説明

水解性不織布及び湿潤シート製品

【課題】 湿潤時においても実用的な強力を有しつつ、水解性が良好な不織布及び湿潤シート製品を提供する。
【解決手段】 本発明の水解性不織布は、繊維長が10mm以下のセルロース系短繊維を50質量%以上含む短繊維層と、短繊維層の両面に、繊度が2dtex以下であり、繊維長が20mmを越え、35mm未満である再生セルロースステープル繊維を50質量%以上含むステープル繊維層が積層されており、短繊維層及びステープル繊維層が互いに水流交絡により一体化している。
本発明の湿潤シート製品は、前記水解性不織布に液体が含浸されて収納体に収容されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、湿潤時においても実用的な強力を有し、水解し易い水解性不織布および湿潤シート製品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ウェットティッシュ、清拭シート等の拭き取り用品や、紙おむつ、生理用ナプキン等の衛生用品の多くは、使い捨てで使用される。このように使用されたシートは、体液、便等の汚物を含んでいるため、廃棄が不衛生である。そのため、使用後のシートは、水洗トイレに流して速やかに処理することが望まれており、様々な水解性不織布が提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1(特開2001−146664号公報)では、乾燥時における捲縮弾性率を100%としたとき、200重量%の水分含有時の繊維の捲縮弾性率が、乾燥時の捲縮弾性率に対して20〜75%の範囲内にある水解性繊維の集合に、水流交絡処理を施した水解性不織布が提案されている。特許文献2(特開平11−152667号公報)では、L/Dが相対的に大きい第1再生セルロース繊維20〜80重量%と木材パルプ繊維80〜20重量%の湿式抄紙ウェブ層と、L/Dが相対的に小さい第2再生セルロース繊維20〜80重量%と木材パルプ繊維80〜20重量%の湿式抄紙ウェブ層の積層ウェブを、水流交絡処理により一体化した水解性不織布が提案されている。特許文献3(特表2008−546917号公報)では、一部が扁平断面を示す繊維、具体的には長方形断面の外側縁の幅/長さ比率が1:2〜1:20(好ましくは1:4〜1:8)であるビスコース繊維を含む水解性不織布が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−146664号公報
【特許文献2】特開平11−152667号公報
【特許文献3】特表2008−546917号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の水解性不織布には、以下の問題点があった。特許文献1の水解性不織布は、特定の捲縮弾性率を有する水解性繊維を用いることにより、湿潤時の実用強力を得ようと試みている。しかし、具体的には平均繊維長35〜45mm、平均繊維径1.6〜5デニールの水解性繊維を用いており、湿潤時の実用強力は高いものの、水解時に繊維長の比較的長い繊維が十分に離解しないため、水解性は十分とはいえない。特許文献2の水解性不織布は、L/Dが異なる再生セルロース繊維の層を積層し一体化することにより、水解性を良好にしている。しかし、湿式抄紙法により2層抄き合わせた不織布であるため、ペーパーライクであり硬いという問題があった。特許文献3の水解性不織布は、扁平断面のビスコース繊維を主として用いるため、水流交絡処理を行っても十分に交絡せず、十分な実用強力が得られないことがあった。
【0006】
本発明は、これらの実情に鑑みてなされたものであり、湿潤時においても実用的な強力を有しつつ、水解性が良好な不織布及び湿潤シート製品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の水解性不織布は、繊維長が10mm以下のセルロース系短繊維を50質量%以上含む短繊維層と、短繊維層の両面に、繊度が2dtex以下であり、繊維長が20mmを越え、35mm未満である再生セルロースステープル繊維を50質量%以上含むステープル繊維層が積層されており、短繊維層及びステープル繊維層が互いに水流交絡により一体化していることを特徴する。
【0008】
本発明の湿潤シート製品は、前記水解性不織布に液体が含浸されて収納体に収容されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の水解性不織布は、繊維長が短い短繊維層の両面に、細繊度の再生セルロースステープル繊維を含むステープル繊維層が積層され、水流交絡により一体化していることにより、湿潤時における実用強力と水解性を両立することができる。
【0010】
本発明の湿潤シート製品は、前記水解性不織布を用いるので、湿潤時における実用強力と水解性が良好であり、ウェットティッシュ、清拭シート等の拭き取り用品や、フェイスマスク等の化粧用品に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の水解性不織布の一例の不織布表面を示すSEM写真(倍率100倍)である。
【図2】本発明の水解性不織布の一例の不織布断面を示すSEM写真(倍率150倍)である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の水解性不織布は、セルロース系短繊維を含む短繊維層の両面に、再生セルロースステープル繊維を含むステープル繊維層の積層体から構成される。本発明でいう「水解性」とは、不織布が水中で解繊し、水に分散することが可能な性質をいう。不織布の水解性が低すぎる場合には、水中に不織布を投入した際に解繊に長時間を要する、あるいは部分的に解繊しないことがあるため、不織布を水洗トイレなどの下水に流して処理する際に、管につまるなどの問題を生じることがある。また、不織布の水解性が高すぎる場合には、湿潤状態で使用するときに実用的な強力がなく、不織布の形態が損なわれることがある。このような水解性を有するか否かは、後述する方法により測定することができる。
【0013】
[短繊維層]
前記短繊維層は、繊維長が10mm以下のセルロース系短繊維を50質量%以上含む。セルロース系繊維は、セルロースから成る、またはセルロースを主たる成分とする繊維を指す。セルロース系繊維は、親水性を有するので、液体を含浸し易く、水中でも崩壊し易く、生分解性も有しており、好ましく用いられる。セルロース系短繊維は、具体的には、機械パルプ、再生パルプおよび化学パルプ等のパルプ;ビスコースレーヨン、キュプラ、および溶剤紡糸セルロース繊維(例えば、レンチングリヨセル(登録商標)およびテンセル(登録商標))等の再生繊維;ならびに麻(靱皮繊維および葉茎または葉から採取した繊維を含む)、コットン(木綿、リンター)等の植物系天然繊維が挙げられる。
【0014】
前記セルロース系短繊維のうち、パルプ繊維を用いることが、取扱い性、水中での崩壊性等で好ましい。パルプ繊維は、針葉樹木材または広葉樹木材を用いて常套の方法で製造されたものであってよい。一般的に、パルプ繊維の繊度は、1.0〜4.0dtex程度、繊維長は0.5〜4.5mm程度であるが、この範囲外の繊度および/または繊維長を有するパルプを使用してもよい。パルプ繊維からなる短繊維層は、エアレイウェブまたは湿式不織布として提供され、あるいは綿状のパルプ(フラッフ(fluff)パルプ)としても提供され得る。
【0015】
前記パルプ繊維を含む、又はこれのみから成る繊維層としては、湿式抄紙法により得られる湿式不織布(紙)が含まれる。パルプ繊維を含む又はこれのみから成る紙には、ティッシュ(ティッシュペーパーとも呼ばれる)が含まれる。パルプ繊維を含む短繊維層は、パルプ繊維のみから構成してよく、あるいは、パルプ繊維と他の繊維とから構成してよい。当該他の繊維は、パルプ以外のセルロース系短繊維(例えば、コットン、ビスコースレーヨンおよび溶剤紡糸セルロース繊維)または合成繊維(例えば、ポリプロピレン繊維、ポリエステル繊維、生分解性合成繊維)等であってよい。
【0016】
前記短繊維層は、セルロース系繊維以外の天然繊維または合成繊維で形成されてよい。天然繊維は、例えば、シルクおよび羊毛であり、合成繊維は、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、またはエチレン−プロピレン共重合体等、エチレン−ビニルアルコール共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸メチル共重合体から成るポリオレフィン系繊維、ポリエチレンテレフタレートまたはポリブチレンテレフタレート等から成るポリエステル繊維、ナイロン6またはナイロン66等から成るポリアミド系繊維、ならびにアクリル系繊維等である。合成繊維は、複合繊維であってよく、具体的には、芯鞘型複合繊維、偏心芯鞘型複合繊維、または分割型複合繊維であってよい。これらの繊維には、必要に応じて親水化処理を施してよい。短繊維層に用いられる繊維は、生分解性を有することが好ましい。
【0017】
前記短繊維層は、セルロース系短繊維を50質量%以上含む。セルロース系短繊維は、短繊維層に好ましくは70質量%以上含まれ、より好ましくは90質量%以上含まれ、最も好ましくは100質量%を占める。
【0018】
前記短繊維層は、繊維長10mm以下の短繊維から成る層である。短繊維の繊維長は、好ましくは、0.5〜8mmであり、より好ましくは1〜5mmである。短繊維層を構成する短繊維は、すべて同じ長さを有していてよく、あるいは異なる長さを有していてよい。短繊維の平均繊維長は、JIS L1015 8.4.1 A法(ステープルダイヤグラム法)(2007年)に準じて測定される。短繊維がパルプの場合、JIS P8226(パルプ−光学的自動分析法による繊維長測定方法)(2006年)に準じて測定し、数平均繊維長を求める。
【0019】
前記短繊維層は、ステープル繊維層と一体化する前に、一般に、エアレイウェブまたは湿式不織布の形態であってよい。湿式不織布には、セルロース系短繊維から成る紙も含まれる。本発明において、短繊維層は、湿式不織布であることが好ましい。湿式不織布は、構成するセルロース系繊維同士の水素結合による接着性または密着性が高く、湿潤時の実用強力を維持しつつ、水中での崩落性が良好であることによる。また、湿式不織布は、水流交絡処理で繊維同士を交絡させる場合には、水圧を低くして処理することを可能にするので、不織布全体の風合いを柔らかくすることができる。さらにまた、湿式不織布は、その製造方法に由来して、方向(縦方向、横方向)の違いによる物性の違いが少ないので、不織布の長さ方向(縦方向)に直交する方向(横方向)において実用強力を得ることができる。
【0020】
前記湿式不織布は、パルプ繊維を含む、又は実質的にパルプ繊維から成る、いわゆるパルプ紙(ティッシュ)であることが好ましい。パルプ紙には、紙力増強剤が0.04質量%以下で含むことが好ましい。より好ましくは、紙力増強剤が0.01質量%以上0.03質量%以下である。紙力増強剤が所定の範囲内にあると、後述する水流交絡処理において完全に崩壊することなく短繊維層の形態を維持しつつ、使用時には水中で容易に崩壊することができる。
【0021】
前記パルプ紙は、クレープ紙であることが好ましい。クレープ紙であると、紙の長さ方向に直交する方向に多数の皺が形成されており、ステープル繊維層と積層し一体化したときに、不織布の長さ方向に直交する方向(横方向)の不織布強力が高くなる傾向にある。
【0022】
短繊維層の目付は、得ようとする水解性不織布の目付、および積層されるステープル繊維層の目付等に応じて、適宜選択される。例えば、水解性不織布の目付が30〜50g/m2の場合には、短繊維層の目付は、好ましくは、20〜40g/m2であり、より好ましくは、25〜35g/m2であり、さらに好ましくは、26〜33g/m2である。短繊維層の目付が20g/m2未満であると、短繊維層の引張強力が弱くなりすぎて、実用強力が低下することがある。短繊維層の目付が40g/m2を超えると、水中での離解に時間を要することとなり、十分な水解性が得られないことがある。
【0023】
前記短繊維層が不織布全体に占める割合は、60〜80質量%であることが好ましい。より好ましくは、65〜75質量%である。前記短繊維層が不織布全体に占める割合が上記範囲内にあると、ステープル繊維層との積層体にしたときに湿潤時の実用強力と水解性を両立することができる。なお、ここでいう不織布全体とは、短繊維層とステープル繊維層が積層された状態であり、水流交絡処理に付されていない状態をいう。上記積層体は水流交絡処理に付されると、短繊維層を構成する短繊維が脱落する場合があることによる。
【0024】
前記短繊維層のJIS L1096 6.12.1 A法(ストリップ法)(2007年)に準じて測定される引張強力は、不織布長さ方向(縦方向)で乾燥時5〜20N/5cm、250%湿潤時1〜2.5N/5cmであることが好ましい。また、不織布の長さ方向に直交する方向(横方向)で乾燥時2〜10N/5cm、250%湿潤時0.1〜3N/5cmであることが好ましい。より好ましい短繊維層の横方向の引張強力は、乾燥時3〜7N/5cm、250%湿潤時0.3〜1N/5cmである。短繊維層の引張強力が上記範囲内にあると、ステープル繊維層との積層体にしたときに湿潤時の実用強力と水解性を両立することができる。
【0025】
[ステープル繊維層]
前記ステープル繊維層は、繊度が2dtex以下であり、繊維長が20mmを越え、35mm未満である再生セルロースステープル繊維を50質量%以上含む。ステープル繊維層は、繊維長が前記短繊維層を構成する繊維の繊維長よりも長いステープル繊維から成る。ステープル繊維は、より厳密には、短繊維層を構成する繊維の平均繊維長よりも、ステープル繊維層を構成する繊維の平均繊維長が長いことを要する。ステープル繊維層の平均繊維長は、20mmを越え、35mm未満の範囲内にあることが好ましく、25〜30mmの範囲内にあることがより好ましい。ステープル繊維層を構成する繊維の平均繊維長は、JIS L1015 8.4.1 A法(ステープルダイヤグラム法)に準じて測定される。ステープル繊維層は、平均繊維長が短繊維層を構成する繊維の平均繊維長よりも長い限りにおいて、短繊維層の平均繊維長よりも短い繊維を含んでいてよい。
【0026】
前記再生セルロースステープル繊維としては、ビスコースレーヨン、キュプラ、および溶剤紡糸セルロース繊維(例えば、レンチングリヨセル(登録商標)およびテンセル(登録商標))等の再生繊維が挙げられる。繊維の断面形状は特に限定されないが、扁平断面よりも円形、楕円形、不定形な菊花状(通常のビスコースレーヨン繊維断面)の方が繊維同士の交絡性が高く、好ましい。
【0027】
前記再生セルロースステープル繊維は、繊度が2dtex以下である。好ましい繊度は、0.1〜1.7dtexであり、より好ましくは、0.3〜1.5dtexである。再生セルロースステープル繊維の繊度を上記範囲内とすると、短繊維層に積層して水流交絡処理を施したときに、表面層を形成するステープル繊維層を構成する再生セルロースステープル繊維が優先的に交絡処理されるので、比較的層間の界面が明瞭になり、ステープル繊維層で主として引張強力を高めて湿潤時の実用強力が高くなる傾向にある。また、水中に離解したときに、ステープル繊維層と短繊維層とが分離しやすく、水解性も高くなる傾向にある。さらにまた、再生セルロースステープル繊維の繊度を上記範囲内であると、短繊維層(パルプ紙)の含有量が多くても、風合いが柔軟であり、滑らかな触感を有し、好ましい。
【0028】
前記再生セルロースステープル繊維は、繊維長が20mmを越え、35mm未満である。より好ましい繊維長は、25〜30mmである。再生セルロースステープル繊維の繊維長が上記範囲内にあると、水流交絡処理を施したときに適度な交絡を保持するので、実用強力を有しつつ、水中で離解させたときにも適度にほぐれて、配水管等に詰まることがない。
【0029】
本発明のステープル繊維層は、例えば、パラレルウェブ、クロスウェブ、セミランダムウェブおよびランダムウェブ等のカードウェブ、エアレイウェブ等から選択されるいずれの形態であってもよい。工程性および風合い等を考慮すると、カードウェブであることが好ましい。
【0030】
ステープル繊維層は、再生セルロースステープル繊維を50質量%以上含む。より好ましくは、再生セルロースステープル繊維を80質量%以上含み、最も好ましくは再生セルロースステープル繊維のみから成る。再生セルロースステープル繊維以外に混合される他の繊維は、特に限定されず、例えば、コットン、シルク、およびウール等の天然繊維、ポリエチレン,ポリプロピレン,ポリメチルペンテン,およびエチレン−プロピレン共重合体等のポリオレフィン系繊維、ポリエチレンテレフタレート,ポリブチレンテレフタレート,ポリトリメチレンテレフタレート,ポリ乳酸,ポリブチレンサクシネート,ポリブチレンサクシネート・アジペート等のポリエステル繊維、ナイロン6およびナイロン66等のポリアミド系繊維、ならびにアクリル系繊維等の合成繊維を挙げられ、上述した再生セルロースステープル繊維以外の再生繊維を含んでもよい。ステープル繊維層に用いられる繊維は、生分解性を有することが好ましい。
【0031】
ステープル繊維層の目付は、得ようとする水解性不織布の目付、および積層される短繊維層の目付等に応じて、適宜選択される。例えば、水解性不織布の目付が30〜50g/m2の場合には、短繊維層の一方の面に積層されるステープル繊維層の目付は、好ましくは、4〜12g/m2であり、より好ましくは、5〜10g/m2であり、さらに好ましくは、6〜8g/m2である。ステープル繊維層の目付が4g/m2未満であると、ステープル繊維層の引張強力が弱くなりすぎて、実用強力が低下することがある。ステープル繊維層の目付が12g/m2を超えると、水中で十分に離解できないことがある。
【0032】
前記ステープル繊維層が不織布全体に占める割合は、20〜40質量%であることが好ましい。より好ましくは、25〜35質量%である。前記ステープル繊維層が不織布全体に占める割合が上記範囲内にあると、短繊維層との積層体にしたときにステープル繊維層が優先的に交絡されるが、短繊維層を構成するセルロース系短繊維も表面近傍に移動しながら交絡されるので、ステープル繊維層の水解性も助長する(ほぐれやすくする)ことができる。
【0033】
本発明の水解性不織布は、前記ステープル繊維層が前記短繊維層両面に積層・配置され、短繊維層及びステープル繊維層が互いに水流交絡により一体化して積層不織布の形態を有する。前記不織布は、低繊維集積領域及び高繊維集積領域を含み、低繊維集積領域及び高繊維集積領域は、不織布の長さ方向に連続して延び、長さ方向と直交する方向に交互に存在しており、低繊維集積領域及び高繊維集積領域が1mm未満の幅の領域を含むことが好ましい。低繊維集積領域は、主としてステープル繊維層及び短繊維層を構成する繊維同士が交絡され、各々の層の繊維が混在状態となっている。高繊維集積領域は、ステープル繊維層を構成する再生セルロースステープル繊維が優先的に交絡されるので、ステープル繊維層と短繊維層の各層が比較的分離状態となっている。かかる形態を採ることにより、水中で離解したときに、低繊維集積領域から優先してほぐされて分離していき、残存する高繊維集積領域が比較的層状に分離しているので、短繊維層から優先してほぐされて分離するので、水解性が高い。
【0034】
前記短繊維層としてクレープ紙を用いた場合は、高繊維集積領域において不織布長さ方向に対して直交する方向(横方向)に延びる微細な皺が形成される。このような微細な皺が形成されることにより、不織布横方向の引張強力が高くなるとともに、清拭シートに用いたときの拭き取り性が向上し、好ましい。微細な皺は、不織布長さ方向1mmあたりに1〜5本形成されていることが好ましい。より好ましくは、2〜3本/mmである。
【0035】
前記不織布は、低繊維集積領域及び高繊維集積領域を含み、低繊維集積領域が0.5mm2以上の開孔を含むことが好ましい。低繊維集積領域は、当該開孔を含むことにより、水中で容易に離解することができる。高繊維集積領域は、ステープル繊維層を構成する再生セルロースステープル繊維が優先的に交絡されるので、ステープル繊維層と短繊維層の各層が比較的分離状態となっており、短繊維層から優先してほぐされて分離するので、水解性が高い。開孔形状は、特に限定されず、円状、楕円状、菱形、長方形等であってもよい。開孔パターンには千鳥状、格子状等が用いられる。
【0036】
本発明の水解性不織布は、目付は用途等によって適宜設定されるが、水解性を考慮すると、30〜50g/m2であることが好ましい。より好ましい目付は、35〜45g/m2であり、さらにより好ましくは、40〜45g/m2である。
【0037】
本発明の水解性不織布は、水流交絡処理を利用して製造される。以下に、水流交絡処理を利用して、本発明の水解性不織布を製造する方法を説明する。まず、ステープル繊維層及び短繊維層を所定の方法で作製し、積層して積層体とする。次に、水流交絡処理を施して一体化する。水流交絡処理条件は、ステープル繊維層及び短繊維層の目付、求められる不織布強力、水解性に応じて、適宜設定される。例えば、水解性不織布の目付が30〜50g/m2である場合には、支持体(例えば80〜100メッシュの平織ネット)の上に積層体を載せて、孔径0.05〜0.5mmのオリフィスが0.3〜1.5mmの間隔で設けられたノズルから、水圧1〜5MPaの水流を、少なくとも片面から1〜3回ずつ噴射することにより、水流交絡処理を実施するとよい。
【0038】
上述した不織布横方向に交互に存在し、幅が1mm未満の低繊維集積領域及び高繊維集積領域を形成するには、孔径0.05mm以上0.1mm未満のオリフィスが0.3mm以上1mm未満の間隔で設けられたノズルから、水圧1〜5MPaの水流を少なくとも片面から1〜3回ずつ噴射するとよい。好ましいオリフィスの孔径は、0.06〜0.09mmである。このような孔径のオリフィスから水流を噴射することにより、低繊維集積領域が1mm未満の幅、好ましくは0.2〜0.8mmの幅で形成することができ、高繊維集積領域においても再生セルロースステープル繊維同士の交絡性が高くなり、好ましい。
【0039】
上述した孔径0.05mm以上0.1mm未満のオリフィスを用いて水流交絡処理を行う場合、水圧は2.5〜4MPaの水流を噴射することが好ましい。より好ましい水圧は、3〜4MPaである。このように小さい孔径のオリフィスを用いて水圧を高くすると、ステープル繊維層の交絡が進むので、乾燥時および湿潤時の引張強力(特に横方向)が高くなって実用強力を維持することができる。また、必要以上に短繊維層が交絡することは抑えられるので、水解時に短繊維層が優先して離解して、良好な水解性が得られる。
【0040】
前記ノズルにおけるオリフィスの間隔は、0.4〜0.8mmであることがより好ましく、0.5〜0.7mmであると特に好ましい。このようなノズルから水流を噴射することにより、高繊維集積領域が1mm未満の幅、好ましくは0.4〜0.8mmの幅で形成することができるので、湿潤時の実用強力を保持しつつ、良好な水解性を得ることができる。
【0041】
上述した低繊維集積領域が0.5mm2以上の開孔を含む水解性不織布とする場合、上述した水流交絡処理条件に加えて、支持体としてモノフィラメントや金属線を織成して形成したパターンネット(10〜50メッシュ)や、突起物を設けたロール等の開孔形成用支持体を用いるとよい。
【0042】
上述した水流交絡処理に付された不織布は、必要に応じて、水分を含む不織布をマングル等で圧縮した後、乾燥処理が施される。この乾燥処理により、湿潤したセルロース繊維が水素結合により接着または密着して、乾燥時の引張強力を高くすることができる。
【0043】
このようにして得られる水解性不織布は、乾燥状態又は湿潤状態のいずれの形態でも使用することができる。乾燥状態で使用する場合は、紙おむつ、生理用ナプキン等の衛生用品、フローリングワイパー等の拭き取り用品などに用いることができる。
【0044】
本発明の水解性不織布を湿潤状態で用いる(湿潤シート製品)場合は、ウェットティッシュ、清拭シート等の拭き取り用品や、フェイスマスク等の化粧用品に用いることができる。前記湿潤シート製品は、用途に応じて適宜設定される液体(有効成分として、例えば、保湿成分、クレンジング(洗浄)成分、制汗成分、香り成分、美白成分、血行促進成分、紫外線防止成分、痩身成分等)が所定量含浸されて収納体に収容してシート製品として用いるとよい。
【実施例】
【0045】
以下、本発明の内容について実施例を挙げて説明する。なお、得られた不織布の厚み、引張強力、伸度、開孔面積、水解性は、以下のとおり測定した。
【0046】
[厚み]
不織布の厚み測定機(商品名:THICKNESS GAUGE モデル CR-60A 株式会社大栄科学精器製作所製)を用い、JIS L1096に準じて試料1cm2あたり3gの荷重を加えた状態で測定した。
【0047】
[引張強力、伸度]
JIS L1096 6.12.1 A法(ストリップ法)(2007年)に準じ、幅5cm、長さ15cmの試料片をチャックの間隔が10cmとなるように把持し、定速伸長型引張試験機(商品名:テンシロン UCT−1T オリエンテック(株)製)を用いて引張速度30cm/分で試料片を伸長し、破断時の荷重値および伸長率をそれぞれ引張強力、伸度として測定した。
【0048】
[開孔面積]
温度および湿度が一定に保たれた環境下で、実体顕微鏡(商品名:SZX12 オリンパス株式会社製)を用いて不織布表面を拡大観察(拡大倍率50倍)し、得られた画像を普通紙にプリントし、上記普通紙から、任意の5つの開孔に対応する部分を切り抜いた。切り抜いた普通紙の目付(単位面積当たりの質量)から開孔面積を算出し、それらの値の平均値を観察した拡大倍率で除することにより開孔面積を得た。
【0049】
[水解性(A法)]
容量1リットルの分液ロートを準備し、分液ロートに水道水300ミリリットルを入れ、さらに、この分液ロートに100×100mmの不織布を入れ、すばやく振盪機にセットし、ストローク40mm、260rpmにて30秒間振盪して、不織布を解繊させた。
次に、上部の直径が145mm、斜面の長さが130mm、脚部の内径が10mm、長さが130mmの三角ロートを用意し、上記のように振盪して解繊させた不織布を水道水と共に、上記三角ロートに移し、10秒以内に水道水が解繊した不織布と共に三角ロートの脚部を通過してものを「水解性 ○」とし、水道水のみが脚部から排出され、繊維が三角ロート内に残ったものを「水解性 ×」とした。
【0050】
[水解性(B法)]
200ミリリットルの三角フラスコを準備し、三角フラスコに純水100ミリリットルを入れ、さらに、三角フラスコに50mm×50mmの不織布を投入して振盪速度300サイクル/分、振盪幅40mmで往復振盪し、30秒ごとに振盪を停止して水解性不織布の離解状況を観察した。振盪を繰り返して、300秒後の離解状況を観察し、下記の基準で判定した。
1級:繊維が完全に分散して、白水の状態である。
2級:絡まった繊維集合物が少し残っているが、ほぼ白水の状態である。
3級:長さ5cm以上の絡まった繊維集合物が残っている。
【0051】
[実施例1]
短繊維層として、パルプ繊維から成る目付33g/m2のクレープ紙(ハビックス(株)製)を用意した。クレープ紙の引張強力は、紙の縦方向で乾燥時16.4N/5cm、250%湿潤時1.9N/5cmであり、紙の横方向で乾燥時5.2N/5cm、250%湿潤時0.5N/5cmであった。
また、ステープル繊維層として、繊度1.4dtex、繊維長29mmのビスコースレーヨン繊維(ダイワボウレーヨン(株)製)から成る原綿を開繊して、目付6.5g/m2のセミランダムカードウェブを2枚作製した。
次に、短繊維層の両面にステープル繊維層を積層して3層構造の積層体を形成し、これに水流交絡処理を施した。水流交絡処理は、4m/分で走行する100メッシュの平織り支持体上に載置した積層体に向けて、孔径0.08mmのオリフィスが0.6mm間隔で設けられたノズルを用いて表面に3MPaの柱状水流を1回噴射し、裏面に水圧3MPaの柱状水流を1回噴射して実施した。次いで、水流交絡処理後の積層体を、マングルで圧縮した後、エアスルー熱処理機を用いて、110℃で乾燥して、目付43g/m2の本発明の水解性不織布を得た。得られた水解性不織布は、低繊維集積領域及び高繊維集積領域が不織布の長さ方向に連続して延び、長さ方向と直交する方向に交互に存在しており、低繊維集積領域の幅が0.3〜0.8mm、高繊維集積領域が0.4〜0.8mmの幅を有していた。
【0052】
[実施例2]
短繊維層として、パルプ繊維から成る目付26g/m2のクレープ紙(ハビックス(株)製)を用意し、ステープル繊維層として、繊度1.4dtex、繊維長29mmのビスコースレーヨン繊維から成る目付8g/m2のセミランダムカードウェブを2枚作製した。クレープ紙の引張強力は、紙の縦方向で乾燥時10.4N/5cm、250%湿潤時1.4N/5cmであり、紙の横方向で乾燥時4.6N/5cm、250%湿潤時0.4N/5cmであった。
次に、短繊維層の両面にステープル繊維層を積層して3層構造の積層体を形成し、これに水流交絡処理を施した。水流交絡処理は、4m/分で走行する100メッシュの平織り支持体上に載置した積層体に向けて、孔径0.08mmのオリフィスが0.6mm間隔で設けられたノズルを用いて表面に2MPaの柱状水流を1回噴射し、裏面に水圧2.5MPaの柱状水流を1回噴射して実施した。次いで、水流交絡処理後の積層体を、マングルで圧縮した後、エアスルー熱処理機を用いて、110℃で乾燥して、目付43g/m2の本発明の水解性不織布を得た。得られた水解性不織布は、低繊維集積領域及び高繊維集積領域が不織布の長さ方向に連続して延び、長さ方向と直交する方向に交互に存在しており、低繊維集積領域の幅が0.3〜0.8mm、高繊維集積領域が0.4〜0.8mmの幅を有していた。
【0053】
[実施例3]
短繊維層として、パルプ繊維から成る目付26g/m2のクレープ紙(ハビックス(株)製)を用意し、ステープル繊維層として、繊度1.4dtex、繊維長29mmのビスコースレーヨン繊維から成る目付10g/m2のセミランダムカードウェブを2枚作製した以外は、実施例2と同様の方法で、目付43g/m2の本発明の水解性不織布を得た。得られた水解性不織布は、低繊維集積領域及び高繊維集積領域が不織布の長さ方向に連続して延び、長さ方向と直交する方向に交互に存在しており、低繊維集積領域の幅が0.3〜0.8mm、高繊維集積領域が0.4〜0.8mmの幅を有していた。
【0054】
[実施例4]
水流交絡処理において、積層体裏面の処理が、経糸の線径が0.132mm、緯糸の線径が0.132mm、メッシュ数が25メッシュの平織りネットから成る開孔形成用支持体上で行われた以外は、実施例3と同様の構成及び方法で、目付43g/m2の本発明の水解性不織布を得た。得られた水解性不織布は、低繊維集積領域及び高繊維集積領域を含み、低繊維集積領域が0.5mm2以上の開孔を多数有していた。
【0055】
[比較例1]
ステープル繊維層として、繊度2.2dtex、繊維長38mmのビスコースレーヨン繊維から成る目付8g/m2のセミランダムカードウェブを2枚作製した以外は、実施例1と同様の方法で、目付40g/m2の水解性不織布を得た。
【0056】
【表1】

【0057】
実施例1〜4の不織布は、湿潤時でも実用強力を有し、水解性も良好であった。特に実施例1の不織布は、ステープル繊維層の目付が小さいにもかかわらず、引張強力が高く、水解性も良好であった。これは、孔径の小さいオリフィスで、短い間隔で配置したノズルから、比較的高い水圧で水流を噴射したことにより、ステープル層の交絡が進み、実用強力が高くなったものと推定される。一方、比較例1の不織布は、実用強力は有していたものの、水解性が十分ではなかった。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明の水解性不織布は、湿潤時においても実用的な強力を有しつつ、水解性が良好なので、乾燥状態及び湿潤状態のいずれの状態でも使用することができる。本発明の水解性不織布は、乾燥状態でのシート製品として、紙おむつ、生理用ナプキン等の衛生用品、フローリングワイパー等の拭き取り用品等として使用するのに適している。また、湿潤シート製品として、ウェットティッシュ、清拭シート等の拭き取り用品や、フェイスマスク等の化粧用品等として使用するのに適している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維長が10mm以下のセルロース系短繊維を50質量%以上含む短繊維層と、
短繊維層の両面に、繊度が2dtex以下であり、繊維長が20mmを越え、35mm未満である再生セルロースステープル繊維を50質量%以上含むステープル繊維層が積層されており、
短繊維層及びステープル繊維層が互いに水流交絡により一体化している、水解性不織布。
【請求項2】
前記短繊維層が不織布全体に占める割合は、60〜80質量%である、請求項1に記載の水解性不織布。
【請求項3】
前記短繊維層は、パルプ繊維を50質量%以上含み、紙力増強剤を0.04質量%以下で含む湿式不織布である、請求項1または2に記載の水解性不織布。
【請求項4】
前記不織布は、低繊維集積領域及び高繊維集積領域を含み、
低繊維集積領域及び高繊維集積領域は、不織布の長さ方向に連続して延び、長さ方向と直交する方向に交互に存在しており、
低繊維集積領域及び高繊維集積領域が1mm未満の幅の領域を含む、請求項1〜3のいずれか一項に記載の水解性不織布。
【請求項5】
前記不織布は、低繊維集積領域及び高繊維集積領域を含み、
低繊維集積領域は、0.5mm2以上の開孔を含む、請求項1〜3のいずれか一項に記載の水解性不織布。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の水解性不織布に液体が含浸されて収納体に収容されている、湿潤シート製品。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2012−211412(P2012−211412A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−77670(P2011−77670)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000002923)ダイワボウホールディングス株式会社 (173)
【出願人】(300049578)ダイワボウポリテック株式会社 (120)
【Fターム(参考)】