水素透過速度の推定方法、水素製造装置及びその運転方法
【課題】水素透過膜の水素透過速度を精度にて予測することができる方法と、この方法を採用した水素製造装置及びその運転方法を提供する。
【解決手段】1次室に原料ガスを供給し、水素分離膜を透過した水素を2次室から取り出す水素分離プロセスにおける該膜の水素透過速度を推定する方法であって、1次室の水素分圧P1、2次室の水素分圧P2及び温度Tから求まる1次室と2次室との水素の化学ポテンシャル差Δμと、水素透過速度Jとの関係を求めておき、1次室の水素分圧をP’1とし、2次室の水素分圧をP’2としたときの水素透過速度をこの関係から求める。この方法で推定されるJ値との積J・Aが目標水素取出量となるように、1次室及び2次室のガス圧及び温度を制御する。
【解決手段】1次室に原料ガスを供給し、水素分離膜を透過した水素を2次室から取り出す水素分離プロセスにおける該膜の水素透過速度を推定する方法であって、1次室の水素分圧P1、2次室の水素分圧P2及び温度Tから求まる1次室と2次室との水素の化学ポテンシャル差Δμと、水素透過速度Jとの関係を求めておき、1次室の水素分圧をP’1とし、2次室の水素分圧をP’2としたときの水素透過速度をこの関係から求める。この方法で推定されるJ値との積J・Aが目標水素取出量となるように、1次室及び2次室のガス圧及び温度を制御する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は水素の分離膜透過速度を推定する方法と、この方法を利用した水素製造装置及びその運転方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水素含有ガスから水素を選択的に取り出す水素製造装置は、水素ガス燃料等の効率的な製造に有効であり、適している。水素分離膜としては、特開2009−227487(特許文献1)に記載されているように、Pd合金薄膜、Nb合金薄膜、純Nb薄膜などが知られている。
【0003】
特開2006−265076には、水素製造装置に水素含有ガスをコンプレッサーで供給し、膜差圧を0.1〜10気圧、特に1〜5気圧とし、温度を20〜650℃として装置を運転し、水素を膜透過させて分離することが記載されている(第0021段落)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−227487
【特許文献2】特開2006−265076
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般に温度が高くなるほど、また水素製造装置の1次側と2次側との差圧が大きくなるほど水素分離膜を通過する水素透過量が増大するので、水素製造装置への原料ガスの供給圧力や運転温度によって水素透過量が変動する。
【0006】
従来は、低い水素圧力差でも高い水素透過量が得られる水素分離膜の設計方法が無かった。
【0007】
本発明は、後述の通り、水素分離膜の評価の際には、水素透過係数φ及びその元となっているフィックの法則とジーベルツ則を用いるというこれまでの常識を覆し、化学ポテンシャル差を用い、かつ2次室側の水素結合確立を考慮した合金設計によって、従来の方法では不可能であった、低圧力差でも高い水素透過量を得られる高精度な水素分離膜の設計方法を提案するものである。
【0008】
Nb(ニオブ)、V(バナジウム)などの5A族金属は、現在最も広く用いられているPd(パラジウム)系水素透過合金と比較して原材料費が安く、高い水素透過能を有しているが、その高い固溶水素濃度のために水素脆化が起こりやすく、水素透過膜として用いることが困難であった。しかし5A族金属にW(タングステン)などの固溶水素濃度を抑制する元素を添加することで、水素脆化が回避され、大きな水素濃度差を得ることで高い水素透過速度を得ることができ、高い水素透過速度と耐水素脆性の両立が可能な水素分離膜を得ることが出来る。
【0009】
特許文献1には、Nbに固溶水素濃度を抑制する元素を添加することにより、水素脆化を回避するとともに、大きな水素濃度差を得ることで高い水素透過速度を得ることができ、高い水素透過速度と耐水素脆性の両立が可能な水素分離膜を得ることができる水素分離膜及び水素分離法が記載されている。上記の通り、従来、水素分離膜の水素透過能は水素透過係数φ=DK(D:拡散係数、K:ジーベルツ係数)を用いて評価されてきたが、Nb合金の場合、ジーベルツ則が適用できないため、特許文献1ではPCT曲線(圧力組成温度曲線)を用いて温度、圧力条件を定め、水素分離を行っている。この方法は、固溶水素濃度を抑制しつつ、PCT曲線(圧力組成温度曲線)の低圧域からの立ち上がりを高め、勾配の緩やかな領域(水素が安定化して固溶しやすい領域)を、より高い圧力(Nbの場合にはたとえば0.1MPa)に遷移させる手法である。
フィックの法則J=D・ΔC/d(J:流束、D:拡散係数、ΔC:水素濃度の差(フィックの法則ではCはH/Mでは無い)、d:膜厚)はジーベルツ則によってJ=φ・Δ√P/d(P:水素圧力、Δ√P:膜の両側の水素圧力の平方根の差)となり、これまで、Pd合金などで近似的に水素透過量は水素圧力の平方根の差に比例するとされてきたが、試験データから、水素圧力の平方根の差と水素透過速度の比例関係が成り立たないことが明らかになった(第14図(a)参照)。
【0010】
本発明は、水素透過速度はフィックの法則ではなく、化学ポテンシャル差を用いた式J=C1・F・B・Δμ/d(C1:1次室側固溶水素濃度、F:2次室側水素結合確率、B:易動度、Δμ:化学ポテンシャル差)で求めることができ、ポテンシャル差Δμの値は、プロセス側と透過側の水素分圧P(Inlet)及びP(Outlet)を用いて、Δμ=RT/2×ln(P(Inlet)/P(Outlet))のように計算できるため、透過条件(運転条件)から算出可能であるという知見に基づいて、水素分離膜の水素透過速度を高精度にて予測することができる方法と、この方法を採用した水素製造装置及びその運転方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明(請求項1)の水素透過速度の推定方法は、1次室に原料ガスを供給し、水素分離膜を透過した水素を2次室から取り出す水素分離プロセスにおける該膜の水素透過速度を推定する方法において、1次室の水素分圧P1、2次室の水素分圧P2及び温度Tによって定まる1次室と2次室との水素の化学ポテンシャル差Δμと、水素透過速度Jとの関係を求めておき、1次室の水素分圧をP’1とし、2次室の水素分圧をP’2としたときの水素透過速度をこの関係から求める水素透過速度の推定方法であって、水素分離膜の材料と1次室の水素分圧P1、2次室の水素分圧P2及び温度Tによって定まる1次室側の固溶水素濃度C1と、2次室側の水素結合確率FとΔμとの積C1・F・Δμと、水素透過速度Jと水素分離膜の膜厚dとの積J・dとの関係を求めておき、1次室の水素分圧をP’1とし、2次室の水素分圧をP’2としたときのJ・d値をこの関係から求め、このJ・d値から水素透過速度を求めることを特徴とするものである。
【0012】
請求項2の水素透過速度の推定方法は、請求項1において、水素透過速度J(mol・m−2・s−2)の推定値を
J=C1・F・B・(RT/2)・(ln(P’1/P’2))/d
にて算出することを特徴とするものである。
【0013】
ただし、
C1:1次室側固溶水素濃度
B:水素易動度:温度と膜の材料によって定まる定数であって、2次室側の圧力がFの値が1になる十分に高い場合にC1・Δμを横軸にプロットし、J・dを縦軸にプロットしたときの直線の傾きである。
F:2次室側水素結合確率であって、水素結合が水素透過を律速しない圧力領域では1であり、律速する圧力領域では2次室側固溶水素濃度C2を用いてK・C24/9と表すことができる。
K:比例定数
R:気体定数
T:温度(K)
P’1:1次室の水素分圧
P’2:2次室の水素分圧
d:膜厚(m)
【0014】
2次室の圧力が低いときには、水素分離膜を透過してきた水素原子が、水素分離膜表面で結合して水素分子になる水素結合反応が起こりにくくなるため、水素結合反応が律速段階ととなり、水素流速を低下させることを実験的に明らかにした。例えば、Pd−Ag合金では、特に透過側圧力が120kPa以下の時に、J・dとC1・Δμの比例定数は透過側圧力条件が異なると一致せず(14図(c)参照)、水素結合における水素原子の2次室の2次元表面における衝突確立、F=K・C24/9(C2:2次室側固溶水素濃度)を考慮する必要がある。2次室側水素結合確率を考慮し、J・dとC1・C24/9・Δμの関係を調べたところ、比例関係となることが明らかになった。(14図(d)参照)。
【0015】
なお、固溶水素濃度C1,C2としては、体積モル濃度(molH/m3)を用いてもよく、近似的にモル分率(H/(M+H))を用いてもよい。体積モル濃度の算出には、水素の固溶による体積膨張、格子の熱膨張、合金化による格子定数の変化などを考慮して計算する必要があり、また、これらの基礎データを収集しておく必要がある。一方、モル分率はPCT測定で求めた原子比(H/M)から簡単に求められる。
【0016】
この水素分離膜としてはNb、Nb合金、Ta、Ta合金、V、V合金又はPd、Pd合金が適しており、中でもNb又はNb合金膜が好適であるが、これに限定されない。
【0017】
本発明(請求項4)の水素製造装置の運転方法は、水素分離膜で隔てられた1次室及び2次室を有した水素製造装置を運転する方法において、膜面積A(m2)と請求項1ないし3のいずれか1項に記載の方法で推定されるJ値との積J・Aが目標水素取出量となるように、1次室及び2次室のガス圧および温度を制御することを特徴とするものである。
【0018】
この水素製造装置の運転方法において、少なくとも2次室の圧力を大気圧以下としてもよい。1次室の圧力においても、2次室の圧力より高ければ、大気圧以下としてもよい。
【0019】
本発明(請求項6)の水素製造装置は、水素分離膜で隔てられた1次室及び2次室を有した水素製造装置において、膜面積A(m2)と請求項1又ないし3のいずれか1項に記載の方法で推定されるJ値との積J・Aが目標水素取出量となるように、1次室及び2次室のガス圧及び温度を制御するガス圧制御手段及び温度制御手段を備えたことを特徴とするものである。
【0020】
本発明(請求項7)の水素製造装置は、水素分離膜で隔てられた1次室及び2次室を有した水素製造装置において、1次室のガス圧と2次室のガス圧との比が設定値又は設定範囲となるように制御するガス圧制御手段と、温度制御手段とを備えたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0021】
本発明者が種々実験を重ねたところ、水素分離膜の水素透過速度は、1次室と2次室との水素の化学ポテンシャルの差Δμと線形関係、典型的には直線比例関係にあることが認められ、例えば上記式J=C1・F・B・(RT/2)・(ln(P’1/P’2))/dにより高精度にて推定されることが認められた。
【0022】
この推定値は、従来のフィックの法則にジーベルツ則を適用した場合(J=φ・Δ√P/d(Δ√Pは水素分離膜と両側の水素圧力の平方根の差、dは膜厚、φは定数))に比べて高精度にて実測値に合致することが認められた。
【0023】
水素製造装置においては、水素分離膜の材料と膜厚dは個々の装置において定まっているものであるから、水素製造装置の1次側及び2次側のガス圧の比が設定値又は設定範囲となるように1次側及び2次側のガス圧を制御すると共に、水素製造装置の温度を制御することにより、目標とする水素透過速度を得ることができ、目標通りの生産量にて水素製造装置から水素を取り出すことができる。
【0024】
本発明によれば、従来は水素透過量が少なくなると考えられていた低濃度差の条件でも、膜の1次側と2次側とのポテンシャル差が大きくなるように、本発明に従って条件(1次側及び2次側の水素ガス圧)を設定して水素製造装置を運転することにより、高い水素透過量が得られる。従って、本発明によると、必ずしも水素製造装置のプロセス側を圧縮機で高い圧力まで加圧する必要は無くなり、高効率な水素製造装置の設計・製造が可能になる。
【0025】
なお、2次室の圧力を大気圧以下とすることにより、2次室からの水素の漏洩が防止されると共に、相対的に1次室のガス圧も低くて足りるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】水素透過試験用モジュールの断面図である。
【図2】電気炉内に配置された水素透過試験用モジュールを示す概略図である。
【図3】J・d値とC1・C24/9・Δμとの関係を示すグラフである。
【図4】J・d値とC1・C24/9・Δμとの関係を示すグラフである。
【図5】J・d値とC1・C24/9・Δμとの関係を示すグラフである。
【図6】J・d値とC1・C24/9・Δμとの関係を示すグラフである。
【図7】J・d値とC1・C24/9・Δμとの関係を示すグラフである。
【図8】J・d値とC1・C24/9・Δμとの関係を示すグラフである。
【図9】J・d値とC1・C24/9・Δμとの関係を示すグラフである。
【図10】PCT曲線を示すグラフである。
【図11】PCT曲線を示すグラフである。
【図12】PCT曲線を示すグラフである。
【図13】PCT曲線を示すグラフである。
【図14】水素透過特性を説明するためのグラフである。
【図15】水素製造装置のフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明についてさらに詳細に説明する。
【0028】
本発明で用いる水素分離膜としては、Nb、V、Taの5A族金属又はその合金、Pd又はPd合金等が好適であるが、特にNb又はNb合金が好適である。
【0029】
具体的には、純Nb、Nb−W合金(W含有量0.01〜50wt%)、Nb−W−Mo合金(W含有量0.01〜50wt%、Mo含有量0.01〜50wt%)、Nb−Ru合金(Ru含有量0.01〜50wt%)、Ta−W合金(W含有量0.01〜50wt%)、V−W合金(W含有量0.01〜50wt%)、Pd−Ag合金(Ag含有量10〜30wt%)などが例示されるが、これに限定されない。
【0030】
この金属又は合金膜の膜厚は1〜500μm、特に10〜50μm程度が好適であるが、これに限定されない。なお、Pd又はPd合金以外の水素分離膜の場合、膜の両面に、Pd又はPd合金(例えばPd−Ag合金(Ag含有量10〜30wt%))よりなる厚さ数十ないし数百nmの層を形成する。
【0031】
この水素分離膜は、多孔質の支持体や表面に溝を設けた支持板の上に重ね合わされてもよく、多孔質体の表面に成膜されたものであってもよい。多孔質体としては、金属材、セラミック材などのいずれでもよい。
【0032】
水素分離膜を備えた水素製造装置としては、水素分離膜がハウジング、ケーシング又はベッセル等と称される容器内に設置され、水素分離膜で隔てられた1次室と2次室とを有し、必要に応じさらに加熱手段を有するものであれば、特にその構成は限定されない。膜の形態としても、平膜型、円筒型などのいずれの形態であってもよい。
【0033】
この水素製造装置に供給される原料ガスとしては、水素を含むものであればよく、炭化水素の水蒸気改質ガス、燃料電池の燃料オフガス、水素を含むバイオガス、バイオマスガス化炉からの発生ガスなどが例示されるが、これに限定されない。
【0034】
装置の運転温度(具体的には1次側のガス温度)は、膜の組成にもよるが、通常は300〜600℃特に400〜550℃程度とされる。
【0035】
1次側のガス圧P1は0.1〜4.0MPa特に0.5〜0.9MPa程度が実用的であるが、これに限定されない。2次側のガス圧P2は、目標とする水素透過速度が得られるように1次圧P1を勘案して定められるのが好ましい。なお、2次側のガス圧を大気圧以下としてもよい。このようにすれば、2次側からの水素のリークが防止されると共に、相対的に1次圧P1も低くて足りるようになる。
【0036】
本発明の水素透過速度の推定方法では、1次室に原料ガスを供給し、2次室から水素を取り出す際の膜の水素透過速度を推定する。
【0037】
この推定方法を知見する基となった実験データについては後の実施例1〜7及び第3図〜第9図に示されている。第3図〜第9図は、純Nb膜又は各種合金膜を第1,2図に示す水素透過試験用モジュールに組み込み、温度と1次室および2次室のガス圧を種々変えて水素透過速度を測定したときの水素透過速度Jと水素分離膜の膜厚dの積J・dと、固溶水素濃度C1と2次室側の水素結合確率Fの変数C24/9と化学ポテンシャルΔμの積C1・C24/9・Δμとの関係を示すグラフである。
【0038】
まず、第1,2図を参照して水素透過試験用モジュールの構造について説明する。
【0039】
この水素透過試験用モジュール1は、ガス導入管2の後端面とガス取出管6の前端面との間にガスケット3,5を介して水素分離膜4を配置したものである。導入管2にはナット7が外嵌しており、取出管6の先端のフランジ部6aにはキャップナット8が係合している。
【0040】
該キャップナット8を導入管2側に延出させ、その内周面の雌ねじに対しナット7の外周面の雄ねじを螺合させる。ナット7の先端が導入管2の後端のフランジ部2aに当接することにより、キャップナット8を介して取出管6が導入管2側に引き付けられ、導入管2の後端面と取出管6の前端面との間でガスケット3,5を介して水素分離膜4が挟圧される。
【0041】
ガスケット3,5は、同一大きさの円環状であり、その内孔の面積が水素分離膜4の膜透過面積Aとなる。キャップナット8には、ガスのリークテスト用の小孔8aが設けられている。
【0042】
後述の実施例で用いたモジュールではガスケットの内孔は5.6mmであるが、VCRで締め付けられた場合のガスケットと膜試料との接触部の直径は7.1mmであり、有効膜透過面積Aは39.6mm2(3.96×10−5m2)である。
【0043】
この水素透過試験用モジュール1が第2図の通り電気炉10内に設置され、導入管2に原料ガスが供給され、取出管6から水素ガスが取り出される。
【0044】
導入管2及び取出管6内のガス圧はそれぞれ圧力センサ(図示略)によって検出される。なお、このガス圧は圧力調節弁などによって制御される。
【0045】
原料ガスとしては、純度99.99999%以上の高純度水素を用いた。膜4を透過した水素ガスは回収容器(図示略)に回収した。
【0046】
各実施例1〜7において詳述されている通り、炉10内の温度と、1次側原料ガス圧P1及び2次側ガス圧P2を種々変えて水素透過速度Jと水素分離膜4の膜厚dとの積J・dを縦軸にプロットし、水素透過膜4を構成する金属又は合金の固溶水素濃度C1と2次室側の水素結合確率Fの変数C24/9と1次側と2次側との水素の化学ポテンシャルの差Δμとの積C1・C24/9・Δμを横軸にプロットしたところ、第3図〜第9図の通り、両者の間に直線関係が存在することが認められた。なお、
Δμ=(RT/2)・ln(P1/P2)
である。このように、Δμが圧力比の対数の関数で標記されるため、低い圧力条件下でも大きなΔμを実現することが可能である。
【0047】
固溶水素濃度C1,C2は、第10図〜第13図に示すPCT測定の実測値から求めることができる。この固溶水素濃度は、膜組成と温度及び圧力とによって一義的に定まる値である。
【0048】
なお、固溶水素濃度C1,C2としては、体積モル濃度(molH/m3)を用いてもよく、近似的にモル分率(H/(M+H))を用いてもよい。体積モル濃度の算出には、水素の固溶による体積膨張、格子の熱膨張、合金化による格子定数の変化などを考慮して計算する必要があり、また、これらの基礎データを収集しておく必要がある。一方、モル分率はPCT測定で求めた原子比(H/M)から簡単に求められる。
【0049】
第3図〜第9図に示す通り、J・dとC1・C24/9・Δμとの間に直線関係が存在するところから、比例定数Bを用いて
J・d=C1・C24/9・K・B・Δμ
と表わすことができる。2次室側水素濃度が高く水素結合が水素透過を律速しない圧力領域ではF=1となり、この式の左右両辺をdで除することにより、水素透過速度Jを表わす式
J=C1・B・Δμ/d
が得られる。Bは各グラフ(第3図〜第9図)の直線の傾き(勾配)を表わす定数であり、各膜における水素原子の移動し易さを表わすものであるので、「易動度」と称することができる。この易動度Bは膜組成と温度によって一義的に定まる値である。
【0050】
2次室側水素濃度が高く水素結合が水素透過を律速しない圧力領域において、J・dとC1・Δμの直線関係を予め求めておくことにより、各温度におけるB値が求まり、
J=C1・B・Δμ/d
=C1・B・(RT/2)・ln(P1/P2)/d
にC1値、B値、T値及びP1/P2値を代入して計算することによりJが計算される。
【0051】
このようにして求めたJ値に膜面積Aを乗算することにより、水素製造装置の運転温度Tにおける単位時間当りの水素製造量を計算することができる。
【0052】
なお、本発明では、このようにB値及びC1値を予め決定しておくことなく、P1/P2値から水素透過速度Jを直接的に求めることも可能である。
【0053】
即ち、第3図〜第9図の通り、C1・C24/9・ΔμとJ・dとの間には直線関係があり、この直線の勾配は水素製造装置の温度によって定まる。
【0054】
そのため、水素分離膜4の材料毎に所定の温度刻みで第3図〜第9図に示すC1・C24/9・ΔμとJ・dとの関係を求めておく。一方、P1/P2の値から化学ポテンシャル差Δμ=(RT/2)・ln(P1/P2)を算出し、このΔμと、温度Tにおける第3図〜第9図に示す直線関係とからJ・dを求める。d値(膜厚)は既知であるから、このJ・d値をdで除算することにより水素透過速度J(mol・m−2・s−1)が求まる。
【0055】
また、このJ値に膜面積Aを乗じることにより、単位時間当りの水素製造量を予知することができる。
【0056】
なお、第3図〜第9図に示すJ・d値とC1・C24/9・Δμの関係をコンピュータのメモリに蓄えておき、P1/P2値又はP1値とP2値とをコンピュータに入力してJ値を演算し、出力させるようにしてもよい。
【0057】
また、目標水素製造量を得るための温度、P1値及びP2値(又はP1/P2値)をコンピュータのメモリに記憶させておき、目標水素製造量となるように温度、P1値及びP2値(又はP1/P2値)を制御してもよい。
【0058】
第3図(Nb)の場合では、温度Tは20K刻みであり、第4図〜第6図(Nb合金)の場合では温度Tは50K刻みであるが、この刻み幅を細かくすれば、より精度の高い水素透過速度の推定が可能である。刻み幅の間の温度の場合、例えば純Nb膜で703Kの場合は693Kと713Kの値から案分して直線の勾配又はJ・d値を近似計算すればよい。また、第3図〜第6図に示すグラフの各直線の傾きB(易動度)を縦軸にプロットし、第3図〜第6図においてパラメータとなっている各温度(K)の逆数を横軸にプロット(アレニウスプロット)するとほぼ直線関係が得られる。このように易動度と温度との間の関係を指数関数で近似できるため、その近似式より特定の温度に対する易動度を算出し、c・Δμと積算することによりJ・dを算出することができる。このように、定量的に未知の温度でのJ・d値を算出することができる。
【0059】
刻み幅を細かくしておけば、勾配値又はJ・d値を案分計算なしに求めたり、高精度にて近似計算することができる。
【0060】
本発明において、水素製造装置の構成、構造は特に限定されるものではない。本発明において採用することができる水素製造装置の構成例を第15図(a),(b),(c)に示す。
【0061】
第15図(a)では、炭化水素等の原料ガスを圧縮機21で圧縮して水素分離型改質器22に供給する。この水素分離型改質器22は、水素改質触媒と水素分離膜とを備えている。この水素分離型改質器22には、ボイラ24からスチームが供給されると共に、燃焼器23によって熱が与えられ、改質と水素分離とが行われる。水素分離型改質器22からの水素は熱交換器25を介して取り出される。オフガスは、熱交換器26で熱回収された後、圧力調整弁29を介して燃焼器23へ供給される。燃焼器23及びボイラ24の燃焼排ガスからもそれぞれ熱が熱交換器27,28で回収される。熱交換器25〜28で回収された熱により、ボイラ24への給水や燃焼用空気、燃料などの加熱が行われる。
【0062】
第15図(b)では、水素ガスを含んだ水素含有ガスが水素分離器31に供給され、この水素分離器31が燃焼器32によって加熱される。分離された水素は熱交換器33を介して取り出される。オフガスは熱交換器34を介して取り出され、必要に応じ、その一部又は全量が圧力調整弁36を介して燃焼器32に供給される。燃焼排ガスの熱は熱交換器35で回収される。回収された熱により、燃焼器32への燃料ガスや空気が加熱される。
【0063】
第15図(b)では燃焼器32を用いているが、高温廃熱を発生させる熱源が存在する場合には、第15図(c)のように、この高温廃熱を加熱器37に導き、水素分離器31を加熱するようにしてもよい。
【実施例】
【0064】
以下、実施例1〜7について説明する。
【0065】
〔実施例1(純Nb膜)〕
第1,2図に示す水素透過試験用モジュールにおいて、水素分離膜4として純Nb(純度3N以上)よりなる厚さd=0.5mmのものを用いた。
【0066】
炉10内の温度を693K、713K、733K、753K又は773Kとし、1次側水素分圧P1及び2次側水素分圧P2を種々変更させ、単位時間当り水素透過量Q(mol/s)を測定し、このQ値を膜面積A(m2)で除して単位膜面積当りの水素透過速度J(mol・m−2.s−1)を求めた。
【0067】
また、各温度において、各P1/P2値に基づいて1次側と2次側との水素の化学ポテンシャル差Δμ=RT/2・ln(P1/P2)を計算し、また図10のPCT曲線の結果から1次室側および2次室側の固溶水素濃度C1およびC2を求め、このC1・C24/9・ΔμとJ・d値とをプロットして第3図に示した。
【0068】
なお、第3図(a)は、固溶水素濃度C1,C2として体積モル濃度(molH/m3)を用いたものである。C1・C24/9・Δμを横軸にプロットし、J・dを縦軸にプロットしたとき、これらの値は比例関係を示し、直線の傾きが易動度を示す。第3図(b)は、固溶水素濃度C1,C2としてモル分率(H/(M+H))を用いたものである。第3図(a)と同様にC1・C24/9・ΔμとJ・dは近似的に比例関係を示し、固溶水素濃度としてモル分率を用いてもJ・d値を推定することが可能であることが分かる。モル分率を用いる方法は、複雑な計算を必要とする体積モル濃度(molH/m3)を用いる場合と比較して簡便であり、工業的に有用である。従って、後述の実施例2〜7においては、固溶水素濃度C1,C2としてモル分率を用いる。
【0069】
第3図の通り、C1・C24/9・ΔμとJ・dとの間には直線関係があり、直線の勾配は温度によって異なること(即ち、温度がパラメータとなっていること)、この勾配は温度Tが高くなるほど大きくなることが認められた。
【0070】
従って、各温度毎に第3図に示す関係を求めておくと、T値及びP1/P2の値から演算されるΔμと、第3図の直線関係とからJ・d値が求まる。d値(膜厚)は既知であるから、このJ・d値をd値で除算することにより水素透過速度J(mol・m−2.s−1)が求まり、このJ値に膜面積Aを乗じることにより、運転温度をTとし、1次側及び2次側の圧力をP1,P2とした運転条件下における単位時間当りの水素製造量を高精度にて推定することができることが明らかとなった。
【0071】
[実施例2〜7]
水素分離膜としてNb−5Ru膜(実施例2)、Nb−5W膜(実施例3)、Nb−5W−5Mo膜(実施例4)、Ta−5W膜(実施例5)、V−5W膜(実施例6)又はPd−26Ag膜(実施例7)を用い、温度を各図に記入の通りとした他は実施例1と同様の試験を行った。J・d値とC1・C24/9・Δμ値との関係を第4図〜第9図に示す。
【0072】
なお、各合金の固溶水素濃度C1,C2値については、実測値を用いた。第10図〜第13図に、純Nb、Nb−5Ru、Nb−5W及びNb−5W−5Moの圧力(P)、固溶水素濃度(C)及び温度(T)の関係(PCT曲線)を示す。
【0073】
第4図〜第9図の通り、実施例2〜7の場合もJ・d値とC1・C24/9・Δμ値との間に直線関係が存在することが認められる。また、第3図〜第6図の通り、直線の勾配は温度Tが高いほど大きくなる。
【0074】
従って、各水素分離膜について、温度を異ならせて第3図〜第9図に示す関係を求めておくことにより、T値及びP1/P2値から演算されるΔμと、第3図〜第9図の直線関係とからJ・d値が求まる。そして、このJ・d値をd値で除算して水素透過速度J(mol・m−2.s−1)を求め、このJ値に膜面積Aを乗じることにより、運転温度をTとし、1次側及び2次側の圧力をP1,P2とした運転条件下における単位時間当りの水素製造量を高精度にて推定することができる。
【符号の説明】
【0075】
1 水素透過試験用モジュール
2 ガス導入管
3,5 ガスケット
4 水素分離膜
6 ガス取出管
7 ナット
8 キャップナット
10 電気炉
21 圧縮機
22 水素分離型改質器
25〜28,33〜35 熱交換器
31 水素分離器
【技術分野】
【0001】
本発明は水素の分離膜透過速度を推定する方法と、この方法を利用した水素製造装置及びその運転方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水素含有ガスから水素を選択的に取り出す水素製造装置は、水素ガス燃料等の効率的な製造に有効であり、適している。水素分離膜としては、特開2009−227487(特許文献1)に記載されているように、Pd合金薄膜、Nb合金薄膜、純Nb薄膜などが知られている。
【0003】
特開2006−265076には、水素製造装置に水素含有ガスをコンプレッサーで供給し、膜差圧を0.1〜10気圧、特に1〜5気圧とし、温度を20〜650℃として装置を運転し、水素を膜透過させて分離することが記載されている(第0021段落)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−227487
【特許文献2】特開2006−265076
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般に温度が高くなるほど、また水素製造装置の1次側と2次側との差圧が大きくなるほど水素分離膜を通過する水素透過量が増大するので、水素製造装置への原料ガスの供給圧力や運転温度によって水素透過量が変動する。
【0006】
従来は、低い水素圧力差でも高い水素透過量が得られる水素分離膜の設計方法が無かった。
【0007】
本発明は、後述の通り、水素分離膜の評価の際には、水素透過係数φ及びその元となっているフィックの法則とジーベルツ則を用いるというこれまでの常識を覆し、化学ポテンシャル差を用い、かつ2次室側の水素結合確立を考慮した合金設計によって、従来の方法では不可能であった、低圧力差でも高い水素透過量を得られる高精度な水素分離膜の設計方法を提案するものである。
【0008】
Nb(ニオブ)、V(バナジウム)などの5A族金属は、現在最も広く用いられているPd(パラジウム)系水素透過合金と比較して原材料費が安く、高い水素透過能を有しているが、その高い固溶水素濃度のために水素脆化が起こりやすく、水素透過膜として用いることが困難であった。しかし5A族金属にW(タングステン)などの固溶水素濃度を抑制する元素を添加することで、水素脆化が回避され、大きな水素濃度差を得ることで高い水素透過速度を得ることができ、高い水素透過速度と耐水素脆性の両立が可能な水素分離膜を得ることが出来る。
【0009】
特許文献1には、Nbに固溶水素濃度を抑制する元素を添加することにより、水素脆化を回避するとともに、大きな水素濃度差を得ることで高い水素透過速度を得ることができ、高い水素透過速度と耐水素脆性の両立が可能な水素分離膜を得ることができる水素分離膜及び水素分離法が記載されている。上記の通り、従来、水素分離膜の水素透過能は水素透過係数φ=DK(D:拡散係数、K:ジーベルツ係数)を用いて評価されてきたが、Nb合金の場合、ジーベルツ則が適用できないため、特許文献1ではPCT曲線(圧力組成温度曲線)を用いて温度、圧力条件を定め、水素分離を行っている。この方法は、固溶水素濃度を抑制しつつ、PCT曲線(圧力組成温度曲線)の低圧域からの立ち上がりを高め、勾配の緩やかな領域(水素が安定化して固溶しやすい領域)を、より高い圧力(Nbの場合にはたとえば0.1MPa)に遷移させる手法である。
フィックの法則J=D・ΔC/d(J:流束、D:拡散係数、ΔC:水素濃度の差(フィックの法則ではCはH/Mでは無い)、d:膜厚)はジーベルツ則によってJ=φ・Δ√P/d(P:水素圧力、Δ√P:膜の両側の水素圧力の平方根の差)となり、これまで、Pd合金などで近似的に水素透過量は水素圧力の平方根の差に比例するとされてきたが、試験データから、水素圧力の平方根の差と水素透過速度の比例関係が成り立たないことが明らかになった(第14図(a)参照)。
【0010】
本発明は、水素透過速度はフィックの法則ではなく、化学ポテンシャル差を用いた式J=C1・F・B・Δμ/d(C1:1次室側固溶水素濃度、F:2次室側水素結合確率、B:易動度、Δμ:化学ポテンシャル差)で求めることができ、ポテンシャル差Δμの値は、プロセス側と透過側の水素分圧P(Inlet)及びP(Outlet)を用いて、Δμ=RT/2×ln(P(Inlet)/P(Outlet))のように計算できるため、透過条件(運転条件)から算出可能であるという知見に基づいて、水素分離膜の水素透過速度を高精度にて予測することができる方法と、この方法を採用した水素製造装置及びその運転方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明(請求項1)の水素透過速度の推定方法は、1次室に原料ガスを供給し、水素分離膜を透過した水素を2次室から取り出す水素分離プロセスにおける該膜の水素透過速度を推定する方法において、1次室の水素分圧P1、2次室の水素分圧P2及び温度Tによって定まる1次室と2次室との水素の化学ポテンシャル差Δμと、水素透過速度Jとの関係を求めておき、1次室の水素分圧をP’1とし、2次室の水素分圧をP’2としたときの水素透過速度をこの関係から求める水素透過速度の推定方法であって、水素分離膜の材料と1次室の水素分圧P1、2次室の水素分圧P2及び温度Tによって定まる1次室側の固溶水素濃度C1と、2次室側の水素結合確率FとΔμとの積C1・F・Δμと、水素透過速度Jと水素分離膜の膜厚dとの積J・dとの関係を求めておき、1次室の水素分圧をP’1とし、2次室の水素分圧をP’2としたときのJ・d値をこの関係から求め、このJ・d値から水素透過速度を求めることを特徴とするものである。
【0012】
請求項2の水素透過速度の推定方法は、請求項1において、水素透過速度J(mol・m−2・s−2)の推定値を
J=C1・F・B・(RT/2)・(ln(P’1/P’2))/d
にて算出することを特徴とするものである。
【0013】
ただし、
C1:1次室側固溶水素濃度
B:水素易動度:温度と膜の材料によって定まる定数であって、2次室側の圧力がFの値が1になる十分に高い場合にC1・Δμを横軸にプロットし、J・dを縦軸にプロットしたときの直線の傾きである。
F:2次室側水素結合確率であって、水素結合が水素透過を律速しない圧力領域では1であり、律速する圧力領域では2次室側固溶水素濃度C2を用いてK・C24/9と表すことができる。
K:比例定数
R:気体定数
T:温度(K)
P’1:1次室の水素分圧
P’2:2次室の水素分圧
d:膜厚(m)
【0014】
2次室の圧力が低いときには、水素分離膜を透過してきた水素原子が、水素分離膜表面で結合して水素分子になる水素結合反応が起こりにくくなるため、水素結合反応が律速段階ととなり、水素流速を低下させることを実験的に明らかにした。例えば、Pd−Ag合金では、特に透過側圧力が120kPa以下の時に、J・dとC1・Δμの比例定数は透過側圧力条件が異なると一致せず(14図(c)参照)、水素結合における水素原子の2次室の2次元表面における衝突確立、F=K・C24/9(C2:2次室側固溶水素濃度)を考慮する必要がある。2次室側水素結合確率を考慮し、J・dとC1・C24/9・Δμの関係を調べたところ、比例関係となることが明らかになった。(14図(d)参照)。
【0015】
なお、固溶水素濃度C1,C2としては、体積モル濃度(molH/m3)を用いてもよく、近似的にモル分率(H/(M+H))を用いてもよい。体積モル濃度の算出には、水素の固溶による体積膨張、格子の熱膨張、合金化による格子定数の変化などを考慮して計算する必要があり、また、これらの基礎データを収集しておく必要がある。一方、モル分率はPCT測定で求めた原子比(H/M)から簡単に求められる。
【0016】
この水素分離膜としてはNb、Nb合金、Ta、Ta合金、V、V合金又はPd、Pd合金が適しており、中でもNb又はNb合金膜が好適であるが、これに限定されない。
【0017】
本発明(請求項4)の水素製造装置の運転方法は、水素分離膜で隔てられた1次室及び2次室を有した水素製造装置を運転する方法において、膜面積A(m2)と請求項1ないし3のいずれか1項に記載の方法で推定されるJ値との積J・Aが目標水素取出量となるように、1次室及び2次室のガス圧および温度を制御することを特徴とするものである。
【0018】
この水素製造装置の運転方法において、少なくとも2次室の圧力を大気圧以下としてもよい。1次室の圧力においても、2次室の圧力より高ければ、大気圧以下としてもよい。
【0019】
本発明(請求項6)の水素製造装置は、水素分離膜で隔てられた1次室及び2次室を有した水素製造装置において、膜面積A(m2)と請求項1又ないし3のいずれか1項に記載の方法で推定されるJ値との積J・Aが目標水素取出量となるように、1次室及び2次室のガス圧及び温度を制御するガス圧制御手段及び温度制御手段を備えたことを特徴とするものである。
【0020】
本発明(請求項7)の水素製造装置は、水素分離膜で隔てられた1次室及び2次室を有した水素製造装置において、1次室のガス圧と2次室のガス圧との比が設定値又は設定範囲となるように制御するガス圧制御手段と、温度制御手段とを備えたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0021】
本発明者が種々実験を重ねたところ、水素分離膜の水素透過速度は、1次室と2次室との水素の化学ポテンシャルの差Δμと線形関係、典型的には直線比例関係にあることが認められ、例えば上記式J=C1・F・B・(RT/2)・(ln(P’1/P’2))/dにより高精度にて推定されることが認められた。
【0022】
この推定値は、従来のフィックの法則にジーベルツ則を適用した場合(J=φ・Δ√P/d(Δ√Pは水素分離膜と両側の水素圧力の平方根の差、dは膜厚、φは定数))に比べて高精度にて実測値に合致することが認められた。
【0023】
水素製造装置においては、水素分離膜の材料と膜厚dは個々の装置において定まっているものであるから、水素製造装置の1次側及び2次側のガス圧の比が設定値又は設定範囲となるように1次側及び2次側のガス圧を制御すると共に、水素製造装置の温度を制御することにより、目標とする水素透過速度を得ることができ、目標通りの生産量にて水素製造装置から水素を取り出すことができる。
【0024】
本発明によれば、従来は水素透過量が少なくなると考えられていた低濃度差の条件でも、膜の1次側と2次側とのポテンシャル差が大きくなるように、本発明に従って条件(1次側及び2次側の水素ガス圧)を設定して水素製造装置を運転することにより、高い水素透過量が得られる。従って、本発明によると、必ずしも水素製造装置のプロセス側を圧縮機で高い圧力まで加圧する必要は無くなり、高効率な水素製造装置の設計・製造が可能になる。
【0025】
なお、2次室の圧力を大気圧以下とすることにより、2次室からの水素の漏洩が防止されると共に、相対的に1次室のガス圧も低くて足りるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】水素透過試験用モジュールの断面図である。
【図2】電気炉内に配置された水素透過試験用モジュールを示す概略図である。
【図3】J・d値とC1・C24/9・Δμとの関係を示すグラフである。
【図4】J・d値とC1・C24/9・Δμとの関係を示すグラフである。
【図5】J・d値とC1・C24/9・Δμとの関係を示すグラフである。
【図6】J・d値とC1・C24/9・Δμとの関係を示すグラフである。
【図7】J・d値とC1・C24/9・Δμとの関係を示すグラフである。
【図8】J・d値とC1・C24/9・Δμとの関係を示すグラフである。
【図9】J・d値とC1・C24/9・Δμとの関係を示すグラフである。
【図10】PCT曲線を示すグラフである。
【図11】PCT曲線を示すグラフである。
【図12】PCT曲線を示すグラフである。
【図13】PCT曲線を示すグラフである。
【図14】水素透過特性を説明するためのグラフである。
【図15】水素製造装置のフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明についてさらに詳細に説明する。
【0028】
本発明で用いる水素分離膜としては、Nb、V、Taの5A族金属又はその合金、Pd又はPd合金等が好適であるが、特にNb又はNb合金が好適である。
【0029】
具体的には、純Nb、Nb−W合金(W含有量0.01〜50wt%)、Nb−W−Mo合金(W含有量0.01〜50wt%、Mo含有量0.01〜50wt%)、Nb−Ru合金(Ru含有量0.01〜50wt%)、Ta−W合金(W含有量0.01〜50wt%)、V−W合金(W含有量0.01〜50wt%)、Pd−Ag合金(Ag含有量10〜30wt%)などが例示されるが、これに限定されない。
【0030】
この金属又は合金膜の膜厚は1〜500μm、特に10〜50μm程度が好適であるが、これに限定されない。なお、Pd又はPd合金以外の水素分離膜の場合、膜の両面に、Pd又はPd合金(例えばPd−Ag合金(Ag含有量10〜30wt%))よりなる厚さ数十ないし数百nmの層を形成する。
【0031】
この水素分離膜は、多孔質の支持体や表面に溝を設けた支持板の上に重ね合わされてもよく、多孔質体の表面に成膜されたものであってもよい。多孔質体としては、金属材、セラミック材などのいずれでもよい。
【0032】
水素分離膜を備えた水素製造装置としては、水素分離膜がハウジング、ケーシング又はベッセル等と称される容器内に設置され、水素分離膜で隔てられた1次室と2次室とを有し、必要に応じさらに加熱手段を有するものであれば、特にその構成は限定されない。膜の形態としても、平膜型、円筒型などのいずれの形態であってもよい。
【0033】
この水素製造装置に供給される原料ガスとしては、水素を含むものであればよく、炭化水素の水蒸気改質ガス、燃料電池の燃料オフガス、水素を含むバイオガス、バイオマスガス化炉からの発生ガスなどが例示されるが、これに限定されない。
【0034】
装置の運転温度(具体的には1次側のガス温度)は、膜の組成にもよるが、通常は300〜600℃特に400〜550℃程度とされる。
【0035】
1次側のガス圧P1は0.1〜4.0MPa特に0.5〜0.9MPa程度が実用的であるが、これに限定されない。2次側のガス圧P2は、目標とする水素透過速度が得られるように1次圧P1を勘案して定められるのが好ましい。なお、2次側のガス圧を大気圧以下としてもよい。このようにすれば、2次側からの水素のリークが防止されると共に、相対的に1次圧P1も低くて足りるようになる。
【0036】
本発明の水素透過速度の推定方法では、1次室に原料ガスを供給し、2次室から水素を取り出す際の膜の水素透過速度を推定する。
【0037】
この推定方法を知見する基となった実験データについては後の実施例1〜7及び第3図〜第9図に示されている。第3図〜第9図は、純Nb膜又は各種合金膜を第1,2図に示す水素透過試験用モジュールに組み込み、温度と1次室および2次室のガス圧を種々変えて水素透過速度を測定したときの水素透過速度Jと水素分離膜の膜厚dの積J・dと、固溶水素濃度C1と2次室側の水素結合確率Fの変数C24/9と化学ポテンシャルΔμの積C1・C24/9・Δμとの関係を示すグラフである。
【0038】
まず、第1,2図を参照して水素透過試験用モジュールの構造について説明する。
【0039】
この水素透過試験用モジュール1は、ガス導入管2の後端面とガス取出管6の前端面との間にガスケット3,5を介して水素分離膜4を配置したものである。導入管2にはナット7が外嵌しており、取出管6の先端のフランジ部6aにはキャップナット8が係合している。
【0040】
該キャップナット8を導入管2側に延出させ、その内周面の雌ねじに対しナット7の外周面の雄ねじを螺合させる。ナット7の先端が導入管2の後端のフランジ部2aに当接することにより、キャップナット8を介して取出管6が導入管2側に引き付けられ、導入管2の後端面と取出管6の前端面との間でガスケット3,5を介して水素分離膜4が挟圧される。
【0041】
ガスケット3,5は、同一大きさの円環状であり、その内孔の面積が水素分離膜4の膜透過面積Aとなる。キャップナット8には、ガスのリークテスト用の小孔8aが設けられている。
【0042】
後述の実施例で用いたモジュールではガスケットの内孔は5.6mmであるが、VCRで締め付けられた場合のガスケットと膜試料との接触部の直径は7.1mmであり、有効膜透過面積Aは39.6mm2(3.96×10−5m2)である。
【0043】
この水素透過試験用モジュール1が第2図の通り電気炉10内に設置され、導入管2に原料ガスが供給され、取出管6から水素ガスが取り出される。
【0044】
導入管2及び取出管6内のガス圧はそれぞれ圧力センサ(図示略)によって検出される。なお、このガス圧は圧力調節弁などによって制御される。
【0045】
原料ガスとしては、純度99.99999%以上の高純度水素を用いた。膜4を透過した水素ガスは回収容器(図示略)に回収した。
【0046】
各実施例1〜7において詳述されている通り、炉10内の温度と、1次側原料ガス圧P1及び2次側ガス圧P2を種々変えて水素透過速度Jと水素分離膜4の膜厚dとの積J・dを縦軸にプロットし、水素透過膜4を構成する金属又は合金の固溶水素濃度C1と2次室側の水素結合確率Fの変数C24/9と1次側と2次側との水素の化学ポテンシャルの差Δμとの積C1・C24/9・Δμを横軸にプロットしたところ、第3図〜第9図の通り、両者の間に直線関係が存在することが認められた。なお、
Δμ=(RT/2)・ln(P1/P2)
である。このように、Δμが圧力比の対数の関数で標記されるため、低い圧力条件下でも大きなΔμを実現することが可能である。
【0047】
固溶水素濃度C1,C2は、第10図〜第13図に示すPCT測定の実測値から求めることができる。この固溶水素濃度は、膜組成と温度及び圧力とによって一義的に定まる値である。
【0048】
なお、固溶水素濃度C1,C2としては、体積モル濃度(molH/m3)を用いてもよく、近似的にモル分率(H/(M+H))を用いてもよい。体積モル濃度の算出には、水素の固溶による体積膨張、格子の熱膨張、合金化による格子定数の変化などを考慮して計算する必要があり、また、これらの基礎データを収集しておく必要がある。一方、モル分率はPCT測定で求めた原子比(H/M)から簡単に求められる。
【0049】
第3図〜第9図に示す通り、J・dとC1・C24/9・Δμとの間に直線関係が存在するところから、比例定数Bを用いて
J・d=C1・C24/9・K・B・Δμ
と表わすことができる。2次室側水素濃度が高く水素結合が水素透過を律速しない圧力領域ではF=1となり、この式の左右両辺をdで除することにより、水素透過速度Jを表わす式
J=C1・B・Δμ/d
が得られる。Bは各グラフ(第3図〜第9図)の直線の傾き(勾配)を表わす定数であり、各膜における水素原子の移動し易さを表わすものであるので、「易動度」と称することができる。この易動度Bは膜組成と温度によって一義的に定まる値である。
【0050】
2次室側水素濃度が高く水素結合が水素透過を律速しない圧力領域において、J・dとC1・Δμの直線関係を予め求めておくことにより、各温度におけるB値が求まり、
J=C1・B・Δμ/d
=C1・B・(RT/2)・ln(P1/P2)/d
にC1値、B値、T値及びP1/P2値を代入して計算することによりJが計算される。
【0051】
このようにして求めたJ値に膜面積Aを乗算することにより、水素製造装置の運転温度Tにおける単位時間当りの水素製造量を計算することができる。
【0052】
なお、本発明では、このようにB値及びC1値を予め決定しておくことなく、P1/P2値から水素透過速度Jを直接的に求めることも可能である。
【0053】
即ち、第3図〜第9図の通り、C1・C24/9・ΔμとJ・dとの間には直線関係があり、この直線の勾配は水素製造装置の温度によって定まる。
【0054】
そのため、水素分離膜4の材料毎に所定の温度刻みで第3図〜第9図に示すC1・C24/9・ΔμとJ・dとの関係を求めておく。一方、P1/P2の値から化学ポテンシャル差Δμ=(RT/2)・ln(P1/P2)を算出し、このΔμと、温度Tにおける第3図〜第9図に示す直線関係とからJ・dを求める。d値(膜厚)は既知であるから、このJ・d値をdで除算することにより水素透過速度J(mol・m−2・s−1)が求まる。
【0055】
また、このJ値に膜面積Aを乗じることにより、単位時間当りの水素製造量を予知することができる。
【0056】
なお、第3図〜第9図に示すJ・d値とC1・C24/9・Δμの関係をコンピュータのメモリに蓄えておき、P1/P2値又はP1値とP2値とをコンピュータに入力してJ値を演算し、出力させるようにしてもよい。
【0057】
また、目標水素製造量を得るための温度、P1値及びP2値(又はP1/P2値)をコンピュータのメモリに記憶させておき、目標水素製造量となるように温度、P1値及びP2値(又はP1/P2値)を制御してもよい。
【0058】
第3図(Nb)の場合では、温度Tは20K刻みであり、第4図〜第6図(Nb合金)の場合では温度Tは50K刻みであるが、この刻み幅を細かくすれば、より精度の高い水素透過速度の推定が可能である。刻み幅の間の温度の場合、例えば純Nb膜で703Kの場合は693Kと713Kの値から案分して直線の勾配又はJ・d値を近似計算すればよい。また、第3図〜第6図に示すグラフの各直線の傾きB(易動度)を縦軸にプロットし、第3図〜第6図においてパラメータとなっている各温度(K)の逆数を横軸にプロット(アレニウスプロット)するとほぼ直線関係が得られる。このように易動度と温度との間の関係を指数関数で近似できるため、その近似式より特定の温度に対する易動度を算出し、c・Δμと積算することによりJ・dを算出することができる。このように、定量的に未知の温度でのJ・d値を算出することができる。
【0059】
刻み幅を細かくしておけば、勾配値又はJ・d値を案分計算なしに求めたり、高精度にて近似計算することができる。
【0060】
本発明において、水素製造装置の構成、構造は特に限定されるものではない。本発明において採用することができる水素製造装置の構成例を第15図(a),(b),(c)に示す。
【0061】
第15図(a)では、炭化水素等の原料ガスを圧縮機21で圧縮して水素分離型改質器22に供給する。この水素分離型改質器22は、水素改質触媒と水素分離膜とを備えている。この水素分離型改質器22には、ボイラ24からスチームが供給されると共に、燃焼器23によって熱が与えられ、改質と水素分離とが行われる。水素分離型改質器22からの水素は熱交換器25を介して取り出される。オフガスは、熱交換器26で熱回収された後、圧力調整弁29を介して燃焼器23へ供給される。燃焼器23及びボイラ24の燃焼排ガスからもそれぞれ熱が熱交換器27,28で回収される。熱交換器25〜28で回収された熱により、ボイラ24への給水や燃焼用空気、燃料などの加熱が行われる。
【0062】
第15図(b)では、水素ガスを含んだ水素含有ガスが水素分離器31に供給され、この水素分離器31が燃焼器32によって加熱される。分離された水素は熱交換器33を介して取り出される。オフガスは熱交換器34を介して取り出され、必要に応じ、その一部又は全量が圧力調整弁36を介して燃焼器32に供給される。燃焼排ガスの熱は熱交換器35で回収される。回収された熱により、燃焼器32への燃料ガスや空気が加熱される。
【0063】
第15図(b)では燃焼器32を用いているが、高温廃熱を発生させる熱源が存在する場合には、第15図(c)のように、この高温廃熱を加熱器37に導き、水素分離器31を加熱するようにしてもよい。
【実施例】
【0064】
以下、実施例1〜7について説明する。
【0065】
〔実施例1(純Nb膜)〕
第1,2図に示す水素透過試験用モジュールにおいて、水素分離膜4として純Nb(純度3N以上)よりなる厚さd=0.5mmのものを用いた。
【0066】
炉10内の温度を693K、713K、733K、753K又は773Kとし、1次側水素分圧P1及び2次側水素分圧P2を種々変更させ、単位時間当り水素透過量Q(mol/s)を測定し、このQ値を膜面積A(m2)で除して単位膜面積当りの水素透過速度J(mol・m−2.s−1)を求めた。
【0067】
また、各温度において、各P1/P2値に基づいて1次側と2次側との水素の化学ポテンシャル差Δμ=RT/2・ln(P1/P2)を計算し、また図10のPCT曲線の結果から1次室側および2次室側の固溶水素濃度C1およびC2を求め、このC1・C24/9・ΔμとJ・d値とをプロットして第3図に示した。
【0068】
なお、第3図(a)は、固溶水素濃度C1,C2として体積モル濃度(molH/m3)を用いたものである。C1・C24/9・Δμを横軸にプロットし、J・dを縦軸にプロットしたとき、これらの値は比例関係を示し、直線の傾きが易動度を示す。第3図(b)は、固溶水素濃度C1,C2としてモル分率(H/(M+H))を用いたものである。第3図(a)と同様にC1・C24/9・ΔμとJ・dは近似的に比例関係を示し、固溶水素濃度としてモル分率を用いてもJ・d値を推定することが可能であることが分かる。モル分率を用いる方法は、複雑な計算を必要とする体積モル濃度(molH/m3)を用いる場合と比較して簡便であり、工業的に有用である。従って、後述の実施例2〜7においては、固溶水素濃度C1,C2としてモル分率を用いる。
【0069】
第3図の通り、C1・C24/9・ΔμとJ・dとの間には直線関係があり、直線の勾配は温度によって異なること(即ち、温度がパラメータとなっていること)、この勾配は温度Tが高くなるほど大きくなることが認められた。
【0070】
従って、各温度毎に第3図に示す関係を求めておくと、T値及びP1/P2の値から演算されるΔμと、第3図の直線関係とからJ・d値が求まる。d値(膜厚)は既知であるから、このJ・d値をd値で除算することにより水素透過速度J(mol・m−2.s−1)が求まり、このJ値に膜面積Aを乗じることにより、運転温度をTとし、1次側及び2次側の圧力をP1,P2とした運転条件下における単位時間当りの水素製造量を高精度にて推定することができることが明らかとなった。
【0071】
[実施例2〜7]
水素分離膜としてNb−5Ru膜(実施例2)、Nb−5W膜(実施例3)、Nb−5W−5Mo膜(実施例4)、Ta−5W膜(実施例5)、V−5W膜(実施例6)又はPd−26Ag膜(実施例7)を用い、温度を各図に記入の通りとした他は実施例1と同様の試験を行った。J・d値とC1・C24/9・Δμ値との関係を第4図〜第9図に示す。
【0072】
なお、各合金の固溶水素濃度C1,C2値については、実測値を用いた。第10図〜第13図に、純Nb、Nb−5Ru、Nb−5W及びNb−5W−5Moの圧力(P)、固溶水素濃度(C)及び温度(T)の関係(PCT曲線)を示す。
【0073】
第4図〜第9図の通り、実施例2〜7の場合もJ・d値とC1・C24/9・Δμ値との間に直線関係が存在することが認められる。また、第3図〜第6図の通り、直線の勾配は温度Tが高いほど大きくなる。
【0074】
従って、各水素分離膜について、温度を異ならせて第3図〜第9図に示す関係を求めておくことにより、T値及びP1/P2値から演算されるΔμと、第3図〜第9図の直線関係とからJ・d値が求まる。そして、このJ・d値をd値で除算して水素透過速度J(mol・m−2.s−1)を求め、このJ値に膜面積Aを乗じることにより、運転温度をTとし、1次側及び2次側の圧力をP1,P2とした運転条件下における単位時間当りの水素製造量を高精度にて推定することができる。
【符号の説明】
【0075】
1 水素透過試験用モジュール
2 ガス導入管
3,5 ガスケット
4 水素分離膜
6 ガス取出管
7 ナット
8 キャップナット
10 電気炉
21 圧縮機
22 水素分離型改質器
25〜28,33〜35 熱交換器
31 水素分離器
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1次室に原料ガスを供給し、水素分離膜を透過した水素を2次室から取り出す水素分離プロセスにおける該膜の水素透過速度を推定する方法において、
1次室の水素分圧P1、2次室の水素分圧P2及び温度Tによって定まる1次室と2次室との水素の化学ポテンシャル差Δμと、水素透過速度Jとの関係を求めておき、
1次室の水素分圧をP’1とし、2次室の水素分圧をP’2としたときの水素透過速度をこの関係から求める水素透過速度の推定方法であって、
水素分離膜の材料と1次室の水素分圧P1、2次室の水素分圧P2及び温度Tによって定まる1次室側の固溶水素濃度C1と、2次室側の水素結合確率FとΔμとの積C1・F・Δμと、水素透過速度Jと水素分離膜の膜厚dとの積J・dとの関係を求めておき、
1次室の水素分圧をP’1とし、2次室の水素分圧をP’2としたときのJ・d値をこの関係から求め、
このJ・d値から水素透過速度を求めることを特徴とする水素透過速度の推定方法。
【請求項2】
請求項1において、水素透過速度J(mol・m−2・s−2)の推定値を
J=C1・F・B・(RT/2)・(ln(P’1/P’2))/d
にて算出することを特徴とする水素透過速度の推定方法。
ただし、
C1:1次室側固溶水素濃度
B:温度と膜の材料によって定まる定数であって、2次室側の圧力がFの値が1に近くなる十分に高い場合にC1・Δμを横軸にプロットし、J・dを縦軸にプロットしたときの直線の傾きである
F:2次室側水素結合確率であって、水素結合が水素透過を律速しない圧力領域では1であり、律速する圧力領域では2次室側固溶水素濃度C2を用いてK・C24/9と表すことができる。
K:比例定数
R:気体定数
T:温度(K)
P’1:1次室の水素分圧
P’2:2次室の水素分圧
d:膜厚(m)
【請求項3】
請求項1又は2において、水素分離膜がNb、Nb合金、Ta合金、V合金又はPd合金よりなることを特徴とする水素透過速度の推定方法。
【請求項4】
水素分離膜で隔てられた1次室及び2次室を有した水素製造装置を運転する方法において、
膜面積A(m2)と請求項1ないし3のいずれか1項に記載の方法で推定されるJ値との積J・Aが目標水素取出量となるように、1次室及び2次室のガス圧および温度を制御することを特徴とする水素製造装置の運転方法。
【請求項5】
請求項4において、少なくとも2次室の圧力を大気圧以下とすることを特徴とする水素製造装置の運転方法。
【請求項6】
水素分離膜で隔てられた1次室及び2次室を有した水素製造装置において、
膜面積A(m2)と請求項1ないし3のいずれか1項に記載の方法で推定されるJ値との積J・Aが目標水素取出量となるように、1次室及び2次室のガス圧及び温度を制御するガス圧制御手段及び温度制御手段を備えたことを特徴とする水素製造装置。
【請求項7】
水素分離膜で隔てられた1次室及び2次室を有した水素製造装置において、
1次室のガス圧と2次室のガス圧との比が設定値又は設定範囲となるように制御するガス圧制御手段と、
温度制御手段とを備えたことを特徴とする水素製造装置。
【請求項1】
1次室に原料ガスを供給し、水素分離膜を透過した水素を2次室から取り出す水素分離プロセスにおける該膜の水素透過速度を推定する方法において、
1次室の水素分圧P1、2次室の水素分圧P2及び温度Tによって定まる1次室と2次室との水素の化学ポテンシャル差Δμと、水素透過速度Jとの関係を求めておき、
1次室の水素分圧をP’1とし、2次室の水素分圧をP’2としたときの水素透過速度をこの関係から求める水素透過速度の推定方法であって、
水素分離膜の材料と1次室の水素分圧P1、2次室の水素分圧P2及び温度Tによって定まる1次室側の固溶水素濃度C1と、2次室側の水素結合確率FとΔμとの積C1・F・Δμと、水素透過速度Jと水素分離膜の膜厚dとの積J・dとの関係を求めておき、
1次室の水素分圧をP’1とし、2次室の水素分圧をP’2としたときのJ・d値をこの関係から求め、
このJ・d値から水素透過速度を求めることを特徴とする水素透過速度の推定方法。
【請求項2】
請求項1において、水素透過速度J(mol・m−2・s−2)の推定値を
J=C1・F・B・(RT/2)・(ln(P’1/P’2))/d
にて算出することを特徴とする水素透過速度の推定方法。
ただし、
C1:1次室側固溶水素濃度
B:温度と膜の材料によって定まる定数であって、2次室側の圧力がFの値が1に近くなる十分に高い場合にC1・Δμを横軸にプロットし、J・dを縦軸にプロットしたときの直線の傾きである
F:2次室側水素結合確率であって、水素結合が水素透過を律速しない圧力領域では1であり、律速する圧力領域では2次室側固溶水素濃度C2を用いてK・C24/9と表すことができる。
K:比例定数
R:気体定数
T:温度(K)
P’1:1次室の水素分圧
P’2:2次室の水素分圧
d:膜厚(m)
【請求項3】
請求項1又は2において、水素分離膜がNb、Nb合金、Ta合金、V合金又はPd合金よりなることを特徴とする水素透過速度の推定方法。
【請求項4】
水素分離膜で隔てられた1次室及び2次室を有した水素製造装置を運転する方法において、
膜面積A(m2)と請求項1ないし3のいずれか1項に記載の方法で推定されるJ値との積J・Aが目標水素取出量となるように、1次室及び2次室のガス圧および温度を制御することを特徴とする水素製造装置の運転方法。
【請求項5】
請求項4において、少なくとも2次室の圧力を大気圧以下とすることを特徴とする水素製造装置の運転方法。
【請求項6】
水素分離膜で隔てられた1次室及び2次室を有した水素製造装置において、
膜面積A(m2)と請求項1ないし3のいずれか1項に記載の方法で推定されるJ値との積J・Aが目標水素取出量となるように、1次室及び2次室のガス圧及び温度を制御するガス圧制御手段及び温度制御手段を備えたことを特徴とする水素製造装置。
【請求項7】
水素分離膜で隔てられた1次室及び2次室を有した水素製造装置において、
1次室のガス圧と2次室のガス圧との比が設定値又は設定範囲となるように制御するガス圧制御手段と、
温度制御手段とを備えたことを特徴とする水素製造装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2013−6151(P2013−6151A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−140679(P2011−140679)
【出願日】平成23年6月24日(2011.6.24)
【出願人】(000220262)東京瓦斯株式会社 (1,166)
【出願人】(504139662)国立大学法人名古屋大学 (996)
【出願人】(504237050)独立行政法人国立高等専門学校機構 (656)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年6月24日(2011.6.24)
【出願人】(000220262)東京瓦斯株式会社 (1,166)
【出願人】(504139662)国立大学法人名古屋大学 (996)
【出願人】(504237050)独立行政法人国立高等専門学校機構 (656)
【Fターム(参考)】
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