説明

水素貯蔵材料及びその製造方法

【課題】高水素貯蔵容量の水素貯蔵材料と、その簡単で低コストの製造方法の提供。
【解決手段】本発明は高容量の水素貯蔵材料を提供し、それはマイクロ孔構造体中にメソ孔チャネルと、それと接続されたフラクタルネットワークのナノ孔チャネルとが形成され、且つこの二種類のチャネルがいずれもマイクロ孔と接続され、並びに該メソ孔チャネルと該ナノ孔チャネル及びそれらに接続されたマイクロ孔に金属粒子が形成されている。また、本発明は、該マイクロ孔構造体に対する酸化反応を利用してマイクロ孔に接続されたメソ孔チャネルとフラクタルネットワークのナノ孔チャネルを形成し、及びこの二種類のチャネルと、それに接続されたマイクロ孔により、水素分子を解離させて水素原子となす金属粒子堆積の担体を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一種の水素貯蔵材料に係り、特に、マイクロ孔材料を酸化して異なるサイズのチャネルを形成し、これにより、水素分子を解離させて水素原子となす金属粒子を、相互に接続されたチャネルと、該チャネルに接続されたマイクロ孔に付着させることができる、高い水素貯蔵容量の水素貯蔵材料とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エネルギー資源は現代国家の工業化の重要な原動力であり、化石エネルギー資源を二世紀にわたり使用した後、人類は現在、エネルギー資源の欠乏と地球規模の気候変化の問題に直面しており、水素は将来のエネルギー資源として有望な選択項である。1970年代のオイルショック発生以降、先進国は代替エネルギー開発に力を注ぎ、水素エネルギーは特に注目されている。なぜなら、水素は水由来で無尽蔵であり、水素ガスをエネルギー原料とすると、その産物は水蒸気だけであり、二酸化炭素等の温室効果ガスを発生せず、環境保護に符合するハイパワーエネルギー資源であるためである。
【0003】
しかし、水素ガスは一般に気体の水素分子形式で自然界に存在し、このため、保存と運輸の技術上、相当に大きな挑戦があり、如何に妥当に水素ガスの保存と運輸の制限を克服するかが、水素ガスをエネルギー資源とした経済発展の主要な鍵となる。水素の密度は非常に小さく、更に、安全を考慮すると、その保存はずっと頭を悩ませる問題であった。水素は、気体、液体、或いは固体化合物の三種類の形態を用いて保存できる。例えば水素ガスは圧縮後に加圧ボンベ内に保存でき、気体の圧縮或いは液化は金のかかる過程であり、且つ保存する高圧力容器は公共安全の問題を発生し、このため定期的にその安全を検査する必要がある。
【0004】
もう一種類の保存の方式は液体保存の方式であり、一般に、水素分子の正常な沸点は摂氏零下253度であり、液化の過程では圧縮と冷却が必要で、このため多くのエネルギー資源を消耗せざるを得ず、生産のコストがアップする。温度が非常に低いため、液体水素の保存には特殊な低温装置が必要で、あるものは2層絶縁され、外層には液体窒素が保存され、水素ガスの蒸発を減少する。もう一つの問題は蒸発した水素ガスの排出であり、これも妥当に処理する必要がある。
【0005】
このほか注目を浴びている方式は固体方式の保存であり、すなわち、水素ガスを金属水化物或いは炭素材料の表面に吸着させることで保存する。固体での保存の最大の長所は安全であり、また、便利であることである。これにより、各国はいかに固体材料の水素貯蔵量をアップするかの研究に力を注いでいる。周知の技術では、水素貯蔵能力アップの方式の大半は、如何に貯蔵材料の特殊表面積(specific surface area;SSA)の研究に集中している。また、非特許文献1及び2には室温に置かれた多孔材料中に遷移金属をドープし、スピルオーバープロセスにより室温水素貯蔵量を増加するという、発展の潜在力を具えた方式が開示されている。
【0006】
【非特許文献1】Y.W.Li, R.T.Yang, J. Am. Chem. Soc. 128, 8135(2006)
【非特許文献2】Y.W.Li, R.T.Yang, J. Phys. Chem. C111,11086(2007)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は高い水素貯蔵量の水素貯蔵材料とその製造方法を提供することを目的とし、また、この製造方法は、製造工程が簡易化されて生産コストを節約できる方法であるものとする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
ある実施例において、本発明の提供する水素貯蔵材料は、
水素を吸着可能なマイクロ孔体であって、該マイクロ孔体内には複数のマイクロ孔があり、且つ少なくとも一つのメソ孔チャネルがあり、該メソ孔チャネルは複数のフラクタルネットワークのナノ孔チャネルに接続され、該ナノ孔チャネルは更に複数のマイクロ孔に連通する、上記マイクロ孔体と、
金属粒子であって、少なくとも一つの該メソ孔チャネル及び又はナノ孔チャネルのチャネル壁とこれらチャネルに接続されたマイクロ孔に形成された、上記金属粒子と、
を包含する。
【0009】
別の実施例において、本発明の提供する水素貯蔵材料の製造方法は、
(a)複数のマイクロ孔を具えたマイクロ孔体を提供するステップ、
(b)該マイクロ孔体を酸化して該マイクロ孔体内に少なくとも一つのメソ孔チャネル及び該メソ孔チャネルに接続された複数のフラクタルネットワークのナノ孔チャネルを形成し、各ナノ孔チャネルは複数のマイクロ孔に連通させるステップ、
(c)該マイクロ孔体内の少なくとも一つのメソ孔チャネル及び又はナノ孔チャネルのチャネル壁及び少なくとも一つのメソ孔チャネル及び又はナノ孔チャネルに接続されたマイクロ孔に複数の金属粒子を形成するステップ、
を有する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の提供する水素貯蔵材料とその製造方法は、マイクロ孔構造を利用して酸化反応によりマイクロ孔と接続されたメソ孔チャネルとフラクタルネットワークのナノ孔チャネルを形成し、これにより水素分子を解離させて水素原子となす金属粒子堆積の担体を提供する。本発明の水素貯蔵材料は水素貯蔵量を増加でき、このほか、酸化のプロセスを利用して高い水素貯蔵量の構造を製造することにより、製造工程を簡易化すると共に生産コストを節約できる長所を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
図1は本発明の水素貯蔵材料の顕微表示図である。該水素貯蔵材料2は水素ガスを吸着可能なマイクロ孔体20を具え、該マイクロ孔体20内には少なくとも一つのメソ孔チャネル21があり、該メソ孔チャネル21は更に、複数のフラクタルネットワークのナノ孔チャネル22に接続され、該ナノ孔チャネル22は更に複数のマイクロ孔23に連通する。本実施例では、該ナノ孔チャネル22の直径は2nmより大きく、該マイクロ孔23のサイズは2nmより小さい。このほか、該メソ孔チャネル21の直径サイズは3nmより大きい。該マイクロ孔体の材料は活性炭とされ得るが、これに限定されるわけではない。
【0012】
図1に示されるように、該メソ孔チャネル及び該ナノ孔チャネルには更に複数の金属粒子が形成される。その作用は水素分子を解離させて水素原子となし、該水素原子を該メソ孔チャネル、フラクタルネットワークのナノ孔チャネル及びこれらチャネルに連通するマイクロ孔に吸着させることにある。本実施例では、該金属粒子は白金(Pt)とされるが、これに限定されるわけではない。本発明により水素貯蔵材料は室温下で水素原子を吸着する特性を有する。
【0013】
図2は本発明の水素貯蔵材料の製造方法のフローチャートである。本実施例中、この製造方法3は以下のステップを有する。まず、ステップ30において、複数のマイクロ孔を具えたマイクロ孔体を提供する。このマイクロ孔体は活性体を選択可能であるが、これに限定されるわけではない。続いて、ステップ31において、該マイクロ孔体を酸化する。本実施例では、該マイクロ孔体の酸化の方式は酸洗の方式を利用し、該マイクロ孔体を酸性液体中に浸漬し、該酸性液体と該マイクロ孔体に反応を発生させて、該マイクロ孔体内に、少なくとも一つのメソ孔チャネル及び該メソ孔チャネルに接続された複数のフラクタルネットワークのナノ孔チャネルを形成し、各ナノ孔チャネルは複数のマイクロ孔に連通させる。このステップにおいて、酸化の過程を通して一部のナノ孔チャネルを酸化してその直径を増し、これによりチャネル直径が比較的大きいメソ孔チャネルを形成する。最後に、ステップ32において、該マイクロ孔体内の少なくとも一つのメソ孔チャネル及び又はナノ孔チャネルのチャネル壁及び少なくとも一つのメソ孔チャネル及び又はナノ孔チャネルに接続されたマイクロ孔に複数の金属粒子を形成する。
【0014】
以下に、一つの実施例を挙げて説明するが、それは商業上購入可能な活性炭をマイクロ孔体の基材となす。該マイクロ孔体はナノ孔チャネルを有し、そのフラクタル次元が3.0程度とされる。該マイクロ孔体のメソ孔チャネルはほとんど無く、これによりX線小角散乱測定不能である。マイクロ孔体内のメソ孔チャネル数量を増加するため、マイクロ孔体は1000mLの酸洗溶液で、加熱板上で約摂氏150度の条件下で120分間酸洗する。そのうち、該酸洗溶液は8M HNO3 (60.0mL)及び2M H2 SO4 (11.1mL)を含有する。前述の酸洗の過程で不純物を除去でき官能基(炭酸結合を含む)を生成でき、並びに50%を超える炭酸積を除去でき、これにより該マイクロ孔体内にメソ孔チャネルと、少なくとも一つのメソ孔チャネルに接続された複数のフラクタルネットワークのナノ孔チャネルを形成でき、各ナノ孔チャネルは更に複数のマイクロ孔に連通させられる(図1の構造)。
【0015】
続いて、洗浄し乾燥後の酸化マイクロ孔体を金属成分を含有する触媒前駆塩(electrocatalyst precursor salt; H2 PtCl6 ・6H2 O,1g)、エチレングリコール(ethylene glycol 50ml)、及び酸性亜硫酸水素ナトリウム(10% NaHSO3,1mL)を含有するpH値が4[水酸化ナトリウム(4N,1mL)で調節]の還元溶液中に浸し、並びに加熱板上で摂氏約130度で120分間反応させ、白金(Pt)粒子をメソ孔チャネルとナノ孔チャネル及びこれらと連通するマイクロ孔に付着させる。
【0016】
図3を参照されたい。該図は活性炭と酸化後の活性炭、及び市販の白金(Pt)粒子を付着させた活性炭(Stream Chemical, Inc.)の孔チャネルのX線小角散乱測定結果グラフである。図3から分かるように、未酸化の活性炭はフラクタルネットワークのナノ孔チャネル(直径約2.1nm)及びマイクロ孔(粒径約1.3nm)で構成され、メソ孔チャネルは少なすぎるためにX線小角散乱測定不能である。一方、酸化後の活性炭は、ナノ孔チャネル直径が3.2nmに拡張され、マイクロ孔の粒径は約0.92nmである。酸化反応の後に形成されるメソ孔チャネルは、その直径が約36.8nmである。本実施例では、未酸化の活性炭は酸化後に大体35%の体積比のナノ孔チャネルが酸化されてチャネル幅が広がり、メソ孔チャネルを形成する。市販の白金(Pt)粒子を付着させた活性炭は少量のナノ孔チャネルとマイクロ孔を有するだけで、メソ孔チャネルを有さない。
【0017】
このほか、図4を参照されたい。該図は金属粒子を具えた酸化活性炭及び未酸化活性炭の常温及び圧力69barでの、Southwest Research Institute検証の重量分析法により獲られた水素貯蔵量と時間の関係図である。該図より分かるように、市販の白金(Pt)粒子を付着させた活性炭の水素貯蔵量は1.3wt%程度である。未酸化の活性炭は白金付着の後の水素貯蔵量は3.4wt%程度である。図3の孔構造を比較すると、この水素貯蔵量の増加は未酸化の活性炭のマイクロ孔とナノ孔チャネルが市販の白金(Pt)粒子を付着させた活性炭より高いことによることが分かる。反対に、本発明の酸化後の活性炭は白金付着の後の水素貯蔵量が5.7wt%まで増加する。これから分かるように、メソ孔チャネルの数量の増加は水素貯蔵量を明らかに改善及びアップさせる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の水素貯蔵材料の顕微表示図である。
【図2】本発明の水素貯蔵材料の製造方法のフローチャートである。
【図3】活性炭と酸化後の活性炭、及び市販の白金(Pt)粒子を付着させた活性炭(Stream Chemical, Inc.)の孔チャネルのX線小角散乱測定結果図である。
【図4】金属粒子を具えた酸化活性炭及び未酸化活性炭の常温及び圧力69barでの、Southwest Research Institute検証の重量分析法により獲られた水素貯蔵量と時間の関係図である。
【符号の説明】
【0019】
2 水素貯蔵材料
20 マイクロ孔体
21 メソ孔チャネル
22 フラクタルネットワークのナノ孔チャネル
23 マイクロ孔
24 金属粒子
3 水素貯蔵材料の製造方法
30〜32 ステップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素貯蔵材料において、
水素を吸着可能なマイクロ孔体であって、該マイクロ孔体内には複数のマイクロ孔、及び、少なくとも一つのメソ孔チャネルがあり、該メソ孔チャネルは複数のナノ孔チャネルに接続され、該ナノ孔チャネルは更に少なくとも一つのマイクロ孔に連通する、上記マイクロ孔体と、
金属粒子であって、少なくとも一つの該メソ孔チャネル及び又はナノ孔チャネルのチャネル壁とこれらチャネルに接続されたマイクロ孔に形成された、上記金属粒子と、
を包含することを特徴とする、水素貯蔵材料。
【請求項2】
請求項1記載の水素貯蔵材料において、該金属粒子が水素分子を解離させて水素原子となすことを特徴とする、水素貯蔵材料。
【請求項3】
請求項1記載の水素貯蔵材料において、該ナノ孔チャネルの直径が2nmより大きいことを特徴とする、水素貯蔵材料。
【請求項4】
請求項1記載の水素貯蔵材料において、該マイクロ孔が2nmより小さいことを特徴とする、水素貯蔵材料。
【請求項5】
請求項1記載の水素貯蔵材料において、該メソ孔チャネルの直径が3nmより大きいことを特徴とする、水素貯蔵材料。
【請求項6】
請求項1記載の水素貯蔵材料において、該マイクロ孔体の材料が室温下で水素原子を吸着する特性を具備することを特徴とする、水素貯蔵材料。
【請求項7】
請求項1記載の水素貯蔵材料において、該複数のナノ孔チャネルがフラクタルネットワーク状態で分布することを特徴とする、水素貯蔵材料。
【請求項8】
請求項1記載の水素貯蔵材料において、該少なくとも一つのメソ孔チャネル、該マイクロ孔、及び該ナノ孔チャネルは酸化反応により形成されたことを特徴とする、水素貯蔵材料。
【請求項9】
水素貯蔵材料の製造方法において、
(a)複数のマイクロ孔を具えたマイクロ孔体を提供するステップ、
(b)該マイクロ孔体を酸化して該マイクロ孔体内に少なくとも一つのメソ孔チャネル及び該メソ孔チャネルに接続された複数のナノ孔チャネルを形成し、各ナノ孔チャネルは少なくとも一つのマイクロ孔に連通させるステップ、
(c)該マイクロ孔体内の少なくとも一つのメソ孔チャネル及び又はナノ孔チャネルのチャネル壁及び少なくとも一つのメソ孔チャネル及び又はナノ孔チャネルに接続されたマイクロ孔に複数の金属粒子を形成するステップ、
を有することを特徴とする、水素貯蔵材料の製造方法。
【請求項10】
請求項9記載の水素貯蔵材料の製造方法において、該金属粒子が水素分子を解離させて水素原子となすことを特徴とする、水素貯蔵材料。
【請求項11】
請求項9記載の水素貯蔵材料において、該ナノ孔チャネルの直径が2nmより大きいことを特徴とする、水素貯蔵材料の製造方法。
【請求項12】
請求項9記載の水素貯蔵材料の製造方法において、該マイクロ孔が2nmより小さいことを特徴とする、水素貯蔵材料の製造方法。
【請求項13】
請求項9記載の水素貯蔵材料の製造方法において、該メソ孔チャネルの直径が3nmより大きいことを特徴とする、水素貯蔵材料の製造方法。
【請求項14】
請求項9記載の水素貯蔵材料の製造方法において、該マイクロ孔体の材料が室温下で水素原子を吸着する特性を具備することを特徴とする、水素貯蔵材料の製造方法。
【請求項15】
請求項9記載の水素貯蔵材料の製造方法において、該複数のナノ孔チャネルがフラクタルネットワーク状態で分布することを特徴とする、水素貯蔵材料の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2010−29837(P2010−29837A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−210227(P2008−210227)
【出願日】平成20年8月19日(2008.8.19)
【出願人】(599171866)行政院原子能委員會核能研究所 (37)
【Fターム(参考)】