説明

水耕栽培用パネル

【課題】水耕栽培パネルにおいて、パネル本体内部への植物根の浸入防止とパネル本体の内部の抗菌化を図ることにより、繰り返し使用に対応させる。
【解決手段】パネル本体を構成する複数の発泡樹脂ビーズ12の間隙13に、エマルショ
ン樹脂14が充填される。エマルション樹脂14には、抗菌性を有する無機物として銀ゼ
オライト16が混合されており、銀ゼオライト16の持つ優れた化学的作用によって間隙
13への植物根の浸入を防止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、野菜などの植物の水耕栽培に用られる水耕栽培パネルに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、土壌を用いることなく、循環させた培養液を用いて植物を栽培する水耕栽培に関する種々の技術が開発されている。例えば、特許文献1には、水耕栽培に用いられる水耕栽培パネルが開示されている。この水耕栽培パネルは、発泡スチロールから成るパネル本体(浮力基体)と、パネル本体に形成されている貫通穴に装着される植栽体によって構成される。植栽体を交換することにより、パネル本体は繰り返し使用できるように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−171944号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
パネル本体を構成する発泡スチロールは、通常予備発泡(1次発泡)させた複数の発泡樹脂ビーズを金型内で蒸気を用いて2次発泡・溶着させることにより、所望の形状に形成される。このような工法によって製造された発泡スチロール製品においては、2次発泡された各発泡樹脂ビーズの間に、微細な間隙が生じている。
【0005】
上記特許文献1に示された水耕栽培パネルにあっては、植栽体からパネル本体の発泡樹脂ビーズ間の微細な間隙伝いに、植物根が浸入し伸張することがある。このように発泡樹脂ビーズ間の微細な間隙伝いに伸張した植物根は、収穫時において植栽体をパネル本体から取外した際にその境界付近で切断され、先端部分がパネル本体の内部に入り込んだ状態で残存する。
【0006】
このようにパネル本体の内部に入り込んだ状態で残存する植物根は、パネル本体の表面を洗浄することによっても除去することが困難である。また、パネル本体の内部に残存する植物根を放置すると、定植した植物が病害に感染していた場合、残存する根の内部に病原菌が残り、2次感染の虞が生ずる。また、パネル本体の内部で植物根が腐敗すると、病原菌の温床となる虞があり、好ましくない。
【0007】
こうした背景から、パネル本体を繰り返し使用する場合は、植栽体が取り外されたパネル本体を入念に洗浄するだけでなく、さらに加熱等により入念に殺菌するといった処理が必要とされている。ところが、発泡スチロールによって成るパネル本体に洗浄・加熱を繰り返すと、パネル本体の傷みが激しくなる。また、加熱により発泡樹脂ビーズが3次発泡することもあるため、再使用の回数が制限されていた。
【0008】
特にパネル本体に発泡スチロールを用いたことによる病害の発生は、カイワレ大根等のスプロアウト類の栽培、トマト、キュウリ、メロン、ミツバ、ネギ、シュンギク、レタス及びホウレンソウ等のほとんど全ての養液栽培で問題となっており、これらの栽培で、用いられる発泡スチロールのパネル本体について、内部への植物根の浸入防止とパネル本体の内部の抗菌化に関する技術が求められている。
【0009】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、パネル本体内部への植物根の浸入防止とパネル本体の内部の抗菌化を図ることにより、繰り返し使用に対応した抗菌性水耕栽培パネルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために本発明は、複数の発泡樹脂ビーズを結合させて成る水耕栽培パネルにおいて、前記複数の発泡樹脂ビーズの間隙に、抗菌性を有する無機物を混合した樹脂が充填されていることを特徴とする。
【0011】
この水耕栽培パネルにおいては、パネル表面が前記抗菌性を有する無機物を混合した前記樹脂によって被覆されていることが好ましい。
【0012】
この水耕栽培パネルにおいては、前記無機物は、銀ゼオライトであることが好ましい。
【0013】
この水耕栽培パネルにおいては、パネル本体を貫通し、該パネル本体に着脱自在に設けられ、植栽された植物を支持する植栽体をさらに有することが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明の水耕栽培パネルによれば、無機物の抗菌作用により、パネル本体の内部の抗菌化を図ることができるので、病原菌の残存を抑制できる。これにより、パネル本体の繰り返し使用にあたって、パネル本体の殺菌処理を簡略化することができる。また、洗浄処理及び殺菌処理の頻度を減じることにより、パネル本体の傷みを抑制し繰り返し使用回数を増やして、パネル本体の使用期間を長くすることができ、水耕栽培のコストダウンを図ることが可能となる。
【0015】
また、パネル表面が抗菌性を有する無機物を混合した樹脂によって被覆されているので、パネル表面で植物根の浸入を食い止めることができ、発泡樹脂ビーズの間隙への植物根の浸入を、より効果的に防止することができる。また、無機物の抗菌作用により、パネル表面に菌・藻が発生し難くなるので、パネル本体の洗浄処理をさらに簡略化しつつ、パネル本体を繰り返して使用することができる。
【0016】
また、エマルション樹脂に混合する無機物に銀ゼオライトを用いることにより、銀の優れた抗菌作用を生かして、病原菌の残存をより効果的に抑制できる。また、植物根は、銀を嫌う性質を有しているため、銀ゼオライトを各発泡樹脂ビーズ間の間隙に介在させることにより、パネル本体の内部への植物根の浸入をより一層効果的に防止することができる。
【0017】
また、着脱によって植栽体を容易に交換できる構造であるため、上述したパネル本体の洗浄処理及び殺菌処理の簡略化と相まって、パネル本体を容易に繰り返し使用できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施形態による抗菌性水耕栽培パネルの斜視図。
【図2】同抗菌性水耕栽培パネルを用いて、植物を栽培している様子を示す側断面図。
【図3】パネル本体に対して植栽体を脱着する様子を一部を破断して示す側面図。
【図4】パネル本体の断面の一部を拡大して示す側面図。
【図5】発泡樹脂ビーズの間に生ずる微細な間隙に充填された樹脂を模式的に示す図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の一実施形態による抗菌性水耕栽培パネルについて図面を参照して説明する。図1は抗菌性水耕栽培パネルを示す。発泡樹脂によって形成されたパネル本体1と、パネル本体1に着脱自在に設けられる植栽体2等を備える。パネル本体1は、発泡ポリスチレン、発泡ポリエチレン、発泡ポリプロピレン等の発泡樹脂によって形成される。パネル本体1には、所定の間隔を隔てて複数の貫通孔11が形成されている。植栽体2は、パネル本体1の貫通孔11に装着される。植栽体2は、吸水性を有し、植栽される植物を支持し得るスポンジ状のウレタン素材によって、貫通孔11に対応する形状に形成される。パネル本体1に対して植栽体2を脱着することにより、パネル本体1が繰り返し使用可能とされる。なお、植栽体2は、生育した植物と共に回収され処分される。
【0020】
図2は、本実施形態の抗菌性水耕栽培パネルを用いて、植物を栽培している様子を示す。植物4を支持する植栽体2が装着されたパネル本体1は、水槽に満たされた培養液3に浮かべて使用される。植栽された抗菌性水耕栽培パネルが培養液3に浮くのに必要な浮力は、パネル本体1を構成する発泡樹脂によって得られる。培養液3は、植物の生育に必要な養分及び水分を供給し、必要に応じて循環される。
【0021】
図3は、パネル本体1に対して植栽体2を脱着する様子を示す。植物4が十分に生育すると、パネル本体1から植栽体2を取り外すことにより、植物4が収穫される。パネル本体1には、新たな植栽体2が装着される。新たに装着された植栽体2には、植物の種や苗が載置される。
【0022】
図4は、パネル本体1の断面の一部を拡大して示す。パネル本体1は、予備発泡させた複数の発泡樹脂ビーズ12を金型内で蒸気を用いて2次発泡・溶着させることにより、所望の形状に形成されている。2次発泡された各発泡樹脂ビーズ12には、微細な間隙13が生じている。
【0023】
図5は、発泡樹脂ビーズ12及び各発泡樹脂ビーズ12の間に生ずる微細な間隙13をさらに拡大して模式的に示す。本実施形態の抗菌性水耕栽培パネルにおいては、間隙13に水性のエマルション樹脂14が充填されている。エマルション樹脂14は、例えば、特許第4244070号公報に記載された方法によって間隙13に含浸・乾燥させることにより充填される。また、このとき、パネル本体1の表面にもエマルション樹脂14が被覆される。パネル本体1の表面におけるエマルション樹脂14の被覆は、エマルション樹脂14を噴霧等により塗布することによっても形成することができる。
【0024】
エマルション樹脂14には、骨材15と銀ゼオライト16が分散して混合されている。図5においては、ハッチングにてエマルション樹脂14が、白円にて骨材15が、黒円にて銀ゼオライト16がそれぞれ示されている。例えば、骨材15の粒径は10μmであり、骨材15が重量比でエマルション樹脂14全体の50%を占めるように混合される。また、銀ゼオライト16の粒径は、10μmであり、銀ゼオライト16の混合量はエマルション樹脂14全体の0.02%(200ppm)程度である。
【0025】
以上のような構成を有する本実施形態の抗菌性水耕栽培パネルによれば、植物根41が銀を嫌う性質を有しているため、銀ゼオライト16を各発泡樹脂ビーズ12間の間隙13に分散させて介在させることにより、パネル本体1の内部への植物根41の浸入を効果的に防止することができる(化学的作用効果)。このような、化学的作用効果により、パネル本体の繰り返し使用にあたって、パネル本体の洗浄処理を簡略化することができる。
【0026】
また、銀ゼオライト16の優れた抗菌作用により、パネル本体1の内部の抗菌化を図ることができるので、病原菌の残存を抑制できる(化学的作用効果)。これにより、パネル本体の繰り返し使用にあたって、パネル本体の殺菌処理を簡略化することができる。
【0027】
また、洗浄処理及び殺菌処理の頻度を減じることにより、パネル本体の傷みを抑制し繰り返し使用回数を増やして、パネル本体の使用期間を長くすることができ、水耕栽培のコストダウンを図ることが可能となる。
【0028】
また、パネル本体1の表面が銀ゼオライト16を混合したエマルション樹脂14によって被覆されているので、パネル本体1の表面で植物根41の浸入を食い止めることができ、発泡樹脂ビーズ12の間隙13への植物根41の浸入を、より効果的に防止することができる(物理的作用効果)。また、銀ゼオライト16の抗菌作用により、パネル本体1の表面に菌・藻が発生し難くなるので(化学的作用効果)、パネル本体1の洗浄処理をさらに簡略化しつつ、パネル本体1を繰り返して使用することができる。なお、パネル本体1を繰り返して使用すると、洗浄によってパネル本体1の表面に塗布された銀ゼオライト16が徐々に剥離することが懸念される。このような場合にあっても、本実施形態によれば、パネル本体1の内部すなわち、各発泡樹脂ビーズ12間の間隙13に銀ゼオライト16が混合されたエマルション樹脂14が充填されているので、銀ゼオライト16による植物根41の浸入防止効果が長期間に亘って持続する。
【0029】
また、着脱によって植栽体2を容易に交換できる構造であるため、上述したパネル本体1の洗浄処理及び殺菌処理の簡略化と相まって、パネル本体1を容易に繰り返し使用できるようになる。
【0030】
なお、本発明は上記実施形態の構成に限られることなく、少なくとも複数の発泡樹脂ビーズ12の間隙13に、抗菌性を有する無機物を混合した樹脂が充填されていればよい。すなわち、銀ゼオライト16の替わりに抗菌性を有するゼオライト系の無機物を適用することによっても同様の効果を得ることができる。また、エマルション樹脂14の替わりにエポキシ樹脂などを適用することによっても同様の効果を得ることができる。
【0031】
また、本発明は種々の変形が可能であり、例えば、エマルション樹脂14に混合される骨材15や銀ゼオライト16は、その混合量を適宜変更してもよいし、骨材15を廃し、銀ゼオライト16のみを混合したエマルション樹脂14を間隙13に充填する構成であってもよい。
【符号の説明】
【0032】
1 パネル本体
2 植栽体
3 培養液
4 植物
11 貫通孔
12 発泡樹脂ビーズ
13 間隙
14 エマルション樹脂
15 骨材
16 銀ゼオライト
41 植物根

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の発泡樹脂ビーズを結合させて成る水耕栽培パネルにおいて、
前記複数の発泡樹脂ビーズの間隙に、抗菌性を有する無機物を混合した樹脂が充填されていることを特徴とする水耕栽培パネル。
【請求項2】
パネル表面が前記抗菌性を有する無機物を混合した前記樹脂によって被覆されていることを特徴とする請求項1に記載の水耕栽培パネル。
【請求項3】
前記無機物は、銀ゼオライトであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の植物栽培パネル。
【請求項4】
パネル本体を貫通し、該パネル本体に着脱自在に設けられ、植栽された植物を支持する植栽体をさらに有することを特徴とする水耕栽培パネル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−165680(P2012−165680A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−28907(P2011−28907)
【出願日】平成23年2月14日(2011.2.14)
【出願人】(000163899)金山化成株式会社 (10)
【出願人】(000205627)大阪府 (238)
【出願人】(593025619)トーホー工業株式会社 (19)
【Fターム(参考)】