説明

水蒸気消火方法及びその装置

【課題】効率よく消火できるようにする。
【解決手段】火災発生室R1内の空気中水蒸気の割合を、22〜26%以上にして消火せしめる水蒸気消火装置Sであって、消火液をミスト状態にするミスト用ノズル4と、前記ミスト状態の消火液を熱風6で加熱する熱風ヘッド5と、を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、マンションやホテル等の密閉状態の室内消火等に用いられる、水蒸気消火方法及びその装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
マンション等には、火災消火のためにスプリンクラ消火設備が設けられている。このスプリンクラ消火設備は、例えば、該マンションのある部屋で火災が発生した場合に作動し、火源に向かって消火水を放出し消火する。
【0003】
ところが、前記スプリンクラ消火設備では、消火水が床面上に溜まって水浸しになったり、前記部屋の階下の部屋等に消火水が流れ込んだりするので、大きな水損が発生することがある。
【0004】
そこで、前記問題を解決するため、次のような消火方法が採用されている。
(1)水(室温)をミスト化して消火剤とし、消火する(例えば、特許文献1、参照)。
(2)水蒸気(高温)をガス消火剤とし、消火する方法(例えば、特許文献2、参照)。
【0005】
【特許文献1】特開平10−127801
【特許文献2】特開2001−346898
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記特許文献1では、火災の熱でミストは気化され、蒸発潜熱により冷却効果と、空気中の酸素濃度の希釈による窒息効果が発生する。
【0007】
しかし、この文献1では、微細化噴霧ノズルを用いて消火水をミスト化しているので、ミストの粒径は、該ノズル口径により決定される。そのため、ミストの微細化は、噴霧ノズルにより制限されることになる。又、ミストは、火源近傍に到達しないと、蒸発に必要な温度にならない。そのため、気化の効率が良くないので、初期消火は困難となる。
【0008】
特許文献2では、スチームの冷却効果と窒素効果が期待できるが、ミストの気化は火源に依存している。しかし、室温の低い、火災の初期段階には、前記火源があってもなかなか室温が上昇しない。そのため、水蒸気の発生の効率が悪く、火災規模が増大して室温が上昇しないと、消火に必要な水蒸気が発生しない。
【0009】
本件発明は、上記事情に鑑み、効率よく消火できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
密閉状態の室内に火災が発生した場合には、炭酸ガスを用いるガス消火が行われているが、このガス消火に必要な炭酸ガスの量は、該室内の大気中における、22〜26%の割合に相当する。
【0011】
ところで、近年、炭酸ガスと水蒸気の消火能力は、同等であることが確認されており、水蒸気の量を22〜26%にすれば、水蒸気による消火が可能になる。
大気中における飽和水蒸気の割合は、室温により変化し、例えば、20℃の時は2.31%、60℃の時は19.69%、70℃の時は30.84%、である。
【0012】
又、水蒸気の膨張率、即ち、飽和水蒸気容積「気体」/水量「液体」は、室温(20℃)の1334に対して、60℃では1516(1.15倍)、70℃では1561(1.17倍)となっている。
【0013】
本発明者は、上記事情に鑑み、火災発生室内の水蒸気を消火可能な割合(22〜26%)にするためには、室内の温度を65℃〜70℃(気化温度)に達する様にすれば良いことに気づいた。
【0014】
そこで、火災発生室内の温度が、前記気化温度に達していない場合には、その不足分の温度(熱源)を補充すれば良い、と考えた。この考え方は、該火災発生室内の温度を、熱源を加えて、火源による温度以上にするものであり、「消火の常識」に反し、今まで存在しない考え方である。本件発明は、上記知見に基づいて完成されたものである。
【0015】
この発明は、消火液をミスト状態にするミスト生成手段と、前記ミスト状態の消火液を加熱する加熱手段と、からなることを特徴とする。
【0016】
この発明のミスト生成手段は、消火液を噴霧するミスト用ノズルであり、加熱手段は、熱風を噴出するジェットヒータであることを特徴とする。この発明のジェットヒータの噴出ヘッドの風下に、ミスト用ノズルが設置されていることを特徴とする。
【0017】
この発明は、火災発生室内の状況を監視する室内監視手段と、前記室内監視手段の監視結果に基づいてミスト生成手段及び加熱手段を制御する制御手段と、を備えていることを特徴とする。この発明の制御手段は、火災発生室内の水蒸気の割合が、22%〜26%になるように、ミスト生成量及び熱風温度を調整することを特徴とする。この発明のミスト生成手段は、粒径が1μm〜200μmのミストを生成することを特徴とする。
【0018】
この発明は、火災発生室内に、ミスト状態の消火液を供給すると共に、該ミスト状態の消火液を加熱する熱風を供給し、前記火災発生室内を消火可能な水蒸気割合にすることを特徴とする。
【0019】
この発明は、火災発生室内の火災状況を監視し、該監視結果に基づいてミストの噴霧量、熱風温度を調整することを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
この発明は、消火液をミスト状態にするミスト生成手段と、前記ミスト状態の消火液を加熱する加熱手段と、を備えているので、火災発生室内に、消火液をミスト状に噴霧すると共に、熱風を放出して該室内を迅速に気化温度にし、水蒸気消火割合にすることができる。そのため、効率よく消火を行えるので、火災初期の段階で消火することができる。
【0021】
この発明は、火災発生室内の状況を監視する室内監視手段と、前記室内監視手段の監視結果に基づいてミスト生成手段及び加熱手段を制御する制御手段と、を備えているので、火災発生室内の状況に応じてミストの噴霧量、熱風温度等を調整できる。そのため、迅速に、ミストを気化することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
この発明の実施の形態を図1〜図3により説明する。
水蒸気発生装置Sは、ミスト生成手段Mと加熱手段Hとを備えている。
【0023】
ミスト生成手段Mは、図示しない水源に連結されるポンプ1と、該ポンプ1に連結されたミスト用ノズル4と、該ノズルと前記ポンプ1との間に設けられ、消火水送量を調整する制御バルブ2Nと、を備えている。前記ノズル4は、同一円C上に、周方向に間隔をおいて複数設けられている。
【0024】
このノズル4により生成されるミスト7の粒径は、例えば、30μmであるが、1μm〜200μmが好適である。なお、このノズル4の個数、口径、配置、等は必要に応じて適宜選択される。
【0025】
加熱手段Hは、熱風6を熱風ヘッド5に送出する熱風ファン3と、熱風ファン3と熱風ヘッド5との間に設けられ、熱風送出量を調整する制御バルブ2と、を備えている。
【0026】
この熱風ヘッド5は、前記円Cに中心軸上に設けられ、各ミスト用ノズル4より少し引っ込んだ所に位置する。これは、熱風ヘッド5の風下に、ミスト用ノズル4を位置することができ、ミストは容易に加熱されるほか、熱風ヘッド5が、ミスト用ノズル4から放出されるミスト7に晒されるのを防止することができる。なお、ミスト用ノズル4より熱風ヘッド5の引っ込む位置の程度は、必要に応じて適宜調節することができる。
【0027】
このような水蒸気発生装置Sは、消火区画となる部屋内等に設けられ、例えば、火災発生室R1の正面壁には、室内監視手段、例えば、赤外線センサ15が設けられており、又、前記バルブ2,2N等を制御する制御盤17が設けられている。
【0028】
次に、本実施の形態について説明する。
ある部屋(火災発生室)R1で火災が発生すると、消火作業者は、水蒸気発生装置Sを起動する。
【0029】
このとき、ポンプ1を始動させて消火水をミスト用ノズル4に圧送すると、該消火水はミスト7となって該室R1内に噴霧される。この時のミストの粒径は、例えば、30μmである。
【0030】
同時に、灯油を燃焼させて熱風を発生させる熱風ファン3を駆動させ、熱風ヘッド5から熱風6を該室R1内に放出する。この時の熱風6の温度は、例えば、65℃に調整されている。この熱風6は、ミスト7を加熱し、気化を促進させる。
【0031】
消火中における火災発生室R1内の様子は、赤外線センサ15により監視され、人間が在室しているか否か、火災状況はどうか、などがチェックされる。この赤外線センサは、例えば、8〜10μmの超波長で使用すると、該室内が水蒸気で曇っていても、室内の様子を明確に検出することができる。
【0032】
熱風の温度は、室内の温度が気化温度、例えば、65℃〜70℃になるように調整され、又、ミスト7の噴霧量は、火災発生室R1内における水蒸気の割合が22〜26%以上になるように調整される。
【0033】
この様に高温空気にミストを暴露させることによって、従来のミストより遙かに大量の水蒸気を発生させ、小水量でありながら多くの不活性ガスを生成し、効率的に閉鎖的な空間の消火を行うことができる。
なお、ここで水蒸気発生装置Sは、火災発生室R1に固定されていることを記載したが、これに限定されるものではない。例えば、火災発生室R1で火災が発生したときに、消火作業者は該室R1のドア10を開け、水蒸気発生装置Sを該火災発生室R1内に入れ、ポンプ1を水源に接続して消火するようにしても良い。
【0034】
この発明の実施の形態は、上記に限定されるものではなく、例えば、次のようにしても良い。
(1)加熱手段として、キャスタ付きのジェットヒータを用いる。このジェットヒータとして、例えば、全長1060mm、発熱量40.93kw、風量14m3/min.、使用燃料 灯油 が用いられる。
【0035】
(2)消火剤として、水より沸点の低い液体、例えば、沸点50℃の「ハロン代替」を用いる。又、強化液、即ち、水に炭酸カルシウムを加えたもの、を用いることもできる。
なお、実施の形態では、加熱したミスを、火災発生室に放出するようにしたが、火災発生室の周囲の部屋や廊下等に放出して火災が拡散しても消火できるようにすることによって、火災の延焼を防止するために用いても良い。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の実施の形態を示す図で、水蒸気消火装置の正面図である。
【図2】水蒸気消火装置の側面図で、ミスト用ノズルと熱風ヘッドとの位置関係を示す図である。
【図3】火災発生室を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0037】
1 ポンプ
2 制御バルブ
2N 制御バルブ
3 熱風ファン
4 ミスト用ノズル
5 熱風ヘッド
6 熱風
7 ミスト
C 円
S 水蒸気消火装置
M ミスト生成手段
H 加熱手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
消火液をミスト状態にするミスト生成手段と、
前記ミスト状態の消火液を加熱する加熱手段と、
からなることを特徴とする水蒸気消火装置。
【請求項2】
ミスト生成手段は、消火液を噴霧するミスト用ノズルであり、加熱手段は、熱風を噴出するジェットヒータであることを特徴とする請求項1記載の水蒸気消火装置。
【請求項3】
ジェットヒータの熱風ヘッドの風下に、ミスト用ノズルが設置されていることを特徴とする請求項2記載の水蒸気消火装置。
【請求項4】
火災発生室内の状況を監視する室内監視手段と、前記室内監視手段の監視結果に基づいてミスト生成手段及び加熱手段を制御する制御手段と、を備えていることを特徴とする請求項1、2、又は、3記載の水蒸気消火装置。
【請求項5】
制御手段は、火災発生室内の水蒸気の割合が、22%〜26%になるように、ミスト生成量及び熱風温度を調整することを特徴とする請求項4記載の水蒸気消火装置。
【請求項6】
ミスト生成手段は、粒径が1μm〜200μmのミストを生成することを特徴とする請求項1、2、3、4、又は、5記載の水蒸気消火装置。
【請求項7】
火災発生室内に、ミスト状態の消火液を供給すると共に、該ミスト状態の消火液を加熱する熱風を供給し、前記火災発生室内を消火可能な水蒸気割合にすることを特徴とする水蒸気消火方法。
【請求項8】
火災発生室内の火災状況を監視し、該監視結果に基づいてミストの噴霧量、熱風温度を調整することを特徴とする請求項7記載の水蒸気消火方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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