説明

水素製造装置および水素製造方法

【課題】光利用効率が高く、高効率で水素を製造することができる水素製造装置を提供する。
【解決手段】水素製造装置は、受光面および裏面を有する光電変換部2と、前記裏面の上にそれぞれ設けられた第1電解用電極8および第2電解用電極7とを備え、光電変換部2は、受光することにより前記裏面の第1および第2区域間に電位差が生じ、第1区域と第1電解用電極8とが電気的に接続し、第2区域と第2電解用電極7とが電気的に接続し、第1および第2電解用電極が電解液に接触するとき、第1電解用電極8は、光電変換部2が受光することにより生じる起電力を利用して電解液からH2を発生させる水素発生部を形成し、第2電解用電極は前記起電力を利用して電解液からO2を発生させる酸素発生部を形成することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素製造装置および水素製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、化石燃料資源の枯渇および地球温暖化ガス排出抑制などの観点から、再生可能エネルギーの利用が望まれている。再生可能エネルギー源としては太陽光、水力、風力、地熱、潮力、バイオマスなど多岐にわたるが、その中でも、太陽光は利用可能なエネルギー量が大きいこと、他の再生可能エネルギーに対し地理的制約が比較的少ないことから、太陽光から効率よく利用可能なエネルギーを生み出す技術の早期な開発と普及が望まれている。
【0003】
太陽光から生み出される利用可能なエネルギーの形態としては、太陽電池や太陽光熱タービンを用いて製造される電気エネルギー、太陽光エネルギーを熱媒体に集めることによる熱エネルギー、その他にも太陽光を用いた物質還元による液体燃料や水素などの貯蔵可能な燃料エネルギー等が挙げられる。太陽電池技術および太陽熱利用技術については、すでに実用化されている技術が多いものの、エネルギー利用効率が未だ低いことと、電気および熱を作り出す際のコストが依然高いことから、これらの改善に向けた技術開発が行われている。さらに、これら電気や熱というエネルギー形態は、短期のエネルギー変動を補完するような使用法は実現できるものの、例えば季節変動などの長期での変動を補完することは極めて困難であることや、エネルギー量の増加により発電設備の稼働率低下を招く可能性があることが課題である。これに対し、液体燃料や水素など、エネルギーを物質として蓄えておくことは、長期変動を効率よく補完するとともに発電設備の稼働率を高める技術として極めて有力であり、今後エネルギー利用効率を最大限に高め、二酸化炭素の排出量を徹底的に削減するためには必要不可欠な技術である。
【0004】
貯蔵可能な燃料の形態としては、炭化水素などの液体燃料や、バイオガス、水素などの気体燃料、バイオマス由来の木材ペレットや太陽光で還元された金属などの固体燃料などに大別することができる。インフラ整備の容易性、エネルギー密度の観点では液体燃料、燃料電池などとのトータルの利用効率向上の観点では水素をはじめとする気体燃料、貯蔵可能性とエネルギー密度の観点では固体燃料というように、各形態において長所短所を有するが、原料として容易に入手可能な水を利用できる観点から、太陽光により水を分解することによる水素製造技術が特に注目されている。
【0005】
水を原料として太陽光エネルギーを利用し水素を製造する方法としては、酸化チタン等の光触媒に白金を担持させ、この物質を水中に入れ光照射することにより半導体中で電荷分離を行い、電解液中のプロトンを還元、水を酸化することによる光分解法や、高温ガス炉などの熱エネルギーを利用して水を高温で直接分解する、あるいは金属等の酸化還元と共役させて間接的に分解する熱分解法、藻類など光を利用する微生物の代謝を利用した生物法、太陽電池で発電した電気と水の電気分解水素製造装置を組み合わせた水電気分解法、太陽電池に使用される光電変換材料に水素発生触媒、酸素発生触媒を担持することにより、光電変換で得られる電子と正孔を水素生成触媒、酸素発生触媒で反応に利用する光起電力法等が挙げられる。この中で、光電変換部と水素生成部を一体化することにより、小型の水素製造装置を作製することの可能性を有するものは光分解法、生物法、光起電力法と考えられるが、太陽光エネルギーの変換効率の観点から、光起電力法は実用化に最も近い技術の一つと考えられる。
【0006】
これまでに、光分解法や光起電力法による光電変換と水素発生を一体化した水素製造装置の例が開示されている。光分解法では例えば、特許文献1によると、ルテニウム錯体を吸着させた酸化チタンの光触媒電極と、白金電極、ヨウ素もしくは鉄の酸化還元を利用した装置が開示されている。また、特許文献2によると、2層の光触媒をタンデム接続し、白金カウンター電極を接続、間にイオン交換膜を挟むことにより一体化構造を採用している。一方、光起電力法では、光電変換部と水素生成部、酸素生成部を一体化した水素製造装置のコンセプトが発表されている(非特許文献1)。これによると、電荷分離は光電変換部、水素生成と酸素生成はそれぞれに対応する触媒を用いることにより行われる。光電変換部は太陽電池に利用される材料が用いられている。例えば、非特許文献2の場合、3層のシリコンp−i−n層で電荷分離を行った上で、水素発生は白金触媒が担い、酸素発生は酸化ルテニウムが担っている。また特許文献3や非特許文献3では、基盤上に、水素発生触媒(NiFeO)と、3層のシリコンp−i−nを並列に積層、シリコン層の上にさらに酸素発生触媒(Co−Mo)を担持することにより、一体化水素製造装置を作製している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−89336号公報
【特許文献2】特表2004−504934号公報
【特許文献3】特開2003−288955号公報
【特許文献4】特開2004−197167号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America、2006年、43巻、15729−15735頁
【非特許文献2】Applied Physics Letters、1989年、55巻、386−387頁
【非特許文献3】International Journal of Hydrogen Energy、2003年、28巻、1167−1169頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記のとおり、光電変換と水素発生を一体化した水素製造装置の構造に関するいくつかの検討は既に開示されているが、より高効率で水素を製造するためには光の利用率を最大限に高めることが必要である。例えば、装置内の受光表面で気体が発生する場合、発生した気体によって入射光が散乱するため、入射光を十分利用できず、光利用効率の低下を招いてしまうことは大きな課題である。さらに、光電変換部の受光面に触媒を担持した場合、触媒により入射光が反射もしくは吸収されてしまうため、これによっても光利用率が低下することが課題となっている。また、光の散乱が起きないように光電変換部の受光面と酸素触媒を電極膜で電気的に接続させる方法も検討もされているが、構造上、光電変換部の面積が、他の部材(酸素生成触媒など)の面積によって制限されるため、光利用率が低下することが回避し難い課題である。
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、光利用効率が高く、高効率で水素を製造することができる水素製造装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、受光面および裏面を有する光電変換部と、前記裏面の上にそれぞれ設けられた第1電解用電極および第2電解用電極とを備え、前記光電変換部は、受光することにより前記裏面の第1および第2区域間に電位差が生じ、第1区域と第1電解用電極とが電気的に接続し、第2区域と第2電解用電極とが電気的に接続し、第1および第2電解用電極が電解液に接触するとき、第1電解用電極は、前記光電変換部が受光することにより生じる起電力を利用して電解液からH2を発生させる水素発生部を形成し、第2電解用電極は前記起電力を利用して電解液からO2を発生させる酸素発生部を形成することを特徴とする水素製造装置を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、光電変換部の受光面に光を入射させることにより光電変換部の裏面の第1および第2区域間に電位差を生じさせることができる。このことにより、第1区域と電気的に接続した第1電解用電極と、第2区域と電気的に接続した第2電解用電極との間も電位差を生じさせることができる。この電位差が生じた第1電解用電極と第2電解用電極とに電解液を接触させることにより、第1電解用電極と第2電解用電極のうち、どちらか一方で電解液からH2を発生させることができ、他方で電解液からO2を発生させることができる。この発生したH2を回収することにより水素を製造することができる。
【0012】
本発明によれば、光電変換部の裏面上に水素発生部および酸素発生部を形成するため、受光面に電解液を介さず光を入射させることができ、電解液による入射光の吸収や入射光の散乱を防止することができる。このことにより、光電変換部へ入射光の量を多くすることができ、光利用効率を高くすることができる。
また、本発明によれば、光電変換部の裏面上に水素発生部および酸素発生部を形成するため、受光面に入射する光が、水素発生部および酸素発生部、ならびにそこからそれぞれ発生する水素及び酸素により吸収や散乱されることはない。このことにより、光電変換部へ入射光の量を多くすることができ、光利用効率を高くすることができる。
【0013】
本発明によれば、光電変換部の裏面上に水素発生部および酸素発生部を形成するため、光電変換部の受光面を水素製造装置が受光する面の大部分に設けることができる。このことにより、光利用効率をより高くすることができる。
本発明によれば、光電変換部と、水素発生部および酸素発生部とが同一の装置に設けられているため、従来の太陽電池と水の電気分解装置を組み合わせるよりも、水素製造コストを低下させることができる。
本発明によれば、光電変換部が受光することにより裏面の第1および第2区域間に電位差が生じるため、第1および第2区域と光電変換部の裏面上に設ける第1電解用電極および第2電解用電極とを容易に電気的に接続することができ、製造コストを低減することができる。また、光電変換部が受光することにより受光面と裏面との間に電位差が生じる場合、受光面と第1電解用電極または第2電解用電極とを電気的に接続させるために、光電変換部の受光面が減少することが考えられるが、本発明では、光電変換部の裏面の2つの区域間に電位差が生じるため、光電変換部の受光面をより広くすることができ、受光量を増やすことができる。さらに、光電変換部と第1電解用電極または第2電解用電極との間の導電距離を短くすることができるため、内部抵抗をより小さくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施形態の水素製造装置の構成を示す概略平面図である。
【図2】図1の点線A―Aの概略断面図である。
【図3】本発明の一実施形態の水素製造装置の構成を示す概略裏面図である。
【図4】本発明の一実施形態の水素製造装置の構成を示す概略断面図である。
【図5】本発明の一実施形態の水素製造装置の構成を示す概略断面図である。
【図6】本発明の一実施形態の水素製造装置の構成を示す概略平面図である。
【図7】図6の点線B−Bの概略断面図である。
【図8】本発明の一実施形態の水素製造装置の構成を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の水素製造装置は、受光面および裏面を有する光電変換部と、前記裏面の上にそれぞれ設けられた第1電解用電極および第2電解用電極とを備え、前記光電変換部は、受光することにより前記裏面の第1および第2区域間に電位差が生じ、第1区域と第1電解用電極とが電気的に接続し、第2区域と第2電解用電極とが電気的に接続し、第1および第2電解用電極が電解液に接触するとき、第1電解用電極は、前記光電変換部が受光することにより生じる起電力を利用して電解液からH2を発生させる水素発生部を形成し、第2電解用電極は前記起電力を利用して電解液からO2を発生させる酸素発生部を形成することを特徴とする。
【0016】
水素製造装置とは、水を含む電解液から水素を製造することができる装置である。
光電変換部とは、光を受光し起電力が生じる部分である。
受光面とは、光が入射する光電変換部の面である。
裏面とは、受光面の裏の面である。
【0017】
本発明の水素製造装置において、前記光電変換部は、n型半導体部およびp型半導体部を有する少なくとも1つの半導体材料からなり、第1および第2区域のうち、一方は前記n型半導体部の一部であり、他方は前記p型半導体部の一部であることが好ましい。
このような構成によれば、光電変換部にpn接合、pin接合、npp+接合またはpnn+接合を形成することができ、光電変換部が受光することにより、光電変換部の裏面の第1および第2区域間に電位差を生じさせることができる。
本発明の水素製造装置において、前記光電変換部の裏面と第1電解用電極との間の一部および前記裏面と第2電解用電極との間の一部に設けられた絶縁部をさらに備え、第1電解用電極および第2電解用電極は、それぞれ前記絶縁部が設けられていない第1および第2区域を介して前記n型半導体部または前記p型半導体部と電気的に接続することが好ましい。
このような構成によれば、光電変換部が受光することにより形成される電子およびホールを効率よく分離することができ、光電変換効率をより高くすることができる。
【0018】
本発明の水素製造装置において、前記絶縁部と第1電解用電極との間に設けられ、かつ、第1区域を介して前記n型半導体部または前記p型半導体部と電気的に接続する第1導電部と、前記絶縁部と第2電解用電極との間に設けられ、かつ、第2区域を介して前記n型半導体部または前記p型半導体部と電気的に接続する第2導電部とをさらに備えることが好ましい。
このような構成によれば、光電変換部が受光することにより生じる起電力を第1電解用電極と第2電解用電極とに出力するときの内部抵抗を小さくすることができる。
本発明の水素製造装置において、前記光電変換部は、pin接合、pn接合、npp+接合またはpnn+接合を複数有し、複数のpin接合、複数のpn接合、複数のnpp+接合または複数のpnn+接合は、直列に接続され、かつ、受光することにより生じる起電力を第1電解用電極および第2電解用電極に供給することが好ましい。
このような構成によれば、光電変換部が受光することにより、水を分解するために必要な起電力を生じさせることができる。
【0019】
本発明の水素製造装置において、前記光電変換部は、pin接合、pn接合、npp+接合またはpnn+接合を有する半導体基板を複数含むことが好ましい。
このような構成によれば、複数の半導体基板を直列接続させることにより、直列接続したpin接合などを有する光電変換部を形成することができる。
本発明の水素製造装置において、前記水素発生部および前記酸素発生部は、それぞれ電解液からH2が発生する反応の触媒および電解液からO2が発生する反応の触媒を含むことが好ましい。
このような構成によれば、水素発生部における電解液からH2が発生する反応の反応速度を増大させることができ、酸素発生部における電解液からO2が発生する反応の反応速度を増大させることができる。このことにより、光電変換部で生じた起電力により、より効率的にH2を製造することができ、光の利用効率を向上させることができる。
【0020】
本発明の水素製造装置において、前記水素発生部および前記酸素発生部のうち少なくとも一方は、前記受光面の面積より大きい触媒表面積を有することが好ましい。
このような構成によれば、光電変換部で生じる起電力により、より効率的に水素または酸素を発生させることができる。
本発明の水素製造装置において、前記水素発生部および前記酸素発生部のうち少なくとも一方は、触媒が担持された多孔質の導電体であることが好ましい。
このような構成によれば、第1電解用電極および第2電解用電極のうち少なくとも一方の触媒表面積を大きくすることができ、より効率的に酸素または水素を発生させることができる。また、多孔質の導電体を用いることにより、光電変換部と触媒との間の電流が流れることによる電位の変化を抑制することができ、より効率的に水素または酸素を発生させることができる。
【0021】
本発明の水素製造装置において、前記水素発生部は、水素発生触媒としてPt、Ir、Ru、Pd、Rh、Au、Fe、NiおよびSeのうち少なくとも1つを含むことが好ましい。
このような構成によれば、光電変換部で生じる起電力により、より速い反応速度で水素を発生させることができる。
本発明の水素製造装置において、前記酸素発生部は、酸素発生触媒としてMn、Ca、Zn、CoおよびIrのうち少なくとも1つを含むことが好ましい。
このような構成によれば、光電変換部で生じる起電力により、より速い反応速度で酸素を発生させることができる。
【0022】
本発明の水素製造装置において、前記光電変換部は、透光性を有する基板の上に設けられ、第1電解用電極および第2電解用電極の上に前記基板に対向する天板をさらに備え、第1電解用電極および第2電解用電極と前記天板との間に空間が設けられたことが好ましい。
このような構成によれば、第1電解用電極および第2電解用電極と前記天板との間に電解液を導入することができ、第1電解用電極および第2電解用電極において電解液からより効率的にH2およびO2が発生させることができる。
本発明の水素製造装置において、第1電解用電極と前記天板との間の空間および第2電解用電極と天板との間の空間とを仕切る隔壁をさらに備えることが好ましい。
このような構成によれば、第1電解用電極および第2電解用電極でそれぞれ発生した水素および酸素を分離することができ、水素をより効率的に回収することができる。
本発明の水素製造装置において、前記隔壁は、イオン交換体を含むことが好ましい。
このような構成によれば、第1電解用電極の上部の空間に導入された電解液と第2電解用電極の上部の空間に導入された電解液との間のプロトン濃度の不均衡を解消することができ、安定して水素および酸素を発生させることができる。
本発明の水素製造装置において、前記光電変換部は、n型半導体部およびp型半導体部を有する少なくとも1つの半導体基板からなり、前記n型半導体部は、前記半導体基板の裏面からn型不純物を拡散させた部分または前記半導体基板の裏面からn型不純物をイオン注入した部分であり、前記p型半導体部は、前記半導体基板の裏面からp型不純物を拡散させた部分または前記半導体基板の裏面からp型不純物をイオン注入した部分であることが好ましい。
このような構成によれば、n型半導体部およびp型半導体部を有し、受光することにより裏面の第1および第2区域間に電位差が生じる光電変換部を容易に形成することができる。
【0023】
本発明の水素製造装置において、前記光電変換部は、複数のpin接合、複数のpn接合、複数のnpp+接合または複数のpnn+接合を有する少なくとも1つの半導体基板であり、各pin接合、各pn接合、各npp+接合または各pnn+接合は、トレンチアイソレーションにより分離されたことが好ましい。
このような構成によれば、直列接続したpin接合などを有する光電変換部を形成することができる。
また、本発明は、本発明の水素製造装置を前記受光面が水平面に対し傾斜するように設置し、前記水素製造装置の下部から前記水素製造装置に電解液を導入し、太陽光を前記受光面に入射させることにより前記水素発生部および前記酸素発生部からそれぞれ水素および酸素を発生させ、前記水素製造装置の上部から水素および酸素を排出する水素製造方法も提供する。
本発明の水素製造方法によれば、太陽光を利用して、低コストで水素を製造することができる。
以下、本発明の一実施形態を図面を用いて説明する。図面や以下の記述中で示す構成は、例示であって、本発明の範囲は、図面や以下の記述中で示すものに限定されない。
【0024】
水素製造装置の構成
図1は本発明の一実施形態の水素製造装置の構成を示し、光電変換部の受光面側から見た概略平面図である。図2は、図1の点線A−Aの概略断面図である。図3は、本発明の一実施形態の水素製造装置の構成を示し、光電変換部の裏面側から見た概略裏面図である。
【0025】
本実施形態の水素製造装置23は、受光面および裏面を有する光電変換部2と、前記裏面の上にそれぞれ設けられた第1電解用電極8および第2電解用電極7とを備え、光電変換部2は、受光することにより前記裏面の第1および第2区域間に電位差が生じ、第1区域と第1電解用電極8とが電気的に接続し、第2区域と第2電解用電極7とが電気的に接続し、第1および第2電解用電極が電解液と接触するとき、第1電解用電極8は光電変換部2が受光することにより生じる起電力を利用して電解液からH2を発生させる水素発生部を形成し、第2電解用電極7は前記起電力を利用して電解液からO2を発生させる酸素発生部を形成することを特徴とする。
【0026】
また、本実施形態の水素製造装置23は、基板1、絶縁部11、隔壁13、天板14、電解液流路15、シール材16、給水口18、第1ガス排出口20、第2ガス排出口19および第1〜第3導電部を備えてもよい。
以下、本実施形態の水素製造装置について説明する。
【0027】
1.基板
基板1は、本実施形態の水素製造装置23が備えてもよい。また、光電変換部2は、受光面が基板1側となるように透光性の基板1の上に設けられてもよい。なお、光電変換部2が、半導体基板などからなり一定の強度を有する場合、基板1は省略することが可能である。また、光電変換部2が樹脂フィルムなど柔軟性を有する材料の上に形成可能な場合、基板1は省略することができる。
【0028】
また、基板1は、本水素製造装置を構成するための土台とすることができる部材である。また、太陽光を光電変換部2の受光面で受光するためには、透明であり光透過率が高いことが好ましいが、光電変換部2へ効率的な光の入射が可能な構造であれば、光透過率に制限はない。
光透過率が高い基板材料として、例えば、ソーダガラス、石英ガラス、パイレックス(登録商標)、合成石英板等の透明なリジッド材、あるいは透明樹脂板やフィルム材等が好適に用いられる。化学的および物理的安定性を備える点より、ガラス基板を用いることが好ましい。
基板1の光電変換部2側の表面には、入射した光が光電変換部2の表面で有効に乱反射されるように、微細な凹凸構造に形成することができる。この微細な凹凸構造は、例えば反応性イオンエッチング(RIE)処理もしくはブラスト処理等の公知の方法により形成することが可能である。
【0029】
2.光電変換部
光電変換部2は、受光面および裏面を有し、光電変換部2の裏面の上に第1電解用電極8と第2電解用電極7が設けられている。また、光電変換部2は、受光することによりその裏面の第1および第2区域間に電位差が生じる。なお、受光面とは、光電変換するための光を受光する面であり、裏面とは、受光面の裏の面である。また、光電変換部2は、基板1の上に受光面を下にして設けることができる。
【0030】
光電変換部2は、入射光により電荷分離することができ、裏面の第1および第2区域間に電位差が生じるものであれば、特に限定されないが、例えば、シリコン系半導体を用いた光電変換部、化合物半導体を用いた光電変換部、有機半導体を用いた光電変換部などである。
裏面の第1および第2区域間に起電力が生じる光電変換部2を形成する方法としては、例えば、半導体ウェハを材料として用い、p型半導体部4の一部およびn型半導体部5の一部が半導体ウェハの裏面にそれぞれ形成されるようにp型半導体部4およびn型半導体部5を形成することが挙げられる。このように形成した光電変換部2の受光面から光を入射させると、光電変換部の裏面のp型半導体部4が形成された区域とn型半導体部5が形成された区域との間に電位差を生じさせることができる。なお、本発明において、半導体基板には半導体ウェハを加工したものが含まれる。
【0031】
半導体ウェハにp型半導体部4およびn型半導体部5をこれらが接するように形成すると、光電変換部にpn接合を形成することができる。また、i型半導体からなる半導体ウェハにp型半導体部4およびn型半導体部5をこれらが接しないように形成すると、光電変換部にpin接合を形成することができる。また、p型半導体の半導体ウェハを用いるとnpp+接合を有する光電変換部2を形成することができ、n型半導体の半導体ウェハを用いるとpnn+接合を有する光電変換部2を形成することができる。
p型半導体部4およびn型半導体部5は、図2のように半導体ウェハにそれぞれ一箇所ずつ形成してもよい。また、図5のように半導体ウェハにp型半導体部4およびn型半導体部5をそれぞれ複数形成してもよく、図7のように半導体ウェハにp型半導体部4およびn型半導体部5のうちどちらか一方を一箇所形成し、他方をその両側に二箇所形成してもよい。
【0032】
光電変換部2の材料となる半導体ウェハは、pn接合、pin接合、npp+接合又はpnn+接合を形成し光電変換可能なものであれば特に限定されないが、例えば、シリコンウェハである。また、半導体ウェハは、単結晶のものを用いてもよく、多結晶のものを用いてもよい。
【0033】
p型半導体部4およびn型半導体部5を形成する方法は、特に限定されないが、例えば、半導体ウェハにp型不純物およびn型不純物をそれぞれ熱拡散する方法または、半導体ウェハにp型不純物およびn型不純物をそれぞれイオン注入する方法が挙げられる。これらの方法によりp型不純物およびn型不純物を半導体ウェハの一方の面から熱拡散またはイオン注入することによりp型半導体部4およびn型半導体部5を形成することができ、光電変換部2の裏面にp型半導体部4の一部およびn型半導体部5の一部をそれぞれ形成することができる。
【0034】
光電変換部2は、受光することにより生じる起電力を水素発生部および酸素発生部に出力し水を分解するため、水素発生部および酸素発生部においてそれぞれ水素と酸素が発生するために必要な起電力が生じる材料を使用する必要がある。水素発生部と酸素発生部の電位差は、水分解のための理論電圧(1.23V)より大きくする必要があり、そのためには光電変換部2で十分大きな電位差を生み出す必要がある。そのため光電変換部2は、pn接合など起電力を生じさせる部分を二接合以上直列に接続することが好ましい。
【0035】
光電変換部2は、直列接続された複数のpin接合、複数のpn接合、複数のnpp+接合または複数のpnn+接合を有することができる。このことにより、光電変換部2が受光することにより生じる起電力を大きくすることができ、水分解に必要な起電力を第1電解用電極8および第2電解用電極7に出力することができる。直列接続された複数のpin接合などを有する光電変換部2を形成する方法は、特に限定されないが、例えば、図4、8のように、p型半導体部4およびn型半導体部5を形成した半導体ウェハを並列に設け、隣接する半導体ウェハを第3導電部29で接続することにより、形成することができる。また、図5のように半導体ウェハをトレンチアイソレーション26で区切られた複数の部分を形成し、各部分にp型半導体部4およびn型半導体部5を形成した後、各部分を第3導電部29により接続することにより形成することができる。
なお、ここでは、半導体ウェハを用いて形成した光電変換部2について説明したが、光電変換部2は、裏面の2つの区域間に電位差が生じるものであれば、半導体薄膜、有機半導体などを用いたものであってもよい。
【0036】
3.絶縁部
絶縁部11は、光電変換部2の裏面と第1電解用電極8との間の一部および光電変換部2の裏面と第2電解用電極7との間の一部に設けることができる。このことにより、第1電解用電極8と電気的に接続する光電変換部2の裏面の第1区域と、第2電解用電極7と電気的に接続する光電変換部2の裏面の第2区域との間隔を広くすることができ、光電変換部2の光電変換効率を高くすることができる。また、光電変換部2が直列接続されたpin接合などを有する場合、絶縁部11を設けることによりリーク電流の発生を防止することができる。
【0037】
絶縁部11は、第1電解用電極8と電気的に接続する光電変換部2の裏面の第1区域の上および第2電解用電極7と電気的に接続する光電変換部2の裏面の第2区域の上には、形成されない。このことにより、第1区域の上に第1電解用電極8を、第2区域の上に第2電解用電極7を形成することができ、第1または第2区域を介してp型半導体部4またはn型半導体部5と第1電解用電極8または第2電解用電極7とを電気的に接続することができる。例えば、図2、5、8のようにp型半導体部4の一部である光電変換部2の裏面の第2区域上およびn型半導体部5の一部である光電変換部2の裏面の第1区域上に絶縁部11の開口をそれぞれ設け、第1区域上の開口中と絶縁部11の上に第1電解用電極8を設け、第2区域上の開口中と絶縁部11の上に第2電解用電極7を設けることができる。
また、第1電解用電極8の光電変換部側に第1電解用電極8と接触するように第1導電部27を設けることができ、第2電解用電極7の光電変換部側に第2電解用電極7と接触するように第2導電部28を設けることもできる。例えば、図4、7のように第1区域上の絶縁部11の開口の内壁と第1電解用電極8との間および絶縁部11と第1電解用電極8との間に第1導電部27を設け、第2区域上の絶縁部11の開口の内壁と第2電解用電極7との間および絶縁部11と第2電解用電極7との間に第2導電部28を設けることができる。第1導電部27および第2導電部28に電気伝導率の高い材料を用いることができ、光電変換部2が受光することにより生じた起電力を第1電解用電極8および第2電解用電極7に出力する場合に内部抵抗を低減することができる。
【0038】
第1導電部27または第2導電部28は、導電性を有すれば特に限定されないが、例えば、金属薄膜であり、また、例えば、Al、Ag、Auなどの薄膜である。これらは、例えば、スパッタリングなどにより形成することができる。また、例えば、In−Zn−O(IZO)、In−Sn−O(ITO)、ZnO−Al、Zn−Sn−O、SnO2等の透明導電膜である。
【0039】
絶縁部11としては、有機材料、無機材料を問わず用いることが可能であり、例えば、ポリアミド、ポリイミド、ポリアリーレン、芳香族ビニル化合物、フッ素系重合体、アクリル系重合体、ビニルアミド系重合体等の有機ポリマー、無機系材料としては、Al23等の金属酸化物、多孔質性シリカ膜等のSiO2や、フッ素添加シリコン酸化膜(FSG)、SiOC、HSQ(Hydrogen Silsesquioxane)膜、SiNx、シラノール(Si(OH)4)をアルコール等の溶媒に溶かし塗布・加熱することにより製膜する方法を用いることが可能である。
【0040】
絶縁部11を形成する方法としては、絶縁性材料を含有するペーストをスクリーン印刷法、インクジェット法、スピンコーティング法等で塗布し乾燥もしくは焼成する方法や、原料ガスを用いたCVD法等により製膜する方法、PVD法、蒸着法、スパッタ法、ゾルゲル法を利用した方法等が挙げられる。
【0041】
4.第1電解用電極および第2電解用電極
第1電解用電極8および第2電解用電極7は、光電変換部2の裏面の上にそれぞれ設けられる。第1電解用電極8および第2電解用電極7は、光電変換部2が受光することによって電位差が生じる光電変換部2の裏面の第1および第2区域とそれぞれ電気的に接続する。このことにより、光電変換部2が受光することにより生じる起電力が第1電解用電極8および第2電解用電極7に出力される。
【0042】
また、第1電解用電極8および第2電解用電極7のうち、一方は光電変換部2が受光することにより生じる起電力を利用して電解液からH2を発生させる水素発生部であり、他方は前記起電力を利用して電解液からO2を発生させる酸素発生部である。
また、第1電解用電極8および第2電解用電極7は、並列に設けることができ、また、第1電解用電極8と第2電解用電極7との間に隔壁13を設けることもできる。第1電解用電極8および第2電解用電極7は図1〜5のようにそれぞれ1つずつ設けてもよく、それぞれ複数設けもよく、交互に設けてもよい。また、図6〜8のように第1電解用電極8および第2電解用電極7のうち一方を1つ設け、その両側に他方を設けてもよい。
さらに第1電解用電極8および第2電解用電極7は、電解液流路15の内壁に設けてもよい。このことにより、第1電解用電極8および第2電解用電極7と電解液とを接触させることができ、電解液から水素および酸素を発生させることができる。
【0043】
5.水素発生部
水素発生部は、電解液からH2を発生させる部分であり、第1電解用電極8および第2電解用電極7のうちどちらか一方である。また、水素発生部は、電解液からH2が発生する反応の触媒を含んでもよい。このことにより、電解液からH2が発生する反応の反応速度を大きくすることができる。水素発生部は、電解液からH2が発生する反応の触媒のみからなってもよく、この触媒が担持体に担持されたものであってもよい。また、水素発生部は、光電変換部2の受光面の面積より大きい触媒表面積を有してもよい。このことにより、電解液からH2が発生する反応をより速い反応速度とすることができる。また、水素発生部は、触媒が担持された多孔質の導電体であってもよい。このことにより、触媒表面積を大きくすることができる。また、光電変換部2の受光面または裏面と水素発生部に含まれる触媒との間に電流が流れることによる電位の変化を抑制することができる。また、この水素発生部を第1電解用電極8としたとき、第2電極を省略しても光電変換部2の裏面と触媒との間に電流が流れることによる電位の変化を抑制することができる。さらに、水素発生部は、水素発生触媒としてPt、Ir、Ru、Pd、Rh、Au、Fe、NiおよびSeのうち少なくとも1つを含んでもよい。
【0044】
電解液からH2が発生する反応の触媒(水素発生触媒)は、2つのプロトンと2つの電子から1分子の水素への変換を促進する触媒であり、化学的に安定であり、水素生成過電圧が小さい材料を用いることができる。例えば、水素に対して触媒活性を有するPt,Ir,Ru,Pd,Rh,Au等の白金族金属およびその合金あるいは化合物、水素生成酵素であるヒドロゲナーゼの活性中心を構成するFe,Ni,Seの合金あるいは化合物、およびこれらの組み合わせ等を好適に用いることが可能である。中でもPtおよびPtを含有するナノ構造体は水素発生過電圧が小さく好適に用いることが可能である。光照射により水素発生反応が確認されるCdS,CdSe,ZnS,ZrO2などの材料を用いることもできる。
【0045】
水素発生触媒を直接光電変換部2の裏面などに担持することは可能であるが、反応面積をより大きくし気体生成速度を向上させるために、触媒を導電体に担持することができる。触媒を担持する導電体としては、金属材料、炭素質材料、導電性を有する無機材料等が挙げられる。
【0046】
金属材料としては、電子伝導性を有し、酸性雰囲気下で耐腐食性を有する材料が好ましい。具体的には、Au、Pt、Pd等の貴金属、Ti、Ta、W、Nb、Ni、Al、Cr、Ag、Cu、Zn、Su、Si等の金属並びにこれらの金属の窒化物および炭化物、ステンレス鋼、Cu−Cr、Ni−Cr、Ti−Pt等の合金が挙げられる。金属材料には、Pt、Ti、Au、Ag、Cu、Ni、Wからなる群より選ばれる少なくとも一つの元素を含むことが、他の化学的な副反応が少ないという観点から、より好ましい。これら金属材料は、比較的電気抵抗が小さく、面方向に電流を取り出しても電圧の低下を抑制することができる。また、Cu、Ag、Zn等の酸性雰囲気下での耐腐食性に乏しい金属材料を用いる場合には、Au、Pt、Pd等の耐腐食性を有する貴金属および金属、カーボン、グラファイト、グラッシーカーボン、導電性高分子、導電性窒化物、導電性炭化物、導電性酸化物等によって耐腐食性に乏しい金属の表面をコーティングしてもよい。
【0047】
炭素質材料としては、化学的に安定で導電性を有する材料が好ましい。例えば、アセチレンブラック、バルカン、ケッチェンブラック、ファーネスブラック、VGCF、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、フラーレン等の炭素粉末や炭素繊維が挙げられる。
【0048】
導電性を有する無機材料としては、例えば、In−Zn−O(IZO)、In−Sn−O(ITO)、ZnO−Al、Zn−Sn−O、SnO2、酸化アンチモンドープ酸化スズが挙げられる。
【0049】
なお、導電性高分子としては、ポリアセチレン、ポリチオフェン、ポリアニリン、ポリピロール、ポリパラフェニレン、ポリパラフェニレンビニレン等が挙げられ、導電性窒化物としては、窒化炭素、窒化ケイ素、窒化ガリウム、窒化インジウム、窒化ゲルマニウム、窒化チタニウム、窒化ジルコニウム、窒化タリウム等が挙げられ、導電性炭化物としては、炭化タンタル、炭化ケイ素、炭化ジルコニウム、炭化チタニウム、炭化モリブデン、炭化ニオブ、炭化鉄、炭化ニッケル、炭化ハフニウム、炭化タングステン、炭化バナジウム、炭化クロム等が挙げられ、導電性酸化物としては、酸化スズ、酸化インジウムスズ(ITO)、酸化アンチモンドープ酸化スズ等が挙げられる。
【0050】
水素発生触媒を担持する導電体の構造としては、板状、箔状、棒状、メッシュ状、ラス板状、多孔質板状、多孔質棒状、織布状、不織布状、繊維状、フェルト状が好適に使用できる。また、フェルト状電極の表面を溝状に圧着した溝付き導電体は、電気抵抗と電極液の流動抵抗を低減できるので好適である。
【0051】
6.酸素発生部
酸素発生部は、電解液からO2を発生させる部分であり、第1電解用電極8および第2電解用電極7のうちどちらか一方である。また、酸素発生部は、電解液からO2が発生する反応の触媒を含んでもよい。このことにより、電解液からO2が発生する反応の反応速度を大きくすることができる。また、酸素発生部は、電解液からO2が発生する反応の触媒のみからなってもよく、この触媒が担持体に担持されたものであってもよい。また、酸素発生部は、光電変換部2の受光面の面積より大きい触媒表面積を有してもよい。このことにより、電解液からO2が発生する反応をより速い反応速度とすることができる。また、酸素発生部は、触媒が担持された多孔質の導電体であってもよい。このことにより、触媒表面積を大きくすることができる。また、光電変換部2の受光面または裏面と酸素発生部に含まれる触媒との間に電流が流れることによる電位の変化を抑制することができる。また、この水素発生部を第1電解用電極8としたとき、第2電極を省略しても光電変換部2の裏面と触媒との間に電流が流れることによる電位の変化を小さくすることができる。さらに、酸素発生部は、酸素発生触媒としてMn、Ca、Zn、CoおよびIrのうち少なくとも1つを含んでもよい。
【0052】
電解液からO2が発生する反応の触媒(酸素発生触媒)は、2つの水分子から1分子の酸素および4つのプロトンと4つの電子への変換を促進する触媒であり、化学的に安定であり、酸素発生過電圧が小さい材料を用いることができる。例えば、光を用い水から酸素発生を行う反応を触媒する酵素であるPhotosystem IIの活性中心を担うMn,Ca,Zn,Coを含む酸化物あるいは化合物や、Pt,RuO2,IrO2等の白金族金属を含む化合物や、Ti,Zr,Nb,Ta,W,Ce,Fe,Ni等の遷移金属を含む酸化物あるいは化合物、および上記材料の組み合わせ等を用いることが可能である。中でも酸化イリジウム、酸化マンガン、酸化コバルト、リン酸コバルトは、過電圧が小さく酸素発生効率が高いことから好適に用いることができる。
【0053】
酸素発生触媒を直接光電変換部2の受光面または裏面に担持することは可能であるが、反応面積をより大きくし気体生成速度を向上させるために、触媒を導電体に担持することができる。触媒を担持する導電体としては、金属材料、炭素質材料、導電性を有する無機材料等が挙げられる。これらの説明は、「5.水素発生部」に記載した水素発生触媒についての説明が矛盾がない限り当てはまる。
【0054】
水素発生触媒および酸素発生触媒の単独の触媒活性が小さい場合、助触媒を用いることも可能である。例えば、Ni,Cr,Rh,Mo,Co,Seの酸化物あるいは化合物などが挙げられる。
【0055】
なお、水素発生触媒、酸素発生触媒の担持方法は、導電体もしくは半導体に直接塗布する方法や、真空蒸着法、スパッタ法、イオンプレーティング法等のPVD法、CVD法等の乾式塗工法、電析法など、材料により適宜その手法を変え作製ことが可能である。光電変換部と触媒の間に適宜導電物質を担持することが可能である。また水素発生および酸素発生のための触媒活性が十分でない場合、金属やカーボン等の多孔質体や繊維状物質、ナノ粒子等に担持することにより反応表面積を大きくし、水素及び酸素発生速度を向上させることが可能である。
【0056】
7.天板
天板14は、第1電解用電極8および第2電解用電極7の上に基板1と対向するように設けることができる。また、天板14は、第1電解用電極8および第2電解用電極7と天板14との間に空間が設けられるように設けることができる。
【0057】
また、天板14は、電解液などの流路を構成し、生成した水素および酸素を閉じ込めるために構成される材料であり、機密性が高い物質が求められる。透明なものであっても不透明なものであっても特に限定されるものではないが、水素および酸素が発生していることを視認できる点においては透明な材料であることが好ましい。透明な天板としては特に限定されず、例えば石英ガラス、パイレックス(登録商標)、合成石英板等の透明なリジッド材、あるいは透明樹脂板、透明樹脂フィルムなどを挙げることができる。中でも、ガスの透過性がなく、化学的物理的に安定な物質である点でガラス材を用いることが好ましい。
【0058】
8.隔壁
隔壁13は、第1電解用電極8と天板14との間の空間および第2電解用電極7と天板14との間の空間とを仕切るように設けることができる。このことにより、第1電解用電極8および第2電解用電極7で発生させた水素および酸素が混合することを防止することができ、水素および酸素を分離して回収することができる。
また、隔壁13は、イオン交換体を含んでもよい。このことにより、第1電解用電極8と天板14との間の空間の電解液と第2電解用電極7と天板14との間の空間の電解液でアンバランスとなったプロトン濃度を一定に保つことができる。つまり、プロトンが隔壁9を介してイオンの移動が起こることによりプロトン濃度のアンバランスを解消することができる。
【0059】
隔壁13は、例えば、図2のように天板14に接触するように設けてもよく、天板14と隔壁13との間に空間が残るように設けてもよい。また、隔壁13に孔を設けてもよい。このことによりプロトンのアンバランスをより容易に解消できる。なお、天板14と隔壁13との間に空間を設けても、水素製造装置を光電変換部2の受光面を上向きに設置することにより、水素と酸素の混合を防止することができる。また、隔壁13の天板14に近い部分に孔を設けることにより水素と酸素の混合を防止することができる。
【0060】
図2においては第1電解用電極8と天板14との間の電解液流路15と第2電解用電極7と天板14との間の電解液流路15を隔壁13で完全に隔離しているが、上記電解液流路間のイオン移動に障害が無ければ、隔壁13をガス流路を形成するように設置することが可能である。この場合、発生する水素および酸素が混合しないように隔壁13を印刷法など、より低コストな手段にて設置することが可能となる。この際、基板1と天板14を結合する箇所はシール材16となる。構造の安定性を増すために、一部に隔壁9を天板14に接触するように設けることも可能である。
【0061】
電解液からの水素発生量および酸素発生量の割合は、2:1のモル比であり、第1電解用電極8と第2電解用電極7により、気体発生量が異なる。このため、装置内の含水量を一定量にする目的から、隔壁13は水を透過する材料であることが好ましい。隔壁13は、例えば、多孔質ガラス、多孔質ジルコニア、多孔質アルミナ等の無機膜あるいはイオン交換体を用いることが可能である。
イオン交換体としては、当該分野で公知のイオン交換体をいずれも使用でき、プロトン伝導性膜、カチオン交換膜、アニオン交換膜等を使用できる。
【0062】
プロトン伝導性膜の材質としては、プロトン伝導性を有しかつ電気的絶縁性を有する材質であれば特に限定されず、高分子膜、無機膜又はコンポジット膜を用いることができる。
【0063】
高分子膜としては、例えば、パーフルオロスルホン酸系電解質膜である、デュポン社製のナフィオン(登録商標)、旭化成社製のアシプレックス(登録商標)、旭硝子社製のフレミオン(登録商標)等の膜や、ポリスチレンスルホン酸、スルホン化ポリエーテルエーテルケトン等の炭化水素系電解質膜等が挙げられる。
【0064】
無機膜としては、例えば、リン酸ガラス、硫酸水素セシウム、ポリタングストリン酸、ポリリン酸アンモニウム等からなる膜が挙げられる。コンポジット膜としては、スルホン化ポリイミド系ポリマー、タングステン酸等の無機物とポリイミド等の有機物とのコンポジット等からなる膜が挙げられ、具体的にはゴア社製のゴアセレクト膜(登録商標)や細孔フィリング電解質膜等が挙げられる。さらに、高温環境下(例えば、100℃以上)で使用する場合には、スルホン化ポリイミド、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(AMPS)、スルホン化ポリベンゾイミダゾール、ホスホン化ポリベンゾイミダゾール、硫酸水素セシウム、ポリリン酸アンモニウム等が挙げられる。
【0065】
カチオン交換膜としては、カチオンを移動させることができる固体高分子電解質であればよい。具体的には、パーフルオロカーボンスルフォン酸膜や、パーフルオロカーボンカルボン酸膜等のフッ素系イオン交換膜、リン酸を含浸させたポリベンズイミダゾール膜、ポリスチレンスルホン酸膜、スルホン酸化スチレン・ビニルベンゼン共重合体膜等が挙げられる。
【0066】
支持電解質溶液のアニオン輸率が高い場合には、アニオン交換膜の使用が好ましい。アニオン交換膜としては、アニオンの移動可能な固体高分子電解質を使用できる。具体的には、ポリオルトフェニレンジアミン膜、アンモニウム塩誘導体基を有するフッ素系イオン交換膜、アンモニウム塩誘導体基を有するビニルベンゼンポリマー膜、クロロメチルスチレン・ビニルベンゼン共重合体をアミノ化した膜等が挙げられる。
水素発生、酸素発生がそれぞれ水素発生触媒、酸素発生触媒にて選択的に行われ、これに伴うイオンの移動が起こる場合、必ずしもイオン交換のための特殊な膜等の部材を配置する必要はない。ガスを物理的に隔離することのみの目的であれば、後述のシール剤に記載の紫外線硬化性樹脂あるいは熱硬化性樹脂を用いることが可能である。
【0067】
9.シール材
シール材16は、基板1と天板14を接着し、水素製造装置23内を流れる電解液および水素製造装置23内で生成した水素および酸素を密閉するための部材である。シール材16は、例えば、紫外線硬化性接着剤、熱硬化性接着剤等が好適に使用されるが、その種類は限定されるものではない。紫外線硬化性の接着剤としては、200〜400nmの波長を持つ光を照射することにより重合が起こり光照射後数秒で硬化反応が起こる樹脂であり、ラジカル重合型とカチオン重合型に分けられ、ラジカル重合型樹脂としてはアクリルレート、不飽和ポリエステル、カチオン重合型としては、エポキシ、オキセタン、ビニルエーテル等が挙げられる。また熱硬化性の高分子接着剤としては、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、熱硬化性ポリイミド等の有機樹脂が挙げられる。熱硬化性の高分子接着剤は、熱圧着時に圧力を掛けた状態で加熱重合し、その後、加圧したまま、室温まで冷却することにより、各部材を良好に接合させるため、締め付け部材等を要しない。また、有機樹脂に加えて、ガラス基板に対して密着性の高いハイブリッド材料を用いることが可能である。ハイブリッド材料を用いることによって、弾性率や硬度等の力学的特性が向上し、耐熱性や耐薬品性が飛躍的に向上する。ハイブリッド材料は、無機コロイド粒子と有機バインダ樹脂とから構成される。例えば、シリカなどの無機コロイド粒子と、エポキシ樹脂、ポリウレタンアクリレート樹脂やポリエステルアクリレート樹脂などの有機バインダ樹脂とから構成されるものが挙げられる。
【0068】
ここではシール材16と記しているが、基板1と天板14を接着させる機能を有するものであれば限定されず、樹脂製あるいは金属製のガスケットを用い外部からネジ等の部材を用いて物理的に圧力を加え機密性を高める方法等を適宜用いることも可能である。
【0069】
10.電解液流路
電解液流路15は、第1電解用電極8と天板14との間の空間および第2電解用電極7と天板14との間の空間とすることができる。また、電解液流路15は、隔壁13により仕切ることができる。
生成した水素及び酸素の気泡が効率よく第1電解用電極8または第2電解用電極7から離れるように、電解液流路の内部で電解液を循環させるような例えばポンプやファン、熱による対流発生装置などの簡易装置を備え付けることも可能である。
【0070】
11.給水口、第1ガス排出口および第2ガス排出口
給水口18は、水素製造装置23に含まれるシール材16の一部に開口を作ることにより設けることができる。給水口18は、水素及び酸素へと分解された水を補充するために配置され、その配置箇所および形状は、原料となる水が効率よく水素製造装置へ供給されさえすれば、特に限定されるものではないが、流動性および供給の容易性の観点から、水素製造装置下部に設置することが好ましい。
【0071】
また、第1ガス排出口20および第2ガス排出口19は、給水口18を下側にして水素製造装置23を設置したとき、水素製造装置23の上側の部分のシール材16に開口を作ることにより設けることができる。また、第1ガス排出口20と第2ガス排出口19は、それぞれ隔壁13を挟んで第1電解用電極20側と第2電解用電極19側に設けることができる。
【0072】
12.電解液
電解液は、電解質を含む水溶液であり、例えば、0.1MのH2SO4を含む電解液、0.1Mリン酸カリウム緩衝液などである。
【0073】
水素製造装置による水素の製造方法
給水口18、第1ガス排出口20および第2ガス排出口19を設けることにより、水素製造装置23を光電変換部2の受光面が上向きの状態で水平面に対し傾斜し、給水口18が下側になり第1ガス排出口20および第2ガス排出口19が上側になるように設置することができる。このように設置することにより、給水口18から電解液を水素製造装置23内に導入し、電解液流路15を電解液で満たすことができる。この状態で、水素製造装置23に光を入射させることにより、水素発生部および酸素発生部でそれぞれ、連続して水素および酸素を発生させることができる。この発生した水素および酸素は、隔壁13により分離することができ、水素及び酸素は水素製造装置23の上部へ上昇し、第1ガス排出口20および第2ガス排出口19から回収することができる。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明の水素製造装置は、太陽光エネルギーを用いることにより水を分解し水素および酸素を製造する創エネルギー装置として利用される。家庭や水素ステーション、大規模水素製造工場にてオンサイトで水素を製造することが可能となる。
【符号の説明】
【0075】
1: 基板 2:光電変換部 4:p型半導体部 5:n型半導体部 6:半導体部 7:第2電解用電極 8:第1電解用電極 11:絶縁部 13:隔壁 14:天板 15:電解液流路 16:シール材 18:給水口 19:第2ガス排出口 20:第1ガス排出口 23:水素製造装置 25:アイソレーション 26:トレンチアイソレーション 27:第1導電部 28:第2導電部 29:第3導電部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
受光面および裏面を有する光電変換部と、前記裏面の上にそれぞれ設けられた第1電解用電極および第2電解用電極とを備え、
前記光電変換部は、受光することにより前記裏面の第1および第2区域間に電位差が生じ、第1区域と第1電解用電極とが電気的に接続し、第2区域と第2電解用電極とが電気的に接続し、
第1および第2電解用電極が電解液に接触するとき、第1電解用電極は、前記光電変換部が受光することにより生じる起電力を利用して電解液からH2を発生させる水素発生部を形成し、第2電解用電極は前記起電力を利用して電解液からO2を発生させる酸素発生部を形成することを特徴とする水素製造装置。
【請求項2】
前記光電変換部は、n型半導体部およびp型半導体部を有する少なくとも1つの半導体材料からなり、
第1および第2区域のうち、一方は前記n型半導体部の一部であり、他方は前記p型半導体部の一部である請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記光電変換部の裏面と第1電解用電極との間の一部および前記裏面と第2電解用電極との間の一部に設けられた絶縁部をさらに備え、
第1電解用電極および第2電解用電極は、それぞれ前記絶縁部が設けられていない第1および第2区域を介して前記n型半導体部または前記p型半導体部と電気的に接続する請求項2に記載の装置。
【請求項4】
前記絶縁部と第1電解用電極との間に設けられ、かつ、第1区域を介して前記n型半導体部または前記p型半導体部と電気的に接続する第1導電部と、前記絶縁部と第2電解用電極との間に設けられ、かつ、第2区域を介して前記n型半導体部または前記p型半導体部と電気的に接続する第2導電部とをさらに備える請求項3に記載の装置。
【請求項5】
前記光電変換部は、pin接合、pn接合、npp+接合またはpnn+接合を複数有し、
複数のpin接合、複数のpn接合、複数のnpp+接合または複数のpnn+接合は、直列に接続され、かつ、受光することにより生じる起電力を第1電解用電極および第2電解用電極に供給する請求項1〜4のいずれか1つに記載の装置。
【請求項6】
前記光電変換部は、pin接合、pn接合、npp+接合またはpnn+接合を有する半導体基板を複数含む請求項5に記載の装置。
【請求項7】
前記水素発生部および前記酸素発生部は、それぞれ電解液からH2が発生する反応の触媒および電解液からO2が発生する反応の触媒を含む請求項1〜6のいずれか1つに記載の装置。
【請求項8】
前記水素発生部および前記酸素発生部のうち少なくとも一方は、前記受光面の面積より大きい触媒表面積を有する請求項7に記載の装置。
【請求項9】
前記水素発生部および前記酸素発生部のうち少なくとも一方は、触媒が担持された多孔質の導電体である請求項7または8に記載の装置。
【請求項10】
前記水素発生部は、水素発生触媒としてPt、Ir、Ru、Pd、Rh、Au、Fe、NiおよびSeのうち少なくとも1つを含む請求項7〜9のいずれか1つに記載の装置。
【請求項11】
前記酸素発生部は、酸素発生触媒としてMn、Ca、Zn、CoおよびIrのうち少なくとも1つを含む請求項7〜10のいずれか1つに記載の装置。
【請求項12】
前記光電変換部は、透光性を有する基板の上に設けられ、
第1電解用電極および第2電解用電極の上に前記基板に対向する天板をさらに備え、
第1電解用電極および第2電解用電極と前記天板との間に空間が設けられた請求項1〜11のいずれか1つに記載の装置。
【請求項13】
第1電解用電極と前記天板との間の空間および第2電解用電極と天板との間の空間とを仕切る隔壁をさらに備える請求項12に記載の装置。
【請求項14】
前記隔壁は、イオン交換体を含む請求項13に記載の装置。
【請求項15】
前記光電変換部は、n型半導体部およびp型半導体部を有する少なくとも1つの半導体基板からなり、
前記n型半導体部は、前記半導体基板の裏面からn型不純物を拡散させた部分または前記半導体基板の裏面からn型不純物をイオン注入した部分であり、
前記p型半導体部は、前記半導体基板の裏面からp型不純物を拡散させた部分または前記半導体基板の裏面からp型不純物をイオン注入した部分である請求項1〜14のいずれか1つに記載の装置。
【請求項16】
前記光電変換部は、複数のpin接合、複数のpn接合、複数のnpp+接合または複数のpnn+接合を有する少なくとも1つの半導体基板であり、
各pin接合、各pn接合、各npp+接合または各pnn+接合は、トレンチアイソレーションにより分離された請求項1〜15のいずれか1つに記載の装置。
【請求項17】
請求項1〜16のいずれか1つに記載の水素製造装置を前記受光面が水平面に対し傾斜するように設置し、
前記水素製造装置の下部から前記水素製造装置に電解液を導入し、太陽光を前記受光面に入射させることにより前記水素発生部および前記酸素発生部からそれぞれ水素および酸素を発生させ、前記水素製造装置の上部から水素および酸素を排出する水素製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−72434(P2012−72434A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−217630(P2010−217630)
【出願日】平成22年9月28日(2010.9.28)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】