説明

水蒸気改質触媒及び該触媒を用いた水素製造方法

【課題】燃料である炭化水素系化合物に含まれる硫黄含有化合物による被毒、燃料電池システムの稼動停止の繰り返しでの温度や雰囲気変化による触媒成分変質や炭素析出に対して長期耐久性を有する非貴金属系の水蒸気改質触媒、および該触媒を用いた水素製造方法を提供することである。
【解決手段】本発明は、炭化水素系化合物の改質により水素を製造する水蒸気改質触媒であって、ニッケルが酸化セリウム上に分散担持されている触媒組成物をハニカム担体に被覆してなり、触媒組成物における酸化アルミナの含有率が20質量%未満であることを特徴とする水蒸気改質触媒である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水蒸気改質触媒及び該触媒を用いて炭化水素系化合物を改質して水素含有ガスを製造する水素製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水素含有ガスは、水素ガス製造用の他に還元用ガス、更には各種化学製品の原料等として広く活用されており、最近では、燃料電池用燃料としても実用化研究が進められている。このような水素含有ガスは、炭化水素化合物の水蒸気改質によって得られることが知られている。天然ガスの主成分であるメタンを原料とした場合の水蒸気改質反応を下式に示した。
CH+HO→CO+3H
酸化アルミニウムや酸化マグネシウムなどの無機多孔担体に活性成分としてニッケルを担持したニッケル系水蒸気改質触媒は古くから工業的に使用されている。例えば特許文献1では特定の細孔容積を有したα−アルミナを担体としてニッケルを3〜20質量%含浸担持する水蒸気改質触媒が開示されている。しかしながらα−アルミナは高温での使用条件下でニッケルと固相反応して不活性なニッケルアルミネートを形成し活性低下し易い。
【0003】
そこで特許文献2ではニッケルアルミネートなどを担体として更に活性成分としてニッケルや鉄を担持した水素製造触媒が提案されている。スピネル型構造やベロブスカイト型構造を有した担体を用いることで活性成分が前述の固相反応により取り込まれるのを防止することを目的としているが、これら担体はα−アルミナと同様に比表面積が小さく高温使用条件においてニッケルの粒子成長を招き耐久性が十分ではない。また特許文献3ではニッケルを酸化マグネシウムなどのアルカリ土類金属酸化物と固溶体を形成してS/C比(スチーム/カーボンモル比)が低い反応条件でも炭素析出が少ない水蒸気改質触媒が開示されている。しかしながら長期使用において耐酸化性や炭素析出性が満足できるものではなかった。ニッケル系水蒸気改質触媒の炭素析出を抑制するためにニッケルを微粒子化する方法が有効であるとされている。例えば特許文献4ではマグネシウム、アルミニウム及びニッケルを含むハイドロタルサイト化合物を焼成して得られ、ニッケル金属粒子の平均粒子径が10nm以下である水蒸気改質触媒が提案されている。ただしハイドロタルサイトの製造は共沈、熟成、水洗、濾別、乾燥、焼成などの複雑な製造工程や廃水処理設備が必要であって触媒製造方法に課題があった。
【0004】
またニッケル系水蒸気改質触媒の性能が使用により低下した際の性能回復方法として、炭化水素燃料及び水蒸気を停止して、空気を導入し析出した炭素を除去することが特許文献5に記載されている。しかしながらこれら再生処理によりニッケルは酸化されて不活性となるため、再使用前に還元処理を実施する必要があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平2−43952号公報
【特許文献2】特開2004−89812号公報
【特許文献3】特開平9−77501号公報
【特許文献4】特開2003−135967号公報
【特許文献5】特開2007−284322号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
家庭用燃料電池システムは電力及び熱需要のバランスで日々システムの稼動停止が繰り返し実施され、省エネルギーの観点よりS/C比をできるだけ低くして運転することが求められる。このような運転方法から家庭用燃料電池向けには優れた耐酸化性及び炭素析出抑制性が必要であり高価なルテニウム系水蒸気改質触媒が採用されている。
【0007】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであって、その目的は燃料である炭化水素系化合物に含まれる硫黄含有化合物による被毒、燃料電池システムの稼動停止の繰り返しでの温度や雰囲気変化による触媒成分変質や炭素析出に対して長期耐久性を有する非貴金属系の水蒸気改質触媒、および該触媒を用いた水素製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、水蒸気改質反応について詳細に検討した結果、ニッケルを酸化セリウムに分散担持せしめた触媒組成物をハニカム担体に被覆してなる水蒸気改質触媒を見出して本発明を完成させた。当該触媒は耐酸化性に優れ、かつ従来から用いられているルテニウム系の水蒸気改質触媒と遜色の無い各種炭化水素化合物に対する改質性能を有しているものである。
【0009】
また該触媒を用いた水素製造方法を、燃料電池システムの停止の際に600℃以上で炭化水素化合物の供給を停止して水蒸気パージを実施することで、低S/C比でも炭素析出を起こさずに、触媒の高活性を維持し省エネルギーな運転条件で水素を製造できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【発明の効果】
【0010】
本発明の水蒸気改質触媒は、高価な貴金属を使用しなくても各種炭化水素化合物を燃料として低温で水蒸気改質反応を行うことができ、かつ耐酸化性や炭素析出抑制性が優れている。また該触媒を用いた水素製造方法は、耐酸化性に優れ、低S/C比においても炭素析出が抑制されるため本発明の水素製造方法によって長期に亘り安定して、効率的に水素を製造することができる。従って家庭用の燃料電池システム向けに好適であり、例えば固体高分子型燃料電池や固体酸化物型燃料電池への組み込みに適している。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の水蒸気改質触媒はニッケルを酸化セリウムに分散担持せしめた触媒組成物をハニカム担体に被覆してなり、前記触媒組成物における酸化アルミニウムの含有率が20質量%未満であることを特徴とする水蒸気改質触媒である。本発明の水蒸気改質触媒はγ−アルミナに代表される活性アルミナやα−アルミナなどの酸化アルミニウムの含有率が触媒組成物中の20質量%未満である。酸化アルミニウムの含有率は触媒組成物の15質量%未満が好ましく、より好ましくは10質量%、5質量%未満であることが更に好ましく、酸化アルミニウムが1質量%未満であることが特に好ましい。
触媒組成物中の酸化アルミニウムの含有率が20質量%以上である場合は高温での使用条件において活性成分であるニッケルがアルミナと反応してニッケルアルミネート形成し水蒸気改質性能の低下や炭素析出が生じやすくなるため好ましくない。触媒組成物中の活性アルミナの含有率を制限することで、安定した処理性能を維持することができる。またニッケルが酸化セリウムに分散担持されていることにより炭素析出が起こりにくくなり、水蒸気改質反応により各種炭化水素化合物から水素を生成することができる。以下に本発明の詳細を説明する。
【0012】
(水蒸気改質触媒)
本発明の水蒸気改質触媒においてニッケルを担持する酸化セリウムは、10m/g以上、好ましくは50〜250m/gの比表面積を有しているものである。10m/g未満であると、ニッケルを高分散に担持できず、粒子の凝集が生じやすくなり高温での使用条件下において性能低下を招くからである。
【0013】
ニッケルを前記の酸化セリウムに分散担持するのは通常触媒調製方法を用いることができ、好ましくは含浸法を用いることである。例えば酸化セリウム粉体にニッケル塩溶液を含浸して焼成することにより得られる。
【0014】
本発明の水蒸気改質触媒の触媒組成物において、酸化セリウムは80〜300g/L、好ましくは120〜200g/L(ハニカム担体の1リットル当り)被覆することができる。酸化セリウムの含有量が80g/L未満である場合はニッケルの分散性が低下して十分な耐酸化性を得ることができない。また反応ガスとの接触効率を高めるためにはハニカム担体に十分な厚みのコート層を形成する必要があり、酸化セリウムを単位容積当り120g/L以上被覆することが特に好ましい。
【0015】
次にニッケルは触媒組成物中に酸化ニッケルとしてハニカム担体の単位容積当りに5〜150g/L、好ましくは10〜100g/Lで含有されていることが好ましい。酸化ニッケルの含有量が5g/Lを未満である活性成分が少なく長期耐久性が得られにくくなる。また酸化ニッケルの含有量が150g/Lを超える場合は分散性が低下して高温反応条件で凝集しやすくなるため好ましくない。
【0016】
本発明の触媒組成物においてニッケルは酸化セリウムに分散担持されており、NiO/CeOのモル比は0.05〜2.0、より好ましくは0.1〜1.0の範囲であることが好ましい。NiO/CeOのモル比が0.05未満である場合は、酸化ニッケル含有量が少なくなり十分な改質性能が得られにくく、2.0を越えるとニッケルの分散性が低下し耐久性能の低下を招く可能性がある。また特に好ましくはNiO/CeOのモル比が0.2〜0.5であって、触媒組成物の粉末X線回折測定において二酸化セリウム蛍石型構造と類似した位置に結晶ピ―クが主に検出され、酸化ニッケルに由来する結晶ピークは検出されないか、検出されてもそのメインピークが前記二酸化セリウムのメインピークの1/10未満のピーク強度であることが好ましい。このようにモル比を特定の範囲にすることにより、ニッケルは酸化セリウムに微粒子上に高分散に担持され本発明の効果が最大限に発揮される。本発明の実施例におけるX線回折の測定条件は、CuKα線源、電圧45KV、電流40mA、走査範囲10〜90°、走査速度0.198°/minである。
【0017】
このように本発明の水蒸気改質触媒はニッケルを酸化セリウムに分散担持せしめた触媒組成物をハニカム担体に被覆してなる。本発明に使用されるハニカム担体としてはセル数が100〜600セル/inch2(1平方インチ当たりのセルの数)のコージライトやムライトのようなセラミック製ハニカム担体やステンレス製のメタルハニカムなどを使用することができる。ハニカム担体のセル数が100セル/inch2以下である場合は単位容積当たりのガスとの接触面積が小さくなるため十分な反応速度が得られ難くなり、600セル/inch2を越える場合は触媒組成物の担持に際して目詰まりが生じやすくなるため好ましくない。水蒸気改質反応は吸熱反応であり外部加熱で触媒を500℃以上に昇温する必要があるが、軽量で伝熱性が良好なメタルハニカム担体を用いることで燃料電池システムを短時間で始動することが可能となる。特に、アルミニウムを含有するフェライト系ステンレス(Fe−Cr−Al)薄鋼板からなる平板と波板とを交互に重ね合わせて、渦巻状に積層したメタルハニカム担体を使用することが好ましい。メタルハニカム担体のセル数は100〜600セル/inch2(1平方インチ当たりのセル数)であり、ステンレス薄鋼板の箔厚が10〜50μmであることが好ましい。より好ましくはセル数が200〜400セル/inch2であり、ステンレス薄鋼板の箔厚が20〜30μmである。またステンレス薄鋼板の箔厚が10μm未満の場合はハニカムの機械的強度の低下を招く可能性があり、50μmを超える場合は触媒重量が重たくなるので好ましくない。
【0018】
本発明の水蒸気改質触媒の製造方法としては例えば次の(1)〜(3)の方法が例示される。(1)予め酸化セリウム粉体にニッケル塩溶液を含浸して焼成してから得られた触媒組成物を湿式粉砕してハニカム担体に被覆して焼成する。(2)先に酸化セリウムを湿式粉砕してハニカム担体に被覆して焼成してから、次にニッケル塩溶液を含浸し焼成して担持する。(3)酸化セリウムをニッケル塩水溶液中で湿式粉砕して同時にハニカム担体に被覆し焼成する。特に(3)の方法を製造設備が簡易であり、焼成回数も少なく、ニッケルの分散性も高めることができるので好ましい。
【0019】
尚、前記焼成はいずれも空気中で実施することが好ましく、300〜900℃の温度で0.5〜10時間焼成する。前記処理によりニッケルは酸化ニッケルとして担持されているが、使用開始前に還元処理することによってニッケル金属の微粒子とすることができる。
【0020】
ニッケルの原料としては、塩化ニッケル、硫酸ニッケル、硫酸ニッケルアンモニウム、硝酸ニッケル、酢酸ニッケル、シュウ酸ニッケル、クエン酸ニッケルなどの水溶性のニッケル塩化合物などが使用できる。
【0021】
またニッケルを酸化セリウムに分散担持せしめるとは、前記のように単にニッケル塩溶液を酸化セリウムに分散担持させるだけでなく、以下のような原料を用いて各種触媒調製方法によって製造することができる。
【0022】
例えばセリウム源としては、酸化セリウムの他、触媒調製方法により酸化セリウム以外の化合物を用いることができ、例えば、前記(1)〜(3)の製造方法においては酸化セリウムの代わりに酸化セリウムの前駆体である炭酸セリウム、水酸化セリウムなどを用いることもできる。同様に酸化セリウムの代わりにCe−Zr、Ce−Zr−La、Ce−Zr−Y、Ce−Zr−La−Ndなどの各種セリウム系複合酸化物(固溶体を含む)などを使用することもできる。前記セリウム系複合酸化物の比表面積は50〜250m/gであり、複合酸化物における酸化セリウムの含有率が50%以上、好ましくは60%以上のものを使用することが好ましい。
【0023】
また含浸法以外に共沈法、水熱合成法、噴霧燃焼法やゾルゲル法などを用いる際は、セリウム源として硝酸セリウム、酢酸セリウム、硫酸セリウム、蓚酸セリウム、炭酸セリウムアンモニウムなどの可溶性セリウム塩を使用することができる。
【0024】
例えば可溶性セリウム塩と可溶性ニッケル塩とを混合した溶液から共沈法、水熱合成法、噴霧燃焼法やゾルゲル法などを用いてセリウムとニッケルの混合酸化物、複合酸化物、固溶体またはそれらの混合物を作成してから湿式粉砕してハニカム担体に被覆しても良い。
【0025】
本発明の水蒸気改質触媒の代表的な製法として前記(3)の製造方法について以下に更に詳細を説明する。
【0026】
(水蒸気改質触媒の製造方法)
触媒組成物である酸化セリウム、水溶性ニッケル塩化合物をボールミルなどの粉砕機に供給し適当量の水を加えて湿式粉砕することで水性スラリーを作成する。前記触媒組成物以外に水と共にスラリーの粘度調節や安定性改善のため、塩酸、硫酸、硝酸、酢酸、シュウ酸などの酸性化合物、アンモニアや水酸化テトラアンモニウムなどの塩基性化合物、ポリアクリル酸やポリビニルアルコールなどの高分子化合物などを必要に応じて添加しても良い。また担体との接着性を高めるためにシリカゾルなどのバインダー成分を添加することもできる。
【0027】
湿式粉砕によりスラリーの平均粒子径は0.5〜10μmであることが好ましい。より好ましくは平均粒子径が1〜5μmであり、更に好ましくは2〜4.5μmである。スラリーの平均粒子径が0.5μmより小さくても、10μmを超えてもハニカム担体との接着性が低下し、被覆した触媒組成物が剥がれやすくなる。
【0028】
ハニカム担体へのスラリーの被覆方法としては特に限定されず、含浸法、吸引法、湿式吸着法、スプレー法、塗布法などの方法が適用できる。またスラリー被覆の操作は大気圧下、加圧下あるいは減圧下で行うことができる。スラリー被覆時のスラリー温度も特に制限はなく、必要により加熱してもよく、室温から90℃程度の範囲内で行うことができる。メタルハニカム担体を用いる場合は減圧によりスラリーを吸引して含浸させると均一に触媒成分を担持させることができるので、この吸引含浸法が好適に用いられる。スラリー被覆後は、ハニカム担体に付着している過剰なスラリー(例えば、セル内に残存しているスラリー)をエアブロー等の方法によって除去した後、通風下で乾燥するのがよい。
【0029】
乾燥方法についても特に制限はなく、スラリーの水分を除去し得る条件であればいずれも用いることができる。乾燥は常温下、あるいは50〜200℃の熱風をセル内に通風してもよい。乾燥後に空気中で400〜800℃にて焼成することで触媒組成物をハニカム担体に強固に定着させることができる。例えば、一回の操作で必要量の触媒組成物を担持できないときは、上記スラリー被覆−乾燥−焼成の操作を繰り返して行えばよい。
【0030】
本発明の水蒸気改質触媒は触媒組成物中にニッケル及びセリウム以外に、更にナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウムなどのアルカリ金属、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウムなどのアルカリ土類金属、イットリウム、ランタン、プラセオジム、ネオジム、サマリウムなどの希土類金属及びバナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、銅、亜鉛、ニオブ、モリブデン、銀などの遷移金属の元素を含む化合物1種以上を添加することができる。これら元素の添加により改質性能の向上や炭素析出を抑制され、触媒活性が長期に亘り、維持することが可能となる。各元素の添加量としてはニッケルの1/3〜1/100モルを触媒組成物中に添加することが好ましい。前記各元素の硝酸塩、塩化物、硫酸塩、酢酸塩や蓚酸塩など焼成により酸化物を形成する原料化合物を使用することができる。また白金族金属の添加量はニッケルの1/10〜1/1000モルを触媒組成物中に添加することができる。白金族金属の原料化合物についても硝酸塩、塩化物、硫酸塩やアンモニウム錯体などの水溶性塩を使用することができる。またルテニウム、ロジウム、パラジウム、白金などの白金族金属を添加しても良い。
【0031】
ニッケル及びセリウム以外の成分を触媒組成物に含有させる場合は、前記水蒸気改質触媒の製造方法において、酸化セリウム上にニッケルを分散担持してから他の元素を担持しても良いし、ニッケルと同時に担持しても良い。
【0032】
(水蒸気改質反応による水素製造方法)
次に、本発明の水素製造方法について以下に説明する。本発明の水素製造方法は燃料となる炭化水素系化合物と水蒸気を混合して触媒層温度が500〜1,000℃で入口ガス空間速度(SV)は500〜100,000H−1にて水蒸気改質触媒と接触せしめることにより水素を製造する。好ましい触媒層温度としては600〜900℃であり、入口ガス空間速度は1,000〜30,000H−1であることが好ましい。反応圧力は、常圧以上であって5MPa以下、好ましくは3MPa以下とするのがよい。
【0033】
水蒸気改質反応の燃料となる炭化水素系化合物としては、メタン、エタン、プロパン、ブタン、ヘプタン、ヘキサンなどの軽質炭化水素、ガソリン、軽油、ナフサなどの石油系炭化水素などが挙げられ、例えば天然ガス、LPG、都市ガス、灯油などの工業的に安定的に入手できる燃料を使用することができる。このような炭化水素系化合物は微量の硫黄含有化合物が残留していたり、一般家庭用LPGや都市ガスには付臭剤としてメルカプタン、チオフェン、スルフィドなどの硫黄含有化合物が添加されていたりする。これら硫黄含有化合物は触媒の被毒物質となることが知られており、燃料を改質器に導入する前に前処理脱硫器を設置して燃料中に含まれる硫黄含有化合物を除去してから改質反応を実施することが好ましい。
【0034】
また改質器に導入する水蒸気のモル数と炭化水素系化合物に含まれる炭素原子モル数の比(S/C比)は2〜5、より好ましくは2.5〜4である。S/C比が2より小さい場合は炭素が析出しやすくなり、5より大きくするとエネルギーコストが高くなり好ましくない。
【0035】
本発明の水素製造方法は毎日起動停止を繰り返す(DSS運転)ことが想定される家庭用燃料電池の改質器などに使用することが可能である。DSS運転では水蒸気で改質器内をパージして燃料電池を停止することが好ましいが、従来のニッケル系水蒸気改質触媒では高温酸化雰囲気で劣化するため窒素やアルゴンなどの不活性ガスを導入して燃料電池を停止する必要があった。ニッケルを酸化セリウムに分散担持せしめた触媒組成物をハニカム担体に被覆してなる本発明の水蒸気改質触媒は耐酸化性が優れており、前記不活性ガスを使用せずに燃料のみの供給をストップして改質器内を水蒸気でパージすることで燃料電池を停止することができる。燃料電池を停止するに際して触媒層温度が500〜1,000℃の範囲にて燃料供給をストップして水蒸気パージを実施することが好ましい。触媒層温度が500℃未満で燃料供給を停止する場合は炭素が析出しやすくなり、1,000℃を超えると触媒の熱劣化が生じやすくなるので好ましくない。特に好ましくは触媒層温度が700〜900℃で燃料供給を停止して水蒸気パージすることが好ましい。
【0036】
また本発明の水素製造方法において、長期間の使用で水蒸気改質触媒が性能低下した場合に、触媒層温度が700〜900℃の範囲にて改質器への燃料供給をストップして水蒸気パージを実施することによって改質性能を回復せしめることができる。前記水蒸気改質触媒の劣化は、コーキングや硫黄化合物の付着によって生じるが、上記水蒸気パージ処理によって触媒上に蓄積した炭素の分解や硫黄化合物の脱離が促進されて触媒が再生されると推定される。
【0037】
また本発明の水素製造方法において燃料及び水蒸気と共に必要により微量酸素を添加してもよい。酸素の添加により炭化水素化合物が部分酸化反応により発熱し、外部から加熱しなくても触媒の温度を所定の温度に高めることができる。炭化水素含有ガスと酸素含有ガスとの割合については、炭素原子モル数に対する酸素分子のモル数の比(酸素/カーボン比)が0〜0.75とすることが好ましい。
【0038】
本発明の水素製造方法によって得られる改質ガスは、水素と一酸化炭素を主に含有しており、燃料電池や化学工業用原料として使用できる。たとえば高温作動型燃料電池と類別される溶融炭酸塩型燃料電池や固体酸化物型燃料電池は、一酸化炭素や炭化水素も燃料として利用できるので、前記改質ガスをそのまま燃料電池の燃料として使用できる好ましい用途である。
【0039】
また前記改質ガスは、更にCO変性反応で一酸化炭素濃度を低減したり、深冷分離法、PAS法、水素貯蔵合金或いはパラジウム膜拡散法等により不純物を除去したりして高純度の水素ガスとすることができる。例えばCO変性反応は一酸化炭素と水を反応させて水素と二酸化炭素に転換することものであり一酸化炭素濃度を1%程度まで低減することができる。CO変性反応に用いる触媒としては、例えば銅主体、或いは鉄主体とする公知の触媒を用いて行えばよい。低温作動型固体高分子燃料電池の燃料などのように更に一酸化炭素濃度を低減する必要がある場合は、CO変性触媒の後段に設置するCO選択酸化触媒により二酸化炭素に酸化するかCO選択メタン化触媒によりメタンに転換させて、一酸化炭素濃度を10ppm以下とすることが望ましい。
【実施例】
【0040】
以下に、実施例を用いて本発明を詳細に説明するが、本発明の趣旨に反しない限り実施例に限定されるものではない。
【0041】
(実施例1)
スラリーの調製:比表面積が155m/gの活性アルミナ(γ−アルミナ)が40gと比表面積が237m/gの酸化セリウム160gと水および硝酸をボールミルに供給して湿式粉砕して水性スラリーを調製した。得られたスラリーを粒度分布測定器(レーザー回折散乱式)で観察したところ平均粒子径は3.1μmであった。
【0042】
メタルハニカム担体:ハニカム担体としてFe−Cr−Al系耐熱性ステンレス板の箔厚が30μmであって断面積1インチ平方当り400個のセルを有し、外径20mmで長さ66mmのメタルハニカム担体(幾何学表面積約3000m/m)を使用した。
【0043】
触媒の製造:メタルハニカム担体の下部をスラリーに浸漬し、上部より減圧にて吸引してセル内にスラリーを満たしてから担体を取出し、次いで圧縮空気を吹付けてセル内に残存する余分なスラリーを除去した。このようにしてスラリーを被覆したメタルハニカム担体を150℃で乾燥した後、空気中にて500℃で2時間焼成した。次に硝酸ニッケル6水和物を水に溶解した水溶液に含浸し乾燥後に空気中にて500℃で2時間焼成して完成触媒(A)を得た。完成触媒(A)の触媒組成物の組成比及び担持量を表1に示した。
【0044】
(実施例2〜4、比較例1〜2)
触媒の製造:実施例1においてスラリー調製時において活性アルミナと酸化セリウムの仕込み比率を変更した以外は実施例1と同様にして実施例2〜4及び比較例1〜2の触媒を作成した。完成触媒(B)〜(D)及び比較触媒(a)〜(b)の触媒組成物の組成比及び担持量を表1に示した。
【0045】
【表1】

(実施例5)
スラリーの調製:比表面積153m/gの酸化セリウム180gと硝酸ニッケル6水和物78gと水及び硝酸をボールミルにて湿式粉砕して水性スラリーを調製した。得られたスラリーの平均粒子径は3.0μmであった。
【0046】
触媒の製造:得られたスラリーを実施例1と同じメタルハニカム担体に被覆し、150℃で乾燥した後、空気中にて500℃で2時間焼成して完成触媒(E)を得た。完成触媒(E)の触媒組成物の組成比及び担持量を表2に示した。
【0047】
(実施例6〜7)
実施例5のスラリー調製において酸化セリウムと硝酸ニッケル6水和物の添加比率を変更した以外は実施例5と同様にして、完成触媒(F)及び(G)を得た。完成触媒(F)及び(G)の触媒組成物の組成比及び担持量を表2に示した。
【0048】
(実施例8)
実施例5のスラリー調製において酸化セリウムの代わりに市販のセリウム系複合酸化物(比表面積162m/g、CeO/ZrO/La=65/27/8)に変更した以外は実施例5と同様にして、完成触媒(H)を得た。完成触媒(H)の触媒組成物の組成比及び担持量を表2に示した。
【0049】
【表2】

(水熱加速エージング)
実施例及び比較例の各触媒試料を以下の条件で水熱加速エージングを実施した。
処理温度:800℃
処理時間:100時間
処理ガス:2L/min 10%HO/Nバランス
(メタン改質性能試験)
水熱加速エージング後の試料を水素気流中で500℃にて1時間還元してから、ラボ活性試験装置を用いて以下の試験条件で水蒸気改質触媒のメタン改質性能試験を実施した。燃料として都市ガス13Aを脱硫処理せずにそのまま使用し、触媒層温度750℃、GHSV=5,000H−1でスチーム/カーボン(S/C)モル比=3.0の条件にて水蒸気改質反応を実施した。ガスクロマトグラフィー(島津製作所:ガスクロマトグラフGC−8A)を用いて生成ガスの各濃度を測定し、反応開始24時間後のメタン転化率を下記数式(1)により算出した。
【0050】
【数1】

なお、上記数式において、CO濃度、CO濃度およびCH濃度は、それぞれ生成ガス(触媒出口)における一酸化炭素、二酸化炭素およびメタンのガス濃度を表す。
【0051】
実施例1〜8及び比較例1〜2の試料について水熱加速エージング後のメタン改質改質性能の試験結果を表3に示した。
【0052】
(プロパン改質及び水蒸気パージ繰返し試験)
次に実施例の各触媒試料について上記メタン改質性能試験後にラボ活性試験装置の燃料供給と燃料停止による水蒸気パージを繰返しDSS運転に対する耐久性を調べた。燃料としては高純度プロパンガスを使用し、燃料供給時のGHSV=5,000H−1でスチーム/カーボン(S/C)比=2.5として、触媒層温度を750℃に維持してプロパンの供給を1時間毎に停止し水蒸気パージを1時間実施することを1サイクルとした。1サイクル目と10サイクル目の触媒出口ガスの流量及び出口ガス中の一酸化炭素、二酸化炭素及びメタンのガス濃度を測定し、供給したプロパンの炭素モル数に対するC1転化率を求めたて結果を表3に示した。
【0053】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明の水蒸気改質触媒は高価な貴金属を使用しなくてもDSS運転に対して優れた耐久性を有しており、特に家庭用燃料電池の改質器に好適に適用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニッケルを酸化セリウムに分散担持せしめた触媒組成物をハニカム担体に被覆してなる水蒸気改質触媒において、前記触媒組成物における酸化アルミニウムの含有率が20質量%未満であることを特徴とする水蒸気改質触媒。
【請求項2】
前記酸化セリウムは比表面積が10m/g以上であり、ハニカム担体の単位容積当り酸化セリウムが80〜300g/Lで被覆されている請求項1記載の水蒸気改質触媒。
【請求項3】
前記ニッケルはハニカム担体の単位容積当りに酸化ニッケル換算で5〜150g/Lで被覆されており、Ni/Ceのモル比が0.05〜2.0である請求項1〜2に記載の水蒸気改質触媒。
【請求項4】
請求項1〜3記載の水蒸気改質触媒を用いて燃料の改質反応により水素を製造する水素製造方法において、触媒層温度が500〜1,000℃で入口ガス空間速度が500〜100,000H−1で水蒸気改質触媒と接触せしめる水素製造方法。
【請求項5】
DSS運転において水素製造を停止するに際して触媒層温度が500〜1,000℃で燃料供給をストップして、水蒸気パージを実施する請求項4記載の水素製造方法。
【請求項6】
水蒸気改質触媒が性能低下した際に触媒層温度が700〜900℃で水蒸気パージを実施して、水蒸気改質触媒を再生する請求項4〜5に記載の水素製造方法。

【公開番号】特開2013−17913(P2013−17913A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−150983(P2011−150983)
【出願日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】