説明

水蒸気改質触媒の製造方法及び該触媒を用いた水素製造方法

【課題】簡便な触媒製造工程にて燃料である炭化水素系化合物に含まれる硫黄含有化合物による被毒、燃料電池システムの稼動停止の繰り返しでの温度や雰囲気変化による触媒成分変質やコーキングに対して長期耐久性を有した水蒸気改質触媒の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明は、アルミナ、アルカリ土類金属化合物、セリウム化合物及び白金族金属化合物を含有する触媒組成物を湿式粉砕して水性スラリーとし、得られた水性スラリーに界面活性剤を添加して攪拌発泡させた後にハニカム基材にコートすることで、多孔性の触媒コート層を形成することを特徴とする水蒸気改質触媒の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水蒸気改質触媒の製造方法及び該触媒を用いて炭化水素系化合物を改質して水素含有ガスを製造する水素製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水素含有ガスは、水素ガス製造用の他に還元用ガス、更には各種化学製品の原料等として広く活用されており、最近では、燃料電池用燃料としても実用化研究が進められている。このような水素含有ガスは、炭化水素系化合物の水蒸気改質によって得られることが知られている。天然ガスの主成分であるメタンを原料とした場合の水蒸気改質反応を下式に示した。
CH+HO→CO+3H
家庭用燃料電池システムにおいては、電力および熱需要の状況への対応によりシステムの稼動停止が頻繁に実施される。この際、改質器内部に水および未改質燃料が残存したままシステムを停止すると、触媒の劣化、再起動性の悪化、燃料の漏洩等の不具合が発生する可能性がある。そこで燃料電池システムを停止する場合は、燃料を停止して不活性なガスを流通させて改質器内部をパージしてから停止する方法が採用されている。不活性なガスとしては窒素やアルゴンが知られているが、家庭用には不向きである。そこで水蒸気をパージガスとして使用しているが、水蒸気改質触媒として工業的に実績があるニッケル系触媒は高温の水蒸気雰囲気にてニッケルが酸化されてシンタリングし失活することが知られている。
【0003】
そこで、家庭用燃料電池向けには白金族金属系の水蒸気改質触媒が一般的に使用されている。水蒸気改質触媒の活性成分として白金族金属を使用することは古くから知られており、例えば特許文献1にはγアルミナなどの耐火性無機酸化物に白金族金属を担持させた水蒸気改質触媒が開示されている。なお特許文献1には、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の化合物を共存させることで触媒に沈着する炭素を減少することも記載されている。アルカリ金属やアルカリ土類金属などの塩基性化合物の添加により担体成分の酸性点を中和して炭素析出が抑制されると考えられており、特許文献2ではランタノイド金属(希土類元素)の酸化物も同様の効果あると記載されている。ただし、アルカリ金属やアルカリ土類金属の化合物を過剰に添加すると担体のポアを閉塞し易くなること、高温での使用条件下において担体成分の変質を促進して表面積低下を招き性能低下が生じやすくなることがある。そこで特許文献3では活性アルミナにルテニウムを担持した触媒において、アルカリ金属およびアルカリ土類金属の全含有量を酸化物換算で1重量%以下に制限した水蒸気改質触媒が開示されている。
【0004】
また白金族金属の粒子表面がアルカリ金属やアルカリ土類金属の化合物によって被覆されると活性成分とガスとの接触が阻害されて性能低下が生じる可能性がある。そこで通常は活性アルミナ等の担体にアルカリ金属やアルカリ土類金属を固定してから、白金族金属を含浸担持する製造方法が採用されている。例えば特許文献2ではアルカリ金属、アルカリ土類金属およびランタノイド金属の酸化物のいずれかをアルミナに担持してから800〜900℃の高温で焼成してから、ルテニウムを担持する水蒸気改質触媒の製造方法が開示されている。同様に特許文献4ではγアルミナ担体にアルカリ金属を含有する溶液を担持し無酸素雰囲気下、950〜1100℃で熱処理してからルテニウムを担持する水素製造用触媒の製造方法が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公昭39−29435号公報
【特許文献2】特許公報3813646号公報
【特許文献3】特開昭57−4232号公報
【特許文献4】特開2009−148689号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
家庭用燃料電池向けの水蒸気改質触媒は高温高湿度条件で使用され、かつ原料ガスに含まれる硫黄含有化合物による被毒劣化が生じるため高耐久性が必要である。また省エネルギーの観点より低スチーム/カーボン(S/C)比の運転条件においても炭素の析出が起こらない水蒸気改質触媒及び水素製造方法の開発が望まれている。
【0007】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであって、その目的は、簡便な製造工程により高価な白金族金属を高分散に担持して燃料である炭化水素系化合物に含まれる硫黄含有化合物による被毒、燃料電池システムの稼動停止の繰り返しでの温度や雰囲気変化による触媒成分の変質に対して長期耐久性を有し、かつ低S/C比の運転条件で炭素析出が起こらない水蒸気改質触媒の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究した結果、水蒸気改質触媒の製造方法において、アルミナ、アルカリ土類金属化合物、セリウム化合物及び白金族金属化合物を含有する触媒組成物を湿式粉砕して水性スラリーとし、得られた水性スラリーに界面活性剤を添加して攪拌発泡させた後に、ハニカム基材にコートすることで多孔性の触媒コート層を形成することによって、白金族金属が分散よく担持され低担持量でも高い耐久性を有し炭素析出を十分に抑制できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
また本発明らは上記の方法で得られた水蒸気改質触媒を用いて炭化水素の水蒸気改質反応を行うと低S/C比でも炭素析出を起こさずに、触媒の高活性を維持し、省エネルギーな運転条件にて水素を製造することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、アルカリ土類金属化合物のような助触媒成分の含有率を高めても白金族金属を高分散に担持せしめることが可能であり、複雑な製造工程なしに高活性で高耐久性の水蒸気改質触媒を製造することができる。また上記製法で得られた水蒸気改質触媒は耐硫黄被毒性が優れ、低S/C比の運転条件でも炭素析出を抑制されるため本発明の水素製造方法によって長期に亘り安定して、効率的に水素を製造することができる。従って家庭用の燃料電池向けに好適であり、例えば固体高分子型燃料電池や固体酸化物型燃料電池への組み込みに適している。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施例1〜3および比較例1の触媒試料の累積細孔容積を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明はアルミナ、アルカリ土類金属化合物、セリウム化合物及び白金族金属化合物を含有する触媒組成物を湿式粉砕して水性スラリーとし、得られた水性スラリーに界面活性剤を添加して攪拌発泡させた後に、ハニカム基材にコートすることで多孔性の触媒コート層を形成することを特徴とする水蒸気改質触媒の製造方法である。ここで重要な点は界面活性剤の作用によりスラリーを発泡させた状態でハニカム基材にコートして多孔性の触媒コート層を形成することにある。
【0013】
本発明の水蒸気改質触媒の製造においてハニカム基材に担持する触媒組成物としては、アルミナ、アルカリ土類金属化合物、セリウム化合物及び白金族金属化合物の4成分を少なくとも含有している。これら1種以上の多成分をハニカム基材に含有せしめる際に従来の触媒製造方法では、所定の活性を得るためには多段の触媒成分担持工程が必要であった。例えば、最初に(1)アルミナのスラリーコートをし、次に(2)アルカリ土類金属化合物の水溶液含浸して、(3)セリウム化合物を含浸し、最後に(4)白金族金属化合物水溶液含浸するという(1)〜(4)のトータル4回の含浸工程と、それぞれの含浸工程の後に4回の乾燥・焼成が実施されていた。一方、本発明の触媒製造方法では、前記4成分のすべてを含有する触媒組成物をスラリー化してハニカム基材に担持するものであり、最低1回のスラリーコートによって本発明の水蒸気改質触媒は製造することが可能である。
【0014】
以下に本発明の水蒸気改質触媒製造方法の詳細を説明する。下記手段を用いることでハニカム基材上に多孔性の触媒コート層を形成することができる。
【0015】
本発明の水蒸気改質触媒の製造方法はアルミナ、アルカリ土類金属化合物、セリウム化合物及び白金族金属化合物を含有する触媒組成物を湿式粉砕して水性スラリーを調製するスラリー作成工程、水性スラリーに界面活性剤を添加し攪拌により発泡させるスラリー発泡工程および発泡スラリーをハニカム基材にコートするスラリーコート工程を有している。
【0016】
最初にスラリー作成工程においてはアルミナ、アルカリ土類金属化合物、セリウム化合物及び白金族金属化合物を含有する触媒組成物を湿式粉砕してスラリー化するものであって、粉砕機は通常のボールミルやビーズミルなどを使用することができる。添加する水の量はスラリーの固形分濃度が30〜60質量%、好ましくは45〜55質量%となるように調整する。また良好な性状の水性スラリーを得るために必要に応じて無機酸または有機酸を添加してもよい。無機酸及び有機酸として硝酸または酢酸の使用が好ましく、添加量は湿式粉砕後のスラリーpHが3〜6となるように添加量を調整することが好ましい。スラリーのpHが3以下では酸性が強く取扱いに注意が必要となったりアルミナの溶解が過度に生じて性能低下要因になったりする可能性があり好ましくない。またpHが6以上では水性スラリーがゲル化して粘度が高くなりハニカム基材への担持が困難となる。得られた水性スラリーの平均粒子径が0.1〜20μm、好ましく0.5〜10μmの範囲となるように粉砕時間を適宜選定すればよい。
【0017】
次にスラリー発泡工程では前記湿式粉砕して得られたスラリーに界面活性剤を添加して攪拌することによって発泡させるものである。スラリーの攪拌方法については特に限定はないが、プロペラ式、羽板式やローター式などの攪拌機を用いて300〜10000rpmの回転速度で1〜15分間攪拌することでスラリーを発泡させることができる。
【0018】
最後のスラリーコート工程は前記発泡スラリーをハニカム基材に含浸担持するものである。例えば発泡スラリーを自然沈降、減圧吸引または加圧注入などによってハニカム基材のセル内に満たし、その後過剰なスラリー(例えば、セル内に残存しているスラリー)をエアブロー等の方法によって除去した後、通風下で乾燥して焼成することによって多孔性の触媒コート層を形成するものである。乾燥方法は特に制限はなく、スラリーの水分を除去し得る条件であればいずれも用いることができる。乾燥は常温下、あるいは50〜200℃の熱風をセル内に通風してもよい。乾燥後に空気中または還元雰囲気下で400〜800℃にて焼成することで触媒組成物をハニカム基材に強固に定着させることができる。例えば、一回の操作で必要量の触媒組成物を担持できないときは、上記スラリー発泡−スラリーコート−乾燥−焼成の工程を繰り返して行えばよい。
【0019】
本発明の製造方法で得られる触媒は前述のスラリーの気泡に起因して細孔径0.1〜50μmの細孔を有している。このような多孔性の触媒コート層は走査型電子顕微鏡で断面を撮影したり、ポロシメーターにより細孔分布を測定したりして観察することができる。触媒コート層はポロシメーターの測定において、細孔径0.1μm以上の細孔容積が0.07cc/g以上であることが好ましい。より好ましくは、細孔径1μm以上の細孔容積が0.02cc/g以上であって、細孔径5μm以上の細孔容積が0.1cc/g以上であることが更に好ましい。細孔径が0.1μm以上であるマクロポアの細孔容積が0.07cc/gより少ない場合はコート層内へのガスの拡散が不十分となり本発明の効果が得られ難くなる。また、細孔径0.1μm以上の細孔容積が0.2cc/gを超える場合はハニカム基材と触媒コート層の接着性が不良となり、触媒成分が脱落して性能低下を招く可能性がある。なお、触媒コート層の細孔径や細孔容積は前記触媒の製造方法においてスラリーの湿式粉砕における粉砕時間、pH、固形濃度や粘度、添加する界面活性剤のタイプや添加量、攪拌して発泡させる際の攪拌羽形状、回転数や攪拌時間などを随時変更することにより気泡径や気泡数を調整して制御することができる。
【0020】
添加する界面活性剤は、界面活性剤のタイプや添加量はスラリーの固形分濃度、pHや粘度などに合わせて適宜変更し用いることができる。当該界面活性剤の添加量は水性スラリー重量に対して界面活性剤を0.01〜3質量%が好ましく、更に好ましくは0.1〜1質量%添加するものである。界面活性剤の添加量が0.01質量%以下では発泡が不十分となり多孔性のコート層が形成され難くなるおそれがあること、また添加量が3質量%より多くなると粘度が急上昇してハニカム基材へのコートが困難になったり、界面活性剤の種類によってアルカリ金属イオンや硫酸イオンなどの過剰な添加となって触媒の性能低下を招く可能性があるからである。
【0021】
当該界面活性剤のタイプは、界面活性を有するものであれば何れのものであっても良く、 イオン系界面活性剤である陰イオン系界面活性剤、陽イオン系界面活性剤、両性イオン系界面活性剤または非イオン(ノニオン)系界面活性剤のいずれのタイプも使用することができる。イオン系界面活性剤は気泡の持続性が高いので好ましい。また、2タイプ以上の界面活性剤を組み合わせて用いることもできる。
【0022】
陰イオン系界面活性剤としては直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキル硫酸エステル塩、アルキルエーテル硫酸エステル塩、αオレフィンスルホン酸塩やアルカンスルホン酸塩などが挙げられる。陽イオン系界面活性剤としてアルキルトリメチルアンモニウム塩、アルキルジメチルベンジルアンモニウム塩やNメチルビスヒドロキエチネアミン脂肪酸エステル・塩酸塩などがある。また両性イオン系界面活性剤としてはアルキドアミンオキシド、アルキルベタインやアルキルアミノ脂肪酸塩などが使用できる。非イオン系界面活性剤としてはポリオキシアルキルエーテル、アルキルグリオキシド、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ショ糖脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステルや脂肪酸アルカノールアミドなどが挙げられる。
【0023】
前記のように湿式粉砕後の水性スラリーのpHは酸性であることが好ましい。そこで本発明のより好ましい水蒸気改質触媒の製造方法において、湿式粉砕した水性スラリーのpHが3〜6の範囲であり、かつ界面活性剤として陰イオン系界面活性剤または両性イオン系界面活性剤を使用することが好ましい。更に好ましくは上記陰イオン系界面活性剤および/または両性イオン系界面活性剤に加えて非イオン系界面活性剤を組み合わせて使用することが好適である。このように異なったタイプの界面活性剤を組み合わせて使用することにより、スラリーの発泡性が高まり微細な気泡を長時間安定して維持することが可能となる。
【0024】
また更に好ましい本発明の水蒸気改質触媒の製造方法はイオン系界面活性剤および非イオン系界面活性剤を含有する合成洗剤を本発明の界面活性剤として使用することである。特に合成洗剤の中でも手洗い用として市販されている台所用合成洗剤の使用が好ましい。これら台所用合成洗剤は中性または弱酸性であり、かつ界面活性剤以外に安定化剤や粘度調整剤などが配合されており、水性スラリーの発泡性が良好であるため微量添加で多孔性の優れた触媒コート層を得ることができる。台所用合成洗剤は界面活性剤の濃度が10〜45質量%の液状となっており、スラリー重量に対して0.01〜1質量%、好ましくは0.05〜0.5質量%の範囲で添加することができる。
【0025】
前記の台所用合成洗剤の中でも陰イオン系界面活性剤、両性イオン系界面活性剤および非イオン系界面活性剤の3タイプの界面活性剤を各々1種以上配合されたものを選定することが特に好ましい。例えば陰イオン系界面活性剤/両性イオン系界面活性剤/非イオン系界面活性剤の3タイプ配合例としてアルキルエーテル硫酸エステルナトリウム/アルキルアミンオキシド/ポリオキシエチレンアルキルエーテル系やアルキルエーテル硫酸エステルナトリウム/アルキルベタイン/脂肪酸アルカノールアミド系などが市販されている。
【0026】
本発明の水蒸気改質触媒の製造方法において触媒組成物に添加するアルミナはγ−アルミナ、η−アルミナ、δ−アルミナ、θ−アルミナ及びα−アルミナなどを使用することができる。アルミナの比表面積は20m/g以上の活性アルミナを使用することが好ましく、より好ましくは80〜180m/gのδ−アルミナまたはγ−アルミナを使用することが特に好ましい。アルミナの比表面積が20m/g未満である場合は他の触媒成分の分散性が不十分となるので好ましくない。
【0027】
次に触媒組成物に添加するアルカリ土類金属化合物としてはバリウム、ストロンチウム、カルシウム及びマグネシウムよりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素の酸化物、水酸化物、塩化物、炭酸塩、硫酸塩、硝酸塩や酢酸塩などを使用することができる。アルカリ土類金属化合物はアルミナに分散させることが好ましく水溶性塩として添加することが好ましい。特に水溶性が高く、焼成により酸化物を形成しやすいアルカリ土類金属化合物の硝酸塩または酢酸塩として添加することが好ましい。アルカリ土類金属化合物の含有量はハニカム触媒単位容積当り酸化物換算で3〜30g/Lの範囲となるように触媒組成物の組成を調整することが好ましく、より好ましくは5〜20g/Lである。本発明の製造方法では界面活性剤の添加で発泡したスラリーを調製するためアルカリ土類金属化合物の含有量を従来より多くしても性能への悪影響は少なく効果が発揮できるものである。ハニカム触媒単位容積当りのアルカリ土類金属の含有量が酸化物換算で3g/L未満である場合は塩基性が不十分であり炭素析出を生じやすくなり、30g/Lを超える場合は他触媒成分が変質したりアルミナに分散されずに析出しミクロポアやマクロポアが閉塞して反応が阻害されるので好ましくない。アルカリ土類金属化合物としてはアルミナの耐熱性を著しく改善できるバリウムの水溶性塩を使用することが特に好ましい。具体的には硝酸バリウムまたは酢酸バリウムを使用することが特に好ましい。
【0028】
また触媒組成物に添加するセリウム化合物としては酸化セリウム、水酸化セリウム、炭酸セリウム、硝酸セリウム、酢酸セリウム、硫酸セリウムなどが使用可能である。特に好ましいセリウム化合物は水溶性塩ではなく酸化セリウム、炭酸セリウムや水酸化セリウムなどの不溶性固形分として触媒組成物に添加して湿式粉砕することが好ましい。セリウム化合物の含有量はハニカム触媒の単位容積当り酸化セリウム換算で10〜150g/Lであることが好ましく、より好ましくは20〜100g/Lであり、更に好ましくは30〜50g/Lである。単位容積当りのセリウム化合物の含有量が酸化セリウム換算で10g/L未満である場合は前記活性向上の効果が得られず、150g/Lを超えても添加に見合う性能向上はない。
【0029】
例えば酸化セリウムの形態で添加する場合は、比表面積は20m/g以上であり、好ましくは50〜300m/g、より好ましくは80〜200m/gのものを使用することが好ましい。酸化セリウムの比表面積が20m/g未満である場合は、炭素析出抑制効果が不十分となり好ましくない。またセリウムの酸化物として他の金属との複合系セリウム酸化物も使用が可能であり、セリウム−ジルコニア複合酸化物、セリウム−ジルコニウム−イットリウム複合酸化物、セリウム−ジルコニウム−ランタン複合酸化物やセリウム−ジルコニウム−ランタン−ネオジム複合酸化物などが挙げられる。複合系酸化セリウムを添加する場合は比表面積が20m/g以上であって酸化セリウムの含有率が50質量%以上のものを使用することが好ましい。
【0030】
更に触媒組成物に添加する白金族金属化物としては白金、パラジウム、イリジウム、ロジウム及びルテニウムよりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素の化合物を使用することができる。特に好ましい白金族金属としてはルテニウムおよび/またはロジウムの化合物を使用することが好ましい。白金族金属化合物として水溶性であれば塩化物、硝酸塩や錯体塩などの各種化合物が使用可能である。白金族金属化合物の含有量はハニカム触媒単位容積当り金属換算で0.1〜20g/Lの範囲となるように触媒組成物の組成を調整することが好ましく、より好ましくは0.5〜15g/Lである。ハニカム触媒単位容積当り白金族金属の含有量が0.1g/L未満である場合は性能が不足し、特に硫黄被毒を受け易くなり好ましくない。また20g/Lを超えてもコストアップに見合う性能向上はほとんどない。白金族金属化合物の原料として、例えば、塩化白金酸水溶液、ジニトロジアミノ白金硝酸水溶液、硝酸パラジウム水溶液、塩化パラジウム水溶液、塩化ルテニウム水溶液、硝酸ルテニウム水溶液、塩化ロジウム水溶液、硝酸ロジウム水溶液、塩化イリジウム水溶液や硝酸イリジウム水溶液等が使用できる。なお白金族金属化合物は2種以上を触媒組成物に添加しても良い。
【0031】
このように本発明の水素製造用触媒はアルミナ、アルカリ土類金属化合物、セリウム化合物、白金族金属化合物を含む触媒組成物をハニカム基材に担持されている。触媒組成物はハニカム触媒の単位容積当りトータルで100〜300g/Lの担持量で担持されていることが好ましい。触媒組成物のトータルの担持量が単位容積当り100g/L未満である場合は、触媒コート層の厚みが薄くなり、ガス拡散が不十分となって反応効率の低下を招くため好ましくない。また300g/Lを超える場合は触媒製造が困難であり、セルの閉塞による圧損上昇や使用時に炭素析出等の不具合が生じやすくなる可能性がある。より好ましい触媒組成物の担持量は150〜250g/Lである。なお上記触媒組成物に加えて、更にマンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ジルコニウム及び銀などの遷移金属化合物やランタン、プラセオジム、ネオジムなどのセリウム以外の希土類金属化合物を更に添加してもよい。
【0032】
本発明で製造する水蒸気改質触媒の形状はハニカム形状であって低い圧力損失にて高い接触効率を得ることが可能なため、工業的に使用されているペレット形状と比較して触媒容量の低減が可能である。ハニカム基材はコージライトやムライトのようなセラミック製ハニカム基材やステンレス製のメタルハニカム基材などを使用することができる。特にメタルハニカム基材は吸水性がないので本発明の製造方法により多孔性の触媒コート層を比較的容易に形成することができるので好ましい。またメタルハニカム基材は軽量で伝熱性が良好であり触媒の均温化や燃料電池システムを始動時間の短縮が可能であり効率よく水素を生成することができる。アルミニウムを含有するフェライト系ステンレス(Fe−Cr−Al)薄鋼板からなる平板と波板とを交互に重ね合わせて、渦巻状に積層したメタルハニカム基材を使用することが好ましい。メタルハニカム基材のセル数は100〜600セル/inch2(1平方インチ当たりのセル数)であり、ステンレス薄鋼板の箔厚が10〜50μmであることが好ましい。より好ましくはセル数が200〜400セル/inch2であり、ステンレス薄鋼板の箔厚が20〜30μmである。メタルハニカム基材のセル数が100セル/inch2以下である場合は単位容積当たりのガスとの接触面積が小さくなるため十分な反応速度が得られ難くなり、600セル/inch2を越える場合は触媒組成物の担持に際して目詰まりが生じやすくなるため好ましくない。またステンレス薄鋼板の箔厚が10μm未満の場合は触媒の機械的強度の低下を招く可能性があり、50μmを超える場合は触媒重量が重たくなるので好ましくない。
【0033】
(炭化水素系化合物の改質方法)
次に、本発明の製造方法で得られた水蒸気改質触媒を用いた水素の製造方法について以下に説明する。
【0034】
水蒸気改質反応の燃料となる炭化水素系化合物としては、メタン、エタン、プロパン、ブタン、ヘプタン、ヘキサンなどの軽質炭化水素、ガソリン、軽油、ナフサなどの石油系炭化水素などが挙げられ、例えば天然ガス、LPG、都市ガス、灯油などの工業的に安定的に入手できる燃料を使用することができる。ただし炭化水素系化合物は脱硫処理などの精製が実施されていても微量に硫黄含有化合物が残留していたり、一般家庭用LPGや都市ガスに付臭剤としてメルカプタン、チオフェン、スルフィドなどの硫黄含有化合物が添加されていたりする。これら硫黄含有化合物は触媒の被毒物質となることが知られているが、本発明の水素製造用触媒はこれら硫黄含有化合物を含む炭化水素系化合物を燃料とするものである。なお、脱硫器を設置して燃料中に含まれる硫黄含有化合物を除去してから本発明の水素製造触媒により改質反応を実施することにより、長期に渡る触媒使用が可能となり燃料電池システムの維持管理が更に容易となることは言うまでもない。
【0035】
本発明の水素製造方法において、燃料となる炭化水素系化合物と水蒸気を混合するが、炭化水素系化合物に含まれる炭素原子モル数に対する水蒸気のモル数の比(S/C比)は1〜5、好ましくは2〜4、より好ましくは2.5〜3.5である。S/C比が1より小さい場合はコークが析出しやすくなり、5より大きくするとエネルギーコストが高くなり好ましくない。
【0036】
圧力は、常圧以上であって5MPa以下、好ましくは3MPa以下とするのがよい。ガス空間速度(SV)は500〜100,000H−1、好ましくは1,000〜30,000H−1とするのがよい。反応温度は、効率的な改質反応を行うために、触媒層温度が500〜1,000℃、好ましくは600〜900℃の範囲内となるようにするのがよい。
また本発明の方法で得られた水蒸気改質触媒は、耐酸化性が優れており必要により微量酸素を添加してもよい。酸素の添加により炭化水素系化合物が部分酸化反応により発熱し、外部から加熱しなくても触媒の温度を所定の温度に高めることができる。炭化水素含有ガスと酸素含有ガスとの割合については、炭素原子モル数に対する酸素分子のモル数の比(酸素/カーボン比)が0〜0.75とすることが好ましい。
【0037】
本発明の製造方法で得られた水蒸気改質触媒によって得られる改質ガスは、水素と一酸化炭素を主に含有しており、燃料電池や化学工業用原料として使用できる。たとえば高温作動型燃料電池と類別される溶融炭酸塩型燃料電池や固体酸化物型燃料電池は、一酸化炭素や炭化水素も燃料として利用できるので、前記改質ガスをそのまま燃料電池の燃料として使用できる好ましい用途である。
【0038】
また前記改質ガスは、更にCO変性反応で一酸化炭素濃度を低減したり、深冷分離法、PAS法、水素貯蔵合金或いはパラジウム膜拡散法等により不純物を除去したりして高純度の水素ガスとすることができる。例えばCO変性反応は一酸化炭素と水を反応させて水素と二酸化炭素に転換することにより一酸化炭素濃度を1%程度まで低減することができる。CO変性反応に用いる触媒としては、例えば銅主体、或いは鉄主体とする公知の触媒を用いて行えばよい。低温作動型固体高分子燃料電池の燃料などのように更に一酸化炭素濃度を低減する必要がある場合は、CO変性触媒の後段に設置するCO選択酸化触媒により二酸化炭素に酸化するかCO選択メタン化触媒によりメタンに転換させて、一酸化炭素濃度を10ppm以下とすることが望ましい。
【実施例】
【0039】
以下に、実施例を用いて本発明を詳細に説明するが、本発明の趣旨に反しない限り実施例に限定されるものではない。
【0040】
(実施例1)
スラリー作成工程:比表面積が155m/gの活性アルミナ(γ−アルミナ)120g、酢酸バリウム16.6g、比表面積が272m/gの酸化セリウム30g、硝酸ルテニウム水溶液111g(Ru濃度4.5wt%)と純水および硝酸をボールミルに供給して10時間湿式粉砕して固形分が50質量%の水性スラリーを調製した。得られたスラリーを粒度分布測定器(レーザー回折散乱式)で測定したところ平均粒子径は3.8μmであった。
【0041】
スラリー発泡工程:上記のスラリーを200g計量して容器に入れ界面活性剤として台所用合成洗剤A(メーカー:花王株式会社、商品名:ファミリーピュア、界面活性剤濃度:42%、成分:アルキルエーテル硫酸エステルナトリウム/アルキルアミンオキシド/アルキルグリコシド/アルキルヒドロキシスルホベタイン/ポリオキシエチレンアルキルエーテル)を1.0g添加して、プロペラ式攪拌機にて3分間攪拌してスラリーを発泡させた。
【0042】
スラリーコート工程:ハニカム基材としてFe−Cr−Al系耐熱性ステンレス板の箔厚が30μmであって断面積1インチ平方当り400個のセルを有し、外径20mmで長さ66mmのメタルハニカム基材(幾何学表面積約3000m/m)を使用した。このメタルハニカム基材の下部を前記発泡スラリーに浸漬し、上部より減圧にて吸引してセル内に発泡スラリーを満たしてからハニカム基材を取出し、次いで圧縮空気を吹付けてセル内に残存する余分なスラリーを除去した。このようにしてスラリーを被覆したメタルハニカム基材を150℃で乾燥した後、空気中にて400℃で2時間焼成して完成触媒Aを得た。完成触媒Aのハニカム触媒単位容積当りにおける触媒成分の担持量を表1に示した。また得られた触媒のポロシメータで測定した細孔容積の測定結果を表2に示した。
【0043】
(実施例2)
実施例1において界面活性剤を台所用合成洗剤B(メーカー:P&Gジャパン株式会社、商品名:ジョイ モイストケア 、界面活性剤濃度:29%、成分:アルキルエーテル硫酸エステルナトリウム/アルキルアミンオキシド/ポリオキシエチレンアルキルエーテル)を0.8gに変更した以外は実施例1と同様にして完成触媒Bを得た。完成触媒Bのハニカム触媒単位容積当りにおける触媒成分の担持量を表1に、細孔容積の測定結果を表2に示した。
【0044】
(実施例3)
実施例1において界面活性剤を台所用合成洗剤C(メーカー:ライオン株式会社、商品名:チャーミー 泡のチカラ、界面活性剤濃度:46%、成分:アルキルエーテル硫酸エステルナトリウム/ポリオキシエチレン脂肪酸アルカノールアミド/アルキルスルフォン酸ナトリウム/アルキルアミンオキシド)を0.4gに変更した以外は実施例1と同様にして完成触媒Cを得た。完成触媒Cのハニカム触媒単位容積当りにおける触媒成分の担持量を表1に、細孔容積の測定結果を表2に示した。
【0045】
(実施例4)
実施例1において界面活性剤をドデシルベンゼンスルフォン酸ナトリウムが3.0gに変更した以外は実施例1と同様にして完成触媒Dを得た。完成触媒Dのハニカム触媒単位容積当りにおける触媒成分の担持量を表1に、細孔容積の測定結果を表2に示した。
【0046】
(比較例1)
実施例1においてスラリー発泡工程を実施しなかった以外は実施例1と同様にして比較触媒aを得た。比較触媒aのハニカム触媒単位容積当りにおける触媒成分の担持量を表1に、細孔容積の測定結果を表2に示した。
【0047】
(比較例2)
スラリー作成工程:比表面積が155m/gの活性アルミナ(γ−アルミナ)120g、比表面積が272m/gの酸化セリウム30gと純水および硝酸をボールミルに供給して10時間湿式粉砕して固形分が50質量%の水性スラリーを調製した。得られたスラリーを粒度分布測定器(レーザー回折散乱式)で測定したところ平均粒子径は2.4μmであった。
【0048】
スラリー発泡工程:上記のスラリーを200g計量して容器に入れ界面活性剤としてドデシルベンゼンスルフォン酸ナトリウムが1.0g添加して、プロペラ式攪拌機にて3分間攪拌してスラリーを発泡させた。
【0049】
スラリーコート工程:実施例1と同様のメタルハニカム基材に上記のスラリーをコートして、スラリーを被覆したメタルハニカム基材を150℃で乾燥した後、空気中にて400℃で2時間焼成した。
【0050】
バリウム含浸工程:アルミナ及び酸化セリウムをコートしたハニカムを、硝酸バリウム水溶液に含浸して、150℃で乾燥した後、空気中で600℃で2時間焼成した。
【0051】
ルテニウム含浸工程:上記バリウムを担持したハニカムを硝酸ルテニウム水溶液に含浸し、150℃で乾燥後に空気中にて300℃で2時間焼成して比較触媒bを得た。比較触媒bのハニカム触媒単位容積当りにおける触媒成分の担持量を表1に、細孔容積の測定結果を表2に示した。
【0052】
【表1】

(水熱加速エージング)
実施例及び比較例の各触媒試料を以下の条件で水熱加速エージングを実施した。
処理温度:800℃
処理時間:100時間
処理ガス:2L/min 10%HO/Nバランス
(触媒性能試験)
水熱加速エージング後の試料を水素気流中で500℃にて1時間還元してから、ラボ活性試験装置を用いて以下の試験条件で水蒸気改質触媒の性能試験を実施した。燃料ガスとして都市ガス13Aを脱硫処理せずにそのまま使用し、触媒出口温度700℃、GHSV=10,000H−1でスチーム/カーボン(S/C)比=2.5の条件にて改質反応を実施した。ガスクロマトグラフィー(島津製作所:ガスクロマトグラフGC−8A)を用いて生成ガスの各濃度を測定し、反応開始24時間後のメタン転化率を下記式(1)により算出した。
【0053】
【数1】

なお、上記式において、CO濃度、CO濃度およびCH濃度は、それぞれ生成ガス(触媒出口)における一酸化炭素、二酸化炭素およびメタンのガス濃度を表す。
【0054】
実施例1〜4及び比較例1〜2の水蒸気改質触媒の性能試験結果を表2に示した。
【0055】
【表2】

表2および図1から判るように本発明の製造方法で得られた触媒は従来触媒と比較して多孔性の触媒コート層が形成されており、水熱加速エージング後でも良好な水蒸気改質性能を有している。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明は、炭化水素の改質反応により水素を生成する触媒の製造方法に関するものであり、複雑な製造工程なしに高活性で高耐久性の水蒸気改質触媒を製造することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミナ、アルカリ土類金属化合物、セリウム化合物及び白金族金属化合物を含有する触媒組成物を湿式粉砕して水性スラリーとし、得られた水性スラリーに界面活性剤を添加して攪拌発泡させた後にハニカム基材にコートすることで、多孔性の触媒コート層を形成することを特徴とする水蒸気改質触媒の製造方法。
【請求項2】
前記の湿式粉砕した水性スラリーのpHが3〜6の範囲であり、かつ当該界面活性剤が陰イオン系界面活性剤または両性イオン系界面活性剤である請求項1記載の水蒸気改質触媒の製造方法。
【請求項3】
前記の界面活性剤が、イオン系界面活性剤および非イオン系界面活性剤を含有する合成洗剤である請求項1〜2に記載の水蒸気改質触媒の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3に記載の製造方法で得られた水蒸気改質触媒を用いて炭化水素系化合物の改質反応により水素を製造する水素製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−170844(P2012−170844A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−33073(P2011−33073)
【出願日】平成23年2月18日(2011.2.18)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】