説明

水蒸気バリア材

【課題】食品、医薬品及びその他製品の包装・封止材などに用いられるバリアフィルム、特に、水蒸気バリア性を改善した粘土膜、粘土コーティング膜及びその製造方法を提供する。
【解決手段】PETフィルムなどに、粘土膜がコーティングされたバリア材であって、粘土膜の粘土が、水素型スメクタイトであり、必要に応じて添加物を含み、PETフィルムにコーティング後、100℃以下の乾燥・熱処理で水蒸気バリア性を発現させた、水蒸気透過度が2g/m・day以下である、粘土コーティング膜、当該粘土コーティング膜を有するバリア材及びその製造方法。
【効果】水蒸気バリア性を向上させた水素化粘土を構成要素として含む水蒸気バリア材を提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水蒸気バリア材に関するものであり、更に詳しくは、水蒸気バリア性を向上させた水素化粘土から構成されるコーティング膜、当該コーティング膜と基材から構成される水蒸気バリア材及びその製造方法に関するものである。本発明は、食品、医薬品及びその他製品の包装・封止材などに用いられるバリアフィルム、特に、水蒸気バリア性を改善した粘土コーティング膜、バリア材及びその製造方法に関する新技術・新製品を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
食品、医薬品、化学薬品及びその他の包装・封止材に用いられるフィルムは、品質を保つために、一定以上の防湿性(水蒸気バリア性)が求められる。近年、これらの商品の進化及び多様化や、新しい電子デバイスなどの出現に伴い、ハイバリアのフィルムが要求されるようになってきた。
【0003】
包装・封止材として一般的に用いられるプラスチックフィルムは、内容物の変質を防ぐために、酸素、水蒸気などのガス透過率の小さい材質のものが用いられている。例えば、食品包装、ラッピング用には、ポリエチレン(PE)フィルム、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)、ポリオレフィン(PO)系ラップフィルム、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、ナイロン系多層フィルムなどが利用されている。
【0004】
医薬品用としては、錠剤の包装にポリプロピレン(PP)が、工業用としては、防錆を目的にポリビニルアルコール(PVA)が広く利用されている。酸素ガスバリア材として包装用に用いられているものに、ナイロン類、ポリビニルアルコール、エチレン−ビニルアルコール共重合(EVOH)、ポリ塩化ビニリデンなどが代表例として上げられる。
【0005】
また、これらのプラスチック類をラミネート又はコーティングにより、積層体として包装・封止材料に用いられた包装フィルムは、比較的ガスバリア性を有している。しかしながら、当該包装フィルムは、温度、湿度の影響を受けやすく、高温又は高湿下において、ガスバリア性の低下がみられ、長期的な保存には適さない。
【0006】
更に、ガスあるいは水蒸気のバリア性を上げるために、プラスチックフィルムを基材として、酸化ケイ素や酸化アルミ、酸化マグネシウムなどの無機酸化物、セラミックスの膜を蒸着、スパッタリング、CVDなどにより形成する方法がとられている(例えば、特許文献1、2)。これらは、透明なプラスチック基材を用いているので、内容物の視認性はあるが、屈曲性に弱く、基材との密着性や可撓性が悪いために、バリア性能が低下しやすい。
【0007】
近年、先行技術として、粘土粒子を利用した、耐熱性のガスバリア性の薄膜が提案されており、自立膜として利用可能な機械的強度を有し、包装材、封止材、ディスプレイ材などの分野に適応されることが示されている(特許文献3)。
【0008】
また、本発明者らは、この粘土粒子を利用した耐熱性のガスバリア性の薄膜を適用し、ガスバリア性積層紙を提案した(特許文献4)。このガスバリア性積層紙は、基材紙、樹脂層、粘土層の順に積層され、容器として使用可能で、電子レンジにも対応できるものである。特許文献4のガスバリア性積層紙は、自立膜であり、食品用包装材料としては、柔軟性と更に高い耐クラック性が必要である。
【0009】
粘土は、耐熱性、耐薬品性、安全性、経済性の点で優れている材料である。その主成分は、厚み約1nmの層状の結晶構造を持ったケイ酸塩鉱物である。粘土の化学組成及び結晶構造は、種々のものが有り、なかでもスメクタイトに分類される粘土鉱物は、水中で膨潤し、水によく分散する。
【0010】
粘土膜は、キャスト法によって比較的容易に作製でき、例えば、粘土の分散液を、トレイなどの容器へ流し込み、展開して乾燥させて粘土膜を作製することが可能であり、分散液の濃度などを制御し、取扱可能な厚みに成形することができる。粘土膜は、耐熱性を有し、高温条件下で、酸素や水素ガスに対する高いガスバリア性を有し、柔軟性も併せ持っている。
【0011】
しかし、粘土膜は、特に工夫をしない限り、吸湿性があり、耐湿性、耐水性は十分ではない。代表的な粘土鉱物であるスメクタイトの結晶構造は、ケイ酸のネットワークが広がる四面体層が、金属酸化物及び/又は水酸化物層である八面体層を挟持し、厚さ約1nmの単位層から構成されている。
【0012】
多くの場合、この単位層間には、層間イオンの陽イオンが存在している。層の構成元素は、酸素、ケイ素、アルミニウム、マグネシウム、鉄、リチウム、及び水素などであり、層間イオンは、ナトリウム、カルシウム、マグネシウム、カリウムなどの陽イオンである。このような粘土は、親水性化学物質との親和性に優れ、複合体を作りやすい。
【0013】
これらの利点を有する粘土は、一方では、耐水性が劣り、水に浸漬すると膨潤し、脆弱になり、ついには、その形態を保てなくなる。その理由は、粘土結晶の層間に水が浸入し、ナトリウムイオンなどの陽イオンが水和することによって、層間が広がり、陽イオンが解離するからである。
【0014】
それによって、粘土結晶は、剥離した状態となり、非常に小さな結晶粒子となる。この結晶粒子は、負に帯電していることから、相互に反発し合って、水中に分散する。粘土膜の耐水性、耐湿性を改善するために、先行技術として、例えば、フッ素系樹脂、シリコン系樹脂、金属膜などを、CVD法及びPVD法などの様々な方法で、該粘土膜の表面を被覆して、疎水性化して、撥水性を付与し、防水、防湿性を向上することが提案されている(特許文献5)。
【0015】
しかし、この場合、被覆層が有機高分子系の場合は、耐熱性が十分ではなく、また、被覆層が無機系の場合は、防水、防湿の効果は一時的であり、長期間の使用で、耐水、耐湿性は劣化する。粘土膜は、基本的に親水性であり、被覆された無機系の被膜に、微小な穴、クラックなどの欠陥が生じると、そこから浸透した水分などにより、粘土膜が膨潤し、脆弱になる。
【0016】
この問題を解決する方法の一つとして、粘土の吸湿性が、粘土結晶の層間にある陽イオンの水和力に起因することに着目して、このナトリウムなどの陽イオンを、よりイオン半径の小さいリチウムイオンに置換することが提案されている(特許文献6)。この文献には、リチウムイオンを、層間から八面体層内に移動させて、水和を阻止し、粘土本来の特性を損なうことなく、吸湿性、水蒸気バリア性を向上させる粘土膜の製造方法が開示されている。
【0017】
この方法によれば、粘土とリチウムイオンと水を共存させた分散液中で、5分間から3時間放置すると、比較的容易に層間の陽イオンとリチウムイオンとがイオン交換する。次に、リチウムイオンを層間から八面体層へ移動させるために、熱処理を必要とする。粘土フィルムを作製した後、150〜600℃の比較的高温の熱処理を行う方法が一般的である。この方法では、温度40℃、相対湿度90%における粘土フィルムの水蒸気透過度は1.3〜5.7g/m・dayとなり、その効果が認められる。
【0018】
しかしながら、基材としてプラスチックフィルムを使い、粘土とリチウムイオンの共存分散液をコーティングなどで積層する場合は、耐熱性は、プラスチックフィルムの耐熱温度に依存する。汎用のPETフィルムの耐熱温度は約140℃であり、150℃を超える熱処理は困難である。
【0019】
粘土に添加物や補強材を含む場合に、これらは、熱処理温度の影響を受けない添加物や補強材に限定される。そこで、当技術分野においては、プラスチックフィルムを基材とした粘土コーティング膜の水蒸気バリア性を向上させる手段として、熱処理を必要としない層間イオンの発現、もしくはプラスチックフィルムの耐熱温度以下の熱処理で水蒸気バリア性を向上させる方法を開発することが強く望まれてきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0020】
【特許文献1】特公昭53−12953号公報
【特許文献2】特公昭63−28017号公報
【特許文献3】特許第3855004号公報
【特許文献4】特開2009−18525号公報
【特許文献5】特開2006−188408号公報
【特許文献6】特開2008−247719号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
このような状況の中で、本発明者らは、上記従来技術に鑑みて、水蒸気バリア性向上のために、層間のナトリウムイオンフリー粘土膜を開発することを目標に、鋭意研究を重ねた結果、ナトリウムイオンを水素イオンに交換した水素化粘土(水素化スメクタイト)が、比較的低い熱処理温度で、水蒸気バリア性を向上させることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0022】
本発明は、食品、医薬品及びその他製品の包装・封止材などに用いられるバリアフィルム、特に、水蒸気バリア性が改善された粘土コーティング膜、バリア材及びその製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0023】
上記課題を解決するために本発明は、以下の技術的手段から構成される。
(1)粘土の層間イオンが水素イオンである水素型スメクタイト、又は当該水素型スメクタイトと添加物を含むコ−ティング膜であって、温度40℃、相対湿度90%における水蒸気透過度(カップ法:JIS Z 0208)が2g/m・day以下である特性を有することを特徴とするコーティング膜。
(2)水素型スメクタイトが、スチーブンサイト、ヘクトライト、サポナイト、又はモンモリロナイトである前記(1)記載のコーティング膜。
(3)コーティング膜に含まれる添加物が、有機高分子であり、その添加量が0超〜80重量%以下である前記(1)記載のコーティング膜。
(4)添加物である有機高分子が、アルカリ金属イオンを含まない水溶性高分子である前記(1)記載のコーティング膜。
(5)コーティング膜上に保護膜を有する前記(1)記載のコーティング膜。
(6)保護膜が、エチルセルロース、又は水溶性ナイロンである前記(5)記載のコーティング膜。
(7)前記(1)記載のコーティング膜と、当該コーティング膜を形成した基材とを構成要素として含み、当該基材の厚さが200μm以下であることを特徴とする水蒸気バリア材。
(8)基材上に、無機バリア層が積層されている前記(7)記載のバリア材。
(9)水蒸気透過度が、2g/m・day以下である前記(7)記載のバリア材。
(10)温度40℃、相対湿度90%の雰囲気で、24時間放置後の重量変化が13.5%以下である前記(7)記載のバリア材。
(11)コーティング膜の厚さが、0.01〜100μmである前記(7)記載のバリア材。
(12)粘土の層間イオンが水素イオンである水素型スメクタイト、又は当該水素型スメクタイトと添加物を含むコーティング膜を基材にコーティングした後に、乾燥・熱処理をすることにより、温度40℃、相対湿度90%における水蒸気透過度(カップ法:JIS Z 0208)が2g/m・day以下であるコーティング膜を有するバリア材を製造することを特徴とする前記(7)記載のバリア材の製造方法。
(13)コーティング工程の後の乾燥・熱処理の温度条件が、100℃以下であり、それにより水蒸気バリア性を発現させる前記(12)記載のバリア材の製造方法。
(14)水素型スメクタイトが、スチーブンサイト、ヘクトライト、サポナイト、又はモンモリロナイトである前記(12)記載のバリア材の製造方法。
(15)コーティング膜に含まれる添加物が、有機高分子であり、その添加量が0超〜80重量%以下である前記(12)記載のバリア材の製造方法。
(16)添加物である有機高分子が、アルカリ金属イオンを含まない水溶性高分子である前記(12)記載のバリア材の製造方法。
【0024】
本発明について更に詳細に説明する。
本発明者らは、水蒸気バリア性向上のために、層間のナトリウムイオンフリー粘土膜を開発することを目標に鋭意研究を重ね、ナトリウムイオンを水素イオンに置換した水素化スメクタイトが、100℃以下の比較的低い熱処理温度で、水蒸気バリア性を発現することを見出した。本発明は、食品、医薬品及びその他製品の包装などに用いられるバリアフィルム、特に、水蒸気バリア性が改善された粘土膜、粘土コーティング膜及びその製造方法を提供するものである。
【0025】
代表的な粘土鉱物であるスメクタイトの結晶構造は、ケイ酸のネットワークが広がる四面体層が、金属酸化物及び/又は水酸化物層である八面体層を挟持した、四面体層−八面体層−四面体層という三層を基本構造とし、厚さ約1nmの単位層から構成されている。スメクタイトは、四面体層、八面体層に生ずる負の層電荷を補償するために、この単位層間には陽イオンが存在している。
【0026】
その構成元素は、酸素、ケイ素、アルミニウム、マグネシウム、鉄、リチウム、及び水素などであり、層間イオンは、ナトリウム、カルシウム、マグネシウム、カリウムなどの交換性陽イオンである。この交換性陽イオンは、水和力があり、水中で膨潤する。このような粘土は、親水性化学物質との親和性に優れ、複合体を作りやすい。本発明者らは、水和力のある層間イオンを除去し、層電荷を補償すれば、吸湿性を改善できるとの考えに立って研究を進めた。
【0027】
本発明で用いる粘土としては、透明性を確保する上で不純物の少ない合成粘土が好ましい。粘土結晶構造及び特性からスメクタイト系が好ましく、スチーブンサイト、ヘクトライト、サポナイト、及びモンモリロナイトのうち一種以上である。スメクタイトは、前述のごとく、層間に、ナトリウム、カルシウム、マグネシウム、カリウムなどの交換性陽イオンを含み、水和力があり、水可溶性化学物質との親和性に優れ、複合体を作りやすい。
【0028】
本発明では、成膜性、耐クラック性及びバリア性を向上させるために、アルカリ金属イオンを含まない水可溶性高分子を添加することができる。水可溶性高分子としては、例えば、セルロース系樹脂、アルキド樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、フッ素樹脂、アクリル樹脂、カルボキシルメチルセルロース樹脂、エチルセルロース樹脂、ポリジアリルアミン系樹脂、メトキシメチル化ポリアミド樹脂、メトキシエチレンマレイン酸系樹脂、テトラメチルアンモニウムクロリド樹脂が挙げられる。
【0029】
その他にも、フェノール樹脂、カプロラプタム、ポリアミド系樹脂、ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂、ポリビニル樹脂、ポリエチレングリコール、ポリアクリルアマイド、ポリアミノ樹脂、ポリ乳酸、スルフォン酸ポリマー、ブチルラバー、ポリイソブチレン、ラテックスポリマーなどが挙げられ、このうちの一種以上を使用することができる。その添加量は、60重量%以下である。
【0030】
層間の交換性陽イオンは、イオン濃度にもよるが、一般に、原子価の大きい方が交換侵入力は大きく、同じ原子価であれば、原子量が大きくて、イオン半径の大きい程、陽イオンが層間に挿入(インターカレート)する。原子価が同一のアルカリ、NHについては、次のような順列である。
Li<Na<(K,NH)<Rb<CS
アルカリ土類イオン間では、次のような順列である。
Mg2+<Ca2+ <Sr2+ <Ba2+
【0031】
水素イオンは、結晶層表面に存在する酸素と水素結合することにより、ヒドロニウムイオン(H,通常、Hと略記)として、層間陽イオン交換に関与する。その交換侵入力は強く、多価陽イオンよりも優先的に結晶層間にインターカレートする(白水晴雄、粘土鉱物学(2000)、朝倉書店、P40)。
【0032】
スメクタイトの層間イオンである、ナトリウムイオン、カルシウムイオンなどを水素イオンに交換する方法は、いくつか考えられ、塩酸や硫酸の水溶液に浸漬処理する方法もあるが、強酸性型のイオン交換樹脂によるカラム法が簡便で作業性もよい。
【0033】
強酸性型のイオン交換樹脂のイオンの選択性は、次の順番になっており、リチウムイオン、水素イオン、ナトリウムイオンの順で、樹脂から解離しやすく、逆の順で、樹脂に吸着する性質を持っている[分析化学ハンドブック(1997年)による]。
Ca2+>Mg2+>・・・・>K>NH>Na>H>Li
したがって、水素イオンは、粘土の層間に存在するナトリウムイオンやカルシウムイオンなどと比較的容易に交換される。
【0034】
イオン交換には、市販の強酸性型の陽イオン交換樹脂を使用する。一般に、強酸性型の陽イオン交換樹脂は、R−SO(固定イオン)+H(対立イオン)のように表わされ、ナトリウムイオン、カルシウムイオンなどの層間イオンは、強酸性型の陽イオン交換樹脂と接触させることにより、対立イオンである水素イオンと交換される。
【0035】
具体的には、粘土分散液を、強酸性型樹脂カラムの上部から注入し、粘土分散液の層間陽イオンであるナトリウムイオンなどを水素イオンに置換する。本発明においては、粘土が1〜2重量%の分散液を、1分間に20mLの流量で、粘土分散液を流通させたが、粘土分散液の濃度、流量などの条件は、イオン交換装置の容量、すなわち、カラムの断面積、イオン交換樹脂量、流通溶液の性状などにより決定されるものであり、限定されるものではない。
【0036】
上部から流入した粘土分散液は、自然に流通させても差し支えないが、カラムの流出側を、例えば、ペリスタポンプを用いて減圧し、流速を制御する方法を採ることができる。工業的には、逆に、カラム内を加圧し、流速などを制御することも可能である。一回の処理量は、カラムを流通させた粘土分散液のカルシウムイオン、ナトリウムイオンなどの陽イオン量を、逐次分析し(例えば、ICP発光分析)、その結果から設定できる。
【0037】
水素イオン交換によって、イオン交換樹脂が、粘土のナトリウムイオンやカルシウムイオンなどの陽イオンで飽和状態になった場合は、一般的な方法で、比較的簡単に、強酸性型樹脂に再生することができる。イオン交換樹脂は、最初の操作手順に戻って、3N〜6Nの塩酸を、樹脂量の3倍程度流通させ、次に、樹脂量の約10倍の純水洗浄を行うことによって再生され、繰り返し使用することが可能である。
【0038】
水素イオンに交換した粘土分散液は、目的に応じて、成膜性や膜強度を上げるために、前述の添加物を加えて、混合振蕩し、コーティング用粘土分散液を作製する。必要に応じて、水を主成分とする溶媒を調製することにより、所定濃度の粘土分散液を作製することができる。
【0039】
水素イオン交換後の粘土分散液の溶媒は、水を主成分とするものであるが、添加物の溶解促進、乾燥時間を早めるために、水とエタノールなどのアルコール類、水とアセトンなどのケトン類の混合溶媒とすることができる。
【0040】
粘土コーティング膜の製造は、比較的容易に行うことができ、基本的には、粘土分散液を基材にコーティングし、強制送風式オーブンやホットプレ−ト上で、分散媒である水又は水を主成分とする溶媒を、50〜60℃の温度でゆっくりと蒸発させ、更に、100℃以下で粘土分散液の溶媒が完全に乾燥するのに必要な時間で熱処理を行う。熱処理時間は、一般的には、24時間以内で十分である。
【0041】
本発明では、熱処理後の粘土コーティング膜は、XRDパターン(Brucker/MacScience M21X ,Xray:CuKα)によって、d(001)のピークが、Na型スメクタイトに見られる2θ=6°が9°付近にシフトし、層間距離が狭くなっていることを確認した。
【0042】
更に、EDX(Energy Dispersive X−ray Spectroscoy)分析によって、測定検出限界内でナトリウムイオンやカルシウムイオンなどが検出されず、構造的に層間イオンが水素に置換された水素型スメクタイトであることを確認した。
【0043】
乾燥後のコーティング膜の厚さは、粘土分散液の濃度、コーティング時の膜厚によって任意に設定できる。例えば、200μmのPETフィルムに、乾燥後のコーティング膜の厚さが2μmのバリア材では、酸素の透過度は、0.1cc/m・day・atm(23℃、ドライ酸素)以下であり、また、水蒸気透過率は、1.6g/m・day以下であった。
【0044】
水蒸気バリア性の効果は、コーティング膜厚0.01μm以上から出現し、膜厚が厚いほどその効果は大きい。耐湿性は、温度40℃、相対湿度90%の雰囲気で、24時間放置後の重量変化が13.5%以下であった。コーティング膜の厚さ寸法は、基材の樹脂フィルムの厚さと、バリア材としての使用目的などから決められが、柔軟性、耐クラック性から4μm以下が望ましい。また、コーティング膜の全光線透過率は85%以上を示し、透明性に優れている。
【0045】
基材としては、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、塩化ビニリデン樹脂(PVD)などの汎用プラスチックフィルムが上げられる。材質は、特に限定されないが、少なくとも耐熱性が100℃以上であることが望ましい。基材の厚みは200μm以下であれば、柔軟性のあるバリア材として、包装・封止材などの用途に適用できる。
【0046】
基材への粘土分散液のコーティング方法は、基材の形状によるが、フィルム状の場合は、バーコーティング、ロールコーティング、ラミナーフローコーティング、ダイコーティング、グラビアコーティングなどの連続コーティングが可能であり、乾燥、熱処理もトンネル式の乾燥炉を用いることにより、連続的に行うことができ、量産性に優れている。容器などの形状が平面でない基材には、ディップコーティング、スプレーコーティングなどが好適である。
【0047】
コーティング膜の表面に、撥水処理、防水処理、及び/又は補強処理を目的に、保護膜を付与することができる。酸化ケイ素、フッ素系、シリコン系、各種金属蒸着膜などの無機系膜、ポリシロキ酸、フッ素含有オルガノポリシロキ酸、アクリル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリウレタン樹脂などの高分子膜を、コーティング膜の表面に形成する。本発明のコーティング膜においては、エチルセルロースや水溶性ナイロンが好適である。保護膜は、樹脂フィルムに粘土分散液をコーティングし、乾燥・熱処理の前に連続して塗布することも可能である。
【0048】
基材に、アルミニウムなどの金属又は金属化合物、酸化ケイ素や酸化チタンなどの無機酸化物などの無機質を無機バリア層として積層することができる。前述のように、無機バリア層は、ガスバリア性、水蒸気バリア性の向上に一定の効果がある。その上に粘土コーティング膜の層を形成することによって、粘土粒子が無機バリア層の微小クラックをカバーし、バリア性は更に改善される。無機バリア層は、蒸着、スパッタリング、イオンプレーティング、CVDなどの一般的な製膜方法で可能である。
【0049】
本発明のバリア材の用途によっては、より接着性を上げるために、本発明の粘土分散液をコーティングする前に、あらかじめ基材に接着剤などのアンカーコートを行うことができる。乾燥条件は、特に限定されるものではないが、強制送風式オーブンやホットプレート上で、工業的には、トンネル式乾燥炉で、30〜120℃の温度条件、好ましくは50℃〜100℃の温度条件で乾燥することができる。乾燥時間は、コーティング膜厚にもよるが、0.1秒〜数十分で十分であり、それにより、密着性に優れたコーティング膜が得られる。
【発明の効果】
【0050】
本発明により、以下のような効果が奏される。
(1)水素型スメクタイト、又は当該水素型スメクタイトと添加物を含み、溶媒が水のみ、水とエタノール、又は水とアセトンからなる粘土分散液を、プラスチックフィルムにコーティングし、積層したバリア材を提供できる。
(2)上記バリア材は、これまでにない水蒸気バリア性を有し、柔軟性があり、密着性に優れ、しかも透明性があって、湿気を嫌う食品、医薬品、精密機械部品・材料など、日用品、工業用品の包装・封止材として有用である。
(3)上記バリア材は、容器などの形状が平面でない基材においても、コーティング方法をディップコーティングやスプレーコーティングにすることによって、同様の効果が得られ、保護膜としての機能を持たせることができる。
(4)フィルム状のバリア材は、粘土分散液のコーティングと乾燥・熱処理を連続した工程で製膜でき、工業的に有利に製造することが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0051】
次に、実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例によって何ら限定されるものでない。
【実施例1】
【0052】
合成スメクタイト(クニミネ工業(株)製スメクトン)10gに、蒸留水490gを入れ、シェーカー(Barnstead MAXQ 5000)で、2時間振蕩することにより、水分散液を作製した。この分散液を、強酸性型樹脂カラムの上部から流量20mL/分で注入し、粘土層間ナトリウムイオンを水素イオンに交換することにより、粘土分散液Aを作製した。
【0053】
この粘土分散液A98gに、添加物として、カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC−Na、ダイセル化学工業製)を2g加えて、シェーカーで2時間振蕩し、粘土分散液Bを作製した。次に、粘土分散液A98gを採取し、蒸留水300gを入れて、2時間振蕩し、添加物として、カルボキシメチルセルロースアンモニウム(CMCNH、ダイセル化学工業製)を2g加えて、更に、2時間振蕩し、粘土分散液Cを作製した。
【0054】
粘土分散液A、B、Cを、厚さ200μmのPETフィルム上にバーコーターによって、400μmのウエット膜厚を製膜し、50℃のホットプレートで乾燥させ、その後、100℃の強制送風式オーブンで24時間熱処理を行い、評価用のサンプルを作製した。乾燥熱処理後のA、B、Cの粘土層の膜厚は、それぞれ3.1、8.1、2.0μmであった。
【0055】
PETフィルムにコーティングした状態の試料を、水蒸気透過度、酸素透過度、全光線透過率を測定し、表1にまとめて記載した。粘土分散液Bのコーティング膜は、測定中にPETフィルムから剥離したが、これは、CMCNaは、添加効果がなく、PETフィルムからコーティング膜が剥離したものとみられる。
【0056】
比較例1
実施例1で基材として使用した、PETフィルムの水蒸気透過度、酸素透過度、全光線透過率を測定し、その結果を表1(PETのみ)に併せて示した。
【0057】
【表1】

【実施例2】
【0058】
実施例1で作製した粘土分散液Cから得られた、膜厚2.0μmのフィルムを用いて、厚さ200μmのPETフィルム上にバーコーターによって、400μmのウエット膜厚をコーティングし、乾燥・熱処理を行い、その上に、保護膜として、エチルセルロース10重量%を含むエタノールをバーコーターで100μmコーティングし、乾燥を行った。水分のはじき具合を、実施例1の粘土分散液Cで得られたコーティング膜と比較し、撥水性の向上を目視にて確認した。
【実施例3】
【0059】
重量比で、合成スメクタイト(クニミネ工業(株)製スメクトン)/CMCNH(ダイセル化学工業製)=80:20と蒸留水との固液比1%及び2%の粘土分散液を、PETフィルムにコーティングし、乾燥・熱処理工程を経て、クラックや剥離などが生じないコーティング膜ができることを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0060】
以上詳述したように、本発明は、水蒸気透過度が小さく、耐湿性があり、柔軟性があり、透明で、他の基材フィルムにコーティングし、多層フィルム、また、他素材の表面保護フィルムとして使用できる水蒸気バリア材に係るものであり、当該水蒸気バリア材は、包装材、封止材のほか、多くの製品に利用することができる。
【0061】
本発明の水蒸気バリア材は、食品包装用フィルム、飲料包装用フィルム、医薬品包装用フィルム、日用品包装用フィルム、工業製品包装用フィルム、その他、各種製品の包装用フィルム、多層包装用フィルム、封止フィルム、抗酸化皮膜、耐食性皮膜、耐候性皮膜、耐薬品性皮膜などとして有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粘土の層間イオンが水素イオンである水素型スメクタイト、又は当該水素型スメクタイトと添加物を含むコ−ティング膜であって、温度40℃、相対湿度90%における水蒸気透過度(カップ法:JIS Z 0208)が2g/m・day以下である特性を有することを特徴とするコーティング膜。
【請求項2】
水素型スメクタイトが、スチーブンサイト、ヘクトライト、サポナイト、又はモンモリロナイトである請求項1記載のコーティング膜。
【請求項3】
コーティング膜に含まれる添加物が、有機高分子であり、その添加量が0超〜80重量%以下である請求項1記載のコーティング膜。
【請求項4】
添加物である有機高分子が、アルカリ金属イオンを含まない水溶性高分子である請求項1記載のコーティング膜。
【請求項5】
コーティング膜上に保護膜を有する請求項1記載のコーティング膜。
【請求項6】
保護膜が、エチルセルロース、又は水溶性ナイロンである請求項5記載のコーティング膜。
【請求項7】
請求項1記載のコーティング膜と、当該コーティング膜を形成した基材とを構成要素として含み、当該基材の厚さが200μm以下であることを特徴とする水蒸気バリア材。
【請求項8】
基材上に、無機バリア層が積層されている請求項7記載のバリア材。
【請求項9】
水蒸気透過度が、2g/m・day以下である請求項7記載のバリア材。
【請求項10】
温度40℃、相対湿度90%の雰囲気で、24時間放置後の重量変化が13.5%以下である請求項7記載のバリア材。
【請求項11】
コーティング膜の厚さが、0.01〜100μmである請求項7記載のバリア材。
【請求項12】
粘土の層間イオンが水素イオンである水素型スメクタイト、又は当該水素型スメクタイトと添加物を含むコーティング膜を基材にコーティングした後に、乾燥・熱処理をすることにより、温度40℃、相対湿度90%における水蒸気透過度(カップ法:JIS Z 0208)が2g/m・day以下であるコーティング膜を有するバリア材を製造することを特徴とする請求項7記載のバリア材の製造方法。
【請求項13】
コーティング工程の後の乾燥・熱処理の温度条件が、100℃以下であり、それにより水蒸気バリア性を発現させる請求項12記載のバリア材の製造方法。
【請求項14】
水素型スメクタイトが、スチーブンサイト、ヘクトライト、サポナイト、又はモンモリロナイトである請求項12記載のバリア材の製造方法。
【請求項15】
コーティング膜に含まれる添加物が、有機高分子であり、その添加量が0超〜80重量%以下である請求項12記載のバリア材の製造方法。
【請求項16】
添加物である有機高分子が、アルカリ金属イオンを含まない水溶性高分子である請求項12記載のバリア材の製造方法。

【公開番号】特開2012−240868(P2012−240868A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−110827(P2011−110827)
【出願日】平成23年5月17日(2011.5.17)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(000208455)大和製罐株式会社 (309)
【Fターム(参考)】