説明

水蒸気プラズマ処理検知用インキ組成物及び水蒸気プラズマ処理検知インジケーター

【課題】大掛かりな装置を必要とせず、被処理物のそれぞれについて水蒸気プラズマ処理の完了を個別検知することが可能なインキ組成物及びそれを用いたインジケーターを提供する。
【解決手段】1)アントラキノン系色素、アゾ系色素及びメチン系色素の少なくとも1種並びに2)バインダー樹脂、カチオン系界面活性剤及び増量剤の少なくとも1種を含有する水蒸気プラズマ処理検知用インキ組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水蒸気をプラズマ発生用ガスとするプラズマ処理の検知に有用な水蒸気プラズマ処理検知用インキ組成物及び水蒸気プラズマ処理検知インジケーターに関する。
【背景技術】
【0002】
病院、研究所等において使用される各種の器材、器具等は、消毒・殺菌のために滅菌処理が施される。滅菌処理の一つとしてプラズマ滅菌処理が知られている。例えば、プラズマ滅菌処理は、水蒸気プラズマを発生させ、当該プラズマにより器材、器具等を滅菌するものである(例えば、非特許文献1の「3.3.1低圧力放電プラズマを用いた滅菌実験」欄)。
【0003】
また、水蒸気プラズマ処理は、滅菌だけでなく半導体素子の製造工程におけるプラズマドライエッチング及び電子部品などの被処理物の表面のプラズマ洗浄にも用いられている(例えば、特許文献1)。
【0004】
プラズマドライエッチングは、一般的には、真空容器である反応チャンバー内に配置された電極に高周波電力を印加し、反応チャンバー内に導入したプラズマガスをプラズマ化して半導体ウェハーを高精度にエッチングする。また、プラズマ洗浄は、電子部品などの被処理物の表面に析出した金属酸化物を還元することでボンディング性や半田の濡れ性を改善して接着強度を向上させたり、封止樹脂との密着性や濡れ性を改善させたりする。
【0005】
これらのプラズマ処理の終点を検知する方法としては、例えば、特許文献2には、「ガスプラズマ中からの発光スペクトルを波長範囲300〜650nmのフォトマルチプライアがもつ波長帯域で全て受光することにより得られる発光スペクトル強度曲線を用いたことを特徴とするプラズマドライエッチングの終点検知方法。」が記載されている。
【0006】
また、特許文献3には、「ある特定波長領域のみを選択的に透過させるバンドパスフィルタに監視するプラズマ光源からの入射角度が変化する入射角変化手段を用いて透過波長を変化させる透過工程と、この透過工程で透過した分光を検知器で検知する検知工程と、この検知工程の検知器からの検知出力および前記透過工程の入射角変化手段の角度出力が入力されることにより、入射角度が変化しても透過波長の検知出力が入射角度を変化させないで得られる値になるようにする波長変換手段、出力補正手段を備える演算出力装置で反応中と反応前を比較演算し、出力装置にプラズマ処理の終点を出力する演算出力工程とを含むことを特徴とするプラズマ処理の終点検知方法。」が記載されている。
【0007】
これらの従来の終点検知方法は、発光スペクトルの解析装置、演算出力装置等の装置が必要である上、プラズマ処理された被処理物のそれぞれについて個別検知することは困難である。よって、大掛かりな装置を必要としない簡便な方法であって、被処理物のそれぞれについてプラズマ処理の完了を個別検知することが可能な技術の開発が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2001−308070号公報
【特許文献2】特開平6−069165号公報
【特許文献3】特開2004−146738号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Journal of Plasma and Fusion Research Vol.83, No.7 July 2007
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、大掛かりな装置を必要とせず、被処理物のそれぞれについて水蒸気プラズマ処理の完了を個別検知することが可能なインキ組成物及びそれを用いたインジケーターを提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、特定組成のインキ組成物を採用することによって上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
即ち、本発明は、下記の水蒸気プラズマ処理検知用インキ組成物及び水蒸気プラズマ処理検知インジケーターに関する。
1.1)アントラキノン系色素、アゾ系色素及びメチン系色素の少なくとも1種並びに2)バインダー樹脂、カチオン系界面活性剤及び増量剤の少なくとも1種を含有する水蒸気プラズマ処理検知用インキ組成物。
2.前記バインダー樹脂の一部又は全部が、窒素含有高分子である、上記項1に記載のインキ組成物。
3.前記窒素含有高分子の一部又は全部が、ポリアミド樹脂である、上記項2に記載のインキ組成物。
4.前記ポリアミド樹脂が、リノール酸の二量体とジアミン又はポリアミンとの反応生成物である、上記項3に記載のインキ組成物。
5.前記カチオン系界面活性剤が、テトラアルキルアンモニウム塩、イソキノリニウム塩、イミダゾリニウム塩及びピリジニウム塩からなる群から選択される少なくとも1種である、上記項1〜4のいずれかに記載のインキ組成物。
6.前記増量剤の一部又は全部が、シリカである、上記項1〜5のいずれかに記載のインキ組成物。
7.前記窒素含有高分子の含有量がインキ組成物中1〜20重量%である、上記項2〜6のいずれかに記載のインキ組成物。
8.更に、水蒸気プラズマ処理雰囲気下で変色しない色素成分の少なくとも1種を含有する、上記項1〜7のいずれかに記載のインキ組成物。
9.上記項1〜8のいずれかに記載のインキ組成物からなる変色層を含む水蒸気プラズマ処理検知インジケーター。
10.前記変色層の表面に複数のクラックを有する、上記項9に記載のインジケーター。
11.更に、水蒸気プラズマ処理雰囲気下で変色しない非変色層を含む、上記項9又は10に記載のインジケーター。
12.気体透過性包装体の内面に上記項9〜11のいずれかに記載のインジケーターが設けられている水蒸気プラズマ処理用包装体。
13.前記インジケーターを外部から確認できるように、包装体の一部に透明窓部が設けられている、上記項12に記載の包装体。
14.前記気体透過性包装体が、ポリエチレン系繊維により形成されている、上記項12又は13に記載の包装体。
15.上記項12〜14のいずれかに記載の包装体に被処理物を装填する工程、被処理物が装填された包装体を密封する工程、及び当該包装体を水蒸気プラズマ処理雰囲気下に置く工程を有する水蒸気プラズマ処理方法。
16.前記インジケーターの変色層が変色するまで水蒸気プラズマ処理雰囲気下に包装体を置く、上記項15に記載の処理方法。
【0013】
以下、本発明の水蒸気プラズマ処理検知用インキ組成物及び水蒸気プラズマ処理検知インジケーターについて詳細に説明する。
【0014】
1.水蒸気プラズマ処理検知用インキ組成物
本発明の水蒸気プラズマ処理検知用インキ組成物は、1)アントラキノン系色素、アゾ系色素及びメチン系色素の少なくとも1種並びに2)バインダー樹脂、カチオン系界面活性剤及び増量剤の少なくとも1種を含有することを特徴とする。
【0015】
着色剤
本発明組成物では、着色剤(変色色素)としてアントラキノン系色素、アゾ系色素及びメチン系色素の少なくとも1種を用いる。
【0016】
アントラキノン系色素はアントラキノンを基本骨格とするものであれば限定的でなく、公知のアントラキノン系分散染料等も使用できる。特にアミノ基を有するアントラキノン系色素が好ましい。より好ましくは、第一アミノ基及び第二アミノ基の少なくとも1種のアミノ基を有するアントラキノン系色素である。この場合、各アミノ基は、2以上有していても良く、これらは互いに同種又は相異なっても良い。
【0017】
より具体的には、例えば1,4−ジアミノアントラキノン(C.I.Disperse Violet 1)、1−アミノ−4−ヒドロキシ−2−メチルアミノアントラキノン(C.I.Disperse Red 4)、1−アミノ−4−メチルアミノアントラキノン(C.I.Disperse Violet 4)、1,4−ジアミノ−2−メトキシアントラキノン(C.I.Disperse Red 11)、1−アミノ−2−メチルアントラキノン(C.I.Disperse Orange 11)、1−アミノ−4−ヒドロキシアントラキノン(C.I.Disperse Red 15)、1,4,5,8−テトラアミノアントラキノン(C.I.Disperse Blue 1)、1,4−ジアミノ−5−ニトロアントラキノン(C.I.Disperse Violet 8)等を挙げることができる(カッコ内はカラーインデックス名)。
【0018】
その他にも C.I.Solvent Blue 14、C.I.Solvent Blue 35、C.I.Solvent Blue 63、C.I.Solvent Violet 13、C.I.Solvent Violet 14、C.I.Solvent Red 52、C.I.Solvent Red 114、C.I.Vat Blue 21、C.I.Vat Blue 30、C.I.Vat Violet 15、C.I.Vat Violet 17、C.I.Vat Red 19、C.I.Vat Red 28、C.I.Acid Blue 23、C.I.Acid Blue 80、C.I.Acid Violet 43、C.I.Acid Violet 48、C.I.Acid Red 81、C.I.Acid Red 83、C.I.Reactive Blue 4、C.I.Reactive Blue 19、C.I.Disperse Blue 7 等として知られている色素も使用することができる。
【0019】
これらのアントラキノン系色素は、単独又は2種以上を併用することができる。これらのアントラキノン系色素の中でも、C.I Disperse Blue 7、C.I Disperse Violet 1 等が好ましい。また、本発明では、これらのアントラキノン系色素の種類(分子構造等)を変えることによって検知感度の制御を行うこともできる。
【0020】
アゾ系色素は、発色団としてアゾ基−N=N−を有するものであれば限定されない。例えば、モノアゾ色素、ポリアゾ色素、金属錯塩アゾ色素、スチルベンアゾ色素、チアゾールアゾ色素等が挙げられる。より具体的にカラーインデックス名で表記すれば、C.I.Solvent Red 1、C.I.Solvent Red 3、C.I.Solvent Red 23、C.I.Disperse Red 13、C.I.Disperse Red 52、C.I.Disperse Violet 24、C.I.Disperse Blue 44、C.I.Disperse Red 58、C.I.Disperse Red 88、C.I.Disperse Yellow 23、C.I.Disperse Orange 1、C.I.Disperse Orange 5、C.I.Solvent Red 167:1等を挙げることができる。これらは、1種又は2種以上で用いることができる。
【0021】
メチン系色素としては、メチン基を有する色素であれば良い。従って、本発明において、ポリメチン系色素、シアニン系色素等もメチン系色素に包含される。これらは、公知又は市販のメチン系色素から適宜採用することができる。具体的には、C.I.Basic Red 12、C.I.Basic Red 13、C.I.Basic Red 14、C.I.Basic Red 15、C.I.Basic Red 27、C.I.Basic Red 35、C.I.Basic Red 36、C.I.Basic Red 37、C.I.Basic Red 45、C.I.Basic Red 48、C.I.Basic Yellow 11、C.I.Basic Yellow 12、C.I.Basic Yellow 13、C.I.Basic Yellow 14、C.I.Basic Yellow 21、C.I.Basic Yellow 22、C.I.Basic Yellow 23、C.I.Basic Yellow 24、C.I.Basic Violet 7、C.I.Basic Violet 15、C.I.Basic Violet 16、C.I.Basic Violet 20、C.I.Basic Violet 21、C.I.Basic Violet 39、C.I.Basic Blue 62、C.I.Basic Blue 63等を挙げることができる。これらは、1種又は2種以上で用いることができる。
【0022】
上記着色剤の含有量は、着色剤の種類、所望の色相等に応じて適宜決定できるが、一般的には本発明組成物中0.05〜5重量%程度、特に0.1〜1重量%とすることが望ましい。
【0023】
本発明では、上記着色剤以外の色素又は顔料を併存させても良い。特に、水蒸気プラズマ処理雰囲気下で変色しない色素成分(「非変色色素」という)を含有させても良い。これによって、ある色から他の色への色調の変化により視認効果をいっそう高めることができる。非変色色素としては、公知のインキ(普通色インキ)を使用することができる。この場合の非変色色素の含有量は、その非変色色素の種類等に応じて適宜設定すれば良い。
【0024】
本発明の水蒸気プラズマ処理検知用インキ組成物は、上記着色剤に加えてバインダー樹脂、カチオン系界面活性剤及び増量剤の少なくとも1種を含有する。
【0025】
バインダー樹脂
バインダー樹脂としては、基材の種類等に応じて適宜選択すれば良く、例えば筆記用、印刷用等のインキ組成物に用いられている公知の樹脂成分をそのまま採用できる。具体的には、例えばマレイン酸樹脂、ケトン樹脂、アルキルフェノール樹脂、ロジン変性樹脂、ポリビニルブチラール、セルロース系樹脂、ポリエステル系樹脂、スチレンマレイン酸樹脂、スチレンアクリル酸樹脂、アクリル系樹脂等を挙げることができる。
【0026】
本発明では、特にセルロース系樹脂を好適に用いることができる。セルロース系樹脂を用いることによって、インキ組成物に増量剤(シリカ等)が含まれていても優れた定着性を得ることができ、基材からの脱落、剥離等を効果的に防止することができる。また、インキ組成物の塗膜表面に複数のクラックを効果的に生じさせることによりインジケーターの感度向上に寄与することができる。
【0027】
本発明では、バインダー樹脂の一部又は全部として、上記列挙した樹脂以外に窒素含有高分子を用いてもよい。窒素含有高分子はバインダーとしての役割に加えて感度強化剤としての役割を果たす。即ち、感度強化剤を用いることにより、水蒸気プラズマ処理検知の精度(感度)をより高めることができる。これにより、水蒸気プラズマ処理検知用包装体中においても確実に変色するので、包装体に用いるインジケーターとして非常に有利である。
【0028】
窒素含有高分子は、例えばポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアクリロニトリル樹脂、アミノ樹脂、ポリアクリルアミド、ポリビニルピロリドン、ポリビニルイミダゾール、ポリエチレンイミン等の合成樹脂を好適に用いることができる。これらは1種又は2種以上で使用することができる。本発明では特にポリアミド樹脂を用いることが好ましい。ポリアミド樹脂の種類、分子量等は特に限定されず、公知又は市販のポリアミド樹脂を用いることができる。この中でも、リノール酸の二量体とジアミン又はポリアミンとの反応生成物(長鎖線状重合物)であるポリアミド樹脂を好適に用いることができる。ポリアミド樹脂は、分子量4000〜7000の熱可塑性樹脂である。このような樹脂も市販品を用いることができる。
【0029】
バインダー樹脂の含有量は、バインダー樹脂の種類、用いる着色剤の種類等に応じて適宜決定できるが、一般的にはインキ組成物中50重量%程度以下、特に5〜35重量%とすることが望ましい。バインダー樹脂として窒素含有高分子を用いる場合には、インキ組成物中の窒素含有高分子の含有量は、0.1〜50重量%程度、特に1〜20重量%とすることが望ましい。
【0030】
カチオン系界面活性剤
カチオン系界面活性剤としては、特に制限されないが、特にテトラアルキルアンモニウム塩、イソキノリニウム塩、イミダゾリニウム塩及びピリジニウム塩の少なくとも1種を用いることが望ましい。これらは市販品も使用できる。カチオン系界面活性剤を前記の着色剤と併用することによって、より優れた検知感度を得ることができる。
【0031】
テトラアルキルアンモニウム塩の中でも、アルキルトリメチルアンモニウム塩、ジアルキルジメチルアンモニウム塩等が好ましい。具体的には、塩化ヤシアルキルトリメチルアンモニウム、塩化牛脂アルキルトリメチルアンモニウム、塩化ベヘニルトリメチルアンモニウム、塩化ミリスチルトリメチルアンモニウム、塩化テトラメチルアンモニウム、塩化テトラブチルアンモニウム、塩化テトラプロピルアンモニウム、臭化テトラメチルアンモニウム、臭化テトラブチルアンモニウム、臭化テトラプロピルアンモニウム、塩化トリメチル−2−ヒドロキシエチルアンモニウム、塩化セチルトリメチルアンモニウム、塩化ラウリルトリメチルアンモニウム、塩化ステアリルトリメチルアンモニウム、塩化ジオクチルジメチルアンモニウム、塩化ジステアリルジメチルアンモニウム、塩化アルキルベンジルジメチルアンモニウム等が挙げられる。特に、塩化ベヘニルトリメチルアンモニウム、塩化ラウリルトリメチルアンモニウム等が好ましい。
【0032】
イソキノリニウム塩としては、例えばラウリルイソキノリニウムブロマイド、セチルイソキノリニウムブロマイド、セチルイソキノリニウムクロライド、ラウリルイソキノリニウムクロライド等が挙げられる。この中でも、特にラウリルイソキノリニウムブロマイドが好ましい。
【0033】
イミダゾリニウム塩としては、例えば1−ヒドロキシエチル−2−オレイルイミダゾリニウムクロライド、2−クロロ−1,3−ジメチルイミダゾリニウムクロライド等が挙げられる。この中でも、特に2−クロロ−1,3−ジメチルイミダゾリニウムクロライドが好ましい。
【0034】
ピリジニウム塩としては、例えばピリジニウムクロライド、1−エチルピリジニウムブロマイド、ヘキサデシルピリジニウムクロライド、セチルピリジニウムクロライド、1−ブチルピリジニウムクロライド、N−n−ブチルピリジニウムクロライド、ヘキサデシルピリジニウムブロマイド、N−ヘキサデシルピリジニウムブロマイド、1−ドデシルピリジニウムクロライド、3−メチルヘキシルピリジニウムクロライド、4−メチルヘキシルピリジニウムクロライド、3−メチルオクチルピリジニウムクロライド、2−クロロ−1−メチルピリジニウムアイオダイド、3,4−ジメチルブチルピリジニウムクロリド、ピリジニウム−n−ヘキサデシルクロリド−水和物、N−(シアノメチル)ピリジニウムクロリド、N−アセトニルピリジニウムブロマイド、1−(アミノホルミルメチル)ピリジニウムクロライド、2−アミジノピリジニウムクロライド、2−アミノピリジニウムクロライド、N−アミノピリジニウムアイオダイド、1−アミノピリジニウムアイオダイド、1−アセトニルピリジニウムクロリド、N−アセトニルピリジニウムブロマイド等が挙げられる。この中でも、特にヘキサデシルピリジニウムクロライドが好ましい。
【0035】
カチオン系界面活性剤の含有量は、上記界面活性剤の種類、用いる着色剤の種類等に応じて適宜決定できるが、一般的にはインキ組成物中0.2〜10重量%程度、特に0.5〜5重量%とすることが望ましい。
【0036】
増量剤
増量剤としては、特に制限されず、例えばベントナイト、活性白土、酸化アルミニウム、シリカ、シリカゲル等の無機材料を挙げることができる。その他にも公知の体質顔料として知られている材料を用いることができる。この中でも、シリカ、シリカゲル及びアルミナの少なくもと1種が好ましい。特にシリカがより好ましい。シリカ等を使用する場合には、特に変色層表面に複数のクラックを効果的に生じさせることができる。その結果、インジケーターの検知感度をより高めることができる。
【0037】
増量剤の含有量は、用いる増量剤や着色剤の種類等に応じて適宜決定できるが、一般的にはインキ組成物中1〜30重量%程度、特に2〜20重量%とすることが望ましい。
【0038】
その他の添加剤
本発明のインキ組成物は、必要に応じて溶剤、レベリング剤、消泡剤、紫外線吸収剤、表面調整剤等の公知のインキに用いられている成分を適宜配合することができる。
【0039】
本発明で使用できる溶剤としては、通常、印刷用、筆記用等のインキ組成物に用いられる溶剤であればいずれも使用できる。例えば、アルコール又は多価アルコール系、エステル系、エーテル系、ケトン系、炭化水素系、グリコールエーテル系等の各種溶剤が使用でき、使用する色素、樹脂系バインダーの溶解性等に応じて適宜選択すれば良い。
【0040】
溶剤の含有量は、用いる溶剤や着色剤の種類等に応じて適宜決定できるが、一般的にはインキ組成物中40〜95重量%程度、特に60〜90重量%とすることが望ましい。
【0041】
本発明のインキ組成物の各成分は、同時に又は順次に配合し、ホモジナイザー、ディゾルバー等の公知の攪拌機を用いて均一に混合すれば良い。例えば、まず溶剤に前記着色剤、並びにバインダー樹脂、カチオン系界面活性剤及び増量剤の少なくとも1種(必要に応じてその他の添加剤)を順に配合し、攪拌機により混合・攪拌すれば良い。
【0042】
2.水蒸気プラズマ滅菌検知インジケーター
本発明のインジケーターは、前記の本発明インキ組成物からなる変色層を含む。一般的には、基材上に本発明インキ組成物を塗布又は印刷することによって変色層を形成することができる。この場合の基材としては、変色層を形成できるものであれば特に制限されない。例えば、金属又は合金、セラミックス、ガラス、コンクリート、プラスチックス(ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリプロピレン、ナイロン、ポリスチレン、ポリサルフォン、ポリカーボネート、ポリイミド等)、繊維類(不織布、織布、その他の繊維シート)、これらの複合材料等を用いることができる。また、ポリプロピレン合成紙、ポリエチレン合成紙等の合成樹脂繊維紙(合成紙)も好適に用いることができる。
【0043】
本発明における変色層は、色が他の色に変化するもののほか、色が退色又は消色するものも包含される。
【0044】
変色層の形成は、本発明インキ組成物を用い、シルクスクリーン印刷、グラビア印刷、オフセット印刷、凸版印刷、フレキソ印刷等の公知の印刷方法に従って行うことができる。また、印刷以外の方法でも形成できる。例えば、基材をインキ組成物中に浸漬することによって変色層を形成することもできる。不織布等のようにインキが浸透する材料には特に好適である。
【0045】
変色層は、その表面に複数のクラックを有することが望ましい。すなわち、変色層の表面に開放気孔が形成され、多孔質化していることが望ましい。かかる構成により、水蒸気プラズマ処理検知の感度をより高めることができる。この場合には、水蒸気プラズマ処理検知包装体の内部に変色層が配置されても、所望の変色効果が得られる。クラックは、特に本発明インキ組成物のバインダーとしてセルロース系樹脂を用いることによって効果的に形成することができる。すなわち、セルロース系樹脂の使用により、良好な定着性を維持しつつ、上記のようなクラックを形成することができる。
【0046】
本発明では、さらに水蒸気プラズマ処理雰囲気下で変色しない非変色層が基材上及び/又は変色層上に形成されていても良い。非変色層は、通常は市販の普通色インキにより形成することができる。例えば、水性インキ、油性インキ、無溶剤型インキ等を用いることができる。非変色層の形成に用いるインキには、公知のインキに配合されている成分、例えば樹脂バインダー、増量剤、溶剤等が含まれていても良い。
【0047】
非変色層の形成は、変色層の場合と同様にすれば良い。例えば、普通色インキを用い、シルクスクリーン印刷、グラビア印刷、オフセット印刷、凸版印刷、フレキソ印刷等の公知の印刷方法に従って行うことができる。なお、変色層・非変色層の印刷の順序は特に制限されず、印刷するデザイン等に応じて適宜選択すれば良い。
【0048】
本発明インジケーターでは、変色層及び非変色層をそれぞれ1層ずつ形成しても良いし、あるいはそれぞれ複数層形成しても良い。また、変色層どうし又は非変色層どうしを積層しても良い。この場合、変色層どうしが互いに同じ組成であっても又は異なる組成であっても良い。同様に、非変色層どうしが互いに同じ組成であっても又は異なる組成であっても良い。
【0049】
さらに、変色層及び非変色層は、基材又は各層の全面に形成しても良く、あるいは部分的に形成しても良い。これらの場合、特に変色層の変色を確保するために、少なくとも1つの変色層の一部又は全部が水蒸気プラズマ処理雰囲気に晒されるように変色層及び非変色層を形成すれば良い。
【0050】
本発明では、水蒸気プラズマ処理の完了が確認できる限り、変色層と非変色層とをどのように組み合わせても良い。例えば、変色層の変色によりはじめて変色層と非変色層の色差が識別できるように変色層及び非変色層を形成したり、あるいは変色によってはじめて変色層及び非変色層との色差が消滅するように形成することもできる。本発明では、特に、変色によってはじめて変色層と非変色層との色差が識別できるように変色層及び非変色層を形成することが好ましい。
【0051】
色差が識別できるようにする場合には、例えば変色層の変色によりはじめて文字、図柄及び記号の少なくとも1種が現れるように変色層及び非変色層を形成すれば良い。本発明では、文字、図柄及び記号は、変色を知らせるすべての情報を包含する。これら文字等は、使用目的等に応じて適宜デザインすれば良い。
【0052】
また、変色前における変色層と非変色層とを互いに異なる色としても良い。例えば、両者を実質的に同じ色とし、変色後にはじめて変色層と非変色層との色差(コントラスト)が識別できるようにしても良い。
【0053】
本発明インジケーターでは、変色層と非変色層とが重ならないように変色層及び非変色層を形成することができる。これにより、使用するインキ量を節約することが可能である。
【0054】
さらに、本発明では、変色層及び非変色層の少なくとも一方の層上にさらに変色層又は非変色層を形成しても良い。例えば、変色層と非変色層とが重ならないように変色層及び非変色層を形成した層(「変色−非変色層」という)の上からさらに別のデザインを有する変色層を形成すれば、変色−非変色層における変色層及び非変色層の境界線が実質的に識別できない状態にすることができるので、より優れた意匠性を達成することができる。
【0055】
本発明のインジケーターは、水蒸気ガスプラズマ処理雰囲気下で行うプラズマ処理であればいずれにも適用できる。従って、水蒸気ガスプラズマ処理装置(具体的には、水蒸気をプラズマ発生用ガスとして含有する雰囲気下で交流電圧、パルス電圧、高周波、マイクロ波等を印加してプラズマを発生させることによりプラズマ処理を行う装置)におけるインジケーターとして有用である。例えば、インジケーターの使用に際しては、プラズマ処理装置内又は被処理物のそれぞれに本発明インジケーターを置き、プラズマ処理雰囲気下に晒せば良い。この場合、装置内に置かれたインジケーターの変色により所定のプラズマ処理が行われたこと検知することができる。
【0056】
3.包装体
本発明は、気体透過性包装体の内面に本発明のインジケーターが設けられている水蒸気プラズマ処理用包装体を包含する。
【0057】
気体透過性包装体は、その中に被処理物を封入したままで水蒸気プラズマ処理できる包装体が好ましい。これは、水蒸気プラズマ処理用包装体(パウチ)として使用されている公知又は市販のものを使用することができる。例えば、ポリエチレン系繊維(ポリエチレン合成紙)により形成されている包装体を好適に用いることができる。この包装体に被処理物を入れ、開口部をヒートシール等により密閉した後、包装体ごとプラズマ処理装置中で処理することができる。
【0058】
本発明インジケーターは、上記包装体の内面に配置すればよい。配置する方法は限定的でなく、接着剤、ヒートシール等による方法のほか、本発明インキ組成物を直接に包装体の内面に塗布又は印刷することによりインジケーターを構成することもできる。また、上記塗布又は印刷による場合は、包装体の製造段階でインジケーターを形成しておくこともできる。
【0059】
本発明包装体では、インジケーターを外部から確認できるように、包装体の一部に透明窓部が設けられていることが望ましい。例えば、包装体を透明シートと前記ポリエチレン合成紙で作製し、その透明シートを通して視認できるような位置に包装体内面にインジケーターを形成すれば良い。
【0060】
本発明の包装体を用いてプラズマ処理する場合、例えば包装体に被処理物を装填する工程、被処理物が装填された包装体を密封する工程、及び当該包装体を水蒸気プラズマ処理雰囲気下に置く工程を有する方法によれば良い。より具体的には、被処理物を包装体に入れた後、ヒートシール等の公知の方法に従って密封する。次いで、その包装体ごと水蒸気プラズマ処理雰囲気下に配置する。例えば、公知又は市販の水蒸気プラズマ処理装置の処理室に配置し、処理を行う。処理が終了した後は、包装体ごと取り出し、そのまま使用時まで包装体中で保管することができる。この場合、プラズマ処理は、インジケーターの変色層が変色するまで水蒸気プラズマ処理雰囲気下に包装体を置くことが好ましい。
【発明の効果】
【0061】
本発明インキ組成物は、1)アントラキノン系色素、アゾ系色素及びメチン系色素の少なくとも1種並びに2)バインダー樹脂、カチオン系界面活性剤及び増量剤の少なくとも1種を含有することにより、当該インキ組成物からなる変色層を含む水蒸気プラズマ処理検知インジケーターは、大掛かりな装置を必要とせず、被処理物のそれぞれについて水蒸気プラズマ処理の完了を個別検知することができる。
【発明を実施するための形態】
【0062】
以下に実施例及び比較例を示し、本発明の特徴を一層明確にする。なお、本発明は、実施例の態様に制限されない。
【0063】
実施例1(インキ組成物の調製)
C.I. Solvent Red 167:1(アゾ系色素)1.0部、バーサミド756(コグニスジャパン製ポリアミド樹脂)5.0部、RS1/2(エス・エヌ・イー・ピー・ジャパン製ニトロセルロース)5.0部、NIKKOL CA-2150(日光ケミカルズ製4級アンモニウム塩型界面活性剤)4.0部、アエロジルR−972(日本アエロジル製シリカゲル)5.0部、ブチルセロソルブ55.5部及びシクロヘキサノン24.5部を混合することによりインキ組成物を調製した。
【0064】
試験例1
実施例1で調製したインキ組成物を白色PETにスクリーン印刷・乾燥することで赤色のインジケーターを得た。インジケーターをガラス製シャーレに入れ、1対の円盤型電極を備えた容積8.8Lのガラス製ベルジャーの電極間にセットした。シャーレに蓋はされておらず開放されている。
【0065】
水蒸気源となるイオン交換水はフラスコに入れてバルブを介してベルジャーに接続した。ベルジャー内を減圧し、真空度0.2Torrの条件を整えた後、電極に周波数13.56MHz、出力100Wの高周波を30秒〜10分間印加することで水蒸気プラズマを発生させた。
【0066】
その結果、下表のように高周波の印加時間に応じてインジケーターは赤色から白色に段階的に変色した。
【0067】
【表1】

【0068】
×:変化なし、△:僅かに変化、○:変色
試験例2
高周波の印加時間を30秒一定とし、高周波出力を200〜400Wに変更した以外は実施例1と同様にして水蒸気プラズマを発生させた。
【0069】
その結果、下表のように高周波出力に応じてインジケーターは赤色から白色に段階的に変色した。
【0070】
【表2】

【0071】
×:変化なし、△:僅かに変色、○:変色
表1及び表2の結果から明らかなように、実施例1で調製した本発明インキ組成物の乾燥塗膜である本発明インジケーターは、水蒸気プラズマ処理を時間及び出力の両面から検知することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1)アントラキノン系色素、アゾ系色素及びメチン系色素の少なくとも1種並びに2)バインダー樹脂、カチオン系界面活性剤及び増量剤の少なくとも1種を含有する水蒸気プラズマ処理検知用インキ組成物。
【請求項2】
前記バインダー樹脂の一部又は全部が、窒素含有高分子である、請求項1に記載のインキ組成物。
【請求項3】
前記窒素含有高分子の一部又は全部が、ポリアミド樹脂である、請求項2に記載のインキ組成物。
【請求項4】
前記ポリアミド樹脂が、リノール酸の二量体とジアミン又はポリアミンとの反応生成物である、請求項3に記載のインキ組成物。
【請求項5】
前記カチオン系界面活性剤が、テトラアルキルアンモニウム塩、イソキノリニウム塩、イミダゾリニウム塩及びピリジニウム塩からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1〜4のいずれかに記載のインキ組成物。
【請求項6】
前記増量剤の一部又は全部が、シリカである、請求項1〜5のいずれかに記載のインキ組成物。
【請求項7】
前記窒素含有高分子の含有量がインキ組成物中1〜20重量%である、請求項2〜6のいずれかに記載のインキ組成物。
【請求項8】
更に、水蒸気プラズマ処理雰囲気下で変色しない色素成分の少なくとも1種を含有する、請求項1〜7のいずれかに記載のインキ組成物。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載のインキ組成物からなる変色層を含む水蒸気プラズマ処理検知インジケーター。
【請求項10】
前記変色層の表面に複数のクラックを有する、請求項9に記載のインジケーター。
【請求項11】
更に、水蒸気プラズマ処理雰囲気下で変色しない非変色層を含む、請求項9又は10に記載のインジケーター。
【請求項12】
気体透過性包装体の内面に請求項9〜11のいずれかに記載のインジケーターが設けられている水蒸気プラズマ処理用包装体。
【請求項13】
前記インジケーターを外部から確認できるように、包装体の一部に透明窓部が設けられている、請求項12に記載の包装体。
【請求項14】
前記気体透過性包装体が、ポリエチレン系繊維により形成されている、請求項12又は13に記載の包装体。
【請求項15】
請求項12〜14のいずれかに記載の包装体に被処理物を装填する工程、被処理物が装填された包装体を密封する工程、及び当該包装体を水蒸気プラズマ処理雰囲気下に置く工程を有する水蒸気プラズマ処理方法。
【請求項16】
前記インジケーターの変色層が変色するまで水蒸気プラズマ処理雰囲気下に包装体を置く、請求項15に記載の処理方法。

【公開番号】特開2013−95765(P2013−95765A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−236737(P2011−236737)
【出願日】平成23年10月28日(2011.10.28)
【出願人】(390039734)株式会社サクラクレパス (211)
【出願人】(000125347)学校法人近畿大学 (389)
【Fターム(参考)】