説明

水膨潤性摩擦低減組成物

【課題】水膨潤性摩擦低減組成物を中性では膨潤せず、アルカリ領域で膨潤するようにする。
【解決手段】アセトンに溶解した50%濃度の酢酸ビニル樹脂エラストマー溶液346部に溶剤としてトルエン145部、メチル・エチルケトン(MEK)を145部加え、ディゾルバーで撹拌しながらカルボキシメチルセルロースカルシウム(CMC−Ca)177部、ベントナイト172部、防錆剤5部と微粒子シリカ10部を加え、十分に撹拌して水膨潤性摩擦低減組成物を得た。この水膨潤性摩擦低減組成物は、淡水(pH7前後)での浸漬では膨潤率は2.0倍と非常に小さいが、pH14のアルカリ溶液での浸漬では、15倍前後の膨潤率であった。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水膨潤性摩擦低減組成物に関する。更に詳しくは、基礎杭等に作用する摩擦力の軽減、地中に設置した仮設山留壁のH鋼、鋼矢板等の鋼材を工事終了後に撤去・回収する際の引抜きを容易にするための引抜き材、更には、仮設土留工として敷設されたH鋼、鋼矢板等の鋼材への土砂の付着防止用途として使用することができる水膨潤性摩擦低減組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に土木工事の基礎構造物の工事において、軟弱地盤に埋設された基礎杭等の基礎構造物が地盤変動により沈下または隆起を引き起こし、基礎杭に支持される構築物に変形・破壊などの大きな影響を及ぼす。この様な現象を防止する対策として水膨潤性摩擦低減組成物を予め基礎杭等に塗布し、この組成物が水と接触して膨潤して潤滑層を形成することにより、基礎杭の沈下を防ぐ方法が知られている。
例えば、特許文献1(特開昭63−27619号公報)には、ポリビニルブチラールを主体とする吸水性樹脂と製膜性を有する微粉末(ゼラチンまたは寒天)からなる水膨潤性組成物を基礎構造物の表面に塗布して地盤との摩擦力を軽減する設置工法が、特許文献2(特開平4−122781号公報)には、熱可塑性エラストマーと界面活性剤を含有してなる水膨潤性摩擦低減組成物がそれぞれ開示されている。
また、セメント系固結材中に埋設した杭等の仮設材を回収するために仮設材の表面に水膨潤性摩擦低減組成物を塗布する方法が採られており、特許文献3(特開昭63−312421号公報)には、油中水型水膨潤性重合体粒子エマルジョンにより周面摩擦抵抗を低減することが、特許文献4(特開昭63−165615号公報)には、揮発性膜形成樹脂と高吸水性樹脂を塗布して膜を形成し、高吸水性樹脂を水で膨潤させる摩擦抵抗力低減方法が、特許文献5(特開昭64−58751号公報)には、吸水性ポリマーと有機樹脂の割合を20〜30:70〜80の比率の水膨潤性処理材が、特許文献6(特開平7−247549号公報)には、吸水性ポリマーが基材に直接固着した吸水性ポリマーシート層を設けた仮埋設物引抜き用潤滑材が、特許文献7(特開平11−241339号公報)には、水膨潤性樹脂と酸価が15mgKOH/g以下であるアルカリ水溶性樹脂とを含む処理材が、特許文献8(特開2001−226979号公報)には、引抜き等を容易にするために、保護層、潤滑剤層で構成された摩擦構造体が開示されている。
なお、鋼材への土砂付着の低減を目的とした水膨潤性摩擦低減材が、特許文献9(特開2002−60694号公報)、特許文献10(特開2002−327448号公報)に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭63−27619号公報
【特許文献2】特開平4−122781号公報
【特許文献3】特開昭63−312421号公報
【特許文献4】特開昭63−165615号公報
【特許文献5】特開昭64−58751号公報
【特許文献6】特開平7−247549号公報
【特許文献7】特開平11−241339号公報
【特許文献8】特開2001−226979号公報
【特許文献9】特開2002−60694号公報
【特許文献10】特開2002−327448号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
コンクリート杭、鋼材等に水膨潤性摩擦低減塗料を塗布することにより地盤沈下等によるこれらの基礎杭の沈下変動防止、セメントなどの固着材層に埋設された杭等を回収する場合に引抜きを容易に、土留め壁等で工事後に引抜き回収される鋼材の引抜きを容易にすると共に、鋼材への土付着防止でそれぞれ効果を上げている。
しかし、近年、水膨潤性摩擦低減組成物に要求される機能が多様化している。例えば仮設工事において、杭を打設し、工事が終了後にその杭を引抜くことが多く行われている。この様な仮設工事においては、引抜き力を小さくして引抜きを容易にするために予め杭に水膨潤性摩擦低減塗料を塗布してから杭を打ち込む方法が採られている。
【0005】
しかし、仮設工事施工方法によっては、杭をpHが中性の掘削安定液中に建て込み、一昼夜おいてからソイルセメントで置換して固める方法が採られることがある。これまでの水膨潤性摩擦低減塗料では、安定液中で膨潤が進行するため膨潤膜と杭との付着強度が弱くなり、ソイルセメントをポンプで強力に送り込んで置換すると、杭から水膨潤性摩擦低減塗料の膨潤膜が剥れ落ちて、摩擦低減塗料を塗布した効果が失われてしまう。
この様な施工方法に耐えうる水膨潤性摩擦低減塗料としてpHが中性の掘削安定液中では膨潤せず、セメントコンクリート等のアルカリ液中で膨潤するタイプの水膨潤性摩擦低減組成物が要求される場合がある。
本発明は、水膨潤性摩擦低減組成物の摩擦低減特性を低下させることなく、pHが中性の水中では膨潤せず、アルカリ領域で膨潤することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
カルボキシメチルセルロースアルミニウム、カルボキシメチルセルロースカルシウム等の高吸水性ポリマーである特殊CMCを使用することにより、アルカリ領域において中性の場合に比較して大きな膨潤率が得られることを見出したことに基づくものであり、少なくとも熱可塑性エラストマーと前記のカルボキシメチルセルロースアルミニウム(CMC−Al)、カルボキシメチルセルロースカルシウム(CMC−Ca)、カルボキシメチルセルロース(CMC−H)のいずれかを含む水膨潤性摩擦低減組成物である。
【0007】
本発明に使用する熱可塑剤性エラストマーは、溶剤(トルエン、キシレン、アセトン等)に容易に溶解することが必要である。これは、エラストマー溶液に本発明の他の成分を均一に分散させ、また鋼矢板、H鋼等の鋼材、及びコンクリ−ト杭等への塗布作業を容易にするためである。
この性能を有するものとして酢酸ビニル樹脂、エチレン酢酸ビニル共重合樹脂、クロロプレンゴム、アクリル酸エステル共重合体樹脂、ウレタン系樹脂、スチレン−ブタジエン樹脂、エチレン・エチルアクリレート共重合樹脂、非晶性ポリエステル樹脂等である。また、膜状(シート状)または帯状に成型加工する場合には、比較的柔軟性のあるエチレン酢酸ビニル共重合樹脂、クロロプレンゴム等の少なくとも一種が好適である。
なお、エチレン酢酸ビニル共重合樹脂は、酢酸ビニル含有量(VA量)特性40%以上が好ましい。40%以下になると溶剤への溶解が悪くなり、樹脂溶解作業が困難となる。
【0008】
高吸水性ポリマーは、淡水でほとんど膨潤せず、アルカリ液中で膨潤するものであり、カルボキシメチルセルロースカルシウム(CMC−Ca)、カルボキシメチルセルロースアルミニウム(CMC−Al)、カルボキシメチルセルロース(CMC−H)が好適である。
ここで、一般的にカルボキシメチルセルロース(CMC)と呼ばれているのは、末端をナトリウムで置換したカルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC−Na)であり、多くの種類があり、種々の用途で広く用いられている。
そして、末端のナトリウムを他の陽イオン、例えば、カルシウム、アルミニウムを導入したCMCは、カルボキシメチルセルロースアルミニウム(CMC−Al)、カルボキシメチルセルロースカルシウム(CMC−Ca)と呼ばれカルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC−Na)と異なった特性を持っている。また、セルロースにカルボキシメチル基(−CH2COOH)を導入したものはCMC酸(CMC−H)と呼ばれ、これもカルボキシメチルセルロースナトリウムと異なった特性を有しており、これらは日本薬局方では特殊CMCに分類されて一般的なカルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC−Na)とは区別されている。
【0009】
これら特殊CMCを使用した本発明の水膨潤性摩擦低減組成物で形成される塗膜は、淡水中では1〜3倍前後の膨潤率であるが、例えば、pHが14のアルカリ液中では10〜20倍の膨潤率を示す。
これらの特殊CMCを使用した場合、実用的に満足できる膨潤率を得るには浸漬水のpHは11以上とするのが好ましい。
【0010】
有機溶剤は、熱可塑剤性エラストマーを溶解するためのもので、キシレン、トルエン等の芳香族炭化水素、アセトン、MEK(メチル・エチルケトン)、シクロヘキサン類等の少なくとも一種である。
【0011】
その他添加物質として、充填材、着色顔料等を加えることが可能である。充填材は塗布乾燥膜の強度を得ることが主目的で、無機の充填材はアルミナ、シリカ系の微粉末、ベントナイト等の天然にある粘土性鉱物粉末等を使用することができる。
【0012】
着色顔料は組成物の着色を目的に添加し、例えばベンガラ、チタン白、カーボンブラック等を加えて使用することができる。
水膨潤性摩擦低減組成物の粘度を調整する目的で微粒子シリカ等を加えることも可能である。
【0013】
本発明の水膨潤性摩擦低減組成物は、上記の各成分を混合してディゾルバー等を用いて撹拌し、十分に分散させて均一化する。得られた水膨潤性組成物を鋼材、あるいは、コンクリート杭等に刷毛、スプレー等で塗布することによって基礎杭の負摩擦低減用途、仮設材の引抜き、押し込み用途、更には、H鋼、鋼矢板への土砂付着防止用途として使用される。
【0014】
そして、鋼材の錆の発生を防止することを目的に防錆剤を添加することも可能である。添加することで、鋼材の寿命向上に繋がる。防錆剤はジノニルナフタレンスルホン酸の金属塩、アニオン系特殊アミン系等が効果的である。
本発明の水膨潤性組成物は容易にシート状に加工成型することができ、このシート成型品の裏面に接着層を設けることによって鋼材等に貼り付けて使用することができる。シート成型品は、塗布する方法に比較して乾燥時間が不要であり、塗布するタイプに比較して工事作業の効率向上が図られる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の水膨潤性摩擦低減組成物によって摩擦低減特性を低下させることなく、中性領域での膨潤が抑制され、アルカリ領域で大きく膨潤するので、水膨潤性摩擦低減組成物の膨潤の時期を制御することができ、施工中に必要に応じて膨潤を開始させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明の実施例を示す。本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、以下の記載において、配合は重量部で示す。
実施例の水膨潤性摩擦低減組成物について膨潤率、引抜き試験を実施した。その結果を表1に示す。
【0017】
膨潤率試験は、水膨潤性摩擦低減組成物をクッキングシート上に1mmの厚さに塗布し、乾燥後にクッキングシートから乾燥塗膜を剥がし、2×2cm□に裁断し、この裁断試料片を淡水(pH7)の入った水槽に入れ浸漬・膨潤させた。浸漬前後の重量変化から次のようにして膨潤率を求めた。
膨潤率=浸漬後の試料の重量/浸漬前の試料の重量
引抜き試験は、水膨潤性摩擦低減組成物を鉄製のフラットバー(200×75×3mm)に膜厚1mm程度に塗布し、乾燥後に1Lの容器(丸缶)に挿入し、この容器にセメントモルタルを注入して固化させ、一ケ月後に島津製作所製の50kNのオートグラフにて引抜きを行い、引抜き力を求めた。
【実施例1】
【0018】
アセトンに溶解した50%濃度の酢酸ビニル樹脂エラストマー溶液346部に溶剤としてトルエン145部、メチル・エチルケトン(MEK)を145部加え、ディゾルバーで撹拌しながらカルボキシメチルセルロースカルシウム(CMC−Ca)177部、ベントナイト172部、そして防錆剤としてアルキルアリルスルホン酸カルシウム塩/カルボン酸エステルカルシウム塩複合体(楠本化成 NA−SUL CA/W1146)5部と微粒子シリカ10部を加え、十分に撹拌して水膨潤性摩擦低減組成物(実施例1)を得た。
この実施例1の水膨潤性摩擦低減組成物は、淡水(pH7前後)での浸漬では膨潤率は2.0倍と非常に小さいが、pH14のアルカリ溶液での浸漬では、16倍前後の膨潤率であった。
表1に試験結果特性を示す。
【実施例2】
【0019】
アセトンに溶解した50%濃度の酢酸ビニル樹脂エラストマー溶液346部に溶剤のトルエン290部加え、ディゾルバーで撹拌しながら、カルボキシメチルセルロース(CMC−H)190部、ベントナイト158部、防錆剤としてアルキルナフタレンスルホン酸バリウム塩(楠本化成 NA−SUL BSN−50MS)の10部と微粒子シリカの6部を加え、十分に撹拌して水膨潤性摩擦低減組成物(実施例2)を得た。
実施例2の水膨潤性摩擦低減組成物は、淡水(pH7前後)での浸漬では膨潤はほとんど認められず、pH14のアルカリ溶液での浸漬では、12倍前後の膨潤率であった。
表1に試験結果特性を示す。
【実施例3】
【0020】
トルエンに溶解した20%濃度のエチレン・エチルアクリレート共重合樹脂エラストマー溶液500部に溶剤のトルエン110部を加え、ディゾルバーで撹拌しながらカルボキシメチルセルロースアルミニウム(CMC−Al)190部と充填材としてベントナイト180部を加え、十分撹拌して水膨潤性摩擦低減組成物(実施例3)を得た。
この実施例3の水膨潤性摩擦低減組成物は、淡水(pH7前後)浸漬での膨潤率は1.7倍と非常に小さいが、pH14のアルカリ溶液での浸漬は、13倍程度の膨潤率であった。
表1に試験結果特性を示す。
【0021】
比較例
アセトンに溶解した50%濃度の酢酸ビニル樹脂エラストマー溶液346部に溶剤としてトルエン145部、メチル・エチルケトン(MEK)を145部加え、ディゾルバーで撹拌しながらカルボキシメチルセルロースナトリウム177部、ベントナイト172部、微粒子シリカ10部を加え、十分に撹拌して水膨潤性摩擦低減組成物(比較例)を得た。
表1に試験結果特性を示す。
【0022】
【表1】

【0023】
以上のように、本発明の水膨潤性摩擦低減組成物は、中性域では膨潤せず、アルカリ領域で膨潤するものであり、摩擦低減剤として作用する時期を制御することができるという特徴を有し、摩擦低減特性は、従来のものとほとんど変わることがない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも熱可塑性エラストマーと高吸水性ポリマーからなる水膨潤性摩擦低減組成物であって、高吸水性ポリマーが、カルボキシメチルセルロースアルミニウム(CMC−Al)、カルボキシメチルセルロースカルシウム(CMC−Ca)、カルボキシメチルセルロース(CMC−H)のいずれか、または、それらの混合物である水膨潤性摩擦低減組成物。
【請求項2】
請求項1の水膨潤性摩擦低減組成物を膜状に成型した水膨潤性摩擦低減シート。

【公開番号】特開2012−77205(P2012−77205A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−223928(P2010−223928)
【出願日】平成22年10月1日(2010.10.1)
【出願人】(391035577)日本化学塗料株式会社 (5)
【Fターム(参考)】