説明

水質分析装置

【課題】 コンタミネーションによって生じる測定への悪影響をなくし、高精度の測定を行うことのできる水質分析装置を提供する。
【解決手段】 洗浄水をシリンジ2に導入して、マルチポートバルブ1の分配ポートの一つに接続したドレイン12から排出することによって、シリンジ2の内部、マルチポートバルブ1並びに流路内を洗浄する洗浄機能と、装置の作動中断時間を計数して制御部15に通知するカウンタ16とを備え、装置の再稼働時に、カウンタ16により計数された中断時間が設定値を超えている場合に、試料を採集するのに先立って制御部15の指示により自動的に前記洗浄機能が動作して、シリンジ2の内部、マルチポートバルブ1並びに流路内を洗浄する構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工場等から出る排水や河川や湖沼、海水などの環境水に含まれる汚濁物質、例えば、全有機体炭素や全窒素などの被測定成分の濃度を測定するのに用いられる水質分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、試料液に含まれる被測定成分である全有機体炭素(TOC)や全窒素(TN)を測定する水質分析装置として、例えば特許文献1〜3に示すものがある。
図3は、従来の水質分析装置の一つである全有機体炭素計を示す概略的構成図である。
8つの分配ポートを有するマルチポートバルブ22のメインポートにシリンジ21が接続されている。このマルチポートバルブ22の分配ポート(1)にオフライン試料容器23につながる流路が接続され、さらに分配ポート(2)には試料取入口24が、分配ポート(3)には校正用の標準液収納容器25につながる流路が、分配ポート(4)には試料を酸性にするための塩酸収納容器26につながる流路が、分配ポート(5)には希釈や洗浄に使用する希釈水収納容器27につながる流路が、分配ポート(6)には大気に開放された排気口28につながる流路が、分配ポート(7)には燃焼部29、ガス処理部30を介してガス検出部31につながる流路が、分配ポート(8)には不要な液体を排出するためのドレイン34につながる流路がそれぞれ接続されている。
【0003】
また、シリンジ21には、キャリアガス供給部32につながる流路が接続されており、キャリアガス供給部32で生成された精製ガスが電磁弁33を開くことによりスパージガスとして、あるいはキャリアガスとしてシリンジ21に送り込まれるようになっている。
【0004】
全有機体炭素濃度を測定するに際して、試料導入口24からシリンジ21に一定量の試料が取り入れられた後、塩酸容器26に接続されて試料に少量の酸が加えられる。次いで、キャリアガス供給部32からシリンジ21にスパージガスが供給されて試料中の無機体炭素(IC)がスパージガスとともに排気口28から排出されて試料中から無機体炭素が除去される。
その後、シリンジ21の試料が燃焼部29に送られて、試料液中から無機体炭素が除去された有機体炭素(TOC)に由来する炭素が燃焼されて二酸化炭素に変換される。燃焼部29で発生した二酸化炭素はキャリアガスとともにガス処理部30に送られ、冷却、除湿、ハロゲン除去された後、ガス検出部31で二酸化炭素が検出され、これにより全有機体炭素(TOC)が測定される。
【0005】
なお、全窒素を測定する場合には、同様に試料液中の全窒素成分を燃焼して一酸化窒素に変換して全窒素を検出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−352058号公報
【特許文献2】特開2000−193655号公報
【特許文献3】特開2000−275240号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
図3に示した従来装置において、測定終了後にシリンジ21やマルチポートバルブ22内に試料液が僅かに残留しており、これが次回測定の測定値に悪影響を及ぼすおそれがある。そのため、試料液排出の後、シリンジ21に希釈水を取り込んでドレイン34から排出することで、シリンジ21やマルチポートバルブ22など試料液が流れた流路(配管チューブ)の洗浄処理を行っている。
【0008】
しかしながら、洗浄処理によって残留試料液の影響はなくなるが、シリンジやマルチポートバルブ、並びに洗浄水が流れた流路内には洗浄水が滞留しており、測定の中断時間(前回の測定から次回の測定までの間隔)が長いと、この残留水が長時間放置されて空気に曝されること等が原因で、周囲雰囲気中の測定成分が溶け込むことによるコンタミネーションが生じることがある。コンタミネーションが生じた状態で次回の測定を行うと、測定値に影響を及ぼすことがあり、測定精度を高めることができない。例えば、大気中の二酸化炭素や、有機物によるコンタミネーションは全有機体炭素計の測定値に影響を与えることがある。
【0009】
このような弊害を避けるために、測定を開始する前に、常に自動的にシリンジやマルチポートバルブ並びに洗浄水の流れた流路を再び洗浄水で洗浄するように装置の制御システムにプログラミングしておくことも考えられる。しかし、この方法では、測定の中断時間が短く、コンタミネーションが起こる可能性が低くて洗浄する必要のない場合でも、測定再開始時に必ず洗浄処理が行われることになるので、時間ロスが生じるとともに、洗浄水の消費量が増えて頻繁に洗浄水を補充しなければならない、といった問題点が生じる。
【0010】
そこで本発明は、上記従来課題を解決し、シリンジやマルチポートバルブ、並びに洗浄水が流れた流路内の残留水にコンタミネーションが生じる可能性のある場合にのみ自動的に洗浄が行われるようにして、精度の高い測定値を得ることのできる水質分析装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために本発明では次のような技術的手段を講じた。すなわち、本発明の水質分析装置は、メインポート並びに複数の分配ポートを有するマルチポートバルブと、マルチポートバルブのメインポートに接続されて試料液の採取並びに送液を行うシリンジと、マルチポートバルブのいずれか一つの分配ポートに接続される試料取入口と、マルチポートバルブの他のいずれか一つの分配ポートに接続される洗浄水供給路と、マルチポートバルブの他のいずれか一つの分配ポートに接続される試料反応部並びに反応した試料を計測する検出部と、前記マルチポートバルブおよび前記シリンジを含む装置の測定動作を制御する制御部とを備え、装置の測定動作の中断時間を計数する時間カウンタと、装置の測定動作の再稼働時に、中断時間が設定値を超えているか否かに基づいて洗浄処理の要否を判定する洗浄要否判定部と、中断時間が設定値を超えた場合に、制御部が測定の直前に洗浄水供給路から洗浄水をシリンジに導入し、シリンジ内部、マルチポートバルブを洗浄するようにしている。
【0012】
ここで、前記カウンタにより計数される中断時間の設定値は5分〜1時間の間で設定するのが好ましい。
また、上記発明において測定成分が全有機体炭素であってもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明では、装置の再稼働時に、装置の稼働中断時間が設定値を超えている場合、試料液を採取するに先立って自動的に洗浄処理機能が作動してシリンジやマルチポートバルブ内が洗浄され、これにより、残留水へのコンタミネーションによって生じる測定への悪影響を確実になくすことができるとともに、測定動作の中断時間が短くコンタミネーションが起こる可能性が低い場合の不必要な洗浄を回避して、時間ロスや、洗浄水の消費量を抑えることができるといった効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明に係る水質分析装置の概略的構成図である。
【図2】図1の水質分析装置における洗浄機能の動作を示すフローチャートである。
【図3】従来の水質分析装置の概略的構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係る水質分析装置を、図1並びに図2に示した実施例に基づいて詳細に説明する。図1は水質分析装置の概略的な構成を示す説明図であり、図2は水質分析装置における洗浄機能の動作を示すフローチャートである。
【0016】
水質分析装置Aは、主にマルチポートバルブ1、シリンジ2、燃焼部9(試料反応部)、ガス処理部10、ガス検出部11(検出部)、電磁弁14、制御部15、時間カウンタ16からなる。
【0017】
マルチポートバルブ1は、メインポート(0)と、(1)〜(8)の8つの分配ポートからなる。メインポート(0)は、切換え動作を行うことにより、各分配ポートに個別に連通するように形成されている。このマルチポートバルブ1のメインポート(0)にシリンジ2につながる流路Pが接続されている。
【0018】
マルチポートバルブ1の分配ポート(1)にオフライン試料容器3につながる流路Pが接続され、分配ポート(2)に試料取入口4につながる流路Pが接続され、分配ポート(3)に校正用の標準液収納容器5につながる流路Pが接続され、分配ポート(4)に試料を酸性にするための塩酸収納容器6につながる流路Pが接続され、分配ポート(5)に希釈や洗浄に使用する希釈水収納容器7(洗浄水収納容器)につながる流路Pが接続され、分配ポート(6)に大気に開放された排気口8につながる流路Pが接続され、分配ポート(7)には燃焼部9、ガス処理部10を介してガス検出部11につながる流路Pが接続され、分配ポート(8)には不要な液体を排出するためのドレイン12につながる流路Pが接続されている。
【0019】
シリンジ2は、筒状のシリンジ本体2aと、このシリンジ本体に摺動自在に取り付けられたプランジャ2bとからなり、プランジャ2bをモータ(不図示)で軸方向に移動させることによりシリンジ本体2a内に試料液を採取したり、送り出したりするようになっている。
また、シリンジ本体2aには、キャリアガス供給部13につながる流路Pが接続されており、プランジャ2bが試料液を吸引した状態で、キャリアガス供給部13からは炭素成分が除去された精製ガスが電磁弁14を介してスパージガスとして、あるいはキャリアガスとしてシリンジ2に送り込まれるようになっている。
【0020】
燃焼部9は、送り込まれた試料液に含まれる炭素成分を酸化して二酸化炭素に変換する(全窒素測定の場合は窒素成分を一酸化窒素に変換する)試料反応部として機能する。
ガス処理部10は、水分の除去、ハロゲンの除去などを行う。
ガス検出部11は、赤外線ガス分析計を用いて二酸化炭素濃度を検出し、これに基づいて全有機体炭素濃度を測定する。
電磁弁14はシリンジ2へのキャリアガスの供給、停止の切換えを行う。
【0021】
制御部15は、メモリを含むマイクロコンピュータで構成され、マルチポートバルブ1、シリンジ2、燃焼部9、ガス処理部10、ガス検出部11、電磁弁14、時間カウンタ16など装置全体の制御を行う。
本発明において制御部15が処理する機能をブロック化して説明すると、洗浄要否判定部15aと洗浄制御部15bとを備える。
制御部15には、装置の測定動作の中断時間(前回の測定終了時から次回の測定再開までの時間)との比較で、洗浄の要否を判定するための設定値15c(閾値)が予め記憶させてある。設定値15cは、装置の測定感度、装置の設置場所の温度や湿度、あるいは試料の汚濁の程度によって設定すればよいが、例えば5分〜1時間の間で適当な値を設定すればよい。
【0022】
洗浄要否判定部15aは、現在まで行っていた一連の測定が終了し洗浄を終えた時点で、時間カウンタ16で時間のカウントを開始し、次回の測定動作が再開されるまでの中断時間をカウントする。そして、測定動作の再稼働時に、中断時間が設定値15cを超えているか否かを判定し、超えている場合には、試料液を採取するのに先立って、後述する洗浄制御部15bに洗浄を実行させる制御を行う。
【0023】
洗浄制御部15bは、一連の測定が終了した直後、あるいは、洗浄要否判定部15aの判定結果に基づいて必要となったときに、洗浄処理を実行する制御を行う。具体的には、希釈水を洗浄液として使用するため、希釈水容器7から希釈水をシリンジ2で導入し、この希釈水をドレイン12から排出することによって、シリンジ2の内部、マルチポートバルブ1を洗浄する一連の処理を行う。なお、洗浄処理を丁寧にする場合はこの一連の処理を複数回繰り返すようにしてもよい。
【0024】
次に、本発明による測定動作について説明する。
全有機体炭素濃度を測定するに際し、試料取入口4からシリンジ2に一定量の試料液が取り入れられた後、塩酸容器6に接続されて試料液に少量の酸が加えられる。次いで、キャリアガス供給部13からシリンジ2にスパージガスが供給されて試料中の無機体炭素がスパージガスとともに排気口8から大気に排出されて試料中から無機体炭素が除去される。
その後、シリンジ2の試料液が燃焼部9に送られる。燃焼部9では、燃焼により、試料中の炭素成分が二酸化炭素に変換される。燃焼部9で発生した二酸化炭素はキャリアガスとともにガス処理部10に送られ、冷却、除湿、ハロゲン除去された後、ガス検出部11で二酸化炭素が検出されて全有機体炭素濃度が測定される。
【0025】
測定終了時に洗浄処理が開始され、シリンジ2やマルチ分配ポートバルブ1内を洗浄して残留液を洗い流し、装置の一連の測定動作が終了する。
以後、本発明による洗浄処理の動作が始まる。すなわち、図2のフローチャートに示すように、測定動作が終了した直後、時間カウンタ16がカウントを開始する。
【0026】
そして、次回の測定のために装置の測定動作が再開したときに、時間カウンタ16により計数された装置の測定中断時間が設定値15cを超えている場合、試料を採取するのに先立って、自動的に洗浄処理機能が動作する。これにより、前回の測定終了時の洗浄によってシリンジ2やマルチ分配ポートバルブ1内に滞留する残留水がドレイン12から排出される。その結果、残留水中のコンタミネーションによって生じる測定への悪影響を確実になくすことができる。
また、時間カウンタ16により計数された測定中断時間が設定値15cを超えていない場合、洗浄処理機能が動作することなく、直ちに先に述べた測定作業が開始される。これにより、中断時間が短く、コンタミネーションが起きている可能性が低い場合の不必要な洗浄を回避することができ、測定作業時間のロスや、洗浄水の消費量を抑えることができる。
【0027】
以上本発明の代表的な実施例について説明したが、本発明は必ずしも上記の実施形態に特定されるものでなく、本発明の目的を達成し、請求の範囲を逸脱しない範囲内で適宜修正、変更することが可能である。例えば、上記実施形態では無機体炭素(IC)を除去した後の試料の全有機体炭素(TOC)を測定したが、試料中の全炭素(TC)と無機体炭素(IC)を測定し、無機体炭素を除去していない試料液の全炭素(TC)から無機体炭素を差し引いて全有機体炭素(TOC)を測定する場合にも適用できる。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明は、工場等から出る排水や、河川や湖沼、海水などの環境水に含まれる全有機体炭素や全窒素などの濃度を測定するのに用いられる水質分析装置に好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0029】
1 マルチポートバルブ
2 シリンジ
4 試料取入口
5 標準液容器
6 塩酸容器
7 希釈水容器(洗浄水)
8 排気口
9 燃焼部(試料反応部)
10 ガス処理部
11 ガス検出部(検出部)
15 制御部
15a 洗浄要否判定部
15b 洗浄制御部
15c 設定値(中断時間判定の閾値)
16 時間カウンタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
メインポート並びに複数の分配ポートを有するマルチポートバルブと、マルチポートバルブのメインポートに接続されて試料液の採取並びに送液を行うシリンジと、マルチポートバルブのいずれか一つの分配ポートに接続される試料取入口と、マルチポートバルブの他のいずれか一つの分配ポートに接続される洗浄水供給路と、マルチポートバルブの他のいずれか一つの分配ポートに接続される試料反応部並びに反応した試料を計測する検出部と、前記マルチポートバルブおよび前記シリンジを含む装置の測定動作を制御する制御部とを備え、
装置の測定動作の中断時間を計数する時間カウンタと、
装置の測定動作の再稼働時に、中断時間が設定値を超えているか否かに基づいて洗浄処理の要否を判定する洗浄要否判定部と、
中断時間が設定値を超えた場合に、制御部が測定の直前に洗浄水供給路から洗浄水をシリンジに導入し、シリンジ内部、マルチポートバルブを洗浄することを特徴とする水質分析装置。
【請求項2】
前記カウンタにより計数される中断時間の設定値が5分〜1時間である請求項1に記載の水質分析装置。
【請求項3】
測定成分が全有機体炭素である請求項1または請求項2のいずれかに記載の水質分析装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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