説明

水素貯蔵材料

【課題】安定して水素吸蔵能を向上させたリチウム−マグネシウム系複合錯体材料から成る水素貯蔵材料を提供する。
【解決手段】LiHとMg1−xとの複合錯体材料から成り、Aはアルカリ金属であり、0<x<1であることを特徴とする水素貯蔵材料。望ましくは、アルカリ金属AがLiであり、更に望ましくは0<x<0.25である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素貯蔵材料に関し、特にリチウム−マグネシウム系複合錯体材料から成る水素貯蔵材料に関する。
【背景技術】
【0002】
有望な水素貯蔵材料として、LiHとMgBとから成るリチウム−マグネシウム系複合錯体材料が非特許文献1、特許文献1に開示されている。これは下記の反応により水素を吸放出する。
【0003】
2LiH+MgB+4H⇔2LiBH+MgH
しかし、水素放出後の水素吸蔵反応(上式の左から右への反応。典型的には250℃、10MPa)が困難であるという問題があった。
【0004】
この問題に対して、これまで種々の工夫がなされている。
【0005】
例えば、特許文献2には、MgHを不活性溶媒(水、アルコール好ましくはエタノール、またはテトラヒドロフラン、エーテル好ましくはジエチルエーテル、ケトン好ましくはアセトン、アンモニア、アミン、アミドおよびそれらの組み合わせ)と接触させることで活性化させることが示されている。しかし、接触処理により活性化の程度が変動して、安定した向上効果が得られなかった。
【0006】
また、特許文献3には、リチウム遷移金属複合酸化物がマグネシウムに高分散状態で複合化してなるマグネシウム系水素吸蔵材料を利用することで水素吸着性能を向上させることが示されている。しかし、分散状態によって吸着性能が変動して、安定した向上効果が得られなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−008738号公報
【特許文献2】特開2010−142804号公報
【特許文献3】特開2005−186058号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】The Journal of Physical Chemistry B 2005, 109, 3719.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、安定して水素吸蔵能を向上させたリチウム−マグネシウム系複合錯体材料から成る水素貯蔵材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するために、本発明は、LiHとMg1−xとの複合錯体材料から成り、Aはアルカリ金属であり、0<x<1であることを特徴とする水素貯蔵材料を提供する。
【発明の効果】
【0011】
MgBのMgの一部をアルカリ金属Aで置換することによりMgBが不安定化して容易に水素化されるので、水素吸蔵材料の水素吸蔵能が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、水素吸蔵反応を模式的に示す。
【図2】図2は、全水素化反応の障壁に対応するΔEを定義する式である。
【図3】図3は、種々の元素を添加した場合のΔEの計算結果を比較して示す。
【図4】図4は、Li添加MgB水素化中間体の安定性を比較して示す。
【図5】図55は、3種類の硼化物の電子密度分布を示す。
【図6】図6は、熱処理合成後の元素添加および無添加のMgB試料のXRD分析チャートを示す。
【図7】図7は、実施例および比較例について、元素添加量と水素吸蔵量との関係を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、MgBのMgの一部をアルカリ金属Aで置換することによりMgBを不安定化して容易に水素化する状態すなわち水素吸蔵能の高い状態を達成する。
【0014】
図1に示したように、本発明の水素吸蔵材料は、水素を放出した状態(A)ではLiHと元素添加MgB(Mgの一部がAと置換したMg1−x)との複合した状態であり、水素を吸蔵した状態(B)では水素吸蔵量に応じて元素添加MgBの一部が水素化されてMgHとなると共にLiHの一部がLiBHが生成する。すなわち、下記の反応式において、左から右への反応が進行する。
【0015】
2LiH+MgB+4H⇔2LiBH+MgH
一部置換したMg1−xにおいて、0<x<1であることが最も望ましい。
【0016】
ここで、置換元素として何が望ましいかを判断するために、下記計算を行なった。
【0017】
水素化反応の進行時に、H溶解、B欠陥生成過程、M欠陥生成過程のいずれかが律速段階になると仮定した。そして、全水素化反応の障壁が、図2に示した式で定義されるΔEに比例すると考え、Al、LiおよびCをMgBに添加したときのΔEを計算した。計算結果を図3に示す。
【0018】
また、図4に、水素吸蔵反応が促進されると考えられるLi添加MgBの各種水素化中間体の安定性を示す。
【0019】
更に、図5に、安定性の決定要因としてB平面の不安定化が示唆される3種の硼化物(TiB、MgB、Li添加MgB)の電子密度を比較して示す。
【0020】
図3〜5に示した事実から、無添加のMgBよりもΔEの低いLi添加MgBの方が水素吸蔵反応しやすいと考えた。この要因としては、MgB中のB平面の不安定化が考えられる。これは、Li添加によりMgBに正孔が注入されたことで、MgからB平面への電子供与性が少なくなり、Bのπ結合が弱くなることに起因していると考えられる(図5)。
【0021】
したがって、Liと同様に他のアルカリ金属元素も、添加によりMgBに正孔が注入されるので、同じ機構により水素吸蔵反応が促進されると推測される。
【実施例】
【0022】
MgBに種々の元素を添加したリチウム−マグネシウム(LiH−MgB)系複合錯体材料から成る水素貯蔵材料を下記の手順および条件で作製した。
【0023】
表1に、用いた材料をまとめて示す。
【0024】
【表1】

【0025】
【表2】

【0026】
1)表2に示す実施例1および比較例2〜4の各試料の原料を、アルゴン雰囲気中のグローブボックス内(酸素濃度1ppm以下)にて、表2の配合比で秤量した。
【0027】
2)秤量後の原料を遊星型ボールミル粉砕機(フリッチュ社製:premium line P-7型)により、アルゴン雰囲気中、回転数400rpmにて1時間粉砕混合処理した。
【0028】
3)処理後の原料混合物をペレット化し、ステンレス製円筒型耐圧容器に充填し、表2の合成条件にて熱処理合成した。
【0029】
4)合成された元素添加MgBと、LiHと、触媒としてのTiClとを、2LiH+1添加MgB+0.03TiClの配合比で秤量した。なお、表2に示した比較例5として、添加MgBに替えて無添加のMgBを用いて、上記と同様に秤量を行なった。
【0030】
5)秤量後の試料を2)と同じボールミル条件にて混合処理して、実施例1および比較例2〜5のリチウム−マグネシウム系複合錯体材料から成る水素貯蔵材料を得た。
【0031】
6)得られた各水素吸蔵材料の試料を3)と同様に容器に充填し、363℃、80h、1MPaHにて水素吸蔵反応を行なった。
【0032】
<XRD分析:元素添加/無添加のMgBの相同定>
上記3)で熱処理合成した各元素添加MgB試料について、XRD分析を行なって生成物を同定した。なお、比較例5として、無添加のMgBについても同じくXRD分析行なった。
【0033】
図6に、実施例1および比較例2〜5について、熱処理合成後の元素添加MgBのXRD分析チャートを示す。図6(A)に示すように、比較例2以外はいずれも、比較例5の無添加MgBと同一のピークのみが観察され、Mgの一部を添加元素で置換しても無添加の状態と同じ結晶構造を維持していることが確認された。
【0034】
図6(B)に拡大して示すように、Mg0.9Li0.1の実施例1に比べて、Li添加量が多いMg0.7Li0.3の比較例2は、実施例1には見られない副生成物と考えられるピーク(図6(B)中に矢印を付す)が確認された。
【0035】
<TRD−MS分析:>
(B)上記6)で水素吸蔵反応した実施例1および比較例2〜5の各水素吸蔵材料試料について、TPD−MS分析にて水素吸蔵量を測定した。図7に結果をまとめて示す。
【0036】
図7に示したように、無添加MgB(比較例5)に対して、本発明の実施例1を含みLi添加量xが0<x<0.25の範囲であれば、水素吸蔵量が向上することが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明によれば、安定して水素吸蔵能を向上させたリチウム−マグネシウム系複合錯体材料から成る水素貯蔵材料が提供される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
LiHとMg1−xとの複合錯体材料から成り、Aはアルカリ金属であり、0<x<1であることを特徴とする水素貯蔵材料。
【請求項2】
請求項1において、上記アルカリ金属AがLiであることを特徴とする水素貯蔵材料。
【請求項3】
請求項1において、0<x<0.25であることを特徴とする水素貯蔵材料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−120941(P2012−120941A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−271286(P2010−271286)
【出願日】平成22年12月6日(2010.12.6)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】