説明

水蒸気改質触媒機能を備えた二酸化炭素吸収材、その製造方法、および水素製造システムにおける燃料ガスの改質方法

【課題】水蒸気改質法により水素を製造する際に副次的に生成する二酸化炭素を効率よく除去することが可能であるとともに改質用の燃料ガスを効率よく水素に転化させる水蒸気改質触媒としての機能を併せ持つ、水蒸気改質触媒機能を備えた二酸化炭素吸収材、その製造方法、および該水蒸気改質触媒機能を備えた二酸化炭素吸収材を用いた水素製造システムにおける燃料ガスの改質方法を提供する。
【解決手段】Ba2TiO4を主成分とする物質1の表面に遷移金属2を担持させる。
また、Ba2TiO4を主成分とする物質の表面に担持させる遷移金属としてNiを用いる。
また、焼成後にBa2TiO4を主成分とする物質となる未焼成物質に、遷移金属の粉末を添加し、還元雰囲気で焼成することにより、Ba2TiO4を主成分とする物質の表面に遷移金属が担持された構造を有する水蒸気改質触媒機能を備えた二酸化炭素吸収材を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、水蒸気改質法を用いた水素製造システムにおいて用いられる水蒸気改質触媒機能を備えた二酸化炭素吸収材、その製造方法、および水素製造システムにおける燃料ガスの改質方法に関し、詳しくは、改質用の燃料ガスから水素を生成させるとともに、副次的に生成した二酸化炭素を除去する機能を有する水蒸気改質触媒機能を備えた二酸化炭素吸収材、その製造方法、および水素製造システムにおける燃料ガスの改質方法に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池に用いられる水素の製造方法として、例えば、図4に示すように、燃焼部51において、燃料ガスを燃焼させることにより発生させた熱エネルギーを利用して水蒸気改質を行うように構成された改質部(改質器)52に改質用の燃料ガスと水蒸気を供給し、高温条件下で水蒸気改質を行い、水素を生成させた後、改質ガスを、CO変成器53を通過させて、改質ガスに含まれる一酸化炭素(CO)ガスを除去することにより、高純度の水素を得る水蒸気改質法が知られている。
【0003】
この水蒸気改質法では、改質部(改質器)において、下記の式(1)および(2)の反応が進行する。
CH4+H2O→CO+3H2 (1)
CO+H2O→CO2+H2 (2)
【0004】
また、CO変成器においても、上記の式(2)の反応が進行する。
【0005】
上記のように、改質後のガス中には、燃料として使用可能な水素以外に、副次的に生成するCO、CO2や、未反応の炭化水素ガスなどが含まれる。
このうちCOは燃料電池に使用した場合、電極を被毒させ、電池性能を低下させる原因となる。このため、リン酸型燃料電池(PAFC)の場合には、COからCO2へのシフト反応を行うCO変成器を用いて改質ガス中のCO濃度を1%以下とし、さらに、固体高分子型燃料電池(PEFC)の場合には、選択酸化反応装置によりCO濃度を10ppm以下に低下させるようにしている。
そして、この選択酸化反応装置においては、下記の式(3)の反応が進行する。
2CO+O2→2CO2 (3)
【0006】
ところで、改質ガス中にCO2が残存すると、上記のCOからCO2へのシフト反応の逆反応が起こり、燃料ガス中のCO濃度が大きくなる。
このため、CO変成器の負荷の低減、および逆シフト反応の抑制を目的として、Li2ZrO3やLi4ZrO4を二酸化炭素の吸収材として用い、改質ガスから二酸化炭素を吸収する方法が提案されている(特許文献1参照)。
【0007】
しかしながら、この方法の場合、いずれの吸収材を用いても、700℃を超える高温下で二酸化炭素を吸収することは困難であるのが実情である。
【0008】
また、水蒸気改質法による水素の製造方法に関し、高温化で水蒸気改質とCO2の除去を同時に行う方法が提案されている(特許文献2参照)。この方法は、燃料改質器における水素転化率の向上、変成器における負荷の低減、および逆シフト反応の抑制を目的とするものであり、燃料と水蒸気から水素を製造する燃料改質器内部に、水蒸気改質用触媒と、二酸化炭素吸収材(CaO)を個別充填した層、もしくは、水蒸気改質触媒と二酸化炭素吸収材を混合した層を設けるようにしている。
【0009】
そして、このCaOを二酸化炭素の吸収材として用いる方法は、700℃以上の高温下でも二酸化炭素の吸収が可能であるとされている。
【0010】
しかしながら、CaOを用いて、800℃で二酸化炭素を吸収するためには、40%程度の二酸化炭素濃度が必要であり、750℃で二酸化炭素を吸収する場合においても二酸化炭素濃度を10%以下にすることは困難である。さらに、水蒸気改質後の二酸化炭素濃度は通常10%程度であることを考慮すると、水蒸気改質条件下でCaOにより二酸化炭素を吸収することは実際には困難であると考えられる。
【0011】
また、少なくとも炭素を含む燃料と水蒸気とからなる混合ガスを改質触媒および二酸化炭素吸脱助剤を含む反応層に接触させ、水素ガスを得るとともに副次的に生成する二酸化炭素を該二酸化炭素吸脱助剤に固定する水素転換工程と、二酸化炭素吸脱助剤を加熱して固定されていた二酸化炭素を脱離させ、二酸化炭素吸脱助剤の二酸化炭素吸収能を再生する再生工程と備えた水素製造方法が提案されている(特許文献3参照)。
【0012】
そして、この方法の場合、二酸化炭素吸脱助剤として、Mg、Ca、Srなどのアルカリ土類金属の酸化物、Na、K、Liなどのアルカリ金属の酸化物などが使用可能であるとされている。しかし、この方法においても、二酸化炭素吸脱助剤として用いることが可能であるとされている上記物質を用いた場合、特許文献2に関し説明したように、水蒸気改質条件下でCaOにより二酸化炭素を効率よく吸収することは実際には困難であると考えられる。
【特許文献1】特開2002−255510号公報
【特許文献2】特開2002−208425号公報
【特許文献3】特開2002−255508号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本願発明は、上記課題を解決するものであり、水蒸気改質法により水素を製造する際に副次的に生成する二酸化炭素を効率よく除去することが可能であるとともに改質用の燃料ガスを効率よく水素に転化させる水蒸気改質触媒としての機能を併せ持つ二酸化炭素吸収材、その製造方法、該水蒸気改質触媒を用いた、水素製造システムにおける燃料ガスの改質方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するために、本願発明(請求項1)の水蒸気改質触媒機能を備えた二酸化炭素吸収材は、水蒸気改質法を用いた水素製造システムにおいて用いられる、水蒸気改質触媒機能を備えた二酸化炭素吸収材であって、Ba2TiO4を主成分とする物質の表面に遷移金属が担持されていることを特徴としている。
【0015】
また、請求項2の水蒸気改質触媒機能を備えた二酸化炭素吸収材は、請求項1の発明の構成において、前記Ba2TiO4を主成分とする物質の表面に担持された前記遷移金属がNiであり、前記Niの、前記Ba2TiO4を主成分とする物質と前記Niの合計量に対する割合が1重量%以上であることを特徴としている。
【0016】
また、本願発明(請求項3)の水蒸気改質触媒機能を備えた二酸化炭素吸収材の製造方法は、焼成後にBa2TiO4を主成分とする物質となる未焼成物質に、遷移金属の粉末を添加し、還元雰囲気で焼成することにより、Ba2TiO4を主成分とする物質の表面に遷移金属を担持させることを特徴としている。
【0017】
また、請求項4の水蒸気改質触媒機能を備えた二酸化炭素吸収材の製造方法は、請求項3の発明の構成において、前記遷移金属の粉末がNi粉末であり、かつ、前記Ni粉末を、全体の1重量%以上の割合で添加し、還元雰囲気で焼成することを特徴としている。
【0018】
また、本願発明(請求項5)の水素製造システムにおける燃料ガスの改質方法は、水蒸気改質法を用いた水素製造システムにおける改質用の燃料ガスの改質方法であって、Ba2TiO4を主成分とする物質の表面に遷移金属を表面に担持させた、水蒸気改質触媒機能を備えた二酸化炭素吸収材を使用することを特徴としている。
【0019】
また、請求項6の水素製造システムにおける燃料ガスの改質方法は、請求項5の発明の構成において、前記Ba2TiO4を主成分とする物質の表面に担持された前記遷移金属がNiであり、前記Niの、前記Ba2TiO4を主成分とする物質と前記Niの合計量に対する割合が1重量%以上である、水蒸気改質触媒機能を備えた二酸化炭素吸収材を使用することを特徴としている。
【発明の効果】
【0020】
本願発明(請求項1)の水蒸気改質触媒機能を備えた二酸化炭素吸収材は、Ba2TiO4を主成分とする物質の表面に遷移金属を担持させるようにしているので、水蒸気改質法により水素を製造する際に副次的に生成する二酸化炭素を効率よく除去することが可能であるとともに、改質用の燃料ガスを効率よく水素に転化させる水蒸気改質触媒としての機能を備えた二酸化炭素吸収材を提供することが可能になる。したがって、本願発明の二酸化炭素吸収材を用いることにより、改質ガス中の二酸化炭素を効率よく吸収除去して、改質反応を促進させ、高い水素転化率を実現することが可能になり、高純度の水素ガスを効率よく製造することが可能になる。
【0021】
すなわち、本願発明の水蒸気改質触媒機能を備えた二酸化炭素吸収材は、複合酸化物であるBa2TiO4を主成分とする物質の表面に遷移金属を担持させたものであって、この二酸化炭素吸収材は、水蒸気改質法を用いて水素を製造する際に、二酸化炭素吸収剤としての役割と、水蒸気改質用触媒としての役割を同時に果たすため、別途水蒸気改質触媒を用いることなく、改質用の燃料ガス、例えば、メタンを水蒸気改質することが可能になるとともに、改質ガス中の二酸化炭素を吸収する作用により、一酸化炭素の濃度を低下させることが可能になる。その結果、メタンの改質反応が促進されて未反応のメタン濃度が低下し、高い水素転化率を実現することが可能になり、高純度の水素ガスを効率よく製造することが可能になる。
【0022】
具体的に説明すると、改質器においては、下記の式(1)および(2)の反応が進行する。
CH4+H2O→CO+3H2 (1)
CO+H2O→CO2+H2 (2)
そして、本願発明の水蒸気改質触媒機能を備えた二酸化炭素吸収材により、改質ガス中のCO2が除去されることにより、上記(2)の平衡反応が右に進行し、水素転化率が向上するとともに、CO濃度が低下して、CO変成器やCO除去装置の負荷が軽減される。
【0023】
また、COが減少することにより、基本的な改質反応である上記(1)の平衡反応も右に進行するため、さらに水素転化率を向上させることが可能になる。
【0024】
なお、図3は、Ba2TiO4を吸収材として用いた場合の、温度と二酸化炭素分圧(CO2分圧)の関係(実験に基づく二酸化炭素吸収可能領域)を示す図である。図3に示すように、Ba2TiO4を用いた場合、700℃で二酸化炭素分圧が約0.003atm、750℃で二酸化炭素分圧が約0.0084atm、800℃で二酸化炭素分圧が約0.02atmと低く、高温下で二酸化炭素を吸収する能力を十分に備えていることがわかる。
【0025】
また、本願発明の水蒸気改質触媒機能を備えた二酸化炭素吸収材は、加熱することにより吸収した二酸化炭素を放出させて、二酸化炭素の吸収能を回復させることが可能である。
【0026】
なお、本願請求項1の発明によれば、条件を選ぶことにより、CO変成器を用いることなく改質ガス中のCO濃度を1%以下にすることが可能になる。その場合には、CO変成器を必要としないリン酸型燃料電池(PAFC)に適した燃料電池用改質装置を提供することが可能になる。
また、選択酸化反応装置によりCO濃度を10ppm以下に低下させるようにした場合には、CO変成器を必要としない固体高分子型燃料電池(PEFC)に適した燃料電池用改質装置を提供することも可能である。
【0027】
なお、本願発明の水蒸気改質触媒機能を備えた二酸化炭素吸収材が二酸化炭素を放出する際には、二酸化炭素の熱分解により一酸化炭素と酸素が発生する。そこで、一酸化炭素と反応性の高い任意のガスを共存させ、本願発明の水蒸気改質触媒機能を備えた二酸化炭素吸収材の表面に坦持されるNiを触媒として両者を反応させることにより、本願発明の水蒸気改質触媒機能を備えた二酸化炭素吸収材より放出される二酸化炭素を意図する有機物に変換すること、すなわち、有機合成を行わせるように構成することも可能である。
【0028】
また、請求項2の水蒸気改質触媒機能を備えた二酸化炭素吸収材のように、請求項1の発明の構成において、Ba2TiO4を主成分とする物質の表面に担持される遷移金属としてNiを用い、かつ、Niの、Ba2TiO4を主成分とする物質とNiの合計量に対する割合を1重量%以上とすることにより、上述のような作用効果、すなわち、水蒸気改質法により効率よく水素を生成させ、かつ、副次的に生成する二酸化炭素を効率よく除去することが可能になる。
そして、本願発明の水蒸気改質触媒機能を備えた二酸化炭素吸収材を用いることにより、改質反応を促進させて高い水素転化率を実現して、高純度の水素ガスを効率よく製造することが可能になる。
【0029】
なお、本願発明の水蒸気改質触媒機能を備えた二酸化炭素吸収材においては、Ba2TiO4を主成分とする物質の表面に担持されるNiの量を1重量%以上とすることにより、高い水素転化率を実現することが可能になるが、Niを10重量%を超える割合で担持させても、顕著な効果の増大が認められなくなる。また、Niの量が10重量%を超えると、二酸化炭素吸収材中のBa2TiO4の比率が低下し、二酸化炭素の吸収可能な量が低下する。したがって、通常は、Niを1〜10重量%の割合で担持させることが望ましい。
【0030】
また、本願発明(請求項3)の水蒸気改質触媒機能を備えた二酸化炭素吸収材の製造方法は、焼成後にBa2TiO4を主成分とする物質となる未焼成物質に、遷移金属の粉末を添加し、還元雰囲気で焼成することにより、Ba2TiO4を主成分とする物質の表面に遷移金属を担持させるようにしているので、複雑な工程を必要とせず、遷移金属がBa2TiO4を主成分とする物質の表面に担持された水蒸気改質触媒機能を備えた二酸化炭素吸収材を効率よく製造することができる。
【0031】
すなわち、本願発明(請求項3)の水蒸気改質触媒機能を備えた二酸化炭素吸収材の製造方法によれば、従来の一般的な方法である浸漬処理、すなわち、遷移金属溶液にBa2TiO4を主成分とする物質を浸漬する処理などの煩雑な処理を必要とすることなく、Ba2TiO4を主成分とする物質の表面にNiなどの遷移金属を容易に坦持させることができる。
【0032】
また、請求項4の水蒸気改質触媒機能を備えた二酸化炭素吸収材の製造方法のように、請求項3の発明の構成において、遷移金属の粉末としてNi粉末を用い、かつ、Ni粉末を、全体の1重量%以上の割合で添加することにより、十分な量のNiがBa2TiO4を主成分とする物質の表面に担持された水蒸気改質触媒機能を備えた二酸化炭素吸収材を効率よく製造することが可能になる。
【0033】
また、本願発明(請求項5)の水素製造システムにおける燃料ガスの改質方法は、水蒸気改質法を用いた水素製造システムにおける改質用の燃料ガスの改質方法であって、Ba2TiO4を主成分とする物質の表面に遷移金属を表面に担持させた、水蒸気改質触媒機能を備えた二酸化炭素吸収材を使用するようにしているので、水蒸気改質法により効率よく水素を生成させることができるとともに、副次的に生成する二酸化炭素を効率よく除去することができる。
したがって、本願発明の水素製造システムにおける燃料ガスの改質方法によれば、高い水素転化率を実現することが可能になるとともに、高純度の水素ガスを効率よく製造することが可能になる。
【0034】
また、請求項6の水素製造システムにおける燃料ガスの改質方法は、Ba2TiO4を主成分とする物質の表面に担持された遷移金属がNiであり、Niの、Ba2TiO4を主成分とする物質とNiの合計量に対する割合が1重量%以上であるような、水蒸気改質触媒機能を備えた二酸化炭素吸収材を使用するようにしているので、より確実に、高い水素転化率を実現することが可能になるとともに、高純度の水素ガスを効率よく製造することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
以下に本願発明の実施例を示して、本願発明の特徴とするところをさらに詳しく説明する。
【実施例1】
【0036】
表1に示すような割合で、チタン酸バリウム、炭酸バリウム、およびNi粉末を湿式混合した後、乾燥することにより、金属Niを含有する粉末状材料を作製した。なお、Ni粉末については、0.83重量部、1.67重量部、3.38重量部、8.72重量部の割合で添加した。なお、このNi粉末の割合は、それぞれ、焼成工程を経て最終的に得られる水蒸気改質触媒機能を備えた二酸化炭素吸収材全体に対してNiが、0.5重量%、1.0重量%、2.0重量%、5.0重量%になるような割合である。
【0037】
それから、この粉末状材料に、さらにバインダを加えながら攪拌することにより造粒を行い、粒子径が約2mmの粒状体を得た。
【0038】
次に、この粒状体を、Air雰囲気、300℃、5hrの条件で熱処理を行い、脱脂した後、水素1%を含む窒素中で1000℃、2hrの焼成を行い、Niを1%含有するBa2TiO4を主成分とする水蒸気改質触媒機能を備えた二酸化炭素吸収材を得た。
【0039】
【表1】

【0040】
なお、図1は、表1の吸収材3の、表面にNiが担持された状態を示すSEM写真である。図1に示すように、吸収材3においては、Ba2TiO4を主成分とする物質、すなわち、二酸化炭素吸収材本体1の表面にNi粒子2が担持されていることがわかる。
【0041】
それから、表1の水蒸気改質触媒機能を備えた二酸化炭素吸収材を、図2に示すような、燃料電池用改質装置を構成する改質器13の内部に充填し、750℃の温度でメタンの水蒸気改質を行い、改質後のガス中のメタン、二酸化炭素、一酸化炭素および水素の含有率を測定した。
【0042】
なお、図2は本願発明の、水蒸気改質触媒機能を備えた二酸化炭素吸収材を用いた燃料電池用の水素の製造装置(燃料電池用改質装置)の構成を模式的に示す図である。この燃料電池用改質装置は、図2に示すように、炭化水素ガスを主たる成分とする原料ガス(都市ガス)を水蒸気改質して水素を生成させるための、内部に、水蒸気改質触媒機能を備えた二酸化炭素吸収材11を充填した反応缶12が配設された改質器13と、改質器13で改質された改質ガス中の一酸化炭素(CO)を除去するためのCO変成器14とを備えている。
【0043】
また、比較のため、水蒸気改質触媒機能を備えた二酸化炭素吸収材の代わりに、アルミナ基材の表面にNi系の改質触媒を担持させた触媒であって、二酸化炭素吸収能を有するBa2TiO4を主成分とする物質を含まない触媒を用いて、同じ条件でメタンの水蒸気改質を行い、改質後のガス中のメタン、二酸化炭素、一酸化炭素および水素の含有率を測定した。
その結果を表2に併せて示す。なお、表2において試験番号に*印を付したものは本願発明(請求項2)の範囲外のものである。
【0044】
【表2】

【0045】
表2の試験番号5の比較例のように、アルミナ基材の表面にNi系の改質触媒を担持させた、二酸化炭素吸収材を含まない改質触媒を用いた場合、メタンの水素への改質は行われるものの、改質ガス中の二酸化炭素や一酸化炭素濃度が高くなることが確認された。このように、一酸化炭素の濃度が高くなると、一酸化炭素の濃度を低下させるための変成器に対する負荷が大きなり、好ましくない。
【0046】
また、表2の試験番号1のように、Ni含有率が1重量%未満で、本願発明(請求項2)の要件を満たさない、Ni含有率が0.5重量%の二酸化炭素吸収材を用いた場合、二酸化炭素および一酸化炭素の含有率が低下し、二酸化炭素吸収剤としての機能は良好であり、かつ、水蒸気改質触媒機能を備えていることも確認されたが、水素の含有率はやや低く、メタンの水素への改質効果が不十分になり、未反応のメタンの残存量が多くなることが確認された。
【0047】
これに対して、本願発明(請求項2)の要件を満たした、表1の吸収材2〜4の水蒸気改質触媒機能を備えた二酸化炭素吸収材、すなわち、吸収材表面に遷移金属であるNiを、1〜5重量%の割合で担持させた水蒸気改質触媒機能を備えた二酸化炭素吸収材を用いた場合、別途、改質触媒を用いることなく、メタンの水蒸気改質が可能になること、二酸化炭素吸収作用により、一酸化炭素の濃度が低下することが確認された。さらに、一酸化炭素の濃度が低下することにより、メタンの改質反応が促進され、未反応のメタン濃度が低下し、高い水素転化率を実現することが可能になることが確認された。
【0048】
上記の結果より、Niの含有量は1.0重量%以上とすることにより、別途、改質触媒を用いることなく、メタンの水蒸気改質を可能ならしめるとともに、二酸化炭素吸収作用により、一酸化炭素の濃度を低下させ、効率よく、高純度の水素を得ることが可能になることが確認された。
【0049】
なお、上記実施例では、遷移金属がNiである場合を例にとって説明したが、本願発明においては他の遷移金属、例えば、Coなどを用いることも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0050】
上述のように、本願発明の水蒸気改質触媒機能を備えた二酸化炭素吸収材は、Ba2TiO4を主成分とする物質の表面に遷移金属を担持させるようにしているので、本願発明の水蒸気改質触媒機能を備えた二酸化炭素吸収材を用いることにより、別途、改質触媒を用いることなく、メタンを水蒸気改質することが可能になるとともに、Ba2TiO4を主成分とする物質の二酸化炭素吸収作用により、改質ガス中の一酸化炭素濃度を低下させて、メタンの改質反応を促進し、高い水素転化率を実現することが可能になる。
【0051】
したがって、本願発明は、水蒸気改質法を用いて水素を製造する燃料電池用の改質プロセスや改質装置に広く用いることが可能である。
【0052】
なお、本願発明によれば、条件を選ぶことにより、CO変成器を特に用いなくても改質ガス中のCO濃度を1%以下にすることが可能になる。したがって、CO変成器を必要としないリン酸型燃料電池(PAFC)に適した燃料電池用改質装置を提供することができる。また、選択酸化反応装置によりCO濃度を10ppm以下に低下させるようにした場合には、CO変成器を必要としない固体高分子型燃料電池(PEFC)に適した燃料電池用改質装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本願発明の一実施例(実施例1)にかかる、Ba2TiO4を主成分とする物質の表面にNiが担持された水蒸気改質触媒機能を備えた二酸化炭素吸収材のSEM写真を示す図である。
【図2】本願発明の、水蒸気改質触媒機能を備えた二酸化炭素吸収材を用いた燃料電池用の水素の製造装置(燃料電池用改質装置)の構成を模式的に示す図である。
【図3】Ba2TiO4を吸収材として用いた場合の、温度と二酸化炭素分圧(CO2分圧)の関係(実験に基づく二酸化炭素吸収可能領域)を示す図である。
【図4】従来の燃料電池用改質装置を示す図である。
【符号の説明】
【0054】
1 二酸化炭素吸収材本体
2 Ni粒子
11 水蒸気改質触媒機能を備えた二酸化炭素吸収材
12 反応缶
13 改質器
14 CO変成器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水蒸気改質法を用いた水素製造システムにおいて用いられる、水蒸気改質触媒機能を備えた二酸化炭素吸収材であって、Ba2TiO4を主成分とする物質の表面に遷移金属が担持されていることを特徴とする水蒸気改質触媒機能を備えた二酸化炭素吸収材。
【請求項2】
前記Ba2TiO4を主成分とする物質の表面に担持された前記遷移金属がNiであり、前記Niの、前記Ba2TiO4を主成分とする物質と前記Niの合計量に対する割合が1重量%以上であることを特徴とする請求項1記載の水蒸気改質触媒機能を備えた二酸化炭素吸収材。
【請求項3】
焼成後にBa2TiO4を主成分とする物質となる未焼成物質に、遷移金属の粉末を添加し、還元雰囲気で焼成することにより、Ba2TiO4を主成分とする物質の表面に遷移金属を担持させることを特徴とする水蒸気改質触媒機能を備えた二酸化炭素吸収材の製造方法。
【請求項4】
前記遷移金属の粉末がNi粉末であり、かつ、前記Ni粉末を、全体の1重量%以上の割合で添加し、還元雰囲気で焼成することを特徴とする請求項3記載の水蒸気改質触媒機能を備えた二酸化炭素吸収材の製造方法。
【請求項5】
水蒸気改質法を用いた水素製造システムにおける改質用の燃料ガスの改質方法であって、Ba2TiO4を主成分とする物質の表面に遷移金属を表面に担持させた、水蒸気改質触媒機能を備えた二酸化炭素吸収材を使用することを特徴とする、水素製造システムにおける燃料ガスの改質方法。
【請求項6】
前記Ba2TiO4を主成分とする物質の表面に担持された前記遷移金属がNiであり、前記Niの、前記Ba2TiO4を主成分とする物質と前記Niの合計量に対する割合が1重量%以上である、水蒸気改質触媒機能を備えた二酸化炭素吸収材を使用することを特徴とする請求項5記載の、水素製造システムにおける燃料ガスの改質方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−55849(P2007−55849A)
【公開日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−243345(P2005−243345)
【出願日】平成17年8月24日(2005.8.24)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】