第1の導電部9は、第2の気体発生部7と光電変換部2の受光面とを電気的に接続させる。また、第1の導電部9は、1つの部材からなってもよく、第1電極4と第2の導電部10からなってもよい。第1の導電部9を設けることにより、光電変換部2の受光面の電位と第2の気体発生部7の電位をほぼ同じにすることができ、第2の気体発生部7で水素または酸素を発生させることができる。
第1の導電部9が1つの部材からなる場合としては、例えば、光電変換部2の受光面と第2の気体発生部7を電気的に接続させる金属配線などである。また、例えば、Agからなる金属配線である。また、この金属配線は、光電変換部2に入射する光を減少させいないように、フィンガー電極のような形状を有してもよい。第1の導電部9は、基板1の光電変換部2側に設けられてもよく、光電変換部2の受光面に設けられてもよい。
【0033】
3.第1電極
第1電極4は、基板1の上に設けることができ、光電変換部2の受光面と接触するように設けることができる。また、第1電極4は透光性を有してもよい。また、第1電極4は、基板1を省略可能の場合、光電変換部2の受光面に直接設けられてもよい。第1電極4を設けることにより、光電変換部2の受光面と第2の気体発生部7との間に流れる電流を大きくすることができる。
第1電極4は、例えば、ITO、SnO2などの透明導電膜からなってもよく、Ag、Auなどの金属のフィンガー電極からなってもよい。
【0034】
以下に第1電極4を透明導電膜とした場合について説明する。
透明導電膜は、光電変換部2の受光面と第2の気体発生部7とのコンタクトを取りやすくするために用いている。
一般に透明電極として使用されているものを用いることが可能である。具体的にはIn−Zn−O(IZO)、In−Sn−O(ITO)、ZnO−Al、Zn−Sn−O、SnO2等を挙げることができる。なお本透明導電膜は、太陽光の光線透過率が85%以上、中でも90%以上、特に92%以上であることが好ましい。このことにより光電変換部2が光を効率的に吸収することができるためである。
透明導電膜の作成方法としては公知の方法を用いることができ、スパッタリング、真空蒸着、ゾルゲル法、クラスタービーム蒸着法、PLD(Pulse Laser Deposition)法などが挙げられる。
【0035】
4.光電変換部
光電変換部2は、受光面および裏面を有し、光電変換部2の裏面の上に第1の気体発生部8と第2の気体発生部7が設けられている。なお、受光面とは、光電変換するための光を受光する面であり、裏面とは、受光面の裏の面である。また、光電変換部2は、第1電極4が設けられた基板1の上に受光面を下にして設けることができる。
光電変換部2は、入射光により電荷分離することができ、受光面と裏面との間に起電力が生じるものであれば、特に限定されないが、例えば、シリコン系半導体を用いた光電変換部、化合物半導体を用いた光電変換部、色素増感剤を利用した光電変換部、有機薄膜を用いた光電変換部などである。
【0036】
光電変換部2は、光を受光することにより、水素発生部および酸素発生部においてそれぞれ水素と酸素が発生するために必要な起電力が生じる材料を使用する必要がある。水素発生部と酸素発生部の電位差は、水分解のための理論電圧(1.23V)より大きくする必要があり、そのためには光電変換部2で十分大きな電位差を生み出す必要がある。そのため光電変換部2は、pn接合など起電力を生じさせる部分を二接合以上直列に接続することが好ましい。
【0037】
光電変換を行う材料は、シリコン系半導体、化合物半導体、有機材料をベースとしたものなどが挙げられるが、いずれの光電変換材料も使用することが可能である。また、起電力を大きくするために、これらの光電変換材料を積層することが可能である。積層する場合には同一材料で多接合構造を形成することが可能であるが、光学的バンドギャップの異なる複数の光電変換層を積層し、各々の光電変換層の低感度波長領域を相互に補完することにより、広い波長領域にわたり入射光を効率よく吸収することが可能となる。
【0038】
また、光電変換層間の直列接続特性の改善や、光電変換部2で発生する光電流の整合のために、層間に透明導電膜等の導電体を介在させることが可能である。これにより光電変換部2の劣化を抑制することが可能となる。
光電変換部2の例を以下に具体的に説明する。また、光電変換部2は、これらを組み合わせたものでもよい。
【0039】
4−1.シリコン系半導体を用いた光電変換部
シリコン系半導体を用いた光電変換部2は、例えば、単結晶型、多結晶型、アモルファス型、球状シリコン型、及びこれらを組み合わせたもの等が挙げられる。いずれもp型半導体とn型半導体が接合したpn接合を有することができる。また、p型半導体とn型半導体との間にi型半導体を設けたpin接合を有するものとすることもできる。また、pn接合を複数有するもの、pin接合を複数有するもの、pn接合とpin接合を有するものとすることもできる。
シリコン系半導体とは、シリコンを含む半導体であり、例えば、シリコン、シリコンカーバイド、シリコンゲルマニウムなどである。また、シリコンなどにn型不純物またはp型不純物が添加されたものも含み、また、結晶質、非晶質、微結晶のものも含む。
また、シリコン系半導体を用いた光電変換部2は、基板1の上に形成された薄膜または厚膜の光電変換層であってもよく、また、シリコンウェハなどのウェハにpn接合またはpin接合を形成したものでもよく、また、pn接合またはpin接合を形成したウェハの上に薄膜の光電変換層を形成したものでもよい。
【0040】
シリコン系半導体を用いた光電変換部2の形成例を以下に示す。
基板1上に積層した第1電極4上に、第1導電型半導体層をプラズマCVD法等の方法で形成する。この第1導電型半導体層としては、導電型決定不純物原子濃度が1×1018〜5×1021/cm3程度ドープされた、p+型またはn+型の非晶質Si薄膜、または多結晶あるいは微結晶Si薄膜とする。第1導電型半導体層の材料としては、Siに限らず、SiCあるいはSiGe,Six1-x等の化合物を用いることも可能である。
【0041】
このように形成された第1導電型半導体層上に、結晶質Si系光活性層として多結晶あるいは微結晶の結晶質Si薄膜をプラズマCVD法等の方法で形成する。なお、導電型は第1導電型半導体よりドーピング濃度が低い第1導電型とするか、あるいはi型とする。結晶質Si系光活性層の材料としては、Siに限らず、SiCあるいはSiGe,Six1-x等の化合物を用いることも可能である。
【0042】
次に、結晶質Si系光活性層上に半導体接合を形成するため、第1導電型半導体層とは反対導電型である第2導電型半導体層をプラズマCVD等の方法で形成する。この第2導電型半導体層としては、導電型決定不純物原子が1×1018〜5×1021/cm3程度ドープされた、n+型またはp+型の非晶質Si薄膜、または多結晶あるいは微結晶Si薄膜とする。第2導電型半導体層の材料としては、Siに限らず、SiCあるいはSiGe,Six1-x等の化合物を用いることも可能である。また接合特性をより改善するために、結晶質Si系光活性層と第2導電型半導体層との間に、実質的にi型の非単結晶Si系薄膜を挿入することも可能である。このようにして、受光面に最も近い光電変換層を一層積層することができる。
【0043】
続けて第二層目の光電変換層を形成する。第二層目の光電変換層は、第1導電型半導体層、結晶質Si系光活性層、第2導電型半導体層からなり、それぞれの層は、第一層目の光電変換層中の対応する第1導電型半導体層、結晶質Si系光活性層、第2導電型半導体層と同様に形成する。二層のタンデムで水分解に十分な電位を得ることができない場合は、三層あるいはそれ以上の層状構造を取ることが好ましい。ただし第二層目の光電変換層の結晶質Si系光活性層の体積結晶化分率は、第一層目の結晶質Si系光活性層と比較すると高くすることが好ましい。三層以上積層する場合も同様に下層と比較すると体積結晶化分率を高くすることが好ましい。これは、長波長域での吸収が大きくなり、分光感度が長波長側にシフトし、同じSi材料を用いて光活性層を構成した場合においても、広い波長域で感度を向上させることが可能となるためである。すなわち、結晶化率の異なるSiでタンデム構造にすることにより、分光感度が広くなり、光の高効率利用が可能となる。このとき低結晶化率材料を受光面側にしないと高効率とならない。また結晶化率が40%以下に下がるとアモルファス成分が増え、劣化が生じてしまう。
【0044】
4−2.化合物半導体を用いた光電変換部
化合物半導体を用いた光電変換部は、例えば、III−V族元素で構成されるGaP、GaAsやInP、InAs、II−VI族元素で構成されるCdTe/CdS、I−III−VI族で構成されるCIGS(Copper Indium Gallium DiSelenide)などを用いpn接合を形成したものが挙げられる。
【0045】
化合物半導体を用いた光電変換部の製造方法の一例を以下に示すが、本製造方法では、製膜処理等はすべて有機金属気相成長法(MOCVD;Metal Organic Chemical Vapor Deposition)装置を使って連続して行われる。III族元素の材料としては、例えばトリメチルガリウム、トリメチルアルミニウム、トリメチルインジウムなどの有機金属が水素をキャリアガスとして成長装置に供給される。V族元素の材料としては、例えばアルシン(AsH3)、ホスフィン(PH3)、スチビン(SbH3)等のガスが使われる。p型不純物またはn型不純物のドーパントとしては、例えばp型化にはジエチルジンク、またはn型化には、モノシラン(SiH4)やジシラン(Si26)、セレン化水素(H2Se)等が利用される。これらの原料ガスを、例えば700℃に加熱された基板上に供給することにより熱分解させ、所望の化合物半導体材料膜をエピタキシャル成長させることが可能である。これら成長層の組成は導入するガス組成により、また膜厚はガスの導入時間によって制御することが可能である。これらの光電変換部を多接合積層する場合は、層間での格子定数を可能な限り合わせることにより、結晶性に優れた成長層を形成することができ、光電変換効率を向上することが可能となる。
【0046】
pn接合を形成した部分以外にも、例えば受光面側に公知の窓層や、非受光面側に公知の電界層等を設けることによりキャリア収集効率を高める工夫を有してもよい。また不純物の拡散を防止するためのバッファ層を有していてもよい。
【0047】
4−3.色素増感剤を利用した光電変換部
色素増感剤を利用した光電変換部は、例えば、主に多孔質半導体、色素増感剤、電解質、溶媒などにより構成される。
多孔質半導体を構成する材料としては、例えば、酸化チタン、酸化タングステン、酸化亜鉛、チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウム、硫化カドミウム等公知の半導体から1種類以上を選択することが可能である。多孔質半導体を基板上に形成する方法としては、半導体粒子を含有するペーストをスクリーン印刷法、インクジェット法等で塗布し乾燥もしくは焼成する方法や、原料ガスを用いたCVD法等により製膜する方法、PVD法、蒸着法、スパッタ法、ゾルゲル法、電気化学的な酸化還元反応を利用した方法等が挙げられる。
【0048】
多孔質半導体に吸着する色素増感剤としては、可視光領域および赤外光領域に吸収を持つ種々の色素を用いることが可能である。ここで、多孔質半導体に色素を強固に吸着させるには、色素分子中にカルボン酸基、カルボン酸無水基、アルコキシ基、スルホン酸基、ヒドロキシル基、ヒドロキシルアルキル基、エステル基、メルカプト基、ホスホニル基等が存在することが好ましい。これらの官能基は、励起状態の色素と多孔質半導体の伝導帯との間の電子移動を容易にする電気的結合を提供する。
【0049】
これらの官能基を含有する色素として、例えば、ルテニウムビピリジン系色素、キノン系色素、キノンイミン系色素、アゾ系色素、キナクリドン系色素、スクアリリウム系色素、シアニン系色素、メロシアニン系色素、トリフェニルメタン系色素、キサンテン系色素、ポルフィリン系色素、フタロシアニン系色素、ベリレン系色素、インジゴ系色素、ナフタロシアニン系色素等が挙げられる。
【0050】
多孔質半導体への色素の吸着方法としては、例えば多孔質半導体を、色素を溶解した溶液(色素吸着用溶液)に浸漬する方法が挙げられる。色素吸着用溶液に用いられる溶媒としては、色素を溶解するものであれば特に制限されず、具体的には、エタノール、メタノール等のアルコール類、アセトン等のケトン類、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル類、アセトニトリル等の窒素化合物類、ヘキサン等の脂肪族炭化水素、ベンゼン等の芳香族炭化水素、酢酸エチル等のエステル類、水等を挙げることができる。
【0051】
電解質は、酸化還元対とこれを保持する液体または高分子ゲル等固体の媒体からなる。
酸化還元対としては一般に、鉄系、コバルト系等の金属類や塩素、臭素、ヨウ素等のハロゲン物質が好適に用いられ、ヨウ化リチウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化カリウム等の金属ヨウ化物とヨウ素の組み合わせが好ましく用いられる。さらに、ジメチルプロピルイミダゾールアイオダイド等のイミダゾール塩等を混入することもできる。
【0052】
また、溶媒としては、プロピレンカーボネート等のカーボネート化合物、アセトニトリル等のニトリル化合物、エタノール、メタノール等のアルコール、その他、水や非プロトン極性物質等が用いられるが、中でも、カーボネート化合物やニトリル化合物が好適に用いられる。
【0053】
4−4.有機薄膜を用いた光電変換部
有機薄膜を用いた光電変換部は、電子供与性および電子受容性を持つ有機半導体材料で構成される電子正孔輸送層、または電子受容性を有する電子輸送層と電子供与性を有する正孔輸送層とが積層されたものであってもよい。
電子供与性の有機半導体材料としては、電子供与体としての機能を有するものであれば特に限定されないが、塗布法により製膜できることが好ましく、中でも電子供与性の導電性高分子が好適に使用される。
【0054】
ここで導電性高分子とはπ共役高分子を示し、炭素−炭素またはヘテロ原子を含む二重結合または三重結合が、単結合と交互に連なったπ共役系からなり、半導体的性質を示すものをさす。
【0055】
電子供与性の導電性高分子材料としては、例えばポリフェニレン、ポリフェニレンビニレン、ポリチオフェン、ポリカルバゾール、ポリビニルカルバゾール、ポリシラン、ポリアセチレン、ポリピロール、ポリアニリン、ポリフルオレン、ポリビニルピレン、ポリビニルアントラセン、およびこれらの誘導体、共重合体、あるいはフタロシアニン含有ポリマー、カルバゾール含有ポリマー、有機金属ポリマー等が挙げられる。中でも、チオフェン−フルオレン共重合体、ポリアルキルチオフェン、フェニレンエチニレン−フェニレンビニレン共重合体、フルオレン−フェニレンビニレン共重合体、チオフェン−フェニレンビニレン共重合体等が好適に利用される。
【0056】
電子受容性の有機半導体材料としては、電子受容体としての機能を有するものであれば特に限定されないが、塗布法により製膜できることが好ましく、中でも電子供与性の導電性高分子が好適に使用される。
電子受容性の導電性高分子としては、例えばポリフェニレンビニレン、ポリフルオレン、およびこれらの誘導体、共重合体、あるいはカーボンナノチューブ、フラーレンおよびこれらの誘導体、CN基またはCF3基含有ポリマーおよびそれらの−CF3置換ポリマー等が挙げられる。
【0057】
また、電子供与性化合物がドープされた電子受容性の有機半導体材料や、電子受容性化合物がドープされた電子供与性の有機半導体材料等を用いることが可能である。電子供与性化合物がドープされる電子受容性の導電性高分子材料としては、上述の電子受容性の導電性高分子材料を挙げることができる。ドープされる電子供与性化合物としては、例えばLi、K、Ca、Cs等のアルカリ金属やアルカリ土類金属のようなルイス塩基を用いることができる。なお、ルイス塩基は電子供与体として作用する。また、電子受容性化合物がドープされる電子供与性の導電性高分子材料としては、上述した電子供与性の導電性高分子材料を挙げることができる。ドープされる電子受容性化合物としては、例えばFeCl3、AlCl3、AlBr3、AsF6やハロゲン化合物のようなルイス酸を用いることができる。なお、ルイス酸は電子受容体として作用する。
【0058】
上記にて示した光電変換部2においては、第一義的には太陽光を受光させ光電変換を行うことを想定しているが、用途により蛍光灯や白熱灯、LED、特定の熱源から発せられる光等の人工光を照射し光電変換を行うことも可能である。
【0059】
5.第2電極
第2電極5は、光電変換部2と第1の気体発生部8との間に設けることができる。第2電極5を設けることにより、光電変換部2の裏面の電位と第1の気体発生部8の電位をほぼ同じにすることができる。また、光電変換部2の裏面と第1の気体発生部8との間に流れる電流を大きくすることができる。このことにより、光電変換部2で生じた起電力により水素または酸素をより効率的に発生させることができる。
第2電極5は、導電性を有すれば特に限定されないが、例えば、金属薄膜であり、また、例えば、Al、Ag、Auなどの薄膜である。これらは、例えば、スパッタリングなどにより形成することができる。また、例えば、In−Zn−O(IZO)、In−Sn−O(ITO)、ZnO−Al、Zn−Sn−O、SnO2等の透明導電膜である。
【0060】
6.絶縁部
絶縁部11は、光電変換部2の裏面と第2の気体発生部7との間に設けることができる。また、絶縁部11は、第1の気体発生部8と第2の気体発生部7との間に設けることもできる。さらに、絶縁部11は、第1の導電部9と光電変換部2との間、第2の導電部10と光電変換部2との間、および第2導電部10と第2電極5との間に設けることができる。
絶縁部11を設けることにより、光電変換部2で生じた起電力により、光電変換部2の受光面と第2の気体発生部7との間に電流を流し、光電変換部2の裏面と第1の気体発生部8との間に電流を流すことができる。また、リーク電流をより小さくすることができる。このことにより、光電変換部2の受光面の電位と第2の気体発生部7の電位をほぼ同じにすることができ、また、光電変換部2の裏面の電位と第1の気体発生部8の電位をほぼ同じにすることができ、より効率的に水素および酸素を発生させることができる。
【0061】
絶縁部11としては、有機材料、無機材料を問わず用いることが可能であり、例えば、ポリアミド、ポリイミド、ポリアリーレン、芳香族ビニル化合物、フッ素系重合体、アクリル系重合体、ビニルアミド系重合体等の有機ポリマー、無機系材料としては、Al23等の金属酸化物、多孔質性シリカ膜等のSiO2や、フッ素添加シリコン酸化膜(FSG)、SiOC、HSQ(Hydrogen Silsesquioxane)膜、SiNx、シラノール(Si(OH)4)をアルコール等の溶媒に溶かし塗布・加熱することにより製膜する方法を用いることが可能である。
【0062】
絶縁部11を形成する方法としては、絶縁性材料を含有するペーストをスクリーン印刷法、インクジェット法、スピンコーティング法等で塗布し乾燥もしくは焼成する方法や、原料ガスを用いたCVD法等により製膜する方法、PVD法、蒸着法、スパッタ法、ゾルゲル法を利用した方法等が挙げられる。
【0063】
7.第2の導電部
第2の導電部10は、第1電極4と第2の気体発生部7とにそれぞれ接触するように設けることができる。第2の導電部10を設けることにより、容易に光電変換部2の受光面に接触した第1電極4と第2の気体発生部7とを電気的に接続することができる。
第2の導電部10は光電変換部2の受光面と接触した第1電極4と光電変換部2の裏面上に設けられた第2の気体発生部7とに接触するため、光電変換部2の受光面と平行な第2導電部の断面積を大きくしすぎると、光電変換部2の受光面の面積を小さくすることにつながる。また、光電変換部2の受光面に平行な第2の導電部10の断面積を小さくしすぎると光電変換部2の受光面の電位と第2の気体発生部7の電位との間に差が生じ、電解液を分解する電位差が得られなくなる場合もあり、水素または酸素の発生効率の減少につながる場合もある。従って、光電変換部2の受光面と平行な第2導電部の断面積は、一定の範囲である必要がある。例えば、光電変換部2の受光面と平行な第2導電部の断面積(第2導電部が複数の場合、その断面積の総計)は、光電変換部2の受光面の面積を100%としたとき、0.1%以上10%以下とすることができ、好ましくは、0.5%以上8%以下、さらに好ましくは、1%以上6%以下とすることができる。
【0064】
また、第2の導電部10は、光電変換部2を貫通するコンタクトホールに設けられてもよい。このことにより、第2導電部10を設けることによる光電変換部2の受光面の面積の減少をより小さくすることができる。また、このことにより、光電変換部2の受光面と第2の気体発生部7との間の電流経路を短くすることができ、より効率的に水素または酸素を発生させることができる。また、このことにより、光電変換部2の受光面と平行な第2の導電部10の断面積を容易に調節することができる。
また、第2の導電部10が設けられたコンタクトホールは、1つまたは複数でもよく、円形の断面を有してもよい。また、光電変換部2の受光面と平行なコンタクトホールの断面積(コンタクトホールが複数の場合、その断面積の総計)は、光電変換部2の受光面の面積を100%としたとき、0.1%以上10%以下とすることができ、好ましくは、0.5%以上8%以下、さらに好ましくは、1%以上6%以下とすることができる。
【0065】
第2の導電部10の材料は、導電性を有しているものであれば特に制限されない。導電性粒子を含有するペースト、例えばカーボンペースト、Agペースト等をスクリーン印刷法、インクジェット法等で塗布し乾燥もしくは焼成する方法や、原料ガスを用いたCVD法等により製膜する方法、PVD法、蒸着法、スパッタ法、ゾルゲル法、電気化学的な酸化還元反応を利用した方法等が挙げられる。
【0066】
図4は本発明の一実施形態の水素製造装置を受光面側から見た形態である。第2の導電部10の光電変換部2の受光面と平行な断面は、図1のように円形でもよく、図4のように細長い形状を有してもよい。また、第2の導電部10の数は、図1のように複数でもよく、図4のように1つでもよい。また、光電変換部2の受光面と第2の気体発生部7とを電気的に接続するためのコンタクトホールに設けられた第2の導電部10が、隔壁13と実質的に平行な長い形状を形成していてもよい。
【0067】
8.第1の気体発生部
第1の気体発生部8は、光電変換部2の裏面の上に設けられる。このことにより、第1の気体発生部8は光電変換部2に入射する光を遮ることはない。また、第1の気体発生部8は、水素発生部および酸素発生部のいずれか一方であり、光電変換部2の裏面と電気的に接続する。このことにより、光電変換部2の裏面の電位と第1の気体発生部8の電位をほぼ同じとすることができ、光電変換部2で生じた起電力により水素または酸素を発生させることができる。また、第1の気体発生部8は、第2の気体発生部7と接触しないように設けることができる。このことにより、第1の気体発生部8と第2の気体発生部7との間にリーク電流が流れるのを防止することとができる。さらに、第1の気体発生部8は、電解液流路15に露出してもよい。このことにより、第1の気体発生部8の表面で電解液からH2またはO2を発生させることができる。
【0068】
9.第2の気体発生部
第2の気体発生部7は、光電変換部2の裏面の上に設けられる。このことにより、第2の気体発生部7は光電変換部2に入射する光を遮ることはない。また、第2の気体発生部7は、水素発生部および酸素発生部のいずれか一方であり、光電変換部2の受光面と第1の導電部9を介して電気的に接続する。このことにより、光電変換部2の受光面の電位と第2の気体発生部7の電位をほぼ同じにすることができ、光電変換部2で生じた起電力により水素または酸素を発生させることができる。また、第2の気体発生部7は、絶縁部11を介して光電変換部2の裏面の上に設けられてもよい。また、第2の気体発生部7は、第1の気体発生部8と接触しないように設けることができる。このことによりリーク電流が流れることを防止することができる。また、第2の気体発生部7は、電解液流路15に露出してもよい。このことにより、第2の気体発生部7の表面で電解液からH2またはO2を発生させることができる。
【0069】
10.水素発生部
水素発生部は、電解液からH2を発生させる部分であり、第1の気体発生部8および第2の気体発生部7のうちどちらか一方である。また、水素発生部は、電解液からH2が発生する反応の触媒を含んでもよい。このことにより、電解液からH2が発生する反応の反応速度を大きくすることができる。水素発生部は、電解液からH2が発生する反応の触媒のみからなってもよく、この触媒が担持体に担持されたものであってもよい。また、水素発生部は、光電変換部2の受光面の面積より大きい触媒表面積を有してもよい。このことにより、電解液からH2が発生する反応をより速い反応速度とすることができる。また、水素発生部は、触媒が担持された多孔質の導電体であってもよい。このことにより、触媒表面積を大きくすることができる。また、光電変換部2の受光面または裏面と水素発生部に含まれる触媒との間に電流が流れることによる電位の変化を抑制することができる。また、この水素発生部を第1の気体発生部8としたとき、第2電極を省略しても光電変換部2の裏面と触媒との間に電流が流れることによる電位の変化を抑制することができる。さらに、水素発生部は、水素発生触媒としてPt、Ir、Ru、Pd、Rh、Au、Fe、NiおよびSeのうち少なくとも1つを含んでもよい。
【0070】
電解液からH2が発生する反応の触媒(水素発生触媒)は、2つのプロトンと2つの電子から1分子の水素への変換を促進する触媒であり、化学的に安定であり、水素生成過電圧が小さい材料を用いることができる。例えば、水素に対して触媒活性を有するPt,Ir,Ru,Pd,Rh,Au等の白金族金属およびその合金あるいは化合物、水素生成酵素であるヒドロゲナーゼの活性中心を構成するFe,Ni,Seの合金あるいは化合物、およびこれらの組み合わせ等を好適に用いることが可能である。中でもPtおよびPtを含有するナノ構造体は水素発生過電圧が小さく好適に用いることが可能である。光照射により水素発生反応が確認されるCdS,CdSe,ZnS,ZrO2などの材料を用いることもできる。
【0071】
水素発生触媒を直接光電変換部2の裏面などに担持することは可能であるが、反応面積をより大きくし気体生成速度を向上させるために、触媒を導電体に担持することができる。触媒を担持する導電体としては、金属材料、炭素質材料、導電性を有する無機材料等が挙げられる。
【0072】
金属材料としては、電子伝導性を有し、酸性雰囲気下で耐腐食性を有する材料が好ましい。具体的には、Au、Pt、Pd等の貴金属、Ti、Ta、W、Nb、Ni、Al、Cr、Ag、Cu、Zn、Su、Si等の金属並びにこれらの金属の窒化物および炭化物、ステンレス鋼、Cu−Cr、Ni−Cr、Ti−Pt等の合金が挙げられる。金属材料には、Pt、Ti、Au、Ag、Cu、Ni、Wからなる群より選ばれる少なくとも一つの元素を含むことが、他の化学的な副反応が少ないという観点から、より好ましい。これら金属材料は、比較的電気抵抗が小さく、面方向に電流を取り出しても電圧の低下を抑制することができる。また、Cu、Ag、Zn等の酸性雰囲気下での耐腐食性に乏しい金属材料を用いる場合には、Au、Pt、Pd等の耐腐食性を有する貴金属および金属、カーボン、グラファイト、グラッシーカーボン、導電性高分子、導電性窒化物、導電性炭化物、導電性酸化物等によって耐腐食性に乏しい金属の表面をコーティングしてもよい。
【0073】
炭素質材料としては、化学的に安定で導電性を有する材料が好ましい。例えば、アセチレンブラック、バルカン、ケッチェンブラック、ファーネスブラック、VGCF、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、フラーレン等の炭素粉末や炭素繊維が挙げられる。
【0074】
導電性を有する無機材料としては、例えば、In−Zn−O(IZO)、In−Sn−O(ITO)、ZnO−Al、Zn−Sn−O、SnO2、酸化アンチモンドープ酸化スズが挙げられる。
【0075】
なお、導電性高分子としては、ポリアセチレン、ポリチオフェン、ポリアニリン、ポリピロール、ポリパラフェニレン、ポリパラフェニレンビニレン等が挙げられ、導電性窒化物としては、窒化炭素、窒化ケイ素、窒化ガリウム、窒化インジウム、窒化ゲルマニウム、窒化チタニウム、窒化ジルコニウム、窒化タリウム等が挙げられ、導電性炭化物としては、炭化タンタル、炭化ケイ素、炭化ジルコニウム、炭化チタニウム、炭化モリブデン、炭化ニオブ、炭化鉄、炭化ニッケル、炭化ハフニウム、炭化タングステン、炭化バナジウム、炭化クロム等が挙げられ、導電性酸化物としては、酸化スズ、酸化インジウムスズ(ITO)、酸化アンチモンドープ酸化スズ等が挙げられる。
【0076】
水素発生触媒を担持する導電体の構造としては、板状、箔状、棒状、メッシュ状、ラス板状、多孔質板状、多孔質棒状、織布状、不織布状、繊維状、フェルト状が好適に使用できる。また、フェルト状電極の表面を溝状に圧着した溝付き導電体は、電気抵抗と電極液の流動抵抗を低減できるので好適である。
【0077】
11.酸素発生部
酸素発生部は、電解液からO2を発生させる部分であり、第1の気体発生部8および第2の気体発生部7のうちどちらか一方である。また、酸素発生部は、電解液からO2が発生する反応の触媒を含んでもよい。このことにより、電解液からO2が発生する反応の反応速度を大きくすることができる。また、酸素発生部は、電解液からO2が発生する反応の触媒のみからなってもよく、この触媒が担持体に担持されたものであってもよい。また、酸素発生部は、光電変換部2の受光面の面積より大きい触媒表面積を有してもよい。このことにより、電解液からO2が発生する反応をより速い反応速度とすることができる。また、酸素発生部は、触媒が担持された多孔質の導電体であってもよい。このことにより、触媒表面積を大きくすることができる。また、光電変換部2の受光面または裏面と酸素発生部に含まれる触媒との間に電流が流れることによる電位の変化を抑制することができる。また、この水素発生部を第1の気体発生部8としたとき、第2電極を省略しても光電変換部2の裏面と触媒との間に電流が流れることによる電位の変化を小さくすることができる。さらに、酸素発生部は、酸素発生触媒としてMn、Ca、Zn、CoおよびIrのうち少なくとも1つを含んでもよい。
【0078】
電解液からO2が発生する反応の触媒(酸素発生触媒)は、2つの水分子から1分子の酸素および4つのプロトンと4つの電子への変換を促進する触媒であり、化学的に安定であり、酸素発生過電圧が小さい材料を用いることができる。例えば、光を用い水から酸素発生を行う反応を触媒する酵素であるPhotosystem IIの活性中心を担うMn,Ca,Zn,Coを含む酸化物あるいは化合物や、Pt,RuO2,IrO2等の白金族金属を含む化合物や、Ti,Zr,Nb,Ta,W,Ce,Fe,Ni等の遷移金属を含む酸化物あるいは化合物、および上記材料の組み合わせ等を用いることが可能である。中でも酸化イリジウム、酸化マンガン、酸化コバルト、リン酸コバルトは、過電圧が小さく酸素発生効率が高いことから好適に用いることができる。
【0079】
酸素発生触媒を直接光電変換部2の受光面または裏面に担持することは可能であるが、反応面積をより大きくし気体生成速度を向上させるために、触媒を導電体に担持することができる。触媒を担持する導電体としては、金属材料、炭素質材料、導電性を有する無機材料等が挙げられる。これらの説明は、「10.水素発生部」に記載した水素発生触媒についての説明が矛盾がない限り当てはまる。
【0080】
水素発生触媒および酸素発生触媒の単独の触媒活性が小さい場合、助触媒を用いることも可能である。例えば、Ni,Cr,Rh,Mo,Co,Seの酸化物あるいは化合物などが挙げられる。
【0081】
なお、水素発生触媒、酸素発生触媒の担持方法は、導電体もしくは半導体に直接塗布する方法や、真空蒸着法、スパッタ法、イオンプレーティング法等のPVD法、CVD法等の乾式塗工法、電析法など、材料により適宜その手法を変え作製ことが可能である。光電変換部と触媒の間に適宜導電物質を担持することが可能である。また水素発生および酸素発生のための触媒活性が十分でない場合、金属やカーボン等の多孔質体や繊維状物質、ナノ粒子等に担持することにより反応表面積を大きくし、水素及び酸素発生速度を向上させることが可能である。
【0082】
12.天板
天板14は、第1の気体発生部8および第2の気体発生部7の上に基板1と対向するように設けることができる。また、天板14は、第1の気体発生部8および第2の気体発生部7と天板14との間に空間が設けられるように設けることができる。
【0083】
また、天板14は、電解液などの流路を構成し、生成した水素および酸素を閉じ込めるために構成される材料であり、機密性が高い物質が求められる。透明なものであっても不透明なものであっても特に限定されるものではないが、水素および酸素が発生していることを視認できる点においては透明な材料であることが好ましい。透明な天板としては特に限定されず、例えば石英ガラス、パイレックス(登録商標)、合成石英板等の透明なリジッド材、あるいは透明樹脂板、透明樹脂フィルムなどを挙げることができる。中でも、ガスの透過性がなく、化学的物理的に安定な物質である点でガラス材を用いることが好ましい。
【0084】
13.隔壁
隔壁13は、第1の気体発生部8と天板14との間の空間および第2の気体発生部7と天板14との間の空間とを仕切るように設けることができる。このことにより、第1の気体発生部8および第2の気体発生部7で発生させた水素および酸素が混合することを防止することができ、水素および酸素を分離して回収することができる。
また、隔壁13は、イオン交換体を含んでもよい。このことにより、第1の気体発生部8と天板14との間の空間の電解液と第2の気体発生部7と天板14との間の空間の電解液でアンバランスとなったプロトン濃度を一定に保つことができる。つまり、プロトンが隔壁9を介してイオンの移動が起こることによりプロトン濃度のアンバランスを解消することができる。
【0085】
隔壁13は、例えば、図2のように天板14に接触するように設けてもよく、図5のように天板14と隔壁13との間に空間が残るように設けてもよい。図5のように設けることにより、プロトンのアンバランスをより容易に解消できる。また、隔壁13に孔を設けてもよい。このことによりプロトンのアンバランスをより容易に解消できる。なお、天板14と隔壁13との間に空間を設けても、水素製造装置を光電変換部2の受光面を上向きに設置することにより、水素と酸素の混合を防止することができる。また、隔壁13の天板14に近い部分に孔を設けることにより水素と酸素の混合を防止することができる。
【0086】
図2においては第1の気体発生部8と天板14との間の電解液流路15と第2の気体発生部7と天板14との間の電解液流路15を隔壁13で完全に隔離していたが、上記電解液流路間のイオン移動に障害が無ければ、図5のように隔壁13をガス流路を形成するように設置することが可能である。この場合、図5に示すように、発生する水素および酸素が混合しないように隔壁13を印刷法など、より低コストな手段にて設置することが可能となる。この際、基板1と天板14を結合する箇所はシール材16となる。構造の安定性を増すために、一部に隔壁9を天板14に接触するように設けることも可能である。
【0087】
電解液からの水素発生量および酸素発生量の割合は、2:1のモル比であり、第1の気体発生部8と第2の気体発生部7により、気体発生量が異なる。このため、装置内の含水量を一定量にする目的から、隔壁13は水を透過する材料であることが好ましい。隔壁13は、例えば、多孔質ガラス、多孔質ジルコニア、多孔質アルミナ等の無機膜あるいはイオン交換体を用いることが可能である。
イオン交換体としては、当該分野で公知のイオン交換体をいずれも使用でき、プロトン伝導性膜、カチオン交換膜、アニオン交換膜等を使用できる。
【0088】
プロトン伝導性膜の材質としては、プロトン伝導性を有しかつ電気的絶縁性を有する材質であれば特に限定されず、高分子膜、無機膜又はコンポジット膜を用いることができる。
【0089】
高分子膜としては、例えば、パーフルオロスルホン酸系電解質膜である、デュポン社製のナフィオン(登録商標)、旭化成社製のアシプレックス(登録商標)、旭硝子社製のフレミオン(登録商標)等の膜や、ポリスチレンスルホン酸、スルホン化ポリエーテルエーテルケトン等の炭化水素系電解質膜等が挙げられる。
【0090】
無機膜としては、例えば、リン酸ガラス、硫酸水素セシウム、ポリタングストリン酸、ポリリン酸アンモニウム等からなる膜が挙げられる。コンポジット膜としては、スルホン化ポリイミド系ポリマー、タングステン酸等の無機物とポリイミド等の有機物とのコンポジット等からなる膜が挙げられ、具体的にはゴア社製のゴアセレクト膜(登録商標)や細孔フィリング電解質膜等が挙げられる。さらに、高温環境下(例えば、100℃以上)で使用する場合には、スルホン化ポリイミド、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(AMPS)、スルホン化ポリベンゾイミダゾール、ホスホン化ポリベンゾイミダゾール、硫酸水素セシウム、ポリリン酸アンモニウム等が挙げられる。
【0091】
カチオン交換膜としては、カチオンを移動させることができる固体高分子電解質であればよい。具体的には、パーフルオロカーボンスルフォン酸膜や、パーフルオロカーボンカルボン酸膜等のフッ素系イオン交換膜、リン酸を含浸させたポリベンズイミダゾール膜、ポリスチレンスルホン酸膜、スルホン酸化スチレン・ビニルベンゼン共重合体膜等が挙げられる。
【0092】
支持電解質溶液のアニオン輸率が高い場合には、アニオン交換膜の使用が好ましい。アニオン交換膜としては、アニオンの移動可能な固体高分子電解質を使用できる。具体的には、ポリオルトフェニレンジアミン膜、アンモニウム塩誘導体基を有するフッ素系イオン交換膜、アンモニウム塩誘導体基を有するビニルベンゼンポリマー膜、クロロメチルスチレン・ビニルベンゼン共重合体をアミノ化した膜等が挙げられる。
水素発生、酸素発生がそれぞれ水素発生触媒、酸素発生触媒にて選択的に行われ、これに伴うイオンの移動が起こる場合、必ずしもイオン交換のための特殊な膜等の部材を配置する必要はない。ガスを物理的に隔離することのみの目的であれば、後述のシール剤に記載の紫外線硬化性樹脂あるいは熱硬化性樹脂を用いることが可能である。
【0093】
14.シール材
シール材16は、基板1と天板14を接着し、水素製造装置23内を流れる電解液および水素製造装置23内で生成した水素および酸素を密閉するための材料である。シール材16は、例えば、紫外線硬化性接着剤、熱硬化性接着剤等が好適に使用されるが、その種類は限定されるものではない。紫外線硬化性の接着剤としては、200〜400nmの波長を持つ光を照射することにより重合が起こり光照射後数秒で硬化反応が起こる樹脂であり、ラジカル重合型とカチオン重合型に分けられ、ラジカル重合型樹脂としてはアクリルレート、不飽和ポリエステル、カチオン重合型としては、エポキシ、オキセタン、ビニルエーテル等が挙げられる。また熱硬化性の高分子接着剤としては、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、熱硬化性ポリイミド等の有機樹脂が挙げられる。熱硬化性の高分子接着剤は、熱圧着時に圧力を掛けた状態で加熱重合し、その後、加圧したまま、室温まで冷却することにより、各部材を良好に接合させるため、締め付け部材等を要しない。また、有機樹脂に加えて、ガラス基板に対して密着性の高いハイブリッド材料を用いることが可能である。ハイブリッド材料を用いることによって、弾性率や硬度等の力学的特性が向上し、耐熱性や耐薬品性が飛躍的に向上する。ハイブリッド材料は、無機コロイド粒子と有機バインダ樹脂とから構成される。例えば、シリカなどの無機コロイド粒子と、エポキシ樹脂、ポリウレタンアクリレート樹脂やポリエステルアクリレート樹脂などの有機バインダ樹脂とから構成されるものが挙げられる。
【0094】
ここではシール材16と記しているが、基板1と天板14を接着させる機能を有するものであれば限定されず、樹脂製あるいは金属製のガスケットを用い外部からネジ等の部材を用いて物理的に圧力を加え機密性を高める方法等を適宜用いることも可能である。
【0095】
15.電解液流路
電解液流路15は、第1の気体発生部8と天板14との間の空間および第2の気体発生部7と天板14との間の空間とすることができる。また、電解液流路15は、隔壁13により仕切ることができる。
生成した水素及び酸素の気泡が効率よく第1の気体発生部8または第2の気体発生部7から離れるように、電解液流路の内部で電解液を循環させるような例えばポンプやファン、熱による対流発生装置などの簡易装置を備え付けることも可能である。
【0096】
16.給水口、第1ガス排出口および第2ガス排出口
給水口18は、水素製造装置23に含まれるシール材16の一部に開口を作ることにより設けることができる。給水口18は、水素及び酸素へと分解された水を補充するために配置され、その配置箇所および形状は、原料となる水が効率よく水素製造装置へ供給されさえすれば、特に限定されるものではないが、流動性および供給の容易性の観点から、水素製造装置下部に設置することが好ましい。
【0097】
また、第1ガス排出口20および第2ガス排出口19は、給水口18を下側にして水素製造装置23を設置したとき、水素製造装置23の上側の部分のシール材16に開口を作ることにより設けることができる。また、第1ガス排出口20と第2ガス排出口19は、それぞれ隔壁13を挟んで第1の気体発生部20側と第2の気体発生部19側に設けることができる。
【0098】
このように給水口18、第1ガス排出口20および第2ガス排出口19を設けることにより、水素製造装置23を光電変換部2の受光面が上向きの状態で水平面に対し傾斜し、給水口18が下側になり第1ガス排出口20および第2ガス排出口19が上側になるように設置することができる。このように設置することにより、給水口18から電解液を水素製造装置23内に導入し、電解液流路15を電解液で満たすことができる。この状態で、水素製造装置23に光を入射させることにより、水素発生部および酸素発生部でそれぞれ、連続して水素および酸素を発生させることができる。この発生した水素および酸素は、隔壁13により分離することができ、水素及び酸素は水素製造装置23の上部へ上昇し、第1ガス排出口20および第2ガス排出口19から回収することができる。
【0099】
17.電解液
電解液は、電解質を含む水溶液であり、例えば、0.1MのH2SO4を含む電解液、0.1Mリン酸カリウム緩衝液などである。
【0100】
実施例
本発明を以下に示す実施例を用いてより具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0101】
実施例1
図1〜図3に示すような次の水素製造装置を作製した。
作製した水素製造装置は、基板1であるガラス基板上に、第1電極4であるSnO2薄膜が設けられている。その第1電極4上に、a−SiGe層、a−Si層で構成される二接合の光電変換部3が積層され、さらにその表面に酸化インジウムスズ(ITO)で構成される透明電極層の第2電極5が設けられている。この第2電極5上に水素発生触媒4を担持した水素発生部(第1の気体発生部8)が設けられ、一方、第2電極5とはポリイミド膜により構成される絶縁部11で隔離した形で、第1電極4からAgペーストにより作製された第2の導電部10を通じて酸素発生触媒を担持した酸素発生部(第2の気体発生部7)が設けられている。水素発生部および酸素発生部が設けられる層上に水が流れる構造を取るように、基板1とガラス製の天板14で挟み込むように、水を流す空間である電解液流路15を設け、水素と酸素が混合しないよう、水素発生部と酸素発生部の間にガラスフィルタ製の隔壁13を設けた構造を構成した。以下にその作製プロセスについて詳細を示す。
【0102】
基板1および第1電極4としては、旭硝子社製のUタイプニ酸化スズ(SnO2)付きガラス基板を用いた。
次に、プラズマCVD法によりa−SiGeの製膜を行った。まず、基板温度を150℃とし、モノシラン(SiH4)およびゲルマン(GeH4)を主ガス、これにCO2およびジボラン(B26)をドーピングガス、水素を希釈ガスとして、シリコンオキサイド半導体のp層を製膜し、続けて基板温度を230℃として、SiH4とGeH4を主ガス、水素を希釈ガスとして、膜厚150nmのa−SiGeからなるi層を製膜した。次に、基板温度を150℃として、SiH4とGeH4を主ガス、ホスフィン(PH3)をドーピングガス、水素を希釈ガスとして、膜厚20nmのa−SiGeからなるn層を製膜した。
【0103】
この上に同じ基板温度150℃で、SiH4およびCO2を主ガス、B26をドーピングガス、水素を希釈ガスとして、膜厚20nmのa−SiOのp層を製膜した。その後、SiH4を主ガス、H2を希釈ガスとして膜厚200nmのa−Siのi層、再びSiH4およびCO2を主ガス、PH3をドーピングガス、水素を希釈ガスとして、膜厚10nmのa−SiOのn層を順次製膜した。続けてスパッタリング法により、膜厚200nmのITOを形成した。製膜された光電変換部2および第2電極5は、フォトリソグラフィー工程、(1)シリコン薄膜上にレジストを塗布、(2)フォトマスクを用いて光露光を行い、レジストにマスクパターンの潜像を形成、(3)現像してレジストをパターン化し、薄膜をエッチング、(4)レジスト剥離、によりコンタクトホールを形成するパターニングを行った。
【0104】
次に、第2の導電部10と光電変換部2及び第2電極5を絶縁するための絶縁部11を形成するために、スピンコート法にて原料塗布、焼成を行うことによりポリイミド膜を作製した。続けて、Agペーストをスクリーン印刷法にて基板上に塗布、その上に酸化イリジウムシートを配置し、加熱処理によりコンタクトホールに第2の導電部10および酸素発生部を形成した。また、スパッタ法によりPtを第2電極5上に製膜し水素発生部を作製した。
水素発生触媒と酸素発生触媒の間には、多孔質ガラス製の隔壁9を配置し、基板と天板、および基板・天板と隔壁を耐酸性エポキシ樹脂のシール材13を用い接続することにより、本発明による水素製造装置の作製を行った。
【0105】
実施例2
図4に示すような水素製造装置を次の条件で作製した。
実施例1と同様の方法で、基板1上に、光電変換部2、第2電極5、絶縁部11、第2の導電部10、酸素発生部(第2の気体発生部7)、水素発生部(第1の気体発生部8)をそれぞれ形成した。ここで実施例1との差異は、第2の導電部10を設けたコンタクトホールが第2の気体発生部7の長軸方向に沿って設けられている点である。このように、コンタクトホールの個数を減らすことにより、接触不良を減少させることが可能である上、第2の気体発生部7の幅をより狭くする際にも、コンタクトホールの断面積が、第2の導電部10に接続されている第2の気体発生部7の幅よりも狭く本構造によるコンタクト形成が可能であり、効率よく水素および酸素の製造が可能となる。
【0106】
実施例3
図5に示すような水素製造装置を次の条件で作製した。
実施例1と同様の方法で、基板1上に、光電変換部2、第2電極5、絶縁部11、第2の導電部10、酸素発生部(第2の気体発生部7)、水素発生部(第1の気体発生部8)をそれぞれ形成した。
続けて、隔壁13は図5に示されるように、第1の気体発生部8および第2の気体発生部7が設置された間の箇所に、ガスが効率的に集められるように熱硬化性ポリイミドをスクリーン印刷法により作製した上で、基板側の材料と天板材料をシール材により装置の周辺を封止した。このようにして水素製造装置の作製を行った。
【0107】
実施例4
実施例1により作製される水素製造装置のうち、酸素発生部を次のように作製した。
ガラスフィルターを隔壁とするガラス製電気化学セルのカソード側にpH7、0.1Mのリン酸カリウム緩衝液および0.5mMの硝酸コバルトを、アノード側にpH7、0.1Mのリン酸カリウム緩衝液を投入した。多孔質カーボンをカソード側電解液中に浸し、Ptメッシュをアノード電解液中に浸し、両極を電気的に接続した後、1.29V(vs NHE)の電位をかけることにより電気化学的にリン酸コバルトを多孔質カーボン上に担持した。このように作製した酸素発生触媒を実施例1の水素製造装置の第2の気体発生部7に形成することにより、表面積をより大きくし酸素発生速度を向上させた装置を作製することが可能となった。
【0108】
実施例5
実施例1により作製された水素製造装置を太陽光が受光面に対して垂直方向に入射するように斜めに設置した。給水口18より、0.1MのH2SO4を含む電解液を、液面が第1ガス排出口20および第2ガス排出口19付近まで注入し、太陽光を照射したところ、第1の気体発生部8および第2の気体発生部7からそれぞれ水素および酸素が生成し、第1ガス排出口20より水素が、第1ガス排出口20より酸素が排出されることをガスクロマトグラフィにて確認した。
【0109】
実施例6
実施例4により作製された酸素発生触媒を第2の気体発生部7に形成した水素製造装置を太陽光が受光面に対して垂直方向に入射するように斜めに設置した。給水口18より、pH7、0.1Mリン酸カリウム緩衝液を含む電解液を、液面が第1ガス排出口20および第2ガス排出口19付近まで注入し、太陽光を照射したところ、第1の気体発生部8および第2の気体発生部7からそれぞれ水素および酸素が生成し、第1ガス排出口20より水素が、第1ガス排出口20より酸素が排出されることをガスクロマトグラフィにて確認した。これにより中性の電解液を用いても水素製造が可能となることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0110】
本発明の水素製造装置は、太陽光エネルギーを用いることにより水を分解し水素および酸素を製造する創エネルギー装置として利用される。家庭や水素ステーション、大規模水素製造工場にてオンサイトで水素を製造することが可能となる。
【符号の説明】
【0111】
1: 基板 2:光電変換部 4:第1電極 5:第2電極 7:第2の気体発生部 8:第1の気体発生部 9:第1の導電部 10:第2の導電部 11:絶縁部 13:隔壁 14:天板 15:電解液流路 16:シール材 18:給水口 19:第2ガス排出口 20:第1ガス排出口 23:水素製造装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
受光面および裏面を有する光電変換部と、前記裏面の上に設けられた第1の気体発生部と、前記裏面の上に設けられた第2の気体発生部とを備え、
第1の気体発生部および第2の気体発生部のうち、一方は電解液からH2を発生させる水素発生部であり、他方は電解液からO2を発生させる酸素発生部であり、
第1の気体発生部は前記裏面と電気的に接続され、第2の気体発生部は第1の導電部を介して前記受光面と電気的に接続することを特徴とする水素製造装置。
【請求項2】
第2の気体発生部は、絶縁部を介して前記裏面上に設けられた請求項1に記載の装置。
【請求項3】
第1の導電部は、前記受光面に接触する第1電極と、第1電極および第2の気体発生部にそれぞれ接触する第2の導電部とを含む請求項2に記載の装置。
【請求項4】
第2の導電部は、前記光電変換部を貫通するコンタクトホールに設けられた請求項3に記載の装置。
【請求項5】
前記コンタクトホールは、1つ以上であり、
各コンタクトホールの断面積の総計は、前記受光面の面積の0.1%以上10%以下である請求項4に記載の装置。
【請求項6】
前記裏面と第1の気体発生部との間に設けられた第2電極をさらに備える請求項1〜5のいずれか1つに記載の装置。
【請求項7】
前記光電変換部は、透光性を有する基板の上に設けられた請求項1〜6のいずれか1つに記載の装置。
【請求項8】
前記光電変換部は、p型半導体層、i型半導体層およびn型半導体層からなる光電変換層を複数有する請求項1〜7のいずれか1つに記載の装置。
【請求項9】
複数の前記光電変換層は、それぞれ異なるバンドギャップを有する請求項8に記載の装置。
【請求項10】
前記水素発生部および前記酸素発生部は、それぞれ電解液からH2が発生する反応の触媒および電解液からO2が発生する反応の触媒を含む請求項1〜9のいずれか1つに記載の装置。
【請求項11】
前記水素発生部および前記酸素発生部のうち少なくとも一方は、前記受光面の面積より大きい触媒表面積を有する請求項10に記載の装置。
【請求項12】
前記水素発生部および前記酸素発生部のうち少なくとも一方は、触媒が担持された多孔質の導電体である請求項10または11に記載の装置。
【請求項13】
前記水素発生部は、水素発生触媒としてPt、Ir、Ru、Pd、Rh、Au、Fe、NiおよびSeのうち少なくとも1つを含む請求項10〜12のいずれか1つに記載の装置。
【請求項14】
前記酸素発生部は、酸素発生触媒としてMn、Ca、Zn、CoおよびIrのうち少なくとも1つを含む請求項10〜13のいずれか1つに記載の装置。
【請求項15】
前記光電変換部は、透光性を有する基板の上に設けられ、
第1の気体発生部および第2の気体発生部の上に前記基板に対向する天板をさらに備え、
第1の気体発生部および第2の気体発生部と前記天板との間に空間が設けられた請求項1〜14のいずれか1つに記載の装置。
【請求項16】
第1の気体発生部と前記天板との間の空間および第2の気体発生部と天板との間の空間とを仕切る隔壁をさらに備える請求項15に記載の装置。
【請求項17】
前記隔壁は、イオン交換体を含む請求項16に記載の装置。
【請求項18】
請求項1〜17のいずれか1つに記載の水素製造装置を前記受光面が水平面に対し傾斜するように設置し、
前記水素製造装置の下部から前記水素製造装置に電解液を導入し、太陽光を前記受光面に入射させることにより前記水素発生部および前記酸素発生部からそれぞれ水素および酸素を発生させ、前記水素製造装置の上部から水素および酸素を排出する水素製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−116581(P2011−116581A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−274566(P2009−274566)
【出願日】平成21年12月2日(2009.12.2)
【特許番号】特許第4594438号(P4594438)
【特許公報発行日】平成22年12月8日(2010.12.8)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】