説明

水素透過装置

【課題】Pdがβ相となる温度領域で長時間安定した水素透過を維持できる水素透過装置を提供する。
【解決手段】パラジウムまたはパラジウム合金、あるいは、パラジウム以外の水素吸蔵金属またはパラジウム合金以外の水素吸蔵合金と、これらに対して相対的に仕事関数が低い物質とを有する構造体と、核種変換物質層とからなる水素透過膜と、導入チャンバ及び透過チャンバと、前記導入チャンバに重水素ガスを導入する重水素ガス導入部と、前記導入チャンバに接続された導入チャンバ排気配管と、該導入チャンバ排気配管に設置された導入チャンバ排気バルブとを備える導入チャンバ排気部と、前記透過チャンバに接続された真空ポンプと前記真空ポンプに設置された真空ゲージとを備える透過量計測部、とを備える水素透過装置であって、前記導入チャンバ排気配管及び前記導入チャンバ排気バルブの内径が、50mm以上であることを特徴とする水素透過装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、凝集系核反応実験で使用される水素透過装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
凝集系核反応では、例えば特許文献1に記載されるように、セシウム(Cs)などの核種変換物質が核種崩壊(ベータ崩壊)する際に荷電粒子が放出される。
【0003】
特許文献1に開示される核種変換(凝集系核反応)装置は、内部が気密保持可能とされた吸蔵室と、核種変換物質層が形成されたパラジウム(Pd)を含む多層構造体を介して吸蔵室内部に気密保持可能に設けられた放出室と、吸蔵室に重水素ガスを供給する重水素供給手段と、放出室を真空状態にする排気手段と、多層構造体を透過する重水素透過量を評価する質量分析器とを備える。核種変換の実験を行うには、まず吸蔵室及び放出室を排気して真空とした後、吸蔵室の排気を停止し、重水素供給手段から吸蔵室に重水素ガスを供給する。放出室は常時排気されるため、吸蔵室内の重水素ガスが多層構造体を透過する。この際、多層構造体に形成された核種変換物質層で核種変換(凝集系核反応)が発生する。未反応の重水素ガスは多層構造体を透過して放出室に流入し、質量分析器で検出される。
【特許文献1】特開2002−202392号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
核種変換実験は、一般に200℃から500℃の温度領域で行われていた。吸蔵室内には、真空引きの際に排気しきれなかった吸着性ガス(水蒸気、炭化水素など)が残留しているが、200℃から500℃の温度領域では、吸着性ガスは吸蔵室壁面や多層構造体表面へ吸着しにくく、重水素ガスの透過に影響を与えない。しかし、200℃以上では、多層構造体を構成するPdが重水素を含有しないα相となり、格子歪がなく脆化が発生しないため、凝集系核反応は発生しない。
【0005】
一方、室温から100℃の温度領域(例えば特許文献1では約70℃)においては、Pdが重水素を多量に含有するβ相となり、格子歪により材料が脆化して凝集系核反応が発生する。しかし、室温から100℃の温度領域では、構造体表面に水蒸気や炭化水素などが吸着しやすくなる。吸着したガスにより、重水素ガスの透過が阻害されるので、長時間にわたって安定した重水素ガス透過を維持することが難しいという問題があった。
【0006】
本発明は、上記問題に鑑みなされたものであり、Pdがβ相となる温度領域で長時間にわたり安定した水素透過を維持可能にする水素透過装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の水素透過装置は、パラジウムまたはパラジウム合金、あるいは、パラジウム以外の水素吸蔵金属またはパラジウム合金以外の水素吸蔵合金と、これらに対して相対的に仕事関数が低い物質とを有する構造体と、核種変換を施す物質を含む核種変換物質層とからなる水素透過膜と、前記水素透過膜を両側から挟み込むようにして配置され、前記水素透過膜により密封可能な閉空間をなす導入チャンバ及び透過チャンバと、前記導入チャンバに重水素ガスを導入する重水素ガス導入管を備える重水素ガス導入部と、前記導入チャンバに接続された導入チャンバ排気配管と、該導入チャンバ排気配管に設置された導入チャンバ排気バルブとを備える導入チャンバ排気部と、前記透過チャンバに接続された真空ポンプと、該真空ポンプに設置された真空ゲージとを備える透過量計測部、とを備える水素透過装置であって、前記導入チャンバ排気配管及び前記導入チャンバ排気バルブの内径が、50mm以上であることを特徴とする。
【0008】
従来の水素透過装置では、導入チャンバ内を排気するための配管として、例えば1/4インチ(内径約6.3mm)SUS管など、内径の小さい配管を用いることが一般的であった。しかし、配管の内径が小さい場合、水蒸気や炭化水素といった吸着性ガスを十分に排気することが難しい。このため、凝集系核反応が起こる室温から100℃の温度では、導入チャンバ内に残留した吸着性ガスが水素透過膜表面に吸着してしまい、重水素ガス透過が阻害された。
一方、本発明の水素透過装置は、導入チャンバを排気するための配管及びバルブの内径が50mm以上であり、従来の水素透過装置の配管及びバルブの内径よりも大幅に大きい。本発明によれば、導入チャンバ内の吸着性ガスの排気能力が向上して、導入チャンバ内に残留する吸着性ガス量を大幅に減少させることができる。従って、水素透過膜表面の吸着性ガスの影響が小さくなるので、長時間にわたり安定した重水素ガス透過を維持することが可能となる。
【0009】
また、本発明の水素透過装置は、パラジウムまたはパラジウム合金、あるいは、パラジウム以外の水素吸蔵金属またはパラジウム合金以外の水素吸蔵合金と、これらに対して相対的に仕事関数が低い物質とを有する構造体と、核種変換を施す物質を含む核種変換物質層とからなる水素透過膜と、前記水素透過膜を両側から挟み込むようにして配置され、前記水素透過膜により密封可能な閉空間をなす導入チャンバ及び透過チャンバと、前記導入チャンバに重水素ガスを導入する重水素ガス導入管を備える重水素ガス導入部と、前記導入チャンバに接続された導入チャンバ排気配管と、該導入チャンバ排気配管に設置された導入チャンバ排気バルブとを備える導入チャンバ排気部と、前記透過チャンバに接続された真空ポンプと、該真空ポンプに設置された真空ゲージとを備える透過量計測部、とを備える水素透過装置であって、前記重水素ガス導入管の先端が、前記水素透過膜の表面近傍に配置され、前記導入チャンバ内のガスを前記導入チャンバの外に排出するとともに前記導入チャンバ内の重水素ガスを循環させる重水素ガス循環部が、前記導入チャンバに接続されることを特徴とする。
【0010】
重水素ガス導入管の先端を水素透過膜の表面近傍に配置することで、重水素ガスが水素透過膜表面に直接当たるように供給される。また、重水素ガス循環部を導入チャンバに接続することにより、導入チャンバ内のガスを導入チャンバの外に排出するとともに、導入チャンバ内にガスの流れを発生させて導入チャンバ内の重水素ガスを循環させる。これにより、重水素ガスを、導入チャンバに供給された直後に効率良く水素透過膜を透過させることができる。また、吸着性ガスが水素透過膜近傍に接近しにくくなり、さらに重水素ガス供給中に重水素ガスと共に導入チャンバに残留した吸着性ガスも導入チャンバから排気することができるので、水素透過膜近傍の吸着性ガス濃度が低下する。この結果、吸着性ガスの影響が小さくなり、重水素ガス透過を安定させることができる。
【0011】
この場合、前記重水素ガス循環部が、前記重水素ガス導入部に接続されることが好ましい。導入チャンバの外に排出された未反応の重水素ガスを、重水素ガス導入部から導入チャンバ内に再び供給することができるので、重水素ガスの使用効率を向上させることができる。
【0012】
この場合、前記導入チャンバ排気部が前記透過量計測部の前記真空ポンプに接続され、かつ、前記導入チャンバ排気配管の長さが、前記透過チャンバと前記真空ポンプとを接続する透過チャンバ排気配管の長さよりも短いことが好ましい。
【0013】
このように、導入チャンバ排気部を透過量計測部の真空ポンプに接続して、導入チャンバの排気及び透過チャンバの排気と重水素ガス透過量の計測とを同一の真空ポンプを用いておこなうので、装置を簡略化することができる。この場合、導入チャンバ排気配管の長さ(導入チャンバから真空ポンプまでの距離)を、透過チャンバと真空ポンプとを接続する透過チャンバ排気配管の長さよりも短くする。これにより、圧損を低減し、導入チャンバの排気を十分に行うことができる。
【0014】
上記発明において、前記重水素ガス導入管に、重水素ガス精製フィルタが設置されることが好ましい。重水素ガス導入管に重水素ガス精製フィルタを設置することにより、導入チャンバに供給される重水素ガス中の吸着性ガスを除去し、導入チャンバ内の吸着性ガス濃度上昇を防止することができる。
【0015】
上記発明において、前記重水素ガスが前記水素透過膜を透過する間に、前記水素透過膜が室温以上100℃以下に保持されることが好ましい。これにより、重水素ガスが水素透過膜を透過する間に、水素透過膜において凝集系核反応を発生させることができる。
【0016】
上記発明において、前記真空ゲージが、前記透過チャンバ内の重水素ガスの量を計測することが好ましい。これにより、透過チャンバ内に流入する重水素ガス量が微少量であっても、リアルタイムで重水素ガス透過量を計測することが可能となる。
【発明の効果】
【0017】
以上のように、本発明の水素透過装置は、Pdがβ相となる室温から100℃の温度範囲において、水素透過膜への水蒸気や炭化水素などの吸着を抑制し、安定した重水素ガス透過を維持して正確な水素透過量を計測することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下に、本発明に係る水素透過装置の実施形態を、図面を参照して説明する。
(第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態に係る水素透過装置の概略図である。第1実施形態の水素透過装置10は、導入チャンバ11と透過チャンバ12とを備える。導入チャンバ11と透過チャンバ12は、水素透過膜13により分離され、内部が気密保持可能とされる。
【0019】
水素透過膜13は、パラジウム(Pd)またはパラジウム合金、あるいは、パラジウム以外の水素吸蔵金属またはパラジウム合金以外の水素吸蔵合金と、これらに対して相対的に仕事関数が低い物質とを有する構造体と、核種変換を施す物質を含む核種変換物質層とから構成されている。構造体は、例えば、透過チャンバ側から導入チャンバ側に向かって、順に、Pd基板の表面上に、Pdに対して相対的に仕事関数が低い物質(例えば、CaO)とPdとの混合層が形成され、この混合層の表面上にPd表面層が積層されている。混合層は、例えば、Pd層とCaO層とが交互に積層されたものでも良い。核種変換物質層は、Pd表面層上に形成される。核種変換を施す物質としては、セシウム(Cs)、炭素(C)、ストロンチウム(Sr)、ナトリウム(Na)などが挙げられる。水素透過膜13は、室温以上100℃以下に保持される。
【0020】
導入チャンバ11に、導入チャンバ11に接続する導入チャンバ排気配管18と、導入チャンバ排気配管18に設置された導入チャンバ排気バルブ19とからなる導入チャンバ排気部14が接続される。導入チャンバ排気配管18及び導入チャンバ排気バルブ19の内径は、50mm以上とされる。例えば、導入チャンバの容量が30L以下の場合、導入チャンバ排気配管18及び導入チャンバ排気バルブ19として、ICF114(60.2mm)以上の配管及びバルブを使用する。あるいは、導入チャンバの容量が100L程度の場合は、ICF152(95.6mm)以上の配管及びバルブを使用する。このように、導入チャンバの容量に応じて、使用する配管及びバルブの内径を適宜選択すると良い。
【0021】
室温から100℃の温度領域では、水蒸気や炭化水素などの吸着性ガスが導入チャンバ壁面や水素透過膜表面に吸着しやすい。従来の水素透過装置のように、細い導入チャンバ排気管(例えば内径が1/4インチ)を用いて導入チャンバ内部を排気しても、吸着性ガスは排気されにくく、導入チャンバ内に吸着性ガスが残留する。本実施形態の水素透過装置10のように、導入チャンバ排気部14の導入チャンバ排気配管18及び導入チャンバ排気バルブ19の内径を50mm以上とすると、吸着性ガスの排気効率が向上して、導入チャンバ11内に残留する吸着性ガス量を大幅に減少させることができる。この結果、水素透過膜13に吸着するガスの影響が小さくなるので、長時間にわたり安定した重水素ガス透過を維持することが可能となる。
【0022】
導入チャンバ排気部14の導入チャンバと反対側に、ターボ分子ポンプ15が接続され、ターボ分子ポンプ15の排気側にドライポンプ16が接続される。ターボ分子ポンプ15及びドライポンプ16により導入チャンバ11内部を排気する。ターボ分子ポンプ15の排気速度は、50L/sec以上であることが好ましい。本実施形態のドライポンプの代わりにロータリーポンプを使用しても良い。ロータリーポンプを用いた場合は、フォアライントラップを併用して、炭化水素が導入チャンバ内に流入するのを防止する。
【0023】
また、導入チャンバ11に、重水素ガス導入管27及び重水素ガス導入バルブ26を備える重水素ガス導入部25が接続される。
【0024】
透過量計測部20として、透過チャンバ12に透過チャンバ排気配管24が接続され、更に透過チャンバ排気配管24にターボ分子ポンプ21及びドライポンプ22が接続される。ターボ分子ポンプ21に真空ゲージ23が設置される。水素透過膜を透過する重水素ガス量は数sccm/cmであるので、例えば1cmから10cm程度の水素透過膜を用いた場合は、透過重水素ガス量は微少量となる。ターボ分子ポンプ21に設置された真空ゲージ23を予め既知の水素透過量で校正しておけば、重水素ガス透過中の圧力変化から、水素透過膜を透過して透過チャンバに流入する微少量の重水素ガス量をリアルタイムで計測することができる。
【0025】
重水素透過実験は、以下の手順にて実施する。
導入チャンバ11内部を、導入チャンバ排気部14を介してターボ分子ポンプ15及びドライポンプ16で排気する。具体的に、導入チャンバ11内の圧力が1.33×10−5Pa程度となるまで排気する。透過チャンバ12内部を、透過量計測部20のターボ分子ポンプ21及びドライポンプ22で排気する。水素透過膜13を、室温から100℃の範囲(例えば約70℃)に保持する。
【0026】
導入チャンバ11内部が十分に排気された後、導入チャンバ排気バルブ19を閉じる。重水素ガス導入バルブ26を開け、導入チャンバ11内の圧力が約133Pa(1気圧)となるように、重水素ガス導入部25から導入チャンバ11内に重水素ガスを供給する。透過チャンバ12内部は、常時排気されるため、導入チャンバ11に供給された重水素ガスが、水素透過膜13を通って透過チャンバ12へと流入する。このとき、水素透過膜13において、重水素ガスと核種変換を施す物質との間で凝集系核反応が発生する。
【0027】
水素透過膜13を通って透過チャンバ12に流入した重水素ガス量を、透過量計測部20の真空ゲージ23を用いて計測する。
【0028】
所定時間経過後、重水素ガス導入バルブ26を閉じて重水素ガスの供給を停止し、実験を終了する。
【0029】
(第2実施形態)
図2は、本発明の第2実施形態に係る水素透過装置の概略図である。第1実施形態と一致する部分については、同一の符号を付した。第2実施形態の水素透過装置30において、導入チャンバ排気部14が、透過量計測部20のターボ分子ポンプ21に接続される。上記構成とすることにより、同一の排気系を用いて、導入チャンバ11内部及び透過チャンバ12内部を排気し、かつ、重水素ガス透過量を計測できるので、装置を簡略化することができる。
【0030】
この場合、導入チャンバ11からターボ分子ポンプ21までの導入チャンバ排気配管18の長さを、透過チャンバ12とターボ分子ポンプ21とを接続する透過チャンバ排気配管24の長さよりも短くする。こうすることで、導入チャンバ排気部14での圧損を低減させて導入チャンバ11内部を優先的に排気できるので、導入チャンバ11内の吸着性ガスを効率よく排気することができる。
【0031】
(第3実施形態)
図3は、本発明の第3実施形態に係る水素透過装置の概略図である。本実施形態の水素透過装置40は、第1実施形態の水素透過装置における重水素ガス導入管27に、重水素ガス精製フィルタ41が設置される。重水素ガスボンベや重水素ガス導入管にも、微量の水蒸気や炭化水素が付着しているため、導入チャンバ11に供給される重水素ガスに水蒸気や炭化水素が含まれる。重水素ガス導入管27に設置された重水素ガス精製フィルタ40により、重水素ガスに含まれる水蒸気や炭化水素を確実に除去し、導入チャンバ11内の吸着性ガス濃度上昇を防止する。
【0032】
図4は、第3実施形態の水素透過装置を用いて、上記の重水素透過実験を行った場合の重水素ガス透過量の時間経過を表すグラフである。同図において、横軸は時間、縦軸は透過量計測部で計測した重水素ガス透過量である。導入チャンバの容量を30L,導入チャンバ排気管の配管及びバルブは、ICF114(内径60.2mm)の配管及びバルブを使用した。重水素導入バルブを開けて導入チャンバへの重水素ガス供給を開始すると、重水素ガスが水素透過膜を通過して透過チャンバに流入し、透過量計測部で計測された。その後、40時間を超える長時間にわたってほぼ一定の重水素ガス透過量が維持することができた。
【0033】
図5は、導入チャンバ排気管に内径1/4インチ(約6.3mm)の配管及びバルブを用いた以外は第3実施形態と同様の水素透過装置を用いて、上記の重水素透過実験を行った場合の重水素ガス透過量の時間経過を表すグラフである。同図において、横軸は時間、縦軸は透過量計測部で計測した重水素ガス透過量である。重水素導入バルブ開放後の重水素透過量は図4よりも小さく、時間経過に従い透過量が減少した。
【0034】
内径の大きい導入チャンバ排気管を用いて導入チャンバ内を排気したことにより、重水素ガス供給前の導入チャンバ内に残留する吸着性ガス量を大幅に減少させることができた。その結果、水素透過膜表面の吸着ガスの影響が小さくなり、重水素ガスの透過量を長時間安定させることができた。一方、内径が小さい導入チャンバ排気管を用いた場合は、吸着性ガスの排気が不十分であった。そのため、時間経過とともに導入チャンバ内に残留した吸着性ガスが水素透過膜表面に吸着し、重水素ガス透過量が減少した。
【0035】
以上のように、導入チャンバ排気管の配管及びバルブの内径を50mm以上と大きくすることによって、導入チャンバ内に残留する吸着性ガス量を大幅に減少させ、長時間にわたり安定した重水素ガス透過を維持し、正確な水素透過量を計測することが可能となる。
【0036】
(第4実施形態)
図6は、本発明の第3実施形態に係る水素透過装置の概略図である。第4実施形態の水素透過装置50では、重水素ガス導入管62の先端が水素透過膜13の表面近傍に配置される。重水素ガス導入部60の重水素ガス導入バルブ62を開くと重水素ガスが供給され、水素透過膜13表面に重水素ガスが直接吹き付けられる。
【0037】
導入チャンバ11に、導入チャンバ内のガスを排出するとともに導入チャンバ内の重水素ガスを循環させるための重水素ガス循環部64が接続される。図6において、重水素ガス循環部64は、真空ポンプ65とマスフローコントローラ66とバルブ67とを備える。マスフローコントローラ66により、導入チャンバ11から排気されるガス量を調整し、重水素ガス供給中の導入チャンバ内の圧力を約133Pa(1気圧)に維持する。
【0038】
第4実施形態の水素透過装置50では、導入チャンバ11に供給された直後の重水素ガスが水素透過膜13を透過するので、供給した重水素ガスを効率良く透過させることができる。また、重水素ガス導入管62から重水素ガスを供給している間、導入チャンバ11内の未反応の重水素ガス及び吸着性ガスを重水素ガス循環部64から排気するので、吸着性ガスが水素透過膜13近傍に接近しにくくなり、水素透過膜13表面近傍の吸着性ガス濃度を低下する。さらに、重水素ガス供給中にも吸着性ガスを導入チャンバから排気する。このため、吸着性ガスが水素透過膜13に吸着しにくくなり、重水素ガス透過を安定させることが可能となる。
【0039】
なお、第4実施形態では、水素透過膜13表面の重水素ガス濃度を低下させ、更に、重水素ガス供給の間も導入チャンバ11内のガスを排気するため、第1実施形態乃至第3実施形態のように、導入チャンバ排気部54の導入チャンバ排気配管58及び導入チャンバ排気バルブ59の内径を、50mm以上と大きくする必要はない。例えば1/4インチ管のような細管を適用することもできる。
【0040】
(第5実施形態)
図7は、本発明の第5実施形態に係る水素透過装置の概略図である。本実施形態の水素透過装置70において、重水素ガス循環部71は、バルブ67とマスフローコントローラ66と循環ポンプ75とを備える。循環ポンプ75の排出側に、重水素ガス導入部60のリザーバ74が接続される。リザーバ74は、例えば水素吸蔵合金やボンベなどとされる。リザーバ74は重水素ガス導入管62に接続される。すなわち、本実施形態において、重水素ガス循環部71が重水素ガス導入部60に接続される。
【0041】
水素透過膜13を透過しなかった未反応の重水素ガスは、重水素ガス循環部71により導入チャンバ11から排気される。排気された重水素ガスは、リザーバ74に蓄積される。導入チャンバ11内の重水素ガス圧力が一定となるように、レギュレータ73及びバルブ61,72で調節しながら、リザーバ74から重水素ガス導入管62を通じて導入チャンバ11内に重水素ガスを供給する。このように、第5実施形態の水素透過装置70では、水素透過膜13を透過しなかった重水素ガスを循環させて再び導入チャンバ11内に供給できるので、重水素ガスの利用効率を向上させることができる。この場合、重水素ガス導入管62に重水素ガス精製フィルタ41を設置することにより、重水素ガス循環部71及び重水素ガス導入部64内の吸着性ガスを除去し、導入チャンバ内の吸着性ガス濃度を低下させることができる。
【0042】
第5実施形態においても、導入チャンバ排気部54の導入チャンバ排気配管58及び導入チャンバ排気バルブ59の内径を、第1実施形態乃至第3実施形態のように、50mm以上と大きくする必要はない。
【0043】
なお、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において適宜変更することができる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明の第1実施形態に係る水素透過装置の概略図である。
【図2】本発明の第2実施形態に係る水素透過装置の概略図である。
【図3】本発明の第3実施形態に係る水素透過装置の概略図である。
【図4】第3実施形態の水素透過装置(ICF114の配管及びバルブ)を用いて重水素透過実験を行った場合の重水素ガス透過量の時間経過を表すグラフである。
【図5】内径1/4インチの配管及びバルブを設置した水素透過装置を用いて重水素透過実験を行った場合の重水素ガス透過量の時間経過を表すグラフです。
【図6】本発明の第4実施形態に係る水素透過装置の概略図である。
【図7】本発明の第5実施形態に係る水素透過装置の概略図である。
【符号の説明】
【0045】
10 水素透過装置
11 導入チャンバ
12 透過チャンバ
13 水素透過膜
14 導入チャンバ排気管
15,21 ターボ分子ポンプ
16,22 ドライポンプ
17,23 真空ゲージ
18 配管
19 バルブ
20 透過量計測部
24 配管
25 重水素供給部
26 バルブ
27 重水素ガス供給管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パラジウムまたはパラジウム合金、あるいは、パラジウム以外の水素吸蔵金属またはパラジウム合金以外の水素吸蔵合金と、これらに対して相対的に仕事関数が低い物質とを有する構造体と、核種変換を施す物質を含む核種変換物質層とからなる水素透過膜と、
前記水素透過膜を両側から挟み込むようにして配置され、前記水素透過膜により密封可能な閉空間をなす導入チャンバ及び透過チャンバと、
前記導入チャンバに重水素ガスを導入する重水素ガス導入管を備える重水素ガス導入部と、
前記導入チャンバに接続された導入チャンバ排気配管と、該導入チャンバ排気配管に設置された導入チャンバ排気バルブとを備える導入チャンバ排気部と、
前記透過チャンバに接続された真空ポンプと、該真空ポンプに設置された真空ゲージとを備える透過量計測部、とを備える水素透過装置であって、
前記導入チャンバ排気配管及び前記導入チャンバ排気バルブの内径が、50mm以上であることを特徴とする水素透過装置。
【請求項2】
パラジウムまたはパラジウム合金、あるいは、パラジウム以外の水素吸蔵金属またはパラジウム合金以外の水素吸蔵合金と、これらに対して相対的に仕事関数が低い物質とを有する構造体と、核種変換を施す物質を含む核種変換物質層とからなる水素透過膜と、
前記水素透過膜を両側から挟み込むようにして配置され、前記水素透過膜により密封可能な閉空間をなす導入チャンバ及び透過チャンバと、
前記導入チャンバに重水素ガスを導入する重水素ガス導入管を備える重水素ガス導入部と、
前記導入チャンバに接続された導入チャンバ排気配管と、該導入チャンバ排気配管に設置された導入チャンバ排気バルブとを備える導入チャンバ排気部と、
前記透過チャンバに接続された真空ポンプと、該真空ポンプに設置された真空ゲージとを備える透過量計測部、とを備える水素透過装置であって、
前記重水素ガス導入管の先端が、前記水素透過膜の表面近傍に配置され、
前記導入チャンバ内のガスを前記導入チャンバの外に排出するとともに前記導入チャンバ内の重水素ガスを循環させる重水素ガス循環部が、前記導入チャンバに接続されることを特徴とする水素透過装置。
【請求項3】
前記重水素ガス循環部が、前記重水素ガス導入部に接続されることを特徴とする請求項2に記載の水素透過装置。
【請求項4】
前記導入チャンバ排気部が前記透過量計測部の前記真空ポンプに接続され、かつ、前記導入チャンバ排気配管の長さが、前記透過チャンバと前記真空ポンプとを接続する透過チャンバ排気配管の長さよりも短いことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の水素透過装置。
【請求項5】
前記重水素ガス導入管に、重水素ガス精製フィルタが設置されることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の水素透過装置。
【請求項6】
前記重水素ガスが前記水素透過膜を透過する間に、前記水素透過膜が室温以上100℃以下に保持されることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の水素透過装置。
【請求項7】
前記真空ゲージが、前記透過チャンバ内の重水素ガスの量を計測することを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれか1項に記載の水素透過装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−179495(P2009−179495A)
【公開日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−18201(P2008−18201)
【出願日】平成20年1月29日(2008.1.29)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】